3.1 職業能力開発の背景

国名:スリランカ (調査大項目 3:職業能力開発政策とその実施状況)
作成年月日:2007 年 8 月 29 日
3.1
職業能力開発の背景
スリランカにおける教育制度は、主に 3 つの領域から成り立っている。すなわち、
一般教養としての初等教育及び中等教育、次いで学士、修士学位へと繋がる大学教
育におよぶ高等教育、そして職業資格認定書、学位に結びつく専門及び TVET
(Technical and Vocational education and Training:職業教育訓練)である。こ
の制度は図 3-1 に示すとおり、多くの学生は GCE(The General Certificate of
Education:中等教育終了証明書)試験(普通レベル)に合格してから TVET プロ
グラムに登録する。初等教育又は中等学校教育の中途で学校を退学した者は、年齢
要件が満たされれば TVET コースに入学することができる。
高等教育
GCE
上級レベル
中等学校
専門学校及び
11∼13 学年
職業教育訓練校
(TVET)
GCE
普通レベル
中学校
6∼11 学年
奨学金試験
5 学年
小学校
1∼5 年級
図 3-1
スリランカにおける教育システム
*出典:Central Bank of Sri Lanka, “Economics and Social Statistics of Sri Lanka”, 2007.
1
国名:スリランカ (調査大項目 3:職業能力開発政策とその実施状況)
作成年月日:2007 年 8 月 29 日
スリランカの普通教育は、全国にわたって普及しており、1948 年の国家独立以来、
歴代の政府は、無償教育の政策を変えずに継続している。すべての国公立学校は、
教育費用がかからない教育を行っており、高成績の生徒は奨学金制度に支えられて
いる。普通教育に関する主な指標は、下記のとおりである。
・
普通教育制度の主な指標(2005 年)
・
公立学校:9,727 校(全体の 97%)
・
・
科学教育授業のある学校:25%
学生総数:390 万
・
2005 年の入学者数:318,089 人
・
教師数:187,339 人(男 31%、女 69%)
・
専門資格も持つ教師:95%
・
小学校入学:96%
・
小学校教(5 年級)終了後も在学:98%
・
・
GCE(普通レベル)試験合格:47%
11 学年級終了後退学:50%
11 学年級終了後、すなわち GCE(普通レベル)試験後に、学校を退学する生徒が
約 50%いるという事実は注目に値する。これら退学者のうち、一部は国立又は民間
の TVET コースに入るか又は就職する。また一部は雇用待ちの失業者として分類さ
れている。スリランカにおける正規の専門職業教育は、1893 年にコロンボにあるマ
ラダナ高等専門学校の設立と共に始まった。この高等専門学校網は現在 38 校にま
で増え、国のほとんどの地域にまたがり、専門教育訓練部の管理下におかれている。
政府はさらに長年にわたって労働部及び小規模産業部の傘下に石工、大工等の基礎
的工芸技術を教える訓練センターを設立してきた。続いて、政府は国立青少年協議
会、現在は国立実習生産業訓練局として知られる国立徒弟制度審議会及び労働省傘
下の訓練センターを吸収した職業訓練省のもとに TVET ネットワークを設置した。
民間及び非政府分野の慈善団体が TVET の規定条項に加わり、主にサービス部門と
情報技術関連の分野のコースの要求に応じており、最近これらの数は著しく増加し
てきている。
3.2
職業能力開発を進めるための国の政策
TVET 開発の為の国の政策枠組みを開発すべく新しい構想があり、その作業は 2007
年 5 月に開始された。TVET から職員及び産業、国並びに民間部門の計画立案者か
ら構成される 6 つのグループが指定されており、次の分野の調査を行い、期待され
る成果及び今後 10 年間の為の戦略が提案された。この政策開発業務は、2007 年 12
月までに完成するよう期待されている。
・
・
公共の TVET 機関を統括する現行の法律。
TVET 領域の経済的及び財政的側面。
・
協調関係樹立の機会、職業指導及び社会的マーケティング活動。
・
現行の人的資源政策、職員開発の効果及び関連性。
2
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・
訓練プログラムの実施及び評価管理。
・
現行の資格認定の構造及び種々の教育の傾向における関連性。
現在、TVET の開発業務は次のように規定されている。
(a)
専門教育及び職業訓練改革(1997 年)
この改革は TVET の活動の主要な指針となる文書となってきている。こ
の推奨を遵守してスリランカでは統一された資格認定制度である NVQ
(National Vocational Qualification:全国職業資格認定)骨組みが確立
した。経費削減及び効率的実践を目指して公共部門機関におけるコース
の重複を避けるよう合理的な処置がとられた。この改革に基づく大統領
特別調査委員会は、次の 4 つの題目に基づき政策目標を示した。
(i)
政府の役割
1)
現在の経済及び政府の社会的達成目標に沿っての TVET に
対する重要な政策を開発し、方針設定の工程を改善する。
2)
訓練の主な提供者である政府の役割は、まとめ役、調整役、
専門教育及び職業訓練の基準設定、並びにその調整に携わる。
3)
政府の責任は、強力な社会開発目標を持って訓練すること、
及び民間部門が関心又は適応力がないプログラムの作成に
焦点を置くこと。
4)
訓練に要する支出に対する投下資本利益率の向上、及び重複
による資源浪費の回避。
(ii)
訓練における民間部門の参加
1)
民間部門を動機づけて、訓練に直接参加させようとする奨励
制度の設置。
2)
民間部門の要望及び願望を満たすような訓練の設定。
3)
訓練を提供する側及び技能を活かして使う側との接点の形
成。
(iii)
4)
就職の機会及び労働力の流動性を増加させること。
5)
独自部門への最良な実践方法の採用。
普通教育及び TVET とのつながり
1)
普通教育、高等教育及び TVET 間で上級学校への進級、及
び横への相互乗り換えを可能とする学業成績の基準レベル
の設定。
2)
全国にまたがる広域な専門職業教育訓練のデータベースの
開発。
3)
中途退学者の職業及び技能的技能開発のための多様な手段
をさまざまなレベルで確認すること。
4)
生徒の潜在能力評価及び実業界に対する姿勢に新しい方向
付けをすること。
5)
普通教育及び TVET 間の顕著な連携を推進し、教師及び生
徒に加え、両親の参加を促すこと。
3
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(iv)
自営業及び組織化されていない分野への訓練
1)
職業訓練を行うことにより貧困を軽減し、就職の機会を増加
させること。
2)
自営業への訓練プログラムの実施が地方レベルで調整され
ること。
(b)
2006∼16 年までの開発枠組み
財務省下の国土計画部により発行された文書は、TVET の開発戦略の基
礎を次の主目標として置いている。
(i)
国際的に認知されている制度及び同等の資格認定枠組 みの制定。
(ii)
コースの妥当性及び品質の向上
(iii)
資格認定の改善及び進路の設定。
(iv)
実践及び管理効率の向上。
(v)
TVET コースへの入学収容能力の拡大。
(vi)
(vii)
女性、身体障害者の TVET 利用への公平さ。
自営業の促進。
(viii) TVET に対する社会通念の改善。
(vx)
TVET プログラムを進めるにあたっての民間部門の奨励。
NVQ 制度は、専門職業教育訓練部門にて 2000 年より設立されてきてい
る。NVQ 制度の骨組みは 7 つのレベルの資格認定で構成されている。
最初のレベル 1∼4 は工芸レベルの資格づけで証明書を交付する。次の 2
レベルの 5∼6 は中等レベルの技術認定で学位を授与する。そしてレベ
ル 7 は表 3-1 に示すような学士号レベルの資格認定である。
表 3-1
レベル
内
NVQ の骨組み
容
NVQ レベル 7
企画及び革新への携わり
NVQ レベル 6
他の作業者の管理
NVQ レベル 5
他作業者の監督
NVQ レベル 4
自主的な作業
NVQ レベル 3
一部監督下での作業
NVQ レベル 2
監督下での作業
NVQ レベル 1
初級レベル及び基礎力
資
格
学位(Degree)
学位(Diploma)
修了証書
*出典:Tertiary and Vocational Education Commission, “NVQ brochure”.
3.3
政府及び関係団体の制度、組織、機能
全国能力基準は大部分の職業分野(現在は 65 分野ある。)を包括すべく開発され、
これらの能力基準は他の職業分野へと広げられつつある。全国能力基準の詳細な記
述は「職業能力基準、職業資格評価制度」の 4 頁目に記載されている。資格認定を
4
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向上させる経路は国の各地方に 1 校ずつ、計 9 校の技術専門学校の設立によって示
されている。現行の高等専門学校は技術専門学校として格上げされ、レベル 5 及び
6 の資格認定を行っている。技術専門学校の 2 校のうち 1 校は首都コロンボの西部
地区にあり、残りの 1 校はゴールの南部地区にあり、それぞれ既に活動を開始して
いる。レベル 7 の資格認定を行う Univotec(University of Vocational Technology;
職業技術大学)設立の手筈は既についており、2008 年 1 月より活動を開始するこ
とになっている。図 3-2 は NVQ 骨組みにおける昇級の経路を示している。
職業資格
Univotec
現行の
学位レベル NVQ7
(中レベル)資格
技術専門学校:各州に1校ずつ(計 9 校)
学位レベル NVQ5 及び 6
産業
学校
専門教育及び職業訓練機関
修了証書レベル NVQ1∼4
図 3-2
資格認定格上げ経路
現在、助成金、補助金及び費用請求に関して混合された政策が存在している MVTT
(Ministry of Vocational and Technical Training:職業及び技能訓練省)の統括下
にある 38 校の高等専門学校は、学生から学費は徴収せず、その活動はすべて政府
の助成金で賄われている。学生達には、月々少額の財政補助金が支払われ、主に彼
らの交通費に充てられている。しかしながら、他の主要な国立部門の訓練提供者で
ある職業訓練局は、その年間予算の大部分は政府から支払いを受けているが、不足
する分については局自身で賄うよう要請されている。
従って、基礎的な工芸コースを選ぶ学生達に対しては無償で授業を行いながら、サ
ービス部門及び IT 部門のような人気の高いコースを選ぶ学生達には学費を請求し
ている。同様の方法は国立徒弟及び産業訓練局においても採用されている。
(1)
政府及び関係団体の制度、組織及び機能
中央政府には教育という課題を取り扱う 3 つの省が存在している。
(a)
教育省
(i)
初等及び中等レベルの学校教育
(ii)
学校教師の訓練
(iii)
課外教育
5
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(b)
(c)
高等教育省
(i)
大学教育
(ii)
科学技術教育
MVTT
(i)
TVET
スリランカ憲法のもと、教育は中央政府及び地方の省庁が共に責任を持って対処す
る課題である。つまり、地方政府もまたその領域内で教育及び教育機関を扱う省庁
を持っている。例えば、初等教育及び中等教育があり、主にそれぞれの州の市街地
にあるものは中央政府の管轄下にあり、“国立校”と呼ばれており、同時に州政府の
管轄下にある場合は公立初等、中等学校と呼ばれている。すべての学校は国立、州
立問わず同じカリキュラムで同じ評価方法を採り中央政府の方針に従っている。
高等教育の分野においては州政府管轄の大学はなく、すべての公立大学及びスリラ
ンカ通信制大学は、中央政府の管轄下に入っている。更に大学の管理の統括組織で
ある大学助成金委員会は、高等教育に携わる数少ない民間機関に学位を授与ができ
る資格を与えている。それに加え、外国の大学と提携し分校としての教育を行う民
間の高等教育機関が数多く存在し、講座のすべて又は部分的に、これらスリランカ
の機関で行われているが、学位は外国の大学より授与されている。
MVTTは専門職業教育訓練を施す 3 つの主要なネットワークを纏めることにより構
成されている。これらネットワークの訓練センターは、国のあらゆる地域に広がっ
ている。これら訓練センターに加え中央政府下の異なる省及び地方の州政府によっ
て運営されるセンター及びネットワークが存在している。MVTT、高等教育省、青
少年対策省以外 の省及び州の省庁で行われている訓練は主にそれらの活動分野に
関連している特化した訓練である。例えば、農業に関連したコースは農業省の農業
部によって実施されており、電気通信コースは電気通信省の管理下にあるスリラン
カテレコムによって運営されている。
スリランカ(国有部門)における専門職業教育訓練の全システムは図 3-3 に示され
ている。
6
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政府
MVTT
高等教育省
青少年対策省
TVEC に携わる
その他の省
TVEC
政府機関及び
SLIATE
NYSC
国家機関
DTET
NAITA
VTA
NITESL
NIBM
・
TVEC(Tertiary and Vocational Education Commission:高等及び職業教育
委員会)
・
DTET(Department of Technical Education and Training:専門教育訓練部)
・
NAITA(National Apprentice and Industrial Training Authority:国立実習
生及び産業訓練局)
・
VTA(Vocational Training Authority:職業訓練局)
・
NITESL(National Institute of Technical Education of Sri Lanka:スリラ
ンカ国立専門教育機関)
・
NIBM(National Institute of Business Management:国立産業経営機関)
・
SLIATE(Sri Lanka Institute of Advanced Technical Education:スリラン
カ上級専門教育機関)
・
NYSC(National Youth Services Council:国立青少年問題審議会)
図 3-3 スリランカ(国有部門)における専門職業教育訓練システム
7
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民間部門及び非政府部門は、国の多くの地域でかなりの数に及ぶ訓練センターを運
営している。民間部門の参入は主にコース需要が多く、同時に訓練施設を設立する
投下資本が少ないサービス部門であり、管理、コンピューター研究、美容療法及び
理容等が含まれている。すべての民間部門コースは市場価格に相当する費用を徴収
している。非政府組織は主に特別な問題があるために取り組むべき分野で活動して
おり、例えば、紛争に巻き込まれた青少年の問題及び貧困の軽減への介入等である
(1) TVEC(Tertiary and Vocational Education Commission:高等及び職業教育委
員会)
これは、
「高等及び職業教育条例 1990 年第 20 項(第 1 章 1999 年条例、第 50
により修正)」に基づいて設立されており、専門教育問題担当大臣の勧告に基
づき大統領によって任命されている。委員会のメンバーは商工業、大手の訓練
供給者である国有部門の長及び担当大臣により指名を受けた 2 名より構成さ
れている。委員会の委員長は、民間部門の代表の中から選任されている。委員
の 1 人でもある理事長は最高責任者であり、彼の下に理事会が置かれている。
理事会は以下の 5 つの課で構成されている。
(a)
計画立案及び調査課。
(b)
基準及び認定課。
(c)
全国職業資格認定課。
(d)
情報システム課。
(e)
管理及び財務課。
TVEC は、建設、栽培農園、自動車技術等種々の部門の為に VET(Vocational
Education and Training:職業訓練)計画を常に開発、更新しておりそれぞ
れの部門の開発及び人員要求の分析を行っている。これら職業教育訓練計画の
成果は訓練コースへの学生の入学登録の調整に利用され、更に民間部門の機関
が特定の分野の訓練施設の設立及び向上させるために必要な助成金及び補助
金を供与するかどうかの決定に用いられている。計画立案及び調査課に付属し
ている調査チームは職業教育訓練分野の調査活動の整合性を計っている。調査
分野の識別、調査補助金、調査実施の促進及び調査公開討論会の開催はこの課
によって行われている。すべての主要な公共機関の研究員や管理スタッフの参
加やいくつかの民間部門の機関は調査活動を利用することができるようにな
っている。
基準及び認定課は公共、民間両方の訓練機関の登録を TVEC と共に規制して
いる。これは法的用件であり定められた認定基準及び品質管理システムの審査
に対するコースの認定をも規制している。
NVQ 課は国内における NVQ 骨組みの開発及び実施を計画し、調整する機能
を備えている。すべての主な国有部門の訓練提供者の代表者の参加によって
TVEC で開かれる月例会合では NVQ の実施に関する諸問題が話し合われ重
要な決定が下されている。当課は又、国民意識高揚のプログラムを策定しその
公開を行っている。
8
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情 報 シ ス テ ム 課 は情 報 技 術 要 求に 応 え な が ら、 そ の 分 野 の MIS ( The
Management Information Systems:管理情報システム)を通じて TVEC に
連結され、データは管理者が決定を下す為と NVQ 証明書を候補者に発行の許
可を与える為に分析がなされている。
情報システム課は「TVET ガイド」、すなわちスリランカのすべての国有部門
の TVET コースのための事業内容説明書を発行している。更に、別の省によ
って実施される特別訓練コースを含むすべての公共部門機関によって実施さ
れる全コースに関する情報を提供している。当課はスリランカの雇用市場とス
リランカ国民が就職可能な海外の雇用市場を分析する“労働市場速報”を半年
毎に発行している。
(2)
NAITA(National Apprentice and Industrial Training Authority:国立実習
生及び産業訓練局)
これは「国立徒弟審議会」の後継機関で 1990 年の「高等職業教育条例第 20
条の第 2 部」に基づき設立された。NAITA はその訓練活動を 2 本立てで行っ
ている。すなわち、訓練の一部は訓練機関で、残りの部分は実習生として産業
内で又はすべてその産業自体のやり方に任せて行なわれている。同局は 3 つ
の全国レベルの訓練機関を持っており、それらは、IET(Institute of Engin
eering Technology:技術工学専門機関)、AETI(Automobile Engineering
Training Institute:自動車技術訓練機関)及び ATI(Apprenticeship Train
ing Institute:実習生訓練機関)であり、これら 3 つの機関施設はスリラン
カの西部地区に設置されている。同局は国のいろいろな地域に多くの訓練セン
ターを設けており、就職斡旋の監査及び産業訓練の監視活動のネットワークを
持っている。また他の訓練機関及び大学に対し学生達が学んでいる期間中、産
業訓練を受けることができるよう便宜を図っている。これら学生達もまた産業
訓練の構成要素として監視され、評価されて資格認定されている。
この局は NITAC(National Industrial Training Advisory Councils:国立産
業訓練諮問委員会)を通じて能力基準設定を行う組織体であり、そこへは産業
からの強い関与がある。現在、能力基準は NVQ レベルの 1∼4、5 及び 6 に
設定されており、国立専門教育機関により準備された教科課程を承認する組織
体でもある。
(3)
職業教育及び訓練部
これは国の高等専門学校網のための行政機関である。1893 年にマラダナ高等
専門学校の創立に端を発し、現在 38 校の高等専門学校が存在する。長い年月
にわたって高等専門学校は発展し、国中を取り巻く最も設備の整った専門訓練
網としてみなされている。コースはすべての 3 つの分野、つまり農業、産業
とサービスを網羅しており、コースの期間は 6 カ月∼2 年間にわたっている。
中等レベルの専門教育の開発要求を考慮して、9 校の高等専門学校は全国資格
認定レベルの 5 及び 6 を提供すべく格上げされ、将来は“工業技術大学”と呼ば
れることになっている。工業技術大学の 2 校は既に、ゴール(南部地方)及
びマラダナ(西部地区)に設立されている。溶接金属技術と情報技術の修了証
9
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書取得につながる 2 つの教科課程は JICA(Japan International Cooperation
Agency:日本国際協力機構)の援助によってマラダナ工業技術大学で始まっ
ている。
(4)
VTA(Vocational Training Authority:職業訓練局)
これは「1995 年条例第 12 条」により設立され労働省が行う訓練網を引き継
いでいる。VTA は全国機関(3 施設)、地区職業訓練機関及び地方職業訓練機
関(200 以上の施設)を通じて訓練活動を管理運営している。産業及びサービ
ス分野を 6 カ月∼1 年間の期間にわたって行う幅広いコースはこの局によって
運営されている。地方職業訓練センターは国の要望のみならず地方の要求を念
頭に入れ数少ない訓練コースを提供している。
(5)
NITESL(National Institute of Technical Education of Sri Lanka:スリラ
ンカ国立専門教育機関
これは専門教師の教育、訓練、教科課程開発及び専門教師の絶え間ない職業能
力向上に責務を負う機関である。そのキャンパスはコロンボの南、ラトマラナ
に位置している。Univotec は NITEL 敷地内に、2007 年後半又は 2008 年の
前半に設立されことになっており、NITEL の諸活動は、新しい大学の指導技
術学部に吸収合併されることになっている。
10
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3.4
予算と財源
MVTT とその権限下にある諸機関への 2007 年の予算配分は以下のとおりである。
表 3-2
職業及び専門訓練省の年間予算(2007 年)(単位:千ルピー)
機関施設
配
経常的支出
MVTT
分
資本的支出
合
計
183,540
1,504,050
1,687,590
高等職業教育委員会
28,771
22,275
51,046
スリランカ国立専門教育機関
42,950
10,000
52,590
NAITA
411,550
72,650
484,200
職業訓練局
492,450
605,000
1,097,450
6,750
5,800
12,550
871,978
1,048,552
1,920,530
2,037,989
3,268,327
5,306,316
国立人的資源開発協議会
専門教育及び訓練部
合
計
*出典:Ministry of Finance, “Budget allocations for 2007”.
表 3-3
予算化された支出
政府支出合計に対する教育予算比率(2007 年)
予算(百万ルピー)
対予算(%)
975,738
100%
職業及び専門教育省
5,306
0.543%
教育省と高等教育省
43,253
4.433%
全政府支出額合計
*出典:Ministry of Finance, “Budget allocations for 2007”.
3.5
外国・国際機関からの援助
スリランカの TVET 部門はいくつかの国際組織及び外国の援助を受けている。2000
∼06 年にかけてのプロジェクト、ADB(Asian Development bank:アジア開発銀
行)に援助された技能開発プロジェクト(4 千万米ドル)は、NVQ の骨組みの構築
及び職員の訓練と共に選別された訓練機関の向上に多大な貢献をした。
技術開発プロジェクトに続いて ADB は 2006∼11 年にかけての TEDP(Technical
Education Development Project:専門教育開発プロジェクト)を支援してきてい
る。TVET 部門のすべての開発骨組はこのプロジェクトに包含されており、他にも
いくつかの資金援助提供者が開発骨組の特定された構成要素の開発に取り組んで
きている。
ド イ ツ 連 邦 共 和 国 及 び USAID ( United Sta tes Agency for International
Development:米国援助プログラム)は、スリランカの沿岸地域で津波復興の一部
11
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として TVET を援助する 2 つのプロジェクトに乗り出した。これらの開発事業は専
門教育開発プロジェクトによって認定された開発骨組みにも貢献してきている。専
門教育開発プロジェクトの期待される成果は次のとおりである。このプロジェクト
には 3 つの生産出力がある。
・
CoTs(Colleges of Technologies:技術専門学校)は専門家教育の提供の強化。
・
MVTT と関連する機関は、市場に敏感に反応する専門及び TEVT の支援を強
・
化。
Univotec が設立され活動することが可能となった。
同プロジェクトは SDP(Skills Development Project:技能開発プロジェクト)の
成果を基礎とし、これを補完している。このプロジェクトは NVQ レベル 5∼7(技
能者から技術者へ)のプログラム基準を技能開発プロジェクトが着手した技能レベ
ル 1∼4 へ加えることにより、NCQ 骨子を開発することになっている。このプロジ
ェクトは産業を基準及び教科課程の開発に巻き込み、特に産業分野の諮問及び部門
協議会を設立することによって訓練機関の方向づけをもたらすことになるだろう 。
・
技能者教育における技術専門学校の強化
この構成要素は 1 校の TC(Technical College:高等専門学校)をそれぞれの
地方で 1 校の CoT へと格上げする政府の戦略を支持し、技術専門学校は技能
者終了証書プログラムを提供して、専門教育を地理的により身近な存在にしよ
うとしている。CoT はその地方における最も大きい TVET センターとしての
代理権を持ち少ない資源で賄っている小規模な TCs への技術支援を行ってい
る。
訓練プログラムはまず、第一に国内労働市場の要請に応え、次いで海外からの
要請に応えることになるであろう。このプロジェクトは 6 つの Cots(プロジ
ェクト CoTs)つまりアヌダナプラ、バデュラ、キャンディ、クルネガラ、マ
ランダ、及びラトナプラの各技術専門学校の格上げを援助しようとしている。
開発のパートナー達は他の 3 つの地方で、3 校の技術専門学校の格上げを手助
けすることになるであろう。年間の入学収容人員は、技能者終了証書授与プロ
グラムでは、現在の 600 人を 1,500 人のフルタイム学生及び 1,500 人の働き
ながら学ぶパートタイム学生へと増やそうと計画しており、追加入学しようと
する学生は入学に際して GCE A/L の資格は必要とされないことになっている。
・
MVTT の強化及び関連機関
このプロジェクトは NVQ レベルの 5∼7 に焦点を絞り、MVTT と関連する機
関を促進し支援する為に、関係している品質の高い持続可能な専門職業教育訓
練システムを確実にすべく強化することになっている。このプロジェクトは
SDP のもとでなされた進展を纏め上げ、その完成した活動のうえに構築され
るだろう。この構成要素は次のとおりである。
(a)
OBB(Output Based Budgeting:成果重視予算組み)の開発と及び実
践を含む。
(b)
EMIS(Education Management Information System:正確な教育管理
情報システムの確率)
12
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(c)
上級レベルの特殊技能の為の訓練基準を実践可能な NVQ システムの確
率。
・
(d)
品質保証体制
(e)
専門職業教育訓練ソーシャルマーケティング戦略を含むものである。
Univotec の設立
Univotec 条例(Univotec Act)の議案可決で、プロジェクトは政府の Univotec
設立を援助し、これは科学技術者及び専門教育の為の資格を有した教官の不足
問題の解決の為に努力するであろうし、学生及び専門教育及び職業訓練職員の
学位取得につながる代替の高等教育の道筋を提供することになっている。高等
教育へのアクセスができるようにすることによってこの構成要素はこの分野
の社会的イメージの向上に役立っている。Univotec は B. Ed Tech(Bachelor
of Education Technology : 教 育 技 術 学 士 ) と B. Tech ( Bachelor of
Technology:技術学士)を始めとする新しい学位プログラムを提供すること
になっている。そして、数多くの TVET の設備資産を利用する多数のキャン
パスを持つことになるだろう。NITESL の敷地は本部キャンパスに格上げさ
れることになっており、この機構は訓練技術の 1 学部になるべく増強される
だろう。ラトマラナ高等専門学校を含む、MVTT の他の専門機関は職業技術
の学部の一部になるだろう。Univotec は科学技術者プログラムでは年間に約
600 名のフルタイムの学生と 600 名のパートタイムの学生を、そして技術教
師教育プログラムでは約 300 名のフルタイム及び 300 名のパートタイムの学
生をそれぞれ入学収容可能にするよう期待されている。
(1)
マラダナ技術専門学校プロジェクト
・
資金提供者:JICA
・
事業費:500 万米ドル
・
事業期間:2005∼10 年
これは合計 9 つの技術専門学校の 1 つであり、NVQ レベル 5 及び 6 における
3 つの学習コースを設立する為、JICA の援助を受けている。この 3 つのコー
スとは溶接及び金属加工技術、情報技術並びに電子機械工学である。始めの 2
コースは既に開始されており、学生たちも入学の登録を済ませている。電気機
械工学のコースは 2008 年に開始されることになっている。このプロジェクト
は、コースの開発及び実験室の設立、機械設備の設置並びに教員訓練の為にコ
ンサルタント達を置くことを準備している。
(2)
ジャフナ技術専門学校
・
資金提供者:KOICA(Korean International Cooperation Agency:韓
国国際協力機構)
・
・
事業費:233 万米ドル
事業期間:2005∼08 年
これは、スリランカ北部半島に建てられている。このプロジェクトは手始めと
して、機構自身を数少ない NVQ レベル 5 及び 6 を提供することが可能な技術
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国名:スリランカ (調査大項目 3:職業能力開発政策とその実施状況)
作成年月日:2007 年 8 月 29 日
専門学校のレベルへ格上げするべく援助を行っている。認定されているコース
は建設技術及び電気工学、自動車工業技術並びに情報技術である。このプロジ
ェクトは建物の建設機械設備の設置及びコンサルティング業務を支援してい
る。
(3)
津波後の復興と復旧プロジェクト
・
資金提供者:GTZ (Federal Republic of Germany through German
・
Technical Cooperation:ドイツ技術協力)を介してのドイツ
事業費:1 千万ユーロ
・
事業期間:2005∼07 年
これは、2004 年の津波により被害に遭った地域で、専門教育訓練部の 11 の
高等専門学校を援助するプログラムである。このうち 2 校は技術専門学校レ
ベルへ格上げされている。これらはゴール(南部地域)及びアムパラ(東部地
域)に存在している。ゴール技術専門学校は NVQ レベル 5 及び 6、すなわち
電気通信技術、情報技術及び機械電子工学の 3 つのコースの勉学を開始する
べく機器が備え付けられ、必要な建物の修理がなされた。これらのコースは
2008 年の初めに開始されることになっている。アムパラ技術専門学校は建設
技術及び自動車工業技術を開始するべく機器が備えつけられるであろう。他の
9 校の高等専門学校の選別されたコースは新しい機器の備え付けによって格
上げされている。このプロジェクトはスリランカ国内と海外の訓練によって職
員の開発という強力な構成要素を持っている。相談、助言の役務は国内・海外
の専門家達により提供されている。
(4)
津波復旧プロジェクト
・
資金提供者:USAID
・
事業費:1,300 万米ドル
・
事業期間:2005∼08 年
このプロジェクトは、津波の被害を受けた地域で訓練センター復旧及び近代化
の為に職業訓練局の職業訓練機関を援助している。この構成要素は新しい建物
の建設及び建物の復旧、教育課程の開発、学習資料の充実、機械設備の提供並
びに職員訓練を含むものである。
3.6
職業能力開発の政策評価
「専門教育及び職業訓練改革 1997」により設定された政策目標は約 10 年間にわた
り運営管理されてきており、この文書に述べられている政策に関して、その実績を
分析することは当然のことと言える。
(1)
政府の役割
政府は NVQ 組織を設立し、能力基準設定、教育課程、開発及び能力評価の仕
組みが開発され、コースの認定及び品質管理システムにより品質保証の為の対
策は構築された。ADB は「技能開発プロジェクト」を支援しており、このプ
ロジェクトは技術支援、設備及び教員の訓練の方法により、そして 4 つの主
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国名:スリランカ (調査大項目 3:職業能力開発政策とその実施状況)
作成年月日:2007 年 8 月 29 日
要な訓練ネットワークにまたがる 45 の職業を包括する NVQ 構想を進めるた
めの他の開発支援によって支えられている。これは実に政府の介入によって過
去 5 年間にわたって成し遂げられた主たる業績の 1 つである。政府は専門及
び職業教育訓練の提供者であり、いかなる分野においてもその訓練活動を削減
してきてはいない。しかしながら、ある選択されたコースに費用を請求する如
く費用を回収する何某かの仕組みは導入された。
より大きな協力関係は訓練を提供する機関施設のネットワークの中で打ち立
てられた。その結果として 3 つの主なネットワークは 1 つの省の権限下に置
かれ、ある分野においてはコースの重複はかなりの程度まで避けられてきてい
る。更なる、開発活動は協調的な方法を採ることにより進歩を遂げてきている。
機関はいろいろな資源を共有しながら NVQ 評価のため共同利用できる有能
な評価者を利用している。
(2)
民間分野の訓練への参画
TVEC に登録されている機関に従って民間部門の専門及び職業教育訓練ネッ
トワークは長年にわたって成長してきており、その数は現在 601 に達してい
る。NVQ 骨組みのもとで開発されたすべての新しい能力基準、教科課程及び
教材は、民間分野の機関が利用できるようになった。更に、資金協力計画は
2006 年及び 2007 年に策定され、NVQ の要求に応じてそれらの設備機器及び
職員の訓練を格上げすべく、そしてそれらのコースが TVEC に評価されるよ
う 2,500 万ルピーが民間部門機関に補助交付されることになっている。民間
分野における質の高い専門職業教育及び訓練を更に促進するべく民間訓練提
(3)
供者認定協会を設立しようとして手順は現在進行中である。
普通教育と TVET との連携
NVQ 骨組み及び普通教育から TVET への入り口は開設された。しかしながら、
TVET から普通教育や高等教育への横への移動入学は未だ認定されていない。
GCE(上級レベル)試験合格後の大学進学は、高い競争率の為、同年齢集団
のうち 5%しか入学ができない現状である。この高い競争率の結果として
TVET を通じて通常の大学へ入る代替入学ルートは不可能となっている。
TVET 領域で学位レベルの資格認定を取得する上級教育への進路を提供しよ
うと MVTT の下で Univotec を設立する決定がなされた。普通教育制度は現
在、学校指導要領の下で、職業前科目を導入することを検討しており、MVTT
に支援されて生徒達及び両親達に職業指導を行うことも検討中である。この第
一歩を国全体で実践するには 2∼3 年は必要であろう。
(4)
自営業と未組織化分野への訓練
専門職業教育訓練を修了した人たちに起業家精神たるべき各要素は提供され
てきており、これらの各要素は技能開発プロジェクトの支援で開発された。資
金援助も 1 人当たり 25 万ルピーで小企業やビジネスを始める為に 2004 年及
び 2005 年には、計 8 千万ルピーが費やされた。これらの訓練及び融資による
成果並びに反響は現在、評価中であり、結果は未だ判明していない。
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国名:スリランカ (調査大項目 3:職業能力開発政策とその実施状況)
作成年月日:2007 年 8 月 29 日
【参考文献】
1.
Asian Development Bank, “Loan Agreement, Technical Education Development
Project”.
2.
Central Bank of Sri Lanka, Economic and Social Statistics of Sri Lanka, 2007.
3.
Mahinda Chinthana, “Vision for a new Sri Lanka, Ten year horizon development
4.
framework 2006∼16”.
National Institute of Technical Education of Sri Lanka Act No. 59 of 1998.
5.
Tertiary and Vocational Education Act No. 20 of 1990.
6.
The Presidential Task Force, Technical Education and Vocational Training
Reforms, 1997.
7.
Vocational Training Authority Act No. 12 of 1995.
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