小説・エッセイ推敲のポイント

特集 1
叩いて揉んで練り上げろ!
小説・エッセイ
推敲のポイント
推敲の語源…… 唐の詩人、賈島が「僧は推す月下の門」がいいか、「僧は敲く」にすべきか、ロバに乗りながら考えたという故事に基づく。
推敲というと、最後の最後に
やる総仕上げという印象がある
と思いますが、それは推敲とい
う作業の一部に過ぎません。
原稿を書き始め、とりあえず
いったんは書きあがったとしま
す。その際、
﹁これで完成だ、あ
とは誤字脱字のチェックをして
応募だ﹂と思ってしまうと失敗
%といったところ
します。初稿の時点での完成度
はせいぜい
で、これからテーマを浮き彫り
にし、ストーリーが脇道に逸れ
ていれば削る。説明や描写の過
不 足 を 確 認 し、 セ リ フ を 磨 く。
そして、そのあと、ようやく最
終チェックとなります。
手順としては、大きな修正を
要す練り直しから始め、細部の
チェックへ。この手順を間違え
ると、応募間際に一から書き直
15
しすることになってしまいかね
ませんので注意しましょう。
イラスト もとき理川
50
垣根涼介先生に聞く
ります。書きながら推敲することもある
削ることもあれば、付け足すこともあ
大事ですね。
し、書き上げてから推敲することもある。
なおかつ楽しんでもらう。その3要素が
受賞に近づく!推敲力のつけ方
読みやすいことが前提
いろんなパターンがあります。同じ状況
って二度はないんです。
してませんね。だから、最初の応募作
﹃ 午 前 三 時 の ル ー ス タ ー﹄ は、 半 年 く ら
︱︱改行や段落は、文庫本や文芸誌など、
︱︱小説を書く勉強はされたのですか?
でサントリーミステリー大賞を受賞され
い1行も書けなかったですよ。1行書い
︱︱ 初 応 募 作﹃ 午 前 三 時 の ル ー ス タ ー﹄
ましたが、デビュー後、推敲のやり方は
僕の中でそれぞれのスペースにあった
媒体によって違いますね。
ていました。何日も書き直しているうち
字切りがあるんです。パソコンの場合は、
ては消し、1行書いては消しを繰り返し
変わりませんね。基本は読みやすいか
に、やっと1行増えた、2行増えたとな
見えている範囲の字切りで改行しますね。
変わりましたか?
どうかだと思います。公募に出す作品は
るんです。その積み重ねですね。
を変えます。また、文庫になったときも
パブリックになるのが前提です。それを
当然変えますし、雑誌連載のときも変え
でも、ゲラになってきたときは違う段組
僕は無理です。そこで止まって百回く
︱︱表現に詰まっても次々書き進めるほ
らいため息をついて、ベッドに寝転がっ
考えたら、読みにくい文章じゃ話になら
つけて、どこが読みやすいのかを考える
ますね。
みになっていますから、その際も字切り
といいです。共通点が何個か出てくると
て、頭いてぇとか言う。ほかの本を読ん
うですか?
思います。
で、またパソコンの前に行って、書き直
ないですよね。自分が読みやすい本を見
︱︱先生ご自身は、どんな文章が読みや
い説明も入れなくちゃいけないですしね。
︱︱使う言葉が現代小説と全然違います
したくないんです。でも、それを死守し
よね。
︱︱ 最 新 刊﹃ 光 秀 の 定 理 レ
( ン マ ﹄) は
初の歴史小説ですね。推敲の方法は変わ
ようとすると、現代風のニュアンスにな
りする。それに、現代小説なら必要のな
っ た り、﹁ で は 拙 者 こ れ に て ﹂ と 言 っ た
す。会話にしても﹁何々でござる﹂と言
緒です。ただ、文章に気はすごく遣いま
基本は変わらないですね。やり方は一
質に合った文章を見つけるのが一番先で
れぞれのリズムがあるんです。自分の体
れぞれ話し方が違うように、文章にもそ
行錯誤しながら書きました。でも、人そ
るところもあります。その辺はかなり試
自分の文章のテンポ、リズムとかは崩
りましたか。
■体
にっ
合っ
文章
章を
すす
体質
に質合
たた文
を探探
して、ベッドに寝転がる⋮⋮何やってる
︱︱内容を削ることもありますか?
のかなぁって感じることもありますね。
すいと思われますか。
僕自身は、文章はシンプルにこしたこ
と は な い と 思 っ て い ま す。﹁ 石 こ ろ が 転
がっていた。彼はそれを拾った﹂と﹁彼
は転がっている石ころを拾った﹂なら、
前者の方が二文節に分かれるけど、読み
やすいしリズムも出ます。お金を出して
買ってもらう立場なので、読者になるべ
く負担をかけたくないんです。だけど、
ちゃんと自分の言いたいことは言って、
『光秀の定理 ( レンマ )』
(角川書店・1,600 円+税)
16
歴史小説という印象を受けました。
︱︱光秀の描き方が斬新で、全く新しい
しょうね。
ました。精神的に外れている人間と、技
人間が2人くらいいたほうがいいと思い
めには、世間のヒエラルキーから外れた
織に組み込まれる立場を浮き立たせるた
作家デビュー以来、いつか歴史小説を
仏教観をどう積み上げられたのですか?
︱︱執筆に当たり、背景となる歴史観や
と思ったんでしょうね。
人がほとんどなのが不思議です。恥ずか
応募する前に、誰にも見てもらわない
︱︱人に見せるのは勇気が要りますね。
ら﹂と怒られましたけどね。
2回目は、さすがに﹁暇じゃないんだか
しいという気持ちがあるのかもしれませ
﹁本能寺の変﹂の結果は誰でも知ってい
年かけて
たくさんの資料を読みました。平安末期
んが、最終的には世に出すものです。友
書きたいと思っていたので、
光秀を際立たせたかったというのがあり
から明治維新までの学術書をはじめ、仏
能的に外れている人間。彼らとの対比で
ことになります。でも光秀って失敗する
ます。
だちに見せることくらいなんともないは
ますし、そこを描くと光秀の視点で書く
人の話なので、彼だけの視点で書くと言
教書も日本だけでなく原始仏教から押さ
︱︱指摘を反映させるか否か、選択が難
︱︱愛妻家で愚痴っぽく、すぐ泣く⋮⋮
ないので、仏教観は外せないんです。い
しいところもありますね。
い訳になるんです。だから光秀のイメー
涙もろくて愚痴っぽいというのは僕の
わゆる、死ねば極楽浄土に行けるという
ずなんですよね。
は多くを語っちゃいけないんですね。
創作ですが、愛妻家だというのは史実で
価値観に支配されている世界です。
えました。この時代、価値観がそれしか
︱︱光秀以外にも、新九郎や愚息といっ
す。彼は名家の出なので、男の子を残さ
︱︱その世界観をどのように描こうと思
光秀のキャラクターが魅力的ですね。
た登場人物がかなり活躍します。構成上
ないのは犯罪なんです。それでも側室を
われましたか。
ジがじめじめするのだと思います。敗者
の狙いは何だったのでしょう。
置かずに平然としているのは、当時かな
うが、時代がより際立つと思いました。
いないという、アンチテーゼを立てたほ
なんてない、釈迦はそんなことを言って
そこを明確に書くためには、極楽浄土
︱︱応募作は、早めに仕上げたほうが有
するべきですね。
けるけど、最後は自分の責任でチョイス
通せばいいと思います。アドバイスは受
納得いかないなら自分のやりたいように
しいと思えたら直せばいいんです。また、
くらいすると冷静になれます。そこで正
カチンとくることもあるけど、1週間
彼は、巨大な組織に入って出世してい
そこで愚息を登場させています。否定で
利ですね。
僕は半年前に仕上げましたが、確実に
はなく、対照となる人物を置くことで、
世相が浮き彫りになると思ったんです。
人くらいに見ても
受賞を目指すなら1年前じゃないでしょ
うか。1年あれば、
とでレベルが確実に一段上がります。そ
真っ赤になって返ってきますが、直すこ
■人
見も
ても
う重
重要
人に
見にて
ららう
要性性
︱︱これから応募する人が推敲力を身に
れをまた 人に送れば、違う観点で返っ
年前に仕上げて3人の友だちに読んでも
トリーミステリー大賞に応募する際、半
るとは限らないけど、確率は限りなく上
ができます。そうすることで必ず受賞す
てくるので、さらにレベルを上げること
人に見てもらうことですね。僕はサン
つけるにはどうすればいいでしょう。
らっても余裕です。それだけ見せると、
10
らいました。1回目で真っ赤になった原
10
稿を直して、もう一度見てもらいました。 がると思いますね。
取材・川村千重/撮影・賀地マコト
10
り特殊だったと思います。奥さんに悪い
あらすじ
17
『光秀の定理 ( レンマ )』…明智光秀はなぜ瞬く間に織田軍随一の
知将になり得たのか。兵法者・新九郎、謎の坊主・愚息、光秀の
三人が見た“歴史の定理”から読み解く今までにない歴史小説。
かないと一族を養えない人なんです。組
垣根涼介(かきね・りょうすけ)
2000 年『午前三時のルースター』でサ
ントリーミステリー大賞、読者賞をダブル受賞。04 年『ワイルド・ソウル』
で大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞受賞。
『ヒートア
イランド』
『君たちに明日はない』
『狛犬ジョンの軌跡』など著書多数。
推敲の手順STEP❶
家を建ててから、土台をやり直そうといっても無理があります。推敲
の手順の第1段階として、あとで大幅な修正にならないようにテーマ
と書いてしまったり、最後の最後になん
いる途中、
﹁登竜門﹂という言葉から、
や話の流れをチェックしましょう。
﹁ねえ、マスク取ってくれる?﹂
だか完結していない気がして、これでも
あとで大幅な修正に
ならないように大局を見る
﹁いいですよ、は∼い﹂
D 登竜門は﹁竜門に登る﹂と書き下す。
竜門という急流を登った鯉は竜になると
テーマは表現できているか
めを押してしまったり、そういうことが
いう伝説があり、それが語源である。
かとばかり言わずもがなのこと書いてだ
かさずこう言った。
起こりやすいのが最初と最後です。
私がマスクを外すと、おじいさんはす
推敲の第1段階ではどんなチェックす
﹁うわ、美人⋮⋮﹂
無駄とまでは言えなくても、ここを削
っても話は成立するという部分は徹底的
に削りましょう。
無駄な文章は、それがあると、言わん
入れたとしましょう。
という文章を思いつき、これを文中に
るのか説明しようと思いますが、長編の
例文は書けませんので、今月の﹁誌上エ
人﹂と言われ、本人としては﹁そんなバ
色気がなくてあか抜けない作者が﹁美
長編と掌編では枚数こそ違いますが、や
カな﹂という気持ちだったかもしれませ
ッセイ﹂の応募作品を例として挙げます。
ることはだいたい同じです。
多くの小説家は、公募文学賞という登
登竜門は﹁竜門に登る﹂と書き下す。
とすることをわからなくします。
竜門という急流を登った鯉は竜になると
んが、読者はそこまでは思わないでしょ
多くの小説家は、公募文学賞という登
いう伝説があり、それが語源である。
さて、推敲の第1段階でまっさきに確
竜門を経てプロになっている。作家志望
竜門を経てプロになっている。
である私も、そうした文学賞に応募する
う ね。﹁ け っ こ う モ テ る ﹂ と も 書 い て い
推敲の第1段階では、テーマがあれば
認 し な け れ ば な ら な い の は、﹁ テ ー マ は
それはなんだったかを確認し、それが十
ますから、意外性の面でも欠けます。
今月号で発表の﹁誌上エッセイ﹂の課
表現できているか﹂です。
題は﹁そんなバカな﹂でしたが、その応
つもりである。
に応募するつもりである。
作家志望である私も、そうした文学賞
全に表現できているかを確認します。テ
テーマが表現できているかを考え、でき
間にDが入っただけで、A↓B↓Cと
いう展開が阻害され、論旨のわかりにく
A 公募文学賞はプロへの登竜門である。 い文章になってしまいました。
これは短文ですから、そのことがよく
B 私は作家志望である。
わかります。しかし、ABCDが長い段
C
だから私は公募文学賞に応募する。
落の場合は、何が論旨の明快さを阻害し
わゆる三段論法ですね。
これは以下のような論理展開です。い
募作品の一つを紹介しましょう。
自慢じゃないが、けっこうモテる。し
ていなければ、テーマが浮き彫りになる
ーマがない場合は、自分が書こうとした
かし、おじいちゃんにだけ。理由はわか
よう書きかえます。
無駄なことは、最初と最後に書いてし
無駄
部分
分を
徹徹
底底
的に
削に
る削る
無駄
なな部
を
的
っている。それは私の外見だろう。
今時、髪も染めず、もっちりプリプリ
した体型。色気がまったく感じられない
ところに安心感があるのだろう。要は、
そのような場合は、長文を短文にし、
私はあか抜けない女の人なのだ。
語に触発されて、何かを連想してしまう
つまり、段落を要約し、それを書き出し
ているのか気づかなかったりします。
書き出しに迷い、なかなか本題に入れ
ことがありますが、前記の文章を書いて
ところで、文章を書きながら、ある単
作者は歯科助手をしていますが、ある
ないまま、どうでもいいことをだらだら
まうことが多いようです。
とき、患者のおじいさんに言われます。
18
てみれば、筋道としておかしい部分が容
そして、結果的に結婚届を出すことにし
イトを好んでした。それは仕切り場で軽
私は若い頃、ちり紙交換というアルバ
ダンボール、そして鉄くずなどをトイレ
た。私は自分の言葉が妻に効果的な作用
ットペーパーなどと交換するという、昔
易に見つかるはずです。
これには後日談がある。妻はそれでも
風に言えばクズ屋、かっこよく言えば廃
トラックを借りて気ままに古新聞や雑誌、
諦めきれず、例の占い師に占ってもらっ
キングの推敲のポイント
スティーヴン・キングは、
﹃小説作法﹄
の中でこう書いています。
原稿が仕上がると、私は一息入れて、
返す。そこにはきっと何かがあるはずだ
たという。結果は大凶。これを聞いて私
をもたらしたことをうれしく思った。
話の
分を
を見
話の
配配分
見るる
今月号の﹁誌上エッセイ﹂の応募作を
時間に束縛されることもなく、好きな
から、見極めたものを取り出して、くっ
作品の底流にある傾向を探りながら読み
ときに出かけて好きなときに帰ってくる
きりと浮き彫りにする意識で第二稿を書
品回収業である。
妻にとってではなく、私にとって。お金
という、自由気ままなこの商売が私には
く。
︵ 中 略 ︶ 二 稿 の 担 う 働 き は 二 つ、 シ
が笑い飛ばしたのは言うまでもない。
妻に実年齢を一歳ごまかしていた私。
は妻に握られ、自由な時間はなく育児に
もっとも合っていたと言える。
もう一つ紹介しましょう。
結婚することになっても﹁まあいいや、
束縛され、毎日へとへとになって生活し
です。前半の﹁そんなバカな﹂と言って
これは話の配分を間違ってしまった例
さんの結婚も破談になったという内容で
が、この話は同僚が窃盗で逮捕され、娘
品回収業の話かと思うはずです。ところ
その際、加えるより削るほうが圧倒的に
テーマを浮き彫りにするわけですが、
しかし、今の結婚生活は明らかに大凶。
どうせばれるんだし﹂と高をくくって、
ている。
ンボリズムの増幅と主題の補強である。
あえて訂正もしないままだった。
その後、婚姻届を出す段階になって実
しまったシーンを結末にし、あとはさっ
多いのが普通です。削ることで、隠れて
︵スティーヴン・キング﹃小説作法﹄︶
年齢がバレると、婚約者は怒り、作者を
す。導入部の文章のベクトルが、結末に
これだけ書き出しが長いと、これは廃
平手打ちしたうえ、結婚を渋る。作者と
と終わりにするべきだったでしょう。
いるものを浮き彫りにするわけです。
のように考えながら書くそうです。
また、キングは、推敲の過程では以下
向かっていない例ですね。
もう半世紀も前の話なので時効として
次は、予告が過ぎた例です。
冒頭部分はひとつの先触れであり、つ
私は絶えず自問する。最大の関心は、
話が首尾一貫しているかどうかである。
書かせてもらう。生き馬の目を抜くとい
という予告を兼ねています。少なくとも、 う新聞記者の世界で、そんなバカなとい
︵ 中 略 ︶ 言 い 換 え れ ば、 私 は﹁ つ ま り、
まり、これからこんな話が始まりますよ
先触
とネ
ネタ
レレ
先触
れれと
タババ
しては﹁1歳くらいでそんなバカな﹂で
あるが、実は婚約者は占いで結婚を決め
たため、年齢詐称は大問題だったのです。
しかし、作者は﹁おれたちの運命は占
い師が決めることじゃない﹂と言って説
得します。以下は、最後の部分。
うことが起きた。こともあろうに、競争
何なんだ、スティーヴィ?﹂と自分に問
私の言葉に妻は心が動いたようだった。 読者はそう思って読み始めます。
いかけているのである。
1割から、多い場合は2割ぐらい削って
何かを足しても形は見えてきません。
いく結末を用意しないと、期待して読ん
こう書いたら、さらに読者の予想の上を
ばなんだ﹂と自分に問えば、読者にそう
﹁ つ ま り、 何 な ん だ ﹂
﹁ひとことで言え
︵スティーヴン・キング﹃小説作法﹄︶
相手の他社に自社の記事を送稿してしま
推敲の第1段階では、﹁テーマは浮き
初めて作品のあるべき形が見えてきます。
言われることもありませんね。
書き出しでネタバレになっています。
ったというドジな話である。
彫りになっているか﹂﹁ストーリーライ
足すのはそれからです。
が、そのコツは削ることにあります。
ンは蛇行していない か 、 配 分 は ど う か ﹂
第1段階のポイント
など大きな観点でチ ェ ッ ク し て い き ま す
だ読者の納得は得られませんね。
19
推敲の手順STEP❷
推敲の手順の第2段階は、個々のシーン展開の確認と、伏線など仕掛けのチェック
が、なんのために?
ということまでは
聞き出そうとしていることはわかります
です。ここでの修正は、第1段階よりは小さめですが、しかし、場合によると前後
の章に影響する場合もあります。
いつ
どか
の程
物語
を、動
す度、説明するか
ここで若者が栗木を探している理由を
わかりません。
説明することは簡単です。しかし、それ
説明がしっかりしていると、読者は納
得して話に入れますが、しかし、説明ば
を長々とやっていると、物語の進行が停
ですので、作者は物語を動かしつつ、
作中の出来事を書き進めつつ、少しずつ
次の
ーン
ンへ
引引
きき
次の
シシー
へのの
﹁2﹂に入っています。
に?﹂と思ったところで、間髪入れずに
きたんだな、でも、どうしてそんなこと
シーン展開を確認し、
仕掛けを磨く
シーン構成の工夫
伊坂幸太郎の﹃死神の精度﹄の第3話
にあたる﹁吹雪に死神﹂の冒頭は、田村
かりされてもおもしろくないですね。
シーンや章などの区切りでは、読者は
自然なかたちで説明を小出しにしていっ
幹夫という人物が殺される場面から始ま
っ て い ま す。 こ れ が﹁ 1﹂
。 続 く﹁ 2﹂
一息つけますが、同時にそこは読書のや
状況を明らかにしていっています。
滞してしまいかねません。そこで作者は、
では、時間を1日巻き戻し、死神がこの
たりします。
﹁おまえ、栗木の居場所を知ってるんだ
ということで一石二鳥です。
問を残しているので先を読みたくなる、
ただし、何もかも隠してしまうと、読
ってな﹂若者の茶色と黒の二色になった
こうすることで、物語も進行する、疑
め時でもあります。そんなことにならな
前出﹃死神の精度﹄︵﹁吹雪に死神﹂の
の引きを用意しておきます。
いように、シーンや章の終わりには次へ
場所に来た経緯を説明しています。
出来事が起きた順に時系列で書けば、
一日目に死神が洋館にやってきて、その
翌朝、宿泊客の田村幹夫が死んでいた、
髪が、濡れてぺしゃんこになっていた。
なぜ死神が洋館に来たかという経緯の説
夫人も、私の報告次第では一週間後に亡
田村幹夫は一日後には死ぬだろうし、
らよ﹂と唾を吐いた。雨が跳ねるのに紛
若 者 は、﹁ 俺 に 会 っ た の が 運 の 尽 き だ か
私が曖昧な返事しかしないものだから
にこうあります。
柏田道夫先生の﹃シナリオの書き方﹄
コメ
ィ・
・リ
ーー
フフ
コメ
デディ
リリリ
を見て少しずつタネ明かしをしています。
う気持ちになってしまいますので、頃合
かなり長い間、私を待っていたのだろう。 者 は い ら い ら し、﹁ 早 く 教 え ろ よ ﹂ と い
明が多く、冒頭に置くには動きがなく重
くなるはずだ。残された時間は貴重だか
れて、彼の唾も水溜まりに落ちた。
﹁2﹂の最後︶にはこうあります。
たいということはあります。
ら、食事の配膳などをやっている場合で
それでもいいですが、
﹁2﹂の部分は、
という順番になります。
それゆえ読者を惹きつけるシーンをま
︵伊坂幸太郎﹃死神の精度﹄︶
はない、と私はそう伝えたい気持ちにも
﹃死神の精度﹄の第2話にあたる﹁死神
連続ドラマでいうと、次週のワンシーン
死神です。ここでは若者が私を待ち伏せ
藤田というやくざの弟分。私は主人公の
を強いるシーンの後は、息が抜けるシー
けても、観客は疲れてしまいます。緊張
すらテンションの高いシーンばかりを続
いくら見せ場が必要といっても、ひた
がちらっと出て、田村夫人も死ぬのか?
し、栗木︵敵対するやくざ︶の居場所を
若者とあるのは阿久津というやくざで、
と藤田﹂の冒頭付近にある文章です。
どんなふうに?
と思わせる手法です。
これは次章への予告編のようですね。
︵伊坂幸太郎﹃死神の精度﹄︶
なったが、口にしなかった。
ず冒頭にもってきて、読者が﹁事件が起
伊坂幸太郎
『死神の精度』
20
ンを配分する。これを︹コメディ・リリ
ーフ︺といいます。
む気力も俄然、増しますね。
久津と死神は敵対するやくざに捕まりま
﹃死神の精度﹄の﹁死神と藤田﹂で、阿
伏線
張る
る
伏線
をを張
再び﹃死神の精度﹄から引用します。
︵柏田道夫﹃シナリオの書き方﹄
︶
ちなみに、この死神は︵この世の者で
す。以下は、そのことを敵が電話で藤田
見 え た。 煙 草 を、 灰 皿 に 押 し 付 け、﹁ 古
臭えんだよなあ、ああいうの。流行らな
いって﹂と大声で言った。
︵伊坂幸太郎﹃死神の精度﹄
︶
とあり、藤田が古いタイプの任侠であ
ることが示されています。
推敲は第三者的な目で
細部のチェックというのは、あとでい
くらでもできますが、応募の直前に一か
らやり直しとなったら目もあてられませ
んから、推敲は、最初の段階では全体の
流れ、過不足といったことをチェックし
ていきます。その過程で誤字脱字を発見
ないだけに︶言葉にうといところがあり
しかし、そうした場面になってから、
することもありますが︵その場合は直し
に知らせたあとのシーンです。
この人はこういう性格だと書くと、いか
ていいですが︶
、主眼はあくまで全体を
ます。それを前提に読んでください。
にも急ごしらえのようです。
見ることと目的を絞りましょう。二兎は
が 乱 暴 に、﹁ 藤 田 の 奴、 今 す ぐ す っ 飛 ん
そこで、電話をかけていた坊主頭の男
﹃死神の精度﹄の﹁死神と藤田﹂では、
﹁俺が、仕事をするといつも降るんだ﹂
私は打ち明ける。
追わないこと。
推敲をする際、もっとも重要なのは、
前半の段階で、藤田と藤田の上司に以下
たいです﹂
第三者的な目で見ることです。
公︵視点人物︶に密着し、主人公になり
方を示しています。
﹁話し合いでまとめるわけじゃないです
きって書いています。しかし、推敲する
︵伊坂幸太郎﹃死神の精度﹄︶
のような会話をさせ、藤田の性格、考え
﹁雨男なんですね﹂と彼女は微笑んだが、 で く る よ う で す よ ﹂ と 喚 い た。﹁ 一 人 み
私には何が愉快なのか分からなかった。
けれどそこで、長年の疑問が頭に浮かん
敵対するやくざの事務所に一人で行く
よね ﹂藤田はそれにこだわっている。﹁手
段になったら、自分の中にある﹁書いて
原稿を書いているときは、作者は主人
なんて、やくざでも普通はしません。そ
を出してきたのは、栗木のほうですよ。
いる自分﹂と﹁読んでいる自分﹂のうち、
だ。
﹁雪男というのもそれか﹂
﹁何かするたびに、天気が雪になる男の
の普通はしないことを小説の中でやらせ
しかも、まったくの言いがかりで。この
﹁え?﹂
ことか?﹂
るとき、やっておかなければならないこ
彼 女 は ま た 噴 き 出 し て、﹁ 可 笑 し い で
して読みます。作品から一歩引いた感じ
で、どこかの誰かが書いた作品を、今初
﹁筋を曲げて、何がやくざなんですか﹂
とが書かれているかは知っているわけで
自分で書いた作品ですから、どんなこ
すが、冷静に他人の目で見ようとすれば、
﹁ここは書きすぎ﹂﹁ここは説明不足﹂と
を通じて示す。普通はしないことを小説
稿を寝かせましょう。スティーヴン・キ
冷静に見られない人は1週間くらい原
いったことが見えてくるはずです。
の中でやらせるとき、やっておかなけれ
ングは6週間寝かすそうです。
合主義﹂と言われそうなときは、出来事
説 明 を 加 え た だ け で は、﹁ 作 者 の ご 都
︵伊坂幸太郎﹃死神の精度﹄
︶
気色悪い毒虫の背中に触るような様子だ。 めて読むように読みます。
﹁おまえは、筋にうるせえな﹂相手は、
﹁読んでいる自分﹂のほうを強く引き出
まま、無事に済ませちまったら、うちが
前記のシーンの直後にも、
まずは、説明を入れ、辻褄を合わせる。 筋を曲げたことになりますよ﹂
とが二つあります。
︵伊坂幸太郎﹃死神の精度﹄
︶
すね、それ﹂と手を叩いた。
このおかしさは説明するまでもないで
﹁馬鹿な奴だなあ﹂栗木が苦笑するのが
いですが、結末の一つ前のシーンを最初
すが、こうした楽しい箇所があると、読
第2段階のポイント
に見せておき、それから時系列で出来事
成かどうかをチェックしましょう。
読者を飽きさせずに結末まで導ける構
を追うといった方法もあります。
推敲の第2段階で は ﹁ シ ー ン と シ ー ン
が 連 動 し て い る か ﹂ や、
﹁効果的な語り
構成は、時系列が も っ と も わ か り や す
順になっているか﹂ を 確 認 し ま す 。
ばならないもう一つのことはこれです。
21
推敲の手順STEP❸
しましょう。
推敲の手順の第3段階は、セリフ、描写、説明など、文章のチェックです。言っ
︵垣根涼介﹃光秀の定理﹄
︶
のほうに突き出した。
新九郎は、左手に掴んでいる大小を男
﹁刀は、返す﹂
ていることは同じでも、表現の方法は百通りもあります。そのいずれがいいか、
それ
誰が
が言
たた
のか
それ
はは誰
言っっ
のか
セリフが飛んでしまっていないか確認!
最良の方法を選択しましょう。
なふうに言うか、という観点でチェック
入ってしまっているケース。普通、そん
﹁三軒先の若い﹂という説明がセリフに
セリフまわりを中心に、
表現方法をチェック
セリフの基本チェック
現実の会話では、
﹁ねえ﹂とか﹁いや、
もう一つ、セリフの前の文章で主語を
セ リ フ を 書 い た 以 上、﹁ と 言 っ た ﹂ の
は自明のこと。そう書いてもかまいませ
四つ目は、セリフをひっくり返したほ
うが自然かどうか。たとえば、
明示する手があります。そうすると、そ
まあ﹂のように言ったりします。そう書
いてもいいですが、文章として読むと邪
んが、それだけで1行使うのはもったい
の主語になった人物が話者になります。
り返すのも芸がない気がします。
で は、﹁ と 言 っ た ﹂ と 書 か ず に、 誰 の
セリフか示す方法は?
ま ず は、﹁ 言 っ た ﹂ を 別 の 言 い 方 に す
る方法。垣根涼介氏の﹃光秀の定理﹄か
らいくつか引用してみます。
さもうんざりしたように足軽の一人が
吠える。
ぼそり、と愚息がささやいた。
いった文章が必要になります。
と 違 う 場 合、
﹁ ○ ○ は ⋮⋮ と 言 っ た ﹂ と
逆に言えば、直前の文章の主語が話者
︵垣根涼介﹃光秀の定理﹄
︶
には分からんよ﹂
﹁じゃが、言ったところで、今のおぬし
愚息はやや首をかしげた。
﹁答えは⋮⋮まあ、あるがのう﹂
けて話す場合にも活用できます。
この法則を利用すると、同じ人物が続
︵垣根涼介﹃光秀の定理﹄
︶
﹁なんじゃ﹂
顔を上げた。
束の間黙っていると、ようやく愚息が
ない気もしますし、同じ表現を何度も繰
﹁陰で操っていたのは君だったのか﹂
日本語としてはこれでいいですが、こ
魔です。なるべく削りましょう。
会話でチェックしたい二点目は、問い
いたのは誰なのか﹂だったなら、
の場面での疑問がもっぱら﹁陰で操って
必ずしも一問一答になっていなくても
﹁君か、陰で操っていたのは﹂
に対して答えがあるかどうか。
いいですが、問いだけがあって、そのリ
と言わせる手もあります。
け応えになっていないかです。
五つ目は、あまりにも当たりまえの受
アクションも何もないのは不自然です。
三点目は、長ゼリフでないか、説明ゼ
﹁今日、飲みに行こうか﹂
リフでないか。
日常会話でもどちらかが一方的に話す
という問いに対し、
﹁行こう、行こう﹂
ことはありますが、それをそのまま書い
ては読みにくいと思ったら、
これでは小学生の学芸会みたいで気が
抜けます。このようなときは、セリフを
﹁そうだったのか﹂
といった相手のあいづちを挟んだり、
少し飛躍させて、
﹁吠える﹂も﹁ささやいた﹂も﹁吐いた﹂
一言、影は爽やかな声音を吐いた。
﹁俺がおとなしく家に帰るような男に見
った﹂の代わりとする場合もあります。
ま た、 表 情 や 動 作 を 書 く こ と で、﹁ 言
も意味は﹁言った﹂ですね。
ただし、やりすぎは禁物。凝りすぎて
のように切り返してもいいです。
えるとでも?﹂
とするとか、あるいは、反語を用いて、
﹁さすが、同期は考えることが同じだ﹂
そこまで一気に言うと、目の前のコッ
プの水をあおり、再び話し始めた。
といったような説明を入れるなどする
と、読んでいるほうも一息つけます。
説明ゼリフは、
﹁これはこれは、三軒先の若い奥さん﹂
のように、本来なら地の文に書くべき
22
説明
はは過
足なな
説明
過不
不足
いい
かか
小説やエッセイは文字でできています
から、絵もなければ音もありませんし、
読者はなんの予備知識もなく読み始めま
も、必ずしも情景が浮かぶとは限りませ
その子の頭から足の先まで克明に書いて
なり、四人以上はプロでも苦労すると言
比較的容易ですが、三人になると難しく
人物が二人の場合はセリフを書くのも
三人以上の会話
まず、説明しすぎていたり、説明が重
ん。いや、浮かぶかもしれませんが、描
われます。そのつど誰が誰に言ったと書
しかし、たとえば、ある少女がいて、
複していたり、あるいは、説明が下手で
写を足し算で考えてしまうと、イメージ
ックしましょう。
だらだらしているような箇所を見つけ、
の効率は悪くなります。
説明は必要ですが、話の進行を阻む要
提とすることを説明する必要があります。
削りすぎてしまったり、説明不足で不
次に、今度はこの逆のことをします。
くのも邪魔くさく、なんの工夫もない気
すっきりさせます。
スティーヴン・キングは、描写につい
たとえば、あるセリフがあれば、それ
親切だなと思えるところを洗い出し、痒
読者に戸惑いを与える。過剰な描写は大
素はなるべく削ります。
は誰に言ったか、どんな気持ちで言った
いところに手が届くような説明を入れて
きなお世話で読者を辟易とさせる。その
た。
すので、ある程度、話の経緯や背景、前
か、どんなトーンだったか、どんなニュ
いきます。この加筆は、必要最低限の修
兼ね合いがむずかしい。話の筋を運ぶこ
悠木が押し黙ると、調停屋そのものの
い。泣かせで作れ。いいな﹂
﹁まあ、そう結論を急ぎなさんな。それ
顔で粕谷が身を乗り出してきた。
と描くのは感心できない。とりわけ、着
より、悠木、さっき言った生存者の証言
登場人物の身体特徴や服装をくどくど
である。
し、何を打ち捨てにするかの選択も重要
悠木が言い返すと、追村は目を尖らせ
よ。前代未聞でしょうが﹂
散漫な描写はピンぼけの写真と同じで、 ﹁何百もの遺体をヘリで搬出するんです
がするからです。
アンスだったか、どんなイントネーショ
正にしておきます。やりすぎると、シー
てこう書いています。
ンだったか、そのセリフを言う前段には
﹁そんなもんは写真一発押さえときゃい
さらに、説明はしているものの、説明
とが文章の役目で、そのために何を描写
するタイミングが遅いような箇所をチェ
ン全体のバランスが悪くなります。
応を示したか、どんなシチュエーション
どんなことがあったか、相手はどんな反
で言ったのか⋮⋮。さらに、時代小説や
ックし、適切な箇所に移します。
付けの詳細は邪魔臭い。
キャリー・ホワイトはクラスの除け者
描写
精度
度
描写
のの精
SF、ファンタジーでは、その世界のロ
ジックも説明しなければなりません。
しかし、一から十まで説明づくしでは
絵も音もない小説やエッセイでは、言
で、顔色が悪く、身なりもおよそぱっと
﹃クライマーズハイ﹄でも、特定の二人
だが、取れる見込みがあるのか﹂
そこで推敲です。原稿を書いていると
葉を通じて、いかにその場の雰囲気を再
しない、とだけ言えば、あとは読者が好
が話している場面では、最初に話者か聞
︵中略︶
きは近視眼的になりますので、説明の過
現するかということが肝になってきます
きに埋めるはずではないか。ニキビの具
どうにもなりませんね。
不足には気づくにくいところがあります
が、それを実現するのが描写力です。
ターンは、逐一﹁○○は言った﹂とは書
き手が示されれば、そのあとの数回のリ
か が 割 っ て 入 っ て き た と き は、﹁ 悠 木 が
合や、スカートの丈までいちいち書き込
私の見るところ、巧みな描写はいずれ
言い返すと、追村は目を尖らせた﹂とい
むことはない。
の場合も、選ばれた細部が言葉少なに多
ったように、話者が示されています。こ
かれていませんが、二人の会話に別の誰
くを語っている。
れが三人以上の会話を書くコツです。
︵中略︶
︵横山秀夫﹃クライマーズハイ﹄︶
が、それを客観的な目で読み直してチェ
﹁﹃⋮⋮と言った﹄は多すぎないか﹂
﹁長ゼリフ、説明ゼリフはないか﹂
﹁説明過多、説明不足はないか﹂
3段階のまとめ
精度を増すチェック を し て い き ま す 。
﹁描写は効率的か﹂
﹁セリフは不自然でないか﹂
﹁セリフから感動詞 を 削 る ﹂
第3段階では、以下のような、一文の
﹁セリフの受け応え は 適 切 か ﹂
︵スティーヴン・キング﹃小説作法﹄︶
23
推敲の手順STEP❹
推敲の手順の第4段階は、いわゆる推敲、総仕上げです。表記の不統一、
徹底的にチェックしていきます。
︿動詞と補助動詞﹀
ますが、名詞にはつきません。
の違いを知っていても、漢字変換の際に
学芸や職業の場合は﹁修業﹂ですが、そ
﹁修行﹂は宗教や武道を修めることで、
の で す が、﹁ か ﹂ と﹁っ﹂ が 入 れ か わ っ
本当は﹁きっかけ﹂と入力したかった
﹁それがきかっけでした﹂
﹁e ﹂を打ち損じた場合に起こります。
マ字変換で﹁desu ﹂と打つところ、
これもワープロならではの誤記。ロー
﹁そうなんdす﹂
誤って選択してしまうことも。
動詞
頂く
﹁これも文章修行のうち﹂
誤変換、体裁の不備、重複表現、不要な語句、語順、係り受け関係などを
校正者になったつもりで、
一文を練り上げる
動詞は活用しますので送りがながつき
表記
不統
統一
探探
すす
表記
のの不
一をを
合も気づきやすくなります。
命﹂を﹁絶対絶命﹂と書いてしまった場
文字を記号として見る
ワープロで原稿を書く人は、修正もも
っぱら画面上ということになりますが、
く﹂である印象が強くなるため、補助動
補助動詞
見ていただく
アマチュアの方が意外と無頓着なのが、 ﹁見て頂く﹂のように書くと﹁見て+頂
表記の不統一です。ある行では、
第一稿、第二稿、第三稿⋮⋮と、大きな
区切りではプリントアウトし、紙ベース
詞をかな書きにしたりします。
法によって漢字表記になったり、かな書
また、以下のような場合は、品詞や用
﹁彼は、昔のことだとわたしに言った﹂
﹁私は、そんな事はないと思った﹂
と書き、その次の行で、
で推敲することをお勧めします。紙に落
とし込んでみると、意外と、思わぬ粗に
気づいたりするからです。
きになったりしてもかまいません。
︿動詞と副詞﹀
と書いたりします。
﹁わたし﹂と﹁私﹂、﹁こと﹂と﹁事﹂が
さて、推敲の第4段階では、原稿の細
部を見ていきます。そのとき、意識した
てしまいました。これもよくあります。
に汽車が止まった。
あった。夜の底が白くなった。信号所
国境の長いトンネルを抜けると雪国で
一とはなりません。たとえば、以下のよ
熟語
発達
ックできます。
き出しが一字空きになっているのは正解
ですが、ワープロが一字空きを学習して
しまい、二行目以降も一字空きになって
スが、ワープロゆえに起こることがあり
手書きならまず起こりえないようなミ
ても、最終段階では漏れなくチェック!
起こります。書いているときは見過ごし
こうしたことはワープロ原稿ではまま
しまっています。
ます。たとえば、誤変換。
ワー
ロゆ
ゆえ
不不
備備
ワー
ププロ
えのの
川端康成の﹃雪国﹄の導入部です。書
うな場合は、送りがなが違いますが、問
題ありません。
︿固有名詞と普通名詞﹀
固有名詞
日清焼そば
普通名詞 カップ焼きそば
常用漢字では﹁焼き⋮⋮﹂と書きます
が、固有名詞はそのままの表記でOK。
︿名詞と動詞﹀
名詞
お話をする
動詞
お話しする
機能を使えば表記の不統一がすべてチェ
接尾辞
君たち
なお、ワープロをお使いの方は、検索
ただし、用法が違えば、必ずしも不統
記と思って修正しましょう。
混在しています。この手の不統一は、誤
たとえば、こんな原稿。
いのは、原稿を読まないことです。
動詞
商品が余っている
副詞 あまりよくない
︿熟語と接尾辞︵接頭辞︶﹀
これでニ度目だぞーー。
漢数字の﹁二﹂を書くべきところがカ
タカナの﹁ニ﹂となっていますし、ダッ
シュを二つ重ねて﹁︱︱﹂とするべきと
ころが音引き︵長音︶二つ、つまり、
﹁ー
こうした誤記を探すには、一文字一文
ー﹂となっています。
字を記号として見ていくことです。そう
すれば﹁載﹂と﹁戴﹂
、
﹁裁﹂と﹁栽﹂と
い っ た 似 た 漢 字 も 見 分 け ら れ、﹁ 絶 体 絶
24
第4
段段階
まとと
第4
階の
のま
めめ
きかえます。
﹁私は大学生です。私は二年生です﹂の
・省略できる主語
ように、同じ主語が続く場合、最初の主
・同じ接続詞、接続助詞の連続
同じ文の中に、同じ接続詞や接続助詞
誰かに読んでもらう手も
原稿が書きあがり、推敲も重ねてきた
うに修正しましょう。
ですね。
﹁襲われてしまったからだ﹂のよ
の疲れに襲われてしまった。﹀はよじれ文
︿原稿を書かなかったのは、にわかに夏
・よじれ文をチェック
が、ローンで買った。﹀
︿君には買うなと言われたが、高かった
﹁私は大学生です。弟は高校生です﹂の
・省略できない主語
す。後続の文は﹁命じられた﹂ですね。
彼はトイレ掃除を命じた﹂ですから変で
命じた﹂は、﹁彼は先生に呼び出された。
﹁彼は先生に呼び出され、トイレ掃除を
・省略した主語との係り受け
学生です。二年生です﹂とできます。
人には詳しくない人なりの意見があり、
説通であってもいいですが、詳しくない
くなくてもかまいません。もちろん、小
なるでしょう。
る人もいるでしょうから、大いに参考に
作者にない知識や見識を持っていたりす
に見てもらうのも手です。その中には、
はないか、と思ったら、家族や友人など
が、自分にはわからない欠陥があるので
・一文字一文字、記号として見る。
・係り受け関係が不明
ように、主語が変わった場合はまずそれ
それも参考になります。
は使わないようにします。以下は悪い例。 語 に 二 つ 目 の 主 語 を 兼 ね さ せ、﹁ 私 は 大
・表記の不統一をなくす。
﹁ 真 っ 赤 な 荷 台 付 き の 車 ﹂ だ と、﹁ 真 っ
を明示します。省略はできません。
きあがると家族に読んでもらうそうです
ここまでのチェック項目です。
・誤変換や体裁の不備を確認。
赤な荷台﹂なのか﹁真っ赤な車﹂なのか
﹁第一に﹂といった文全体に係る副詞は
・副詞の位置
︿その日は、僕が生まれた日だった。
﹀
は、﹁ そ の 日 は ⋮⋮ 日 だ っ た ﹂ で 言 葉 が
・重複表現を修正
主だったところを挙げてみます。
ダブっています。一文の中で、あるいは
・読みやすい語順
たとえば、作家のAさんは、原稿が書
原稿を読んでもらう人は、小説に詳し
不明です。語順を変えるなどして、係り
が、家族は家族であるがゆえに、歯に衣
以下、確認事項は無数にありますが、
受け関係をはっきりさせましょう。
文頭に置きます。一方、程度を表す副詞
近くに同じ語句、同じ表現があったら、
・意味不明な指示代名詞
描いた﹂の二つの係り受け関係がありま
な ら、﹁ 苦 労 し て ↓ 描 い た ﹂ と﹁ 絵 を ↓
・連用中止法を続けない
が﹁ごく↓最近﹂となってしまいます。
け 関 係 が 変 わ り、﹁ ご く ↓ つ ま ら な い ﹂
はつまらない﹂としてしまうと、係り受
場合、たとえば、︿苦労して絵を描いた﹀ ﹁ 最 近 は ご く つ ま ら な い ﹂ を﹁ ご く 最 近
ただし、第三者の意見をなんでも受け
いて冷静に再考するそうです。なぜなら
てしまうそうですが、しかし、時間をお
バレバレだ。これだから素人は﹂と思っ
内 心、
﹁ こ れ 以 上、 わ か り や す く し た ら
は係る語句の直前に置きます。たとえば、 着 せ ず、
﹁伏線がわかりにくい﹂と言っ
﹁あの﹂
﹁その﹂といった指示代名詞は、
すが、このような場合、長いほうを先に
︿男は立ちあがり、靴を履き⋮⋮﹀のよ
入れてしまうと、自分というものがまっ
同じ文節に係る修飾語が二つ以上ある
指すものが明確か確認しましょう。
し、︿ 苦 労 し て 絵 を 描 い た ﹀ と し た ほ う
うに、同じ用法の語尾が続いてリズムが
違う言いまわしに変えましょう。
・不要な指示代名詞
が読みやすくなります。
単調になってしまう場合は、︵一例です
を除き、動詞の近くに置きます。動詞と
を格︵○○を︶はこれを強調する場合
のようにするとリズムがよくなります。
が︶
︿男は立ちあがると、靴を履き⋮⋮﹀
ないのもいけませんが、聞きすぎもだめ。
たくない作品になってしまいます。聞か
﹁読者は素人だから﹂だそうです。
たりするそうです。プロであるAさんは、
外は必要ありません。
・を格と動詞の距離
指示代名詞は強調して指示する場合以
︿東京スカイツリーに行った。その高さ
要りません。
の親和性が高いからです。
は 六 三 四 メ ー ト ル だ。﹀ こ の﹁ そ の ﹂ は
・なくていい接続詞を削る
多くの意見を素直に受けとめ、そして、
するという姿勢が望ましいです。
それを反映させるかどうかは自分で判断
・略語、新語、流行語
使わないようにしましょう。
こうした言葉は、小説やエッセイでは
・主語の位置
なくても通じる接続詞は削ります。な
い場合は文頭に置きます。
いと通じない接続詞はそのままにするか、 ﹁○○は﹂など、主語を強調、明示した
接続の意図が残るように文そのものを書
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