第2学年 地理A 「世界の平和と子どもたちの未来のために私たちにできること」 1 ねらい(趣旨と教材化の視点) 授業内容や教材化の計画等を立案するに当たって、先生方の授業実践にわずかでもヒントやアイデアを提供できるような授業展開の工夫例 をお示しできるよう意識した。もちろん、対象生徒にとっても貴重な1単位時間の授業となることから、普段から大切であると考えながら疎 かになりがちな単元、指導時数の制約等から十分な指導時間を確保しにくい単元をあえて選択し、生徒の実態等を踏まえた特別授業として実 施することとした。 具体的には、学習指導要領に定められた教科(地理歴史)・科目(地理A)の目標等において、以下に傍線を施した目標の達成、内容の理 解等に寄与する授業の開発、 「知識・理解」の観点よりも「思考・判断」「技能・表現」の観点、さらには「関心・意欲」の観点に比重を置い た授業の創造に手探りで取り組むこととした。 ■地理歴史科 の目標 我が国及び世界の形成の歴史的過程と生活・文化の地域的特色についての理解と認識を深め、国際社会に主体的に生きる民主的、平和 的な国家・社会の一員として必要な自覚と資質を養う。 ■地理 A の目標 現代世界の地理的な諸課題を地域性を踏まえて考察し、現代世界の地理的認識を養うとともに、地理的な見方や考え方を培い、国際社 会に主体的に生きる日本人としての自覚と資質を養う。 ○「大項目(2)地域性を踏まえてとらえる現代世界の課題」の内容 現代世界が取り組む諸課題のうち、異文化の理解及び地球的課題への取組に重点を置いて、それらを地域性を踏まえて追究し、現代 世界の地理的認識を深めるとともに、地理的な見方や考え方を身に付けさせる。 ○「中項目イ 地球的課題の地理的考察」の「小項目(ア) 諸地域から見た地球的課題」の内容 環境、資源・エネルギー、人口、食料及び居住・都市問題を地球的及び地域的視野から追究し、地球的課題は地域を超えた課題であ るとともに地域によって現れ方が異なっていることを理解させ、それらの課題の解決に当たっては各国の取組とともに国際協力が必要 であることについて考察させる。 (内容の取扱い)…イの(ア)については、世界を広く大観する学習と具体例を通して追究する学習とを組み合わせて扱うこと… 授業構成としては、生徒の五感に訴えること、とりわけ視覚に加え、聴覚、味覚、嗅覚等も意識した教材化に努めるとともに、その効果に 期待し、生徒の関心・意欲の喚起に効果があると思量される音楽や映像、実物教材等の積極的な導入を企図した。具体的には、強いメッセー ジ性をもつ楽曲『ハナミズキ』を導入に用い、民族対立にともなう国際紛争や内戦に起因する貧困や飢餓の拡大の概況を理解させるとともに、 国際平和や子どもたちの生命・成長等を支援することの意義及びその具体的な方法等について考察させることを本授業の主眼とした。 2 準 備 (1) 携帯 AV プレーヤー&大型モニターテレビ (2) 資料映像 (3) 世界地図(黒板貼付) (4) 電子ピアノ(音楽科から借用/ハナミズキを演奏) (5) 経口補水液(試飲用/自作&市販) (6) 冊子「unicef news」 (7) マグネット付きピクチャーカード(『ハゲタカと尐女』) (8) マグネット付きアンサーカード&水性ペン (9) タイマー 3 学習過程 段 階 学習内容 プレテスト 導 学習活動 指導・支援の方法と留意点 ○ 次の問いに対する答えをノートに書く。 ・ 「イントロ!ドン!」などと言いな 発問 これから先生が、ピアノで或る楽曲のイントロを弾 がら演奏するなど、授業導入の雰 く。その楽曲のタイトルは何か。(答:ハナミズキ) 囲気づくりに配慮する。また、演 発問 この楽曲の歌詞は、一青窈さんが或る事件をきっか 奏時の背景映像として、本時のテ けに作詞したといわれている。その事件とは何か。 ーマの一つである「子ども」を意 ヒント:今日から9年と 11 日前に起きた事件 識させるため、対象生徒や対象学 (答:アメリカ同時多発テロ) 級の授業担当教員の御家族の写真 をスライドショーにして流す。 ○ 入 資料 一青窈さんが「ハナミズキ」の歌詞に込めた思いを推 ・恋愛をテーマとする楽曲であるが、 ワークシート1 察し、ワークシートに書く。 「夢がかないますように」となっ 【Work1】 説明 「ハナミズキ」は、2001 年 9 月 11 日にアメリカで ていない歌詞の違和感に着目させ 起きた同時多発テロ事件をきっかけに作られた歌であ て考えさせる。 る。一青窈さんは、このテロで知人を亡くしている。一 青窈さんが、この楽曲に込めた平和への願いを考えなが ら、もう一度歌詞を読み直してください。 ○ 同時多発テロ事件およびこの事件に関連する今年の ニュース映像を視聴し、事件から9年が経過しても犠牲 者の遺族の悲しみは消えないこと、一方で、反イスラム の感情(コーランを燃やす計画等)がいまだに消えてい ないことについて理解する。 ・携帯AVプレーヤーに保存した映 像を、大型モニターに接続して、 視聴させる。 世界の貧困や飢餓 ○ ワークシートの問いに答え、民族・人種対立による地 の要因 域紛争や内戦が、飢餓(食料不足)や貧困の問題をいっ そう悪化させていることを理解する。 ○ ○ ピクチャーカード(『ハゲタカと尐女』の写真/ケビ ・内戦によって生じた飢餓の問題の ン・カーター撮影/ピューリッツアー賞受賞)を見て、 この写真が示す現実の重さを感じる。 深刻さが感じられるよう配慮す る。 この写真が撮影された国(スーダン)や、この後に視 聴する映像が撮影された国(マリ、ルワンダ)の位置を ・学習の中に出てくる地名に関心を もち、その位置を確かめる習慣を 事前に地図帳で確認しておく。また、この作業を通して、 サハラ砂漠以南のアフリカが、飢餓(食料不足)の深刻 な地域の一つであることを知る。 作業 国の位置探し(スーダン・ルワンダ・マリ) ・全員起立。 ・地図帳で国の位置を探し出せたら、それぞれの国の 名前を○で囲む。 ・全ての国の位置を探すことができた者から座ってよ 展 い。 地球的課題の解決 のために活動する 国際連合 ○ これらの専門機関の中から、本時は Unicef の活動に 関連する事柄を中心に学習することを聞く。 説明 Unicef は、全ての子どもたちの権利が守られる世界 を実現するために活動している組織である。 飢餓や貧困のない 世界の実現をめざ して 開 Unicef の Web ページの中から、Unicef の親善大使で ある著名人(リオネル・メッシ)の啓発映像を視聴する。 彼が所属するチーム(バルセロナ)のユニフォームにも Unicef のマークが入っていることを確認する。 ピクチャーカー ド 身に付けさせるため、ゲーム形式 で楽しく地名探しをさせる。 ・タイマーを使って、それぞれの国 の位置を探す時間を1分間と限定 し、カウントダウンを行う。制限 時間内に探せなかった者について は「ピアサポート」 (級友同士で教 え合う)の時間を確保する。 ・指名した生徒にマグネット付きの アンサーカード カードに答えを書かせ、黒板に貼 らせて、全員に正答を確認させる。 ワークシートの問いに答え、地球的課題の解決のため に活動している国際連合の主な機関を知る。 ○ ○ ワークシート1 【Work2】 ワークシート2 【Work1】 ・発展途上国や紛争・内戦で被害を 受けている国の子どもたちの支援 を活動の中心としているが、かつ てのような物資の援助を中心とす る活動だけでなく、親に対する栄 養知識の普及、「子どもの権利条 約」の普及等の啓発活動にも力を 入れていることを説明する。 ○ 子どもたちの命を救うために、私たちにどのような支 ・例えば、3000 円で、下痢による脱 援ができるかを考える。 水症から 375 人の命を救うことが 発問 子どもたちの命を救うために、ワンコイン(100 円) できることなど、具体的でわかり でどのような支援ができるだろうか。 やすい説明を心掛ける。 ○ ワークシートの問いを考えながら、その支援の一つと ・ワンコインでできる、その他の支 して、ワンコイン(100 円)で ORS(経口補水液)の供 援の例として、肺炎にかかった子 与に貢献できることを知る。 どものための薬が 100 円で3人分 発問 これは、ORS(経口補水液)という飲み物である。 (5日間)、遠隔地に輸送しても効 先生が昨日作ってきた。湯冷ましの水1リットルに、砂 力を失わない「はしか」の予防ワ 糖大さじ4と 1/2、塩小さじ 1/2 を混ぜたものである。 クチンが 100 円で6回分、栄養不 こちらのように製薬会社が市販しているものもある。 良の子どもへの栄養バランスを考 ○ 何人かの生徒に ORS の試飲をさせ、感想を聞く。 えた粥(かゆ)の配給食が 1000 円で 発問(続) では、なぜ ORS が「魔法の水」とよばれ、 1ヶ月分購入できることなども紹 それを飲ませると、子どもたちの命を救うことができる 介する。 のだろうか。 ○ Unicef の Web ページの中から、安全な水の必要性を 訴える啓発映像を視聴し、世界には安全な飲み水のない 地域も多いことを知る。 ○ Unicef の Web ページの中から、毎日片道3時間歩い て川の水を汲みに行く、両親を亡くした貧しい兄弟の生 活の様子を撮影した映像(マリ)を視聴する。 説明 日本では、水道の蛇口をひねるときれいな水がいつ でも出てくる。豊かな国では、喉が渇いても水道水をそ のまま飲むことは尐なく、有料の飲料を購入して飲むこ とが多い。しかし、発展途上国等の、水道や井戸がない 地域では、川や池の水を利用するのが一般的である。今 見た映像にあるように、村の共同井戸の利用が有料であ る場合、貧しい者は安全な水を得られず、やむなく川な どの水を利用する。しかし、その水には、下痢を起こし やすい雑菌も多く混入している。 ワークシート2 (空欄補充) 平均すると、毎日、約 3800 人の子どもたちが下痢に よる脱水症で命を落としている。世界の子どもたち(5 歳未満児)の死亡原因の上位は、「肺炎」「下痢」「マラ リア」の3つであり、日本では当たり前に予防・治療で きることが当たり前でない世界もあるのだ。 ○ 教室を世界に置き換え、どのくらいのペースで子ども ・ 「5歳になれない子どもが、年間に たちが亡くなっているかを体感する。 810 万人。そのひとりひとりに未 発問 世界中で、子どもたち(5歳未満児)は、どのくら 来があるはずだった。 」という いのペースで亡くなっているのだろうか。次の中から、 Unicef のメッセージを紹介する。 選べ。 A 3 秒に 1 人 B 3 分に 1 人 C 30 分に 1 人 (答:A) 説明 5歳未満児の死亡率について、わかりやすい数値に 置き換えてみると、約 3.6 秒に 1 人の子どもが亡くなっ ている計算になる。この状況を実感してみよう。 (教師が、教室をゆっくりと歩きながら、 「1・2・3」 「4・5・6」「7・8・9」と秒数を数えていく。 ) 世界では今も、このくらいのペースで、未来があった はずの子どもたちの命が次々と失われているのです。 ○ ワンコイン(100 円)で、その供与に協力できる ORS が、下痢による脱水症の予防や治療に大きな効果がある こと、さらには、今、自分たちが体感したようなペース で失われている子どもたちの命を救うことにつながる ことを確認する。 ○ 一青窈さんのコンサートにおける「ハナミズキ」の歌 唱の様子を視聴する。 ○ 「ハナミズキ」を歌い終わった後の一青窈さんのコメ ントを聞き、国際社会に主体的に生きるために必要な資 質との関連性について考える。 Unicef の Web ページの中から、アリアーン(ルワン ダ)という生後 15 ヶ月の女の子が深刻な栄養不良によ り、5ヶ月の子どもと同じ体重しかない様子を示した映 像を視聴する。その後に続く「…子どもたちの笑顔のた めに支援にご協力ください…」というCMを聞く。 説明 映像の中で、<Please give me a chance>という言 葉が出てきた。私たちに支援する気持ちがあれば、子ど もたちに生きるチャンス、成長するチャンス、夢を叶え るチャンスを届けることができる。 ○ 上下(南北)を逆さまにして黒板に貼られた世界地図 を見て、貧困や飢餓に苦しむ地域が南半球に多いことを 確認する。 説明(続) しかし、現実には、このようなチャンスに恵 まれず、今この瞬間にも命を落としている子どもたちが いる。こうした子どもたちは、南半球の発展途上国に多 い。私たちは、先進国の多い北半球が上方に位置する世 界地図に慣れてしまっているが、時々、地図の上下を逆 にし、南北問題について考えてみる、世界の子どもたち ○ ま と め ○ ・黒板にマグネットで貼り付けた数 冊の冊子「unicef news」 (表紙に 発展途上国の子どもたちの顔写真 が大きく掲載)についても、 「表紙 に写っている子どもたちと同じく らいの幼い子どもたちの命が、今 も、1・2・3・一人、4・5・ 6・二人…というペースで失われ ている」と説明しながら、子ども の顔の写った冊子を1冊ずつ黒板 から外していく。 ・一青窈さんが、なぜ手話を交えて 歌っているのかを考えさせる。 「ハナミズキ」の歌詞に込めた思 いを伝えるため、適切な手話を選 び、ジェスチャーで歌に添えるこ とで、聴覚障害者の方に対しても 自分のメッセージを伝えようと努 めている一青窈さんの歌手として の在り方生き方について考えさせ る。 一青窈さんのコメント 人には、そ れぞれの考え方や感じ方があり、 それぞれの世界がある。人はそれ を「個性」というが、たまにボタ ンの掛け違えがあると、それが「偏 見」とか「差別」になってしまう。 私はできるだけそうした「先入観」 にとらわれず、人と向き合ってい きたい。それぞれの世界を受け入 れ、自分の世界も誰かに受け入れ てもらって、それぞれがつながっ ていく。そんなつながりで、地球 は成り立っているんだと気付い た。閉ざすのではなくて、Unite の未来について考えてみる。こうした地理的な視点か ら、地球的課題の解決を考えられる人になってほしい。 していく、つながっていくことが すごく大切だと思う。 今日の授業で分かったこと、思ったこと、感じたこと などをもとにして、ワークシートの最後の問い(あなた は、どんなことを我慢したり、どんなことを分かち合っ たりして、世界の飢餓や貧困の解決のために協力してい きたいと思いますか?)に答える。 ・地理歴史科の「国際社会に主体的 に生きる民主的,平和的な国家・社 会の一員として必要な自覚と資質 を養う」という目標の達成に資する ため、「食料問題やそれに起因する 様々な地球的課題の解決に向けて、 自分には何ができるのか」という問 いに対し、真摯に考察できるよう配 慮する。
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