「NPOと学校との連携による環境学習の推進に関する研究」 友田弘美

NPO と学校との連携による環境学習の推進に関する研究
熊本大学大学院
教科教育専攻
友田
1.研究の目的
教育学研究科
家政教育専修
弘美
づくりとする団体が多かった。団体の活動目的や
近年、環境問題への関心が高まり、持続可能な
ビジョンは多岐にわたっていた。団体の属性は任
社会の構築が目指される中で、平成 15 年に「環
意団体が最も多く、特定非営利活動法人(NPO
境保全のための意欲の増進及び環境教育の推進
法人)は少ない結果であった。個人会員数では
に関する法律」が制定された。同法においては、
60 人以下と回答した団体が半数を占めており、
国民、民間団体、事業者等との連携による環境教
また団体会員数においても 1~7 団体と回答した
育の推進が重要視されている。学校においても、
団体が多いことから、熊本県では、比較的少人数
各主体が連携し、地域に根ざした環境学習を推進
で団体会員数の少ない団体が多いことが分かっ
しており、特に、NPO と連携した環境学習に期
た。会員数の増減についての自由記述では、会員
待が高まっている。しかし、NPO と連携した実
が減少している団体では「高齢化」や「活動のP
践事例は多くみられるが、NPO と学校との連携
R不足」が原因とする記述が多くなっていた。ま
に関する課題については明らかにされていない。
た、増加している団体では、「活動が認知されて
そこで本研究では、NPO と学校との連携によ
いる」「輪が広がっている」という記述が多かっ
る環境学習を推進していくために、パートナーシ
たが、「若者の参加が難しい」との回答も複数あ
ップにおける課題を明らかにすることを目的と
った。会費については、年会費を徴収している団
し、熊本における実践事例を基に調査を行った。
体が最も多く、年間の予算規模は、約半数の団体
が 50 万円未満という結果となっていた。団体の
2.研究の方法
主な財源としては、会費への依存度が高く、経済
2006 年 6 月から 7 月にかけて、熊本県を主な活
的な基盤が弱いことが分かった。事務局スタッフ
動の場所として環境保全活動に取り組む NPO 及
については、常勤・非常勤に関わらず、1 人もい
び市民活動グループ 496 団体に、郵送法による
ない団体が多いことが分かった。事務局スタッフ
質問紙調査を実施した。回収率は 18%(91 団体)
がいないことは、円滑に活動を行う上での課題の
である。次に 2006 年 12 月上旬から 12 月中旬に
一つであると考えられる。事務所(連絡先)の設
かけて、質問紙調査の中から環境学習を活動の対
置状況については、メンバーや会員の個人宅や勤
象としている NPO8 団体を抽出し、
それぞれに 1
務先が最も多かった。団体専用の事務所を所有、
時間~2 時間程度のヒアリング調査を行った。
あるいは借りている団体が少ないことから、団体
さらに、2007 年 12 月中旬に、複数の小学校と
の活動を十分に行えるための拠点が確保できて
連携して環境学習を実施している NPO に対し、
いない状況が推察される。団体が必要としている
学校との連携の内容や課題について 2 時間程度
サポートについては、活動資金と活動スタッフと
のヒアリング調査を行った。また、2007 年 10
する団体が多かった。団体の活動に関する課題に
月中旬から 12 月上旬に、NPO と連携して環境
ついての自由記述では、主な内容として、活動資
学習を実施した八代市の小学校教員 5 名に対し、
金の確保に関する記述、会員の高齢化と後継者育
連携の内容や課題について、それぞれ 1 時間程度
成、人手不足と過重負担、活動を広げる手立て、
のヒアリング調査を行った。
他団体とのネットワークづくり等に関する記述
が複数団体から挙げられていた。今後力を入れた
3.結果および考察
い活動や抱負では、取り組みの質的向上や、ネッ
3-1
トワーク形成等、多岐にわたっていた。
環境 NPO・市民活動グループに対する質問
紙調査
主な活動分野としては、水環境保全や地域環境
熊本県内においても、各分野において環境保全
活動をしている団体が多数存在しており、その中
には、学校と連携して環境教育を行っている団体
との連携を主になって行っていた教員が転勤し
もみられた。しかし、活動基盤が脆弱な団体も多
ても、他の教員が連携に対して意識が高ければ継
く、活動の継続については課題が多いことが分か
続した環境学習が行えるが、意識が低い場合には
った。
途切れてしまう。自然体験型学習においては、教
3-2
員自身の自然体験の不足も課題となっている。
環境学習を活動の対象としている NPO に
対するヒアリング調査
質問紙調査において環境学習を活動の対象と
3-3
複数の小学校と連携して環境学習を実施し
ている NPO に対するヒアリング調査
していると回答した NPO8 団体に対するヒアリ
八代市の複数の小学校と連携して環境学習を
ング調査の結果について、
「現在抱えている NPO
実施している NPO に対するヒアリング調査の結
の課題」と「学校との連携における課題」の 2
果について、
「NPO の活動の特徴と課題」
、
「学校
つの側面から報告する。
と連携した環境学習の実態」、
「学校との連携にお
①各 NPO が現在抱えている課題については、
聞き取り対象者の発言を基に「環境学習を行う上
ける課題」の 3 つの側面から報告する。
①NPO の活動の特徴と課題について、代表者
での人的な課題」
、
「経済的な課題」、
「時間的制約」
、
の発言を基に「代表者のコーディネート力」
、
「ネ
「会全体の質の向上」、「団体間の連携と情報交
ットワークの重要性」、「団体に対する信頼性」、
換」の 5 つのキーワードにまとめた。
「情報発信」
、
「仕事との兼ね合い」の 5 つのキー
小規模の NPO では、活動費やスタッフ不足が
ワードにまとめた。
大きな課題として挙げられている。助成金を得て
NPO の活動を活発化させるには、会員一人一
いる団体でも、申請が認められたときのみ活動が
人の個性を生かすことが大切である。チームワー
行える状況であることや、会のその他の活動費は
クを引き出すためには、代表者がその人の個性を
別の費用から捻出しなければならず、活動を行う
見つけ出し、適した仕事を与えるようなコーディ
際の課題となっている。会費や寄付によって成り
ネート力が必要であることが推察される。また、
立っている NPO は経済的基盤が弱いため、会が
活動を活発化させるには、ネットワークも重要で
行う活動に制限がかかると同時に、継続性が困難
ある。他団体と連携した活動を行うためには、団
になると考えられる。NPO で活動する会員の多
体同士の助け合いが必要であり、それがネットワ
くは、仕事をしていたり、自治会等の役員になっ
ークを広げていくことに繋がっている。この
ていたりする人が多いため、時間的に余裕が無く、
NPO は大学や高専に勤務する教員が顧問であり、
活動に専念できないことがある。また、学校を対
また、県や市と共催で様々な活動を行っているこ
象とした環境学習の質を向上するために、会員は
とから、学校側はこれらを NPO の信頼性の指標
講習会に参加するなど、自ら質的向上を目指して
としていることが考えられる。NPO の活動を広
いた。NPO の活動が活性化するためには、他団
げるためには、さまざまな方法による情報発信が
体と連携した活動や、情報交換が必要となってく
重要である。そのため、会ではさまざまな活動後、
るが、NPO の集まりに継続して参加する団体は
すぐに Web ページでその報告している。また、
次第に固定化してくる傾向にあり、活動の情報を
会の取り組みが新聞やテレビで報道される機会
共有する場が少ないことが分かった。
も多い。このように、自分達の活動を発信するこ
②学校との連携における課題については、「学
とで、地域での認知がなされており、連携へと繋
校の閉塞性」、「教員の環境問題に対する意識」、
がっていると推察される。多くの会員は、仕事と
「教員の連携に対する意識」、
「教員の経験」の 4
の両立を図りながら会の活動を行っている。そし
つのキーワードにまとめた。
て、時には活動が仕事を圧迫していることもある。
ヒアリング調査を行った NPO のうち 5 団体が
学校と連携した環境学習を行っている。学校と連
携が取れていない団体では、団体の方から積極的
このように、活動スタッフが仕事を持っている場
合は、平日の活動が難しい状況も存在している。
②学校と連携した環境学習の実態については、
に学校に依頼することは難しいと感じている。ま
「学校と連携したきっかけ」、
「授業内容」、
「授業
た、連携を行った学校においても、教員の意識の
後の振り返り」の 3 つのキーワードにまとめた。
違いにより連携が継続することもあれば、逆に単
NPO は、多くの学校と連携した環境学習を行
年度で終わってしまうこともある。さらに、NPO
っているが、その連携は、教員との個人的のつな
がりを契機として始まっている。しかし、この関
みでは難しい体験型学習を実施することができ
係がそれ以外の教員へ広がっていないことが多
たことを高く評価している。また、授業が該当学
く、転勤や担当学年の変更によって連携の継続が
年の発達段階に沿った内容であったことから、
難しくなる可能性が高いことが分かった。授業内
NPO の教育力に対して信頼感を持ったことが分
容について、代表者は子ども達に「楽しく体験さ
かった。NPO と体験型学習を行った児童たちは、
せる」ことを大切に考えており、
「身体で覚える」
環境保全に対する意識が高くなり、環境へ配慮し
ことを重視している。また、授業の内容は会員が
た行動を起こすようになったと教員は感じてい
意見を出し合い、調整しながら考えている。NPO
る。しかし、環境に関する関心は高まったが、行
は、作成した授業計画を、事前に担任に伝え、担
動まで至っていない児童もいることから、今後も
任から寄せられた意見を元に練り直し、授業に活
継続した環境学習の必要性を感じていた。教員ら
かしている。NPO では、毎回授業後にアンケー
は、連携した授業を行うことにより、学校では使
トを取り、よりよい環境学習のプログラムにする
用できない実験道具などの提供を受けたり、体験
ための改善を行っている。
型学習を行ったりすることができるため、NPO
③学校との連携における課題について、「校長
との連携をして良かったと感じている。しかし、
の理解」、
「教員の意識」
、
「情報の提供」の 3 つの
授業内容に関しては NPO に一任していたため、
キーワードにまとめた。
今後の連携の方向性や発展性について検討が必
代表者は、学校との連携を行う上で重要なのは、
要だと考えている教員もいる。
校長の理解が得られるかどうかであると述べて
②教員の課題については「教員の意識」
、
「コー
いる。校長は、校務を司る役目であり、校長の意
ディネート力」、
「他の教員との情報交換」、
「教員
向がその学校の教育に大きく反映される。そのた
の多忙と手間」の 4 つのキーワードにまとめた。
め、NPO との連携が取れていた学校でも、校長
環境問題に意識の高い教員が存在しなければ、
が変わる度に、活動の実績を再度伝えることが必
NPO との連携が実施されない可能性が高いこと
要になる。また、教員の環境学習に対する意識の
が分かった。また、連携が継続して行われている
違いによって、連携の状況が異なってくる。環境
と、授業計画が立てやすい一方、NPO に依存す
学習に対する教員の熱意が強ければ、別の学校に
る考えを持つ教員が出てくる可能性があるため、
転勤した後も連携が継続するが、そうでなければ
連携のあり方を考える必要性があることが推察
連携が途絶えてしまうこともある。学校と連携し
された。教員には、NPO と児童とをつなぐコー
て環境学習を行うことのできる団体の情報が、全
ディネート力が必要である。NPO と連携を行っ
ての教員には伝わっていないことから、学校内で
た教員が、次年度に環境学習を実施する教員にも
の情報提供が円滑に行われていないことが考え
状況を伝えていくことにより、関係が継続するこ
られる。また、代表者は、教育委員会が学校との
とが分かった。授業以外のその他の業務の増加な
連携における中間支援組織として機能すること
どにより、教員は年々忙しくなっている。このよ
を期待している。
うな状況でも連携は可能だが、密に連携しようす
3-4
ると負担も増える。特に、打ち合わせや準備、予
教員に対するヒアリング調査
NPO と連携した環境学習を実施した八代市の
算や安全面などで手間がかかると感じることが
小学校教員に対するヒアリング調査の結果につ
多いと、億劫になりやすく、連携が途絶えてしま
いて、「環境学習の効果と連携の評価」、
「教員の
う恐れもある。
課題」
、
「複数教員との連携における課題」、
「学校
③複数教員との連携における課題については
全体の課題」
、
「コーディネーターの必要性」
、
「連
「学校の規模」、
「学習進度の違い」、
「教員同士の
携の内容に関する課題」
、
「情報提供の課題」の 7
情報交換」の 3 つのキーワードにまとめた。
つの側面から報告する。
①環境学習の効果と連携の評価について、教員
大規模の学校では、学年全体で活動することが
難しく、小規模の学校の方が活動しやすい。だが、
の発言を基に「学習内容について」、
「児童の意識
活動までの段取りをきちんとしておくと、大規模
の変化について」
、
「連携の感想」の 3 つのキーワ
校でも実施が可能になりやすい。複数の学級との
ードにまとめた。
合同授業では、各クラスによって学習進度が違う
教員らは NPO と連携したことにより、教員の
ため、連携が困難になる場合もある。したがって、
教員同士が可能な限り相互の情報を密に交換し
ていく必要があると考えられる。
文書での情報提供では、NPO の詳細な情報が
得られないため、連携まで至らない可能性が高い。
④学校全体の課題については、「安全面・費用
行政からの情報提供は、文書や市の Web ページ
面」
、
「カリキュラム面」の 2 つのキーワードにま
によるものが多いため、教員側が注意して確認し
とめた。
ないと見落とす場合が多いこと、また文書が全体
NPO と連携する際に、学習にかかる費用につ
には届かないことがある。八代市では、人材バン
いて懸念する教員が多く見られた。特に、学校側
クの冊子を作成し、市内の小中学校と特別支援学
から依頼した団体との連携において、それを強く
校に配布しているが、冊子の存在を知らない教員
感じることが多い。また、学外での学習では費用
や、知っていても、概要のみでは誰に頼んで良い
のほかに、安全面も考慮することがネックとなっ
か分からないという教員も存在した。団体の情報
ている。学校では、年間指導計画が決まっており、
を知るために、インターネットを積極的に利用し
それに沿って授業が展開される。年度途中で
ている教員もいる。インターネットは、手軽に情
NPO との連携を計画する場合には、時間調整が
報を得ることができるため、今後ますます利用が
困難となり実施できない場合も生じる。そのため、
増えると考えられる。また、さまざまな団体と連
連携を継続するためには、年間指導計画の中に年
携した学習を行うために、教員同士が相互に情報
度当初から組み込まれていることが重要である
交換を行っていることが分かった。このような教
と推察される。
員間での口コミは、連携を広める上で有力な情報
⑤コーディネーターの必要性については、「学
源であることが推察された。また、連携が実施で
外のコーディネーター」
、
「学内のコーディネータ
きていない教員には、新たな情報提供の場が必要
ー」の 2 つの側面から報告する。
ではないだろうか。
連携を実施した教員らは、学外に、ゲストティ
チャー派遣の依頼や、日程や内容の調整を行って
4.まとめ
くれるコーディネーターの存在が必要だと考え
これらの調査によって得られた結果を基に、今
ている。また、学内にも、連携の窓口となるコー
後 NPO と学校が連携した環境学習を推進するた
ディネーターの役割を担う教員が必要であると
めに、以下の 3 項目について課題が見られた。
している。このような窓口となる教員がいること
(1) 教育委員会が中間支援組織としての役割を
で、NPO 側も連携の依頼を申し込みやすくなる
と考えられる。
担うこと。
教育委員会は中間支援組織となり、学校と連携
⑥連携の内容に関する課題については、「授業
のとれる NPO の斡旋を積極的に行う必要性があ
の実施時期や内容について」、
「団体との意思の疎
る。また、NPO との連携のための研修や、授業
通」
、
「カリキュラムの作成」の 3 つのキーワード
研究の場も必要である。
にまとめた。
(2) 授業計画の作成を連携して行うこと。
授業の実施時期が、あらかじめ年間指導計画に
学習内容や授業計画を作成する際には、教員と
位置づけられていない場合が多く、企画書をもと
NPO 団体が充分に協議して、内容構成を共に考
に数回打ち合わせただけで実施されるため、教員
えていくことが重要である。
側にも苦慮する部分があることが分かった。団体
(3) 年間指導計画の中に明確に位置付けを行う
と情報を共有し合っていると思っていても、実際
こと。
の授業では、教員の考えている内容とは異なる場
年間指導計画を作成する段階に NPO も参加す
合があることも分かった。学校側の意向も踏まえ
ることや、教員と NPO が年間を通して連絡を取
た授業計画を作成することが必要と考えられる
り合い、児童の実態に即した環境学習を作り上げ
が、そのためには多くの時間を費やすため、現実
ていく必要がある。
には困難である場合も多い。
⑦情報提供の課題については、「団体からの情
報提供」、
「行政からの情報提供」
、
「人材バンク」、
「インターネット」
、「教員間の情報交換」の 5 つ
のキーワードにまとめた。