C A S E S T U D Y 住友金属工業株式会社 鉄道車両の「台車」設計の完全3次元化を目指す 設計プロセス革新による、世界市場での競争力強化が大目標 2010年、住友金属工業株式会社(以降、住友金属)の交通産機品カンパニーは、鉄道の車両と車輪 の中間に位置する「台車」の設計について、完全3次元化を中核に、設計効率向上を目指すプロジェ クトをスタートさせた。現在、鉄道は、地球環境にやさしい輸送手段として再評価され、旅客用高速鉄 道を中心に、欧州・アジアなどの世界市場が急速に拡大しつつある。住友金属は、3次元一貫設計を ベースにした設計プロセス革新によって、 リードタイム短縮、設計品質向上に裏打ちされた他社差別 化や、手戻り激減によるコストダウンを実現して、世界市場での競争力を一段と強化しようとしている。 鉄道用車輪・車軸は国内最大のシェア、台車のものづくりプロセスに強み 国内屈指の鉄鋼メーカーである住友金属において、主に鉄道・自動車向け製品を製造しているのが、 交通産機品カンパニーである。 地下鉄の台車。車両と数百人の乗客の重量、合計20∼30 トンの重量を支えて、最大時速120∼130kmの車輪・車軸 の動きを維持する。従来と構造を変えた「ボルスタレス台車」 で、大幅な軽量化・省エネを実現した。 自動車用品では、世界最大級の鍛造ラインで生産される鍛鋼クランクシャフトが、世界シェア約8% を獲得。鉄道車両品としては、車輪・車軸、台車、連結器、ブレーキディスクなどを製造している。 「車輪・車軸は、大規模かつ高精度な鍛造技術が要求されるため、住友金属が国内唯一のメーカーと なっています」と交通産機品カンパニー 製鋼所 鉄道台車製造部 台車技術管理室長の田口均氏は 紹介する。 住友金属工業株式会社(大阪本社:大阪市中央 日本中を走っているJR・私鉄・地下鉄の車輪・車軸の多くが、大阪市此花区の同社・製鋼所で製造し 区 北 浜 )は、国 内 屈 指 の 大 手 鉄 鋼メーカー 。 たものだ。とりわけ、新幹線のように時速200km以上で走る高速鉄道の車輪を作れるメーカーは、 1897年創業(鋳鋼業開始)、1949年設立。 住友金属を含めて世界で数社しかないという。 資本金2,620億円。売上高1兆2,858億円 車輪・車軸と、人が乗る車両との間を支える「台車」も、住友金属が1924年(大正13年)に国産品 (連結、2010年3月期)。交通産機品カンパ を製造した。住友金属では当時海外からの輸入が主流であった1924年(大正13年)には製造を開 ニーでは、鉄道用の車輪・車軸、台車、連結器、 ブレーキディスク、自動車用の鍛造クランクシャ フトのほか、金型素材、鉄塔フランジ、 トラック バス用リターダなどを製造。国内シェア最大の 鉄道用車輪・車軸は、欧州、米国、カナダなど 海外シェアも拡大中。 始している. 「今日では、台車製造では国内外に多数の競合会社がありますが、当社の強みは、 『設計−製造−使用 −評価改善』というものづくりプロセスを自前で回せること。使用状況をモニタリング・評価する設備 やしくみも充実しており、自社製造の車輪・車軸を組み込んだ台車の全体を、より良く高めていくこと ができるのです」と田口氏は語る。 解析用モデリングから「解析一貫処理ツール」へと適用領域が拡大 2002年ごろから、 「台車」の設計者がSolidWorksを用いるようになったきっかけは、解析用モデ ルの生成作業であった。 台車は、車両とそこに乗り込んだ数百人の乗客の重量を合計した20トン前後の荷重を支えながら、 時速100km、200km、300kmなどの車輪・車軸の動きを維持するものだ。人命を守るため、信頼 性・安全性を高めるために、強度解析がきわめて重要である。 「従来は、解析専任部署がFEM(有限要素法解析)を極め、さらには、さまざまな外力を複合的な荷 重として掌握して安全率を総合評価するFEM強度解析ツールも自社開発し、特許を取得してきまし た」と、鉄道台車製造部 第一台車設計室 参事 佐藤與志氏は説明する。 しかし、解析は設計途中で設計者が行ったほうが効率的だ。1996年ごろ、設計者用の構造解析ソフ トを導入。さらに、設計で作成した2次元データから、構造解析ソフトで用いる3次元モデルを作成す るために導入したのが、SolidWorksである。 SolidWorksの魅力は、初心者にもわかりやすく親しみやすいことだ。設計者は、当初は2次元CAD の延長線にあるツールを使ってモデリングしていたが、試しにSolidWorksを数ライセンス導入した ところ、利用はごく自然にSolidWorksへ移行してしまった。 設計者自身による解析が定着してくると、今度は、モデリングから設計検証までを同一ツール上で一 気に行いたいというニーズが高まってきた。そこで2009年から2010年にかけて、SolidWorks Premiumを追加。それまでに導入していたSolidWorksと合わせて、設計者自身による強度解析 を効率よく行う体制が整った。 「台車フレームの強度シミュレーションは線形解析が中心であり、SolidWorks Premiumの機能で 十分足ります。それ以上に、モデリングから解析までを同一ツールで一本化するメリットは大きい」と 佐藤氏は語る。 特にうれしいのは、複数ツール間で、バージョンアップの同期をとるのに苦労をしなくて済むことだ。 「SolidWorksは使いやすさがどんどん進化するCADであるだけに、これからは最新バージョンを 積極的に使って、作業効率を高めたい」と佐藤氏。 「設計者自身による解析」で強度解析と設計を密につなぎ、台車の信頼性・安全性を一段と強化 モデリングから解析まで ワンツールで一貫して、解析作業の効率アップ 設計3次元化で、車両メーカー等との協調設計をよりスムーズに 設計リードタイム短縮、コスト削減で、世界市場での競争力をさらにアップ 2011年5月作成 W W W . S O L I D W O R K S . C O . J P チャレンジ:設計者自身による解析を行うため、 SolidWorks Premiumを利用しての解析が定着したら、次には、解析専任部署が自社開発のFEM 構造解析ソフトを導入したのは1996年ごろだ。 強度解析ツールで担当している複合的な安全評価にも、SolidWorksを用いていきたいと考えて 設計には2次元CADを用いていたため、その いる。 操作を継承する3次元ツールを使って解析用 3次元モデルを作成したが、使い勝手が悪い。 完全3次元化を目指す「設計プロセス革新」プロジェクトがスタート 「設計者自身による解析」に行き着く前に、モ 2010年、今度は、台車の設計プロセス全体で、完全3次元化を目指す新たなチャレンジが始まった。 デリング作業が設計者の大きな負担になってし 「鉄道会社などのお客様は、車両、モーターなどをいろいろなメーカー品を比較して、個別に購入し ます。台車は、 こうした多様な要素を搭載し、つなぎ、まとめ上げる存在。選定された複数メーカー間 まった。 ソリューション:良いモデリングツールはない かと探したところ、使いやすいと評判が良いの がSolidWorksだった。試しに取り寄せて評価 で何度もレビューして調整しますが、アセンブリすると干渉を起こすこともあります。車両や駆動装 置のメーカーの多くが設計を3次元化している今日、台車設計も3次元化して、スムーズな協調設計 を実現したい」と佐藤氏は語る。 革新の目標は2本柱だ。まず、設計フローを一貫して3次元で動かす形に変える。もうひとつ、CAD してみると、確かに3次元モデルが扱いやすい。 の視点にとどまることなく、設計プロセス全体を総合的に見直す。この目標に向けて、設計者が集結 2002年から、数ライセンス導入しては設計者 し、 「設計プロセス革新ワーキンググループ」を立ち上げた。 が使うのでまた追加するという繰り返しで、モ 「今は、2次元で設計した後、3次元化して解析を行い、設計修正では2次元に戻り、またそれを3次 デリングは自然にSolidWorksへと移行した。 元化して解析をやり直し、いよいよ設計が固まったら2次元で紙図面を出図しています。2次元から SolidWorksは、3次元が初めての設計者でも、 3次元への変換作業を何度も行っているので、効率が悪いし、ミスも発生しやすい。構想設計から、 2∼3日講習すれば実務に使えるようになる。 詳細設計、解析、修正、出図までSolidWorksで一貫させることが、当面の課題です」と、鉄道台車製 学習時間は、他のツールの半分以下だ。 造部 台車技術管理室 水杉美彦氏は語る。 「しかも奥が深くて、 『3次元のプロ』をどんど 現在は、台車設計にかかわる設計者・技術者の全員が、SolidWorksの初級・中級講習を受講中だ。 ん輩出しました。3次元モデルを扱いにくいツー 並行して、承認プロセスまで含めた3次元設計のフローを動かせる体制を、ワーキンググループが整 ルでは、操作に習熟しても、 『3次元のプロ』を 育てるのに苦労した」と佐藤氏。 SolidWorksは、設計者の負荷を増大させるこ となく、 「設計者自身による解析」を定着させ るのに貢献したのである。 備している。 「何十年間も2次元CADだけを使ってきたベテラン設計者にとっては、特に3次元CADを使っての 出図作業が、ハードルが高いようです。この1∼2年が大事な勝負どころでしょう」と水杉氏。 「けれども、使いやすく柔軟性の高いSolidWorksの特長を活かして、 この過渡期をできるだけ短期 間で乗り越えたい」と佐藤氏は力を込める。 設計プロセス革新が成功すれば、設計のリードタイム短縮、設計品質向上、新人設計者を含めた全体 のレベルアップ、後工程での手直し作業の激減など、他社差別化につながる大きな効果が期待できる。 部品点数が多い高速車両用の台車も、干渉チェックを徹底できるようになる。車両などのメーカーと の協調設計も大きく前進するはずだ。 「さらにその次は、製造部門へ3次元ビューワを使って設計情報をわかりやすく提供するなど、もの づくり革新の輪を設計部門の外へも広げていきたい」と田口氏は意欲的に語る。 鉄道車両品は、公共性が高いだけに、安全性第一である。同時に、供給責任は重く、納期や数量を厳 守することがきわめて大切だ。また、需要が拡大する欧州、アジアでの競争に打ち勝つために、 コスト 交通産機品カンパニー 製鋼所 鉄道台車製造部 台車技術管理室長 田口 均氏 交通産機品カンパニー 製鋼所 鉄道台車製造部 第一台車設計室 参事 佐藤 與志氏 削減にも一段と力を入れる必要がある。 台車設計のプロセス革新は、交通産機品カンパニーがこうしたさまざまな課題を乗り越えて、世界市 場でさらに大きく飛躍するためのスプリングボードの役目を果たすに違いない。 新幹線などの高速鉄道は台車の部品点数が多く、これらの すべてを3次元化し、アセンブリして干渉チェックするのが、 目標だ。 住友金属工業株式会社 大阪本社:大阪市中央区北浜 設立:1949年(創業:1897年 鋳鋼業開始) 資本金:2,620億円 売上高:1兆2,858億円(連結、2010年3月期) 3次元モデリングから解析までをSolidWorks Premiumで一本化。 積極的なバージョンアップをして、最新機能を活用した作業効率アップ ができる体制が整った。 http://www.sumitomometals.co.jp/ ソリッドワークス・ジャパン株式会社 〒108-0022 東京都港区海岸 3-18-1 ピアシティ芝浦ビル TEL.03-5442-4001(代表) FAX.03-5442-6256(代表) E-mail:[email protected] URL:http://www.solidworks.co.jp SolidWorksは米国ソリッドワークス社の登録商標です。 また、 それ以外に記載されている会社名及び商品名も各社の商標又は登録商標です。 SWJ-CSD-141-0511
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