海 外 情 報 (2013年4月分) 香港経済交流事務所 所 長 新 井 達 廣 Ⅰ トピックス 1 マカオ経済とカジノ産業 先月末、自由民主党兵庫県議会議員阪神会の随行でマカオを訪問し、ホテル・オー クラ・マカオにてカジノビジネスの説明を受けた。今月に入り、在香港日本国総領事 館など関係機関を通じてマカオ経済とカジノ産業にかかるデータ等を入手した。今回 これらを纏めたものをトピックスとして報告する。 (1) マカオの経済成長と主力産業であるカジノ 1999 年にポルトガルから 中国に返還されたマカオは (基礎情報:表 1 参照)、2003 年以降、年平均 14%の高成長 を遂げてきた(図 1 参照)。こ 【表1:マカオ基礎情報】 地理:中国広東省南部、珠江河口の西南岸に位置し、マカオ半島、 タイパ島、コロネア島より構成 面積:29.2㎢(世田谷区の約半分、香港の約 50 分の 1) 人口:582,000人(2012 年) 出所:在香港日本国総領事館 マカオ基礎情報 等 の高成長を支えてきたのが、 カジノ産業である (図 1 参照)。 世界最大規模であるマカオ のカジノ収入は、2012 年、 3,000 億パタカ (約 3 兆 2,700 億円)を突破し、域内総生産 (GDP)の約 45%占めるとと もに、域内税収の 7 割以上は カジノの売上からとなって いる。 出所:在香港日本国総領事館 香港・マカオ経済概観及び JIJI News(1/14) (2) カジノ産業発展の要因 ①外資開放 中国に返還されるまでの約 40 年間、マカオのカジノは スタンレー・ホー一族が独占してきた。2002 年、マカオ 政府はカジノの外資開放措置として 3 つのライセンスを 発行し、そのうち1つはマカオの SJM グループがホー一 族から買収する形で獲得した。残る 2 つのライスンスは、 ギャラクシー・グループ(香港系)とウィン・リゾーツ・ グループ(米国系)が国際入札により取得した。2005 年 以降、マカオ政府はさらにサブライセンスを発行し、 【SJM グループが運営する リスボアホテル(マカオのランドマーク) 】 MGM グループ(米国系) 、ベネチアン・グループ(米国系) 、メルコ・クラウン・ グループ(マカオ・オーストラリア系)がマカオ進出を果たした。現在、この 6 つのグループが、44 ヶ所のカジノを運営している。米国資本を中心とする外資の 進出は、マカオのカジノ産業を洗 練・発展させる要因となった。 ②中国人訪問客 マカオ政府によるカジノ産業の外 資開放に併せて、中国政府はマカオ を訪問する中国人(本土)のビザ発 給要件を緩和した結果、経済発展で 潤った沿岸部の富裕層を中心にマカ オを訪問する中国人が増加した。 2012 年の中国人訪問客数は約 1,690 万人で全体の約 6 割を占めている(図 2 出所:在香港日本国総領事館 香港・マカオ経済概観 及び JIJI News(1/23) 参照) 。アジアの中心に位置することから、中国本土をはじめとするアジアからの 訪問客は全体の約 97%を占めており、これら訪問客がマカオのカジノ産業発展の 要因となっている。 マカオへの訪問客について短期滞在が特徴の 1 つである。2012 年、約 2,800 万 人の訪問客のうち半数以上は日帰り客であり、平均宿泊日数は 1.0 日であった。 訪問客の典型は、カジノ目的でマカオを訪れた中国人が、短期集中してカジノに 興じた後すぐに中国に戻るというものである。このことから、マカオでは、ラス ベガスなどに比して、カジノ以外のエンターテイメントが充実していないとも言 われている。 (3) その他聴取等内容 カジノ産業のさらなる発展を阻害する要因として、深刻な労働力不足が言及され ている。2012 年の失業率は 2.1%と完全雇用に近い状態にあると同時に、マカオ居 住者雇用を企業に義務づける規定が賃金を押し上げており、カジノ運営各社はカー ドディーラーや建設労働者、企業幹部の確保に躍起とのことである。 カジノ産業発展の影の側面である犯罪等の問題について、カジノ関係者から具 体的な言及は得られなかったものの、大型カジノリゾートの開業ラッシュととも に、マカオの犯罪件数も増加し、警察官を大量動員して 24 時間監視に当たってい るという報道は目にする。また、治安の手間と費用がマカオ政府に重くのしかか っている旨も報道されている。 また、日本のカジノ解禁によるビジネス成功の可能性について、ホテル・オー クラ・マカオの関係者に伺ったところ、非常に厳しいのではとの見解であった。 カジノ運営会社にとって、ノウハウの中核は各種ギャンブルの技術的側面ではな く、顧客である。顧客は、 「一般顧客」 、 「VIP 顧客」 、 「VIP 顧客を斡旋する仲介業 者」 (ジャンケット)に大別され、VIP 顧客と有力ジャンケットの囲い込みがビジ ネス成功の鍵とのことである。現在、マカオでは世界 6 つのグループがカジノを 運営しているが、最大のシェアを占めるのは、中国返還前からのカジノ営業を引 き継いだ地元資本の SJM グループであり、それを支えているのが長年蓄積してき た中華系 VIP 顧客リストと有力ジャンケットとのことである。日本がカジノを解 禁した場合、そのシステムに通じていない日本企業の単独での運営は考えにくく、 欧米を中心とする外資との合弁や提携の形態が中心になると想定されるが、日本 におけるノウハウの未成熟、日本の地理的条件による商圏の狭さや言語的な課題 などから、上記合弁や提携によっても VIP 顧客を短期間に十分確保するのは容易 ではないとの見方が示された。 2 事務所の新体制 今月、潘子瑩 所長補佐が退職したことに伴い、李聖美(Yvonne Li Sing Mei)氏を 所長補佐として新たに採用し、4 月 22 日より勤務開始した。李所長補佐は、在香港日 本総領事館広報文化部に 8 年間勤務した経験を有するベテラン人材であり、日本の政 府系機関の事情に明るいほか、広東語、日本語、北京語、英語に通じている。活動を 軌道に乗せて実績を安定させる事務所の基盤強化に貢献したいという意気込みも強い。 事務所は、今後、王顧問を含めた新たな 3 名体制 で、県内企業の海外事業展開への支援、観光誘客の 促進、物産・農林産品・食品等の販路拡大支援、広 東省・海南省との交流促進に取り組んでいく。 Ⅱ 活動状況 1 学生交流ツアー誘致の取組み 当事務所は、訪日観光客誘致の取組みとして、香 【左から:王顧問、新井、李所長補佐】 港・広東省の旅行エージェントへの訪問営業によるネットワーク構築にも努めている。 その1社である EGL ツアーズ社(香港の訪日旅行取扱最大手)より、関西行の学生交 流ツアーを催行している旨の連絡があるとともに、香港の中学生と神戸の中学生の交流 について打診があった。7 月初旬における、香港側学生・先生 約 40 名の神戸の中学校 への訪問にかかる打診であり、香港側学校から訪問地の指定はないが、同社が本県との 関係も考慮し神戸での学校訪問を提案している旨であった。 上記に対し、当事務所は、県側窓口である観光交流課と国際交流協会へ取次ぎ、学生 交流ツアー誘致を進めた。 2 在香港日本関係機関連絡会への出席(野田総領事 着任挨拶)(4/22 於:香港総領事館) 4 月 22 日、在香港日本国総領事館にて総領事館、JETRO 香港、JNTO 香港、在香 港自治体事務所の連絡会が開催され、当事務所も出席した。 野田仁 総領事(前在英国日本国大使館公使)の 4 月着任後初めての連絡会であり、 冒頭、野田総領事より着任の挨拶があった。同挨拶の中で、総領事は、自治体事務所が これほど集まる国・地域への赴任は今回初めてであり、自治体との連携を強く意識しな がら食品・観光分野を中心とする経済交流促進にも積極的に取り組みたい旨の意欲を示 した。 また、参加機関は今年度事業にかかる情報・意見交換を行い、JETRO 香港からは自 治体等との連携により実施する主な事業の説明があった。なお、JETRO 香港がブース 設営を行い、本県及び県内企業・団体が出展予定の海外展示会は現状以下のとおり。 ・5/7~10 HOFEX 2013(香港国際総合食品見本市) ・6/26~29 FOOD TAIPEI ・8/15~19 FOOD EXPO 2013(香港) ・3/5~9 香港国際ジュエリーショー 3 アジア主要地域とのネットワーク形成 当事務所は、ひょうご国際ビジネスサポートデスク設置地域などアジア主要地域との 関係構築を順次進めており、2 月にはインド(デリー、チェンナイ)を訪問し、県人会、 本県関連現地企業、現地日本関係団体とのネットワークを形成した。現在、インドネシ ア訪問を検討しており、現地関連企業・団体とも連絡を行う中、在インドネシア日本国 大使館より現在改装中である館内観光 PR スペースにおける本県 PR について打診があ った。この打診に対し、当事務所は観光ポスターとパンフレットを送付し、大使館内で の展示を依頼した。 Ⅲ 主な出来事・面談 等(香港経済交流事務所の主な動き) 日(曜日) 2 日(火) 内 容 ○ファクトリー・ネットワーク・チャイナ社(製造系ビジネスマッチング専門会社)董事長等来所 (連携方策等にかかる意見交換) 4 日(木) ○昭和精機㈱ 代表取締役 来所 5 日(金) ○JETRO 香港事務所、鹿児島県香港事務所 訪問 (香港向け農林水産物輸出プロモーション事業にかかる意見交換) 10 日(水) ○京都銀行香港駐在員事務所長 来所 12 日(金) ○栃木県香港事務所長 来所 ○工業用ネジ商社関係者 来所 ○インターコンチネンタル香港内「NOBU」(日本料理店)訪問 (香港向け農林水産物輸出プロモーション事業にかかる視察・協議) 15 日(月) ○香港所長会(JETRO 香港、JNTO 香港、在香港自治体事務所 意見 交換会)出席(香港島コーズウェイベイ) 17 日(水) ○健康茶生産グループ・畜産加工食品会社と香港プライベートキッチ ン料理長との商談にかかる通訳派遣(香港島ワンチャイ) 22 日(月) ○在香港日本関係機関(在香港日本国総領事館、JETRO 香港、JNTO 香港、在香港自治体事務所)連絡会議 出席(総領事館) 24 日(水) ○ JETRO 香港事務所 訪問 (香港向け農林水産物輸出プロモーション事業にかかる意見交換) 25 日(木)~ ○広東省広州・深圳出張 26 日(金) ・在広州日本国総領事館訪問 ・JETRO 広州事務所訪問 ・深圳中国国際旅行社有限公司訪問 29 日(月) ○在香港日本国総領事館訪問 (県内企業からの文化交流案件にかかる意見交換) ○香港日本人商工会議所事務局長 来所 30 日(火) ○住友商事香港有限公司董事 来所(社員旅行にかかる相談対応) Ⅳ その他(県内企業・他の自治体の動き) 1 県内企業の進出動向(4 月確認分) 国/ 地域 タイ サムットサコーン マレーシア スランゴール 州 県内 出資会社 バンドー化 学(神戸) 極東開発 工業 (西宮) 現地法人名・ 事務所名 Asia Technical Center TRANSCENDENT HEAVY MACHINERY SDN BHD 主要業務 研究開発に向 けた基礎調査 特装車の販 売・サービス代理 業 設 立 2013 年 3 月 (業務開始) 2013 年 2 月 (株式取得) 進出形態 子会社内に 開設 販売代理店 に出資 (15%) (アジア経済・産業日本語版電子新聞(4 月)の報道等を集約) 2 他の自治体の経済プロモーション活動(4 月確認分) 静岡県 (台湾) 高知県 (シンガポール) 横浜市 (ベトナム) 台北に開設した「ふじのくに静岡県台湾事務所」の開所式を行い、正式運用を開 始(4/22)。日本の都道府県が台湾に拠点を置くのは沖縄県に次いで 2 例目。 高知県産のユズを使ったケーキが、米コーヒーチェーン大手スターバックスの国内全 87 店舗で販売 開始。 副市長がダナン市を訪問し、環境インフラ整備に向けた技術支援に関する覚書を締結 (4/9)。併せて、インフラ関連企業など 22 社・団体と合同で現地調査を実施。 (アジア経済・産業日本語版電子新聞(4 月)の報道等を集約)
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