血管性ED

EDの
検査・診断・治療
血管性ED
―血管性EDの診断と評価方法―
岡山大学大学院医歯学総合研究科泌尿器病態学講師
永井 敦
Atsushi Nagai
はじめに
EDの主な原因の一つに血管性EDがある。文字通り
血管系の異常により正常な勃起が得られないものであ
る。血管性EDは古典的には動脈性EDと静脈性EDに分
類されているが、陰茎動静脈系と陰茎海綿体平滑筋機
能を個別に診断することは困難である。特に静脈性ED
最適注射部位
とは陰茎海綿体-静脈閉鎖機能の異常によるものであ
り、そのメカニズムはいまだ完全に解明されておらず、
診断に難渋する場合も多い。ここでは、現在一般的に
知られている血管性EDの診断法ならびに、最近開発さ
血管・神経
れ、今後有用となるであろう非侵襲的検査法につき紹
陰茎海綿体
介する。
血管性EDの診断と評価
1)血管作動薬陰茎海綿体内注入テスト
現在広く用いられている診断方法である。血管性ED
のスクリーニングとして重要な検査法である。使用す
尿道
図1 血管作動薬陰茎海綿体内注入テスト
注射部位は陰茎根部に近いところで、神経血管束を避け、
陰茎長軸に約45度の角度で刺入する。
る薬剤は塩酸パパベリンあるいはプロスタグランディ
ンE1(PGE1)などを使用する。最近では、副作用の少
が得られれば血管性EDは否定される。反応や持続が不
ないPGE1が主として用いられる。PGE1を10〜20μg/
十分な場合は陰茎動静脈の異常か海綿体機能不全を考
生食1〜2mlを27G以上の針を用いて左右いずれかの陰
える。レスポンススコアが指標に用いられる(表1)。
茎海綿体内に注入するものである。注射部位は陰茎根
部に近いところで陰茎長軸に約45度の角度で刺入する
2)超音波カラードプラ検査
(図1)。これは、陰茎背側にある動静脈や勃起神経の
PGE1陰茎海綿体注射後に超音波カラードプラ検査を
損傷を避けるためである。10〜20分後に正常な勃起
行うことにより、さらに詳しい評価が可能である。
12 ED Practice 2003/Vol.1/No.3
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表1 血管作動薬陰茎海綿体内注入テストに
おけるレスポンススコア
Response 0: 反応なし
Response 1: 満足な性交には不十分な硬度
Response 2: 満足な性交に十分な硬度、
しかし、不十分な持続
Response 3: 満足な性交に十分な硬度と持続
図2 超音波カラードプラ所見
陰茎海綿体動脈における収縮期最大血流速度および拡張期
Response 4: 十分な硬度、しかし、勃起が過度に持続
血流速度を測定する。
生食
造影剤
圧記録装置
ポンプ
20〜21G針
図3
A:陰茎海綿体内圧測定:左右の陰茎海綿体に針を穿刺し、生理食塩水を注入し、圧
記録装置により海綿体圧を測定する。
B:陰茎海綿体造影:造影剤を勃起維持流量で注入。内腸骨静脈系への造影剤の顕著
な流出が認められ、静脈閉鎖機能の異常が証明される。
PGE1を注射後、カラードプラ装置を用いて陰茎海綿体
に異常があることが考えられる。RIが0.90以上であれ
動脈血流速度を測定する。陰茎背部にプローブをあて
ば静脈性EDは否定的である2)。現時点で最も簡便で低
ることにより血流は比較的容易に測定可能である。一
侵襲な検査である。
般的な評価方法として、収縮期最大血流速度(peak
systolic velocity;PSV)および拡張期血流速度
(end-diastolic velocity;EDV)を測定する(図2)。
3)陰茎海綿体内圧測定・海綿体造影検査
陰茎海綿体の静脈閉鎖機能異常の詳細な検査として、
PSVが30cm/sec以下の場合は動脈性EDを考える 。
海綿体内圧測定・海綿体造影検査(dynamic infusion
PSV値とEDV値から求めるResistance Index;RI=
cavernosometry and cavernosography;DICC)が施
(PSV-EDV)/PSVが0.75以下の場合は静脈閉鎖機能
行される。左右の陰茎海綿体にそれぞれ20〜21Gの針
1)
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ED Practice 13
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A
B
図4 内陰部動脈造影所見
(昭和大学横浜市北部病院泌尿器科 佐々木春明博士ご提供)
A:正常所見:陰茎背動脈、海綿体動脈が末梢まで描出されている。
B:骨盤骨折によるED症例:海綿体動脈が起始部で途絶している。
図5 CT所見
A:CT所見:海綿体動脈が描出されている(矢印黒)
。
B、C:3D-CT像:内陰部動脈(矢印白)および海綿体動脈(矢印黒)が描出されており、動脈系の
狭窄等異常は認められない。
を穿刺し、一方よりポンプを用いて(ヘパリン加)生
減衰度を測定する方法では、30秒で40〜45mmHg以
理食塩水を注入し、もう一方で海綿体圧を測定し種々
上の海綿体圧の低下を認めたものが静脈閉鎖機能異常
のパラメーターを測定するものである(図3A)。諸家
ありと推測される。
により若干の数値の差異はあるが、生理的勃起に必要
海綿体造影検査は海綿体圧測定に引き続いて施行す
な海綿体圧である90mmHgを維持するのに必要な流量
る。造影剤を90mmHg圧に設定した速度で流入させ、
が3〜5ml/min以上であれば静脈閉鎖機能の異常を考え
静脈閉鎖異常の部位診断をするものである(図3B)。
る。また、注入ポンプにより海綿体圧を150mmHgま
内陰部静脈系などへの造影剤の流出状態を観察する。
で上昇させた後に灌流を停止し、その後の海綿体圧の
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図6 MR angiographyと海綿体造影所見
A:海綿体造影にて内陰部静脈への流出像が認められる(
B:同一患者のMRA像:内陰部静脈が描出されている(
)
。
)
。
C:同一患者の内陰部静脈塞栓術後のMRA:内陰部静脈への流出像を認めない(
)
。
phy(MRA)を施行しその有用性を検討した4)。PGE1
4)動脈造影
動脈性EDの診断法の一つに内陰部動脈造影がある。
陰茎海綿体注射後にMRAにて静脈系の検討を行ったも
これにより勃起に関する動脈の狭窄や閉塞など詳細な
ので、DICCと比較検討した。また、内陰部静脈塞栓術
情報を得ることができる。勃起に関与する動脈は内腸
後のMRAでは術前と比べて内陰部静脈への流出像は認
骨動脈→内陰部動脈→総陰茎動脈→陰茎背動脈・深陰
められず、塞栓術の効果が確認された(図6)。将来的
茎動脈(海綿体動脈)である(図4)。Interventional
にDICCに代わる非侵襲的検査として確立される可能性
Radiologyの発達により、最近では超選択的な動脈の
がある。また今後、動脈性EDに関する内陰部動脈系の
造影が可能であり、詳細な狭窄部位の同定も容易にな
評価についても応用できるものと考える。
っている。侵襲度が高いため、より低侵襲な動脈系の
評価方法が開発されつつある。
まとめ
血管性EDに対する診断ならびに評価について述べ
た。診断技術の向上により血管性EDに対する低侵襲で
5)CT angiography
動脈性EDの低侵襲の診断方法としてCT angiographyの有用性が報告されている 。Kawanishiらによる
3)
詳細な評価が可能になり、EDの治療法の向上に寄与す
るものと思われる。
検討では、CT angiographyと従来の動脈造影法を比較
した結果、陰茎動脈病変の診断に有用で、動脈性ED術
後の患者の経過観察にも有用であると述べている。筆
者らの検討でも、
内陰部動脈から海綿体動脈の3Dイメー
ジの描出が可能であり(図5)、今後機器の進歩や撮影
条件の改良に伴い、動脈性EDの評価として第一選択と
なりうる可能性を持つ検査法であると思われる。
6)MR angiography
文 献
1) 佐々木春明,後藤隆太,佐藤雅道ほか:男性性機能不全 勃起障害
の診断:超音波カラードプラ法.日本臨牀 60(suppl 6):178-182,
2002
2) 奈路田拓史,山中正人,松下和弘ほか:カラードプラ超音波検査に
よる静脈性インポテンスの検討―陰茎海綿体動脈Resistance Index
の評価―.日泌尿会誌 87:1231-1235,1996
3) Kawanishi Y, Lee KS, Kimura K et al:Feasibility of multi-slice
computed tomography in the diagnosis of arteriogenic erectile
dysfunction. BJU Int 88:390-395, 2001
4) 真鍋和史,永井 敦,岡部浩典ほか:静脈性インポテンスの診断に
おけるmagnetic resonance angiography(MRA)の有用性. Impotence 13:144, 1998
われわれは静脈性ED患者に対して、MR angiogra-
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ED Practice 15