男女の美容と 性への意識 - EDネットクリニック.com

Editorial Interview
男女の美容と
性への意識
形成外科医・タレント
西川史子
Ayako Nishikawa
東京歯科大学市川総合病院泌尿器科教授
●
丸茂
聞き手
健
Ken Marumo
●西川―そのときは24歳で、大学6年生でしたが、勉
ミス日本を受賞して
強ばかりしている毎日だったのです。ずっと机に向かっ
ていたので、何か気分転換が欲しい。コンテストになる
●丸茂(聞き手)―西川先生は形成外科のご専門でい
と目標がありますよね。「学生のうちでないとできない
らっしゃって、しかもお忙しい臨床をなさりながらメ
ので最後の思い出に」という感じで、本当に軽い気持ち
ディアで大活躍をされていらっしゃいます。私も日頃よ
でした。
り拝見しておりますが、テレビにご出演されたり、主に
●丸茂―ミス日本に選ばれたというのは、もちろん先
健康の全般的なコメンテーターをなさっていたり、健康
生のおきれいなこともあるかもしれませんが、内面の人
全般からセックスの問題まで幅広くカバーされているこ
柄が表面に出て、それで魅力になって…。
とを存じ上げています。私が特に感激しましたのは、聖
●西川―いやあ、その時はたぶん医学部という珍しさ
マリアンナ医科大学在学中にミス日本を受賞なさってい
もあったと思います。その時、内面はあまりよくなかっ
る。これは大変輝かしいキャリアだと思いますが、応募
たですね…(笑)。本当に普通の学生でした。ミス日本
された動機などありましたら、教えていただきたいと思
では医学部という珍しさに助けてもらったかなと思って
います。
います。
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●丸茂―選ばれて、それまでと生活が変わったという
膚科」のような、アンチエイジングのようなことが広
ことはありますか。たとえばいろいろなインタビューが
まってきています。
増えたり、また人から見られることで、ますます自分を
私は北里大学にいらした松倉知之先生をとても尊敬し
磨いていかなければいけないというようなこともありま
ていて、先生のクリニックでアンチエイジングを学びた
したか。
いなと思って行きました。整形外科もそうですし、内科
●西川―直接何かが変わったということはなかったで
でも泌尿器科でも、全部そうだと思いますけれど、アン
すね。ただ、自分に自信が出たというのはありました。
チエイジングの分野は全部に広がっていると思うので
ミス日本というのは、「芸能活動をしろ」とか、斡旋す
す。しわをとったり、しみをとったりというところから
るというようなこともないですし、受賞したら終わりな
始まって、いまクリニックでもホルモン治療をやってい
のです。ただ、私たちの世代が偏差値教育だったためだ
ますが、そのような全般的なものをやりたいなというの
と思いますが、自分の中では「テストで何点」のように
が夢でした。ただ、私が大学を卒業して、勤務する科を
はっきり目に見えるものが好きなのです。きれいといっ
決める時にはなかったのです。いま、そのようなことを
ても、だれかが順番をつけてくれないとわからないです
されている先生がいらっしゃって、そこに入れてもらえ
し。自信をもたせてくれる一つのきっかけにはなったと
たというのがすごくよかったと思っています。
思います。ほかのミス日本の方でもきっと、そういう自
整形外科にいたときは、私が患者さんの足を持とうと
信をつけて何か別のことに向かう、ということはあった
すると、患者さんが遠慮して全体重をかけないでくだ
と思います。
さったりするのです。たぶん、「かわいそうだな」と思
われていると思うのです。「これって医者としてどうか
整形外科から形成外科に
な」という迷いがずっとありました。父も整形外科医で
すが、手術ができるのもある程度の年齢までですし、あ
●丸茂―いまメディアのお仕事もなさって大変なエネ
と、「女の人はかわいそう」ということをよく言ってい
ルギーがいると思います。臨床ではどのようなことを心
ました。だから、女である、女医であることが何かプラ
がけていらっしゃいますか。
スに働くようなものはないかなとずっと思っていまし
●西川―私はずっと整形外科にいたのです。
た。今は好きなことを─「人をきれいにするにはどうし
●丸茂―今は形成外科とお聞きしました。
たらいいか」とか、
「若返るためにはどうしたらいいか」
●西川―はい、今は形成外科です。私が大学を卒業し
とか─1日中考えていられるというのは、仕事でありな
た当時は形成外科というと、口唇裂とか乳房形成術など
がらすごく楽しいですね。
をしていたのですが、ここ何年かでようやく、「美容皮
世代による性の意識の違い
Ayako Nishikawa
●丸茂―この「ED Practice」という雑誌では題名の
とおり性生活の勃起不全を一つのテーマにしています
が、アンチエイジングの中の一つの分野にまさにEDが
西川史子
1971年、神奈川県出身。
聖マリアンナ医科大在学中に平成8年「ミス
日本」を受賞。現在、勤務医として働きなが
ら各メディアで活躍中。
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入っています。西川先生のなさっていることを拝見しま
すと、若い方から年配の方まで幅広くケアされています。
私たち泌尿器科は、どちらかというと勃起障害の場合は
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40代以上の方をお世話することが多いので
す。いままでの疫学的な調査で、日本人と欧
米の紳士を比べると、たしかに日本の男性は
性的にアクティビティが低いと言われていま
すが、どうもそれは本当のようです。西川先
生は若い方から年配の方までたくさんの方に
お会いになっていると思いますが、日本人で
は「ここは弱いぞ」みたいなことを感じられ
たことはありますか。
●西川― それは個人差もあると思います
が、まず相談に行けない人がたくさんいると
いうことをすごく感じます。たとえば、最初
は肌のカウンセリングでいらっしゃった女性
の患者さんが、仲良くなってきてから「腟が
女である、女医であることが
何かプラスに働くようなものはないかなと
ずっと思っていました。
乾く」といった話をされたりします。男性の
方でも「ホルモン治療を受けてみようかな」というとこ
いかない女性がどう」のようなことがいっぱい載ってい
ろに行き着くまですごく時間がかかるので、性の話は…。
るのです。そうすると、「そうでない女性はいけないの
●丸茂―やはり、この問題は後まわしになってしまい
ではないか」と思うから、「体験人数が何人」と書いて
ますか。
あったら、そうでないとおかしいのではないか、処女で
●西川―ええ。欧米人と比べてどうなのかはわからな
あることは悪なのではないかみたいにとらえる子がいる
いですけれど、タブーみたいに考えているところがある
のだろうなと思います。
ようです。
ただ、若い世代へいくともっと逆に性のことをあまり
ED治療薬と、それを取り巻く状況
にも軽く考えている。宗教がないせいなのか、性教育の
部分がすごく遅れていると思います。いま初体験が小学
●丸茂― 私たち泌尿器科でEDの患者さんをお世話す
生同士だったりとか、そういう話が珍しくない。これだ
る時は40代、50代の方が多いのです。先生もご存じの
け性に関する情報が氾濫していると、興味をもってしま
ようにPDE5阻害薬という大変いいED治療薬が出て、
うのはしょうがないと思うのです。そういうものを教育
10人の患者さんがみえたら、そのうちの8人はお薬で治
する部分が遅れているなと思います。
●丸茂― いま私も感じるのですが、小学生、中学生、
高校生の性の現象などを見聞きしますと、決して愛情と
いうものが伴っていないのではないかという気もしま
す。もちろん全部ではないでしょうけれど。
●西川― 愛情という以前に一種の好奇心からだった
り、女性誌でも「こういうテクニックがある」とか、
「満足している女性は何パーセント」とか、
「いった女性、
Ken Marumo
丸茂
健
1976年3月、慶應義塾大学医学部卒業。同年
4月、慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室入
局。1982年9月、ドイツ・ビュルツブルグ大
学研究員。1984年2月より、東京電力病院泌
尿器科科長。1998年9月、慶應義塾大学医学
部泌尿器科助教授。2005年4月、東京歯科大
学市川総合病院泌尿器科教授として現在に至
る。専門は一般泌尿器科、泌尿器腫瘍学、男
性学。趣味はドイツワインの利き酒とドイツ
リートの鑑賞。
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せるということもできる時代になりました。ところが、
ないガールフレンドとなさった場合では心臓の負担が全
また問題がありまして。50代、60代の患者さんを治療
然違うということを循環器の先生からお聞きしたことが
すると逆に奥様におしかりを受けることがあるのです。
あるのです。奥様とのセックスでは、階段を1階から2階
「いままでさんざん放っておかれてこんな性生活はない
に上がる程度のエネルギーしか使わない。心臓発作で亡
でしょう」って。ことによると40代、50代、60代のご
くなるのは、ガールフレンドと家の外でされているとき
夫婦にも性の不毛地帯が多いのではないかと想像しま
だということを論文で知りました。
す。そういった中高年の方たちのお話は耳にされること
●西川―それは、違う興奮もあるということなのです
が多いと思いますが、印象はいかがですか。
ね。
●西川―そのために求められて困っているという奥様
●丸茂―ええ。緊張と興奮と罪悪感。ですから、私た
が…。
ちはED治療薬を出すときは、
「どうぞできるだけ奥様と
●丸茂―いらっしゃいますか。
使ってください。奥様には必ず自分が飲んでいることを
●西川―ええ。その方は女性ホルモンのほか、男性ホ
伝えてください」とお願いしています。
ルモンなども全部、足りない分を補充したので、そうし
外でガールフレンドとセックスをして、そのようなス
たら「やっとやる気になってきた」とおっしゃっていま
トレスの多い状況で心臓発作が起きた時に、救急車で救
した。補充しないかぎりは、夫のやる気についていけな
命センターにかつぎ込まれたとします。奥様だったら、
いと。多すぎて困るという方もいれば、一方ではまった
「うちのだんなはED治療薬を飲んでいるんですよ」と言
くセックスがない方もいらっしゃったり。ただ、それを
えば、併用すれば危険を伴う硝酸薬を使わないで済む。
語るところ、相談するところがないから、一方だけを治
だけど、知らない人だったら…。
療するというのも…。
●西川―使ってしまいますね。
●丸茂―片手落ちになってしまいますよね。
●丸茂―それに相手の方が、怖くなって救命センター
●西川―ええ。
に付いていかないかもしれないですよね。
●丸茂―ですから、私たちのように男性だけを治療す
●西川―知らんぷりをされてしまうかもしれないです
るのではなくて、やはり先生のようにアンチエイジング
ものね。それは、私もこれから言うようにします。
の立場から女性もケアするというのが大事ですね。
●西川―私のところでは、成長ホルモン、女性ホルモ
射精障害
ン、甲状腺ホルモン、メラトニン、DHEA(副腎皮質ホ
ルモン)、男性ホルモンを補充しますが、そうすると本
●西川―中高年でもありますが、射精困難症の若い男
当に元気になって、車椅子だったおばあさんが何カ月目
性のことをよく聞きます。私の友人の彼もそうだったの
かには歩いて来るようになったのです。よくしゃべるよ
ですけれど、自分では射精できない。婚約したのですが、
うになったり。筋肉量が増えることでこれだけ変わって
本当に1回もできなかったということで、子供が欲し
くるのだなと私自身も驚きました。
かったから婚約破棄になってしまったのです。
あと、ED治療薬についても、中高年のわりと元気のあ
●丸茂―たしかに、私たちの性機能の外来に来られる
る男性はだいたい持っています。ただ、それで興味が、
方では、勃起障害が9割ですが、射精の問題が1割ぐらい
奥さんではなくて若い女性のほうに向かっていますね。
です。その1割をさらに二つに分けると、半分はいわゆ
●丸茂― 実は私たちも、特に60代ぐらいのED患者さ
る早漏で、残りの半分は射精ができない。まさに先生が
んを拝見していますと、奥様となさった場合と、そうで
おっしゃっているとおりです。自分でマスターベーショ
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中での摩擦とはまったく違いますから。
●西川―それは青少年のときに、変な癖
をつけないようにと、誰かが教えないとい
けないのですか。
●丸茂―そうですね。私たちの世代は奥
手ですが、中学生のころから、「おい、こ
んなことやっちゃったよ」と友達に話した
り、修学旅行などでもマスターベーション
の仕方などを教え合ったりしました。そう
私たちはED治療薬を出すときは、
「どうぞできるだけ奥様と使ってください。奥様には必ず
自分が飲んでいることを伝えてください」
とお願いしています。
いう小中学生、高校生同士のコミュニケー
ションはどうなのでしょうか。現在では、
友達同士でうまくいっていると思われます
か。
ンだったらできるけれど、実際に奥様とのセックスでは
●西川― たぶん、口で言うとかではなく、ネットで
射精に至らないことが深刻な問題で、それこそ離婚につ
「マスターベーションの方法」で検索して、その結果を
ながりますよね。
見て「こんな人もいるんだ」と安心してしまうと思うん
●西川―私の友達の場合は、本当に治してあげようと
です。子供同士で「どうだろう」という会話自体は、昔
思って「病院に行こうよ」と言ったけれど、やはり行か
ほどしなくなっているでしょうね。
ない。まだEDのほうが病院に行きやすいんじゃないか、
●丸茂―それは不幸ですね。
と言っていたのですけれど。EDでは、メディアの宣伝効
●西川―習うものがない、友達から「おまえ、変だよ」
果もあって「結構同じ症状の人もいるんだな」と思える
と言われて「あっ、変なんだ」とわかることがないわけ
のですが、射精困難症となると「自分だけではないか」
ですから。
と。
●丸茂―そういう人をどう治療しようかということに
●丸茂― 夫婦の間でも悲劇だし、5年たったのにまだ
なると、「正常なマスターベーションを練習してくださ
子供ができないとなると、今度はご両親が介入してくる
い」と言うのですが、それではなかなか治らない状態ま
こともあります。
で来てしまっているのではないか。そういう方をお世話
●西川―それがまたプレッシャーになってということ
していても、残念ながら途中で脱落していきます。最後
ですものね。そういう方の治療はどうですか。
に今のご夫婦では─これもまたあまり自然でないように
●丸茂―これは大変難しいんです。おっしゃるように
思いますが─「せめて結婚したので、夫婦生活はいいか
勃起障害よりも射精障害は大変です。発端を追っていき
ら、子供だけできればもうあきらめます」という奥様も
ますと、射精がうまくいかない患者さんでは、たいてい
中にはいらっしゃいます。そういう時には人工受精に頼
射精の機能は正常なのですが、結婚するまでにしていた
らざるをえないのですが、それで満足していただくとい
マスターベーションの方法が、まず7割、8割の方は過激
うのが私はどうも悲しい気がします。
です。たとえばベッドの柵にこすりつけなければ射精し
ないとか、畳にこすりつけなければ射精しないとか。こ
れでは、普通のご夫婦の間でのセックスのような、腟の
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日本でレディファーストを
どう考えるか
という気持ちがないと。「相手は自分を写す鏡」の話で
はないですが、自分がやらないと相手もそうしてくれな
い。性生活もそうだと思います。「自分だけが」みたい
●丸茂―たとえば外国へ行きますと、エスカレーター
な気持ち、そういう人がすごく増えてしまって、相手に
とかエレベーターとか電車に乗る時に、男性と女性が並
何かをしてあげようという気持ちが根本的にすごく欠け
んでいると必ず、「どうぞ」とレディファーストになり
てきてしまっているのかな。だから、私もそこは絶対に
ますよね。だけど、日本ですと、そういうことをする方
忘れてはいけないなと思っています。
はエレベーターの時もいません。女性を大事にするとい
●丸茂―先生が書かれていた記事で、うつ病の患者さ
う皆さんの気持ちがもう少し広がると、それが夫婦間に
んのカウンセリングをされていて、頑張れと言ったら、
も役に立ってくるようなことがあるかもしれません。そ
それは逆効果になると。それと同じようなところが、ED
のあたりの、先生でなければできない啓蒙を、これから
のご主人に対して奥様がいかに接するかというところも
なさっていくというのは─今もなさっていると思います
いろいろ共通しているのですね。
が─いかがですか。
●西川―男性の雌化、女性の雄化などと言われていま
男性にも美容を
すよね。社会に進出していくことによって女性はどんど
ん強くなっていきますし、対等の関係や「男性の後ろに
●丸茂― 日本の40代、50代の男性は、最近少しお
3歩下がって」みたいな考えが女性自体にもなくなって
しゃれになったような気がしますが、みんな地味なスー
いるのですよね。私自身もそうですけれど。でも、女性
ツを着て、電車に乗って通勤されている。もう少しお
自体が強くなってしまったことで、それに対して男性が
しゃれになれば、もっと女性を省みて、家庭も大事にす
引き気味になっているというのも結構強いかなと。男性
るということもあるのではないか。孔雀などを見ても雄
だけがやさしさが足りないとかではなくて、やさしい気
のほうがきれいですし、ライオンなどを見ても雄のほう
持ちになれるような女性も減っているのかなと。
がたてがみがあって格好いい。人間は、昔からそうだっ
●丸茂―そうですか。
たのかなと思うと、『源氏物語』の絵巻を見たら男がき
●西川― 自分が強くなってから「もっと強い男性を」
れいですよね。そういうのを見ますと、今の日本人の男
というと男性も及び腰になりますよね。私も思うのです
性ももう少し頑張って孔雀になったり、ライオンになっ
が、女性のいいところである、やさしさだったり、やわ
たりというところがあったら、家庭の幸せが向上するの
らかさみたいなものが年々減っているのではないか。た
ではないかという気もします。最近はやっている「ちょ
とえば、レディファーストの話以前に、電車に突っ走っ
い悪親父」みたいなものも、ちょっといいのではないか
て入っていくおばさんがいますよね。お尻で席をとって、
という気がしますが、女性のドクターの立場からいろい
仲間に「席をとったわよ」みたいな。ああいう人をレ
ろな方をご覧になっていて、いかがですか。
ディファーストするかというと、やはり違うと思うので
●西川―実際にクリニックの患者さんで、どんどん格
す。
好よくなっていかれる方が多いのです。そういう方だか
EDにもつながると思いますが、私も気をつけなければ
ら、美容皮膚科、形成外科の門をたたくんだと思うので
いけないなと思うのは、だめな男性を叱るだけではなく
すが。会社が上場する前に、「ここのしわを取って少し
て、だれでも弱い時があったり崩れる時があったりする
若々しく見せて、うまく上場して軌道に乗せたい」とい
わけですから、それを認めてお互いにやさしさをもって
う経営者の方とか、営業職で、「顔をパッと明るくした
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のが、美容皮膚科だったり、プチ整形とい
う部分です。メスを使わない。生まれ持っ
た顔でなく、シリコンを入れて鼻を高くし
たり、目を二重にしたりする美容整形は、
それをやって喜ぶ方がいるなら、もちろん
いいのですけど。たとえば、今ではボトッ
クス(ボツリヌス毒素)だけでしわがとれ
て、そのまま6カ月ぐらい持続したりと、
きれいになる手段がメスを使わなくても簡
単に手に入るようになっています。
●丸茂― すばらしい時代になりました
だめな男性を叱るだけではなくて、
だれでも弱い時があったり崩れる時があったりするわけですから、
それを認めてお互いにやさしさをもってという気持ちがないと。
ね。
●西川― そこはすごく大きいと思いま
す。ただ、全部の男性や女性にクリニック
で言うことはなかなか難しいと思います。
い」とか「肌をきれいにしたい」という方とか。ここ数
クリニックに来ている患者さんに伝えることはできて
年でわりと変わってきているなと思います。
も、たくさんの方に伝えるのはなかなか難しい。
●丸茂―それは明るいきざしですね。
美容の難しいところは、口コミではなかなか広がらな
●西川―今は美容皮膚科に対する垣根がどんどん低く
い世界だということです。きれいになった秘密って女性
なっているんですね。そこは皆さんに広めていきたい。
は言わないのです。「何もやってないわ」というのが女
特に男性は肌にあまり気をつかっていないので、ちょっ
性ですから、私はそのあたりを埋める役割ができたらい
と手入れをするとすごくきれいになるのです。化粧水を
いな、と思っています。美容だけではなくて病気の場合
1本持つだけで肌質が変わったり、にきびができなく
も─「頭が痛い、どうしようか」というときとか、病院
なったりと、全く変わってくる。そこが変わると今度は
と皆さんの間を同じ目線でお話ができるようになった
「ちょっとおしゃれをしよう」となっていきます。まず
ら、私がやっている意味が出てくるかなといつも思って
清潔にして清潔感のある格好。
よく言うのは、女性は「自分のためにきれいになりた
います。
●丸茂―それが、先生がメディアの中でお仕事をされ
い」と言うけれど、男性は最終的には女性にもてたいか
ている理由ですね。
ら格好よくなりたい。「女性がいないのだったら、こん
●西川―はい。一人の方でも興味をもったり、頭の片
な格好しないよ」という男性が結構多いのです。老人
隅に入っていたりして、それが役に立ってくれれば、私
ホームの中でも、もてる、もてないということがありま
がやっている意味というのが出てくるのかなといつも
すから。その中でも恋愛をできるように、そういう意味
思っています。亜流なのでなかなか…。
で格好というのはすごく大事だと思います。
●丸茂―私は決して亜流だとは思っていません。泌尿
私は美容整形自体に対しては、あまりいいイメージを
器科でも、私が入局した30年ぐらい前は、どういうこと
持っていないのです。もともと美容外科と呼ばれている
をやっているか、医師、パラメディカルと一般の方の意
ところと、大学での形成外科の間を埋めたいと始まった
識はずいぶん違っていました。先生もご存じのように、
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外来も病院の奥のほうに
信頼されるだけのことを
あって。それが最近に
しているという自信があ
なってどうやら日の目を
るんです。そういうこと
浴びてきて、アメリカな
が医者として一番大事な
ど外国では、泌尿器科の
のではないか。もちろん
医者になる関門が結構狭
体調がよくない日もある
くなってきたというよう
し、外来もいやだなと思
なことも言われています。これから、人間の生命の中で
う時もありますが、頼ってきている方に対して百パーセ
大事なQOLのことを考えますと、先生が現在果たしてい
ントの力で接してあげないと、後で私も後悔する。
らっしゃるお仕事はますます伸びていくと思いますし、
●丸茂―先生のおっしゃるとおりだと思います。私も
後を追って先生のようなお仕事をなさりたいというドク
何が自分にとって気をつけなければいけないかという
ターたちも、男女とも増えていくのではないかと思いま
と、たとえば外来の患者さんに毎日60人ぐらいお会いし
す。先生もそういうところを見越していらっしゃるので
たとします。60人全部の方が、具合のいい人もいるし、
はないかと思いますが、展望はいかがでしょうか。
悪い人もいるし、心配して来られた人もいるけれど、お
●西川―一生、医者は医者なので、アンチエイジング
帰りになる時、「こうでしたよ、これでご安心ですね」
というところは一生懸命やっていきながら、できる範囲
とか、「これからお世話させていただきますけど、そう
でそれを人に伝えていければと思っています。
したら大丈夫ですよ」というようなことをお話しして、
また、医者が白衣で出てくると、怖いものだと思った
「あっ、来てよかったな」というお土産を持って帰って
り、看護師さんには言えても医者には言いにくかったり
いただくということを心がけています。でも、なかなか
という部分があるではないですか。いま、弁護士さんも
難しいですよね。そのためには患者さんと接する時に、
テレビに出ている方がいらっしゃいますが、ああいう方
笑顔で接する場合もあるし、患者さんが本当にご心配な
たちを見て私も「同じ相談内容でも考え方が一つではな
時には、同情の気持ちを表情で伝えます。表情の患者さ
く、弁護士さんによっていろいろな考え方があるんだな」
んへの伝え方というのも、男性よりも女性のお医者さん
とわかったのです。医者に対する認識もたぶん、「いろ
のほうが気持ちが細やかなところがあると思いますが。
いろな先生がいて」という前に「医者はこう」みたいに
●西川―でも、女性だけではないと思います。男性も
皆さんは思われているでしょうから、そういうところを
やさしい方が多いですしね。
少し変えられて、もっと相談しやすいかたちになったら
なぜか私の周りを見ていても、開業医になって繁盛し
いいかな。それが、本などメディアも全部含めて、今後
ているところは、あまり成績のよくなかった、茶目っ気
も広めていけたらいいなと思っています。
のある、何度も追試ばっかり受けていた男の子だったり
いま私もテレビに出て、クイズなどでおもしろいこと、
します。
過激なことを言ったりしていますが、それを患者さんは
どう受け取るのか。私の中では、患者さんに対して絶対
将来の医師を生み出すためには
にいやな気持ちにさせないという自信があるからできる
という部分があるんです。私を知らない方はいやだと思
●西川― 昔は医者の娘や息子が医者になるのが普通
うかもしれないけれど、私が受け持っている患者さんは、
だったそうですが、いま医者になるのは公務員の子が多
私とうまくコミュニケーションができているし、絶対に
いらしいのです。安定した、「食いっぱぐれ」のない職
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Editorial Interview
テーマにしたドラマとか、若いドクターを主人公にした
ドラマがありますが、それを皆さんに見ていただくのは
いいかもしれません。特に「白い巨塔」では─財前教授
は傲慢な人でしたが─、財前さんのような方も、正反対
の純粋なドクターも出てきます。見ている人はくりひろ
げられる世界の中で、また、小さい時から理想として、
業ということで選ぶ。あと、医者に対する夢がなくなっ
また反面教師として受けとめて医者になろうという人が
てしまっているので、もっと夢をもてるようなことをし
出てくるといいと思います。先生が現在活躍されている
ないと、いい医者も集まらないのではないかと思います。
場はドラマを作っている場所とは違いますが、メディア
一つはお金でもいいと思います。まったく儲からない職
という意味では、できましたら先生からそういうアイデ
業だと思ったら、なりたいという人が少なくなってしま
アを出していただいて、啓蒙していただけたらと思いま
いますから。人の命は「食いっぱぐれ」があって診られ
す。
るかというと、やはり診られないと思うので、そこの安
展望までお話しいただきましたが、今日はお忙しい中
を貴重なお話を聞かせていただきまして、私にとって大
定は残すようにして。
「白い巨塔」のようなドラマや、「ブラックジャック」
変ためになりました。先生にはこれからもぜひ女医さん
などで注目を集めるようにするなど、もっと夢をもてて、
として、メディアの中で皆さんを啓蒙する大事な立場と
「医者ってすごいな」とか「医者になりたいな」という
して、メディアと医者と患者さんたちをつなぐ橋として
人、純粋な気持ちで人を助けたいなという人が増えたら
ますます活躍してくださることを念じています。どうぞ
いいと思うのです。もともとそういう気持ちの人がやら
頑張ってください。
ないと、無理に変えても、というところもあるのではな
●西川―先輩からありがとうございます。うれしいで
いでしょうか。
す。
●丸茂― 「白い巨塔」にしろ、最近、看護師さんを
●丸茂―今日はありがとうございました。
対 談 を 振 り 返 っ て
西川史子先生の新たなことへのチャレンジの積み重ねが、幅広
い見識と社会貢献の源になっていることが大変によくわかりま
した。先生はティーンエイジャーから中高年まで幅広いジェネ
レーションにわたって、考えをよく把握しておられ、特に若い
人たちを理想的な方向にリードでき
る、日本で数少ない逸材です。西川
史子先生は人をきれいにすること、
若返るためにはどうしたらいいか、
というアンチエイジングの問題に取
り組まれています。私は、EDに悩
む多くの患者さんをお世話している
と、「人ばかり直してないで!」と
いう野次が飛んできたことがありま
す。そのような意味で、西川先生は
今のお仕事をなさるために、天から
遣わされたように思えてなりません。
丸茂 健
丸茂先生から、患者さんには「来てよかったな」というお土産
を必ず持って帰ってもらえるようにしている、というお話を伺
って、とても感銘を受けました。本当にそうですね。医者はそ
うあるべきですよね。随分と後輩にあたる私にもお優しくて、
ついつい何でも喋りたくなってしま
うような雰囲気は、さすがベテラン
医師という感じでした。私もアンチ
エイジングの勉強をしながら、より
多くの人に知ってもらえるよう頑張
っていきます。今日は先生から、沢
山のお土産を頂いてしまいました!
ありがとうございました。
西川 史子
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