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大学教育年報 第15号 目次 巻頭言 教育研究論文 非同期分散型 e

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大学教育年報 第15号
目次
巻頭言
教育研究論文
非同期分散型 e ラーニングにおける自己調整学習尺度
……………………………………………合田美子・山田政寛・加藤浩・松田岳士・齋藤 裕・宮川裕之
大学におけるカリキュラムとその評価………………………………………………菅岡 強司・折田
充
教育研究報告
コミュニケーション能力を高める「基礎セミナー」
…………………………………… 本間 里見
基礎セミナー「中・東欧諸国の歴史について考える」実践報告 ……………………… 上田理恵子
初年次教育科目「ベーシック」の開発と導入 ……… 基礎セミナー等専門部会ベーシック分科会
ライティング指導とフォローアップの試み ……………………………………………… 渡邊 淳子
音声式点字タイプ教具」製作による学生の早期ものづくり教育と社会貢献の実践
……………………………………………………… 須惠 耕二・大嶋 康敬・松田 樹也・寺村 浩徳
大学教育機能開発総合研究センター報告
教養教育実施体制
編集後記
2012年3月
熊本大学大学教育機能開発総合研究センター
目
次
巻頭言
自発性と想像力........................................................................................................................................ 5
岡部
勉
教育研究論文
非同期分散型 e ラーニングにおける自己調整学習尺度.......................................................................... 9
合田美子・山田政寛・加藤浩・松田岳士・齋藤 裕・宮川裕之
大学におけるカリキュラムとその評価 ................................................................................................. 21
菅岡強司・折田 充
教育研究報告
コミュニケーション能力を高める「基礎セミナー」 ........................................................................... 37
本間里見
基礎セミナー「中・東欧諸国の歴史について考える」実践報告 ......................................................... 43
上田理恵子
初年次教育科目「ベーシック」の開発と導入 ...................................................................................... 50
ベーシック分科会
ライティング指導とフォローアップの試み .......................................................................................... 59
渡邊淳子
音声式点字タイプ教具」製作による学生の早期ものづくり教育と社会貢献の実践 ............................ 65
須惠 耕二・大嶋 康敬・松田 樹也・寺村 浩徳
大学教育機能開発総合研究センター報告
大学教育機能開発総合研究センター活動報告 ...................................................................................... 71
教養教育実施体制
熊本大学教養教体制機構図 ................................................................................................................... 79
2011 年度教養教育機構委員会委員名簿 ................................................................................................ 80
2011 年度教養教育科目群専門部会一覧 ................................................................................................ 80
2011 年度教科集団構成一覧 .................................................................................................................. 82
編
集
後 記 ......................................................................................................................................... 83
1
巻
頭
2
言
自発性と想像力
大学教育機能開発総合研究センター長
岡
部
勉
大学であれどこであれ、教えるやり方の基本は、手取り足取りすることではないというところから、
私たちは出発しなければならないと思うのですが、学生諸君を見ていると、「大学では何ごとも自分で
やる、自主的・自発的というのが基本です。勉強するもしないも、そして何を勉強するかも、自分がど
うするかで決まります」と言ってみても、虚しく響くだけのようなところがあります。
私たちは教養教育のやり方を見直して、新しいやり方に変えました。しかし、やり方がどういうふう
に変わろうと、問題なのは、学生諸君がどうするか、自分が何をどう勉強したいかだと思います。そし
て、何を勉強するのであっても、1年とか2年で身に付くということはありませんし、大学の4年間と
か6年間でできることも、ごく限られたことでしかないと思います。しかし、大学にいる間にしかでき
ないこともあって、それは、学生諸君が自分のことを、また、自分がその一員であるこの社会のことを、
ゆっくり考えることだと思います。
人間が作った世界は今回の地震とか津波のような自然の脅威に対して余りにもろいと、誰もが思った
かもしれません。確かに、私たちが作った世界はひどくもろいところがあると思います。しかし、この
作り物の世界にはそれによってこの世界が成り立っていると言えるようなある絶妙な仕組みがあって、
それこそが最後に一番頼りになるものかもしれません。その仕組みは私たちの自発性と想像力(イマジ
ネーションの能力)に基づくものだと思います。
サッカーとかラグビーにオフサイド・ルールというのがあります。オフサイド・ラインという架空の
線があるというわけですが、そういうことを理解できるのは、たぶん人間だけだと思います。私たちは
そういう架空の線が縦横に引かれている世界に生きているようなものだと思うのですが、その場合に私
たちは、自分がその線を越えたかどうかを、他人(線審)に言われなくても自分で分かるということが
あると思います。言い換えれば、自分で分かるための、文字通り第三者的に自分を見る目・視点がある、
ということだと思います。
別の例でもう少し説明します。日本各地に無人の野菜売り場とか無人の果物売り場があります。こう
いうものは、江戸時代からあったそうですが、一般化したのはそれほど前ではないようです。この「無
人の売り場」という習わしは、善意と信頼(人のよさ)を前提にして成り立つものだと思いますが、私
たちは言われなくても、そこに暗黙のルールがあることを直ちに了解します。もちろん、人間以外の野
生の動物には、このやり方は通じません。いや、人間にも通じないと言われるかもしれません。しかし、
世界中どこにおいても、大部分の人は、実はこのような暗黙のルールに従って生きているのだと言える
ように思います。
私たちがルールに従うのは、誰かが見ているかもしれないからとか、カメラがあるかもしれないから
というのではありません。あたりに誰もいないと分かっていても、私たちは特定の誰かとの一対一の関
係ではなくて、ある一般的・社会的・三人称的な関係に自分が置かれていることを直ちに理解して、自
発的に適切なやり方に従います。
これに対して、誰も見ていないから盗むというのは、野生のサルとほとんど同じということになりま
5
す。私たちは、一方では、社会を重んじ規則や規範を尊重しますが、他方では、知能の高いサルと同じ
ように、あるいはもっと野蛮なやり方で、平気で他人を欺いたり、自分の都合で規則とか規範をないが
しろにしたりして、野蛮な欲求を満たそうとします。少なくとも、そういう人がいます。
人間が作った世界がこれからも存続できるかどうかは、その世界の唯一の構成員である私たち自身が
上で言った想像力と自発性に基づく能力を自分自身でどうするかによるのだと思います。そして、第三
者的な視点に立つということが私たちにとって重要な意味を持つのは、特定の誰かに対する一対一の関
係を超えて、社会全体のことを考えるということが、私たちがこういう作り物の世界を作ってやってい
くやり方をはじめたときからずっと問題であったし、今後も問題であり続けるからだと思います。そう
いう世界において私たちを導くものは、教育と文化(要するに、教養)以外にないと言えるのではない
でしょうか。そして、私たちが教育と文化に投資する意味は、それ以外に人間的な世界の存続を保証す
るものが、実は何もないからだと思います。
6
教
育
研
究
論
文
非同期分散型 e ラーニングにおける自己調整学習尺度
合田美子1・山田政寛2・加藤浩3・松田岳士4・齋藤 裕5・宮川裕之 5
1.はじめに
非同期分散型 e ラーニング環境における学習では、学習を途中でやめてしまうドロップアウトの割合
が高くなるという問題がある(玉木ほか 2006)。従来の学習支援以上に、非同期分散型 e ラーニング環境
では、メンタリングやコーチングなど学習者の多様性に適合した学習支援が必要になってくる(松田・原
田 2007)。松田・原田(2007)は、e ラーニングにおけるメンタリングを、メンタが「学習者個人あるい
は学習者グループと継続的に双方向コミュニケーションを行い、学習者を支援することである」と定義
している。しかし、手厚い支援を行うとメンタへの負荷も増えてくる。 畑・田中(2010)も指摘している
ように、e ラーニング実施における課題として、受講者数が増える中で学習支援の充実を図るためには、
人件費も考慮しながら、メンタの育成方法に加え、配置や管理方法、活動内容についても検討が必要で
ある。言い換えると、効果的なメンタリングを行うためにも、メンタの負荷を軽減していく必要がある。
しかし、学習支援の研究は多くなされているが、メンタの負荷を軽減するというアプローチからの研究
は少ない。本研究をメンタリング活動の負荷軽減システム開発のための基礎研究と位置付けたい。
負荷軽減のための解決策として、コース実施に際し事前に学生を分類し、学習支援の業務内容を調整
することが考えられる。コース実施前に手厚い支援を要する学生の割合を把握することで、メンタのコ
ースへの配置や活動内容の計画など、効果的に行えるようになると考える。つまり、学習者行動を事前
に予測することで、支援が不必要な学習者と必要な学習者に分け、不必要な学習者への過剰な支援を避
け、必要な学習者へは個人の必要性に合わせた支援を行うことができると考えられる。 また、支援の
必要性が事前に算出できることで、複数のコースにおける学習支援者の負荷を調整し、 効率的に支援
を行える体制作りが可能になると考える。更に、学習支援を個人に適合して提供することで、学習者か
らの質問や相談など援助要請行為を引き出し易い環境を提供できるようになると考えられる。この解決
策を実現させるためには、学習者をコース開始前に分類しなければならない。どのような視点から学習
者を分類するべきか検討がなされた。
オンライン学習では、場所、時間、印刷された教材などの制約がなくなり、いつ、何を、どのように
学 習 す る か に つ い て 学 習 者 が 自 分 で コ ン ト ロ ー ル で き る よ う に な る (CUNNINGHAM and
BILLINGSLEY 2003)と言われているが、オンライン学習を成功させるためには、自己調整学習
(Self-Regulated Learning, SRL)スキルが必要とされる(YUKSELTURK and BULUT 2007)。自己調整
学習とは、環境における文脈や学習者の目標によって導き抑制されながら、学習者が自身の学習のため
に目標を設定し、認知、モチベーション、行動をモニターし、調整し、制御するアクティブで建設的な
過程である(WOLTERS ほか 2003)。オンライン学習と自己調整学習スキルの関係について多くの研究
がなされている(KRAMARSKI and GUTMAN 2006; LAN 1996 ほか)が、これらの研究結果には一貫性
1
2
3
4
5
大学教育機能開発総合研究センター
金沢大学
放送大学
山形大学
青山学院大学
9
がなく(BARNARD, et al. 2009)、自己調整学習とオンライン学習成果の関係において負の相関を報告し
ているものもある(MC MANUS 2000; LYNCH and DEMBO 2004)ことが分かった。BARNARD ほか
(2009)は、研究結果に一貫性がみられないことに対し、研究で使用している尺度に問題があると指摘し
ている。
そこで、自己調整学習を基軸に学習者分類を試みるために、本研究では、①自己調整(制御)学習の研
究で広く使用されている尺度を整理比較することと、②非同期分散型 e ラーニングにおける自己調整学
習を測定するための項目を精選し、それを構成する要因を探求することを目的とした。
自 己 調 整 学 習 に 関 す る 研 究 で は 、 MSLQ (Motivated Strategies for Learning Questionnaire;
PINTRICH, et al. 1991)が多く用いられてきた。しかし、MSLQ は、従来の一斉型授業を対象として開
発されているため、オンライン学習環境というコンテクストにおける自己調整学習スキルを正しく測定
できていないと考えられる (BARNARD et al. 2009)。
オンライン学習環境における自己調整スキル尺度の開発は、BARNARD ほか(2009)も試みている。彼
らが開発した OSLQ (Online Self-regulated Leaning Questionnaire)は、目標設定、環境構築、タスク
方略、時間管理、援助要請、自己評価の 6 領域の 24 項目から構成されている。項目数も少なめで、各
領域の内的整合性も.87~.96 と高い。しかし、OSLQ には、学習における重要要因である学習方略とモ
チベーション(KOZANITIS, et al. 2007)のうち、モチベーションからの項目が含まれていない。モチベ
ーションは、学術においての学習に重要な決定要因である(GRAHAM and WIENER 1996; PINTRICH
and SCHUNK 2002)。本研究では、学習者の学習に対する情意面に強く影響を与えるメンタリング活
動に活用することを想定した尺度開発を目的とするため、モチベーション方略に焦点を当てた MSLQ
と、それを修正・改変し提案されている WOLTERS ほか(2003)の尺度をもとに開発を進めた。
本稿の構成は、まず、尺度開発にあたり参考とした学習支援と SRL の概念と既存の尺度について紹
介し、次に実際の尺度項目の精選手順と結果を説明する。最後に、最終的に精選された尺度項目と因子
について考察する。
2.従来の自己調整学習尺度
(1)自己調整学習(SRL: Self-regulated Learning)
自 己 調 整 学 習 に は 認 知 、 個 人 の 動 機 づ け と 目 的 制 御 行 動 が 関 係 し て い る (PINTRICH 1999;
ZIMMERMAN and PAULSEN 1995 など)。自己調整学習を行う学習者は学習過程にて計画を立て、整
理し、自己指導、自己モニタリング、自己評価できるとされる(ZIMMERMAN 1986)。また自己調整学
習は自律性と関係し、メタ認知、動機づけ、行動面の 3 点から評価され(DECI,
et al. 1996)、時間、
場所、方法、順番などを制御するというように学習者自身が学習に責任を持ち、自分で効率的に、且つ
効果的に継続的に実施するために必要である。
これまで公表されている自己調整学習モデルについて、WOLTERS ほか(2003)は、一般的なフレーム
ワークとして 4 つの仮定に基づいて構成されている。(1)アクティブで建設的仮定、(2)制御のための可
能性の仮定、(3)目標、基準、標準の仮定、(4)個人的、文脈的特性と、実際の達成度やパフォーマンス
の間の媒介である。(1)は、認知学的見解から、学習過程において、学習者がアクティブに知識を構築し
ていくと見ている。(2)について、環境などの特徴を含む認知、モチベーション、行動を潜在的にモニタ
ーし、制御し、調整できる。(3)に関しては、学習において、何か基準となるものを設定し、その基準と
照らし合わせながら自己の学習を調整する。そのため、何かの基準、目標、または標準化された指標が
10
存在する前提である。(4)学習成果には個人的な要因だけが影響するのではなく環境などのコンテクスト
も影響する仮定である。
自己調整学習モデルとして代表的な ZIMMERMAN の自己調整学習サイクルモデルは、計画、遂行・
意志的制御、
自己内省の 3 段階から構成されている(1, SCHUNK and ZIMMERMAN 1998)。SCHUNK
and ZIMMERMAN は、自己調整学習者を初歩者と上達者に分け(表 1)、それぞれの自己調整学習サイ
クルの段階で比較している。計画段階では、熟達者は、大きな目標からレベルの小さな目標を設定する
ことができる。階層的に目標を設定し、何を習得したいかはっきりさせている。内発的な興味を示し、
高い自己効力感を持っている。遂行段階では、遂行に集中し、自分の学習過程をモニタリングし意志的
制御を行っている。自己内省の段階では自己評価を求め、方略や練習に結果の帰属を行う。プラスの自
己反応を示し、適応している。
これらの初心者と熟達者の違いを区別できることを、尺度項目を精選する時には配慮した。項目の精
選にあたり妥当性を高めるため、内容領域を MSLQ や WOLTERS ほか(2003)をベースとした。これら
には、自己調整学習スキルを弁別することを目的とした項目が含まれている。以下に参考にした尺度に
ついて紹介する。
(2)MSLQ (Motivated Strategies for Learning Questionnaire)
PINTRICH らによって 1986 年から開発が始まり、
1990 年代前半に仕上げられた MSLQ (PINTRICH
and DEGROOT 1990)は教育分野で世界的に広く使用され、マニュアルも公表されている(PINTRICH
et al. 1991)。MSLQ は、モチベーションと学習方略の認知的な見地をベースとしている。これを反映
し、質問紙は、モチベーションと学習方略の2つのセクションがある。
モチベーションについて 3 領域 31 項目(価値構成要因、期待構成要因、情緒的構成要因)、学習方略セ
クションでは、2 領域で 51 項目(認知的とメタ認知的方略の領域 31 項目、リソース管理の領域 19 項目)
が含まれる。合計 81 項目から構成され、すべての項目は、7 件法のライカートスケール(1: まったく当
てはまらない~ 7:とても当てはまる)である。PINTRICH ほか(1991)をもとに各セクションの質問領域
の記述統計結果と内的整合性を表 2 に整理した。
表 1 自己調整学習の初心者と熟達者の自己調整学習サイクルの各フェーズにおける比較
(SCHUNK and ZIMMERMAN 1998, p.6)
自己調整学習者の区分
自己調整のフェーズ
計画
遂行・意志的制御
自己内省
初歩者
熟達者
一般的な遠い目標
特定の階層目標
遂行の目標指向性
学習の目標志向性
低い自己効力感
高い自己効力感
興味がない
内発的な興味
定まらないプラン
遂行に集中
セルフ・ハンディキャッ
自己指導/イメージ
ピング方略
結果の自己モニタリング 過程の自己モニタリング
自己評価を避ける
自己評価を求める
能力帰属
方略/練習帰属
マイナスの自己反応
プラスの自己反応
不適応
適応
11
MSLQ を今回の尺度開発のベースとして採用しなかった理由は、MSLQ では援助要請についての項
目が 4 項目だけであり、援助要請の内的整合性も他の質問領域と比較しても一番低かった(α = .52)こ
とが挙げられる。本研究では非同期分散型 e ラーニング環境におけるメンタリングによる学習支援の効
率化のための学習者分類を目的とした尺度開発であるため、学習支援と関係の深い学習者の援助要請行
動は重視したいと考えた。
(3)WOLTERS ほか(2003)版
MSLQ は、多くの研究者によって、自己調整学習の文脈合うように、修正や改変が繰り返されている。
これは、自己調整学習は、ある程度コンテクストに特化していると推測される(WOLTERS et al. 2003)。
必要なコンテクストに適合するように言葉や言い回しを変えるくらいの僅かな変更であれば尺度の信
頼性にはさほど影響ないと言及し、コンテクストに合うように変更しながら使用することを提案してい
る(WOLTERS and PINTRICH 1998)。例えば、1993 年には PINTRICH ほかが援助要請行動を調査す
るために修正した MSLQ を開発している。 これは、5 件法のライカートで 107 項目を含んでいる。
WOLTERS ほか(2003)を本研究のベースとして採用した理由は、彼らが、これまでの研究を包括的に
体系的に整理した上で質問項目を提案しているからである(表 3)。自己調整学習のフェーズと調整のた
めの領域が整理されている。自己調整学習のフェーズには、(1)事前の考慮、計画、活性化、(2)モニタ
リング、(3)制御、(4)反応と内省がある。 多くの先行研究で(2)モニタリングと(3)制御は同時に起こると
報告されている (PINTRICH, et al. 2000)。
表 3 に示したように、WOLTERS ほか(2003)の自己調整学習フレームワークは自己調整学習の段階と
調整が必要な「認知」
「動機」
「行動」の 3 エリアに整理されている(資料 A)。自己学習の段階は「計画」
、
「動機づけ」、
「制御」
、
「反応・内省」の段階がある。
表 2 MSLQ:2 セクションの項目領域の記述統計情報、最終成績との相関、内的整合性
n *1
セクション
価値構成要因
モチベー
ション
期待構成要因
情緒的構成要因
認知的・
メタ認知的方略
学習方略
SD
r *2
α
内的目標方向性
4
5.03
1.09
0.25
0.74
外的目標方向性
4
5.03
1.23
0.02
0.62
タスク価値
6
5.54
1.25
0.22
0.22
学習ビリーフの制御
4
5.74
0.98
0.13
0.68
学習とパフォーマンスに関する自己効力感
8
5.47
1.14
0.41
0.93
テスト不安
5
3.63
1.45
-0.27
0.80
リハーサル
4
4.53
1.35
0.05
0.69
精緻化
体系化
6
4
4.91
4.14
1.08
1.33
0.22
0.17
0.76
0.64
クリティカルシンキング
5
4.16
1.28
0.15
0.80
メタ認知的自己調整
リソース管理方略
M
12
4.54
0.90
0.30
0.79
時間と環境
8
4.87
1.05
0.28
0.76
努力の調整
4
5.25
1.10
0.32
0.69
集団学習
3
2.89
1.53
-0.06
0.76
援助要請
4
3.84
1.23
0.02
0.52
Note. *1n:項目数, *2r:最終成績との相関
12
表 3 WOLTERS et al. (2003) の尺度構成と項目 (WOLTERS, et al. 2003, p.50)
フェーズ
1)事前の考
慮、計画、
活性化
認知
1)ターゲット目標設定
モチベーション・情緒
1)目標方向性の採用
2)既知の内容知識の活性 2)効力感の判断
化
3)メタ認知知識の活性化 3)タスクの難易度の知覚
4)タスク価値の活性化
5)興味の活性化
1)認知のメタ認知的自覚 1)モチベーションと情緒
とモニタリング
の自覚とモニタリング
行動
1)時間と努力の計画
2)行動の自己観察のため 2)コンテクストの知覚
の計画
3)制御
1)努力、時間の使い方、
援助の必要性の自覚とモ
ニタリング
2)行動の自己観察
1)学習と思考のために認 1)モチベーションと情緒 1)努力の増加と減少
知方略の選定と適応
の管理方略の選定と適応
2)継続または断念
4)反応と内
省
1)認知判断
2)帰属
2)モニタリ
ング
3)援助要請行動
1)行動の選択
1)情緒的反応
2)帰属
コンテクスト
1)タスクの知覚
1)タスクとコンテクス
トの状況変化のモニタ
リング
1)タスクの変更または
再交渉
2)コンテクストの変更
または放置
1)タスクの評価
2)コンテクストの評価
具体的な質問項目として、
「認知の調整方略」
、
「動機の調整方略」
、と「行動の調整方略」の 3 つの大
項目、合計 103 項目から構成されている。 表 4 に質問領域および具体的な小項目と項目数を示した。 行
動調整方略の援助要請(表 4: C3‐C11)について、29 項目と質問項目が充実している。これも、この尺
度を採用した理由である。
WOLTERS ほか(2003)は 7 件法で提案されている。
しかし、先行研究を見ると、PINTRICH ほか(1993)
にもあるように MSLQ は 7 件法か 5 件法かで使用されていた。学生の質問に対する教員の援助に関す
る項目を含む PTSQ (Perceived Teacher Support of Questioning, KARABENICK and SHAMA 1994)
や前述の BARNRD ほか(2008)の OSLQ など、MSLQ 以外で関連している尺度では、5 件法が多く使用
されている。また、村上(2006)は、5 件法は最大の情報が引き出せる可能性があるとしている。 そこで、
今回は 5 件法で実施することとした。また、7 件法にしなかった他の理由は、村上も指摘しているが、
件数が増えると実施時間が長くなるためである。
WOLTERS ほか(2003)の尺度を採用したもう一つの重要な理由は、
表 3 の自己調整学習フェーズの(2)
モニタリングと(3)制御に焦点化した項目になっていることである。これにより、実際にメンタリングを
行う際の自己調整学習スキルのレベルにより、学生を事前に分類できると考えた。
3.開発方法
(1)尺度の開発手順
最初に WOLTERS ほか(2003)の質問項目を英語から日本語に翻訳を行った。研究グループの 3 名で
翻訳の正確性と意味や表現の明瞭さについて議論を行い、全 103 項目の和訳文を決定した。続いて本研
究の目的を念頭に、非同期分散型 e ラーニングにおけるオンライン学習に関連の無い項目を削除した。
これにより質問数は 103 項目から 83 項目となった(合田ほか 2010)。5 件法(1:全くそう思わない - 5:
とてもそう思う)で、データ収集を行った。データ収集後、項目分析を行い、天井効果、フロア効果があ
る項目の検討を行い、対象項目を削除した。続いて因子分析を行った。因子分析で抽出され各因子の内
的整合性の検証を行った。
13
表 4 WOLTERS ほか(2003)の質問領域および項目数
A.認知の調整方略
A1.リハーサル方略(4項目)
B.動機の調整方略
B1.熟達を目指す自己対話(6項目)
A2.精緻化方略(6項目)
A3.体系化方略(4項目)
B2.関連性の強化(6項目)
B3.状況による興味の強化(5項目)
A4.メタ認知の自己調整(12項目)
C.行動の調整方略
C1.努力の調整(4項目)
C2.時間と学習環境の調整(8項目)
C3.必要な援助を要請する一般的な
意図(3項目)
B4.パフォーマンスや関連する能力 C4.必要な援助を回避する一般的な
に関する自己対話(4項目)
意図(3項目)
B5.パフォーマンスや外因性に関す C5.援助要請の知覚されるコスト(4
る自己対話(5項目)
項目)
B6.自己継続(5項目)
C6. 援助要請の知覚される利益(3
項目)
B7.環境的構造(5項目)
C7.役立つ (自主的な)援助要請の
目標(3項目)
C8. 都合のよい援助要請の目標(3
項目)
C9. 正式なソースからの援助要請
(教員)(2項目)
C10. インフォーマルなソースから
の援助要請(他の学生)(2項目)
C11. 質問に対する教師の支援に対
する知覚(6項目)
(2)データ収集
データ収集は兵庫県にある私立大学にて行った。非同期分散型オンライン学習環境にて、学習者自身
のペースで受講できる科目 8 科目をデータ収集対象とした。データの収集は、教材を提供している学習
管理システム上の質問機能を使用した。受講者数 1212 名のうち、857 名が回答し、これらのデータを
分析に使用した。
回答率は 70.7%であった。授業は 15 回行われ、SRL 教材とオンラインの学習活動を通じて授業が展
開されていく。各回には 2〜3 週間の出席認定期間が設けられ、期間内に学習するように履修者に指示
している。出席の認定期間が過ぎた場合も学習活動に参加することは可能であるが、遅刻扱いとされる。
(3)分析手順
最初に、全項目を分析し、天井効果、フロア効果のある項目の有無を確認した。しかし、これらの効
果を示す項目はなかった。そこで、全 83 項目を使いプロマックスを用いた因子分析(主因子法)を行った。
共通性が 0.3 以下,因子負荷量が 0.4 以下の項目を削除し,スクリープロットを確認し,因子数を減ら
しながら因子分析を繰り返した。その後、内的整合性を検証するためにクロンバックαをそれぞれの因
子内について算出した。
4.分析結果
以下に分析結果を整理する。
(1)記述統計
各設問の平均(m)と標準偏差(sd)は、表 5 の通りである。項目に R(Reverse)が付加されているものは、
逆転問題で点数を逆転させてから集計を行った。平均が 3.35 より高かった質問は、Q44「与えられた課
題が終わったら自分のやりたいことをしようと思う」(m = 3.54)、Q53「たとえ学習内容がつまらない
時でも、終わるまで学習し続けることができる」(m = 3.43)、Q30「学習内容を自分の好きなことや興
14
味のもてることと関連付けるようにしている」(m = 3.39)、Q3「この科目で大事な概念が何かを思い出
させるためにキーワードを覚える」(m = 3.39)、Q6「この授業のために読みものをする時、既に知って
いることと情報を関連づけるようにしている」 (m = 3.36)、Q38「他の学生と同じように少なくとも一
生懸命取り組むべきだと言い聞かせている」(m = 3.36)、Q47「より集中している時に学習するように
している」(m = 3.35)であった。これらの、平均値が高い項目は、WOLTERS ほか(2003)でモチベーシ
ョン方略や認知方略のカテゴリー(表 4 参照)に分類されるものが多かった。反対に平均が低い項目は、
Q68「他の学生は、この授業で支援を求めたら頭が悪いと思うだろう」(m = 2.53)、Q67「この授業で
助けが必要だと誰にも知られたくない」(m = 2.58)、Q18「この授業で学習をしてきた内容を理解でき
ているか確かめるのに自分で問題を作ってみる」(m = 2.67)、Q37「この授業で他の学生より、よくで
きると思う」(m = 2.67)であった。Q68 と Q67 は、WOLTERS ほかの「援助要請の知覚されるコスト」
に関しての項目であり(表 4 参照)、スコアが低いことは援助要請に関して脅威を感じていないというこ
とになる。
(2)因子分析の結果
分析の結果、最終的に 40 項目を含む 4 因子を抽出した(表 6, 資料 A)。第 1 因子には、Q41「この科
目で、よくできるようになるために学習し続ける必要があると言い聞かせている」や Q28「学習してい
ることや実践していることを得意になれるように心がけている」などを含むことから「情緒的方略」と
表 5 83 項目の記述統計結果
M
sd
M
sd
M
sd
M
sd
Q1
Q2
2.78
2.97
0.94
0.99
Q21
Q22
3.21
3.14
0.90
0.89
Q41
Q42
3.25
3.18
0.92
0.98
Q61
Q62
2.92
3.05
1.00
1.00
Q3
Q4
Q5
3.39
2.94
3.14
0.97
0.95
0.97
Q23
Q24
Q25
3.03
3.12
3.21
0.94
0.92
0.96
Q43
Q44
Q45
3.21
3.54
3.14
0.95
0.98
1.01
Q63
Q64
Q65
3.03
3.26
2.93
0.97
0.92
0.92
Q6
Q7
Q8
Q9
3.36
3.00
3.34
3.32
0.93
0.94
0.91
0.94
Q26
Q27
Q28
Q29
3.16
3.12
3.28
3.33
0.95
0.96
0.93
0.94
Q46
Q47
Q48
Q49
3.07
3.35
3.23
3.10
0.99
0.96
0.95
1.00
Q66
Q67
Q68
Q69
2.73
2.58
2.53
3.12
1.01
1.10
1.06
0.93
Q10
Q11
Q12
Q13
3.21
3.24
2.77
2.90
0.90
0.96
1.00
0.97
Q30
Q31
Q32
Q33
3.39
3.26
3.24
3.03
0.98
0.93
0.95
1.06
Q50R
Q51
Q52R
Q53
3.14
3.34
3.19
3.43
0.93
0.94
0.98
0.98
Q70
Q71
Q72
Q73
3.10
3.26
3.18
3.22
0.90
0.89
0.85
0.86
Q14R
Q15
Q16
Q17
3.09
2.93
3.30
2.99
0.96
0.92
0.95
0.99
Q34
Q35
Q36
Q37
2.82
2.97
3.05
2.67
1.02
1.01
1.00
0.98
Q54
Q55
Q56R
Q57
3.30
3.28
2.70
3.30
0.96
0.92
1.00
0.91
Q74
Q75
Q76
Q77
3.24
2.88
2.92
3.08
0.82
0.98
0.98
0.91
Q18
Q19
Q20R
2.67
2.96
3.01
1.04
0.91
0.92
Q38
Q39
Q40
3.36
3.14
3.12
0.98
0.96
0.98
Q58
Q59R
Q60R
3.33
2.81
2.97
1.07
0.96
0.91
Q78
Q79
Q80
Q81
3.10
3.26
3.26
3.18
0.91
0.91
0.88
0.87
Q82
Q83
3.17
3.31
0.82
0.88
Note. *1 R は逆転項目.
15
表 6 因子分析後の因子項目と負荷量
第1因子
項目
Q43
Q41
第2因子
第3因子
第4因子
負荷量 項目 負荷量 項目 負荷量 項目 負荷量
.704 Q2
.648 Q69
.643 Q68
.798
.699 Q4
.566 Q70
.637 Q67
.754
Q40
.617 Q11
.549 Q62
.628 Q66
.641
Q26
Q25
.617 Q3
.612 Q13
.543 Q63
.542 Q61
.623 Q18
.598
.548
Q38
.600 Q1
.512 Q73
.540
Q42
Q39
.593 Q6
.582 Q10
.496 Q72
.469 Q74
.525
.492
Q47
Q27
.526 Q8
.522 Q12
.465 Q71
.460
.491
Q55
.517 Q5
.446
Q28
Q54
.507
.504
Q53
.504
Q44
Q48
.480
.431
名付けた。第 2 因子は、Q2「この授業の予習や復習する時、ノートしたことを何度も読み返す」や Q4
「この授業の予習や復習する時、講義や読み物、ディスカッションなど違う出典から情報を統合する」
など、学習の具体的な方法に関する項目が多いため「認知的方略」とした。第 3 因子は、Q69「この授
業で、助けを得ることで、より良い学生になれると思う」や Q62「講義を理解するのに支援が必要な時、
支援を求める」など、教員や他の学生などへの助けや支援を求めることに関連する項目が多い「援助要
請」と呼ぶことにした。第 4 因子は、Q68「他の学生は、この授業で支援を求めたら頭が悪いと思うだ
ろう」など、自分で何とか学習を終わらせようとする項目が多いため「自己独立性・自己完結性」と名
付けた。
(3)内的整合性の検証
村上(2006)は、尺度開発法の最終工程について、選抜した項目から尺度を構成し、α係数を算出する
としている。α係数が 0.8 程度であれば尺度構成を終了するとしている。最終的に因子分析により精選
された 40 項目から構成される各因子の内的整合性(クロンバックα)は表7の通りである。第 4 因子は
0.781 であったが,そのほかの因子は 0.8 以上であった。一番整合性が高かったのは第 1 因子(α = .904)
であった。
5. 考察と今後の課題
本研究では、非同期分散型 e ラーニング学習環境における自己調整学習スキルを測定するために、5
件法のライカートスケール 40 項目を精選した。因子分析の結果、4 因子(1)情緒的、(2)認知的、(3)援助
要請、(4)自己独立性が抽出された。尺度項目の精選には、MSLQ の修正版である WOLTERS ほか(2003)
を参考にした。そこで、抽出された 4 因子に含まれる項目と、WOLTERS ほかの項目領域を比較した(資
料 A)。第 2 因子と第 3 因子を構成する項目は、WOLTERS ほかの質問領域と同様に分類された。第 2
16
因子の項目は、WOLTES ほかの認知的方略、第 3 因子の項目は、行動方略調整の中の援助要請の領域
に含まれていた。情緒的方略とした第 1 因子は、16 項目中 3 項目以外は、WOLTERS ほかでも情緒的
方略調整の項目と一致している。当該 3 項目のうち、
「Q55 この科目のために学習時間を有効に使って
いる」
「Q54 学習に集中できる場所で学習をいつもしている」は、行動方略の調整の時間と学習環境の
調整(C2)で、
「Q53 たとえ学習内容がつまらない時でも、終わるまで学習し続けることができる」は、
努力の調整(C1)であった。努力の調整は、意思やモチベーションとも関連することから、第 1 因子に属
していても納得できる。時間と学習環境の調整については、「有効」や「集中できる」という修飾語か
ら、やる気を喚起させたりする情緒的なニュアンスとして回答されていたのではないかと考える。
最後の「自己独立性」と名付けた第 4 因子は、WOLTERS ほかの C5「援助要請の知覚されるコスト」
から 3 項目と A4「メタ認知の自己調整」から 1 項目の 4 項目で構成されている。本因子は WOLTERS
ほかの尺度の項目領域に当てはまるものがない。これらの 4 項目に共通していることは、
「自分で何と
かしよう」とするところである。この要因が、非同期分散型 e ラーニング環境のコンテクストを反映し
た特徴的な項目領域である可能性もある。この「自己独立性」という因子が非同期分散型 e ラーニング
環境での学習とどのような関わりがあるのか、今後、検証していきたい。
内的整合 性については 、各因子 の内的整合性 ( α )は、 .781~.904 と高かった( 表7参照)。
MSLQ(PINTRICH 1991)では、援助要請の項目領域の内的整合性が低かった(α = .52)が、本尺度で
は、.83 と高めの傾向を示した。
今後の方向性として、より多くのコンテクストで多様な学習者からデータを集め、今回精選した項目
からなる非同期分散型 e ラーニング自己調整学習尺度の信頼性、
妥当性の検証を行っていきたい。
また、
自己調整学習サイクルにおいて、今回焦点化した、オンライン学習をしている最中のモニタリングや制
御のフェーズだけでなく、計画や内省フェーズにおける SRL スキルを測定できるような、より包括的
で体系的な尺度の開発を目指したい。また、研究動機である、学習支援ための学習者分類という目的達
成のために、開発した尺度と学習者の認知、情緒、行動、コンテクスト間の関係を明らかにし、非同期
分散型 e ラーニング環境におけるメンタリング活動の負荷軽減と支援につながるような研究を促進した
い。
表7
第1因子
第2因子
第3因子
第4因子
各因子における内的整合性
項目数 クロンバックα
16
0.904
11
0.852
9
0.833
4
0.781
謝辞
本研究は大手前大学 e ラーニング科目担当する教職員の方々と(株)DES による協力を受けた。ここに
お礼申し上げる。また、本研究は科研費(21300312)の助成を受けたものである。
17
参考文献
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19
資料 A e-Learning Self-regulated Learning Scale (4 因子 40 項目)と WOLTERS ほか(2003)の項目領域
因子
質問項目
Q43 この科目でテストや課題をうまくこなすことがどれだけ重要なことか自分に思い出さ
せるようにしている
Q41 この科目でよくできるようになるために学習し続ける必要があると言い聞かせている
Q26 学習成果をみるために学習を続けるように自分を説得している
Q25 出来るだけ多く学ぶために学習しつづけなくてはいけないと自分に言い聞かせている
Q40 いい成績を取ることがどんなに重要なことかをいつも念頭に置いている
Q38 他の学生と同じように少なくとも一生懸命取り組むべきだと言い聞かせている
Q42 読み物や勉強をしなかったら、成績へどんな影響があるか考える
1.情緒的方略 Q39 授業の他の学生より、よくできるようになりたいと言い続けている
Q47 より集中している時学習するようにしている
Q27 学ぶためだけに一生懸命学習するように自分を説得している
Q55 この科目のために学習時間を有効に使っている
3.援助要請
(2003)項目領域
B5
B5
B1
B1
B5
B4
B5
B4
B7
B1
C2
Q28 学習していることや実践していることを得意になることがきるように心がけている
Q54 学習に集中できる場所で学習をいつもしている
Q53 たとえ学習内容がつまらない時でも、終わるまで学習し続けることができる
B1
Q44 与えられた課題が終わったら自分のやりたいことをしようと思う
Q48 簡単に学習に集中できるように環境を変える
Q2 この授業の予習や復習する時、ノートしたことを何度も読み返す
B6
Q4
2.認知的方略
WOLTERSほか
この授業の予習や復習する時、講義や読み物、ディスカッションなど違う出典から情
報を統合する
Q11 この科目のために学習する時、読み物や授業のノートにあたり、一番大事な考えは何
かを探すようにしている
Q13 この科目の学習する時、ノートを見直し、重要な概念のアウトラインを作成する
Q3 この科目で大事な概念が何かを思い出させるためにキーワードを覚える
Q1 この授業の予習や復習する時、何度も繰り返し教材の内容を声に出して読んでみる
Q6
この授業のために読みものをする時、既に知っていることと情報を関連づけるように
している
Q10 この科目の書物や資料を読む時、考えを体系化するために情報の概要をつかむように
している
Q8 講義中の概念と読んで得たものとの間に関連性をみつけてこの授業の内容を理解しよ
うとする
Q12 科目の内容を整理するために簡単なチャート、図、表などを作る
Q5 この科目の考え方をできるだけ他のコースの考えと関連付けるようにしている
Q69 この授業で、助けを得ることで、より良い学生になれると思う
C2
C1
B7
A1
A2
A3
A3
A1
A1
A2
A3
A2
A3
A2
C6
Q70 この授業で、助けを得ることで、より賢い学生になれると思う
Q62 講義を理解するのに支援が必要な時、支援を求める
Q63 読み物で分からないところがある時、支援を求める
C6
Q61 この授業で分からないことある時、支援を誰かに求める
Q73 もしこの授業で助けを得ると、一般的な考えや原理をより理解することになると思う
Q72 自分自身で問題を解決して答えを出すために学習するためにこの授業で支援を得たい
C3
C7
Q74 この授業で助けを得ることは、内容を理解したり問題を解決したりするために使うこ
とができる基礎的な原理についてよりよく学習するための方法であると考える
Q71 この授業で、助けを得ることで、内容を学ぶための能力が増すことになると思う
Q68 他の学生は、この授業で支援を求めたら頭が悪いと思うだろう
Q67 この授業で助けが必要だと誰にも知られたくない
4.自己独立性 Q66 この授業で助けを得ることは、自分で課題ができず賢くないということを認めること
になる
Q18 この授業で学習をしてきた内容を理解できているか確かめるのに自分で問題を作って
みる
Note. *1 表 4 の分類に対応.
20
C3
C3
C7
C7
C6
C5
C5
C5
A4
*1
大学におけるカリキュラムとその評価
大学教育機能開発総合研究センター
菅岡 強司・折田 充
1.はじめに
(1)
教育学者寺崎昌男は,カリキュラム改革と FD の関係について,次のように述べている
。
カリキュラム改革自身を FD と呼ぶことはできない。業務を履行しているというだけです。
ところがその背後に,なぜ変えなくてはならないか,どこをめざして変えるのかという研究調査活動
をやったら,その部分は確実に FD なのです。(中略)
日本においても,カリキュラム改革を FD の一環としてとらえることが可能であるためには,カリキ
ュラム改革の背後にどのような本質的問題,あるいは現代的課題が生まれているかを教授団がしっかり
調べ,かつ討議しなければなりません。そういう場合,後半の部分では,明らかに教授たちはFDをやっ
ていることになるし,学校法人はその作業を援助しなければならないのです。
つまり,カリキュラム評価は FD になるということである。このような意味での FD は,今後ますま
す重要になってこよう。
そこで,本稿では,FD・教育評価部門として,大学におけるカリキュラム評価を中心に,カリキュラ
ム評価にかかわる諸問題,すなわち,カリキュラムの定義から始めて,カリキュラム開発,「学習成果」
の評価,カリキュラム評価と「授業評価」や「教育の質保証」の関係などについても検討し,今後のカ
リキュラム評価に向けての問題点を明らかにしたい。
2.カリキュラムとは何か
(1)カリキュラムの定義
そもそもカリキュラムとは何であろうか。教育学者佐藤学は「カリキュラム」の定義に関して,次の
(2)
ように述べている
。
「カリキュラム」という言葉は,古代ローマの戦車競争のトラック(走路)を語源としている。「ク
レレ(currere)」という「走る」という意味のラテン語がその起源である。「走路」を意味する「カリ
キュラム」という言葉は,その後「人生の来歴(コース)」を意味するものとなった。
「カリキュラム」という用語が教育用語として登場するのは,宗教改革以後の大学教育においてであ
った。(中略)こうして「カリキュラム」は制度的に定められた教科の課程を意味する言葉として定着
するが,今世紀初頭のアメリカにおいて意味の変転を遂げている。進歩主義教育の成立と普及によって,
教育行政が定める教育内容と学校において教師が創造する教育内容とが区別され,教育行政が定める教
授要目(シラバス)が「学習指導要領(course of study)」と呼ばれ,学校において教師が創造し生徒が
経験している教育内容の課程が「カリキュラム」と呼ばれるようになった。「学習経験の総体」という
「カリキュラム」の定義は,この過程で成立している。この言葉の語源であった「人生の来歴」という
21
意味が教育用語としての「カリキュラム」と結合して生まれたのが「学習経験の総体」という定義であ
ると言ってもよいだろう。
この「学習経験の総体」という「カリキュラム」の定義は,大学教育にかかわっている多くの人々に
とって,既知の事柄といえないのではないだろうか。
(2)カリキュラムと「教育課程」
では,「教育課程」とは何であろうか。
戦前は,教科の活動は,初等教育学校(小学校など)では「教科課程」,中等教育学校(中学校など)
では「学科課程」と呼ばれていた。教科外活動を表す(あるいは含む)「○○課程」といった用語はな
かった。
「教育課程」は,戦後,文部省が使い始めた教育行政用語である。
1951(昭和26)年に改訂された「学習指導要領」(小学校・中学校・高等学校を対象とした国のカリ
キュラムの基準)の一般編の「Ⅱ 教育課程」には,「児童や生徒がどの学年でどのような教科の学習
や教科以外の活動に従事するのが適当であるかを定め,その教科や教科以外の活動の内容や種類を学年
的に配当づけたものを教育課程といっている」とある。そして「Ⅲ 学校における教育課程の構成」の
「1.教育課程とは何を意味しているか」のなかで「教育課程とは,学校の指導のもとに,実際に児童・
生徒がもつところの教育的な諸経験,または,諸活動の全体を意味している」と定義が示されている。
続いて「2.教育課程はどのように構成すべきであるか」では,「教育課程の構成に当っては,(1)
目標の設定,(2)学習経験の構成ということがたいせつな仕事となる」と述べられている。次に「Ⅳ
教育課程の評価」では,「教育課程を評価することによって,われわれは,一つには,その教育課程の
目ざしている教育目標が,どの程度に実現されることができるかどうかを知ることができる。また二つ
には,教育課程の改善と再構成の仕事の資料を得ることができる。/教育課程は,このように,それを
絶えず評価することによって,常に改善されることになる。したがって教育課程の評価と教育課程の改
善とは連続した一つの仕事であってこれを切り離して考えることはできない。この意味において,教育
課程の評価は,教育課程の計画,その展開とともに,児童・生徒の学習を効果的に進めていく上に欠く
ことのできない仕事である」と述べられている。
上記の「Ⅲ 学校における教育課程の構成」における「教育課程」の定義は,前述の「カリキュラム」
と同義であるといえる。しかし,「Ⅱ 教育課程」の定義では,「カリキュラム」はより狭い意味で使
われ,教育計画と同一視されている。
現代では,「教育課程」は後者,つまり教育計画として,ただし教科だけでなく,教科外も含めての
教育活動の全体計画をさすものとしてとらえられている。
しかし,大学の場合は少々事情が異なる。大学教育で教育行政用語「教育課程」が使われるようにな
ったのは,小・中学校の場合よりはるかに遅く,約40年後のことである。冒頭でも引用した寺崎によれ
ば,1991年7月施行の改正「大学設置基準」のなかで初めて,文部省は「教育課程」ということばを使用
(3)
した
。
現在は,「第六章 教育課程」の第十九条「教育課程の編成方針」の一項に「大学は,当該大学,学
部及び学科又は課程等の教育上の目的を達成するために必要な授業科目を自ら開設し,体系的に教育課
程を編成するものとする」とあり,二項に「教育課程の編成に当たっては,大学は,学部等の専攻に係
22
る専門の学芸を教授するとともに,幅広く深い教養及び総合的な判断力を培い,豊かな人間性を慣用す
るよう適切に配慮しなければならない」とある。続いて第二十条「教育課程の編成方法」には「教育課
程は,各授業科目を必修科目,選択科目及び自由科目に分け,これを各年次に配当して編成するものと
する」と書かれている。
また,寺崎によれば,「カリキュラム編成権は,明治期の初めに日本に大学が発足したときから,大
(4)
学自治権の一部だった。(中略)大学は,その権限をいわば無傷で付与され続けてきた」という
。
このことは「教育課程」という用語が使われるようになったことにも関係があると考えられる。
いずれにしても,上記の「大学設置基準」,中教審(中央教育審議会)答申などにもあらわれている
通り,現代では,大学が「カリキュラム編成権」を「無傷で付与」されているとはいえなくなっている。
以上のことをふまえたうえで,本稿では,教育行政用語「教育課程」ではなく,「カリキュラム」と
いう用語を使うことにする。「学習経験の総体」としての「カリキュラム」をつくるということは,教
育計画とその評価を含んでいることになるが,本稿では,それらを分けて,カリキュラムの開発と評価
について論述する。
3.カリキュラム開発
実際にカリキュラムを開発していくうえで参考になるのは,寺崎が立教大学で実施した方法である。
(5)
それは,次のようなものである
。
カリキュラムは目標がないと立てられません。さらにその目標は,その時々で改善・変更していくべ
きものです。(中略)大学が,文化・科学内容から内容を選択し,スコープとシーケンスをもって科目
(コース)を組み立て,それを学生の学習の歩みとして設定し,順序をもって,ある方向に向かって学
習を指導していくのがカリキュラムですから,変化は当然のことです。
この方法は,実は,1951年「学習指導要領」のなかで,「教育課程の構成に当っては,まず目標をは
っきりとらえることが必要となる。次に,目標を達成するに有効な教育内容や学習活動を選択し,児童・
生徒の経験の発展をはからねばならない」と書かれている方法と変わらない。しかし,このような「教
育課程の構成」が実行に移されることはあまりなかった。日本では「学習指導要領」が小・中・高の教
育内容に対して拘束性をもってきたからである。「総合的な学習の時間」が始まる2000年になってよう
やく自主的なカリキュラム開発(「教育課程」編成)がさかんにおこなわれるようになった。そして「総
合的な学習の時間」のカリキュラム開発において,上記の寺崎の方法がとられることが多くなったので
ある。
(6)
なお,その方法の記述にあるスコープ(scope)とシーケンス(sequence)は,次のような概念である
。
スコープとシーケンスは,1930年代のアメリカで採用され,普及したカリキュラム構成の基調をなす
方法論である。一般に,スコープは領域または範囲,シーケンスは系列または配列と訳されている。
本来,スコープとシーケンスは,経験主義教育論に基づくカリキュラム構成の基本的枠組みとして,
子どもに与えるべき生活経験内容の領域の選択と,それらの年齢的発達の系列を決定する原理として用
いられてきた。しかし今日では,特定の教育的立場から脱して,どのような領域(範囲)から学習内容
を選ぶのか,どのような順序で各学年に配列していくのかにかかわるカリキュラム構成のキーワードと
23
して広く一般に使用されている。
スコープとシーケンスを縦横の軸としてカリキュラムを構成した典型例としては,いわゆるヴァージ
ニア・プランとカリフォルニア・プラン(1930~40年代にアメリカのヴァージニア州およびカリフォル
ニア州で編成された学習指導要領)を挙げることができる。
現代では,スコープとシーケンスは,「カリキュラム構成のキーワードとして広く一般に使用されて
いる」のである。
以上のことをあらためてまとめると,カリキュラムを開発するためには,①なによりもまず,そのカ
リキュラムの目標を設定すること,②次に,文化・科学(学問)から,カリキュラムの横軸としてのス
コープを選択すること,③カリキュラムの縦軸としてのシーケンス,つまり学生が学ぶ内容の順序を決
定すること,が必要である。
4.カリキュラム評価
カリキュラム評価とは,一般に,「カリキュラムにかかわる善し悪しの判定,すなわち価値判断を意
味している」とされている
(7)
。
(1)二つのカリキュラム評価
スクリヴァン(Scriven, M. S.)によれば,カリキュラム評価は,目的に応じて,大きく二つに分けられ
る
(8)
。
一つは,「形成的評価(formative evaluation)」(または「構成的評価」)と呼ばれる。カリキュラム
を開発していく過程で,その開発のねらいに沿って,うまくいっているかどうか(この方向で進めてい
ってよいか,この部分は適切か,など)を判定して,カリキュラムをよりよくしていくためにおこなう
評価である。常時モニターする必要があるため,あまり大がかりでない,手軽な評価をしばしばおこな
うことになる。
もう一つは,「総括的評価(summative evaluation)」(または「集成的評価」)と呼ばれる。カリキュ
ラムが開発された段階で,そのカリキュラムが他の競合するカリキュラムや従来のカリキュラムと比較
して,どのような点で優れているか,どのような点で劣っているかを明らかにして,そのカリキュラム
の採否を決定するための評価である。そのため,客観的で精度の高い,しかも多面的な評価をおこなう
ことが求められる。したがって,「形成的評価」の場合とは異なり,当事者ではなく,第三者のグルー
プによる評価が望ましいということになる。
(2)カリキュラムの次元と評価
田中耕治は,IEA(International Association for the Evaluation of Educational Achievement)の国際調査で
採用された「意図されたカリキュラム(Intended Curriculum)」「実施されたカリキュラム(Implemented
Curriculum)」「達成されたカリキュラム(Attained Curriculum)」という三つの次元を引用し,これら
(9)
の次元に即して,
教育評価はおこなわれていると主張している。そして,次のような説明を加えている 。
このようにカリキュラムを三つの次元で意識化するということは,それぞれの次元には他の次元に解
消されることのない固有の課題があるということを示している。また,「意図」から「実施」を経て「達
成」に向かうベクトルは直線的で垂直的なもの(トップダウン)ではなく,それぞれのレベル間には「ず
24
れ」の発生が予想され,そのための調整と改善の機能が下方のみならず上方に向かって(ボトムアップ)
も発揮されなくてはならない。したがって,教育評価の役割とは,各次元の内部においてのみ機能する
閉じたものではなく,各次元間の調整と改善のためにも機能する開かれたものなのである。
この IEA の「カリキュラム」は,教育計画ではなく,2(1)で述べた「学習経験の総体」ととらえ
るべきであろう。「意図されたカリキュラム」の評価が教育計画の評価であり,「カリキュラム」の目
標と内容・構成(スコープとシーケンス)が適切かどうかを評価するということになる。
そして,田中のいう「ずれ」の例としては,心理学者東洋による次の説明が該当していると考えられ
る
(10)
。
カリキュラムの評価というと,そのカリキュラムがねらいとしていることを主に評価しがちなのですが,
それを採用するかどうかの決定に重要なのは,そのカリキュラムのねらいからはずれていることでどう
いう効果があるか,あるいはどういうマイナスがあるかという情報です。基礎的な知識の確実な定着を
ねらったカリキュラムがあるとすれば,それを採用すべきかどうかを判断する時に見なければならない
のは,カリキュラムが達成されているかどうかと並んで,のびのびと創造的にものを考えられなくなる
ということがないか,学習の楽しさや授業の楽しさが失われていないか,子どもの勉強の仕方が記憶一
点張りになっていないか,等々のことです。
これは,「意図されたカリキュラム」と「達成されたカリキュラム」の「ずれ」とみることができる。
また,この例でも明らかなように,「ずれ」に基づくカリキュラムの調整・改善は,「形成的評価」は
いうまでもなく,「総括的評価」においても重要である。
また,東は,カリキュラム評価に関して,「議論だけでカリキュラム評価をすませるのは,どんなす
ぐれた人の意見を徴するにしても,不十分だ」と述べ,「そのカリキュラムを実際に実施してみたら,
うまくいったかどうか」という実施結果の評価が必要であるが,「うまくいく」というのが「くせもの」
であると指摘している。そして次の例を挙げている
(11)
。
PSSC 物理(物理科学研究委員会)は,ノーベル賞学者のザケーリアス以下,すぐれた研究者のグルー
プと教師たちとの協力ででき上がった,もっとも現代の学問の進運に即した高校物理のカリキュラムだ
という評判を得ていました。実施した結果も,今まで考えられなかったようなすぐれた能力を高校生か
らひき出すことに成功し,さすがはと思わせました。けれども,しばらくすると別の面もわかってきま
した。PSSC をとりいれた高校では,物理を選択しない生徒がふえる傾向があるということです。つま
り,ついてこられない生徒,ついてこようとしない生徒もふえたのです。こうなると,どこに価値を置
くかで評価が変わってきます。トップを引き上げた,という点ではうまくゆきました。しかし,より多
くの生徒を物理に親しませるという点ではうまくゆかなかったのです。
これは,「達成されたカリキュラム」の評価の難しさとともに,「意図されたカリキュラム」「実施
されたカリキュラム」と「達成されたカリキュラム」との「ずれ」を示しているとみることができよう。
大学教育においても,選択科目のあり方などに関係しているので,十分に検討する必要のある問題とい
えよう。
25
(12)
東は,このようにカリキュラム評価の問題を示したうえで,次のようにまとめている
。
このように,生徒や教師の条件が複雑にからんで来ますから,カリキュラムの評価は,具体的な条件
のもとで,多面的に資料を集めてかからなければなりません。どういう条件のもとで,どういう生徒に,
どういう教師が教えたら,どういう面でどういう問題が生じたかということを見なければならないので
す。カリキュラムの評価も,個人の評価と同じく,無理に一列に序列づけようとしないで,そのカリキ
ュラムの「行動」を理解することからはじめるべきだということができます。
以上のことから,確かに,「意図されたカリキュラム」「実施されたカリキュラム」「達成されたカ
リキュラム」という三つの次元に即しての教育評価は必要である。そして実際の作業においては,東が
いうように,「具体的な条件のもとで,多面的に資料を集めて」,カリキュラム評価を進めていかなけ
ればならないであろう。
5.「学習成果」の評価
(1)中教審答申における「学習成果」
近年,欧米での流行も一つの大きな要因であろうが,大学教育に関する論議のなかで「学習成果」と
いうことばが多用されるようになり,囂しい。たとえば,中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」
(2008年12月24日)のなかでは,「学生の身に付ける学習成果」「学生の修得すべき学習成果」「学士
課程教育を通じて到達すべき学習成果」「学部・学科等の目指す学習成果」など,計62個使われている。
答申に付けられた「用語解説」によれば,この「学習成果」の定義とその効果は,次の通りである。
「学習成果」は,プログラムやコースなど,一定の学習期間終了時に,学習者が知り,理解し,行い,
実演できることが期待される内容を言明したもの。「学習成果」は,多くの場合,学習者が獲得すべき
知識,スキル,態度などとして示される。またそれぞれの学習成果は,具体的で,一定の期間で達成可
能であり,学習者にとって意味のある内容で,測定や評価が可能なものでなければならない。学習成果
を中心にして教育プログラムを構築することにより,次のような効果が期待される。
・
従来の教員中心のアプローチから,学生(学習者)中心のアプローチへと転換できること。
・
学生にとっては,到達目標が明確で学習への動機付けが高まること。
・
プログラムレベルでの学習成果の達成には,カリキュラム・マップの作成が不可欠となり, そ
のため,教員同士のコミュニケーションと教育への組織的取組が促進されること。
・
「学習成果」の評価(アセスメント))と結果の公表を通じて,大学のアカウンタビリティが高
まること。
森田司郎は,「カリキュラムとプログラムは本質的に異なるもの」であり,プログラムは「比較的短
期間実施され,効果測定によって捉えることが可能な『子どもの変化』を生じさせることを目的として
構成」されるが,カリキュラムは「長期的,流動的,かつ多面的な『子どもの変容』をその視野に入れ
(13)
ている」と主張している
。この森田の主張は,小・中学校の教育に関するものであるが,大学教育の
場合も同様のことがいえると考えられる。
26
しかし,中教審答申の叙述では,プログラムとカリキュラムの区別は不明確である。どちらかといえ
ば,プログラムは効果が測定できるものであり,カリキュラムは,長期的というよりも,計画が強調さ
れたものとして使われているようにみえる。
たとえそうであっても,中教審答申の「学習成果」の評価は,「達成されたカリキュラム」の評価の
一種であるといってもよいであろう。
(2)「学習成果」の評価とカリキュラム評価
齊藤貴浩は,プログラム評価を「プログラムとして意図した成果が発現しているかどうかの評価」と
(14)
とらえ,次のように述べている
。
学生が充分な教育成果を得ているかどうかが評価され,プログラムが全体として充分な教育成果を学生
が修得できるように構築されているかどうかが評価されるものであるが,現実には教育成果の把握が困
難であることから,後者だけが対象になることが多い。
この齊藤の指摘は,カリキュラム評価の場合にも該当すると考えられる。
とりわけ中教審答申の「学習成果」の評価については,「学生の修得すべき学習成果」といった使わ
れ方がされ,「学習成果を中心にして教育プログラムを構築すること」の効果として「従来の教員中心
のアプローチから,学生(学習者)中心のアプローチへと転換できること」が挙げられているのである
から,どれほど困難であっても,実際に学生が「学習成果」を修得したかどうかを評価する必要がある。
実際にプログラム(あるいは「実施されたカリキュラム」)が「うまくいった」かどうかを評価しない
で済ますわけにはいかない。これがまさに「達成されたカリキュラム」の評価である。プログラムが適
切に構築されているかどうかだけを評価するのであれば,「意図されたカリキュラム」の評価になって
しまう。
また,D. Nusche が,「学習成果」の意味に関して,次のように述べていることも,明確で詳細に定義
された「学習成果」に基づいて編成されたカリキュラムに対して,「達成されたカリキュラム」の評価
(15)
の必要性を示している
。
成果(アウトカム)は,教育機関が教えようと意図する内容ではなく,学生が実際に達成した内容を
さす(Allan, 1996)。(中略)
学習成果という用語は,成果を重視する教育(outcomes-based education)に由来している。成果を重
視する教育とは,学生が何を学習すべきなのかを明確に識別,定義,測定することを特徴とする教育構
造モデルである(Spady, 1988 ; Allan, 1996 ; Andrich, 2002 ; Adam, 2004)。成果を重視する教育システム
では,学生の学習成果が明確かつ詳細に定義され,それにもとづいてカリキュラムが編成される。ここ
で定義とは,学習者が一定の学習期間を終えたときに,どのような知識や理解に至っており,何ができ
るようになっていることが期待されているのかを明らかにするものである(Adam, 2004)。
さらに,この点については,カリキュラム評価を「アウトプット」と「アウトカム」に区別する米村
(16)
まろかによっても,次のように指摘されている
。
アウトプットとは,事業者が何をどれだけしたか,つまり,教師がしたことであり,アウトカムとは,
27
その結果どのような変化が生じたか,つまり,学習者が何をどのように学び,どう変わったか,という
ことである。
カリキュラムを教育課程としてとらえた場合,カリキュラム評価の対象として,教師・学校側がした
こと,すなわち,アウトプットに照準が向きやすい。(中略)
しかし本来,評価は,事業の効果を高めるところ,言いかえれば,カリキュラム評価は教育の効果を
高めるところに,その意味を有している。だから,カリキュラム評価の第一の照準は,アウトカムであ
る学習者が何をどう学んだか,でなければならない。第二の問題として,それがアウトプットとどのよ
うな関係にあるのか,が問われる。
「学習成果」は“learning outcomes”の訳語であり,「アウトカム」である。「アウトカム」評価は「達
成されたカリキュラム」の評価でなければならない。ちなみに,「アウトプット」評価は「実施された
カリキュラム」の評価である。
もっとも,「アメリカでは,1980年代以降,高等教育に対するアカウンタビリティの高まりを背景に,
アクレディテーションにおいて学生の学習成果(アウトカム)が問われるようになっている。(中略)
しかし,アウトカムをどう判断するのかという基準は等閑に付され,実際の評価の場面では評価主体が
アウトカムの質を標準化された状態で確認せざるを得なかったのではないだろうか」と佐藤仁は述べて
(17)
いる
。
結局のところ,「学習成果」を先進的に問題にしてきたアメリカでも,その評価方法は確立されてい
ないのである。
(3)「学習成果」の分類とそのアセスメント
Nusche は,「学習成果」を「認知的成果」と「非認知的成果」に分け,さらに前者を「知識成果」と
「技能成果」に分けている。「認知的成果」のうちの「知識成果」については,「一般的知識」の成果
に着目するアセスメントと「専門分野別知識」の成果に着目するアセスメントがあると Nusche は述べた
(18)
うえで,次のようにいう
。
一般的知識とは,「必修の学習内容」(Maeroff, 2006)とみなされているコア・カリキュラムを構成
する知識をさす。(中略)一般的知識は,高等教育プログラムで教えられている内容のほんの一部分に
すぎないため,一般教育の成果を教育の質の唯一の指標とみなすのは,不十分といえよう。
専門分野別・科目別の知識とは,生物学や文学など,特定の専門分野で習得される知識をさす。専門
分野別知識の成果に着目したアセスメントは,特定の分野における学習の質を機関間で比較する場合に
とくに有効である。(中略)パスカレーラとテレンジィーニ(Pascarella and Terenzini, 2005)によると,
学生は高等教育機関在学中に,自己の専攻と合致する分野において,もっとも著しい成長を遂げる。さ
らに専門分野別の知識の習得は,他の種類の成果と比較して,高等教育機関で教育・学習されている内
容と,はるかに強く結びついている(Allan, 1996)。したがって高等教育機関のアカウンタビリティは,
学生がそれぞれの専攻分野においてどれだけ専門的知識を習得したかという点について,もっとも重点
的に問われるべきであろう。
Nusche の主張は当然のことである。「学士課程教育を通じて到達すべき学習成果」の評価,つまり「達
成されたカリキュラム」の評価については,「専門分野別知識」を重点的に問うて評価することが不可
28
欠である。
Nusche は,「技能成果」についても,「一般的技能」の成果に着目するアセスメントと「専門分野別
技能」の成果に着目するアセスメントに分けている。Nusche の議論で興味深いのは,「一般的技能」に
(19)
関する次の指摘である
。
一般的技能は実際にどこで習得され,大学はその育成にいかなる役割を果たしているのだろうか。学術
的技能という観点からみた学生の発達は,学生の年齢と相関をもつことを明らかにした研究もある
(Banta and Pike, in Ewell, 1991)。そうした年齢と能力との相関関係から示唆されるのは,技能の成果の
一部は,高等教育機関での学習ではなく,社会的成熟の結果としてもたらされることである(Ewell, 1991)。
したがって,一般的技能のアセスメントは,高等教育機関による学生の学習へのインパクトよりも,学
生の知能や過去の学校教育の結果を主に測定する結果に陥る危険性をはらんでいる。
これは「一般的技能」が一般的だからこそ生じる問題だとはいえないであろう。「一般的技能」に限
らず,どのような「学習成果」についても,大学教育だけで習得したもの(達成されたもの)とみなす
のは明白な誤りである。
また,一見「一般的技能」に属すると判断されやすいが,その内実は「専門分野別技能」に属するも
のもある。たとえば「数的処理能力」や「読解力」の習得(達成)については,いうまでもなく文学部・
法学部と理学部・工学部とで,同一のアセスメント・ツールで測定しても(測定できたとして)無意味
である。むしろ「専門分野別技能」としてのアセスメントを考える必要があろう。
(4)認証評価における評価基準
大学評価・学位授与機構による「大学機関別認証評価」の大学評価基準(2011年3月改訂版)によれば,
学士課程のカリキュラム評価については,とくに下記の基準5と基準6が関係している。
基準5 教育内容及び方法
5-1 教育課程の編成・実施方針(カリキュラム・ポリシー) が明確に定められ,それに基づいて
教育課程が体系的に編成されており,その内容,水準が授与される学位名において適切である
こと。
5-2 教育課程を展開するにふさわしい授業形態,学習指導法等が整備されていること。
基準6 学習成果
6-1 教育の目的や養成しようとする人材像に照らして,学生が身に付けるべき知識・技能・態度
等について,学習成果が上がっていること。
6-2 卒業(修了)後の進路状況等から判断して,学習成果が上がっていること。
「学習成果」が直接的な評価基準になっているのは,基準6である。その基本的な観点は下記の通り
である。しかし,これらは,「学習成果」を評価するための資料を収集する方法をいくつか示している
だけであり,実際に評価をおこなうさいに,客観的なツールになるようなものではない。たとえば,観
点6-1-①では,あらためて「状況」や「内容・水準」等の客観的な判断基準を作成しなければなら
ないのである。
29
観点6-1-①: 各学年や卒業(修了)時等において学生が身に付けるべき知識・技能・態度等に
ついて,単位修得,進級,卒業(修了)の状況,資格取得の状況等から,あるいは
卒業(学位)論文等の内容・水準から判断して,学習成果が上がっているか。
観点6-1-②: 学習の達成度や満足度に関する学生からの意見聴取の結果等から判断して,学習
成果が上がっているか。
観点6-2-①: 就職や進学といった卒業(修了)後の進路の状況等の実績から判断して,学習成
果が上がっているか。
観点6-2-②: 卒業(修了)生や,就職先等の関係者からの意見聴取の結果から判断して,学習
成果が上がっているか。
6.カリキュラム評価にかかわる諸問題
(1)カリキュラム評価と「授業評価」
(20)
カリキュラム評価は,いわゆる「授業評価」とどのような関係があるのであろうか
。
田中統治は,小・中学校を念頭に置いてであるが,「授業評価」とカリキュラム評価の関係について,
「学力保障の道筋が『授業評価→単元評価→カリキュラム評価→学校評価→学校改善』の順に進むと考
(21)
える」という
。
そして「カリキュラム評価は,授業・単元評価から始めるほうが実際的である。つまり,ミクロから
(22)
マクロへ立ち上げていく形で,教師がやりやすいところから始めたい」と述べている
。
大学においても,教育の目標によっては,ゼロからカリキュラム開発をおこなうのではなく,「授業
評価」から始めて,カリキュラム評価を経て,カリキュラムの改善や改革の順に進めていくことは有用
であると考えられる。
(2)カリキュラム評価と「教育の質保証」
大学評価・学位授与機構による「大学機関別認証評価」の大学評価基準(2011年3月改訂版)によれば,
「教育の質保証」の問題は,とくに下記の基準8が関係している。ここでの評価はカリキュラム評価,
とりわけ「達成されたカリキュラム」の評価に大きく関係している。
基準8 教育の内部質保証システム
8-1 教育の状況について点検・評価し,その結果に基づいて教育の質の改善・向上を図るための
体制が整備され,機能していること。
8-2 教員,教育支援者及び教育補助者に対する研修等,教育の質の改善・向上を図るための取組
が適切に行われ,機能していること。
① PDCA サイクル
上記の評価基準にも,その基本的な観点にも「PDCA サイクル」ということば自体はないが,前述の
中教審答申のなかでは,「教育の質保証」のために「大学に期待される取組」として「学位授与の方針
の策定に当たって,PDCA サイクルが稼働するようにする」と書かれている。実際,カリキュラム評価
を含め,「教育の質保証」の評価にかかわる論議においては「PDCA サイクル」が強調されることは少
なくない。しかし,問題がないわけではない。重本直利は,PDCA サイクルは大学評価に「不適合」で
30
あり,「質保証」のために PDCA サイクルを導入するという考え方は誤りで,大学評価は「コミュニケ
ーション過程」でなければならないと主張している
(23)
。
東も,大学評価というよりも教育評価一般についての指摘であるが,「評価をすることは一つのコミ
ュニケーションであり,コミュニケーションがよい効果を持つためには情報の背後に相手の基本的な好
意ないし受容が感知されなければなりません」と述べている
(24)
。大学評価は,この例外ではない。「教
育の質保証」が工業製品の品質管理と同様の考え方で扱われて進められることがないようにするために
は,カリキュラム評価などの教育評価が,よい効果をもつコミュニケーションになるようにしていくこ
とがきわめて重要である。
② 「工学的アプローチ」と「羅生門的アプローチ」
OECD 教育研究革新センター・文部省共催「カリキュラム開発に関する国際セミナー」(1974年)に
おいて,アメリカの研究者アトキン(Atkin, J. M.)は,カリキュラム開発の一般的方略として,「工学
的アプローチ」と「羅生門的アプローチ」を対比させた。
それぞれの「一般的手続き」,すなわちカリキュラム開発の手順は,表1の通りである。この二つの
(25)
アプローチの対比は,表2の通り,カリキュラムの「評価と研究」の観点において,より鮮明となる
。
「教育の質保証」,とりわけ「PDCA サイクル」の稼働が強調される場合は,評価の観点を固定して,
もっぱら「工学的アプローチ」によるカリキュラムの開発と評価をおこなうことになりかねない。しか
し,カリキュラムの改善や改革のためには,カリキュラムを創造的に開発し,性急に良し悪しを決めつ
けない,多面的で目標にとらわれない評価をおこなう「羅生門的アプローチ」が必要不可欠であろう。
表1 一般的手続きにおける「工学的アプローチ」と「羅生門的アプローチ」の対比
一般的手続き
工学的アプローチ
羅生門的アプローチ
一般的目標
一般的目標
↓
↓
特殊目標
創造的教授・学習活動
↓
↓
行動的目標
記述
↓
↓
教材
一般的目標に照らした判断評価
↓
教授・学習過程
↓
行動目標に照らした評価
表2 評価と研究における「工学的アプローチ」と「羅生門的アプローチ」の対比
評価と研究
工学的アプローチ
羅生門的アプローチ
目標に準拠した評価
一般的な評価枠組
心理測定的テスト
標本抽出法
目標にとらわれない評価
さまざまな視点
常識的記述
事例法
31
7.おわりに
以上,今後のカリキュラム評価に向けて,さらに検討すべき問題点を明らかにしてきた。ここであら
ためて総括することはしないが,明言できることは,大学におけるカリキュラム評価の方法が確立して
いないということである。本稿で述べてきた問題点については,今後も,より一層深く,かつ多面的に
議論を続けていくことが必要であろう。
その問題点にかかわることであるが,2012年2月16日付の朝日新聞に「大学生の成長チェック」という
見出しで,次のようなリードがある。
文部科学省は,現役学生向けの「共通テスト」を開発する検討に入った。入学後と卒業前に2度受験
すれば,在学中の学習成果の伸びが客観的にわかるようにする。結果を分析してカリキュラムの改善に
役立てたい考えだ。
そのテストの内容については,次のように書かれている。
大学生の「能力測定」と位置づけ,年に1回,読解力,論理的思考力,批判的な思考力,文章表現力
などを問うことを想定。大学の講義にどれくらい主体的に参加しているかといった学習態度のアンケー
トも課す。同じ学生が2度受ければ,成長度を「可視化」できると期待する。
これは,いわば実験研究として,プレテストとポストテストを実施し,その結果の差によって成長度
を測るということである。「学習成果」の評価を意図していると考えられる。
しかし、これまで論じてきたように、「学習成果」の客観的評価はけっして容易ではない(26)。
こういったことにどのように対応するかを検討するためにも,そしてなによりも大学教育改善のため
に,カリキュラム評価は継続しておこなっていく必要がある。
注
(1)
寺崎昌男 (2010). 大学自らの総合力―理念とFDそしてSD,東信堂.pp. 96-97.
(2)
佐藤学 (1996). 教育方法学,岩波書店.pp. 105-106.
(3)
寺崎昌男 (2002). 大学教育の可能性―教養教育・評価・実践,東信堂.p. 89.
(4)
同上.p. 90.
(5)
寺崎昌男 (2007). 大学改革 その先を読む―立教大学「大学教育開発・支援センター」連続
セミナー講演記録,東信堂.p. 96.
(6)
日本カリキュラム学会編 (2001). 現代カリキュラム事典,ぎょうせい.p. 21(木村博一執筆).
(7)
同上.p. 183(浅沼茂執筆).
(8)
次の二つの文献による。
東洋 (2001). 子どもの能力と教育評価 第2版,東京大学出版会.pp. 61-63.
根津朋実 (2005) 何のためにカリキュラムを評価するのか. 田中統治(編) カリキュラム
評価の考え方進め方(教職研修増刊),教育開発研究所.pp. 12-13.
(9)
田中耕治 (2008). 教育評価,岩波書店.pp. 83-84.
32
(10) 東(2001),前掲.p. 62.
(11) 同上.pp. 64-65.
(12) 同上.p. 65.
(13) 森田司郎 (2009). 民間団体教育プログラムの評価. 田中統治・根津朋実(編)
カリキュラム
評価入門,勁草書房.p. 288.
(14) 大学評価学会編集委員会(編)
(2011). 大学評価基本用語100(シリーズ「大学評価を考える」
第5巻),晃洋書房.p. 162.
(15) Nusche, D.(深堀聰子訳) (2008).
高等教育における学習成果アセスメント―特筆すべき事
例の比較研究―,OECD 教育関連ワーキングペーパー No. 15.pp. 8-9.
(16) 米村まろか (2005).
カリキュラム評価における主観性と客観性をどうとらえるか. 田中統
治(編) カリキュラム評価の考え方・進め方(教職研修増刊),教育開発研究所.pp. 72-73.
(17) 『大学評価学会通信』第25号(2010年10月18日).pp. 5-6.
(18) Nusche (2008),前掲.pp. 10-11.
「非認知的成果」は,「隠れたカリキュラム」(「潜在的カリキュラム」)に関する成果や,小・
中学校における教科外活動に相当する学習成果とみることができるので,ここでは「顕在的カリキ
ュラム」による学習成果となりうる「認知的成果」だけを検討することにする。
(19) 同上,pp. 11-12.
(20) 大学の授業において受講学生に対してアンケートを実施することは,一般に「授業評価」と呼ば
れている。しかし,この「授業評価」は,大学評価・学位授与機構による認証評価の評価基準の
観点にある文言を使えば,「学生からの意見聴取」の一種としての調査というべきであろう。こ
こでは,単に簡便のために「授業評価」と呼ぶことにする。
(21) 田中統治
(2009). カリキュラム評価の必要性と意義. 田中統治・根津朋実(編) カリキュ
ラム評価入門,勁草書房.p. 16.
(22) 田中統治
(2005). カリキュラムの「効果測定」はどうすれば可能か. 田中統治(編) カリ
キュラム評価の考え方・進め方(教職研修増刊),教育開発研究所.p. 107.
(23) 重本直利
(2011). PDCAサイクルは大学評価に不適合である―「サイクル」と「コミュニケ
ーション」の対立―. 大学評価学会編集委員会(編) 認証評価の効果を問う(シリーズ「大学評
価を考える」第6巻),晃洋書房.p. 70,p. 77.
(24) 東 (2001),前掲.p. 12.
(25) 文部省 (1975).
カリキュラム開発の課題,大蔵省印刷局. ただし,引用は次の文献による。
佐藤学 (1996),前掲.pp. 52-56.
(26)
入学から卒業までという短期間であっても,「学習成果の伸び」を的確に把握するためには,
G.Wigginsらのいう「真正の評価(authentic assessment)」を実行すべきである。そのためには,
適切なパフォーマンス課題を与えて評価する必要があろうが,そのようなパフォーマンス課題を
作成することも容易ではない。ペーパー・テストやアンケートによる「能力測定」では、佐藤仁
が述べていたように、単に「評価主体がアウトカムの質を標準化された状態で確認」するという
ことになりかねない。筆者らは2009年度に「学習成果」の習得状況についてアンケート調査を実
施したが(熊本大学教育会議(編)(2010).「卒業生(予定者)・就職先へのアンケート調査」
実施報告書.),「学習成果」に対する「真正の評価」をおこなうことはきわめて困難であった。
33
教
育
研
究
報
告
コミュニケーション能力を高める「基礎セミナー」
大学教育機能開発総合研究センター 本間 里見
1.はじめに
基礎セミナーは、大学教育へのオリエンテーション科目として、1994 年度から実施されてきた科目
である。2011 年度からスタートした新カリキュラムにおいては、学士課程教育に期待される学習成果
のうち「創造的な知性」に対応する初年次科目として新たに設計しなおされ、特に新入生のコミュニケ
ーション能力を高めることに特化した1単位の必修科目としてリニューアルされた。この基礎セミナー
の意義は、新入生に対する初年次教育・転換教育の一環として、学生が課題を設定し、能動的に調べ、
議論するといった学生主体型・参加型授業を体験させること、及び、総合大学であることを活かした学
部混成型のクラス編成により、多様な関心・進路の学生が共に学ぶことにある。少人数のゼミ形式の授
業は、各学部における教育でも導入され、教育効果を上げているが、その多くは、専門的知識や研究方
法の習得及び深化を意図している。それに対し、基礎セミナーは、学士課程教育全体における学生主体
型授業、とりわけ少人数ゼミ形式の授業形態への導入を図ること、及び、アカデミックな場におけるコ
ミュニケーション能力を高めることを目的としている点が特徴である。
本稿では、教養教育機構が発行する基礎セミナー共通指導ガイドライン[1]をもとに、リニューアル後
の基礎セミナーの概要を解説し、一年目の運用実績について報告したい。
2.基礎セミナーの概要
(1)授業の目的
基礎セミナーは、
「熊本大学学士課程教育に期待される学習成果」が掲げる7つの学習成果のうち、
特に、学習成果3「創造的な知性」の育成に対応する科目であり、大学教育へのオリエンテーション科
目(必修科目)と位置づけられている。学習成果3「創造的な知性」は、自分で課題を発見し、解決の
ために必要な調査・研究及び実践に個人やチームで取り組み、その成果を論理的に発表・討議する能力
を持っていること、と規定されている。この学習成果を達成するために専門教育の中で演習、実験・実
習、調査研究、そして卒業研究へと学生の主体的な課題研究プログラムが用意されている。基礎セミナ
ーは、初年次教育として、アカデミックの場におけるコミュニケーション能力を高め、専門教育への橋
渡しを意図している。
具体的には、大学教育を受けるために必要な三つの資質の育成を目的としている。
① 自主的・自律的学習能力
② 論理的思考方法や科学的思考方法及び適切な自己表現力
③ 他者(学生相互及び教員等)とのコミュニケーション能力
これらの目的を達成するため、グループワークを中心として、課題を調査・分析し、討論・発表等
を行なう。
37
(2)授業形式
学生の知的好奇心や学問分野への興味の幅を持
たせるため、全学部の教員から多様な授業テーマが
提供される。
① 授業形式
1単位(15 時間)の必修科目であり、一方的な講
義形式の授業は行わない。授業形式は、
「演習」
、
「実
験」
、「実習」
、「実技(芸術)
」
、「実技(スポーツ)」
とする。
② 開講時期
基礎セミナーは、大学教育へのオリエンテーション科目として位置づけられるため、前学期に開講さ
れる。また、1学期を前半と後半に分けて開講する。各学部の責任開講コマ数の配分は、教養教育機構
で決定される。
(3)クラス編制
基礎セミナーは全学部教員から約 100 テーマが提供され、学生は受講するテーマを選択することがで
きる。入学直後に希望テーアの調査があり、マークシートを使った電算処理によりクラス分けが実施さ
れる。学生は第5希望までテーマを選択できるが、必ずしも第1希望のクラスに配属されるわけではな
い。
(第1希望で配属される学生は6割程度)
。したがって、各クラスに配属された学生のテーマに対す
るモチベーションには温度差があり、そのことが授業開始当初の学習意欲に影響を与えることがある。
この点に配慮して、授業開始時にはできるだけテーマについて興味がわくような指導が必要である。し
かしながら、学生アンケートによると、希望どおりに配属されなかった学生からも、授業終了後は高い
評価を得ている授業も多く見られる。つまり、教員の指導により新しい興味を喚起し、学習意欲を高め
ることができる。なお、受講希望調査の際に、希望受講者数が3名未満の場合、基礎セミナーの目的を
達成することが困難となるため、当該クラスを不開講としている。
(4)成績評価
基礎セミナーは、コミュニケーション能力、学生の自主的・自律的な学習能力、を養うことに主眼が
置かれている。したがって、知識を問うペーパーテスト等による成績評価はなじまないと考えている。
また、コミュニケーション能力を涵養するためには授業への出席は大前提であり、欠席についての取扱
は厳しい姿勢で臨んでいる。成績評価は、授業への貢献や出席状況、学習への取り組み、随時の発表・
報告及び課題等を総合的に判断し、秀・優・良・可・不可の5段階評価ではなく、2段階判定(合否型)
としている。
(評価観点)
・ 自主的な学習活動状況もしくはそれに対しての態度
・ 他者とのコミュニケーション能力の展開(発表や質疑応答)
・ 課題に対する積極的な取り組み姿勢とその成果
・ その他、授業テーマにおける固有の観点
38
3.講義内容
授業テーマや授業方法については、担当教員による創意工夫が基礎セミナーの趣旨に沿う形でなされ
るべきであるという考え方に立ち、画一的な講義内容は設定されていない。授業担当教員は、このこと
を踏まえた上で、以下のような内容を適宜取り入れ、授業を計画するよう求められている。
(1)オリエンテーション
初回の授業は、大学のオリエンテーションとして、円滑な授業運営の土台作りを行うために、例えば
次のような内容を授業に取り入れている。
・ 学生に基礎セミナーの趣旨と授業の到達目標を確認する。
・ 学生および教員の自己紹介を十分時間をかけて行う。この際、各人に自己紹介カードを作成させ
るなどして、有効活用することも考えられる。
・ アイスブレーキングを十分に行い、グループワークが円滑に行なわれるよう配慮する。
(2)グループワーク
基礎セミナーでは、グループで課題に取り組むことを原則としている。しかしながら、新入生はグル
ープワークに不慣れなことが多く、戸惑うことが予想されるため、クラスの状況に応じて柔軟に指導す
る必要がある。グループワークを行う際にはその特性を理解し、十分な準備が必要である。グループワ
ークを推進する上で、ジョンソン(2)の協同学習を参考に授業開発が行われている。
グループワーク(協同学習)の基本要素として、以下の点を押さえた授業展開を心がけた。
・ 互恵的な相互依存関係
メンバーは、グループ課題の遂行のために互いを必要とすることを自覚すること。
・ 対面的で促進的な相互交流
メンバーは助けあい、共有しあい、学ぶことに対する取り組みをはげましあうことによって、互い
の学習を増進すること。
・ 個人のアカウンタビリティ
各メンバーの学習状況はしばしば査定され、結果は個人とグループに返されること。
・ 社会的技能
各メンバーは、必要とされる社会的技能を身につけること。
・ 協同活動評価
グループは、いかによくグループの目標を達成し、メンバー間の効果的な作業の関係を維持してい
るかを話し合うこと。
(3)口頭発表と討論
入学当初の段階で口頭発表に十分な自信をもって臨める学生は、かなり限られているものと思われる。
したがって、発表する個々の学生やグループに対し、教員が適切な指導を行うことが求められる。さら
に、今の若者は積極的に討論に参加しないと言われるが、討論を活性化させるために様々な工夫が行わ
れている。例として次のような工夫が行われている。
・ 学生に対し発表の機会を均等に与えるように努める。
・ 発表の方法を予め学生に指導する。
・ 発表のルールを予め通知しておく。たとえば、発表の日程・順番、発表時間等を予め決めておく、
39
などする。
・ 発表について教員が問題点や良かった点などを指摘するなどして、学生に口頭発表についての進
展が図られるよう心掛ける。
・ 議論や、発言の方法について具体的な指示を与える。たとえば、テーマを身近なものに引きつけ
て考えることなどを提案するなど。
・ バズ・セッションやディベート、ブレーン・ストーミングなど、多様な討論方法を工夫する。
・ 討論内容・資料を予め学生に与えておくことによって、意見形成を引き出す。
(4)PBL(問題に基づく学習方法)
自主的で相互依存的な小グループによる問題に基づく学習方法である。PBL では、教員が課題をシナ
リオ形式で設定し、学生がグループでそのシナリオから課題発見・調査・分析・発表を行なう。この学
習のプロセスを通して、統合的な知識体系、思考方法、グループ活動の方法を学ぶことを、目的として
いる。共通指導ガイドラインでは、PBL を基礎セミナーに導入するにあたり、以下の点に留意するよう
に求めている。
・ 問題(学習課題)に立脚した学習であること
・ 学生主導による学習であること
・ グループ学習すること
・ 教員がファシリテータとなり、グループ学習を促進する役割を果たすこと
・ 教員は知識伝達者から学習支援者となること
4.実施状況
(1)多様なテーマの提供
本学の全新入生は約 1850 名であり、1 クラス 20 名でクラスを編成すると、93 クラス以上開講する
必要がある。再履修学生にも配慮して、2011 年度は、97 クラスを編成した。この 97 クラスを学部に
開講責任コマ数として配分し、各学部において、基礎セミナー担当者が決定される。基礎セミナーのテ
ーマは、担当教員の専門性や志向により自由に設定されるが、特定の学部学生向けではなく、教養教育
として、どの学部学生でも興味を持って履修できるようなテーマの設定が推奨されている。2011 年度
に開講されたテーマ一覧を次ページに示す。自然科学系、自分社会系、生命系、芸術系と非常に多様な
テーマが提供されている。工学部は、学部として「ものづくり教育」を全学に提供することを目的とし
て、組織的にテーマを設定している。
(2)実施体制
教養教育は、教養教育機構の基に設置された教養教育教務委員会によって実務的な運営が行われるが、
基礎セミナーは、教養教育教務委員会におかれた基礎セミナー等部会が実施を担当している。基礎セミ
ナー等部会は、各学部選出メンバーと大学教育機能開発総合研究センター教員で構成されており、授業
計画、クラス編制、ガイドライン作成、予算配分、授業改善等について、管理・運営を担当している。
5.授業改善に向けて
リニューアルした基礎セミナーは、今年度が実施初年度であり、これまで基礎セミナーを担当したこ
40
とのある教員にとっても初めての講義となる。担当教員から提出された実施報告から、以下の点で改善
が必要だと思われる。
・ グループワークについて
担当教員はグルークワークについて、学習効果を認めながらも、教授法としてその経験不足を
懸念している。コミュニケーション及びグループワークに関する教員側の指導力向上のための
FD 活動が必要と考える。
・ 授業時間について
基礎セミナーは 1 単位科目であり、7〜8コマで構成されているが、本科目の目的であるコミ
ュニケーションを育成するには、時間が短いとの指摘が多かった。確かに十分な学習時間は確
保できないが、ゼミ形式を短時間でも体験・理解させることで、専門教育における討論を中心
とした授業形式のイントロダクションの役割を果たすことは可能である。
・ カリキュラムの連携について
初年次教育科目であるベーシックの学習内容と連携して内容を充実させる必要がある。例えば、
調査・発表のために、図書・資料検索やレポート作成のスキルを活かせるようにベーシックの
学習内容の充実、学習時期の工夫等が必要となる。
参考文献
(1) 熊本大学教養教育機構, 基礎セミナー共通指導ガイドライン(2011 年度版), 学内配布冊子, 2010
(2) DW ジョンソン他, 学生参加型の大学授業−協同学習への実践ガイド, 玉川大学出版部,2001
41
【2011年度 基礎セミナー授業テーマ一覧】
学
期
曜
日
時 クラス
限 番号
3
テーマ名
学
期
担当教員
曜
日
時 クラス
限 番号
Introduction to “Haiku”
Richard Gilbert
49 テレビ・ドラマを科学する
江川 良裕
3
宮沢賢治を読む(1)
萬羽 晴夫
50 Developing Critical Thinking Through English
Terry Laskowski
4
人間理解の基礎
吉田/中山/高原/田中
51 宮沢賢治を読む(2)
萬羽 晴夫
6
遺伝子の不思議
斉藤 寿仁
53 環境と化学物質
大平 慎一
7
円周率を通して見る世界史
安藤 直也
54 植物学のすすめ
澤 進一郎
8
健康とセルフケア
花田 妙子
55 ものづくり入門(7) はかってつくる中波ラジオ※
松島 章
9
ものづくり入門(7) はかってつくる中波ラジオ※
松島 章
56 デザインを志向する
本間 里見
千島 英一
57 琉球文化への招待
荻野 蔵平
3
音楽を聴くことと音楽について語ることについて考え
11 てみよう。※
大杉 佳弘
木
5
前
学
期
(
前
半
3
)
12 中・東欧諸国の「歴史」について考える※
上田 理恵子
13
河野 順子
上田 理恵子
60 空気を再び発見する
田中 明
61 自己と非自己
江頭 恒
62 暮らしと化学
町田 正人
16 宇宙地球学、回避できるか文明崩壊・人類絶滅 吉朝 朗
63 ものづくり入門(2) してはいけないリサイクル
河原 正泰
17 ものづくり入門(1) ものづくりから考える暮らしと化学
國武 雅司
84 解析の楽しさ
谷川 智幸
18 地域の環境と暮らし※
牧野 厚史
2
濱田 明
19 番組を作ろう※
三瓶 弘喜
64 地域の環境と暮らし※
牧野 厚史
20 紙による立体造形
梅田 素博
65 番組を作ろう※
三瓶 弘喜
21 日本の経営組織※
岩田 奇志
66 人はなぜ服を着るのだろう
雙田 珠己
22 模擬国連総会を開催しよう!
林 一郎
67 日本の経営組織※
岩田 奇志
23 物性化学入門
速水 真也
68 生きるとは
佐藤 栄治
24 物理のこころ※
藤井 宗明
69 物理のこころ※
藤井 宗明
25 ものづくり入門(4) 風景の発見
小林 一郎
70 人間関係論
前田 ひとみ
26 算数・数学のわかり方について考える
菅岡 強司
71
森 和也
27 韓・中・日三国の比較文化※
朴 美子
28 熊本の遺跡を探る
杉井 健
29 情報マップを作る
岡部 勉
30 ガラス科学の基礎と応用
村田 貴広
31 身近な法律のお話
山根 聡恵
(
後
半
32 化学実験をして色について考えてみよう
樽井 能生
)
33 数理パズルから数学へ※
34 原子力エネルギ-と放射線
14 人文社会系基本文献講読入門
外川 健一
15 海と生命
瀧尾 進
5
4
木
5
前
学
期
フランスについて調べてみよう
ものづくり入門(3) 力学に基づくペットボトルロケット製作
72 韓・中・日三国の比較文化※
朴 美子
73 ドイツ語圏文化について調べてみよう!
T.バウアー
74 大気環境を考える
飯野 直子
75 地図と叙述から読み解く世界観の変遷
苑田 亜矢
76 栽培植物の起源と進化
副島 顕子
77 数理パズルから数学へ※
阿部 健
阿部 健
78 国内外の水環境・水資源を考える
嶋田 純
冨吉 勝美
79 科学技術と環境
佐田富 道雄
河村 能人
民事・刑事重要判例摘録
52 -いまと江戸を比べると・・・-※
山中 至
山中 至
80 療法としての音楽※
木村 博子
36 療法としての音楽※
木村 博子
81 異文化理解とメディア
山下 徹
37 中国文化と日本
屋敷 信晴
82 『古事記』をよむ
木下 尚子
38 自分を知る・熊大を知る※
小澤 雄二
83 自分を知る・熊大を知る※
小澤 雄二
39 税金の無駄遣いを斬る※
大脇 成昭
85 税金の無駄遣いを斬る※
大脇 成昭
40 耳を傾け、異見を構築する
伊藤 雅浩
86 My判決、つくってみよう
三谷 仁美
41 科学の方法〜クスリと賢くつきあうには〜
入江徹美/矢原正治
87 医療人文学と映画
浅井 篤
42 ものづくり入門(5) 立体を組み立てる
植田 宏
88 ものづくり入門(6) 立体を切断する
植田 宏
43 哲学的思考の初歩※
大辻 正晴
89 哲学的思考の初歩※
大辻 正晴
44 熊本大学の歴史
三澤 純
90 英語で考える日本文化
坂元 昌樹
45 Academic communication in English
Ian Isemonger
91 見て楽しい,触って楽しい教材づくり
塚本光夫/田口浩継
46 幾何の楽しさ
伊藤 仁一
92 ときめき化学実験
池見 公芳
47 女と男、雌と雄
安部 眞一
93 「Nature」で読む最先端科学
高橋 慶太郎
48 自然と社会をシミュレーションで見る
下條 冬樹
94 生物を化学(科学)の目で見る。
棚瀬 純男
吉玉 國二郎
健やかなライフサイクルへのアプロ-チ
95 ―胎児期から青年期まで
宮里 邦子
97 生命(いのち)について※
吉玉 國二郎
5
4
音楽を聴くことと音楽について語ることについて考え
58 てみよう。※
大杉 佳弘
59 中・東欧諸国の「歴史」について考える※
これからの社会に求められるコミュニケーション能力の育成
35 大学・大学院で如何に学ぶべきか
金
担当教員
1
10 中国について研究してみよう
4
テーマ名
民事・刑事重要判例摘録
-いまと江戸を比べると・・・-※
96 生命(いのち)について※
3
金 4
5
注) ※印のついているテーマは、前半・後半で同じ内容であることを表します。
42
基礎セミナー「中・東欧諸国の歴史について考える」実践報告
教育学部
上田理恵子
はじめに
授業回数を 8 回とする新カリキュラムの基礎セミナーを担当することとなった。 大学教育の導入科
目としてのセミナーの位置付けや目的は『基礎セミナー共通指導ガイドライン
2011 年版』に明記さ
れている。事前の説明会では、その中でも、学生相互・教員との双方向的コミュニケーション能力を高
めること、誤解を恐れずに単純化すれば、
「教員や学生相互と話し合いができること」
「人前で発表でき
ること」に力点が置かれていたと記憶している。
大学によっては初年次教育には熟練教員が優先して担当するとも聞く。コミュニケーションや議論の
方法を専門に研究する教員が優先的に担当するとも聞いたことがある。筆者は、そのどちらでもない。
指導方法について研修があれば、自分が受講生になりたいくらいである。
したがって、本報告は決して模範的な実践例の紹介ではない。むしろ経験の乏しい教員の目線から、
初めて担当した授業について、自分では工夫したと思える点、計画と実際のずれ、反省点を明らかにし
ておき、授業担当者間の共有化につながらないかと考えている。今年度は前半・後半とも筆者が担当す
ることになったので、両者の経験を比較しながらの考察としたい。
1.授業計画
【授業の目標】
1)異文化に対する理解と対話に向けた姿勢を身につける。
2)グループ活動において、自らの役割を認識し、貢献することができる。
3)違う意見に耳を傾け、意見を述べ合うなどし、アイデアや考えを発展させることができる。
4)共通するテーマについてのブックトークや発表を通して、プレゼンテーションの技法を身につける。
【授業概要】この授業の概要:
本セミナーでは、高校までの世界史の教科書で、あまりなじみの多くなかったと思える「中・東欧」
という地域について、メディア情報、邦文で発表されている文献を手掛かりにさまざまな分野からこれ
らの地域における「歴史」理解に迫ります。最後に、議論の成果を踏まえたプレゼンテーションを行っ
ていただきます。
キーワードには「中・東欧
民族 ナショナリズム
歴史」を選び、参考文献には、さしあたって大
津留厚『ハプスブルクの実験―多文化共存を目指して―』
(春風社、2007 年)、E.H.カー/清水幾太
郎訳『歴史とは何か』
(岩波書店、1962 年)
、南塚信吾編『ドナウ・ヨーロッパ史』
(山川出版社、1999
年)の三冊を挙げておいた。このほか、履修上の指導として、授業開始までに高校の世界史の教科書を
読み返してくるよう、要望しておいた。
日頃、教育学部で法律関連科目を担当しながらの準備なので、例えば歴史学の専門家をさしおいてお
こがましい計画かもしれないが、今回は新入生とともに教員側も新しいことに挑戦するつもりだった。
43
旧社会主義国や旧ハプスブルク帝国の領域を中心に扱うつもりでひとまず選んだ「中・東欧」という
呼び方の地域がどこまでを指すか、時代や文脈によって「中欧」、
「東欧」、
「中・東欧」、
「東中欧」等等、
研究者の間でも議論となっている。言語、民族、宗教も多様で複雑な印象ばかりが先に立つばかりで、
日本からは遠く、日頃から決してなじみのある地域ではない。
そうした「中・東欧地域」における「歴史」への糸口をいくつか提示することで、高校の教科書から
解放されたばかりの学生諸君がどのような受け止め方をするか、筆者自身が研究する「場」ともなる地
域でもあるので、少しでも「発見」や「気づき」の手助けができないか、またそうした彼らから講ずる
側も学ぶことがあるのではないか、期待も込めて資料を探し、授業計画を立てた。
2.受講生の状況
前半 20 名の受講生の所属学部の内訳は、文学部5名、教育学部 4 名、法学部 5 名、工学部 4 名、医
学部 1 名、薬学部 1 名であった。希望順位については第 1 順位 17 名、第 2 順位 3 名となった。
後半 19 名の受講生について、所属学部の内訳は、文学部6名、教育学部 8 名、法学部1名、学部3
名、薬学部 1 名となった。前半と大きく異なるのは希望順位で、第 1 順位 4 名、第 2 順位 3 名、第 3
順位 6 名、第 4 順位 5 名、第 5 順位 1 名であった。
第 1 回では隣席者へのインタヴューを実施させた。質問項目は教員側で準備し、一組ずつ皆に発表し
てもらうことにした。質問項目に、①「中・東欧諸国の人物(歴史上の人物、現代の有名人いずれでも
かまわない)
」、②「中・東欧諸国という言葉から連想する事柄・イメージを述べてください」、③「本
セミナーを受講した動機を述べてください」といった質問項目を入れてみた。
前半クラスでは質問①について、第1順位「シャラポワ」(3名)、第2順位「琴欧州」「ゴルバチョ
フ」
「レーニン」
(2名ずつ)
、第3順位「ヒトラー」
「ゴーリキー」
「スレイマン1世」
「スターリン」
(1
名ずつ)が挙がり、テーマと関連ある地域ではあっても、直接は対象とならない大国の人物名や、現代
の「有名人」が挙がった。質問②では、
「ギリシア正教」、「ヨーグルト」、「西洋とアジアの融合」のほ
か、
「冷戦」
「五カ年計画」
「プラハの春」等といった用語が挙げられた。質問③の回答では、
「世界史の
知識を蓄えたいから」
(5 名)が最も多かったが、
「理系なので文系科目も必要だったから」といった程
度の回答もみられる。インタヴューの様子を観察していて気になったことは、ともすればこうした単語
や発言を書きとめた段階で沈黙が支配しがちだったことである。どうしてその歴史用語の印象が強いの
か、文系科目にはほかのセミナーもあるのに、どうしてこのセミナーなのか、といった踏み込んだ質問
につながらず、とにかく質問用紙を埋めて安堵したようにじっとしている、という組が多かった。教員
側から会話の糸口を与えようと促してみても、この状態はなかなか変わらなかった。
一方、後半クラスの回答状況をみれば、質問①については、古代ギリシア・ローマの「マルクス・ア
ウレリウス帝」(2名)や「レオニダス」
(1名)はともかくとして、
「コシューシコ」
(4名)
「ショパン」
(3名)
「チャウシェスク」
(2名)
「マリア・テレジア」
(1名)
、
「ウイリアム・テル」(1名)のように、
ハプスブルク帝国や「中欧」
、
「東欧」に関わる歴史上の人物名が増えていた。質問②については、前半
クラスの回答例とほとんど変わらなかったが、「モルダウ」や「ウィーン少年合唱団」など、音楽の分
野に関する記述もいくつか見られ、「スイス」「オーストリア」「チェコ」「ハンガリー」「ポーランド」
等等といった国名も挙げられていた。質問③に対する回答でも、
「ドイツ語圏に興味がある」
「観光に行
くときに、名所をより楽しめるようになりたい」「民族問題に興味がある」といったように、より具体
的になった記述が増えていた。
44
インタヴューの様子も、本題に関係あるかないかはわからないが、会話も途切れず続いていた組が多
かった。
振り返ってみれば、開講時の違いについては、あまり気にする必要はなかったかもしれない。前半ク
ラスは、まだ新入生として人見知りが一層激しい状態だったのだろうし、後半クラスの開講当時は、大
学生活に慣れてきていた頃だからである。学生相互の情報交換も進んでいたと思える。それより、気を
つけなければならないのは、教員自身が初回時の学生の態度に焦る気持ちを前面に出し、それが受講生
に影響してしまうことかもしれない。
ただし、後半クラスでは別の問題が生じていた。当然のことながら、課題に集中せずに友人とのおし
ゃべりや、気がつけばスマホの操作に明け暮れる者も出てきたからである。
3.授業進行の概要
全8回の実施項目は文末の【表1】にまとめた通りである。以下、基礎セミナーの実施に向けて工夫
した点と変更点を、授業の内容面、方法面の順に吟味しておく。
まず、テーマに関して取り扱った内容は、決して多いものではない。第 1 回から 4 回では、対象とな
る地域の地理的状況や、言語、宗教、民族、さらには地域概念そのもの多様性と、当該地域の住民たち
の「意識」について、代表的な言説といくつかのエピソードを提供するにとどまっている。第 5 回では
ウィーンの 19 世紀末の都市改造や芸術運動、
第 6 回からは社会主義時代の概要やハンガリー動乱まで、
高校世界史の教科書からもう一歩だけ踏みこんだ情報と、どの史料に依拠して、どの立場から語ってい
るかに注目して伝えてみようとした。
その結果、中・東欧諸国に関する見直しや新たな知見の導入については伝えられたと思える反面、前
半クラスでの実施段階で時間不足になったり、全体として見た場合、受講側の消化不良を起こしたきら
いがある。視聴覚教材や回覧資料に関する反応の冷たさも気になった。
そこで、後半クラスでは、計画との整合性や内容の統一性にこだわらず、アンケートで「興味がある」
とされるテーマに関する本の紹介に差し替えてみたりした(1)。劇的な改善とは言い難いものの、少し間
をおいた受講生との双方向コミュニケーションに向けては、一歩進めたのではないだろうか。
授業の方法に関する工夫として挙げられるのは、学生相互の共同作業を活性化するために、くじを作
って何度か席替えをしたこと、必ず隣席のパートナーとの話し合いやグループ作業の時間を設けたこと、
作業に向けてのワークシートを用意したこと、最終回の発表会をブックトークにしたことである。
ワークシートの作成は、グループ作業の方法としては義務教育段階から繰り返されてきたため、珍し
い方法ではない。教員が「机間巡視」を実施することも同じである。学校教育との違いがあるとすれば、
アドヴァイスや注意の方法ではないだろうか。「答え」を見つけたり、空欄を埋めさせること自体が目
的ではなく、学生相互の意見のやりとり、対話を長持ちさせることが目的なら、多少は誤りのある発言
を耳にしても、敢て口をはさまないことも必要だったかもしれない。基礎セミナーのガイドブックに示
された「ファシリテータ」としての役割が、教員自身にとっても実感できた時間であった。
4.ブックトーク発表会
中・東欧諸国の歴史を語る切り口について教員側が第7回まででいくつかの話題を提供したあと、学
生側のブックトーク発表会が本セミナーの締めくくりである。
45
ブックトーク(booktalk)とは、もともとアメリカの図書館で用いられる専門用語であり、読書指導の
一つの方法を意味する。全国学校図書館協議会の定義によれば「教師や図書館の専門職員などが、児童
生徒学生あるいは広く図書館の利用者を対象に、特定のテーマに関するすぐれた図書群を、批評や解説
を試みながら順序よく紹介し、それらの図書の利用を促進しようという目的を持って行う教育活動であ
る」とされる(2)。本の魅力を紹介して、聴き手にその本を読ませることが目的なので、あくまで書評と
は区別される。
大学教育というなら、テキストを批判的に読む練習こそふさわしい、という異議を承知しつつも、ブ
ックトークという形式を選んだ第一の理由は、ブックトークをグループで作り上げるという協同作業を
重視したこと、今一つは、同時に教養教育の新カリキュラムで予定されていたベーシック科目の創設を
意識してのことである。文献検索方法や図書館利用方法が担当されるため、いわばその応用編として図
書の選択を自主的に任せられると考えたからである。これについては、前半クラスではいささか誤算が
あった。同時進行のためか、誰もまだベーシックを受講していなかったからである。結局、分類番号や
文献の探し方の基礎を講ずるために時間を割かねばならなかった。後半クラスでは、図書検索の説明に
は時間はとらずにすんだ分だけ、ブックトークの指導に時間をかけることができた。
ブックトーク発表会の前に与えた指示は、①各グループ名をつけること、②グループごとにテーマを
統一して一人一冊以上紹介すること、③つなぎや導入部分まで演出を考えること、④台本を作成して提
出することである。両クラスで紹介されたテーマや図書の一覧が文末の【表2】【表3】である。前半
クラスでは視角効果を狙った共通テーマが多くみられ、後半クラスでは歴史書やテーマの特化がみられ
る、といったクラスや班ごとの個性が出ていることがわかる。
発表会当日は、
「ブックトークを聞いて読みたくなった本があるか」
「ひとりひとりの発表の方法」
「チ
ームワーク」の3項目について、各5点満点で聴き手に評価をさせた。本報告では控えるが、前半クラ
スでは自分たちでグループ名までつけているグループ、後半では紹介する図書の順番に工夫のみられた
グループほど点数は高く、学生の評価と教員がひそかにつけた順位とは概ね一致していた。結果は時間
内に集計して発表済みである。
おわりに
授業アンケートを見るかぎりでは、受講生の反応は概ね好意的である。しかし、ベーシック科目との
調整不足、厳しい時間制限、施設への不馴れ、初めての計画といった諸事情が重なった結果の反省点は
複数ある。また、どうしても後半クラスに比べて、前半クラスへの対応が十分ではなかった点も否めな
い。グループ毎のブックトークという手法の導入についても、まだ検討の余地はあろう。
それでも、本セミナーで得た知見にしろ経験にしろ、受講生たちの今後の大学生活に何かしら貢献す
ることを期待してやまない。
注
(1) 例えば、
『アルプスの少女ハイジ』の作者ヨハンナ・シュピリの叔母にあたるエミリ・ケンピン・
シュピリの伝記 Eveline Hasler, Die Wachsflügel Frau[イカロスの翼の女], Zürich 1992 の紹介を
した。
(2) 全国 SLA ブックトーク委員会編『ブックトーク―理論と実践』
(全国図書館協議会、1990 年)13-14
頁。
46
【表1】セミナーの実施内容
前半クラス
第1回
第2回
第3回
後半クラス

講師の自己紹介・ガイダンス

席替え・隣席者への質問用紙記入・報告

ヨーロッパの国名と首都名の確認作業(パートナーと)

前回の確認作業

前回の確認作業

地域概念の多義性と視点

中・東欧諸国の言語(歌の紹介)

ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハ

ブックトークについての説明(第 1 回の
ンガリーの「歴史年表・地図」

質問用紙)に関わるエピソードより
上記四カ国について歴史上の「名所」案

内(写真・VTR 視聴)

次回冒頭のためのグループ作業(各グル
ープ内で本の紹介)
作業―視聴した VTR について、クイズ、
感想などを隣人と話し合う
第4回
第5回

前回の課題の記述をもとにした補足

各グループ代表者による本の紹介

19 世紀末ウィーンに関する資料の提示

地域概念の多様性(まとめ)

グループ内の話し合いと課題

中・東欧の諸都市に関する資料紹介

芸術から歴史を語る―ウィーン 19 世紀

19 世紀末ウィーンをめぐる三つのエピ

第6回
第7回
第8回
末の場合―
ソード―都市改造計画・世紀末芸術・ユ
ブックトークの説明
ダヤ人―

グループ作業

ロシア・東欧の社会主義化の概説と資料

ロシア・東欧の社会主義化

ハンガリー動乱に関する VTR の視聴

ブックトークの準備

最終日の作業の説明とグループ分け

バルカン紛争に関する図書の紹介

ハンガリー事件・中欧の女性史

ブックトーク準備

ブックトーク準備

ブックトーク発表会
47
紹介
【表 2】前半クラスのブックトーク(2011 年 6 月 9 日実施)
グループ名
オイローパ
テーマ名
ハプスブルク
紹介図書

江村洋『ハプスブルク家の女たち』
(講談社、1993 年)

小宮正安『ハプスブルク家の宮殿』
(講談社、2004 年)

ゲオルク・マルクス(著)/江村洋(訳)『ハプスブルク夜
話』
(河出書房新社、1992 年)
東欧 01
東欧の城

倉田稔『ハプスブルク文化紀行』日本放送出版協会、2006 年)

太田静六『ドイツ・北欧・東欧の城』
(吉川弘文館、2010 年)

後藤茂樹『ヨーロッパの城と宮殿』
(小学館、1968 年)

シリル・マンゴー/飯田喜四郎(訳)『ビザンティン建築』
本の友社、1999 年)
多学部のるつぼ
食べ物全般

鈴木海花・中山珊瑚『チェコAtoZ』(ブルース・インター
アクションズ、2006 年)

高山厚子『ウィーン菓子 12 カ月』
(文芸社、2003 年)

ヴィンチェンツォ・ブオナッシージ/木戸星哲(訳)『イタ
リア人のイタリア料理』
(柴田書店、1989 年)
2班
中・東欧の芸術

藤野邦夫『スパイスが変えた世界史』
(新評論、1998 年)

加賀美雅弘『ハプスブルク帝国を旅する』
(講談社、1997 年)

ヒルデ・シュピール『ウィーン
黄金の秋』(原書房、1993
年)

小宮正安『ヨハン・シュトラウス―ワルツ王と落日のウィー
ン―』
(中央公論社、2000 年)

長島喜一郎『ウィーン作曲家めぐり―音楽と歴史の街を行
く』
(アートユニオンクラシック音楽事業部、2004 年)
3班
中・東欧の建築

田中充子『プラハのアール・ヌーヴォー』
(丸善、1993 年)

田中充子『プラハを歩く』
(岩波書店、2001 年)

伊藤誠『ヨーロッパの病院建築』
(丸善、1995 年)

川向正人『ウィーンの都市と建築』
(丸善、1990 年)
48
【表 3】後半クラスのブックトーク(2011 年 8 月 4 日実施)
グループ名
チーム東欧
テーマ名
東欧の地理と文化
紹介図書

田辺裕(監修)
『東ヨーロッパ』(朝倉書店、2000 年)

加藤雅彦『ドナウ河紀行』
(岩波書店、1991 年)

山本茂・宮田省一・松村智明『東ヨーロッパ・旧ソ連』
〔地球を愛す
る地理の本〕
(大月書店、1994 年)
古代ギリシア
古代ギリシア

高野義郎『古代ギリシアの旅―創造の源をたずねて―』
(岩波書店、
2002 年)

結城和香子『オリンピック物語―古代ギリシャから現代まで』
(中央
公論社、2004 年)

フィオーナ・マクドナルド(文)マーク・バーギン(画)伊藤重剛
訳『ギリシアの神殿』
(三省堂、1993 年)

西村賀子『ギリシア神話―神々と英雄に出会う―』
(中央公論社、2005
年)
パプリカ
ハンガリー

パムレーニ・エルヴィン(編著)田代文雄・鹿島正裕(訳)
『ハンガ
リー史』
(恒文社、1980 年)

山崎光子(編)
『ハンガリーの伝説』
(名著普及会、1927 年)

池田雅之・岩崎悦子・粂栄美子(編)
『ハンガリーの民話』
(恒文社、
1980 年)

地球の歩き方編集室『地球の歩き方
ハンガリー
2008~2009 年版』
(ダイヤモンドビッグ社、2008 年)
ポーランド
ポーランド

中山昭吉・洋子『東欧圏の露頭ポーランド』
(古今書院、1971 年)

渡辺克義『ポーランドを知るための 60 章』
(明石書店、2001 年)

河野肇『ポーランドの歴史』
(創土社、2007 年)

ヤニナ・ダヴィド/松本たま(訳)『自由の小さな大地』(未来社、
1985 年)
中・東欧の民族
中・東欧の民族

南塚信吾『東欧の民族と文化』
(彩流社、1989 年)

菊池良生他『ハプスブルク帝国』
(新人物往来社、2010 年)

板垣雄三『ジューイッシュ・ワールド』
(朝倉書店、1996 年)

志摩園子『物語
バルト三国の歴史―エストニア・ラトヴィア・リ
トアニア』
(中央公論新社、2004 年)
49
初年次教育科目「ベーシック」の開発と導入
基礎セミナー等専門部会ベーシック分科会 16
熊本大学では、
「学士課程教育において期待される学習成果」のもとで進む学士課程教育改革の一環
として、2011 年度より新たな教養教育カリキュラムを導入している。科目区分の改変など様々な試み
を含む本改革にあって、初年次教育の再編は、大きな変化のひとつであろう。そこで、本稿では、初年
次生を対象とする科目として新たに開設された科目「ベーシック」について、その開発プロセスと実施
状況について報告する。
1.
「ベーシック」導入の背景
(1)基礎セミナーにおける学習スキル的要素の扱い
「ベーシック」が主たるねらいとする基本的な学習スキルの獲得は、これまでも様々な取組の中で行
われてきている。教養教育においても、初年次の必修科目として全学で開講されている「基礎セミナー」
を通じて、大学における学習へのアプローチを習得する場を提供してきた。基礎セミナーの中で提供さ
れてきた学習スキル的要素を含む講義として、
「図書館活用法」
(2004 年度~)
「初年次生のためのキャ
リアガイダンス」
(2009 年度~)
「レポート作成の基本」
(2010 年度:試行)がある。これらは、クラ
ス単位で(実質的には、各クラスを担当する教員に対し)希望を募る形で 1 回(90 分)の講義として
実施してきた。各講義は、
「図書館活用法」については附属図書館、
「初年次生のためのキャリアガイダ
ンス」については学生支援部キャリア支援ユニット、
「レポート作成の基本」についてはライティング・
センター準備室(現ライティング指導室)といったように、関係する組織等に依頼して提供して頂いた
ものである。そのカリキュラムは、教養教育実施委員会基礎セミナー・学際科目委員会(当時)からの
要望を踏まえ、初年次生向けとして当該科目用に特化したものとして開発されたものであった。
共通講義については、回数を重ねるごとに取組が広がりを見せる一方(図1参照)、新たな課題も生
まれた。参加クラス増に伴う日程調整の難しさや実施時期に関する担当者及び学生からの要望などはそ
の一例である。また、学習の基礎ともいうべきこうした内容について、すべての学生に保障すべきもの
ではないかという意見も、基礎セミナー担当者や基礎セミナー・学際科目委員会委員などから寄せられ
るようになっていた。
一方、時期を同じくしてスタートした学士課程教育改革に関する議論において持ち上がったのが、
汎用的スキルの育成を目的として掲げる「学習スキル科目」構想である。学士課程教育のあり方を議論
する場として教育会議の下に設置された学士課程教育推進委員会での議論を経て、基礎レベルの汎用的
スキルの習得を目指す科目「ベーシック」として具現化した。
1
ベーシック分科会は、本間里見(大学教育機能開発総合研究センター:分科会代表)
、川内野祐子(附属図書館)
、副島
弘文(保健センター)、根本淳子(社会文化科学研究科)、松葉龍一(e ラーニング推進機構)、日和田伸一(キャリア支
援ユニット)、山口佳宏(環境安全センター)、渡邊淳子(大学教育機能開発総合研究センター・ライティング指導室)・
渡邊あや(大学教育機能開発総合研究センター)から構成されている。また、跡部知佳氏(大学教育機能開発総合研究セ
ンター事務補佐員)にもベーシックの運営にご協力頂いている。
50
100
90
80 80
80
71.4 75
70
60
57.1
2008
50
2009
40
35
2010
30
20
10
0
図書館
※
キャリア
レポート
「初年次生のためのキャリアガイダンス」は 2009 年度からの実施。
「レポート作成の基本」は 2010 年度に試行実施。
図1:基礎セミナーにおける共通講義の実施状況(%)
(2)開発プロセス
本科目の開発のうち、その位置づけ及び枠組は学士課程教育推進委員会において、具体的な科目の内
容は同委員会の下(正確には、さらにその下に置かれた基礎セミナー・ベーシック部会の下)に置かれ
たベーシック分科会において、それぞれ議論された。
これらを授業レベルに落とし込む実際の開発作業にあたったのは、ベーシック分科会の委員である。
同分科会は、科目提供において実際の担い手となる学内の関係各所、具体的には、eラーニング推進機
構、学生支援部キャリア支援ユニット、環境安全センター、附属図書館、保健センター、ライティング
指導室、大学教育機能開発総合研究センターの代表者であるが、科目開発における助言者として、イン
ストラクショナル・デザインの専門家である教員も加わっている。本科目に関連する業務に実際に携わ
っている担当者には教員職員双方が含まれていることから、科目開発は教職協働で進められた。
なお、ベーシックの開講準備・実施・運営・評価等については、後継組織となった基礎セミナー等専
門部会ベーシック分科会において、引き続き議論している。科目の開発・実施・評価・改善に当該科目
に関わる関係者が組織的に関与する体制は、科目としての系統性・一貫性を担保するのみならず、授業
の質を保証するしくみとしても機能している。
2.概要
(1)教育課程上の理念・位置づけ
「ベーシック」は、初年次教育に位置づけられる科目である。これと対をなす科目として設定されて
いるのが、
「基礎セミナー」である。
「ベーシック」と同様、初年次教育として、また、学習スキルを習
得する科目として位置づけられている。
「基礎セミナー」が1クラス 20 人以下の少人数編成のもと、
コミュニケーションを学ぶことを目的としているのに対し、
「ベーシック」は 100~180 人の大講義形
式の授業であり、大学生として必要とされる学習・生活の基礎を学ぶ。
学生にとって、大学教育へのオリエンテーション科目として設定されている本科目が目指すのは、大
51
学での学びに求められるミニマムな要件を学生に保障することである。これは、教育を提供する側から
見ると、本科目及びそこで習得することが期待されている学習スキルが、大学における学びのスタート
地点として明示されることであり、教育プログラムやカリキュラムを組みたてたり、科目間の連携や系
統性を構築したりする際のツールとなり得ることを意味している。
なお、ベーシックは、文学部・法学部・医学部・薬学部・工学部において必修、教育学部において選
択必修、理学部において自由科目という位置付けである。
図2:初年次教育科目の理念モデル
(2)目的
「ベーシック」の目的は、熊本大学で学習を行って
いくために必要となる基礎的な知識と学習スキルを身
に付けることにある。本学の学士課程教育において設
定されている7つの「期待される学習成果」では、
【1】
豊かな教養、
【4】社会的な実践力、【7】汎用的な知
力、に対応する科目として位置づけられている。
学士課程教育において期待される学習成果
■【学習成果1】「豊かな教養」
■【学習成果2】「確かな専門性」
■【学習成果3】「創造的な知性」
■【学習成果4】「社会的な実践力」
■【学習成果5】「グローバルな視野」
また、科目独自の学習目標(到達目標)として、以
下の3つを設定している。
■【学習成果6】「情報通信技術の活用力」
■【学習成果7】「汎用的な知力」
① 熊本大学の歴史・活動を通して帰属意識を高め、自己の大学における目標を定めることができる。
② レポートの作成及び情報検索の方法を理解し、大学での学習に必要な文章表現ができる。
③ 大学における環境・安全・健康の問題に関心を持ち、これらの問題に自ら積極的に取り組む姿勢
を身につける。
これらは、いずれも各回の学習内容に即したものであり、本科目において設定している「自己を知る」
「学びを知る」
「社会を知る」という3つのフェーズにそれぞれ対応する形となっている。
52
(3)科目構成
ベーシックは、大学生としてスタートを切る上で、学習及び生活上必要となる最低限の知識と技能を
身に付けるべく開発された。その内容は、前述の通り、「自己を知る」「学びを知る」「社会を知る」と
いう3つのフェーズで構成されている。次の表は、各フェーズと各回の内容をまとめたものである。
表1:
「ベーシック」の科目構成
【自己を知る】
【学びを知る】
【社会を知る】
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
熊大 A to Z
一年生のためのキャリアガイダンス
レポート作成の基本(1)
レポート作成の基本(2)
図書館活用法
環境報告書を読んで行動する技術
生活のまわりのリスク
大学における薬物乱用および飲酒の問題
上記の内容が、顕在的カリキュラムであるとするならば、本科目には、隠れたカリキュラム(潜在的
カリキュラム)も含まれる。大学の多様な授業形態を知ることと、授業外学習の習慣をつけることは、
その一例である。前者については、基本的な実施形態である大講義型の授業はもとより、グループワー
ク、演習、e ラーニングを用いたブレンド型の講義など、多様な授業形態、学習形態を含むなどの工夫
が凝らされている。後者についても、毎回の課題を課し、その提出を義務付けることで、授業外での学
習時間の確保及び授業外学習の習慣化を試みている。
なお、実施初年度となった平成 23 年度は、本授業の一環として、時間外に、全新入生を対象とする
学長特別講義を実施した。同講義は、国指定の重要文化財である化学実験場内の階段教室で行われた。
同教室は、定員が 80 名程度であるため、全学生に提供するために、4月から7月までの間、延べ 24
回実施された。
3.授業実践
(1)講義形式
ベーシックは、前学期を前半と後半に分けて
実施される(1/4学期)科目であり、全8回
前半:8週間
後半:8週間
ベーシック
基礎セミナー
基礎セミナー
ベーシック
開講される。開講に際しては、同じく1/4学
期開講の基礎セミナーと表裏の形となってい
る。前半と後半は、ほぼ半数の割合で開講され
図3:学生の受講形態
ており、学生は、①基礎セミナーからベーシッ
ク、②ベーシックから基礎セミナー、といういずれかのパターンで受講する(図3参照)
。
開講は、木曜日及び金曜日の3・4・5限で、全6クラスが開講された。ベーシックのクラス割は、
基礎セミナーが基盤となっている。そのため、同じ曜日・時限での開講となるほか、基礎セミナー同様
学部横断的なクラス編成となっている。
また、複数の担当者により授業を実施するため、オムニバス型となっている。各回の担当部局・部署
は、次の表2の通りである。
53
表2:各回の担当部局・部署
回
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
テーマ
熊大 AtoZ
一年生のためのキャリアガイダンス
レポート作成の基本(1)
レポート作成の基本(2)
図書館活用法
環境報告書を読んで行動する技術
生活のまわりのリスク
大学における薬物乱用および飲酒の問題
担当部局・部署
大学教育機能開発総合研究センター
学生支援部キャリア支援ユニット
ライティング指導室
ライティング指導室
附属図書館
環境安全センター
環境安全センター
保健管理センター
教室
大講義室
大講義室
大講義室
大講義室
PC 教室
PC 教室
PC 教室
大講義室
授業は、第1回から第4回及び第8回は大講義室で、第5回から第
7回は、コンピュータ教室で実施された。前述の通り、多様な講義形
態や学習形態に慣れることもまた、本科目の隠れた目的であるため、
授業実施に際しては、担当者が様々な工夫を凝らしている。例えば、
大講義室の授業では、ペアワークや演習などを積極的に取り入れたり、
クリッカーなどの機材を活用したりするなどして、双方向的な授業に
するための取組を行っている。コンピュータ教室における授業では、
写真1:クリッカー
本学の LMS(学習管理システム)を活用し、対面型講義と e ラーニングを併用したブレンド型の授業
を行うなどしている。
なお、コンピュータ室の授業では、設備上、受講生全員を1教室に収容することが困難であったため、
2教室を使用して実施している。2教室使用する場合の対応については、各講義により異なるものとな
った。第5回の図書館活用法では、複数の担当者による講義の実施が可能であったため、授業内容を統
一して異なる担当者がそれぞれの教室で授業を実施した。一方、第6回の環境報告書を読んで行動する
技術及び第7回の生活のまわりのリスクについては、複数の担当者を確保することが困難であったため、
テレビ会議システムを活用し、講義の中継を行うなどして対応した。また、技術的な支援には、本科目
実施に際して採用された TA が当たっている。
TA は、大講義室の授業では1名、PC 教室では5名(2名、3名)採用している。大講義室の授業
では、入れ替え時の学生の誘導、IC タグを利用した出席登録の機材準備及び支援、視聴覚機材の準備、
ペアワーク/グループワークや演習等の補助を行った。PC 教室では、上述の技術的な支援のほか、機
材準備、演習時の学生支援などにも従事している。
(2)e ラーニングによる課題提出
「ベーシック」は、大人数による対面式の授業を原則とするが、講義で習得した内容の定着を図るこ
と(学生側)
、各回の授業レベルでの学習成果を検証すること(授業担当者側)を目的として、e ラーニ
ングコンテンツを併用している。ここでは、①授業内容を e ラーニングコンテンツとして再現すること
により、授業内容の復習や欠席者のキャッチアップ、及び未履修者の学習を可能にすることとともに、
②e ラーニングで提供される授業の課題に取り組むことを学生に課すことにより、学生の授業外学習を
促したり、各回の学習の習得状況を確認したりすること、を目指している。
課題は、本学の LMS(学習管理システム)である Blackboard 上で取り組むことを原則としている。
その内容には、確認テスト、演習課題、電子ファイルの作成及びその提出など多様な要素を含んでいる。
54
平成 23 年度の「ベーシック」における各回の課題は次の表3の通りである。
表3:各回の課題
回
①
課題の内容・合格の条件
五高記念館訪問(館内を見学し、所定の用紙に感想を書いた上で、訪問記念スタンプを押す)
WebCT(Blackboard)上の確認テスト(100 点を取るまで繰り返し行うこと)
②
「価値観発見/大学生活計画シート」の改訂版を WebCT(Blackboard)上で提出
③
授業中に手書きで作成したダイヤモンド図の改訂版を WebCT(Blackboard)上で提出
④
ダイヤモンド図をもとに作成したレポートを WebCT(Blackboard)上で提出
⑤
WebCT 上の確認テスト(80 点以上を取るまで繰り返し行うこと)
⑥
レポート(アンケート)を WebCT 上で提出
⑦
レポート(アンケート)を WebCT 上で提出
⑧
WebCT 上の確認テスト(80 点以上を取るまで繰り返し行うこと)
最終
WebCT 上で到達度チェックを実施
全くしな
かった
9%
1時間未満
36%
3時間以上
6%
2時間以上
3時間未満
14%
1時間以上
2時間未満
35%
図4:Blackboard 上の画面(学生用画面)
図5:1週間当たりの授業外学習時間
課題の設定が目指した授業時間外の学習時間の確保についても、授業改善のためのアンケートの「大
学の授業単位は、授業時間の2倍の時間外学習を前提として、取得できることになっています。あなた
は、この授業について1週間あたり平均して、どの程度、授業時間外の学習(予習・復習、資料収集、
文献購読、レポート作成など)をしましたか。
」という問いに対し、3時間以上と答えた学生の割合が
が6%、2時間以上3時間未満が 14%、1時間以上2時間未満が 35%、1時間未満が 36%と一定の
成果を上げていることが明らかになっている(図5参照)。一方、科目の構造上、授業時間外学習を全
くすることなく修了することは困難であるにもかかわらず、全くしなかったと回答した学生が9%存在
した。今後は、授業時間外の学習を学生に意識化するようなしかけを考えることで、その促進を図って
いく必要がある。
55
(3)授業外学習支援:学生サポート
「ベーシック」は、大学での学習に不慣れな初年次生を対象とする科目であり、また、e ラーニング
など、学生にとっては初めての体験となる学習も多いことから、開講当初、授業のしくみや課題提出に
戸惑う学生が見られた。このことについて、課題提出の手引きを作成したり、担当教員らが学生の質問
に個別に対応したりするなどしたが、受講生が多いことから、組織的な対応の必要性を認識するに至り、
学生の学習支援を目的とするサポート・アワーを開設することとした。
当初は、臨時的な措置として、課題提出締切前の昼休み及び6限に実施したが、毎週水曜日の 14:30
~18:00 の間をサポート・アワーとすることとした。日時の設定については、1 年次の教養教育の開講
日であること(教養教育開講日のみ黒髪キャンパスで講義を受ける医学部・薬学部の学生への配慮)
、
及び、学生が利用しやすい時間であること(授業が入らない時間を含むよう設定)を考慮した。
サポート・アワーは、前期開講分については教員1名、職員1名、TA2名で対応した。再履修者の
みが対象となった後期開講分については、教員1名で対応した。主に、TA は技術面を、教員は教務関
係を担当した。
サポート・アワーを利用する学生の訪問理由は、次の図6の通りである。利用者から最も多く寄せら
れた質問は、PDF への変換方法であった。これは、特に前半の学生に顕著であった。多くの学生が技
術的な質問のために訪れた一方、提出をともに見届けてほしい、提出できているかともに確認してほし
いという要望も多く見られた。このことは、入学当初、大学での学びについて不安を抱え、なおかつ、
気楽に相談できるような人間関係ができていない学生も存在する中で、学生の不安感を取り除く場とし
て活用されたことを示している。
PDFへの変換方法
課題の提出確認(各回)
その他
PDFファイルの添付
課題の提出確認(最終)
PDFの意味
単位取得条件を満たしているか
WebCTの基本
WebCT上のメッセージがわからない
確認テスト
課題の内容
添付したファイルが開かない
Web課題の場所
無回答
29
21
16
10
7
6
3
3
2
2
2
1
0
2
0
5
10
15
20
25
30
35
図6:サポート・アワー利用者の訪問理由(延べ人数)
終盤には、技術的な面での質問減る一方、課題の提出及び合否の確認、出席状況の確認などの質問が
増えた。こうした状況を踏まえ、e ラーニング推進機構の全面的な協力により、学生自身が Blackboard
上で課題提出や出席状況を確認するしくみを開発するとともに、よりわかりやすい提示方法への改善に
継続的に取り組んだ。
56
(3)成績評価
評価は、学習スキルの習得を目的とする導入科目であるという本科目の特性に照らして、合格・不合
格のみとした。これは、科目の位置づけが共通する「基礎セミナー」に倣ったものである。
単位取得のためには、①全8回のうち3/4以上出席していること、②全8回の授業の課題のうち3
/4以上合格していること、③最終課題である「到達度チェック」を実施していることが、前提条件と
なる。これらを総合的に判断して、成績が決定される。
到達度チェックの内容は、第1回の授業時に事前アンケートとして実施したものと同じ内容である。
これを通じて、学生は、本科目受講前と受講後の自らの成長と課題を確認できる。これらにおいて問わ
れた項目は、次の表4の通りである。
表4 到達度チェックの項目
分野
熊大
AtoZ
キャリア
教育
レポート
作成
図書館
活用
環境教育
安全教育
健康教育
質問
質問1 友人や家族に「熊大の特徴はどんなところ?」と聞かれた際、熊大の歴史、教育システム、先端研
究、社会貢献のいずれか一つを取り上げ、具体的な説明できると思う
質問2 熊本大学の一員であるという意識がある
質問3 高校生の時と大学生になってからの生活面と学習面で何が違うかを両方とも友人や家族に説明する
ことができる
質問4 将来のキャリアを意識しながら、大学で学ぶ中で「特に頑張りたい、○○ができるようになりたい」
という目標がある
質問5 大学の授業でレポートを書く課題が出たときに、文章の構成や参考文献の引用の仕方などの基本が
何かを友人に説明することができると思う
質問6 大学の授業でレポートを書く課題が出たときに、文章の構成や参考文献の引用の仕方などの基本を
踏まえて書くことができると思う
質問7 授業で出された課題(レポートなど)に取り組む際に課題に関係する情報を、図書館サービスを使
おうと思う
質問8 授業で出された課題(レポートなど)に取り組む際、課題に関係する情報を図書館サービスを利用
して一人で自由に検索することができると思う
質問9 熊本大学で取り組んでいる環境にやさしい活動にはどのようなものがあるか、具体例を二つ以上挙
げて説明できる
質問10 熊本大学で取り組んでいる環境にやさしい活動を意識して、環境に配慮した行動を取れると思う
(例:エアコン温度の調整・ボランティア活動への参加・リサイクル活動)
質問11 ゼミ活動・ボランティア活動・クラブ活動・一人暮らしなど、大学生活の中で多くの人と活動する
上で起こりそうな安全に関する災害はどのようなものがあるか具体的に二つ以上説明できる
質問12 質問 11 で挙げた「災害」すべてに対して、発生を防ぐための対策をひとつずつ以上述べることがで
きる
質問13 アルコール・喫煙・薬物依存に関する問題の中で、自分が大学生活の中で注意すべき問題を二つ以
上取り上げて説明することができる
質問14 質問 13 で挙げた「自分が注意すべき問題」すべてに対しする対処法をひとつずつ以上説明すること
ができる
なお、成績評価も、ベーシック部会において、担当者全員で検討し、決定する。
4.課題
実施初年度を終え、いくつかの課題が明らかになった。主なものとして、以下の6点が挙げられる。
(1)開講時期
現在は、運営体制上の問題などから、前期を前半と後半に分け、両時期に開講している(本稿3(1)
参照)。このことについて、主に、基礎セミナーを担当する教員から、教育の実施上及び、学習の効果・
効率性の観点から、ベーシックより先に基礎セミナーを受講することの問題点が指摘されている。
57
(2)スケジュール設定
スケジュールについては、2つの課題がある。ひとつは、全8回の授業を行うため、後半に受講する
学生は、テスト期間にも通常の授業を受けることとなっている点である。これは、本科目と対をなす基
礎セミナーにおいても共通する問題であることから、引き続き検討していくこととしている。
もうひとつは、学生の大学での学習の進捗に合わせたスケジュール設定である。これは、主として、
学生の ICT スキルの習熟に起因するものである。現状では、学期開始初期、PC 及び e ラーニングに不
慣れな学生が、課題提出に戸惑う状況が報告された。このことを受け、一定水準以上のスキルが要求さ
れる課題を序盤に設定しないよう、各回の順序を入れ替えるなどして対応した。また、この件について
は、学生にとって、無理のないスケジュールとなるよう、初年次の必修科目として設定されている「情
報基礎」を担当する情報教育教科集団の協力を仰ぎ、科目間の連携を図っている。
(3)科目の系統性の担保
これについては、これまで、組織的に科目開発を行うことでその担保を試みてきた。これらを一層進
めるべく、各回の課題設定に担当回以外の要素を盛り込むことなど、様々な可能性を検討している。
(4)学生の学習の進捗管理
毎回の課題提出を課し、単位取得の条件における出席要件が他科目と比較して厳しい本授業では、学
生自身が学習の進捗管理を行うことが重要となる。2011 年度は、課題提出を含め、自らの学習の進捗
をきちんと把握できていない学生が見られた。今後は、Blackboard 上、あるいは各回の授業において、
継続的に確認することを促すとともに、本科目において学生の学習管理能力・自己管理能力の育成に取
り組む方策についても検討していきたい。
(5)科目情報の周知徹底
新規開設科目ということもあり、本科目についての理解が、本学の学生及び教員に十分浸透している
とは言い難い状況であった。今後は、本科目の目的や概要、開講スケジュール等、授業に関する基本情
報を発信し、理解を深めてもらうことにより、授業運営の円滑化と科目間の有機的な連携の促進を図る
ことを進めていきたい。
(6)TA の役割の明確化・研修の充実
今年度は、担当 TA に対し、事前に研修会を設定し、心得やマナー、機材の使い方などに関する講習
を行った。しかしながら、本科目における TA の担当業務は当初の予想以上に科目特有の要素が多かっ
たため、研修会の内容は TA が事前に知っておくべき内容を必ずしも網羅できているわけではなかった。
また、担当業務に対する TA 自身の意識及び理解にもばらつきが見られ、それが授業に影響することも
あった。授業が進む中で状況は幾分改善したが、TA の研修については、今まで以上に充実していく必
要がある。
以上、ベーシックの開発及び導入について見てきた。大学生としての「学び」「社会」「自己」に対
する考え方の転換を図る大学教育へのオリエンテーション科目として設定された本科目は、実施初年度、
「授業改善のためのアンケート」の結果においても、到達度チェックにおいても、概ね好意的な評価と
一定水準の成果を得ている。先に述べた通り、実施においては課題も少なくないが、2011 年度の経験
を踏まえ、継続的に改善に取り組んでいきたい。
58
ライティング指導とフォローアップの試み
大学教育機能開発総合研究センター
渡邊淳子
1.はじめに
本学が平成 21 年度から 3 カ年で取り組んできた文部科学省の大学教育推進プログラム (GP) 「学
習成果に基づく学士課程教育の体系的構築」において、アカデミック・ライティング (以下、ライティ
ング) 指導は本 GP が掲げる「専門的要素」「一般教養的要素」「汎用スキル的要素」「コンピテンシー
的要素」
「特定スキル的要素」の五つの学習成果の大区分のうち、
「汎用的スキル」の範疇に入る。なぜ
ならば、論理的文章を作成するためには、文章を組み立て表現する能力のみならず、情報を収集し整理
する能力、文献の読解力などが求められるからである。場合によっては、これに数的な処理能力も入る
だろう。また、それぞれの分野における先行研究に真摯に向き合う姿勢、社会、歴史、文化に対する不
断の興味を抱き続けることもまた、欠かすことのできない要素である。これらの能力や姿勢は、自立し
た社会人に求められる資質でもある。
本学におけるライティング指導の実践は、学生のライティングに関する自律的な学習の支援を図るこ
とを最大の目標とした。そのために、平成 22 年度からライティング指導室開設の準備にかかり、翌 23
年度に正式にスタートさせるとともに、テキストとカリキュラムの開発や学生への直接指導に取り組ん
できた。数的に限られた指導体制の中で、より多くの学生に効率的な指導を行うために、オンラインを
含めた個人セッションのほか、少人数制クラス方式による短期集中コースなどを企画した。学生の関心
も徐々に高まっており、指導室を利用した学生の延べ人数は平成 23 年度末までに 1,000 人に達する見
込みである。
2.背景
近年、ライティング指導を行うセクションを設ける大学が増えつつある。その先駆的な存在が早稲田
大学の「ライティング・センター」である。同大学ではアメリカの大学で主流をなすライティング・プ
ロセス (Writing Process)(1)の手法を取り入れ、多数の大学院生をチューターとして採用し、日本語、外
国語を問わず学生の指導にあたっている。日本語ライティング指導に特化したセンターとしては、金沢
工業大学が外部添削者による論文、レポートなどの添削を行い、就職試験のための小論文、エントリー
シート、各種手紙などの文章指導を行っている。津田塾大学におけるライティング指導は、キャリア教
育の一環として位置づけられ、チューターとして採用された大学院生が指導にあたる。また、関西大学
も文学部学生が対象ではあるが、TA を常駐させて主に卒業論文 (2 万字程度)の指導を行っている。
ライティング・センターの運営、対象学生、指導法は各大学で異なるものの、その根底には学生のラ
イティング能力の低下に対する危機感がある。多くの学生が頭を悩ませるのが、文章の論理性である。
中学、高校の学習指導要領では「根拠を明らかにし、論理の展開を工夫して書くこと」や「論理的な構
成を工夫」することがうたわれているものの、現実には作文や感想文に見るような心情の伝達を専らと
する「文学教育」が主流であるという指摘もある (木下, 1994, 33-35)。
59
表 1:書くことについて
%
度数
累積%
得意
23
1.5
1.5
どちらかというと得意
96
6.2
7.7
普通
473
30.7
38.4
苦手
557
36.2
74.6
とても苦手
390
25.3
100.0
合計
1539
100.0
さらに、多くの学生が文章作成に対する苦手意識を抱いていることも問題である。平成 23 年度に本
学が全初年次生を対象に開講したベーシックにおいて実施したライティングに関するアンケート (有効
回答 1539) によると、文章を書くことが「苦手」あるいは「とても苦手」とする学生の割合が合わせ
て 61.5 % を占めた (表1) 。ほとんどの初年次学生にとって、論理性を前面に出した文章は初めての
経験である。にもかかわらず、大学における従来のライティング指導は限定的であり、こうした苦手意
識を持つ学生を学部横断的に指導するシステムは、ほとんど見られなかった。
本学におけるライティング指導室の設置も、ベーシック受講後の学生に対する学部横断的なフォロー
アップを企図したもので、 2 コマのベーシック科目で学生の苦手意識を和らげライティング指導室で
細やかな指導をしていくという流れを想定している。そこでは、ライティング・プロセスの手法を取り
入れ、添削によって「よい文章」にするのではなく、書き手が「よい文章」に到達できるように、その
方法を指導していくことになる (佐渡島, 2008) 。このような指導法は、単に文章の構成や表現法にと
どまらず、学生に論理的な思考の習慣づけを促すきっかけにもなる。
3.具体的取り組み
(1)テキストの作成
今回の GP におけるライティング指導は、テキスト作成、講義実施、フォローアップ指導の三つの
柱からなる。中でも独自テキストの作成は、講義およびフォローアップ指導の根幹をなすものである。
作成は平成 21 年度から取り組み、オリジナルテキスト『レポート作成の基本』を作成した。同テキス
トは平成 22 年度に実施した基礎セミナー前期において使用したのち、小幅な改定を加えて同年度後期
の基礎セミナーでも学生に配布した。さらに前・後期の基礎セミナーでの実践を踏まえてさらに踏み込
んだ改訂を施し、 平成 23 年度基礎セミナー科目用に改訂を行って現在に至っている。
テキスト作成にあたって留意したのは、①講義内容を概観するだけでなく発展させられる②実際のレ
ポートや論文作成に役立てることができる、の二つの点である。また、テキストのサイズも、学生が気
軽に手に取ることができるように A5 判のコンパクトな形にし、初回は 19 ページ、改定を加えた1次
改訂版 (平成 22 年度後期) が 27 ページ、最終版 (平成 23 年度ベーシック科目用) でも 30 ページに
抑えた。
3 タイプのテキストとも、講義同様に「レポートの構成」
「わかりやすい文章の作成」の 2 部からな
る。
「レポートの構成」においては、序論・本論・結論からなるレポートの基本構造について詳細な解
説を行い、テーマ設定から構想、執筆に至る手順についても紙数をさいた。また、文献引用に際しての
60
注意事項を掲げ、インターネットからのコピーペーストといった文献盗用・剽窃に対する注意も喚起し
た。
一方、
「わかりやすい文章」の項目では、文章作成の要点を「短文」
「一文一義」
「主述の一致」
「曖昧
表現の排除」の 4 点に絞り、例文を使いながら詳細な説明を試みた。これらの 4 点は、過去に学生が
書いたレポート等を分析し、文章作成の中で最も誤りやすいと思われる要素を抽出したのちにまとめた
ものである。
主な改定としては、第1次改訂版 (平成 22 年度基礎セミナー後期使用) では全体の体裁を整え、ア
ウトラインシートを加えた。最終改訂版 (平成 23 年度ベーシック使用) においては、このアウトライ
ンシートを視覚的にしたダイヤモンド図を考案し、実際の使用例をつけて紹介した。これにより、テー
マ設定、ブレーン・ストーミング、素材の取捨選択と続く一連の執筆前段階の流れののちに、学生が文
章の全体構想を俯瞰できるようになった。
(2)講義の実践
①平成 22 年度「基礎セミナー」
平成 22 年度は全学部の初年次生を対象とした「基礎セミナー」
(全 15 コマ)の中の 1 コマをライ
ティング指導に充当した。講義の実施概要は表2の通りである。
表2:講義の実施概要
前期:平成 22 年 6 月 10 日~ 6 月 18 日
後期:平成 22 年 10 月 22 日~ 10 月 28 日
6 月 10 日
6 月 11 日
10 月 22 日
10 月 28 日
6 月 17 日
6 月 18 日
5 限目
3 限目
4 限目
5 限目
5 限目
4 限目
受講 199 人
受講 99 人
受講 129 人
受講 120 人
受講 112 人
受講 113 人
計 772 人
4 限目
5 限目
5 限目
受講 14 人
受講 33 人
受講 38 人
計 85 人
前後期総計 857 人
講義は『レポート作成の基本』(後期は改訂版を使用)に沿って進めた。前期が 199 人を最大に毎回
100~130 人程度の大人数が対象だったのに対し、後期は 14~38 人といった少人数に対する講義となっ
た。前期はテキストを使った説明ののちに「中学生の携帯電話所持について」というテーマを与え、簡
単なアウトラインシートの作成を課した。各グループ 90 分という時間的な制約もあり、文章作成まで
はいかず、文章に関する簡単な問題 (3問) を解かせるのみに終わった。
前期の反省を踏まえ、後期は学生がレポートを構成する序論・本論・結論の 3 要素に沿って柱を考
えられるように、項目を細分化したアウトラインシートを用意して講義に臨んだ。
「大学入試は必要か」
というテーマを与えてアウトラインシートを作成させ、講義時間中にアウトラインシートを基にして簡
単な文章作成を行わせた。
② 平成 23 年度「ベーシック」
最終年度に開講された「ベーシック」は、初年次生が大学生活において必要な知識を学部横断的に指
61
導するものである。全 8 コマの講義のうち、ライティングに関しては前年度に開講された基礎セミナ
ーの 2 倍にあたる 2 コマ分が割かれた。実施概要は表 3 の通りである。
講義の実施にあたっては、前年度の反省を踏まえ演習に力を入れた。1 コマ目を構成編、2 コマ目を
文章編に分け、1 コマ目においては文章の成り立ちと文章執筆に至るまでの手順を指導した。学生には
「お金」というテーマを与え、アイデアマップを使ったブレーン・ストーミングの後にダイヤモンド図
を作成させ、提出させた。
2 コマ目は前述した文章作成における四つの要点を中心に説明したのち、前回作成したダイヤモンド
図を基に 1000 字程度の文章作成を課した。完成文章は全員に提出させ、ダイヤモンド図とあわせて成
績評価の対象とした。
わずか 2 回の講義とはいえ、ベーシック「レポート作成の基本」に対する学生側の反応はおおむね
良好であった。受講後に実施した学生アンケート (有効回答 1539) を見ると、講義全体の難易度につい
て、構成編では「理解できた」が最も多い 56.5% で、
「よく理解できた」とあわせると 66.6% に上っ
た (「普通」28.9%)。また、文章編も「理解できた」
「よく理解できた」とする回答の割合は 67.0% だ
った (「普通」 30.1%)。一方、講義全体については「参考になった」
「大変参考になった」が 77.2% を
占め、
「参考にならなかった」
「まったく参考にならなかった」は全体の 2% にとどまった。
(表 4)
表3:ベーシック「レポート作成の基本1・2」受講者数(人)
内容
前半
後半
日程
3限
4限
5限
合計
レ ポ ー ト 作 成 の 4 月 22 日(金)
基本1
4 月 28 日(木)
140
178
146
464
112
134
169
415
レ ポ ー ト 作 成 の 5 月 6 日(金)
基本2
5 月 12 日(木)
135
172
142
449
104
136
169
409
レ ポ ー ト 作 成 の 6 月 24 日(金)
基本1
6 月 30 日(木)
157
136
187
480
111
137
233
481
レ ポ ー ト 作 成 の 7 月 1 日(金)
基本2
7 月 7 日(木)
155
134
115
404
108
135
191
434
合計(人)
1022
1162
1352
3536
表4:講義全体について
度数
%
累積%
全く参考にならなかった
3
0.2
0.2
あまり参考にならなかった
27
1.8
1.9
普通
322
20.9
22.9
参考になった
885
57.5
80.4
大変参考になった
301
19.7
100.0
合計
1539
100.0
1 クラスあたりわずか 2 回の講義では、ライティング技術を習熟させることは不可能である。実際に
学生が提出した課題文も、作文の域を出ないものが数多くみられた。ただ、アンケートからは書くこと
に対する苦手意識を持つ学生の側の危機感もうかがわれた。フォローアップ指導を目的に開設されたラ
62
イティング指導室に、予想を上回る数の学生が継続的な指導を希望して訪れたことも、こうした危機感
の裏付けと言える。
(3)フォローアップ指導
① ライティング指導室の開設
ベーシックにおいて喚起したアカデミック・ライティングへの興味をいかに持続させるかということ
は、今回の取り組みにおける最大の課題であった。そこで、平成 22 年 12 月から「ライティング指導
室」の開設準備を始め、平成 23 年 4 月のベーシック開講と時期を同じくして指導室を開設した。
指導室が扱うのは日本語のアカデミック・ライティングである。人数の変動はあるものの、平成 24 年
1 月現在、特定事業研究員 1 人、事務補佐員 1 人、TA (修士課程学生) 1 人で運営し、個別指導と特
別コースによる集団指導を行っているところである。開設以来、指導室を訪れた学生は延べ 916 人 (1
月 24 日現在) に上る。ベーシックのアナウンス効果もあり、ほとんどが初年次生であったが、積極的
に指導室で指導を希望する 2 ~4 年次生も見られた。
② 個別指導
個別指導は面接指導とオンラインセッションの 2 本立てで行ってきた。個別指導は予約制で、1セ
ッション 45 分で行う。オンラインセッションは随時行うが、何回かに 1 回は面接指導を受けること
を原則としている。両指導とも、指導室が出した課題について書かせるやり方である。また、添削法を
極力排し、指導者との対話の中で気づきを与える「ライティング・プロセス」の手法を採用しているこ
とも、本指導室の大きな特徴である。指導においては、文章の構成に重点を置き、表現や資料の使い方、
引用のやり方などを必要に応じて適宜入れている。学生の中には、指導室が与えた課題以外に、講義レ
ポートや学外に提出する文章について助言を求める学生も多く、指導室ではこうした学生への指導も行
った。
③ 特別コースの開設
本指導室では当初、個別指導を業務の柱とする予定だった。しかし、ベーシックが終わりに近づくに
つれ、継続的な指導を求める学生の数が増え、現有スタッフでの対応が不可能になってきた。このため、
複数の少人数クラスを編成して数回の講義 (非正課) を行う特別コース制を導入した。
コースは週 1 回の計 5 回とし、23 年度は 6 月から 7 月にかけて 6 クラスで計 30 人の学生を
対象に開講した。講義の内容は、アカデミック・ライティングの構成に基づき、テーマ設定からアウト
ライン作成を経て文章を完成させるまでの一連の流れを実際に経験させた。8・9 月には 1 日に指導を
集中させた集中コースも試行し、17 人に対して 3 コマ分の時間枠で同様の指導を行った。
両コースとも指導室へのリピート率は高く、ほとんどの受講生が個別指導に回っている。そこで、さ
らに高いレベルのアカデミック・ライティングに挑ませるため、1 万字程度の本格的な論文の完成を目
指す「論文作成コース」(週 1 回) を 10 月に開設したところ、初年次生を中心に 10 人が応募し現在
に至っている。
4.おわりに
ライティング指導は学部を問わず、全学横断的に行う必要がある。本学の場合、入学間もない時期に
2 コマの講義ではあるが、
「書く」ことへの動機づけを行い、希望学生にはライティング指導室での継
続的な指導を行った。指導室を利用した学生のほとんどが初年次生であったことを考えると、ベーシッ
63
クが呼び水となったことは間違いない。
また、今回、特筆すべきは、指導室の門をたたいた全ての学生が自発的な動機によるものであったと
いうことである。初年次生の6割超が書くことを「苦手」とする現状と考え合わせても、学生側の危機
感がうかがわれる。こうした学生のモチベーションをいかに維持して継続的な指導を行うかが、今後の
指導の目標となる。
指導室運営については、より多くの学生に対して質の高い指導を担保するために、複数の TA を養成
することが必要となる。また、オンデマンド授業の実施やオンライン予約システムの開発などを通じて、
指導室がすべての学生にとっていつでも開かれた場となることが望まれる。
注
(1) 指導の重点は「書いた後」
(添削)でなく、
「書く前」や「書く途中」における評価に置かれる (North,
1984)。言葉をかえるなら、書くプロセスを通じて、学生に論理的な文章とはどのようなものかと
いうことを体験させ、自立的な書き手を育てることでもある。
参考文献
木下是雄, 『レポートの組み立て方』, 筑摩書房, 1994.
佐渡島沙織, 『これから研究を書く人のためのガイドブック ライティング挑戦の 15 週間』, ひつじ
書房, 2008.
North, S. M., The Idea of a Writing Center, College English, 46 (5), 433-446.
64
「音声式点字タイプ教具」製作による学生の早期ものづくり教育と社会貢献の実践
工学部技術部
須惠 耕二・大嶋 康敬・松田 樹也・寺村 浩徳
はじめに
工学部技術部は「革新ものづくり展開力の協働教育事業(平成 23
年度)」の「早期体験型実験・演習科目開発プロジェクト」において
「工学基礎技術の融合と創造教育の実践」(代表:里中 忍 工学部長)
と題し、5 コースのものづくり実習を実施した。我々はその中で、
「音声ガイド式ポータブル点字タイプ練習機の開発」コースを企
画・実施した。
工学部 1、2 年生からの応募者 7 名(1 年生 5 名、2 年生 2 名)を対
象に熊本県立盲学校より切望されて独自開発した「音声式点字タイ
図 1 音声式点字タイプ教具
プ教具」(図 1. 以下、本教具)の製作工程を 2 ヶ月間で全て体験させると共に、完成品を盲学校の児童に
直接手渡して授業で使って貰う事を通じ「自分たちの製品が社会で実際に人の役に立つんだ!」という
技術者としての喜びを実感させる事ができた。
本稿では、
「学部における早期ものづくり教育」と「盲学校での初等点字教育」という二つの「教育
の現場」が、製作した教具の提供という形で結びついた結果、双方にどのような教育的効果をもたらし
たかを、ここに至る経緯や今後の展望と合わせて報告する。
背景
視覚障害、特に全盲は「情報の障害」とされる。晴眼者(視覚的な健常者)は、自分に入る情報の 9 割
を視覚から得ているのに対し、生まれながら全盲の子供は、晴眼者が普通に得ている多くの情報を「一
度も見た事がない」ために獲得する事が出来ない。その為、視覚障害者の教育には、専門的な知識に裏
打ちされた創意工夫が常に必要とされており、これらの情報獲得支援の特殊性を理解している教師の手
で「もっとも適した教具」が自作されることが多い。
全盲の場合は、文字を読み書きするに当たって「点字」を使用する。一般に、子供たちが点字を学び
始めるのは、身の回りの物の形状・位置関係・空間等を認識させるための基礎学習が一定のレベルに達
し、文字・文章への興味が出始める 6 才前後とされる。このため、熊本県立盲学校(以下、盲学校)では、
小学 1 年生に進級する時に点字の授業が始まる。
この際、点字授業の教具として点字学習用PCソフトと点字タイプライターが用いられる。しかし、
全盲児には「一人では PC を起動してソフトを使用する事が出来ない」という現実があり、教師はその
準備とマンツーマンでの指導に大きな手間を取られる。点字タイプライターでは、「紙が排出されるま
では教師が正誤を確かめられない」
「自分で打った点字をまだ十分に触読出来ない」という問題もある。
このような状況下での授業は、教師と児童双方の負担が大きく、また児童の取った学習行動(ここでは点
字入力)に対するフィードバックにタイムラグがあるため、学習意欲を持続出来ず「点字の勉強は嫌い」
65
という生徒が出てしまっていた。視覚障害者向けの様々な日常補助器具は市販されているものの、これ
らの幼稚部年長から小学校進級年の児童にとっては「多機能すぎて複雑・大きい・重い」物が多く、教
師が「この子たちを教えるのにこうあって欲しい」という教具はかなり少ないという現状があった。
このような盲学校の現状を知り、学習玩具のように簡単な操作性で、児童が安心して自由に扱ってよ
く、入力した点字を即座に音声で読み上げるポータブルな点字タイプ教具を開発することにした。
目標は「点字授業が楽しい」と思って貰える教具を作り、児童に届ける事であった。
本教具の概要
視覚障害を抱える児童は、自らの学習行動に対し音声で応答する物や、形状の変化を触って確認出来
る物に大変強い興味を抱く。そこで、盲学校との打合せの結果、本教具の要求仕様を次のように定めた。
・ 一人で起動・操作・終了まで出来ること。
・ 入力した文字を 1 文字毎に音声で即座に自動返答し、正誤がすぐ分かること。
・ 入力を録音でき、読み上げボタンで何度でも再生できること。
・ 再生時は、文字種別記号(空白符、濁音符、拗音符、数字符など)の読み上げは除外し、点字授業時
の指導内容に即した通常の文章として読み上げること。
・ 手で触れて分かるシンプルなデザインで、子供でも軽快にキー入力操作ができること。
・ 自宅を含めてどこでも使えるよう、ポータブルな乾電池方式とすること。
以上の仕様を実現するべく採用した部品およびその開発環境は次のとおりである。
・ 音声合成モジュール: Strawberry Linux 社 MICROTALK ATS001B
・ マイクロコントローラ: Microchip 社 PIC18F2520
・ 開発環境: MPLAB IDE ver8.80 + MPLAB C for PIC18 v3.40 LITE
・ 本体加工: AR_CAD v1.5.3 + GCC 社レーザ加工機 LaserPro Mercury (「ものクリ工房」を利
用)
キ
制御用マイコン
|
・録音再生切替
入
・入力文字解析
力
・発音条件決定
・文字列送信
あ ・
い・う
…
音声合成 Module
・音声合成
・発話送信
図 2 音声式点字教具の動作フロー
図 3
図
66
制御用マイコンボードの回路
大まかな仕組みとしては、点字キー(6 点+空白キー)の入力信号を、マイコンで五十音・符号等のデー
タに変換し、通信機能によって音声合成ボードへ「ローマ字の文字列」として送り、ボードに発話させ
る、(図 2)というものである。設計した教具の回路図は図 3 のとおりである。
製作講習会の実施
学生が技術を習得する目標は「将来、人の役に立つための技術を身につける」ことにあるが、大学の
授業とりわけ学部 1~2 年生の基礎学習の科目でそれを実感できる機会はほとんど無い。しかし今回は、
単に勉強の為の製作ではなく、盲学校での点字授業に導入される教具を、という前提があった。よって、
自分たちの作品が実際に社会で役立つという技術者の喜びを早くに体験でき、後の向学意欲につなげて
貰えるのでは、という学生への教育効果が期待できた。これは「革新ものづくり展開力の協働教育事業」
の主題の一つである「早期体験」の狙いと合致するところである。
そこで、教具完成が 12 月になる事から「盲学校の小学 1 年生にクリスマス・プレゼントを!」とい
うフレーズを募集ポスターに用い、講習会の社会的意義を強調する事にした。後期が始まる 9 月末より
工学部全学科に掲示をお願いした結果、工学部 1 年生 5 名・2 年生 2 名の計 7 名(うち女子学生 2 名)よ
り受講申し込みがあった。(早期教育という理念より、3・4 年生には募集をかけていない)
これを受けて、毎週 1 回放課後に 2 時間ずつの予定で、平成 23 年 10 月~12 月の期間で講習会を開
き、教具を製作して貰った。(時間延長は数回発生した。) 講習会は、受講生 7 人を学年・性別で 3 グ
ループに分け、1 グループに 1 台の製作を割り当てた。講習会の実施内容を表 1 に示す。
表1
回
講習会スケジュールと内容
実施テーマ
1
2
概要・入門編
部品製作
3
4
本体製作
回路製作入門
5
6
7
8
電子回路製作
PIC プログラミング入門
PIC プログラミング演習
最終組上げ・調整
講習内容
教具の全体構成・使用部品の説明、点字入門演習
AR_CAD による部品設計演習、電動工具による木製部品加工、
レーザ加工機による本体アクリル板切断加工
6 点入力キー機構の組立て、ネジ穴加工、アクリル接着
電子回路設計ノウハウ講習、ブレッドボードによる基本回路演
習、はんだづけ演習
はんだづけ実習(穴埋め問題式のマイコン制御ボード製作)
MPLAB IDE + C18 Compiler 入門、PIC18F 解説と基本演習
USART 通信による音声合成モジュールの利用
全部品の組上げ、最終配線、動作確認と調整
参加した学生は、学科・学年が異なるため技術的な予備知識にかなり差があり、講習時間内でその技
量差を全て埋める事は困難なため、講習会の方向性を「製作体験」と位置付けた。
具体的には、全ての回でそれぞれ異なる基本課題の理解と製作工程に取り組んで貰い、最後に作った
部品全てをまとめて製品に組上げる、という手法を取った。
経験のない学生にはハードルの高い仕様策定や回路設計といった開発に関する部分を少なくする一
方、多くの学科では講義で取り上げない部品一つ一つの切り出し・塗装やネジ穴加工、開発環境ソフト
ウェアのインストールや操作入門など、一つの装置を作るための工程を揃え(図 4)、いかにして製品が
生み出されるかというイメージを掴んでもらう事を目指した。
67
図 4 講習会の様子
(部品の切り出し加工・音声合成モジュールの動作テスト・本体の組上げ)
参加した学生には、講習会開始前に各自「ものクリ工房安全講習」修了を義務付け、安全な製作のため
に必要な心構えを身につけて貰った。初めての電動工具加工もこなし、全般を通じて新しい知識習得を
楽しみながら、熱心に製作に取り組む事が出来ていた。講習の随所に、我々技術職員が持っている技術
的ノウハウの話や、設計・開発の「考え方」「見方」といった経験値に基づく話題も取り入れるように
し、
「なぜここはこうなのか?」という疑問への答えが見つかるように配慮した。
改善される点としては、欠席者が多かった事があげられる。学科・学年だけでなくサークル活動やア
ルバイト等、生活様式の違う 7 人の学生を毎回集めるのは容易ではなかった。事前に全員のスケジュー
ルを確認し、全員の空いている時間帯で講習を計画したものの、やむを得ず欠席という連絡が毎週入る
事になった。欠席した回の知識が無くても製作は続けられたが、欠席時の内容がブラックボックス化し
てしまわないよう、班編成を臨機応変にして補講を優先する班を作る等である程度はカバーした。
専門分野の全く違う学生同士が力を合わせて一つの装置を作り上げる機会は、大学においてはこのよ
うなプロジェクトならでは、と言えるであろう。
盲学校への教具の提供
完成した教具の贈呈式は、学生らが児童一人一人に本教具を直接手渡し、その使い方を手ほどきする
という、本講習会の立案時から構想していた最大のイベントである。
平成 23 年 12 月 20 日に、熊本県立盲学校で教具の贈呈式を行い、小学 1 年生児童 3 名へ本教具を手
渡した。校長室で行われた贈呈式には、本田達也盲学校長をはじめ特別支援教育コーディネータの高瀬
京子教諭、他にも 1 年生担任ら複数教諭の参加があり、本学からは、我々技術職員 4 名に加え、情報電
気電子工学科 1 年生(A 組)2 名が学生代表として参加した。
この学生は本来ならば講義時間であったが、
同学科は A、B の 2 組に分けた講義体制を取っている為、その科目担当教員に相談して B 組講義への代
替出席について了解を得た事で、贈呈式への参加が実現した。
早速、手渡された教具の使用を始めた児童らは、すぐにその「面白さ」に魅せられて、点字遊びに熱
中し始めた。1 人の児童が、教具の録音機能を使って「今日はタイプをもらいました。」「うれしかった
です。
」等の文章を入力・再生させると、参加者一同に感動と笑顔が広がった。学生代表の「使ってく
れてとても嬉しかった。(プレゼントを持ってきた筈なのに)自分たちへのクリスマス・プレゼントだっ
たのではないかと思える。
」という言葉が、その時の感動を言い表している。式終了後に、先生手作り
のショルダーバッグに教具を収めて教室に戻った後も、子供たちはずっと教具を手放さずに触り続けて
いた。
全盲児童との対面と自分たちの作品提供こそ、今回の「早期ものづくり教育」と「社会貢献」が眼前
で結びつく瞬間であった。講義の調整がつかず受講生全員が参加できなかった点が惜しまれる。
68
図 5
(a)贈呈式の記念撮影
(b) 使い方を教える学生
(c) 教具に熱中する児
童
教具製作の社会的意義
「熊本大学の学生が手作りしたクリスマス・プレゼント」という社会的反響は大きく、贈呈式には NHK
熊本放送、RKK 熊本放送、KAB 熊本朝日放送および熊本日日新聞社の地元報道機関計 4 社が取材に訪
れており、贈呈の様子や学生がインタビューに答える姿が同日夕方のニュース番組で放送され(図 6-a),
翌日の朝刊でも取り上げられた(図 6-b)。
また,今年 2 月には,エフエム熊本「 FMK Morning Glory 」の「ヒューマン・ラボ」コーナーで
生放送インタビュー(17 分)があり,その録音音声は同番組サイトで Podcast として公開されている。
URL = http://fmk.typepad.jp/blog/2012/02/fmk-morning-glo-3198-6.html
更に,全国の盲学校教員有志が教育方法について研究する「視覚障害教育実践研究会」の第 29 回研
究大会(平成 24 年 2 月 25,26 日,奈良県文化会館小ホール:出席 153 名)において,製作グループ代表
の須惠職員が県立盲学校の高瀬先生と共に教具紹介のプレゼンテーションを行う機会を得た。同会には、
製作に参加した学生(機械システム工学科 2 年生)1 名も同行し、会場後方の特設展示ブースで本教具の
展示・デモを実施し(図 6-c)、全国の教員からの質問に受け答えした。
この会で得られた感触では、大変好評であり、
「これはすごい」「児童の喜ぶ顔が浮かぶ」「すぐにで
も欲しい」との声が多く聞かれた。アンケート実施の結果、(あくまで「希望調査」の話ではあるが)全
国各地より 60 台を越す購入希望を受けた。視覚障害者の教育現場では、教具の音声化というニーズが
非常に高まっている。もっと簡素な幼稚部での教育玩具に始まり、本教具の機能拡張に至るまで様々な
要望や提案を頂く等、今回の取り組みへの高い評価だけでなく、その継続への期待も十分感じられた。
図6
(a) TV ニュースの放送
(b) 新聞での紹介記事
(c) 教具の説明をする学生
教具製作による教育的効果
本取り組みによって、
「大学生の早期ものづくり教育」と「盲学校における点字学習環境」の 2 つに
ついて、それぞれに教育的効果があったと考える。
69
まず、大学生への教育効果は、既に上述したとおりである。本講習は、実際に社会的ニーズがある装
置の「ものづくり体験」教育と、その製品が人の役に立つ実感を直接体験させる「技術者育成への動機
付け」という 2 つの効果がセットとなっている。贈呈式に参加できた学生は、盲学校の児童の喜ぶ様子
を直接見て肌で感じ取る事が出来た。
「来年度も製作するなら再び参加したい。学生会等を通じてもっ
と沢山学生を集めたい」という思いをそれぞれに抱いてくれたことは、大成功の証であろう。
また、視覚障害教育実践研究会へ同行した学生は、視覚障害への新しい理解、支援する立場の人が持
つべき視点、相手の個性・状況・問題(=社会のニーズ)に合わせてどのように伝える(=技術を提供する)
かという教育現場(=技術開発)での取組みを学び、
「本当に参加できて良かった」と感じていた。
一方、盲学校の児童にも、本教具の活用による教育の効果が現れ始めた。いずれも、それぞれの児童
の「全盲:情報獲得の障害」のレベルを表したものであり、本教具の利用がそのどのレベルにおいても
教育的効果を生み出している事がわかる。以下に、盲学校から届いた児童の様子を紹介する。
児童 A: 最近、点字キーの幾つかの組み合わせが、点字の五十音を表している事に気づいた。自分の名
前の一文字や「お母さん」の「お」等を打てるようになって、とても嬉しそうである。
児童 B: これまで、自分の感情を言葉に出せないでいたが、教具の録音機能を使って自分の気持ちを入
力・再生して表現するようになった。例えば「今日はごはんを食べられませんでした」等。
児童 C: 点字の習得がもっとも早いため、録音機能で「クイズ」を作って再生し、相手に答えの再生を
求める「クイズ遊び」を積極的に楽しんでいる。近く、本教具は卒業できる見込みである。
今後の展望
教具を必要とする盲学校が多数ある事が分かり、次年度以降も本講習の継続を目指す。それには予算
の確保、製作台数を増やすための取り組みの両方が不可欠である。
受講生数の確保や欠席者対策のため、夏・冬の長期休み中に数日間、集中実施する事を検討する。
対象者も、工学部に限定せず、他の学部にも案内を出して講習会の回数を増やす事を目指す。
講習会で完成した教具は大学内では不要となるため、成果物売却(による盲学校への提供)とする方向
で大学と調整中である。教具提供を通じて各盲学校からの様々なフィードバックが期待出来るので、よ
り良い教具への改良や、新しい教具の開発協力に繋がる等、双方の関係が発展する可能性が高い。
将来的には、大学外(例えば中高生向け)製作講習会の実施による地域貢献活動や、小中学校のバリア
フリー教育用教材化など「社会貢献プロジェクト化」も視野に入るであろう。いずれも、学生の「もの
づくり教育」と「社会貢献」をセットにし、大学の教育支援に関わる技術職員の職務の一環で実施した
い。本講習で製作体験をした学生がその指導に当たるならば、教育的効果は更に高まるものと考える。
謝辞
本講習は最初に述べたとおり「革新ものづくり展開力の協働教育事業(平成 23 年度)」の中で実施した。
関係各位に感謝する。特に、奈良での研究大会報告まで後押し頂いた「ものづくり創造融合工学教育セ
ンター」の村山伸樹センター長と大渕慶史准教授に厚く御礼申し上げたい。
本教具の点字監修、贈呈式、そして盲教育に関するあらゆる助言まで、同校特別支援教育コーディネ
ータ 高瀬京子教諭の協力無くしては成し得なかった。多大なご協力を頂いた事に深謝したい。菊池き
よ子教頭をはじめとする盲学校の諸先生方との出会いにも感謝する。「皆様、本当に有難うございまし
た。
」
70
大学教育機能開発総合研究センター報告
大学教育機能開発総合研究センター活動報告
1.本年度の主な活動
(1)調査・研究活動

学士課程教育科目と連携した導入教育モデルの方策に関する調査研究(本間里見、渡邊あや)

授業方法の改善に関する調査研究(本間里見、渡邊あや)

CALL や英語教育に関する調査研究(安浪誠祐、折田充、合田美子)

成績評価や FD に関する調査研究(菅岡強司、折田充)

学士課程教育に関する調査研究(本間里見、渡邊あや)

大学院教育に関する調査研究(本間里見、渡邊あや)

高大連携推進に関する調査研究(菅岡強司、安浪誠祐)
(2)各種会議・委員会

教養教育機構運営委員会(岡部勉センター長、菅岡強司、折田充、本間里見)

教養教育機構教務委員会(本間里見、安浪誠祐、合田美子)

教養教育機構 FD 委員会(岡部勉センター長、菅岡強司、折田充、渡邊あや)

教養教育科目群専門部会基礎セミナー等専門部会(本間里見、渡邊あや)

センター運営委員会(岡部勉センター長、菅岡強司、折田充)

教育会議(岡部勉センター長、菅岡強司、本間里見)

教務委員会(岡部勉センター長、菅岡強司、折田充)

ファカルティディベロップメント委員会(岡部勉センター長、菅岡強司、折田充)

国際化推進運営会議(本間里見)

学士課程教育推進委員会(岡部勉センター長、本間里見、渡邊あや)

大学院教育推進委員会(岡部勉センター長、本間里見、渡邊あや)

60 年史編纂委員会(岡部勉センター長、安浪誠祐)

附属図書館運営委員会(折田充)

セクシュアル・ハラスメント相談員(安浪誠祐)
(3)研究会・セミナーの開催
①
21 世紀型大学教育セミナー・シリーズの開催
第 13 回 平成 24 年 3 月 26 日(月)
15:00~17:00
「大学教育改革の要点-組織改革と能力開発をどのように統合するか-」
東北大学 羽田 貴史 教授
71
②
新任・転任教員を対象とする研修会等の開催:
成績評価サポート・アワー
平成 23 年 7 月 25 日(月)12:00~13:00
平成 23 年 7 月 29 日(金)12:00~13:00
③
「TA(ティーチング・アシスタント)研修会」の開催
平成 23 年 10 月 24 日(月)
④
14:30~17:00
GP関連イベントの開催
平成 24 年 3 月 9 日(金)13:00~17:00
平成 21 年度採択文部科学省大学教育推進プログラム最終報告会
『学習成果に基づく学士課程教育の体系的構築-創造的知性と実践力というゴールから設計する教
育の質保証』
取組報告①:
本間 里見 准教授
取組報告②:
宇佐川 毅 教授
基調講演①: 東京工業大学
清水 康敬 監事
基調講演②:
川嶋太津夫 教授
神戸大学
総合討論「熊大型学士力の育成に向けて」:
モデレーター: 岡部
勉 大学教育機能開発総合研究センター長
パネリスト: 清水 康敬 東京工業大学監事
川嶋太津夫 神戸大学教授
大森不二雄 首都大学東京教授
宇佐川 毅 学長特別補佐(情報化担当)
本間 里見 学長特別補佐(教育担当)
(4)学外活動

九州地区一般教育協議会

全国大学教育研究センター等協議会

国立大学教養教育実施会議

六大学教養教育代表者会議

京都大学大学教育研究フォーラム
(5)広報活動

『大学教育年報』の刊行(3月)

『センターニューズレター』刊行(3月)
72
2.センターミーティング
センターミーティングを定期的に開催することにより、各部門の取組状況の確認と、諸問題の検討及
びそれらへの対応などを行った。以下は、2012 年度第1回から第 11 回までの検討項目である。
第1回
日
時: 平成 23 年 4 月 11 日(月) 14:30~15:30
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
協 議 題: 1)平成 23 年度予算について
2)平成 23 年度の FD の活動について
3)平成 23 年度ライティング指導室等充実事業について
4)
『大学教育年報』電子ファイルの公開について
報告事項: 1)教員の個人活動評価指針及び実施要項(改正)の概要
2)平成 22 年度第 7 回教育会議
3)教育研究協議会報告
第2回
日
時: 平成 23 年 5 月 9 日(月) 14:30~15:00
場
協 議 題:
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
1)平成 23 年九州地区大学一般教育研究会の委員選出について
2)その他
- 地震対策の自主点検について
報告事項: 1)その他
-
センター改組について
-
新任・転任教員研修会について
第3回
日
時: 平成 22 年 6 月 13 日(月) 14:30~15:05
場
協 議 題:
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
1)大学教育機能開発総合研究センター決算について
2)大学教育機能開発総合研究センター予算(案)について
報告事項: 1)教養教育実施体制(案)
2)教養教育機構規則案-教養教育実施機構規則との新旧対照表
3)教養教育機構運営委員会規則案-教養教育実施機構教養教育実施委員会細則
との新旧対照表
4)教養教育機構教務委員会細則案-教養教育実施機構教養教育実施委員会教養
教育教務委員会細則との新旧対照表
5)教養教育機構運営委員会教養教育FD委員会細則案
6)教養教育機構運営委員会教養教育教務委員会科目群専門部会及び教養教育機
構教科集団に関する申合わせ(案)
73
第4回
日
時: 平成 23 年 7 月 11 日(月) 14:30~15:00
場
協 議 題:
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
1)大学教育機能開発総合研究センター改組の方向性について
2)その他
- リポジトリにおける大学教育年報の扱いについて
報告事項: 1)その他
- 九州地区一般教育協議会について
- 21 世紀型大学教育セミナーについて
第5回
日
時: 平成 23 年 9 月 12 日(月) 14:30~16:00
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
協 議 題:
1)教養教育機構の設置に伴う教養教育機構各委員会等委員の選出について
報告事項: 1)その他
- 教養教育の実施体制について
- 駐車場の有料化について
-
60 年史について
- 人件費について
- IC 学生証の導入について
第6回
日
時: 平成 22 年 10 月 17 日(月) 14:30~15:20
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
協 議 題:
1)大学教育機能開発総合研究センター改組の方向性について
2)平成 23 年度ティーチング・アシスタント研修会
3)その他
- 大学教育機能開発総合研究センター長の選考手続き及び日程について
- 駐車場有料化に関する意見
報告事項: 1)その他
- 平成 23 年度第 3 回ファカルティ・ディベロプメント委員会
- 教養教育機構委員会
- 超過勤務縮減を目指した取り組みへのご理解とご協力について
- 黒髪北地区防災・消防訓練実施について
第7回
日
時: 平成 23 年 11 月 14 日(月) 14:30~16:00
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
協 議 題:
1)組織改編について
74
2)学長ヒアリングについて
3)次年度中期目標達成経費について
報告事項: 1)熊本大学附属図書館運営委員会委員について
2)その他
- 『大学教育年報』の編集方針について
-
各種会議等報告
第8回
日
時: 平成 23 年 12 月 12 日(月) 14:30~16:00
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
協 議 題:
1)組織改編について
2)平成 23 年度大学教育機能開発総合研究センター予算執行状況について
報告事項: 1)次期大学教育機能開発総合研究センター長選考手続き及び日程について
2)その他
- 平成23年度大学入学センター試験における監督者について
第9回
日
時: 平成 24 年 1 月 16 日(月) 14:30~15:30
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
議
題:
1)大学教育機能開発総合研究センター規則の一部改正について
2)大学教育機能開発総合研究センター長候補適任者の推薦について
報告事項: 1)その他
-
教育活動表彰について
-
各種会議等報告
第10回
日
時: 平成 24 年 2 月 13 日(月) 14:30~15:00
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
議
題:
1)大学教育機能開発総合研究センター長候補適任者推薦状況について
2)附属図書館中央館の改修について
第11回
日
時: 平成 24 年 3 月 13 日(火) 14:30~15:50
場
所: 大学教育機能開発総合研究センター長室
議
題:
1)教務委員会委員の選出について
2)セクシャル・ハラスメント防止委員会委員の選出について
3)平成 24 年度内地研究員の受入れについて
報告事項: 1)次期大学教育機能開発総合研究センター長について
2)その他
75
-
21世紀型大学教育セミナーについて
-
高大連携に関する全学委員会の設置について
-
60年史部局編について
-
個人活動評価について
-
『大学教育年報』及び『センターニューズレター』
-
各種会議報告
76
教養教育実施体制
熊本大学教養教育実施体制機構図
2011 年度教養教育実施会議委員名簿
2011 年度大学教育機能開発総合研究センター教員及び担当業務一覧
2011 年度教科集団構成一覧
熊本大学教養教体制機構図
審議事項
運
営
委
員
会
教
務
委
員
会
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
教養教育の授業科目の編成に関すること。
(1)
教養教育の年間実施計画の策定に関すること。
(2)
教養教育の授業の開講及び調整に関すること。
(3)
教養教育の点検・評価及びこれに基づく見直しに関すること。 (4)
教養教育に係る施設・設備の利用計画に関すること。
(5)
教養教育機構の予算及び決算に関すること。
教養教育に係る広報活動に関すること。
教養教育の成績の管理に関すること。
教養教育の非常勤講師の資格審査に関すること。
その他教養教育及び機構の運営に関し必要な事項
教養教育機構長
教養教育機構副機構長
各学部の教務に関する委員会の委員長 各 1 人
大学教育機能開発総合研究センターの専任教員 2 人
その他委員会が必要と認めた者
(1)
教養教育の年間実施計画(学年暦、年間予定、非常勤講師の任
用計画等をいう。)の案の作成に関すること。
授業の時間割に関すること。
履修指導の支援に関すること。
試験の実施に関すること。
履修案内等の作成に関すること。
成績処理 (入学前の既修得単位の取扱い等を含む。)に関す
ること。
その他教養教育の実施に関し必要な事項
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
副機構長(機構長の指名する者)
各学部から選出された教員各 1 人
第 7 条に規定する各科目群専門部会の長
大学教育機能開発総合研究センターの専任教員
その他委員会が必要と認めた者
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
副機構長(大学教育機能開発総合研究センター長)
各学部から選出された教員 各 1 人
各科目群専門部会の副部会長
大学教育機能開発総合研究センターの専任教員 2 人
その他委員会が必要と認めた者
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
F
D
委
員
会
科
目
群
専
門
部
会
構成
(1) 教養教育におけるFDの実施に関すること。
(2) その他FDの実施に関し必要な事項
1.教養教育教務委員会に科目群専門部会を置く
(1)
① 教養科目専門部会
(2)
② 基礎セミナー・ベーシック、社会連携科目専門部会
(3)
③ 必修外国語科目専門部会
④ 情報科目専門部会
⑤ 専門基礎科目Ⅰ専門部会
⑥ 体育・スポーツ科学専門部会
2.科目群専門部会は、学部及び教科集団と連携・協力するものと
する。
(1) 授業科目及び授業科目担当教員割振りの原案作成に関するこ
と
(2) 授業計画書の作成に関すること
(3) 授業時間割案の作成に関すること
(4) 授業クラスの編成及び受講者名簿の作成に関すること
(5) 成績表の取りまとめに関すること
(6) その他授業の実施に関し必要な事項
79
関係教科集団代表委員
学部選出委員
大学教育機能開発総合研究センター教員
2人
2011 年度教養教育機構委員会委員名簿
【機構長】 山中
委員会等名称
運営委員会
教務委員会
FD 委員会
至
【副機構長】 藤本 斉
委
岡部
員
氏
勉
名
(所
属)
【委員長】 山中 至(機構長)
【副機構長】
藤本
斉
【学部教務委員長】
荻野 藏平(文学部)
塚本 光夫(教育学部)
光永 正治(自然科学研究科(理))
玉巻 伸章(生命科学研究部(医))
石塚 忠男(生命科学研究部(薬))
町田 正人(自然科学研究科(工))
【大学教育機能開発総合研究センター】
菅岡 強司
折田
充
【委員長】藤本 斉(副機構長)
【学部選出委員】
田中 朋弘(文学部)
黨 武彦(教育学部)
濱名 裕治(自然科学研究科(理)) 伊藤 隆明(生命科学研究部(医))
香月 博志(生命科学研究部(薬)) 苣木 禎史(自然科学研究科(工))
【各科目群専門部会長】
森園 靖浩(理系)
山本 耕三(文系)
松瀬 憲司(既修)
市川 雅己(初修)
井上 尚夫(専基礎)
大石 康晴(体・スポ)
【大学教育機能開発総合研究センター】
安浪 誠祐
合田 美子
【委員長】岡部 勉(副機構長)
【学部選出委員】
坂口
至(文学部)
大益 史弘(教育学部)
高宗 和史(自然科学研究科(理)) 宇宿 功市郎(生命科学研究部(医))
入江 徹美(生命科学研究部(薬)) 川原 顕磨呂(自然科学研究科(工))
【各科目群専門部会副部会長】
松田 博貴(理系)
山城 千秋(文系)
隈元 貞広(既修)
杉谷 恭一(初修)
城本 啓介(専基礎)
則元 志郎(体・スポ)
【大学教育機能開発総合研究センター】
菅岡 強司
折田
充
岡部
勉
稲田 隆司(法学部)
東
清巳(生命科学研究部(保))
本間 里見
舘石
船間
宏明(法学部)
芳憲(生命科学研究部(保))
本間
武藏
里見(基礎セミ)
泰雄(情報)
ヘルツオーク・エーベルハルト(法学部)
國府 浩子(生命科学研究部(保))
渡邊
永井
あや(基礎セミ)
孝幸(情報)
2011 年度教養教育科目群専門部会一覧
部会等名称
委
【自然科学系】
阿部
健(数学・統計学)
下條
藤井 紀之(生物学)
松田
理系教養科目
森園 靖浩(科学技術・情報)
専門部会
【生命科学系】
大石 康晴(健康・スポーツ科学) 山懸
【人文社会学】
杉本 裕司(哲学)
山城
文系教養科目
原島 良成(法学)
伊藤
専門部会
八幡 彩子(社会学)
袴田
山本 耕三(地理学)
伊藤
【学部選出委員】
荻野 藏平(文)
八幡
渋谷 秀敏(理)
福田
入江 徹美(薬)
小塚
基礎セミナー等
【大学教育機能開発総合研究センター】
専門部会
本間 里見
渡邊
【ベーシック分科会代表者】
※ 本間 里見
【部会長】 松瀬 憲司
既習外国語集団
初修外国語教科集団 【部会長】 市川 雅己
情報教育教科集団 【部会長】 武藏 泰雄
専門基礎科目 I
井上 尚夫(数学・統計学)
城本
専門部会
入江
亮(化学)
高野
体育・スポーツ科学専門部会 【部会長】 大石 康晴
員
構
成
冬樹(物理学)
博貴(地学)
入江
亮(化学)
星野 裕司(環境造形・科学)
和也(医科学)
入江 徹美(薬科学)
千秋(教育学)
洋典(政治学)
和泉(芸術)
正彦(歴史学)
渡邊
功(心理学)
吉岡 英美(経済学)
跡上 史郎(文学・言語学)
彩子(教)
孝一(医)
敏之(工)
濵﨑
伊藤
録(法)
雅浩(保)
あや
啓介(数学・統計学)
博嘉(生物学)
80
下條 冬樹(物理学)
武藏 泰雄(情報)
2011 年度大学教育機能開発総合研究センター教員及び業務一覧
専任/併任
専任教員
担 当
分
野
担
当
教 員
カリキュラム開発部門
准教授
准教授
本間
渡邊
里見
あや
カリキュラム開発部門(CALL 担当)
准教授
准教授
安浪
合田
誠祐
美子
FD・教育評価部門
教
教
菅岡
折田
強司
充
81
授
授
2011 年度教科集団構成一覧
平成 24 年 1 月 1 日現在
部局・センター等
文
学
部
教
育
学
部
法
学
部
自
然
科
学
研
究
科
(
理
学
)
生
命
科
学
研
究
部
(
医
学
)
01
生
命
科
学
研
究
部
(
保
健
学
)
生
命
科
学
研
究
部
(
薬
学
)
薬
学
部
自
然
科
学
研
究
科
(
工
学
)
社
会
文
化
科
学
研
究
科
法
曹
養
成
研
究
科
総
合
情
報
基
盤
セ
ン
タ
ー
地
域
共
同
研
究
セ
ン
タ
ー
国
際
化
推
進
セ
ン
タ
ー
教科集団名
数学・統計学
3
15
物理学
2
9
11
67
化学
21
17
01
142
生物学
3
17 014
1
11
地学
3
16
環境造形・科学
科学技術・情報
健康・スポーツ科学
13
68
11
医科学
4
0
哲学
6
教育学
21
法学
経済学
1
社会学
6
2
芸術
1
14
文学・言語学
8
6
2
1
歴史学
12
2
既修外国語
112
9
初修外国語
163 13
e
ラ
ー
ニ
ン
グ
推
進
機
構
01
72
藤井紀行(自・理) 北野 健(自・理)
松田博貴(自・理) 冨田智彦(自・理)
1
1
1
0
1
0
1
0
2
3
1
星野裕司(自・工)
0
1
1
2
1
森園靖浩(自・工)
0
大石康晴(教)
2
38
01
4
4
4
入江徹美(生・薬) 甲斐広文(生・薬)
0
1
1
1
1
22
0
3
2
5
1
12
1
1
01
1
1
0
1
1
0
01
1
杉本裕司(文)
高橋隆雄(社文)
山城千秋(教)
山本信也(教)
渡 辺 功(文)
藤 田 豊(教)
原島良成(法)
大日方信春法)
伊藤洋典(法)
1
2
1
則元志郎(教)
山懸和也(生・医) 福田孝一(生・医)
4
1
3
地理学
五
校
記
念
館
1
12
政治学
発
生
医
学
研
究
所
下條冬樹(自・理)
31
3
1
1
1
エ
イ
ズ
学
研
究
セ
ン
タ
ー
幹事・副幹事
2
18
心理学
生
命
資
源
研
究
・
支
援
セ
ン
タ
ー
入 江 亮(自・理) 速水真也(自・理)
02 160 433 02
薬科学
衝
撃
・
極
限
環
境
研
究
セ
ン
タ
ー
1
1
21
沿
岸
域
環
境
科
学
教
育
研
究
セ
ン
タ
ー
3
24
0
政
策
創
造
研
究
教
育
セ
ン
タ
ー
井上尚夫(自・理) 城本啓介(自・工)
4
3
大
学
教
育
機
能
開
発
総
合
研
究
セ
ン
タ
ー
9
1
4
バ
イ
オ
エ
レ
ク
ト
リ
ク
ス
研
究
セ
ン
タ
ー
1
吉岡英美(法)
安川文朗(法)
八幡彩子(教)
徳野貞雄(文)
袴田和泉(教)
緒方信行(教)
跡上史郎(教)
森
山本耕三(教)
鹿嶋 洋(文)
伊藤正彦(文)
三瓶弘喜(文)
隈元貞広(文)
松瀬憲司(教)
市川雅己(文)
杉谷恭一(文)
吉川榮一(社文)
梅田 泉(国際)
朴 美子(文)
正 人(社文)
外国語
情報教育
計
11
06
22
1
66 104 32
74 162 47
40
4
516
1
08
31
04
2
127 15
01
3
41
2 武藏泰雄(総情)
7
12
7
0
6
右肩の小さな文字は、教科集団サブ登録者数(外数)
82
5
6
3
5
5
7
4
11
1
2
永井孝幸(総情)
編
集 後 記
大学教育機能開発総合研究センター
渡
邊
あ や
2011 年度刊行の『大学教育年報』第 15 号は、変則的な形での発行となった。これは、今年度、教養
教育実施体制の改革及びこれにともなう委員会組織の再編等が行われたことを受け、本誌の編集方針を
改めて見直すことになったことによる。過渡期に当たる今年度は、内容を、(1)教養教育をはじめと
する大学教育に関する研究論文・調査報告などを含む【教育研究論文】、
(2)教養教育をはじめとする
大学教育に関する実践報告を含む【教育研究報告】
、
(3)大学教育機能開発総合研究センター活動報告
に絞って刊行した。
(1)教育研究論文には、合田・山田・加藤・松田・齋藤・宮川各氏、ならびに菅岡・折田両氏より、
教授学習プロセス、自己調整学習、カリキュラム、学習成果など、近年大学教育の分野で注目を集める
トピックを扱った骨太の論考をご寄稿いただいている。
(2)教育研究報告には、今年度より導入された新たな教養教育カリキュラムに関連する実践について、
多くの報告を頂いた。新たにコミュニケーション力の育成をねらいとして掲げ、リニューアルされた基
礎セミナーについては、本間氏より科目の全体像とその具体的取組が、上田氏よりその実践が、それぞ
れ報告されている。さらに、基礎セミナーと対をなす科目として新たに導入されたベーシックについて
は、科目開発と実施のプロセスに関する報告が実際にこれを担当したベーシック分科会から概要や取組
についての実践報告が行われている。これらの報告を通じて、両科目についての理解がより深まること
が期待される。さらに、そのベーシックにおいて取り組まれたライティング指導に関しては、渡邊氏よ
り正課内外における指導の実践報告が、ライティング指導の潮流の中における本学の取組の位置付けと
ともに示されている。工学部の須惠・大嶋・松田・寺村各氏からは社会に開かれ、社会とつながった教
育が志向される今日、ひとつのモデルを示すような、本学における「ものづくり」教育の取組をご報告
いただいた。優れた授業実践の発信と、そのノウハウの共有化は、本学の教育改善にとって、意義深い
ものである。優れた実践が積み重ねられることにより、教育プログラムがより豊かなものとなるよう祈
念したい。
来年度は、
『大学教育年報』にとっても変化の年となる。新たな教養教育実施体制及び学士課程教育
のもと、本学の教育改善に資する、より充実した形で第 16 号をお届けできるよう、編集方針について
議論を重ねていきたい。
今号発行までには、学生支援部学務ユニット学務企画チーム総務担当ならびに学生支援部学務ユニッ
ト教育支援チーム教養教育担当をはじめ、数多くの関係者からご支援・ご協力を頂いている。末筆では
あるが、ここに記して感謝の意を表したい。
平成 24 年 3 月吉日
83
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