大学継続教育プログラムの研究−1 :事例研究 サンノゼ州立大学Professional Development Centerのプログラム構造 A Study on the University Continuing Education Programs Part 1 : A Case Study on the Program Structures of the Professional Development Cente r, San Jose State University 廣渡修一 Shuichi HIROWATARI はじめに 1.大学継続教育の現況 2.サンノゼ州立大学プロフェッショナル・ディベロップメント・センターの概要 3.プログラムの構造−Certificate Programsを中心として 4.プロフェッショナル・ディべロップメントの学習理論:Experimental Learning 結語 大学開放実践センター はじめに 米国西海岸における大学継続教育は、近年における未曾有の経済的活況を背景にして、 成長産業としての実績を更に高めつつあるように見える。その活力の源は、激しい競争的 環境下における供給側の市場照準(market niche)の追求にある(1)。しかし、膨大な需要 の存在を前にして、供給側は何を焦点とし、何を独自性として商品化しようとしているの であろうか。そのプロダクトであるプログラム構造を究明することは、米国市場の特性を 比定し、ひいては我が国における同種事業に対する実効性ある示唆を齎すことへの期待に に繋がる。 本研究は、各国における大学継続教育(University Continuing Education)の多様なプ ログラム構造を比較考察し、有用な知見を抽出して、我が国(または本学)における同種事業 の展開に資することを究極の目的としている。本稿は、その手始めとして、筆者が98-99年 に滞在(在外研究)した米国サンノゼ市(シリコンバレーの中心都市)所在のサンノゼ州立大 学Professional Development Centerが提供する専門職業能力開発プログラムを事例研究 の対象に取り上げ、プログラムの構造(内容・方法・形態・資格等)について解明しよう と思う。 1.大学継続教育を巡る現況 プログラム構造の検討に入る前に、米国における大学継続教育を巡る最近の統計的諸指 標について概観しておくのが便利であろう。 まず、高等教育に関する全般的特徴を把握するために、学生に関する各種統計について 摘記しておこう。 1995年の統計によれば、米国全土において学生数は1,426人万強であり、その内フルタイ ムが57.0%、パートタイム43.0%となっている。70年当時に比して、フルタイムは1.4倍の 伸びであるが、パートタイムは2.2倍の伸びを示している(2)。25年間でパートタイム学生 の比重が高まってきた実態が窺える。 表1 全米の学生数・1995年 千人 % Full-time 8,129 57.0 Part-time 6,133 43.0 14,262 100.0 Total また、男女比は4対5で、女性が多いのが特徴の一つとなっている。年齢を<25歳未満 >と<25歳以上>に区分してみると、4対3で<25歳未満>が多いが、その差は20万人程 度に過ぎず、所謂非伝統的学生層がこの国の高等教育の重要なクライエントとなっている 実態が明らかである。因みに、40代は123万人(8.7%)、50台以上が44万人(3.1%)となっ ている(この内、65歳以上は8万人強で全体の0.6%を占めている)。パートタイムの学生に 限ってみれば、男女比はほぼ4対6となり、女性が更に多くなる。その一方で、<25歳以 上>が<25歳未満>に対して逆に200万人以上多くなり、ほぼ2対1の比率である。なお、 40代におけるパートタイムは95万人、50台以上は37万人となっていて、この世代における パートタイム学生の比重の重いことが知られる。 次に、公立と私立の対比を見ると、7対2の比率で公立が多いが、公立全体の37%(52 8万人)を2年制カレッジが占めていることが注目される。公立4年制との対比においても 10対9と肉薄しており、所謂コミュニティカレッジのシェアの大きいことが特徴となって いる。しかも、コミュニティカレッジの学生はパートタイムの比重が高く(344万人)、フ ルタイムの1.9倍となっている(3)。 学生の専攻を上位から挙げると、全体では、1位ビジネス(15.2%)、2位健康(11.1%)、 3位教育(8.2%)、となっていて、以下、4位文学・リベラルスタディズ(6.9%)、5位 工学(5.2%)、の順位である(4)。(なお、コミュニティカレッジでは、1位ビジネス(14.6%)、 2位健康(14.3%)、3位文学・リベラルスタディズ(10.2%)となっていて、健康・文学・リベラル スタディズの比重が重くなり、教育(3.8%)は低くなっている。これに対して、4年制大学では、1位ビ ジネス(15.8%)、2位教育(8.3%)、3位健康(8.2%)で、教育と健康の比重がほぼ同等となってい る。また、文学・リベラルスタディズ(4.9%)は低くなり、工学(6.1%)は高くなっている。他方、 大学院及び第1専門学位コースでは、1位教育(21.8%)、2位ビジネス(15.2%)、3位健康(8.9%) となっていて、教育の比重が高い。) 次に、米国社会の高学歴化を示す指標をみてみよう。70年当時、25歳以上でカレッジ学 位を取得していた人口は1,200万人であったのに対し、80年には2,200万人、90年には3,400 万人、97年には4,100万人と急上昇している。97年の数字は70年当時の3.4倍にもなる。驚 異的な速度で高学歴化が進行している事実が窺える(5)。 高等教育全般の統計から目を転じて、米国における労働市場、成人教育、企業内教育等 に関する諸指標を見ておこう。 まず、2006年までに伸びる職種予測(カレッジ学位を必要とする職種中)の第1位は、 コンピューター・スペシャリスト(サイエンティスト)で、96年と比べると118%もの成長 が予測されている。2位、3位も同じくコンピューター関連であり、2位がコンピュータ ーエンジニア109%、3位がシステムアナリスト103%となっている。上位3位までがコン ピュータ関連で独占されているという事実は、この国における成長動因としてのITへの 期待感を、改めて窺わせるものと言えよう。なお、4位以下は、フィジカル・セラピスト (71%)、オキュペイショナル・セラピスト(66%)、特殊教育教員(59%)、等々と続 いている(6)。 次に、学位と収入との相関について見てみよう。こうしたデータは、この国ではあらゆ るメディアを通じて喧伝されていて、社会のクレデンシャリズムを更に促す要因となって いる。ここでは、96年における年収比較を取り上げる。それによると、1位は専門学位(医 師・弁護士等)で8万5千㌦余、2位は博士号で6万5千㌦弱となっている。3位は修士号 で4万8千㌦弱、以下、学士号4万㌦弱、準学士号2万8千㌦弱、高卒2万1千ドル強、 と続いている。カレッジ卒業者の中位数は3万7千㌦弱であり、修士号を取得すると30%、 専門学位ならば130%の収入増加があるとされる。現在よりも更に上級の学位を取得する動 機づけが、こうした形で日常的に行われている事実に注目しておきたい(7)。 職種と教育訓練とを関連づけたデータを見ると(95年時点)、上級管理職・専門職・技 術職において、職務上の教育訓練を希望する度合いが最も高い(49.9%)。以下、販売・事 務職(29.4%)、工芸・修理(27.4%)、サービス(24.6%)、オペレーター等(17.2%)、 農業(13.6%)、と続いている。なお、女性の教育訓練参加率が、この年、男性(31%) を上回った(35%)。また、カレッジ卒業者の約半数が参加した一方で、高卒者の参加率 は四分の一であったことが報告されている(8)。 同じく95年のデータによれば、16歳以上の年齢層(7,626万人)の内、40.2%が何らかの 教育訓練に参加している(フルタイムの学位コース履修者を除く。なお、91年の参加率は3 3.0%)。 これを年齢階層別に見ると、40∼44歳が51%で、参加率の最頻値をマークしている。学 歴的には、学士が56.9%で、修士59.1%、博士54%、専門学位65.9%であり、高卒ディプロ マ取得者の30.7%と対照すると、高学歴者ほど参加率が高くなっている実態が分かる。職種 別のデータでは、看護職が最も高く86.7%、以下、初等・中等教育教員76.7%、ソーシャル ワーカー・法律家76.6%、ヘルス・テクノロジスト74.8%、自然科学・数学者72.3%、が上 位に挙がっている。年収別のデータでは、7万5千㌦以上が58.0%で最も高く、収入が低く なるほど参加率も低くなる傾向(因みに、2万5千㌦から3万㌦では37.9%、5千㌦から1 万㌦では21.3%となっている)が窺える(9)。 次に、教育訓練の内容別参加数の内訳を見ると、職業関連が4,000万人、エンリッチメン ト3,800万人、資格関連1,100万人、徒弟200万人、ESL200万人、となっている(10)。 職 業関連の教育訓練をどこで受けたかについては、企業内が48%、専門職団体が15%で、以 下、4年制大学12%、私立専門学校10%、2年制カレッジ6%、公立学校4%、と続いて いる(11)。職業的教育訓練の供給者としての高等教育機関の位置づけないし比重が、これ によって知られる(我が国の現状からすれば、垂涎すべきデータと言える)。 ここで、成人教育一般に対する参加動機について見ておこう(91年のデータ)。図1か らは、職業能力の向上(平均18.8%)が最も高く、以下、個人的・家庭的・社会的動機(同 9.5%)が続き、学位取得(同4.1%)、就職・再就職のための訓練(同3.0%)、基礎技能 の向上(同0.4%)、となっていることが分かる(12)。 更に統計指標を記述する。 一般に、大学継続教育が恒常的に機能する条件の一つとして、専門職資格の更新に伴う リカレント教育システムが整備されていることが挙げられよう。そこで、全米の各州が各 種専門職に対して継続教育(義務的)を課している状況を見ると、97年時点では、検眼師が5 1州で義務化されており、公認会計師と不動産鑑定士が50州で義務化されている。また、薬 剤師は48州、家庭看護管理士47州、保険業務師46州、心理士40州、ソーシャルワーカーと 獣医がそれぞれ39州、法曹37州、等々である。この内、最近十数年の中に急増した専門職 の種類は、公認会計士、法曹、薬剤師、不動産鑑定士、等であると言う(13)。 最後に、企業内教育を巡るニ三の指標について瞥見しておこう。 第一に、96年のデータでは、全米で、支払い給与総額の3%弱が教育訓練に充当されて いる。しかし、95年に比して若干減少したこと、とりわけ外部訓練に対する投資額が、内 部訓練に比して減少したこと、が報告されている(内部化)。この点に関する事例として、S un Microsystems社等では、専門職能開発団体との契約による外部化への傾斜が進む一方、 Motorola社等では反対に、内部の企業内大学(corporate universities)への依存度を高め ている、と言う。また、内部訓練のパートナーとして、大学継続教育が企業内ニーズにカ スタマイズしつつ提携するケースが多くなっている、と言う。なお、全米における一人当 たりの教育訓練費は、平均1,526㌦であり、前年度10%の伸びであった(14)。 第二に、教育訓練内容に関しては、技術関係(30%)と専門技能関係(20%)が併せて半数近 くを占め、以下、アプリケーション関係、管理技術、諸規則、顧客サービス、等々が続い ている(各数%)。一方、形態面では、時間コストの節約を図るため、雇用主は、企業現場で の教育訓練(対面型、コースウェア型等の別を問わず)に強い関心を寄せている。また、 高度専門技術に対する従業員ニーズを満たすため、高等教育機関が供給するカスタマイズ されたプログラムの活用に目を向けつつある、と言う(15)。 三番目は、働きながら正規の訓練を修了するとどのようなベネフィットが得られるか、 についてのデータである。1位は、 「職務能力を向上させる技能の修得」で78.1%であった。 2位は「業務命令としての訓練であるから」(70.0%)が挙がっているが、3位は「新法や 新規則の修得、及び技能の更新」(66.1%)となっている。以下、「人事ファイルへの修了 証明の記載」(47.9%)、「将来の昇級に必要」(40.1%)、が続いている。「給与の増額 あるいはボーナス」(19%)、「修了時における昇進」(14%)は、相対的に少なかった(1 6) (直接的効用が相対的に少ないのは、我が国においても同様である)。 2.サンノゼ州立大学プロフェッショナル・ディベロップメント・センターの概要 サンノゼ州立大学(SJSU)は1857年に創立され、カリフォルニア州の公営高等教育機関 としては最も古い歴史を有している。前身は師範学校であり、1871年にサンフランシスコ から現在地に移った。1881年にロス・アンジェルスに分校を設けたが、これが現在のUCL Aの発祥ともなっている。1887年にサンノゼ州立師範学校と改称し、1921年にサンノゼ州 立教員養成カレッジとなった。1935年にサンノゼ州立カレッジと改称、1949年には初めて 修士学位を発行した。1961年にカリフォルニア州立カレッジ群の一つとして編入され、19 72年、ユニバーシティに昇格した。現在23あるカリフォルニア・ステート・ユニバーシテ ィ(CSU)の一つである。 SJSUは、工学、理学、教育学、社会科学、社会事業、ジャーナリズム・マスコミュニケ ーション、美術・デザイン、ビジネス、図書館・情報科学、音楽・舞踊、応用科学・美術、 人文学の12の学部・カレッジから構成されている。97年10月現在、学生数26,897名(学部2 1,753名、大学院5,144名。フルタイムは学部14,922名、大学院2,167名、パートタイムは学 部6,831名、大学院2,977名)、教員数1,644名(フルタイム842名。博士号・第1専門学位 を有する割合84%)を擁する総合大学として発展している(なお、96−97年度における学士 授与数4,090、修士授与数1,212である。学士・修士の種類は併せて130を超える)(17)。 さて、CSU全体における継続教育部門の実績(96−97年度)は、総登録者数324,859名、F TE学生数22,273名(フルタイムに換算した数値)であり、この内、10,234名(FTE)が夏 季コース、6,760名(FTE)がクレジットコースによるものである(55−56年当時は、それ ぞれ5,327名、1,020名であったので、40年間で夏季コースは倍層、クレジットコースは6 倍増となった)。また、コース数は47,313、収入額は1億255万㌦(1ドル105円として107 億7千万円)であったことが報告されている(85−86年当時は、それぞれ40,176コース、3, 906万㌦であるので、10年間で収入額が2.6倍となっている)(18)。 SJSUの継続教育部門のデータを見ると、FTE学生数が1,975名で、サンディエゴ、ロン グビーチ、サンフランシスコの各CSUに次いで、4位の規模となっている。また、収入額 は953万㌦(10億円)であり、同様に4位にランクしている。CSU継続教育部門の全体から 見ると、ほぼ9%内外の比重である。 SJSU継続教育部門が提供するプログラムは、Open University、Summer Session、Wi nter Session、Special Session、Online Campus、Corporate Training、Test Preparati on、Professional Development、Studies in American Languagesの九つのプログラムか ら構成されている。 この内、特色あるプログラムについて摘記しておこう。 まず、Open Universityは大学のレギュラーコースを履修するもので(教室の余裕がある 場合に)、学部レベルでは24単位まで、大学院レベルでは6単位までの単位取得ができる(我 が国における滋賀大学や徳島大学等の公開授業に似ているが、単位授与を行う点で異なる)。 次に、Online Campusはインターネットによる遠隔教育プログラムであり、ライブビデ オによるリアルタイムの双方向授業と、EメールやFAX、電話によるオンライン授業の2種 類から構成されている(単位取得可)。対面授業やフィールド・トリップが必須のものもある が少数に過ぎず、大半はウェブ上で完結するようにできている。 また、Studies in American Languageは1975年より開講されているプログラムで、TO EFLのための準備教育や一般の語学研修プログラム等が用意されている。 一方、Test Preparationプログラムは、テスト専門会社(Bobrow Test Preparation Se rvices)と共同して、大学院生、大学志望者、現職教員を対象にした事前テスト等をプログ ラム化したものであり、次のような種類が用意されている(SATⅠ(Scholastic Assessment Test Prep Session)、MSAT(Multiple Subjects Assessment for Teachers)、GRE(Graduate Recor d Exam Prep Session: Conputer-Based Testing)、GMAT-CAT(Graduate Management Admission Test Prep)、CBEST(California Basic Educational Skills Test Prep Session)、LSAT(Law School Admission Test Prep Session)、RICA(Reading Instruction Competence Assessment))。 Corporate TrainingとProfessional Development(後者の本体は、後述するCertificate Programsである)については、大学キャンパス(サンノゼ市のダウンタウンに立地)とは別の 場所に設置されたProfessional Development Center(PDC)が企画運営に当たっている(な お、このセンターは、1989-91年の間はキャンパス内にあり、幾つかの公開講座を開講していたが、91 年からはサンノゼに隣接するキャンベル市のショッピングセンターに3教室を借りて事業運営に当た った。94年にサンノゼ市に戻り、ダウンタウンから少し離れた現在地(キャンパス西方の交通至便の地) に移動して今日に至っている(19))。 PDCの目的は、技術革新と経営環境の変化に即応する上級レベルの人材養成にあり、職 務能力の向上、新規内容の修得、並びにキャリア開発に貢献することにある。この目的を 実現するために、PDCは、上記二つのプログラムとは別に、Professional Seminars(キャ リア開発のためのセミナーで、産業界の実務家を講師に登用し、1ないし2日間の集中的 プログラムを設定)とLeadership Series(1994年以降、産業界の指導的人物を講師にして、 ライブまたは電話会議によるプログラムを実施)という2種類のプログラムを開発してい る。 Corporate Programsは、企業等のニーズに完全にカスタマイズしたプログラムと言える。 企業等の担当者とPDCスタッフとが、意見交換を繰り返しながらプログラム内容やインス トラクターの選定に当たる。これが第一段階である。インストラクターが決まれば、次に は、三者で更に詳細なカリキュラムを作成する。この際、学習内容や方法に加えて、履修 後のCEU(Continuing Education Units:継続教育単位。10学習時間で1単位と計算され る)やCertificatesの授与の有無、評価方法、等についても合意を形成し、最終的に、「訓練 計画同意書」(Training Plan Agreement)に署名して実行段階に入る、というものである(2 0) 。従って、所謂契約学習(Contract Learning)の範疇に入ると考えて良い。クライエント としては、Actel、AMD、AvalonBayApartment、City of San Fransisco、City of San Jose、Fujitsu、IBM、Pacific Bell、Ricoh、United Defense、West Marine、等が報告さ れている。 ここで、PDCにおける最近の財政状況を概観しておこう(21 )。 表2に見る通り、97-98年度における学生数は16,889名であり、386万㌦(約4億540万円) の収入額である。この内、Certificate Programsが全体の6割強を占め、Seminarsがおよ そ2割、Corporate Programsが1割強で、この三種類のプログラムがセンター事業の中心 であることが分かる。 表2 PDCの財政−1(Sept. 9, 1998) プログラム 収入額:$ 学生数 収入額に対する比率:% Certificate Programs 2,385,085 9,021 61.78 Corporate Programs 436,722 1,659 11.29 Seminars 745,111 1,118 19.30 10,080 645 0.26 104,680 494 2.71 57,723 2,940 1.50 122,268 1,012 3.17 3,860,669 16,889 100.00 Lessons in Leadership Misc. Courses Center Operations Admin Fee Totals 次に、表3によれば、前年度に比べて、全体として学生数は19%のマイナス、収入額は 逆に25%のプラスとなっている。これに対して、Certificate Programsに関しては、それぞ れ20%、45%の増加となっていて、センターにおける各種プログラムの中で一番の<稼ぎ 頭>であると同時に、<成長株>であることが知られる。 表3 PDCの財政−2(Sept. 9, 1998) 年度 収入額 学生数 1996-97 1,648,186 7,536 Certificate Programs 1997-98 2,385,085 9,021 増 減 + 736,899 + 1,485 + 45% + 20% Total Programs 1996-97 3,083,868 20,814 1997-98 3,860,669 16,889 増 減 +776,801 −3,925 +25.19% −18.86% (22) 最後に、PDCの職員構成を見ておこう 。 SJSU継続教育部門のスタッフは、総勢40名程度であるが、PDCについては、次のような 職員構成となっている。Dean(Gerontrogyが専門)を除けば、アカデミック・スタッフは 一人もいないことに注意する必要がある。こうした専門職集団による事業展開は、我が国 における私立大学の大学開放部門にしばしば見られるものと同様である(23)(但し、分業化 が格段に進み、事業経営に最適な組織構造を採用している。この点、我が国においては未 だ徹底できず、大学としての躊躇いがあるように見える)。 PDCの職員構成 Dean:1 Executive Director:1 Program Managers:3 Corporate Programs:2 Editor:1 Customer Service:7 Writers:4 Technical Support:1 Production:2 Graphic Design:1 3.プログラムの構造−Certificate Programsを中心に PDCにおける中心事業であるCertificate Programsの構造を探る前に、全体のプログラ ム構成について一覧しておこう。 表4 PDCのプログラム・Certificatesの種類(24) Ⅰ.Professional Development Seminars No. % 29 10.8 Subject Area a.Business and Management 10 b.Construction/Engineering 3 c.Distribution and Warehousing 2 d.Leadership Training 1 e.Maintenance 1 f.Manufacturing and Quality Assurance 2 g.Marketing 1 h.Packeging Technoligy 1 i.Purchasing and Procurement 8 Ⅱ.Applied Computing Ⅲ.Certificate Programs 7 2.6 219 81.7 Subject Area a.Construction;in cooperation with the California Subcontractors Association(CSA) and the Peninsula Buiders Exchange 18 Certificate 4 ①Certificate in Construction Management:Core Courses(16.8CEUs Required)+Electives(13.2CEUs) ②Certificate in Construction Inspection:Core Courses(25.2CEUs Required)+Electives(4.8CEUs) ③Certificate in Construction Estimating:Core(16.8CEUs)+Electives(13.2CEUs) ④Certificate in Construction Field Supervision:Core(16.8CEUs)+Electives(13.2CEUs) b.Human Resource Management;co-sponsored by American Compensation Association(ACA) and Society for Human Resource Management(SHRM) 23 Certificate ①Human Resource Management Generalist Certificate:Core(3 couses)+Electives(3 courses)+Speciality ②Human Resource Management Senior Professional Certificate:Core(3 courses)+Speciality Area 2 Area Electives(2 courses) (5 courses) c.Internet Education Institute 50 Certificate 2 ①Internet business Specialist Certificate:Core(10.6 CEUs including 5 core courses from Group A to Group C)+Electives(7 CEUs from 3 tracks;management,marketing and Design & Programming) ②Internet Systems Administration Certificate:18.5CEUs from 5 core areas(Internetworking concepts & principles,Systems Software & Server Management,Programming for Web Design/Development, Network Management & Security and Project management & communication skills) Award 1 ①Internet Achievment Award:2.5CEus of Internet Coursework d.Leadership 15 Certificate 1 ①Leadership Certificate:Core(11.2CEUs)+Electives(7CEUs):within 3 years e.Marketing Communications 17 Certificate 2 ①Certificate in Marketing Communications:Core(6 classes)+Electives(4 classes) ②Certificate in Marketing Communications-Internet Emphasis:Core(7classes)+Electives(3 classes) # Both Certificates:Core(11 classes)+Electives(4 classes) f.Nonprofit Management;co-sponsored by the Nonprofit Development Center 7 Certificate 1 ①Certificate in Nonprofit management:Core(7 courses)+Electives(3 courses) g.Professional Meeting Planning 10 Certificate 1 ①Professional Meeting Planning Certificate:Core(8 classes)+Electives(6 classes) h.Professional and Technical Communication 15 Certificate 1 ①Professional and Technical Communication Certificate:Core(9 couses;13.5CEUs)+Electives i.Program and Project Management Certificate (4-6 courses,9CEUs) 13 1 ①Program and Project Management Certificate:12CEUs(3 cores+choice of electives) within 3 years j.Purchasing Management:co-sponsored the National Association of Purchasing Management Certificate 10 1 ①Purchasing Management Certificate:15CEUs(8 cores+3CEUs of Electives)within 3 years k.Purchasing Management:co-sponsored the National Association of Purchasing Management Certificate 3 1 ①Supervision and Management:6 courses, each course meets 3 hours a week for 6 weeks l.Systems Engineering 2 Certificate 1 ①Systems Engineering Certificate:12.9CEUs(6 required courses+2 recommended courses) m.Telecommunications/Network Technologies 21 Certificate 1 ①Telecommunications/Network Technologies Certificate:17CEUs(core 4 courses+8.3CEUs from Electives) #including the preparing courses for the Microsoft Systems Engineering Certification(MCSE) exams n.Workplace Communication:English Language Skills and American Culture 15 Certificate 1 ①Workplace Communications:English Language Skills and American Culture Certificate: 16.5CEUs(7 Core courses=10.5CEUs+6.0CEUs from Electives) 13 Ⅳ.Career Resources and Test Preparation a. Career Resources 4.8 2 b.Test Preparation:in cooperation with Borow Test Preparation Services 11 Total 268 Certificates & Award 21 99.9 PDC全体では268科目を提供し、その内、ⅢCertificate Programsが218科目、81.7%を 占めている。また、ジャンルは、建築から英語・アメリカ文化まで14種類であり、 Certificatesは21種類が提供されている(なお、この内、Awardは履修単位数が少ないもので、イ ンターネット関係で1種類のみ提供)。科目数が最も多いジャンルは、Internet Education In stitutesの50科目であるが、Certificatesに関しては、ジャンル毎に1ないし2種類ずつであ り、建築関係では例外的に4種類が提供されている。 これらの中から、事例として、Human Resource Management(人的資源管理)に関する Certificates(1984年より提供)を取り上げ、そのプログラム構造を探ってみよう。 上表に見るように、このプログラムによって取得できるCertificatesは、ジェネラリスト 向けの①Human Resource Management Certificate(HRMと略)と、上級者向けの②Hu man Resource Management Senior Professional Certificate(SPと略)、の2種類である (なお、SP資格は、最近において人的資源関連の学位または資格を取得した人、または人 事関連で3−5年の実務経験を有する人を対象にしている)。 全部で23ある科目は、a.コアコース(必修)、b.選択コース、c.専門領域コース(選択) の3種類のいずれかに属した形となっている。HRM資格に関しては、コアコースから3科 目、選択コースから3科目、専門領域コースから2科目、計8科目を履修する必要がある。 一方、SP資格に関しては、コアコースから3科目、専門領域コースから最低5科目(別の 資格を取得するために履修した科目以外の科目)、計8科目を履修する必要がある。 興味深いのは、幾つかの関連団体がスポンサーとして関与している事実である。即ち、N ational Society for Human Resource Management(SHRM)は、独自の専門職業能力開発 コース(3コース)を開発し、全米の高等教育機関を通じて提供している団体であるが、P DCを北部カリフォルニアにおける独占的供給体として認定している(因みに、SHRM Learn ing Systemは、PDCにおける科目名An Overview of Human Resource Managementに相当し、SH RM Strategic Management Seriesは、同科目名Management Practices & Employee Relationsに相 当する。このSeriesに関しては、the Northern California Human Resources Association(NCHRA) もスポンサーとなっている、と言う。なお、これらのSHRMコースは、the Professional in Human ResourcesとSenior Professional in Human Resourcesの2資格に向けた科目である。)。 また、The American Compensation Association(ACA)は、全米で二万一千名以上の専 門職を擁する非営利団体で、雇用者の補償と厚生事業を行っているが、PDCを同じく北部 カリフォルニアにおける独占的供給体として認定している。その内容は、団体固有の資格 (Certified Compensation Professional (CCP)及び Certificate in Salary Administration)を取得 するACA資格セミナーの開催と試験の実施である。 このように、PDCのプログラムが、関連団体のそれとクロスオーバーしている点に特徴 の一つがある。 Certificates Programsの企画・立案は、PDCのプログラム・マネジャーが主体となり、 マーケットリサーチや学生の評価等を参考にしてなされるが、各方面からリクルートされ た諮問委員会(Advisory Council : 10名)が正規の機関として助言に当たっている。委員 の構成は、次に見るように、大小の企業経営者、専門のコンサルタント・ディレクター、 アナリスト等であるが、この中には履修経験者も含まれていると言う(男6、女4)(25)。 Advisory Councilの構成 President 2 ; Bartlett Associates, King Consulting Group Vice-President 2 ; ADAC Labs, Candescent Technologies HR Consultant 1 ; 3 Com HR Manager 2 ; FMC United Defence, ArrayComm. Inc. Director 2 ; Adaptec, Adecco Compensation Amalyst 1 ; Adobe Systems 計10名 PDCのプログラム企画は、このように、リアルワールド(実業界)における第一線の実 務家の知識・感性を活かす仕掛けを通してなされている。その最大の表現が、次に見るイ ンストラクターの職業構成である(99年春学期全23科目の担当全26名における)。SJSUのアカ デミックスタッフは、この中には一人もいない(26)。 表5 インストラクターの属性:M=男性、F=女性, 学位(明示されている場合), 職階, 企業等名 M;Principal,Warren Enterprises;MS in Education & Curriculum Development F;HR Director, Trimble Navigation M;Principal with Enhanced Performance Consulting M;Director of compensation and benefits at 3Com Corporation M;Owner of Coaching for Success F;Founder & General Partner of par-Human Resource Management Services F;Director of management & organization development for Quantum Corporation M;Staffing Manager, Advanced Micro Devices F;Worldwide employee programs manager for Silicon Graphics,Inc. F;Director of management & organization development for Quantum Corporation M;Phd;Partner, Communications Training Consultants in Sunnyvale M;Controller,Verifone HP M;President,Bartlett Associates M;Vice President of business development,Icorian M;MSOD;President,King Consulting Group;External Director for SJSU HRM Certificate M;President,Global Learning Resources F;Principal & Senior Consultant,William M. Mercer Inc. M;Principal,William M. Mercer Inc M;Staffing Manager, Advanced Micro Devices M;Vice President of human resources for ALZA Corporation F;EdD,SPHR;Director for training & staff development for Adecco M;Special Consultant to the director of DMV M;Vice President of human resources for ALZA Corporation M;Vice President at Bernard Hodes Advertising;Developer of CareerMosaic F;PhD;Management Consultant for major corporations in organaizational psychology M;President,VRC 職業別(職階別)に分類すると、次のようである。 インストラクターの職業構成 President 4 ; Principal 4 ; Owner 1 ; Founder 1 ;Controller 1 ; Vice-President 4 ; Director 5 ; Manager 3 ; Consultant 2 ; Partner 1 計26名 諮問委員との兼務者が3名存在する。実務に役立つことが、最大の選択基準となってい ることが看取できる(なお、男女の割合は、男18、女8である)。 次に、科目の時間帯や回数、単位数(CEU)、授業料について眺めてみよう。 表6 科目名・時間帯・回数・単位数・授業料4 Course Title Time No. of Ses Credit etc. Fees sions 1.Effective Presentation Skills 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 2.Overview of the Human Resource Field 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 3.Facilitation Skills 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 4.ACA:Regulatory Environment for Compensation Programs(C1) 8:30-16:30 4 1.2CEUs $695/$750 5.The SHRM Learning System(formerly SHRM:Human Resource Development Program) 18:00-21:00 11 3.3CEUs $695/$750 6.Managing the Virtual Workplace 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 7.recruting Technical Staff 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 8.Fundamentals of Benefits 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 9.Managing Large Scale Change 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 10.Managing Diversity 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 11.ACA:Principles of Accounting and Finance(T2) 8:30-16:30 2 1.2CEUs $695/$750 12.Legal Aspects of Employment 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 13.Strategic Staffing 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 14.Understanding Today's Business Environment 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 15.ACA:Elements of Executive Compensation(C6) 8:30-16:30 2 1.2CEUs $695/$750 16.Immigration and Employment 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 17.Fundamentals of Compensation 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 18.Behavior-Based Interviewing for Successful Recruiting 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 19.Consulting Skills 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 20.Employee Relations 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 21.Innovative Recruting 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 22.Enhancing Interpersonal Skills 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 23.Human Resource Management Systems 8:30-16:30 2 1.4CEUs $255 夜間の3時間コースが11回で編成されているのを除いて、インテンシブな終日コースの みである点が注目される(2日間に亙るプログラムが専らで、唯一4日コースがある。ま た、2日連続かあるいは2週ないし4週に亙って開講)。また、先述のSHRMとACAに関 わる科目の授業料が高くなっている他は、2日14時間で255㌦(約26,800円程度)となって いる。時間単価は、従って、18.2㌦(1,911円)である。我が国における国立大学の公開講 座よりは相対的に高く設定されているが、インストラクターが第一線の実務家で、内容が 実務直結のインテンシブ・コースとしては、「安い」と言えるのではなかろうか(なお、 インストラクターの謝金は、1時間当たり平均125‐150㌦(約13,000円−16,000円である)。 こうした個別の科目を累積しつつ、Certificatesの取得に至るわけである。前述したHR M資格を取得するためには、最低11.2CEUsを取得する必要があるから、日数的には、少な くとも16日間(全ての科目日程が重ならないならば)、経費的には、約2,040㌦(約214,20 0円)が必要となる。また、SP資格に関しては、SHRMやACA科目と連動するために、経 費は更にかかることになる。 ここで、典型的な2日コースであるStrategic Staffingの内容を見ると、「世界的規模の 組織づくりに必要な新しい技能・方法論を実践的に修得する」ことが謳われている。細目 は、①人事計画方法論の概観、②人事計画と採用計画の関連性、③戦略的人事の3つのプ ロセス−応募者データベースの作成、評価・面接、選考−、④人事上のコミュニケーショ ン、⑤予算、⑥測定評価法、⑦WWWの使用法、となっている。なお、インストラクターは、 この分野で20年以上のキャリアをもつ民間会社のVice-Presidentである。 また、SHRMの科目でもあるThe SHRM Learning Sytemの内容は、資格試験のための 準備教育が主体であり、①マネージメント実践、②選別と配置、③訓練・能力開発、④従 業員の職務関係、⑤補償制度と厚生事業、⑥健康・安全・セキュリティ、の各細目から構 成されている。また、この科目を履修するためには、Windows版のテスト教材を購入する 必要がある。科目は週1回の夜間コースとして設定されており、11週に亙って出席しなけ ればならない。インストラクターは、SHRMの国際会員であり、上級管理職を対象にした コンサルティング会社のオーナーでもある。なお、当該試験の合格率は、全米ではPHRが7 7%、上級のSPHRが64%であるが、PDCの学生に関しては、両者とも100%であることが 記載されている。 4.プロフェッショナル・ディベロップメントの学習理論:Experimental Learning 以上、PDCの中心プログラムであるCertificate Programs について概観してきた。 この章では、米国におけるプロフェッショナル・ディベロップメントのプログラム構成に 著名な影響を与えている、Kolb, D.A.が提唱したExperimental Learning(実験学習)の 理論についてその要点を記しておきたい(27)。 Kolbは、現在、Weatherhead School of Managementで組織行動論の教授を務めている が、1961年にKnox CollegeでABを取得し、64年にHarvard University でMAを、67年に 同じくHarvard UniversityでPhDを取得した。キャリア開発や専門職教育、社会変動と個 人の変容、等を研究しているが、何よりもExperimental Learningの理論的指導者として 名を馳せている。 Kolbの理論の下敷きとなっているのは、次のような認識である(28)。即ち、人間が物事を 学習する仕方には二つの大きな違いがある。一つは認知(Perception)の仕方における違い であり、他は処理(Processing)の仕方における違いである。前者は、我々が新しい状況下 で情報を入手する方法であり、これには、感覚的に捉えるタイプ(Sensing/Feeling peopl e)と考えるタイプ(Thinking people)の二つのタイプがある。感覚的なタイプは、経験した ことを意味に直結し、感官を通して知覚し、具体的状況の中に浸り、直覚的である。これ に対して、考えるタイプは、経験したことを一端引き離し、後ろに引いて出来事を分析し、 経験の意味を理由付け、論理的方法で認知する。 他方、後者は、経験と情報を処理する仕方であり、これにも二つのタイプがある。即ち、 一は一足飛びに処理したり、試行したりするタイプ(Active people)であり、他は出来事を 観察し、反芻するタイプ(Reflective people)である。前者は、新しい情報に基づいて即座 に行動し、試行した後に反省し、情報を自分のものにしたり外界と関係付けるためにはと にかくやってみる必要があるというタイプである。これに対して、後者は、新しい出来事 を反芻し、自らの経験をフィルターにして意味の関連付けを行うタイプである。 認知の次元を縦軸に、処理の時限を横軸に置くと、我々はいずれかの位相に位置づくの であるが、その位置づいた場所において最大の快を得る。即ち、人間は、相異なる学習ス タイルや好みを持っている。認知と処理におけるこうした違いは、それぞれ固有の長所と 短所を有するが、それ自身は等価であり、我々は時に応じてそれらを使い分ける必要があ る。 Kolbは、このような認識論を基礎として、知覚と処理の四つの組み合わせから、下図の ように、学習スタイルを四つに分類した。第一は、反省的学習者である(Reflectors)。彼等 は、情報を具体的に受け取り、反省的に処理する。見たことから出発して、次に一般化す る(imaginative people)。第二は、理論的学習者である(Theorists)。彼等は、経験したこ とを抽象的に受け取り、反省的に処理する。観念から出発して、それを弄びつつ反芻し、 様々な形式に当て嵌めながら観察する(Theoretical/analytic people)。第三は、実用的学 習者である(Pragmatists)。経験を抽象的に受け止め、行為の中でそれらを処理する。観 念から出発するが、次にそれがうまく機能するかどうかを実験したり、検証したりしなが ら試してみる(Practical/common sense people)。最後は、実行的学習者である(Activist s)。経験を具体的に受け取り、行為として処理する。見たり、聞いたり、触ったり、感じた りしたことから出発し、次に行為の中に投じたり、試行したりする(Dynamic/intuitive p eople)。 図2 Kolbの四つの学習スタイル 教育者は、往々にして理論的学習者の学習法にのみ価値を置きたがり、たとえ7割の学 習者がそうではないとしてさえも、「分析的な理論的学習者」を造ることが教育の目的で あると考えがちである。しかしながら、人間は、最も快適なスタイルで教えてくれた時に 良く学び、良く感じるのであり、教師が好むスタイルでのみ学習するわけではない。技能 の完全修得を促進する学習過程は、四つのスタイル全てを通過する。経験的に見ても、人 間は、観察し、反省することの結果として、新しい概念や原理、行動への見通しを形成す ることができるのであり、最終的に、新しい状況の中でそれらを実践・実験するわけであ る。 これが、Kolbの言うExperimental Learning Cycle(実験学習サイクル)である。Expe rimental Learningとは、従って、学習者が観察し、考え、分析し、総合し、評価し、学ん だことを応用する、といった諸活動を促進するすべての事象を言う。単なる実用的経験を 言うだけではなく、その経験をより高度な学習にまで高めるように用いることも含んでい る。学習者はすべて、この四通りの方法で教えられる必要がある。その際、快適にして成 功的な時間を過ごすことにより、他の学習能力を修得することにまで及ぶような経験が得 られるよう配慮する必要がある。学習者はまた、学習サイクルの相異なる位相にあって、 切磋琢磨しつつ相互に学び合うであろう。 こうした考え方を基にして、個々の学習スタイルに対する次のような教授戦略が提起さ れる。 図3 Experimental Learning Cycleと教授戦略 第一のタイプである反省的学習者は、まず最初に個人的な意味付けに関心を抱くのである から、教師はmotivatorまたはwitnessとして理由付けを図る必要がある。学習方法として は、シミュレーションや討議法により、観察、発問、想像、推理、視覚化、聴取、発話、 ブレーンストーミング、交渉といったスキルを駆使する。熟慮し、同化し、実行への準備 をし、出来事を再度振り返り、プレッシャーやデッドラインをなくして決断させるために は、時間が必要である。 第二のタイプである理論的学習者については、概念的理解に至る前に、最初に事実に対 して関心を持つ。従って、教師は、理解を深化させる事実を提示する必要がある。教師の 役割は正にteacherである。また、構造的で、情報量が多く、知的な挑戦が学習法として最 適である。パターン化、組織化、分析、相互関係の観察、部分の識別、秩序付け、分類、 比較、優先化といったスキルを動員しつつ、仮説や論理、更には観念と事実の間の相互関 係に対して疑問を投げかけ、あるいは証明し、方法論的に探求する機会が必要となる。 第三のタイプである実用的学習者は、まずは物事の働き方に関心を持つのであるから、 教師はcoachとして、試行させる必要がある。学習法の原理は促し(facilitation)であり、探 求、問題解決、実験、観察、予測、記録、いじり、動作化といったスキルを用いると共に、 信頼できるエキスパートの指導とフィードバックを得ながら、テクニックの実践に向かう 必要がある。その上で、学習の主題と実際上の問題との関係を考えさせる学習活動が必要 である。 第四のタイプである実行的学習は、何より自分で発見することに関心を抱くので、教師 はevaluatorまたはremediatorとして、彼等が自分自身や他者に対して教える経験をさせる 必要がある。自己発見的学習法が重要であり、統合、評価、確証、説明、要約、総合化と いったスキルを駆使し、ビジネスゲームや競争、ロールプレイング等の耳目を引くような、 新しくて挑戦的で多彩な学習活動をさせる必要がある。 Kolbにおけるこのような基本的枠組みをモデルにして、学習経験を出発点とする次ぎの ような学習サイクル(応用型)が考案されている(29)。 Experimental Learning Cycle(応用型) ①Experiencing(Activity,"Doing") ⑤Applying(Planning More) Effective Behavior) ②Publishing(Sharing Reactions & Observations) ④Generalizing(Inferring Principles About the "Real World" ③Processing(Discussion of Patterns & Dynamics) 第一の経験の段階では、計画化・構造化された学習経験が重視される。具体的には、作 品制作、執筆、ロールプレイング、交渉、事例分析、自己紹介等の技法が用いられる。第 二段階に進むための共通のデータベースが構築されることが、この段階の課題である。 二段階目はデータ処理の段階であり、個々人の中で起きた出来事を発見し、それらを発 表する。データの記録・分類、分団討議、相互インタビュー等の技法が役に立つ。これに よって、各自が経験した事象を明瞭化する。 第三段階は実験学習の<支点>に当たる部分である。各自の報告を基にしてグループダ イナミクスが展開される。オブザーバーによるレポート、パネルディスカッション、テー マ別討議、文章完成法、質問紙作成、データ分析、相互フィードバック等の技法による。 学習場面以外での人間関係が重要な要因となることに留意する必要がある。 四段階目は、日常的な現実に向き合う過程である。現場的状況の中で応用できる、幾つ かの原理を抽出することが課題となる。学習経験を実践化・一般化する段階であり、この 段階を除外すれば、実験学習そのものが皮相になる。ここでの技法としては、イメージト レーニング(fantasy)、自己分析、'真実'記述法(討議を通じて現場で'真実'と思われる事項 を書き出す)、文章完成法等がある。 最後の五段階目は、前段階で一般化した事柄を具体的に現場に応用する段階である。現 場に帰って、これまで以上に実効的な行動が取れることが大事になる。二人組または三人 組によるコンサルティング、目標設定、契約作業、分団討議、ロールプレイング等の技法 による。 学習サイクルは、かくて、一巡りして経験段階に回帰する。この際、現場での応用作業 が、学習者本人にとって新たな経験となるようにすることが重要である。 結語 本稿では、米国における大学継続教育を巡る現状を要述し、サンノゼ州立大学PDCにお ける専門職業能力開発プログラムの中から特にCertificate Programsを抽出し、そのプログ ラム構造を概観した。また、この種のプログラムに強い理論的影響を与えているKolb等に よるExperimental Learning の要点について摘記した。 米国の事例から学び得ることは、①競争的環境下での目覚しいプログラム開発力であり、 市場ニーズを発見・吸収し、それをベネフィットへと繋げてゆく構想力の高さである。そ の際の要点は、②企画運営部門における高度な分業体制、並びに、③実業界からの意見を 反映する組織機構の存在である。これによって、④実業界(リアルワールド)からの人材 の積極的登用が実現され、結果として、⑤実利性に方向づけられたプログラムの設定が図 られる。しかし同時に、⑥そうした対応の背景にあって、実践活動をリードする確固たる 学習理論の存在があることも看過することはできない。 今後は、こうしたプラス要因を更に詳細に検討すると共に、これらが当該社会における 経済・技術環境、あるいは教育・文化環境とどのように相関しながら展開されているかを 究明する必要がある。更には、諸外国における事例との比較考察も視野に入れながら、我 が国固有の諸条件を踏まえた大学継続教育、その一環としてのプロフェッショナル・ディ ベロップメント・プログラム(高度専門職業能力開発)の開発に向けて着実な研究を進め てゆく必要がある。 注 (1)HIROWATARI, Shuichi, A Research Report on the University Continuing Educa tion Programs in Silicon Valley Today: Centering on the Program Manage ment Cycle, The Jornal of Center for University Extension, Vol. 10, 1999, pp.1- 40. を参照。 (2)Digest of Education Statistics 1997, U.S. Department of Education, Office of Ed ucational Research and Improvement, 1997, p.184, Table 174, p185, Table 175, & p.191, Table 180.(3)Ibid, p.191, Table 180. (4)Ibid, p.222., Table 213. (5)Lifelong Learning Trends A profile of Continuing Higher Education Fifth Editi on, (6)Ibid, p.21. (7)Ibid, p.16. (8)Ibid, p.37. University Continuing Education Association, 1998, p.15. (9)Digest, op.sit., pp.371-372, Table 354. これに加えて、Measuring Participation in Adult Education, National Center for Education Statistics Technical Report(NC ES 97-341), U.S. Department, Office of Educational Research and Improvement, 1997.を参照。後者は、84 年以降の5つの調査データを比較していて参考になる。 (10)Trends, op.sit., p.17. (11)Adults' Participation in Work-Related Courses: 1994-95 National Center for Ed ucation Statistics Statistics in Brief(NCES 98-309), U.S. Department of Edu cation, Office of Educational Research and Improvement, 1998, p.13. (12)Adult Education: Main Reasons for Participating National Center for Educatio n Statistics Statistics in Brief(NCES 93-451), U.S. Department of Education, O ffice of Educational Research and Improvement, 1993, p. 4. (13)Trends, op.sit., p.53. (14)Ibid, p.46. (15)Ibid, p.47. (16)Employer Provided Training, Bureau of Labor Statistics (http://stats.bls.gov/news.release/sept.t09.htm), 1997, Table 9. (17)Peterson's 4 year Colleges 1999 Twenty-ninth Edition, Prinston, Peterson's, 19 98. (18)Annual FTE Students in the Summer and Extension from 1955-56, section Ⅳe, statistical abstracts 1996-97, The Office of The Chancellor, The California Sta te University, 1997. (19)1999年に、センターは新しいブランチを設置した。Professional Development事業の 中心は、かくて2箇所に分散された。最初のセンターを、Tisch Way Center、新しい センターをLundy Avenue Centerと呼んでいる。 (20)企画書(a)、契約書(b)、評価フォーム(c)のサンプルは、次のようである。 企画書(a) 契約書(b) 評価フォーム(c) (21)表1・2については、内部資料Professional Development Annual Report 1997-199 8, p.1, Sheet 1. より主要部分をまとめた。 (22)以下の記述は、SJSU Professional Development Center:Spring '99 Class Schedule Courses Meet January - Aprilによる。 (23)拙稿「人的側面からの考察」『文部省委嘱研究 大学と生涯学習』参照。 (24)SJSU Professional Development Center:Spring '99 Class Schedule Courses Mee t January - April より作成。 (25)企画立案にかかる組織については、HIROWATARI, op.sit.を参照されたい。 (26)但し、当期以外のファカルティを含めたフルリスト(全35名)には、SJSUのAssociat e Professor(management)が一人だけ含まれている。 (27)Kolb, D.A., Experiential learning: Experience as the source of learning and dev elopment, New Jersey, Prentice-Hall, 1984. (28)Fardouly, Niki による解説をまとめた (http://www.fbe.unsw.edu.au/Learning/instructionaldesign/styles.htm)。なお、これ は、McCarthy, B., The 4MAT system, IL: Excel Inc., 1987. の所論をまとめた ものであ ると言う。 (29)Jones, J.E. & Pfeiffer, J.W.(eds.), The 1973 annual handbook for group facilitat ors, San Diego,Pfeiffer & Company, 1973., pp.3-9. この文書は、筆者が在外研究 時に、San Jose お、筆者が実際 の教員研修のため Concrete City CollegeのJames E. Potterton博士から入手したものである。な にこのモデルの実践例を知り得たのは、San Jose Christian College のマニュアルにおいてであり、そこでは、本文における5段階がA: Experience, B: Observations and Reflections, C: Formation of A bstract Concepts and Generalizations, D: Testing Impliccations of Concepts i n New Situations、の4段階に縮 約されている。San Jose Christian College Fac ulty and Staff Handbook, JKO Publishing, 1997. を参照。
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