自転車サクセスロード NO.1

自転車サクセスロード
NO.1
超回復を知りトレーニングを行うことは、休息もトレーニングと考えることです。
アスリートにとって毎日練習できないことは精神的に心配になってしまう人がいる
かも知れません。しかし、休息をとらないと以下に示したように,逆に筋力は低下し
てしまうのです。
自転車競技では様々な筋力の性質を使います。筋持久力・筋瞬発力・最大筋力・筋
回復性能などです。何をいま目的としてトレーニングを行っているのかを明確にする
ことが効率の良い練習法です。
今回、超回復ですが,特に筋瞬発力や最大筋力を伸ばしたい場合の方法です。そ
のためには超回復の簡単な原理を知る必要があります。超回復とは、トレーニング後
に1日∼2日くらいの休息をとることによって起こる現象です。休息することにより
筋肉の総量 が増加することをいいます。筋肉肥大には筋肉の破壊と修復を繰り返す
必要があります。修復されるのに1日∼2日必要になります。1日や2日と差がある
のは、トレーニングの量や個人の回復能力にもよります。トレーニング後は、もちろ
ん、パワーが落ちてしまうことは皆さん経験積みです。それは、筋肉が破壊されてし
まうからです。しかし、人間には自己再生機能と環境適応能力が備えられており、適
切な休息時間を与えることで自ら強い筋へと変化させてくれるのです。トレーニング
後に色々な理由でトレーニングがおこなえず焦っていたが、いざトレーニングを行っ
てみると以前より力がついているという経験は多くの人にあると思います。調子が良
くなったからではなく、科学的な反応なので使わない手はありません。もちろんタン
パク質をトレーニングの後にとることで筋の再構築をスムーズにして超回復の効率
を良い物にしてくれます。
自転車トレーニングで考えると、ギアを重くしてパワー系のトレーニングを多く行
ったり、スプリントの練習を行ったりした場合は思い切って休息を入れないとせっか
くの練習が効果の低いものになってしまいます。あくまでも,オールアウト∼疲労が
残るトレーニングを行った場合に効果が高いのであって、2、3回の疲労の残らない
練習では超回復は起こりませんので、頑張れる人が使える休息までもが練習になる方
法です。
今まで書いたことは瞬発力・最大筋力など筋のパワーに関する事項なので持久力な
どのアップはまた違った理論になります。目的をパワーに絞ったときは超回復を効果
的に取り入れることがとっても大切です。
超回復の話で、休息も練習と同様に重要な練習だと言うことはわかったと思います。
今回は、練習後の筋の状態について考えます。自転車練習後、長い距離を走ったこと
のある方は誰しも筋の張りを憶えていると思います。そんな張りが強いといつもより
パフォーマンスは落ちませんか?なぜならエネルギーが無いので筋収縮がうまくい
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かないからです。その筋の張りの一つの要因が筋グリコーゲンの減少です。筋グリ
コーゲンが減少すると運動時のエネルギー供給や筋収縮がうまくいかなくなり力が
出せません。自転車などの練習や競技では高時間の筋収縮を伴い、筋グリコーゲン
をぎりぎりまで使ってしまいます。使ってしまうと力が入らなくなるのです。
どのようにすれば、この使ってしまった筋グリコーゲンを元に戻せるのでしょう
か?これを理解しないと、パフォーマンスの低下によりせっかく時間をかけて練習し
てもパフォーマンスの向上まで練習の質も高めることができません。
まず人間が蓄積できる筋グリコーゲンはエネルギーに換算すると 1500kcal 程度し
かありません。長時間の乗車でがんばっている競技者は練習後ほとんど枯渇していま
す。これを回復させるには結構時間がかかります。理論的に考えるとがんばって食事
を摂取しても 1500kcl 回復させるには1日では困難です。(例えば1日 2500kcl 摂取
すると、そのうちだいたい糖分摂取は55%なので 1375kcal となります。運動しな
くても糖分は 700kcal 消費することを考えると、675kcal を筋グリコーゲンとして蓄
積できることになります。運動後なので 3000kcal 以上は摂取するでしょうが、それ
でも 800kcal 程度の蓄積に留まります。)
すべて回復しないでもいいと思うのですが、少しでも多くのグリコーゲン回復が
次への練習の質を高めるものになりますので、以下のことが重要です。
1.練習後なるべく早く糖分摂取(血糖値があがりすぎて本当の食事がとれなくなら
ないように注意!!)。
2.クエン酸を一緒にとることでグリコーゲン合成を高めるため、柑橘類やサプリメ
ント(メダリスト社のクエン酸はおすすめ)を摂取する。
3.グリコーゲン合成を促進するものを共に食べる(促進するものとは、乳酸・果糖
(果物)・アミノ酸ですがこれは通常の食事でとれるものです。
1∼3のことで少しでもグリコーゲンの回復を早めることもより良い毎日の練習
には必要です。毎日練習していて、大腿が張りすぎていてパフォーマンスが落ちてい
ると感じている方、休息と栄養をとりましょう。
―特集―
ヘルメットの選び方とかぶり方
1.ヘルメットは自分の頭の形状とぴったりのものを選ぶ。
頭の形は人種、性別、体格、年齢によって違う。理想は頭のてっぺんが内装の上
に付き、頭の周りがまんべんなくフィットするものである。ジャストのものは装
着感がなく、安心感が得られる。逆にきついと頭部の血流が圧迫され、頭痛がす
ることもある。
2.正しいかぶり方を知る
①オン・ザ・眉毛
眉毛の上部分がヘルメットに付くぐらいがよい。
②あごヒモは指一本
ゆるすぎずきつすぎず、指一本分入るぐらいがベストなあごヒモの締め方。
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自転車サクセスロード
NO.2-1
昨年頃より雑誌で言われるようになっている乗車姿勢で注目されているのが、骨
盤を立てて、脊柱にラクダこぶのような凸を作ること。いろいろな意見が飛び交っ
ているので骨盤前傾位(背中をまっすぐにした姿勢)が良いのか骨盤後傾位(骨盤を
立てて腰から胸を少々丸めた姿勢)がよいのか迷っている人は多いと思います。解剖
用語を使用すれば12番胸椎付近を意識して後弯させ、視覚的にも12番胸椎が後方
に突出して見えるようにすること。そのためには、骨盤の後傾(漢字のとおり,骨盤
を後方に倒すこと)は不可欠であり、骨盤が前傾すると12番胸椎付近をその様にす
ることが可能です。
それでは何故12番胸椎なのでしょうか?それを理解するとこの姿勢をとると良
いと言われる理由が分かります。(実際はこのことだけではなく,下肢筋の関係や腹
筋の関係などいろいろあるのですが、混ぜて話してしまうと理解が難しいので今回は
1つに絞ります。他の要因についてはあとで説明します。)12番胸椎とその下の
1番腰椎やその上の11番胸椎の違いは何でしょうか?骨の作りの違いも多くあり
ますが、今回のテーマで考えると、筋肉の付着で考えられます。2つの重要な筋があ
りますが、腸腰筋を聞いたことがありますか?
き
し
腸腰筋は大腰筋と腸骨筋に大きく分けられます。大腰筋は12番胸椎より起始し、
ないそく
しょうてん し
大腿骨近位部内側の 小 転 子に停止します。数ある筋肉の中で腰部から骨盤をまたい
で下肢に付着する筋はこれしかありません。また、大腰筋と言うくらいですから、筋
の大きさもあり、強さも持っています。
腸腰筋は下肢を屈曲(腹部に向かって曲げる)する作用を中心に、下肢の動きに対
して腰椎を固定し安定させる役割を持っています。筋肉の働きやすい条件を話します
と、筋というのは自然長(伸びも縮もしない長さから少々伸ばされた長さ)で最も
効率よく強く働くことができます。逆に、筋が縮められた状態にあるときは筋の強
さは発揮できません。難しいのでどこに腸腰筋が付いているか考えてほしいのですが、
自転車乗車姿勢では既に股関節は屈曲位にあり、腸腰筋はやや短縮位にあります。そ
こに骨盤を前傾させると更に腸腰筋の短縮が起こります。腸腰筋は働きづらい状況下
におかれるわけです。腸腰筋が働きづらい状況におかれると引き脚を上手に使うこと
はできません。また、脊柱が安定しないため上半身・下半身の連結が巧くいかずバラ
ンスが安定しないため体力を消耗しやすいのです。逆に骨盤が後傾されると腸腰筋が
伸ばされる状況となり腸腰筋が働きやすい状況となります。そのため、股関節の屈曲
(引き脚)や体幹の安定性を保つことができるのです。以上は腸腰筋の最も基本的な
作用を運動学的な側面から単純に表した事です。はじめに書いたように実際には更に
複雑な要素が絡み合っています。
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結論的に言いますと、運動学的には骨盤を後傾気味にし、らくだこぶを作った方
がパフォーマンスがあがり、腰痛も出現しづらくなります。理論的に考えても、骨
盤前傾は負の作用が大きいため迷っている方は辞めた方がいいと思いますよ。
骨盤を立てて乗車するとは ∼腸腰筋は疲労軽減にも関与する∼
腸腰筋が強い人は疲労しづらい点についての補足を話します。あまり深くふれませ
んでしたが腸腰筋は腰椎の固定の役割を果たしていると書きました。実はこれは長距
離・長時間不安定な物に乗車する自転車選手にとってとっても大切なことなのです。
人間の体は重力や他の外力から倒れないように様々な姿勢制御装置が働いていま
す。人間が倒れないでいることはとっても複雑なメカニズムが働いているのですが、
主に神経系のシステムからの情報を筋がコントロールしているのです。しかもそれは
寝ている時以外すべての時間です。簡単なようで12時間以上このシステムを働かし
て活動していることはかなりの労力を必要とします。そのため、疲れやすい人という
のはこのシステムの一部がうまく機能していない場合が多いのです。逆も言えるわけ
で、このシステムが強い人は疲労しにくいともいえるのです。
筋肉で考えますと、数多くある筋の中でこの姿勢制御システムを司っている筋は体
の深部にある深部筋群が主となります。厳密に言いますと深部筋からの情報を元に表
在筋が反応し全体でバランスをとっているのですが・・・。はじめに戻りましょう。
腸腰筋は深部筋の一つで、腰椎を安定させる機能があります。しかも骨盤、下肢と連
結しているためこの3つの体部の安定性も司っています。
ここが発達していると体幹・骨盤・下肢のバランスがとりやすくなり、疲労性の面で
考えても有利なわけです。
自転車に乗っていなくてもこのバランスと安定性のシステムは大切ですので、その
面からも腸腰筋の意識を持つといいと思います。
―特集―
アイウエアについて アイウエアは大切なプロテクターのひとつだ!
1.障害物から目を守る
河川敷などにいる蚊柱や風で舞い上がった砂埃が目に入るのを防ぐ。
2.風をよけて目の渇きを防ぐ
目が渇いてしまうと、目が疲れやすいだけでなく、眼球を傷つけてしまいやすく
なるので視力低下を起こしかねない。
3.クリアな視界を確保
天候による光の強弱に応じたレンズカラーを選ぶことで、路面状況を目視しやす
くなる。傾向として、暖色系はコントラスト(明暗差)をはっきりと、寒色系は自
然な見え方でありながら眩しさを抑えてくれる。また、偏光レンズなど、路面の
乱反射を抑える機能を持つレンズもある。
4.紫外線から眼球を守る
紫外線は角膜障害や早期の白内障を引き起こす原因になる。
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自転車サクセスロード
NO.2-2
骨盤を立てて乗車するとは ∼腹筋群の働きについて∼
骨盤を立てる(専門的には骨盤後傾のため以下骨盤後傾)と骨盤を寝かしたときに
比べ(専門的には骨盤前傾のため以下骨盤前傾)腹筋群の働きがよくなります。実際
にやってみると理解しやすいと思いますので、椅子に座って骨盤を前に倒してみてく
ださい(腰痛の方の多くはすでに骨盤が前傾しているため、さらに前に倒すことは難
しくなります)。腹筋に力を入れやすいですか?次に反対に後ろに寝かしてみてくだ
さい。通常は腹筋に力が入れやすいと思います。
なぜこうなるのか?運動解剖学的に書きます。一つ目に力のベクトルの方向が変わ
るという点です。
きょうこつへい
腹筋群は12肋骨や 胸 骨 丙(みぞおちの部分)(以下起始)から骨盤全面と側面
(以下停止)につきます。骨盤前傾させると腹筋群は伸ばされますが凸上に伸ばされ
るため、力のベクトルの関係上、起始から停止への力の出力を発揮しづらくなるので
す
(特に外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)。反対に骨盤を後傾させると少々筋長は短くな
りますが凹の形に力が働くので収縮が容易になります。このような点から腹筋が使用
しやすくなるのです。
2つ目に腹筋群の多様性にあります。実は骨盤前傾にさせると背筋群(腰部の筋肉)
が優位になって働くのですが、腰部の筋は一般的に上から下方向に向かって真っ直ぐ
直線的につく筋が多いため、働きも体を前方に倒れないようにするため後方に引く一
方行への働きが多いです。一方、腹筋群は腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋と主
に4つの筋群からなっており腹直筋こそ真っ直ぐ前方へ体を曲げる直線的な働きで
すが、外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋は体の側方より斜めに走り体をあらゆる方向にね
じったり曲げたりするだけでなく、その柔軟な動きにより体にかかるいろいろな衝撃
を吸収する機能も持っています。
3つ目に骨盤の柔軟な動きを助ける事にあります。骨盤前傾だと背筋群により骨盤
の動きが制限されます。骨盤の動きが制限されると下肢の動きはどうなるかというと、
やってみるとわかるかと思いますが(骨盤前傾位で歩いてみてください。足の振り出
しがわずかに小さくなるはずです)、非常にぎこちなく動きが妨げられるのがわかる
と思います。自転車にてペダリング時下肢を回転するのは股関節のみではなく骨盤
と体幹もわずかに動きながら疲労の軽減を図っているのです。また、動きの範囲が
広いと言うことは筋が収縮可能な範囲が大きいと言うことでこれも筋出力発揮効率
に貢献します。
骨盤後傾位では下肢の動きは多様になり疲労の蓄積も少なくなり、もっとも大きな
効果としては競技パフォーマンスが全然違います。腰や膝の故障もかなり減ります。
他のスポーツを考えてみてください。バレーボールの構え、ボクシング、バスケット、
卓球、テニス等々縦横に動き回るスポーツのすべてで骨盤は前傾などしていません。
もっとも、整形外科に腰や足が痛いといって来院される患者さんでは多くが骨盤前傾
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位で競技をやられている方が多いのです。そのような方たちは、フォームが悪いの
か?と思っているようですが、もっと基本的な競技姿勢が崩れています。話を戻しま
すと、自転車競技では下肢を何万回転とさせます。姿勢的は問題でこの疲労の蓄積を
増加させるのはもったいないです。筋の発揮効率も違いますのでパワーも出しやすく
なります。実は4つ目に神経促通効果として発散効果というものがあるのですが、
少々難しいので説明はこの3つにしておきますが、腹筋群の働きをよくする上でも骨
盤を立たせる(やや骨盤後傾)をおすすめします。
―特集―
ハンガーノックについて
レースが長時間に及ぶ場合、トレーニングで同じくらい体を動かしているときに比
べておなかがすいてくる時間が遅く感じる人もいると思う。なぜだろうか?
レースなど、強度の高い運動を持続しているときにスポーツドリンクなどを飲むと、
同じ濃度の普段飲むのよりも甘く感じると思う。そこでレースに出るときは、口当た
りをよくするために最初から薄めたものをボトルに入れたりするのだが、なぜ甘く感
じるかというと、これは肝臓や筋肉内に蓄えられていたエネルギー源が分解されて血
液中に流れてくるから味が変わってくる。備蓄エネルギー源はグリコーゲン、流れて
いるほうはグルコース。だから、ブドウ糖の分が追加されることで甘く感じる。そし
て、レースではこの備蓄エネルギー源が消費されている時に空腹感が満たされて普段
よりもおなかがすく時間が遅くなる。(ただし、エネルギー代謝の種類によって使わ
れる栄養素が異なる)
さて、運動中はグリコーゲンの供給がずっと続いている。しかし、備蓄エネルギー
源が底をつきそうな状態になって、食糧補給でのエネルギー供給も途絶えてしまった
としよう。こうなると、筋肉中のミトコンドリアで生産されるべきエネルギーも絶た
れてしまう。その結果、極度のエネルギー枯渇状態に陥り、低血糖状態になり、疲
労感、脱力感、眠気を感じる。これがハンガーノックだ。長時間の運動で経験した
人もいるだろう。恥ずかしながら私も青梅街道を30km/h で走りながら寝ていたこ
とがある。大変危険である。体内のグリコーゲンは2時間ぐらいで枯渇してしまう。
ハンガーノックにならないためにもこまめな栄養補給が必要である。
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自転車サクセスロード
NO.2-3
骨盤を立てて乗車するとは ∼回転を意識するためには?∼
骨盤を立てることとペダリングについて書きます。ロード競技ではペダリングの
基礎として回転を重視することは基本的な事です。回転を意識することで、長距離
を走ることが可能でスピードもでます。踏むペダリング等のような筋の収縮を1回ず
つ強力につかう方法では大腿四頭筋のグリコーゲンは回転系に比べ早期に無くなる
ため、下肢の疲労も早くなります。実は回転系の練習をするためには、骨盤を立てる
ことが運動学的に必要なことなのです。ペダリングにて下肢を回転させるには、相反
する筋をスムーズに切りかえながら収縮させる必要があります。例えば膝を伸ばす大
腿四頭筋と膝を曲げるハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)や股関
節を曲げる腸腰筋と股関節を伸ばす大殿筋等をスムーズに切りかえながら(on、off
になるわけではありません。すべて一緒に働きながらその中で働きの強度を協力し合
うのです)収縮させる必要があります。また、スムーズに身体を動かすためにはその
動きに関係する筋群すべてがスムーズに収縮できる条件にないといけません。大腿四
頭筋・ハムストリングス・腸腰筋・大殿筋すべてがスムーズに動ける条件にないと下
肢は繰り返される運動をスムーズに行えないのです。そのことを考慮して筋を考えて
いきます。
膝関節を曲げたり伸ばしたりする大腿四頭筋とハムストリングスは、それ単独で働
くため(例えば機械に座って膝を伸ばす大腿四頭筋の訓練など)には、骨盤が前傾位
である方が働きやすい条件となります。股関節周囲の筋について書きますと、骨盤を
倒してしまうと、以前書いたように腸腰筋の働きが不十分になりますし、大殿筋の収
縮も筋の起始と停止の位置関係上働きづらい状況となります。まとめますと膝関節の
みの筋群を考えると力は出しやすいのですが股関節の筋群には悪い条件となります。
身体の動きというのは中枢部(体幹に近い動き)の動きにとても影響を受けますので
中枢部がうまく働かないと末梢部(体の先端に向かう筋群)は十分に筋を収縮させる
ことができないのです。
ペダリングというのは股関節の動きが伴って起こるものであるため股関節の動き
に関係する筋の働きが悪くなると膝の動きにも影響がでます。膝の曲げ伸ばしの切り
返しが難しくなるのです。しかも、大腿四頭筋やハムストリングスは2関節筋といわ
れ、起始を骨盤に持つため股関節の動きにとても影響を受けるのです。骨盤を倒すと
股関節と膝関節にかかわる筋群が協力し合ってスムーズに動かすことができなくな
るのです。そのため、ぎこちない関節の単独な動きが引き起こされるため特に大腿四
頭筋の力を抜くことができず疲労を生じやすいのです。反対に、骨盤を立てると股関
節の動きが良好となるため膝関節の協調した動きを引き出すことが可能となりスム
ーズな回転を行えるペダリングの条件が整うのです。
回転を練習するとき骨盤が倒れていませんか?運動学的に不利になっていますよ。
骨盤の位置関係はとても大切です。骨盤が倒れてしまっている人はまず意識して乗る
ことからはじめましょう。
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自転車サクセスロード
NO.3-1
「膝が痛くありませんか?」
今回は自転車乗車中の障害について書きます。第1弾は膝の痛みについてです。ま
ず、自転車乗車中に膝が痛くなる理由について上げたいと思います。
1. 強制的に筋の緊張状態が膝を内側方向に引きつけることにより(膝の外反といい
ます)、膝の内側が痛くなる
2.クリートの角度が悪く膝が正中位に向かない
3.もともと膝の障害があり(靱帯損傷や関節症、膝蓋骨と大腿骨の関節面が狭い)
膝に圧がかかってしまう。
4.バランスが悪く下肢に力が常に入ってしまう。他にもありますが多くはこれが原
因となります。
2はクリート調整をすることで解決します。3で痛い場合は専門的に見ないと治り
ません。通常はかなり悪い膝の障害があっても自転車は行えるものですが、膝を軽く
動かしただけで痛い場合は動かさず整形外科に行きましょう。おそらく炎症を起こし
ています。4は基礎的な全身の筋力とバランスの問題ですが、ふらふらする人はこれ
に当てはまる場合がありますので特に初心者は当てはまるかもしれません。しかし、
ある程度ロ―ドバイクに乗っている方はこの理由とはなりません。
さて、今回話したいのは1の場合です。長く自転車に乗っている人でもよくなって
しまっている症状で整形外科にも来院されよく調べてみるとこれが原因のことが多
いです。強制的に筋の緊張状態が膝を内側に引きつけるとは、無意識のうちに大腿の
内転筋群の筋緊張が高まって下肢が外に開きにくくなっているのです。それだけでは
なく、ペダリングや歩行など足部を面に着けて体重をかける場合、膝を軸に内側方向
に折れ曲がり、内側の組織に力が加わり、ある一定の力が加わり続けると炎症を起こ
し出します。また、引き脚の場合も大腿の内側方向に力が加わり膝の内側に炎症が起
こってきます。ロードバイクでは足は開かないでペダリングすることが基本といわれ
るので一見下肢のフォームはいいように見えるのですが、過度な力が内側方向に加わ
っているので、練習で身につけたリラックスしたよいフォームとは中身が全く違い
ます。この根本の原因は、骨盤の角度にあります。ほとんどの場合骨盤が倒れている
(骨盤の前傾)時に生じます。立位で骨盤を強制的に倒して見てください(腰痛症の
方ではすでに倒れている方もいますが・・・・)。そのとき下肢の方に意識してみる
と大腿が軽く内側にしめられることがわかると思います。わずかなことなのですが長
時間のペダリングでは障害となります。上級者でも長時間の練習で疲労してくると骨
盤と体幹が倒れてきてしまう方がいるかもしれません。練習の後半に膝が痛くなるの
はこれが理由の場合が多いのです。解決方法としては常に軽く骨盤は立てておくこ
とです。その持久力も身につけることで障害が防げるのです。どんなスポーツでも
体幹の強化はとても必要です。自転車に乗るばかりが練習ではありません。体幹を
強化しましょう。
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自転車サクセスロード
NO.3-2
「手がしびれませんか?」 ∼長く乗車していると手先がしびれるのは?∼
自転車に乗っているときにこんな症状がでる方は決まっています。
1.ビギナー
2.ポジションが悪く力が入ってしまう人
となります。上級者やロードバイクに乗り慣れてくるとこの症状は無くなります。
どうしてこの症状がでるのでしょうか?整形外科領域の症状でもこの症状は出現
します。「胸郭出口症候群」聞いたことがある人もいるでしょうか?頸部から上肢へ
向かう血管・神経が斜角筋という筋肉に圧迫されたり、第一肋骨と鎖骨の間に挟まれ
たりして生じる症状です。ロードバイクに乗り慣れていない方やポジションが悪い場
合乗車時間が長いと首が疲れてきませんか、前傾姿勢を強いられるため前方を無理に
見ようとして斜角筋が張ってくるのです。また、上肢に力が入っていると小胸筋とい
う胸の筋肉の伸張性が無くなり神経や血管の動きをなくすためさらに他の部位から
の圧迫が強くなります。神経系が圧迫受けた場合は小指の方にしびれが来る(ギヨン
管症候群)ことが一般的ですが、圧迫部位によっては親指側にもしびれは来ます。全
体的に手が重くなってきた場合は血管が圧迫されて循環障害を生じています。
多くの人は自転車から降りればしびれが徐々に改善するため忘れてしまうことが
多いのですが、慢性的に筋が張るようになると常にしびれが生じてしまいます。
首の付け根に反対側の手を当てて押してみてください。どのくらい硬くて痛くなっ
ていますか?硬くて痛い人はしびれの原因はそこにあるのです。肩周囲の筋をマッサ
ージしたり動かしたりして柔らかくしてください。それから体幹をトレーニングして
乗車中のバランスを強くしましょう。肩はリラックスするので肩が張ってくることも
ないと思います。
ポジションが悪いと思っている人はポジションを変えることで肩周囲の緊張感が
とれるか調べてみてください。ポジションが原因の場合はしっかりポジションをみ
つめなおす必要があります。初心者が突然前傾姿勢の強いポジションにするとほと
んどの肩が肩こりを訴えるのでアップライトのハンドルポジションやスペーサーを
いれてハンドルの位置を少し高くしてスタートすると肩のこりは徐々に改善してき
ます。上肢はハンドルに添えるくらいにして乗車するとよいでしょう。
―特集―
自転車サクセスロードの使い方
これは自転車についての知識を与えるとともに、解剖学・(運動)生理学の勉強に
もなる。太字の所は自転車に乗る際に特に重要な所であり、ここを意識するとより
速く走れるようになる。波線部は解剖で必ずやるところなので、一度アトラスを見て
どのような筋か?どこにあるのか?どんなときにはたらくのか?を知って欲しい。そ
して筋肉の動きを意識しながら自転車をこぐことはトレーニングにとって非常に効
果的である。
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自転車サクセスロード
NO.3-3
「足がつるとは??」
ある人が「レースの時必ずふくらはぎが、攣ります。しかも左右共別のタイミング
で、練習の時は、そんな兆候は微塵も出ません。筋力不足、なのでしょうか?」と質
問しています。つるとは「こむら返り」といわれ下腿に使われる用語で「こむら」と
はふくろはぎを意味します。
今回は原因について書きたいと思います。自転車につなげたい方も、原因を考えれ
ば防げるかもしれません。原因は確定できないのが現状です。おそらくこれが原因だ
ろうと考えて手を打つのが治療となります。どんなときに起こることが多いのでしょ
うか?
1.運動前のストレッチなど準備不足
2.同じ動作の繰り返し
3.筋の疲労
4.睡眠中の動き
多くはこのような時に経験することがほとんどです。
原因は以下になります。
1.筋疲労
2.突然の急な運動
3.睡眠
4.電解質異常
低カルシウム血症に傾く
低カリウム血症に傾く
低ナトリウム血症に傾く
※特にナトリウム低下は多く言われます。
5.脱水
6.塩分不足
7.甲状腺機能低下症
8.糖尿病
9.肝炎・肝硬変
10.脊髄損傷
11.β―遮断薬を飲んでいる
12.抗ガン剤投与している
以上が主な原因ですが、一般に健康な方がこむら返りを起こす場合は、電解質の低
下・脱水・塩分不足が原因となっています。スポーツ別で考えると水泳が最も多いで
す。とは言っても、普段水泳をやっていない人がなる場合がほとんどで、水中では普
段使わない筋力を使うと言うことと、水に入って体が冷えてしまうことが原因と考え
られています。季節で考えると夏に40%程度起こるそうです。発汗が多くなり、体
液・電解質のバランスが崩れてしまうことが原因のようです。
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運動の開始時付近と終了時付近を比べると、開始時では準備不足など筋の収縮不全
(スムーズに収縮しない状態)、終了時では筋疲労などとそれぞれ原因がありどちら
が多いとはいえないそうです。
筋痙攣は個人の身体特性として起こしやすい人と起こしにくい人が存在するそう
です。そのため、単純に原因だけで理由を特定できないそうです。
以上、簡単に概要を記載しました。
もう少しその原因を細かく説明しようと思います。
今回の質問を文章のみから判断して答えを出すと、試合の時に練習以上の筋放電が
起こっていると考えられます。また、試合のため練習のように余裕を持って水分・ミ
ネラル摂取ができていないのかもしれません。解決法としては試合前にしっかりとス
トレッチや準備を行うことが大切だと思います。試合の数時間前に短時間でいいので
ある程度の強度まで一度筋出力を高めておく必要があると思います。また、水分補給
など計画的にこまめに取ることも必要となります。
今までのまとめで足がつる(筋痙攣)の原因が
1.疲労
2.無理な体勢が常時続く事
3.高強度の運動
4.準備不足
5.その他として冷水摂取・身体の冷え
などが考えられています。すべての根本的な原因は筋の収縮不全(電解質異常など筋
がスムーズに神経の指令通りに収縮できなくなった状態:神経と筋がかかわっていま
す)によるものです。
ここで筋の収縮の簡単なメカニズムを説明します。筋の収縮は細かく考えると筋紡
錘と腱紡錘からなっています。人が意識的に動く場合は脳からの指令が脊髄を返して
筋に到達し筋を収縮させるのですが、筋の痙攣はそのメカニズムではなく、もっと常
時無意識下で起こっている筋の収縮によるものだそうです。それを以下に説明します。
筋紡錘は筋の中に存在し、筋肉が他動的に引き伸ばされると、筋が引き伸ばされす
ぎないように情報を脊髄に伝え、脊髄は筋に縮むように指令を出すことによって筋は
反射的に収縮します。これを伸張反射といいます。
腱紡錘は腱の中に存在し、筋が収縮すると腱が引き伸ばされるのですが、引き伸ば
される力を腱紡錘が情報として感知し、脊髄に信号として送り、腱が強く引き伸ばさ
れないように筋に緩むように(伸張)指令を出します。
通常ならば脳と脊髄等の中枢神経系と筋紡錘・腱紡錘などの働きにより調和のとれ
たすばらしいシステムのもと、重力下の中動いていても倒れることはないのですが
(このすばらしいシステムが作ることができないので簡単には機械で人の体の動き
を再現させられないのです)。様々な理由によりこのシステムが混乱を起こし何回も
連続して収縮を起こしてしまう。それが痛みを引き起こすほど強い場合もあるという
ことです。これが筋痙攣の発生する原因と考えられます。しかし、この混乱も一時的
な場合が多いので、混乱が治まれば再び正常な収縮が可能です。
- 11 -
自転車のプロ選手がすばらしいのは足をつっても走り続けてしまう事です。ペダル
は回転するのでつっていない方の足で回転すれば走れてしまうのですが、それでも痛
みはかなりのはずでなかなか動作を続けられるのは難しいと思います。程度にも差が
あるのでどの程度つっていたかはわかりませんが、2004年、ジロ・デ・イタリア
の山岳ステージでリクイガスのディルーカ選手が足をつった後も走り続けシモーニ
とルハノを追っていたシーンを憶えていますか?精神的に強くないとできませんね。
次は筋の収縮システムのバランスが崩れてしまう原因と対処法についてです。どう
して足の痙攣がおこるか?というメカニズムはわかったと思います。今度はもっと具
体的な原因について書きます。足がつるとは筋紡錘と腱紡錘の働きのバランスが崩れ
たりすることによって起こるのですが、それは筋肉を取り囲む環境の変化によって起
こるものだということがわかったと思います。
1.筋グリコーゲンの不足
2.組織の虚血
3.酸素不足
4.乳酸など代謝産物の蓄積
5.グリコーゲン分解酵素の欠損
6.低カルシウム血症
7.低ナトリウム血症
8.高カリウム血症
9.低マグネシウム血症
以上が筋内の原因となります。
このような状態に筋がなる原因は?
1.運動神経の興奮
2.筋の長さが短縮しているとき
3.疲労
4.脱水症状
5.不自然な姿勢
6.高強度の運動
7.低・高温時
8.準備運動不足
などたくさんあります。
足がつるのですが・・・?といわれたときに自信を持って「これをしてください!」
といえない理由はこの筋の状態と原因が複雑に絡み合っているため、決定的な原因が
わかりづらい点にあります。しかし、最も多くなる原因と対処法などを考える事がで
きますので紹介します。
脱水について自転車競技(特にロード)では、水分補給が遅れるとすぐに脱水状態
になります。20分おきに少しずつ水分を補給した方がいいと思います。また、ミネ
ラルも一緒に失われるので、単に水ばかり飲んでいると、体の電解質バランスが崩れ
- 12 -
逆に痙攣を誘発してしまう可能性もあると言われています。カルシウム・ナトリウ
ム・マグネシウムなどポカリスエットなどスポーツ飲料には体液に近いミネラルがた
くさん入っていますのでそちらを取るといいです。
疲労について、乳酸など(最近では乳酸が疲労物質とは言われなくなっています
が・・・疲労物質としてみなさんにもっとも知られている乳酸を例に・・・)代謝物
質が残ったまま運動を始めると神経筋の伝達がスムーズにいかず痙攣が起きやすく
なります。準備運動をしっかりして、筋内の血液量を増やし、代謝物質を処理できる
ようにしておくといいと思います。
「足の裏」がつる。とくに、もがいたときや、急勾配のヒルクライムの際に、足の
裏が痙攣する。シューズが合わないのかとも思うが、よくわからない。
以上のような質問がありました。この場合、脱水と言うより筋の問題だと思います。
原因にもあるように、通常高強度の負荷を瞬時に加えられると筋は断裂しないように
反射的に収縮を起こします。そこで、筋痙攣を起こす場合があります。この場合はそ
の点に注目したいと思います。急勾配のヒルクライムでは強くペダルを踏み込まなく
てはいけません。勾配がきつくなればなおさらです。足関節を固定できていれば(極
力少なければ)いいのですが、押す力に負けて踵が下がってしまう場合もあると思い
ます。その場合に足底の筋には収縮と伸張の逆のことが起こります。意識としてはペ
ダルを踏み込むためにふくろはぎの筋肉(下腿三頭筋)は収縮するのですが、強さに
負けて踵が下がるので相対的にふくろはぎが伸ばされてしまうのです。この現象は筋
収縮の中でももっとも負荷量の高い遠心性収縮という状態で筋にはとても強い負荷
がかかっている状態です。これが何度も続くことによって筋に痙攣が起こっていると
思われます。対処法としては踵をあまり下げないようにすることやギアを下げるなど
です。全身の筋力でペダリングすることで足部への負担を減らせられるので、
体幹や臀部(=殿部)の筋のトレーニングも重要です。
実際の状況を見たわけでないのでここまでしか言えませんが、多くの方の原因はこ
こにあります。ちょっと気にしてみてください。
この章では生理学に関することが多く書かれており、分からないことが多いと思う
がこんな感じなのだと軽く読み進めてもらうとよい。
- 13 -
自転車サクセスロード
NO.3-4
ある人の症状について。
年齢は40歳代。ロードを始めて7年近く。ここ1、2年は1ヶ月 1000km 程度練
習。数ヶ月前に 2000km 近く乗ったところ、翌月足(太腿からふくらはぎの一部分)
の痛みがあり(日に3から4回強烈な痛み(場所は一定ではなく日によって変わった)
で歩けないほど)があり診察をうけた。病名は、両外側大腿皮神経絞扼性障害と診断
された。年齢からほどほどにといわれた。たくさん乗れる強い足になるトレーニング
方法はないでしょうか。との内容でした。以下のような見解となります。
詳しく検査して評価を行っていないので詳細に答えることは難しいのですが文章
にある内容からわかる範囲で答えます。
まず、自転車競技を40代からおこなったということ。1000km から 2000km 程度走
行するかなりの練習家であることから、確かに年齢的な面と距離を考えると何らかの
故障が起こってもおかしくありません。というか整形外科の医者にかかればかならず
言われる言葉かもしれません。2000km とはかなりの距離ですから・・・。
大腿皮神経絞扼性障害とは神経が組織の刺激(圧迫や摩擦)によって局部的な傷害
や炎症をいいます。基本的な症状としては、痛み・しびれ感・脱力感・筋力低下・感
覚の過敏・感覚の鈍麻・麻痺などです。どの部分(細かく)でどんなときに痛みが生
じるかもう少し詳しく書いてあると原因を解明できるかもしれませんが、もし、上記
の診断名であるならば少し重いギアを踏みすぎかもしれません。大腿部の筋が常時過
度に収縮を強いられると神経が締め付けられ炎症が起こる可能性があります。しかし、
炎症というものは常時起こるものであって一日に数回に分けて起こると言うことは
解釈が難しい面もあります。2000km 乗っている4月にその症状がでていないのも気
になります。もしかしたら、座骨神経痛か軽度の椎間板ヘルニアであった可能性も考
えられます。40代からはじめた場合体幹が弱っている場合あります。下肢の動きに
対して体幹がブレ、負担を強いられているのかもしれません。基本的にレントゲンで
は可能性が示唆されるだけで確定診断はできません。
ある姿勢になったとき一日3∼4回神経に負担が強いられて痛みが走ったのでは
ないでしょうか?あくまでも、予測なのですが・・・
原因はいろいろ考えられますが、現在症状がでていなければ、そのときの病気は改
善していると思います。炎症も神経圧迫も基本的に安静にしていれば月単位での自然
治癒が期待できる病気なので。
どのような障害もそうなのですが、たくさんは走ったから障害が生まれるわけでは
ありません。各人の身体能力を超えたときに負担が限界となり痛みとなって現れる
のです。また、自転車愛好家の多くは、体幹や骨盤周囲の筋が弱化しているにもかか
わらず、自分の筋の負担を受け止める限界ほど練習してしまうために生じているよう
です。足の強さに目がいってしまいがちですが、体幹の安定性をトレーニングして
みてください。バランスボールやバランスディスクなどでしっかり体幹の基礎を作
り強い体幹にしていってみてください。
座布団の上に体育座りをして、体を後方に傾斜して下肢を床から離して腹筋を意識し
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て空中ペダリングをしてみるのもよいです。かなり腸腰筋(股関節の主要な屈筋群)
や腹筋が鍛えられて体幹のブレが少なくなっていきます。あと、筋がかなり張ってい
るときは思い切って休んでもよいかもしれません。自転車に乗れなくてもトレーニン
グする場所はたくさんあります。目的を持った筋のトレーニングが効果的だと思い
ます。
―特集―
クイックリリースについて
自転車のハブの固定方法の歴史は
六角ナット…自転車のホイールが発明されたときから使い続けられている伝統的な
↓
方法。構造が簡単で確実に固定できるため、現在でもママチャリなどは
↓
これを使用している。
ウィングナット…スパナがなくても脱着ができるため、1970年代くらいまではス
↓
ポーツ車によく使われたが、固定力が弱いため現在ではあまり使わ
↓
れていない。
クイックリリース…ワンタッチで脱着ができ、固定も確実であるため、現在のスポー
ツ車の主流となっている。初心者には使い方を確実に教えること
が重要。
クイックリリースを発明したのはカンパニョーロである。子供の頃、トゥーリオ・
カンパニョーロは自転車選手に憧れ、地元の自転車クラブの門を叩く。もともと努力
家であったトゥーリオはめきめきと頭角を表し、アマチュア選手権に勝つまでになっ
た。
1927年11月11日、トゥーリオは グランプレミオ・デッラ・ヴィットーリ
ア というレースに参加した。優勝候補の一角であったトゥーリオは得意の上りで勝
負を決めるべく、クローチェダウネ峠で単独アタックに出る。しかし、峠の頂上付近
はあいにくの吹雪で、トゥーリオに思わぬアクシデントが発生する。ダブルコグのホ
イールをひっくり返そうとしたのだが、指がかじかんでいてウィングナットがはずせ
なかったのだ。(当時は後輪の両側にそれぞれ大きいギヤと小さいギアを取り付ける
「ダブルコグ」で選手たちはレースを戦っていた。ギヤを変えるためにはウィングナ
ットをはずし、車輪をひっくり返さなければならなかった。)
あせればあせるほど、凍りついたウィングナットははずせなかった。上りで置き去
りにした選手たちが、次々と追い抜いていく。そしてトゥーリオは「ワンタッチでホ
イールをはずすシステムを作ろう」と心に誓った
家に帰るとさっそくトゥーリオはホイール脱着システムの考案に没頭する。そして
父の工作機械を借り、様々な試行錯誤を繰り返して、ついにクイックリリースを完成
させたのである。1930年、トゥーリオは自らの考案したクイックリリース式ハブ
の特許を取得。1933年にカンパニョーロ社を創業したのであった。
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自転車サクセスロード
NO.4-1
「ペダリング時、膝が開いてしまいませんか?」
∼なぜ膝は開かない方がいいのか?∼
前回、ペダリング時に膝が無意識に閉じてしまう人に膝の痛みを持つ人が多いと書
きました。そこで今回は膝の開きについて書きたいと思います。ロードバイク乗りの
中では膝が開いてしまうことは悪い乗り方となっていることは基本的なことです。そ
れではなぜでしょうか?
世界のレースでプロ選手を後ろから撮ると少々膝が内側からスタートしているの
が見られます(特にタイムトライアルや逃げている選手)。ペダリングで12時くら
いの位置から踏むときは少々内側から踏んだ方がいいことはプロ選手を見ればわか
ります。膝が開いてしまうことでのデメリットは
1.膝の回転がスムーズに行かない
2.大殿筋がうまく使えない
3.深部の殿筋群がゆるんだ状態になるため股関節の固定が十分になされず、ばらつ
きのある下肢の動きになる
ないそく
がいそく
などあります。この中で大切なのが2・3です。大殿筋は臀部の内側上部から外側下
部に向かって付いています。筋の走行からしても少々内側から下肢を伸ばした方が筋
力が発揮しやすいのです。また、深部の殿筋群は下肢を固定するためにとても重要な
筋肉です。筋を最大限に発揮したい場合はこの使用がとても重要になります。これら
のことより、リラックスした状態で膝が内側方向からスタートできるようにフォーム
を身につけた方は出力の発揮しやすいとてもよいフォームといわれるわけです。骨盤
の前傾になっていない方でさらにフォームによる効率改善を目指す方は膝をほんの
少しだけ内側方向から降ろしてみてください。全身が安定することがわかるでしょう。
―特集―
ロードバイクシューズについて
ビンディングを用いると、引き足も有効に使えるようになり、普通のペダルでこぐ
よりも 30%多く筋肉を使うことができる。今回は、シューズについて紹介する。
① シューズの機能性
フィット感や操作性、軽量化など、ペダリングのことを一番に追求した高い技術が
施されている。ペダルを踏み込んだときにソールがあまり歪まないのが特長。また、
長時間のライディングで蒸れないように、通気孔もたくさん設けられている。
② シューズ選びのポイント
日本人の典型的な足の形 幅広甲高 のシューズは日本のメーカーがたくさん作
っている。実際にお店で履いてみることが重要。その際、ソックスは生地が薄くてピ
タッとフィットする自転車用で試着して選ばなければならない。
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自転車サクセスロード
NO.4-2
「ペダリング時、膝が開いてしまいませんか?」
∼膝が開いてしまう理由∼
それでは、膝が開いてしまう理由について説明します。以下の3つの理由が考えら
れます。
1.股関節屈曲角度が小さい(股関節を体の方向に曲げても体に近づかない)
2.殿筋群の深部筋(深層外旋六筋)が短縮(短くなっていて)し、下肢が外旋(外
に向く)傾向にある
3.腸腰筋・大腿筋膜腸筋が硬くなり下肢の内側への移動を制限される。
1.については気づいていない人が多いのが現状です。仰向けになって寝てみてく
ださい。股関節で曲がった大腿が腹部につきますか?左右差はないでしょうか?股関
節でスムーズに曲がらないと大腿は深い屈曲が困難となり屈曲を出すために大腿は
外に開いていきます。大腿を腹部に近づけるストレッチで少しずつ改善していきます
ので毎日行ってみてください。
2.この筋はかなり専門的なので聞いたことがある人は少ないとは思いますが、股
関節を骨盤に固定するとっても大切な筋肉です。座骨神経痛という言葉を聞いたこと
がある人は多いと思いますが、この筋が硬くなると引き起こされる病気です。椅子に
座っているとお尻が痛くなる方はこの症状が考えられます。整形外科で診断してもら
い、リハビリテーションを受けましょう。
3.腸腰筋と大腿筋膜腸筋という筋肉が股関節の前面には付いており、過剰に使用
され硬くなると股関節の内側への屈曲を制限し大腿が外に向いてしまいます。専門家
に柔らかくしてもらい、動きを引き出しましょう。
1∼3の様に股関節の屈曲角度はおおいに関係しています。ストレッチを行うと
きに股関節の屈曲角度をしっかり引き出しましょう。
―特集―
空気抵抗について①
空気抵抗を生んでいる原因はホイール約13%、バイク20∼30%、ライダー
70∼80%である。つまり、空気抵抗を考えたライディングができるようになる
と、無駄な力を使わずにすみ、スピードを上げることができる。そして、時速30k
m近くになると、足でこいだ力の80%以上が空気抵抗と戦うために使われる。
時速(km/h) 総走行抵抗(W) 空気抵抗分(W) 空気抵抗の割合(%)
10
13
4
31
15
27
13
50
20
25
32
64
30
134
107
80
40
289
254
88
50
540
495
92
- 17 -
自転車サクセスロード
NO.5-1
最大瞬間の速さを高めるには? ∼なぜ回転が重要なのか?∼
自転車が速く走るためには、当たり前ですが重いギアで速い回転を出すことが速
さにつながります。そのため、基本的にそのギアを踏むことのできる筋力を持ってい
ないと回転に持っていくことはできません。それでは、筋力がしっかりついている人
が早く回転を意識してこげば早く走れるのでしょうか?
そうではありませんね。バーベルを200kg上げられる人に自転車を早く回転さ
せるように意識してこいでもらっても全く早く回転できません。なぜでしょうか?
それは筋と神経の伝達回路がスムーズに行われないからです。自転車のペダリング
をスムーズに行うには素早い拮抗する(たとえば大腿四頭筋とハムストリングスのよ
うな相反する作用を持つ筋)筋の切り返しが必要となります。この切り返しを素早く
行えるようになるためにはとにかく早くまわすためのトレーニングが必要となりま
す。このときギアを重くする必要はありません。自分がもっとも早く回せるギアを選
択してペダリングをはじめるのです。運動学習効果といいまして、人間の神経と筋
肉には繰り返し行うことでそれに必要な神経と筋の最短の回路ができあがり、最終
的には無意識化にて行えるようになるのです。速い回転での練習をしているとその
運動の神経回路が構築され速い回転での運動が可能になるのです。
ここまでは何となくわかっている人がいるのですが、多くの方は回転の意識をしす
ぎてぎこちなくなってしまっています。
最も重要なポイントはリラックスすることです。意識をして回転数を上げると一
時的には早くなるかもしれませんが、リラックスしてまわしているときよりも回転数
は少なくなりますし、すぐ疲れてしまいます。先ほど書きましたように神経と筋は無
意識でも行えるような神経回路がもっとも最短でスムーズなのです。意識をしてまわ
すことは踏んだり引いたりを筋の収縮を強調して行うことになります。神経と筋の神
経構築が常に一定しておらず学習しにくい状況にもなりえます。意識することで筋が
硬くなり素早い収縮・弛緩を妨げることにもなります。練習時からなるべく全身をリ
ラックスして力まないで速い回転を練習しましょう。リラックスして回転が可能にな
れば神経構築ができています。少しずつギアを上げて負荷がかかっても同じ様にリラ
ックスして回転できるように高めていきましょう。そのときはじめてパワーが生きて
きます。そしてリラックスして練習してください。
テレビなどで競輪選手がハンドルをいっぱい引いて、体全身に力を入れてすごい回
転でペダリングしているのを見たことがあると思いますが、あの方たちはすでに神経
構築が完成しており、そこにパワーを付け足すためにハンドルからの反力利用してい
るのです。低いギアなのに回転数が上がらない方は神経構築から練習してください。
- 18 -
自転車サクセスロード
NO.5-2
最大瞬間の速さを高めるには? ∼ハンドルは押す?引く?∼
ハンドルは押した方がいいのか引いた方がいいのか?迷ったことのある人もいる
と思います。結論的には状況に応じて変える必要があります。ロードのスプリントの
ように最終局面の爆発的なパワーが必要な場合は、そのペダルから下肢に伝わる力の
反力が必要になりますので引いて全身で押し返す必要がでてきます。しかし、それ以
外は軽くハンドルに添えて押すくらいの方が効率的になります。生理学的には発散と
いう言葉があります。ある一つの筋に力を入れるとその筋のみではなく、その筋に
力を入れるために必要な他の部位の筋に筋収縮が生じることを言います。
ハンドルを引く動作では肩甲骨・体幹・骨盤周囲に発散が起こり、筋の緊張が高く
なり強い力は起こりますが、素早い切り返しは困難になります。一方、ハンドルを押
す動作の場合体重をスムーズにペダルにかけやすくなり、力むことが減るため筋の切
り返しがスムーズになり速い回転を生み出すことができます。
前回の神経構築のトレーニングを行うときは、リラックスしている方がよいので、
押し動作の方がいいことになります。押すと言っても、必死で押すわけではなく、あ
くまでもハンドルに添えて、体重を軽くかける程度ですから過剰にとらえすぎないよ
うにしてください。
ペダルを回す際、一番効率よく回せるサドルの位置はどこなのでしょうか?
まずサドルの高さですが、サドルは低いより高い方が回転効率は上がります。なぜ
かというとサドルを低くすると股関節の屈曲角度が浅くなるため、股関節周囲筋の長
さがサドルを高くした場合よりも、股関節屈筋で短く、股関節伸筋で長くなってしま
うため、筋の出力や切り返しが遅くなるからです。
高さは教科書通りの高さがあると思いますが、練習の時から少々高めで練習し運動
学習トレーニングを行った方がいいと思います。(とは言っても高過ぎもよくありま
せん。膝とつま先が伸び、下肢の長さが足らなくなると股関節や体幹などで代償し長
さを補おうとするため知らず知らずのうちに体のブレが生じてしまうからです。)
次にサドルの前後位置ですが、通常よりも少々後方の位置の方が効率はよくなりま
す。なぜかというと、スプリント時など臀部がサドルから浮いている状態では加速を
必要としているため少々前乗りで踏み込む事となりますが、通常同じ回転を行うなら
ば少々後方座りで12時から押し込める状態にしておいた方が効率はよくなります。
以上一般的な運動学的な見解での位置ですが、あくまでも 1mm ずつずらしながら細
かく調整してください。筋の付き方や今までの筋の使い方によっては突然位置を変え
るとタイムが遅くなる場合があります。位置を変えたら、しっかりと、リラックスし
て早く回せるトレーニングを行ってください。
- 19 -
自転車サクセスロード
NO.5-3
つま先の方向は外か内か真ん中か、どこがいいのでしょうか?
つま先の位置ですが、極端に視覚的にわかる程度ではないですが、つま先は少々(意
識化程度です。目で見てわかるほどにはしない方がいいです:実際は視覚的に真っ直
ぐになると思います)内側がいいです。特に力を発揮する場合は、内側から外側へ向
かう螺旋状で力が発揮しやすいのでそれを意識して練習すると効率がよくなります。
オーバードライヴでのケイデンスを上げる練習について
Q.「電動ローラーでモーターをフルにして通常自分では出せないスピード、70、80
キロで無意識の状態で数分間、あるいは、車やバイクの後ろで自力では出せないスピ
ードを出すことによって拮抗筋の切り替えしはスムーズになると考えているのです
が、人間の体はどこまで可能なのでしょうか?聞いた話ですが人間は 0.1 秒以内で
神経を伝達することは出来ないと聞いたこともあります。」
A.回転トレーニングは運動学習です。よけいな力が下肢に入らない状況下(その程
度の負荷)でとにかく早くまわす練習を行います。そのとき、股関節を軸に意識して
回したほうがいいと思います。また、拮抗する筋の切り返しといってもペダルにつな
がれているため筋の動きはすべて同時収縮(すべての筋は何らかの関与はしている)
ですからあまり切り返しは意識しない方がいいと思います。回転は円形のため円を意
識して股関節を動かしてください。その中で加速したいときがあれば大腿四頭筋の筋
力を多く出さなくてはいけない場合もありますし、その他の筋の場合もあります。あ
と、早く回すためには体幹の安定性がとっても大切です。一回一回の回転で体幹が
ぶれてしまっては次の回転に移行する場合にロスが生じてしまいます。
人間の体がどこまでの反射能力があるかというと、実はまだわかっていません。0.1
秒というのも科学的に証明できたかは疑問です。一ついえることは脳まで情報を送っ
ていると遅くなるので脊髄レベルでの情報伝達によって動いていると言うことです。
そこに、小脳などの学習を調整する部分が関与し動いているので無意識下でリラック
スして行える動作が最も早いと言うことです。
これはあくまでも通常自転車競技を行う場合の基本的な運動学的な発言です。絶対
にこれがいいわけではありません。なぜかというと、自転車競技を始める前について
いた筋の発達状態や体の習慣・柔軟性などから各人で方法が異なる場合があるからで
す。少しずつ自分にあった方法で修正していくことがもっともよい方法です。
- 20 -
自転車サクセスロード
NO.6-1
「筋力の増加過程とは?」 ∼パワーを高めて高いギアを使うためには∼
自転車競技にて速く走るためにはいかに重いギアを速い回転にて、持続的に回すこ
とができるかがポイントになります。回転能力を高める運動学習のほかに、重いギア
を使うことができる筋力も必要となります。基本的に自転車に乗車して重いギアにて
筋力を高めていくことが理想ですが、スクワットなどおもりや機器を使って筋力を増
加させた後に、乗車をおこない自転車用の筋肉に神経系を変えていく方法もあります。
どちらにしろ筋力の増加の過程を知ってもらう必要があります。
筋力を決定する主な要因は3つです。
1.筋の断面積の大きさ
2.神経系の抑制の程度
3.筋線維組成(速筋線維・遅筋線維)
3の筋線維組成は遺伝的影響が強い上にこの変化には長期間の必要性があるため
1.2の点について話すことにします。
まず運動単位という話をします。脊髄から出た神経は多くの筋に(数百から千)接
続します。その一個の運動神経とそれが支配する筋線維の集まりをまとめて「運動単
位」と呼びます。筋力は、時間あたりに筋全体の運動単位の何%が活動するかで決定
します。人間はがんばっても運動単位全体の7∼8割しか使うことはできません。ま
ずは7∼8割にいかに近づけるかがポイントになります。そこに近づけるためには、
神経系の発達が必要になります。神経系の発達といっても神経のスムーズな出力によ
って必要な筋に必要な力が出せるようにすることです。難しいかもしれませんが聞い
てください。一つ目は神経系の出力調整です。例えばヒルクライム時、大腿四頭筋に
は強い出力を必要とします。しかし筋の収縮には主動筋と拮抗筋があり、常にどちら
も働くことになっています。そうでないと筋は切れるか、関節が壊れます。大腿四頭
筋の拮抗筋はハムストリングスです。ここで重要なのがいかにヒルクライムのペダ
リングに必要な筋の割合を神経が学習するか?なのです。勾配によって違いますが、
大腿四頭筋が8割でハムストリングスが2割の出力調整が必要な場合もあるでしょ
う。8:2が適切な出力時に6:4だったらどうでしょうか?どんなに大腿四頭筋の
力が強くても力は出ていません。正直これを適切な割合に調整するためには、自転車
で坂を登って神経系を調整していくしかありません。
もう一つは動作特異性です。要するに必要な動作をしっかりおこなうということで
す。例えば一人は毎日平坦を走っていて、もう一人は坂を登っていたとします。2人
は同じ筋力と体力を持っているとします。平坦を走っていた人は平坦が早いですし、
坂を登っていた人は坂が早くなります。体の使い方が違うため、動作を無意識下で学
習するので、神経系の出力がその動作をスムーズに行えるように学習されるのです。
正直これも動作学習するためには適切なフォームでその動作を繰り返すことが必要
です。自転車に乗らないとはじまりません。以上が神経系の発達です。運動単位の出
力を7∼8割に近づけるためには神経系の発達により可能となります。
- 21 -
さて、7∼8割に近づいた人は今度どのように筋力アップをすればよいのでしょう
か?それが筋肥大です。神経系が発達した後に筋肥大が起こります。筋肥大のために
必要なのが筋力トレーニングとなります。これは自転車でつけてもいいのですが、自
転車では最大負荷がかけづらいため、機器などでやってみるといいかもしれません
(自転車でも急勾配の坂を重いギアで登っていく等の練習法を取り入れている方も
いると思います。それでも機器ほどではないですが神経系と筋力を同時にトレーニン
グできるのでいいと思います。ただ最大負荷をかけ少数でオールアウトとなる負荷を
かけづらいので、筋肥大は機械の方が有効です。)。最大筋力の増やし方はまたあと
でお話しますが筋肥大に時間がかかると言われているのは、神経系の発達があった後
に起こるからです。早くてもそのトレーニングを開始して3ヶ月程度はじっくり効果
を待った方がいいと思います。実際は筋肥大と競技を考えるとき、動作の特異性とい
う法則がありますので、筋肥大→神経系トレーニングという考え方でおこなっていく
のがよいと言われています。
例えば、冬場のオフシーズンにじっくり筋力とレーニングのための時間をかけ筋が
肥大したところに、その筋に対して神経系のトレーニングを導入するのです。機械的
につけた筋肉が自転車で効率よく使用できる筋肉に変わっていく過程を想定してメ
ニューを立てるといいと思います。
筋肥大まで3ヶ月程度、神経系向上まで2ヶ月程度と考えると、4ヶ月から5ヶ月
はパワーアップまでにかかる時間だと思ってください。どこかの本で見たのですが、
ランス・アームストロングは冬場レッグプレス200kgをあげトレーニングをおこ
ない、その後神経系のトレーニングにはいるのだそうです。200kgはすごいです
よ。さすが7連覇ですね。
―特集―
ヘルメットの意味
とうがいこつ
1.転倒の際に衝撃から頭蓋骨を守る
万が一、転倒した際に頭を強打すると、頭蓋骨骨折、脳震盪、死にいたる場合も
ある。自分の命を守るためにヘルメット着用はマナーある自転車のりの身だしな
みである。
2.熱中症から頭を守る
さんさんと照りつける太陽の光を浴び続けた場合、脱水症状や虚脱状態になる可
能性がある。そんなときはヘルメットが大活躍!強い日差しから頭を守り、内部
に装着されている汗止めパッド(脱着して洗濯可能)で流れ落ちる汗を吸収する。
そして、ベンチレーションで冷却と湿気の排出を行う。
3.車に存在感をアピール
ヘルメットをかぶることにより、ドライバーにこいつは速い自転車だから気をつ
けないといけないと思わせることができる(自転車ツーキニスト疋田談)。また、
色や反射材によって昼間だけでなく夜もドライバーに気付かれやすいものがよ
い。
- 22 -
自転車サクセスロード
NO.6-2
下肢ではどの筋力トレーニングがよい?
∼複合関節の考え方からレッグエクステンションとレッグプレスの選択∼
下肢の筋力トレーニングについて述べます。スプリンターに限らず、爆発的な力が
必要な逃げやヒルスプリントでは参考になるかもしれません。
レッグプレス:機械に座り、下腿の前面に負荷がかかり、負荷に対して膝を伸ばす。
関節が膝関節のみの単関節での動き
大腿四頭筋のトレーニングとして知られている。
レッグエクステンション:機器に座り、足の裏に抵抗をかけて下肢を伸ばす。
股関節・膝関節・足関節すべてが関与する複合的な動き
スクワットなどはこれと同じ
筋力トレーニングでレッグエクステンションとレッグプレスをおこなっている人
はどちらが効果がありますか?と質問された場合、必ずレッグエクステンションと答
えます。前回の文章でも書いたように「運動の特異的動作」という考え方がありま
す。より近い動きの方が、より必要な筋力が出るのです。この答えだけでは物足り
ない方のために、もう少しなぜレッグエクステンションの方がいいのか説明しようと
思います。スクワットとほぼ同じ動きのためスクワットで説明しようと思います。ス
クワットでは股・膝・足関節・体幹筋が非常にすばらしいメカニズムで働くことによ
り動きを可能としています。このすばらしいメカニズムで注目しなければいけないの
が大腿の後面にあるハムストリングスと下腿の後面にある腓腹筋です。この筋肉は共
に2つの関節をまたぐ2関節筋と言われています。2関節筋とは例えばハムストリン
グスは膝の後方にある筋の総称ですが、骨盤から大腿を通過して下腿に終わる筋肉で
す。作用としては膝の屈曲(曲げる)と股関節の伸展(伸ばす)という2つの働きを
持っています。ちなみに腓腹筋は下腿の後方にあり大腿骨から下腿骨を通過して足骨
の踵骨につきます。作用は膝関節屈曲と足関節底屈(足部を下に下げる)があります。
スクワットのしゃがみ込んだ後に戻る動きを観察してみると、膝関節と股関節が伸
展・足関節が底屈していることがわかります。この主の動きは大腿四頭筋と大殿筋よ
りなっています。このとき反対のハムストリングスや腓腹筋も必ず働かなくてはいけ
ません。主の筋肉のみ働いた方が強い力が出そうですが、人間の体を維持するために
はそうはいきません。反対の筋肉(拮抗筋)が働くことで複合的な動きが可能になる
のです。
とは言ってもハムストリングスの働きは大腿四頭筋に比べると低くしかも、伸ばされ
ながら収縮しなくてはいけないと言うもっとも難しい収縮様式を取ります。大腿四頭
筋が収縮し、伸ばそうとする下肢をスムーズに動けるようにコントロールする非常に
重要な役割があるのです。腓腹筋は膝・股関節の伸展と共に相対的に動く足関節をコ
ントロールする役割を持っています。これは、脳でおこなわれている処理ではなく、
筋そのものの感覚と脊髄までの神経回路にて培われている神経回路によってできる
ものだと思われます。このような複雑な動きによってなされるスクワットと自転車の
- 23 -
ペダリングはよく似ています。この複雑な筋の運動メカニズムを追考するためには何
度も書いたように運動学習がもっとも効果的です。自分が求めているペダリングに
近い方法で何度もおこなうことで学習が可能になるのです。単関節だけでおこなうレ
ッグプレスではこのメカニズムをトレーニングできないため効率の悪い筋力トレー
ニングとなります。とは言ってもレッグプレスにも関節の固定筋力の増加や怪我の後
早期に取り入れるトレーニングとしては有効な場合もあります。どの状況で使用する
のが適切かと言うことです。
さらに興味深い研究があります。陸上の長距離選手と短距離選手にレッグエクステ
ンションをおこなってもらった結果、長距離選手ではハムストリングの筋肉の発揮の
割合が弱かったのに対して、短距離選手ではハムストリングスの働きの割合が強かっ
たそうです。これは短距離選手は股関節と膝関節を素早く協調的に動かす要素が強い
ために拮抗筋の働きが強くなったものと考えられます。自転車選手は長距離と短距離
のどちらの要素も必要になります。しかもペダリングの特性上協調した下肢の動きは
不可欠です。特に強い力をつけたい人はハムストリングスの協調した作用を高めるた
めにもスクワットなどのレッグエクステンションでの筋力が必要となります。
―特集―
STI(Shimano Total Integration)について
ロードレーサーはブレーキレバーとシフトレバーが一体化したものが普通だと思
っているだろうが、1990年まではそうではなかった。
ストレスフリーという、シマノの開発コンセプトの象徴的存在であるSTIレバー
は、1990年にシマノが開発したもので、大変画期的なものであった。変速時にハ
ンドルから手を離さなくてもよくなったことでライディング時の安全性も大きく高
まった。また、いつどんな状況でもライバルに悟られることなく変速できるため、レ
ース戦術そのものを変えてしまうほどの影響力を持っていた。あのアームストロング
もシマノのデュラエースでツール・ド・フランス7連覇を達成した。
- 24 -
自転車サクセスロード
NO.6-3
筋力といっても筋持久力や筋コントロールなど必要な筋力アップはいろいろあり
ますのが、今回は強い力を出す能力アップについて(一般的には最大筋力)話したい
と思います。
筋力がアップするために考慮する必要なある因子は以下の通りです。
1.筋の出力の大きさ
2.代謝環境
3.ホルモンや成長因子
4.酸素環境
5.筋の損傷と修復
今回は筋の出力の大きさについてどのように考慮する必要があるか説明します。ス
ポーツを一度でも経験されていれば最大筋力は10回程度行える負荷量を設定しト
レーニングをおこなう方がいいと聞いてきたと思います。その考え方に間違いはあり
ません。現在でもその考えはあらゆる選手の筋力増加に使われています。
2回しか上げることのできない最大挙上負荷を 1RM と専門的には表します。筋肥大
に効果があるのは10∼15RM(最大を100%とすると80∼70%程度の負荷
量)です。20回程度の負荷(強度60%)程度だと筋力増強や筋肥大効果は低下し
筋持久力が増大します。
自転車競技者(今回は特にロードなど長距離)はこの考えをどのように取り入れれ
ばいいでしょうか?自転車競技の特性は強い力の筋持久力があった方が強いことは
誰もが知っていると思います。最大筋力だけどんどん伸ばし、10回程度の力が合っ
てもなかなか実用的ではありません。その強い力をより多く発揮できることが望まし
いのです。具体的な方法としては以下の通りです(いろいろな要素が絡んでくるため
これのみではありませんが・・)
1.最大筋力を図り、その60%程度の負荷をかけて20回以上繰り返します。
2.筋持久力がついてきた後、最大負荷を上げていくトレーニングをおこないます。
3.最大筋力が上がればその60%も以前よりあがっているはずです。
4.あがった60%で繰り返しトレーニングをおこない筋持久力を高める。
5.最終的には自転車トレーニングで神経系の学習をおこなっていく。
以上が機械を使った方法ですが、実際に自転車に乗りながらこの説明を考えると、
勾配のある坂で重いギアでのヒルクライムまたは、平坦でもスプリントのような強い
力をかける(なるべく80%程度の負荷で10から20回のペダリング維持しかでき
ないパワーをかける)。可能となれば60%程度の20回∼30回程度の持続的なペ
ダリングに持っていく。また、60%程度の負荷をより長く繰り返すことができるよ
うにする。この過程を繰り返し持続的な筋力のアップを強くしていく。数ヶ月後には
筋力が強くなることで以前60%程度の負荷が30%程度の負荷に変わっているこ
とも期待できます。こんな感じで意識して練習すれば、効率のよいトレーニングが可
能となると思います。少しでもこのような運動生理学を意識していけば自分が何を
おこなって練習しているのかがわかってよいと思います。
- 25 -
自転車サクセスロード
「筋力をアップさせるためには?」
NO.6-4
∼代謝・内分泌系に注目して∼
前回は強いストレスを与えることで筋力が強くなることの話をしました。今回は筋
の代謝環境の変化で強くするためにはという話をします。
ポイントは「インターバルを短くする」です。そのキーワードが「成長ホルモン」で
す。高強度の運動はストレスホルモンの一種の成長ホルモンの分泌を活性化すると
言われています。そして成長ホルモンの分泌を効率的にするためにはセット間のイン
ターバルを短くする必要があるといわれています。
メカニズムは非常に難しくなるので避けますが、この考え方はとても有効です。
局所的な運動でも、全身的なホルモンなどの内分泌に影響が起こり筋を成長させるホ
ルモンを分泌させるのです。そして休息時間を短くすることでそのホルモンは多く分
泌されるのです。機械でトレーニングすると非常にわかりやすいのですが、自転車競
技で考えてみましょう。ここでは筋力増加を上げているので、スプリントやヒルクラ
イムで成果を考えます。ローラー台などで非常に高い負荷をかけて、高回転数十秒回
転させます。少ないインターバルで再び同様の方法をとります。ヒルクライムでも急
勾配の坂をギアをかけて登り、インターバルを少な目にして繰り返します。インター
バルは30秒程度が効果的ではないでしょうか?
現実的にはなかなか負荷を短時間かけるのは難しいとは思いますが、このことを意
識して練習することもいいのではないでしょうか?次回は筋の酸素環境についてで
きればと思います。
―特集―
脚質について①
ALL−ROUNDER
仏語:POLYVALENT/ポリバラン
伊語:COMPLETO/コンプレート
平地も山岳も難なくこなせ、メジャーツールには必ず組み込まれる個人TTも得意
な、全ての才能を兼ね備えた選手をオールラウンダーという。フランス語のポリバラ
ンは 複数の機能を持つ という意味で、イタリア語のコンプレートは 完璧な と
いう意味。単純にオールラウンダーといっても、特に上りが強かったり、TTに秀で
ていたりと、バランスには個人差があり、その年のコース設定によって有利不利もあ
る。ジロやブエルタのコースは山岳色が強く、上りに強いオールラウンダー向き。ツ
ールは個人TTがキーポイントになるので、TTが得意な選手が有利になる。いずれ
にしても3週間の長丁場をこなせるタフな選手でなければならない。
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自転車サクセスロード
「筋力をアップさせるためには?」
NO.6-5
∼筋の酸素環境に注目して∼
前回は「インターバルを短くする」ということを話しました。成長ホルモンの分泌
も筋力強化には重要なのです。今回は筋の酸素環境の変化について話をします。
ポイントは筋力トレーニング中に筋の収縮を出し続け運動を続ける事です。加圧ト
レーニングをご存じでしょうか?加圧トレーニング機器が出るようになってきまし
た。確かに効果はありますが、機械的に循環を遮断することに安全性が不明です。筋
肥大は起こしやすいかもしれませんが、神経筋の運動学習を考えると不効率です。し
かし、この考え方は筋力トレーニングにヒントを与えてくれます。筋は酸素不足に
陥った情報や、乳酸などの筋力トレーニング後の代謝産物の情報は脳に伝えられ強
い収縮をおこなった刺激として成長ホルモンの分泌や筋の構築につながるのです。
筋力トレーニングとしては、筋を長い間収縮した状況にすることで、酸素不足の状
態や代謝産物蓄積を作ることができるのです。研究では最大負荷の80%以上の収
縮トレーニングと同様の筋の働きがあったそうです。このとき増加する筋肉は速筋と
いわれていますので、肥大が可能となります。
自転車競技では追い込むときなど、強い連続した収縮が求められることがあります。
それでも最大負荷の80%というのは、少々無理がある場合が多いです。そのため自
転車での筋力トレーニングでは、より長い時間連続した収縮で筋に酸素の少ない状態
と代謝産物の蓄積をおこなうことが、身体に筋力を構築してもらう鍵になるかもしれ
ません。回転系ばかりの練習ではこのような筋の状況は作ることができないので、筋
力アップは難しくなります。練習の中で連続した負荷を与え、一時的に筋の酸素の量
を減らすなどの必要があります。そういった意味でも ヒルクライムの練習なんかは
連続した筋収縮を行えるのでよいと思います。
なかなか負荷を短時間かけるのは難しいとは思いますが、このことを意識して練習
することもいいのではないでしょうか?
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自転車サクセスロード
「筋力をアップさせるためには?」
NO.6-6
∼トレーニングの見直し∼
今回はトレーニングの見直しについて話します。特に筋力で重要ですが、別に筋力
だけに限ったことではありません。
体の運動に対する反応は3段階に分けられます。
1.警告段階
2.適応段階
3.不適応段階
警告段階とは
はじめて新しい運動などやり出すと筋肉痛など起こしますよね。1∼2週間は筋肉痛
などで能力の一時的な低下が起こるのです。
適応段階とは
その後の3ヶ月間は筋力が神経、筋肉肥大と強くなります。
不適応段階とは
3ヶ月くらい経過した後は、同じトレーニングに対する適応が完了し、能力がそれ以
上向上しなくなったり、低下したりすることもあるのです。
思い直してください、いろいろな方法を取り入れると、初めは強くなったように調
子がよいのにだんだん、効果が薄れてきたと感じ、そのうち強さを感じなくなったこ
とはありませんか?継続的に能力を改善していきたい場合は、3∼4ヶ月ぐらいでト
レーニングや練習の方法を見直し、少しでも変えていく必要があるのです。強度や量、
頻度や他のトレーニングなどです。この考え方は特にパワーアップを求めている自転
車選手に有効です。持久力を求めて、LSDなどをおこなっている場合は少々違った
考え方になるので、あまり気にしなくていいと思います。この点についてはまた別の
ときに述べます。
1.ヒルクライムスタイルのペダリングを多く取り入れて練習する。
2.高負荷高回転でのペダリングを多く取り入れて練習する。
3.インターバルを短くして速度の上げ下げをおこなう
4.スプリントの練習を多く取り入れる
5.機械での筋力トレーニングを多く取り入れる
6.ダンシングを多くおこなう
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考えればきりがありませんが、3∼4ヶ月特定の練習を意識しておこなうことが上
達の鍵になります。同じ練習を1年も2年も続けていては、なかなか伸びないと思い
ます。気分転換もかねて新しい練習方法を取り入れてみてはいかがでしょうか?
―特集―
脚質について②
SPRINTER
仏語:SPRINTEUR/スプリントゥール
伊語:VELOCISTA/ベロチスタ
平坦ステージのゴールはたいてい大集団でのゴールスプリントになり、これを制し
て区間優勝できるのがスプリンターと呼ばれる選手たち。競輪選手までスゴくないが、
たくましい大腿を持った大柄な選手が多い。ピュアなスプリンターは2種類に分けら
れ、チームメイトたちが作る列車に引かれ、ゴール直前で飛び出すタイプと、どのチ
ームも支配できずに混乱した集団から自力で飛び出して勝てるタイプがいる。前者は
A・ペタッキ、後者はR・マキュアンが代表的。山岳も越えられる力も備えたスプリ
ンターはメジャーツールで勝ち星を重ね、ポイント賞も獲得できる。北ヨーロッパの
石畳の道が得意なスプリンターもいて、彼らは春先のクラッシックロードレースでも
活躍する。
脚質について③
CLIMBER
仏語:GRIMPUR/グランプール
伊語:SCALATORE/スカラトーレ
メジャーツールの勝負を決する山岳ステージで活躍する、上り坂が得意な選手をク
ライマーと呼ぶ。スプリンターとは対照的に、小柄で体重の軽い選手が多い。体型の
利を生かし、上り坂をスイスイ登っていくわけだ。近年ではM・パンターニが最高の
クライマーだった。ジロやブエルタのように山岳色の強いレースの場合、クライマー
にも総合優勝のチャンスが巡ってくる。そしてクライマーが平坦コースのTTもこな
せるようになると、オールラウンダーに転じ、ツールのようにTTが重要なレースで
も総合優勝に一歩近づくことが可能になる。A・バルベルデがこのタイプの選手だろ
う。ピュアなクライマーたちは以外にもツールの山岳賞と縁がないことも多い。
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自転車サクセスロード
「持久力トレーニング」
NO.7-1
∼有酸素性能力に影響を及ぼす因子∼
今回からは少々、自転車ロードレースでもっとも大切とも言われる持久力について
進めていきたいと思います。どんなに筋力があっても、長く走れなければその力を発
揮できません。自転車ロードレースの特徴は何十キロも走った後に最大筋力を出さな
ければいけない点にあります。この効果などを知ることはトレーニングの方法も考え
させてくれるはずです。
今回は持久力能力について有酸素性能力に影響を及ぼす因子について挙げようと
思います。
代謝機能
1.ミトコンドリア含有量
2.酵素活性
3.筋線維の組成
循環機能
1.筋組織の血液量
2.心拍出量
3.一回拍出量
4.心拍数
5.酸素運搬能力
6.血液量
7.ヘモグロビン量
呼吸機能
1.肺活量
2.換気量
3.拡散
4.肺血流
以上のように3つの大きな要素に分けられます。この要素を伸ばしていくことが持
久力アップにつながるのです。そんなの考えるなんてめんどうだ!!とにかく長い距
離を走ればいいんだ!! と言いたくなるかもしれませんが、自分は何が他の競技者
と違うんだということを知り、意識して練習することはレベルアップに確実につなが
っていきます。次回より細かくやっていく予定です。
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自転車サクセスロード
「持久力トレーニング」
NO.7-2
∼筋持久力に注目して その1∼
まずは筋持久力について考えていきたいと思います。先日ジャパンカップを見てき
ましたが、トッププロ選手は宇都宮の森林公園のあのコースを10周以上でき、しか
もどんどん速度が上がっていくのです。あのコースを走ったことがあればわかります
が、古賀志山の1km以上のきつい登りや鶴カントリーの登りその他のアップダウン
は、心肺機能はもちろんのこと、筋持久力がとても大切になると思います。興味のあ
る方はジャパンカップのレースやフリーランなど走れる機会はありますので走って
みてください。また、近隣の方は車で来られてもいいと思います。駐車場完備ですの
でとてもよい練習場になると思います。さらに古賀志山は関係車両以外の車は禁止さ
れているのでめったに車が来ることはありませんので安全面も他の山岳よりも整備
されています。古賀志山の路面には自転車選手応援のペイントが数多くされていて
その気にさせてくれると思います。まさに自転車のために作られたと言ってもいいで
しょう。古賀志山の宣伝を多くさせていただきましたが、言いたいことはとにかく足
にくるコースだと言うことです。
本題に入りましょう。今回は筋疲労のメカニズムから考えたいと思います。まずは
多くの方が口癖のように言っている「乳酸」についてです。いつかこれの細かい内容
については詳しくおこなおうと思いますが、現在いろいろ言われていますが乳酸は
疲労物質にもなるし、代謝物質として使われるという利点もあることがわかってき
ました。今回は蓄積が疲労物質としてなることを簡単に説明します。知って欲しいこ
とは乳酸が蓄積するとH+が蓄積し PH の低下(酸化)が起こることにあります。体
内が酸性に傾くと、神経筋の伝達がうまくいかなくなり、エネルギーが作られにくく
なるそうです。また、筋自体もアクチンとミオシン(筋の収縮構造でもっとも大切な
部分)の作用が筋の酸性化によって悪くなるそうです。こんな感じで乳酸によって筋
が疲労するのです。アタックや逃げ、最終段階のスプリントで有利に立つには、筋を
疲労させないでおくことが大切であることは誰でもわかっているでしょう。いかに乳
酸の蓄積を防いで、最終局面などに備える事を考える必要があります。
今回はこれで終わりますが、次回以降にどのように乳酸をためない体を作れるよう
になるのかを説明していきます。
- 31 -
自転車サクセスロード
NO.7-3
「持久力トレーニング」 ∼筋持久力に注目して その2 筋グリコーゲンについて∼
前回は乳酸の概要について説明しましたが、今回は筋グリコーゲンの概要について
説明します。これは乳酸と同様、レースの最終局面に動くことのできる体についてで
す。自転車などスポーツをおこなう上で人間が動くために必要なエネルギーはなんだ
と思いますか?ほとんどは1.糖質 2.脂肪 の2つです。糖質が蓄えられている
場所は、血液中のブドウ糖と筋と肝臓に蓄えられているグリコーゲンです。貯蓄に
必要なグリコーゲンは肝臓に300∼500kcal です。筋全体には1500∼20
00kcal です。自転車に3時間くらい乗っていると、個人差は多いですが、平均心
拍130∼140で2000kcal 程度消費されます。血液中の糖質は生きるために
必要なので、糖質だけで考えると2000kcal も消費すると人は動けなくなってし
まいます。このように単純に考えてもなるべく糖質(蓄えられているグリコーゲン)
は使わない方がいいのです。そこでエネルギーとして必要なのが脂肪となります。
例えば体重60kgで体脂肪が7%の選手がいます。典型的なクライマー体型とい
えますが、脂肪量は4.2kgとなります。脂肪は1gあたり9kcal 消費と考えら
れますので37800kcal 使うことができます。4.2kgで37800kcal です
よ。先ほど3時間で2000kcal を例に挙げましたが、単純に計算すると56.7
時間走れる事になります(あり得ませんが・・・・丸2日走れますが・・・)。体脂
肪はかなり少なくても、その貯蓄をうまく使えばかなり走れることがわかると思いま
す。自転車では補給で糖を取ることができますので、摂取した糖は血液中の糖(血糖)
になります。しかし、血液中の糖は筋などに蓄えられているグリコーゲンよりも使用
処理速度が低いので、筋グリコーゲンが無くなってしまうとさすがにペースが落ちて
しまいます。脂肪をうまく使うにはどうすればいいか?糖を使う運動と詳しくはいつ
か説明しますが、簡単には
1.運動の開始時
2.運動の強度を上げたとき
3.運動の強度が高いときです。
要するに糖は使いやすいので、体の動きで急にエネルギーが必要になったときに使
われるのです。自転車に乗っているときにできるだけ、その人にとっての軽い強度で
かつ運動強度を一定に保って乗り続けることが脂肪を使うこととなります。基本的に
は軽い運動強度を保つことができればいいのですから、最大の運動強度が高い人の方
が当たり前ですが脂肪を使えるので有利になります。ポイントは「なるべく低い運
動強度で運動を続け、強度の上げ下げをしない」事がポイントです。意識するだけ
でも効果はありますので試してみてください。
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自転車サクセスロード
「筋線維組成について」
NO.8-1
∼自転車競技にて必要なものは?∼
今回から筋線維組成について話します。スポーツを好きで勉強している人なら聞い
たこともあると思います。復習のつもりで何を鍛えているのか考える上でも読んでみ
てください。
筋線維組成は大きく
1.速筋線維
2.遅筋線維
に分けられます。そして1.速筋線維はⅡa線維とⅡb線維の2つに分けられます。
遅筋線維の特徴
・収縮速度は遅い。
・最大のパワーは低い。
・疲労に対する耐久は高い。
・ミトコンドリア・ミオグロビン・毛細血管の量は高い。
・グリコーゲン貯蓄量は少ない。
速筋Ⅱa線維の特徴
・収縮速度は速い。
・最大のパワーは高い。
・疲労に対する耐久は高い。
・ミトコンドリア・ミオグロビン・毛細血管の量は中等度。
・グリコーゲン貯蓄量は中等度。
速筋Ⅱb線維の特徴
・収縮速度は速い。
・最大のパワーは高い。
・疲労に対する耐久は低い。
・ミトコンドリア・ミオグロビン・毛細血管の量は低い。
・グリコーゲン貯蓄量は多い。
簡単にまとめると、遅筋線維は疲労しにくく、持続的に聴力を発揮する性質があ
り、速筋線維は疲労しやすいが最大の筋力を発揮するのには適している特徴がある。
また、速筋線維のうちⅡa線維は遅筋線維には劣るが疲労しにくく、速筋線維には劣
るが強い力を発揮しやすい。Ⅱb線維は疲労しやすく強い力を発揮しやすいという速
筋線維の代表的な特徴を持っている。筋線維組成をエネルギー経路の面で考えるとA
TPなど細かい事はいろいろあるのですが、自転車競技(主にロード)ではバランス
よく速筋・遅筋が必要となります。その中でも強くなるためにもっとも重要になるの
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が速筋Ⅱa線維です。ロードの練習では長い距離を走る練習が多いため遅筋が発達し
やすいのですが、実際のレースで決着をつけるのは、勝負所のスプリントや逃げなど
の強い筋力をある程度持続させることができる場合が多いのも事実です。どんなにた
くさん多く自転車に乗っても(はじめは長く乗れるようになるので強くなりますが競
技レベルがあがるにつれて結果が出にくくなります)速筋線維が発達していなければ
勝負は難しくなります。強い力をより長く発揮できるⅡa線維の強化が重要になりま
す。インターバル70∼80%負荷のインターバルトレーニングなどでⅡa線維を意
識した強化ができますので、長い距離を乗れるようになりレースで上位に入りたい方
は是非このトレーニングを欠かさないようにしましょう。チームの練習などで速度の
上がり下がりを多く経験できる方はそのような練習が多ければ多いほどⅡa 線維の
強化につながります。きついですが、レースで勝てる練習とはⅡa線維を鍛える練習
がポイントとなります。
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自転車サクセスロード
NO.8-2
「持久力練習にて筋はどうなるの?」
∼自転車競技(ロード)の練習にてどのように変わるか?∼
前回筋の線維組成について話しました。研究によるとこの割合の要素は遺伝が50%
程度あるようです。残りの50%は環境要因と言うことになります。50%は成長過
程やトレーニングによって変わるものであるようなので自分は素質がないと考えず
に努力が大事です。それではトレーニングによってどのように筋は変化していくので
しょうか?研究によると
1.3ヶ月以上にわたる激しいトレーニングにて遅筋線維の割合の
増加と速筋線維(2b)の減少が見られた。
2.持久力トレーニングにて速筋線維の2a→2bへの移行が見られた。
このような研究結果があるそうです。
体験したことがある人もいるかもしれませんが、自転車歴が長く結構がんばって乗
っている人は毎日運動しているにもかかわらず、重いものをもてなくなったり、他の
運動をしている人に比べ最大筋力が弱くなっています。最大筋力を発揮する2b線維
が減っていくのです。弱くなって当然です。
実はここにスピードがある人とない人との差があるのです。レースで勝負を決める
のは、2a線維の瞬発的な持続的な力が多くなることは話しました。自転車はただゆ
っくり長くたくさん乗っているだけでは速筋線維が減り、遅筋線維が増える可能性が
あるのです。速筋線維を維持しつつ(特に2a線維)遅筋線維を強くしていくのです。
強い力を必要とする練習を取り入れる必要があるのです。筋に必要な筋線維のストレ
スを与える必要があるのです。スポーツを好きで勉強している人なら聞いたこともあ
ると思います。とは言っても持久力がしっかりできていないと話になりません。長く
走る連絡も必ず必要です。何の目的で走っているか考えながらがんばりましょう。
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自転車サクセスロード
「持久力練習にて毛細血管はどうなるの?」
NO.8-3
∼毛細血管を増やすとは?∼
速くなるためには毛細血管についても考える必要があるのです。毛細血管は酸素や
栄養が血管から筋細胞に受け渡しをされる場所です。その他にも二酸化炭素や乳酸な
どが細胞から血液へ受け渡される場所でもあります。そのため、毛細血管が多いこと
は有酸素系のエネルギー供給にとても有利に働きます。しかも、筋の毛細血管は持久
力練習によって増えることがわかっているのです。
毛細血管の筋の密度はトレーニング開始より1ヶ月半程度で特に著しく増加しま
す。その後も練習の継続により少しずつ増加していきます。注意したいのは練習を長
期に注意すると(6ヶ月以上)もとの状態にもどってしまうのです。できる限り継続
して続けたいですね。あくまでも筋持久力のみの話ですが、毛細血管が増えると疲労
後の回復が早かったりと何度もアタックをかけることが可能になったりします。
一度の登りで足が無くなったりしていては、何十キロの勝負に勝てませんね。
毛細血管を考えるのも新しい試みかもしれません。
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自転車サクセスロード
NO.8-4
「筋グリコーゲンを節約するとは?」
∼持久力トレーニングの効果∼
持久力トレーニングは、骨格筋の毛細血管を発達させると話しました。
その他にもミトコンドリア数や大きさを増大させ有酸素系のエネルギー
生成工場を大きくする働きがあります(
ミトコンドリアについてはいつか話します)。
こんな感じで様々な筋の変化があるのですが、これらによってもっと
も重要なことは、運動時に脂肪を効率的に使おうとする機能が体に
できることにあります。
筋内のグリコーゲンの分解や解糖の速度が落ち、脂肪が効率的に使われる
ようになることで、より長い時間走ることができるのです。
ようするに、強く長く走れる人というのは運動中の筋グリコーゲンを節約することが
できるのです。
脂肪を効率的に使えるとエネルギーとしての筋グリコーゲンが節約される
ので、最終段階で余裕が生まれることになります。
ある人はペースの上がり下がりで必死に筋グリコーゲンを使ってしまっている
のに対して、ある人ではそのペースの上がり下がり程度では脂肪代謝範囲なので、
筋グリコーゲンを多く温存することになり有利となります。
たくさん自転車に乗るとこんな点で有利に体が成長していきます。
冬はレースの無くなりしっかり乗り込むにはいい時期です。
脂肪を燃焼できる体に作り替えましょう。
「LT とは?」
∼LT の増加とは∼
LT という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
LT とは、ある運動中の負荷から血中乳酸が指数関数的に増加する点
(1∼2mmol/L)をいいます。
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乳酸性閾値を略しています。
自転車でたとえると LT 以下では血中乳酸が増加しないため、
長い間持続的に自転車に乗ることが可能です。
LT の点から負荷を上げていくと血中乳酸の蓄積と共に筋収縮が困難になります。
LT は乳酸産生と乳酸除去のバランスで数値が決定します。
乳酸がたまらない体とは LT が高い人であるのです。
それでは LT を上げるためにはどうしたらいいのでしょうか?
LT の点を他の人より上げて乳酸の蓄積を遅らせるためには、
ミトコンドリアの数や毛細血管密度の増加を必要とするのです。
そして、これは結果的に筋での有酸素性代謝を優位にしていきます。
先ほども話したように、LT が高いと言うことは長い距離を走ることの
できるパフォーマンスと関係しています。
何度も言うようにこれはミトコンドリアの数や毛細血管密度の増加を
必要としているので、簡単に LT を上げられるわけではなく、自転車に
長く乗って練習するという努力と時間が必要になるのです。
LT はどんどんあがっていくわけではないので長く自転車に乗れば
自転車のスピードなどが上がりレースに勝てるほど単純ではないので、
レースで勝ちたい人は他にもいろいろな練習を取り入れなくては
いけませんが、自転車ロードレースを始めた初心者の人はまず、
LT を上げて行かなくてはいけません。
とにかく少しでも多く自転車に乗って LT をあげて、少々の負荷
で筋に乳酸がたまらない体にしましょう。
スピードをそれほど出さなければ(30km程度)最低限100km位は
楽に走れる LT にしておかないと他のトレーニングの導入やレースで
よい結果を期待することは難しいでしょう。
また、ある程度力のある人も、少しずつでも LT をあげて有酸素性代謝を
優位にする体にする練習は基礎なので練習の基本にすることは言うまでもないでし
ょう。
冬はレースの無くなりしっかり乗り込むにはいい時期です。
LT の上昇に期待して走り込みましょう。
- 38 -
「LT の増加とは?」
∼まとめ∼
前回は LT 増加による効果を話しました。
今回はもう一度整理してみます。
LT増加により
1.ミコンドリア数の増加
ミトコンドリアの増加は高い強度に対して有酸素性に働く体を作っていく。
2.毛細血管密度の増加
毛細血管密度の増加は運動時に筋血流量の増大となり、酸素をミトコンド
リアに送る環境を整える。
3.
脂肪代謝の亢進
脂肪代謝の亢進とは血中の脂肪(遊離脂肪酸)を運搬する能力を
高めることにあります。
ようするにLTが増加した筋はより多くの遊離脂肪酸を取り込むこ
とができるようになるのだ。
LTを増加させることはミトコンドリアと脂肪代謝のつながりを良好
にして、結果的に筋グリコーゲンの節約ができるようになる。
以前も書いたように筋グリコーゲンは長い競技時間の自転車ロードレース
に必要不可欠でこれが残っているかどうかが勝負の分かれ目になる。
それでは LT トレーニングとは具体的にどうすればいいのでしょうか?
最大酸素摂取量の40∼75%の範囲(全て同じではないですが心拍数
と近い関係なので心拍数で考えるのが妥当です最大心拍数180∼170位
の人であれば心拍数90∼135 くらいで走るのが良いでしょう)で、
自転車なら100kmから150kmを連続して走ることで可能です。
特に上限の75%を維持できれば更に良いでしょう。
できれば 1 ヶ月以上続ける必要があります。
この練習は信号などで休んでしまうと効率が良くないので、できれば続けて
行った方が良いでしょう。ローラー台での練習や信号のない周回コースが適
しています。
LT をあげることは自転車ロードレースにとっては基礎になります。これがないとレ
ースの終盤でパワーを生かせませんし、完走すら難しくなることもあるでしょう。
- 39 -
何をトレーニングしているのか、どの部分を強くしているのかを考えて
トレーニングを行うと充実しますよね。
「持久力トレーニング方法」
∼種類 1∼
持久力が身についているという前提で次に様々なトレーニング方法を紹介します。
これは持久力を必要とする競技の基礎となるトレーニング方法です。
LSD
最大酸素摂取量(ここでは最大心拍数で考えます)の35∼55%程度。
LT までの範囲ですが心拍数で考えれば 100 以下です。
これを持続的に続ける方法を LSD といいます。
長く走れるので LT を上げる効果の他に、長い時間続けることへの
精神的なストレスのトレーニングにもなります。
自転車では 6 時間や 7 時間走り続けるときにはこのくらいの方法で
行うことが多いです。
LSD のみでは、LT を上げていくことが効率的ではないので、LSD より
も少々短くなった距離・時間で持続的なトレーニングを行うことも効果的です。
持久力をつけるためにはまずは長く乗ること
これが基本となる練習です。
インターバルトレーニング
レースなどの状況がめまぐるしく変わる時、このトレーニングが生きてきます。
心拍数の上げ下げで考えた場合、この効果は心臓の筋肉の肥大となります。
最大心拍数の時期と心拍数70%程度(130∼140)程度の上げ下げ
を組み合わせていきます。
心拍計についているタイマーを 30 秒程度にセットして上げ下げを繰り返し行うので
す。
心拍数をコントロールしないといけないのでローラー台か周回コースが
コントロールしやすいでしょう。
このトレーニングは十分な有酸素性の持久力が身についていないと
できませんので、まず LSD などで基礎を身につけてから行います。
スローインターバル
強度を上げるときに最大まで上げずに行うことで、回数を増やす。
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ファーストインターバル
強度を最大まで上げて行うので、回数は少なくなる。
この 2 つの方法で実践トレーニングを行うのですが、練習時間がとれない
ときにもこの練習は行えるので、有効に活用するといいと思います。
次回は続きです。
「持久力トレーニング方法」
∼種類1の2∼
今回は前回の続きです。
トレーニング方法の紹介です。
この紹介が全て終わったら、計画立てたプログラムを考えていきましょう。
実践的なトレーニングの紹介です。
ビルドアップ走
比較的長い距離を走るのですが、前半はゆっくり走り、有酸素性代謝の
活性を高め、後半にペースを上げていく方法です。
多少負荷を上げても有酸素性のシステムに移行しやすくなっているので、
無酸素領域近くの運動でも負荷がかかりにくいため、ペースを上げた状態
でも長く運動を維持できるのが特徴です。
レースでは後半ペースが上がることが多いため、このようなトレーニング
を多く行っていると、実践的です。
ペース走
レースと同様程度の距離とスピードを維持しながら走り、レースでの
ペースを確認します。
ペース変化
実際のレースでは前半にペースが上がり、中盤で少しペースが安定し、
後半再びペースが上がります。
この変化を想定し、様々なペースを設定する。
インターバルトレーニングにも似ている。
短時間で速度を上げるので乳酸産生に対して素早く処理する能力が重要になる。
次回も種類の紹介です。
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いろいろ練習方法を考えていきましょう。
「持久力トレーニング方法」
∼種類 2∼
今回はスピードをつけるトレーニングです。
スピードをつけるといっても、スプリントではなく持久的要素の中でのスピードです。
レースでの強い弱いはここで決まることも多いのでしっかり練習したいものです。
スプリント反復
300∼500m位の距離を決めて、最大速度を出します。
その後はギアを落として回復するまで待って同じ事をくり返します。
このトレーニングでは、走行中の絶対速度を高めることで、長い距離
での最大より下の速度で余裕を持つ事ができるようになります。
速筋線維を動員し、無酸素的要素を取り入れ、乳酸代謝の改善、パワー
の増加を期待します。
また、練習において、何度も高いギアにて最大速度を出す練習をして
おかないと実践ではギクシャクしてしまいます。
そのため、動作トレーニングとしても有効です。
平坦か緩やかな登りを利用して、最大速度を出します。
安全な場所でおこないましょう。
見通しの悪い車の多いところでは危険ですので・・・。
フォーム学習トレーニング
スピードを出すためにはただパワーで踏み込めばいいわけではありません。
体幹の位置や体幹筋力の使い方・ペダリング効率・引き脚の使い方など
練習中にどのように体を使ったらよいかを考えながら走ってみましょう。
何度も練習して体が覚えたときに、スピードの上がり方が違うはずです。
今中大介氏は片足で10%の登坂をしてしまうといっていました。
そのくらい効率がよくなると筋力を十分に発揮でき、レベルもアップするのでしょう。
技術的なところなのでなかなか難しいですが・・・。
いろいろなトレーニングを紹介しましたが、最低3ヶ月くらい意識して
練習しないと身に付かないものばかりです。それだけ体の生理的反応を
引き出すのは難しいのです。
1年の計画を立てて何を強くしていくか明確にしていきましょう。
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「持久力トレーニングとインターバルトレーニングのすすめ」
∼持久性能力の向上のために∼
乳酸の蓄積されはじめる点(LT)と最大酸素摂取量を向上させるために
はどうしたらよいのでしょうか?
一つの例を紹介します。
強くなるためには、LTの点が最大酸素摂取量の高い%にあればいいわけです。
心拍を上げていっても LT がこなければ筋への疲労は少なくてすみ能力温存が
できるわけです。
強い人とは他の人よりそんな点が優れているのです。
まずはLTより少し高い強度(だいたい最大酸素摂取量の80%。
心拍では最大心拍が180の人なら145程度)で2ヶ月走り込む。
なるべく同じような心拍数で毎日1時間以上続けることがポイントです。
練習がちゃんとおこなわれていれば、LT の増加が期待できます。
例えば、最大酸素摂取量の75%で LT が来ていた人は80%程度になる
かもしれません。
こんな感じでLTを伸ばしていきます。
また、その他に走行速度を上げる筋を養うインターバルトレーニングをおこなう。
スローインターバルからスタートして、ファーストインターバルを取り入れて
、乳酸に対する体の耐性と速筋線維を強化する。
繰り返すことで速筋線維の有酸素能力を磨き、2a線維の増加をおこなう。
この練習では3ヶ月程度の期間が必要となる。
LT の増加に加え、速筋線維の筋力増加によりスピードアップも期待できる。
持久練習とインターバルトレーニングを ONE クールにして再び持久練習の強度
を決定しこれを繰り返す。
1年くらいかけてこの計画を考えて実行していく。
計画通り行けば、LT 及びスピードの増加がはたせることで強い力となっていく。
このように数ヶ月から1年をかけて今年は何を強くしていくんだ!ときめて練習す
ると伸びることができると思います。
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最低限の練習は必要なのでなるべく時間を見つけて練習に励みましょう。
「冬場のオーバートレーニングに注意」
∼自転車乗りのオーバートレーニングは風邪につながる?∼
冬場の乗り込みが来シーズンの高成績につながると思ってがんばって
いる人たちも多いと思います。
ちょっと注意が必要です。風邪のはやっているこの時期、自転車乗りの
ような持久力系の選手は風邪をひきやすくなるのです。
でもオーバートレーニングにならないで、中等度の練習なら逆に免疫力を高める
ので心配はいりません。
その説明をします。
NK 細胞がかかわっています。
NK 細胞とは natural killer の略であり、大型顆粒リンパ球と言われます。
顆粒により病原菌を殺す傷害作用を持っています。
そのNK細胞の運動による関わりは以下の通りです
運動中 増加
運動後 多く減少
(運動前と同じまで回復するのに1日ほどかかってしまう)
NK 細胞の減少に対して好中球(白血球の一つで病原体の貧食排除
作用をもつ)が運動後増加するようで何とか免疫低下を防いでいる
ようですが、運動後に免疫力が低下し風邪が移りやすいことは事実なようです。
栄養をとって、睡眠をしっかりして、暖かくして、手荒いうがいをして
いればかなり防げるのが通常の風邪です。
練習が1週間くらいできないと持久力は落ちてしまいます。
練習後は特に注意をして生活しましょう。
「クーリングダウンの重要性1」
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∼クーリングダウンの効果1∼
クーリングダウンを軽視してないでしょうか?毎日練習をおこなう人の多い
自転車ロードレースでは次の日に疲れを残さないで練習を行えるかがとても
大切になります。
特に追い込んで筋の張りが強いときなど効果が実感できると思いますので
おこなってください。クーリングダウンの方法ですが、自転車ではそれほど
難しいものではありません。SLD 程度の負荷でゆっくり気分がリラックスできる
程度に回転させてください。細かくは最後に記します。
それではその効果です。
1. 心臓へ帰る血流量の確保
2. 乳酸除去の促進
3. 筋の張りの緩和
本日は1の心臓へ帰る血流量の確保についてです。
短距離走や心拍を上げて追い込んだ後に吐き気やめまいに襲われたことは
ないでしょうか?心臓に血液が行かなくなっているのです。
そのため、運動後はすぐやめないで軽くクールダウンをして!!といわれた
ことでしょう。
すぐに運動を中止すると心臓への血液量低下を引き起こします。筋に行った
血液が筋収縮が無くなったために心臓へ戻らなくなったために起こる現象で、
血圧の低下などを引き起こします。その結果として吐き気やめまいを起こす
わけです。
運動後すぐ倒れ込まないで必ず負荷量を落として運動を続けましょう。
そうすれは血液循環を正常に保つことができます。
「クーリングダウンの重要性2」
∼クーリングダウンの効果2∼
効果をおさらいすると
1. 心臓へ帰る血流量の確保
2. 乳酸除去の促進
3. 筋の張りの緩和
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本日は2の乳酸除去の促進と3の筋の張りの緩和です。
疲労の原因は乳酸だけではありませんが、要因の一つになっているのも事実
だと思います。
乳酸除去はアスリートにとって誰もが考える課題の一つでしょう。
乳酸は速筋線維中心に蓄積することはその機能から考えても理解できると
思います。
しかし、それを除去する機能が多いのは心臓の筋肉や遅筋なのです。そのため、
血液循環によって心臓の筋や遅筋に運び処理するのが基本となります。
また、肝臓に運んで糖にするという手段もあります。
どちらにしても、血液の流れがスムーズでないとはじまりません。
適度に血流循環を維持することにより活動の少ない組織に運ばれ処理される
のです。
これは、レース中でも同じように考えることができます。例えば登りで追い
込んだ後に下りで足を止めないで少しでも軽く足を回した方が疲労物質の
除去につながります。
乳酸除去の時間ですが、完全除去を考えると1時間程度と言われる場合も
ありますが、そこまで時間をかけなくてもよいと思います。自分の可能な
範囲の時間でクーリングダウンをおこなうようにしましょう。
3.筋の張りの緩和についてです。
筋の張りの要因の一つに電解質バランスがあります。筋細胞の電解質バランス
を保つために細胞内液が増加した状態により筋の張りを感じることがあります。
これも軽度の運動によって電解質バランスを正常に戻す事につながるのでクー
リングダウンが有効です。
また、ストレッチなどを取り入れることで緊張力をゆるめることも可能です。
こんな感じで後への疲労を緩和するための効果ですが、安静より効果があるので
常におこなう癖をつけましょう。
「クーリングダウンの方法」
∼クーリングダウンをどのくらいの強度でおこなうか?∼
生理学的にクーリングダウンの効果をおさらいすると
1. 心臓へ帰る血流量の確保
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2. 乳酸除去の促進
3. 筋の張りの緩和
であることは前回までに述べました。
ではどのくらいの強度でおこなうのが適当なのでしょうか?
様々な研究から乳酸除去を考えると
60%位の最大酸素摂取量がもっとも乳酸除去に適しているとされています。
この数字は最大心拍数180の人で考えると110くらいに相当します。
あまり弱すぎもせず、乳酸が作られない程度の負荷がいいようです。
また、高強度の運動をおこなった後の回復は、少しづつ運動強度を
落としていかないとクーリングダウンの効果が悪くなるようです。
激しい運動時は乳酸を処理する内臓への血流量が少なくなっています。
突然負荷を落としすぎると、内臓への血液は戻ることができないので、
処理することが困難となります。内臓への血液の供給も考えて、徐々に
運動強度を落としてあげることで
乳酸除去の処理に必要な血液量を確保できるのです。
このような考えは、レース終了時のみに適応するわけではありません。
アタックやヒルスプリントなど運動強度を上げなければいけなかったときに
早く回復するために意識して徐々に強度を落とす必要があるのです。
登り終わって、すぐ下りだからといってすぐ足を止めてはいけませんということです
ね。
「クーリングダウンの時間は?」
∼クーリングダウンはどのくらいが適切か∼
前回までにクーリングダウンの方法について話しました。
では、どのくらいの時間クーリングダウンをおこなうことが
次への回復へつながるのでしょうか?
研究結果では10分∼15分が乳酸除去を考えた時間だそうです。
しかし、疲労というのは乳酸のみではありません。
体温・ホルモン・精神的な要因・筋グリコーゲンの問題などかんがえます。
この時間は10∼15分が急激に回復する時間と言うことで、その後は
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ゆっくり1日かけて回復していきます。
そのため、ゆっくり自転車を走らせるほかに、栄養をしっかりとって、
リラックスをして、ストレッチ。マッサージを施すのがよいともされます。
でもやっぱりもっとも効果があるのは、ジョギングやゆっくり自転車で
走らせることによって回復を図ることがもっとも効果のある方法だそうです。
マッサージやストレッチは局所の血流を改善するのみなので、全身の動的な運動より
効果が落ちるそうです。そのため、マッサージやストレッチは精神疲労や筋痛を
改善する効果として考えた方がいいようです。
「クーリングダウンの注意点」
∼クーリングダウンの補足∼
前回までにクーリングダウンの方法・時間について話しました。
クーリングダウンとは生理学的な側面もありますが、
1. フォームの修正
2. 心身の疲労の改善
など次のトレーニングをより良く開始するために非常に重要なことです。
プロの自転車選手はこの重要性を体で理解しているので、レースの後、
自転車で帰宅したり、レース後にローラー台に乗って次のレースに
備えたりしています。
クーリングダウンの習慣が付いている人は、痛みなどの傷害が発生しにくいとも
言われています。特に中年台の自転車乗りの方は、若い人より自己回復能力
が遅いため重要です。
クーリングダウンを考える上で速筋線維(2a/b)線維と遅筋線維(1 線維)
の保有率も問題になってきます。2a 線維が多い人が長い走り込みをおこなった
場合や、1 線維が多い人がスプリントなどのパワー系の練習をした場合は筋が
なれていないことをおこなっているので時間をかけてクーリングダウンをおこ
なった方がいいと思います。
いろいろクーリングダウンの重要性を書きましたが、なかなかできないのが現状です。
自転車でできないときは軽いジョギングでもいいので、習慣化するといいと思います。
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「早くなるための栄養摂取」
∼糖質に着目して∼
今回から数回にわたり栄養について考えたいと思います。
自転車競技ではエネルギー消費が非常に高いのでこの考えを怠ってしまうと
せっかくの練習が水の泡になってしまいます。
まず糖質についてです。
一般に糖質の含まれている代表的な食べ物を記します。
・ご飯 55g 252kcal
・パン 50g 260kcal
・うどん 47g 230kcal
・パスタ 70g 380kcal
芋なども糖類が含まれている代表的な食べ物です。
糖質は消化により、グルコースの形で血液中に滞在します。
細胞では筋グリコーゲン・肝グリコーゲンとして保存されています。
脂肪やタンパク質に比べ 2000kcal 程度しか保存されていないのが普通です。
これは最大酸素摂取量の70%位で連続乗車するとグリコーゲンが枯渇して
しまう量となります。グリコーゲンが枯渇すると血糖を維持することが難し
くなるので、ハンガーノック状態や集中力の低下につながります。
自転車に乗りながら kcal 計算する人はわかると思いますが、2000kcal くらい
数時間の乗車で消費してしまいます。エネルギーをいかに不足しないように
補っていくかが
重要になります。
もしそれができないと
・次の日の練習に差し支えてしまう。
・疲労が早期に起こり、トレーニング量をへらさざるえなくなります。
・ 糖質不足によりエネルギーの確保を自らのタンパク質を使わなく
てはなりません。
「早くなるための栄養摂取」
∼タンパク質に着目して∼
前回は糖について書きました。
今回はタンパク質についてです。
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一般にタンパク質の含まれている代表的な食べ物を記します。
・卵 タンパク 7.4g 90kcal
・牛乳 タンパク 6.6g 200cc 134kcal
・豆腐1/2 タンパク 10g 110kcal
・納豆1パック タンパク 8.3g 100kcal
・肉 100g タンパク 20g
・魚 100g タンパク 25g
肉が実際の重さの1/5ということからもわかるとおり、タンパクをとると
いうのは結構大変です。しかし、タンパクは人間の筋肉・腱・血液の材料に
なるのでとっても大切です。
タンパク質は糖や脂肪に比べてすぐエネルギーとして使われることはありま
せん。
しかし、運動時間が多くなると、筋肉などをアミノ酸に分解し、肝臓で糖に
変えられて使われることになります。
このことは自転車ロードレーサーは注意しないと、せっかくの筋肉がエネル
ギーになって無くなっていくことを意味するのです。筋力トレーニングを思
い切ってやっても、筋肉は無くなってしまうと言ったら、練習でのエネルギ
ー補給は要注意したくなるでしょう。
アミノ酸の中でも BCAA といわれるバリン・ロイシン・イソロイシンなどは体
で作ることができないので必ず摂取しなくてはいけません。
プロテインなどを取ることで補えることはできますので利用してみてください。
「早くなるための栄養摂取」
∼鉄に着目して∼
前回はタンパク質について書きました。
今回は鉄についてです。
一般に鉄の含まれている代表的な食べ物を記します。
・レバー しじみ あさり イワシ ひじき ほうれん草
特にレバーや貝類
海藻に多いようです。
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なぜ鉄の話になるかというと、血液にとって必要不可欠だからです。
酸素がとても大切だというのは誰でも知っていることです。
酸素を運んでいるのは何でしょうか?
ヘモグロビンです。
ヘモグロビン=鉄+タンパク質なのです。
鉄は汗と共に排出されます。
鉄が足らないとヘモグロビン量に影響がでます。
酸素が運べなくなるので持久力にとても影響がでてしまいます。
貧血が多い人はこのことに注意した方がいいでしょう。
市販のザバスなどのプロテインには鉄も一緒に入っているので、タンパクと
一緒に取りたい方にはとてもお奨めです。サプリメントも気軽に補給できる
のでよいと思います。
栄養面に気をつけることは練習後の体の増築にとても役にたちます。
「早くなるための栄養摂取」
∼糖質の摂取タイミングに着目して∼
練習直後すぐ糖質を取っていますか?
トレーニング後にできる限り早く糖分を補給することが
筋グリコーゲンの回復を早めることは知っていますか?
筋グリコーゲンの回復を早めることが、筋の疲労回復につながることは
話したと思います。長い練習の後やレースの後、足がぱんぱんに張ってきて力が
入らなくなったことがあると思います。筋グリコーゲンが枯渇してしまった状態です。
そんなときは、運動中・運動後共に糖質はなるべく切らさないように
取るといいと思います。あまり取り過ぎも問題が生じてくるので
適度に補給するのがいいとおもいます。
また、糖質とタンパク質 or クエン酸を同時にとることによってインスリンの分泌
を高めて、運動後の筋グリコーゲンの回復を早めることができます。
市販のプロテインなんかはそんな点をしっかり補っているので、すべての条件が
そろっている飲み物だと思います。
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「レースシーズン突入して」
∼メリハリをつけたトレーニング∼
海外のプロレースをスカパーでみられるようになりました。
考えられないような脚力と持久力です。
例えばフランドルの最終局面でバッランがみせた石畳20%勾配での
他を寄せ付けない登り。
誰もがあの局面でのパワーが欲しくて練習しているので、とてもあの光景は目に
焼き付いて離れないでしょう。
ランス・アームストロングは4ヶ月を一つのタームとして目標を持って練習をした
と聞きます。能力が向上するためには確かに3∼4ヶ月は辛抱して、集中する必要
があります。ヒルクライムのレースを標準にして、4ヶ月間そのための練習を集中
します。
その後平坦のレースを想定して回転系のトレーニングを4ヶ月間集中します。
その後アップダウンが多いレースを想定してインターバルトレーニングを4ヶ月間
集中します。
こんな感じで一つ一つの能力を確実に伸ばしていくのです。
この方法は運動生理学的にも理にかなっていて、初めに現在の能力を知ることで、
その目標を少しづつ上回るように練習していくのです。
レースシーズンは目標を決めて練習を行えるのでこの方法はおこないやすいと思い
ます。
「ペダリング方法について コラム1」
∼ヒルクライムと平坦での筋の使用方法∼
日本でも top レベルにあるクライマーK さんは
平坦の練習で登りがはやくなったそうです。
Big ギアを平坦で登りを想定して踏んでいたそうです。
下りの時間がもったいないとも言っていました。
これを読んだ方の多くは、平坦で BIG ギアを踏む練習をすれば
速くなるのか?と思ってしまうでしょう。
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ぞんなあまくはありません。
確かに筋力は付きますし、よい点もあります。
実際に登ってみればわかると思いますが、かなり筋の使い方は違っています。
通常ヒルクライムではタイヤに慣性がかかりづらいため、踏む込むタイミング
が早くなります。平坦でそれを練習するためには、同様に踏み込むタイミング
を早くする必要があります。いかに登りと近い状態で力を発揮することが大切
になります。
そればかりやっていると平坦で回転がうまくいかなくなる場合もあるので、
ビギナーの方は注意してください。
「質問に対して」
∼心拍トレーニング∼
2ヶ月近く連載をお休みしていました。
引っ越しなどの関係でなかなかネット接続ができなく、連載できませんでした。
購読されていた方にはご迷惑おかけしました。
さて今月から再び開始いたします。
まず、いくつか質問がきているのでその回答からしたいと思います。
「自転車のトレーニングに心拍計を取り入れようと考えております。
主に、高校生自転車部の子供が使用します、自転車を乗り込む時間が
なかなか取れず、効率の良い使い方、特に持久力を高めたいのです。」
以上が質問内容です。
効率よく考えるためには、敵を知ることです。
ここで言う敵とは距離のことです。
世界の TOP プロ:250km
日本の TOP プロ:150km
アマチュア BR-1:100km
アマチュア BR-2/3・高校生選手レベル:70km∼50km
それ以外:50km∼30km
大まかにはこんな感じでレース距離が組まれています。
時間の無い方は、この距離をしっかり走れるように練習目標を立てることです。
時間のたっぷりある方はできる限り長い距離を乗ったほうがいいですが。
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高校生が200kmを目標にしてしまうと、練習方法が基礎的なところ
から全く違ってきますので、いろいろな参考書で練習方法を参考にする
場合何を目標に書いているのか注意する必要があります。
50km程度走れる持久力を目的に心拍トレーニングを考えていきたいと思います。
LT トレーニングを実施することが効率よいトレーニングだと思われますが、
まず個人個人の最大心拍と安静時心拍を測る必要があります。
最大心拍は1分間連続してこぎ続けられないまでもがいてもらい
そのときの心拍とします。安静時心拍数は外になって測ってください。
LT={最大心拍数―安静時心拍数}×0.75+(安静時心拍数)
あまり難しく考えなければ、それで心拍を出した後にその心拍数レベル
でのトレーニングを続けてください。
徐々にその心拍に10%程度づつ足していき持久力を上げていきます。
50km程度であれば毎回50km程度の時間を可能になるように目指して
練習していき、レベルを上げていくとよいと思います。
LT を基準にして疲れているときは LT マイナス20%程度にしたり、
インターバルでは LT+20%程度で繰り返します。
時間が少ない方には心拍トレーニングはとても効率よくいい練習方法ですので、
なるべくローラーなど心拍をコントロールできる場所で行ってください。
「質問に対して」
∼体型と練習方法∼
こんな質問がありました(省略して載せています)。
「大体 1 年半分ぐらいは片道23kmの道のりを平均50分のペースで
自転車通学していました。
現在19歳で身長177cm体重56∼7kg体脂肪率5∼7%のかなり
の痩せ型です。
おまけに人より良く食べるのに運動していなくても体型の変化は
ほとんどなく、知り合いのレーサーにもその手の体型がいないため参考
にしにくいんです。
まず体脂肪は低すぎると持久力がなくなると良く言われますし、
5∼7%といったらプロスポーツ選手並みかそれ以下かも知れません。
さらに自転車に乗るとすぐ5%きってしまいます。
やはり効率よく栄養を摂取するためにプロテインなどを飲んだ
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ほうがいいのでしょうか?」
毎日のように平均時速27km位で往復50km近く走っていれば、
かなりのカロリーを消費するはずです。おそらく、自転車に乗っている
日はカロリーがマイナスになっていたのでしょう。そのように運動されて
いた方が文章のような体型であっても特に深く考える必要はありません。
もともと基礎代謝が多く、やせにくい方がこのようなカロリーを消費すると
当然このような体型になります。よく言えば理想的なクライマーです。
体型も素質のうちですから、それを生かすといいと思います。
体脂肪が少なすぎると持久力が無くなると言われるとのことですが、
そんなことはありません。マガジンでもお伝えしたように脂肪1kgは
9000kcal あると言われています。
57kgの方の5%の脂肪は 2.8kg 程度です。25200kcal の脂肪が蓄えて
あることになります。とはいっても一般に市販されている体脂肪計は毎日
運動されている方には精確に表示されません。
おそらく5%ということはないでしょう。
人間は4∼5%を切ってしまうといろいろな異常がでてきますのでその
状態で運動をすることは不可能ですから、質問者の方はおそらく7から8%程度
で運動しているのではないでしょうか?
体脂肪の心配は体重の多い方がすればよいと思います。
持久力は循環器系の問題や筋の効率によって決まってくるので心配はいりません。
プロテインについてですが、消費 cal 量が摂取 cal 量を超える方や筋力
トレーニングを行った場合などに取ると効率がよいと思います。
特に取らなくても食事をしっかりしていれば問題がない場合が多いですが。
ビタミンなどいろいろはいっていますので、それを補うにはいいですね。
自分の体型を生かした走りができるようになると強くなるのではないでしょうか?
その上で足りないところをおぎなっていけばいいと思います。
参考になりましたでしょうか?
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