消費者の知覚品質形成に影響を及ぼ す内在的・外在

Japan Marketing Academy
BOOK REVIEW
▪ テーマ書評シリーズ——
Morgan が指摘した品質知覚ギャップを解消
する鍵となりうる「消費者の知覚品質(perceived
quality) 形成に影響を及ぼす内在的・外在的手
消費者の知覚品質形成に影響を及ぼ
す内在的・外在的手掛かり研究の系譜
掛かり研究」について,まず,知覚品質研究へ
と後に繋がっていく「消費者の情報処理の不完
全性に焦点を当てた研究」を研究分野横断的に
概観し,その後,消費者行動論分野における知
覚品質研究に視点を移して研究の系譜を追って
大澤 枝里子
いく。
●慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 博士課程在籍中
東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 実験講師
★消
費者の情報処理の不完全性に
焦点を当てた研究
★ 知覚品質研究の重要性
伝統的な経済学の理論では,消費者は製品や
現在,多くの企業が様々な努力を重ねて製品
価格に関して完全な情報を有するものとみなさ
の品質向上に努めている。しかし,いくら企業
れてきた(Steenkamp 1989)。しかし,この前
が苦労して作った「高品質」の製品であっても,
提を「非現実的だ」とする研究者も現れるよう
消費者がその製品について「高品質である」と
になり,消費者は不完全情報しか持たないとい
認識しなければ,購買がなされることはないだ
う実証研究結果も多く見られるようになって
ろう。
いった。例えば,価格についてのわずかな差異
今から約 30 年前の 1980 年代に,80 年代以前
は大抵の場合消費者によって知覚されないとい
と比較して消費者の品質への要求が重視される
う研究結果(Monroe 1971, 1973)や,消費者
動向となったという議論がなされ始めた
が持つ価格についての知識は,多くの場合実際
(Parasuraman et al. 1985)
。この動向は消費者
の価格よりも少額であるという研究結果
が与えられる製品の品質に不満足であるという
(Shamir 1985)などが挙げられる。
ことの証拠でもあると説明する研究者もいる
同時期に,価格についてのみならず,消費者
(Grainer et al. 1979, Stanley and Robinson
は製品の品質特性についても不完全な情報しか
1980)
。Morgan(1985)は,消費者が持つ品質
持たないという研究もなされていった。その一
に対する要求の高まりと,消費者が持つ品質に
つとして,Steenkamp and Meulenberg(1986)
対する不満足さの根源は,製造業者と消費者の
による研究では,消費者にバターとマーガリン
間に「品質知覚ギャップ(quality-perception
の脂肪分を推定させ(実際にはバターはマーガ
gap)
」が存在することにあると説明した。製
リンよりも脂肪分が少ない),バターのほうが
造業者がこの品質知覚のギャップを埋め,消費
マーガリンよりも脂肪分が多いと消費者が知覚
者の製品品質への満足度を高めるためには,消
していることを明らかにした。
費者がどのように製品の品質を知覚するのかが
また,消費者は製品について明示されている
明らかとなっている必要がある。
情報を使用していないことを明らかにする研究
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も増えてきた。例えば,栄養成分についての情
1940 年代~ 50 年代の研究により,消費者は価
報が消費者によって使用されないことが多々あ
格によって製品の品質を知覚するという仮説が
ると実証した研究があり(Asam and Bucklin
生まれた。では,消費者行動分野では,消費者
1973, Jacoby et al. 1977)
,品質についての等級
の知覚品質はどのように形成されると看做され
付け(Miller et al. 1976)や賞味期限日(Day
てきたのだろうか。この問いに答えるにあたっ
1976)
,そして米国において 1969 年 7 月に施行
て,まず,消費者行動分野において知覚品質の
された消費者信用保護法の一部である真正貸付
定義がどのようになされてきたのかを振り返る。
法の情報についても(Day and Brandt 1974)
古くは Oxenfeldt(1950)が,知覚品質とは消
消費者は使用していないことが実証されている。
費者の満足を実現する製品のすべての属性であ
Jacoby et al.(1974a, b)では,消費者があま
ると定義付けている。他にも,多くの研究者が
りにも製品について多くの情報に接触すると,
知覚品質の定義付けを試みている。例えば,
消費者の処理能力を超えた情報過多が起きるこ
Kuehn and Day(1962)は,製品の品質は,そ
とによって消費者が混乱し,その結果として質
れがどれくらい消費者の選好のパターンに適合
の低い選択しかできなくなると解説している。
するかによって決まると述べた。Box(1984)は,
それでは,消費者はこうした情報過多による
知覚品質を製品が消費者のニーズを満たす機能
選択の質の低下問題をどのように解決すれば良
をどれほど満たすかの程度であると定義した。
いのだろうか。Jacoby の論文よりも 30 年ほど
Box と似たような定義は Kotler(1984)によっ
前に,この問いに対する答えの一端が経済学分
てもなされている。Kotler は知覚品質とは,消
野で示されている。
費者によって知覚されたその機能を遂行するブ
Scitovsky(1945)は,不完全な情報下に置
ランドの評価された能力であるとしている。
かれた消費者は「価格が品質を示唆する」と捉
こ れ ら の 定 義 を 受 け て,Monroe and
えると指摘した。消費者の当該行動は,そう捉
Krishnan(1985)は,それまでの研究におい
えることによって自分たちが市場においてより
て知覚品質が注意深く定義されてこなかったと
情報が与えられた消費者なのだと正当化し得る
批判する。その上で「品質とは,1. 他の全ての
た め だ と Scitovsky は 指 摘 す る。 一 方,
感覚から区別される基本的な感覚の特徴である。
Chamberlin(1953)は,一般に製品の品質と
ここで言う品質とは,種類の違いを指し,程度
その価格との間に大まかな相関があることは基
の違いを指すものではない。2. 何かについての
本的な常識であるとさえ述べている。
相対的な良さや優秀さのレベルである」とし,
この Scitovsky と Chamberlin の論文は,後に
知覚品質とは,代替製品と比べてその製品が相
分野を超えて消費者行動研究論分野における消
対的な満足を消費者に提供できるのかに関する
費者の知覚品質形成研究に影響を与えていった。
消費者によって知覚された能力だと定義付けて
いる。しかし,この定義は Steenkamp(1990)
★消
費者行動分野における知覚品質研究
によって以下のように批判されている。
「Monroe
1.知覚品質の定義
and Krishnan の定義ではいかに知覚品質が形
前 節 で 見 た よ う に, 経 済 学 分 野 に お け る
成されるかが解明されておらず,また,消費者
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消費者の知覚品質形成に影響を及ぼす内在的・外在的手掛かり研究の系譜
の情報処理という観点が欠落しており,知覚品
Olson and Jacoby はいくつかの例えを挙げて
質の形成における諸要因としての個人的および
おり,内在的手掛かりに該当するのは,例えば
状況的変数が考慮されていない」
。Steenkamp
リビングルーム用の敷物であれば「繊維の性
自身は,自らが Monroe and Krishnan に向け
質」,挽かれたコーヒー豆であれば「味」,アス
た批判を意識しながら知覚品質を以下のように
ピリンであれば「特別な含有物」であり,これ
定義している。
「消費することの適合性につい
らの例はすべて製品に統合された内在的な構成
ての特異な価値判断であり,有意な個人的およ
要素だからだと説明する。翻って,外在的手掛
び状況的変数の影響下で,適切な品質属性と関
かりに該当するのは,物理的製品そのものでは
連のある品質手掛かりを意識的また/あるいは
なく製品に関連した要素であり,リビングルー
無意識的な処理をすることに基礎を置くこと」
。
ム用の敷物であれば「保証」,ヘアドライヤー
最後に,もう一つの定義を紹介したい。それ
であれば「メーカーの評判」,そして挽かれた
は Zeithaml(1988)によるものであり,先の
コーヒー豆であれば「ブランド名」だと区分け
Steenkamp による批判にも耐え得るものと考
している。
えられる。Zeithaml は知覚品質を「
(1)客観
前述したように,経済学分野で Scitovsky が
もしくは実際の品質とは異なり,
(2)ある製品
「消費者は価格を品質の示唆だと捉える」と発
に固有な属性というより高度なレベルの抽象作
表したことは良く知られているが,Scitovsky
用であり,
(3)ある場合には,態度に類似した
の論文よりも 12 年前に,心理学分野において
全体的な評価であり,
(4)通常は消費者の想起
Laird(1932) が「消費者はストッキングを買
集合内で行われる判断である」としている。
う時に,香りの無いものよりも香りのあるもの
(Laird の実験では水仙の香り)を質が良いと
2.単数手掛かりと知覚品質に関する研究
判断する」という実証研究を発表した。この後,
消費者の知覚品質形成を研究する者の間で
対象となる製品や手掛かりを変えながら,多く
もっとも関心を持たれたのは,
「消費者はどん
の研究者が「消費者はどんな情報(手掛かり)
な情報に基づいて製品の品質を知覚するのか」
に基づいて製品の品質を知覚するのか」という
ということであった(Steenkamp 1989)
。消費
命題に取り組んできた(図表− 1 参照)。
者が入手できる製品属性についての情報は多く
中でも,Scitovsky が最初に指摘したように,
あるが,Olson and Jacoby(1972)が「内在的・
「消費者は価格を手掛かりとして知覚品質を形
外在的手掛かり」という言葉を使用して以下の
成する」という仮説は,他の多くの研究者の関
ように製品属性についての情報を整理している。
心を集めた。これは,価格が消費者にとって手
Olson and Jacoby によれば,内在的手掛かり
に入りやすい情報だというのも一因であろう。
とは,製品に内在しており製品自体の物理的特
しかし,Zeithaml(1988)は,「消費者は価
性を変更すること抜きに実験的に操作すること
格を手掛かりとして知覚品質形成をする」とい
が出来ない製品属性を指す。その一方で,外在
う仮説について,それまでの 30 年間に 90 近く
的手掛かりとは,製品に関連する属性のうち,
もの研究がなされてきたが,「消費者は価格を
物 理 的 製 品 そ れ 自 体 以 外 を 指 す と さ れ る。
手掛かりとして知覚品質形成をする」という仮
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テーマ書評シリーズ
■図表——1
知覚品質に影響を及ぼす単数手掛かり効果の研究のまとめ
Laird(1932)
1
-
Leavitt(1954)2
-
McConnell(1968a,b
,c)
P
Gardner(1970)
PT
Peterson(1970)
Deering
Jacoby(1972)
PL
&
PR
Gaedeke(1973)
-
Shapiro(1973)
-
Woodside(1974),
Woodside
&
Sims(1974)
Woodside
&
Taylor(1978)
Bellizzi et al.
(1981)
-
Rosen(1984)
P
Obermiller
&
Wheatley(1985)
Brooker
(1986)
et
PQD
P
(PC)
al.
OJ
IQD
(OJ)
PE
(PR)
Petroshius
Monroe(1987)
&
(C)
(PD)
(T)
(PP)
C
C
PR
PR
PD
PP
出所:Steenkamp(1989),p.64 を筆者訳・加筆
注 1 Laird 自身は顕著な結果を報告していない。後に Steenkamp が香りの手掛かり効果を計算し,その結果が P=.001 であった。
注 2 Steenkamp(1989)の表では,Leavitt(1954)の研究についての記述は無いが,知覚品質形成に価格を手掛かりとして用い
た初期の重要な研究であるため,筆者が加筆した。
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消費者の知覚品質形成に影響を及ぼす内在的・外在的手掛かり研究の系譜
説は一般理論としては未だ確立されておらず,
3.複数手掛かりと知覚品質に関する研究
研究では諸結果が混在したものとなっているに
消費者が実際に買い物をする際には,消費者
過ぎないと批判している。
はいくつかの品質手掛かり(例えば価格,ブラ
Monroe and Krishnan(1985)のように,消
ンド名,そして購買をする場所等)に接する。
費者が価格を手掛かりとして知覚品質形成をす
さらに,単数手掛かりと知覚品質に関する研究
る「価格-知覚品質関係」は存在すると結論付
では,手掛かり同士が分離されて実証研究がな
ける研究者もいる。しかし,これに反論する研
されるため,暗黙のうちに各手掛かりは相互作
究者は多い。例えば Stafford and Enis
(1969)
は,
用を起こさないものとして扱われていた。単数
手掛かりと知覚品質に関する研究では,知覚品
「価格-知覚品質関係」の研究は現実性に欠け
ていると批判する。Stafford and Enis は,
「もし,
質形成における特定の手掛かりの効果が他の手
価格のデータが製品の品質の唯一の手掛かりだ
掛かりに依存する時,いくつかの例を除いて有
としたら,知覚品質は価格と直接的に変化する
意な結果は示されなかった。
と期待するのが当然だと我々には思える」と手
こうした単数手掛かり研究の限界を乗り越え
厳しい。また,他の「価格-知覚品質関係」の
るために,Stafford and Enis(1969)は価格と
実 証 研 究 結 果 を 見 て も, 非 線 形 で あ っ た り
店舗名という二つの品質手掛かりを同時に被験
(Peterson 1970)
,個人間によって大きく変化
者に提示した( 図表− 2 参照)。価格は単独で
したり(Shapiro 1973)
,判断される製品によっ
知覚品質に効果を及ぼした。その一方で,店舗
て 大 き く 変 化 し た り(Gardner 1971) と,
名は単独では知覚品質に効果を及ぼさなかった。
Monroe and Krishnan への反証が蓄積されて
しかし,価格×店舗名の相互作用は有意であ
いった。
り,高級店で売られた高額のカーペットは特に
Monroe and Krishnan が価格という単数手
高品質だという評価が被験者によってなされた。
掛かりによって知覚品質が形成されると主張し
この結果から,知覚品質に関するいくつかの手
たのに対して,
「消費者は単数のみの製品属性
掛かりを同時に被験者に提示する調査手法の重
情報を手掛かりとして知覚品質形成を行うので
重要性が認知された。また,Gardner(1971)は,
はない」という実証研究結果が Stafford and
価格とブランド名,そして製品タイプを知覚品
Enis(1969)や Gardner(1971)らによって発
質形成の手掛かりとして消費者に提示し,ブラ
表されていった。複数手掛かりと知覚品質に関
ンド名と製品タイプの間の相互作用のほうが価
する研究については,次節で取り上げる。
格よりも重要な手掛かりであることを実証した。
なお,図表− 1 にもあるように,価格以外に
複数手掛かり研究が進むうちに,「消費者は
研究されてきた単数手掛かりとして,ブランド
いくつの手掛かりを組み合わせて知覚品質を形
名,店舗名,1960 年代後半から研究が始まっ
成するのか」を調査した研究者が出てきた。
たカントリー・オブ・オリジンなどが挙げられ
Olson and Jacoby(1972)では,消費者が品質
る。
を評価する際に使用する平均的な手掛かりの数
が報告されている。ヘアドライヤー(5.97),
リビングルーム用の敷物(7.17),挽かれたコー
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■図表——2
知覚品質に影響を及ぼす複数手掛かり効果の研究のまとめ
Stafford
Enis(1969)
P
&
P SN
SN
P
B
Gardner(1971)
B PT
PT
P
Andrews
Valenzi(1971)
&
P BF
P BF SN
BF
SN
P
Jacoby, Olson
Haddock(1971)
B PS
PP PS
P B PP PS
B
&
PP
PS
Szybillo
Jacoby(1974)
&
Pincus
Waters(1975)
&
Peterson
Jolibert(1976)
&
Render
O’Connor(1976)
P
S
PP
P
PA
P
P N
P B N
B
N
&
H
R
A
SN
B
P
A
P
Wheatley
Chiu(1977)
PA PP
PP
&
S
C
I
E
Wheatley, Walton
& Chiu(1977)
A
P B
P
P
S
P
C
C
I
I
C E
I E
P
B
PE
P
B
Raju(1977)
P B
BF
White
Cundiff(1978)
&
Lambert(1981):
experts
Lambert(1981):
students
● JAPAN
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Wheatley,
Chiu
and
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Goldman(1981)
Nevid(1981
P
COO
P
COO
P
COO
126
P
PP
B
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B PP
& Chiu(1977)
PE
P
White
Cundiff(1978)
Japan Marketing Academy
B
P B
消費者の知覚品質形成に影響を及ぼす内在的・外在的手掛かり研究の系譜
BF
Raju(1977)
P
&
COO
P
Lambert(1981):
experts
COO
P
Lambert(1981):
students
COO
Wheatley,
Chiu
and
Goldman(1981)
P
PP
B
PP
Nevid(1981
B PP
P
S
Rexeisen(1982)
P OP
PI OP
PI
OP
Jun
Jolibert(1983)
&
E
B
P
L
E
COO
PP
E
B
P
PA
Stokes(1985)
P FC
PA BF
PA BF FC
BF
FC
B
PP
Davis(1985)
FA
出所:Steenkamp(1989),p.71-72 を筆者訳
ヒー豆(4.64)
,シャンプー(5.13)
,そしてア
単数/複数手掛かりと知覚品質研究を深める方
スピリン錠(4.51)という結果となった。平均
向 で あ る。 例 え ば Charters and Pettigrew
して 4 ~ 7 の手掛かりを使用するという結果は,
(2006)では,消費者のワインへの製品関与が
個人の情報処理のキャパシティについての
知覚品質手掛かりにどのような影響を与えるか
Simon(1974)による研究結果とも一致する。
を実証研究している。また,Suri and Monroe
(2003)は,時間的制約がある場合に消費者の
4.近年の研究
価格と製品に対する判断がどう変化するかを調
単数/複数手掛かりと知覚品質研究の数が蓄
査している。
積されると,研究者たちの関心は,大きく二つ
もう一つは,消費者の知覚品質の形成過程全
の方向に分かれていった。
体を明らかにする方向である。以下に研究者た
一つは,消費者/状況特定的な変数を加えて
ちの試みを 3 点紹介するが,これらの研究を以
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■図表 —— 3
価格 - 品質 - 価値の目的手段連鎖モデル
出所:Zeithaml(1988),p.4 を筆者訳
て知覚品質の形成過程全体が明らかになったと
は言いがたい。
Steenkamp(1990)では,知覚品質の形成過
程がモデル化されている。Steenkamp によれ
Zeithaml(1988)では,価格 - 品質 - 価値の
ば,消費者はまず環境の中に存在する品質に関
目的手段連鎖モデルが提示されている。目的手
する手掛かりのうち数少ない手掛かりを取得し
段連鎖モデルに基づき,消費者は製品の品質を
カテゴリー化するとされる。他の多くの手掛か
推定するために最初に低水準の属性(例えば価
りは消費者によって捨てられるのだが,その取
格,洗濯石鹸の泡立ち度合い,ステレオスピー
捨選択のメカニズムの多くは未知であると
カーのサイズ等)を使用すると Zeithaml は主
Steenkamp は記している。消費者によって取
張する。次に,消費者は製品の情報をいくつか
得されカテゴリー化された手掛かりは,内在的・
のレベルに抽象化された記憶によって保持する
外在的品質手掛かり信念を形成し(これらの信
と説明する。もっとも単純な抽象化レベルは製
念は相互作用し合う),品質属性信念を形成し
品属性であり,もっとも複雑な抽象化レベルは
ていくとされる。品質属性に関する知覚過程を
消費者にとっての製品の価値や製品の購買に対
説明するために,Steenkamp は記述的信念,
して払うべき犠牲だとされている。犠牲は消費
情報的信念,推論的信念という概念を提示して
者が支払った貨幣のみを指すのではなく,製品
いる。記述的信念とは,購買前に当該ブランド
の購買に割く時間や労力をも含む。消費者は高
を試すことによって手掛かりを使用することな
水準の属性である知覚品質と知覚された犠牲を
く経験型品質属性についての知覚を形成するこ
統合させて高水準の属性である知覚価値を形成
ととされている。情報的信念とは,製品の品質
し,知覚価値が高いと消費者が判断した場合に
属性について友人や広告,雑誌などの情報源に
購買がなされると説明されている。
よる情報を受け入れることによって形成される
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消費者の知覚品質形成に影響を及ぼす内在的・外在的手掛かり研究の系譜
■図表 —— 4
知覚品質の形成プロセスの概念モデル
出所:Steenkamp(1990),p.323 を筆者訳
信念だとされている。また,推論的信念とは,
のだが,Steenkamp は品質知覚過程すべての
環境の中の手掛かりから取得された情報を処理
局面において,消費者の個人的および状況的要
することによって,その手掛かりからは直接的
因が強く影響すると述べている。例えば時間的
には提示されない“推論された”情報によって
プレッシャーが高い場合や代替案が多い場合は
形成される信念だとされている。消費者はこれ
非代償型モデルが利用されることが多いと説明
らの信念を使い分け,経験型・信用型品質属性
している。
を形成していく。形成された品質属性信念は,
Dodds, Monroe and Grewal(1991)では,
最終的に消費者の知覚品質へと統合されていく
■図表 —— 5
製品評価にブランド名,店舗名,価格が影響を及ぼす概念的メカニズム
出所:Dodds, Monroe and Grewal(1991),p.308 を筆者訳
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手掛かりをブランド名・店舗名・客観的価格の
42-52.
Day, G. S. and W. K. Brandt (1974),“Consumer research and
the evaluation of information disclosure requirements:
The case of truth in lending,”Journal of Consumer
Research, 1, 21-32.
3 つに分類し,消費者はそれぞれの手掛かりを
基にブランド・店舗・価格についての知覚を形
成すると説明されている。ブランドと店舗の知
Dodds, W. B., K. B. Monroe and D. Grewal (1991),“Effect
of price, brand, and store information on buyers product
evaluations,”Journal of Marketing Research, 28, 307319.
Gardener, D. M. (1971),“Is there a generalized price-quality
relationship?,”Journal of Marketing Research, 8, 241243.
Grainer, M. A., K. A. McEnvoy, and D.W. King (1979),
“Consumer problems and complaints: A national view,”
in: W.L. Wilkie (ed.), Advances in Consumer Research,
Vol. VI, Ann Arbor: Association for Consumer Research,
494-500.
Jacoby, J., D. E. Speller, and C. K. Berning (1974a),“Brand
choice behavior as a function of information load:
Replication and extension,”Journal of Consumer
Research, 1, 33-42.
覚は,知覚された品質と知覚された価値に正の
影響を及ぼすが,価格の知覚は「知覚された犠
牲」を消費者に認知させ,このことは知覚され
た価値に負の影響を与える。購買意欲は,知覚
された価値に及ぼされる正負の影響のいずれか
の強さによって決定されるとされている。
5.終わりに
本論では,研究分野を横断しながら,消費者
の知覚品質に影響を及ぼす内在的・外在的手掛
かり研究の始まりから近年までの流れを概観し
てきた。本論の始めに触れた Morgan によって
Jacoby, J., D. E. Speller, and C. Kohn (1974b),“Brand choice
behavior as a function of information load,”Journal of
Marketing Research, 11, 63-69.
指摘された製造業者と消費者の間に存在する
「品質知覚ギャップ」を製造業者が埋めること
が出来,消費者がどのように製品の品質を知覚
するかの全体像が明らかになる日が来るまで,
消費者の知覚品質に関する研究は広がり,そし
て深まっていくであろう。
Prentice-Hall, 5th edition.
Kuehn, A. A. and R. L. Day (1962),“Strategy of product
quality,”Harvard Business Review, 40, 100-110.
Laird, D. A. (1932),“How the consumer estimates quality by
subconscious sensory impressions,”Journal of Applied
Psychology, 16, 241-246.
参考文献
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canned goods: A study of consumer response,”Journal
of Marketing, 37, 32-37.
Box, J. M. F. (1984),“Product quality assessment by
consumers- the role of product information,”in:
Proceeding of the XIth International Research Seminar
in Marketing, Aix-en-Provence, 176-197.
Miller, G. A., D. G. Topel, and R. E. Rust (1976),“USDA
beef grading: A failure in consumer information?”,
Journal of Marketing, 40, 25-31.
Monroe, K. B. (1971),“Measuring price thresholds by
psychophysics and latitudes of acceptance,”Journal of
Marketing Research, 8, 460-464.
Chamberlin, E. H. (1953),“The product as an economic
variable,”Quarterly Journal of Economics, 67, 1-29.
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大澤 枝里子(おおさわ えりこ)
1998 年筑波大学国際関係学類卒業後,教育サービス企
業に勤務。2005 年慶應義塾大学大学院経営管理研究
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科修士課程修了後,人事コンサルティング企業に勤
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課程に在籍中。東京工科大学コンピュータサイエン
ス学部実験講師。専攻はマーケティング論,消費者
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