「イタリアワインに見る6次産業化」(Acrobat PDF)

『6次産業化』情報
『6次産業化』情報
日本は22位で1341万人だ。
イタリアワインに見る6次産業化
=スローフードに関する書籍も貢献=
―食環境ジャーナリスト・金丸弘美―
◇イタリアの地理的表示保
護制度
州政府推薦のエノテカで販売され
るワインは、担当者によれば「地元
6次産業化の世界のトップラン
場内の展示場にはワインがずら
のソムリエがブラインドでテイスティン
ナーの一つは、イタリア・ピエモンテ
りと並んでいる。お金を出すと試飲
グして評価を行い、70点以上をと
州のバローロ(Barolo)のワイン
ができる。州政府の女性職員の説
ったものしか置かれない。自分たち
だろう。その売り出しに大きな力と
明は、地図を使い、バローロの歴
が関わったワインであっても、落ちる
なったのが、150人を雇用する「N
史、土壌、気候、品種、醸造法
場合もある」という。評価基準を下
POスローフード協会」のプロモー
など、バックグラウンドを明確に説
まわったワインは「来年、頑張れば
ション事業だ。スローフード協会の
明してくれる。そこから近郊のワイナ
いいでしょう」ということ。実に、分か
前身は「バローロ愛好協会」。その
リーに行き、見学をすると同時に試
りやすい。
彼らが、中山間地の地域支援とし
飲も購入もできる仕組みだ。
イタリアのワインには、そもそもD
て始めたのが、地元ワインの付加
OC(統制原産地呼称)、D
価値づくりとブランド化だ。
OCG(統制保証原産地呼称)
という品質保証制度がある。
生産地、品種、混合をする場
◇州政府のエノテカとは
合はその比率、ヘクタールあたりの
バローロ愛好協会がまず行った
収穫量、ブドウからの最大収穫量、
のは、フランスへ飛び、同地でのブ
ランド事業の調査だ。ブドウの品種
から、地域の土壌、樽詰め、品質
管理などを調査し、それが世界で
も有数のワイン販売の戦略になっ
ていることを学び、そのノウハウを農
家にもたらしたという。
ピエモンテの丘陵地にあるワイン
を広報する州政府のエノテカ(ワ
インが集められた所)に行くと、売
り込み手法の秀逸さを垣間見るこ
とができる。
エノテカには古い城が使われて
いる。城からは周辺のワイン農家
が見える。しかも景観条例によって
古い街並みが残っていて、街その
ものが観光資源にもなっている。
Agrio 0069 号 (2015/07/21)
エノテカ内部のワインの陳列棚
さらに周辺は、B&B(朝食と
ベッドのある泊まれる農家)がある。
イタリア全土にB&Bは約2万軒
あり、それらが観光客を誘致し、地
域のワインとチーズ、料理、食事を
楽しむことで、さらに付加価値と経
済をもたらす。つまり、町の景観と
宿泊、ワインのブランド化と販売の
複合形態がグリーンツーリズムであ
ることがわかる。
ちなみに世界観光機関調査の、
国際観光客到着数の世界ランキ
ングは、1位フランス、2位アメリカ、
3位スペイン、4位中国に次いでイ
タリアは世界5位で4857万人。
1
醸造法と熟成期間、アルコール度
数、最低酸度、ワインの色や香り
や味わいの特徴、販売する数量な
どを報告し、その審査を受けて認
証される。
DOCGはDOCよりランクが
上で、さらに量や植え方など細かい
規制がある。さらに最近は日常的
なハウスワインも規定があり品質を
保証する形態がとられる。これらの
認証はマークを付けることができ、
それが、対外的な販売にも保証と
なるわけだ。つまりブランドの形成の
背景を明確化している。
こうした取り組みは、日本は最
も遅れていたが、農林水産省によ
『6次産業化』情報
タリア」。これは大衆版のミシュラン
覆面調査によるガイドブックの成
ともいえるものだ。各地の会員が覆
功は、NPOスローフード協会の
面で飲食店を訪れ、推薦して掲
プロモーション事業をもっとも大きな
載をするガイドブック。オステリアとい
成功に導いたものと言われている。
うのは「店主がいる」という意味。
対象は農家レストランや地方都
◇イタリアと日本
エノテカが開設された古城の遠景
市のワインと料理を出すお店。地
三つ目の本は、「ヴィーニ・デ・イ
りようやく法制度整備が行われ、
域のワイン、チーズなどがあり、仲
タリア」(ガンベロ・ロッソ社との共
地理的表示保護制度(GI)
間が集える、値段が手ごろである
同出版で、後に同出版社の単独
として2015年6月に運用が始まっ
ことが選定の条件。イタリア全土
となる)。これはソムリエとの連携
たばかりだ。
1700店舗が網羅されている。
で、1万本以上のワインを選んで
おおよそ3000円以内で食事が
◇スローフードの書籍の貢献
州政府のワインの広報の棚をみ
たらスローフードの書籍がいくつか
置いてあり、特に目立ったのが三
冊の本だ。
一つは「偉大なるランゲ地方の
ぶどう畑」という大型の写真入りの
美しいまるで辞典のような本。これ
は、協会が発足間もなく手掛けた
本で、ワインを生んだ1000年以
上も歴史のある土地の環境やブド
ウ栽培などを紹介し、バローロが生
まれた地域の環境調査をした物だ。
とてもビジュアルで見やすいものとな
っている。環境から歴史、文化的
背景までを検証した上で広報をし
ていくという基本を忠実に守って作
っていたことがわかる。
これらの調査事業は、ワインから、
さらにチーズ、オリーブオイル、サラミ
などの特産品へと広がり、調査は
大学やジャーナリストなども交えて
行われ、出版事業とバイヤーへの
橋渡しとなり、販売の大きなツール
として発展してきている。
二つ目の本は「オステリア・デ・イ
Agrio 0069 号 (2015/07/21)
でき、ワインを飲んでも5000円以
内といった店が紹介されている。
ガイドブックを頼りに旅をすると、
地方のおいしい手づくり料理とワイ
ンに巡り合えるというわけだ。
掲載したもの。本は年度版で出さ
れ、18万部が売れているという。
日本のイタリアンのレストランにい
っても「ヴィーニ・デ・イタリア」が棚に
並んでいるのをよく見かける。
これらは、奇数年にピエモンテ州
店にはスローフード協会が認め
クーネオ県ブラ市で行われる「チー
てガイドブックに掲載したということ
ズ祭」や偶数年にトリノ行われる
を示す、年度ごとのカタツムリマーク
「サローネ・デ・グスト」の食の祭典
の認証が掲示されている。
などでのバイヤーへのガイドとなり、
スローフードの活動のおかげで、
商取引に大いに役立っている。
世界各国から、農家や商店街の
農水省の2013年の農林水産
レストランに観光客が訪れる。ツー
物貿易概況をみると、イタリアから
リズムと一体となったガイド。この制
日本への輸出は95億3900万ド
度により、農村部の料理のレベル
ル 。 日 本 は 対 イ タ リ ア で 62 億
が全体的に向上したと言われる。
7000万ドルの大幅な赤字だ。
ガイドブックの販売、広告収入
イタリアからの輸入食品のトップ
が会の運営の財源になったことはも
はワイン。次いで、オリーブオイル、
ちろん、地方の観光、中山間地の
トマト缶等、スパゲティ、ナチュラル
農家レストランに寄与している。
チーズなどとなっている。
レストランガイドを作成したことで、
州政府の女性職員にスローフー
行政の観光課と連携して、地域で
ド協会との関係を尋ねると、「スロ
食べるという食の旅行も企画され
ーフードの考えと州政府の方向が
ている。クオリティの高いレストランを
一致したから連携をしているのであ
調査認定していることで、そこにツ
って、決してスローフードが先にあっ
アー客を呼び込めば、観光事業に
たわけではない」とのことだった。
も生きるというわけだ。
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