トレーラーハウスで

モバイルハウス
の勧め
タイヤのついた
100% 工場生産の家
篠塚 尚之
モバイルハウス
の勧め
タイヤのついた
100% 工場生産の家
篠塚 尚之
はじめに
人が一生働いてもらう賃金の中で、住宅にかける金額は多過
ぎると思う。人生の目的が家を建てることになっていないか ?
朝、新聞を広げると、不動産屋からの折り込み広告が入って
くる。新築も中古も写真と共に、間取りと 3K、4DK 築何年だの
説明があって、価格が大きく書いてある。何でこんなに高いん
だろう。で、ごみ箱へポイである。
もっと安く作るには ? それがこの本を書くことになった動機
である。家族が生活するために住宅は必要である、その通りで
あるが、生活するための入れ物にすぎないと考えることもでき
る。必要ではあるが目的ではない。
バックミンスターフラーのダイマクションドーム、モンゴル
草原のテント型住居パオ、各種タイニーハウス、9 坪ハウス、
坂さんのダンボール製ハウス、東さんの「塔の家」等、考え方
は納得できるものの、安い、早い、美味しい(性能の良い)家
という条件に合わないのである。
安い、は住宅の仕様の一つである。他にも住宅の性能を表す
言葉がある。断熱、気密、換気、冷暖房、除湿、それに防音、
動線。最近は、バリアフリーという難題もある。これらを同時
1
に満足させることは、3 次元 3 次方程式を解くごとく難しい。
住宅価格の内訳を見ると、先ず、土地と家に分けることがで
きる。土地は立地条件で価格が決まるので安くはならない。価
格相応である。
家は何とかなりそうだ。家の価格は設計費、建築費、登記費用、
税金等である。家の価格は 70 パーセントが人件費、が頭に浮か
ぶ。大工さんの手間賃、水回りの配管、電気配線等、では人件
費を安く押さえるには ? 全部、工場で作ってしまえば良い。現
場施工でなく、100 パーセント工場生産ができれば、性能を落
とすことなく家が完成する。
プレハブ住宅のプレは、あらかじめと言う意味で、あらかじ
め工場で部材を作って現場で組み立てるということだが、現場
の割合が金額的に多い。
(メーカーにより異なる)現場施行の住
宅ではマニュアル化されていても難しい面が表面化する。人件
費を抑えることができれば、安く家を作ることができるに違い
ない。
トレーラーハウスは、100 パーセント工場生産のため、高断熱、
高気密の性能の良い家を十分な品質管理の行き届いた家を量産
できる。トレーラーハウスにもメリット、
デメリットが存在する。
すべてが満足というわけではないが、将来性を考えれば、様々
2
な選択肢の中から最も有望な家の形態だという結論に行き着い
た。
個人が家を作るレベルで考えると同時に、産業の視点で捉え
てみても、トレーラーハウスは、輸出産業として有望だという
ことである。エレクトロニクス、家庭電化製品の輸出が衰退の
一途をたどる中で、隣近所に、膨大な人口を抱えた国があり、
家の需要もこれから増える見込みがある。そこでトレーラーハ
ウス産業の将来性を考えてみようというのが本書の狙いでもあ
る。
現在の家は現場施行一品生産である。昔の車と同様にハンド
メイド生産の状態だ。ヘンリーフォードは T 型フォード車を流
れ作業で、速く、安く作り出すことで業界をリードしたのである。
(同型車をあまりにも長期間作ったので他社に追い抜かれたが)
家も、自動車産業の前例に倣って、工業製品化の波に乗ろうと
考えるのは自然の流れと考えられる。
(それにしても相当に古い
前例である)
この本では、説明のため、便宜的に住宅と家の 2 つの言葉を
使い分けて書いた。家とは、土地を含まない上物、構造物のみ
を言う。住宅とは土地と家を合わせた物、つまり、土地 + 家 =
住宅とした。
3
目次
プロローグ
10
モバイルの意味
12
軽い住宅
12
輸出産業として
15
トレーラーハウスが現時点で最良の選択
15
トレーラーハウスには 2 種類ある
17
家の値段は 70% が人件費
20
トレーラーハウスの構造
21
トレーラーハウスは地方でこそ活用できる
22
家の建っている土地の下はどうなっているのか ?
22
津波にはトレーラーハウスでもさすがに勝てない
24
台風が来たら、どうするか ?
25
原発に問題が発生したら、
トレーラーを引いてさっさと逃げる
25
トレーラーハウスの価格が大幅に下がらない理由
26
一般の家は 20 年でゴミになる
27
4
住宅の性能とは何だろう ?
28
間取りは、動線と空気の流れを考慮して設計する
29
換気は、換気口を 2 ヶ所以上設ける
31
気密性
33
輸入トレーラーハウスの特徴と日本仕様への改造
34
トレーラーハウスは狭い ?
35
トレーラーハウスを 2 台連結
36
トレーラーハウスに必要なオプション
37
■ 緊急時のための自家発電装置が繋げること
■ キッチンの高さは調節可能にする
トレーラーハウスは自動車の技術で作られる
38
週末を過ごす住宅
40
子供の勉強基地として使用
43
いざという時の予備としてのトレーラーハウス
43
シンプルに生きる
44
地方で、若者が住む住宅
45
田舎暮らしの試行期間に
45
自治体選びは慎重に
47
5
趣味三枚の生活をトレーラーハウスで
48
■ 読書
■ 音楽を聴く
■ 絵を描く
■ 天体観測
■ サイクリングをする
時には都会の生活をする
51
仕事をする
52
トレーラーハウスの不思議な住み心地
52
移動する住居空間の歴史と文化
53
アメリカでは戦後 70 年の歴史
55
アメリカはトレーラーハウスを
500 万台保有、800 万台のキャパシティ
56
RV とは ?
57
余暇の過ごし方が違う
59
ラウンドと RV パーク
61
土地の気候や要望に合わせた仕様を用意する
63
■ 雪国仕様
■ アメリカ仕様
■ バリアフリー仕様
■ 高床式タイ仕様
6
コーヒーブレーク
66
仮設住宅にトレーラーハウスを使うこと
68
ロボットがトレーラーハウスを作る
70
女川町の3階建コンテナハウスについて
70
自衛隊の宿舎にトレーラーハウスを利用する
71
浦安市の液状化について
72
被災地住民の高台移転は
(とりあえず)トレーラーハウスで
仮設住宅の跡地の利用は RV パークに
74
75
地方都市の再生にトレーラーハウスを利用する
コンパクトシティの住居に利用
76
人口密度を上げること
77
斜め 45 度の平行四辺形の敷地
78
コンパクトな街の交通機関
81
かつて、メタボリズムがあった
82
カーボンニュートラル住宅は自治体の目標
82
トレーラーハウスを輸出産業として位置づける
83
7
量産化すれば品質は向上し、値段は下がる
84
地方でトレーラーハウスを売る
85
トレーラーハウスを
組み立てキットのように組み立てる
86
本当にトレーラーハウスの
組立キットを自分で組み立てる
87
大企業の参入
89
トレーラーハウスのデザイン(スタイル)
90
大学建築学科、デザイン学科で
トレーラーハウスを学習内容に加える
90
トレーラーハウスのメインテナンス(リフォーム)
92
トレーラーハウスの中古市場
93
従来のプレハブ住宅、注文住宅と
トレーラーハウスの関係
94
トレーラーハウスは家庭電化製品の大きな買い物袋
95
ガラパゴス化は避けたい
97
トレーラーハウスは地方の活性化に一役買う
98
中国、韓国、インドのアメリカ留学経験者は
トレーラーハウスを知っている
98
100
あとがき
8
プロローグ
人が一生働いてもらう賃金の中で、住宅にかける金額は多過
ぎると思う。人生の目的が家を建てることになっていないか ?
老人問題もここにあると思う。今、65 歳になって周りの同年
代の人と雑談しようと話しかけるが、挨拶代わりに天気の話を
した後、続かないのである。今風に言えばコンテンツがない。
仕事オンリーで時間の余裕がなかった ? それも理由かもしれな
い。お金を住宅にかけ過ぎたのではないか。配分を間違えたの
ではないか。人間生きていれば趣味までいかなくても、何かし
らこだわりがあるものである。そんなに仕事が面白かったのだ
ろうか ?
趣味の一つも何もないとすれば、これからの人生はつまらな
い。人とのコミュニケーションも薄いものになってしまう。もっ
と少ない出費で家を作ることができれば、他の興味ある事に資
金を回せるだろうと思う。
家を所有することが目的ではない、家の中で幸福な生活をす
ることが大切なのではないか。家は入れ物に過ぎない。そのこ
とを忘れないようにしたい。
日本社会の変化もある。社会の最小単位は家族であるとされ
てきたが、近年は少子高齢化に加えて、若い人が結婚をしなく
なってきた。生涯一人で過ごす人の割合が増えた結果、家の在
り方も変化せざるを得なくなってきた。シェアハウスという共
10
同で住む形態も広がりつつある。地方の空き家比率も増加の一
途をたどり、住宅は充足しているように見える。しかし、実際
に不動産屋で住宅を探すと、まだまだ高価であることを実感す
るだろう。
大都市に対して地方の住宅価格は長期的に下落傾向が続いて
いる。工場が中国や東南アジアに移転して勤め先がなくなり、
職を求めて人が首都圏、大都市に移動しているからだ。地方で
空き家が増え続けているのも最近の傾向である。
それでは大都市、地方都市郊外に移動してきた人は住宅をどう
するのか ?
ちょうど良い場所に貸家、アパートはない。新築分譲住宅は
高価である。道路沿いにある住宅展示場には数千万円するモデ
ル住宅が並んでいる。とても買えない。これから先住宅価格は
下がることが頭にあるのでローンは組めない。
住宅費を極端に削ることではなく、住宅費、食費、教育費、
余暇費等の支出のバランスを見直す時代になってきている。
11
モバイルの意味
モバイルパソコンとはデスクトップパソコンに対して、ノー
トパソコンを小型にして、持ち運んでインターネットにつない
でお客からのメールや、自社からの指示、データを受け、発信
することに適当な持ち運びに便利なパソコンを言う。手軽に持
ち運びが出来るといろいろな意味でビジネスチャンスが広がる
のである。最近では更に手軽にネットに繋げるタブレット、ス
マートフォンの時代になってきた。住宅も手軽に持ち運びでき
ると便利だろう。住宅も、もっと軽い存在で、支出の対象から
外れたものになる時代がくれば良い、と考えるのである。
軽い住宅
バックミンスター・フラーのダイマクション・ドームも最小
の材料で最大限の空間を包むことができる。ただし、実際に住
む事を考えると、断熱、冷暖房等、解決すべき問題が多い。
中央アジアの砂漠に見られるティッピー、パオと言われるテン
ト住宅は、森や草原に住むならともかく、文化的生活には向か
ないように思える。
工事現場で使われるレンタル事務室、簡易住宅は断熱、気密、
換気の点で合格点に達しない。あくまでも仮の建物と考えるべ
12
きだろう。
1957 年、アメリカのディズニーランドにモンサント社がスポ
ンサーになり、未来の住宅としてプラスティック製住宅を展示
した。十字形をした平面の魅力的な外観を備えた住宅である。
建設機械で土台を掘るとコストも少なく完成し、土台の上に工
場生産の家ユニットを置いて接合すると比較的安価に高性能住
宅が完成するようだ。将来、トレーラーハウスに満足できない
顧客のため、土台のみ現地で作り、上物だけ工場生産の家を供
給できるようになるだろう。この住宅は、私の好きな、吉村順
三「小さな森の家」になんとなく似ている。
ひと頃、話題になった 9 坪ハウスも最小限で最大の住み易さ
を追求した空間の使い方も、未だ色あせない魅力を持ち続けて
いると思う。9 坪ハウスについて本が出版されている。家そのも
のより建てる土地、地域は生活するために大切だというように
読んだが如何だろうか。9 坪ハウスは、住宅が小さいだけに骨格
を強固に作ることができそうだ。4 隅を 4 つの点で支えるように
すれば、地震のため液状化した土地に建つ傾いた住宅を、支え
る点の高さを調節すると元通り水平に戻すのは容易ではないか ?
骨格は車のシャーシのようなものだろう。
建築家坂茂のダンボール住宅も素材が面白い。ダンボールは
力を加えた時の強さを追求した形状だから強度は十分に出せる
のだろう。ダンボールはカーボンファイバーの使い方を手本に
すれば断熱効果がありそうだ。
13
間取りに関して、以前から住宅建築の機能分離は理論として
議論されていたが、実際の住宅建築として住む人が現れたので
ある。居間、キッチン、風呂、個室が敷地内にそれぞれ分かれ
て配置されているのだ。本当に実現してしまうことに驚くと同
時に、何でもありの時代になったことを認めざるを得ない。こ
の種の住宅を分離派と呼ぶ建築家もいる。ユニット毎に作れば
コストは押さえられる。ただし、分離派住宅に住む人は限られ
ると思う。
住宅建築について多くの資料を集めているうちに、アメリカ
ではトレーラーハウスに住んでいる人たちがいることを再確認
した。車に住むとは、
日本と文化が違うようだ。所得が低い人達、
とあったが、ハウスそのものは日本の「うさぎ小屋」よりはる
かに豪華ではないか。価格を調べてみると安価である。この種
の家 ? は日本ではまだまだ普及していない。日本の住宅事情と
照らし合わせると、この家の形態のメリット、デメリットを検
討すればメリットの方が多いと考えることができる。要は、ハ
ウスというハードウエアではなく、住む人の考え方ではないか。
トレーラーハウスは、このような時代、スマートフォンのよ
うに社会を変えていくモノの一つだと思う。 加えて、輸出産業
として有望な商品でもある。
日本のトレーラーハウス産業は、夜明け前の状況にある。日
本があらゆる意味で曲がり角にあるこの時期、家のあり方も、
従来とは違う新しい考えが必要であると考える。
14
輸出産業として
日本はこれまで、自動車、エレクトロニクス等で稼いできたが、
これに続く産業が育っていない。輸入に頼るエネルギーと食料
品を輸入する外貨をどう稼ぐかは差し迫った問題である。縮小
する北米市場からシフトして、東南アジア、発展途上国向けの
商品を開発しなければならない。キーワードは安いということ
である。高機能は必要なく如何に安く作るかの競争になること
が予想される。トレーラーハウスは特別の技術は必要ではない
が、その国の天候、住宅文化に合わせた商品開発が求められ、
現場の意見を早く取り入れ、安く生産する技術が勝負となるだ
ろう。何よりも早くビジネスをスタートすることが大切である。
トレーラーハウスが
現時点で最良の選択
住宅に求められる基本性能とは、断熱、気密、換気、冷暖房、
除湿、それに防音、動線、これらが、住み易い、くつろげる、
落ち着ける等につながる。
では、性能を落とさず、コストを下げるには ?
家の価格のうち、人件費の占める割合は約 70% であるという。
材料を削ることは家の性能に影響するのでこれは削れない。と
15
なると、人件費を削減する方法を考えなくてはならない。
現場で組み立てるのではなく、工場で 100% 組み立てて、現
場に運んで置くだけにしたらどうだろう、と考えるのは自然な
成り行きではないだろうか ? 住宅は現場で施工するものという
固定観念から離れて、完全に工場内だけで作るには、あまり大
きくなく、運搬にコストがかからず、現場ではインフラとジョ
イントするだけ、と考えていけばトレーラーハウスにたどり着
く。完全工場生産は大量生産を意味する。数量でコストを下げ
ることが可能になる。
数十年前になるが、あるプレハブメーカーで箱形のユニット
を工場である程度組み立てて、現場で数個つないで家を作る住
宅を販売したことがある。それなりに完成したものであったが、
エクステリアがどれも同じようになってしまい、製品としてい
まいち魅力に欠けていたように思う。考え方は良かったのに残
念なことである。
アメリカには戦後すぐにトレーラーハウスが誕生して以来、
技術の進歩と共に住み易さが向上して、現在では 500 万台が現
役で使われている。アメリカ映画によく登場するので知ってい
る人は、何を今更と思うであろう。
ステンレス製かまぼこ型はおなじみのトレーラーハウスであ
る。ただ、現在では、機能一点張りではなく、普通の家の外観
を持ったトレーラーハウスが主流で、床下のタイヤ部分を隠し
てしまえば、日本人がイメージするアメリカ住宅を少し小さく
16
したような外観になり、トレーラーハウスと言われても違和感
を覚えることはないだろう。
アメリカからの輸入品をそのまま日本で使うには、日本とア
メリカの電源電圧の違いがあり、若干の問題があるが、家の性
能自体は日本の下手なプレハブ住宅より高性能な面が多い。広
さも、日本のウサギ小屋に比べれば十分である。昨今の円高も
あって価格も日本の同じ広さのプレハブ住宅と同等である。
アメリカ製は欠点という言う程ではないが、冷蔵庫等やオー
ブンは日本で使うには各部のサイズが大きいのではないか。代
わりに日本の優秀な家庭電化製品を組み込むと、理想的なトレー
ラーハウスが完成するのではないだろうか。
もちろん、日本製のトレーラーハウスも存在している。中に
はアメリカ製と遜色ない製品もあることを承知している。個々
の商品はインターネットで検索していただくとして、トレーラー
ハウスの特性と将来性を考えてみることにする。
トレーラーハウスには 2 種類ある
パークトレーラーとトラベルトレーラーを混同している人が
多いので違いを説明すると、移動する機会が多く、旅を主目的
にするトラベルトレーラーは。幅 2、5m で定位置に長期に渡っ
て駐車するトレーラーハウスより幅が狭い。形も家の外観では
17
なく大陸の旅に適するようエンジンのないキャンピングカーの
形をしている。幅 2.5m は、大型 SUV で簡単に引いていくこと
ができる。荷物輸送のカーゴトラックと同じサイズである。大
量輸送に適している。トラベルトレーラーにはスライドアウト
という装備がある。横の壁の一部がアコーディオンのようにせ
り出してきて幅が広がる。大柄なアメリカ人にとっては幅 2.5m
では狭いので、このような装置を考えたのであろう。せり出し
た部分はソファになる場合が多い。家としての耐久性や快適性
はトレーラーハウスには及ばないが、価格は半額程度とリーズ
ナブルである。アメリカではカテリーナ台風の災害時に、ニュー
オーリンズを中心に多くのトラベルトレーラーハウスが FEMA
(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)の主導で仮設住宅として
利用された実績がある。
パークトレーラー(以後、トレーラーハウスと言う)は、タ
イヤの付いたトラックの荷台のような鉄のシャーシに 2 × 4 の
家を載せたものだ。
ただし、外観はその通りだが、家とは別物だと考えて欲しい。
工場からお客様まで何千キロも引かれて配達されるということ
がまったく違う。
例えば、アメリカ合衆国インディアナ州の工場から出荷され
たトレーラーハウスは、時速 60 マイルで牽引され、アラスカ州
やネバダ州の注文主まで届けられる。家の構造も運搬に耐えら
れるよう設計製造されなくてはならない。アラスカの極寒の地、
18
マッキンリー山麓で使われたトレーラーハウスは、転売され、
ネバダ州の猛暑の砂漠地帯で再び使われるといったケースも想
像できる。ほとんどボーイング 787 の断熱性能を要求されると
言ったら大袈裟になるが、どこで使われても満足できる家とし
ての性能は備えていなくてはならない。
日本で製造されたトレーラーハウスであっても同様、北海道
知床で使われても、鹿児島や沖縄で使われても問題ないように
するのは当たり前ではないだろうか。トレーラーハウスに土地
を選ぶことはできないのである。
この点、あなたが首都圏の今住んでいる住宅をそのまま解体
して運び、北海道富良野市に移築して住んだらどうなるだろう
か ? そのままでは到底住み続けることは出来ないだろう。以後、
トレーラーハウスの基準に適合したものだけをトレーラーハウ
スと呼ぶことにする。
ところで、日本家屋は数メートルくらいなら簡単に移動でき
ることを知っているだろうか ?
ご存知の人はけっこうなお年寄りに違いない。石の上に土台
を置いただけの構造なので、リレーのバトンみたいなものに土
台を載せて転がすように移動したのである。こうやって家を増
築する場合に、敷地内で配置を調節していたのである。日本家
屋は、元祖、移動ハウスなのだ。柱や畳の各部材は、釘を使わ
ず規格も統一されているので、移築が可能なのだ。京都で昔の
由緒ある建物が移築されたとあるのは、建築がコンポーネント
19
になっているからだ。考え方が進んでいたというべきだろう。
家の値段は 70% が人件費
固定住宅のイニシャルコストは設計費、建築費、登記費用、
税金ランニングコストは、冷暖房費、光熱費、メンテナンス費用、
税金、解体費用(日本の家の平均寿命は 20 年弱)がある。住ん
でいる途中で増築改築のリフォーム代金もかなりの金額になる。
家の価格は材料費と人件費に分けられる。細かい計算は
「積算」
と言う。家の価格の 70 パーセントは人件費だという。
(プレハ
ブ住宅の 40% は宣伝費、展示場維持費 ?)この点、トレーラー
ハウスは完全工場生産の家なので、コストダウンの余地がある。
現在は生産台数が少ないため、十分とは言えないが、流れ作業
で組み立てのマニュアル化が進み、更なる量産化が進めば、コ
ストを下げることができる。
こうなると、大工さんや職人さんの仕事がなくなるのではな
いかという議論が起こる。今の所、トレーラーハウスは住宅産
業市場の僅かしか占めていないので、数年間に渡って影響はな
いだろう。将来、住宅市場は本格的注文住宅とコストパフォー
マンスを追求した工場生産の住宅とに二局化していく可能性が
ある。
20
トレーラーハウスの構造
トレーラーハウスは強固な鉄製シャーシの上に 2 × 4 の家が
載っている構造をしている。構造が丈夫で、断熱性能の良い断
熱材を使い、窓もペアガラスでというように、工場生産のため
細部まで考えた設計と決められた手順で製造されている。アメ
リカ製のトレーラーハウスは、ANSI による基準があり、顧客が
守られていると同時に、産業全体も信用を維持できている。
今以上に高性能で、コストダウンするには、トラックメーカー
の蓄積されたノウハウと、プレハブ住宅メーカーの製造ライン
の一部を、トレーラーハウス用に流して生産することだが、そ
れには注文も増えなければならない。これからの課題となるだ
ろう。
トレーラーハウスを注文主の土地まで運搬する費用は、かな
り高価である。工場から設置場所までの距離が遠い理由である。
距離を短くするには、最終組立工場を、日本の地方毎に作ると
短くて住むが、トレーラーハウスの屋根、壁、床を半完成品と
して、本社工場で生産して、各地方の組立工場で、最終的なハ
ウスとして仕上げるシステムを作らなければならない。一括し
て生産するメリットが若干失われることになる。コストに影響
がないよう考える必要がある。
21
トレーラーハウスは
地方でこそ活用できる
メーカーから自宅の敷地、あるいは借りた土地へ輸送が可能
なこと。途中の道路事情が、トレーラーハウスを運搬するトラッ
クが通過できる幅と高さと長さをクリアできることが必要、特
に自宅近くの曲がり角、自宅前道路がハウスを運び込めるかど
うか契約前に幅と長さを測らなければならない。設置前に、
電気、
水道、下水が配線配管できるのか、持ち込む前に確認する必要
がある。(これらはメーカーが行う)
トレーラーハウスは平屋なので土地の利用効率を重視する都
会には向かないと考えられる。都市の土地を購入するコストを
考えると高価な土地に見合った上屋の床面積が必要である。よっ
て、必然的に 2 階 3 階建てを建てることになる。トレーラーハ
ウスは土地に余裕のある地方で存在感があると言える。
家の建っている土地の下は
どうなっているのか ?
東京も、大阪も、名古屋もそうだが、川の流域に砂が堆積して、
時には人工的に埋め立てて土地ができていった。その上に街が
広がっていったのである。
22
渋谷の地図専門店に足を運んで国土地理院発行の昔の地図を
購入すれば一目瞭然である。ただ、住宅を購入する際、そこま
でやる人は少ないだろう。
スカイツリーの土台は地下 400m まで杭を打ち込んだそうだ
が、一般住宅ではどうなっているのだろう ? 一般住宅では穴を
小型シャベルカーで掘って砂利を敷くのである。その上に型枠
を作り、その中に生コンミキサー車で運んできたコンクリート
を流し込む。ミキサーで空気を十分抜くのがミソである。近所
で新築していたら普通に見られる風景である。この程度で家が
持つのかと思われるだろうが、最近の家は新建材のおかげで重
量が軽くなったので地震が想定内ならば持つように設計されて
いる。
では土台の下はどうなっているのか ? 詳しくは土壌工学の知
識が必要である。地面の下は砂礫があって、その下に岩盤とい
う構造になっている、高層ビルは、この岩盤まで杭を打ってい
るので地震には強いことになっている。一般住宅は砂礫の上に
建っているので、地震で傾くかどうかは砂礫の状態次第という
ことになる。最近埋め立てられて土壌改良(主に水抜き後土を
入れる)を行った土地では少しだけ安心しても良い。
住宅を購入するには予備知識が必要で、特に女性はデパート
でブランド服を買う時にあれこれ迷う程度以上に住宅について
学習する時間を取ってほしいものだ。住宅で一番大切なのは土
台の下なのだ。
23
埋め立て地では決定的に強い土地はない、と考えた方が実情
に合っているようである。ビルを建てるのではないから、住宅
のために 1m や 2m 掘り下げた所で強い地盤には届かない。液
状化でトレーラーハウスが傾いたら、ジャッキのネジを回して
水準器の示す通りに水平に戻す、床に置いたビー玉が転がらな
くなったら OK。あまりにも簡単だ。これが普通の家だったら土
壌改良に 700 万円の予算です。と簡単に言われるところである。
傾いた普通の家を多額の金額をかけて水平に戻した次の日、大
地震でまた傾いたらどうしよう ? その可能性はまったくゼロで
はない。ただし、普通の家もトレーラーハウスでも、停電する
時は同じ、水道も下水も同じ、こちらの方を心配しよう。
津波にはトレーラーハウスでも
さすがに勝てない
津波が来るかもしれない。数十年に渡り、津波を想定した訓
練をする日が続けば、いつかは高台に住宅を移そうと考えるだ
ろう。高台の土地に売り物が出たら引っ越そうと常にアンテナ
を張っていれば、数十年の間には必ず適当な物件が見つかるだ
ろう。トレーラーハウスに住んでいれば気軽に移動できる。土
地に固定された家では腰が重くなる、この差は数十年スパンで
考えると大きい。
24
台風が来たら、どうするか ?
トレーラーハウスは、ジャッキにシャーシを載せてあるだけ
ではなく、場合によって、地面に埋め込んだコンクリートの塊
と、チェーンで固定する。時速 100km で引いても大丈夫なのだ
から、大抵の大風にはびくともしない。ただし、横方向からの
風には不安定になることは確かである。設計製造段階で風洞実
験により、どの程度まで耐えられるのか基準を設ける必要があ
る。チェーンの強度を実験で決定する。例えば、北海道の牧場
で吹きさらしの土地では、想像以上の風が吹く場合もある。北
海道には防風林があるが、そこに家ごと逃げ込むのはどうだろ
う ? 農業用トラクタで防風林の中に引いていく。そこでしっか
りと固定するである。こんなことは、土地に固定された家では
想像もつかないことだろう。
原発に問題が発生したら、
トレーラーハウスを引いてさっさと逃げる。
知らない間に(?)日本は原発だらけになってしまっている。
日本には 30 ヶ所以上の原子力発電所があるのは事実である。原
発に何かあったら、町ぐるみ避難することになるだろう。一時
的に避難して、町に帰ることができるようになったら、新しく
見つけた(買うか借りるかした)土地に、家を引いてくること
25
ができる。フクシマのような例は、他の土地で起こっては困る
のだが、保険だと思って移動できる家を準備することもあり得
る。このようなことは、原発問題が起こった後だから言えるの
であって、起こる前に言われても誰も考えないだろう。確かに、
ここまで用意周到な人はいないと思う。
住み心地が同じなら、タイヤの付いた家も悪くない。日本中
で停止した原発も、これから電力需要の要請に従って、順次再
稼働してくるだろう。原発近くに住んでいる人が、これから母
屋の隣に離れを増築しようと考えるならトレーラーハウスを選
択肢に加えることを勧めたい。
トレーラーハウスの価格が
大幅に下がらない理由
地方が産業の空洞化で人口が減少すると、その土地の住宅価
格は下がる。大手プレハブ会社の住宅を 2 千万で建てたから、
せめて 1 千万で買い手が付くかと言えば、土地による。
「売る」
という人と「買う」という人がいれば価格は決まる。住宅を買
おうとする人は、その土地に職場がある人なのである。産業が
なくなると働いていた人はいなくなる。下手をすると廃村、廃
町になる。売らないから関係ない ? 資産が目減りするという事
実は直視しなければならない。
それまで住んでいた住宅を売ろうとする場合は、おそらく町
26
や市の不動産業者に仲介を頼むことになるだろう。広告、ネッ
トで見た住宅情報を元に実際に訪れて、間取りや使い勝手を見
学することになるだろう。実際に来る人は数人ではないか。こ
れがトレーラーハウスをネットに載せると個人、トレーラーハ
ウス会社に関わらず、日本全国数千人が閲覧し、県内外の購入
希望者が多数見にくることだろう。
ここに市場が形成される。多くの場合価格は、使用年数で決
まることになる。
一般の家は 20 年でゴミになる
日本の住宅寿命は 20 年弱となっている。20 年も経たないう
ちに廃棄処分してしまうのは実にもったいない。個人としては、
毎日出しているゴミよりも住宅を廃棄処分するゴミの方が重量
に換算すると多いのではないだろうか ?
家の重さは、中くらいの家で 50 トンとされている。20 年で
ゴミにするなら 1 年当たり 2 トン半である。一般家庭ゴミは 1
年で 1 トンと計算されているので、個人で出すゴミの量では家
そのものが最大のゴミになっている。例えるのは心苦しいが、
東日本大震災のガレキの中身は家が壊れたものである。
ゴミの分別収集に神経を使っている割に、一般市民も自治体
も家そのものの処分、あるいは家の長寿命化に目が行かないの
はどうしたことだろう ?
27
トレーラーハウスは部材毎に入れ替えが可能なので、資源の
有効活用が可能になる。しかも現場で行うのではなく、修理工
場に引いていき、シャーシの点検と部品交換、屋根の張り替えや、
上物である家の部材入れ替えと電化製品の交換も規格が決まっ
ていればこそ簡単にできる。しかも時代とともに改良が加えら
れた部品に交換できるので、ますますトレーラーハウスの寿命
が伸びる可能性がある。
住宅の性能とは何だろう ?
断熱、気密、換気、冷暖房、除湿、それに防音、動線、耐久性。
これらが、住み易さ、くつろげる、落ち着く、につながってくる。
バリアフリーは高齢化社会の到来と共に、住宅によく使われ
る言葉だ。段差がない、をイメージする人が多いようだが、も
う一つ重要な要素があって、浴室、着替えの部屋の温度に注意
する。普段過ごしている居間、茶の間の温度と、浴室の温度の
差がない事がバリアフリーの重要な点だが、このことを認識し
ている人は少ない。
一定期間住んでいなくても傷むことが少ない家ならば別荘に
最適なのではないだろうか ? 夏の季節だけ住む別荘は、どんな
に豪華な家だとしても換気をしないと傷むうえ、ゴキブリ、ネ
ズミ等の住処となってしまう。海の別荘は塩害のため家電が傷
28
む、配管が傷む等、問題が発生する。トレーラーハウスで塩害
対策を入念に施したモデルが開発されたら、海の別荘として売
り上げは伸びるだろう。トレーラーハウスは鉄製のシャーシが
問題となりそうなので、車で培った防錆の技術が生きることに
なる。こういう環境条件が厳しい程、工場生産の強みを発揮す
るに違いない。
間取りは、動線と空気の流れを
考慮して設計する
トレーラーハウスは狭い、と考えている人も多いのではない
か。従来の住宅より数字の上では狭いのは確かだが。実用的に
不便は感じないはずだ。大きな家に住んでいても実際に使用し
ている部屋は台所に近い部屋だけという場合は多い。日常的な
生活空間は意外と狭いのである。他の部屋は荷物置場だったり
する。それよりも目一杯使える部屋があれば良いのではないか。
エアコンも小さなもので良く効く。
建築家、ル・コルビジェが、両親のために 1925 年にスイス・
レマン湖のほとりに建てた「小さな家」は 4m × 16m の長方形
をしている。人が家の中を移動する経路を動線と言うが、この
動線がよく検討されているのがわかる、コルビジェのような優
れた建築家が設計した両親の理想的な家が、細長い家になった
29
のも、住み心地を考えた結果だろう。住宅設計の常識に反して、
設計図が最初に有り、後に、家に合う土地を探したという。
「こ
の家を造るのは、都市計画と同じくらい大切だった」のも、住
むとは何か ? を考え続けた結果だろう。母親はこの家で 100 歳
まで暮らした。印象的なのは広大な窓から見える湖越しのスイ
スの山々である。
トレーラーハウスもコルビュジェの小さな家も、西洋版狭小
住宅である。空間を広くするには、ひとつの部屋に幾つかの機
能を持たせることだ。
「小さな家」は中央に居間を、両端にプラ
イベートな空間、東に寝室、西にバスルームと手洗いを設けて
いる。しかもバスルームは仕切りがなく南側の窓から景色を見
ることができる。寝室は開け放っている。全体に昔の日本家屋
を見るようだ。
コルビジェの近代建築 5 原則も、さりげなく守られており、
小さいながらも秀逸な建築だ。それでは「大きな家」は? 作者
は違うが、アイリーン・グレイ、E1027 となる。
建築 5 原則、「水平横長の窓」は、トレーラーハウスの長方形
を生かして可能であるが、移動するため横壁の強度に注意を払
う必要がある。「自由な平面」は事実上のワンルーム形式なので
実現可能。
「自由なファサード」は、日本で販売されるハウスで
は日本家屋の雰囲気で仕上げることや、ログハウス風に材木の
質感を取り入れた外観も可能。
「屋上庭園」は、フラットルーフ
にして、屋外から登る階段を設けることができるので可能だが、
30
雨仕舞いに配慮する必要がある。
「ピロティ」は、タイヤの分だ
け床が高くなるが、床下が有効に使える程、高くはない。しっ
かりとした土台を作るならトレーラーハウスである必要性がな
くなる。
「小さな家」の家具は無垢の木材を生かしたシンプルな中に、
味わいのある形は落ち着いた暮らしに合っている。建築家は家
だけでなく家具も家専用にデザインすることが多い。
(良い例が
ミース・ファンデル・ローエのバルセロナ・チェアである。目
的を達した後、一般にも販売されている)
トレーラーハウスは、この「小さな家」を、2 割程、小さくし
た寸法だが、間取りを考える場合に参考になるであろう。
長い建築と言えば、フランク・ロイド・ライト設計、マリン群
庁舎は思い切り長い建築である。
換気は、換気口を 2 ヶ所以上設ける
家は生鮮野菜と同様、生ものである。戸を開けて空気を入れ
替えないと短期間で傷んでしまう。高温多湿の亜熱帯気候に属
する日本は、家に厳しい環境である。湿気が多いと、シロアリ、
畳はダニの温床になる。結露は木を腐らせる。同時進行で家の
価値も下がっていく。家は住んでいないとだめなものだ。
トレーラーハウスは換気をするには理想的な形状をしている。
31
長方形で事実上のワンルームである。四方に窓が付けられる。
広い家は贅沢な家だと思っている人が多いが、換気について言
えばトレーラーハウスは贅沢な作りである。広い家の部屋はど
うしても窓が 1 方向か 2 方向しかとれない。窓は開いていれば
空気が自然に出入りするのではなく、部屋の内外で空気の圧力
差がなければ出入りしない。トレーラーハウスは、寝室の間仕
切りを開ければワンルームとなり、四方に開かれた窓から遠慮
なく換気ができる。天井近くに設けられた換気口も有効である。
普通の住宅に比べれば、換気口、断熱材が少なくて済む、高機
能の断熱材を使用可能等、狭いこともメリットになるのである。
多くのトレーラーハウスは 3 つの部屋から構成されている。
居間、台所、寝室である。両端の部屋は 3 方に窓がとれる。つ
まり 3 つの空気流通箇所があることになる。真ん中の台所と風
呂は 2 ヶ所の窓がある。このことは空気の流れに都合が良い。
一ヶ所の窓では空気は入らないし出ていかないことはジュース
をラッパ飲みしたことがある人なら知っているだろう。トレー
ラーハウスは空気の循環に有利な部屋の両側が開けられるので
湿度の点でも有利になる。トレーラーハウスの窓はペアガラス、
アルゴンガス入り、アルミサッシではなく結露に強い樹脂サッ
シである。
日本の家屋は夏向きに出来ていると言われている。すき間だ
らけなので夏は涼しい、冬は寒いというのが定説である。とこ
ろが、昔の暖房装置は、囲炉裏、火鉢を使っていた。掘り炬燵
32
というのもあった。この種の暖房は一定時間使うと換気を必要
とする。そうしないと一酸化中毒になる危険性があったからだ。
すき間だらけの日本家屋は、床下から天井に空気が抜けること
を半自動換気装置として考えられたのではなかろうか。
繰り返すが、すべてのトレーラーハウスが断熱効果に優れて
いるとは限らない。まだ日本では普及が始まったばかりで、メー
カーにより、モデルにより、価格により差があるようだ。現物
をよく見て判断すべきだろう。
気密性
今は昔、VW ビートルがプールにぷかぷか浮かんでいる写真
があった。エンジンルームと室内、ドアとボディのすき間(チ
リという)が狭くゴムパッキンが効いているのだ。トレーラー
ハウスも車ならその位の隙間の無さを目標にしても良いだろう。
工場生産だから断熱材とシールの完全さを追求することができ
る。将来、トレーラーハウスをプールに浮かべてぷかぷかなど
という広告ができるかもしれない。
33
輸入トレーラーハウスの特徴と
日本仕様への改造
トレーラーハウスも 70 年の歴史から 3 つの部屋が適度につな
がり生活し易い間取りとなっている。西洋の家の伝統が作らせ
たものだろう。
居間はお客のためにある。お客を自宅に招いて、いろいろな
話題で話を咲かせる社交という伝統がある。最小限住宅であっ
てもこの機能は重要視されていると考えられると思って居間を
見渡すとインテリアの意匠に納得がいくだろう。食事のテーブ
ルが明確にキッチンに収まっているのも当然か。
アメリカ製のトレーラーハウスはそのまま日本で使う場合は
多少の改修をする必要がある。シャワーだけではなく、日本の
生活に合わせたバスタブを設置、シンクを日本人の身長に合わ
せるため低くする。アメリカ製の大き過ぎる冷蔵庫は日本製の
少し小さめに交換、アメリカの電気は 110 ボルトなので電気製
品は見直し、アメリカではスイッチを下に下げると入るが、日
本は上に上げると入る所も違う。断熱材は完全に重鎮されてい
るか確認すべき等、それなら初めから日本でライセンス生産し
た方が安心できるのではないかとも考えられるが、骨格部分は
アメリカの基準で作られているので安心できる。
台所で目を引くのは大きなオーブンである。日本では大型オー
34
ブンで調理する人がどのくらいいるだろうか ? 電子レンジで十
分かもしれない。
欧米のトレーラーハウスは浴槽を備えたものは少ない。標準
装備はシャワーである。日本で販売するには浴槽は必須である、
水回りのリフォームはコストがかかる。
寝室は大きなダブルサイズベッドが置いてある。これが日本
仕様ではまったく受け入れらない部分である。最低でもシング
ルベッド 2 つ、できれば 2 段ベッドにしなければ日本の事情に
あわないかも。一応、居間にもソファベッドがあるので、トレー
ラーハウスの就寝人数は標準で 3 人ということになる。ロフト
があるハウスではさらに子供の寝る場所も確保されている。
トレーラーハウスは狭い ?
トレーラーハウスは、東京中央線沿線、吉祥寺周辺の家賃 10
万円のマンション 3DK の部屋と同等の広さである。東京の生活
コストは地方とは異なる「ものさし」が必要かもしれない。例
えば、東京では公共交通機関が利用できるため、車がないと生
活できないということもない。キッチンも東京では電子レンジ
だけあればなんとかなる家庭も多いだろう。包丁がない家庭も
あると聞く。会社から帰って寝るだけの人は十分過ぎる広さだ
と考えられる。
35
トレーラーハウスを 2 台連結
トレーラーハウスの広さは標準で 37㎡、11 坪である。狭いわ
けではないが、広くもない。2 台連結すれば 11 坪の 2 倍 22 坪
になる。3 台連結は 33 坪である。もっと広くという要望は子供
部屋、お年寄りの部屋が必要になる時だろう。広さは 2 倍、3 倍
とデジタル的(離散的)に増えていくことになる。一般住宅は
必要な広さだけ増やす事ができるのがアナログ的である。書斎、
趣味のための部屋も考えられる。2 台目はトイレ、シャワーの設
備がなくても良ければ、価格もぐっと押さえられる。
現在、まだ連結装置は完成していないが、販売されれば、ハ
ウス間は鉄道車両の連結装置と同様に、僅かに可動するように
作り、地震で外れないように取り付ける。高齢者は、普通に考
えれば 2 台目の使用期間は短いだろう。子供部屋は、成長する
までの期間限定なので、子供が大学に行ったり就職したりして、
子供が家からいなくなると、近くのトレーラーハウスに住んで
いる子供部屋を必要とする人に譲ることができる。買う方も子
供部屋を増築する費用を考えれば、安く部屋を手に入れること
ができる。
こうして市町村内で、ぐるぐる回ることになるとエコな社会
ではないか ? 2 台連結は列車のように直列につないでも良いし、
並列に並べても良い。並列の場合は、間に坪庭を作ることもで
きる、テラスを作り、バーベキューをしても良い。近隣で部屋
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を必要とする人に譲ることで減築が ? 簡単に行える。買う方も
中古の価格で手に入るのだから、家を新築することはない。こ
うして循環していけば、家を造るエネルギーを使わなくて済む
エコな社会に通ずることになる。住宅が売れなくなると経済が
回らないと心配する人がいるかもしれないが、浮いたお金は教
育や文化に回せば良い。
トレーラーハウスに
必要なオプション
■ 緊急時のための自家発電装置が繋げること
アウトドアに興味が有る人は、音の静かな静音発電機、を知っ
ていると思う。近ごろは発電機を積んだ完全電化を売りにした
キャンピングカーもある。 緊急時はこの静音発電機をハウスに
繋ぐコンセントを備えておくと便利だ。
ただし、停電の時は照明のみに使うことにしないと、電源容
量が不足するはず。
■ キッチンの高さは調節可能にする。
トレーラーハウスは、2 オーナー、3 オーナー目というように、
何代にも渡ってオーナーが替わる可能性が高い商品なので、使
う人に合わせて調節できるようにする。中でもキッチンの台の
37
高さ(ワークエリア)は使い勝手に影響するので、是非± 10cm
の調節がハンドルを回すだけでできるようにする配慮が必要だ。
無理な姿勢で調理をすると腰の負担が増すのである。食事をす
るテーブルも同じ。トレーラーハウス用キッチンやテーブルは
簡単に一般の店で購入するものではないから高さの調節は必須
である。移動する時にすべての家具、食器は固定する必要があ
るからだ。(だから地震にも強いのである。
)シンクの下は収納
に使わず、車椅子に乗った時に膝が入るような余裕がほしい。
身体に障害のある人も購入を希望する人もある。こういう配慮
はトレーラーハウスの商品性を高める。
トレーラーハウスは
自動車の技術で作られる
トレーラーハウスは家なのか、
車なのかという議論がある。
(日
本では法律上、車である)工業製品として、家と車の違いは何
か ? 工業製品を評価する基準の一つは、工作精度である。車は
ミクロンオーダーであることは知られている。エンジンの回転
部分は特に精度が高い。マイクロメータでは測定不可能なので、
レーザー光線を当てて、反射光で測る真円度を測るのである。
ボディもドアのすき間が最近は細くなってきているのを実感で
きる。住宅はせいぜいミリ単位なので千倍も違うことになる。
38
ボディは客室部分を強く、前後は衝突に備えてある程度柔ら
かく作る等、投入された技術は高度なものになる。住宅は、3、
11 以降、耐震性が話題となっているが、住宅の問題点とは、断
熱性能以前に、価格水準の高さではないか? と、話はどうど
う巡りになってしまう。
車の技術者から家を見ると、投入されているテクノロジーは
低いものだと認識するだろう。最大の理由は、車が工場生産に
対して、家は現場組み立ての一品生産だからである。こう考え
れば家を工場生産にすれば、という考えが浮かんでくるという
ものだ。
トレーラーハウスは鉄のシャーシにツーバイフォーの家を載
せたような単純なものではない。高性能 高断熱 ルイジアナ
州で製造されたトレーラーハウスはアメリカ大陸を横断して、
北は極寒のアラスカ州、南は灼熱のネバダ州まで運ばれ使われ
ることを考えると断熱は完璧でなければならない。また、何千
キロも時速 60 マイルで引いていくのだから、振動にも強くなけ
ればならない。地震に強いのは当然と言える。アメリカ中西部
に多い竜巻に対しても、地面とはコンクリートの杭から鎖でつ
なぐ等、一体構造の強みがある。
車であるならば、日本自動車研究所(茨城県つくば市)で 24
時間走行試験を行って振動に対する耐久性を検査するくらいの
ことは行っても良いだろう。
欧米では、トレーラーハウスはトレーラーハウスである。RV
39
専用の基準、法律、税法があるので、日本のように車か家かと
いう議論は存在しない。
週末を過ごす住宅
働き盛りの 30、40 歳代では都心に職場がある場合は、通勤時
間は 1 時間半が限度ではないか。責任が重くなると退社時間も
遅くなる。会社勤めは配置転換(あるいはリストラで)日本全国、
会社によっては世界各地に転勤もあり得るのである。会社の方
針もあるのだから、家作りは慎重にならざるを得ない。
会社で責任が重くなるにつれ、お金も貯まったことだし、郊
外に広い一戸建てを購入しようとするかもしれない。問題は、
通勤に費やす時間と労力が大きくなることだ。仕事は家計を支
える大事なものだから、仕事と家を天秤にかけて仕事を取るべ
きだろう。郊外の里山歩きも魅力があるはずだ、そこで、第二
の家を考えると手軽で小さな家で良い。週末別荘である。別荘
までの移動時間は 1 時間前後が適当ではないか。金曜日の夜、
通勤用住宅を出発、日曜日の午前中に戻ることを考える。この 1
時間前後は微妙な時間で、あまり遠くだと行かなくなるし、近
くだと、家が建て込んでいて里山歩きはできない。別荘よりも
土日は観光地を巡りたいこともあるだろうが、車の渋滞は避け
たい、疲労が後に残る事はさらに避けたい。
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後々を考えると、退職後、家が移動できることはメリットと
して生きるはずだ。例えば、東京からだと、いつでも里山を歩
ける信州長野県や、海も近い千葉県南房総へ小さな別荘を得て、
季節の良い時期、生活するのも長生きの素になるだろう。移動
するにはそれなりに費用がかかるが、それでも新たに家を用意
するより減価償却が済んだ家の方が安上がりである。そういう
意味でも、安易に売らない方が良いかもしれない。移動できる
ということは、思いがけない可能性がある。
釣り、読書、田舎暮らし、隣に気兼ねせず音楽三昧の生活を
楽しみたい場合は、家にお金をかけることはせずに、趣味にお
金をかける生活の方が満足度は高い。都会で小さな家に住み、
週末はトレーラーハウスを小型別荘として活用すると決める前
に使用方法をはっきりさせることが大切だ。
通勤のため、職場に近い場所に住居を購入して住んでいる住
宅を、通勤用住宅とする。これに対して週末を過ごす住宅を、
週末用住宅と呼ぶことにする。住宅が 2 軒ある場合の暮らし方
を考えてみる。
首都圏の住宅価格は、少子高齢化といえども、安くなってき
たとは言えない。地方で職場が限られてきた分、職を求めて大
都市近郊に移り住んで来たからだ。不動産価格は、首都圏の職
場に通うには時間がかかる郊外は価格が下がり始めているが、
首都圏近郊は横ばい状態だ。現在、住んでいる通勤用住宅に住
み続けて、週末第二の家として移動時間が 1 時間の場所に建て
41
ることが良いのではないか。1 時間は移動の時間として適当であ
る。1 時間以上では、行かなくなってしまう。そうかといって近
過ぎるのは、第二の家という感じがしない。週末住宅へは、金
曜日の夜に出発して日曜日の午前中に帰宅するのが得策だ。渋
滞の中を運転するのは疲れるだけだ。それでは週末別荘に行く
機会が少なくなってしまう。
週末用住宅で何をするかをはっきりさせたい。釣り、
読書三昧。
散歩、サイクリング、バーベキュー、珍しいところでは天体望
遠鏡で天体観測までいろいろ考えられる。何もすることがない、
という理由も立派な理由になる。休日は通勤用住宅にいて、テ
レビを観ながら家でゴロゴロしているのは、たまには良いかも
しれないが、メタボになるだけではないか。
通勤用都市住宅に住んでいて、駅までの送り迎えも必要なく、
スーパーが近くにあって、自転車で買いに行けるロケーション
に住んでいる場合、車を所有するのは得策ではないよう思う。
郊外に住んでいるならば、車を持つ意義もある。
東京の場合、駐車場を借りる費用は、月 2 万〜 3 万である。
年 30 万はけっこうな金額である。ドライブが好きならば週末別
荘に軽自動車を置いておくのはどうだろう。都内へ入る道路は、
土日は渋滞するのが常だから、御殿場方面のドライブコースを
走った後、週末別荘に車を置いて、最寄りの駅から電車で寝て
帰るのは良い考えのように思う。渋滞の中をドライブしても楽
しくない。車の置き場所は一工夫したい。
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子供の勉強基地として使用
平日は通勤用住宅のある町の塾に通い、週末は週末別荘のあ
る町の図書館に通って勉強するのである。箱物行政のおかげで
郊外の町ではその町の財政では考えられない程、立派な図書館
が建っている。たいていは町民文化センターの隣にあるようだ
が、立派である。蔵書は少なめだが、自習コーナーがあり、受
験生が勉強している。自宅で勉強するより数段、自習の意欲が
わくだろう。駐車場も空いているから車で移動も楽にできる。
さらに、子供が学校でいじめに会っている場合、転校すると
いう選択肢がある。2 つの家があればどちらかの地域の市町村の
小学校、中学校に行くことができる。住民票を移せば良いのだ。
住宅を移すのは大仕事だが書類だけなら簡単にできる。もちろ
ん税金は払わなければならないが。
いざという時の予備としての
トレーラーハウス
大きな家一軒より、小さな家二軒の方が何かと役に立つこと
がある。発電所でトラブルがあって停電になれば、家が大きく
て立派でも小さくても平等に電気が来ない。水道も同様、都会
の通勤用の家と郊外別荘と二軒を所有していれば予備の家とし
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て使うことができる。パンクの時のスペアタイヤと同じ感覚で
ある。マンションはエレベーターが動かなければ住むことがで
きない。都会の生活は最近のカメラや自動車と同じで、電気仕
掛けが多過ぎると思う。大きな家一軒よりも小さな家二軒の方
が、これからの時代、贅沢な生活、時間の使い方だと思う。
シンプルに生きる
トレーラーハウスは従来の家より収納は少なくなるので、市
販の物置を用意することも考えられる。自転車、冬期使用する
スタッドレスタイヤ等は物置に収納する。最近のベストセラー
に、フランス人、ミシェエルローホー著「シンプルに生きる」
がある。この生き方を見習うのも時代の流れではないか。本は
読んだが、実行できるとは思わない人が多いだろうが、歩いて
すぐの場所にスーパーや図書館がある地域に住んでいれば可能
かもしれない。フランスのパリや地方都市の、中心に広場があ
るような環境では迷うことなく可能だと思われる。
この本を読んだ時、日本ではまだその時代になっていないと
思ったものだが、時代は予想以上に速く流れているように感じ
られる。
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地方で、若者が住む住宅
地方の兼業農家の後取りにお嫁さんが来ないそうだ。地方の
兼業農家の家は大きい。お嫁さんに来ていきなり両親と同居、
台所は一緒というのでは確かに来ないだろうと思う、今の時代
に育った女性は辛抱できる人は少ない。プライバシーは重要な
のである。 そうかといって新たに隣に住宅を建てるにはコスト
がかかりすぎる。場合によって隣でも嫌だと言うかもしれない。
こういう場合、トレーラーハウスを選択してみたらどうだろ
う。台所は別だし、夕方だけ顔を出して夜は隣、畑の中のハウ
スに戻れば良い。親と同居できる見込みならばトレーラーハウ
スは売っても良いだろうし、子供の勉強部屋にして良い。いつ
でも処分できることは生活に余裕ができることでもある。うま
くいかないなら同じ町内に土地を見つけて移動すれば良い。
田舎暮らしの試行期間に
定年を迎えたら都会から田舎に移住して、理想の田舎暮らし
を実現したいと考えている男性は多い。ところが女性は長年、
地域に密着して暮らしてきたので友達も多く、田舎暮らしは考
えていない。都会の感覚では田舎の家は安価なので気軽に購入
する人もいるが、理想と現実は違い、都会に戻るケースも多い
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と聞く。いきなり田舎に空き家を借りるか購入して田舎暮らし
を始めることはリスクが大きい。本当に田舎に住み続けられる
のかどうか見極める試行期間を考えるべきなのである。田舎の
空き家は、多くの日本の民家と同様、夏向きに造られていて、
冬は想像以上に寒いことが都会暮らしの者には実感できない、
実際に冬を越してみて初めて判ることなのである。
しかし、冬を快適に過ごせるようにリフォームをする事は、
田舎暮らしを続けることが難しいならば、大きな出費となる。
トレーラーハウスをレンタルしで一年間暮らしてみるのも良い
選択だろう。夏冬も快適だし、雪下ろしも屋根が小さい分だけ
楽なのである。
田舎暮らしで問題となるのは、スーパー、病院、銀行、郵便
局が遠い、車がないと何処にも行けないことだ。健康なうちは
良いが歳を取ると運転もおっくうになってくる。そうなると田
舎暮らしを続けることが難しい。
3 年間、トレーラーハウスに住んでみて、田舎暮らしが長続き
しそうと判断したら民家のリフォームを開始したら如何だろう。
最初から空き民家を購入するより賢い選択だと思う。リスクも
小さい。住んでいた都会の家はどうするか ? 奥さんが田舎暮ら
しを躊躇するなら売らないで残しておいた方が良いと思われる。
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自治体選びは慎重に
トレーラーハウスを地方に置いて、田舎暮らしを満喫したい
と考えている人には頭の痛い話かもしれないが、是非、頭に入
れておきたい事がある。トレーラーハウスに対する扱いは自治
体によってかなり違うということ。
田舎暮らしをしようと考えたら、先ず、住みたい土地の地図
を広げて選ぶことになる。あるいは、これまで旅行して気に入っ
た土地があるという場合もある。
生活するには、水道その他のインフラが必要なので、水道を
引く場合の条件を調べる。自治体によって、水道は引かせない、
2 年の期限付きで使用可能など、市町村によってまちまちな対応
が予想される。もし、あなたが移住しようとする土地を選んだ
ら、
隣接する 3 つ以上の市町村に出向いて対応を比較すると良い。
品物を購入する場合、比較検討するのと一緒である。それでも
納得できない場合は、さっさと切り捨てて別の土地を探すこと
が得策である。今時、村の人口増に協力して来てくれるのに条
件を持ち出すのは、この先も難題が待ち受けているかもしれな
いと考える。またその土地に住んでいる人と、実際に会って世
間話をすることも忘れないように。隣近所は土地の大切な要素
なのだから。
ただし、数十年後、過疎化が進んだ村、集落では廃村になる
かもしれない。その土地の年齢構成の情報を元に将来のことも
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視野に入れよう。もっとも、こういう時こそ、トレーラーハウ
スは移動できる強みがある。
趣味三枚の生活をトレーラーハウスで
■読書
晴耕雨読という言葉がある。通勤用住宅で読めば良いじゃな
いか ? 本は家でも電車の中でも読もうと思えば読める。その通
りである。トレーラーハウスにわざわざ移動して読むのは、生
活スタイルを重視するからである。静かな部屋で、とっておき
のコーヒーが用意され、日常から放れた場所で読むからこそ価
値がある。2 時間読んだら 30 分散歩する。時間の使い方が贅沢
なのだ。特に読む本はなく、ジャンルも決まっていない場合は、
近くに図書館のある土地を探すようにする。地方都市、町では
文化会館センターの中に立派な図書館を作るケースがあり、首
都圏のように混んでいることもないので、快適に本選びができ
る。加えて、夏冬は家にいてエアコンを使うよりも省エネになる。
■音楽を聴く
音楽を聴く事は体力を必要とする。よくオーディオマニア
がスピーカーだらけ、アンプだらけ、レコードの山の中で聴
いている写真がマニア向けの雑誌に紹介されているが、週末
48
別荘では音を聴くのではなく音楽を聴いてほしい。音楽を聴
くのは日常生活を飛び越え、音楽に対当することなのだから
通勤用住宅から場所を移す必要がある。オーディオ装置は部
屋の大きさに合わせて大き過ぎない質の良い装置を一セット
のみ選択すること。聴き飽きたら周辺を散歩しよう。
■ 絵を描く
油絵であっても水彩画であっても描きたい風景を探すには海
と山に近く、自然の中にいた方が集中できる。北アルプスを描
くにも、郊外の週末別荘で描くことは絵の内容に反映する。安
曇野の土地で採れた食材を食べ、自然に触れる生活があれば、
都会から時々訪れるよりも深い絵を描くことができるだろう。
セザンヌがビクトワール山を描いたように、安曇野に住むこと
はインスピレーションを得られるに違いない。何も立派な別荘
である必要はない。11 坪は大き過ぎず小さ過ぎずちょうど良い
大きさだと思う。不要になれば、新たに絵を描く仲間に転売す
ることもできる。
■ 天体観測
都会に住んでいたら無理な趣味も可能になることがある。天
体望遠鏡で星を観ることは郊外別荘にして初めて考えられるこ
とである。毎日、成果を上げることばかり考えている仕事に就
いていると、こういう仕事の役に立たない趣味も良いと思われ
49
る。(天体観測を趣味にする人に失礼 !)
本格的な天体観測施設を作るには別荘よりも高価になる。望
遠鏡の基礎工事は星を誤差なく導入するために強固にする必要
があるためだ。そこまで本格的にするのではなく、星を眺めて
生活したいなら自動導入装置の天体望遠鏡はお勧めである。最
近の望遠鏡はパソコンの進化と共に狭い範囲の視野に自動で星
を導入することが簡単にできるようになった。20cm 口径の望遠
鏡はそれほど重さを苦にしないから、一台備えておいても良い
だろう。近くに公共天文台があれば、料金を払って星を観せて
くれる所も増えてきた。ネットで検索すれば日本中の公共天文
台の所在地が判る。
■ サイクリングをする
自転車ブームだそうである。東京で自転車に乗るのは危険が
伴う。多摩川や荒川サイクリングコースは、土日はもちろん平
日も混み合っている。退職を機会に、健康維持のためサイクリ
ングを始めた団塊世代が増えているためだ。都会近郊のコース
はロードバイク乗り(ローディという)がスピードを出して走っ
ているからますます危険だ。散歩する人や MTB で混んだサイク
リングコースを高価なロードレーサーでかき分けて走るのは、
いかにも陳腐な姿に見える。
郊外のサイクリングコース、あるいは自転車が走行するため
に適した道があれば快適に走れる。広い道は車がスピードを出
50
すので危険、狭い道は車と近いのでなお危険ということがある。
どこにコースがあるかは、日本各地のお勧めコースが書かれた
案内書が出版されているので参照すると良い。都会の混んでい
るコースで事故に会うより良い選択だと思う。
時には都会の生活をする
週末別荘という考え方は、生活スタイルを変えることでもあ
る。従来型の贅沢な生活とは、都心に出て、高級なバッグを買っ
たり、美味しいものを食べたり、イベントに参加したり、お洒
落な街を歩くことだった。お金の使い方を別のものに振り分け
ると考えれば、都会から離れて、里山を散策する、サイクリン
グする。広い砂浜を散歩する等、生活スタイルをこれまでとは
違う方向へ舵を切ったら如何だろうか ?
都会に住んで時々地方に行くか、田舎に住んで時々都会に出か
けていくか ?
とりあえず 2 つの場所に住んでじっくり考えてみれば良い。
一番の選択は 2 ヶ所(以上でも良い)の家を往復することであ
ろう。それぞれ良い所があるからだ。田舎暮らしばかり勧めて
いるわけではない。池袋で音楽会、中央線、高円寺で芝居を観
ることも、バランスを取る意味で良いことだと思う。
51
仕事をする
職種によっては、都会で暮らし、郊外の別荘に通うのは如何
だろう ? 生活するにはスーパーや病院に近い都会の方が暮らし
易い。長年、都会暮らしが長い人はなおさらであろう。特にク
リエイティブな仕事をしている人は場所を変えて、緑の多い環
境で行うこと質と効率が上がるかもしれない。都会へ帰るのは、
クライアントと打ち合わせをするためである。ある種の仕事は、
ネット環境が整っていることが条件だが、光回線も普及したの
で問題はないだろう。傑出した成果より、常に平均点以上の結
果を求められる仕事は消耗が激しいので、長いスパンで考える
と、緑のある環境は良い方向に働くと思える。
トレーラーハウスの
不思議な住み心地
実際に住んでみると、広さは実用的に必要十分であることを
実感するだろう。ちょうど普通車に乗っていた人が軽自動車に
初めて乗った感覚と似ている。今の軽は良く出来ているので、
これで十分ではないかと感じるようなものだ。広い狭いよりも、
従来の家とは違う感覚を持つことがある。必要とあれば日本中
どこでも移り住んでやろうという感覚がある。
「固定された住宅」だと、その土地にどっかと腰を降ろした感
52
覚だが、トレーラーハウスは農耕民族から騎馬民族に変化した
ような感覚を持つ事だろう !? イギリスのナロウボートも同じ
感覚か? 引っ越した当初、
「近隣住民」から、毎度同じような
質問が寄せられるに違いない。
「住んでみてどうですか ?」
「どう
してトレーラーハウスにしたのですか ?」「値段は ?」さてどう
答えたら良いのだろう。
ところで、学術的な話をひとつすると、新しいトレーラーハ
ウスに住む場合、地鎮祭はどうするのだろう ? 自然(大地)に
敵対しない家なので必要ないと思えば、あえて行わなくても良
い。大地の女神サ・タクも怒ることはないだろう。もっとも車
なのだから、お祓いを受けることはあり得る。成田山新勝寺は
交通安全にご利益があるとされるので、寺に行くことはハウス
が大きすぎて無理だが、お札をいただいて壁に下げておくこと
はできる。家なのに交通安全のお札 ? 移動可能であることは、
「ディタッチドオブジェクト」という心理学で言う物の見方の概
念にも合致する。
移動する住居空間の歴史と文化
村川賢太郎著「高校世界史」が高校時代の世界史の教科書だっ
た。ヨーロッパの黎明期は、民族大移動が活発化した。アレク
サンダー大王の遠征、領土拡大、チンギスハーンの西方遠征の後、
53
フン族、ゲルマン民族大移動。
彼らは馬を乗り物として東方から西へユーラシア大陸から
ヨーロッパの地へ移動してきた。では、家財道具、炊事道具は
どうやって運搬したのか。馬車、荷車だった。寝る場所もまた
荷車の上だ。これがトレーラーハウスのルーツとなったのであ
る。彼ら、騎馬民族はヨーロッパに到着しても、あちこち移動
した。馬車の通る道が整備され、宿場ができた。
この時代の道は今も残っている。多くは広げられることなく、
歩く道、ローマへの巡礼の道でもある。現在ではサイクリング
ロードとして活用されている例もある。代表的な道は E1 として
ヨーロッパ北部からサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼街
道になり、今も多くの人たちが歩いたり自転車に乗ったりして、
キリスト教 3 大聖地のひとつスペイン、サンティアゴ市、大聖
堂を目指している。
楽聖モーツアルトもヨーロッパ中を馬車で旅した。その頃の
道路は舗装していない石畳の道(パヴェ)だ。もちろん、馬車
には、板バネはあっても、ショックアブソーバーはないので馬
車は大いに揺すられたことだろう。
ヨーロッパの貴族達は、移動手段に馬車を使用した。馬車は、
優秀な職人がいるメーカー(コーチワーカー)に特注した。今
もその名前は車の一部に残っている。パークウオード、
マリナー、
ジェイムズヤング社はロールスロイスがシャーシだけを作って
いた時代、ボディを担当していた。貴族は自分だけの車体を一
54
品生産する伝統があった。職人の技は、大型のモーターホーム
の発達にも寄与している。(もう一つの流れはヨット製造の長い
歴史である)アメリカでは、フリートウッド、ブルースター社
が有名。
アメリカでは戦後 70 年の歴史
社会が流動化して、仕事がアメリカ中の都市と地方を移動し
て販売する職種が現れた。本社がニューヨーク、シカゴ、ロス
アンジェルスにあり、支店がアメリカ地方都市、小さな町をま
わるセールスマン、営業等である。このような職業に就く人に
トレーラーハウスは格好の住居になった。
何よりも家を建てる大工が都市近郊に少ないという理由と、
家を建てるにも、DIY の習慣が多いアメリカでは、トレーラー
ハウスは手っ取り早い家であった。勿論、広い家が完成すると、
不要なトレーラーハウスは中古市場に流れ、FOR SALE の張り紙
が貼られる風景が出現することになる。
アメリカの収入の少ない層は、格安の中古トレーラーハウス
に住む例が多い。都市近郊にはトレーラーハウスが集まってい
る場所がある。
アメリカではトレーラーハウスのルーツは幌馬車である。戦
後、ジョンウエイン主演の西部劇を観た方は、アリゾナ州の砂
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漠の風景、白い雲が青い空にぽっかり浮かんで幌馬車が西部を
目指して進むシーンを思い出すだろう。家財道具と開拓精神を
載せて太平洋岸カルフォルニアを目指したのである。その後、
大陸横断鉄道が開通、車の大量生産と犬印バスがルート 66 を走
り、インターステートハイウエイ 40 号、現在は格安運賃の航空
会社と、時代と共に進展してきた歴史がある。
幌馬車はキャンピングカーとトレーラーハウスに進化した。
居住性も格段に進歩して、大きく豪華なキャビンと椅子、数週
間分の食料が入る GE 製冷蔵庫、肉を焼くためのオーブン、東
京のアパートよりずっと豪華なキャンピングカーが製造されて
いる。ロス郊外の広大な展示場には安価な中古車が並んでいる、
ネットで検索することができるが、太平洋を越えてくると物が
大きいだけに運賃が高くつきそうだ。それと通関費用も。
アメリカはトレーラーハウスを
500 万台保有、800 万台のキャパシティ
トレーラーハウス製造業はアメリカでは大きな売り上げのあ
る産業である。ルイジアナ州、DAMON 社、ブリッケンリッジ
社は戦後、急成長を遂げた企業である。サイズはいろいろあって、
日本に輸入できない幅広サイズもある。日本で走っているアメ
リカ製キャンピングカーも巨大だ。
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アメリカの都市近郊にはトラベルトレーラーハウスが集まる
駐車スペースがあり、小さな集落を形成している所がある。ト
レーラーには電気、水道、下水等が接続されて一定期間、住む
ことが可能になっている。アメリカ人は、キャンピングカーの
ような自然に触れ合う目的の車であっても、快適な文明生活と
縁が切れないようだ。固定した住宅に匹敵する快適な空間で、
安いとなれば、お金のない人がトレーラーハウスを選択するの
は当然の成り行きだろう。中古が廃棄されず、新品が増えれば、
保有台数が増えるのは当然で、500 万台という数字がある。駐
車場所も 800 万台分あるというが、土地の広いアメリカでは驚
くには当たらない。トレーラーハウスに住んで、働いてお金が
貯まれば、小さいながらも固定した住宅を購入するか、借りる
かして移っていくのである。一つの場所に長く住み続けること
は稀なケースであるようだ。
アメリカの車事情は日本で知られている通り、トラック、ミニ
バンが多い。キャンピングカーは日本のようにあちこち走り回る
のではなく、目的地に着いたら一定期間、留まって好きなことを
する、あるいは何もしないで過ごすために存在するのである。
RV とは ?
日本の自動車に興味のある人にとって、おなじみの車の名前
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は、メルセデス・ベンツ(なぜか、メルセデスはフランス娘の
名前)、BMW、アウディ、ルノー、シトロエン、プジョー、フィアッ
ト、ランチア、アルファロメオ、フェラーリ、ロールスロイス、
ベントレー、アストンマーチン、ミニ、ランドローバー、ボルボ、
アメリカ製は、キャディラック、フォード、クライスラー、ジー
プ、ハマー。最近は、ヒュンダイ、インドのタタも有名。
では、RV は ? ハイマー、バーストナー、アドリア、クナウス、
リモール・ユーロピオ、エルナグ・ドラール、ミラージュ・ジュ
ビレオ、ヴァリオ、ライカ・クレオス、デスレフ、タバート、ユー
ラモービル、カルマン、ウエストファリア、デヘラー等、適当
に名前をあげた。ベース車は、フィアット・デュカト、メルセ
デス・ベンツ商用車、MAN、IVECO、VWT5 がある。このうち幾
つの名前を知っているだろうか ?
ヨーロッパ最大の RV ショーは毎年 8 月下中から 9 月上旬に
かけて、ドイツ、デュッセルドルフで開かれている。日本では
このショー自体がほとんど知られていない。
(CARAVAN SALON
DUSSELDORF)トレーラーハウスはこの RV に分類されていて、
RV はさらに細かく分けられる。日本でもキャンピングカーショー
が幕張で 2 月に開かれている。
キャンピングカーというのは和製英語である。欧米では、大
型はモーターホーム、小型はモーターキャラバンという。エン
ジンが付いているからと言ってむやみに走り回ることはしない。
場所を決めて一定期間、RV パークに滞在して過ごすのである。
58
キッチンが充実しているのはそのためだ。緯度の高い欧州では
夏の間、太陽の光を浴びることが健康のため重要視され、ステー
タスでもある。
モーターキャラバンも規模が小さいが同様の目的で使われる。
昔、欧州で流行ったレジャーにピクニックがある。石造りの街
から郊外の緑の中へ移動し、バスケットに昼食を詰め、ワイン
を持参して一日を緑の中で過ごすライフスタイルのための車で
ある。代表的な車として、フォルクスワーゲン T2・ウエストファ
リアがある。戦後すぐにピクニックのための車が用意されたこ
とは彼らにとってピクニックがいかに重要だったことかが伺え
る。ウエストファリアのマークは幌馬車マークなのである。
キャンピングトレーラーを牽引する装置は、大型はフィフス
ホイールカプラー、小型のトレーラーを引く場合はヒッチボー
ル & カプラーで連結する規格がある。興味のある人は現物で確
かめよう。昔、高級 RV の元祖、レンジローバーには標重装備さ
れていた。
余暇の過ごし方が違う
日本で RV が流行らないのは、文化が違うからと考えられる。
テレビの旅の番組は、昔から相も変わらず、桜と紅葉前線を追っ
て、温泉に入り、豪華な夕食を食べるシーンが映し出される。
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日本人はそんなに旅行に行ってまで美味しいものが食べたいの ?
都会にいくらでも美味しいレストラン、和食の店が有るでしょ
う、と思うのだが。
それに加えて、宿泊代が(私の経済的概念からすると)高い !
のである。どこか景色の良い所に行って、高級な旅館で美味い
夕食を食べ、温泉に入ることが余暇の過ごし方と考えているの
が平均的な日本人の考える旅なのだろう。
こういう文化では、RV を買ったとしても活用の場は限られる
と思う。日本全国、キャンプ場は少ないし、高価である。やむ
なく道の駅に車中泊することになるが、本来、道の駅では長時
間駐車は遠慮すべき場所であるはずなのだが。欧州の RV パーク
に相当する場所がない日本では、RV の販売台数は欧米と比較し
て少ない。
欧米の RV 車は、装備とデザインが素晴らしい。装備について
は、部品メーカーの充実があげられる。トイレはセットフォー
ド社、FF ヒーターはベバスト、冷蔵庫はエレクトロラックス社
というように、装備品メーカーの裾野が広いのである。これら
の装備品はヨットにも使われているので量産効果もあり品質も
高い。日本の RV は装備品の関係で割高になってしまうようであ
る。RV はハードウエアだけで完結せず。普及のためにはインフ
ラが整備されることが先決である。
60
ラウンドと RV パーク
退職をした高齢者夫婦や、長期間の休暇の人たちがヨーロッ
パ大陸、北米大陸、オーストラリア大陸を巡る旅をすることを
一言でラウンドと言う。ラウンドするための車が RV、モーター
ホーム(大型)、モーターキャラバン(小型)である。
ハードウエアとしてのキャンピングカーはイメージしやすい
が、日本人には、ラウンドすることの価値観が理解しづらいよ
うである。西洋文化と日本文化の違い、騎馬民族と農耕民族の
違い、肉食系と草食系の違いを長々と説明しなければならない。
それに日本国内をラウンドしたところで、僅か数千キロだが、
大陸では数万キロに達するのである。鉄道唱歌「今は山中、今
は浜」という感覚と、オーストラリア鉄道「直線区間 700km」
の違いは、体験して初めて判ることなのだと思う。
欧米には RV パークが各所にある。ドイツではライン川、ドナ
ウ川沿いに多く点在している。RV パークは、駐車スペース、隣
の車とは、駐車場程近くなく遠くもなく適当な距離、RV につな
ぐ電気配線がある有料のスペースである。ゴミを有料で回収で
きれば有難い(500 円程度ならお金を払っても利用したい)
。汚
水を流せるダンプステーションも有ると良い。自然を楽しむこ
とも大切なことだが、欧米では来場者同士の交流がメインのよ
うである。これを西洋文化ということもできる。RV パークに相
当するものは日本では数カ所ではないだろうか。自然を楽しむ
61
事の中には、夏の間の日光浴も含まれる。ヨーロッパの緯度は
高く、夏の間、太陽の光を浴びることは健康にも大切な要素な
のだ。
RV パークに何週間も定住 ? した後、季節の変化と共に大陸を
ラウンドしている人も多い。RV パークが発達して、大陸が広い
からである。退職者はもちろん、一定期間勤めたら、1 年間の
休みが取れる制度もあるのでこの充電期間を利用して大陸を回
ることもあるようだ。回り終わったら車を売ってしまう、ヨー
ロッパでスポーツと言えば、サッカー、自転車レースを意味する。
テレビのスポーツの時間はこの二つばかりである。たまに F1 も
ある。日本では数日遅れで放送される自転車競走、ツール・ド・
フランスを観たことがある人は、観客が声援を送る背後におび
ただしい数の RV(キャンピングカー)が駐車している風景が目
に入るだろう。お気に入りの選手を応援するためレースと共に
旅をするのである。
(悪魔の格好をしたおじさんも名物)自転車
レースも、RV も西洋文化と納得させられる風景である。
日本の場合は、南は九州、北は北海道とスケールが小さいの
で、RV を購入するメリットが小さいような気がする。問題は鹿
児島でも雪は降るので行く所に困ることである。沖縄は ? フェ
リー代金が高価である。ハードウエア優先の日本人には小型キャ
ンピングカーが人気らしい。
62
土地の気候や要望に合わせた
仕様を用意する。
■ 雪国仕様
日本の北半分は、冬の 3 ヶ月間、雪が降る。雪国で雪下ろし
は必須条件だが、住民の高齢化で自宅の雪下ろしが出来なくて
アルバイトを頼んで雪下ろしをする家庭も多い。雪下ろしが簡
単にできる家を考える。雪国の道路では、道路中央に消雪パイ
プを設置して、常時、水を流して雪を溶かしている。これと同
様、トレーラーハウスの屋根の上に、同様の消雪パイプを設置
して少量の水を流す。この方法が実用になるのも 11 坪という小
さな家(屋根)だからである。大きな家では水道代金がかさん
で実用にならない。メーカーは豪雪地帯に住むお年寄にモニター
してもらい、積雪量と水の量、除雪効果のデータを集めるよう
にする。多過ぎず少な過ぎず適当な水量をテストして数値を決
めておくと、実用になるだろう。
トレーラーハウスがすべて同じ寸法ならば、雪下ろし特殊専
用車ですっぽりと覆い、ハウスの屋根上を前進後退することで
雪下ろし完了という特殊車両も考えられる。トレーラーハウス
のように屋根の寸法が決まっている家であれば実用になる。
■ アメリカ仕様 本場アメリカに輸出することは考えにくいが、高級トレーラー
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ハウスとして。自動車メーカーが試作品を持ち込み、参考展示
したら如何だろうか ? 電化製品は 110 ボルトで使用できるよう
にインバータ組み込み、現地で使用できるようにする。セール
スポイントは高断熱性能と高機能家電だろうか。日本とは桁違
いの、北米大陸の猛暑から極寒の地まで対応できる性能を求め
る人と、竜巻や洪水等で家を失った人たちの一時的な家として
ニーズがあると思われる。自動車で築いたブランド力は力にな
るだろう。アメリカへ売り込む場合は、トレーラーハウスとは
何か、という商品説明が不要なので商品の魅力だけが勝負であ
る、楽だとも言えるし厳しいとも言える。
■ バリアフリー仕様
高齢者、障害者向けにバリアフリーとする。トイレを広く、
手すりを付ける。浴室も考慮する。キッチン、シンクの下に車
椅子を使用時に膝が入るようにする。幅広で低い冷蔵庫を設置。
ハウスの入り口を広く、入り口まで車椅子で登れるよう、ゆる
いスロープを付ける。床を低く抑える。入り口前のデッキは段
差無くし、楽に車椅子で出られるようにして日光浴が楽に行え
るようにする。骨を丈夫に保つにはビタミン D と日光が必要だ
からだ。オーニングテントを用意する等、いろいろな装備が考
えられる。バリアフリーとは、室内に段差がないことと、浴室、
トイレが他の部屋と温度差がないことだ。
64
■ 高床式タイ仕様
タイでは昨年、洪水の被害があった、雨期には毎年のように
洪水の危険がある。トレーラーハウスは標準でもタイヤが付く
ので、床は 1m 前後の高さになるが、水が床下に達することを
想定して、1.5m というように高くすることは可能である。もち
ろん、床を完全防水とまではいかないので、想定以上に水がき
たら防げないが、マージンがあるということは安心感がある。
床下一面を船のように完全防水膜で覆うことが出来れば、洪
水の場合に水の上に浮かぶとになり、土地とは長めのステンレ
スチェーンで流されないよう固定すれば家として機能するかも
しれない。例年、洪水で悩まされている地域にテスト用住宅を
設置してデータを取ることが売り込む前に必要だろう。洪水の
時にはビデオで早送り撮影し、トレーラーハウスはこのように
浮かぶので平気です、と CM で映像を流すとインパクトがある。
この実験にはタイ国政府あるいは、バンコク市の協力が欲しい
ところである。
この仕様は、今回の東日本大震災の地域で土地の高さが下がっ
たということから、例えば気仙沼で使えるアイディアかもしれ
ない。ハウスを固定するジャッキで対応することで可能である。
ジャッキは錆びないステンレス製を採用する。土地への固定方
法も考える必要がある。
65
コ ー ヒ ー ブ レ イ ク
地方で、それも病院から離れた山間部、沿岸地区に住ん
でいる場合、病気になって、一週間に何度も病院に通院し
なければならない場合を考えてみる。バスは 1 日に朝 1 本
だけ、というように、バスがあればまだ良い方で、日本の
過疎地ではまったく無いということの方が普通である。そ
のような場合は、病院の隣接地にトレーラーハウスを移動
して、一時的に住むようにする。病院まで車椅子で 5 分
なら通院可能ではないか。公立病院なら病院の隣接地にト
レーラーハウスの一時的な駐車場所を確保しておく。病気
が治った場合、あるいは不幸にして亡くなった場合は、ト
レーラーハウスは元の場所へ移動する。統計的に、男性が
早く亡くなるので、奥さんが引き続き元の山間部に住むこ
とになるだろう。空いた病院隣接地は新たな病人のために、
トレーラーハウスが移ってくることになる。こんなことが
できるのも、あるいは考えることができるのも移動可能だ
からである。
(実行に障碍になるのは、法律問題、土地問
題であって、技術的問題ではない)
トレーラーハウスを使った介護施設も考えられる。廊下
66
で 10 数台のトレーラーハウスを連結するのである。廊下
は木の幹のような形でも良いし、円形に一回りして繋げて
も良い。ちょうど飛行場の駐機場、サテライトのような形
にすることが効率が良いだろう。介護施設中心施設が、離
発着する飛行機に接続するようにトレーラーハウスを接続
するのである。もし、不幸にして入所者が亡くなったら、
トレーラーハウスごと他へ移動するか、売却する契約で入
所費用の一部を負担することができる等、いろいろ考えら
れる。
トレーラーハウスは移動できるので、季節によって、南
北を入れ替えることができる。南側は大きく開口している
ので、日光の入る冬は南向きにすると暖かい、夏は北向き
にすると日光を遮断できる。敷地が大きくとれる場所で、
車の切り返しの要領で行うと良い。水道、電気、下水をつ
なぎかえる手間があるので自分でできる人にお勧め。北海
道の牧場では、春、夏、秋は見晴らしの良い場所に停めて
おいて、冬には雪や風を避けて、母屋の近くに家ごと移動
してくるということも出来る。牧場のトラクターで引っ
張ってくるのだ。
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仮設住宅にトレーラーハウスを使うこと
東日本大震災の被災者のための仮設住宅が石巻をはじめ、各
地に建てられた。一般のアパートを借り上げて使用するみなし
仮設が 5 万戸強、新たに建てた仮設住宅も 5 万戸強である。合
計 10 万戸強である。仮設住宅は多くが公共のグラウンド、野球
場、公園等に建てられている。コストは概算で、建物 400 万、
外壕 150 万、後で加えられた断熱対策 50 万である。某所の住宅
にお邪魔して、住んでいる人に話を聞くと、雨がしのげて寝る
所があれば有難いと言う。中に入ると確かに仮の住まいという
感じがした。
仮設住宅の問題点は、全戸建設終了まで 10 ヶ月の期間を経過
しているということだ。従って、仮設住宅とトレーラーハウス
を比較することではなく、避難生活を送った体育館や公民館の
中での生活とトレーラーハウスの比較になる。間仕切りのない、
プライバシーのない体育館の床に毛布を敷いてダンボールで仕
切っただけの避難所生活は、数週間ならともかく 10 ヶ月間は長
過ぎると思う。
仮設住宅は健康面の問題が多い。夏暑く冬寒いのは新聞に報
道されたが、湿度が高いことは見過ごされているようだ。住民
の中には湿度計を取り付けて定期的に一日に何度も測定し、窓
を開けて換気に努める人もいた。人間の住む環境として、確か
に仮設は仮の住宅でしかない。
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コストの面でも問題がある。法律では、仮設住宅に住めるの
は 2 年間と決められている。2 年後、家を用意して移り住まな
くてはならない。津波で家を流され、家を新たに用意できない
人はどうするのであろうか ? 行く当てのない人には、入居期間
延長するしか方法はない。
仮設住宅は、役割を終えた後、断熱性能の低さから家として
使うことは難しい。安く払い下げても購入する人はいないと思
う。長屋構造のため個人が買うことはない。結局、鉄くずにな
る他使い道がないだろう。
仮設住宅建設費用一世帯当たり(約 600 万円)と、家を流さ
れた人がもらう補助金(約 300 万円)を足し合わせた額で、立
派なトレーラーハウス(約 700 万円)が購入できる。税金の有
効活用という意味で、もったいないことである。5 万世帯分は大
きな金額である。
沿岸部より高い土地に急遽造成した仮設住宅も多い中で、大
雨で敷地の一部が流され、危険な状態になった仮設住宅がある。
同じ敷地内の入居していない住宅に避難したという。そうなる
と盛り土した側面を工事しなければならない。臨機応変に移動
できるトレーラーハウスならば、予算の伴う土留め工事はせず
に済む。入居していない仮設住宅は、入居希望のある地域に回
せば良い。
69
ロボットがトレーラーハウスを作る
東日本大震災の仮設住宅の建設が本格化したのは、7 月 8 月
の暑い時期と重なった。工事を受け持つ会社の建設作業員、大
工さんは暑い中の作業を本当に頑張ったと思う。この点、トレー
ラーハウスなら、完全工場生産なので、屋根のある空調の効い
た工場内で組み立てることができる。現地組み立ての仮設住宅
は大工さんに酷だが、トレーラーハウスは現場に優しいのだ。
流れ作業では、構成する部材をハウスのそれぞれの適合箇所に
移動する補助装置を多用することができるので、重い部材を担
ぐことはなく、部材を接合する作業に集中することができる。
それどころか、ハウスの規格が決まっているので、ロボットで
組み立てることも可能ではないだろうか。もちろん電気水道の
インフラは現地で施行しなければならないが。流れ作業の工場
内ロボット組み立てと現場組み立ての差は大きい。熱中症にな
る可能性がある猛暑の中で作業する時代ではない。
女川町の3 階建コンテナハウスについて
建築家 坂茂氏が設計した仮設 3 階建て住宅は、コンテナを
市松模様状に配置したもので、建築家がきちんと仕事をすると
こんなに完成された住宅ができるのかの見本である。
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住宅の備える条件、遮音性、耐候性、断熱性、すべての点で従
来の仮設住宅の水準を超える出来である。コンテナは何といっ
ても丈夫なので耐久性もある。
この仮設住宅を受け入れた女川町の行政も素晴らしい。是非
ここに書いておきたい。
自衛隊の宿舎に
トレーラーハウスを利用する
災害時に、仮設住宅を量産して備蓄するのは良い案のようだが、
すべての機械と同様、家も使われないと痛む。そこで、普段は
自衛隊の宿舎として利用して、緊急時は仮設住宅として災害地
まで運んでいくようにすることを提案したい。自衛隊で使うこ
とがそのまま備蓄になると考えられる。
日本各地の隊員の宿舎として使用されることがそのまま災害
の準備になる。災害が日本の何処で起こっても、最寄りの基地
から 200km 程度で運ぶことができる。富士山の麓には広大な土
地と基地(訓練施設)があり、大量に備蓄しておけば良い。災
害が大規模で仮設住宅が足りない場合は富士山麓から運ぶこと
になろう。水道、電気、下水等のインフラの敷設は、隊員が日
頃から訓練しておくようにする。本格的なインフラ工事は被災
地に専門の工事従事者が確保できしだい順次行うようにする。
71
被災地にいち早く送ることができるのは、パークトレーラー
ではなく、トラベル(キャンピング)トレーラーである。幅が
狭いので運搬が簡単で、設置期間が短くて済む。設置は現地に
牽引して、置くだけ。水道、電気、下水工事をすると仮設完了だ。
今は性能の良い下水ホースもあるので、簡単に設置できる。法
律上の期間、2 年が経過したら格安で払い下げることも可能。購
入者が自分の土地、借りた土地に牽引して設置すれば良い。阪
神淡路大震災の時に、トレーラーハウスの有用性について言わ
れ始めたのだが、以後 15 年、宿題を放置する体質はそのままだっ
たようだ。
当然のことながら被災地に移動して不足したトレーラーハウ
スは、予算を組んで自衛隊基地に補充する。被災地で余ったも
のは、再び基地で保管すると無駄にならない。
浦安市の液状化について
千葉県浦安市では地震により地盤の液状化現象のため、家が
傾いたり、めり込んだりしたケースがみられた。傾いたまま住
み続ける手もあるが、床が傾いているのは気持ちが悪い。地盤
強化の相談も相次いでいるようだが、地盤強化は個人で行える
範囲を超えているような気がする。それに地盤強化した次の日
に、再度地震が起こり、また家が傾いたらどうするのだろうか。
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数十年以内に首都直下型地震が予想されているのだから、下手
に地盤強化にお金を使うわけにもいかない事情がある。
この点でもトレーラーハウスは、水平を保つのは簡単だから
自宅を建て直す場合に勧めたいが、この地域は土地の値段が高
価なので、家は敷地いっぱいに建っている。トレーラーハウス
では平屋建てとなるので部屋数が限られる。トレーラーハウス
を勧めることは難しいのではないだろうか。
千葉県浦安市は若い人が住みたい町として人気が高い。若い
世代が多く、町に活気がある。ところが 3、11 の地震で町の至
る所で液状化が見られた。家も何軒か傾いた。これで住宅価格
が下がったかというとそうでもない。売りに出す物件は多くな
かった。一戸建ては約 5 千万円する地域なのと、東京に通う働
き盛りの人が多く、安易に売りに出せない事情がある。建て替
えるにも地盤が軟弱なままではできないし、地震は頻発してい
る、地震が収まるまでの期間は不明、10 年単位で考えなければ
ならない、地震は地球の問題だから退職する頃までかかるかも
しれない。床が傾いた家に住み続けると、
傾いているのが普通で、
水平なのに傾いていると感じるようになる可能性がある。
73
被災地住民の高台移転は
(とりあえず)トレーラーハウスで
「とりあえず、ビール」とういう言葉がある。後に焼酎割りを
飲むにしても、暑い季節はビールから始める意味であろうか。
トレーラーハウスは移動可能だから、駐車場所はインフラさえ
来ていれば何処でも良い。
「とりあえずトレーラーハウス」なの
である。
東日本大震災では三陸海岸沿岸部の家が津波に持っていかれ
た。このため沿岸部に住んでいた住民が高台に移転する計画が
打ち出されたものの、現時点では計画は進んでいない。仮設住
宅は法律により二年後に出なくてはならない。延長はされるか
もしれないが数年後という期間である。この間に職場が確保さ
れないと、住民は沿岸部、高台のどちらも捨てて職を求めて都
会へ移り住むことになる。生活がかかっているのである。
仮設住宅を出た後、とりあえず、従来家があった土地にトレー
ラーハウスを駐車して住み、漁業(水産加工)を営むことが考
えられる。自治体により高台に敷地が確保されたら、トレーラー
ハウスを移動する。もし、漁業が復興出来ない場合は、その土
地の家を必要とする人に中古車相場価格で譲り、新たに職を求
めて名古屋、大阪、東京に移り住むようにすると、購入した費
用が無駄にならない。
トレーラーハウスは臨機応変、出たとこ勝負、現場対応型の
74
家である。
仮設住宅の跡地の利用は RV パークに
仮設住宅の利用が終わり、住民が出ていった後、仮設住宅が
建っていた跡地は、野球場や運動場だった場所は元に戻すのは
当然であるが、具体的な跡地利用の案がない場合は、RV パーク
に利用する手がある。RV パークは、テントを使わず、車中泊に
適するオートキャンプ場のような施設である。仮設住宅跡地な
ので、電気、水道、下水のインフラが残っている。これをそっ
くり利用するのである。キャンプ場のように芝生の広場は必要
なく、トイレだけあれば、一泊 500 円〜 1000 円程度の料金で
利用できるようにする。近くの道の駅に案内を掲示すれば良い。
道の駅で長時間駐車は遠慮することになっているので車中泊は
原則としてできない。RV パーク周辺で、地元でしか体験できな
いエンターテイメントを用意することが大切である。
この時代、ホテル、旅館は一泊 1 万円の価格がネックとなっ
て、三陸海岸、東北地方に継続的にお客を引きつけるのは難しい。
時代は日本の他の観光地との競争ではなく、格安航空で行く海
外旅行との競争になっている。観光産業が三陸海岸に継続して
根付くためには RV パーク、格安民宿のようなリーズナブルな価
格で宿泊可能な宿と施設が用意できることが今後の課題だろう。
75
地方都市の再生に
トレーラーハウスを利用する
コンパクトシティの住居に利用
都市のあり方を研究する分野は、J・ジェイコブズ「アメリカ
大都市の生と死」に始まった。詳しくは都市計画の本を読んで
いただくとして、トレーラーハウスは都市住宅としても機能で
きる可能性がある。
建築、都市計画の分野で、コンパクトシティという都市のあ
り方が注目されている。所謂シャッター通り商店街の出現で従
来からある地方都市の駅前銀座通りが衰退した姿をさらしてい
る。シャッター商店街の特徴は、見れば判かる通り、歩道が狭く、
前の道路を相当なスピードで車が通り過ぎる風景である。
コンパクトシティは、街の衰退を防ぐ打開策として言われ始
めた都市計画の考え方で。徒歩圏内に街の機能が凝縮されてい
る都市形態である。生活に必要な食料品スーパー、郵便局、場
合によってコンビニ、
(DIY でない個人の)金物屋、
(大型店でな
い)街の電気屋、病院、医院、歯医者、等最低限度の生活に必
要なアイテムが揃っている街を言う。いつ寄っても街のお年寄
りが井戸端会議している喫茶店があるとコンパクトシティが完
76
成する。
街はコミュニティが存在してこそ存在意義が有る。ロードサ
イド店がバイパス沿いに林立する最近の地方都市では、人々の
コミュニティは成り立たず、人は単にショッピングセンターに
買い物に行くだけだ。テナント店が並ぶ通路を行って戻ってそ
れで終わり、人の交流は期待できない。これでは、若者好みの
ファッションを売ろうとも、退屈極まりない。若者の首都圏へ
の流れが止まらない理由である。
トレーラーハウスに二階建てが無い。都会向きの家とは言え
ない。平屋とは贅沢な土地の使い方だ。トレーラーハウスが集
まって街を作っている場合は、二階建てが無い、ということは
日当たりが良いことでもある。健康的なのである。
新しい街を作る場合、これまで存在していた町のコミュニティ
を温存させるような配慮が必要だ。以前の顔なじみだった住民
同士のつながりを新しい街に持ってこないと、復活した街の意
味が失われてしまう。町内会もそっくり持ってきたいものだ。
都会に住む者は田舎の付き合いの重要性が理解できないかもし
れない。住民同士の結びつきは大切である。
人口密度を上げること。
限られた敷地に密集して家を建てるのは、地方に於いて山間
77
部、駅から放れた土地に住んでいる人を市街地に呼んでくる。
車は所有しないで、普段は歩き、自転車を交通手段とする。こ
のようなコンパクトシティを実現するには幾つかのテクニック
が必要である。
コンパクトシティとはいえ、住宅が過度に密集することは避
けなければならない。トレーラーハウスは小さな家が密集する
ように思えるが、実際には密集することを防止する効果もある。
マンションや集合住宅では上に伸びるが、トレーラーハウスは
平屋なので、人口は高層住宅程には多くはならない。集会やコ
ミュニティの場は家の前の道路で行うことができる。場合によっ
て適当な場所に、数十台のハウスで囲って中庭のように特定の
住民以外は入れないようなスペースを確保することも敷地の配
置次第で可能になる。自治体は公民館や集会所の機能を持った
公共の場を計画すべきだろう。
斜め 45 度の平行四辺形の敷地
自治体がトレーラーハウスを主体に街作りを計画する場合、
斜め 45 度に敷地を整えることが効率よく土地を利用できる。道
路からトレーラーハウスを敷地内に移動する場合、45 度だと抵
抗少なく入れることができる。観光地で観光バスが駐車場に停
める時に運転手の身になって考えればこうなる。一般的な 90 度
78
の敷地だと、小型シャベルカーのような小型建機が必要になる。
道路は斜め 45 度に走らせる。トレーラーハウスは全長 11m、
敷地内に「駐車」するには、一般的な道路に直角な敷地である
と入れにくい。観光地のバス駐車場は 45 度に駐車帯を設定して
ある。引いてきたヘッド車でバックしながら敷地に収める。こ
のようにして道路の幅を、トレーラーハウスを収めるために広
げることはせず、従来の広さに収めるようにすることができる。
道路は本来 2 車線の広さを 1 車線の一方通行にする。余裕の
できた幅は歩道及び自転車レーンを設定してお年寄りも安心し
て歩けるよう配慮する。重いモノは自転車のかごに載せて移動
する。街で大切なのは人の触れ合いがあることと安全に歩ける
歩道の配慮である。車を所有せずとも不便を感じないで暮らす
ことができる街が理想ではないだろうか。昔はどこでもあった
町の形態が、今は首都圏の中心よりに存在し、郊外は車がない
と動きがとれない状況である。
車はガソリンがないと走らない、車の免許は必須でないにも
かかわらず取得しなければならないのも、よく考えれば変なの
だ。日本で車を持つと家計に占めるコストは相当な額にのぼる。
トレーラーハウスで作った町は上空から見ると道路が東西南
北ではなく、斜め 45 度に交差した道路で形作られている。道路
1 本おきに一方通行が特徴である。歩ける範囲にトレーラーハウ
スが集まっていることは、西洋の町がマルクト広場を中心に広
がっている様を思い出させる。市民は家にいることなく、広場
79
を中心としたカフェや喫茶店、居酒屋に昼間から入り浸って話
をすることがエンターテイメントになるだろう。
また、別の並べ方を考えても良い。中国の客家(はっか)の
ように長屋が円形に連なって集合住宅を形作っている形態も有
り得る。
加えて、通常の交通は自転車を活用すべきだろう。車は父親
が沿岸部に水産関係の仕事場に乗っていくだろうから、普段の
移動手段は自転車を利用する。
軽自動車 2 台を所有できる家庭は少ないだろう。ガソリン高
騰の時代に車を主たる交通機関と捉える都市計画はそろそろ時
代遅れになろうとしている。
コンパクトシティでは徒歩で移動する距離は、研究では 600m
とされている。600m の範囲内に主な施設、スーパー、役所、病
院等が配置されていると歩くことが楽しくなる。街の路地のス
パンは 40 〜 50m 程度だろうか。現地の土地と折り合いを付け
る必要がある。
このような都市形態は、40 年程前にメタボリズムという建築
運動が提唱された時代を思い出す。ちょうどトレーラーハウス
が枝葉、取り替え可能な末端部分を形成しているようだ。住宅
用だけではなく、店、集会所等に使えるタイヤ付きのトレーラー
ハウスが商品としてラインナップされている。家が移転すると
同時に、小型店舗、集会所も後を追って移動することができる。
80
コンパクトな街の交通機関
コンパクトシティの市街地道路は狭く作り、平行する道路一
本毎に互い違いに一方通行とする、道路あちこちにシケイン(F1
やルマン自動車レースで、長い直線を所々迂回する箇所)を設
けて直線道路にせず、車がスピードを出して走ることができな
いような配慮が必要である。車線が狭い分、自転車レーンを広
くすることで、スーパーや役所、銀行に危険がなく行けるよう
にしたい。自転車レーンの幅は、自転車用トレーラーが通れる
程度の広さとする。海外の自転車先進国では、子供を載せるト
レーラーが売られていて、日本のように子供を自転車の前や後
ろの荷台に載せることは少ない。自転車が倒れても子供が怪我
することはあり得ないのである。また、車椅子も道路を走りや
すい。お年寄りの割合が増える地域では当然の街作りだろう。
街の中に入る車は、商店の荷物搬送、救急車、警察車両を除
いて制限することも必要である。小学生が通学している横を猛
スピードで通り抜ける車がないようにしたい。
歩く事が困難なお年寄りや身体障害者向けには、軽自動車の
利用を考えたい。買い物難民と呼ばれる人が増え、支える人も
また高齢化する時代では、主な交通機関は車から自転車、徒歩
というように、都市の中心部に機能がぎっしり詰まったコンパ
クトな街作りが望ましい。
81
かつて、メタボリズムがあった。
空き家になったトレーラーハウスは郊外の指定の空き地に移
動し、新しい住民がトレーラーハウスと共に都市の中心部に移
り住むシステムにすれば、常に都市中心部の人口密度は高く保
たれる。この考え方は数十年前に日本の建築界で大きな勢力で
あったメタボリズムグループの考え方そのものである。
都市計画では、地域毎に分けて、住居地域、商業地域、公共
施設地域、市役所関係地域というように用途別に分ける考え方
(ゾーニング)は、欧米では半世紀前に時代遅れとされ、今では
職住近接が標準となっている。住居も共用施設のあり方が変わ
り、最近流行の言葉で言えば、シェアハウス的な家に近づいて
きている。家族のあり方が変化しているためであろう。トレー
ラーハウスは街の中で人間の住む場所を、あーでもない、こう
でもないと試行錯誤しながら動かして最適化することができる。
住んでいる身には計画性がないと考えられるが、産業がなくな
り、廃村廃町になるよりましと考えることにしよう。
カーボンニュートラル住宅は
自治体の目標
これから家を建てようとする人はカーボンニュートラル、二
82
酸化炭素の排出を抑えた家を考えるだろうか ? 恐らく外観、間
取りを第一に考えるのではないだろう。高断熱高気密の木造住
宅を注文し、結果としてカーボンニュートラルになったという
筋道ではないだろうか。
確かにトレーラーハウスの性能ならば、二酸化炭素排出は最
小に押さえられるが、だからといって、これから家を新築する
人がトレーラーハウスに決めるという例ほとんどいないと思わ
れる。個人の価値観は以外に保守的ではないだろうか。国や自
治体が目標と掲げ、住宅メーカーや工務店に対して指導するこ
とでなければ広く行き渡らないだろう。
トレーラーハウスを
輸出産業として位置づける
日本メーカーは日本国内でトレーラーハウスの開発、設計、
製造方法の検討を行い、中国やインドで生産、販売するビジネ
スモデルを構築する。人口の多い国を相手にするのは将来の市
場の拡大を見込んで、調査目的にパイロット的に生産を開始す
ることは時期的に必要に思える。当然、相手国の政府、業界と
十分な意思疎通を行うことが必要である。トレーラーハウスが
如何なる商品かも知られていないので、説明することから始め
なければならないだろう。
83
日本とは気候が大きく異なるので、現地で一定期間住んでみ
て最適な商品を開発する必要がある。トレーラーハウスを購入
するには個人所得が低く、コストダウンが最大の課題となるだ
ろう。人件費、低価格家電品等でコストはかなり押さえられる
見込みはあると考えられるが、十分な市場調査をしなければな
らない。
量産化すれば品質は向上し、
値段は下がる
トレーラーハウスの質の向上とコストダウンを図るには量産
化することが必要である。現在のメーカーはいずれも中小メー
カーで商品も一品生産の域を出ない。市場規模が小さいからだ。
量産技術の開発、販売方法の見直し、産業育成等が考えられる。
さしあたり東日本大震災の被災者が仮設住宅を出る時期に合
わせてトレーラーハウスを PR すると 10 万戸のうち何割かは選
択する人もいると考えられる。トレーラーハウスを購入するに
は、生活を立て直すために支払われる金額では不足だが、特別
の処置によって住宅を確保する道はあるように思う。普通の住
宅を建てた人もトレーラーハウスの有用性を近くで見守ること
になり、将来的にハウスの見込み客となることもあり得る。仕
事のない人には、トレーラーハウス組立工場で優先的に働くよ
84
うにすると、職の確保と同時に自分の家を得ることができるの
で一石二鳥なのだが。
地方でトレーラーハウスを売る
住宅は特に地方で空き家が多くみられるようになってきた。
少子高齢化もあるが、それ以上に海外に工場移転等が進み、地
方が空洞化して、住民は首都圏に移動する傾向が強まり、首都
では人口流入する代わりに地方では人口が流出しているのであ
る。近年、ますますその傾向が強まってきている。
地方の不動産業者が分譲住宅を売り出す場合、新築分譲 10 棟に
1 棟の割合で、トレーラーハウスを用意して売り出すのはどうだ
ろう。お客さんに「こういう家もありますよ」と勧めるのである。
買うのはあくまでお客さんである。敷地が街道沿いにあり、騒
音がひどい場合、従来工法では遮音が十分でない場合は遮音に
配慮したトレーラーハウスを用意するのである。
車の往来が多いことは将来、土地を売って、店に改装するこ
ともあるだろう。更地に戻すコストを考えたら街道沿いはトレー
ラーハウスの出番があると考えられる。
85
トレーラーハウスを
組み立てキットのように組み立てる
日本メーカーがトレーラーハウスの製造販売で生き残る道は、
速く、正確に、安く組み立てる方法を確立することにある。人
件費の安い中国で工場を作ることを前提として、日本に輸入す
る場合は、完成品を日本に船で運搬するよりも、部材(ユニット)
で運ぶようにする。トレーラーハウスは壁が 4 面と床、屋根の
6 面で構成されている。6 面を張り合わせるだけで、完成するよ
うに設計、製造工程を開発することがこれからの課題になる。
日本に運搬するには、6 面を部材の形で富山県、新潟県の港に
運び、最寄りの工業団地の工場で 6 面をジョイント、完成品と
して日本各地に出荷する方法が良いだろう。船で運ぶことは完
成品の内部の空気も運ぶことになり効率が悪い。壁の状態だと
製品検査で断熱材や壁の中の配線等の検査も行き届くことで日
本製向けの品質が保てるメリットがある。内部にビルトインす
る電化製品も日本製を選択できる。市場の拡大が見込める中国、
インドを最初から目標とすることが良いのではないか。
6 面ユニットについては、日本の大型トラックの荷室に収まる
よう配慮する。トレーラーハウスのメーカーは日本各地に最終
組立工場を設置して完成品をお客に届ける距離を少なくして運
搬費用を押さえる努力してもらいたいものだ。場合によって普
及が進むまでは複数のメーカーが共同で組立工場を使っても良
86
いだろう。
東北地方には是非、県毎に工場を設置して東日本大震災で職
場を失った人に働く場を設けて欲しい。製造工程をマニュアル
化すれば誰でも作業できることに加えて、自分の住んでいる家
と同じモノを作るのだから労働意識も高くなるだろう。購入資
金のない人にはレンタルすれば良い。仮設住宅 5 万戸、みなし
仮設 5 万戸、合計 10 万戸分は不足しているので、そのうちの何
割かはトレーラーハウスを購入する見込みはある。住宅展示場
に並んでいるような数千万円するプレハブ住宅を購入できる人
は多くはないと考えられる。
中国で部材ユニットを生産して輸出するビジネスモデルを考
えた場合の販売先割合は、中国 72%、インド東南アジアとアメ
リカ 23%、日本 5% で如何だろうか ? 日本にこだわっていたの
では市場の規模からすると、すぐに飽和してしまう可能性があ
る。製品の開発コンセプトも高性能だけを追求するのではなく、
性能を維持したまま、如何に安く作るかの製造技術に向かうこ
とになる。
本当にトレーラーハウスの
組立キットを自分で組み立てる
本当にとは、これまで「自分で家を作りました」が本になる
87
くらい少ない例だからだ。現場で組み立てるのではなく工場生
産と宣言していることから派生的に、トレーラーハウス組み立
てキットが考えられる。壁、屋根、床面の 6 面とシャーシを購
入して組み立てれば本当に簡単に完成してしまうからだ。組み
立てる場所は、ハウス工場の脇のスペースで良い。最大のメリッ
トは専属の「講師」が組み立て指導してくれることだ。工具も
専用の物がレンタルできる。工場には屋根がついているから天
気を気にせず作業ができる。トレーラーハウスが完成したら、
自分の用意した土地に運搬してもらえば良い。退職して暇を持
て余した高齢者や、自分の家を格安で手に入れたい人には打っ
てつけのトレーラーハウスキットとなる。当然、自分で組み立
てたのだから家の出来不出来は自己責任となる。
家の組立キットのアイディアは、これまで何度か提案されて
きたが、日の目を見ることなく過ぎてきた経緯がある。大袈裟
な言い方だが、現地施行が不要というトレーラーハウスにして
始めて実現可能な家 ? が出現したと言える。
観光地をめぐるツアーも良いけれど「自分の家を作ろうツアー」
という一週間の宿と食事付きツアーも良いではないか ?
余談だが、タミヤのプラモデル模型に、トレーラーハウスを
加えてもらえないだろうか ? 大人が子供に作らせて飾っておく
のである。
88
大企業の参入
プレハブメーカー各社、あるいは自動車メーカーで住宅部門
を関連会社に持っている会社がトレーラーハウス製造に乗り出
す可能性は、現時点では可能性が薄い、市場規模が小さいので
ビジネスとしてうま味が少ないと判断しているようだ。ただし、
3.11 以降、需要が増してきているので産業として発展する時期
は早くなるだろう。
自動車メーカーのプレハブ住宅部門は、住宅業界で先行する
プレハブメーカーに対抗する意味で、トレーラーハウス事業の
立ち上げを検討する時期にさしかかっているように思う。シャー
シと住宅の両方の製造ノウハウを持っているので、製品開発は
短期間に低コストで製造まで持っていけるだろう。現状では中
小しか存在しない日本のトレーラーハウスメーカーより資本力
と知名度があるので、参入すれば有力なメーカーに成長するこ
とは間違いない。
プレハブ住宅メーカーは、新商品として、シャーシを自動車
メーカーに製造してもらい、家の部分を製造販売することも考
えられる。ただし、振動に対する十分な性能を確保するための
技術開発が必要なので自動車メーカーと提携することも選択肢
になるだろう。
89
トレーラーハウスのデザイン(スタイル)
トレーラーハウスのエクステリアとインテリアは、日本に於
いて製品の歴史が浅いために、買いたい ! という魅力が乏しい
のが現状である。西洋の住宅の伝統を踏まえた、DAMON 社の
1240 シリーズはトレーラーハウスの標準の形に達していると思
う。日本のメーカーでも日本建築を意識した外観や内部に畳を
敷いたり窓に格子をアレンジしたり、襖を仕切りに用いたりし
て和の世界を表現したトレーラーハウスをカタログに載せてい
る。日本は建築に於いて十分国際的に通用する水準にあるので
トレーラーハウスを商品価値のある商品に育てることができる
と思う。消費者が買いたいような商品を用意することもメーカー
の仕事だと思う。これからの発展に期待したい。
デザインとは、エクステリア、インテリアだけではなく、骨
格部分の構造も含む言葉である。振動に対する耐久性を含めた
基準作りも急がれるが、アメリカの基準が先行してあるので、
海外輸出を睨んだ基準に適合した商品作りがのぞまれる。
大学建築学科、デザイン学科で
トレーラーハウスを学習内容に加える
僅か 11 坪の狭小住宅ではあるが、住み心地は優秀である。し
90
かも完全工場生産により、家の性能を維持したまま価格の低廉
化できる可能性がある。だが、日本の建築学科では講義内容に
含まれていないようである。車だからか ?
トレーラーハウスは動く建築としていろいろ面白いことがで
きそうである。朝は東向き、昼は南、夕方は西向き、常に太陽
に向いているように回転機構を床下に仕込む。こうすると屋根
に設置した太陽光発電が効率良く行えるのである。最近では動
く建築、家具も考えられている。モビリティと言うそうだ。興
味のある人は検索してみるとよい。関連項目が多数見つかる。
大学の建築学科で教材に取り入れられていないのは、教員の
固定観念が従来の土地に固定された構築物に捕われていると解
釈もできるが、そればかりではないだろう。建築学科教員自ら
キャンピングカーを所有し、日本全国を回る楽しむことをしな
いからだろうか。アメリカ、カナダでキャンピングカーをレン
タルして走り回るツアーもあるが、日本からのツアーは相変わ
らず観光地を早足で巡る旅ばかりである。北米の大型キャンピ
ングカーの乗車経験があれば、日本の学生下宿より豪華な作り
に、建築としてトレーラーハウスを見直そうという考えも浮か
ぶだろう。日本の建築学科の学生は、アメリカのルイジアナ州
のトレーラーハウス工場(欧州のユーラモービル工場でも良い)
を見学することを勧めたい。日本のプレハブ住宅工場と同様の、
大きな規模で生産しているのを見れば、将来性のある産業とし
て可能性を見いだすだろう。
91
個人住宅の設計とあり方を学ぶ時には、最近クローズアップさ
れてきたシェアハウスと共に、トレーラーハウスの情報を取り
入れて欲しいものである。
トレーラーハウスの
メインテナンス(リフォーム)
トレーラーハウスの屋根や壁、内部のメインテナンスはどう
するか ? 小規模改修の場合は、現場に職人を呼んで行うのは従
来の家と同様である。大規模な改修は、移動できるメリットを
生かして工場に移動させて行うこともできる。将来、トレーラー
ハウスが一般化して各県毎一ヶ所以上に工場が設置されれば可
能である。年々改良されていくトレーラーハウスであれば断熱
材の性能も向上する。家電製品や車の修理は基板やユニット交
換することで修理を行う。同様な考え方で、不具合箇所の一部
を現場で修理するよりも、工場に運んで屋根ユニット、壁ユニッ
トを交換することでリフォームを能率良く安価に行えるように
なるだろう。移動できることのメリットである。
92
トレーラーハウスの中古市場
日本では中古市場と呼べる程、流通は多くない。多くの場合、
メーカーや輸入業者が自社のホームページで中古品の紹介をし
ている。買い取りにしても、委託販売でも、購入したメーカー
を経由して、メーカーがリフォームしてからネットに載せて売
りに出すことが一般的である。高い買い物なので、トラブルを
防ぐ意味で、一定の保証を付けることは、業界の発展を考えれ
ば良いことだと思う。
地方ではトレーラーハウスを狭い地域で売り買いすることが
経済的だろう。地方の家は大きく、敷地内に移動することも容
易なので、家族が増えた時に購入し、減った時に売るようにす
ると無駄がない。村内、町内を一回りして元の我が家に戻って
くることもあり得る。
将来、日本全体で保有台数が増えて中古品を扱う業者が現れ
てくるまで時間がかかりそうだ。もしかすると、交流サイト、
SNS の中でトレーラーハウスに住んでいる人同士がお互いにメ
ンテナンスの情報をやり取りしたり、中古情報を載せたりする
と、自然発生的に市場が形成される可能性がある。
93
従来のプレハブ住宅、注文住宅と
トレーラーハウスの関係
トレーラーハウスは 100% 工場で大量生産するので高品質で、
リーズナブルな価格を期待できる反面、すべて同じような大き
さ、外観、間取りになり易い。これに飽き足らない人や大きく
て立派な家を好む人は住宅展示場に並んでいるプレハブ住宅や
本格的な注文住宅を建てれば良い。これからの家のベーシック
な性能はトレーラーハウスが基準となるだろう。トレーラーハ
ウスに比較して劣るような断熱性能の注文住宅はなくなるので
はないか。プレハブや注文住宅の性能の平均点が上がる可能性
があるので、トレーラーハウスの普及は良いことである。
地方は少子高齢化のため新築住宅の建設は横ばいか緩やかな
下降線をたどることになる。空き家も増えていくので、住宅産
業の将来はリフォーム市場で稼ぐか、海外進出しかない。
既存のプレハブ住宅メーカーは、トレーラーハウスの普及と共
に、商品の品揃えを増やす意味で、自動車メーカーと提携して
シャーシを作ってもらい、自社の上物を載せてトレーラーハウ
スを売り出すことも視野に入るだろう。競争は品質向上につな
がり、従来の普通の住宅も地震に強い構造を手に入れるに違い
ない。
プレハブ住宅は 5 ナンバーに相当すると思う。最も普及して
いて微妙な違いがあるのに基本的にはみな同じ、同じだから何
94
となく安心する。でも何か足らない存在感の薄い感覚がある。
軽自動車は、これがあれば日常のスーパーで食料品を買いにい
くのに過不足なし、税金も安い。トレーラーハウスも最小限ハ
ウスとして暮らすには必要十分な仕様を持っている。
唐突だが、ダイハツエッセとメルセデスベンツ S クラスは車
両価格にして 1500 万円の差、10 倍の開きがある。車の無い生
活とダイハツエッセの差は 70 万円の差であっても、前者より、
はるかに大きいというのが私の意見である。日本では軽自動車
はベーシックカーに当たり、トレーラーハウスは日本のベーシッ
クな家に相当するようになると思う。
一応、
注文住宅は 3 ナンバー
に相当すると付け足しておこう。
トレーラーハウスは
家庭電化製品の大きな買い物袋
大手家電店では 4 月になると新社会人応援セールとして小型
の冷蔵庫、洗濯機、炊飯器等をセットにして売り出す。毎年、
恒例になっているということは、それなりに売れているという
ことだ。
トレーラーハウスも工場出荷時に家電製品がまとめて設備さ
れているので、セット売りという意味でよく似ている。家電メー
カーにとって、まとめて家電製品を売る機会でもある。安価な
95
商品を取り揃える韓国、中国メーカーがトレーラーハウス製造
に進出してきたら、日本の白物家電メーカーは大打撃ではない
だろうか。その意味で、日本の家電メーカーはトレーラーハウ
ス産業に参入する十分な理由がある。家庭電化製品をあげてみ
ると、
●キッチンまわり
システムキッチン、
給湯器(温水器)
、
炊飯器、
食器洗い、
オーブン、
電子レンジ、コーヒーメーカー、換気扇、ミキサー、台所照明、ディ
スポーザー、IH コンロ、グリル。
●浴室まわり
浴槽、浴室一式、浴室暖房、照明、洗面台、換気装置。
●居間
テレビ、音響装置、暖房冷房装置、照明一式。
●設備
給湯器、IH 設備、配電盤、LPG、下水接続。
ベッドは寝室に一つ、居間にソファベッド等が考えられる。
これらが工場出荷時にまとめてお客が購入する装備一式なので、
家電メーカーにとってトレーラーハウスは魅力的な商品という
96
ことになる。
ガラパゴス化は避けたい
トレーラーハウスの法律上の取り扱いは、まだ未整備である。
アメリカ合衆国、カルフォルニア州や DAMON 社のあるルイジ
アナ州の法律を参考として整備するのが良い案だろう。気をつ
けなくてはならないのは、将来輸出産業として育てていくのだ
から、輸出相手国に考慮する必要がある。製品がガラパゴス化
して日本だけに通用する製品になってしまうことは避けたい。
インド、ブラジル、中国の市場を韓国や中国のメーカーにマー
ケットを取られないよう、今からトレーラーハウスの規格を国
際的に通用するものにしていかなければ、金のなる木をみすみ
す失うことになる。専門の機関を設けて中国、インド、アメリ
カ等のトレーラーハウスについての法律、規格、産業振興の動
向を常に把握している必要がある。
人口が急増しているインド、中国、ブラジル等で家の需要は
大幅増が見込まれる。都市計画が追いつかない国ではトレーラー
ハウスは流動的に住宅を用意できるので、その国の政府に働き
かけ次第では、輸出産業として大幅な売り上げが期待できそう
だ。現地の安い労働力を使い、その国に適合した製品を用意で
きれば将来は車と同等な輸出産業に育つ可能性がある。日本の
政府が十分な支援を示すことが必要である。
97
トレーラーハウスは
地方の活性化に一役買う
企業が地方に工場や配送センターを置く場合、住宅はどうす
るか ? 地方は空き家がたくさんあるから、住める所はたくさん
ある、と考えるのは実情に合わない。全国的に空き家は増えて
いるが、都合の良い場所に空き家があるとは限らない。数百人
の工場で働く人の住宅を近くに確保するのは難しい。トレーラー
ハウスはここでも重宝する。しかも工場が閉鎖する場合も、移
動すれば良いのだから無駄にならない。
中国、韓国、
インドのアメリカ留学経験者は
トレーラーハウスを知っている
中国や韓国の留学生が激増している。特にアメリカ合衆国へ
の留学生は多い。日本の留学生は少ない、と言うよりほとんど
いない時代になった。
中国、韓国の学生がカルフォルニア大学バークレー校に留学
するとロスアンジェルスに居を構える。そこで目にするのは市
の郊外に点在するトレーラーハウス街である。アメリカでは所
得の低い層の人たちがトレーラーハウスを住居にしているので
ある。中には大学の友達も住んでいるかもしれない。学生仲間
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で遊びにいくとトレーラーハウスの中をつぶさに観察するだろ
う。留学するくらいだから優秀な頭の持ち主に違いない。その
学生の中には、就職した会社内の新たなビジネスとしてトレー
ラーハウスを大量に生産して売り出そうとする学生も当然いる
だろう。
2012 年現在、アジアのトレーラーハウス市場は無いに等しい。
スタート地点に立っていると言ってもよい。10 年後、主導権を
握っているのはどの国のメーカーだろうか、中国、韓国、台湾、
インド ? 恐らく韓国ではないだろうか。エレクトロニクスで見
せた政府とメーカーが連携し、貪欲にビジネスに邁進すること
は容易に想定できる。
それでは、日本は ?
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あとがき
この本は、個人が家を購入する場合の選択肢の一つとしてト
レーラーハウスを考える視点と、産業としてトレーラーハウス
の将来性はどうかの両面から考えた。魅力のある品物は売り上
げを伸ばし、産業として定着していくだろう。
日本国内でトレーラーハウスのビジネスを行うについては、
法律上、問題点が多い。これを改善するには外圧を利用する手
がある、と考える。日本に少数輸入されているアメリカ製のト
レーラーハウスも国産と同様の問題を抱えている。アメリカ合
衆国政府が日本への働きかけると改善されると期待できる。
輸出産業に育てるには、相手国の事情を知らなくては始まら
ない。例えばインドでは、工事現場や会社等で働く場合は家族
全員が現場近くに引っ越してくる習慣がある。その国の事情を
紹介することはビジネスのヒントになるだろう。
前に、タミヤの模型にトレーラーハウスも仲間に入れて欲しい
と書いたが、誰でも知っている物になるために有効だし、セー
ルスの時に、移動できる事を模型で説明すると、カタログで説
明するより理解が速い。それ程、
家が移動する事は有り得ないと、
皆さんが思い込んでいる事にびっくりさせられる。
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トレーラーハウスの仕様で価格の次に大切なのは重さではな
いか。タイヤと空気圧に十分気を遣ってほしい。そういえば、
平面の配置に建築家の皆さんは腑に落ちない所があるに違いな
い。走行中の重量配分を考慮しているので、動線だけで割り切
れるものではない。典型的なアメリカ製のトレーラーハウスは
70 年に渡って改良されてきているのである。
電子出版するに当たっては出来るだけ簡潔にまとめたかった
ので本書のようになった。紙本にする機会があれば、写真と平
面図、法律、アメリカの規格等を載せたい。
原稿を書き終えた時点で、中国語、韓国語に翻訳、出版を考
えている。
トレーラーハウスを事業化する技術と資本があるのは、日本
以外では間違いなく韓国、台湾だと思う。中国はもう少し時間
がかかるのではないか。
自動車は必ずしも必要ではないが、家は生活するために必ず
必要なもの。アジアの発展途上国に於いて、安価に高性能な家
を提供できることは、国力を教育や他のインフラに向けること
ができるメリットがある。
自動車製造の実績のある韓国メーカーがシャーシ製造で、家
電メーカーはハウス内に組み入れる家電製品を安価な労働力を
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使って生産し、組み入れると、十分に魅力的な(リーズナブル
な価格の)トレーラーハウスを製造販売する力がある。
韓国メーカーがエレクトロニクス分野で見せたビジネスモデ
ルを、トレーラーハウス産業で発揮すると大きな力になる。イ
ンド 12 億人、中国 14 億人と手つかずの市場がある。ほんの数
パーセントがトレーラーハウスに住むだけで大きな売り上げに
なる。最悪のシナリオは、韓国がトレーラーハウスの産業とし
ての成長性に目を向けて、いち早く産業化に乗り出し、インド、
中国を市場として、売り上げを伸ばし、莫大な利益を得るのを
日本メーカーは指をくわえて見ている、という構図になること
だ。
トレーラーハウスは家電メーカーから見れば、家の形をした
大きなパッケージで、家庭電化製品のセット売り、大きな買い
物袋とも言える。これを逃す手はない。
トレーラーハウス個々の製品については、インターネットで
検索することにより十分過ぎる情報を得ることができる。
お金を出して購入した本に、インターネットからタダで得られ
る情報を書いたのでは、読者に失礼でないか。ネット以外で得
られる情報を本にしてこそ価値があると考える。トレーラーハ
ウスについて更に知りたければ、メーカー、輸入販売会社に出
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向いて、内部を観察、さらに工場見学もお勧めする。製造中の
壁の中を見る事で断熱材の仕様を知ることができる。納得する
まで説明を聞くことは高価な商品を購入するのだから当然と思
う。
トレーラーハウスの全体像を俯瞰して、将来、普通の家を購
入する場合でも、情報として知っておくことは。将来の増築、
別荘を持つ時にも役立つ。
トレーラーハウスは家のファーストフード化と言えるが、家
として最低限の条件を満たしていない建て売り住宅も多い現状
に対して、家の性能向上の契機になればと思う。
この本のタイトルをモバイルホームとしなかったのは、ハウ
スはハードウエアとしての家、ホームは人間が住んで暮らしが
ある家を表す言葉ととらえたためだ。(映画「ET」では、ET が
自分の星を指差して「ホーム」と言った。「ハウス」とは言わな
い)家を購入すれば即、
楽しい我が家が実現できるわけではない。
ハウスをホームにするには相応の考えと行動が必要と思う。
トレーラーハウスに関する日本の法律は問題が多いのが実情
である。今回の 3.11 以降、多くの会議が持たれているが、今し
ばらく時間がかかりそうだ。
このあとがきを書いている今日、九州では、気象庁の表現を
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借りれば「今までに経験したことのない大雨」が降り続いている。
災害の多い日本こそトレーラーハウスは存在価値があると思う。
トレーラーハウスは産業として大きな可能性があると考えて
いるが、単独で書かれた本は皆無であり、個人にとって、これ
から参入をしようとする会社にとっても有力な情報の一つにな
れば幸いである。
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著者プロフィール
篠塚 尚之(しのづかひさゆき)
1947 年千葉市に生まれる。
東海大学工学部光学工学科卒業。
千葉県公立学校教員を 37 年間勤め、定年退職。
キャンピングカーで日本全国を旅しながら執筆。
モバイルハウスの勧め
タイヤのついた100% 工場生産の家
篠塚 尚之
© Hisayuki Shinozyka
発行 2012 年 8 月 20 日
発行者 横山三四郎
出版社 e ブックランド社
東京都杉並区久我山 4-3-2 〒 168-0082
http://www.e-bookland.net/
ISBN 978-4-907-01900-6
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