映像文化論

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映像文化論 第4回 物語としてのジャンル映画
〜その2 サスペンス・ホラー〜 第3回の復習
ジャンル=「物語」の「規格化」 メロドラマ=抑圧された感情の歪みを、音楽、照明、美�術
等に、過剰に反映させる キーワード:すれ違い、欲求不満(ヒステリー=精神分
析的)、家庭(結婚制度)の解体、グロテスク 1. サスペンスについて (1)サスペンスとは何か
(a)語義
suspense=宙吊り
「不確かさ」と「遅れ」が不安を呼び起こす状態 様々なジャンルに適用(ホラー、ミステリ、ア
ドベンチャー、スリラー) 1
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(b)サスペンスと殺人事件
・ヴィクトリア時代(1837年〜1900年英) 社会制度の確立
道徳の強調
⇅
知的には空虚/情緒的には萎縮
殺人事件=知的興奮/情念の捌け口 →犯罪スリラー小説の流行=犯罪スリラー
映画の題材 2.犯罪スリラー映画 (1)特徴
(a)3タイプの登場人物
(法律違反者/法的権力/無実の犠牲者)
(b)観客に驚きやショックを与える
(仕組まれた計画〜事態の急変)
(c)「ホラー映画」と違い、「気持ち悪さ」にこだわ
らない
(2)アルフレッド・ヒッチコック(1899-1980)
(a)経歴と特徴 ・イギリス出身(1926年映画監督デビュー)
・1939年、ハリウッドに移住。
・ヒッチコック・タッチ
当たり前の日常が、急にうす気味が悪くなり、やが
て恐怖に変わる(植草甚一) (心理描写ではなく)視覚的・感覚的なレベルで観
客を映画の中に否応なく巻き込む(石原陽一郎) 2
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(b)ヒッチコックの代表作
『恐喝』(Blackmail, 1929)
『三十九夜』(The 39 Steps, 1935)
『バルカン超特急』(The Lady Vanishes, 1938)
『レベッカ』(Rebecca, 1940)
『汚名』(Notorious, 1946)
『裏窓』(Rear Window, 1954)
『めまい』(Vertigo, 1958)
『北北西に進路を取れ』
(North by Northwest, 1959)
『サイコ』(Psycho, 1960)
『鳥』(The Bird, 1963)
『マーニー』(Marnie, 1964)
(3)フィルム・ノワール
・1940〜1950年代頃、アメリカで量産された、
暴力的で腐敗した暗い世界を描く一連の映画
(a)特徴
・探偵小説、ハードボイルド小説が原作
(レイモンド・チャンドラー他)
・ファム・ファタール(運命の女)が登場
変化する社会で、力を失う男性の不安の反映? ・ロー・キーライティングによる薄暗い画面と
明暗の強調 (b)代表作
ハワード・ホークス『三つ数えろ』(1946)
オーソン・ウェルズ『黒い罠』(1958)
ロバート・アルトマン『ロング・グッドバイ』
(1973)
ロマン・ポランスキー『チャイナタウン』
(1974)
コーエン兄弟『ブラッド・シンプル』(1984)
クェンティン・タランティーノ『パルプ・フィ
クション』(1994)
3
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3.ホラー映画 (1)特徴
(a)超自然的、不可思議な暴力、グラフィックな暴力表現
過剰/グロテスク (b)人間の抑圧された欲望を、怪奇的な他者として投影
人間のうちに潜む「獣性」に気づかせる (c)おぞましさ(abjection)のスペクタクル
人間のうちに潜む「割り切れない部分」への憎悪
と魅惑 (2)ホラー映画の源流
(a)ゴシック小説、怪奇小説(18〜19c英)
メリー・シェリー『フランケンシュタイン』(1818)
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』(1897)
ユニバーサル社(米)が11993300年代に、ハマー社
(英)が11995500年代に、それぞれ映画化 (b)ドイツ表現主義
夢など、人間心理の歪みを外化して表現 (例)ロベルト・ヴィーネ『カリガリ博士』(1919)
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(3)ホラー映画の展開
(a)原子力の危険に対する不安(1950年代)
(例)本多猪四郎『ゴジラ』(1954)
(b)日常のなかに潜む悪、暴力(1950〜60年代)
(例)ヒッチコックの一連の作品(特に『サイコ』等)
ロマン・ポランスキー
『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)
(c)グラフィックな暴力、人間の身体の切断
(1970〜80年代)
(例)ジョージ・ロメロ『ナイト・オブ・ザ・リビン
グ・デッド』(1968)
D・クローネンバーグ『ビデオドローム』
(1982)
(4)ジャパニーズ・ホラー
(a)傾向
・幽霊や化け物が、すぐには襲って来ない
・得体の知れないものが、こちらをうかがって
いる「気味の悪さ」
静の恐怖 ⇔ ハリウッド的な動の恐怖 ハリウッドの「恐怖映画」「探偵映画」を批評的
に再検討(四方田犬彦) 5
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(b)代表作
中田秀夫『リング』(1998)
清水崇『呪怨』(2000)
黒沢清『回路』(2000)
(c)源流
ジャック・クレイトン『回転』(1961英)
今日のジャパニーズ・ホラーはすべからくこ
の作品を手本にした。(黒沢清) その他、ポランスキー、J=L・ゴダールの映画
などの影響
(例)見えない存在を暗示するカーテン
いないはずの人間がいる? 参考文献 1. 石原陽一郎『タッチで味わう映画の見方』(フィル
ムアート社)
2. 植草甚一『ヒッチコック万歳!』(晶文社)
3. 加藤幹郎『ヒッチコック「裏窓」 ミステリの映画
学』(みすず書房)
4. 加藤幹郎『映画ジャンル論』(平凡社)
5. 四方田犬彦『日本映画史100年』(集英社新書)
5. 黒川裕一『名映画300選 外国編』(中経出版)
6. ブランドフォード他『フィルム・スタディーズ事
典』(フィルムアート社)
7. Konigsberg. The Complete Film Dictionary. Penguin
Reference. 6