片頭痛と脳梗塞 - 成和脳神経内科医院

片頭痛と脳梗塞
血管内皮細胞との関連
Migraine
成和脳神経内科医院
イントロダクシヨン
片頭痛と脳梗塞
まず、実際の症例報告は、ネット上では以下で示されています。
片頭痛による脳梗塞
実際にあった一例
片頭痛による脳梗塞
実際にあった一例 - 医療法人社団 島田脳神経外科
「前兆を伴う片頭痛は、脳梗塞を発症するリスクが 2 倍になる」という報告
があります。
「前兆が起こっている間は局所的に脳の血流低下が起こって」います。
この血流低下を頻回に繰り返すとのちのち脳の萎縮や無症候性の脳梗塞が見
つかるようになるということが指摘されています。
しかし、一般的に片頭痛の患者さんの好発年齢は若く、高齢になるにつれて
頭痛の発作も少なくなります。動脈硬化が加わってくる高齢者と違い、仮に短
時間の脳血流低下があっても急性発症の脳梗塞にいたる心配は要らないと思わ
れがちです。
ところが、「前兆を伴う片頭痛は、脳梗塞を発症するリスクが 2 倍になる」と
いうのです。
ここに、36 歳で脳梗塞になった女性を 1 例御紹介したいと思います。
(ご本
人の承諾をいただいて掲載いたします。
)
尚これは、学会向けの症例報告ではありません。そのため、個人情報にあま
り立ち入らないよう配慮しましたので、不備な点や実際とは異なる点が多数見
つかるかもしれません。
彼女はごく普通の 36 歳の会社員です。2008 年 6 月 30 日の朝、左片麻痺で救
急搬送されました。前日の夜から明け方まで友人と飲酒し、自宅で眠った後強
-1-
い頭痛で目が覚めました。吐き気がしてトイレに行って、嘔吐した直後に脱力
発作が出現しました。
救急搬送されたときの症状は意識はやや混濁していましたが、まもなく回復
しました。右の前頭部痛と左上下肢は完全~強い運動麻痺を認めました。入院
時にすぐに CTA という脳血管造影検査を行いましたが、閉塞動脈も狭窄血管
も認めませんでした。脳塞栓症と診断して治療を開始しましたが、翌日の MRI
には右の基底核にラクナ梗塞が出現していました。
こういう若い年齢で発症する脳梗塞は脳動脈硬化以外の原因を念頭に入れて
おかなければなりませんが、その後の検査でも、脳塞栓を起こすような心臓の
異常もなく、血液検査上も異常は見つからず、DSA という脳動脈造影検査にも
異常は見つかりませんでした。
結局、脳梗塞発症の原因は脱水症、その誘引となったのは前日から明け方ま
で深酒をしていた事と、数日間真夏日が続いていた事だろうとご家族にも転院
先のリハビリ病院にも説明したのですが、なんとも納得のいかないもやもやし
た気持ちでした。(なぜなら、脱水で脳梗塞を起こすには、基盤に動脈硬化が
あるから、というのが僕の持論でしたので。
)
当院で急性期リハビリを行った後、彼女は回復期リハビリのため転院しま
した。そして翌 2009 年 1 月に退院した報告と「頭痛」のために受診します。
リハビリのおかげで、杖を使って歩けるようになっています。右の上肢は・・
・残念ながら完全麻痺のままでした。そのときは元気な笑顔で診察室に入って
きた彼女にただただ懐かしく、「脳梗塞の痕は小さくなっているし、ほかに異
常はないよ」といって帰しました。
その年の 4 月、今度は、「右眼がぼやける、頭痛がある、倒れる前にあった
症状に似ている」といって受診しました。検査には異常はありません。頭痛は
ひどくないのか、「検査の結果は異常なし」と伝えると安心してそれ以上質問
もなく帰っていかれました。
今年の 6 月、めまいがすると言って受診されましたが、このときの検査の結
果も異常なく、耳鼻科に行くといって帰宅、今回 10 月に、「3 日前からもやも
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やしていた、今朝頭痛あり 2 回嘔吐した、また前のようになるんじゃないかと
心配だったので来ました」といって受診したときに、「もしや、この人は片頭
痛では」と始めて疑いの眼を持ったのです。
片頭痛を疑って始めて詳細な問診を行う・・・なんとも藪な医者です。
「もしかすると、あなたは片頭痛かもしれません、片頭痛のせいで脳梗塞に
なったのではないかと思うのでいろいろお聞きしたいのですが・・・・頭痛の
前に何か光るものが見えたりしませんか?」
彼女は、頭痛に対して慣れっこになっているようでした。「う~ん、そうか
もしれません、ああ、そうですね、光るものといえばあれが光るものかもしれ
ませんね」と思い浮かべるように答えました。「光というよりぎざぎざのもの
でしたよ」「それはだんだん大きくなりますか、大きくなってものが見えなく
なる?」「いいえ、変わりませんでした」(そう答えましたが、実際には頭痛の
前には物がぼやけて見えづらくなっています)「そのぎざぎざが見えるもっと
前に、今回のように頭がもやもやしたりしたことはよくありますか?」
「はい、
ありました」「やっぱり片頭痛のようですが、「こういう頭痛はいくつくらいか
らありましたか?」「二十歳前くらいからですね、会社に勤めて仕事をするよ
うになってから」
「普通の頭痛薬では止まらなかったでしょう?」
「そうですね、
それでも薬を飲んでないと痛くなるので結構飲んでました、病院に行っても異
常はないって言われるだけでしたし」「ほかに頭痛の前にあった症状は?」「生
あくびが出ました」「この脳梗塞になる前のことを少し聞きたいのですが、や
っぱり頭のもやもやが続いてましたか?」「もやもやというより会社を休むほ
どの頭痛が 1 週間くらいずっと続いていました、とにかく動きたくないという
感じ・・・」「ずっと頭痛が続いていたのでよく薬を飲んでいました、でも効
かなかった・・・」「それから、目が震えてました・・・物がちゃんと見えな
いんです、震えて・・・」
彼女は、予兆も前兆もしっかりある、片頭痛の患者さんでした。そして、
脳梗塞になる前、彼女は前兆のある頭痛を頻繁に繰り返していたのだとわか
-3-
りました。
でも、脳梗塞が発症する前に、彼女は頭痛で目覚めています。片頭痛の頭痛
は血管が拡張して血流が急に増えるからと説明されています。それなら脳梗塞
になどなるはずがありません。いろいろ考えた結果次のような説明が浮かびま
した。
彼女は 1 週間もの間前兆のある頭痛発作を頻繁に繰り返していたので脳血流
の低下の状態が続いていました。原因は薬物乱用頭痛と思われます。
この片頭痛の最中に彼女はアルコールを摂取し、強度の頭痛で目覚めました。
脳血流低下が続いていた中でのアルコール摂取による急激な血管拡張、この時
点でおそらく脱水状態があったと思われます。トイレで嘔吐したときに、脳圧
が急激に上がったはずです。このときに脳血流の低下を起こし、脱水と脳圧亢
進で脳梗塞が発症した、という仮説です。
前兆を伴う片頭痛は脳梗塞のリスクが 2 倍、これは、いろいろな要因のひと
つに過ぎないのだと思います。前兆を伴うから脳梗塞になりやすいのではなく、
彼女の場合は脱水であったように、ほかに脳梗塞になりやすいリスクファクタ
ーが重なったときは要注意ということではないでしょうか?
前兆だけで脳梗塞になるとは・・・やはり思えません。
彼女の今、ですか?
相変わらず片頭痛がありますが、月に 2 回程度(減ったということのよう
です)ということです。片頭痛の治療薬を処方しました。
以上のように報告されています。
それでは、「片頭痛と脳梗塞」について考えてみましょう。
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はじめに
脳梗塞の診断は、CTの画像診断がなかった時代には、文部省研究班の診断
基準や一部の施設では「脳血管撮影の所見」に基づいて行われておりました。
このような「脳血管撮影」を基にした診断基準によった場合、6割前後は血
管撮影上閉塞所見が確認されますが、あとの4割前後が閉塞所見を確認できず、
この意味合いをどのように考えるかが問題になっておりました。
ところが、急性期脳卒中診療に、CTという画像診断が導入されることによ
って、このような閉塞所見のない脳梗塞をCTで撮影しますと、ラクーネが確
認されるようになりました。こうしたラクーネは、大半は、基底核・内包領域
に限られていました。
この点は勝木、朝長らが大脳基底核は中および前大脳動脈からの外側線状体
動脈および Heubner の動脈など典型的な逆行性分枝を示す血管で養われてお
り、このことが基底核領域に脳血管病変を生じる理由とされていました。
このような血管構築学的特性と、病理学的にこの血管に高血圧性病変が最も
起こりやすいことで説明づけられておりました。
このようにして「ラクナ梗塞」の概念が確立されました。当然、このような
ラクナ梗塞の基礎疾患として、高血圧症・糖尿病・高脂血症の存在が必須と考
えられていました。
その後、MRIが導入されることによって、基底核領域以外の放線冠領域に
も、CTでは描出不可能なラクネが見つかるように至りました。
MRIで描出される「白質病変」
脳は表層の皮質と深部の白質から成ります。白質病変では、いくつかの疾患
や病態が考えられますが、中高年者においてコンピューター断層撮影(CT)
や磁気共鳴画像装置(MRI)検査で偶然見つかる病変のほとんどは、部分的
に血液が行き渡らなくなる虚血性病変です。代表的なものは、先程から述べて
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いる小さな脳梗塞で、
「ラクナ梗塞」と言います。ほかに、広範囲に及んだり、
深部にできたりする白質病変もあります。場所によっては、全く神経症状を呈
することなく、「脳ドック」などで偶然発見される病変です。
所謂、隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)のことをさしています。
その大部分は、細い血管が詰まってできる小血管病に分類されます。白質病
変が数個のうちは多くは症状が出ず、無自覚です。進行して白質病変が増える
と、ふらつきや、ちょこちょこと少しずつしか足が前に出ないような歩行の異
常、声がうまく出せない、認知機能の低下などの神経症状が起こりやすくなり
ます。
危険因子は高血圧や糖尿病、不整脈の心房細動などですが、高血圧が最もよ
くありません。白質病変を進行させないためには、日ごろの血圧管理をはじめ、
持病の悪化を防ぐ生活習慣の見直しが大切です。
危険因子がほとんどない人は、悪化の危険性は低いと考えます。無症状なら
特に心配する必要がないと思いますが、定期検査をして、白質病変の状態をき
ちんと評価するのが望ましいでしょう。こうした観点から、従来、高血圧・糖
尿病・高脂血症のような基礎疾患がない場合、”あくまでも偶然、見つかった
もの”として、殆ど問題にされてきませんでした。
片頭痛で見られる「白質病変」
ところが、片頭痛患者さんをMRIで脳を検査しますと、このような「白質
病変」が多くみつかるようになり、一部の「頭痛研究者」では重要視されるに
至っております。
そして、このような頭痛研究者は「片頭痛は脳梗塞予備軍」と言って、以下
のように忠告されます。というか脅迫めいたことを言われます。
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片頭痛は 2 ~ 3 日我慢すればそのうち消えて終わる、と考えていませんか?
最近、片頭痛の人は、一般人と比べて脳梗塞を起こしやすいことが分かって
きました。片頭痛の発作を起こすたび、脳血管の内皮細胞に損傷を起こし、繰
り返す頭痛で血管ダメージが蓄積し、脳梗塞を引き起こすのです。発症倍率は、
単純な片頭痛がある方で 2 倍、キラキラした光が見える片頭痛の方で 6 倍、片
頭痛がありタバコを吸うと 10 倍、片頭痛があり低用量ピルを飲むと 2 倍、片
頭痛がありタバコを吸い、低用量ピルを飲むとなんと 34 倍です。片頭痛は注
意が必要な症状なのです。
そして、トリプタン製剤を服用しておれば、このようなことが予防されると
申されておられます。さらに、トリプタン製剤の全く効かない「トリプタン・
ノンレスポンダー」も効かなくても服用すべきと強要されます。
このようなトリプタン製剤が効かない場合、忠告・脅迫されるように、頭痛
の発作を起こすたび、脳血管の内皮細胞に損傷を起こし、繰り返す頭痛で血管
ダメージが蓄積しているはずであり、果たして「脳梗塞予防効果がある」と言
えるのでしょうか?
これよりも、最も問題にすべきことは、このような「白質病変」であるラク
ナは、大半が高血圧を基盤として生じてくるという考え方が一般的でした。
ところが、片頭痛の方々は、高血圧を合併される頻度は極めて少なく、大半
は「もともと、低血圧」の人であるという事実をどのように考えるかというこ
とです。
どうして、このような低血圧の人に「白質病変」を起こしてくるのでしょう
か?
片頭痛におけるラクナ梗塞の発生機序
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動脈硬化は血管内皮から
では、血管の狭窄や閉塞はなぜ起きるのでしょうか?
その多くは血管の動脈硬化を基にして発症します。動脈硬化は多くの因子が
長年にわたり積み重なった結果として起きてきます。危険因子のうち、加齢、
心臓病・脳卒中の家族歴、男性、閉経(女性の場合)は残念ながら自分では避
けられない危険因子です。
一方、喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症は、生活習慣の改善と適切な
薬物療法で解決ないし是正が可能な危険因子です。年齢を重ねるにつれ動脈硬
化は進行します。加えて危険因子が放置されていると実際の年齢よりも早く動
脈硬化が進行することになります。
少し専門的な話になりますが、血管の内側は血管内皮細胞という薄い1層の
膜のような細胞で覆われています。この内皮細胞には2つの働きがあります。
1つは「血液と血管壁が接触して血液が固まる」ことを防ぐバリアーとしての
働き(抗血栓作用)です。もう一つは血管を拡張させる物質を産生して血液の
流れを調節する働き(血流調節作用)です。
動脈硬化はまずこの血管内皮細
胞が傷害されるところから始まります。傷ついた血管の内側には、傷を修復し
ようとしていろいろな細胞が集まります。場合によっては血の固まり(血栓)
もできるでしょう。すり傷を思い出してみて下さい。案外よく似た現象が血管
の中に起きているのかも知れません。血管壁に付着した悪玉コレステロールは
マクロファージという細胞に食べられますが、泡沫細胞として血管壁に残り、
動脈硬化の基ができあがります。
ここで必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6の摂取バランスが重要になってきま
す。
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生体膜は、リン脂質やコレステロールといった脂肪酸やタンパク質などでつ
くられていますが、この脂肪酸は活性酸素で酸化されやすい性質を持っていま
す。
生体膜をつくっている脂肪酸が活性酸素などで酸化される、つまり過酸化脂
質となり劣化します。
この過酸化脂質とは、血液中にある LDL(悪玉コレステロール)のことです。
コレステロールは、リポ蛋白といわれる特別な膜に覆われていますが、この膜
も生体膜と同じ性質をもっています。脂肪を過剰摂取するなどにより、血中で
LDL の増加が続くと、LDL は活性酸素に出くわすチャンスも多くなり、SOD
などの抗酸化酵素や膜にあるビタミン E などでは間に合わなくなり、酸化 LDL
つまり過酸化脂質となるのです。
酸化 LDL(悪玉コレステロールの酸化物)が引き起こすマクロファージの
食べカス(アテローム)が、泡沫細胞として血管壁に貼り付くコブとなり次第
に血管を狭めていきます。アテローム性動脈硬化の始まりです。
このように、血管に過酸化脂質が貯まると、血行障害や動脈硬化を招きや
すくなります。
●内皮細胞の“バリア機能”と”活性化機能”
血管病変のメカニズムを知ると、血圧や血糖値、LDL コレステロール値が高
い人は、「このままでは危ないかも・・・」と、不安な気分になってしまうか
もしれません。
しかし、血管は、若返りが可能な器官です。疲れて老化しかけた血管も、セ
ルフケアで強く蘇(よみが)えさせることができ、それによって怖い血管病変も
防げるのです。
その生まれ変わりの鍵を握るのが”内皮細胞”です。血管壁の最も内部に位
置する内皮細胞は、一層の細胞だけが並ぶ薄い層ですが、血管内腔との境にあ
るので、血管内を流れる血液に常に接しています。その為、血液と血管壁の仲
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介者の様な役割を持ち、血管を守り、強くするよう働いているのです。
内皮細胞の主な役割は、“バリア機能”と”活性化機能”の二つに分かれま
す。バリア機能は「防壁機能」とも呼べるもので、血液中に存在する成分が血
管壁内に侵入するのを防いでいます。血液の循環を川の流れに例えると、内皮
細胞は川の水が溢れないように保ち、よどみない流れを促す堤防の様なもので
す。
一方、活性化機能は、内皮細胞自身が作る物質に関係しています。内皮細胞
は防壁となって血管壁を守るだけでなく、血管を健康に保つ為の物質を自らが
産み出し、活用しているのです。その主な物質が”NO(一酸化窒素)”です。
人の体内で産み出される"NO”はとても良い働きをします。これは血管壁に良
い刺激を与え、血管壁を広げる働きをします。
すると血圧が下がり、血管の負担が減ってきます。また、NO が血液中に放
出されると血液が固まりにくくなり、脳梗塞や心筋梗塞の引き金になる血栓が
できにくくなります。その為、内皮細胞が生き生きしていると、血管自体も若
さと強さを保てます。逆に、内皮細胞が疲れていると、本来の役割を果たせな
くなり、血管の老化が早まって、40 代、50 代でも血管病変に襲われます。
つまり、内皮細胞をどうケアするかが、血管ケアの最大のカギとなるのです。
では、内皮細胞の働きによって血管はどう強くなり、血管病変を防げばよいの
でしょうか?
強いバリア機能が回復すると、プラークを形成する
LDL コレステロール等の悪者が血管内壁に入り込みにくくなります。このよ
うな状態が整うと、動脈硬化の初期段階くらいまでであれば、プラークが”退
縮”して
小さくなり、元の生き生きと弾力に富む血管が蘇えってくるのです。
更に、動脈硬化がある程度進んでいる段階でも、内皮細胞が再び強いバリア機
能を持ち始めると、血管内面の傷が“修復”されて、血管が強く蘇えってきま
す。すると、プラークが退縮しないとしても、その表面を内皮細胞の強いバリ
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アが覆っている為、プラークが壊れにくくなり、脳卒中や心筋梗塞の危険がか
なり軽減するのです。また、内皮細胞が若返ると、NO の放出量が増え、血管
が拡張して血圧が下がり、血栓もできにくくなり、血管の健康度がますます高
まるのです。 太い動脈の内皮細胞のケアは、細い動脈の若返りにも有効です。
細い動脈は、太い動脈から枝分かれして臓器の中になどを通っていますが、直
径が 0.5mm 以下と細い為、血管内部にプラークができるのではなく、血管壁自
体が厚く硬くなって老化が進行します。
太い動脈の内皮細胞をケアすると、その効果が細い動脈にも及び、老化が
かなり進行している段階でなければ、血管壁が元の厚さに戻って柔軟になり、
血管自体が若さを取り戻してくるのです。
具体的には・・
ビタミン E は、その強力な抗酸化作用で細胞や細胞内にある核などを包んで
いる膜(生体膜)の劣化を防ぎ、細胞や細胞小器官などが破壊されないように
しています。
ビタミン E は、活性酸素を素早く消去(還元)するように働くと、自身は酸
化されてしまい、活性酸素を消去する働きが無くなってしまします。
しかし、 ビタミン C があると、これが酸化したビタミン E を還元し、再び
抗酸化作用を持つことができます。強力な抗酸化作用を持つビタミン E は、ビ
タミン C と同時摂取することで、さらに高い相乗効果が期待できまるのです。
このような関係は、ビタミン A、セレン、L-システインとの間でもおこなわ
れ、抗酸化ネットワークの要の1つとなっています。
ビタミンB 12 は脳に効くビタミン
脳に効くビタミン食品とは、ビタミンB 12 とビタミンB 1 を中心に含む栄
養補助食品です。とくにビタミンB 12 は、
「脳のビタミン」
「神経のビタミン」
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と呼ばれ、脳神経系の働きに深くかかわることが知られています。
厚生労働省が定めた日本人の栄養所要量によると、ビタミンB 12 の必要量
は、成人で一日 2.4 マイクログラム(1 マイクログラムは百万分の 1 g)です。
しかし、これは欠乏症である悪性貧血や神経障害を起こさないための最低量で
す。
最近では、こうした所要量とはケタ違いに大量のビタミンB 12 を摂取する
ことで、脳神経系にさまざまな効果が認められることがわかってきました。
脳に効くビタミン食品は、ビタミンB 12 を大量摂取するために作られた食
品です。その含有量は、一包中に 1500 マイクログラムです。ちなみに、ビタ
ミンB 12 を大量にとっても、副作用などはないことが確認されています。
それどころか、大量のビタミンB 12 をとることで、人体へのさまざまな効
用が得られます。たとえば、腰痛や、神経痛、手足の痛み、しびれ、うつ状態、
不眠、自律神経失調症の改善などです。
その一つに、隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)もあげられます。ビタミンB 12
には、脳の血流をよくするとともに、脳神経の働きを改善あるいは促進する作
用があります。
同時に、動脈硬化の原因となる活性酸素(ふえすぎると体に害を及ぼす非常
に不安定な酸素)を除去する働きも持っています。
つまり、脳に効くビタミン食品は、二重三重の意味で、隠れ脳梗塞(無症候
性脳梗塞)の予防や改善に役立ってくれるのです。
●NOと酸化ストレス
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一酸化窒素(NO)は、血管内皮で産生される血管拡張因子として見出され
ましたが、その後の研究で、きわめて多彩な生理活性作用を有することが明ら
かにされました.特に、血管に対しては血管拡張作用ばかりでなく、血小板凝
集、平滑筋増殖、内皮細胞への白血球の接着を抑制することによって抗動脈硬
化作用を発揮します。
酸化ストレスは、生体における酸化と抗酸化のバランスが破綻し酸化に傾い
た状態と定義されます。生体において酸化反応を担う主要分子は、スーパーオ
キシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素です。
NO もラジカルの一種であり、スーパーオキシドと同様に不対電子を有して
います。NO の作用は・スーパーオキシドによつて消去されるため、血管壁に
おいてはスーパーオキシドの産生を制御することが NO の血管保護作用の保持
にきわめて重要です.
NO は、ミトコンドリア電子伝達系を障害し、・スーパーオキシドの産生を増
加させます。
一方、最近、血管壁 NO は・スーパーオキシドを消去する細胞外スーパーオ
キシドジスムターゼを増加させ、NO 自身が・スーパーオキシドによる不活性
化を抑制するフイードフォワード機構を有していることも明らかにされまし
た。(日医雑誌 2000;124:1570
からの抜粋)
以上まとめますと、人が老いることを老化していくと一般的には捉えられて
いますが、年を一年一年積み重ねることが果たして老いるということでしょう
か?
そうではなくて実は血管が老化することなのです。
この血管が老化していくことに活性酸素が深く関わっているのです。
活性酸素によって血管が酸化され硬くなり、脆くなる。しかも、活性酸素に
よって酸化されたコレステロールや中性脂肪がたまって血管を狭くしてしまう
のです。
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そこを血栓(血の塊)が詰まれば一巻の終わりです。心臓の動脈が詰まれば
狭心症や心筋梗塞を引き起こします。また、脳で動脈が詰まれば脳梗塞であり、
血管が破れれば脳出血です。
このような血管が老化するという現象は中高年に多く見受けられましたが、
昨今は、若い世代でも活性酸素を体の中にたくさん作るような生活が習慣化さ
れて、早くから血管が老化しているのです。従って、20 代 30 代で既に 40 代 50
代の血管になっている若者が、非常に増加しているのです。まさに老化がこの
世代から始まっているのです。
このことから現在、日本は長寿社会かもしれませんが、これから先 10 年も
すれば日本の平均寿命は 70 代に下がっているかもしれないと予測されるので
す。
人は空気を吸って、体内に酸素を取り入れています。その酸素を使って食物
を体内で代謝させることによってエネルギーをつくり出しているのです。
その役割を果たしているのが細胞内のミトコンドリアです。
ミトコンドリアが酸素を使ってエネルギーを作り出すときに、酸素の一部が
活性酸素になります。
私達の体は 60 兆個の細胞から成り立っています。ですから、この一つ一つ
の細胞が酸素を使って栄養を代謝するたびに活性酸素を発生させているという
ことになります。ということは、人間は生きている限り、活性酸素から逃れる
ことはできないということです。
片頭痛の治療のありかた
片頭痛の治療は、自律神経のセンターである視床下部、自律神経、頭の血管
内皮細胞のミトコンドリアを活性化することがすべてです。
片頭痛の原因となる酸化ストレスによって引き起こされる炎症反応は、感染
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や異物などの外因性のストレスに対しての攻撃機構として活躍します。しかし、
内因性の酸化ストレスが増加・持続するとその炎症が慢性化します。慢性炎症
は自分自身の細胞も傷つけてしまいます。(「酸化ストレス・炎症体質」の形成
を意味します)
ですから、酸化ストレスを減らすことも大切なのですが、一度起こってしま
った慢性炎症(炎症体質)を止める作業も必要となります。これは一度起こっ
た火事は、その火事の原因をストップすることも大切ですが、今燃え盛ってい
る火そのものも消さないことには、私たちの細胞が燃えつくされてしまうのと
同じです。
片頭痛治療の概要は、
1. 酸化ストレスを軽減し、炎症体質をストップする
2. 生活習慣、環境要因を整えることで酸化ストレスに耐性をつくる。
3. ミトコンドリアを活性化する
この治療方針は片頭痛のゴールデンスタンダードです。時間をかけてゆっく
りと「酸化ストレス・炎症体質」を抑え、ミトコンドリア機能異常を正してい
くという自然治療は、体に優しい、自己治癒力を引き出す片頭痛の根本治療で
す。
要約しますと、血管内皮細胞は、微小循環を円滑に維持しています。
ミトコンドリアの活性低下により、酸化ストレスが増加しますと、血管内
皮細胞が障害され、NO の産生が低下し、血管が収縮し易く、炎症を起こし易
く、血栓が形成され易い体質になります。
以上のように「片頭痛と脳梗塞」の関連を考えるべきであり、ミトコンドリ
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アの活性低下が根本的に関与しており、「トリプタン製剤服用」とは全く、無
関係であり、あくまでもこのようなことは、”現象”にすぎないということで
す。
現実に、現在、白質病変を指摘されておられたとしても、これまで記載した
事項を遵守されれ限りは、トリプタン製剤を服用されるかどうかは別の問題と
して、改善され、将来、脳梗塞に至る危険性は全く存在しないということを理
解してもらうのが目的です。
結局のところ、片頭痛発症の原点は「ミトコンドリアの活性低下」にあるこ
とを示された分子化学療法研究所の後藤日出夫先生の”慧眼”に感服しており
ます。
この点を、
「脳過敏症候群」を提唱される方々は、虚心坦懐に自分の「論理」
の見直しを図るべきと思っております。
日本頭痛学会では
最近、片頭痛の人は、一般人と比べて脳梗塞を起こしやすいことが分かって
きました。片頭痛の発作を起こすたび、脳血管の内皮細胞に損傷を起こし、繰
り返す頭痛で血管ダメージが蓄積し、脳梗塞を引き起こすのです。発症倍率は、
単純な片頭痛がある方で 2 倍、キラキラした光が見える片頭痛の方で 6 倍、片
頭痛がありタバコを吸うと 10 倍、片頭痛があり低用量ピルを飲むと 2 倍、片
頭痛がありタバコを吸い、低用量ピルを飲むとなんと 34 倍です。
このため、日本頭痛学会では前兆のある片頭痛を持っている患者に対してピ
ルを服用させるのは禁忌、前兆がない場合でもピルの服用は慎重にすべきと定
めています。
その背景にはピルによって片頭痛が悪化したり、もともとは頭痛がなかった
人に頭痛が出てくる可能性があるからです。
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さらに、脳梗塞が、これまで片頭痛発作時にトリプタン製剤を服用してい
ないと、起こりやすいとか、片頭痛の発作が激しい人ほど起こりやすいといっ
た、ことを「脳過敏症候群」を提唱される先生方はテレビや書籍において大々
的に述べられ、これがあたかも真実のように私達に教え込まれ、片頭痛発作時
には必ずトリプタン製剤を服用することによって、発作頻度を減少・軽減させ
るべきと主張されています。
このような馬鹿な論説を述べられている事実を直視しなくてはなりません。
専門家は、このような見解を持っている事実を忘れてはなりません。
この「片頭痛と脳梗塞」の問題をどのように考えるべきかを明らかにするこ
とにします。
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第1章
動脈硬化とは
動脈硬化予防は若いうちから ―運動と食事で―
誤解されがちな動脈硬化
いったい「動脈硬化」とはなんでしょう。改めて問われてみると、なんとな
くわかっているようで、本当のところはよくわからない、という方が多いので
はないでしょうか。誤解も少なくありません。
動脈の変化は、中高年になってから起こるものだと信じている人が多く、こ
れが最も誤解されている点です。
実は、ゼロ歳の時点ですでに主な動脈に「硬化」の初期病変がみられ、10 歳
前後から急に進んできます。30 歳ごろになると、まさに“完成”された「動脈
硬化」が現れるようになります。
生まれた時から一生つき合わねばならない血管の変化ですが、変化を起こし、
進める「危険因子」を避け、食事、運動などに気をつければ、予防でき、進行
を食い止めることもまた可能です。
生活習慣が欧米化したのに伴って、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心臓病
が年々増えてきました。こうした病気の原因の大部分は、動脈硬化が進むこと
によって起こりますから、この変化を抑え、いかに若々しい血管を保つかは、
-1-
現代人の健康法のイロハのイにあたる大切なことです。
この変化がどうして起こり、どのように進むのでしょうか?
子」は何か?
その「危険因
危険因子と食事療法や運動療法はどう関係するのでしょうか?
血管の仕組みと働き
まず血管の構造と働きの話から始めましょう。
私たちの体は、血管を通じて血液が糖分や酸素など生活に必要なものを運び
込み、その一方で、炭酸ガスや体内でできた老廃物を運び出して処理する仕組
みになっています。
動脈も静脈も、基本的には「内膜」「中膜」「外膜」の3つの層からできてい
ます。
<図1>をご覧いただくとわかるように、血液と接しているのが「内膜」で、
その表面は「内皮細胞」という細胞の層に覆われています。この細胞層は血液
から必要な成分だけを取り込むフィルターの役目をしています。
動脈硬化との関係で特に重要なのは「内膜」と「内皮細胞」です。
内膜の外側の「中膜」には、血管としてのしなやかな弾力性を保つための成
分(平滑筋細胞など)でできた層があります。動脈には、心臓から血液が送り
出されるときの圧力がかかりますから、この層は厚くなっています。一方、静
脈は圧力の低い血流なので、この層は動脈ほど厚くありません。
中膜の外側を囲んでいるのが「外膜」の層で、ここには血管の外から細い血
管を通じて栄養分などが運ばれてきます。
-2-
図1
動脈の仕組み
下の図は、外膜、中膜、内膜の表面の部分を削りとって、それぞれの下がど
んな風になっているか分かるように描いたものです。
心臓を栄養する動脈-冠動脈-と脳動脈
は血管の構造に違いがあります。
冠動脈では内弾性板のところどころに穴
があいており、非連続性です。この非連続
性が冠動脈では中膜の平滑筋細胞が遊走し
て、内膜に侵入しやすくしています。
一方、脳動脈では内弾性板に穴はなく連
続性につながっていて、脳血流関門(脳血
管では脳を守るため、血液と血管の間の物
-3-
質の交通は制限されています)に関係し
ています。中膜は冠動脈では著明に発達
し、血管の活発な収縮・弛緩に深く関係
しているのに対して、脳動脈では比較的
層が薄くなっています。外膜は冠動脈で
は発達しているのに対して、脳動脈では
外弾性板とともにほとんどみられませ
ん。
血管が粥のようになって発病
「動脈硬化」とは「動脈の壁が厚くなったり、硬くなったりして本来の構造が
壊れ、働きがわるくなる病変」の総称です。もともと病理学で使う呼び方で、
病名ではありません。
病理学では2つのタイプに分けていますが、一般に動脈硬化といえば「粥状
動脈硬化」を指す場合が多く、これとは別に細動脈硬化があります。
心筋梗塞や狭心症のひきがねとして、最も大切なのが、内膜に限局性の病変
を作る粥状硬化です。これに対して、細動脈硬化は、直径 0.1 ミリメートル以
下の細い動脈に生じる病変で、脳や腎臓で問題になり、高血圧との関連が重視
されています。
ここではそれを動脈硬化として説明します。
「粥状」とは難しい表現ですが、「おかゆ」か「ヨーグルト」、もしくは「柔ら
かいチーズ」のような状態を思い浮かべてください。
この血管の変化は、内膜や中膜が比較的よく発育した動脈に起きやすいので、
心臓を養う冠状動脈、大動脈、さらに脳、頚部、腎臓、内臓、手足の動脈など
によく起こります。
-4-
内膜の中にコレステロールが蓄積し、次第に脂肪分が沈着して、血管が狭く
なり、血栓、潰瘍をつくる原因になります。これが原因になり、狭心症、不安
定狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、大動脈瘤、腎梗塞、手足の壊死などが起こりま
す。
無症状で進行する
硬化」はどう進むのか、その過程をご説明しましょう。
年齢が高くなるにつれ、
内膜の中にたまったコレ
ステロールを中心とした
脂肪沈着は、やがて「脂
肪斑」と呼ばれる状態に
なります。20 ~ 30 歳ごろ
から始まり、この「脂肪
斑」などが大きくなり、
血管の内側に向かって盛り上がってきますから、50 ~ 60 歳になると血管自体
は狭くなってしまいます。
その結果、スムーズな流
れだった血流と内膜の間に
無理(ストレス)が生じ、
内膜を覆っている細胞(内
皮細胞)が壊れ、血の塊(血
栓)ができます。この塊で血管が詰ると、急性心筋梗塞などの発作として、初
めて症状が現れるようになります。
ですから、症状が自覚できるようになった時は、すでに 20 ~ 30 年に及ぶ沈
黙の「動脈硬化の進行」があったと考えなくてはなりません。硬化は無症状の
-5-
まま進行することをしっかり覚えておいてください。
硬化はどう進むのか
では、動脈の変化はどのように進むのでしょうか。
健康な人の血管の内膜表面を覆っている「内皮細胞」の層は、血液から必要
な成分を取り込み、他の成分は入り込まないようにしていることはすでに説明
しました。このほかに、血液が固まるのを防いだり、血液が内皮細胞にくっつ
かないようにしたりする大切な役目も果たしています。
最近になって、内皮細胞の層でさまざまな物質(生理活性物質)がつくられ、
放出されていることがわかってきました。この細胞の役割は極めて大きいので
す。
<図2>を見てもらいながら、話を進めます。心臓・血管に悪い影響を与え
る高血圧や糖尿病や感染などが刺激になって内皮細胞が傷害されると、血中の
単球(白血球)が内皮細胞にくっつくようになります。さらにこの単球は内皮
細胞の間から潜り込み、「マクロファージ」と呼ばれる状態に変身します。
血液中のコレステロールが多すぎると、この「マクロファージ」が“呼び寄
せ役”になって、脂肪物質がどんどん取り込まれてたまり、内膜が厚くなって
きます。時間の経過とともにこの“呼び寄せ役”自体も壊れて、先に説明した
ように「粥状」になります。
少し難しい説明になりましたが、「高血圧や糖尿病などが刺激になって内皮
細胞が傷つけられると、その部分の血管壁の中に脂肪物質がたまって厚くなり、
“おかゆ”のような状態になる」と覚えていただければ結構です。
図2
粥状硬化ができるまで
-6-
“おかゆ”状病変が崩壊・破綻する時
この“おかゆ”状の病変を「粥腫」といいます。粥腫のなかには、きわめて
脂肪分に富んだものから、脂肪分が乏しく線維性成分が目立つものまで、さま
ざまなタイプがあります。
冠状動脈を断面でみたのが<図3>で、「粥腫」が次第に厚くなり、血栓が
できるまでを示しました。
この病変部分がくずれる(崩壊・破綻)こと自体が、急性心筋梗塞の原因とさ
れています。
崩壊の結果、<図3>のように血栓ができ、それが血管をふさいで急性心筋
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梗塞の起こることが、はっき
りと確かめられてきました。
不安定狭心症の患者さんでも
冠状動脈で血液が固まってし
まうことが認められていま
す。
冠状動脈が詰ってしまう
と、心臓の筋肉に酸素が十分
に送られなくなり、心筋の細
胞は壊死します。
予後の悪い不安定狭心症や
急性心筋梗塞では、冠状動脈
での「粥腫の破綻」と、その
結果できた「血の塊」が原因
であることが明らかになり、
最近では「急性冠症候群」と
呼ばれています。
図3
冠状動脈の硬化はこう進む
とくに問題となるのは、破綻・崩壊しやすい不安定な“おかゆ”状病変です。
その特徴として「脂質の占める部分が多い」ことなど、いくつかの点が病理学
的検査や血管内エコー、血管内視鏡の検査結果からわかってきました。現在、
この病変が破綻しないようにするいろいろな治療法の開発が期待できる段階ま
できています。
逆に「白みがかった脂質と炎症細胞が少なく、厚い被膜を持つ粥腫」は破綻
しにくいといわれています。
では、“おかゆ”状病変の崩壊をどうすれば予防できるのか、何に気をつけ
たらよいのか……。それには、動脈硬化の「危険因子」についてよく知ってお
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き、それらをなくす必要があります。
5つの危険因子
動脈硬化の原因は一つではありません。
この変化を起こしたり、進めたりする条件を「危険因子」と呼んでいますが、
その中には「男性であること」「齢をとること」のように、自分ではどうにも
ならないものから、
「高血圧」
「高脂血症」
「喫煙」
「肥満」
「糖尿病」
「ストレス」
などのように、自分の意志次第でコントロールできるものもあります。
こうした危険因子を多く持つ人ほど、動脈硬化が加速度的に速まることがわ
かっています。危険因子の中でも「高血圧」
「高脂血症」
「喫煙」は特に重要で、
3大危険因子になっています。
米・マサチューセッツ州のフラミンガムで、危険因子と心臓病の関係を明ら
かにするための疫学調査が行われました。その結果、<図4>のように、総コ
レステロールに高血圧、喫煙、耐糖能異常(糖尿病)、さらに心電図異常(左
室肥大)が加わるにつれ、心筋梗塞や狭心症など“心臓事故”の頻度が高くな
っています。
図4
危険因子が重なるにつれ“心臓事故は増えていく”
(フラミンガムでの調査)
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(1)高血圧
アメリカでは、高血圧を「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼んで
います。静かに忍び寄ってきて、やがては心筋梗塞や狭心症の下地になりかね
ないことを警告しています。
高血圧は、細い動脈の硬化を促すだけでなく、より太い動脈に生じる硬化も
進める重大な危険因子です。塩分の取り過ぎや肥満で血圧が高くなっていくの
は、皆さんよくご存じのことです。
動脈硬化が進みやすい血圧は「収縮期血圧が 140 mmHg以上、拡張期血圧
が 90 mmHg以上の場合」で、血圧が高いほど脳梗塞や心臓病などにかかる
リスクは当然、高くなります。
心臓のポンプ作用を反映する収縮期も、血管の抵抗性を示す拡張期の血圧も、
同じように動脈硬化に影響を与えています。
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(2)高脂血症
血液中の脂肪が高い「高脂血症」も強い危険因子です。脂肪分のうち増える
と動脈硬化を促すのは、総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、
高トリグリセライド(中性脂肪)血症、Lp(a)、レムナントなどで、反対
に減ると動脈硬化を進めるのはHDL(善玉)コレステロールです。
厚生省の発表によると「総コレステロール値は 220 mg/dl以上、LDL(悪
玉)コレステロール値は 140 mg/dl以上、またHDLコレステロール値は 40
mg/dl以下」になると、狭心症や心筋梗塞の合併が増えるとされています。
(3)喫煙
1日 20 本以上の喫煙者では、虚血性心臓病の発生が 50 ~ 60 %も高くなり
ます。喫煙は、がん、肺や消化器などの病気だけでなく、狭心症、心筋梗塞、
脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といった動脈硬化性疾患の発症を促す強力因子です。
さらに悪いことに、喫煙はほかの危険因子にも影響し、総コレステロール値、
LDL(悪玉)コレステロール値を高め、逆にHDL(善玉)コレステロール
値を下げますから、二重のリスクをもたらすのです。
喫煙で血が固まりやすくなり、血栓症を起こす危険も高まります。血管も収
縮しやすい状態になります。動脈硬化の予防・治療にまず禁煙が必要なのはい
うまでもありません。
喫煙者だけでなく、そばにいて、たばこの煙を吸わされる「受動喫煙者」に
も健康被害を与えていることをよく知ってほしいのです。
(4)肥満
肥満の程度を示す指標としてBMI(ボディ・マス・インデックス)があり
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ます。次の式で簡単に求めることができますから、時々チェックして正常体重
にするよう努力してください。
BMI値=体重(Kg)÷[身長(m)×身長(m)]
例えば、体重 65 キロ、身長 170 センチの人ですと 65 ÷[1.7 × 1.7]で、B
MI値は 22.5 となります。
日本肥満学会の基準では、19.8 ~ 24.2 は「正常範囲」、24.2 ~ 26.4 は「過多
体重」、26.4 以上は「肥満」としています。
肥満した人は血液中の脂肪が過多になりやすく、さらに高血圧、高尿酸血症、
糖尿病などを合併しやすいので、ほかの危険因子にも大きな影響を及ぼします
から、あなどれません。例えば、肥満が進むと収縮期、拡張期とも血圧が明ら
かに上昇します。
(5)糖尿病
糖尿病の発症には、遺伝的な素因も関係しますが、生活習慣、とりわけ過食、
運動不足、飲酒など、心がけ次第で改善できる習慣が大きく影響しています。
患者さんには、首の動脈の肥厚、脳血管障害、虚血性心臓病、大動脈硬化、
足の閉塞性動脈硬化症などが、糖尿病でない人に比べ高頻度に、しかも全身に
わたって起こりやすくなります。
糖尿病になると、ほかの危険因子、とくに高血圧、高トリグリセライド血症、
低HDL血症などがしばしば起こるようになります。
こうみていくと、危険因子は相互に関係しており、因子が増えれば雪ダルマ
式にリスクが高まる反面、一つでも因子を減らせば、よい影響も雪ダルマ式に
広がります。治療にも予防にも5つの危険因子を減らすことがいかに重要な意
味をもつか、おわかりいただけたと思います。
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硬化を促す5つの危険因子
○高血圧
○高脂血症
○喫
煙
○肥
満
○糖尿病
悪い生活習慣の改善を
動脈硬化について、みなさんにぜひ知っておいていただきたい点を説明して
きました。
『薬を飲んでいるから大丈夫』と思い込んでいる人が案外多いのですが、こ
れは間違いです。病院で渡された薬だけを頼りにして、病気のことや毎日の生
活習慣について無頓着であれば、薬の効果はどんどん帳消しになってしまうの
です。
病気についての理解と知識は欠かせません。それらを身につけるには“がん
ばり”が必要です。生活習慣が循環器病の多くをつくりだしているのですから、
食事や運動についての知識と実行力を発揮して、生活習慣を変えることができ
れば、動脈硬化による病気は予防できます。
こうした点をよく理解して、がんばりと根気を長く、いつまでも続けてほし
いのです。
- 13 -
第2章
脳梗塞とは
脳卒中(脳血管障害)とは、脳の血管が詰まったり、破れたりするために起
こる病気すべてを含みます。
脳梗塞は脳卒中の一種で、脳に血液を供給している動脈や、ごくまれに脳か
ら不要物を運びだす静脈が詰まって
起こるものです。脳の血管が極端に
狭くな
ったり詰まったりすると、その場所
から先に血液が流れなくなり、脳が
生きていくのに最も必要な酸素やブ
ドウ糖が行き渡らなくなります。脳
はほかの臓器に比べて、とくに大量の酸素を必要とするので、わずかな酸素不
足でも脳細胞は働きが鈍り、この状態が長く続くと脳細胞の一部は死んでしま
- 14 -
います(壊死(えし))。
脳に血液が行き渡らなくなる原因の多く(約 70%)は、広い意味の「動脈硬
化」ですが、心臓病が原因になること(約 20%)もあります。それ以外に、血
管炎、膠原病、血液疾患、原因のまったくわからないものなどが、約 10%を占
めています。
動脈硬化が進んで次第に血管の内側が狭くなり、血液の流れが悪くなると、
そこに血栓ができ、最終的に詰まってしまいます。また、心臓病があると心臓
のなかに血栓ができやすく、それがはがれて大動脈から脳動脈に流れ込んで詰
まってしまうこともあります。これを「心原性脳塞栓」と呼びます。
一方、動脈硬化が原因となる脳梗塞は、細い動脈が原因となる「ラクナ梗塞」
と、大きな血管が詰まってしまう「アテローム血栓性脳梗塞」の 2 つに分けら
れます。
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ここではまず脳梗塞のいくつかの種類について、簡単に述べてみます。
■種類
1)ラクナ梗塞
ラクナ梗塞は日本人(東洋人)に多いタイプで、脳の深い部分に血液を供給
している細い動脈(直径 100 ~ 300 ミクロン、穿通枝の異常によって起こるも
のです。1 本の穿通枝が詰まると壊死に陥る範囲は最大でも 1.5cm を超えない
ことから、脳の深い部分にできた直径 1.5cm 以下の梗塞をラクナ梗塞と呼びま
す。
ラクナとは
ラテン語で“小
さなくぼみ”と
いう意味です。
高血圧のため
に極端に血管
の壁が厚くな
った動脈や、
血管壊死が修
復されて詰ま
った動脈が原因となります。
このラクナ梗塞では、侵される範囲が狭いため、症状も大部分は片マヒ(半
身不随)や感覚障害(感覚の低下、しびれ感など)のみで、比較的軽いことが
多く、意識障害を起こすことはまずありません。1 回だけの発作では大きな後
遺症を残すことは少ないのですが、繰り返しラクナ梗塞が起こると、血管性痴
呆(注 4)やパーキンソン症候群などを起こしてくることもあります。
- 16 -
2)アテローム血栓性脳梗塞
首の前と後ろに左右対になって走っている大きな動脈(頸動脈)と椎骨動脈
などや、脳の表面を走っている大きな動脈(中大脳動脈など)の動脈硬化が原
因となって起こるタイプです。
動脈硬化で動脈が
狭くなるにはかなり
の期間がかかります
ので、その間にほか
の動脈から側副血行
路ができていること
が少なくありませ
ん。そのため、大き
な動脈が詰まってい
ても、症状は軽く、CT(コンピュータ断層撮影)画像でみる病巣も大きくない
ことがあります。
- 17 -
この動脈硬化の進行には、高血圧、糖尿病、高脂血症などが強く影響します。
側副血行路動脈硬化で狭くなったり詰まったりすると、血液の流れを補うた
めに普段は使われていない周辺の動脈を通じて自然にバイパスができる。副血
行路とも呼ばれる。
3)心原性脳塞栓
心臓のなかにできた血栓がはがれ、脳の動脈に流れ込んで詰まってしまうタ
イプの脳梗塞です。正常な心臓のなかでは血液が固まって血栓ができるような
ことはありません。ところが心臓病があると、脈が乱れたり、心臓の動きが悪
くなったり、また、心臓の内膜が傷ついて血栓ができやすくなります。血栓が
できやすい心臓病としては、リウマチ性心臓病、心房細動、心筋症、急性心筋
梗塞などがあります。最近では高齢の人が増えて、心房細動が原因となる心原
性の脳塞栓が増えています。
心原性脳塞栓では、それまでまったく正常に流れていた動脈が突然詰まり、
- 18 -
血液の流れが途絶えてしまうので、側副血行路ができる余裕がありません。し
たがって、詰まった動脈から血液を供給されていた脳の部分の血液循環が、全
体的に極端に悪くなります。そのため、梗塞に陥った部分が大きく、脳の表面
にまで及ぶことが少なくありません。
これを反映して、症状は“晴天の霹靂(へきれき)”と表現されるくらいに突
然起こり、それもかなり強いマヒや感覚障害、それに多くは失語症や半側空間
無視といった大脳皮質の損傷による症状が現れます。意識障害もほかの梗塞の
種類に比べて強いことがしばしばです。
心臓から流れてきた血の塊(栓子(せんし))は脳の動脈の狭い部分に引っ
かかりますが、人の体はそれに反応して栓子を溶かそうとする働きが活発にな
ります。そのため、脳の動脈に引っかかった栓子の大部分は、数時間から数日
のうちに溶けて小さくなり先のほうへ移動するか、完全に溶けて流れ去ってし
まいます(再開通)。脳梗塞ができあがる前にこのようなことが起こると、症
状は劇的に改善します。しかし、脳梗塞ができあがってから再開通すると、血
管ももろくなっているために血液が漏れでたり、破れて出血してしまいます。
これが出血性梗塞と呼ばれるものです。このことも症状を悪化させる 1 つの原
因になります。
これまで脳梗塞の種類についておおまかに述べましたが、つぎに動脈が原因
となる脳梗塞がどのようなメカニズムで起こるかについて、簡単に説明します。
■脳梗塞の起こり方
脳動脈に関しての動脈硬化の種類は大きくは2つに分けられます。
粥(じゅく)状硬化と細動脈硬化(さいどうみゃくこうか)の2つです。
主幹脳動脈(内頸総脈、中大脳動脈、後大脳動脈、脳底動脈)に起こる動脈
硬化は冠動脈と似た粥状動脈硬化病変です。
動脈硬化が進むと、動脈の内部の壁にコレステロールを主体としたアテロー
ム(粥腫(じゅくしゅ))ができて、内側に向かって突き出してきます。この
- 19 -
ために動脈のなかが狭くなるのですが、多くはアテロームの表面が傷ついてき
て(潰瘍性アテローム)、そこに血栓ができてしまいます。またアテロームの
なかで出血したり、破れてしまうこともあります。
細動脈硬化は、直径 0.1 ミリメートル以下の細い動脈に生じる病変で、脳や
腎臓で問題になり、ラクネ脳梗塞の原因となる動脈です。
■細動脈硬化(さいどうみゃくこうか)
心臓を出た動脈は、何段階にも枝分かれしてだんだん細くなり、最後は顕微
鏡で見なければ見えない毛細血管になります。この毛細血管になる一歩手前の
動脈が細動脈で、直径が 100 ~ 200 μ m(マイクロメートル)(1 μ m は、1m
の 100 万分の 1)くらいの太さです。
この細動脈は、吻合をもたない動脈で、終動脈といいます。
この細動脈が低栄養状態だと、血管壁成分が弱く、高血圧、高食塩食などに
より、血液中のいろいろな成分がしみ込んで変質し、こぶのような動脈瘤(ど
うみゃくりゅう)ができたり血栓(けっせん)ができたりするのが細動脈硬化
- 20 -
です。
血栓がつまり、その先へ血液が流れなくなったり(梗塞(こうそく))、変質
した細動脈が破れて出血したり(小動脈瘤破裂(しょうどうみゃくりゅうはれ
つ))することもあります。
このような合併症が、脳の細動脈におこって、脳軟化症、認知症の原因にな
ることがありますし、目の網膜(もうまく)の細動脈におこって視力障害をお
こすこともあります。
この細動脈硬化は、食塩の摂取量が多く、たんぱく質の少ない食生活を送っ
ていた時代におこりやすいもので、これが破裂して脳出血の原因になっていま
した。たとえば、お米の御飯と漬物だけで食事をすませてしまうような人に脳
出血が多く見られました。これが以前の実態でした。
しかし、最近では、食生活も欧米化され、高タンパクで、脂肪の摂取量も比
較にならない多くなったことから、細動脈でも粥(じゅく)状硬化と同様に機
序で動脈硬化を引き起こしてきます。
細動脈は毛細血管へ行く血液の量を調節する機能がありますが,この動脈が
硬化した状態で,血行障害を起こします。
これが隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)の原因になってきます。
しかし、こうした隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)で、致死的になることはあ
りませんが、認知症やパーキンソン病の原因にもなってきますので注意が必要
です。
CTの画像診断がなかった時代
脳梗塞の診断は、CTの画像診断がなかった時代には、文部省研究班の診断
基準や一部の施設では「脳血管撮影の所見」に基づいて行われておりました。
このような「脳血管撮影」を基にした診断基準によった場合、6割前後は血
管撮影上閉塞所見が確認されますが、あとの4割前後が閉塞所見を確認できず、
この意味合いをどのように考えるかが問題になっておりました。
- 21 -
ところが、急性期脳卒中診療
に、CTという画像診断が導入
されることによって、このよう
な閉塞所見のない脳梗塞をCT
で撮影しますと、ラクーネが確
認されるようになりました。こ
うしたラクーネは、大半は、基
底核・内包領域に限られていま
した。
この点は勝木、朝長らが大
脳基底核は中および前大脳動
脈からの外側線状体動脈およ
び Heubner の動脈など典型
的な逆行性分枝を示す血管で
養われており、このことが基
底核領域に脳血管病変を生じ
る理由とされていました。
このような血管構築学的特
性と、病理学的にこの血管に
高血圧性病変が最も起こりや
すいことで説明づけられてお
りました。
このようにして「ラクナ
梗塞」の概念が確立されました。当然、このようなラクナ梗塞の基礎疾患とし
て、高血圧症・糖尿病・高脂血症の存在が必須と考えられていました。
その後、MRIが導入されることによって、基底核領域以外の放線冠領域
にも、CTでは描出不可能なラクネが見つかるように至りました。
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以上のように、ラクナ脳梗塞は、穿通枝系の細動脈硬化によるものであり、
場所も大脳基底核・内包領域に認められるとの考えが一般的でした。
その後、MRIが導入されることによって、基底核領域以外の放線冠領域に
も、CTでは描出不可能なラクネが見つかるように至りました。
MRIで描出される「白質病変」
脳は表層の皮質と深部の白質から成ります。白質病変では、いくつかの疾患
や病態が考えられますが、中高年者においてコンピューター断層撮影(CT)
や磁気共鳴画像装置(MRI)検査で偶然見つかる病変のほとんどは、部分的
に血液が行き渡らなくなる虚血性病変です。代表的なものは、先程から述べて
いる小さな脳梗塞で、
「ラクナ梗塞」と言います。ほかに、広範囲に及んだり、
深部にできたりする白質病変もあります。場所によっては、全く神経症状を呈
することなく、「脳ドック」などで偶然発見される病変です。
所謂、隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)のことをさしています。
その大部分は、細い血管が詰まってできる小血管病に分類されます。白質
病変が数個のうちは多くは症状が出ず、無自覚です。進行して白質病変が増え
ると、ふらつきや、ちょこちょこと少しずつしか足が前に出ないような歩行の
異常、声がうまく出せない、認知機能の低下などの神経症状が起こりやすくな
ります。
危険因子は高血圧や糖尿病、不整脈の心房細動などですが、高血圧が最もよ
くありません。白質病変を進行させないためには、日ごろの血圧管理をはじめ、
持病の悪化を防ぐ生活習慣の見直しが大切です。
危険因子がほとんどない人は、悪化の危険性は低いと考えます。無症状なら
特に心配する必要がないと思いますが、定期検査をして、白質病変の状態をき
ちんと評価するのが望ましいでしょう。こうした観点から、従来、高血圧・糖
尿病・高脂血症のような基礎疾患がない場合、”あくまでも偶然、見つかった
- 26 -
もの”として、殆ど問題にされてきませんでした。
片頭痛で見られる「白質病変」
ところが、片頭痛患者さんをMRIで脳を検査しますと、このような「白質
病変」が多くみつかるようになり、一部の「頭痛研究者」では重要視されるに
至っております。
片頭痛でみられる脳梗塞は、後頭葉や小脳に多いのが特徴とされます。
このような脳梗塞は、ラクナ脳梗塞のタイプです。
このような脳梗塞は、前兆として閃輝暗点を伴うものが多いことから、片
- 27 -
頭痛発作時の後頭葉の血流不全が繰り返されることが関係しているのではない
かと推測されているようです。
そして、片頭痛の発作が激しい程、
このような脳梗塞がみられる頻度が高
いとされます。
冠動脈疾患や脳血管障害があれば、
トリプタン製剤は使用禁忌とされま
す。
逆に考えれば、潜在的に動脈硬化が
存在するところに、血管収縮薬であるトリプタン製剤を服用することにより、
ラクナ脳梗塞を発生させないとも限りません。
- 28 -
これよりも、最も問題にすべきことは、このような「白質病変」であるラク
ナは、大半が高血圧を基盤として生じてくるという考え方が一般的でした。
ところが、片頭痛の方々は、高血圧を合併される頻度は極めて少なく、大半
は「もともと、低血圧」の人であるという事実をどのように考えるかというこ
とです。
どうして、このような低血圧の人に「白質病変」を起こしてくるのでしょ
うか?
片頭痛におけるラクナ梗塞の発生機序は、血管内皮細胞の観点から考えるべ
きものです。このことは、次に述べていくことにします。
- 29 -
第3章
血管内皮細胞
血管の役割とはなんでしょうか?
人間の身体は約 60 兆個の細胞からなり、神経細胞を除く全ての細胞は 約 3
年間で生まれかわっていると言われています。
血管は、全身を隈なくめぐり、その中を流れる血液によって、さまざまな
臓器、組織に酸素、栄養が供給され、組織、細胞から出された二酸化炭素、
老廃物が肺臓、腎臓、肝臓に休みなく眠っている間でさえ運ばれています。血
液はそればかりではなく、体内の水分と体温を調節し、感染から守り 出血時
の止血の働きもしています。
その血管の長さは、地球の 2 周以上の約 9 万 km あり、その内腔の総面積は、
6畳間換算で約 300 部屋、テニスコート換算で約6面にも相当する 3,000 ㎡
に達していると言われています。 そして、その重さは、成人の場合で体重の
約 3 %にもなります。
- 30 -
そうなのです血管は、大変重要な役割をはたしている臓器なのです。 そし
て、残念なことにこの重要な臓器にも障害が起きます。 その 1 つが年齢と共
に進む「動脈硬化」です。
では、次にその動脈硬化がどの様に発生するのかを見てみましょう。
動脈硬化がどの様に発生するのかを見てみましょう
動脈の構造から見ていきましょう。
動脈は、内膜、中膜、外膜という 3 つの層からできています。
・内膜は一層の血管内皮細胞でおおわれています。
この血管内皮細胞は種々の血管作動物質を放出し,血管の収縮・拡張を調節
するほか、血小板の粘着,凝集を抑制し血管の保護をしています。
- 31 -
・中膜は血管壁の収縮や拡張の運動を支える筋肉で
できています。
・そして、外膜は血管壁を外部から守っています。
では、比較的太い血管に起きる動脈硬化(アテロ
ーム性動脈硬化)の様子を見ていきましょう。
血液の中には全身の細胞に必要なコレステロールを送り届ける大切な役割を
担ったLDLが存在しています。LDLは動脈硬化の原因ともなるので、悪玉
コレステロールとも呼ばれています。
一方、血管は、血圧が高かったり喫煙することで一番内側の細胞、血管内皮
細胞が傷つけられてしまいます。そしてLDLがその隙間から内膜の内側に入
り込んでいくのです。
内膜の内側に入り込んだLDLは、やがてフ
リーラジカルの一種、活性酸素の働き(酸化ス
- 32 -
トレス)によって酸化され不要な物質に変化してしまいます。
すると白血球が活動を始めます。体の免疫システムが働きだすのです。
不要な物質へと変化した酸化LDLを取り除くため、血液中の白血球の一種
である単球が内膜の内側に入り込んでいきます。
そして、この単球は内皮細胞の間から内膜に潜り込み、体の掃除役を担うマ
クロファージ(大喰細胞)と呼ばれる状態に変身し、次々と酸化LDLを自分
の中に取り込んでいきます。
大量の酸化LDLを取り込んだマクロファージはやがて死に、後にはコレス
テロールの塊が残ります。
こうしてアテローム(粥状)プラークが発生しアテローム性動脈硬化が静か
に進行します。そしてアテロームプラークの増加により血管内径が細くなり血
- 33 -
流の減少や、プラークの破綻により血栓ができ心筋梗塞や脳梗塞にもつながる
のです。
動脈硬化は老化現象か
「動脈硬化は年をとれば誰もが経験する“老化現象”」と簡単に考えられがち
ですが、実際は 10 代より始まり加齢により徐々に進行していき、30 代からは
進行が早まります。
多くの人で調べた脳動脈硬化の平均値は、高齢になるほど高くなりますが、
- 34 -
注目すべき点は、「個人差も大きくなる」ということです。つまり生活習慣な
どの要因により動脈硬化の進行が早まることが考えれれています。そして近年、
早い方では 40 代から、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などの重大な病気を起こす
のです。
では、この脳血管疾患や心疾患はどれくらいの割合で起こっているのでしょ
うか? 日本人の死因を見てみましょう。
動脈硬化がどれほど怖い病気か本当にご存じですか?
厚生労働省が発表した「平成16年度人口動態統計の概況」によると日本人
の死因トップ 3 は、
1位
癌
:31.1%
2位
心疾患
:15.5%
3位
脳血管疾患
:12.5%
ここで「心疾患」と「脳血管疾患」は共に血管障害からの病なのです。そう
なのです、血管障害が癌にも匹敵する死因となっているのです。
最近よく耳にするメタボリックシンドローム。自覚症状が少ないため、つい
放置してしまいその結果、心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる病気になったり、
助かったとしてもその後遺症で寝たきりや不自由な生活を強いられることとな
ります。どうでしょうか?あなたは不自由な老後を過ごしたいですか? もちろ
んそんな方はいらっしゃらないはずです。
では、どうすればいいのでしょうか?
生活習慣の改善がとても大切なのです
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誰もが望む健康な老後、そんな健康長寿社会のためには当たり前の答えなの
ですが生活習慣の改善がとても大切です。世界に誇れる長寿国の日本で健康長
寿を全うするために、常に血管の健康に気をつけて頂きたいのです。
「生活習慣の改善?そんなこと分かっているよ。でも、それができないんだ
よね。」とか、「自覚症状が無いし、親族にも糖尿病はいないから大丈夫」とい
う声が聞こえてきそうです。確かに健康診断の結果、「血圧が高い」、「内臓脂
肪が多い」と言われてもなかなか生活習慣を改善できないのが現状ですね。
動脈硬化はまず血管内皮機能低下から
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前にも書きましたが、動脈硬化の進行
には個人差があります。この個人差は血
管がイキイキしているかで決まります。
血管の構造を見てみましょう。
動脈は内膜、中膜、外膜の 3 層構造からなっています。
内膜は一層の血管内皮細胞でおおわれています。この血管内皮細胞は種々の
血管作動物質を放出し,血管の収縮・拡張を調節するほか、血小板の粘着,凝
集を抑制し血管の保護をしています。
中膜は血管壁の収縮や拡張の運動を支える筋肉でできています。
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そして、外膜は血管壁を外部から守っています。
動脈硬化は、血管内膜にある一層の内皮細胞の機能が低下することから始ま
ります。弱った血管内皮細胞の隙間からコレステロールが入り込んでしまうの
です。そうなのです。血管内皮細胞が弱ると動脈硬化が年齢相応よりも速く進
行してしまいます。
では、血管内皮細胞が弱る原因は何
なのでしょうか?
それは、良くない生活習慣(偏った
食事、喫煙、運動不足など)、高血圧、
脂質異常、高血糖が危険因子といわれ
ています。
改めて、血管内皮機能
血管内皮機能は、文字通り、血管内皮細胞の機能のことです。血管内皮細胞
は、我々の全身をめぐる血管の最内層にある細胞で、血管の健康状態を維持す
るのに非常に重要な役割を果たしています。血管内皮細胞は一酸化窒素(NO)
やエンドセリンなど数多くの血管作動性物質(血管に働きかける因子)を放出
- 38 -
しており、血管壁の収縮・弛緩(血管の硬さ・やわらかさ)をはじめとして、
血管壁への炎症細胞の接着、血管透過性、凝固・線溶系の調節などを行ってい
ます。
血管内皮機能は、高血圧や糖尿病、脂質異常
症、肥満などに加え、最近話題のメタボリック
シンドロームなど、様々な生活習慣病によりそ
の機能が低下します。血管内皮機能が低下した
状態が続けば、動脈硬化の進展、さらにはプラ
ーク(粥腫)の不安定化を引き起こします。し
かし、この動脈硬化の初期段階である血管内皮機能の低下は可逆的であること
から、この血管内皮機能の低下した状態を早期に発見し、さらにはその機能を
高める介入をすることができれば、動脈硬化の予防につながります。ここに、
血管内皮機能を改善する機能性食品を開発する意義、そして、その血管内皮機
能を臨床的にしっかりと評価する意義があります。
- 39 -
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血管内皮機能の維持・改善の重要性
血管内皮細胞の機能
血管は、内膜、中膜、外膜の 3 層か
らなり、このうち血液に直に接してい
るのが内膜です。かつては、中膜にあ
る平滑筋の研究が重視されていたのに
対し、内膜は単なる壁の役割しか果た
していないと考えられていたため、研
究があまり行われていませんでした。しかし、内膜を構成する血管内皮細胞か
ら血管を弛緩させる物質が放出されていることがわかり、大きな注目を集める
ようになりました。この物質は内皮依存性血管弛緩因子と呼ばれ、この本体が
一酸化窒素(NO)であることが確認されています。これは 1998 年にノーベル
医学・生理学賞を受賞するほど、医学的に大変画期的な発見でした。
NO は、血管の収縮や拡張をコントロールし、血圧や血液の体内分布を調整
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する重要な役割を担っています。また、白血球やマクロファージなどが血管内
皮に付着して、血栓が形成されるのを防ぐバリアとしての機能も持っています。
しかし、酸化ストレスや酸化 LDL があると、血管内皮細胞の障害が起こり、NO
の産生が抑制されます。そのため、喫煙者や高コレステロール血症、糖尿病、
そこから進行した虚血性心疾患の方などは、NO の産生量が低下していると考
えられます。また、高血圧が血管内皮機能に影響することも明らかです。内皮
機能が障害を受けて血圧が高くなり、それによってまた内皮機能が障害される
という悪循環が起きていることも考えられます。こうした要素が重複した状態
であるメタボリックシンドロームの患者も、内皮機能障害は進んでいるでしょ
う。血管を若々しく保つためには、血管内皮機能を正常に保つことが重要です。
予防へ生かす新しい取り組み
さまざまな病気を引き起こす原因として知られる動脈硬化も、血管内皮機能
の低下から始まるといわれています。血管内皮細胞が障害を受けることで NO
- 42 -
の放出が少なくなり、血管が収縮しやすくなって、動脈硬化が促進されると考
えられています。
血管内皮機能の低下は病気と診断される前段階においても起こるため、健康
診断などに取り入れれば、病気の予備群を早期に発見することも期待できます。
現在、日本循環器学会では、血管内皮機能の測定方法を標準化するための検
討を行っています。多くの人を短時間で測定する必要がある健康診断では、超
音波を使って腕の血管の拡張具合を調べる検査が適しているのではないかと考
えられますが、簡便であるがゆえに誤差が生じやすいという欠点があります。
このほかにも測定方法はいくつかありますが、定量化や簡便さなどで一長一
短があり、まだ統一には至っていません。しかし近い将来には、循環器疾患の
危険性を早い段階で診断できる有用なツールとして、大いに活用されるのでは
ないかと思います。また、血管内皮機能の測定値を血圧や血糖などと合わせて
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検討することで、より対象者に合わせた健康の支援につなげられるでしょう。
温熱による血管内皮機能への効果
血管を若々しく保つために一番効果的なのは、運動を行うことです。運動を
継続して行うと、血管内皮機能が改善されます。恐らく、運動によって血液量
が増え、NO も増えるということを繰り返すことにより、NO が産生されやすく
なってくるのではないかと考えられます。
これと同様の効果は、入浴でも期待できます。心臓疾患を持つ患者などでは、
入浴療法は禁忌と考えられていましたが、適切な方法を用いれば温熱による血
管内皮への効果が期待できます。私たちのグループでは、慢性心不全の患者さ
んに 1 日 10 分程度、2 週間(週に 5 日間以上)継続して 40 度の温泉に入浴し
てもらい、治療効果を検討しました。その結果、入浴により体を温めることで、
慢性心不全の自覚症状の改善や、脈派伝達速度(血管が硬いと速くなる)の低
下、NO 合成酵素を阻害する物質の低下が認められました。また、血管の拡張
や血流の増加も見られ、血管内皮機能が向上したことも示唆されました。温熱
により血管が拡張することで血流が速くなり、それが血管を刺激して NO の産
生が増加したと考えられます。
この実験は、医師や看護師の管理のもと、安全面を考えて 1 日の入浴時間を 10
分間として行いました。心臓に疾患を持つ患者さんが家庭で同様のことを行う
のは難しいかもしれませんが、半身浴でも十分なので、気持ちいいと感じる温
度でしっかり温まること、また入浴した後も保温をしっかりすることに気をつ
ければ、少ないリスクで効果を得られると思います。
私は、入浴はさまざまな健康効果が期待できる非常に良い習慣だと考えてい
ます。入浴には、単に体を清潔にしてリフレッシュするだけではない、プラス
の効果が考えられます。今後は温泉だけでなく一般の温水入浴での効果なども
検討し、温熱の有効性を確立していくとともに、臨床に還元できるような研究
をさらに行っていきたいと思います。ただし、この知見はまだ研究段階であり、
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病気の状態は個々人で違いますから主治医の先生に相談されることをお勧めし
ます。
日常生活における改善のための取り組み
血管内皮機能を維持・改善するためには、食事面でのコレステロール、血糖
などの調節も重要です。また、体内の酸化ストレスを下げるポリフェノール(コ
コアやカテキンなど)や、ビタミン C、ビタミン E、魚に含まれる脂肪酸など
を摂取することでも、血管内皮機能への効果が期待できます。現在、カテキン
摂取による改善効果の研究が行われています。
また喫煙も、血管内皮に大きな影響を与えます。喫煙直後は血管内皮機能の
検査をしても反応が出ないほどです。しかし、喫煙によって低下した機能は、
早期にたばこを止めることでかなり改善しますので、血管内皮機能が低下して
いる方は、たばこの本数を減らすだけでなく禁煙を心がけてほしいと思います。
動脈硬化の進行は、若いころから始まっています。特に現在の若年・中年世
代は、高齢世代と違い、食事の欧米化などで若いころからリスクにさらされ続
けています。仕事や家事が忙しく、なかなか生活習慣の改善を行えずにいる方
も多いと思いますが、大切な自分の命に関わることですので、がんばって取り
組んでほしいと思います。そのためには、専門知識を持った医療従事者や保健
師、栄養士などが繰返し注意をして、自覚を促していくことも大切です。病気
になってから後悔することにならないよう、医療・保健従事者が未然に食い止
める役割を果たしていかなければなりません。地道な啓蒙活動と指導は、必ず
実を結ぶと思います。
文献
Kudo Y., Oyama J., et al., J Jpc Soc Balneol Climatol Phys Med., 71, p.234-241,
2008.
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第4章
血管の内膜である”細胞膜”
私たち生物は基本単位である細胞で構成されていますが、体の乾燥重量(水
を除いた成分の重量)の数割(3 ~ 5 割)は脂質です。細胞の中で、脂質はど
こに存在するのでしょうか?
脂肪細胞では、脂質は細胞内の油滴に蓄えられています。しかし、このよう
な例外を除くと脂質は、細胞膜に含まれています。細胞膜とは一つ一つの細胞
を区切る仕切りのようなものであり、脂質がなければ細胞は形を作ることがで
きません。
このように、脂質は細胞膜としても重要な役割を持っています。
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血管の内膜である生体膜の構成・・・脂肪酸の種類の違い
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脂肪酸は体を構成している約 60 兆個の細胞の膜と、細胞内のミトコンドリ
アなどの小器官の膜をつくるのに使われています。体の働きを行う酵素は、細
胞膜の助けを借りて働いています。また細胞膜は物質輸送の場でもあります。
細胞膜には食べた脂肪酸がそのまま使われますので、どのような種類の脂肪
酸を含む脂質を食べたかにより、細胞膜の状態が大きく異なり、細胞の働きが
左右されます。
例えばミトコンドリアで働く酵素はリノール酸型の脂肪酸により膜に支えら
れていますが、もし、これがリノレン酸型などの他の脂肪酸だと酵素は膜から
離れてしまい、エネルギーをつくることができません。
神経細胞はナトリウムイオンとカリウム
イオンを入れ換えることで神経を伝達して
います。このナトリウムイオンとカリウム
イオンを入れ換えるたんぱく質を挟み込む
ように固定しているのがDHAやEPAです。もし、この脂肪酸がリノール酸
型であれば、たんぱく質は固定できず神経は伝達できません。
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脂肪酸の種類によるもう一つの大きな違いは、膜の柔らかさです。融点が低
い脂肪酸の方が体温では柔らかいのです。これらの脂肪酸がさまざまな組合せ
で膜をつくるのですが、その組合せにより膜の硬さ、つまり動きやすさが異な
るのです。どのような組み合わせがよいのかはそれぞれの細胞が決めます。
細胞膜と過酸化脂質
生体膜は、細胞の外側を構成しているだけでなくミトコンドリアなどの細胞
内小器官の構成物としても重要な役割をもっています。細胞膜の脂質の中には
リン脂質として不飽和脂肪酸エステル(少々不正確ですが、以下、単に不飽和
脂肪酸といいます)が多く含まれています。リン脂質の中に適度に不飽和脂肪
酸が含まれていることは膜の柔軟性のために必要です。しかし、不飽和脂肪酸
は酸化障害を容易に受ける分子でもあります。
活性酸素ラジカルやその他のラジカルと不飽和脂肪酸との反応の結果脂肪酸
ラジカルが出来て、それが酸素と反応したものが過酸化脂質です。過酸化脂質
ができると生体膜の機能(柔軟性など)が変化するばかりでなく、それから生
じる反応性の高いアルデヒドが周囲の蛋白質などを修飾する危険があると考え
られています。細胞や血清中の過酸化脂質は、加齢で増加すると言われていま
す。不飽和脂肪酸は酸化されやすい(ラジカルと反応しやすい)ので脂溶性の
ビタミンEが膜の中に存在して酸化を防いでいます。すなわち、ビタミンEは
自らラジカルと反応してラジカルが不飽和脂肪酸と反応するのを未然に抑えて
います。
この他、加齢によって細胞膜に起こる変化として構成成分の比率の変化があ
ります。
すなわち、リン脂質の中の不飽和脂肪酸エステル対飽和脂肪酸エステルの比
率の低下、コレステロール対リン脂質の比率の増加が起こります。これらの変
化は、いずれも膜を硬くするので膜機能に有害となる可能性があります。
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なぜ、油が酸化すると片頭痛に関係するのでしょうか?
過酸化脂質は、コレステロールや中性脂肪が活性酸素によって酸化されてで
きたものです。これらは体内で作られるのです。
過酸化脂質は、てんぷら油を使用後に長時間放置すると、油が酸化して悪臭
を放つような油になるのですが、まさに
これが体内で起こっている状態です。
食べた物の油は体内で酸化すると、
「過
酸化脂質」という非常に厄介なものを生
み出してしまいます。これは、活性酸素
を発生させて、体内の細胞を傷つけたり、
過酸化脂質自体が、臓器などの奥底に侵
入して、内臓を破壊・傷つけて行ってし
まう、「不要物・毒」みたいなものです。
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過酸化脂質が作られると血液の流れも悪くなり、脳内に必要な栄養や酸素が
届かなくなりますが、過酸化脂質の分解が進むことによって、脳内の細胞に、
酸素やマグネシウム、カルシウム、脳のエネルギー源のブドウ糖などがスムー
ズに供給されるようになり、老廃物も排泄されやすくなるので、頭痛を引き起
こしにくくなります。
われわれが生きてゆくために必要不可欠である酸素は、一方で体内の脂肪を
酸化させ、体に害のある過酸化脂質を作りだすのですが、この過酸化脂質がで
きますと動脈硬化を促進し、血管に血栓が生じやすくなったりします。すなわ
ち過酸化脂質は心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすようにも働くのです。
ビタミンEはこの過酸化脂質の発生を予防する他、動脈硬化を防ぐ善玉コレ
ステロールを増やすように働きます。
ビタミンB 2 は、グルタチオンペルオキシダーゼという
酵素と一緒に働いて、過酸化脂質の分解を促進する効果が
- 51 -
あります。動脈硬化は、高血圧や脳卒中、心臓病などの生活習慣病の原因にも
なるため、ビタミンB 2 を摂ることは片頭痛・生活習慣病の予防にもなります。
過酸化脂質の生成を抑えるビタミンEも一緒に摂ると、より効果的です。
片頭痛・生活習慣病のような「酸化ストレス’炎症体質」の人は、体内で過
酸化脂質が生成されやすく、これが活性酸素を過剰に発生させる原因物質とな
っています。
過酸化脂質が多い体内では、このような細胞の破壊や傷が多く発生し、多く
のストレスが発生しています。
このストレスや活性酸素によって、血管神経周辺が炎症を起こして、痛みを
発生させ、片頭痛を引き起こしていきます。
さらに、血液がドロドロになって、脂質代謝に時間がかかるので、血液中に
溶け出している「遊離脂肪酸」の濃度がいつも高い状態になります。
この状態ではちょっとしたストレスや刺激でも、すぐに反応して血小板が凝
集し、活性酸素の発生が促進されてしまいます。
- 52 -
脂質の摂りすぎが片頭痛を引き起こす
あなたが片頭痛になりやすい体質の場合は、特に過酸化脂質を多く含む加工
食品を食べすぎる事は避けたほうが良いと言えます。
それは、ただでさえ体内で過酸化脂質が生成されやすい体質の上に、さらに
食べ物からも摂り入れてしまうと、完全に頭痛に拍車をかける体質になってし
まうからです。
この過酸化脂質は、体内で「活性酸素」を過剰に発生させる原因物質です。
この「活性酸素」が脳内のセロトニン濃度の変化を引き起こし、それが脳の
血管の収縮・拡張を引き起こしているのです。
ですから、片頭痛持ちの場合は特に、この様な過酸化脂質を多く含む加工食
品はなるべく食べない様にした方が良いのです。
このように、過酸化脂質は体内で作られるのですが、それ以上に、そもそも
過酸化脂質を多く含む加工食品などを過剰にとる食習慣のほうに問題があると
考えられます。
ポテトチップスなどのスナック菓子、インスタントラーメン、ピーナッツ、
マヨネーズ、マグロの缶詰(缶を開けたあと)、黒くなった古い油分には注意
が必要です。また、新しいものでもチキンフライなどの揚げ物を電子レンジで
加熱すると、とがった部分や角の部分が過酸化されることがあります。
過酸化脂質を作り出すのは揚げ物だけではありません。
スナック菓子・コンビニ弁当・インスタントラーメン、お惣菜など、油で揚
げてから時間がたっているものは、すでに空気によってかなり酸化が進んだ食
べ物です。これらを摂取することで、なお一層体内の過酸化脂質が発生しやす
くなりますので、控えるようにして下さい。
過酸化脂質を多く含む食べ物
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ポテトチップスなどのスナック菓子
インスタントラーメン
ピーナッツ
マヨネーズ
スナック菓子にしてもカップラーメンにしても、またピーナッツもマヨネー
ズも、好きな人は多いと思います。
何にでもマヨネーズをかけて食べたり、その手軽さのあまりカップラーメン
ばかり食べてしまうと、ちょっとした事で頭痛を発症してしまう体質になって
しまうので、今までの食生活を振り返って見直してみてください。
植物油(リノール酸)やトランス脂肪酸はなるべく避ける
植物油(リノール酸)やトランス脂肪酸を摂りすぎる生活をしていると、体
内での脂質代謝が充分に行われず、血液中の遊離脂肪酸の濃度が高い状態にな
る事がわかっています。
この遊離脂肪酸には細胞毒性(細胞を傷つける性質)が強いという特徴があ
り、血小板の凝集を促進したり脳血管壁を傷つけたりして、これが「活性酸素」
を発生させる原因となってしまうのです。
ただ、遊離脂肪酸は、通常は血液中のアルブミンというたんぱく質成分と結
合して、毒性が弱められた状態で存
在していますので、あまり問題には
ならないのですが、リノール酸やト
ランス脂肪酸などの「悪い油」を摂
り続けていると、このバランスが崩
れて遊離脂肪酸の濃度が高くなって
しまうわけです。
そしてこのような状態になると、ちょっとしたストレスなどのわずかな刺激
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であっても、片頭痛の引き金になってしまいますので、特に「悪い油」は注意
して避けるようにしたいものです。
では、具体的にどの様なものが「悪い油」で、「良い油」とはどんなものな
のでしょうか?
精製・加工処理された植物油は「悪い油」
上にあげた低温圧搾で作られた植物油以外の、市販されているサラダ油など
の多くは「悪い油」と言えます。
また、マーガリンやショートニングなどの脂もダメです。
こうした「悪い油」を原材料とする以下のような食べ物は特に注意したいも
のです。
マヨネーズやドレッシング
植物性ヨーグルト
ケーキ
ビスケットやクッキー
チョコレート
などなど…
これらの加工食品の成分表を見るとわかりますが、植物油が加えられていな
い加工食品はほとんどありません。
そして、これらに使われている植物油は、ほとんどが「悪い油」なので、注
意してください。
では、逆にどのような油をとれば良いのでしょうか?
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まず、一般的に安心して使えるのは、オリーブオイルと低温圧搾絞りのごま
油、菜種油
ポイントは、「低温圧搾絞り」と言う点です。
これは、コールドプレス製法とも呼ばれ、悪くならないように極力熱を加え
ず、光を当てずに絞るだけという単純な製法です。
新鮮な油は、熱でも光でも酸化してしまうので、熱も光もできるだけ避けな
がらの製造がポイントなのです。
そして、一番おススメなのが、亜麻仁油です。
特に必須脂肪酸の「オメガ3」を摂り入れるという意味でも、この亜麻仁油
はとてもおススメです。
トランス脂肪酸も要注意!
他にもトランス脂肪酸はかなり注意が必要です。
味付きのポップコーン・マーガリン・ショートニング・お菓子パイにはもの
すごく多くのトランス脂肪酸が含まれています。マーガリン・ショートニング
はダントツに多いです。
トランス脂肪酸の摂りすぎは、血液中の善玉コレステロールを減らして悪玉
コレステロールの増加を促し、がんの発生や動脈硬化、心疾患、糖尿病のリス
クを高めてしまいます。
トランス脂肪酸は活性酸素と相乗して、体内の細胞を傷つけてしまいます。
ですから、こういうものを普段からよく食べている方は、コレステロールによ
って肥満傾向になり、さらに、片頭痛を引き起こす活性酸素などの発生が非常
に多いというわけなのです。
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あなたは「植物油は健康に良い」と思っていませんか?
もちろん、植物油の中にも「健康に良い植物油」と「健康に悪い植物油」が
ありますが、特にこの「健康に悪い植物油」を摂りすぎると、片頭痛の引き金
となる「活性酸素」と「遊離脂肪酸」を発生させる事につながります。
「健康に悪い植物油」というのは、工業的に精製・加工されたもので、その製
造過程で、副産物として生成される「トランス脂肪酸」というとても危険な有
害物質を含んでいます。
この「トランス脂肪酸」は、世界的にも問題になっていて、通称“狂った油
”とも言われるほど危険なものです。
このトランス脂肪酸を摂ってしまうと、がんになるリスクが高まったり、病
原菌やウイルスに対して抵抗力がなくなると言われています。
また、善玉コレステロール(HDL)を減らし悪玉コレステロール(LDL)を
増やすため、冠動脈性心疾患の発症リスクも高まることがわかっています。
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このトランス脂肪酸を含んでいる「悪い油」の代表例としては、サラダ油以
外にも次のものがあります。
マーガリン
体に良い植物性だからって、バターをやめて積極的にマーガリンを摂ってい
ませんか?
マーガリンは植物性ではありますが、液体ではなく半固形です。実は、これ
が大きな問題なのです。
通常、植物性の油は液体です。(なので、「良い油」のオリーブオイルやご
ま油は液体です)もともとの液体の植物油を固形にするために使われる、様々
な化学薬品が問題となるのです。薬品を加えながら加工していく過程で「トラ
ンス脂肪酸」ができてしまいます。
ショートニング
このショートニングについても、マーガリンと同様の理由でおススメできな
い油といえます。
という事で、「トランス脂肪酸」などの高熱で処理され、人工的・化学的に
加工・精製された危険な油は極力避け、自然の必須脂肪酸を積極的に補うよう
にしたいものです。
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第5章
血管内皮細胞の機能再生への3つのポイント
“人は血管とともに老いる”と言われていますが 血管の柔軟性と強さを維持
する為に 大切なポイントになるのが血管内皮細胞のケアです。
血管内皮細胞は、血管壁の最も内側にある細胞で、 常に血液と接している
組織です。
ちょうど皮膚のような働きで、 血管を守るバリア的な働きをしているとこ
ろです。
その為、内皮細胞が健康であれば、 バリアと活性化の二つの機能により、
血管は自分の力で 強さと柔軟性をつくっていくことができます。
内皮細胞のターンオーバーは凡そ1000日。
リニューアルがうまくいけば、血管年齢を若返らせて、 いくことも十分可能
です。
血管内皮細胞の主な二つの働き
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1.血管を保護するバリア機能
血液の中に含まれている悪い成分が血管内に入るのを防ぎます。
2.血管を広がる働き・活性化機能
血管内皮細胞が生み出した物質、一酸化窒素が血管に 適度な刺激を与えて、
血管の壁を拡張するように働きます。
血液の質や流れなど、血管内皮細胞を取り巻く 環境を改善してあげること
が、血管の再生に効果を発揮します。
そして、血管が若返れば、細胞への酸素の供給もよくなり そして、老廃物
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の排泄もスムーズにいくようになります。
血管の老化を防ぐことが若さを維持するうえで、 大切なポイントになるわ
けです。
血管内皮細胞を元気にするポイント
血管をよみがえらせるポイントは、 もろく弱くなった内皮細胞をケアをし
て、 元気に若返らせることです。
それには内皮細胞の負担を減らし、 いい刺激を与えることが大切になりま
す。
内皮細胞に障害を与える要因を減らすこと
血糖が高い状態や LDL コレステロールが増えてしまうと 血液をドロドロに
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して、内皮細胞を傷めます。
そして、その状態を強力に推し進めるのが、活性酸素が関係する酸化ストレ
スです。
血糖や LDL が活性酸素と結
びつくと、 酸化 LDL、終末糖
化産物(AGE)等、更に悪性
度を増した 物質になり、内皮
細胞を傷つけてしまいます。
過度なストレス、喫煙、過
剰な添加物の摂取、 食べ過ぎ、
飲みすぎ、腸内環境を悪化さ
せることは 活性酸素の産生を
増やす要因です。
炭水化物、酸化した脂の摂取を控えることや ビタミン ACE、ポリフェノー
ルなどの抗酸化物質を 積極的に補うようにしましょう。
高血圧になる要因を減らしましょう
血圧が高い状態は、圧がかかる分だけ、 血管に負担をか、内皮細胞を傷つ
け、その機能を低下させます。
高血圧を招く主な原因は、肥満と塩分の摂り過ぎ、 それに過度なストレス
等です。
基本的には減塩(精製塩)、肥満を解消する為の 食生活の改善、適度な運動
を行うことで、内皮細胞の 活力を取り戻すことができます。
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血流がよくなる環境づくりを
血管内を血液がスムーズに流れていると 内皮細胞に良い刺激がかかります。
そうすると内皮細胞は一酸化窒素をたくさん発生し、 血管を拡張したり、
血栓ができるのを防いでくれます。
血液がドロドロした状態にならないようにする事が大切です。
ドロドロ状態は、糖質と脂質の摂り過ぎです。 栄養素のバランスを欠いた
食事と食べ過ぎが関係します。
サラサラ血液、血液の質を良くすることは、 基本的には、食生活を良くして
くことで改善できます。
お茶、魚、海藻類、納豆、酢、キノコ類、野菜、ネギ類
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その頭文字ととった「おさかなすきやね」を基本に食事メニューを 考える
ようにすれば、血流改善に役立つでしょう。
血管内皮細胞のケアを意識した 血管のリニューアル、血管の若返りをはか
りましょう
健康で元気に長生きする為には 強くて柔軟性をもった強い血管をつくり行
って 血管病変を予防することです。
健康な血管は、イキイキしています。しかし、知らず知らずのうちに血管
は内側から変化し、動脈硬化が進んでいきます。
最後に
最近、片頭痛の人は、一般人と比べて脳梗塞を起こしやすいことが分かって
きました。
片頭痛の発作を起こすたび、脳血管の内皮細胞に損傷を起こし、繰り返す頭
痛で血管ダメージが蓄積し、脳梗塞を引き起こすのです。
このように学会を主導される方々は申されます。しかし、片頭痛発作とは関
係なく、動脈硬化を引き起こす要因が、もともと潜行しており、これらは片頭
痛発症と共通する要因と考えるべきものです。
発症倍率は、単純な片頭痛がある方で 2 倍、キラキラした光が見える片頭痛
の方で 6 倍、片頭痛がありタバコを吸うと 10 倍、片頭痛があり低用量ピルを
飲むと 2 倍、片頭痛がありタバコを吸い、低用量ピルを飲むとなんと 34 倍で
す。
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このため、日本頭痛学会では前兆のある片頭痛を持っている患者に対して
ピルを服用させるのは禁忌、前兆がない場合でもピルの服用は慎重にすべきと
定めています。
その背景にはピルによって片頭痛が悪化したり、もともとは頭痛がなかっ
た人に頭痛が出てくる可能性があるからです。
低用量ピルの副作用は、血管の中で血液が固まってしまって、血液が流れな
くなる、エコノミー症候群と呼ばれる”血栓症”というものがもっとも危険な
副作用と考えられます。
通常の場合はその副作用は非常に稀です。例えばタバコを 1 日に 1 箱吸う
方は、吸わない人に比べて 5 倍も血栓症のリスクが増えますが、低用量ピルで
は 2 倍にしかなりません。
低 用 量 ピ ル は 酸 化 ス ト レ ス を 増 加 さ せ ま す ( International J Preventive
Medicine, 2013)
低用量ピルを飲むと、活性酸素は飲まない人の2倍になることが示されてい
ます。
動脈硬化と活性酸素
活性酸素は、動脈硬化を促進させます。
活性酸素とは、活性化された酸素のことで、酸化力の強い酸素です。つねに
ある程度の量の活性酸素が体内に存在して、ウイルスなどの侵入物を退治する
という重要な働きをしています。
ただ、活性酸素も量が多すぎてしまうと、細胞を酸化させて傷つけ、血管の
老化を早くしたり、血液の中の余分なコレステロールを酸化させたりすること
で、動脈硬化の発生する危険を高くしてしまいます。
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ですから、活性酸素を体内に増やしすぎないようにすることは、動脈硬化の
予防につながります。
活性酸素が増えてしまう原因は、喫煙(たばこ)
、ストレス、アルコール(飲
酒)、大気汚染(排気ガス)、強い紫外線、激しい運動、残留農薬、病原菌、な
どです。
また、呼吸によって体内に入る酸素の約 2 %が、エネルギー発生の時に活性
化して活性酸素になると言われています。
参考までに、活性酸素は片頭痛を引き起こす引き金になるものです。
人が老いることを老化していくと一般的には捉えられていますが、年を一年
一年積み重ねることが果たして老いるということでしょうか?
そうではなくて実は血管が老化することなのです。
この血管が老化していくことに活性酸素が深く関わっているのです。
活性酸素によって血管が酸化され硬くなり、脆くなる。しかも、活性酸素に
よって酸化されたコレステロールや中性脂肪がたまって血管を狭くしてしまう
のです。
そこを血栓(血の塊)が詰まれば一巻の終わりです。心臓の動脈が詰まれば
狭心症や心筋梗塞を引き起こします。また、脳で動脈が詰まれば脳梗塞であり、
血管が破れれば脳出血です。
このような血管が老化するという現象は中高年に多く見受けられましたが、
昨今は、若い世代でも活性酸素を体の中にたくさん作るような生活が習慣化さ
れて、早くから血管が老化しているのです。従って、20 代 30 代で既に 40 代 50
代の血管になっている若者が、非常に増加しているのです。まさに老化がこの
世代から始まっているのです。
このことから現在、日本は長寿社会かもしれませんが、これから先 10 年も
すれば日本の平均寿命は 70 代に下がっているかもしれないと予測されるので
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す。
人は空気を吸って、体内に酸素を取り入れています。その酸素を使って食物
を体内で代謝させることによってエネルギーをつくり出しているのです。
その役割を果たしているのが細胞内のミトコンドリアです。
ミトコンドリアが酸素を使ってエネルギーを作り出すときに、酸素の一部が
活性酸素になります。
私達の体は 60 兆個の細胞から成り立っています。ですから、この一つ一つ
の細胞が酸素を使って栄養を代謝するたびに活性酸素を発生させているという
ことになります。ということは、人間は生きている限り、活性酸素から逃れる
ことはできないということです。
このように片頭痛とは活性酸素との関連から考えるべきものです。
ですから、片頭痛の発作頻度が多かったり、発作の程度も激しい人程、脳梗
塞になる方々が多いということが納得されたはずです。
しかし、このために、脳梗塞予防のためにトリプタン製剤を服用しましょう、
というのでは、まさに的外れとしか言えないはずであることが納得できるはず
です。
このように「脳過敏症候群」を提唱される方々は”短絡的”に考えていると
いうことです。もっと別にするべきことがあるはずです。
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