北里大学病院皮膚科におけるベーチェット病 60 症例の統計学的検討

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日皮会誌:117(5)
,801―807,2007(平19)
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北里大学病院皮膚科におけるベーチェット病 60 症例の統計学的検討
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三井 純雪
高須
博
勝岡 憲生
要
旨
1983 年から 2004 年の 22 年間に北里大学病院皮膚
を受診した BD 患者 60 例について,年度別症例数,症
状,病型,治療,長期間的予後などについて過去の報
告と比較検討した.
科を受診したベーチェット病患者 60 名(男 33 名,女
対
27 名)について臨床統計学的検討を行った.平均発症
象
年齢は 39 歳で,女は発症年齢が高い傾向があった.完
1983 年から 2004 年までの 22 年間に北里大学病院
全型 12 例,不全型 48 例で,症状はアフタ性潰瘍と皮
皮膚科を受診し,厚生労働省特定疾患「ベーチェット
疹が約 98% の症例にみられ,外陰部潰瘍を約 70%,眼
2)
病」調査研究班の診断基準(2003 年)
に基づき,完全
症状を約 45% の症例に認めた.
皮疹として毛囊炎様皮
型あるいは不全型 BD と診断された, 60 名
(男 33 名,
疹と結節性紅斑を約 60% の症例に認めた.HLA-B51
女 27 名)の患者を対象とし,臨床統計学的検討を行っ
陽性例は 55.9% であった.これらの頻度は従来の報告
た.BD 疑い例は検討対象から除外した.発症時年齢は
とほぼ一致した.治療薬は非ステロイド性消炎鎮痛薬,
12 歳から 65 歳で,平均 39 歳であった.
コルヒチンが主体ではあるが,ステロイド使用率が増
統計学的検討
加傾向にあった.完全型・不全型別,および重症度別
で治療内容を比較したが,症状の重症度とステロイド
使用率に相関関係は乏しかった.10 年以上経過を追え
比率の差の検定を X2 検定で行い,P<0.05 を有意と
した.
た症例をみると,長期にわたり疾患の活動性が持続す
結
る,あるいは著しく増悪する症例は無く,半数の症例
で治療薬の漸減もしくは中止が可能であった.
緒
言
ベ ー チ ェ ッ ト 病(Behçet’
s disease 以 下 BD と 略
果
1.病型・重症度
60 例 の う ち 完 全 型 12 例(20.0%)
,不 全 型 48 例
(80.0%)であった.その内訳は男女に別けると,男 33
例のうち完全型 7 例
(21.2%)
,不全型 26 例
(78.8%)
で,
す)は厚生労働省の指定する特定疾患の一つで,口腔
女 27 例 の う ち 完 全 型 5 例(18.5%)
,不 全 型 22 例
粘膜の再発性アフタ性潰瘍,皮疹,眼症状,外陰部潰
(81.5%)であった.また 2003 年診断基準の重症度基
瘍を主症状とし,関節炎,副睾丸炎,消化器病変,血
準2)に従い分類すると,stage I 21 例(35.0%)
,stage
管病変,中枢神経病変を副症状とする慢性炎症性疾患
II 18 例(30.0%),stage III 10 例(16.7%),stage IV
である1).BD は全身疾患であり,診療科が複数にまた
9例
(15.0%)
,stage V 1 例
(1.7%)
,stage VI 1 例
(1.7%)
がる傾向はあるが,主症状であるアフタ性潰瘍,皮疹
であった.
がほとんどの症例でみられ,かつ初発症状のことが多
く,皮膚粘膜症状を主訴に患者は最初に皮膚科を受診
することが多い.今回われわれは,同症の診療にあた
り今後の参考とすることを目的に,過去 22 年間に当科
2.年度別の新患者数
年度別の新患者数を図 1 に示す.不全型の割合が多
い年度が大部分である.
3.年齢別症例数
北里大学医学部皮膚科学教室(主任:勝岡憲生教授)
平成 18 年 7 月 3 日受付,平成 18 年 12 月 13 日掲載決
定
別刷請求先:
(〒228―8555)神奈川県相模原市北里 1―
15―1 北里大学医学部皮膚科学教室 三井 純雪
年齢別症例数を図 2a,b に示す.発症数のピークは
30 代から 40 代前半にある.男女別では,男は 30 代前
半に,女では 40 代前半に好発し,女は発症年齢が高い
傾向がみられた.
802
三井
純雪ほか
図 1 年度別新患者数
図 2b 性別症例数
図 2a 年齢別症例数
4.主症状の内訳(表 1)
以下に述べる主症状,副症状は厚生労働省特定疾患
「ベーチェット病」調査研究班の診断基準(2003 年)に
よる.主症状ではアフタ性口内炎と皮疹が最も多く,
約 98% にみられた.外陰部潰瘍は約 70%,眼症状は約
45% であった.
表 1 主症状の内訳
症例数
%
アフタ性口内炎
症状
58例
97.
7
眼症状
虹彩毛様体炎
網膜ぶどう膜炎
外陰部潰瘍
皮疹
27例
25例
12例
41例
58例
45
41.
7
20
68.
3
97.
7
5.副症状の内訳(表 2)
示す中枢神経病変がふくまれる.それらを主体とする
副症状として関節炎を多く認めた.副症状には,回
BD を特殊型として各々腸管型,血管型,神経型と分類
盲部潰瘍などの消化器病変,大中血管の炎症性血栓症
する3)が,特殊型は計 11 症例を数えた.特殊型 BD のう
がおこる血管病変,中枢性運動麻痺や精神症状などを
ち腸管 BD の頻度が高かった.
ベーチェット病の統計学的検討
803
表 2 副症状の内訳
症状
関節炎
表 3b 皮疹の組み合わせ
症例数
%
皮疹の組み合わせ
症例数
%
15例
25.
0
f
o
18例
31.
0
副睾丸炎
4例
6.
7
EN
19例
32.
8
消化器病変(腸管ベーチェット病)
7例
11.
7
t
h
1例
1.
7
血管病変(血管ベーチェット病)
中枢神経病変(神経ベーチェット病)
1例
3例
1.
7
5.
0
f
o+ EN
15例
25.
9
EN+ t
h
2例
3.
4
f
o+ EN+ t
h
3例
5.
2
f
o
:毛嚢炎様皮疹
EN:結節性紅斑
表 3a 皮疹の内訳
t
h:血栓性静脈炎
症状
症例数
%
毛嚢炎様皮疹
結節性紅斑
36例
39例
62.
1%
67.
2%
血栓性静脈炎
6例
10.
3%
表 4 皮疹の病理組織学的所見
浸潤細胞
好中球主体
症例数
31
単核球主体
好中球単核球
同等
7
7
付随所見
症例数
膿瘍
7
血栓
フィブリンの
析出
1
6
血管壁の障害
3
表 5 完全型・不全型別集計
完全型 12例
不全型 48例
症例数
%
症例数
%
8
8
2
6
2
2
66.
7
66.
7
16.
7
50.
0
16.
7
16.
7
28
31
4
9
2
5
58.
3
64.
6
8.
3
18.
8
4.
2
10.
4
神経ベーチェット病
血管ベーチェット病
HLAB51
1年以上 5年未満経過観察し
た症例の活動期の割合
2
1
4/9
4/5
(平均 2.
4年)
16.
7
8.
3
44.
4
80.
0
1
0
15/25
5/10
(平均 2.
3年)
2.
1
0
60.
0
50.
0
5年以上経過観察した症例の
活動期の割合
1/6
(平均 13.
8年)
4/23
(平均 10.
1年)
17.
4
毛嚢炎様皮疹
結節性紅斑
血栓性静脈炎
関節炎
副睾丸炎
腸管ベーチェット病
16.
7
6.皮疹の内訳(表 3a,b)
は真皮全層に好中球,単核球が浸潤し,毛包周囲に膿
毛囊炎様皮疹と結節性紅斑を約 60% の症例に認め
瘍を形成する組織所見であった.結節性紅斑から得ら
た.毛囊炎様皮疹単独が約 30%,結節性紅斑単独が約
れた組織所見の大部分は真皮下層から脂肪織の炎症
30%,毛囊炎様皮疹と結節性紅斑の両者を認めた例が
で,浸潤する細胞は好中球主体ではあるが一部単核球
約 25% であった.
もみられた.これらは急性炎症と慢性増殖性炎症が混
在する,いわゆる隔壁性の非特異的肉芽腫性脂肪織炎
7.皮疹の病理組織所見(表 4)
の像であった.壊死性血管炎の所見を呈す検体は無
皮疹がみられた 58 症例のうち 42 症例,46 検体の生
かった.
検組織を得た.毛囊炎様皮疹から得られた検体の多く
804
三井
純雪ほか
8.HLA-B51 の検索
NSAIDs と略す)
単独,NSAIDs+コルヒチンは各々約
34 例について HLA のタイピングの検索を行い,そ
15% あり,合わせて約 60% が非ステロイドの治療薬
のうち 19 例(55.9%)で HLA-B51 が陽性であった.
で治療された.内服および静脈内投与による全身投与
の ス テ ロ イ ド を 治 療 薬 に 使 用 し た 例 は 23.3%(14
9.完全型・不全型別の統計(表 5)
例)であった.型別あるいは重症度別でのステロイド
完全型と不全型での皮疹の内容とその出現頻度,副
の使用率に有意な差は認められなかった.その他の治
症状の合併頻度,HLA-B51 の陽性率,およびその予後
療の内訳は,セファランチン 1 例,DDS 1 例であった.
を比較検討した.各々の皮疹の出現率には有意差を認
治療なしは 7 例みられたが,短期間の経過観察のみで
めなかった.副症状では関節炎合併の比率のみに有意
他院に紹介した例も含まれるので,治療を必要としな
差を認めた.完全型と不全型の間で特殊型 BD の合併
かったというわけではない.
率や HLA-B51 の陽性率に差は認められなかった.予
特殊型 11 例と非特殊型 49 例で治療薬の内容を比較
後については 1 年以上 5 年未満(平均完全型 2.4 年,不
すると(表 6b)
,特殊型にステロイドを使用した例は
全型 2.3 年)経過観察できた症例と,5 年以上(平均完
11 例中 4 例(36.7%)で,全体でのステロイド使用率
全型 13.8 年,不全型 10.1 年)経過観察できた症例のう
(23.3%)と比べて有意差を認めないものの,使用頻度
ち,活動期にある割合を 2003 年診断基準の活動期分
は高い傾向が伺われる.またその使用したステロイド
類2)に従い検討したが,
完全型不全型間での有意差は無
量(一日あたりの初期投与量)をプレドニゾロンに換
かった.
算して,各々の平均を求めると,特殊型においてより
多い量のステロイドが投与されている.コルヒチンの
投与量は,平均 1.5mg!
日で投与量に差は無かった.
10.治療内容(表 6a,b)
治療内容をみると,コルヒチン単独投与例が最も多
く約 30% であった.非ステロイド性消炎鎮痛薬(以下
11.長期経過観察例
10 年以上経過観察できた症例は 16 例あり,平均観
察期間は 15 年である.その内訳は完全型 4 例,不全型
表 6a 治療内容
12 例で,特殊型として腸管 BD 2 例が含まれる.重症度
症例数
%
の 内 容 は stage I 5 例,stage II 4 例,stage III 5 例,
9
19
9
15.
0
31.
7
15.
0
stage IV 2 例であった.2003 年診断基準の活動期分類
非ステロイド合計
37
61.
2
ステロイド単独
NSAI
D+ステロイド
コルヒチン +ステロイド
NSAI
D+コルヒチン +ステロイド
2
3
6
3
3.
3
5.
0
10.
0
5.
0
ステロイド合計
14
23.
3
必要とした症例が 3 例あり,具体的には眼発作の再燃
2
7
3.
3
11.
7
のためコルヒチンを増量した 1 例,皮疹の増悪のため
NSAI
D単独
コルヒチン単独
NSAI
D+コルヒチン
その他
治療なし
に従うと,依然活動期にあると判断される症例はない.
経過観察が 10 年未満の症例では,44 例中 19 例が依然
活動期にある.16 例のうち無治療の 1 例を除いた 15
例すべてに治療効果を認め,治療薬の漸減が可能で
あった症例が 7 例,そのうち治療薬を中止できた症例
が 5 例であった.しかし経過中に治療薬の追加増量を
ステロイドを追加した 1 例,粘膜症状の増悪のためス
表 6b 特殊型における治療内容
治療薬
症例数
治療なし
1
コルヒチン単独
2
NSAI
D+コルヒチン
4
ステロイド +コルヒチン
4
%
54.
5%
36.
7%
ステロイドを
使用した症例数
必要とした
ステロイド量の平均
特殊型( 4/11例)
PSL26.
7mg
(パルス療法は含まず)
非特殊型(10/49例)
PSL15.
3mg
ベーチェット病の統計学的検討
805
テロイドを追加した 1 例であった.ステロイドを追加
ぼ必発であり,本症を疑う重要な要素であることに変
投与された 2 例もその後ステロイドは漸減され,うち
わりはない.皮疹については皮膚科での集計であるが
1 例は中止されている.
ゆえに 97.7% と高い頻度を示しているが,全国疫学調
考
査では 74.2%4),眼科領域の統計では 65%9)と報告さ
案
れ,科によって違いがみられる.主,副症状の各々の
BD の総患者数は依然,増加しており,2004 年の登録
1)
患者数は 20,000 人に達している .変動はあるものの
頻度は 20 年前の統計5)6)9)11)と大差なく,症状の出現
頻度の変遷はあまりないようである.
当科の年度別症例数でも,毎年数人の新患がみられ,
主症状の皮疹,副症状,特殊型の各々の頻度,そし
ここ 10 年は新患患者数の増加傾向がみられる.
完全型
て予後を完全型,不全型で比較検討したところ,有意
不全型別にみると,1974 年の全国統計では完全型が男
差を認めたのは関節炎のみであった.症状のそろう完
50.8% 女 38.7% だ っ た が,2002 年 に は 男 29.9% 女
全型のほうがより炎症の程度が高いと考えられる.ま
4)
27.8% と男女共に減少傾向にある .1975 年から 1983
5)
た関節炎を呈す症例の約 10% は関節炎が初発症状12)
年までの症例をまとめた増田らによる報告 では完全
なので,関節炎をみた場合その後の主症状の発現に注
型は 36% であり,1983 年から 2004 年の当科の完全型
意する必要がある.しかし一方で他の症状の頻度や経
は 20% であることから,過去と比べて完全型の割合は
時的に見た活動期の割合に有意差が見られないこと
今後少なくなっていくと考えられる.発症年齢をみる
は,完全型不全型に各々特徴的な所見があるわけでは
と平均は 39 歳,ピークに関しては,男が 30 代前半,
なく,予後にも大きな差はないことが考えられた.
女が 40 代前半と若干の違いが見られる.
これは過去の
治療内容に関しては,NSAIDs,コルヒチンが主体で
報告と同様であるが,1985 年頃の報告5)6)では,発症年
はあるが,近年全身投与のステロイド使用の割合が増
齢の平均は 35 歳前後であり,当科患者の平均年齢は
加している傾向が伺われる.当科の検討ではステロイ
4∼5 歳ほどの上昇がみられる.これは高齢化社会を反
ドの平均使用率は 23.3% で,1983 年から 1993 年まで
映し,高年者の発症率が徐々に増加しているためと考
と,1994 年 か ら 2004 年 ま で で 分 け る と,前 者 は
えられる.
16.1%,後者は 31% と明らかな増加傾向を認めた.
BD の病因は未だ不明であるが,HLA-B51 抗原に連
1984 年の高橋らの報告6)ではステロイドの使用率は
鎖する遺伝子にその発症要因の 1 つがあると考えられ
13% であり,1995 年の森田らの報告11)では 21% の症
ている.HLA-B51 遺伝子は好中球の機能制御に関わっ
例に使用されている.ステロイド使用例の内容をみる
ていることがわかっており1),BD の活動期に好中球
と,まず NSAIDs,コルヒチンを使用したが,発熱,関
主体の白血球増多を示し,皮疹でも浸潤細胞が好中球
節痛,アフタ,陰部潰瘍の疼痛などの全身炎症症状の
7)
優位である所見 を支持するものである.当科で HLA
コントロールが困難なため,追加併用する例がほとん
のタイピングを施行した 34 例では,19 例(55.9%)に
どであり,ステロイド単独投与の症例は,副作用のた
HLA-B51 抗原陽性であった.これは他施設や過去の報
めコルヒチンが使用できずステロイドに変更した症例
告とほぼ同じ比率である8)9).完全型と不全型での比
であった.完全型不全型別,重症度別でステロイド使
較検討では HLA-B51 陽性率に差はみられなかった.
用率を比較したが有意な差異は認められなかった.す
8)
完全型での陽性率が高いという報告 もみられること
なわち重症度に関係なく,経過中に炎症症状が強い場
から,より症状の明確な完全型に陽性率が高いことを
合に一時的にステロイドが投与されることが多いもの
予測したが,必ずしもそうではないことを示す結果で
と思われた.特殊型と非特殊型を比べると,有意差を
あった.本症の病因として挙げられている 桃の病巣
認めないものの,特殊型にステロイドの使用した症例
感染,
口腔内のレンサ球菌に対する過敏反応1)について
数と必要としたステロイド量が多かった.生命予後に
は, 桃除去し経過観察した症例が無く,またレンサ
かかわることの多い特殊型は,その治療に難渋するこ
球菌の培養を行っている症例も少なかった.
とが多く,必然的にステロイドの使用率,必要量が高
主,副症状の検討では,他施設の集計結果8)9)と比べ
まると考えられる.眼症状に対してのステロイド全身
て大きな差異は無かった.主症状ではアフタ性口内炎
投与は視力を低下させる要因となるため,禁忌といわ
および,皮疹がほぼ 98% の症例にみられた.アフタ性
れている.眼症状に対する治療13)はコルヒチンが第一
口内炎は他の報告でも 95% 以上に認められている.
ほ
選択,シクロスポリンが第二選択になり,ステロイド
806
三井
純雪ほか
全身投与は他の症状が治療困難で使用せざるを得ない
した Aydın らの報告14)では,粘膜皮膚症状は依然活動
場合などに限られる.当科の検討では,眼症状あるが
性を示す例が多いが,眼症状,関節炎,特殊型 BD など
ステロイドを使用した症例は 4 例あり,いずれも視力
は非活動性になる症例が多いとしている.また 82 人の
の悪化はなかった.失明に至った症例は血管 BD の 1
BD の予後を検討した Zouboulis らの報告15)では,罹病
例のみで,この症例にステロイドは使用していない.
期間が 6∼10 年の患者で活動期にある割合は 29% で
長期間の経過観察できた症例をみると,いったん寛
あるが,罹病期間が 11∼15 年になると 12% に,さら
解に導入できたあとは,多少の症状の出現はあっても
に 16∼20 年になると 9% に減っていく.
これらの結果
治療薬の追加,増量を必要とする症例は少なく,約半
から,BD の長期予後は良好とみられる.本症は慢性に
数の症例では治療薬を漸減でき,うち 3 分の 2 の症例
くすぶる炎症疾患であるがゆえに,初期治療を適切に
は治療薬を漸減の後,中止することができた.また治
行い,早期に寛解導入するよう努めることが大切と考
療薬の継続投与を必要とする症例でも,発症 10 年後に
えた.
依然活動期の症例はなかった.52 例を 5 年間経過観察
文
1)金子史男:ベーチェット病(Behçet’
s Disease)
,
2005,
日皮会誌,115 : 125―133, 2005.
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と治療方針 1 三訂判,疾病対策研究会編,六法出
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3)金子史男:Behçet 病―手許に置きたい診断基準
とその解説―,皮膚臨床,46(10): 特 : 44 ; 1416―
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学のあゆみ,215 : 5―8, 2005.
5)増田智栄子,中嶋 弘:ベーチェット病の臨床統
計,横浜医学,34 : 161―165, 1983.
6)高橋正明,花田勝美,橋本 功,帷子康雄:弘前大
学皮膚科におけ る 最 近 10 年 間(昭 和 48 年∼57
年)のベーチェット病の統計,臨皮,38 : 591―595,
1984.
7)金子史男:最近のベーチェット病,日皮会誌,112 :
1799―1806, 2002.
8)佐久間陽子,東條理子,佐藤正隆,尾山徳考,金子
史男:福島県立医科大皮膚科における 10 年間の
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陽子,臼井正彦:当教室におけるベーチェット病
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10)吉野公二,鈴木かやの,青木見佳子,川名誠司:当
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11)森田栄伸,望月 満,篠田 勧,山本昇壯:ベー
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12)笹沼秀幸,飛田格子,伊東 剛,小池宏明:化膿性
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東日本整災会誌,17 : 248―251, 2005.
13)川島秀俊:Behçet 病の眼病変(病態・診断・治
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14)Aydın Yücel, Selma Sönmezo!lu Maraklı, Varol
Lütfü Aksungur, Soner Uzun, Ya ş ar Sertdemir
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15)C.C. Zouboulis, G. Vaiopoulos, N. Marcomichelakis,
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Adamantiades-Behçet’
s disease in Greece, Clin
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ベーチェット病の統計学的検討
807
Statistical Studies on 60 Patients of Behçet’
s Disease in Dermatological
Department of Kitasato University Hospital
Sumiyuki Mii, Hiroshi Takasu and Kensei Katsuoka
Department of Dermatology, Kitasato University School of Medicine(Director : Prof. K. Katsuoka)
(Received July 3, 2006 ; accepted for publication December 13, 2006)
We analyzed the clinical statistics from 60 Beh et’
s disease(BD)patients(33 males and 27 females)who
visited the dermatological department of Kitasato University Hospital from 1983 to 2004. The average age of
appearance of disease was 39 years old. Twelve patients had the complete type of BD, and 48 had the incomplete type of BD. Oral aphtosis and skin eruption were seen in about 98% of cases. About 70% suflered from
genital ulcers, and 45%, from ocular involvement. As skin eruptions, about 60% had papulopustular lesions
and erythema nodosum. The rate of positivity for HLA-B51 was 55.9%. These frequencies corresponded well
to current reports. Although the usual treatments for the disease were NSAIDs and colchicines, the rate of using steroid showed a tendency to increase. We compared the type of treatment with each classification. There
was no significant correlation between severity of symptoms and steroid use. We also searched for cases who
had been able to be observed for ten years or more. There were no cases in whom the disease activity had
continued for a long term. Half of the cases had been able to either decrease treatment or to discontinue it.
(Jpn J Dermatol 117 : 801∼807, 2007)
s disease, clinical features, therapy, prognosis
Key words : Beh et’