イルカを飼って考える鯨と人間の共存

いきもの
イルカを飼って考える鯨と人間の共存
まついし
大学院水産科学研究院・大学院水産科学院
准教授
たかし
松石 隆
顔写真
(水産学部海洋生物科学科)
専門分野 : 水産資源学,鯨類学
研究のキーワード : 鯨類,混獲,鯨類研究会,ストランディング
HP アドレス :
http://bit.ly/matuisi
出身高校:私立武蔵高校(東京都)
最終学歴:東京大学大学院農学系研究科
(海洋研究所)
イルカって鯨なんですか?
世界には 80 種を超える鯨類がいます。鯨類はヒゲクジラとハクジラに分けられ、ハク
ジラの小さい種が一般にイルカと呼ばれています。だから、イルカも鯨類です。日本近海
には 40 種程度の鯨類が生息していて、それぞれ餌や
生活場所を微妙にずらして、譲り合いながら生息して
います。人間が大規模に漁業をはじめるようになり、
鯨類が餌としている魚を捕ったり、鯨類が泳いでいる
場所に網を張ったりするようになってきました。特に
沿岸に住んでいるネズミイルカは、しばしば漁業の網
に入り込んで漁師さんが獲ろうとしていた魚を食べた
り、漁師さんの網に入ってきて魚と一緒に獲られてし
図 1 刺網で混獲されたネズミイルカ
まったり、場合によっては網に絡まって死んでしまっ
たりしています。このような現象を混獲といいます。混獲は、漁師さんにとってもイルカ
にとっても不幸なことです。海洋生態系の頂点にいるハクジラと漁業が共存できるように
なることは、人間が地球上の多様な生物の中で末永く生き延びていく上で象徴的なことで
はないかと思っています。
イルカを飼う?
松石研究室では、学生団体の北海道大学鯨類研究会とともに、混獲の調査を行い、混獲
を防止する方法を考えています。函館市臼尻町には北大臼尻水産実験所があり、地元の漁
師さんの協力のもと、さまざまな研究が行われています。松石研究室では、臼尻の漁師さ
んの網に入ってきたネズミイルカを収容して、介護
水産
します。毎年 4 月の 1 ヶ月間、漁がある日は毎日、
漁師さんと一緒に漁船に乗って魚の水揚げに行きま
す。網にネズミイルカが入っていたら、丁寧に網か
ら救い出して実験所に持ち帰って、実験所の水槽で
介護します。中には、網から救い出しても間もなく
図 2 仮設水槽で介護中のネズミイルカ
死んでしまう個体もいますが、7 割ほどは、実験所
の水槽で再び泳ぎだします。海に戻すまでの 1 週間ほどの間に、体長や性別をはじめとす
る生物情報を収集し、また水槽内での行動などを観察します。
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何が分かるの?
介護が終了したら、一部の個体には衛星に電波を発振する小さな装置を付けて放流し、
放流後の回遊を追います。九州大学などと共同で今までに 8 個体に装着し、オホーツク海
に回遊していく経路などが分かってきました。今までは、死体漂着や混獲の場所や時期、
目撃例からしか分かっていなかったネズミイルカの回遊が明らかになってきました。
また、一部は、おたる水族館に委託して、長期飼育してもらい、水族館で詳細な実験を
行います。たとえば、水槽の中の幅の狭い通路の先で餌を提示し、ネズミイルカがどれく
らい狭い場所を通れるかを調べたところ、体の幅ギリギリの隙間があれば入っていくこと
が分かりました。また、ネズミイルカが嫌がるだろうと思われる音を水槽内で鳴らしたと
きに、ネズミイルカが音源から遠ざかるかどうか、また何度も音を出しているうちに慣れ
てきてしまうかどうかを調
べ、ネズミイルカを網から
遠ざけるのに適した音の種
類を探しています。
このような研究活動を通
じて、混獲が起こるメカニ
ズムや混獲防止方法につい
て、少しずつ明らかにして
図 3 衛星タグによるネズミイルカの回遊
追跡結果
図 4 おたる水族館での実験風景
います。
本当に混獲は無くなるの?
混獲を完全に防止することは簡単ではありません。でも、少なくすることはできると思
います。対策のポイントは、
「入れない、逃がす、寄せ付けない」
。網に入らない工夫、入っ
てしまったイルカが逃げやすくする工夫、そして網に近寄らないようにする工夫ができれ
ば、混獲は減ると考えています。そのためには、今まで行ってきた調査・実験以外にもさ
まざまな方向から、ネズミイルカの特徴を調べていく必要があります。たとえば、死んだ
ネズミイルカ個体の漂着(ストランディング)を調べることによって、食性や分布、成長、
繁殖場所などが分かります。また、水中音を録音する装置を用いて、ネズミイルカがいつ
網に近づいてくるのか、誤って網に入り込んでいるのか、網の魚を盗む確信犯なのか、と
日本一の水産学部である北海道大学水産学部には、鯨類の研究を目指して入学する学生
が毎年たくさんいます。ただ、鯨類の研究は肉体的にも精神的にも大変です。見ている前
でイルカが死んでいくこともあります。
北海道大学水産学部で鯨類の研究をしたいならば、
まずは鯨類研究会に入って、一緒に調査をしましょう。その中から、鯨類と人間の共存の
ために自分でできることを見つけていって下さい。
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水産
いった証拠をつかむこともできそうです。