第1講 法とは何か 国家と憲法 (「プレビュー法学」) 平成23年度講義 拓殖大学 非常勤講師:松村比奈子 1.法とは何か 1.法とは何か (1)法の意味 「法は国家によって強制される決まりである」 法則…そうである→破られない 法(ルール) 法規…そうであるべき→破られる ※だから強制が必要となる 2.法による国家強制の意味 (1)強制が必要なわけ (2)法と道徳の関係 「法は最低限の道徳」といわれる 法 道徳 ※人を殺さない ※自動車の左側走行 ※体の不自由な人に席を譲る 2.法による国家強制の意味 守らなくとも罰則がな ければ? ※駅前の違法駐輪 ①皆が止めるから私も 止める ↓ ②罰則がないのでその まま ↓ 2.法による国家強制の意味 (2)法による国家強制の種類 法による強制の仕方→法的責任 (a)民事責任 個人間の財産・経済関係(私法)に反した 場合の責任=金銭が原則 (b)刑事責任 国家が定めた犯罪(社会秩序に反する行 為=刑法など)に反した場合の責任 ↓ ③有料駐輪場を利用し た人は損をする ↓ ④誰も守らなくなる ↓ ⑤社会秩序の崩壊 (2)法による国家強制の種類 法による強制の仕方→法的責任 (c)行政責任 行政に関する法(行政法)に反した場合の責任= 免許の取り消し・過料など ※これらの責任には優先順位も選択関係もない。 1つの行為が3つの責任を負うことがある。 (例えば飲酒運転で他人を轢いた場合は、3つの 責任を負う) 1 3.法の分類 3.法の分類 (1)分野別の分類-その2 (1)分野別の分類-その1 ①公法 ②私法 公法 私法 刑法分野 訴訟法分野 行政法分野 憲法分野 商法分野 民法分野 刑法 軽犯罪法 暴力対策法 など 刑事訴訟法 民事訴訟法 破産法 など 国会法 内閣法 地方自治法 道路交通法など 憲法 商法 有限会社法 証券取引法 小切手法など 民法 不動産登記法 利息制限法 区分所有法など 3.法の分類 3.法の分類 (1)分野別の分類-その3 ③社会法 (2)法律の上下関係 法を作る際の上下関係 憲法>法律>政令>省令…中央政府 >条例・規則 …地方自治体 法律を適用する際の上下関係 制定法(特別法>一般法)>慣習(法)>条理 成文法主義・判例法主義 社会法 労働組合法・労働基準法 男女雇用機会均等法 生活保護法 身体障害者福祉法など 第19講 憲法総論 1.憲法とは何か 1.憲法とは何か 憲法:Constitution→「国の組織・構造」の訳語 →国家の設計図 近代(18世紀)になって生成された概念 ※聖徳太子「憲法17条」(A.D.604) 国家の設計図ではなく、道徳的な法律 憲法とは国の設計図であり、国家権力を制限するもの 憲法 (制限する) 国家権力(法律) (制定する) (制限する) 国民 2 2.憲法の三類型 3.立憲主義の変遷 (1)実質的意味の憲法 (国家組織を定めた規範がある) (2)形式的意味 の憲法 (成文憲法典 がある) (3)近代的意味 の憲法 (人権保障・権 力分立がある) 3.立憲主義の変遷-2 (3)個人の人権(自由権)の保障 ↓ 国民間の貧富の拡大 20世紀前後の相違点 (1)参政権は資産家から一般市民へ 第一次世界大戦後…普通選挙制度 第二次世界大戦後…女性にも参政権 (2)参政権の拡大により、要求が多様化 政党による議会運営が常識に 4.日本国憲法の特質 近代憲法の3つの特質 (1)自由の基礎法 個人の自由(人権)の保障→人権の根拠 全ての人々の 人間らしい生活の保障へ 社会主義革命 (国民間格差の原因を解消) 社会主義国家へ 社会権の導入 (国民間格差の結果を調整) 資本主義国家へ 5.その他の憲法の類型 存在形式による分類 成文憲法と不文憲法 改正の難易度による分類 軟性憲法と硬性憲法 制定主体による分類 欽定憲法と民定憲法と協約憲法 (2)制限規範性・授権規範性 権限を授与し国家を制限→権力分立の保障 (3)最高法規性 その他の矛盾する法令を無効に→違憲法令 審査制の導入 第20講 平和主義と第9条 1.日本国憲法の基本原理 (1)国民主権 (2)基本的人権の尊重 (3)平和 主義 3 2.平和主義-2 平和主義とは何か? 【前文】 (1) 「日本国民は、… 政府の行為によって 再び戦争の惨禍が起こることの ないやうにすることを 決意」した。 2.平和主義-3 【前文】 (2)「日本国民は、 恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な 理想を深く自覚するのであって、 平和を愛する諸国民の 公正と信義に信頼して、 (誰の?) われらの安全と生存を保持しようと (どのように?) 決意した。」 (何を?) 2.平和主義-4 2.平和主義-5 【前文】 (3)「われらは、 平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上か ら永遠に除去しようと努めてゐる 国際社会において、 (どんな?) 名誉ある地位を占めたいと思ふ。」 (どこで?) 【前文】 (3)-2 「…われらは、 全世界の国民が、 ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和 のうちに生存する権利を有することを (→平和的生存権) 確認する。 」 2.平和主義-6 2.平和主義-7 【第9条】 (戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認) 「日本国民は、正義と秩序を基調とする国 際平和を誠実に希求し、国権の発動たる 戦争と、武力による威嚇又は武力の行使 は、国際紛争を解決する手段としては、永 久にこれを放棄する。…」 第2項 「前項の目的を達するため、陸海空軍その他 の戦力は、これを保持しない。国の交戦権 は、これを認めない。」 4 3.戦争・武力の放棄 学説 (1)全面的放棄説 4.戦力の不保持 9条2項の「前項の目的」とは何か? (2)部分的放棄説…1929年のパリ不戦条約 *自衛のための手段は放棄していない *国連憲章にも 国際紛争の平和的解決の要請(2条3項) 「武力による威嚇又は武力の行使」を禁止 *砂川事件判決 (1)「正義と秩序を基調とする国際平和を誠 実に希求」するため →一切の軍事力の不保持を定めたとする 説 (2)「国際紛争を解決する」ため →自衛のための戦力を認める説 =自衛隊合憲説 5.交戦権の否認 6.第9条解釈における学説の対立 9条2項「…国の交戦権は、これを認めな い。」 〇交戦権とは何か? (1)国家が戦争を行う権利 (2)一般に戦時国際法が交戦国に認める諸 権利(戦争そのものを行う権利ではない) =交戦によって行われる戦闘行為の刑事・ 民事責任を免れる 6.第9条解釈における学説の対立-2 7.政府の9条解釈 (1)自衛権肯定・「自衛戦力」合憲説 →自衛権には戦力が不可欠 1946.6.26 吉田茂 「自衛権の発動としての戦争も、又交戦権も 抛棄したものであります」 1948.1 日本が武力によらない自衛権を持つことは明瞭 1952.3 「憲法9条は日本の自衛独立を保護する戦力という か方法を禁じたものではない」 (2)自衛権肯定・「自衛力」合憲説 →「戦力」に至らない実力なら合憲 (3)「武力なき自衛権」肯定・戦力全面違憲説 →外交・民間抵抗のみ可 (4)自衛権実質放棄説 →戦力なき自衛権は放棄したのと同じ 4つの学説が対立 ただし、いずれも自衛権は認める 5 7.政府の9条解釈-2 1952.11 政府見解 7.政府の9条解釈-3 1955.3.29 鳩山一郎 「国の名誉のためにも軍隊を持ってはいけ ないというのは非常に不都合なことですか ら、9条は改正したい」 1957.5.7 岸信介 自衛のための必要最小限度の力は違憲で はないし、核兵器ですらいちがいに言えな い (1)憲法9条2項は目的の如何を問わず「戦力」の保持を禁止 (2)その「戦力」とは、近代戦争遂行に役立つ装備と編成を 備えたもの (3)「戦力」(=近代戦争?)の基準はその国のおかれた時間 的・空間的環境で具体的に判断すべき (4)「戦力」とは人的に組織された統合力である。よって兵器 そのものは戦力の構成要素ではあるが、「戦力」そのも のではない 7.政府の9条解釈-4 8.自衛隊の歴史 1972.11.13 田中角栄(政府見解) 「戦力とは、広く考えますと戦う力ということでござ います。そのような言葉の意味だけから申せば、 一切の実力組織が戦力に当たるといってよいで ございましょうが、憲法第9条第2項が保持を禁じ ている戦力は、右のようなことばの意味通りの戦 力のうちでも、自衛のための必要最小限度を超 えるものでございます。それ以下の実力保持は、 同条項によって禁じられてはいないということで ございまして、この見解は、年来政府のとってい るところでございます。」 第21講 人権とは何か 1.人権とは何か・人権の3つの特色 (1)人間が生まれながらに持つもの →固有性 (2)生まれながらゆえに、法律でも制限できない →不可侵性 (3)人間なら誰もが持っているもの →普遍性 1950年 警察予備隊の発足 1952年 サンフランシスコ講和条約 日米安保条約 保安隊に改組 1954年 空軍を加えて自衛隊の発足 ※「…平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し て、われらの安全と生存を保持しようと決意」? 1.人権とは何か-2 人間であれば、 「いつでも、どこでも、だれでも」 保障される権利 ↓ 人権 (広義の定義) 6 1.人権とは何か-3 2.人権の歴史 人権 前国家的権利 (国家の存在を無前提) 自由権 平等権 後国家的権利 (国家の存在を前提) 社会権 参政権 2.人権の歴史-2 18世紀的人権 市民革命後の人権 経済的自由・信教の自由・表現の自由など (自由権の保障)→「国家からの自由」 20世紀的人権 社会主義革命前後の人権 生存権・教育を受ける権利・勤労の権利 (社会権の保障)→「国家による自由」 新しい人権 第二次世界大戦後の人権 プライバシー権・環境権 3.日本国憲法における基本的人権の種類-2 憲法の人権構造 (1)包括的人権(13条) (2)平等権(14.24.44条) (3)自由権…精神の自由(19.20.21.23条) 身体の自由(18.31.33~39条) 憲法 経済活動の自由(22.29条) (4)社会権…生存権(25条) 教育を受ける権利(26条) 労働基本権(27.28条) 1215年 限 1628年 1688年 1689年 1776年 1787年 1789年 マグナ・カルタ(英)制定…国王の逮捕・課税制 権利請願(英)制定…議会の同意による課税 名誉革命(英) 権利章典(英)制定…財源と王位継承の同意 ヴァージニア州憲法(米)(独立戦争) アメリカ合衆国憲法(米) フランス人権宣言(仏)(フランス革命) ※人権の母国はイギリス・普遍化はフランス 3.日本国憲法における基本的人権の種類 包括的人権 平等権 自由権 社会権 参政権 受益権 3.日本国憲法における基本的人権の種類-3 憲法の人権構造-2 (5)参政権(15.79-2.95.96-2条) 憲法 (6)受益権(16.17.32.40条) 7 4.人権の主体 人権を保障されている主体(享有主体)は 誰か? →日本国憲法の人権規定は 「第3章 国民の権利及び義務」 ↓ 第1の享有主体は国民 その他は? 4.人権の主体-3 国民以外とは? (1)天皇・皇族 →肯定説(通説):天皇・皇族を国民とし、人権は保障される ※ 但し、皇位の世襲と職務の特殊性から 必要最小限度の特例が認められる →否定説(佐藤幸):天皇・皇族を国民としない ※皇位世襲など、現行法上の特権及び制約から考えれば 14条の門地により差別されないとする国民ではない。 ゆえに憲法11条の国民でなく、人権享有主体性なし ◇選挙権・被選挙権・公務就任権、国籍離脱の自由・移住の自 由、職業選択の自由等は制限 4.人権の主体-5 国民以外とは?-2 (3)外国人 前国家的権利は保障するが、後国家的権 利は除く 4.人権の主体-2 日本国憲法第10条 「日本国民たる要件は、法律(国籍法)でこれを定める」 国籍法第2条 子は次の場合には、日本国民とする。 一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。 二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であった とき。 三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れない とき、又は、国籍を有しないとき。 →血統主義(原則)+出生地主義 4.人権の主体-4 (2)法人:法的に個人と見なされる人の集団 自然人特有の権利以外は保障される →通判)性質上可能な限り認められる ※法人の活動は自然人を通じて行なわれ、その効果は究 極的に自然人に帰属する。 法人は現代社会において 1個の社会的実体として重要な活動を行なっている。 ☆法人にも、自然人と同程度の人権保障が及ぶか 政治献金 →通説)自然人より広範な積極的規制を加えることが許される ※法人は強大な社会的権力になっている場合があり、人権 の実質的公平の観点からある程度制約はやむを得ない 4.人権の主体-5 (4)未成年者 未成年者は判断能力が未熟なため、ある 程度の制約が必要 選挙権、婚姻、職業選択の自由など 8 第22講 法の下の平等-租税法と憲法 第23講 精神的自由権 1.精神活動の自由 精神活動の自由はなぜ保障されるの か? (省略) (1)人間は考える動物 ⇒人間らしさに不可欠 1.精神活動の自由-2 2.思想・良心の自由 精神活動の自由はなぜ保障されるのか? (2)情報の選択から生まれる政治的意見 ⇒民主主義に不可欠 ①知る権利 ②表現する権利 憲法19条「思想及び良心の自由は、これを 侵してはならない」 思想と良心の区別なし(学説・判例) 以上から、思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20条) 表現の自由(21条)、学問の自由(23条) 3.信教の自由 20条1項「信教の自由は、何人に対してもこれを 保障する」 (1)信仰の自由 信仰を持ちまたは持たない自由 ※自衛隊合祀事件(最大判昭63.6.1) (2)宗教的行為の自由 宗教行為をする・しない自由 (3)宗教的結社の自由 宗教の布教・宣伝のための団体結成の自由 内心の自由は絶対的 ⇒表現の強制はされない ※謝罪広告強制事件(最大判昭31.7.4) 4.国家と宗教の分離(政教分離)の 原則 20条1項「…いかなる宗教団体も、国から 特権を受け、又は政治上の権力を行使し てはならない」 3項「国及びその機関は、宗教教育その他 いかなる宗教的活動もしてはならない」 89条「宗教上の組織若しくは団体」への公 金の支出の禁止 9 4.国家と宗教の分離(政教分離)の 原則-2 政教分離原則とは? 特定の宗教団体が、国から特権を受ける ことを禁止し、国家の宗教的中立性を明示 した規定 政教分離という語句は条文にない ⇒信教の自由を保障する 制度的手段 5.表現の自由 21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の 表現の自由は、これを保障する」 集会・結社 政治活動の自由の保障 知る権利を内包 情報の送り手・受け手の自由の保障 デモ行進⇒動く集会 ※徳島市公安条例事件(最大判昭50.9.10) 6.表現の自由と二重の基準論-2 表現の自由…制限する立法は原則違憲 他の人権……制限する立法は原則合憲 ⇒二重の基準 違憲の基準 (1)事前抑制禁止の原則 (2)明確性の原則 (3)明白かつ現在の危険の原則 (4)より制限的でない他の選びうる手段の原則 (LRAの原則) 4.国家と宗教の分離(政教分離)の 原則-3 政教分離のありかた (1)厳格分離説 ◇信教の自由に必要不可欠 ◇主催者・態様・効果のいずれかに 宗教性があれば違憲 (2)相対分離説(通説) ◇一切の関わり合いの否定は不可能 ◇目的に宗教的意義があり、効果に援助・拡大 が認められれば違憲⇒目的・効果基準 ※津地鎮祭事件(最大判昭52.7.13) 6.表現の自由と二重の基準論 二重の基準論 ⇒アメリカの人権保障の法理 表現の自由は、他の人権よりも強い保障を 受ける 表現の自由が制限されると、他の人権も保 障されないため 7.表現の自由の制約 絶対無制限の自由ではない (1)(犯罪等の)扇動的表現 ⇒明白かつ現在の危険の原則 (2)名誉毀損 ⇒ある人の社会的信用を落とす 事実の指摘 除外 a.公共の利益がある b.真実であると誤信される理由あり ※上記の判断基準に照らして違憲判断 10 7.表現の自由の制約-2 (3)プライバシーの暴露 プライバシー4要件 まだ他人に知られていない 知られたくない 人の事実 知られることで不快・不安 ※「宴のあと」事件(東京地判昭39.9.28) (4)わいせつ表現 わいせつ三要件 通常人の羞恥心を害すること 性欲の興奮、刺激を来すこと 善良な性的道義観念に反すること ※「悪徳の栄え」事件(最大判昭44.10.15) 8.学問の自由-2 8.学問の自由 「学問の自由は、これを保障する」(23条)の 意義 (1)社会の発展に貢献 (2)研究者の自由の尊重が重要 (3)歴史的には弾圧されてきた 9.憲法の私人間効力 学問の自由の内容 学問研究の自由 研究発表の自由 教授の自由…小中高教師は制限 ⇒教育の機会均等 全国的な教育水準の維持 大学の自治(研究者の人事の自治 施設、学生管理の自治) ※ポポロ劇団事件(最大判小38.5.22) 私人間(しじんかん)とは? ⇒親と子、企業と消費者、友人同士の 関係≒非公務員との関係 憲法を遵守する義務は公務員のみ(99条) 原則として憲法の適用は 公務員・公的機関のみ (私人対国家) 9.憲法の私人間効力-2 第24講 経済的自由権 私人間には効力を及ぼさないか? (1)無効力説…効力を及ぼさない (2)直接効力説…効力を及ぼす (3)間接効力説…法律を通して効力を及ぼす (通説) 1.経済的活動の自由 憲法 私人間 (1)居住・移転・職業選択の自由(22条) (2)財産権の保障(29条) いずれも「公共の福祉」という制約 法律 11 1.経済的活動の自由-2 1.経済的活動の自由-3 22条 「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転 及び職業選択の自由を有する。 2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自 由を侵されない。 」 29条 「財産権は、これを侵してはならない。 2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやう に、法律でこれを定める。 3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共 のために用ひることができる。 」 2.職業選択の自由 3.職業選択の自由の規制 22条1項 「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業 選択の自由を有する」 (1)自己の従事すべき職業を決定する自由 ⇒社会との関連性が強く、社会の安全 や秩序を脅かす可能性 ⇒一部の企業や職業に政策的配慮 公共の福祉の制約(二重の基準論) (2)営業の自由も保障されるか? 自己の従事すべき職業を決定する自由だけではなく、自 ら選択した職業を行なう自由まで含まれると解さなけれ ば、職業選択の自由を保障した意味がない。 3.職業選択の自由の規制-2 職業選択の自由に対する規制の合憲性判定基 準 ◇消極目的規制 厳格な合理性の基準で判断 (≒LRAの基準) 自由主義社会の基礎 アダム・スミス 「見えざる手」による市場経済の自動調整 ⇒経済的自由は不可欠・前国家的権利 資本主義社会の変遷 自由放任による冨の偏在 ⇒経済的自由の制限 国家による再分配・最低限の経済的平等の確保 職業選択の規制 a.届け出制…理容業 b.許可制…飲食業 c.資格制…医師・弁護士 d.特許制…電気・鉄道等公益事業 e.国家独占制…かつての郵便事業 消極的規制 積極的規制 4.居住・移転の自由 22条「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、 移転及び職業選択の自由を有する。 何人 も、外国に居住し、又は国籍を離脱する自由を 侵されない。 」 意義 (1)経済的…資本主義経済の前提 精神的…知的接触による人格形成 身体的…自己の移動したい所に移動 ◇積極目的規制 合理性の基準ないしは 明白性の原則で判断 (「薬局開設距離制限事件」最大判50.4.30) 12 4.居住・移転の自由-2 海外渡航の自由⇒22条2項で保障 ※「著しくかつ直接に日本国の利益または公安を害する行 為を行なう恐れがあると認めるに足りる相当の理由があ る者」 に対して、外務大臣は旅券の発給を拒否できると いう旅券法13条1項5号は合憲か? 5.財産権の保障 ◇判例「外国旅行の自由と言えども無制限に許されるので はなく、公共の福祉のために合理的な制限に服する。旅 券法の規定は合理的な制限を定めたものであり、合憲で ある。 」 ◇通説「海外渡航の自由が精神的自由の側面を有すること を考えれば、明確性の理論により違憲となる。少なくとも 害悪発生の相当の蓋然性が客観的に存在しない場合の 拒否処分は明白かつ現在の危険の理論により適用違憲 となる。旅券は政府が発行する身分証明書であり、政策 的観点からの制約を認める渡航許可証ではない。 」 5.財産権の保障-2 財産権の制約 (1)私有財産制の制度的保障 (2)個人の現に有する具体的財産権の保障 6.正当な補償 (1)公共の福祉による制限 ⇒職業選択と同じく、消極的規制・積極的規制 を受ける 正当な補償とは? (1)完全補償説:当該財産の客観的な市場価格を 全額補償すべき (2)相当補償説(宮沢):正当な補償とは、合理的に 産出された相当な額を言うのであって、必ずしも 常にかかる価格と完全に一致することまでは要 しない。 29条3項「私有財産は、正当な補償の下に、 これを公共のために用いることができる」 公共の利益のために特定人に加えられる 経済上の損失は、公共で負担すべき ⇒平等原則 (2)法律・条例による制限 ⇒29条2項は、1項の財産権の内容が法律に よって制約されることを明らかにした規定 6.正当な補償-2 29条「財産権は、これを侵してはならない。 2.財産権の内容は、公共の福祉に適合するよう に、法律でこれを定める。 3.私有財産は、正当な補償の下に、これを公共 のために用いることができる。 」 7.正当な補償と国家賠償 17条「何人も、公務員の不法行為により、損害を 受けたときは、法律の定めるところにより、国又 は公共団体に、その賠償を求めることができる 」 国家賠償 国家賠償:国家(公務員)の違法な行為による損失 損失補償:国家(公務員)の合法な行為による損失 (正当な補償) 13 第25講 プライバシー権 1.新しい人権-2 1.新しい人権 新しい人権とは、憲法の定める個別の権利規定 に明示されてはいないが、憲法上の人権として 保障されるべきであると主張される権利 (⇒憲法制定後に生成した権利) プライバシー権・肖像権・知る権利・アクセ ス権・学習権・健康権・環境権・日照権・嫌 煙権・自己決定権… ↓ 根拠となる条文は解釈により異なるが おおむね憲法13条の幸福追求権を 根拠にする場合が多い ◇環境権・肖像権・プライバシー権など 1.新しい人権-3 ◇新しい人権を憲法で保障する方法 (1)14条以下の個別の条文から類推解釈 2.幸福追求権 前文⇒平和的生存権 21条⇒知る権利・アクセス権 25条⇒健康権・環境権・日照権 26条=学習権 (2)憲法13条の幸福追求権から類推※ ※「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸 福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反し ない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要と する。」 ◇京都府学連事件(最大判昭44.12.24) 違法なデモ行進と見なされた相手に対し、 犯罪捜査としての写真撮影の適法性・合憲性 が問題とされ、それぞれ適法・合憲と判断された ⇒肖像権が判決理由の中で初めて認められた ⇒プライバシー権・肖像権・嫌煙権・自己決定権… 2.幸福追求権-2 肖像権 とは 京都府学連事件は、肖像権を初めて認めた事例 but判決中で「肖像権」と表現せず ⇒実質的に同等の憲法上の利益を認めた 「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承 諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」と いう。)を撮影されない自由を有する」 「これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、 警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮 影することは、「憲法13条の趣旨に反し、許されないもの と言わなければならない」 高度産業社会・情報化社会化による 新たな問題の発生 =憲法制定以後の社会情勢の変化 に伴い、この権利を根拠に様々な 権利が主張 2.幸福追求権-3 幸福追求権とは (1)一般的自由説…あらゆる生活領域の行為の 自由を含む 例:危険行為(冬山登山・バイクの ローリング走行)の自由 (2)人格的利益説…「自律した個人が、人格的に生存する (通説) ために不可欠と考えられる権利」 ①国家の干渉が著しい侵害を与える ②他人の人権を侵害する ③多くの国民の生活に必要不可欠 ⇒いずれかの場合は、認められる 14 3.プライバシーの権利 3.プライバシーの権利・概観 プライバシーの権利とは 「ひとりで放っておいてもらう権利(right to let me alone)」 ※アメリカ判例で発展 =私法上の「人格権」 肖像権・過去の経歴の暴露・誹謗中傷・電話 の盗聴など ↓ 「私生活をみだりに公開されない法的保障ないしは権利」 ※人格的生存に不可欠 =憲法13条によって裏付けられた人権 ※「『宴のあと』事件 東京地判昭39.9.28」 ↓ 自己に関する情報をコントロールする権利 (情報プライバシー権) 4.プライバシーの権利侵害の審査 の基準 何がプライバシーか? 4.プライバシーの権利侵害の審査 の基準-2 全ての個人情報は以下の3つに大別 ①誰が考えてもプライバシーと思われる ②一般的にプライバシーと思われる ③プライバシーかどうかあいまいなもの 国家が公共の秩序維持からの制限を行う場合 ①の場合:最も厳格な審査基準で合憲判断 【プライバシー4要件】 (1)その内容が私生活上の事実、もしくはそう受け取られるお それのあるもの (2)一般人の感受性を基準として公開を欲しないであろうこと (3)一般の人々にいまだ知られていない事柄 (4)公開によって本人が実際に不快・不安の念を感じたこと a.公共の利益のため b.明らかな必要性ないしは緊急性あり c.他に方法がない ※公人(公務員)や公的存在(学者・文化人・芸能人・ スポーツ関係者)の場合は、 一般人よりプライバシーの範囲は狭くなる ②の場合:厳格な合理性の基準で合憲判断 a.公共の利益のため b.明らかな必要性ないしは緊急性あり 第26講 生殖の自己決定権 1.自己決定権-2 1.自己決定権 13条から派生する「新しい人権」 ◇情報プライバシー権 プライバシー権 ◇その他のプライバシー権 cf. ①家族の形成・生殖に関わる自由(避妊・妊娠中絶など) ②自己の生命・身体に関わる自由(尊厳死・安楽死など) ③ライフ・スタイルに関わる自由(髪型・服装など) ⇒自己決定権 ①・②・③は、いずれも人格的生存に 欠かせない個人の問題 自己決定権=情報プライバシー権と並ぶ 広義のプライバシー権 ※日本では、自己決定権を認定した判例はない cf. パーマ禁止校則事件 修徳学園バイク退学事件 ⇒いずれも教育上の合理的な目的から 制限を認める 15 1.自己決定権-3 (さらに新しい?)人権としての自己決定権 憲法の人権は生成発展を続けている 新しい人権の最先端に「自己決定権」の議論がある 自己決定権とは、自分の生き方や生活について 自由に決定する権利 医療に関しては、患者の最も重要な権利 ⇒インフォームド・コンセントの根拠 (説明による同意) 2.生殖の自由と自己決定権-2 ミルの自己決定の考えから ①産む産まないは私の自由 =生と生殖の自由 リプロダクティブ・ヘルス/ライツ …1994年国連・国際人口 開発会議の行動計画 ◇すべての男女が、身体的・精神的・社会的に よりよい状態で「子供をもつかどうか」「子供を いつ、何人産むか」について、女性の自己選 択権を尊重する ⇒女性の人権(自己決定権)ともいわれる 2.生殖の自由と自己決定権-4 ①性と生殖の自由 については、 先進国では 女性の自己決定権…中絶の権利 家族形成の権利…人口生殖技術利用 ⇒女性の身体への自己決定は基本的人権 ※女性への暴力・性の商品化が著しい日本では 女性の自己決定権は確立されていない 今後の諸問題 ⇒a.人工妊娠中絶 b.母体保護法 c.刑法の堕胎罪 d.不妊治療 2.生殖の自由と自己決定権 ジョン・スチュワート・ミル(『自由論』) 「どんな行為でも、その人が社会に対して責任を 負わなければならない唯一の部分は、他人に関 係する部分である。個人は彼自身に対して、すな わち彼自身の肉体と精神とに対しては、その主 権者なのである。」 ⇒他人に迷惑にならないかぎり、 自分のことは自分で決める 自己決定権 2.生殖の自由と自己決定権-3 ②私の性は私が決める =性決定(転換)の自由 …1998年埼玉医科大学 性別再指定手術 ◇性同一性障害ならば、性器を「心の性」に 合わせて形成外科手術を行うことができる 3.出生前診断とは ◇出生前診断(しゅっしょうまえしんだん) 胎児の異常の有無の判定を目的として、妊娠中に実施する検査 狭義では「異常が疑われる妊娠に対し出産前に行う 検査および診断」 ○トリプルマーカーテスト(スクリーニング) 一部の先天異常(ダウン症等)、二分脊椎などの判断 年間数千~一万件に及ぶ ○羊水検査(流産の可能性) ○絨毛検査(流産の可能性大) ⇒法律上は、やっていいともいっていないし やっていけないともいっていない 希望する人がいて、できる技術がある ←自己決定の領域 ※ただし母体保護法では、障害を理由の中絶は認められていない 16 4.産む自由という権利 産む性としての女性の自己決定の排除 ◇企業の慣行…結婚・出産退職制(三井造船事件) ◇「健康な子どもだけを」産む自由 ※「不幸な子どもの生まれない運動」 1966年~1972年、兵庫県で執行された政策 妊婦の出生前診断を奨励し、羊水検査でダウン症 や筋ジストロフィーなど染色体異常の可能性のある 胎児を人工妊娠中絶させることを奨励 ※兵庫県衛生部「不幸な子どもの生まれない対策室」 パンフレット配布活動(1969年) ⇒障害者団体・人権団体の強い異議 ↓ 対策室は閉鎖 ⇒産む自由という権利はあるのか? 6.出生前診断と障害者の人権 5.産まない自由と中絶の権利 ◇産む自由も産まない自由も自らの意思である (1)妊娠しない自由…避妊の自由 コネティカット州:避妊具使用禁止法 1965年、最高裁で「結婚上の プライバシーの侵害」として違憲 (2)産まない自由…人工妊娠中絶 日本では認めず 自己堕胎・同意堕胎・ 業務上堕胎の刑法規定 母体保護法14条の事由以外は ↓ 違法 (強姦・母体生命の危機・経済的理由) ⇒事実上、中絶天国 7.不妊治療と法の限界 ◇出生前診断は子どもを産む選択を広げたか? if 診断で子どもが障害児の可能性 ⇒産むか産まないかを選択? but (殆どの場合は産まない) 障害児には生まれる権利がないのか? ⇒障害者の人権を侵害するおそれ ※幸福追求のための中絶の権利 しかし出生前診断によって 産んでも産まなくても後悔する=産む自由とはいえない ↑ しかも、胎児の生存の決定は「自己」決定か? 8.自己決定権が人権となるためには ◇不妊治療と医療の発達 体外受精・代理母をめぐる問題点が発生 (1)人になりうる可能性のある受精卵を実験に用いる是非 (2)本人の処分権として、精子・卵子・受精卵の売買は認 められるか (3)多胎児の一部を選別して中絶することの是非 (4)精子・卵子提供者による子どもの父・母は誰か (5)提供者が匿名の場合、「親を知る権利」はどうなるか (6)未婚の母、同性愛者、独身者にも認めるか *その他:向井亜紀・高田延彦夫妻が2003年に代理母出 産で実子登録拒否 番外編:教育基本法 ◇問題はどこにあるのか? (1)情報がない …障害児を育てるには? …どんな問題が? (2)障害を持つことが不幸なのではなく 障害を持つことが不幸としか思えない状況が不幸 どのような人間でも生きられる社会の整備が不可欠 自己決定権=自立できない人の人権 ↑↓ 共生社会の発展が不可欠 ◇教育基本法=教育について定めた法律 概要 2006(平成18)年12月22日に公布・施行さ れた現在の教育基本法は、教育基本法 (昭和22年法律第25号)の全部改正 本則は18条 第1章~第4章までそれぞれ「教育の目的 及び理念」「教育の実施に関する基本」「教 育行政」「法令の制定」について規定 17 1.教育基本法の概要-2 「たゆまぬ努力によって築いてきた民主的 で文化的な国家を更に発展させるとともに、 世界の平和と人類の福祉の向上に貢献す ることを願う」(前文)とした上で、この理想 を実現するために教育を推進するとしてい る 3.教育基本法の構成-1 前文 第一章 教育基本法の目的及び理念 第1条 教育の目的 第2条 教育の目標 第3条 生涯学習の理念☆ 第4条 教育の機会均等 第二章 教育の実施に関する基本 第5条 義務教育 第6条 学校教育 第7条 大学 ☆ 第8条 私立学校☆ 第9条 教員 第10条 家庭教育☆ 第11条 幼児期の教育☆ 註:☆は新設 2.旧法の概要 1947年3月31日施行 日本国憲法との関連が強く意識されており、 日本国憲法に示された理想の実現が基本 的に教育の力によると記載 全部で11条(章はなし) ◇実体を定めた第1条~第10条 ◇他の法令との関係を定めた第11条 3.教育基本法の構成-2 第12条 社会教育 第13条 学校、家庭及び地域住民等の連携協力☆ 第14条 政治教育 第15条 宗教教育 第三章 教育行政 第16条 教育行政 第17条 教育振興基本計画☆ 第四章 法令の制定☆ 第18条 附則 4.教育基本法の変更点-1 4.教育基本法の変更点-2 (1)愛国心に関する規定の新設 「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が 国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際 社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」 (第2条5) ←旧法に規定無し その他 (2)道徳教育など規範意識に関する規定の強化 「公共の精神」を尊ぶこと(前文) 「教育の目標」として「豊かな情操と道徳心を培う」 (第2条) ←旧法に規定無し 指導要領に提示されるのみ 私学教育の位置づけ 家庭教育に関する規定の新設 ⇒保護者の役割 幼児期教育に関する規定の新設 生涯教育に関する規定の新設 大学に関する規定の新設 教育振興基本計画の策定の義務づけ 18 5.主な論点 「能力に応じて」「ひとしく」教育を受けるとは? 前者に重点を置くか、後者を強調するか? ◇義務教育における無償は授業料無償に限定 教科書代、休職費、通学費などはどうするか? 政治的中立の確保とは何か? もともと旧法第10条2項「教育行政は、(略)教育の目的 を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行 われなければならない」から、国の関与は教育の内容な どの内的事項は含まず、外的事項に限るという見解と、 内的事項への関与も含まれるという見解に対立 教育の目的や役割を法で規定することが妥当か? 第1条の「人格の完成」が何を意味するのか不明 6.批判(現行法に対する) 折出健二(教育方法論 愛知教育大教授) 「はじめに「日本人の育成」ありきでは、子どもた ちが閉塞感をいっそう強め、答申が言う「公共」 は彼らには巨大な権力としてのイメージと映って も、自分たちの生きられる(居場所)あるいは公 共空間とはならないであろう。こうした関係性の 基本問題の広範な立て直しを見過ごして、「改 正」を行い、法的拘束性を持たせるのは、子ども の自立への願いに逆行するものといわざるを得 ない。」 ⇒学会報告の中で 7.その他 ◇タウンミーティングでの「やらせ質問」 青森県で行われた、教育基本法改正も含む教育 改革に関する政府のタウンミーティングで、改正 賛成の質問をするよう参加者に依頼し、その方 針に沿って発言者も指名されていた問題 2006年11月7日に内閣府はこの問題に関して関 与を認め謝罪し、安倍首相をはじめ閣僚が給料 を自主返納するなどの処分を行った。与党は教 育基本法改正自体には問題がないとして衆院で は単独採決を行った。野党はこの問題を「やらせ ではないのか」と指摘し、政府の動きに反発した。 19
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