家計の支出行動から探る無担保ローンの利用者像 ソニー銀行 総合

家計の支出行動から探る無担保ローンの利用者像
ソニー銀行㈱ 総合リスク管理部 - 谷口裕明
参加カテゴリー:A
田中健太郎
片柳有紀子
要旨
金融機関にとって無担保ローンのマーケット規模は比較的小さく、これまであまり注目されてこなか
ったが、近年は貸出環境が変化しつつあることもあり、注目が高まっている。本分析では無担保ローン
利用者の支出行動をツリーモデルにより分析し、その利用者像を鮮明にしていく。
1. はじめに
本邦金融機関の個人向け貸出しマーケットにおいて、メイン商品である住宅ローンの獲得競争は年々
激化しており、金利優遇による採算性低下が進行していることは周知のところである。※1
そのような環境下において、いくつかの金融機関においては比較的収益性の高い無担保ローンを積極
的に推進する動きが見られる。無担保ローンとは、金融機関が担保を徴求する代わりに金利が低く抑え
られている有担保ローン(住宅ローンなど)と異なり、担保は徴求しない代わりに比較的高めの金利が
設定されているローン商品で、カードローン、自動車ローン、教育ローン、フリーローンなどが該当す
る。無担保ローンの代表格であるカードローンにおいては、やみくもに契約者を増やしても利用に至ら
なければコスト倒れとなる可能性があるため、いかに利用頻度の高いコアユーザーにアプローチするか
ということが肝要であるが、現状はマス広告に頼る側面が大きいというのが筆者の経験に基づく見解で
ある。
本分析では、疑似ミクロデータ(平成 16 年全国消費実態調査)を活用のうえ、無担保ローンの利用者
がとる特徴的な支出行動を実証的に明らかにし、利用者像のイメージを今まで以上に鮮明にすることを
目的とする。
分析にはデータマイニングツールとして有名で、かつ直感的な理解が容易なツリーモデルを使用する。
キーワード:全国消費実態調査、無担保ローン、データマイニング、ツリーモデル
2. 家計の支出に見る無担保ローンの返済
疑似ミクロデータの支出項目において、ローン返済に該当する項目は「土地家屋借金返済」、「他の
借金返済」、「分割払・一括払購入借入金返済」の三つに分けられており、このうち「土地家屋借金返
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------※1 日本銀行 金融システムレポート
2015 年 4 月 P40~42「住宅ローンの採算性、信用コスト・債務返済負担」
※この論文の内容は、全て執筆者の個人的な見解であり、所属する組織の公式的な見解を示すものではありません。
済」は主に住宅ローンの返済が、「他の借金返済」は主にカードローンや教育ローンの返済が、「分割
払・一括払購入借入金返済」は主に自動車ローンやクレジットカードの返済が対応しているものと考え
られる。
無担保ローンの返済は、厳密には「他の借金返済」と「分割払・一括払購入借入金返済」に跨ってい
ると考えられるが、本分析においては「他の借金返済」のみを無担保ローンの返済と見做し、当該支出
項目に着目のうえ以降の分析を進めていく。
図1(左)に示す通り、家計の支出全体で見ると、その内訳は「実支出」が約 47%、「実支出以外の支
出」が約 53%となっており、「実支出以外の支出」が 50%超となっていることに違和感を覚えるが、これ
は図1(右)に示す通り「実支出以外の支出」の 77.3%を「預貯金」が占めており、実態とは異なる支出
が反映されてしまっているからである。※2
【図1】
図2に示す通り、「預貯金」を控除した「実支出以外の支出」の内訳は、「保険掛金」が 35.6%、「土
地家屋借金返済」が 28.9%、「分割払・一括払購入借入金返済」が 25.3%、「他の借金返済」が 4.8%とな
っており、住宅ローンの返済に比べれば小さいものの、無担保ローンの返済も相応の存在感は確認出来
る。
【図2】
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------※2
「預貯金」は収入と支出の両方に存在している項目であり、預金口座における単なる出入りが金額に反映されているため、
実態はネット(相殺)して見る必要がある。
※この論文の内容は、全て執筆者の個人的な見解であり、所属する組織の公式的な見解を示すものではありません。
「他の借金返済」がある(=1 円以上)世帯数は全体の 56.4%であり、その中における金額の分布は図
3に示す通りである。約 50%が 5,000 円未満の範囲に入るものの、裾野が長い分布となっていることが分
かる。無担保ローンのコアユーザー(以下、コアユーザーと表記)を「他の借金返済」の金額分布にお
ける上位約 50%と定義し、本分析においては具体的に以下の先とする。
コアユーザー = 「他の借金返済」≧5,000 円 に該当する世帯
【図3】
家計の支出行動は大きく二つの要因に左右されると考えられる。一つ目は「世帯主の年齢」、二つ目
は「世帯の年収」である。図4(左)は世帯主の年齢階層別分布と階層毎のコアユーザー割合を示して
おり、30 代以下→40 代→50 代と年齢が高くなるほどコアユーザー割合が高くなっていることが分かる。
一方、
リタイア層がメインとなる 60 代以上において、コアユーザー割合は大きく低下している。図4(右)
は世帯の年収階層別分布と階層毎のコアユーザー割合を示しており、年収が大きくなるほどコアユーザ
ー割合が上昇していることが見て取れる。図5は年齢階層と年収階層でクロス集計したもので、年齢が
高いほど(60 代以上を除く)、年収が高いほど、コアユーザー割合は概ね高くなっていることがここか
らも分かるが、年収が 400 万未満の層では年齢によらずコアユーザー割合が低く、これは「年収が低け
ればローンの審査に通りにくい」という一般的な知見と整合するものである。
【図4】
※この論文の内容は、全て執筆者の個人的な見解であり、所属する組織の公式的な見解を示すものではありません。
【図5】
3. ツリーモデルを利用したデータマイニング
SAS Enterprise Miner のツリーノードを利用し、コアユーザーがとる特徴的な支出行動をマイニング
するための手順は下記の通りとした。
① コアユーザーに該当するレコードを 1、該当しないレコードを 0 とするフラグを立て、これをター
ゲット変数とする。
② フィルタノードにより、「年齢階層別×年収階層別」のグループにデータを分割する。
③ データ分割ノードにより、②で作成した各々のグループにおいて、学習用データ(60%)と検証用
データ(40%)に分割する。
④ ツリーノードの学習における対話型プロパティから Interactive Decision Tree を起動し、「ノ
ードの分割」を選択。
⑤ 図6に示す通り-Log(p)が大きいドライバーから上位 10 個を候補とし、各々のドライバーについ
て学習用データと検証用データで整合性を確認(クロスバリデーション)のうえ、そのドライバ
ーの金額が大きい場合にコアユーザー割合が高いのか、あるいは金額が小さい場合にコアユーザ
ー割合が高いのか、その方向を記録する。
上記の手順を経て、結果をまとめたものが【別紙】であり、クロスバリデーションの結果「不整合」
となったドライバーを考慮し、出現頻度の有効カウント数が 3 以上となるドライバーを集計したものが
図7である。
多くの支出項目は金額が大きくなるほどコアユーザー割合が高くなる傾向がある中、「他の社会保険
料」「繰越金」においては金額が小さくなるほどコアユーザー割合が高くなる傾向を示している。「他
の社会保険料」とは主に雇用保険料であり、「他の社会保険料」の金額が小さいということは給与収入
金額が小さいことを間接的に示している。また、「繰越金」は翌月に繰り越される現金を示しており、
この金額が小さいということは浪費癖が疑われるものである。
※この論文の内容は、全て執筆者の個人的な見解であり、所属する組織の公式的な見解を示すものではありません。
次に、有効カウント数 9 回の「仕送り金」は特に 40 代の出現頻度が高く、子供の教育のためには借金
も厭わない親心が垣間見れるものであり、この層においては無担保ローンの中でも教育ローンが多く活
用されていることが想像出来る。同じく出現頻度 9 回の「土地家屋借金返済」「分割払・一括払購入借
入金返済」からは、無担保ローンの借入に至るまでの心理的ハードルが住宅ローンの借入経験者や普段
からクレジットカード等を多用する層において比較的低くなっているのではないかということが想像出
来る。
また、「他の保険掛金」「保険掛金」もランクインしており、保険料の支払い額が大きい層において
コアユーザー割合が高いというのは、因果関係は不明であるが興味深いことである。
【図6】
【図7】
支出項目
158
178
180
168
171
174
169
182
172
087
157
183
仕送り金
土地家屋借金返済
分割払・一括払購入借入金返済
他の社会保険料
預貯金
他の保険掛金
他の非消費支出
その他
保険掛金
他の光熱
他の交際費
繰越金
有業人員
方向
小
有効
カウント数
不整合
大
9
9
9
6
6
6
5
5
5
3
3
3
3
1
9
9
9
6
6
6
5
5
4
3
3
3
3
※有効カウント数=MAX(方向:小の件数、方向:大の件数)-不整合
※有効カウント数≧3を抽出
※この論文の内容は、全て執筆者の個人的な見解であり、所属する組織の公式的な見解を示すものではありません。
4. おわりに
前章の有効カウント数では 1~2 となった支出項目を眺めると、以下のように一見は無担保ローンの利
用と因果関係がなさそうな項目において相関が見られるというのはデータマイニングの醍醐味であり、
大変興味深い。

生鮮野菜(有効カウント数:3) → 金額が小さいほど、コアユーザー率が高い

たばこ(有効カウント数:2) → 金額が大きいほど、コアユーザー率が高い

調味料(有効カウント数:2) → 金額が小さいほど、コアユーザー率が高い
本分析は疑似ミクロデータを活用したものであるため、大まかな特徴を捉えることを主眼に置き進め
てきたが、仮に粒度の細かい同様のデータを利用すれば、より肌理細やかなモデル構築にまで発展させ
ることも十分可能ではないかと考えられる。
本分析結果より、無担保ローンのコアユーザーにおけるいくつかの特徴的な支出行動が明らかとなり、
無担保ローンの利用者像がこれまでよりは鮮明に見えるようになったのではないだろうか。筆者はマー
ケティングの専門家ではないが、仮に金融機関の立場で無担保ローンのターゲティングを考えるとすれ
ば以下の層に訴求することがより効果的である、という提案を以下に示し、本稿の結びとしたい。
本分析から考えられる無担保ローンのコアユーザー
 子息が大学入学を控えている(既に進学している)世帯。(主に 40 代)
→家族情報を把握し、教育ローンでアプローチ。
 住宅ローンの返済を行っている世帯。
→住宅ローン契約時にカードローンのクロスセルが有効。
 クレジットカードの利用頻度が高い世帯。
→口座のトランザクションから特定し、DM 等でアプローチ。
 保険の相談窓口等へ来店する世帯。
→保険会社や保険販売代理店とのタイアップによるアプローチ。
以
※この論文の内容は、全て執筆者の個人的な見解であり、所属する組織の公式的な見解を示すものではありません。
上
【別紙 ツリーモデルによるマイニング結果 上位 10 項目】
400万未満
支出項目
30代以下
40代
50代
60代以上
182
070
183
149
039
172
180
057
069
047
136
152
115
158
137
078
074
135
151
069
180
178
120
158
122
127
106
128
124
094
171
182
124
122
127
128
178
167
040
110
その他
他の調理食品
繰越金
こづかい(使途不明)
穀類
保険掛金
分割払・一括払購入借入金返済
生鮮野菜
主食的調理食品
魚肉練製品
書籍・他の印刷物
家具・家事用品
履物類
仕送り金
教養娯楽サービス
学校給食
他の飲料
教養娯楽用品
食料
主食的調理食品
分割払・一括払購入借入金返済
土地家屋借金返済
保健医療用品・器具
仕送り金
交通・通信
自動車等維持
男子用シャツ・セーター類
通信
自動車等関係費
室内装備・装飾品
預貯金
その他
自動車等関係費
交通・通信
自動車等維持
通信
土地家屋借金返済
介護保険料
米
男子用下着類
方向
大
大
小
大
不整合
不整合
大
小
大
小
小
大
小
大
小
小
小
不整合
不整合
小
大
大
大
大
大
不整合
大
大
不整合
不整合
大
大
大
大
大
大
大
小
不整合
小
173
147
171
148
183
180
135
143
155
147
086
169
158
142
180
144
171
182
171
180
178
169
174
172
093
072
183
149
066
075
052
038
101
167
164
180
064
174
600万未満
支出項目
個人・企業年金保険掛金
たばこ
預貯金
有業人員
その他の諸雑費
繰越金
分割払・一括払購入借入金返済
教養娯楽用品
諸雑費
他の物品サービス
たばこ
ガス代
他の非消費支出
仕送り金
その他の消費支出
分割払・一括払購入借入金返済
有業人員
理美容サービス
預貯金
その他
預貯金
分割払・一括払購入借入金返済
土地家屋借金返済
他の非消費支出
他の保険掛金
保険掛金
一般家具
茶類
繰越金
こづかい(使途不明)
調味料
酒類
乳卵類
食料
洋服
介護保険料
社会保険料
分割払・一括払購入借入金返済
油脂・調味料
他の保険掛金
方向
大
大
大
大
大
小
大
大
大
大
大
不整合
大
大
大
大
大
不整合
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
小
大
小
小
不整合
不整合
不整合
小
大
大
不整合
大
168
056
158
057
059
046
157
043
055
168
158
182
157
162
161
180
160
178
138
171
180
174
172
178
169
168
161
040
162
178
054
126
057
158
056
049
157
038
050
800万未満
支出項目
他の社会保険料
野菜・海藻
仕送り金
生鮮野菜
大豆加工品
有業人員
塩干魚介
他の交際費
他の穀類
卵
他の社会保険料
仕送り金
その他
他の交際費
個人住民税
勤労所得税
分割払・一括払購入借入金返済
直接税
土地家屋借金返済
宿泊料
預貯金
分割払・一括払購入借入金返済
他の保険掛金
保険掛金
土地家屋借金返済
他の非消費支出
他の社会保険料
勤労所得税
米
個人住民税
土地家屋借金返済
乳製品
自転車購入
生鮮野菜
仕送り金
野菜・海藻
肉類
他の交際費
食料
生鮮肉
※この論文の内容は、全て執筆者の個人的な見解であり、所属する組織の公式的な見解を示すものではありません。
方向
小
小
大
小
大
大
小
大
小
小
小
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
小
大
大
大
大
小
大
小
大
不整合
小
大
不整合
小
800万以上
支出項目
100
087
172
174
138
168
156
169
167
143
168
158
172
174
182
139
087
171
098
178
168
174
172
158
169
093
180
087
163
178
064
066
052
056
059
057
178
054
038
158
和服
他の光熱
保険掛金
他の保険掛金
宿泊料
他の社会保険料
贈与金
他の非消費支出
介護保険料
諸雑費
他の社会保険料
仕送り金
保険掛金
他の保険掛金
その他
パック旅行費
他の光熱
預貯金
家事サービス
土地家屋借金返済
他の社会保険料
他の保険掛金
保険掛金
仕送り金
他の非消費支出
一般家具
分割払・一括払購入借入金返済
他の光熱
他の税
土地家屋借金返済
油脂・調味料
調味料
乳卵類
野菜・海藻
大豆加工品
生鮮野菜
土地家屋借金返済
乳製品
食料
仕送り金
方向
大
大
大
大
大
小
大
大
大
大
小
大
大
大
大
大
大
大
大
大
小
大
大
大
大
大
大
大
大
大
小
小
小
小
小
不整合
大
不整合
小
大