東日本大震災後の家庭における節電行動の規定要因

Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
東日本大震災後の家庭における節電行動の規定要因
Household Electricity Saving Behavior after the Great East Japan Earthquake
八 木 田 克 英 *・ 岩 船 由 美 子 *・ 荻 原 美 由 紀
Yoshie Yagita
Yumiko Iwafune
Miyuki Ogiwara
**
・ 藤 本 剛 志
Goshi
***
Fujimoto
(原稿受付日 2012 年 3 月 2 日,受理日 2012 年 6 月 15 日)
The summer after the Grate East Japan Earthquake 2011, Japanese people were required to conserve electricity
consumption to avoid a national energy emergency. Japanese government and electricity companies campaigned for
"SETSUDEN( i.e. electricity saving)" and it worked. As a result, more than 18 percent electricity saving in Kanto area were
achieved, compared to previous summer level. The purpose of this study is to examine why people could save electricity
consumption significantly and what were the factors of electricity saving behavior and to analyze the mechanism of
consumer's energy conservation behavior in the summer of 2011, Japan. The empirical results are based on an internet-based
survey that was sent out to about 6500 Japanese households, and covariance structure analysis was carried out. Our results
indicate that perceived consumer effectiveness, perceived benefit and perceived risk ( including magnitude of risk
noxiousness and probability of risk occurrence) are all important factors of electricity saving activities within Japanese
household after the disasters. This paper ends by discussing some implications of these results for the future informative
communication measures in energy-saving field.
実施したり,モニタリングシステムを設置したりするとい
1.はじめに
2011 年 3 月 11 日に生じた東日本大震災と,それに伴い
う一般に省エネ効果が高いといわれる個別のコミュニケー
生じた福島原発事故は,我が国のエネルギー利用に対し,
ションを実施した結果である.政府広報など,不特定多数
かつてないほどの大打撃を与えた.東北電力,東京電力管
の受け手に対してマスメディアを利用したコミュニケーシ
内で多くの電源が喪失し,震災直後には我が国で戦後初め
ョンでは,その省エネ効果は極めて限定的であるといわれ
てとなる輪番停電が実施されるにまでに至った.また震災
ている 3-4).
後に迎えた夏には深刻な電力不足が懸念され,政府からの
にもかかわらず,東日本大震災の後に,これほどまで大
15%の節電要請,大口需要家に対しては 37 年ぶりに電気事
規模に,生活者が自発的に省エネ行動を実践した原因はど
業法第 27 条にもとづく電気使用制限が発令されるなどし
こにあるのだろうか.本研究では,東日本大震災後の夏に,
た.日本のエネルギー消費者は,国民の総力をあげて節電
多くの人が節電行動を実践した心理的な要因を明らかにす
と電力不足回避に取り組むという,今までにない経験をす
ることを目的として,グループインタビューによる定性調
ることとなった.そしてその結果,迎えた夏が冷涼だった
査およびインターネットによる定量調査を実施して検討し
ことも幸いして,東京電力管内で電力消費量 18%削減を達
た結果を報告する.
成するなど
1)
,目標を上回る省電力を達成することができ
2.仮説の構築
た.
2.1 節電行動の規定要因
これまで家庭における省エネ行動を促進するために,多
種多様な取り組みが行われてきているが,生活者の行動変
家庭のエネルギー消費行動を心理的側面から検討する先
容を期待することはそう簡単なことではない.今までに報
行研究は古くからあり,特に 1970 年代のオイル・ショック
告されている例では,エネルギー消費量を使用後にフィー
の直後に数多く行われている.そして,省エネ行動を含む,
ドバックすることで 3.8%の電力消費量削減効果,モニタリ
環境配慮行動を規定する要因として代表的なものに,以下
ングシステムを利用してエネルギー消費量リアルタイムで
のような要因が今までの先行研究で挙げられている 5-6).
フィードバックして約 12%の電力消費量削減効果などであ
①
環境リスク評価
2)
る .しかもこのような省エネ効果は,エネルギー診断を
環境問題がどれほど深刻であり,その発生がどれほど確
からしいかの認知である.その認知は,被害の深刻さとそ
の事態の発生可能性の2つの要素から構成される.
*
東京大学 生産技術研究所 エネルギー工学連携研究センター
〒153-8505 東京都目黒区駒場 4-6-1 As 棟 213
** 東京ガス株式会社 都市生活研究所
*** 東京ガス株式会社 技術開発本部 技術戦略部
〒105-8527
港区海岸 1-5-20
②
対処有効性評価
ある行動を実践することがある環境問題の解決に有効で
7
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
あると感じる主観的な知覚の程度を指す.
の大きかった地域への同情や「何か協力したい」という思
③
い,「世の中,そういう風潮だった」
「世間一般が節電一色
社会的責任感
になっていた」というように,周囲の環境がそうであった
エネルギー資源の枯渇や,エネルギー危機などの問題の
原因が誰に帰属すると認知しているかである.
という回答があった.これらは,震災後の社会規範評価の
④
一部であると考えられる.次に,停電のリスクに関する回
社会規範評価
省エネ行動のみならず,個人の行動は準拠集団の社会的
答が多く見られたが,電力不足が深刻であるという危機感
規範の影響を受けると言われている.社会規範には,その
とともに,電力不足に伴う停電に対して,
「恐怖」という回
社会において多くの人々が実際にとっている行動について
答があった.説得コミュニケーションには,従来から受け
の知覚に基づく規範と,当該社会において望ましい行動や
手に恐怖を喚起し,脅威の危険性認知を高めて,それを説
とるべき行動と知覚されている規範がある.
得に利用するというコミュニケーション方法がある
⑤
災後に生じた電力不足や今まで経験したことのない計画停
ベネフィット評価
7)
.震
エネルギー消費量や消費行動の主要な促進要因は,光熱
電は,消費者の不安感や恐怖感をかきたて,節電行動を実
費削減などの経済的ベネフィットや,利便性や快適性,健
践する原因となった可能性が考えられる.そこで上述した
康配慮など生活の質的ベネフィットであることが確認され
危機感がリスクの生起確率の評価とするなら,リスクの深
ている.
刻さの評価を「脅威感」として,リスク評価を2つに分け
⑥
て節電行動の規定要因として仮定した.
コスト評価
省エネ行動の実践には,新たな手間や労力,費用負担と
これらより,グループインタビューの結果,先行研究で
いった経済的コストを要することもある.これらの費用負
明らかになっている規定要因と大きく異なる点はなかった
担や不便さなどのコスト評価が,省エネ行動を阻害するこ
が,リスク評価について,危機感の他に脅威感を加えるこ
とが報告されている.
と,個々の評価尺度を構成する設問を,震災に関連する文
⑦
言を入れて表現しなおすこと,などして仮説の構築を行っ
実行可能性評価
環境配慮行動をとるためには,その行動を実践するため
た.
の知識や技能をもっていること,あるいは行動するための
社会的機会が用意されていることが必要となってくる.
表1
本研究では先行研究に従い,震災後の節電行動を規定し
【停電への不安】
大停電がおきるかもしれないという恐怖があった
計画停電は怖かった
計画停電は切実だった,切られたら本当に大変だと危機感があった
停電になったのが,ショックだった
計画停電はイヤだ
節電しなかったらどうなるとかという不安感
ていた要因としてこれらの要因を検討する.
2.2
震災後の節電行動の動機
グループインタビューによる予備調査
家庭での省エネ行動を規定する要因について,2.1 で簡単
【リスク認知】
計画停電があり,本当に止まってしまうんだと思った
マスコミで言われることが,自分の生活で起きた
電気がなくなると,真っ暗になるんだと思った
に先行研究をレビューしたが,これらは通常時に関して議
論しているものがほとんどである.しかも 2011 年夏の電力
不足は,大震災によって電源喪失が生じ,その結果の電力
【周囲の環境】
トレンドだから,みんながやっているから
電車もお店も暗かった
実際に工場が動かないのをみて,まずいと思った
世間一般が,節電一色になっていた
どこにいっても,節電,節電と書いてあった
世の中,そういう風潮だった
企業が努力していた。個人も努力した方がいいと思った
クーラーの温度をさげるのは悪,みたいな風潮
不足であるという状況も特異である.そこで,今までに先
行研究で挙げられている省エネ行動の規定要因の他に,異
なる要因があるのか明らかにすることを目的として,節電
行動を実施した理由や実施した行動,実践した結果につい
て探索的なグループインタビューを行った.インタビュー
調査の対象者は,一都三県(東京都,千葉,埼玉,神奈川)
【被災地への思い】
被災地の人と比べたら,少々の我慢はたいしたことない
福島で作られた電気を東京で使っているとは知らなかった
何もやっていないと,うしろめたい
福島に申し訳ない
被災地をみると,何かしら協力したいと思った
に在住し,20 代から 60 代の男女 30 名で,2011 年 6 月~8
月の電気使用量を把握しており,前年の同月電気使用量よ
り削減している人を,調査会社のインターネットモニタよ
【その他】
国の危機である
できるだけ,原子力に頼ってはいけない
今年はみんなで協力しなければと思った
り抽出した.インタビューは,年代・性別の等しい 5 名ず
つのグループで 6 回に分け,2011 年 10 月 22~23 日に都内
にて実施した.インタビュー調査の結果抽出された,節電
行動を行った動機について表 1 にまとめた.
インタビュー調査の結果,まず,地震や津波による被害
8
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2.3
2.6
メディアの影響
仮説モデル
東日本大震災後,電力不足危機回避のために,政府や電
以上のような先行研究およびインタビュー調査の結果を
力会社などがマスメディアを利用して積極的な情報提供を
踏まえ,本研究では図 1 のような節電行動規定要因モデル
行ってきた.エネルギー問題のみならず環境問題全般への
を提示する.なお実行可能性評価についてであるが,本研
関心や危機感は,マスメディアの影響を受けやすいことが
究では「エアコンの利用を控える」
,「エアコンの温度を高
8)
,震災後のマスメディアによる情報も,
めに設定する」というような夏のエアコン利用に関する節
消費者の節電行動に少なからず影響を与えたことが推測で
電行動に着目しており,これらの行動は,よく知られてい
きる.インタビュー調査においても「どこにいっても,節
る一般的な行動であり,特別な知識や技能が必要な行動で
電,節電とかいてあった」という発言があった.
はない.よって,買い換えなどを含まない,エアコンの通
報告されており
常利用に関する節電行動に対象を限定することにより,実
マスメディアを利用した節電行動を誘発するためのメッ
行可能性評価をモデルから除外した.
セージ内容としては主に,具体的な家電の電力消費量や節
電方法についての情報(以下,節電知識)や,企業や店舗
また有効性評価,社会的責任感,リスク評価は省エネ行
での節電など,社会や他者が行う節電取組に関する情報(以
動を実践するのはよいことだ,実践すべきだというような
下,他者取組)
,各電力会社の供給電力量と使用電力量によ
目標意図に影響を与えるのであって,実際の省エネ行動実
り電力の使用率や逼迫度合いを示す情報(以下,電気予報)
践度には直接的に影響を与えないと先行研究ではされてい
などがあったが,これらの情報が,節電行動にどう影響を
るが
与えたかを検討する.本研究では節電知識,他者取組,電
仮定している.これは,インタビュー調査において,節電
気予報の各メッセージは,2.1 で述べた①~⑦の評価に影響
行動を実践した理由として,リスク評価が何回も聞かれた
を与えると仮定した.
ことや,本研究では節電行動に対する良好な態度が形成さ
5)
,本研究では節電行動実践度に直接影響を与えると
れていたかどうかに関わらず,実際に電力消費量が削減し
2.4
節電行動の指標
ていた消費者の行動を規定していた要因を探求することを
節電行動の指標として,消費者自身の報告による節電行
目的としているためである.
動実践度と,実際の電力消費量の削減率をとりあげた.な
お節電行動にはいくつもあるが,夏の電力消費量に最も大
きく影響するのは冷房用途であることから
9)
,エアコンの
冷房利用に関する節電行動について,行動実践度を測り分
析に用いた.また実際の電力消費量は,2010 年 7~8 月お
よび 2011 年 7~8 月の世帯あたり電力消費量を比較して用
いた.
2.5
節電行動の波及効果
グループインタビューによる予備調査の際には,節電行
動の規定要因の他に,節電行動に関連して自由な発言を求
図1
めたが,その際に,節電行動を実践したことによって,
「自
2011 年震災後の夏の節電行動規定要因モデル
分は電気を使いすぎていると思った」と学習効果が生じた
3.仮説の検証方法
り,
「節電することに慣れてしまった」と習慣化したという
3.1 調査対象
回答があった.節電行動に限らず環境配慮行動の実践は,
調査対象は,調査会社のインターネットモニター約 156
一時的であっても実践することによって,その行動への認
知や態度へポジティブな影響を与える可能性や,非行動実
万名の中から,①2010 年 6 月以降転居していないこと
践の習慣強度を低下させる効果(習慣の解凍効果)がある
2010 年 6 月以降同居している家族構成や住居が変化してい
ないこと
ことが報告されている 10).よって本研究においても,節電
②
③2010 年および 2011 年の 6~9 月の電気使用量
がそれぞれわかる検針票(およびそれに準じた資料)を保
行動実践の結果,生じる波及効果として実際の電力消費量
有していること,を条件として抽出した.対象地域は,関
削減の他に,
「気づき・学習」や「慣れ・習慣化」を仮定し
東(東京,千葉,神奈川,埼玉),東北(岩手,宮城,福島,
た.
青森,秋田,山形),東海(岐阜,静岡,愛知,三重),関
西(大阪,京都,兵庫,滋賀,奈良,和歌山),九州(福岡,
9
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佐賀,長崎,熊本,大分,宮崎,鹿児島)の各都道府県で
たはどの程度見たり触れたりしましたか」),のそれぞれに
ある.年齢は 20~69 歳で,国勢調査の人口構成比に従い割
ついて,いずれも 7 段階評定尺度(かなりよく見た[7]-全
合抽出法により 7268 サンプルを抽出した.
く見なかった[1])で測定した.
調査時期は 2011 年 10 月 28 日~11 月 8 日である.有効
3.3 電力消費量削減率
回答数は 7150 サンプル(有効回答率 98.3%)で,本研究で
はエアコンの冷房利用を対象に分析を行うため,この中か
各世帯の 2010 年 6~9 月および 2011 年 6~9 月の各 4 ヶ
らエアコン非保有者およびエアコンを保有しつつ冷房利用
月分の各電力会社から家庭に配布される「電力使用量のお
を全くしないと回答した者を除く 6529 サンプルを分析に
知らせ」に記載されている月当たり電力消費量および検針
もちいた.分析対象者の属性は図 2 に示す通りである.
日を回答してもらった.月が同じでも地域や年によって検
なお,本研究における調査対象世帯は 2010 年の夏期と
針スケジュールや使用日数が異なるので,検針日によって
2011 年の夏期との間で,住宅やライフスタイルに大きな変
補正を行い注 ii),7 月と 8 月の 2 ヶ月の電力消費量を用いた.
化がなかった世帯を抽出しており,自宅が大きく被災した
また,検針日補正とともに過去の気象データに基づき,気
ような世帯は含んでいないことを確認している.
象補正も行い注
iii)
,それぞれの地域,年月による気象要因
を排除する形で用いた.各地域における前年の同月と比較
地域
20代
11
0%
に示す.検診日補正・気温補正後の値で,すべての地域で
前年度より節電されていた.
60代
20
50代
20
40代
23
表2
女性
50
男性
50
20%
図2
査における補正前の値と,検針日・気象補正後の値を表 2
4人 5人以上
9
20
3人
24
30代
26
性別
した節電率(%)を,統計値(従量電灯)1)とともに,本調
戸建
52
2人
31
1人
17
世帯人数
九州
18
関西
17
東海
17
集合
48
建て方
年齢
東北
15
関東
33
40%
60%
80%
100%
7月
分析対象者の属性
3.2 測定尺度
8月
(1) 節電行動の規定要因
本調査対象者の節電率
東北
関東
東海
関西
九州
N 数 (6529)
998
2156
1102
1091
1182
統計
本調査(補正前)
本調査(補正後)
統計
本調査(補正前)
本調査(補正後)
1.8
3.8
10.3
18.0
16.5
8.4
6.6
8.1
11.3
18.2
17.4
7.0
-0.9
3.1
8.9
18.4
16.0
8.9
-1.1
2.3
10.0
18.4
16.8
9.4
-1.8
0.7
8.3
11.7
10.8
8.5
図 1 に示した節電行動規定要因モデルでは,各構成概念
* 値は前年同月比(%)
は直接的には測定できない潜在変数であり(メディア要因
3.4 分析方法
のみ観測変数),測定誤差を伴う複数の観測変数を用いて測
各構成概念の指標ごとに尺度の一次元性や信頼性を確認
定できると仮定している注 i).各指標は,いずれも複数のア
し,観測変数の特定化を行った.そして,特定化された指
ンケート調査の設問から構成され,それぞれ設問内容は先
行研究およびインタビュー予備調査を参考にして構成した.
設問は,いずれも 7 段階評定尺度(かなりあてはまる[7]-
全くあてはまらない[1])で測定した.
標を用いて仮説モデルの構成概念間の関係を共分散構造分
析により検討した.
4.仮説の検証結果
(2) 節電行動実践度およびその波及効果
4.1 モデルの特定化
行動実践度やその波及効果においても,複数の観測変数
(1) 節電行動の規定要因
からなる潜在変数を用いて測定した.本研究では冷房に関
先行研究にもとづき構成した各指標ごとに主因子法によ
わる節電行動をいくつかあげて,それぞれの行動について,
る因子分析を行い,固有値 1.0 以上を有効因子として抽出
7 段階評定尺度(かなり実践した[7]-全く実践しなかった
し,抽出した因子に対する因子負荷量の大きさと信頼性係
[1])で測定した.
数として Cronbach のα係数を用い,このα係数の大きさを
(3) メディアの影響
基準として観測変数の特定化を行った.
メディア接触度は,次の3つの観測変数を用いて測定し
その結果,社会的責任感以外の指標はすべて表 3 に示す
た.節電知識に関する情報への接触度(「省エネ・節電レシ
ように特定化された.指標ごとに因子分析を行った結果,
ピ等をあなたはどの程度見たり触れたりしましたか」),他
いずれも 1 因子に集約され,指標ごとのα係数は,0.7 以上
者取組に関する情報への接触度(「店舗営業時間の短縮など
であった.一般に信頼できる尺度であるためにはα係数が
について,あなたはどの程度見たり触れたりしましたか」),
0.6 以上であることが望ましいとされており注 iv),これらの
電気予報に関する情報への接触度(
「『電気予報』を,あな
10
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
(2) 節電行動実践度およびその波及効果
指標を各構成概念の観測変数として用いることとした.な
お社会的責任感についてであるが,この夏の電力不足は,
冷房に関わる節電行動の行動実践度および気づき,慣れ
そもそも震災に原因を発しているため,夏の電力不足の責
などの波及効果について測定し,上記(1)と同様に観測変数
任は自らにあるか,と問われれば,自らにはないと回答し
の特定化を行った.その結果,表 4 に示すような指標を各
た人が大勢であった.そして社会的責任感の評価項目とし
構成概念の観測変数として用いることとした.
て他に用意していた「自分一人が節電しなくても大きな影
4.2 モデルの検証結果
響はない(-)」「家庭よりも企業などの消費電力を減らす
べきだ(-)」
(
(-)は逆転項目)などと共に 1 因子に集約
上述したように各尺度を特定化し,図 1 で示した仮説モ
されずに,有効性評価の一部として集約されてしまった.
デルに対して共分散構造分析を行った.その結果を図 3 に
よって,図 1 に示す仮説モデルから,社会的責任感を取り
示す.図中の実線は 0.1%水準で有意になったパスを,点線
除いて検討することとした.
は仮説モデルで仮定したが 0.1%水準で有意にならなかっ
たパスを示す.モデルの適合度であるが,標本数の影響を
表3
設問内容
平均値
節電しても,効果がないと思った
節電しても,効果がわからないと思った
自分一人が節電しなくても大きな影響はないと思った
自分は使っている電力が少ないので
節電する必要はないと思った
節電しないと,大規模停電の可能性があると思った
節電しないと,日本全体が電力不足に陥いると思った
停電するのではないかという危機感があった
電気が停まると,非常に困ると思った
大停電が起きると思うと,恐ろしいと思った
停電は二度と(もしくは,絶対に)
経験したくないと思った
夜に停電すると,真っ暗になって怖いと思った
節電しないと,周りの人たちの目が気になった
周囲の人たちが,積極的に節電に取り組んでいた
節電しないと,罪悪感を感じた
節電しないと,被災者に申し訳ないと思った
夏に節電すると,暑さに強くなってよいと思った
節電は,電気代の節約になると思った
節電すると,健康的な生活になると思った
節電は,やりがいがあると思った
節電することは,子どもの教育によいと思った
節電は,体に負担がかかると思った
節電すると,生活が不便になると思った
節電のために,我慢したくないと思った
節電で,ストレスが溜まると思った
夏の節電は,暑さに耐えられないと思った
2.85
3.15
3.02
因子
負荷
量
.868
.794
.630
3.05
.612
4.65
4.75
4.26
5.76
5.03
.960
.861
.649
.716
.846
5.03
.846
4.59
2.94
4.19
3.44
4.42
3.66
5.69
4.20
4.51
4.27
3.92
3.80
3.42
3.47
4.25
.662
.669
.536
.807
.556
.611
.422
.817
.809
.629
.674
.771
.733
.880
.683
指標
有効性
評価
(-)
危機感
脅威感
社会
規範
ベネフィット
評価
コスト
評価
受けにくい適合度指標 GFI(Goodness of Fit Index)や自由度
節電行動規定要因の指標
α
係数
の 大 き さ を 加 味 し た 修 正 適 合 度 指 標 AGFI(Adjusted
Goodness of Fit Index)が用いられ,一般に GFI は 0.9 以上が
望ましいとされている.本モデルは GFI が 0.859,AGFI が
.815
0.837 であり,若干 0.9 に届かない.モデルの分布と真の分
布との 1 自由度あたりの乖離の程度を示す指標 RMSEA
.856
(Root Mean Square error of approximation)も,一般には
0.050 以下が望ましいとされているが,0.059 であった.し
.848
かし,本モデルは観測変数の数が多く,自由度が比較的大
きいことも鑑みると,本モデルを棄却するほどの適合度の
.736
悪さではないと考え,算出された結果に基づいて要因間の
因果関係を検討することとする.
.789
(1) メディアの影響
メディアの影響についてみると,まず他者や社会の節電
に関する取組についての情報(他者取組)と,各電力会社
.863
の電力使用率や逼迫度合いを示す情報(電気予報)は同じ
*(-)は逆転項目を示す
** 因子負荷量とは指標ごとに主因子法による因子分析を行った結果
傾向を示し,有効性評価,危機感,脅威感,社会規範,へ
のパスは支持されたものの,ベネフィット評価,コスト評
価へのパスは棄却された.すなわち他者や社会の節電への
表4
指標
冷房に
関する
節電行動
気づき・
学習
慣れ・
習慣
取組に関する情報や,電力使用量の状況を示す電気予報は,
節電行動および波及効果の指標
設問内容
平均値
冷房の温度設定は 28℃を目安とする
冷房時にカーテンやブラインドを閉める
冷房時に家族がいっしょの部屋で過ごす
エアコンのフィルターを定期的に掃除する
扇風機などを使い,
エアコンは(なるべく)使わない
冷房時に部屋のドアやふすまを閉め,
冷房範囲を小さくする
自分は,電気のムダ遣いが多いと思った
自分は,電気を使いすぎていると思った
これを機会にエネルギーのことを
見なおそうと思った
節電することに,体が慣れた
節電することが,習慣になった
節電は,実際にやってみれば意外と簡単だった
5.52
5.25
5.16
4.91
因子
負荷
量
.594
.549
.621
.453
5.40
.514
5.46
.625
4.05
4.12
.924
.925
4.85
.450
5.05
4.87
4.83
.875
.955
.771
有効性評価や危機感,社会規範評価にはポジティブな影響
α
係数
をあたえているものの,ベネフィット評価やコスト評価な
どの個々人の行動評価には影響を与えていないことが示さ
れた.具体的な節電方法や家電の電力消費量などに関連す
.730
る情報(節電知識)については,有効性評価,危機感,脅
威感,社会規範評価,ベネフィット評価,コスト評価への
すべてのパスが支持され,棄却されたパスはなかった.
.799
上記は,他者取組,節電知識,電気予報の各情報が各規
.900
定要因に与える直接効果についてであるが,これら3つの
*因子負荷量とは指標ごとに主因子法による因子分析を行った結果
情報は各規定要因を介して節電行動実践度に間接的な影響
も与えている.例えば他者取組は,有効性評価,危機感,
脅威感の3つの規定要因を介して節電行動実践度へ影響を
11
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
図3
仮説モデルの検証結果
評価は行動実践度に直接影響を与えることが今までの先行
与えていることになる.これらの直接効果と間接効果を合
注 v)
計した総合効果
を計算すると,他者取組 0.058,節電知
研究で示されているが,本研究では両者から節電行動実践
識 0.206,電気予報 0.060,(いずれも標準化係数)となる.
度へのパスが棄却された.
よって 3 つの異なる情報のうちでは,節電知識が,節電行
この検証結果で特徴的なのは,震災前の平常時に節電行
動の促進に最も効果的であったことが示されたといえる.
動を規定しているのはコスト・ベネフィット評価や,社会
(2)節電行動および節電行動の規定要因
規範評価であることが報告されているのに対して,震災後
節電行動の規定要因については,有効性評価,危機感,
にはリスク評価の影響が確認できたということである.震
脅威感,ベネフィット評価が節電行動実践度に対してポジ
災前には,停電や電力不足などのリスクが実際に生じると
ティブな影響があることが示され,社会規範評価およびコ
は誰もが想像していなかったが,震災後の状況を目の当た
スト評価については節電行動実践度への影響は示されなか
りにして,リスク認知が高まり,その後の夏に迎えた電力
った.また,節電行動実践度から夏期の電力消費量削減率
不足の危機に対して,直接的に節電行動に影響を与えた可
のパスは有意となり,本調査にて冷房に関して節電行動を
能性が考えられる.そこで,実際に停電が生じた東北,関
実践したと回答している場合,実際に 7 月および 8 月の電
東などの地域と,震災後に停電は起きず,電力不足のリス
力消費量が削減されていることが確認できた.さらに節電
クも低かった地域とでは,節電行動に至るメカニズムは異
行動実践度→気づき・学習,のパスも支持され,節電行動
なるのか層別分析にて確認することを目的として,地域別
を実践することによって,節電や電力消費について少なか
に多母集団の同時分析を行った.
らず学習したことが示された.また節電行動実践度→慣
4.3 層別分析
れ・習慣のパスも支持され,一度節電行動をしてみたら,
東北(n=998),関東(n=2156),東海(n=1102),関西(n=1091),
意外と簡単であったと感じたり,節電行動に慣れた,今後
九州(n=1182)の 5 地域について地域間での相違を検討す
も継続出来る,と感じている傾向が示された.
先行研究では,有効性評価やリスク評価は,省エネ行動
る.まず各構成概念の得点を地域間で比較した.メディア
への目標意図,すなわち環境問題やエネルギー問題に対し
接触度については各測定項目の得点,構成概念の得点は,
て貢献をしたいという態度(目標意図)には影響を与える
4.1 モデルの特定化の際に実施した各指標ごとに主因子法
ものの,実際の行動もしくは行動実践度には直接的に影響
を用いた因子分析の因子得点で比較した.
を与えないとされてきた5).しかし本研究において,東日
まず,メディア接触度については(図 4),関東・東北が
本大震災後に迎えた夏の節電行動実践度には,有効性評価
他者取組に関する情報ついて,他地域より得点が有意に高
やリスク認知が,節電行動実践度に直接的に影響を与えて
かった(p<.001).節電知識については,東北地方が他地域
いることが示された.そして逆に,コスト評価や社会規範
に比較して,得点が有意に高かった(p<.001~p<.05).電
12
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
に比べて有意に高い傾向(p<.001)が見られた.
気予報については,同じく関東・東北地方が他地域に比較
して得点が有意に高く(p<.001),関東と東北地方の間にも
次に検証したモデル(図 3)を用いて,5地域について
差が確認され,関東地方の方が東北地方より得点が有意に
の相違を多母集団同時分析を適用して検討した.なおここ
高かった(p<.05).
では,構成概念間の因果性やその強さを地域間で比較する
ことが目的のため,構成概念を構成する各観測変数のパス
東北
係数に等値制約をおいて,地域別の構造を同時に分析した.
その結果,モデルの適合度は GFI=0.836,AGFI=0.819,
関東
RMSEA=0.027 であった.すなわち GFI,AGFI は全サンプ
東海
ルで分析した場合より,等値制約を置くことによって落ち
ているが,自由度の増大により RMSEA はよくなっている.
関西
他者取組
節電知識
電気予報
九州
1
2
←←←
図4
3
4
5
6
そこでこのモデルを棄却せずに構成概念間の因果関係を検
討を行った.5 地域の分析結果のパス係数を表 5 に示す.
7
見なかった
よく見た →→→
平均値 (点)
表5
メディア接触度の得点
東北
節電行動の規定要因については(図 5),リスク評価(危
他者取組
〃
〃
〃
〃
〃
節電知識
〃
〃
〃
〃
〃
電気予報
〃
〃
〃
〃
〃
有効性
危機感
脅威感
社会規範
ベネフィット
コスト
節電行動
〃
〃
機感・脅威感)において,東北,関東地方が他地域に比べ
て高い傾向(p<.001)が見られ,社会規範評価は,関東が
高い傾向(p<.001)
,ベネフィット評価は東北地方が高い傾
向(p<.001~p<.05),コスト評価は関東が高い傾向(p<.001
~p<.05)がみられた.
東北
関東
東海
有効性
危機感
脅威感
社会規範
ベネフィット
コスト
関西
九州
‐.40
図5
地域別のパス係数
‐.20
.00
.20
因子得点平均値
規定要因指標の得点
東北
→有効性
→危機感
→脅威感
→社会規範
→ベネフィット
→コスト
→有効性
→危機感
→脅威感
→社会規範
→ベネフィット
→コスト
→有効性
→危機感
→脅威感
→社会規範
→ベネフィット
→コスト
→節電行動
〃
〃
〃
〃
〃
→気づき
→慣れ
→kWh
.136
.205
関東
.111
.136
.163
東海
関西
九州
.
.095
.097
.100
.215
.136
.270
.364
.102
.097
.114
.069
.253
.343
-.090
.193
.158
.167
.115
.205
.153
.288
.359
.142
.228
.168
.247
.339
.125
.222
.178
.212
.264
-.134
.129
.157
.188
.
.234
.564
.176
.637
.104
.095
.127
.119
.193
.151
.134
.128
.471
-.107
.177
.645
.226
.484
.524
.150
.609
.237
.151
.646
.116
.164
.503
-.143
.665
.194
* 値は標準化推定値.空欄は 1%水準で有意にならなかったパス.
関東
まず,メディアの影響において地域別に特徴的だったの
東海
は,具体的な節電方法や家電の電力消費量などの節電知識
行動実践度
kWh削減率
気づき
慣れ
関西
九州
‐.15
‐.05
.05
因子得点平均値
は,地域を問わず節電行動に影響を与えていた可能性が高
く,特に他者取組や電気予報などと異なり,九州など停電
リスクが小さい地域においても節電行動の評価に影響を与
.15
えていたことが示された.
次に直接節電行動を規定していた要因をみると,ベネフ
図6
節電行動・波及効果指標の得点
ィット評価と有効性評価は,すべての地域で行動実践度を
行動実践度,電力消費量削減率については(図 6),地域
規定していた.そして危機感については,関東地方のみ,
間では統計的に有意な差はみられなかったが,気づき・学
脅威感については関東,東海,関西地方において節電行動
習や慣れ・習慣の指標において,東北,関東地方が他地域
実践度を規定していた.コスト評価が阻害要因として影響
13
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
していたのは,関東と九州のみであった.震災後の夏の節
とを示すことは古くから行われている方法ではあるが,改
電行動の波及効果については,行動実践をきっかけに,
「無
めてその重要性が示されたといえる.このことが示すのは,
駄遣いが多いと思った」
「自分は電気を使いすぎていると思
節電行動の効果について,理解して行動に移してもらえる
った」などと,新たに気づいたり,学習したりする傾向は,
ようにきちんと示して(見える化して)いくことの重要性
九州地方を除いて確認できた.また,
「節電することに慣れ
であると考える.
リスク評価についてであるが,震災前の日本では,リス
た」「節電が習慣になった」などという習慣化については,
ク評価が非常に低く,節電行動を含み省エネ行動に対して
すべての地域で確認することができた.
最後に,行動実践度と実際の電力消費量削減との関係で
与える影響はほとんど確認できなかった.それに対して,
あるが,すべての地域で 1%水準で有意となり,節電行動
本研究では,リスクの深刻度評価が関東,東海,関西地域
を実践したと回答している人は,実際に電力消費量が削減
で節電行動実践度に直接影響を与えていることが示された.
出来ていることを確認できた.
これらの地域では,停電が起きることへの不安感や恐怖感
が大きく,節電行動へ影響を与えたことが推測できる.ま
5.考察
たリスクの生起確率評価については,関東地方においての
5.1
み影響がみられ,他の地域と異なり有効性評価よりも強い
2011 年夏の節電行動を規定していた要因
節電行動実践度を直接規定する要因のなかで,ベネフ
影響がみられた.すなわち,関東地方においては停電が起
ィット評価はすべての地域において有意に影響を与えるこ
きることへの不安・恐怖のみならず,停電が起きる可能性
と,および他の要因と比較して影響度が大きいということ
が高いことを認識しており,それが節電行動につながった
が示された.ベネフィット評価とは,節電行動の規定要因
と考えられる.
のなかでは利己的な動機であり,非常時に際しても利己的
逆に,被災地から距離も遠く,停電の可能性も低かった
な動機が与える影響が大きいことが示されたことになる.
九州ではリスク評価は低く定常時と同じような傾向がみら
そして,震災後は「頑張ろう日本」
「絆(きずな)を通じて
れた.それに対して東北地方では,危機感,脅威感ともに
乗り越えよう」などという言葉が聞かれたが,そのような
節電行動へのパスは棄却されたが,両因子の得点は高い(図
社会的雰囲気が節電行動に関しては,直接的に影響を与え
5 参照).すなわち危機感,脅威感とも高いにもかかわらず,
ていなかったということも示された.事前のインタビュー
節電行動にはつながらなかったということである.東北地
調査でも「世の中がそういう雰囲気であった」などという
方では,震災直後の一時的な停電や,震災による断線等で
回答が聞かれたのに対して,本研究結果では,社会規範評
停電が生じた箇所があるものの,電源喪失による夏の電力
価の影響がみられなかった.この理由について考えられる
不足は関東地方と比較して深刻ではなく,計画停電の計画
点であるが,本研究では節電行動はエアコン利用に絞って
も実施もされていない.よって,東北地方の人にとって,
検討しているが,エアコン利用など家庭内での節電行動は,
停電は電力不足によって生じるのではなく,地震に伴い生
他者の目に触れにくい.同じ環境配慮型行動でも,ごみ分
じるイメージが強かったとすると,危機感や脅威感は高く
別のような行動は,ごみを収集所にだす時点で比較的人目
とも,節電しようとする思いにはつながらなかったのかも
に触れやすいため,社会規範の影響が出やすいという報告
しれない.
があり,それと同様な傾向がエアコンの節電行動にも生じ
最後にコスト評価であるが,先行研究では,負担になる,
た可能性がある.よって屋外での節電行動や,人の目に触
面倒であるなどの思いが,節電行動の阻害要因になること
れやすい節電行動においては,社会規範の影響が生じた可
が示されているが,本研究では阻害要因として確認された
能性も考えられる.しかし逆に,同じ節電行動であっても,
のは,関東地方と九州地方だけであった.
他者の目に触れやすい行動では,節電が促進されるという
5.2
ことが明らかになるならば,生活者の節電行動を,生活者
今後の節電の為のコミュニケーション方法について
本人に対してのみならず,他者に対して見える化すること
節電行動を促進するためには,どのような情報が効果的
も,節電行動促進のための一つの手段だという可能性がで
であったか,他者取組に関する情報,節電知識に関する情
てくる.これらの点については,今後の検討課題としたい.
報,電気予報の3つの情報の影響度合いについて検討を行
った.
有効性評価も節電行動に直接的に与える影響が比較的大
きく示され,すべての地域で有意となっている.節電のみ
他者取組や電気予報などは,有効性評価,リスク評価な
ならず省エネ行動促進のためのコミュニケーション内容と
どに影響を与え,節電行動実践度に間接的に与える影響が
して,どういう行動が,どれほど効果があるのかというこ
確認できた.前述したように,リスク評価が節電行動を規
定することは,震災前にはほとんど確認できなかったこと,
14
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
量に占める割合が非常に大きく,少しの行動でも電力消費
危機感や脅威感などのリスク評価は,時間の経過とともに
14)
を考える
量として表出しやすかったことと,微細な関係を検出する
と,リスク評価を維持・促進させる情報も重要であると考
のに十分なサンプル数を得ることができたことであると考
える.今回の定量調査結果から,回答者は電気予報を比較
えている.
減衰して震災前の平常時の状況に近づくこと
的頻繁に見ている様子であり,特に電力量が逼迫していた
この結果,夏のエアコン利用に際して,行動実践したと
関東地方では接触頻度が有意に高かった.しかし事前イン
回答した人は,実際に電力消費量が削減しており,なおか
タビューの際には,電気予報は頻繁にみたと回答するもの
つ,行動することによって学習したり,習慣化している傾
の,提示されている値が本当なのか,本当に危機的な状況
向がみられた.今まで行われてきた省エネ行動促進のため
なのか,使用率が何%を超過したら行動を起こさなくては
のコミュニケーションでは,まず意識変容をさせてから行
ならないのかわからない,というような声も聞かれた.本
動変容を期待することが常例であった.しかし震災後には,
調査では,電気予報への接触頻度は高かったことが確認で
危機感や何らかの要因で,いったん行動変容したところ,
きており,危機的状況の際に,危機的であることをきちん
意外とそれが大したことなかった,思ったより平気だった
と伝えるための有効な手段と考えられる.よってこの電気
などと,行動変容から意識変容をした可能性がある.そし
予報がより効果的となるために,生活者に理解して行動に
て,今年の夏が冷涼だったこともあり,気象要因で電力消
移してもらえる方法,内容について検討し,その見せ方を
費量が減少していることと相まって,電力消費量が大きく
工夫しておくことは,極めて重要であると考える.また事
減っているのを月々送られてくる伝票で自ら実感出来ると,
前インタビューで,2011 年の夏に一度も停電せずに済んだ
なおさらその習慣が定着した可能性もある.このような手
状況から,節電せずとも最初から電力は足りたのではない
法は,公共交通機関の利用を促すコミュニケーションなど
かという回答があった.これらの思いが電気予報への信頼
で,無料チケットを配布して,公共交通を強制的に利用体
性低下を招くことは避けなければならないので,2011 年夏
験させてみるなどという方法と同様である 16).もしこのよ
の電力使用状況はどうであったのか,なぜ停電せずに済ん
うな行動変容が生じたとすると,非省エネ行動実践の習慣
だのかということを丁寧に情報開示しておくことも重要で
強度を低下させる効果が見込まれるため,今後も節電行動
あると考える.
の継続が期待できる可能性がある.また逆に,夏期の節電
最後に,消費者の節電行動を直接規定している要因のな
行動の継続が確認できるとしたら,震災後の電力不足とい
かで,ベネフィット評価の影響が最も大きく,このベネフ
う非常事態ではあったが,節電行動を体験するという,い
ィット評価に影響を与えている情報は,具体的な節電知識
わゆる体験型コミュニケーションの効果を改めて確認でき
や家電の電力消費量などについてであった.その結果,総
たともいえる.
合評価でみると,この具体的な節電知識に関する情報が最
も支配的である結果となった.先行研究においても,省エ
6.おわりに
東日本大震災後 2011 年の夏に,生活者が節電行動を積極
ネ行動促進のための情報提供には,ベネフィット訴求型の
優位性が示されているように
15)
的に実践した心理的な要因を明らかにすることを目的とし
,どのような節電行動が,
どのような経済的ベネフィットや利便性や快適性などの生
て,約 6500 人に対してインターネット調査を行った.その
活の質的ベネフィットにつながるのか,などという情報を,
結果,行動を最も強く規定していたのは,ベネフィット評
緊急を要する状況下においても提供していくことは重要で
価であり,通常時と違う規定要因はリスク生起確率評価や
あるといえる.
リスク深刻度評価であったことが明らかになった.また他
者取組,節電知識,電気予報の3つの情報の中で,節電行
5.3
動に最も影響を与えていたのは,具体的な節電行動に関す
今後の節電行動について
アンケート調査による回答者の自己申告による節電行動
る節電知識であることも示された.これらより,今後の節
実践度と,同じくアンケート調査にて月々の伝票ベースで
電行動促進には電力需給状況が危機的であるという情報よ
記述してもらう電力消費量の間には,乖離があることが
り,個々人が節電していくための具体的な情報や,節電に
多々ある.これはアンケート回答者が一個人であるのに対
よって個人が得られるベネフィットについて訴求していく
して,電力消費量は世帯全体の値であることや,回答者の
ことが効果的である可能性が示された.
なお本調査は,2011 年 3 月の東北大震災後の,同年 10
自らの実践度評価に個人差を含むこと,住宅や家電の性能,
周囲環境などの影響を排除しきれないことなどに起因する.
~11 月に調査を実施し,震災後の夏期の節電についてさか
しかし本研究においては有意な関係性を見いだすことがで
のぼって質問をしている調査である.よって時間的な隔た
きた.これは,夏のエアコン利用が,夏の家庭の電力消費
りから,上述した結果は震災の影響,当時の状況が希薄に
15
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 33, No. 4
なっている可能性がある.また,本調査は,前年と当該年
Introduction to Coefficient Alpha and Internal Consistency",
の電力使用量の記録を保持している人を対象としている.
Journal of Personality Assessment, 80(1), 99–103
14) 林
使用量を把握しているということから,既に節電行動,省
理;防災の社会心理学,川島書店,東京,(2001)
182pp
エネ行動への関与が高いグループに対して調査をしていた
15) 八木田克英,西尾チヅル;省エネ行動における情報提
可能性も否めない.これらの調査方法も含めて,本研究に
供型の環境コミュニケーションとその効果,環境情報
て疑問として残された点は今後の検討課題としたい.
科学,37,4, (2008)48-59
16) 藤井聡,谷口綾子;モビリティ・マネジメント入門,
学芸出版社,京都,(2008)215pp
参考文献
1) 電気事業連合会,電力需要実績
(注)
http://www.fepc.or.jp/index.html (アクセス日 2012.2.17)
i)2 つ以上の観測変数の間に相関があるとき,これらの変
2) Karen Ehrhardt-Martinez et al.; Advanced Metering
Initiatives
and
Residential
Feedback
Programs:
数が何か共通の成分を含んでいると仮定する.
A
Electricity-Saving
v1=α1 f+e1
Opportunities, American Coucil for an Energy-Efficient
v2=α2 f+e2
Economy, Research Report E105.( 2010),
v3=α3 f+e3
Meta-Review
for
Household
http://www.aceee.org/research-report/e105 ( ア ク セ ス 日
vi を観測変数 ei を測定誤差とすると f は複数の観測変数
2012.2.17)
の背後に仮定した共通原因を表現する仮想的な変数であ
る.これを潜在変数とよび,構成概念を構造的な潜在変
3) Abrahamse, Wokje et al.; A review of intervention studies
数として表現する 11).
aimed at household energy conservation, Journal of
ii)
Environmental Psychology, 25, (2005)273-291.
本調査の回答に記入された電力消費量は,毎月各電力
4) Abrahamse, Wokje et al.; The effect of tailored information,
会社から送付される使用明細に記載されている使用期間
goal setting, and tailored feedback on household energy use,
に基づいている.記入された値は,同じ月の電力消費量
energy-related
であっても,回答者によって異なる期間,異なる日数の
behaviors,
and
behavioral
antecedents,
消費量を示している.よって検針日を回答してもらうこ
Journal of Environmental Psychology, 27, (2007) 265-276.
とにより,対象月の使用量へ補正を行い用いた.
5) 広瀬幸雄;環境と消費の社会心理学-公益と私益のジ
iii) 各電力会社管内の 1998 年~2010 年の 7~8 月の従量電
レンマ-,名古屋大学出版会,名古屋,(1995)243pp
灯電力量と各地域の気温を用い,地域別に単回帰式を作
6) 西尾チヅル,竹内淑恵;消費者のエコロジー行動とコ
ミュニケーションの方向性,日経広告研究所報,230,
成,この式の係数をそれぞれの地域の気温補正係数とし
(2006)18-24
て用いた.
iv) 尺度の信頼性(内部一貫性)の確認には,クロンバッ
7) 深田博己;説得と態度変容-恐怖喚起コミュニケーシ
クのα係数が用いられることが多い.この値の基準は 0.6
ョン研究-,北大路書房,(1988)205pp
以上や 12),0.7~0.9 などとされている 13) .
8) 野波寛・杉浦淳吉・大沼進・山川肇・広瀬幸雄;資源
v)
リサイクル行動の意志決定における多用なメディアの
ある変数が別の変数へ直接的に影響を及ぼすことを直
役割:パス解析モデルを用いた検討,心理学研究,68
接効果,他の変数を経由して影響を及ぼすことを間接効
(4),(1997)264-271
果という.そして直接効果と間接効果を合計したものを
総合効果という.例えば,
9) 西尾健一郎,大藤健太;家庭における 2011 年夏の節電
の実態,電力中央研究所報告 Y11014
z3=β3 z2 + β2 z1+ e1
(2012)
z2=β1 z1 + e2
10) 藤井聡;社会的ジレンマの処方箋,ナカニシヤ出版,
という重回帰モデルと単回帰モデルを組み合わせたモデ
京都,(2003)289pp
ルを想定する.これらより
11) 豊田秀樹;共分散構造分析[入門編],朝倉出版,東京,
z3=( β3β1+β2 ) z1+ β3 e2 + e1
(1998) 325pp
と表現することができる.
12) Bangozzi, Richard P.(1994), "Measurement in Marketing
Research: Basic Principles of Questionnaire Design," in
このとき,β2 を直接効果と呼ぶのに対して,β3β1 を z1
Principles of Marketing Research, Richard P. Bagozzie ed.
から z2 を経由した z3 への間接効果とよび,β3β1+β2 を総
Cambridge, MA: Blackwell Business, 1-49.
合効果と呼ぶ 11)
13) David L. Streiner(2003), "Starting at the Beginning: An
16