薬局業務をトータルに効率化する 三菱保険薬局システム Melphin/Neo 要 近内 大見 大森 寺内 誠* 由紀人* 智美* 直久** 旨 三菱電機は、三菱保険薬局システム 調剤Melphin (注 1) Melhis を全面的にリニューアルし、新たに で20年以上にわたり、調剤薬局をサポートしてきた。現在 Melphin/Neo”を開発した。Melphin/Neoは、従来からの では、全国でのシェア約17%で業界第3位に位置する。調 特長である、ユーザインタフェースの簡便さ、薬の飲み合 剤薬局業界は、医療費削減を目的とした医薬分業政策に乗っ わせチェックなど、安全性確認機能に加え、インターネッ て、急成長を続けてきた。平成10年度には約30%だった トでの情報取り込みなどのためにデータベースのセキュリ 分業率が、平成15年度には50%を超え、毎年1,000 ティを強化した。さらに、画面・帳票のフリーレイアウト 軒を超える調剤薬局がオープンしてきた。しかし、分業率が 機能などで、ユーザのニーズに応える製品とした。 50%を超えたところで伸びは鈍化し、平成18年度の分業 また、経営分析機能も強化し、経営効率化に寄与するト 率は、55%程度に留まっている。また、近年では少子高齢 ータルシステムとして、Melphin は大きく生まれ変わった。 化社会における医療費削減政策により、薬価差の圧縮や医療 報酬引き下げなど、調剤薬局を取り巻く環境が変化している。 (注1)調剤 Melphin は、三菱電機インフォメーション システムズ㈱の登録商標である。 三菱電機インフォメーションシステムズ㈱(MDIS)では、 主力製品の 調剤Melphin/mkⅡ 、電子薬歴保存システム 調剤薬局を取り巻くネットワーク環境の将来図 調剤薬局では、2007 年 4 月から開始された支払基金・国保連合会へのオンライン請求を皮切りに、インターネットへの接続が必須になる。ネット ワークに接続する事により、製薬メーカからの薬剤情報授受や、将来的には病院の電子カルテとも連携するなど、患者への情報提供サービスも当た り前になる。図中の レセコン は、レセプトを出力するコンピュータの意味で、主に医療機関における事務処理用コンピュータを指す。 1( ) *三菱電機インフォメーションシステムズ(株) **三菱電機インフォメーションテクノロジー(株) 1.ま え が 剤師確保に有利である。 き 三菱電機は、三菱保険薬局システム 調剤 Melphin で このように、調剤薬局の経営者にとっては、今後の生き残 20年以上にわたり、調剤薬局をサポートしてきた。現在 りが重要課題であり、調剤薬局向けシステムにおいても、 では、全国でのシェア約17%で業界第3位に位置する。 これまでの単なる請求用の事務処理システムではなく、戦 調剤 Melphin は、MDISで開発を実施し、三菱電機イン 略的経営に役立つトータルシステムが求められている。 フォメーションテクノロジー㈱(MDIT)で全国の代理 店を通し、調剤薬局向けに販売している商品である。両社 の保険薬局事業は、調剤薬局のニーズを捉え、ここ5年間 3.開発コンセプト は売上が前年比110∼130%と右肩上がりの成長を続 調剤薬局の業界動向の変化を捉え、以下のコンセプトで新 けてきた。08年度にはシェア20%を獲得し、その先は システムを開発した。 業界トップを見据えている。今後の一層の飛躍のためには、 調剤薬局を取り巻く環境の変化や、ユーザニーズの多様化 に対応した競争力の強化が課題であり、今回、新たに Melphin/Neo 3.1 IT化への対応 前章で述べたとおり、調剤薬局業界もIT化の波が訪れ ている。今まで調剤薬局では、患者の個人情報を扱ってい を開発した。 る事もあり、インターネットへの接続は控える傾向があっ 本稿では、Melphin/Neo において実現している、特長的な た。しかし、これからはレセプトオンライン請求を初め、 機能を中心に述べる。 病院の電子カルテとの連携、新薬情報や薬剤情報の取り込 み、更には薬剤の緊急安全性情報の取り込みなど、患者に 2.調剤薬局の業界動向 2.1 必要な情報を、迅速に、正確に提供するためにもインター 行政動向 調剤薬局業界は、医療費削減を目的とした医薬分業政策 が追い風となり、急成長を続けてきた。しかし、近年では 少子高齢化社会における更なる医療費削減政策により、薬 価差の圧縮や調剤報酬引き下げなど、調剤薬局を取り巻く 環境が変化している。特に、 後期高齢者医療制度 ネットへの接続が必須であり、新システムには、セキュリ ティ強化が求められる。 3.2 経営に役立つシステム 調剤薬局においては、薬剤の在庫と薬剤師・事務員の人 が平 件費がコストの大半を占める。薬剤については、有効期限 成20年4月に施行される予定になっており、この制度で があり、有効期限を過ぎた薬剤は使用できないと言う制約 厚生労働省は、国庫負担を大きく削減する予定にしている がある。薬価差益ゼロの時代を迎える現状においては、薬 と言われている。これにより調剤薬局においても、大幅な 剤の過剰在庫によるロスを防ぎ、いかに適正在庫を維持す 収入減が予想される。 るかが重要なポイントである。Melphin/Neo では、長期投薬 また、調剤薬局業界は全体的にIT化が遅れていたが、 患者の需要予測機能、薬品のピーク量予測や定常使用量分 近年、処方せんへのQRコード(注 2)表示、レセプト請求の 析などで、適正在庫維持を支援する。また、一般薬やサプ オンライン化など、急速にIT化が進んでいる。 リメントの取り扱いが増加する事を見込んでレジ機能との 2.2 連動を行い、単品売上管理や、季節変動商品の売上予測な チェーン店の台頭とM&Aの活発化 調剤薬局業界は、病院・診療所の薬局が独立した、 2薬局 第 と呼ばれる門前薬局を中心に発展してきた。しか し最近では、チェーン店の台頭が顕著であり、中小規模の チェーン店をターゲットにした、大型チェーン店によるM &A(Mergers and Acquisitions)が活発になって来ている。 この背景には、薬価差益削減と薬剤師不足の影響がある。 薬価と仕入価格の差である薬価差益は、ピーク時は20% ∼25%程度あったと言われているが、現在は5%前後で、 近々薬価差益ゼロの時代が来ると予想されている。そうな ると当然のことながら大量一括仕入れが可能な大手チェー ン店が有利な状況とる。また、薬局薬剤師は女性が多く、 結婚・育児などで離職率も高いため、慢性的な薬剤師不足 となっている。特に地方においては医師と共に薬剤師も確 保が難しい状況になっているが、チェーン店の場合は、都 会で採用して地方に派遣するなどの方法もとれるため、薬 (注2)QRコードは、㈱デンソーウェーブの登録商標である。 ど、売上分析機能の強化を図る。 3.3 多様化するユーザニーズへの対応 大手チェーン店などの台頭により、独自色を打ち出して 差別化を図る薬局が年々増加している。また、今後の医療 改正に伴い、業務形態も変化する事が予想されている。従 来はこのようなユーザニーズに対し、機能改良またはカス タマイズにて対応してきたが、ユーザコスト削減のために も、変化に対して柔軟に対応できるシステムが求められて いる。例えば、患者の待ち時間短縮を求める薬局には、必 要最小限の情報をひとつの画面でコンパクトに参照可能と することで、投薬時間の短縮を図れるようにした。逆に、 ひとりひとりに時間をかけて薬剤の説明をしたいという薬 局には、全ての細かい情報を複数の画面を使って参照する というように、異なるニーズに対してひとつのシステムで 2 ( ) 対応できる事が、これからのシステムに求められている。 テムである電子薬歴保存システム 4.システムの特長 4.1 るが、薬局の基幹業務である IT化への対応 応するため、インターネット接続を前提としている。MD ISでは、プログラムのバージョンアップ及び最新の薬剤 情報を、インターネット経由で配信するサービスを計画し ている。 を提供してい に関してはユーザか る投薬指導画面を使用した患者への投薬指導業務において は、薬局の考え方や主力となる診療科によって、その要求 はまちまちである。そこで多様化するユーザニーズに応え るため、必要な項目をセレクトして自由に画面を組み立て られる、フリーレイアウト機能を実装した。実装に当たっ 特に調剤薬局では、2年に一度実施される診療報酬改定 時の改定モジュール適用、新薬情報などの迅速な配布が求 められている。本システムでは、薬局端末から1日1回配 信サーバの更新内容を参照し、変更・追加があった場合、 データ/モジュールを取得して、自薬局のシステムに自動 適用している。通信経路がインターネットであることを考 慮し、データを暗号化することとし、暗号技術 Y 薬歴 Melhis らのカスタマイズ要求が多い。特に Melhis の主要機能であ Melphin/Neo では、これからの医療情報ネットワークに対 (注3) MDISでは、02年度から薬歴管理を電子化したシス ては、パッケージとしての統一感を損なうことがない様に 配慮した。機能の特長としては、詳細機能毎に画面の配置 を自由に選択可能としたことにある。現行版の Melphin で は、デフォルト表示画面は固定であり、その他の機能は必 要に応じてファンクションキー押下で呼び出している。 標準画面 MIST を使用した。万一、途中経路でデータを盗聴され た場合でも解析を許さないために、データ復号用の鍵を、 ユーザ端末上のUSB(Universal Serial Bus)キー情報で 暗号化している。更にデータ改ざん防止のためにハッシュ 値の比較も実施し、ファイルの真正性を保障している。薬 局ではクライアント常駐アプリケーションが配信サーバを 監視し、差分発生時、図1の①∼⑥までの流れでダウンロ ードが実行される。 で 配信サーバ(MDIS) 拡張解像度画面 データベース 暗号化ファイル ダウンロード設定ファイル ハッシュファイル ② ⑥ ODBC(OpenDataBaseConnectivity) ドライバ ② ⑥ データベースモジュール ①ダウン ロード ② 暗号鍵取得 モジュール ⑥ DB 履歴登録 モジュール ⑥ダウンロード 履歴登録 ②暗号化鍵 取得 インターネット Melphin(薬局) 常駐アプリケーション 復号モジュール ③復号 インストールモジュール ⑥ファイル適用 ハッシュモジュール プログラム ④ハッシュ値生成/比較 ファイル解凍モジュール ⑤ファイル解凍 図1.ネット配信の概要 データ 図2.投薬指導画面の例 フリーレイアウトを使用する事により、使用頻度の高い情 報を初期表示することが可能となる。従来 1024×768 固定で あったデスクトップ領域も最大 1280×1024 まで拡大可能とな り、表示項目の追加を可能とした。デスクトップ領域のサイ (注3)MISTY は、三菱電機㈱の登録商標である。 ズを検出し、自動的に切り替える機能も実現した。また、大・ 中規模薬局では、複数の薬剤師が投薬する事を考慮し、薬剤 師毎にレイアウトを記録、ログインで自動的に切り替える機 4.2 画面/帳票のフリーレイアウト化 (1)画面のフリーレイアウト化 能を実装した(図2)。 (2)帳票のフリーレイアウト化 患者への投薬に当たっては、薬剤の効能や副作用などの情 報を提供し、服用に関する基本的な説明及び指導を患者また はその家族等に行う。昨今では薬剤の写真入りの薬剤情報文 書を患者に渡す事も多い。この薬剤情報文書についても、薬 局の独自性を打ち出せるように、帳票のフリーレイアウト機 能を実装した。これにより、薬局毎の帳票レイアウトのカス タマイズが可能となり、薬局のニーズに素早く対応可能とな る。また、これまで帳票の出力パターン毎に必要だったコー ディングが不要となったことにより、保守性の向上及びコス ト削減が期待できる。また、データ集計部分と印字部分を別 アプリケーションとし、その中間データとしてXML (Extensible Markup Language)を採用した。XML はプラットフォームやアプリケーションに依存しないデータ 形式であり、文書管理を目的としているため印字機能と親和 性がよい。XMLをサポートした帳票印字ツールはCrystal 図4.帳票レイアウト変更画面 Reports(注4)やActiveReports(注5)等数多く存在しているが、 Melphin/Neoでは配布ライセンスフリーである事を考慮し、 5.む Active Reportsを採用した(図3)。 す び 本格的な少子高齢化社会を迎え、今後も医療費は年々増 加する傾向にあり、それに対する国家の医療費抑制策はま Melphin データベース すます厳しくなることが予想される。その中で調剤薬局は、 医薬分業政策によって、単なる データ抽出/変更アプリケーション はなく、 医療の担い手 病院の外に出た薬局 で としての方向転換を迫られてい る。 XMLデータ 本稿では、主に Melphin/Neo の特長的な機能について説 明した。MDISではMDITと共に、来るべき医療情報 ネットワーク時代に相応しく、かつ使い易さを徹底追求し 印字アプリケーション た調剤薬局システムの提供を今後も目指していく。 ActiveReports 印字レイアウト変更 アプリケーション 参 帳票 ActiveReports 考 文 献 (1) 日本薬剤師会HP:医薬分業進捗状況 http://www.nichiyaku.or.jp/index.html 図 3.帳票印字関連図 (注4)Crystal Reports は、 Business Objects SA.社の 登録商標である。 (注5)Active Reports は、 米国 Data Dynamics 社の商標 である。 帳票フリーレイアウトについては、初版では薬剤情報リ ストのみとなっているが、今後は、患者に渡す帳票を中心 に他の帳票にも拡げて行く。また、レイアウトを変更する 画面については、販売会社のSEが実施することを前提と して作成したが、今後の課題としてユーザでも操作できる よう、操作性を向上させる必要がある(図4)。 (2) 日経ドラッグインフォメーション 2007 年 2 月号、 Inside/Outside、11、日経BP社 (2007)
© Copyright 2024 Paperzz