第1回東京慈恵会医科大学放射線医学講座市民公開講座 乳がんへの放射線治療 癌研究会附属病院 副院長 兼 放射線治療科部長 山下 孝 NCI 2007.11.10 Cancer Institute Hospital 内容 がん情報の探し方 乳がんとはどのような病気か 乳がんになりやすい人は 乳がんなったらどうする 乳がんの治療法は 放射線治療とは 放射線治療の副作用とは 再発がん、転移がんの治療はどうするのか 医療民主化の歴史 ∼封建時代から現代へ∼ おまかせ医療 1990 2000 説明と同意 事故防止の徹底 情報公開 情報公開 患者主体の時代へー患者さんは学習が必要 第5回 京大病院 外来化学療法研修会 福島氏の原図改変 3 がん知識の普及と情報公開 g が がんじょうほう がんじょう がんj がん がn がん情報サイト • http://cancerinfo.tri-kobe.org/ 世界最大のがん情報データベースNCI(米国国 立がん研究所)と連携 誰もが簡単に、いつでもどこでも 欲しいがん情報を入手できるように 第5回 京大病院 外来化学療法研修会 福島氏スライド改変 4 乳がんとはどのような病気か お乳を作る乳腺とそれを運ぶ乳管から発生するの で、乳管の中をがん細胞が広がります。 また、リンパ管を通って、リンパ節に広がります 血管を通って全身の臓器(特に、肺臓、骨、肝臓)に 広がることもあります。 治療成績が良いー初期では90%以上治ります。 一連の治療後、10年間の経過観察は必要であり、 再発しても治ることがあります。 乳がんになりやすい人はーPDQより 高齢であること。 初潮(最初の月経)を迎えたのが若年時であったこと。 最初の出産が高齢時であったこと、もしくは出産経験がないこと。 乳がんや良性(非がん性)の乳房疾患の既往歴があること。 母親か姉妹が乳がんであること。 乳房や胸部に対する放射線療法を受けた経験があること。 乳腺X線写真上で乳房組織が高密度に写ること。 ピルなどのホルモンを服用していること。 飲酒の習慣があること。 乳がんなったらどうする 信頼のおける専門医を受診する。一生お付き合い する医師になります。 がんになるまでに数年はかかっているので、あわて て治療しないようにしましょう。 がんの広がりなど十分検査して、自分でその治療 法を勉強して納得のいく治療を選択して下さい。 家族に病状を告げて治療への協力を要請しましょう。 乳がんの治療法は 手術、放射線、ホルモン治療、抗がん剤です。 民間療法に惑わされないようにしましょう。 標準治療といわれる確立した治療とまだ確立していない研 究段階(臨床研究)の治療があります。 まず、標準治療を受けるべきです。 再発、転移しても確立した標準治療はあります。 全身からがんが無くなる治癒治療と局所のがんを消す 局所治療と症状を軽減する緩和治療があります。 z z z z z 放射線治療とはー内容 がんになぜ放射線治療が効くのか 放射線治療の方法は 温存療法における放射線治療の工夫 転移に対する治療は 症状を緩和する治療は がんになぜ放射線治療が効くか 放射線は人体を貫通しが ん細胞に到達します。 放射線はがん細胞のDNA を損傷します。 DNAの損傷からの回復は 正常細胞に比べて、癌細 胞の方が弱いのです。 光子 光子 分割照射 1回照射 細胞生存率 細胞生存率 放射線を分割する意義 線量 線量 図1.腫瘍細胞の生存率 図1.正常細胞の生存率 (*) >> (☆) 分割すれば正常細胞を残してがん細胞だけを死滅することができる これまでの 乳がん関連のガイドライン • 乳房温存療法に関するガイドライン – 日本乳癌学会 • マンモグラフィガイドライン – 日本放射線学会、日本放射線技術学会 • 抗がん剤の適正使用ガイドライン – 日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会 ガイドラインの目的 • 乳がん診療のばらつきを是正し、どこでも、 だれでもが最適な医療が享受でき、治療 成績の改善につながることです。 • 全ての患者に適応できない。 • 判断の参考資料です。 推奨の強さ グレード A: 行うよう強く勧められる グレード B: 行うよう勧められる グレード C: 行うよう勧めるだけの根拠がない グレード D: 行わないよう勧められる 乳がん診療ガイドライン 乳房温存療法において放射線治療が禁忌と なる症例はどのようなものか 絶対禁忌 1. 背臥位にて患側上肢を挙上できない-リハビ リが必要な場合がある。 2. 妊娠中である 3. 患側乳房、胸壁への放射線治療の既往がある 相対禁忌 強皮症やSLEなどの膠原病を合併している 推奨 グレードD 大手術 乳房温存 乳がん手術の変遷 霞富士雄提供 胸筋温 両側乳 乳がん手術の変遷 (%) 00 Cancer Institute Hospital 2004 非定型乳切 73.6 80 80.1 69.3 69.9 70.4 60.8 60 51.2 定型乳切 40 30.2 20 16.6 13.2 10.2 1.3 7.2 8.2 2.9 0 ’70 ’74’75 41.7 22.1 19.1 1.7 46.3 42.1 乳房温存 28.0 拡大乳切 54.0 55.3 ’80 ’85 ’90 0.2 ’95 Total mastectomy 2.5 3.8 4.3 ’00 ’03 乳房温存療法 Cancer Institute Hospital 拡大乳房切除術 2001年11月27日最高裁判決 乳がんで乳房を切除された事例で、「未確立な 治療である乳房温存療法でも説明する義務があ る」とした判決 1991年当時、「胸筋温存乳房切除が確立した 治療法」であったが、「欧米では患部を切除し、 乳房を残す温存療法が広く普及しており、乳癌 の再発率、生存率の点で劣っていないばかりか、 むしろ優れていることが確認されていた。」 大阪府泉佐野市の医院 乳がん診療ガイドライン 乳房切除術後の照射の適応は何か 腋窩リンパ節転移4個以上の症例 乳がんが5cm以上の症例 照射野の照準合わせ ーlaser beamー 乳房温存療法での放射線治療 1950-60年頃、癌研病院では約50人の乳がん 患者に局所切除術+放射線治療を行い、その当 時手術と同等な治療成績を得た 乳癌温存療法後 30年経過例(80歳) Cancer Institute Hospital LINACによる治療 Cancer Institute Hospital 線量分布の計算 照射部位は原発巣の位置により異なります 乳房以外:肺・肋骨・胸筋(心臓)にも照射します 電子線によるブースト照射 追加照射する範囲を外科医、病理医と相談して決めます。 照射する深さはCT画像上から肋骨までの深さで決めます。 Cancer Institute Hospital 癌研病院での乳房温存治療(10年累積) 症例 Total RT 乳房健存率% 健存率 生存率 1233 93 89 94 406 97 86 98 Non RT 827 94 90 94 乳房を残して治療して、乳房を切り取ったときと同等に癌が治っている 他の施設でも同等の成績が報告されている Cancer Institute Hospital 原発性乳癌の生存率(癌研病院) 生存率 1990-93 1980s 1970s 1960s 年 Cancer Institute Hospital 乳がんにおける放射線治療の役割 1.乳房温存療法の新しい方法 2.乳房切除後のリンパ節照射 3.局所再発への照射 4. 放射線治療の副作用 5. 転移への照射 Cancer Institute Hospital 1.乳房温存療法の新しい方法 1 切除だけで十分か?ー不十分 2 ホルモン治療は放射線治療の代わりになるか? −ならない 3 ブースト照射は必要ないか?ーブーストは必要 4 照射期間を短くできないか?ー短縮可能 5 乳房の部分照射でよいか?ーよさそう ASRTRO 2002 短期間に術後照射する試み 術中照射 マンモサイト 2. リンパ節への照射法 1 腋窩、鎖骨上下、傍胸骨の3つの領域に転移 する。それぞれについてどのように治療するか は手術と照射方法が問題となります。 2 術前化学療法後の放射線治療法は術前の 状態を考慮して照射します。 鎖骨上リンパ節を含める照射野 電子線 内胸リンパ節を含める 内胸リンパ節を含めない 3. 局所再発への照射 z 電子線で胸壁のみ照射ー 電子線のエネルギーによ り照射する深さを調節でき る。 z ここの症例では温熱療法 のための温度センサーが 皮下に挿入されている。 乳がん術後局所再発例 4. 放射線治療の副作用 放射線照射後皮膚炎 放射線肺炎 上腕浮腫 鎖骨骨炎 上腕神経巣麻痺 放射線脊髄炎 照射終了時腋かに皮膚炎 照射終了7ヵ月後 治療計画用CT 5. 転移への照射 肺定位照射の適応 転移性肺癌 • 腫瘍径 3cm以内 3個以内 • 他部位に転移なし 合併症・年齢などによる手術不能例 患者希望例 CT同室設置リニアック リニアック CT 治療 毎回CTを撮影し、 ビーム中心を決定 治療時間 40分 照射中の模式図 効果 治療前 2年後 90%近い局所制御が得られます 転移症例 局所制御率 累積局所制御率 1.00 .90 .80 .70 .60 .50 .40 .30 .20 .10 0.00 0 2 4 6 8 経過観察期間(年) 5年累積局所制御率 85% ピンポイント照射 肺癌(脳転移) 1ヶ月後 緩和医療としての放射線治療 1. 2. 3. 4. 再発・転移患者の60-90%に骨転移などに よる疼痛があります。 1回数分、30Gy/2週で照射は終了する。皮 膚炎などは通常発生しません。 80%以上に症状緩和の効果があります 1回照射で効果がある場合もあります。 溶骨性骨転移への放射線照射により,溶骨部の骨化が起こり、骨折予防となる。 まとめ 乳がんはこれからも増える病気です。 完全な予防法はまだできていません。 乳がんを画像診断で早期発見し、適切な標準治療 をお勧めします。放射線治療は貢献しています。 もし、不幸にして再発・転移したらできるだけ平常に 近い状態で長生きできる治療法を行なうべきです。 治癒が望めないときは早期から放射線治療を用い た緩和療法の併用を勧めます。 最後に私の本を紹介させていただきます 「心配しないでいいですよ 放射線治療」 山下 孝・隅田伊織著 病院 研究所 ご清聴有難うございます 2005年3月開院 癌研有明病院(ワシントンホテル)
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