農産物販売におけるインターネットの可能性

農産物販売におけるインターネットの可能性
生産情報システム学研究室
林 大輔
Ⅰ.緒論
高度情報化社会のもとでインターネットの利用が急速に進展している。そのなかでホー
ムページを開設し、農産物の宣伝や販売の新しい手段としてインターネットを活用する農
業者が増加する傾向にある。農産物のインターネットを利用した産直は、従来の産直に比
べて双方向的であることから、その機能は販売面以外にも交流などの非貨幣的な面も含み、
より多面的な効果を持つと考えられる。そして、通信技術を含む情報技術の革新を導入し
て、それを活用した農業経営では経営管理、特に情報管理の部分において質的向上が図ら
れていると考える。そこで、本研究ではアンケート調査に基づいて、注文を得るためのイ
ンターネット販売における情報化対応のあり方、農業者がインターネット販売を行うこと
により農業経営に与える効果について考察する。
Ⅱ.研究・分析方法
1.農産物のインターネット販売を行う農業者の概要とメリットとデメリットをアンケー
ト調査の単純集計によって明らかにする。
2.インターネット販売を行うことによる農業経営への影響と売上の変化率について分析
する。
3.数量化理論を用いて、注文件数に影響を与える要因と取り組みを明らかにする。
<主な参考文献>
長谷部
正・永木正和・松原茂昌編著『農業情報の理論と実際』農林統計協会、1996 年
インターネットビジネス研究会『インターネットビジネス白書 2002』
(株)ソフトバンクパ
ブリッシング、2001 年
Ⅲ.研究結果とその考察
1.インターネット販売を行っている農業者の概要
ホームページを開設してインターネット販売を行っており、農業者リンク集「農業広場
(http://www.nogyo.co.jp)
」に登録している 420 件の農業者を対象にして、2003 年 12 月
14 日から 12 月 24 日の 10 日間、インターネットのホームページ上での CGI を利用してア
ンケート調査を実施した。有効回答件数は 101 件、回収率は 24%であり、回答者の属性は
第 1 表のとおりであった。
第1表 アンケート回答者の属性
回答項目
度数(人) 比率(%) 質問
回答項目
度数(人) 比率(%)
21∼30歳
10
11.5 農業経営形態
個別農家(雇用あり)
23
26.4
30∼40歳
21
24.1
個別農家(雇用なし)
49
56.3
41∼50歳
32
36.8
農事組合法人
1
1.1
51∼60歳
22
25.3
有限会社
9
10.3
61∼70歳
2
2.3
その他
5
5.7
性別
男性
80
79.2 ネット販売開始時期 1995年以前
4
4
女性
10
9.9
1996年
4
4
居住地 北海道・東北
15
17
1997年
1
1
関東
26
29.5
1998年
10
10
信越・北陸
12
13.6
1999年
17
17
東海
6
6.8
2000年
24
24
近畿
2
17
2001年
18
18
中国・四国
9
10.3
2002年
13
13
九州・沖縄
5
5.7
2003年
9
9
出所:アンケート調査より作成
質問
年齢
単純集計の結果、特徴的な傾向を整理すると次の 3 点があげられる。
① インターネット販売におけるメリット
「農産物のセールスポイントを直接消費者に伝えることができた(77%)」と回答した
農業者が多く、
「消費者の生の声を聞くことができた(63%)」
、
「消費者からの反応から
やりがいを感じることができた(59%)」と回答した農業者も多く見られることからも、
消費者と直接結びついているという交流面でのやりがいの効果が見られる。それと比較
して「消費者ニーズを把握し、商品や販売に活かすことができた(33%)」と回答した
農業者は少ない。農産物に消費者ニーズを反映させにくいという特徴を持っていること
もあるが、消費者から得た情報を商品や販売に活用できる形にする「情報の内部化」を
行えていない農業者が多いと考えられる。
② インターネット販売におけるデメリット
インターネット販売におけるデメリットについては、商品や販売の配送に手間がかか
ることをあげている農業者が多い。農繁期における販売、配送、ホームページ更新など
は、農業者にとってかなりの負担になると思われる。また、「注文件数が少なく儲から
ない(22%)」と回答した農業者に対し、「注文件数が多すぎて対応できない(10%)」
と回答した農業者もおり、注文件数、販売対応力の点における格差がみられる。
③ 売上の変化率
インターネット販売を行っている農業者は、
「減少した(1%)」
、
「変化がない(30%)」
と回答した農業者の他、69%の農業者において売上が増加している。また、売上が 200%
以上に増加した農業者もあり、インターネット販売の大きな可能性がみられる。
インターネット販売を行うことにより、売上増加などの直接的効果、双方向的な情報
交流によるやりがいや消費者ニーズの把握といった効果があることがわかる。
2.インターネット販売を行うことによる農業経営への影響
「インターネット販売開始時期」と「インターネットの利用が農業経営に役立っている
か」の質問項目についてのクロス分析を行った結果、インターネット販売開始時期が早い
ほど「かなり役立っている」と回答した農業者の割合が、
「ある程度役立っている」、「あま
り役立っていない」と回答した農業者の割合と比較してかなり高い。
そして、「インターネットの利用が農業経営に役立っているか」と「インターネットで得
る情報」、
「経営管理におけるパソコン利用」の質問項目についてクロス分析を行った結果、
「かなり役立っている」、「ある程度役立っている」、「あまり役立っていない」と回答した
農業者の順で、インターネットで得る情報、パソコンで行う経営管理が充実している。
「インターネットの利用が農業経営に役立っているか」と「売上の成長率」の分布図を
見てみると、インターネットが農業経営に役立っている度合いが高い農業者ほど、売上の
成長率が高いことがわかる。
「インターネットの利用が農業経営に役立っているか」と「売上の成長率」の質問項目
について分析すると、インターネットが農業経営に役立っている度合いが高い農業者ほど、
売上の成長率が高いことがわかった。
以上の分析より、インターネット販売を早い時期に開始して経営管理における情報化対
応を進め、インターネットを有効活用することによって経営管理の質的向上が起こり、そ
の結果売上の成長率に結びついたと考えられる。
3.インターネット販売の売上の決定要因についての分析
インターネット販売の年間注文件数を決定する要因を数量化Ⅰ類により分析した。
外的基準として、インターネット販売における「注文件数」を設定し、説明変数として
「ホームページ管理者」、「インターネット販売開始時期」、「産直の経験の有無」、「販売促
進に関する活動」、「顧客情報のデータベース化」、「ホームページ上で公開している情報」、
「代金決済方法」を用いる。カテゴリーレンジが大きく、影響を与える要因となっている
ものを第 2 表に抽出する。
この結果、「インターネット販売開始時期」が最も大きいレンジを示しており、開始時期
が早いことが大きい影響を与え、販売を行ってきた経験と技術の蓄積を活かすことにより、
固定客を得ていると考えられる。実際に、開始時期が早い農業者は顧客登録件数が多い傾
向にある。また、「ホームページ管理者」については、農業者が行っていることが多くの注
文件数の獲得につながり、農業者が直接消費者と販売を行うことによって、農業や作物に
関する話題などの交流、信頼関係
第2表 注文件数決定要因
カテゴリ
カテゴリ数量 レンジ
が生まれ、注文を得ていると考え
本人
23.38334 320.15516
業者に委託
-56.38222
られる。
担当者を雇用 -296.77181
ネット販売開始時期
1995年以前
429.77498 754.50815
「販売促進に関連する活動」と
1996年
533.24846
1997年
-221.25969
1998年
298.68185
しては、ショッピングモールの登
1999年
-39.56873
2000年
-9.37046
録、ダイレクトメール、メーリン
2001年
-91.65937
2002年
-165.86018
グリストの利用、顧客情報のデー
2003年
-163.04015
ショッピングモールへの登録 はい
79.10107 183.62749
タベース化が効果を生んでいる。
いいえ
-104.52642
DM、メールマガジンの利用 はい
132.39639 165.49548
ショッピングモールの登録は、ホ
いいえ
-33.0991
顧客管理のデータベース化 はい
128.25438 170.13336
ームページを発見してもらうのに
いいえ
-41.87898
銀行振込
はい
51.28249 144.92879
いいえ
-93.64629
有効な手段であると考えられるが、
クレジットカード
はい
107.45773 134.32217
いいえ
-26.86443
ショッピングモールの中でも競争
重相関係数
0.8527
0.7272
が生じており登録料も発生するた 寄与率
出所:アンケート調査より作成
アイテム
ホームページ管理者
め、売上の大きさと勘案してその
活用を検討する必要がある。ダイレクトメール・メーリングリストは、顧客に対して働き
かける有効な手段であると考えられる。顧客情報のデータベースとの相互利用により、顧
客に対して細やかな対応を行うことができ、マーケティング効果を得ることができる。
「代金決済手段」としては、銀行振込、クレジットカードの有無が注文件数に影響を与
えている。インターネット販売は、多様な決済手段を利用できるように対応するべきであ
るが、なかでも銀行振込は基本的な決済方法として用意すべきである。決済方法としてク
レジットカードを利用できる形態にしている農業者は少ないが、決済方法としては生産者
にとっては確実に代金を回収することができ、消費者にとっては簡単に支払いできるとい
う相互のメリットがある。今後ますます有効な決済方法として広まっていくと考えられる。
Ⅳ.結論
インターネット販売で注文件数を得るのに重要なことは、消費者に働きかけることによ
り、信頼関係を築き顧客化を図ることと、情報対応技術と情報を積極的に取り入れる姿勢
である。また情報を農業経営に有効的に取り入れられるには、「経験年数」も必要な要素で
あると考えられる。インターネット販売の農業者に与える効果としては、①売上増加など
の直接的効果、②双方向的な情報交流によるやりがい、③経営管理における質的向上、情
報化対応の促進の 3 点が挙げられる。