P47-69 - 日本海洋学会

海の研究(Oc
e
anogr
aphyi
nJapan),22
(2),47- 6
9,201
3
― 2012年度日本海洋学会岡田賞受賞記念論文 ―
西部北太平洋,ベーリング海,および北極海における
珪藻・珪質鞭毛藻の沈降フラックスと古海洋環境復元研究*
小野寺 丈尚太郎†
要
旨
西部北太平洋,ベーリング海,および西部北極海において,7箇所の時系列セディメン
トトラップ観測点によって得られた沈降粒子試料を用い,珪藻および珪質鞭毛藻の沈降フ
ラックスと海洋表層環境との関係を探った.各海域における両藻類の沈降フラックスの季
節変動や経年変動,群集組成の特徴が見出された.また,データを過去にさかのぼり,ベー
リング海堆積物試料に記録された珪藻殻及び珪質鞭毛藻骨格の化石群集分析の結果から過
去 4百万年間のベーリング海における寒冷化傾向を読み取った.また,北極海の中期始新
世の堆積物に含まれる珪質鞭毛藻骨格の化石群集分析から約 450
0-5
000万年前の北極海
は,現在と比べて比較的温暖で,外海との海水交換が限られた閉鎖的な環境であったこと
が分かった.
キーワード:di
at
om,s
i
l
i
c
of
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age
l
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,s
i
nki
ngf
l
ux,s
e
di
me
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r
ap,pal
e
oc
e
anogr
aphy,
は,海洋深層へ向かって鉛直輸送される沈降粒子として
1. I
nt
r
oduc
t
i
on
生 物 ポ ン プ の 機 能 に も 重 要 な 役 割 を 果 た す (e
.
g.
,
Takahas
hie
tal
.
,2
00
0;Honj
oe
tal
.
,20
08
;Shi
ge
mi
t
s
u
珪藻をはじめとする植物プランクトン群集の種組成や
e
tal
.
,201
0).数 10年スケールの中長期的な視点で環
生産力は,有光層環境の複雑な変化に応じて遷移してい
境変化を捉える場合,表層海洋環境変動は植物プランク
く(例えば Mar
gal
e
f
,197
8;Boyde
tal
.
,2
01
0).海の
トン群集の生産と群集構造に大きな変化をもたらすこと
珪藻は,主に高緯度海域や湧昇域,沿岸域における植物
tal
.
,2
01
2;Hi
nde
re
tal
.
,
が あ る ( 例 え ば Har
adae
プランクトン群集のなかで優占することが多く,海洋低
201
2).優占する基礎生産者とその生産力の変化は,生
次生態系の重要な構成要素の一つである.一般的に,北
物ポンプ能力およびそれに関係した物質循環にも大きな
太平洋亜寒帯では特に春から初夏にかけての有光層で珪
影響を与えるとされる.そのため,珪藻は藻類としての
藻生産の増加が見られる.外洋で生産された珪藻の一部
生物学的な分野だけでなく,海洋物質循環や古環境学分
*2012年 12月 1日受領;2013年 1月 31日受理
著作権:日本海洋学会,2013
†独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域
〒237-0061神奈川県横須賀市夏島町 2-15
TEL:046-867-9507
e
mai
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:onode
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t
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c
.
go.
j
p
野の側面においても幅広く研究がされてきた (Smol
andSt
oe
r
me
r
,2
010
).
古海洋環境復元研究の分野では,珪藻殻の化石群集を
過去の海洋環境を指標するツールの一つ(示相化石)とし
て利用することで,海洋環境変遷復元の研究に貢献して
4
8
小野寺 丈尚太郎
Fi
g.1
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ors
t
udyar
e
a.Thebl
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om
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l
uxs
t
udy.
きた(例えば Koi
z
umi
,1985
;Kat
s
ukiandTakahas
hi
,
直輸送される有機炭素量に対して,珪質鞭毛藻による寄
2
00
5;St
i
c
ke
l
ye
tal
.
,2009).また,全球規模の大きな
与は他の珪質プランクトン(珪藻,放散虫)に比べると
環境変動は植物プランクトン種の絶滅や新種の出現を招
非常に少ない(Takahas
hie
tal
.
,199
0).物質循環研究
くことがある.数万~10万年単位という地質学的な時
の中では無視される存在であるが,珪質鞭毛藻の骨格は
間スケールでみると,ある種の絶滅または新種の出現イ
化石として堆積物中に保存されるので,古海洋環境復元
ベントは各海域でほぼ一様に見出されることが多い.そ
の研究分野では珪藻化石と同様に年代指標や環境指標と
こで,珪藻化石種の絶滅・出現を利用した年代指標(示
ng,197
7;Bukr
y
して利用されることがある(例えば Li
準化石)も,深海掘削の現場を中心によく利用されてい
andMone
c
hi
,198
5;Bar
r
onandBukr
y,20
07
). 珪質
る ( 例 え ば Koi
z
umi197
3;Yanagi
s
awa and Aki
ba,
鞭毛藻は,種組成が珪藻よりも比較的単純で骨格の顕微
1
99
8
;Bar
r
on,2003)
.
鏡観察も難しくない.北太平洋外洋域では主要な種の地
珪質鞭毛藻は世界中の汽水~海水域に広く分布する植
理分布が大まかに調査されており,亜寒帯では東部と西
物プランクトンの一分類群で,汽水湖から沿岸域におい
部で群集組成が異なる(Poe
l
c
hau,19
76).複数の表層
ては水産業に影響を与えるほど大増殖することがごく稀
水塊の影響を受ける海域では,珪質鞭毛藻も水塊環境指
にある(He
nr
i
ks
e
ne
tal
.
,1993;品田・川尻,2
00
5).し
標として利用できる可能性がある.
かし,現在の北太平洋亜寒帯における珪質鞭毛藻の低次
そのような背景の下,筆者は主にセディメントトラッ
生態系の中での重要性は無視できるほど低い.なぜなら,
プを用いた珪藻殻および珪質鞭毛藻骨格の沈降粒子フラッ
北太平洋亜寒帯外洋域において,優占する植物プランク
クスと海洋表層環境との関係を明らかにする研究と,統
トンは珪藻またはパルマ藻である場合が多く(ジョルダ
合国際深海掘削計画(I
ODP)で得られる深海堆積物の
ンら,2
00
3
;Tani
mot
oe
tal
.
,2003),珪質鞭毛藻の海水
掘削試料を用いた古海洋環境復元研究の2つを進めてき
1Lあたりの細胞数は珪藻と比べると多くても 1
/1
00程
た.本稿では,岡田賞受賞の評価対象となったこれまで
度である(Komur
oe
tal
.
,2005).また,海洋深層へ鉛
に出版した論文の内容と,最新のデータの一部も併せて
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
簡単に紹介したい.
4
9
た.捕集瓶と回収後の試料分割および保管には,4
%ホ
ルマリン海水またはグルタルアルデヒド海水を,pHを
2. 研究海域
7.
6
-8
.
3に調整した上で用いた.試料は,1mm メッシュ
で篩分けを行い,1mm 以下の粒径画分を Mc
Lane社の
筆者が現在までに扱わせて頂いているセディメントト
回転式スプリッターによって,含まれる珪質プランクト
ラ ッ プ 試 料 は , 北 西 北 太 平 洋 の St
at
i
ons50
N,K2,
ン殻の量が群集分析に適当な濃度になるまで等分割した
KNOT,40
N,および S1,北太平洋亜寒帯アリューシャ
(通常 1
/10
0
0-1/40
96
).分割した試料は,3mm 間隔
ン列島の南方沖合 St
at
i
onSA, ベーリング海南部の
の格子がプリントされたメンブレンフィルター(孔径
St
at
i
onAB,北極海ノースウィンド深海平原の St
at
i
on
0
.
4
5μm)を用いて静かに吸引濾過を行い,蒸留水また
NAP10
tで得られた (Fi
g.1). St
at
i
on50N は, 西部
は Mi
l
l
i
Q水で脱塩後に乾燥させた.乾燥させた試料フィ
亜寒帯循環(Dodi
me
ade
tal
.
,196
3)のほぼ中央域に位
ルターは適当なサイズに切り取り,封入剤のカナダバル
置する.St
at
i
onKNOTは西部亜寒帯循環の南西縁に
サムを用いてスライドガラスに封入して,プレパラート
あたり,親潮,亜寒帯水,亜熱帯水が混合する水域であ
とした.
onK2は,St
at
i
on5
0Nと KNOTのほぼ中間
る.St
at
i
作成したプレパラートは,光学顕微鏡を用いて倍率
に位置する.St
at
i
on40Nは亜寒帯境界付近に位置して
20
0倍,40
0倍,60
0倍および 1
,
000倍で観察を行い,
いる.St
at
i
onSAでは,観測点の北を西向きにアラス
視野に現れた珪藻殻や珪質骨格を属または種レベルで同
カン・ストリームが,南を東向きの亜寒帯海流が流れる.
定・計数を行った.一日当たりの珪質プランクトン殻沈
ベーリング海 St
at
i
onABの南部では,ベーリング海に
降フラックス(F)は,得られた計数値(n)
,フィルター
流入したアラスカン・ストリームの分枝がアリューシャ
の濾過面積(A1
),顕微鏡で観察した面積(A2
),試料
ン列島の沿岸水と混合し,Al
e
ut
i
anNor
t
hSl
opeCur
-
分割率(Q=通常 1
/100
0
-1/40
96
)
,試料捕集期間(d)
,
r
e
ntとしてアリューシャン列島の北側を東向きに流れ
およびセディメントトラップ捕集口の面積(S=0
.
5m2)
る. この海流は, 大陸棚縁辺に沿って Be
r
i
ng Sl
ope
をもとに,下記の式によって見積られる.
Cur
r
e
ntを構成する.St
at
i
onABはこれらの海流に囲
まれたアリューシャン海盆の南部に設置された.St
a-
F= n×(A1/A2)
/S/Q/d
(1
)
i
onNAP10
tは,ボーフォート循環の南西縁にあたる.
t
また季節海氷域であり,8月下旬から 10月上旬を除く
期間は海氷で覆われる.
古海洋環境復元で用いた研究試料は,北極海ロモノソ
3
.
2 堆積物試料
本研究で用いた I
ODP堆積物試料は,層厚 2c
m で分
フ海嶺上の多年氷域における I
ODP 302次航海 Si
t
e
s
取された. 凍結乾燥した試料 1
0- 5
0mgを 入 れ た
M00
0
2および M0004,ベーリング海ではバウワーズ海
10
0mlビーカーに,過酸化水素水と 1N 希塩酸を加え
嶺斜面における I
ODP323次航海 Si
t
e
sU1341および北
て加熱処理を行った.ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶
東部陸棚斜面突端の Si
t
eU1343である.
液を加えて 1時間放置した.その後,上澄みを捨てて蒸
留水を加え再び 1時間放置するデカンテーションを 5-
3. 方
法
3.
1 セディメントトラップを用いた珪質プランクトン
沈降フラックス分析
1
0回繰り返し,溶液に含まれる試薬や微細な粘土鉱物
をできるだけ除去した.
珪藻化石を観察するプレパラートを作成する際は,デ
カンテーションを済ませた試料溶液を 25mlにし,その
うちの 1mlを事前にホットプレートに並べたカバーガ
本研究で用いた沈降粒子試料は,時系列セディメント
ラス(18×24mm)に載せ,6
0-6
5
Cで乾燥させた.
トラップ(Honj
oandDohe
r
t
y,19
88)によって得られ
乾燥したカバーガラスは,封入剤のマウントメディア
50
小野寺 丈尚太郎
(和光純薬)を用いてスライドガラスに封入し,珪藻ス
ライドとした.
珪質鞭毛藻やエブリディアンの骨格や大型珪藻を観察
するプレパラートを作成する際は,まずデカンテーショ
ンを済ませた試料を 20μm メッシュの篩に通した.篩
に残った 2
0μm 以上のサイズ画分をメンブレンフィル
ターで濾過をし,乾燥させたフィルターをカナダバルサ
ムでスライドガラスに封入した.小型のエブリディアン
を観察する際は,篩を通過した 20μm 以下のサイズ画
分を珪藻スライドと同様の方法で処理し,プレパラート
とした.
試料乾燥 1g当たりに含まれる珪質微化石の個体数
(I
)は,計数値(n),珪藻スライドの場合はカバーガラ
ス面積(珪質鞭毛藻の場合はメンブレンフィルターの濾
過面積)(A1
),顕微鏡で観察した面積(A2),珪藻ス
ライドの場合は分割率(Q),処理した乾燥試料重量 g
(V)によって見積られる.
I= n×(A2
/A1)/Q /V (2)
4. 珪質植物プランクトン沈降フラックスと海
洋環境
Fi
g.2
. Theboxpl
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hemont
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y
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at
i
onsAB,SA,50
N,K2,
KNOT,40N,andS1
(Onode
r
aandTakahas
hi
,2
0
0
9
;
Onode
r
ae
tal
.
,200
5;unpubl
i
s
he
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ve
ns
t
at
i
ons
.
4.
1 各海域の全珪藻沈降フラックスと珪藻沈降群集
4.
1
.
1 西部北太平洋
(沈降群集 Si
doc
oe
nos
i
s
,Takahas
hi
,1
995
)や第四紀堆
亜寒帯循環域
積物に含まれる珪藻化石群集は,北太平洋亜寒帯域の固
これまでに実施されたセディメントトラップ観測研究
有 種 と さ れ る Ne
o
de
nt
i
c
ul
as
e
mi
nae
(Si
mons
e
n and
の結果をみると,北太平洋亜寒帯西部の全珪藻沈降フラッ
Kanaya)Aki
baandYanagi
s
awaによって特徴づけら
クスは, 4月~7月の間に最大を記録することが多い
mada e
tal
.
,
れ る (Kanaya and Koi
z
umi
,1
966;Shi
(Ts
oyandWong,1999;Onode
r
ae
tal
.
,2005;Shi
mada
200
6).St
at
i
on50
Nや St
at
i
onSAが位置する北太平洋
e
tal
.
,20
0
6
).これまでに筆者が扱ったセディメントト
亜寒帯外洋域の西部から北部においては,一年を通して
ラップ試料に基づく珪藻沈降フラックスは,沈降粒子を
本種の優占が見られる年もあり(Fi
g.3
),観察された
採取した期間や水深が大きく異なるため厳密な比較は難
珪藻殻数の約 60-80
%をN.s
e
mi
naeが占めた.この海
しいものの,概してベーリング海南部や北太平洋亜寒帯
域は,沈降粒子における生物源ケイ素/炭酸塩比および
5×10val
ve
sm d
で高く,その中央値は 0.
7×10-4.
有 機 炭 素 /無 機 炭 素 比 が 1以 上 の ・Si
l
i
c
a Oc
e
an・
7
7
-2
-1
であった(Fi
g.2).
e
mi
nae
(Honj
o,19
97
;Honj
oe
tal
.
,2
008)である.N.s
の生産と沈降は,珪質殻のバラスト効果による有機物の
北太平洋亜寒帯外洋域の沈降粒子に含まれる珪藻群集
深層への鉛直輸送(Honj
oe
tal
.
,20
08)に対して影響
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
5
1
Fi
g.3. Thet
i
me
s
e
r
i
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c
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ot
aldi
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henor
t
he
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t
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i
f
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cf
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om Aug.1
990t
hr
oughJun.2
0
08.
(a)St
at
i
onAB,and
(b)St
at
i
onSA(Onode
r
ae
tal
.
,2
0
0
9,unpubl
i
s
he
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pr
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s
e
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e
dbybl
ank
i
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her
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l
at
i
veabundanc
egr
aph.
5
2
小野寺 丈尚太郎
を与える場合があると考えられる (Takahas
hie
tal
.
,
Ne
o
de
nt
i
c
ul
as
e
mi
naeが沈降群集の 50%以上を占めて
20
02
;Onode
r
aandTakahas
hi
,2009).ただし,約 1
9
いた(大橋・高橋,20
12未公表).しかし,2
00
8年 1
1
年にわたって観測が継続された St
at
i
onSAにおいては
月 か ら 1年 間 の 沈 降 粒 子 試 料 を 調 べ て み る と ,
1
9
98年春に小型放散虫骨格(<63μm)の著しく高い
oc
e
r
os属とその
N.s
e
mi
naeが春に優占した後でChae
t
フラックスが観測されており(高橋ら,2007;Tanaka,
休眠胞子, Fr
agi
l
ar
i
o
ps
i
soc
e
ani
c
a(Cl
e
ve
) Has
l
e,
20
0
8),ときには珪藻よりも他の珪質プランクトンが沈
Thal
as
s
i
o
s
i
r
anor
de
nki
o
e
l
di
iCl
e
veが 20
09年 6月下旬
降粒子の多くを占める場合もあるようである.
に急増した(Fi
g.4).そのため,2
009年 6月下旬には
なお同海域の珪藻生群集においては,N.s
e
mi
naeよ
l
ar
i
ops
i
sps
e
udonana(Has
l
e
)Has
l
eの方が
りもFr
agi
優 占 す る 場 合 が 多 い ( 例 え ば , 久 道 ・ 高 橋 ,19
99;
8
val
ve
s
前年より 1桁多い全珪藻フラックス (9.
9×10
m-2 d-1)が計測された.
北太平洋亜寒帯域西部の珪藻沈降フラックスは,年々
Ai
z
awae
tal
.
,2005).このような生群集と沈降群集と
変動が大きい様子が見えてきた.過去に実施された北太
の間における優占種の違いには,基本的な生活形態が単
平洋亜寒帯西部における珪藻フラックス観測研究の場合,
独性か群体を作るか否かという点と,珪藻被殻の形態の
St
at
i
onsGA,GB,および GDでは,全珪藻フラックス
違いが影響していると思われる.Ne
ode
nt
i
c
ul
as
e
mi
nae
2×107,0.
9×107 val
ve
s
の中央値がそれぞれ 1
.
4×107,0.
は珪藻としては小型の部類に含まれるが, 春に観測
oyandWong,19
99
). St
at
i
on
m-2 d-1 であった (Ts
される増殖期にはリボン状の長い群体を構成し,比較的
WCT-9
(20
00年 9月~20
0
1年 8月)では,年間を通
大型の粒子として深海へ沈降していく. 一方の
8
し た 日 別 平 均 の 全 珪 藻 フ ラ ッ ク ス と し て 2.
3
2× 1
0
F.ps
e
udo
nanaはN.s
e
mi
naeよりもさらに小型であ
val
ve
sm-2 d-1 が 報 告 さ れ て い る (Shi
mada e
tal
.
,
り群体を作らず単独性で見られることが多い.
200
6). また, St
at
i
onK2 48
10m でも, 前述の通り
F.ps
e
udo
nanaは,その殻の小ささのため単独で沈降
20
09年 6月に高い全珪藻フラックスを観測している.
するよりは凝集体に付着する形で一部の個体が深層に輸
なお,このような高い全珪藻フラックスが,セディメン
送されると思われるが,海洋深層のセディメントトラッ
トトラップ係留地点直上の有光層における珪藻生産の増
プ試料から本種を見いだすことは難しい. 大部分の
加を反映していたかどうかは注意深く確認する必要があ
e
udo
nana殻は亜表層で分解されて栄養塩となり,
F.ps
る.例えば St
at
i
onKNOTで 199
9年 6月に観測した高
表層の珪質微小プランクトン殻の生産に寄与していると
い珪藻フラックスは,内湾や湧昇域などの高い基礎生産
思われる.
海域に分布するChae
t
oc
e
r
o
s属(Hyal
o
c
hae
t
e亜属)と
St
at
i
onKNOTでは, 前述の St
at
i
onSA や 5
0N と
aokae
tal
.
(2
0
0
2
)
その休眠胞子を多数含んでいた.Sas
異なり沈降群集組成に明瞭な季節性が見られる(Fi
g.4)
.
は,19
99年 5月に千島列島沿岸に沿って分布するクロ
N.s
e
mi
naeの優占は春に見られるが,春以降に増える
ロフィル濃度が 10mgm-3 以上もある水塊の分枝が,
Chae
t
o
c
e
r
o
s属とその休眠胞子も年間を通じて珪藻沈降
St
at
i
onKNOTの約 1
00km 北方にかけて張り出す様子
群集組成への寄与が大きい(小野寺ら,2003).また群
を海色衛星および航海による観測で捉えている.この沿
集組成への寄与は少ないが,亜寒帯境界~亜熱帯でよく
岸水にはT.no
r
de
ns
ki
o
e
l
di
iやF.oc
e
ani
c
aが豊富に含
観察される珪藻種は,群集全体に占める割合が冬の時期
まれていた(Moc
hi
z
ukie
tal
.
,2
00
2).水深約 3,
0
0
0m
に増加する傾向が見られた (Onode
r
ae
tal
.
,2
00
5).
のセディメントトラップで捕集された珪藻沈降粒子フラッ
St
at
i
onKNOTにおける沈降粒子のアルケノン分析結
クスは,生物源オパールフラックスだけでなく,陸起源
果によると,アルケノンの一部は亜熱帯域から暖水渦に
物質の指標となりうるアルミニウム粒子の沈降フラック
t
よって運ばれてくるものも含まれていた (Har
adae
tal
.
,200
2) とも有意な相関関係がある
ス (Hondae
al
.
,2
0
0
6
).St
at
i
onKNOTの珪藻沈降群集は,混合水
(小野寺ら,20
03
).St
at
i
onKNOTで得られた珪藻沈
域を反映したものといえる.St
at
i
onK2では,200
5年
降フラックスには,St
at
i
onKNOT直上の有光層で生
か ら 20
0
6年 前 半 に か け て は St
at
i
on 5
0N の よ う に
産されたものに加えて,沖合に張り出した沿岸水起源の
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
5
3
Fi
g.4. Thet
i
me
s
e
r
i
e
sr
e
c
or
dsoft
ot
aldi
at
om f
l
uxands
i
nki
ngdi
at
om f
l
or
aatSt
at
i
ons50N,K2,KNOT,and
40
Ni
nt
hewe
s
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r
nSubar
c
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i
cNor
t
hPac
i
f
i
c
(Onode
r
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tal
.
,2
00
3;Onode
r
ae
tal
.
,20
0
5,i
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e
p.
)
.Thes
ampl
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i
onK2i
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e
pr
e
s
e
nt
e
dbybl
anki
nt
her
e
l
at
i
veabundanc
egr
aph.
54
小野寺 丈尚太郎
移流によるものも一部含まれると考えられた(小野寺ら,
20
03
).東カムチャッカ海流から親潮流域では中規模渦
が観察され,その渦の位置と強さの時系列変化が,千島
列島沿岸域だけでなく沖合の西部亜寒帯循環の西部にお
ける生物生産や物質循環にも重要な影響を与える
(Kus
akabee
tal
.
,2002).St
at
i
onK2で 2009年 6月下
旬に観測された高い珪藻フラックスも,上記に挙げた優
占種が春の寒冷水~季節海氷域に特徴的なものであるこ
とから,カムチャッカ半島周辺の冷たい沿岸水が沖合に
輸送されるイベントを反映した可能性がある.
4.
1.
2 西部北太平洋
亜寒帯境界
St
at
i
on4
0Nの珪藻フラックスは季節変動に加えて年
変動が目立って見える(Onode
r
ae
tal
.
,2005;Fi
g.4).
珪藻沈降群集組成を見ると,1997年 12月から 19
98年
e
mi
naeが多く見られ,基本的に亜寒
の 9月まではN.s
帯南部の群集であった.1998年 12月から 1999年にか
けては,N.s
e
mi
naeのフラックスも 19
98年と同じ程度
に 増 え た が , そ れ 以 上 に Fr
agi
l
ar
i
ops
i
s do
l
i
ol
us
Fi
g.5. Thet
i
me
s
e
r
i
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(Onode
r
ae
tal
.
,i
n
pr
e
p.
)
.
(Wal
l
i
c
h)Me
dl
i
nandSi
msのフラックスが大幅に増
えたため,F.dol
i
ol
usの優占が目立った(Fi
g.4
).北
i
ol
usの主な分布域は,亜
太平洋外洋域におけるF.dol
4.
1.
3 西部北太平洋
亜熱帯循環域
熱帯循環と亜寒帯循環の境界で高い基礎生産が見られる
2
010年 2月から 1
0月までの St
at
i
onS1における全
水域と考えられる(Ve
nr
i
c
k,1971).1999年は 1
998年
珪藻フラックスは,前述の亜寒帯域や亜寒帯境界で得ら
よりも St
at
i
on40N の海面水温が高く,同じ試料に含
ve
sm-2d-1であっ
れた結果よりも低く,0.
4
-1.
9
×106val
まれる放散虫沈降群集は,1998年よりも 1999年のほう
た(Fi
g.5
).全珪藻フラックスは,2-3月に高く7月
が亜熱帯種の割合が多かった(Okaz
akie
tal
.
,200
5).
に向かって減少したが,8月以降はフラックスが再び増
Sas
aokae
tal
.
(2002)によると,165
Eに沿った衛星
加に転じた.北太平洋亜熱帯循環域を代表する長期時系
観測では,海面水温の等温線が混み合う領域が 19
98年
列観測定点 St
at
i
onALOHA(2
2
4
5・
N,1
58
W)では,
N付近に位置していたのに対し,1999年は 41
N
は 43
1
9
92年から 19
9
4年にかけて得られた試料を対象とした
付近に南下した.珪藻群集から判断すると,1
9
98年の
珪藻沈降フラックスの分析結果が報告されている
St
at
i
on40
N付近の表層水塊は亜寒帯水の影響が強く,
(Sc
har
e
ke
t al
.
,199
9). そ れ に よ る と , St
at
i
on
1
99
9年は亜寒帯境界が St
at
i
on40N付近により近づい
e
l
l
sm-2 d-1程
ALOHAの全珪藻沈降フラックスは 105 c
たように見える.19
98年の沈降群集で,亜熱帯種の群
度であるので,St
at
i
onS1の珪藻フラックスは St
at
i
on
集全体に占める割合が増えなかった理由は明らかにでき
ALOHA よりも同程度か少し高い.St
at
i
onS1の沈降
ていない.
群集組成はNi
t
z
s
c
hi
abi
c
api
t
at
a gr
oupが優占し, 次
いでThal
as
s
i
o
ne
mani
t
z
s
c
hi
oi
de
svar
.par
vaが多かっ
た.群集組成の季節変動は小さいものの,2-3月には
odi
ac
usEhr
e
nbe
r
gが 1
0%を占め,4月以
Euc
ampi
az
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
5
5
降は数%に減少した.St
at
i
onALOHAとその周辺海域
において優占する珪藻種は,Mas
t
ogl
oi
awoodi
anaの
ほ か 窒 素 固 定 ラ ン 藻 類 Ri
c
he
l
i
aを 共 生 さ せ た
He
mi
aul
ushauc
ki
iや Rhi
z
os
ol
e
ni
ac
f
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l
e
ve
iで あ る
us属
(Sc
har
e
ke
tal
.
,1999).Ri
c
he
l
i
aを伴うHe
mi
aul
やRhi
z
o
s
o
l
e
ni
a属を主体とする珪藻群集は,北太平洋
亜熱帯循環の東部を代表するものといえる(Vi
r
al
l
e
al
e
tal
.
,2
0
12
). Mas
t
ogl
oi
a属やHe
mi
aul
us属は本研究
で扱った St
at
i
onS1試料では優占しなかった.
4.
1
.
4
. ベーリング海
アリューシャン海盆域
Fi
g.6. Thet
i
me
s
e
r
i
e
sr
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c
or
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ot
aldi
at
om f
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ux
at St
at
i
on NAP1
0t i
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nd Abys
s
al
Pl
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n,Ar
c
t
i
cOc
e
an
(Onode
r
ae
tal
.
,i
npr
e
p.
)
.
St
at
i
onABにおける全珪藻フラックスは,一年を通
じて亜寒帯外洋域よりも高い傾向があり,St
at
i
onSA
tal
.
,200
0; (例えば Kuwat
aandTakahas
hi
,1
990;Sugi
ee
tal
.
,
と比較するとおよそ 2倍高い(Takahas
hie
2
00
2
;Onode
r
aandTakahas
hi
,2009;小野寺ら,20
09)
2
010
)が影響したと思われる.
(Fi
g.3
a).全珪藻フラックスの季節変動は年によって
少し異なる.フラックスピークが春と秋の 2回観測され
る年もあれば,春または秋のどちらか 1回のみ観測され
4
.
1.
5 北極海
る年もある(Takahas
hie
tal
.
,2000).St
at
i
onABの
北極海における珪藻生群集の研究は,海氷による観測
naeに加えて,
珪藻沈降群集は, Ne
ode
nt
i
c
ul
as
e
mi
の難しさはあるものの古くから報告されてきた(例えば
Chae
t
o
c
e
r
o
s属とその休眠胞子, Thal
as
s
i
one
ma属や
kov,1
99
7;Kat
s
ukie
t
Cl
e
veandGr
unow,18
80;Me
l
ni
Thal
as
s
i
o
s
i
r
a属の寄与も時期によっては高い(Fi
g.3
a)
.
al
.
,20
09
).しかし,北極海の海盆側において年間を通
St
at
i
onSAよりも St
at
i
onABで珪藻生産と珪藻フラッ
じた珪藻フラックスが報告されているのは,筆者が把握
クスが高い原因は,冬季鉛直混合により亜表層から供給
す る 限 り ラ プ テ フ 海 北 部 St
at
i
on LOMO2(81
0
4
・
N
される栄養塩に加えて,ベーリング海に流入するアラス
13
8
5
5・
E)において,19
95年 9月から約 1年間にわたっ
カン・ストリームの分枝が,アリューシャン列島を通過
て観測された結果のみである(Ze
r
novae
tal
.
,20
0
0
).
する際に列島沿いの富栄養な水塊と混合して(St
abe
no
本稿ではチャクチ海北部のノースウィンド深海平原
e
tal
.
,1
9
9
9),東部アリューシャン海盆の南部に広がっ
0月
St
at
i
onNAP1
0tの水深約 18
0m において 2
010年 1
ていくプロセスも重要である(大西ら,2008).St
at
i
on
から 1年間にわたり得られた沈降粒子について,珪藻分
ABでは物理観測測器を係留しなかったが,再解析デー
析結果の概要を紹介する.St
at
i
onNAP1
0tは Be
auf
or
t
タによる表層塩分推測値とフラックスデータを比較する
gyr
eの南西縁辺に位置し,表層水塊は西側のチャクチ
と,表層塩分が低下した年ほど沿岸域で多い珪藻種の割
海盆域と比べると貧栄養環境にある (Ni
s
hi
noe
tal
.
,
合が高くなるパターンと, 塩分が増加した年に
201
1).St
at
i
onNAP10tの全珪藻フラックスは,極夜
Chae
t
o
c
e
r
o
s属の休眠胞子の割合が増加するパターンが
を含む全捕集期間について中央値を見ると,北太平洋亜
ある(Onode
r
aandTakahas
hi
,2
009).後者のパター
寒帯やベーリング海よりも約1桁低い値を示し(0
.
0
9×
ンは,おそらく沿岸水の影響よりも現場の鉛直混合によ
ve
sm-2 d-1),上記の亜熱帯域 St
at
i
onS1の観測
1
07 val
る亜表層からの栄養塩供給が珪藻の生産に重要であった
ve
sm-2 d-1)と同等のレベルであった.
値(0.
12
×1
07 val
ことを示すと思われる.なぜ休眠胞子の割合が増えたの
水深 1
80m における全珪藻フラックスのピークは,
かは詳しくは分からないが,おそらく栄養塩環境の違い
2
010年 1
1月と 201
1年 8月に観測された(Fi
g.6
).1
1
56
小野寺 丈尚太郎
月のピークではChae
t
oc
e
r
os属とその休眠胞子を主体と
度は一定ではなく,たとえば粒子の大きさや組成によっ
した沈降群集が観察された.しかし,11月の St
at
i
on
ても沈降速度は異なる(Honj
oe
tal
.
,20
08).沈降粒子
NAP10
tは極夜のシーズンに入っており,植物プランク
の捕集は通常 1週間~1カ月程度の時間間隔で行われる
トンの活発な光合成は期待できない.おそらく,11月
が,例えば火山灰の降下のような特別なイベントを除け
に観測された高い珪藻フラックスを構成する珪藻殻の
ば,その時間解像度で表層環境と深層の沈降粒子フラッ
多くは,周辺の陸棚域から輸送されてきたものである
クス変動を常に 1対 1で対応づけるのは現状では難しい
と 考 え ら れ る . 8月 に 増 加 し た Fos
s
ul
a ar
c
t
i
c
aや
場合が多い.従って,そのような時間解像度で表層環境
Fr
agi
l
ar
i
o
ps
i
s属は,多くが群体のまま沈降しており,
と深層で得られる珪藻沈降群集フラックスを対応付ける
一部の個体は被殻の内側に原形質を残したままであった.
のは,粒子の形成から沈降に至る一連の過程と沈降速度
これは St
at
i
onLOMO2でも見られた(Ze
r
novae
tal
.
,
を各観測点で詳細に把握できていない現状では困難であ
2
00
0
).8月に増加した珪藻フラックスの多くは,1
1月
る.さらに,ある外洋に設置したセディメントトラップ
at
i
onNAP10t周辺で生産
のフラックスとは異なり,St
係留点周辺の範囲において,衛星画像によるクロロフィ
された物が速やかに沈降してきたものが多いと考えら
ル濃度の水平分布を日単位や週単位でみると,濃度分布
れる.
の不均一性が目立つ場合が多い.しかし,年単位でみる
と,海域内のクロロフィル濃度分布のムラは外洋域では
4.
1.
6 長期時系列試料と海洋環境
幾分目立たなくなる.そこで,筆者は年単位の時間スケー
ルであれば,大まかな沈降速度の見積もりでも,表層環
ベーリング海アリューシャン海盆南部の St
at
i
onAB
境変動と沈降フラックス変動との間で何らかの関係性が
およびアリューシャン列島南方沖合の St
at
i
onSAでは,
見出せるのではないかと考えた.長期時系列セディメン
北海道大学水産学部が同学部附属練習船「おしょろ」丸
ト ト ラ ッ プ 観 測 点 St
at
i
onsABお よ び SA に お い て
を使って毎年実施する北洋航海の協力によって,セディ
1
990年 8月から 19
98年 6月まで得られた週ないし月単
メントトラップ係留観測が 1990年から 2009年まで続け
位の沈降フラックスデータを 1
2カ月単位でまとめ,年
られた(Takahas
hie
tal
.
,2012).St
at
i
onSA では,
レベルの時間解像度で珪藻沈降フラックスデータと表層
ほぼ連続した係留観測に成功し,観測期間中の全珪藻フ
環 境 デ ー タ を 比 較 す る こ と を 試 み た (Onode
r
aand
ラックス変動の全容が明らかになりつつある(Fi
g.3).
Takahas
hi
,2
009
;小野寺ら,20
09).北太平洋亜寒帯の
沈降フラックスと表層環境を時系列で比較する場合,
外洋における珪藻生産に必要な栄養塩は,冬季鉛直混合
海洋表層からセディメントトラップに至るまでの粒子の
によって亜表層から供給されるものが中心であると予想
沈降時間を考慮する必要がある.海洋深層における粒子
される.そこで,冬季鉛直混合が始まる晩秋を起点とし
の沈降速度は,複数層に設置したセディメントトラップ
た 12カ月で, 珪藻フラックスデータを取り纏めた.
係留系において,各水深におけるフラックスピーク観測
St
at
i
onsABおよび SA では,それぞれ 1層のセディ
日のズレを比較することによって求められる場合が多い.
メントトラップを継続的に係留したので,現場における
たとえば, Hondae
tal
.
(2002) は, 北西北太平洋の
沈降速度の見積もりはできない. ここでは, St
at
i
on
at
i
on50
Nの水深約 1,
000,3,
00
0および 5
,
00
0m に設
St
tal
.
,
50Nで見積られた沈降速度~1
14m d-1(Hondae
置したトラップ実験において,沈降粒子によるトラップ
20
0
2)を参考にし,水深約 3,
2
00m に係留された St
a-
の目詰まり現象が 1,
000m から 3,
0
00m および 3,
00
0m
t
i
onABでは 1カ月,約 4
,
6
00m に係留された St
at
i
on
から 5
,
00
0m へ,それぞれ 1試料分ずつずれる形で観測
SAでは 1
.
5カ月のタイムラグをとって,1
2カ月ごとの海
されたことから,およそ 11
4m d の沈降速度を見積もっ
洋表層における衛星観測または再解析データによる水温,
ている.また,St
at
i
onK2では,同様の手法によって
塩分,混合層厚平均値との比較を行った.結果として,
粒子の沈降速度が深さを増すほど速くなっていく様子が
この 12カ月で累積させた 8年間の珪藻フラックスは,混
捉えられている(本多ら,2007).このように,沈降速
g.8
;小野寺ら,
合層厚データと逆相関の関係を示した(Fi
-1
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
5
7
Fi
g.7
. Thet
i
me
s
e
r
i
e
sr
e
c
or
dsoft
ot
als
i
l
i
c
of
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ef
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nki
ngs
i
l
i
c
of
l
age
l
l
at
ef
l
or
aatSt
at
i
ons5
0
N,
KNOT,and40Ni
nt
hewe
s
t
e
r
nSubar
c
t
i
cNor
t
hPac
i
f
i
c
(Onode
r
aandTakahas
hi
,2
005).Nodat
ape
r
i
odsar
e
r
e
pr
e
s
e
nt
e
dbybl
anki
nt
her
e
l
at
i
veabundanc
egr
aph.
20
09
)
.これらの結果の解釈として小野寺ら(20
09
)は,
の違いが珪藻生産と沈降に影響していると考えた.冬季
Sve
r
dr
up の Cr
i
t
i
c
al
de
pt
h mode
l
(Sve
r
dr
up,195
3;
に水柱上部の鉛直混合が深くなることで亜表層からは豊
Sme
t
ac
e
kandPas
s
ow,1990)の考え方をもとに,冬季
富な栄養塩が供給される.しかし,冬季鉛直混合が終わっ
鉛直混合とそれに続く夏季成層構造の発達のタイミング
て海洋表層の成層化が始まるタイミングが遅くなると,
5
8
小野寺 丈尚太郎
Fi
g.8
. Ther
e
l
at
i
ons
hi
psbe
t
we
e
nt
hemi
xe
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aye
rde
pt
handt
het
ot
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om f
l
uxatSt
at
i
onsABandSA.
Thedat
ai
n1
990
(Aug.
Nov.
)i
snotpl
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rl
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gr
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i
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at
i
onSAdonoti
nc
l
udet
hedat
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n199
8duet
ot
heunus
ualf
l
uxpat
t
e
r
n.
(Onode
r
ae
tal
.
,2
00
9)
(PDOI
)で示される海洋環境の変化を反映しているこ
とが示唆されている(As
ahiandTakahas
hi
,20
0
8
).
同様に St
at
i
onSAにおける各年の全珪藻フラックスは,
一 部 の 年 を 除 き PDOIと 高 い 相 関 関 係 が 見 ら れ た
(Fi
g.9
;小野寺ら,20
09
).アリューシャン低気圧は,冬
季の混合層深度に重要な影響を与えていると考えられる.
ベーリング海では,アリューシャン低気圧の挙動が生物
生産の季節変動や経年変動に影響を与えることが指摘さ
t
ohe
tal
.
,20
02
;溝端ら,20
06).北太平
れている(Sai
Fi
g.9
. Ther
e
l
at
i
ons
hi
pbe
t
we
e
nt
heannualme
ans
oft
ot
aldi
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om f
l
uxe
sandPDOIatSt
at
i
onSA.The
dat
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9
0and1991ar
et
heout
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homboi
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r
i
od
(nos
ampl
e
sdur
i
ngs
pr
i
ngf
l
uxmaxi
mum).
洋亜寒帯域において,珪藻は生物ポンプの中心的な役割
を果たす(Takahas
hie
tal
.
,2
002
;Honj
oe
tal
.
,2
0
0
8
)
.
本研究で PDOIと珪藻沈降フラックスにも一定の相関
が見られたことは,アリューシャン低気圧の挙動が生物
ポンプにも影響を与えていることを示唆している.ただ
し,高緯度海域の植物プランクトン生産にとっては,供
給される栄養塩や表層水塊の安定度だけでなく,光環境
深い混合層の中で春に増加する珪藻の生産が抑えられる
も大変重要である(Boyde
tal
.
,20
10
)
.発達したアリュー
可能性がある.その場合 12カ月単位で累積した珪藻沈
シャン低気圧の下では光環境も下がると思われる.しか
降フラックスは通常よりも低下すると思われる.St
a-
し,19
90-19
9
8年の St
at
i
onABおよび SAにおける春
t
i
onSAでは,微小動物プランクトン有孔虫の長期時系
から秋にかけての光環境が,現場の珪藻沈降フラックス
列 フ ラ ッ ク ス が , Pac
i
f
i
cDe
c
adalOs
c
i
l
l
at
i
on I
nde
x
にどのように影響したのかはよく分かっていない.
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
5
9
ベ ー リ ン グ 海 St
at
i
on ABの 沈 降 群 集 は , St
at
i
on
50
N の群集と基本的に類似している.この海域では亜
4.
2 珪質鞭毛藻フラックスと群集組成
熱帯域に分布の中心を持つDi
c
t
yoc
ha属の出現は少ない.
北太平洋亜寒帯およびベーリング海盆における珪質鞭
ベーリング海に出現するDi
c
t
yoc
ha属の個体は,基本的
毛藻骨格の沈降フラックスは,珪藻殻フラックスよりも
な表層海流系から推測すると,アラスカン・ストリーム
7
×10 s
ke
l
e
t
onsm
1~2桁低く 1
.
0
×10~22.
の分枝のベーリング海への流入と共に流されてきた可能
5
5
-2
d であっ
-1
た.特に St
at
i
on40N で高い珪質鞭毛藻フラックスが
観測された.これは,北太平洋外洋域の表層堆積物にお
hi
,201
2)
.
性が高い(Onode
r
aandTakahas
北 極 海 で は , D. s
pe
c
ul
um お よ び Di
s
t
e
phanus
ける珪質鞭毛藻骨格の含有量が,亜寒帯境界とその遷移
me
di
ano
c
t
i
s
o
l Takahas
hie
tal
.が 主 に 観 察 さ れ る
帯に沿って高くなっている地理分布(Poe
l
c
hau,1
97
6)
(Me
l
ni
kov,199
7;Takahas
hie
tal
.
,20
09
;小野寺ら,
と調和的である.St
at
i
ons50Nにおける珪質鞭毛藻フ
未公表).特に北極点付近で 20
04年に採取した海水およ
ラックスのピークは,珪藻フラックスと同様に基本的に
di
anoc
t
i
s
o
lの優占が目立った
び海氷試料では, D.me
春に観測されるが,St
at
i
onKNOTでは 1998年と 199
9
(Takahas
hie
tal
.
,2
009
).また,8角形の骨格を有す
年1
2
~1月にピークが観測された (Fi
g.7;Onode
r
a
るDi
s
t
e
phanus属の種も僅かに出現する(Me
l
ni
kove
t
andTakahas
hi
,2005). St
at
i
on SA における沈降フ
al
.
,20
02
;小野寺ら,未公表).
ラックスのピークが見られる季節は年によって異なり,
St
at
i
onKNOTではD.s
pe
c
ul
um だけでなく, 亜寒
r
a and
春 か 秋 の ど ち ら か 1回 観 測 さ れ た (Onode
帯 /亜 熱 帯 遷 移 帯 で 多 く 見 ら れ る D.mandr
ai(=D.
Takahas
hi
,2
0
12
).St
at
i
onABの場合は珪藻フラック
odo
ni
nPoe
l
c
hau19
76)も観測期間を通じて含まれ
e
pi
スと同様に,フラックスピークが春と秋の 2回観測され
る.さらに 19
99年は亜熱帯種のDi
c
t
yoc
hame
s
s
e
ne
ns
i
s
る 年 , 春 ま た は 秋 の 1回 だ け 観 測 さ れ る 年 が あ る
Ehr
e
nbe
r
gについても,群集に占める割合が増加した.
(Onode
r
aandTakahas
hi
,2012). St
at
i
onK2の沈降
St
at
i
onS1では海水1Lあたりの骨格数が,St
at
i
on
粒子試料の珪質鞭毛藻分析は今後の課題である.ただし,
K2の生群集と比べると, 1/2
~1/10程度であった.
2
01
0年から 201
1年にかけて 2月,4月,7月,1
0-11
生 群 集 に お け る 優 占 種 は Di
c
t
yoc
ha me
s
s
ane
ns
i
s
月に得られた海水試料を調べると,海水 1Lあたりの骨
ns
i
sで,D.me
s
s
ane
ns
i
ss
pi
no
s
aや赤道太平洋
me
s
s
ane
ke
l
e
t
ons
格数は 7月の試料で最も高かった(8.
2×10 s
東 部 湧 昇 域 や 亜 熱 帯 沿 岸 水 に 多 い Di
s
t
e
phanus
(小野寺ら,未公表).
L-1)
pul
c
hr
us(Hovas
s
e
)Li
ngandTakahas
hiも含まれる
3
北太平洋亜寒帯の西部域における優占種は,St
at
i
on
(小野寺ら,未公表).
50
Nの沈降群集および St
at
i
onK2の生群集に基づくと
St
at
i
on40
Nでは,冬~春にD.s
pe
c
ul
um が優占し,
Di
s
t
e
phanuss
pe
c
ul
um(Ehr
e
nbe
r
g) Hae
c
ke
lである
g.7;Onode
r
a
夏~秋にD.me
s
s
ane
ns
i
sが優占した(Fi
(Onode
r
aandTakahas
hi
,2005;未公表).亜寒帯北部
andTakahas
hi
,20
05
).ただし 19
99年にはD.pul
c
hr
us
t
angul
at
us
St
at
i
on SA 付 近 で は , Di
s
t
e
phanus oc
も増加し,珪藻や放散虫群集と同様に亜熱帯種の割合が
Wai
l
e
sも多く見られる.亜寒帯東部の St
at
i
onPAPA
199
8年よりも増えた(Onode
r
aandTakahas
hi
,2
0
0
5
)
.
では,D.s
pe
c
ul
um に加えてDi
c
t
yoc
hamandr
aiLi
ng
また,MR10-0
6航海で 3
8
N 14
6.
4
Eで得られた採水
も多い(Takahas
hi
,198
7).St
at
i
on50Nおよび PAPA
ns
i
sが優占し,
試料では水柱上部 5
0m 水深でD.me
s
s
ane
の平均的な沈降群集組成と St
at
i
onSAの群集との類似
50m より深い部分でD.s
pe
c
ul
um が増加していた(小
onSAでは,St
at
i
on50Nの群集
度を調べると,St
at
i
野寺ら,未公表).
に近い時と St
at
i
on PAPA の群集に近い場合がある
(Onode
r
aandTakahas
hi
,2012).この変化は,アラス
カン・ストリームと亜寒帯海流の流量の変化を反映して
いると思われる.
5. 珪質微化石と古海洋環境復元
微化石とは,珪藻殻など顕微鏡を使わないと観察が難
60
小野寺 丈尚太郎
しい微小な化石を指し,古環境復元や海洋堆積物の年代
と , St
at
i
on AB の 沈 降 群 集 の よ う に Ne
ode
nt
i
c
ul
a
指標として広く利用されている.特に有孔虫殻の化石は,
s
e
mi
naeや そ の 祖 先 種 N. koi
z
umi
i Aki
ba and
古海洋環境復元で大変重要な役割を果たしてきた.しか
i
na)
Yanagi
s
awa お よ び N. kamt
s
c
hat
i
c
a (Zabe
l
し,炭酸塩補償深度の浅い北太平洋高緯度域の深海堆積
Aki
baandYanagi
s
awaが優占する場合もあるが,年
物では有孔虫など炭酸塩質化石の保存が悪いため,堆積
代によっては他の種の占有率も増加していた(Fi
g.1
0
)
.
物の主要な構成物であるケイ酸質殻化石(珪藻,放散虫
およそ 2.
9
Ma(1Ma=百万年前) まではNe
ode
nt
i
c
ul
a
など)の幅広い活用も求められる.珪藻化石による古海
属 に 加 え て Cos
c
i
nodi
s
c
usmar
gi
nat
us Ehr
e
nbe
r
gや
洋環境復元については,最近の和書では小泉(2
0
11)に
usは,
St
e
phanopyxi
s属も多く含まれる.C.mar
gi
nat
纏められている.以下では,筆者が扱わせて頂いた北極
現在の北太平洋外洋では中緯度で比較的多く St
at
i
on
海およびベーリング海の I
ODP試料について,珪藻お
40
N の沈降群集では最大 18
%であった (Onode
r
ae
t
よび珪質鞭毛藻の群集解析 (Onode
r
ae
tal
.
,20
08
,i
n
al
.
,2
0
05).なお,本種は他の珪藻種に比べて殻が厚く,
pr
e
s
s
;Onode
r
aandTakahas
hi
,2009b)を紹介する.
堆積物間隙水による殻の溶解に強いので,殻の薄い他の
時間スケールは前述のセディメントトラップ研究と大き
種の選択的溶解によって化石群集に占める割合が増加し
く異なり,以下に示す内容は,数千年~数万年単位での
て い る 可 能 性 が あ る ( 例 え ば Takahas
hi
,19
9
4
).
環境変動と生物群集変遷との関係を探るものである.な
St
e
phanopyxi
s属も基本的に温暖種であるが,一部は高
お,前章のフラックス観測研究で示したように,珪藻や
緯度に向かう暖流に沿うように高緯度域でも観察される
珪質鞭毛藻の生産と沈降には季節性がある.珪質植物プ
(Round e
t al
.
,1
990
). 3.
4Ma頃 に は 寒 冷 種 の
ランクトンの化石によって復元される古海洋環境には,
Thal
as
s
i
os
i
r
aant
ar
c
t
i
c
a Combe
rの休眠胞子がごく僅
ベーリング海では春~秋にかけて,極夜がある北極域で
かながら出現しはじめる.北太平洋亜寒帯における深海
は夏の状況が反映されやすいことに注意する必要がある.
掘削 ODPLe
g14
5のコア試料で指摘された約 2.
7
Maの
北半球氷河化作用(NHG)の強化イベント(Hauge
t
5.
1 珪藻と珪質鞭毛藻化石群集に基づく鮮新世~第四
紀ベーリング海の古海洋環境復元
,1
99
9)に対応する形で,本研究でも 2.
9
Ma頃には
al
.
現在のベーリング海北部や北極海 St
at
i
onNAP1
0
tでも
見られるFr
agi
l
ar
i
ops
i
so
c
e
ani
c
a Cl
e
veやF.c
yl
i
ndr
us
I
ODPExpe
di
t
i
on323は,2009年にベーリング海バ
(Gr
unow)Kr
i
e
ge
ri
nHe
l
mc
ke& Kr
i
e
ge
rが僅かなが
ウワーズ海嶺の西麓に設定された掘削点 Si
t
eU1
341に
ら出現し始めた.この NHG強化イベントでは,北太平
おいて過去約 4.
3百万~現世の珪質堆積物を採取した.
洋亜寒帯域における海洋表層の塩分が低下し,水柱上部
e
pSe
a
ベ ー リ ン グ 海 で は 1971年 に 深 海 掘 削 計 画 De
における明瞭な塩分躍層の形成または強化によって基礎
Dr
i
l
l
i
ngPr
oj
e
c
tLe
g19が実施されており,ベーリン
生 産 力 の 低 下 が 起 こ っ た (Haug e
tal
.
,1
99
9
). 約
グ海の地質年代モデル構築の基礎となる珪藻化石層序は
2.
7
MaからはAc
t
i
noc
yc
l
us属が断続的に優占するよう
Koi
z
umi
(1
9
7
3)によって,珪質鞭毛藻化石層序につい
になった.表層堆積物における珪藻遺骸群集の分布を調
ては Li
ng(19
73)によって示されている.その後の研
べると,Ac
t
i
noc
yc
l
us属はオホーツク海中央部の堆積
究 で , 北 太 平 洋 亜 寒 帯 で は Bar
r
on and Gl
ade
nkov
e
t
t
aandSi
l
ve
r
s
t
l
i
,
物で比較的多く見出される (Sanc
(19
95
), Bar
r
on(2003), 日本周辺では Yanagi
s
awa
198
6). このような珪藻化石群集の変動傾向は, ODP
98)が珪藻微化石層序を取り纏めている.
andAki
ba
(19
Le
g1
4
5における北太平洋亜寒帯の珪藻化石群集変遷
そこで,ここで紹介する Si
t
eU1341の掘削試料の年代
(Shi
madae
tal
.
,2
009
)と大枠で一致する.さらに 2
Ma
モデルの基礎となる化石層序は,これまでに構築された
頃には,温暖系のSt
e
phanopyxi
s属の増加はほぼ見られ
化石層序に基づいて決定された (Onode
r
ae
tal
.
,i
n
なくなる一方, 亜寒帯外洋域に広く分布する
pr
e
s
s
).
at
r
i
f
ul
t
aやT.ant
ar
c
t
i
c
a休眠胞子の割合
Thal
as
s
i
os
i
r
得られた堆積物に含まれる珪藻化石群集を調べてみる
増加が見られることから,寒冷化が一段と進んだことが
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
6
1
Fi
g.1
0. Tot
aldi
at
om c
ont
e
nti
n dr
ys
e
di
me
nt
s
,and r
e
l
at
i
veabundanc
e
sofs
omemaj
ordi
at
omsand
s
i
l
i
c
of
l
age
l
l
at
e
satSi
t
eU13
41
(Onode
r
ae
tal
.
,i
npr
e
s
s
).Theδ18 O r
e
c
or
dsofbe
nt
hi
cf
or
ami
ni
f
e
r
saf
t
e
r
Li
s
i
e
c
kiandRaymo
(2005)i
sal
s
os
hown.
伺える.2
Ma頃の寒冷イベントは北太平洋中緯度域の
ア最上部にかけては亜寒帯外洋で広く見られる
珪藻化石群集に基づいて推定された水温変動にも表れて
Thal
as
s
i
o
s
i
r
at
r
i
f
ul
t
a gr
oupの割合が増加した.ベー
いる(Koi
z
umi
,1985).また,北極海でも中層水の起
リング海陸棚斜面 Si
t
eU1
3
43では,約 2
Ma以降の珪藻
源が北大西洋水から,北極海陸棚域で海氷が形成される
r
ai
s
hie
tal
.
,i
npr
e
s
s
).
化石群集が得られている(Te
際に排出されるブライン起源へと大きく変わった時代で
その結果と比べると Si
t
eU1
341では海氷種の群集に占
ある(Hal
e
ye
tal
.
,2008).本研究の 2Ma以降の珪藻
める割合は小さく,少なくとも間氷期においては冬季か
分析層準の時間解像度は非常に粗いため詳細には触れ
ら春先にかけて海氷が Si
t
eU1
3
41付近まで張り出して
ら れ な い が , 約 0.
8Ma頃 か ら 0.
4Maに か け て は
くる年は多くなかったようである.
N.s
e
mi
naeの割合が減少した.一方,0.
8Ma頃からコ
珪質鞭毛藻化石群集は,コア基底部から海底面に至る
6
2
小野寺 丈尚太郎
まで基本的に亜寒帯性の群集であった.現在の北極海に
温暖であったようには見えない.現在の珪質鞭毛藻群集
多いD.me
di
anoc
t
i
s
olの割合が 2.
7Maおよび 1
.
9Ma頃
と類似する種組成が見られたのは 0
.
12
Maの間氷期と,
に増加したのは,北半球の寒冷化イベントと関係してい
0.
76
5Maの間氷期であった.
ると思われる(Fi
g.10).約 1.
35Maから 0.
75Maにか
けては, D.me
di
anoc
t
i
s
olのような寒冷種が優占する
のに加え, ベーリング海以南の北太平洋亜寒帯で
1
.
8Maに出現したDi
c
t
yoc
has
ubar
c
t
i
osが優占する時
代も断続的に見出された.1.
25Maから 0.
78Maにかけ
5.
2 珪質鞭毛藻化石群集から探る中期始新世の北極海
ODP
20
04年に北極海ロモノソフ海嶺で実施された I
3
0
2次掘削では,海底から基盤岩までに至る一連の軟泥
e
mi
naeが連続的に優占種として出
ては北大西洋でN.s
堆積物が得られた(Mor
ane
tal
.
,200
6).回収された
現した(Koe
tal
.
,1999;Re
i
de
tal
.
,2007).N.s
e
mi
nae
掘削孔最下部の試料は白亜紀の大陸沿岸で形成された砂
は,前述のとおり北太平洋亜寒帯~ベーリング海海盆部
岩で,ロモノソフ海嶺が現在のユーラシア大陸縁辺から
で多く見られる北太平洋北部の固有種であり,亜熱帯域
北極海の海盆側へと引き離されてきたものであることが
には分布しない.したがって,N.s
e
mi
naeが北太平洋
示唆されている (Bac
kmanandMor
an,20
09
). 得ら
亜寒帯から北大西洋に進出するためには,本種を伴う北
れたコア堆積物は,粘土鉱物などの砕屑粒子を主体とす
太平洋亜寒帯起源の水塊がベーリング海峡を通過し,さ
る上部層(Li
t
hol
ogi
cUni
t1)と,有機炭素と珪質微
らに北極海を通過しなければならない.D.s
ubar
c
t
i
o
s
化石を多く含む層(Li
t
h.Uni
t2)
,珪質砕屑物層(Li
t
h.
の分布の南限はN.s
e
mi
naeと同様に亜寒帯境界付近で
Uni
t3
),および黒色砂泥層(Li
t
h.Uni
t4
)で構成さ
ある(Li
ng,1
976).一方,D.s
ubar
c
t
i
osの分布の北限
れる. 粘土鉱物を主体とする Li
t
h.Uni
t1は下部の
は,本種がベーリング海では連続的に産出しなかったこ
t
1
/6および 1
/5を除き多年氷環境下で形成され
s
ubuni
とから,原則として亜寒帯北部に位置していたと思われ
たことが判明している(Bac
kmanandMor
an,2
0
0
9
).
Maから 0.
9Maにかけて見られた
る.したがって,1.
35
多年氷環境下の堆積物からは,渦鞭毛藻シスト,石灰質
D.s
ubar
c
t
i
o
sのベーリング海での断続的な優占は,お
ナノ化石(Li
t
h.Uni
t
1最上部のみ),底生有孔虫化石
そらくN.s
e
mi
naeの北大西洋への進出イベントをサポー
が見出されているが, 珪質微化石は産出しない
トする北太平洋表層水のベーリング海および北極海への
(Bac
kmanandMor
an,2
009
).珪質鞭毛藻骨格などの
活発な流入や一時的な温暖化による生息域の北上を反映
/6
)
珪質微化石は,Li
t
h.Uni
t1の最下部(Li
t
h.U.1
していた可能性がある(Onode
r
ae
tal
.
,i
npr
e
s
s
).し
と,その下に続く還元環境下で堆積した有機物に富む始
かし,D.s
ubar
c
t
i
osは大西洋には産出の報告がないの
新 世 Ypr
e
s
i
an(560
0万 - 4
7
80万 年 前 ) 末 期 お よ び
で,おそらく北極海を通過できなかったものと思われる.
Lut
e
t
i
an(478
0万-4
12
0万年前)前期に相当する地層
およそ 0
.
7
Ma以降は 10万年周期の氷期-間氷期サイク
(Li
t
h.Uni
t2
)に含まれている(Onode
r
ae
tal
.
,2
0
0
8
)
.
ルが卓越する時代となるが,珪質鞭毛藻群集の組成変動
さらに古い時代の Li
t
h.Uni
t3および 4では,珪藻殻
は氷期-間氷期サイクルとは対応しない.0.
75Maから
や珪質鞭毛藻骨格の成分であるオパール A(非晶質なオ
0
.
5
Ma に か け て は , Di
s
t
e
phanus oc
t
onar
i
usと
パール)がオパール CT(クリストバライトという結晶
D.me
di
ano
c
t
i
s
olが優占し,0.
5Ma頃から現在に向かっ
の基本構造を一部持つ状態.珪質殻の形態は失われる)
てD.s
pe
c
ul
um の割合が増加していた.D.oc
t
onar
i
us
へと変化する堆積続成作用のため(小川・高橋,未公表)
,
は寒冷種であるという以外に詳細な生息条件がはっきり
黄鉄鉱による置換化石を除くと珪質微化石は産出しない.
しないが,現在の北太平洋亜寒帯-亜熱帯やベーリング
Li
t
h.U.1
/6および Li
t
h.U.2における珪質微化石群
海では滅多に見かけることが無い一方で,北極海 St
a-
集は珪藻を主体とするものの,一般的な遠洋堆積物の場
t
i
onNAP1
0
tの沈降群集には最大で 7%含まれる(小野
合と異なり,放散虫がほとんど産出しない一方で,珪質
寺ら,未公表).0.
8Ma-0.
5Maにかけては珪藻群集も
鞭毛藻や Chr
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09).
鞭毛藻化石群集には複数の新種および北極海固有種も連
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ベーリング海峡も当時はまだ開通していなかったとされ
Takahas
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g.11).この群集は,北極海周辺
る.北極海と北大西洋側域を繋ぐ経路はあったと思われ
で得られた同じ時代の化石群集との類似性が低かったこ
るが,当時はまだフラム水道も深層部分は開通しておら
とから(Onode
r
ae
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.
,2008),当時の北極海には北大
ず, 北極海と外部の水域とを結ぶ水道は浅かった
西洋や北太平洋とは異なる海洋環境が広がっていたこと
(Br
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tal
.
,2
006).北極圏で見つかる樹木化石
が想像される.どのようにして,当時の北極海では固有
群集や気候モデル研究から,当時の北極海周辺は降雨量
の群集が形成されたのか.Radi
onovaandKhokhl
ova
の多い湿潤環境であったと推測されている(Br
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(20
00
)によると,北極海ガッケル海嶺のプレート拡大
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).そのよう
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が新生代に入って活発になった.そのため,ユーラシア
な状況下で,大陸の広大な集水域に囲まれた北極海の表
大陸北部の広域応力場は圧縮場となった.白亜紀からテー
層は低塩分水で覆われていたと考えられるので
チス海と北極海を繋いでいたツルゲイ水道および西シベ
(Br
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),北
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Ma
大西洋起源の高塩分水は北極海の表層ではなく亜表層へ
onova and
頃 ま で に は 干 上 が っ て し ま っ た (Radi
供給された(Ogawae
tal
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,200
9).Li
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h.Uni
t2の時代
64
小野寺 丈尚太郎
に北極海で固有種を多く含む独特の珪質鞭毛藻群集が形
の分野からグローバルな海洋の研究分野に飛び込んで以
成された背景には,このようなエスチュアリー型循環の
来,九州大学におられた高橋孝三先生からは指導教官と
発 達 が 影 響 し て い た と 考 え ら れ る (Onode
r
ae
tal
.
,
して多くの貴重なご指導を頂きました.独立行政法人海
20
08
).Li
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h.Uni
t2では低緯度~中緯度海域に広く分
洋研究開発機構の本多牧生博士には St
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布するDi
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ha属や鮮新世に絶滅したCor
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ma属が
はじめとする北太平洋西部の沈降粒子試料を分けて頂き
多く, 高緯度で多く見られるDi
s
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phanus属の産出は
ました.St
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onsABおよび SAの研究では,北海道大
少なかったので(Fi
g.11),植物プランクトンが北極海
学水産学部の簗田満先生,大西広二先生をはじめとする
で増殖する夏季表層水は現在より温暖であったと思われ
多くの皆様のお世話になりました.高知大学海洋コア総
る.ただし,Li
t
h.Uni
t2の中頃からは氷漂岩屑(i
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合研究センターでは,村山雅史教授をはじめとする皆様
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) が少しずつ含まれるようになり (St
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のお世話になりました.統合国際深海掘削計画(I
ODP)
0
8
),海氷指標とされる珪藻Syne
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John,20
では,多くの海外研究者と知り合うことができました.
約4
70
0万年前の試料から見つかっている(St
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おかげさまで,現在は海洋研究開発機構で原田尚美チー
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,2
00
9).新生代で最も温暖であった約 5600万年前の
ムリーダーのもと,古海洋研究や海洋環境変動が顕著に
暁新世-始新世温暖極大期(PETM)から約 50
00万年
見られる北極海のセディメントトラップ係留観測に取り
前にかけて続いた北極海の温暖環境は,始新世中頃の
組める環境にあります.乗船した「かいれい」「みらい」
Lut
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anには寒冷化が進行して季節海氷域へと移行し
「 お し ょ ろ 丸 」「 淡 青 丸 」「 ODEN」「 JOI
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ていったと思われる.Li
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t1/6の時代に入ると,
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「S.W.Laur
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」
固有種や筆者らが Li
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t2で記載した新種はほぼ
の船長や乗組員をはじめとする関係者の皆様にも大変お
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phanus属が断
見られなくなり, Cor
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ma属とDi
世話になりました.加えて,日本学術振興会特別研究員
続的に優占した(Fi
g.11).Li
t
h.Uni
t1/6の平均的な
の助成および笹川科学研究助成を幸いにして受けられた
珪質鞭毛藻群集組成は,北大西洋における群集と類似性
事も,ここまで研究を続けることができた一因であった
が見られるようになった(Onode
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,200
8).おそ
と思います.また,本原稿は 2名の査読者からの指摘を
らく,この変化は北極海表層環境の閉鎖的な状況が終焉
もとに改訂されたものです.どうもありがとうございま
し,大西洋水の流入が増えたことを表す.その後,北極
した.受賞したテーマは大変壮大なものであるため,本
海が季節海氷環境から現在のような多年氷環境に,どの
稿では筆者の理解が至らず上手く説明できていない部分
ように移行していったのかは十分には解明されていない
が多々あります.自分の勉強不足と今後解明されるべき
(Bac
kmanandMor
an,2009).それは,始新世までの
課題を意識しつつ,研究者でいられる間は少しでもこの
温室地球から漸新世以降の氷室地球へと移行する約
分野に貢献していけたらと思います.
3
39
0万年前を含む堆積物(18
20万-4440万年前)が,
北極海で初めて実施された本掘削試料では完全に欠如し
Re
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ているためである.将来,新たな掘削研究が実現するこ
とによって解明されることを期待したい.
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,52,2186-2205.
謝
辞
これまでに,実に多くの国内外の研究者や学生の皆様
から暖かいご指導とご支援を頂きました.深く感謝申し
上げます.また,名誉ある日本海洋学会岡田賞の候補と
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して推薦してくださった会員の皆様と選考委員の先生方
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,Kyus
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にお礼申し上げます.修士課程進学時に陸上地域地質学
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,32
(1),73-96.
西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
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久道研一・高橋孝三(1993):1993年夏期の北太平洋亜寒帯表層域におけ
る珪藻の東西分布.北海道東海大学紀要理工学系,7,21-28.
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313-338.
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25.
本多牧生・川上創・松本和彦・脇田昌英・渡邉修一(2007):St
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における係留系,観測船を用いた生物ポンプ研究と今後の展望.月刊
海洋,39,68-79.
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西部北太平洋~北極海の珪藻・珪質鞭毛藻沈降フラックスと古海洋環境復元
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