2010/5/25 ニュークリティックの手法 物語解析講義 ニュークリティック 二回目 インテンショナル・ファラシー理論 作者の「意図」は「あいまい」だから追求しないという批 評的立場 (読者の) 意図に関する誤謬 ・ 情動に関する誤謬 (作者の) 精読理論 作者の意図を排除して作品を 冷静に分析しようとする立場 精読の具体的方法 同じ語を繰り返し使用するイメジャリー ① パラドックス 対立する要素が同時成立する場合 ② テンション 表の意味と裏の意味が並列している場合 ③ アイロニー 直接的な意味が逆の結果を示す場合 「羅生門」の「下人」の設定 下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした 紺の襖の尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰を 気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた 「場面転換」での応用 それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出 る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のよう に身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っ ていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その 男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿 を持った面皰のある頬である。下人は、始めから、こ の上にいる者は、死人ばかりだと高を括っていた。 読者と作者の間に逆の感情を有した距離感が出る場合 ④ イメジャリー 単語のイメージが後に影響を及ぼす場合 色・形・動き・意味・象徴…… ⑤ アンビギュイティ(あいまい) 同じ語を繰り返し使用するイメジャリー 運動のイメジャリー 下人は、太刀を鞘におさめて、その太刀の柄を左の手でおさえながら、冷然 として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面 皰を気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、下人の 心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠け ていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕 えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、饑 死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の 心もちから云えば、饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほ ど、意識の外に追い出されていた。 「きっと、そうか。」 老婆の話が完ると、下人は嘲るような声で念を押した。そうして、一足前へ 出ると、不意に右の手を面皰から離して、老婆の襟上をつかみながら、噛みつ くようにこう云った。 朝の歌 中原中也 天井に 朱きいろいで 戸の隙を 洩れ入る光、 鄙びたる 軍楽の憶ひ 手にてなす なにごともなし。 にきびを気にすること = 今まで縛られていた法や宗教的論理をきにすること 小鳥らの うたはきこえず 空は今日 はなだ色らし、 倦んじてし 人のこころを 諌めする なにものもなし。 樹脂の香に 朝は悩まし うしなひし さまざまのゆめ、 森竝は 風に鳴るかな ひろごりて たひらかの空、 土手づたひ きえてゆくかな うつくしき さまざまの夢。 1 2010/5/25 テマティズム(テーマ批評) テーマ批評 すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっ とその下人の顔を見守った。の赤くなった、肉食鳥のような、鋭 い眼で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つに なった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、 尖った喉仏の動いているのが見える。その時、その喉から、鴉 の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。 「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘にしようと思うた のじゃ。」 下人は、老婆の答が存外、平凡なのに失望した。そうして失 望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑と一しょに、 心の中へはいって来た。すると、その気色が、先方へも通じた のであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜 け毛を持ったなり、蟇のつぶやくような声で、口ごもりながら、 こんな事を云った。 作者の意図的な配置を見抜くのではない (例) サザエさん (海モノつながり) ジョジョの奇妙な冒険 (海外のバンド名つながり) 恐怖、不思議 猿 鳥 鴉 蟇 異様、謎 理解、平凡 作家の意図以下、無意識以上を見抜く微妙さ (例) 運動法則 色 感覚 形態 下位の弱者 イメジャリーの応用 「あいまい」の7つの型 コントラスト効果 W・エンプソン『あいまいの7つの型』 夕焼け空焦げきはまれる下にして 凍らむとする湖の静けさ イメージの連鎖効果 1 2 3 4 「あいまい」を積極的に評価したニュークリ パラドックス ニュークリ以前 アンビクシャス=読者の読解上の限界・力不足 作者の構成上の限界・力不足 キャラクターの場合 複数の対立キャラを設定する ヤンキー君とメガネちゃん 下妻物語 花より男子 一つのキャラクター設定に矛盾要素を入れる 冷たさの中に隠された優しさを持つ すぐ怒るがお人好し ニュークリ以後 アンビクシャス=読者によって完成される場所 一つの文が、同時にいくとおりにか働く場合 二つ以上の意味の複合が単一の意味になる場合 二つ以上の意味が一つの単語で現れている場合 二つ以上の意味が相互に矛盾しながらも成り立つ場 合 5 比喩が二つ以上の連想を呼び起こす場合 6 少なくともその場では前後に文脈を発生出来ない場合 7 そもそも意図が分裂している場合 読者論の「空白理論」へ 2 2010/5/25 パラドックス パラドックス 草 野 心 平 「 サ リ ム 自 第伝 一 二蛙 一・ 作 番品 」 遊話 戯は もい 平よ 然い よ はこ じみ まい るっ のて でき あて る人 。 を 殺 す で人 あを る殺 。 す た め で は な い が 人 を 殺 す の 人人 をを 殺殺 すす たの めは です はべ なて い 平 。 和 の た め で あ り 2 アイロニー の構造 た人 め民 にあ 人る 民い をは 殺人 さ類 なの けた れめ ばに なそ らの 平 な和 い の 。 3 戦 争 を す る の は 平 和 の た め で あ る 。 平 和 の た め の 戦 争 で あ る 。 1 愛するものが死んだ時には、 奉仕の気持になりはなつたが、 自殺しなけあなりません。 さて格別の、ことも出来ない。 ではみなさん、 愛するものが死んだ時には、 そこで以前より、本なら熟読。 喜び過ぎず悲しみ過ぎず、 それより他に、方法がない。 そこで以前より、人には丁寧。 読者 テムポ正しく、握手をしませう。 けれどもそれでも、業(?)が深くて、 テムポ正しき散歩をなして なほもながらふことともなつたら、 麦稈真田を敬虔に編み―― つまり、我等に欠けてるものは、 語り手 人物A 実体的な作者 人物B い ま あ ふ れ よ う と す る よ心 どの みダ 渦ム まに きす すき めと ぎめ あら い れ そ し て い か り が か く れ て い る あ こ が れ だ し い から もだ やち すだ ら ぎ が あ る し か し か な し み で も あ る よ ろ こ び だ 心 を つ つ く 枝 の 先 の ふ く ら ん だ 新 芽 が こ こ の み 気あ 持げ ちる は な ん だ ろ う 声ぼ にく なの ら腹 な へ胸 い へ さそ けし びて との など っ へ て こ の 気 持 ち は な ん だ ろ う こ の 気 持 ち は な ん だ ろ う 大目 地に か見 らえ あな し い の エ うネ らル ギ をー 伝の わ流 っ れ て が こ こ の の 気気 持持 ちち は は なな んん だだ ろろ うう 作 曲 :木 下 牧 子 十二月八日。早朝、蒲団の中で、朝の仕度に気がせきながら、園子《そのこ》(今年六月生れの女児)に乳をやっていると、ど こかのラジオが、はっきり聞えて来た。 「大本営陸海軍部発表。帝国陸海軍は今八日未明西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れり。」 しめ切った雤戸のすきまから、まっくらな私の部屋に、光のさし込むように強くあざやかに聞えた。二度、朗々と繰り返した。そ れを、じっと聞いているうちに、私の人間は変ってしまった。強い光線を受けて、からだが透明になるような感じ。あるいは、聖霊 の息吹《いぶ》きを受けて、つめたい花びらをいちまい胸の中に宿したような気持ち。日本も、けさから、ちがう日本になったのだ。 隣室の主人にお知らせしようと思い、あなた、と言いかけると直ぐに、 「知ってるよ。知ってるよ。」 と答えた。語気がけわしく、さすがに緊張の御様子である。いつもの朝寝坊が、けさに限って、こんなに早くからお目覚めに なっているとは、不思議である。芸術家というものは、勘《かん》の強いものだそうだから、何か虫の知らせとでもいうものがあった のかも知れない。すこし感心する。けれども、それからたいへんまずい事をおっしゃったので、マイナスになった。 「西太平洋って、どの辺だね? サンフランシスコかね?」 愛するものは、死んだのですから、 神社の日向を、ゆるゆる歩み、 たしかにそれは、死んだのですから。 知人に遇へば、につこり致し、 ハイ、ではみなさん、ハイ、御一緒に―― 私はがっかりした。主人は、どういうものだか地理の知識は皆無なのである。西も東も、わからないのではないか、とさえ思われ る時がある。つい先日まで、南極が一ばん暑くて、北極が一ばん寒いと覚えていたのだそうで、その告白を聞いた時には、私は 主人の人格を疑いさえしたのである。去年、佐渡へ御旅行なされて、その土産話に、佐渡の島影を汽船から望見して、満洲だ と思ったそうで、実に滅茶苦茶だ。これでよく、大学なんかへ入学できたものだ。ただ、呆《あき》れるばかりである。 もはやどうにも、ならぬのですから、 飴売爺々と、仲よしになり、 テムポ正しく、握手をしませう 。 そのもののために、そのもののために、 鳩に豆なぞ、パラパラ撒いて、 「西太平洋といえば、日本のほうの側の太平洋でしょう。」 と私が言うと、 奉仕の気持に、ならなけあならない。 まぶしくなつたら、日蔭に這入り、 奉仕の気持に、ならなけあならない。 そこで地面や草木を見直す。 「そうか。」と不機嫌そうに言い、しばらく考えて居られる御様子で、「しかし、それは初耳だった。アメリカが東で、日本が西という のは気持の悪い事じゃないか。日本は日出ずる国と言われ、また東亜とも言われているのだ。太陽は日本からだけ昇るものだと ばかり僕は思っていたのだが、それじゃ駄目だ。日本が東亜でなかったというのは、不愉快な話だ。なんとかして、日本が東で、 アメリカが西と言う方法は無いものか。」 苔はまことに、ひんやりいたし、 いはうやうなき、今日の麗日。 おっしゃる事みな変である。主人の愛国心は、どうも極端すぎる。 (中略) 「園子が難儀していますよ。」 参詣人等もぞろぞろ歩き、 わたしは、なんにも腹が立たない。 と私が言ったら、 「なあんだ。」と大きな声で言って、「お前たちには、信仰が無いから、こんな夜道にも難儀するのだ。僕には、信仰があるから、 夜道もなお白昼の如しだね。ついて来い。」 ゴム風船の、美しさかな。》 太宰の戦略 春 に / 歌 詞 アイロニー 奉仕の気持に、なることなんです。 まるでこれでは、玩具の兵隊、 実直なんぞと、心得まして。 奉仕の気持に、なることなんです。 まるでこれでは、毎日、日曜。 「春日狂想」 《まことに人生、一瞬の夢 作 詞 :谷 川 俊 太 郎 と、どんどん先に立って歩きました。 どこまで正気なのか、本当に、呆《あき》れた主人であります。 アイロニー 軍国主義の監視体制 読者 作者 女の語り手(=女房) 夫(=作者) 翼賛的・時代的 調子外れ 3 2010/5/25 テンション テンションとしての若者文化の終焉 そこで僕は支配人に告げた 「ワインを持ってきてくれないか」 すると彼は「そのようなスピリット は1969年以降一切ございませ ん」 それでも人々が深い眠りについ た真夜中でさえ どこからともなく 声が聞こえてく る ようこそホテル・カリフォルニアへ ここはステキなところ お客様もいい人たちばかり ようこそホテル・カリフォルニアへ どなたもホテルでの人生を楽し ここはステキなところ お客様もいい人たちばかり んでいらっしゃいます ホテル・カリフォルニアは 口実の許すかぎり せいぜいお 数多くのお部屋をご用意して あなたのお越しをいつでもお待ちしています 楽しみください ティファニーの宝石のように繊細で 鏡を張りめぐらせた天井 高級車のように優雅なその曲線美 グラスにはピンクのシャンペン 美しいボーイたちはみな 誰もが自分の意思で囚われの身 彼女たちに心を奪われている 中庭では香しい汗を流して となった者ばかり ダンスを踊っている人々 やがて 大広間では祝宴の準備 思い出を心に刻もうとする者 すべてを忘れるために踊る者 がととのった 暗く寂しいハイウェイ 涼しげな風に髪が揺れる コリタス草の甘い香りがほのかに漂い はるか前方には かすかな灯りが見える 頭は重く 視界かすむ どうやら今夜は休息が必要だ 礼拝の鐘が鳴り 戸口に女が現れた 僕はひそかに問いかける ここは天国? それとも地獄? すると 女はローソクに灯を灯し 僕を部屋へと案内した 廊下の向こうから こう囁く声が聞こえる 人々は 鋭いナイフを突き 立てるが 誰ひとり内なる獣を殺せない 気がつくと僕は出口を求め て走りまわっていた もとの場所に戻る通路を なんとかして見つけなけれ ば・・・ すると 夜警がいった 「落ち着いて自分の運命を 受け入れるのです チェック・アウトは自由です が ここを立ち去ることは永久に できません」 1969年 1968 全世界の学生運動がピーク 世界中の学生達の連帯感 若者文化が世界を変える カウンター・カルチャー ドラッグ・フリーセックス ヒッピー文化 ウッドストック ・コンサート 一見豪華なホテル ジャケットの中身は違う粗末なホテル テンション そこで僕は支配人に告げた 「ワインを持ってきてくれないか」 すると彼は「そのようなスピリット は1969年以降一切ございませ ん」 それでも人々が深い眠りについ た真夜中でさえ どこからともなく 声が聞こえてく る ようこそホテル・カリフォルニアへ ここはステキなところ お客様もいい人たちばかり どなたもホテルでの人生を楽し んでいらっしゃいます 口実の許すかぎり せいぜいお 楽しみください 鏡を張りめぐらせた天井 グラスにはピンクのシャンペン 誰もが自分の意思で囚われの身 となった者ばかり やがて 大広間では祝宴の準備 がととのった ニュークリティックのまとめ 作者の意図を排除して精読するための方法 散文よりも詩の解析にむいている 技法の指摘に留まるとあまり意味がない 細かいニュアンスを拾うより大きく捉える方法である ① ② ③ ④ ⑤ THE EAGLES 1976年発表 HOTEL CALIFORNIA 方法 テンション(寓意性) パラドックス(含意的対立構造) アイロニー(享受行為から生じる距離感) イマジョナリー(テマティズム) アンビクシャス(あいまい性) そこで僕は支配人に告げた 「ワインを持ってきてくれないか」 すると彼は「そのようなスピリット は1969年以降一切ございませ ん」 それでも人々が深い眠りについ た真夜中でさえ どこからともなく 声が聞こえてく る ようこそホテル・カリフォルニアへ ここはステキなところ お客様もいい人たちばかり ようこそホテル・カリフォルニアへ どなたもホテルでの人生を楽し ここはステキなところ お客様もいい人たちばかり んでいらっしゃいます ホテル・カリフォルニアは 口実の許すかぎり せいぜいお 数多くのお部屋をご用意して あなたのお越しをいつでもお待ちしています 楽しみください ティファニーの宝石のように繊細で 鏡を張りめぐらせた天井 高級車のように優雅なその曲線美 グラスにはピンクのシャンペン 美しいボーイたちはみな 誰もが自分の意思で囚われの身 彼女たちに心を奪われている 中庭では香しい汗を流して となった者ばかり ダンスを踊っている人々 やがて 大広間では祝宴の準備 思い出を心に刻もうとする者 すべてを忘れるために踊る者 がととのった 暗く寂しいハイウェイ 涼しげな風に髪が揺れる コリタス草の甘い香りがほのかに漂い はるか前方には かすかな灯りが見える 頭は重く 視界かすむ どうやら今夜は休息が必要だ 礼拝の鐘が鳴り 戸口に女が現れた 僕はひそかに問いかける ここは天国? それとも地獄? すると 女はローソクに灯を灯し 僕を部屋へと案内した 廊下の向こうから こう囁く声が聞こえる 人々は 鋭いナイフを突き 立てるが 誰ひとり内なる獣を殺せない 気がつくと僕は出口を求め て走りまわっていた もとの場所に戻る通路を なんとかして見つけなけれ ば・・・ すると 夜警がいった 「落ち着いて自分の運命を 受け入れるのです チェック・アウトは自由です が ここを立ち去ることは永久に できません」 お疲れ様でした…… 授業で理解できた(ない)こと と 質問 を書きます 学籍番号(学年も) 名前+ (日文以外の専攻は専攻名) ★コメント返却希望の学生 は、ここに「返却希望」と朱書き 日文だったら箇条書きでは なく文章で書く努力をしなさい 日時は必須 両端をあけない ここまで書かないと 出席になりません 締め切りは、本日20時に研究室前のポストに投函のこと! 4 2010/5/25 お疲れ様でした…… 授業で理解できたこと と 質問 を書きます T7 = 学籍番号の変換対応表 S3=03 T1=11 T3=13 T6=16 T7=17 H1=21 H2=22 H3=32 H4=24 H5=25 H6=26 E1=31 E3=33 J5=45 N1=51 P1=61 日本文学 疋田 日時は必須 両端をあけない ここまで書かないと 日本文学と文化 出席になりません ★コメント返却希望の学生は、ここに「返却希望」と朱書き 5
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