非 鉄 に つ い て

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非 鉄 に つ い て
非鉄とは、文字通り「鉄ではない金属」のことをいいます。つまり鉄を主成分
とした鋼、合金鋼以外の金属のことです。これは工業的な区別なので、それ以
上、分類される特別な意味はありません。日本工業規格(JIS)の「非鉄」
には、銅、アルミニウム、マグネシウム、鉛、タングステン、モリブデン、ニ
ッケル、チタン、タンタル、ジルコニウムなど、鋼材としての規格があります。
主な非鉄金属
ベースメタル
埋蔵量や流通が多く昔から合金材料に利用されている金属をいいます。
1.銅(Cu)2.鉛(Pb)3.亜鉛(Zn)4.錫(Sn)
5.アルミニウム(Al)
レアメタル(希少金属)
埋蔵量が少ないものや、流通量が少なく希少性が高い金属の総称で、現在
31鉱種(47元素)が定義されています。1983年以降、経済産業省
でも検討がされ備蓄対象に掲げるなど、工業的にも重要性がある金属です。
・国家で備蓄対象にされているもの(7鉱種)
1.ニッケル(Ni)2.クロム(Cr)3.タングステン(W)
4.コバルト(Co)5.モリブデン(Mo)6.マンガン(Mn)
7.バナジウム(V)
・備蓄対象ではないが注視し検討を要するもの(7鉱種)
1.白金・プラチナ(Pt)2.⋇レアアース 3.インジウム(In)
4.ニオブ(Nb)5.タンタル(Ta)6.ストロンチウム(Sr)
7.ガリウム(Ga)
⋇ 化学的性質がよく似ている一群の元素の総称で、
17元素を1鉱種として数え希土類元素ともいう
・その他の鉱種(17鉱種)
チタン(Ti)リチウム(Li)バリウム(Ba)タリウム(Tl)
ゲルマニウム(Ge)パラジウム(Pd)セシウム(Cs)
セレン(Se)テルル(Te)ルビジウム(Rb)など、他7鉱種
貴 金 属
昔から富を象徴する金属で、化学的には安定して耐食性がある金属です。
1.金(Au)2.銀(Ag)3.⋇白金・プラチナ(Pt)族の6種類
⋇ 白金族元素に関しては分類上レアメタルと重複するものがあります。
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銅と銅合金
人と「銅」とのと関わりは「鉄」よりも古く、鉄より低い温度で製錬ができ、
加工性に優れ耐食性もあることから、古代より通貨や祭器など幅広い利用が
されて来ました。現代でも電線、通信機器をはじめ多様な用途があります。
日本工業規格(JIS)には、原材料・伸銅品・鋳物・電気用材料・溶接・
一般機械に分類され、それぞれに規格・基準があります。
「銅」に限らず非鉄
金属は合金材料として使用されることが多く、他の金属と混ぜ合わせること
でまったく違った金属特性を持ちます。
青
銅(せいどう)〖英名:ブロンズ〗
「銅」に「錫」(すず)を添加した合金です。別名を「砲金」
(ほうきん)
青銅は古くから銅合金の代名詞で、古代の「銅」といえば、そのほとんど
が青銅製品でした。元々、銅鉱石を産出する鉱床には銅の他に錫や鉛など
の鉱石も混在していることがあり、比較的早期から銅合金として使用され
ていたようです。溶かした時の鋳造性がよく、耐食性に優れています。
古くは銅鏡、銅鐸、銅剣、仏像仏具、梵鐘、銅銭などから、今では軸受、
バルブ類などに幅広く利用されています。奈良や鎌倉の大仏も青銅製です。
現在の通貨10円硬貨も、銅 95%、錫1~2%、亜鉛3~4%の青銅製です。
また、別名を「砲金」というのは、中世の大砲や、砲身の内筒が青銅製だ
ったことに由来します。一時的に生産が軍需用に偏った時代もありました。
黄
銅(おうどう)〖英名:ブラス〗
「銅」に「亜鉛」を添加した合金です。別名を「真鍮」(しんちゅう)
黄銅も古くからありますが、本格的な利用は約350年ほど前からです。
青銅より歴史が浅いのは、亜鉛の製錬法が確立されず単体の金属として取
り出せなかったから。金のような光沢、適度な硬度と展延性があります。
主にバルブ類、電気部品、給排水金具、金属パッキン、金管楽器、装飾品
などに利用されています。金管楽器の「ブラス」は、素材(黄銅)の英名。
現在の通貨5円硬貨も、銅 60~70%、亜鉛 40~30%の黄銅製です。
・白銅(銅とニッケルの合金)50 円硬貨、100 円硬貨
・洋白(銅と亜鉛とニッケルの合金)500 円硬貨 正式名:ニッケル黄銅
・丹銅(銅と亜鉛 4~22%の合金)ファスナー、ジッパーなど
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アルミニウム
アルミニウムは、鋼材としての歴史はまだ浅く、工業用に利用され始めてか
ら100年足らずでが、古くからアルミニウム化成物を含む粘土などは、金
属とは気づかないまま耐火性のある粘土として利用されていました。
鋼材としての発見が遅れたのは、天然には金属状態として存在せず、様々な
化合物となって分散しているからです。鉱石である鉄礬土(てつばんど)の
中に、アルミニウムの原料である酸化アルミニウム(アルミナ)が50%以
上含まれていることを条件に、この原鉱石を「ボーキサイト」といいます。
ボーキサイトは地球上に広く分布していて埋蔵量も豊富な資源です。
アルミニウムの製錬は、金属状態ではないアルミニウム化成物を金属として
取り出すために、水酸化ナトリウムなどの副資材をはじめ大量の水や電力を
消費します。そのため新しい製錬法が研究されているようですが、現在では
バイヤー/ホール・エルー法という、電解法が一般的に行なわれています。
アルミニウムを1トン作るのに、約4トンのボーキサイトを必要とします。
今では、鉄鋼材に次ぐ生産量があり、その優れた金属特性から産業社会を支
える基礎資材となり、更なる需要の拡大が見込まれています。
金 属 特 性
・比重が小さく軽い(アルミ 2.70 : 鋼 7.87)
・一般的な環境ではさびにくい(表面が酸化皮膜で覆われ防食性がある)
・展伸性がよく加工性に優れる(材料は展伸材と鋳造材に分けられます)
・伝熱性に優れる(銀や銅に次ぐ伝熱性があります)
主
な 用 途
航空機、車両、船舶、自動車部品、エンジン部品、建築材料、日用品、厨
房機器、缶ボディ、省エネ材料、1円硬貨など、産業全般に及んでいます。
純金属としてのアルミニウムは軟らかい金属なので、鋼材として利用され
る場合は他の金属を添加して、合金材として使用されるのが一般的です。
日本工業規格(JIS)では「A」の後に4桁の数字を並べて合金の分類
と識別をしています。現在1000番台~7000番台まであります。
A2017:ジュラルミン (A7075:超超ジュラルミン)
アルミニウムに「亜鉛」や「マグネシウム」「銅」を添加した合金材です。
「A7075」は1936年に住友金属工業が開発して、零式艦上戦闘機
(ゼロ戦)の機体材料に使用され有名になりました。航空機の主力材料。
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レアメタル(希少金属)
合金鋼の添加材などに使用され、少ない量でも材料の特性を飛躍的に向上さ
せることから、家電産業、IT産業、自動車産業など、最先端技術の分野で
は必要不可欠な金属です。
本来は貴金属に属する白金(プラチナ)までも、その金属特性から工業的に
は欠かせない素材としてレアメタルに含まれています。現在では31鉱種、
47元素が定義され、その中でも重要な7鉱種については1983年より国
家備蓄が行なわれ、国内基準消費量の60日分の確保が目標となっています。
下記の表で「1~7が備蓄鉱種」「8~14が備蓄の検討を要する鉱種」
主なレアメタルの用途
1. ニッケル
ステンレス鋼や特殊鋼の添加材
2. クロム
ステンレス鋼や特殊鋼の添加材
3. タングステン
特殊鋼の添加材、照明器具
4. コバルト
特殊鋼、耐熱鋼の添加材
5. モリブデン
特殊鋼、潤滑材の添加材
6. マンガン
特殊鋼の添加材、電池の材料
7. バナジウム
特殊鋼の添加材、触媒、顔料、化学材料
8. 白金(プラチナ)
自動車の触媒、宝飾品
9. レアアース
二次電池、光学ガラス、コンデンサー
10. インジウム
液晶テレビ、蛍光体
11. ニオブ
特殊鋼の添加材、自動車用鋼板、超伝導材
12. タンタル
コンデンサー、光学レンズの添加材
13. ストロンチウム
テレビブラウン管、磁性材料
14. ガリウム
LED、集積回路
貴金属である「金」「銀」「白金」なども、化学的変化が少なく耐食性がある
金属特性を生かし、今では通貨や装飾品としてより、その大部分を工業分野
で使用しています。しかし、これら希少金属の供給を殆ど海外に依存してい
る日本では、今後いかに安定供給できるかが大きな問題となっています。資
源エネルギー省でも、削減、材料の代替、リサイクル活動を推奨しています。
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誤解されやすい話し
非鉄金属の中にも誤解をしていたり、誤認をしている事柄をよく耳にします。
銅のサビは猛毒?
銅のさびを「緑青」(ろくしょう)といって、昔から猛毒ではないか?と、
まことしやかに言われて来ました。これは、1960年代にガス瞬間湯沸
かし器や銅製調理器具が普及をはじめたころ、顧客からのクレーム対象に
なっていたようです。
これに対し、1984年8月に当時の厚生省は、見解として「緑青猛毒説
は誤っていた」と発表しました。後に、食品衛生学会でも同じ発表がされ
ています。
これは、東京大学が行なった調査を基に、成分分析や急性毒性、慢性毒性
といった、正当な化学的手法で詳しく調べた結果、緑青を猛毒とする必要
は無いという結論に達したようです。
そうかといって、積極的になめてもいいのか、というのは極論になり、衛生
的なあつかいが前提です。しかし、銅イオンには銀イオンと同じような殺
菌作用がある、というのは本当です。
ステンレス鋼材は非鉄?
たまにステンレス鋼材を、非鉄やレアメタルの分類と思っている人がいる
ようですが、それは間違いです。ステンレス鋼材は、鉄を主成分とする鋼
材の中に、クロムなどのレアメタルを添加した「特殊用途鋼」です。分類
としては、鉄鋼材の一種になります。(別資料「鉄・鋼について」を参照)
豆 知 識
金属を加工する職人達が現場で使う言葉には、一般的に学問として学習する
表現とは違う言い回しが数多くあります。
例えば「青銅」は、熟練して年季の入った職人さんは間違いなく「砲金」と
呼びます。又は「BC」(ビーシー)と表現します。
これは旧JISの規格で、BCの後に続く数字で鋼種を区別していた時代が
長かったからです。
銅合金を「コッパー」と表現するのは間違いなく商社系の筋です。
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同じく「黄銅」も現場では「真鍮」という表現になり、ステンレス鋼は「ス
テン」「サス」、鉄鋼材は「エスエス」と呼ばれるのが一般的です。
更に古くは、加熱した時の色で区別され、軟鋼(SS材)は熱すると赤くな
るので、
「赤」と呼ばれていた時代がありましたが、さすがに今では耳にしま
せん。
呼称にも長い歴史があり、仕事柄まで表します。現場に入った新米設計屋は、
頭の中で常に正しい表示に置き換えながら覚えなければなりません。
備
考
一口に「非鉄」といっても、埋蔵量の多い金属から資源的にも希少なものま
で、実に幅広く含まれています。日本は、その金属資源のほとんどを海外か
らの輸入に依存しており、鋼材も含め「産業の根幹に関わる重要な金属」の
安定供給は、経済発展の大きな課題となっています。
記)大和鉄工所
岡 崎
出展・参考資料
・日本工業規格「非鉄」2010 年度版 発行:日本規格協会
・「銅のおはなし」 仲田 進一 著 発行:日本規格協会
・「アルミニウムのおはなし」 小林 藤次郎 著 発行:日本規格協会
・「最新レアメタルの基本と仕組み」 田中 和明 著 発行:秀和システム