木材チップとその再生品に含まれる 有機系防腐剤の含有量について ○坂本広美、斎藤邦彦、渡邊久典、吉野秀吉(神奈川県環境科学センター) 1 はじめに 「建設工事に係る資材の再資 源化等に関する法律(建設リサイクル法)」の 施行(平成 14 年 5 月 30 日)に伴い、建設工事に伴って発生した木くず(建設 発生木材)の再資源化率向上が求められている。平成 14 年度のデータによる と 1)、神奈川県では、約 185、000 トンの建設発生木材のうち、60.3 %が直接あ るいは破砕後に再資源化されており、破砕処理された木材チップは、主に材料 リサイクルとして紙・ボードの原料、堆肥あるいは家畜の敷材に、サーマルリ サイクルとして燃料用(ボイラーまたはバイオマス発電用)に利用されている。 再資源化率の向上に当たっては、新たな用途開発が欠かせないほか、安全面に も配慮する必要があり、環境負荷の増大を招かないように現状のリサイクルシ ステムを改善する必要がある。特に、建設発生木材の場合には、過去に家屋の 土台等に防腐剤として使用されてきた CCA(クロム、銅、ヒ素の混合薬剤)、 クレオソートあるいはクロルデン類などの有機塩素系薬剤が含まれる場合があ るため 2、 3)、これらの物質がリサイクルの各工程でどのような挙動を示し、最 終的にどこへ排出されるのかを確認することが重要な課題となっている。つま り、過去に大量に使用されてきたこれらの廃材がシステムに混入することを踏 まえて、十分な安全管理を行う必要があるため、新たに分別あるいは適正処理 などの対策が求められる場合もある。そこで、建設発生木材の破砕処理施設で 製造されるリサイクル原料となるチップに含まれる有機系防腐剤の含有量を測 定し、各施設における処理方法あるいは受け入れ基準等との関係について検討 を行った。さらに、これらチップの受け入れ先から再生品の一部を入手し、再 生品への移行量についても検討を行った。 2 実験方法 2.1 試料採取 県内にある建設発生木材の再資源化施設の中から、解体系木くずの処理量が 多い施設(20 トン/日以上)を 7 ヶ所(A ~ G)選び、各施設において一定時 間ごとに 10 試料(1 試料につき約 500g)のサンプリングを行った。処理工程 が複数ある施設では、主力製品用のチップ製造ラインで試料を採取した。施設 の概要を表 1 に示す。各施設から得られた試料は、約 50g を実験用破砕機によ って約 2mm の大きさに破砕し、分析用試料とした。 -1- 表1 施設 解体系処理量 調査対象施設と受け入れ基準 受け入れ基準(受け入れ除外物) チップの主な用途 A 90t/day 合板 製紙用、燃料用 B 20t/day 不純物が付着しているもの、合板類 堆肥用 C 100t/day 解体材、パレット、建設廃材のみ 製紙用、ボード用、燃料用 ベニヤについては要相談 D 20t/day C と同じ 製紙用、堆肥用 E 30t/day 木の根、油の染みている木、電柱等 製紙用、ボード用、燃料用 F 300t/day 異物混入しているもの、家具類 製紙用、燃料用、ボード用 G 20t/day 特になし 堆肥用 2.2 分析方法 分析用試料は、ヘキサンおよびアセトンを用いたソックスレー抽出法によっ て前処理を行った。有機系防腐剤のうち、クレオソートの主成分である多環芳 香族炭化水素(PAHs)の中からアメリカ環境保護局(EPA)指定の 16 物質、さ らに有機塩素系薬剤の中から過去に家屋土台等に使用されていたクロルデン 類、アルドリン、ディルドリン、ペンタクロロフェノール(PCP)およびクロロ ピリホスについて、GC/MS を用いて定量を行った。 含 有 量(μ g/kg) 3 結果および考察 (1)PAHs の含有量 チップに含まれる PAHs は、採取した試料ごとにバラツキが非常に大きかっ た。一例として、D 施設の試料分析結果を図 1 に示す。試料ごとのバラツキが 多かった原因は、試料を採取した多くの施設において、1回の木材投入量が少 なかったため、薬剤処理木材が混入すると、その影響が大きくなることが考え られた。各施設から 多環芳香族炭化水素(PAHs) 得られたチップに含 ベ ン ゾ(g,h,i)ペ リレン 25,000 ま れ る PAHs の 含 有 ジ ベ ン ゾ(a,h)アン トラセ ン イ ン デ ノ(1,2,3-cd)ピ レン 量を図 2 に示す。分 ベ ン ゾ(a)ピ レン 20,000 ベ ン ゾ(k)フ ルオ ラン テ ン 析結果は 10 試料の平 ベ ン ゾ(b)フ ルオラン テ ン クリセ ン 均値で表した。他の 6 15,000 ベ ン ゾ(a)アン ト ラセ ン 施設と比べて、G 施 ピ レン フ ルオラン テ ン 10,000 設のチップから高い フ ェ ナ ン トレン アン ト ラセ ン 濃 度 の PAHs が 検 出 フ ルオレン 5,000 アセ ナ フ テ ン された。表 1 に示し アセ ナ フ チレン ナ フ タ レン たように、当該施設 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 では受け入れ基準を 試料番号 定めていないため、 図 1 D 施設におけるチップ分析結果 古い電柱や枕木等、 クレオソートで加圧 -2- 含 有 量(μ g/kg) 含 有 量(μ g/kg) 処理された木材の混 多環芳香族炭化水素(PAHs) 入が影響していると ベ ン ゾ(g,h,i)ペ リレン 70,000 考えられた。一方、7 ジ ベ ン ゾ(a,h)アン トラセ ン イ ン デ ノ(1,2,3-cd)ピ レン 60,000 施設のうち最も低い ベ ン ゾ(a)ピ レン ベ ン ゾ(k)フ ルオ ラン テ ン 50,000 レベルであった C 施 ベ ン ゾ(b)フ ルオラン テ ン クリセ ン 設の場合は、3 台の 40,000 ベ ン ゾ(a)アン ト ラセ ン ピ レン 破砕機を使用して用 フ ルオラン テ ン 30,000 フ ェ ナ ン トレン 途別にチップを製造 アン ト ラセ ン 20,000 フ ルオレン しており、サンプリ アセ ナ フ テ ン 10,000 アセ ナ フ チレン ングを行った紙用チ ナ フ タ レン 0 ップ製造系列では、 A B C D E F G 不純物や汚れの少な い木材を選別して供 図 2 施設によるチップ中含有量の違い-1 給し、残りを他の系 列へ供給していた。つまり、受け入れ基準だけでなく、さらなる選別を行うこ とにより、チップ中 PAHs の含有量を減らすことが可能と考えられた。 (2)有機塩素系 有機塩素系薬剤 薬剤の含有量 10,000 チップに含まれる 9,000 8,000 有機塩素系薬剤の含 デ ィエ ルド リン 7,000 有量を図 3 に示した。 ト ラン ス-クロ ルデ ン 6,000 シ ス-クロ ルデ ン G 施設で比較的低か アルド リン 5,000 クロ ロ ピ リホス った以外はそれほど ヘ プタ クロ ル 4,000 PCP 大きな違いはみられ 3,000 なかった。G 施設の 2,000 1,000 場合は、他の施設で 0 見られなかった生木 A B C D E F G が多く破砕されてい 図 3 施設によるチップ中含有量の違い-2 たことから、塩素系薬 剤で処理された木材の 混 入 が 少 な か っ た 可 能 性 が あ る 。 ク レ オ ソ ー ト で 加 圧 処 理 さ れ た 木 材 や CCA 処理木材は、目視等で判別出来る場合が多く、破砕前にこれらを取り除いてい た施設も見受けられた。しかしながら、塩素系薬剤で処理された木材の選別は 難しいため、現状ではこれらの物質が一定のレベルで混入することは避けられ ないことが推測された。 (3)再生品に含まれる有機系防腐剤の含有量 こ れ ら の チ ッ プ か ら 製 造 さ れ た 再 生 品中 の 有 機 系 防 腐 剤 含 有 量 を 図 4 に 示 す。2 ヶ所の事業所から得られたパルプ試料中には若干の防腐剤が含まれてい た。しかし、最終製品である紙の製造まで行っていた一方の事業所から得られ た紙の試料には、防腐剤がほとんど含まれておらず、製紙汚泥へ移行している -3- 含有量(μ g/kg) ことが確認された。 PAHs & 有機塩素系薬剤 一方、ボードの場合 60,000 に は 、 浅 利 ら 4) の 研 ディエルドリン 究と同様、比較的高 クロロピリホス 50,000 ヘプタクロル い含有量を示すこと PCP 40,000 ベンゾ(a)ピレン が明らかになった。 ベンゾ(b)フルオランテン クリセン ボードの製造は、原 30,000 ベンゾ(a)アントラセン 料チップをさらにこ ピレン フルオランテン 20,000 まかく破砕・乾燥後、 アントラセン フルオレン 接着剤を加えてホッ 10,000 アセナフテン トプレス(熱圧)す 0 ることにより行われ 堆肥-1 堆肥-2 パルプ-1 パルプ-2 ボード-1 ボード-2 るため、予想された 図 4 再生品中の防腐剤含有量 通り、チップに含まれ る物質がそのまま製品 に残っていた。ただし、これらのボードはマンションあるいは畳等の床材に使 用されており、人と直接接触する機会がほとんどないこと、また回収された場 合には再度ボードとして 100%利用可能なため、この循環システムを円滑に運 用することにより、これらの物質を管理することが可能と考えられた。堆肥に ついては、再生品の中では防腐剤の含有量は比較的低いものの、作物を経由し て人が摂取する可能性があるため、今後使用時の影響等を検証する必要がある。 4 まとめ 建設発生木材を利用したリサイクルシステムを安全に管理する手法を確立す るため、破砕処理施設から得られたチップに含まれる有機系防腐剤の定量を行 い、各施設における受け入れ基準との関係を明らかにした。受け入れ基準を設 け て い な い 施 設 か ら 得 ら れ た チ ッ プ 中 の 多 環 芳 香 族 炭 化 水 素 ( PAHs) の 含 有 量は、他と比べて高い傾向を示した。また、建設発生木材を受け入れている限 り、現状では有機塩素系薬剤の混入は避けられないことが明らかになった。こ のため、特に有機塩素系薬剤で処理された木材を出来るだけ簡易に選別するシ ステムを早急に確立することが重要と考えられた。 5 参考文献 1)国 土 交 通 省 の リ サ イ ク ル ホ ー ム ペ ー ジ ; http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/ recycle/refrm.htm 2)酒井伸一、浅利美鈴、高月 紘;安全工学、第 40 巻、第 6 号、pp.411-419(2001) 3)渡辺洋一、倉田泰人、小野雄 策、細見正明;廃棄物学会論文誌、Vol.14、 pp.343-352(2003) 4)浅利美鈴、高月 紘、酒井伸一;廃棄物学会論文誌、Vol.15、pp.139-148(2004) -4-
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