VII-029 土木学会中部支部研究発表会 (2007.3) 天然ゴムスモークシート 天然ゴムスモークシート製造 ゴムスモークシート製造プロセス 製造プロセスで プロセスで発生する 発生する排煙粒子中 する排煙粒子中 PAHs の特性と 特性と周辺環境への 周辺環境への影響 への影響 金沢大学工学部 金沢大学大学院自然科学研究科 タイ・プリンスオブソンクラ大学 金沢大学大学院自然科学研究科 ○橋本 隆史 神納 毅 Perapong Tekasakul 畑 光彦 金沢大学大学院自然科学研究科 正会員 古内 正美 1.はじめに 1.はじめに 現在,世界の天然ゴム生産は東南アジア地域に集中しており,その中でも,タイは世界生産量のおよそ 30% を占める世界最大の天然ゴム生産国である。タイで生産される天然ゴムの主製品は RSS(リブ付きスモークシ ート)と呼ばれるものである。RSS は “Cooperative”と呼ばれる小規模の製造工場で製造されるが、スモークシ ートの製造過程では,ゴム古木の燃焼による排熱や煙を利用した乾燥方法が用いられている。乾燥行程で発生 した多量の煙は,そのまま大気中へ排出されているため,作業環境はもとより,周辺大気環境への影響が懸念 されている。また,このような製造工場が主要産地であるタイ南部に 600 箇所以上集中しているが,これらの 工場から一斉に大量の煙が排出された場合、周辺大気環境へ多大な環境負荷が生ずると推測できる。 本研究では,RSS 製造時に発生する大気汚染物質の特性とその作業環境,周辺環境への影響を明らかにす ることを目的として,発生源,製造所内およびその周辺,隣接する市街地で粒子状物質(PM)サンプリング と多環芳香族炭化水素(PAHs)等の化学成分の分析を継続的に行い、これまでに,非常に高濃度の PAHs 等 の発生や,作業環境の汚染状況などを明らかにしている。ここでは,主に粒子中に含まれる PAHs 濃度の観 点から周辺環境中への影響について考察し,得られた結果について報告する。 2.サンプリング 2.サンプリング及 サンプリング及び分析・ 分析・調査方法 調査方法 サンプリング場所は,汚染物質の発生,拡散,周辺環境への影響という各段階を想定し,1)乾燥炉内(発生 源),2)作業所内(作業環境),周辺環境として 3)プリンスオブソンクラ大(PSU)キャンパス内(郊外)および,4) ハジャイ中心市街地の4箇所を設定した。粒子サンプリングには,ハイボリュームエアサンプラ(全浮遊粒子) とアンダーセンエアサンプラ(粒子径別)を使用した。また,ハジャイ市内の気象台から気象データを入手し た。さらに,ソンクラ県内にある各作業所の出荷リストからスモークシート生産量を集計した。 着目成分として粒子中の PAHs 成分 (Nap,Ace,Fle,Phe,Ant,Flu,Pyr,BaA,Chr,BbF,BkF, BaP,BghiPe,IDP)を測定した。試料フィルタをエタノール/ベンゼン溶液中で超音波抽出し,抽出液をろ 過した後 DMSO を 50µL 入れて減圧乾固し、HPLC(アセトニトリル/超純水混合移動相)で分析した。 3.結果 3.結果と 結果と考察 スモークシートの生産量は,ゴムの木の活性,需要の変動,雨量などの因子に影響を受ける。特に,樹液に 雨水が混入すると品質が落ちるため降雨量と生産量には密接な関係がある。降雨量と生産量の年間変動を図 図.1 に示す。通常,生産量は少雨期(降雨量 150mm 未満,4 月~7 月)で増加し,ゴムの木の活性が低い乾季(2-4 月)に減少する。雨が少なくかつゴムの木の活性が高い 1 月ごろが最盛期となる。多雨期(降雨量 150mm 以 上,8-12 月)は雨量の影響が大きく,雨量増加と伴に生産量が減少する。 図.2 にスモークシート生産量と市街地における 4~6 環 PAHs の濃度の変化を,季節別の風向頻度とともに 示した。雨季の PAHs 濃度と生産量の相関は明瞭である。これは,工場が集中する南西方向からの季節風が -527- VII-029 土木学会中部支部研究発表会 (2007.3) この時期に卓越するためと考えられる。一方で, いにもかかわらず,2 月の PAHs 濃度は非常に低 350.0000 くなっているが、この時期にタイ湾から吹く北 東季節風が影響している可能性がある。また, 4 ~6 月と比べて生産量が多いにも関わらず 7~9 月に PAHs 濃度が低下する理由として,降雨に Production amount Precipitation 1000 900 800 300.0000 700 250.0000 600 200.0000 500 150.0000 400 300 100.0000 200 50.0000 よるレインアウトの影響が考えられる。 Precipitation (mm) 400.0000 Production amount (ton) 2 月と 7~10 月を比較すると,生産量はほぼ等し 100 - 0 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul AugSepOct NovDec 図.3 は 4~6 環 PAHs 成分の粒子中質量比率を 図.1 スモークシート生産量と降雨量の年間変動 バンコク,プノンペンおよび金沢の値と比較し たものである。ハジャイの年間平均値は首都バンコクのおよそ 2 倍であり、年間最大値は大気汚染が深刻なプ ノンペンの値よりも大きくなっていることから,RSS 生産の大気環境への影響が推察される。 WNW 50 W 0 WSW SW SSW Production amount(ton) 2500000 ENE WNW 50 ENE E W 0 E ESE SE SSE S NNW 100 NW 50 WNW NNE NE WSW W 0 SW SSW SE SSE WNW 50 E W 0 ESE WSW ENE WSW ESE SW SSW NNW 100 NW NNE NE SE SSE S S NNE NE ENE 20 E ESE SW SSW SE SSE S 15 2000000 1500000 10 1000000 5 Production amount of smoke sheets PAHs Concentration 500000 0 3 3000000 NNW 100 NW N N N NNE NE PAHs concentration(ng/m) N NNW 100 NW 0 Feb Mar Dry Apr May Jun Jul Moderate rain Aug Sep Oct Nov Heavy rain 図.2 周辺環境での PAHs 濃度と生産量,および風向の季節変動 PAHs mass fraction (ng/µ g) 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 Phnom Penh (n = 5) Bangkok (n = 9 ) Kanazawa Hat-yai (Jun ) Hat-yai ( Ave ) (n = 21) (n=2) (n=19) 図.3 PAHs 成分の粒子中質量比率の都市別比較 4.まとめ 1)周辺大気中の汚染物質濃度は,生産量および気象特性(降雨量,風向等)の影響を大きく受ける。 2)周辺大気中の PAHs 濃度の変動特性は, 1)乾期(1-3 月),2)少雨期(4-7 月),3)多雨期(8-12 月)で異 なったものになる、各期間での PAHs 成分比率は季節風の影響を大きく受ける。 3)ハジャイで観測される PAHs の粒子中質量比率は他のアジア各都市と比較して高い傾向がある。 -528-
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