ブランドと組織文化 - NIKKEIBP Blog

研究報告書
ブランドと組織文化
~企業の盛衰を握る鍵~
早稲田大学商学部
井上達彦ゼミナール
2005 年
早稲田大学商学部
石崎
1月
井上達彦ゼミ2期生
綾乃
小佐野絵美
竹内
基
田部菜穂子
野口
桃子
目次
SUMMARY
序章
問題提起
1-1
問題背景
1-2
問題提起
1-3
研究意義
第1章 ブランド・アイデンティティ、組織文化とは
第1節
第2節
ブランド
2-1
ブランド・アイデンティティ
2-2
ブランド・アイデンティティ分析モデル
2-3
ブランド・アイデンティティの外部への伝達
2-4
ブランド・アイデンティティの内部への伝達
第3節
組織文化
3-1
組織文化
3-2
組織文化分析モデル
第4節
ブランド・アイデンティティと組織文化の相互関連
4-1
ブランド・アイデンティティモデルと組織文化モデルの相互関連
4-2
相互関連モデル
第5節
リサーチクエスチョン
第2章 ケース:資生堂
第1節
資生堂
1-1
はじめに
1-2
資生堂のブランドを表す価値
1-3
資生堂の軌跡
第2節
ブランド・アイデンティティと組織文化分析
2-1
ブランド・アイデンティティ分析
2-2
組織文化分析
2-3
ブランド・アイデンティティとの比較分析
第3節
不一致分析
3-1
資生堂の危機
3-2
組織文化とブランド・アイデンティティの不一致
3-3
不一致部分の要因
3-4
不一致から一致への転換
3-5
まとめ
第3章 ケース:オリエンタルランド
第1節
東京ディズニーランドとオリエンタルランド
1-1
はじめに
1-2
東京ディズニーランドのゲストと価値
1-3
オリエンタルランド
第2節
ブランド・アイデンティティと組織文化分析
2-1
ブランド・アイデンティティ分析
2-2
組織文化分析
2-3
比較分析
2-4
不一致の原因の仮説
第3節
不一致分析
3-1
キャストの組織文化
3-2
ブランド・アイデンティティとの比較分析
3-3
社員の組織文化
3-4
ブランド・アイデンティティとの比較分析
3-5
サブカルチャー分離の契機
3-6
まとめ
第4章 結論と結び
第1節
結論
1-1
問題定義と結論
1-2
タイムラグ
1-3
サブカルチャー
第2節
結び
2-1
研究報告書の適応範囲
2-2
結び
SUMMARY
消費者の認知を得られ生き残るブランドは競争優位の源泉となりえる。このようなブラ
ンドはほんの一握りであるが、そこにはどのような特徴があるのだろうか。
この疑問に対し、私達は、数あるブランド論の中でもD・A・アーカーの「ブランド・
アイデンティティ」という概念に注目した。そして、今までのブランド論では用いられる
ことの少なかった「組織文化」の観点を、D・A・アーカーの研究に付加して分析を行った
ものが私達の研究内容である。
私達は「組織文化」の観点を付加するために、E・H・シャインの提唱したモデルを利用
した。これは D・A・アーカーのブランド・アイデンティティのモデルと非常に近似性があ
り、互いの関係を分析する際に有効なものであると考えたからだ。私達はこの2つを組み
合わせることによって、ブランド・アイデンティティと組織文化の相互関連モデルを導き
出した。(詳しくは第1章を参照)
アーカーのブランド・アイデンティティモデルとシャインの組織文化のモデルを
融合させた「相互関連モデル」
拡張アイデンティティ
コア・
アイデンティティ
人工物
価値
この報告書におい
て、この部分の一
致・不一致を分析
エッセンス
していく。
基本的仮定
この相互関連モデルを使い、私達は本研究においてこのような問題提起を行った。
「実際のブランド運営において、競争優位の源泉となるようなブランドを持つ企業のブラ
ンド・アイデンティティと組織文化は一致するのだろうか。それとも、組織文化と、その
文化を持つ組織が作り出すブランドのアイデンティティの間には行動の理由として食い違
うという不一致があるのだろうか。もしも不一致の兆候があるのならば、どこの段階で不
一致が起きているのかを見て要因を見つけることができるのではないか。」
これらをケースから結論を求めるため、私達は長期的競争優位の源泉となるブランドを
持つ資生堂で分析を行った。現状では、資生堂が競争優位の源泉となるべきブランドを持
っていることを示すように、そのブランド・アイデンティティと組織文化が一致した。し
かし、1950 年代からの隆盛期後に起こった危機的状況にあった資生堂を分析してみたとこ
ろ、不一致の兆候があることがわかった。それは、隆盛期から顧客などに認識されるブラ
ンド・アイデンティティは変わらないままきたものの、組織文化に慢心という価値観が入
り込み、徐々に変化していったというタイムラグによるものだった。この変化が人工物と
して表層化されたとき、はじめてそれらの乖離に気付きブランド失墜のあやうさを感じた
資生堂は改革という手段で、そのタイムラグによって起こった組織文化の不一致部分を立
て直すことで一致を図り、現在のブランド維持を行っていたのである。(詳しくは第2章資
生堂のケースを参照)
同様にオリエンタルランドでも分析を行ったところ、こちらは現状において不一致の兆
候が存在した。要因をさぐるため、私たちは社員とキャストというそれぞれの文化に分け
て、ブランド・アイデンティティとの比較を行ったところ、サブカルチャーというひとつ
の結論を導いた。分析の結果、キャストの組織文化とブランド・アイデンティティは一致
していたものの、社員の組織文化とブランド・アイデンティティは必ずしも一致していな
かった。このようなサブカルチャーはどこの企業にも存在するものであるが、オリエンタ
ルランドの場合そのサブカルチャーのバランスが崩れるあるきっかけが存在した。それは、
1996年の株式上場である。この上場をきっかけに今までに比べより株主などの存在を
意識するようになったことが、社員の中でビジネスマインドが強くなるということに影響
するものであり、それによってサブカルチャー間のバランスが変わったことによる組織文
化の変化がおこり不一致の兆候を導いているということがわかったのである。
(詳しくは第
3章オリエンタルランドのケースを参照)
この2つのケースから、私たちは先ほどの問題提起に対し、長期的競争優位の源泉とな
るブランドを持っている企業はブランド・アイデンティティと組織文化が一致するが、変
化により不一致となる場合も考えられる。その不一致の兆候には、タイムラグ、またはサ
ブカルチャーという組織文化の変化を招く要因があるという結論に至ったのである。
序章
1-1
問題背景
企業の価値を表現するためにブランドが使われることがある。消費者が製品やサービ
スさらには企業名など、各ブランドの利用時に得られると思う経験や体験の魅力を指数で
表しランキング化して企業の優劣をつけたり、ブランドが時価で評価され、それが企業の
時価に影響を与えたりもする。ブランド評価を高める努力は企業の評価を高めることに直
結するのだ。
製品に名前をつければ「ブランド」と称するものはできあがる。生まれては消えていく
無数の製品の中で消費者の認知を得られ生き残るブランドには共通して、持続的競争優位
の源泉となる性質、すなわち、組織固有の無形資産なので消耗がなく、価値があり、希少
性があり、社会的複雑性と歴史的経路依存性によって模倣困難性があるのだ。しかしその
ような競争優位の源泉となり得るブランドは実際は一握りである。掌からこぼれたブラン
ドは、価格競争に淘汰され、やがては消えていく。では、その一握りに入るか否かはどの
ような要因で決まるのだろうか?
1-2
問題提起
私達は、ブランドと組織文化が意味上一致していることが、一握に入るための決定要
因なのではないかと考えた。つまりブランドが識別のための名前としての役割だけではな
く、顧客にどんな価値を提供するのか明確に示し、その価値は組織文化に根付く価値観に
沿うものであること、その逆にブランドが示す価値を組織の文化が裏切らないことが、競
争優位の源泉となるブランドを維持するために必要なのではないだろうか。
以下、1 章でブランドと組織文化という今回のキーワードについて説明し、その 2 つ
の相互関連性を一目で理解できる相互関連モデルを提示する。2 章 3 章ではブランドが競
争優位の源泉となっている 2 社(資生堂・オリエンタルランド)について、ヒアリング調
査、観察、関連文献などから、ブランド・アイデンティティ分析、組織文化分析を行い各
ケースの結論を、4 章では全体の結論を述べている。
1-3 研究意義
今回の研究ではブランドが競争優位の源泉となっている 2 社での例証だが、ブランド
と文化は必ずしも一致するものではなくむしろ一致しない場合が多いであろう。ブランド
マネジメントに行き詰まり、ブランドを考える時、組織文化の視点を取り入れることが重
要であることをこの報告書で言うことは、意義のあることであると私達は考える。
第1章
ブランド・組織文化とは
第 1 節 ブランド
1-1
ブランド・アイデンティティ
そもそも、ブランドとは何か。ブランドによって私たちはその製品と他の製品を見分け、
その製品の内容までをも喚起できるのだが、アメリカマーケティング協会によるとブランド
とは、ある売り手あるいは売り手の集団の製品及びサービスを識別し、競合相手の製品及び
サービスと差別化することを意図した名称、言葉、サイン、シンボル、デザイン、あるい
はその組み合わせである 1
その識別のための名称が競争優位の源泉となるためには、差別化要因となるようなアイ
デンティティの確立が重要である。
昨今のブランド論の権威である D・A・アーカーは 1991 年に「ブランド・アイデンティ
ティ」という概念を発表した。これはブランド・エクイティの考えを発展させて明確化さ
せたもので、ブランド・アイデンティティとは、「創造したり維持したいと思うブランド連
想のユニークな集合であり、ブランドが何を表しているのか示し、また組織の構成員が顧
客に与える約束を意味する」という。そして、このブランド・アイデンティティが組織の
内外に正しく伝達されること、そして正しく理解されること、その上でこのアイデンティ
ティを支える活動がなされた時に初めて、競争優位の源泉となるような強いブランドとな
るのである。
1-2
ブランド・アイデンティティ分析モデル
さらに D・A・アーカーはブランドの持つブランド・アイデンティティを明確にするため
のツールを提示した。(図 1)これは、そのブランドで連想されるもの全てを集め、拡張ア
イデンティティ、コア・アイデンティティ、エッセンスという 3 段階に分けたものである。
拡張アイデンティティはばらばらなアイデンティティ要素の全てで、視聴可能なものであ
り、製品・シンボル・人・組織という 4 つの視点で見ることができる。その拡張アイデン
ティティから意味を抽出すると、コア・アイデンティティが出てくる。これは、ブランド
のビジョンや価値を表す「ブランドの中心にあって普遍的な本質」で、人々は拡張アイデ
ンティティを見てこれらコア・アイデンティティを感じ取るのだ。そしてそれらのアイデ
1
A name, term, design, symbol, or any other feature that identifies one seller's good or
service as distinct from those of other sellers. The legal term for brand is trademark. A
brand may identify one item, a family of items, or all items of that seller. If used for the firm
as a whole, the preferred term is trade name.(http://www.marketingpower.com/
04 参照)
14/12/
ンティティ要素をまとめたものがエッセンスである。このエッセンスが永続的にアイデン
ティティを象徴し、一貫して拡張アイデンティティをつなぐハブの役割をしっかり果たし
ていれば、価値提案は促され、顧客を共鳴させることができ、ブランド・アイデンティテ
ィは競争優位の源泉となるのである。
拡張アイデンティティ
コア・アイデンティティ
エッセン
ス
図 1:D・A・アーカーのブランド・アイデンティティモデル
1-3
ブランド・アイデンティティの外部への伝達
さきほど、ブランド・アイデンティティが組織の内外に正しく伝達されることが重要だ
と書いたが、ブランド・アイデンティティが外部に正しく伝達されるとは、明確にそのブ
ランドがどんな価値を与えるのかを顧客がしっかり示されることである。ここで価値とは
機能的便益や、情緒的便益、自己表現便益である。例えば、アップル社の iMac という PC
はグラフィックが得意な PC として機能的便益を高く認められているのみならず、iMac を
使うことがおしゃれであったり、クリエイティブな感性を刺激したりするという情緒的便
益を与え、iMac を使うことが、自分はクリエイティブな感性の持ち主であるということを
表すという自己表現便益があるようだ。
ブランド・アイデンティティをしっかり持ったブランドは、商標として製品の集まりの
ラベルの役割を果たすのみならず、あたかも人格を持った存在として親しみや友好的な感
情を抱かれる。iMac がなかなか思うように動かないときに、
「iMac はじゃじゃ馬だからし
ょうがない」と許されるのは iMac というブランドがワガママではあるがかわいいクリエイ
ターというパーソナリティを持って親しまれているからである。
製品の機能は模倣ができても、情緒的便益や自己表現便益までは模倣ができず、それら
の便益は一朝一夕には作られない。差別化要因となるのもそれゆえである。
1-4
ブランド・アイデンティティの内部への伝達
ブランドの、外部への伝達については上で述べたとおりであり、容易に理解できるもの
であるが、ではブランドの内部への伝達とはどういうことなのだろうか?
D・A・アーカーによると、「組織連想を含んだブランド・アイデンティティは、組織の
基本的な目標、価値、戦略をより表現しやすい。そのため、従業員、小売店、そして、目
標や価値に共感し、戦略を実行すべきすべての人たちに対して、ブランド・アイデンティ
ティは、これらの要素を明瞭に表現する重要な役割を担うことができるのである。
」2 つまり
先ほどの例でいうと、iMacには常にクリエイティブな感性を刺激するようなデザイン、性
能を持つ製品を提供することが求められている、ということを組織の内部の人々は常に意
識し、開発から広告に至るまでのすべての工程でやるべきこと、目指すべきブランドの姿
が共有されるのだ。
ブランド・アイデンティティが内部に正しく伝達され浸透すると、ブランドのビジョン
は行動規範となる。親しみやすいというアイデンティティを持つブランドの販売員は笑顔
で顧客に接し、都会的というアイデンティティを持つブランドのセールスマンは洗練され
たプレゼンテーションでスマートに契約をとるべきである。つまり、ブランド・アイデン
ティティは組織の文化にも影響をするのだ。
また逆に、ブランド・アイデンティティは組織文化からも影響を受ける。その組織の文
化にまったく根付いていない要素をアイデンティティとして持つブランドは、製品以外の
連想においてエッセンスがハブの役割をしないので、外部の顧客にアイデンティティが理
解されず、ブランドが差別化要因にはなりえない。より多くの人に製品を届けたいと思っ
ている組織が、数量限定の希少さをアイデンティティとしてブランドを作るということは、
そもそもありえないだろう。文化に根付いている価値観があるからこそ、ブランド立ち上
げ・維持への原動力が生まれるのである。
第2節
組織文化
組織文化とは、
「ある特定のグループが外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学
習した、グループ自身によって、創られ、発見され、または、発展させられた基本的仮定
のパターン―それはよく機能して有効と認められ、したがって、新しいメンバーに、そう
した問題に関しての知覚、思考、感覚の正しい方法として教え込まれる」 3 ものであり、共
有されている価値観、信念、目標、期待される態度、行動規範などを指す。
シャインも組織文化の基本的捉え方としてのモデルを提示しているので示し、その各段
階について説明しよう。
(図 2)
第一段階は人工物である。人工物とは建物、技術、オフィスのレイアウト、衣服のマナ
ー、社是社訓のような公文書、社史など、作り出された視聴可能なもので、どのような状
況でどういった行動パターンがあるかは示せるが、なぜそのような行動をとるかという根
2
3
デービット・A・アーカー『ブランド優位の戦略』ダイヤモンド社
E・H・シャイン『組織文化とリーダーシップ』ダイヤモンド社
本にある論理を理解することは難しい。
それら人工物から、解釈のために意味を抽出したものが、原則、目標、基準などの「ど
うあるべきか」を反映した価値である。直接の認識が難しく、人工物や組織メンバーのイ
ンタビューからの分析が必要である。しかしこれは、語る者のそうあってほしいという願
望や、行動を正当化する理由であるため、この第二段階では依然として真の理由は隠され
たままである。
図 2:組織文化分析モデル
人工物
価値
視聴可能なもの
本質的価値を持つ文化の中にある
原則・目標・基準
基本的仮定
組織文化の中核を形成するもの
真の理由とは何なのか。それは、意識の外にありながら、皆にあたりまえのごとく認め
られた基本的仮定として、学習過程で身につけられた反応そのものである。意識されてい
る価値に比べて無意識の内にあるため、議論の対象にならず、組織のメンバーでさえも理
解することはむずかしい。また、その意味では、民族性や、人間性の本質の捉え方なども
含まれる。第二段階の価値による行動が、繰り返しの学習体験の末、考えるまでもなく行
動するようになると、その価値観はもはや議論の余地のないあたりまえのものとなる。こ
れが第三段階の基本的仮定であり、組織文化の中核を形成するものである。
第3節
3-1
ブランド・アイデンティティと組織文化の相互関連モデル
ブランド・アイデンティティモデルと組織文化モデルの相互関連
D・A・アーカーのブランド・アイデンティティモデルと、E・H・シャインの組織文化
モデルを示したが、私たちはここで、二つのモデルに近似性があることに気が付いた。二
つのモデルは、視聴可能な創られたもの(拡張アイデンティティと人工物)から、意味を
抽出した価値(価値とコア・アイデンティティ)、さらにその本質(エッセンスと基本的仮
定)に抽象化することで目に見えないもの(ブランド・アイデンティティと文化)の分析
をする、というものである。
3-2
相互関連モデル
わかりやすいように、ブランド・アイデンティティモデルを抽象段階ごとに縦に並べ、
組織文化モデルに対置させるとこのようになる。
拡張アイデンティティ
コア・
人工物
価値
アイデンティティ
基本的仮定
エッセンス
図3:相互関連モデル
ここで、人工物と拡張アイデンティティはその組織に作られたもの同士であり、ブラン
ドを作る組織に関するものが全て含まれる。今回の報告書では、この段階での2者の関係
については人工物と拡張アイデンティティはお互いに含まれる部分があるとする。また、
両者の間に行動の指針としての意味の一致を示す○がないのは、拡張アイデンティティと
人工物はそれだけでは意味を理解できないものなので、意味の一致不一致を論ずることは
不適切だからである。
組織文化とブランド・アイデンティティは両方、行動規範となるものなので、二つが一
致するのならば、エッセンスが「顧客に提供したいと思うもの」、基本的仮定が「なぜそれ
を自社が提供するのか」の真の理由であり、行動の指針として表裏一体の関係になってい
る。この一致は、競争優位の源泉となるブランドを維持する活動のための条件である。
第4節
リサーチクエスチョン
しかし、実際のブランド運営において、優位にある企業は本当に両者が一致しているも
のなのか、つまり、競争優位の源泉となるようなブランドを持つ企業のブランド・アイデ
ンティティと組織文化は一致するのだろうか。それとも、組織文化と、その文化を持つ組
織が作り出すブランドのアイデンティティの間には行動の理由として食い違うという不一
致があるのだろうか。
もしも不一致の兆候があるのならば、どこの段階で不一致が起きているのかを見て要因
を見つけることができるのではないか。以下ケースで見ていく。
第2章
第1節
1-1
ケース:資生堂
資生堂
はじめに
資生堂は、創業者福原有信氏が1872年(明治5年)
、東京・銀座に日本で始めての民
間調剤薬局「資生堂薬局」として創業した。社名は、中国儒教の理論書『易経』の一節か
らとったと言われ、「至哉坤元
万物資生」-“地の得は何と優れているのだ、万物はこれ
をもとに生まれる”という意味である。これは、東洋思想に由来するこの社名は東西文化
の交流の中に“新しい価値の創造”を求めようとする有信氏の理想を表したものであり、
「和
魂洋才」 4 の企業理念に繋がっている。
同社は1897年に高級化粧水「オイデルミン」などで化粧品業界に進出して以来、着
実に業績を伸ばし、わが国化粧品業界のトップ、世界でもトップ5に入る現在の地位を確
立した(最前線化粧品業界知りたいことがスグ分かる 2001)。ここにおいて、私達は資生堂
を国内化粧品業界においてその先行優位による伝統のある歴史と、圧倒的 NO,1 企業の地位
から、強いブランド・アイデンティティを持つ企業とし同社の事例研究を行うこととする。
1-2
資生堂のブランドを表す価値
資生堂は、現在国内化粧品市場のシェアにおいて 2 位のカネボウに約10パーセントの
差をつける、圧倒的NO,1 企業である。この同社の圧倒的優位は何に起因しているのだろう
か。近年の化粧品は品質の著しい向上によって、顧客が感じるその機能的便益ではもはや
大きな差別化は図れなくなってきていると言える。そこで重要となるのがその製品の付加
価値での差別化である。また、何より化粧品という製品カテゴリーにおいても、女性の美
しくなりたいという夢を満たすものとして、精神的な付加価値が重要となる製品であると
言えるだろう。私達は、同社が他社との差別化を果たしている要因は付加価値にあると考
え、その付加価値とは同社の企業ブランドが顧客に与えている情緒的便益という価値にあ
ると考えた。
では資生堂の価値となる情緒的便益とはどのようなものだろうか。資生堂が顧客に与え
ている情緒的便益とは、130 年の歴史で築き上げてきた伝統、文化、先進性を持つ資生堂ブ
ランドから顧客が感じる高級感・トレンド感・信頼感である。資生堂はその歴史において、
化粧品という分野だけでなく、「美しい生活文化の創造」と企業理念にもある様に、「銀座
に行ったら三越で買い物をして資生堂パーラーで食事をする」といったトレンドや、銀座
に有する日本最古のギャラリー、日本初のソーダ水の発売など、130年間の歴史と共に
我々の美的生活、文化、芸術など、我々の美を彩ってきた企業である。顧客は、この資生
4
日本固有の精神と西洋の学問。日本固有の精神を以って西洋の学問・知識を学び取ること
(広辞苑より)
堂の伝統ある歴史、文化から高級感、信頼感を、またその先進性からトレンド感を情緒的
便益として得ていると言える。
このように、資生堂は化粧品という機能的便益での差別化が難しい業界の中で常に先進
的な美を発信することで、我々の生活文化に深く関わってきた伝統ある歴史・文化・ファ
ッション性から生み出される、高級感・信頼感・トレンド感といった情緒的便益を価値と
してブランドで表せているからこそ、競争優位の源泉となる強いブランドを有していると
いえるだろう。
1-3
資生堂の軌跡
現在、このように圧倒的 NO,1 企業として世間に名を知らしめている資生堂であるが、実
はその時代背景には、いくつかの変革の波が存在したとされている(慶應ビジネスレビュ
ー2004)。
まず、戦後の資生堂は、高度成長期の波にのって圧倒的 NO,1 企業として飛躍的な成長を
遂げ、その戦前の販売制度に磨きをかけたチェーンストア制度、消費者の愛用者組織であ
る花椿会などで、顧客に「化粧品といえば資生堂」といったイメージを浸透させていった
隆盛期の時代にあったといえる。
しかし、その隆盛期の影響を受けた同社は、会社存続、ブランド失墜の危機とも言える
危機的状況に陥ってしまったとされている。この危機的時期とは、その最盛期の成功によ
ってもたらされた大企業病とも言える、社内に堕落した組織文化が蔓延していた時期と言
える。この危機的時期については、後の第三節で詳しい説明を加えることにする。
そして、そのような組織の膿を出し切ろうと福原有信氏の社長就任を機に行われたニュ
ー資生堂計画 5 から、それに繋がる店頭基点の改革 6 を経て、危機的時期から再生を遂げたと
されているのがここ最近の資生堂の現状である。
この資生堂の変革を踏まえて、ブランドを競争優位の源泉とする資生堂のブランド・ア
イデンティティと組織文化の一致と不一致について、第二節では改革によって再生したと
される現在の資生堂、第三節では当時の危機的時期を相互関連モデルにより分析し、その
不一致の兆候とそこから分析できる不一致の要因をみていく。
第2節
ブランド・アイデンティティ、組織文化分析
ではその情緒的便益を顧客に与えている再生期の資生堂のブランドについてみてみよう。
ここでは、資生堂の組織文化とブランド・アイデンティティの一致を見る。まず、D・A・
1987 年から福原義春社長によって施行された社内体制・意識改革の計画(慶應ビジネス
レビュー2004)
s
2001 年から池田守男社長によって施行された、店頭から発想していこうとする改革(ブ
ランド力 2004)
5
アーカーの枠組みに沿って、同社の拡張アイデンティティ、コア・アイデンティティ、ブ
ランド・エッセンスについて考察する。次に E・H・シャインの枠組みに沿って同社の人工
物、価値、基本的仮定について考察する。その上で双方の一致をみていく。
2-1
ブランド・アイデンティティ分析
まず、D・A・アーカーのモデルを用いて資生堂のブランド・アイデンティティを、拡張
アイデンティティ・コアアイデンティティ・エッセンスの順に説明していく。
①拡張アイデンティティ
まず、拡張アイデンティティに資生堂を表す代表的なものとして、東京銀座資生堂、花
椿マーク、雑誌花椿、ハウスオブ資生堂などが挙げられる。以下、それぞれについて説明
を加える。
本社資生堂ビルが銀座にあることは、資生堂にとって重要な意味を持つ。銀座といえば、
文明開化の中心地である。ここから明治の文化、文明は育っていった。明治以降も銀座は
建築、ファッションなど、文化の最先端であり続けた。このような時代背景から、我々は
銀座といえば文明、文化を想起するだろう。資生堂がこの銀座にあることの意義について、
執行役員クリエイティブ本部長の柿崎孝夫氏は次のように語る。
「『東京銀座』の資生堂ということが大事で、資生堂はいわば場によって独自の企業文化を
成熟させたのです。これからも『東京銀座』から離れずに資生堂文化を成熟させることが
重要だと思います。」 7
この言葉通り、資生堂は 2003 年本社機能を汐留地区に移転したが、本社ビルを登記上の
本社として残すだけでなく、「文化の生産現場」「地域社会と共有できる文化発信拠点」と
する方向で新たな利用構想が進められている。また、2001 年には、資生堂パーラービルと
して親しまれてきた銀座八丁目角のビルが、東京銀座資生堂ビルと称して新たにギャラリ
ーやレストランを加えてリニューアルオープンした。東京銀座資生堂ビルは、いわば資生
堂文化の象徴とも言える。
次に花椿マークは 1915 年(大正 4 年)に誕生した資生堂の商標である。当時、資生堂の
中で最も人気商品だった「香油
花椿」をモチーフにしたものであり、写真家でもあった
初代社長福原信三氏自らデザインしたという。商標と言えば、家紋や文字の組み合わせな
ど古くさいものが主流だった時代、いち早くアールヌーボーを取り入れたデザインは一際
斬新なものであり、「和魂洋才」という資生堂の考え方が表されたものであった。現在も、
資生堂の伝統、文化を表すものとして全ての商品に表記されている。
また同様に「香油
花椿」に由来するものとして、資生堂の文化情報誌「花椿」がある。
花椿は 1924 年(大正 13 年)に化粧品業界初の愛用者向け機関紙として、当時「資生堂月
報」いう名称で創刊された。現在も花椿は発行されており、昔と同様に化粧品の情報だけ
でなく、文化、ファッション、トレンドなど、美に関する様々な情報を発信する、当時の
7(山田
敦郎 2002)
言葉で言うならば“ハイカラ”な雑誌として女性に親しまれ続けている。
ハウスオブ資生堂とは、銀座資生堂本社の1~2階に 2004 年四月にオープンした資生堂
の文化発信施設である。そこでは、顧客が資生堂の美と知の結晶である文化遺産などを気
軽に体感できるようになっている。
②コア・アイデンティティ
次に、これらの拡張アイデンティティが顧客に与えるブランドの価値やビジョンといっ
たものをあらわすコア・アイデンティティを抽出していく。
東京銀座資生堂は銀座という場所性・歴史から、特別な場所であるということからの高
級感、伝統ある歴史に裏付けされた信頼感、常に最先端のトレンドを創り出していること
から生まれるトレンド感といった価値を顧客に与えている。花椿マークは、資生堂の伝統、
文化を表すトレードマークとして全商品に表記することで、商品を通して資生堂の伝統、
文化を表し顧客に信頼感、高級感などを伝えている。雑誌花椿も同様に信頼感、お洒落な
イメージからトレンド感といった価値を与えている。ハウスオブ資生堂は資生堂が創造し、
発信してきた文化遺産とも言える美の歴史を伝える場であることから、資生堂は美の発信
源であるというビジョンを顧客に与えていると言えるだろう。
上記で挙げたものの中にいくつか重複点があったことからもわかるように、資生堂のコ
ア・アイデンティティはそれぞれの拡張アイデンティティが持つ伝統やファッション性、
文化などが織り成されて創りだされたものなのである。
③エッセンス
このコア・アイデンティティの要素をまとめた資生堂のエッセンスを我々は“美的生活
創造企業”と考えた。美的生活の“美”は、文化、芸術など様々な美を意味しており、“創
造”とは資生堂が長い歴史の中で常に自らが美を創造し、発信してきたという自負と、創
業からの理想である“新しい価値の創造”という理念にもあるように、今後も美を創造し、
発信していくのも資生堂であるという表れである。
2-3
組織文化分析
次に、E・H・シャインのモデルを用いて資生堂の組織文化を人工物、価値、仮定の順に
説明していく。
①人工物
再生期の組織内で形成されている視聴可能なものとして、
「さん付け運動」、服装の自由、
企業文化部、ピラミッド型組織、「I do.資生堂」のスローガンなどが挙げられる。以下、そ
れぞれについて説明を加える。
第一に、さん付け運動とは、社員は同じ立場にあり身分の上下はないという趣旨から、
社内ではお互いに役職名で呼ばずに「さん」で呼び合おうという運動であり、上下の隔た
りをなくし、自由にものが言える雰囲気を作ることを目的としている。
第二に、服装の自由とは、文字通りユニフォームを廃止して自由な装いで勤務すること
である。これとよく似たものでノーネクタイ運動などがあるが、ここで重要なのは自分自
身で服装を選ぶというという点である。「美をテーマにしている人たちは、常にクリエイテ
ィブであってほしい。自分の仕事にあった服装を自由に選ぶのは当然」(福原義春社長談)
8 というように、服装は社員の価値観が表れるものであり、美しさという価値を売るからに
はまず社員がクリエイティブな価値観を持たなければならない、という観点に基づいて施
行されたものである。(ここでの価値・価値観という言葉はE・H・シャイン分析の価値・
価値観と異なるものとする)
第三に企業文化部とは、
「企業文化」をヒト、モノ、カネに次ぐ第四の経営資源としてお
く考えから、1990 年に設置された文化発信の部門である。それまでは、社員の中でも資生
堂の文化に対する考えは暗黙知的なものだったが、これによって社会だけでなく社内にお
いても、資生堂の文化に対する姿勢を明確に意識付けられた。近年、ドラッグストアなど
流通経路の多様化によって企業イメージも拡散してしまいがちだが、企業文化部は資生堂
ギャラリー、資生堂アートハウス、資生堂企業資料館、最近ではハウスオブ資生堂など、
同社の理想である‘新しい価値の創造’を担ってきた文化遺産を後世に伝える文化発信施
設や、花椿などの出版物、催事を通じて資生堂のアイデンティティを社会に発信している
と言える。
第四に逆ピラミッド型組織とは、店頭基点の理念を組織に徹底するための組織体系であ
る。トップを「お客様」と置き、ダウンを社長とする逆ピラミッド型にすることで、頂点
のお客様、それに告ぐ店頭の販売第一線を、社長を始め全員で支えていくという考え方が
表されている。これによって顧客の情報を的確に、かつ素早く経営の決定権者にもたらす
体系が実現されるため、顧客情報の迅速な反映が可能となっている。
第五に I do.資生堂とは、店頭基点の改革において社内で提唱されたスローガンである。
『I do.』というスローガンには、経営改革を徹底しさらなる飛躍をめざすため、社員一人
ひとりが主役となって自ら行動を起こしていく、という意味である。これには『I do.』か
ら『We are』へと繋げる思いも込められている。つまり、社員が一丸となって資生堂を創
るという思いである。
②価値
これらの人工物から、創造性、文化・伝統重視、顧客重視、私が資生堂を創る、といっ
た社内の価値が抽出できる。
さん付け運動からは、自由に発言できる雰囲気を作ることで、社員一人一人の発想をで
きる限り抽出しようという同社の創造性を重視する姿勢がみられる。
8
(慶応ビジネスレビュー
2004)
同じく服装の自由には、服装は社員の価値観が表れるものであり、美しさという価値を
売るからにはまず社員がクリエイティブな価値観を持たなければならない、という考え方
が表されており(ここでの価値・価値観という言葉は E・H・シャイン分析の価値・価値観
と異なるものとする)、そこには自分を彩ることを毎日行うことで磨かれる、社員一人一人
の創造性が求められていることがわかる。また、それは資生堂の創業からの理想である“新
しい価値の創造”にも繋がっていると言えるだろう。
企業文化室からは、そもそも社内に文化部門を置くことからもいかに資生堂が文化・伝
統というものを重視しているかがよくわかる。上記でも述べたとおり、同社にとって文化
とは経営資源となりえるほどの大きな価値であると言える。
逆ピラミッド型組織であることは、常に「お客様」を基準に考えるという店頭基点の精
神を形に表したものであり、顧客重視の精神を改めて強調していることがわかる。
同じく店頭基点の理念から生まれた I do.資生堂のスローガンからは、“私が資生堂を創
る”という社員一人一人の自立の精神が表されている
③基本的仮定
上記で述べた人工物、価値を生み出す前提とも言える、社員すら意識していない資生堂
の仮定を、私達は“資生堂が美を創る”と考えた。一見、化粧品会社として当たり前のこ
とのように感じるが、だからこそ仮定なのである。ここで重要なのは、“資生堂が”という
点である。そこには、常に資生堂から美を発信し続けるという意味が含まれている。それ
は常に美の最先端を行くことで同社が創り上げてきた美的文化によって裏付けられている
だろう。そしてここでいう美も、化粧品だけでなく、文化、芸術など我々の生活を彩る美
に関する多様なものを意味している。つまり、
“資生堂が美を創る”とは、いつの時代も資
生堂が我々の美を創造していくという意味である。
2-3
ブランド・アイデンティティとの比較
以上に示した組織文化とブランド・アイデンティティの要素を本研究の分析枠組みに照ら
し合わせてみたのが、表 1 である。一致度を分析すると、組織文化とブランド・アイデン
ティティは一致していることがわかる。
表 1:現在の資生堂の比較分析
ブランド・アイデンティティ
組織文化
東京銀座資生堂・花椿マーク・雑
さん付け運動・服装の自由・
誌花椿・ハウスオブ資生堂
企業文化部・逆ピラミッド型組織・
I do.資生堂
高級感・信頼感・トレンド感
美の発信源
創造性・
文化・伝統重視・顧客重視
私が資生堂を創る
美的生活創造企業
資生堂が美を創る
図示中の○は意味の一致を表すものである。
まず、ブランド・アイデンティティと組織文化を対置させて比較していく。その際、表
層の拡張アイデンティティと人工物はそれらだけでは意味を成さないものであるため対象
外とし、中層のコア・アイデンティティと価値、深層のブランド・エッセンスと仮定のみ
を比較する。
コア・アイデンティティと価値を見比べた際、言葉の表現としては同一ではないが、そ
の意味性を見比べるとほぼ一致していると言える。例えば、コア・アイデンティティの信
頼感は、価値の顧客重視と意味を同じくしている。顧客を重視することは、常に顧客の声
に耳を傾けることであり、顧客を中心に経営を行うことと言えるだろう。これは同社の店
頭におけるカウンセリング活動からも見て取れる。店頭カウンセリングとは、お客様に適
した無料のお手入れサービスの提供を目的としたものであり、売り上げに直接反映するも
のではない。しかし、同社は店頭のビューティー・コンサルタントの評価基準を、売り上
げではなくお客様との対応回数や、お手入れ回数の頻度に置くことで、より店頭での「お
客様の喜びを目指した販売」を実現していると言えるだろう。そして、そういった活動は
顧客にとって、販売目的ではなく自分のためのものであるという意識となって伝わり、よ
り同社に対する信頼感へと繋がっていく。よって、信頼感と顧客重視は一致とする。また、
私が資生堂を創るという価値も、社員一人一人が顧客に対して責任感を持つという意味を
含んでいることから、信頼感と一致していると言えるだろう。
コア・アイデンティティの高級感は、文化・伝統重視という価値によって生み出された
ものとして、一致と考える。同社の持つ文化・伝統を表すものとして、例えば伝統的な
「SISEIDO」という斜体の欧文ロゴがあるが、それは当時にはまだ新しい西欧風を意識さ
せるもので、当時の人々に高級なイメージを与えるものであった。前述の花椿マークのア
ールデコ調も同様である。そしてまた、分析の過程で、文化・伝統重視という価値は、そ
の当時の高級感というイメージをブランド・アイデンティティとして維持するための価値
でもあることがわかり、お互いが相互作用していることがわかった。
そしてトレンド感、美の発信源というブランド・アイデンティティは、創造性という価
値と一致すると考える。常に先進性を持った美的文化を発信してきたことからもわかるが、
同社の創業からの理想である“新しい価値の創造”という精神は、組織の中で息づいてお
り、それが文化、製品といったものを通して、顧客にトレンド感、美の発信源といったブ
ランド・アイデンティティとなって提供されているのではないだろうか。よって、一致と
する。
このようにコア・アイデンティティと価値を見比べた時、互いに大きな剥離がなくその
意味性においてほぼ同質であり、一致していると言えることがわかった。
次にブランド・エッセンスと仮定を比較する。美的生活創造企業というブランド・エッ
センスと資生堂が美を創るという仮定は、その意味性において、常に資生堂が美を創造し
発信していくという点で同質であり、一致している。
以上、現在の資生堂のブランド・アイデンティティと組織文化を比較分析した結果、こ
の二つはその行動の意味性にとしての性質においてほぼ一致していることが検証できた。
故に、D・A・アーカーの述べるブランド・アイデンティティの内外への正しい伝達が為さ
れていると言える。つまり、ブランドと文化の一致によって、資生堂のブランドは競争優
位の源泉となりえているのである。
第3節
不一致分析
では、ブランドを競争優位の源泉とする資生堂の危機的時期、ブランド維持を妨げかけ
た不一致の兆候とはどのようなものだったのか。またその要因は何だったのか。以下で、
資生堂の危機的時代について説明し、それについて論じていく。
3-1
資生堂の危機
表向きには常にトップの位置にあった資生堂だが、実は社内では資生堂存続を危ぶまれ
たほどの危機的時代があった。
高度経済成長と共に躍進してきた資生堂は、1952 年に化粧品業界でリーダーのポジショ
ンを獲得してからは毎年二桁の成長を続け、ピーク時には、その市場シェアは約40%に
もなった。しかし、オイルショックを機に資生堂の成長にも陰りが見え始め、物を作れば
売れる大量消費の時代は終焉し、量より質が求められる時代となっていった。しかし資生
堂は依然と大量生産・大量販売を追い続け、その結果、大量の市場在庫を抱えることとな
った。社内でも、このままでは市場在庫の処理による大きな弊害がもたらされることは明
らかだったが、資生堂の社員は高度成長の中で育った世代が大半を占めていたため、あえ
てリスクをおかして行動を起こそうとはしなかった。
このような危機的状況に陥った原因は、大企業病ともいえる組織風土の堕落によるもの
である。高度成長期の成功によって、社内には“作れば売れる”という慢心が生まれ、製
品は必ずしも顧客のニーズを取り入れたものではなくなっていった。また何層もの管理職
による階層は意思決定を遅らせ、責任の不在をあいまいにし、社員の自立心を低下させて
いった(慶應ビジネスレビュー2004)。
3-2
組織文化とブランド・アイデンティティの不一致
この危機的時代の組織文化と、隆盛期の時期から変わらず顧客に約束を続けているブラ
ンド・アイデンティティの要素を本研究の分析枠組みに照らし合わせてみたのが、表7で
ある。一致度を分析すると、組織文化とブランド・アイデンティティには不一致の兆候が
あることがわかる。
図示中の×は意味の不一致を表すものであり、△は一致と不一致の両方がある状態を
表すものである。
ブランド・アイデンティティ
組織文化
東京銀座資生堂・花椿マーク・雑
誌花椿・ハウスオブ資生堂
多大な市場在庫・何層もの管理職
顧客ニーズを反映していない商品
高級感・信頼感・トレンド感
作れば売れる
美の発信源
事なかれ主義
表 2:危機的時期の
資生堂の比較分析
美的生活創造企業
美を作る
では、その危機的時期の組織文化と、変わらないブランド・アイデンティティについて
比較しながら不一致の兆候を見ていく。危機的時期の文化を分析すると、今まであった人
工物に、多大な市場在庫、何層もの管理職、顧客ニーズを取り入れていない製品などが加
わり、価値も大きく変わっている。多大な市場在庫、顧客ニーズを取り入れてない製品は、
作れば売れるという価値が表出したものであり、何層もの管理職によって生まれた事なか
れ主義はそれらに拍車をかけたと考えられる。それらが蔓延することで、今までの価値で
あった先進性や、顧客重視の精神は薄れてしまったと言えるだろう。そのような価値が習
慣化してしまうと、仮定にも変化が起こる。この時期の資生堂の仮定は、先進性、創造性
が欠落し始め、ただ化粧品を作り提供するといったものになっていたのではないか。
ブランドと比較分析すると、信頼感、トレンド感、美の発信源といったコア・アイデン
ティティと、顧客を見ていない“作れば売れる”、官僚的意識という価値は大きく剥離して
いると言える。したがって、価値とブランド・アイデンティティは不一致となっていると
言える。
美的創造企業というブランド・エッセンスと美を作るという仮定は根本部分の美の提供
という点では一致しているが、先進性、創造性が欠如し始めたように、次第に不一致の兆
候が現れ始めていたといえるだろう。
3-3
不一致部分の要因
では、資生堂の組織文化とブランド・アイデンティティが不一致になってしまった要因
は何なのだろうか。私達は、それについて分析を進めた結果、タイムラグの発生が要因で
はないかと考えた。以下、それについて詳しく説明していく。
資生堂は高度成長期の成功によって、国内化粧品業界で不動のブランドを手に入れたと
いえる。しかしその成功によって、時間と共に社内ではブランドを笠に着た風潮が生まれ
てしまったのではないか。NO,1 ブランドの知名度、信頼度の高さによって、商品の良し悪
しに関わらず、顧客は「資生堂である」という理由で商品を購入するようになり、その現
象は社内に「作れば売れる」という慢心を生んでしまったと考えられる。つまり、最盛期
のブランドが顧客に認知され、そのアイデンティティを約束している間、組織文化は徐々
にそのブランドの影響を受けて変化していったと考えられる。しかし、表向きのブランド
は基本的に変化していないため、堕落した文化が人工物へと表層化するまでの間、顧客は
おろか、社内でもはっきりとした認識がないまま変化が進んでしまい、その結果として多
大な在庫や顧客のニーズを反映していない商品といった人工物に表層化した時初めて、価
値や価値観の変化による組織文化ともっと以前に作られていたブランドの剥離による、ブ
ランド失墜の危機を感じたのではないだろうか。私達は、ブランドが作られた時の組織文
化と、変化した組織文化が不一致の兆候として表層化するまでの時間差を「タイムラグ」
として、ブランド・アイデンティティと組織文化の不一致の要因と考えた。
3-4
不一致から一致への転換
資生堂は、この不一致の兆候に気付いた時、ブランド失墜の危機へと陥る前に、福原社
長のリーダーシップの下で抜本的な改革を行ったと言えるだろう。この改革によって、資
生堂は不一致になりかかっていたブランド・アイデンティティと組織文化が完全に不一致
となってしまう前に、二節で論じた一致へと転換させたと言える。
また、二節の一致分析からわかるように、資生堂はこの不一致から一致への改革によって、
顧客重視や創造性といった、不一致の時期に薄れていった価値を再重要視するというよう
な、ブランド・アイデンティティを維持するための組織文化を築き上げていったことが考
えられる。そして、それによってブランド・アイデンティティと組織文化のより強固な一
致が行われているため、現在も競争優位の源泉として、強いブランドを維持できていると
いえるだろう。
3-5
まとめ
以上、資生堂のケースを見ていくことで、二つのことが論証できたと言える。一つ目は、
資生堂はブランド・アイデンティティと組織文化が基本的に一致していることによって、
ブランド・アイデンティティが正しく内外に伝達されている、ブランドを競争優位の源泉
とするブランドの強い企業であるということである。
二つ目は、資生堂の危機的時期には、文化とブランド・アイデンティティは不一致の兆
候を示しており、その原因はタイムラグにあったということである。
第3章
第1節
1-1
ケース:オリエンタルランド
東京ディズニーランドとオリエンタルランド
はじめに
東京ディズニーランド(通称 TDL)は1-2で述べる3つの要素から成り立つ「夢世界」
という価値を提供している。そして、その価値を維持しているのが TDL の運営主体である
オリエンタルランド(通称 OLC)である。
OLC はゲストへの約束である価値を果たす機能として様々な工夫を行っている。これは
すなわち、TDL に強いブランド力があり OLC がそれを裏付けているのではないかと我々
は考える。実際に日経BPコンサルティング社の消費者2万人以上対象のブランド調査「ブ
ランド・ジャパン2003」では2002年に続き総合2位、女性についてはすべての年
代で第1位となっており、強いブランド・アイデンティティを持つケースとして TDL を選
び、ここに、
「TDL の背後に存在する OLC」も含めて事例研究を行うことにする。
1-2
TDL のゲストと価値
TDL は 1983 年の開園以降、世界有数のテーマパークとしての地位を維持しつづけてい
る。来園者数は東京ディズニーシーとの合算データでしか知ることはできないが、2004 年
度上半期(4 月 1 日~9 月 30 日)の 2 パーク合計来園者数は約 1,200 万人を記録し、世界
一の来園者数を誇っている。(OLC 公式 HP)
その中で、TDL の来園者(これを専門用語としてゲストと呼ぶ)は、以下の資料が示す
とおり、そのほとんどが「大人(この場合は大人チケット購入者である 18 歳以上とする)
の女性」
(図8参照)で、しかも 9 割以上がリピーター(図9参照)となっている。ここを
訪れた大人の9割がリピーターとなるという事実は、TDL がゲストを強くひきつけるなん
らかの価値を提供しているということを示しているのではないだろうか。
図4:来園者比率
出所:オリエンタルランド公式HP04年09月18日付
図5:ゲストの来園回数比率
8.8% 6.1%
31.5%
53・6%
2 ~9回
1 0~2 9回
3 0回以上
初めて
1995 年度
16.4% 2.7%
39.4%
41.5%
1999 年度
引用:粟田房穂(2003)『ディズニーリゾートの経済学』p.105
TDL がゲストを引き付ける価値とは一体何か。それは、
「夢世界」であると考える。そも
そも TDL とは、いつでも何度行っても期待を裏切られることなく、安心や驚きとともにデ
ィズニーという現実離れした世界を体感することができる場である。そういった世界を、
ここでは「夢世界」ということばで表すこととする。
この「夢世界」は3つの要素から構成されている。それは、「変わらないこと」、
「変わり
続けること」、「隔離された世界」である。変わらないこと、変わり続けることという価値
は一見矛盾しているように見える。しかし、「変わらないこと」というのはパークや物自身
が変わらないということと、TDL を訪れたゲストが感じる感動が変わらないということを
含んでいる。そうすると、変わり続けることはゲストの感動が変わらないことを保つ一要
素であるため、TDL の価値はこれら3つの要素を包含したものだといえる。
(山田眞 2002)
まず1つ目の「変わらない」価値とは、以前受けたサービスやパークで感じた感動がい
つ訪れても変わらずそこにあるという安心感をゲストが抱くことを示す。たとえば、パー
ク内の居心地の良さを保つために行っている「エイジング 9 」やキャスト 10 がディズニーフ
ィロソフィー 11 、SCSE 12 という価値を共有していることで、常にゲストへの丁寧な接客が
エイジング:パーク内の建物外観を設定した築年数どおりに保つ(山田眞 2002)
ゲストとキャスト:パーク内にいる従業員をキャスト、入園者をゲストと呼ぶ。(慶応ビジネ
スレビュー2004)
11 ディズニーフィロソフィー:TDLにマニュアルは存在せず、すべてこの、ウォルト・ディズ
ニーの哲学であるディズニーフィロソフィーに則った対応が教育されている。これもまた書物は
存在せず、理念や精神といった概念的なものである。
「夢を見ることができれば、それは実現で
きる」
「我々は、決して忘れないのです。すべての始まりが 1 匹のねずみだったことを」などと
いったものがこれに相当する。これをキャストに浸透させるため、ディズニー・ユニバーシティ
という教育機関が存在する。(慶応ビジネスレビュー2004)
12 SCSE:キャストの行動基準であり、Safety(安全性)
、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(シ
ョー)
、Efficiency(効率)の頭文字をとったものである。(慶応ビジネスレビュー2004)
9
10
心がけられていることによるものである。
次に、「変わり続ける」というのは、ゲストに常に新鮮な驚きを与えることを示す。期間
限定のショーイベントやパレード、断続的な設備投資によるアトラクションがこれに挙げ
られる。
最後に隔離された世界というのは、ショーが参加型であることや、キャストは定められ
たテーマエリアから出ないこと、舞台裏を徹底的に見せないことによって、現実とはかけ
離れたディズニーだけでの世界を演出していることで成立している。
TDL はこれら3つの要素から成り立つ「夢世界」という価値をゲストに提供している。価
値を見ていく中で価値を提供し維持するために様々な工夫があることがわかった。その工
夫を行っているのが、TDL の運営主体、OLC である。
1-3
オリエンタルランド
OLC は 1961 年、京成電鉄と三井不動産の出資によって設立された。事業目的は舞浜海
面を埋め立てて大規模なレジャー施設を建設することだった。「舞浜に東洋一の楽園を作
る」という構想の下に動いていたところ、米ディズニーと出会ったのである。その後、1974
年に最初の交渉を開始、翌年に舞浜沖の海面埋め立て造成工事を完了させるなど、計画は
着実に進んでいった。そして 1979 年、ついに、「東京ディズニーランド」のライセンス・
設計・建設及び運営に関する業務提携の契約を締結した。1981 年に着手した TDL 建設工
事も無事に完了し、1983 年、TDL は日本において日の目を見たのである。
(加賀見俊夫 2003)
現在、OLC は TDL を初めとした東京ディズニーリゾート事業を手がけており、当初の
目的どおりに舞浜におけるテーマパーク事業を進めている。また、日本におけるディズニ
ー版権を独占しているという強みを持った企業といえる。
第2節
ブランド・アイデンティティと組織文化分析
ここでは、TDL のブランド・アイデンティティと OLC の組織文化との一致度を測る。
まず、D・A・アーカーの枠組みに沿って、TDL の拡張アイデンティティ、コア・アイデン
ティティ、ブランド・エッセンスについて考察する。次に E・H・シャインの枠組みに沿っ
て同社の人工物、価値、基本的仮定について考察する。その上で双方の一致度をみていく。
2-1
ブランド・アイデンティティ分析
①拡張アイデンティティ
拡張アイデンティティとは、ゲストがこれを通して価値を感じるものであるため、前述
した価値への工夫と多少重なる部分が
あるが、細かく見ていくこととする。
まず、TDL のパーク全体が総じて拡張アイデンティティである。その中にはアトラクシ
ョンや建造物をはじめ、ミッキーマウスなどのディズニーを象徴する様々なキャラクター、
ゲストとキャストという制度(呼び名)、ショーやイベントも含まれ、先述した「変わらな
いこと」を保つ要素でもある。
パーク内はテーマごとにエリアが分割されており、それぞれ強いストーリー性を持たせ
てある。キャストの衣装はアトラクションごとに異なっているし、ストーリー性を破壊し
ないためにキャストは定められたエリアを出入りすることは禁じられている。ほかにも、
エリアごとで流される音楽やキャラクターの出現個所はそれぞれ決まっている。また、エ
レクトリカルパレードやステージでのショーも、常に行われているという事実として存在
している。
しかし、パークやアトラクションは「変わらないこと」だけでなく、増設されていくア
トラクションによってパークが変化していくこともあるため、「変わり続けること」という
要素も持つ。
また、ステージでのショーも同じく2つの要素を持つ。ショーは一定期間で行われる内
容が変わり、さらにイベントは、代表的なものでいえばクリスマスやお正月、ハロウィー
ンイベントなどのようにおよそ 2 ヶ月単位で季節ごとに行われる。これらは「変わり続け
る」という要素を持つ。しかし、もう一方で、常に何かしらの変化するイベントが行われ
ること自体が、ゲストの感動が「変わらないこと」を保つ要素としての意味合いを持つも
のなのである。
②コア・アイデンティティ
ショー、イベント、アトラクションといった拡張アイデンティティによって、ゲストは、
様々な価値を提供されていることとなる。
まず、パークの中からは外の景色が見えない造りであることで意識は現実世界から切り
離され、ゲストとしての扱いを受けたり参加型のショーに身を投じたりすることによって、
ディズニーとの一体感を味わうことができる。さらに、確立されたストーリー性やキャラ
クターによって作られた世界を体感することで、ゲストは現実を忘れてディズニー世界に
陶酔することができるのだ。(山田眞 2002)
また、TDL では大人も子供もみなその国の住人になったように楽しんでいる。とくに大
人は TDL の外では恥ずかしくてできないようなグッズをつけ、帽子をかぶりまるで子供の
ようにはしゃいでいる。これは現実から切り離された夢と魔法の王国という別世界を作り
出していること、また、キャストは大人にも子供にも同じように接することによって、TDL
内では周りを気にすることなくはしゃぐことができるのである。
いつでも変わり続けるアトラクションやショー、サービスによってゲストは前回訪れた
時とは違った体験ができるので、何度訪れても飽きることなくいつでも TDL の世界を楽し
むことができる。さらにいつでまでもパークの雰囲気が変わらないこと、アトラクション
やショーへの驚きが変わらないことで、何度訪れても以前と同じ感動を味わうことができ、
子供のころと同じようにわくわくできるのだという期待を抱かれている。
以上、「現実とは別世界にいる感覚」「子供に戻れる」「いつ訪れてもわくわくする」の
3つがゲストの感じる価値であり、コア・アイデンティティである。
③ブランド・エッセンス
いつ訪れてもわくわくし、そこに行けば子供に戻れるような現実には存在しない別世界
とはどんな世界であろうか。すべてがカラフルで、そこにいる人々は笑顔でやさしく接し
てくれ、悲しさや汚い部分がないなど、TDL には子供のころにこんな世界があったらいい
なと夢見て想い描いていた理想が詰まっているのではないかと思う。子供も大人も TDL の
作り出す「夢」を見ることを望んでいるのである。そして、その夢を体現した TDL という
夢世界を提供することがブランド・エッセンスとなるのである。
2-2
組織文化分析
①人工物
まず、先に述べた SCSE はゲストに対するキャストの行動として表れる人工物とするこ
とができる。それを浸透させるための教育機関であるディズニー・ユニバーシティの存在、
マニュアルが無いことなどが挙げられる。
次に、スポンサー対象のVIP Roomである Club33(thirty-three)13 の存在があげられる。
また、スポンサーの要望に応じてテーマエリアの各所に専用のスポンサーラウンジ 14 も存在
している(講談社 2004)。これに共通して、アトラクションに記されていたりパレードで大
きく掲げられていたりするスポンサーネームの看板なども、ひとつの人工物であると見て
取ることができる。
②価値
価値として最初に大きく上げられるのが、ゲスト満足である。ゲストに不快な思いをさ
せることのないよう、常に心から楽しんでもらえるよう、そういった意識も含めたゲスト
満足への意識が最大の価値といえる。これを支えているのがディズニーフィロソフィーと
いう概念的なものである。これは明文化しているものではなく、キャストひとりひとりの
考え方や行動に浸透しているものであるため、価値ということができる。このようにはっ
きりとした行動指針があるためマニュアルは必要無いのである。
しかし、文化の中に根付いているのはそれだけではない。資金の源泉となるスポンサー
を重視するという姿勢は、裏に設置するラウンジなどを見ても明らかである。
③基本的仮定
Club33:スポンサー関係者が利用できるラウンジ。TDLパーク内で唯一飲酒が可能であり、
会費制ということもあり、その場所や存在も通常は秘匿されている。(TDR研究会議 2003 )
14 スポンサーラウンジ:スポンサー企業がお得意様の接待などに利用するために自社が提供し
ているアトラクション内部に作られた部屋である。ここでは好きなドリンクを飲むことができ、
飲み終えたところでおもむろにアトラクションへと案内されるという。(TDR研究会議 2003 )
13
基本的仮定は二つの要素から成り立つ。まず、ゲストに夢を提供するために「夢世界」
をパークを通して構築しなければならない。次に、その「夢世界」を維持し、発展させるた
めに、継続的に投資を行う必要がある。「夢世界」を維持するためには、スポンサーの協力
が不可欠なのである。したがって、OLC は、ゲストが心から満足する夢世界を提供すると
同時にそのための資金を集めるといった経営的観念も持たねばならない。基本的仮定とは、
この二つを総合して、「夢世界の構築・存続」と表すこととする。ディズニーフィロソフィ
ーとしての、夢のあくなき追求と、それを事業として成り立たせて継続させるためのビジ
ネスマインドの双方が融合したものとして捉えられる。
2-3
組織文化とブランド・アイデンティティ
以上に示した組織文化とブランド・アイデンティティの要素を本研究の分析枠組みに照
らし合わせてみたのが、表3である。価値観と基本的前提について一致度を分析すると、
不一致の要素が存在することがわかる。
表3:OLC の比較分析
ブランド・アイデンティティ
組織文化
パーク、キャラクター
VIP Room(33,ラウンジ)
ショー・パレード
スポンサーネーム
季節ごとのイベント
SCSE
現実とは別世界にいる感覚
スポンサー重視
いつ訪れてもわくわくする
ゲスト満足
子供に戻れる
夢世界の提供
夢世界の構築、存続
まず、価値についてであるが、ゲストは TDL では夢が見られることを期待して訪れてい
る。TDL の提供する「現実とは別世界」
「ディズニー世界を体感」を感じることでゲストの
夢を見たいという望み、期待は満たされるので、それは「ゲスト満足」につながるもので
あるといえる。つまりゲスト満足とコア・アイデンティティは共通しており、そこには相
互作用が働いているといえる。しかし、そこに「スポンサー重視」という価値が入ってく
ると、ゲストの感じる価値とはかけはなれたものとなってしまうのではないだろうか。
「夢」
を実感するのにそういった商業的な匂いは現実に引き戻されるきっかけとなり得るため、
むしろ邪魔となるものである。
次に、基本的仮定についてみてみよう。夢世界を現実のものとして提供するにはハード
にもソフトにも資金が必要となる。ハード面では、パークの施設やショー、商品であり、
季節やイベントごとに模様替え、入れ替えなどが行われる。ソフトとはキャストの教育で
ある。加賀見俊夫社長の言葉に「100-1=0」というものがあるが、これは99人の
キャストに良質なサービスを受けたとしてもたった1人のサービスが不快であったならば
ゲスト満足はゼロになってしまうという意味である。(週刊東洋経済 2002)
この言葉はキャストひとりひとりに TDL の提供するサービスとは何であるかを理解、徹
底させることの重要性を示している。そのためオリエンタルランドはキャストの研修施設
自体にお金をかけ研修環境を整える工夫をしている。このように「夢世界の提供」のため
に資金を集めその構築と存続を考えるというのは一致していると言える。しかし、夢世界
の提供のためとはいえ、スポンサー重視や採算重視という概念が価値に落とし込まれてい
る以上、根底の二者も一見するところ類似していても、完全に一致しているとは考えにく
い。
このような不一致(一致ではない)状況が存在しているということを、分析の結果、見
ることができた。
2-4
不一致部分の原因の仮説
ではこの不一致部分の原因はなんであるか。結論から先に述べると、それは、部分文化
(下位文化=サブカルチャー)の生成に起因していると考えられる。
通常、TDL を支える従業員として思い描くのは、パークで働くキャストである。しかし、
TDL というテーマパークを運営し、
「夢世界の構築と維持」に携わる従業員として、新たに
正社員、契約社員という存在が不可欠であることが明らかにされたのである。
オリエンタルランド(OLC)における採用形態は 3 つある。ひとつは新規学卒者を募集
対象とする正社員、そして契約社員、準社員(アルバイト)である。正社員は主に OLC 内
部で働く社員のことであり、契約社員は TDL や TDS での運営・管理が主な業務となって
いる。通常、TDL に訪れたときに接するキャストの大多数は契約社員もしくは準社員なの
である。(OLC 公式HP)
したがって、雇用形態から見ると、正社員(以下社員と記す)とキャスト(ここでは契
約社員と準社員を併せて呼ぶものとする)は別であると判別することができる。さらに、
それぞれの価値観に注目すると、正社員とキャストは、同じ組織で働く身でありながら異
なる文化を持っているようである。正社員のサブカルチャーとキャストのサブカルチャー
がそれぞれ存在するということである。
もっとも、社員が一人もパーク内に存在しないというわけではなく、社長自らキャスト
のチェックにパークを散策するなど、社員はキャストを指導することで彼らの要素を必然
的に内に持つこととなる。また、キャスト経験を踏まえた上で社員となった者もいること
から、社員の中にもキャストの要素は存在するといっていいだろう。
しかし今回、我々は、敢えて現場(パーク内)に携わっている者をキャストと定義し、こ
の 2 者の組織文化を 2 つのサブカルチャーとして見ることで再度分析し、不一致部分の原
因を改めて探ることする。
第3節
3-1
不一致分析
キャストの組織文化
①人工物
キャストの組織文化の人工物として、コミュニケーション・SCSE・Disney Look・テ
ーマエリアごとの衣装・毎日が初演などが挙げられる。
TDL に行ってみると、入るためにチケットを買うときにも、パーク内で飲み物や食べ物
を買おうとするときにも自動販売機は見当たらない。これは自動販売機が夢の国にそぐわ
ないからという理由が第一ではない。第一の理由は自動販売機が無いと言うことで、ゲス
トは常に店でキャストとのコミュニケーションをとって買い物をしなければならないから
である。つまりキャストはドリンク一杯でもキャストの手からゲストに、笑顔で目線を合
わせて手渡しをするのである。(小松田勝 2003)
また、挨拶も大切なコミュニケーションとされている。キャストはゲストに対して「い
らっしゃいませ」とは言わず、「こんにちは」と挨拶する。これは、「こんにちは」と言え
ばキャストからもあいさつが返ってくるからであり、このときもドリンクを渡すときと同
様に笑顔で相手の目を見て言うよう意識付けられている。もし相手が小さな子供のときで
も腰をかがんで相手の顔を覗き込むのではなく、ひざをついて目線を子供の位置まで落と
して話しかけている。(山田眞 2002)
コミュニケーションにはキャストとゲスト間で行われるものの他にキャスト同士で行わ
れるものがある。パーク内ではアナウンスを流す事が無く、キャストは無線で連絡を取り
合っている。アナウンスはパークの雰囲気を崩してしまうので、迷子探しなどもこの無線
を使い、アナウンス無しで瞬時にパーク内のキャストに伝えられる。パレードの運営時に
も同様に無線で連絡を取り合い、ゲストをすばやく誘導し、案内するのである。このよう
に無線を使うことによって広いパーク内でもゲストへの対応の速さが実現している。(慶応
ビジネスレビュー2004)
しかし、いくら無線を使っていてもチームワークが良くなければ一つ一つのサービスが
上手くつながることはない。そこで、キャスト同士のコミュニケーションを円滑にするた
めに、さまざまなオリエンテーションが行われている。ある一時期にオープン前の時間を
使ってチームワーク醸成という意味でそのロケーションごとのチームで、そういう競争を
させて優勝者にはそのカヌーのパネルというのを進呈するというものがある。また、キャ
ストが休憩するための「ブレークエリア」は利用する人の役職などによる差別が無く思い
思いに過ごせるので、ここの存在はキャストのコミュニケーションを円滑にするための大
切な場であるといえる。(小松田勝 2003 )
ディズニールック 15 とはゲストに違和感無くTDLを楽しんでもらうための、キャストの身
だしなみのことである。
「キャストの控え室の出入り口には鏡が置いてあり、ここからはオ
ンステージであるから身だしなみを整えようと意識させている」のだそうだ。(オンステー
ジとはパーク内。それ以外はバックステージという)
TDL はウエスタンランド、ファンタジーランドなどそれぞれのテーマに即して6つのエ
リアに分かれている。このエリアごとには建物の風合いや流れている音楽、また風景その
ものがそのテーマで統一されている。もちろんそこで働いているキャストもそのテーマに
合った衣装を着ており、そのエリアで働く人はそのエリアしか出入り禁止なので、基本的
にはパーク内を違うエリアの人が歩くなんてことはありえないという。
SCSE とは安全・礼儀正さ・ショー・効率性の頭文字をとったものであり、大事なのはそ
の順番である。この文字の並びは優先順位を表していて、キャストの守るべきものの中で
最優先となるのが安全性、最後が効率性である。
SCSE の中のショーの部分から生まれたものとして「毎日が初演」という言葉がある。
TDL のリピーターが多いということはデータで示されている通りだが、関東に住んでいる
人以外は年に何回も行くというのはなかなか難しいことである。キャストにとっては毎日
訪れる大勢のゲストであっても、その中には立地条件以外にも様々な事情で TDL を訪れる
のが難しい人もいるだろう。もしくは最初で最後になる人もいるのである。そのため、キ
ャストは毎日が初演という気持ちでオンステージに立っている。キャストは1日に何十回
と同じオペレーションを行わなければならないし、何年も働いているキャストには TDL で
働くことは日常になってしまいかねない。だからこそ毎日が初演ということが大切なので
ある。(山田眞 2002)
②価値
キャストとゲストのコミュニケーションが頻繁に行われること、またキャスト同士のコ
ミュニケーションが円滑であることによってゲスト満足を追求していることがわかる。な
ぜコミュニケーションがゲスト満足につながるのかというと、
「コミュニケーションをとる
ことはゲストの出会いの感動につながるもの」でありパークに招きともに時間を過ごす上
で大切なもの、「ゲスト」への正しい対応とされている。また、キャスト同士のコミュニケ
ーションが円滑であることによってゲストはいつでも満足のいくサービスを受けることが
可能になるからである。(小松田勝 2003)
TDL という裏の見えないパークの造りやテーマごとに分けて設けられたエリア、テーマ
とキャストの衣装との一体感が徹底されていることなどからは、現実の世界とはかけ離れ
た夢の世界を創り上げようとしていることがわかる。また、キャストという呼び方(その
中でも清掃員をカストーディアルと呼ぶこと)やエリアの雰囲気を壊さないこと、身だし
15
ディズニールック:簡素・上品・清潔・自然を原則とし、髪型から爪の長さや靴下の色、女
性には化粧法やマニキュアの色までも非常に細かく決められ、また徹底されているものである。
(小松田勝 2003)
なみをきちんとすることなどは、創り上げた夢世界の中にゲストが本当に入り込めるよう
に、現実世界に引き戻されないようにしていることがわかる。これはどんなゲストにも夢
を見せるということである。また、コミュニケーションからは、ひとりひとりにあいさつ
をすること、大人も子供も分け隔てなく接することなど、ひとりひとりを大切にしている
ということがいえる。これは SCSE の礼儀正さが優先されていることからもわかる。
また、SCSE のショー、「毎日が初演」ということからは、いつも新鮮な気持ちを持ち続
けゲストに接するという価値がキャストにあることがわかる。
以上「コミュニケーションがゲスト満足を生む」「ひとりひとりを大切に」「いつも新鮮
な気持ちを持ちつづける」の3つが価値である。
③基本的仮定
この3つの価値からわかる基本的仮定とはどのようなものだろうか。
TDL というきれいなパーク、きらびやかなショーなどで見せる夢は作り物であるが、そ
こに人との出会い、感動をプラスすることでそれは本物の夢となりゲストの心に刻まれる。
パーク内でのコミュニケーション、ひとりひとりがゲストとしてもてなされることは出会
い、そして感動を生む。(小松田勝 2003)しかもそれが常に新鮮な気持ちで行われることで
ゲストはいつでも感動を味わえる。ゲストはこの感動で本物の夢世界に入り込むことによ
って幸せになれ、多くのリピーターはその幸せを求めて TDL を訪れていると考えられるの
で、キャストの基本的仮定は「ゲストは感動によって幸せになれる」というものであると
言える。
3-2
ブランド・アイデンティティとの比較
以上に示したキャストの組織文化とブランド・アイデンティティの要素を本研究の分析
枠組みに照らし合わせてみたのが、表4である。一致度を分析すると、キャストの組織文
化とブランド・アイデンティティは一致していることがわかる。
表4:キャストの組織文化との比較分析
ブランド・アイデンティティ
キャストの組織文化
パーク、キャラクター
コミュニケーション・SCSE
ショー・パレード
ディズニールック
季節ごとのイベント
テーマエリアごとの衣装・毎日が初演
現実とは別世界にいる感覚
コミュニケーションがゲスト満足を生む
子供に戻れる
いつ訪れてもわくわくする
夢世界の提供
ひとりひとりを大切に
いつも新鮮な気持ちを持ちつづける
ゲストは感動によって幸せに
なれる
まず、コア・アイデンティティと価値の部分であるが、コミュニケーションによって「ゲ
スト」として扱われること、また、ひとりひとりが大切にされることなどは現実世界にお
いて一瞬は感じることがあっても TDL のように1日中どのキャストに会ってもそのような
サービスを受けるというのはほぼありえない状況である。そのため、
「現実世界を感じない
でいられる」のであり、このコア・アイデンティティと「コミュニケーションがゲスト満
足を生む」「ひとりひとりを大切に」という価値は一致しているといえる。
また、「ひとりひとりを大切に」とは大人も子供も関係なく楽しめるよう、差別すること
なくキャストが接することである。それによって大人は子供に戻ったように楽しむことが
できるため、
「ひとりひとりを大切に」という価値は「子どもに戻れる」というコア・アイ
デンティティと一致する。
「いつも新鮮な気持ちでいる」とは価値の説明の中では最初で最後になるゲストのため
にというものであったが、これはリピーターにとっても意味のあることである。なぜかと
いえば、ゲストは前回訪れた時に受けたサービスがとても満足のいくものであればそれが
その人の中の標準となってしまう。そして次に訪れたときはどのようなことをしてくれる
のだろうと期待をするようになる。つまり、キャストは常にこの期待値を超えるサービス
を提供しなければゲストを感動させることはできないのである。そのため「いつも新鮮な
気持ちを持ち続ける」ことでゲストはいつでも感動でき、
「何度訪れてもわくわく」できる
のであり、この部分でも価値とブランドのコア・アイデンティティは一致している。(小松
田勝 2003)
次に、基本的仮定とブランド・エッセンスであるが、「夢世界の提供」というブランド・
エッセンスと「ゲストは幸せを求めている」という基本的仮定は言葉としては一見異なっ
ている。しかしながら、ゲストは何を求めて TDL へ行くのかといえば夢を見るためである。
そして夢の世界を体験することで「感動し幸せを感じる」のである。そのため、ゲストは
幸せになりたいのだという基本的仮定と、幸せにする場の提供=夢世界の提供というブラ
ンド・エッセンスは一致していると言える。
3-3
社員の組織文化
①人工物
社員の組織文化のうち、人工物として挙げられるものはスポンサーラウンジ・Club33・
有料になったサービス・採用基準・継続的な追加投資・新たなイベントの企画などである。
パーク内の各アトラクションやショーなどいろいろな施設に出資した企業がその施設に
スポンサーネームをのせることができる。スポンサーネームというのはゲストがパーク内
でアトラクションやショーを楽しんでいるときに見ると、企業同士のカネの部分が見えて
しまい夢世界にはふさわしくないように思われるが、それでもスポンサーネームを強調す
るような動きが現在あるという。
パークでは、スポンサー関係者のために設置された Club33というメンバーズクラブ、
スポンサーラウンジが存在する。
ゲストに対するものとしてはバースデーサービスの有料化があげられる。
「東京ディズニ
ーランドではバースデーサービスというものがあるが、以前はあまり多くのゲストには知
られていないものであった。その当時には無料でやっていたサービスであったが、これが
だんだんと知られてくるようになり有料のサービスになってしまった。また、バースデー
シールの配布というサービスも状況によっては難しくなってきた」という。(あるスポンサ
ー企業の方からのメール回答より)
OLC社員の採用基準 16 を見てみると、サービスマインド50%、ビジネスマインド50%
というものである。これはOLCの公式HPの採用情報に書かれているものである。ここから、
社員にはキャストのようにサービスマインド100%ではなく両者をかねそろえた人が求
められているということがわかる。
継続的な追加投資とは、TDL が開園当初から現在にいたるまでにアトラクションを増や
しつづけてきたことからわかる。ここ最近ではプーさんのハニーハントやバズ・ライトイ
ヤーのアストロブラスターなどである。また、ショーやイベントなども季節ごとに入れ替
えられている。さらにクリスマス期間中を例にとってもわかるようにパーク内の飾り付け
は同じテーマのイベントでも毎年違うコンセプトによって行われている。(加賀見俊夫
2003)
②価値
Club33・スポンサーネームの強調の動きからは「IRを重視している」ということ、
採用基準からは「経営色の強まり」という価値があることがわかる。これらはキャストの
ひとりひとりを大切に、平等に扱うという価値とは全く異なるものである。また、難しく
なったサービスや有料化といったものも営利企業としての予算の都合などを反映したもの
だといえる。
継続的な追加投資からは、TDL を常に変化させ、ゲストがリピーターとして何度訪れて
も飽きない、常に新しい発見や驚きを感じてもらうことでさらにリピーターとなってもら
いたいという価値が導き出せる。
③基本的仮定
スポンサー満足や経営色の強まり、資金集めといった価値からは企業は営利が第一とい
った基本的仮定が出てきてしまいそうだが、あとでも記述するように、これらはもともと
そういう仮定があったのではなく経営色がだんだんと濃くなってきたのだということに注
意してもらいたい。また、サービスマインドが50%必要とされていること、継続的な投
資によりゲストを飽きさせないことなどを含めると、資金収集・IR 重視は東京ディズニー
ランドという終わらない夢の世界を維持させるために、継続的な追加投資を行うことを目
OLC社員の採用基準に比べて準社員の募集要項は「夢を任されるチャンスは、ここにある。
」
というサービスを前面に押し出したものである。(OLC公式HP)
16
的としているので、基本的仮定は「夢世界を継続させる」ということができるのではない
か。
特に採用基準については、
「サービスの概念の裏には無償でという意味合いもありますが、
当然、企業として成り立つためには利益を上げなければなりません。そういう意味でも経
営管理的な数値を指標に使い、ビジネスライクにものごとを見ながらも、サービスマイン
ドはなくなってはいけない。そういう志があります。」ということから、現在その両立が求
められていることがわかる。
3-4
ブランド・アイデンティティとの比較
これらを以上に示したキャストの組織文化とブランド・アイデンティティの要素を本研
究の分析枠組みに照らし合わせてみたのが、表5である。一致度を分析すると、社員の組
織文化とブランド・アイデンティティには不一致の兆候があることがわかる。
表5:社員の組織文化との比較分析
ブランド・アイデンティティ
社員の組織文化
パーク、キャラクター
Club33・採用基準
ショー・パレード
有料になったサービス
季節ごとのイベント
継続的な追加投資
現実とは別世界にいる感覚
子供に戻れる
いつ訪れてもわくわくする
夢世界の提供
採算重視
I R重視
リピーターを飽きさせない
夢世界を継続させたい
まず価値とコア・アイデンティティであるが、ブランドが「夢を見られる」と言うサー
ビスマインドの強いものであるのに対して、文化は「経営色濃い、IR重視」というビジ
ネスマインドの強いものであり、この部分を見ただけでは一致しているとはいえない。
しかしながら、「継続的な追加投資」という部分では顧客獲得という価値を導けるもので
もあるが、継続的な投資によってパークはいつも変化しつづけ、今あるものを保つことを
可能にしている。つまりコア・アイデンティティの「いつ訪れてもわくわくする」や「現
実とは別世界」と一致する部分もあることから、価値の段階では一致する部分もあれば不
一致する部分もあることがわかった。
次に基本的仮定とコア・エッセンスであるが、サービスマインドが50%求められてい
ることなどから、社員の文化のなかで夢世界を提供するためにという部分は失われてはい
ないが、組織文化というものは価値が基本的仮定へと落とし込まれるものであるために資
金集めやスポンサー重視といった価値が落とし込まれつつあるといえる。そのため、ここ
でも価値のレベルと同じく、現段階では一致とも不一致とも言い切れない状態である。(一
致する部分も不一致する部分も両方あるので表では三角で表す。)
3-5
サブカルチャー分離の契機
もともとサブカルチャーというものはどこの企業にも存在しうる。OLC も企業であるか
らには創業当時から夢をみせるだけでなく、採算・経営を考える社員の組織文化はあった
であろう。しかしながら最近ほど経営色は強くは無かったと推測される。ではどうしてこ
のように社員の組織文化とキャストの組織文化がはっきりと乖離してしまったのだろうか。
それは1996年にオリエンタルランドが上場した(OLC 公式 HP)からであるという。
「もう上場してからは当然利益を追求いていかなければ株主達に申し訳ない、という立場
になって当然経営という色が濃くなってきた。
」と言う話からもわかるとおり、企業が上場
し、株主側から経営志向が求められたことにより社員側の組織文化が変化したのである。
これまで分析してきた組織文化とブランド・アイデンティティを並べてみると以下のよ
うになる。
図6:サブカルとブランド・アイデンティティ
社員組織文化
ブランド・アイデンティティ
キャスト組織文化
Club33・採用基準
パーク、キャラクター
自動販売機無し・挨拶
有料になったサービス
ショー・パレード
オリエンテーション
多額の投資
季節ごとのイベント
SCSE
Disney Look・テーマエリア
採算重視
現実とは別世界にいる感覚
コミュニケーションがゲスト満足を
I R重視
子供に戻れる
生む
リピーターを飽きさせな
いつ訪れてもわくわくする
ひとりひとりを大切に
い
夢世界を継続させる
いつも新鮮な気持ちを持ちつづける
夢世界の提供
ゲストは幸せを求めている
この図から、ブランド・アイデンティティとキャストの組織文化は一致しているが、社
員の組織文化とは一致も不一致もしており、基本的仮定まで不一致する部分があることか
ら、不一致の兆候があるのではないかということがわかった。
3-6
まとめ
組織文化とブランド・アイデンティティの不一致の兆候の原因がサブカルチャーにある
のではないかという仮説から、調査を進め、組織文化を社員とキャストの組織文化に分け
て分析した結果、キャストという、ショーとしてゲストに接する従業員の組織文化と、ス
ポンサーなどにも目を向けて TDL の運営を行っている社員の組織文化という異なる組織文
化が見えてきた。この二つの組織文化がはっきりと違う特徴を持つことから、やはり不一
致の兆候の原因はサブカルチャーにあることがわかった。
第4章
1-1
結論と結び
問題提起と結論
私達は、ブランド・アイデンティティと組織文化の関係についての研究を行うにあたり、
D・A・アーカーと E・H・シャインのモデルを使った相互関連モデルを導き、長期的競争
優位の源泉となるブランドを持つ資生堂とオリエンタルランドについて分析を行ってきた。
本研究における基本的な問題意識をもう一度整理すると以下のとおりである。
1.実際のブランド運営において、競争優位の源泉となるようなブランドを持つ企業のブ
ランド・アイデンティティと組織文化は一致するのだろうか。それとも、組織文化と、
その文化を持つ組織が作り出すブランドのアイデンティティの間には行動の理由とし
て食い違うという不一致があるのだろうか。
2.もしも不一致の兆候があるのならば、どこの段階で不一致が起きているのかを見て要
因を見つけることができるのではないか。
われわれは、これらの問題提起に対して、まず資生堂の現状分析により、このようなブ
ランドを持つ企業は、ブランド・アイデンティティと組織文化が一致していることを示し、
実際のブランド運営において、競争優位の源泉となるようなブランドを持つ企業のブラン
ド・アイデンティティと組織文化は一致することを導いた。その上で、資生堂の改革前の
分析、加えてオリエンタルランドの分析により不一致が存在するのではないかと考え、そ
の分析を通じ、タイムラグ、またはサブカルチャーによる組織文化の変化という不一致を
招く要因があるという結論も導いたのである。
1-2
タイムラグ
一致、不一致についての具体的な詳細は2章および3章の分析図より明確にされてきた
はずである。ここでは、何故タイムラグ、サブカルチャーはそれぞれ組織文化の変化につ
ながり、不一致を招く要因となるのかについて検討していこう。
タイムラグは資生堂のケースを通じて説明したような「時間差」を表していて、ブラン
ド・アイデンティティが変わらないにも関わらず、組織文化が時間と共に変化してしまい、
不一致を導いてしまうといった現象を説明している。資生堂の改革前では、外部には「高
級感」や「信頼感」をブランド・アイデンティティとして維持し続けたのに、内部では「伝
統」や「顧客重視」の価値観を忘れ、いつしか自分たちの出すものであれば全てに「高級
感」と「信頼感」がついてくるといった価値観が習慣化しつつあり、組織文化そのものを
変化させつつあった。それが「資生堂が美を創る」という組織文化の基本的仮定が「美を
作る」というものになっていたということである。(第2章表2参照)
ここで注意しなければならないのは、ブランド・アイデンティティよりも組織文化はよ
り流動的に、ふとしたことで変化をするということである。そして、なお悪いことにブラ
ンド・アイデンティティは競争優位を築いているものであればあるほど、変わらずに顧客
に約束をし続けるため、その乖離が始まっていてもはじめの段階での評判や収益などは、
そうさして変化がみられないということがある。外部の声で気付いたときにはもう完全に
組織文化は習慣化され、ブランド・アイデンティティとはまったく違う形で存在してしま
っていることになるのである。そうなればブランドの失墜は免れないだろう。つまりこの
ような危険性をはらむタイムラグという現象は、競争優位の源泉となるブランドを持つ企
業こそが陥りやすく、不一致を招く要因として十分に理解しておく必要があるといえる。
1-3
サブカルチャー
もうひとつの要因としてサブカルチャーによる組織文化の変化がオリエンタルランドの
分析から導くことが出来た。サブカルチャーとは同じ企業内で役職や職種において生まれ
てしまう異質な文化のことである。
何故、このサブカルチャーが組織文化の変化をもたらすかといえば、言うまでも無く組
織文化はサブカルチャーの集合体としてとらえられるものだからである。仮に赤と白の同
程度の2つのサブカルチャーがあれば組織文化は桃色になるだろうといったイメージだ。
これが何かの契機によってどちらかの力が強まったりすれば当然色合いも変わってくる。
赤が多くなれば以前よりも濃い色になるといった具合である。
オリエンタルランドについて言えば、常に顧客に接するキャストの文化と、それよりも
より経営側の立場にいる社員とには違いがあった。キャストは、顧客に夢を与えようと常
に「新鮮に」、「コミュニケーション重視」といった価値観で行動している。しかし、社員
は「採算重視」、「顧客をあきさせない」といった、ややビジネスマインドが価値観として
多くみられる。私達はこの差が広がったのは 96 年の上場に関係していると考えている。な
ぜなら、上場をしたことをきっかけに、今までキャストに近い文化を持っていた社員達が、
スポンサーなどをはじめとするステークホルダーの存在を気にかけ始めざるを得なくなっ
たからである。それ以前の文化はよりキャストの色が濃かったと考えるが、現在も以前と
変わりなく顧客と接するキャストと、そのような考えを持ちはじめた社員の文化の溝が深
まっていったのだ。その結果、全体の組織文化も夢世界の提供から夢世界の構築といった
ように少しではあるが、まぎれも無くサブカルチャーによる組織文化の変化が生まれたと
いえるだろう。
ここからは先ほどタイムラグで述べたことと話が似てくるが、この組織文化の変化によ
り、オリエンタルランドには現在の不一致の兆候が現れていると考えた。しかし、オリエ
ンタルランドも改革前の資生堂と同じく、非常に強力な長期的競争優位の源泉となるブラ
ンドを持っているため表面のブランド評価や業績といった部分にはまったくといっていい
ほど影響は見えない。しかし、ブランド・アイデンティティと組織文化の不一致の兆候が
続けば、近く現在の組織文化が習慣化され、基本的仮定まで浸食を受けた時に完全な不一
致となり、突然のブランドの失墜を招く危険性がある。実際に顧客と触れ合うのがブラン
ド・アイデンティティと一致した価値観を持つキャストなので、その影響は余計に感じに
くく、少ないのかもしれない。ただ実際は、私達の気付かないところでそのような変化は
起こり、もしかすれば顧客の中にもその変化に気付いている人もいるのかもしれない。こ
のようなことから、サブカルチャー同士の乖離が進めば、よりいっそうの組織文化の変化
を招き、ブランド・アイデンティティと組織文化の不一致に至る要因となる。よって私達
はこのサブカルチャーも不一致を導く要因として注意すべきだと考えるのである。
第2節
2-1
結び
この研究の適応範囲
ここまでこの報告書の内容とその結論を述べてきたが、この報告書の実務的なインプリ
ケーションを考える際に考慮すべき点が何点かある。
この相互関連モデルを一般化する場合、まずはブランドと組織文化は、共に数値のよう
な誰から見ても明らかなものではないため、非常に分析が難しいということを前提に分析
を行う必要があるということだ。
たとえば、組織文化の基本的仮定のレベルでの分析になれば、その組織内部の人間です
ら意識できない部分が多いため、より多方面からの詳細な調査が必要とされるだろう。
勿論、ブランド・アイデンティティについても、そもそも提供者が認識しているものと、
顧客が認識しているブランドのイメージを客観的にとらえられていない場合、この分析の
意味がなくなってしまう可能性があることを留意する必要がある。こちらがより分析を開
始する際、はじめに重要となる問題かもしれない。
私たちはこの二つのケースを取り扱うに当たって、この部分に十分な注意を払って分析
を行ったつもりではあるが、このような性質上、理解されづらい言葉があり、より自社内
で使われるような専門的な表現で置き換える必要があるということを考慮していただきた
い。
このような部分を考慮すれば、この相互関連モデルは、ブランド・アイデンティティと
組織文化の一致、不一致の示唆を十分に与え、そして不一致の兆候があらわれる不一致部
分からその要因を分析することも可能になるだろう。
次に、私たちは不一致を導く要因として、タイムラグ、サブカルチャーという二つのも
のを提示したが、これらは完全にその要因全てを網羅しているものではないということを
断っておかねばならない。それぞれの企業によって変化が起こる原因は、その経路依存性
から千差万別であり、言葉としての定義の問題上、全ての要因をこの二つだけに押し込め
ることは不可能だからである。
しかし、すでにある一定のブランド評価をうけている企業は、自発的かつ意図的にブラ
ンドを変えていく行動を起こしにくいことは想像に難しくないはずである。なぜなら、そ
れは自らの良いと褒められている部分を、自ら消し去ってしまうという危険性を多くはら
むことになるからである。このことから、ブランドの強い企業の不一致要因は、高い可能
性で組織文化の方から起こるということを導くことが可能となり、結論にあるような「長
期的競争優位の源泉となるブランドを持っている企業は、タイムラグ、またはサブカルチ
ャーによる組織文化の変化という不一致を導く要因がある」と言えるのである。
2-2
結び
今回の報告書は双方のケースにおいて、このような「長期的競争優位の源泉となるよう
なブランドを持つ」という立場からの観点で、それぞれの企業を例証するという研究にと
どめざるをえなかった。これは前述したように数値化できないといった、はっきりとしな
い要素が存在するため、より具体的な方法論の一般化に際しては、より詳細な分析と情報
を必要とするからということが影響している。つまりここで結論として出した二つの要因
をあてはめることはこの研究内容から可能であるが、全てを包括するような要因や、より
具体的な方法を考える際には、企業ごとにこのツールを使ってより細かな分析を行うこと
が、もっとも有効であると考えているからである。
序章でも述べたように、消費者に認知され生き残るブランドを持つことは、持続的な競
争優位を獲得するために有効な方法であるといわれている。しかし、逆にこのことは多く
のブランドマネージャーたちがそのような認知されるが為のブランドを構築することに躍
起になり、それを維持するといったような側面にはあまりとらわれなかった現実がある。
そのことが外の顧客とのマッチングを重視させるに至った原因であり、内なる側面とのマ
ッチングというものを避けていた節があったのではないかと考えられる。
ブランド・アイデンティティや組織文化などと眼に見えないものは、前述したように
互いにそれぞれが分析すること自体非常に難しく扱いにくいものである。しかし、だから
こそ私たちの、この D・A・アーカーのモデルと E・H・シャインのモデルを並べた相互関
連モデルは、有効性が高いと考えている。なぜなら、これまではブランドの観点から、組
織文化の観点から、と分けて論じられることが多かったこの二つのトピックの関係性を明
らかにしていくことは、この眼に見えないものをこれからの発展性のある議論、研究へと
つなげていくはずだからである。
例えば、まだ認知され生き残るかが不確かなブランドでは、外部環境の急激な変化によ
り、そのブランドが突然受け入れられなくなる可能性が発生しうる。そのためブランドを
変化させる必要がある場合もあるだろう。その場合、今回とは逆に組織文化を維持しなが
らのブランド変革といった事例をもとに分析することで、一つの指針が導けるかもしれな
い。同様にこの方法でブランドを強化する(構築する)という観点を掘り下げていけば、
これからブランドを強くしていこうという試みを持つ企業にとっても有意義な提言が出来
るものになりえるはずである。まだまだ応用範囲は広いはずなのである。
また、昨今の組織文化論ではトップとロワーで違った文化が存在していても、業績に関
する影響は無いというような、同一の文化を形成する必要は無いという、サブカルチャー
の存在を容認する定説が証明されつつあるが、ブランド論から組織文化を見たときにそれ
は必ずしも正しいというわけではないことが、暗にこの報告書では示されている。少なく
ともブランド・アイデンティティに対して、組織文化は一枚岩の同様な仮定を形成してい
るほうが、ブランドにとって良い影響を与えるであろうことは、オリエンタルランドのケ
ースによって証明したとおりである。
このような組織文化論への影響についても考えるきっかけとなる試みを行ったとともに、
この報告書を通じてブランド論の中に組織文化というものを加えたことで、ブランド論の
新たな一歩を書き記したことが私たちの研究意義であり、その試みを通じて私達も片方か
らの視点では見えなかったことがあることに気付かされた。
このように二つの関係を見出すきっかけを作ったことは、ブランドと文化それぞれの概
念における学問的、実務的フィールドにおいての発展可能性を大いにふくらませたといえ
るだろう。
参考文献・雑誌記事・HP
z
D・A・アーカー/阿久津聡 (2002)
「ブランドが組織と戦略を結合する」
『DHB』 2002.3
P68-79
z
D・A・アーカー(1997)『ブランド優位の競争戦略』ダイヤモンド社
z
D・A・アーカー(1994)『ブランド・エクイティ戦略』ダイヤモンド社
z
E・H・シャイン(1989)『組織文化とリーダーシップ』
z
E・H・シャイン(2004)『企業文化:生き残りの指針』白桃書房
z
J・B・バーニー(2003)『企業戦略論・上』ダイヤモンド社
z
メアリー・ジョー・ハッチ/マイケン・シュルツ(2001)「コーポレート・ブランドの
戦略的価値」
『HBR』 2001.7
P86-96
3章
z
青島矢一/加藤俊彦(2003)『競争戦略論』東洋経済新報社
z
野口智雄(1998)「ブランドバリュー最大化の条件」『DHB』1998.2-3
z
ア メ リ カ マ ー ケ テ ィ ン グ 協 会 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.marketingpower.com/
P96-103
(14/112/2004 付)
資生堂
z
清丸恵三郎(2004)「ブランド力」PHP 研究所
z
陶山計介(1993)『マーケティング戦略と需給斉合』中央経済社
z
野村裕之(2002)
「創業の原点に立ち返る」
『日経ビジネス』2002 年 6 月 10 日号 PP.98-101
z
細田孝宏(2000)
「資生堂
ブランド再編、世界に挑む」
『日経ビジネス』2000 年 15 日
号 PP.56-60
z
三田村蕗子(2001)「最前線
z
山田敦郎(2002)『ブランド力』中央公論新社
z
山本学(1990)「ザ「ニュー資生堂」マネジメント」ダイヤモンド社
z
「(株)資生堂-選択型人材育成制度―」『慶應義塾大学ビジネス・スクール』1993
z
中央大学総合政策研究科経営グループ 監修(2004)21 世紀日本企業の経営革新
化粧品業界知りたいことがスグ分かる」こう書房
「資生堂の経営革新とコーポレート・ガバナンス」
z
「資生堂福原義春社長の経営改革」
『慶應義塾大学ビジネス・スクール』2004
z
「ブランド戦略と広報」
(2001) 『経済広報』2001.03 P.10~13
z
資生堂ホームページhttp://www.shiseido.co.jp/(20/9/2004 付)
Jun
オリエンタルランド
z
粟田房穂(2003)『ディズニーリゾートの経済学』東洋経済新報社,p.105
z
加賀見俊夫(2003)
『海を超える創造力
z
小松田勝(2003)『東京ディズニーランド「継続」成長の秘密』商業界 P73-74
z
柴田むつみ(2004)「企業レポート
2004.3.20
P110-112
東京ディズニーリゾート誕生の物語』講談社
オリエンタルランド」
『週刊ダイヤモンド』
z
松崎泰弘(2002)「オリエンタルランド大研究
済』
20021.12
顧客本位は不況知らず」『週刊東洋経
P24-49
z
山田眞(2003)
『ディズニーランド流心理学「人とお金が集まる」からくり』三笠書房
z
対談「客を増やし続けるディズニーリゾート強さの秘密」『週刊ダイヤモンド』
2002.7.20
z
P36-39
「東京ディズニーランド-「夢と魔法の王国」の組織とそのリーダーたち-」『慶應義
塾大学ビジネス・スクール』
z
2004.3
日経メディアマーケティング株式会社
ブランド・ジャパン2004調査概要
http://www.nikkeimm.co.jp/service/marketing/branding/bj/con_bj.html ( 2/12/2004
付)
z
オリエンタルランド公式ホームページ
入園者数の統計
http://www.olc.co.jp/company/guest/index.html (18/9/2004 付)
z
オリエンタルランド公式ホームページ
準社員の採用情報
http://www.olc.co.jp/recruit/_2004contract/index.html(27/12/2004 付)
z
オリエンタルランド公式ホームページ
上場について
http://www.olc.co.jp/company/history/index.html
z
図ゲストの来園回数別比率
秘密』新潮文庫 P323-324
(27/12/2004 付)
TDR研究会議(2003)
『ディズニーリゾートの150の