雑誌広告によるファッションブランドイメージの伝達手法 森研究室 1、 研究背景と研究目的 不景気にも関わらず、ブランドブームは続き、 ファッションショップが次々と開き、消費者の「ブラ ンドモノ」の所有願望は衰えるところがない。ブラン ドブームの背景には、その商品の品質の良さだけでな く、そのブランドが「オシャレだ」というような流行 イメージが関わる。消費者が求めるイメージをブラン ドと結び付け、商品を販売するために、企業は様々な 広告活動を行っている。そして、雑誌閲読率の高い日 本では、雑誌媒体中心のファッション分野の広告が消 費者の購買に大きな影響をあたえていると考えられる。 ファッション広告には、一般的な広告の2要素であ るヴィジュアルとコピーのうちのコピーが除かれ、 ヴィジュアル自体も製作する写真家の芸術作品の傾向 が強い特徴がある。また、企業は販売戦略として、そ のブランドの商品を宣伝する以上に、企業の「ブラン ド」自体を宣伝し、イメージの良さや強さで築き上げ られる「ブランド価値」を高める広告をおこなってい る。ブランド構築のためのイメージ伝達の役割を担う ブランド広告の、ヴィジュアル表現の特性をさぐる。 2、 研究の流れ 文献より、 「ブランド」とは何かを知り、企業が「ブ ランド」として消費者に認知されるための戦略をまと める。広告活動の意義、雑誌媒体での活動内容を、文 献や統計より明らかにする。ブランドのイメージ形成が 販売戦略につながる理由を述べた文献・論文をまとめ、 イメージ伝達のための雑誌広告のあり方を考察する。 そして、19世紀後半からのブランド広告の変化をまと め、そのスタイルの特徴、他の商品の広告との違いを 明らかにする。また、現代ファッション広告の表現手 法を分類し、 イメージ伝達のためにどのような、視覚的 手法・効果を用いているかを考察する。その上で、 ファッション広告全体としての傾向と特徴を示す。 3 、 雑誌とファッションブランドの関係 ブランドの主要な役割・機能とは、 「識別(標識)機 能」 「出所表示・品質保証機能」 「意味付け・象徴機能」 (1) だが、消費者にとって「ブランド」とは、それ自体 の価値・品質・機能(素材、サイズ、価格等商品属性 を含む)を持ち、表層的に商品に付けられたキャッチ フレーズやロゴ等のブランド要素を明らかに示し、ブ ランド・イメージ(消費者の抱くイメージ、印象、感 情そして評価、愛着、信頼などの意識的なもののすべ て)を有するものである(2)。そして、その表層のブラ 金森美加 ンド要素や、ブランドイメージは、消費者の購入判断を 左右し、商品の大部分の価値を成すもので、本質的商品 価値より重要と考えられる(3)。ゆえに、ファッション 広告の役割は、新しい商品、商品価値を提案することだ けでなく、ブランドイメージを高め、確立することなの である。その他の役割に、流行を提案し、流行スタイル の傾向を促進することや、 その時代のサブカルチャーや 風俗を取り込むことによって、 新しいサブカルチャーや 風俗をつくっていく可能性もある(4)。 その広告活動であるが、日本の総広告費は、国内総生 産の 1%以上を占めている(5)。また、メディア企業の多 くが、他企業からの広告料によって成り立ち、番組、記 事、紙面の多くが広告的情報というべきものになる。 ゆ えに、広告の受け手である消費者の生活的側面と深く関 わり、同時に社会的表現行為として文化領域との関わり も深くなっている。雑誌媒体での広告活動が 55%以上 を占める(6) ファッション分野も例外ではない。 4 、 ファッション広告のスタイル 『VOGUE America』の分析より、それまで縁取られ た写真やイラスト・説明文・詳しい連絡先・企業名だっ た広告が、1960 年代後半に現在のヴィジュアルとロゴ と連絡先のみの形態に固定されたことを明らかにした。 そして、その形態は、19 世紀から掲載され 1960 年代に 消えていった貴族のファッションを紹介する記事ページ から発生したと結論付けられる。理由の第一は、ヴィ ジュアルの類似。第二は、貴族からモデル・女優へのト レンド・セッター移行時期が 1960 年代であること。第 三は、1960 年代にカラーページの増加や写真技術の向 上により表現が豊かになっていったことである。 ブランド広告には、ブランドのテーマ、シーズン毎の コンセプト、ヴィジュアル制作者の意図が込められ、 ファッション写真と同様に、 アバンギャルド芸術運動や 新しい表現方法を取り込み、 衣服が現代的なエレメント (摩天楼、ハイテク製品、スポーツ、抽象絵画)と並べ て撮影される(7)。ゆえに、その衣服と共に写し取られ た背景が、 衣服とは別の意味を伴って何かを示唆すると いう働きもある(8)。企業はそのエレメントでもって、ブ ランドイメージを消費者に伝達しようとするのである。 5 、 ファッション広告ビジュアルの分類 5 - 1 商品そのもののクオリティ表現 商品が大きく写し出され、ディテール、デザイン、素 材、機能等に注目させる広告。背景は無地で、登場人物 はできる限り匿名である。この表現は、19世紀でも、写 真の代わりに絵で表現されたものがあった。ブランド がイメージ構築に頼った販売戦略で無く、商品そのも のの品質を広告した古典的な広告表現である。 5 - 2 特定のシチュエーション下での表現 日常に近いシチュエーションを想定した背景をもつ 広告。モデル達は、カメラに視線を向けるのではなく、 それぞれの行動に没頭し、マスコミにパパラッチされ たかの様に瞬間的で、動きがあり目を引く。トレンド・ セッターが貴族から、芸能人やショップの店員、スト リートの若者になり、流行を生み出す基本である「ま ね」をしようとする相手は特定の誰かでは無くなって しまった現状を利用している。 人物の一部を拡大、遮断する画面 5 - 3 人物の一部を拡大、 遮断する画面 登場人物を画面一杯に配置し、頭部や手足の一部を 枠で切り取ってしまう広告。身体の部分が持つイメー ジを切り離し、匿名の誰でもないトルソーにしてしま う。ゆえに、身体各部がもつ意味をなくし、商品そのも のへと目を向けさせる効果がある。また、アップで写す のでディテールや素材感まで視覚伝達することが出来 る。 5 - 4 空間構成物のイメージを借用する表現 写真の撮影場所が多様化し、写真に写るものが増え た。空間構成物は、単にそれぞれの機能を果たすだけで はなく、形・テクスチャを見せる。そして、モノや空間 は、流行や歴史的背景といった意味・イメージを持つの で、共に写った商品やブランドイメージに空間構成物 のイメージを付け加えられる。また、そのイメージが、 特定の人にだけ印象を与えるモノの場合、流行をより 早く取り入れた心理と同様の優越感を持たせ、ブラン ドへの一層の愛着を持たせる効果もある。 5 - 5 登場人物によるコンセプト表現 「モデル」とはマネキンであり、存在の雛形であると も言える。1)スーパーモデルの起用は、彼女等の持つ イメージをブランドへ転移させる効果や、旬な女性に 似合う服を作るブランドとして認知させる宣伝効果が ある。2)カップルの起用は、商品が取り入れられるで あろう日常の状況と近い雰囲気を表現することができ、 クロスジェンダー化やユニセックス化のファッション 傾向に便乗している。3)大人数の場合、年令や性別、 人種に関係なく誰にも似合う商品で、ブランドイメー ジが不変的で強いものであると印象付ける効果がある。 5 - 6 ヴィジュアル加工表現 写真技術や写真加工により、現実ではあり得ない美 しさを狙った表現を行うことは、古くからあった。現在 では、CG を使い、ほとんどの広告で、編集や補正、合 成を行っている。ブランドが描く、現実ではあり得な い、ゲーム感覚のキラキラ感や世界観、理想の中で、 ファッションを眺めることができるようにしている。 5-7 思想 ・ 芸術作品のメタファー表現 この手法 想・ では、様々な思想や哲学、過去の芸術作品といった、暗 に意味する何かが、ヴィジュアルの背景に隠されてい る。視覚言語によって、閲読者にイメージを呼び起こさ せ、商品やブランドコンセプトと直結させる効果があ る。 5 - 8 セクシーを主題にした表現 女性の身体をオブジェとして扱うヴィジュアル制作 者の視線、鑑賞者が「のぞきみ」感覚になる登場人物達 が交わしあう視線、鑑賞者がイメージへと向ける視線、 鏡を覗き込むように自己の姿を意識させる登場人物と 鑑賞者の間で交わされる視線。以上のようなヴィジュ アルが与える様々な視線を使い、ファッションの動機 である自己構築の方法を明らかにしている。 5-9 その他 広告での事例は少ないが、雑誌のファッション写真 では頻繁にある表現手法を「その他」とする。1)人形 は、少女だけでなく、大人が楽しむものとして、単なる マネキンではなく、キャラクター性のあるモデルとし て使用されるようになった。2)キャラクターは、視覚 的な情報コードのブランド要素の一つとして、ブラン ドイメージを強化したり、新たにブランドイメージを 広げるような効果があり、興味・共感・共鳴が愛着に変 わることを狙っている(9)。 6、ま と め ファッション広告は、商品宣伝やブランドイメージ 構築の手段としての役割だけでなく、同時代の芸術運 動や表現手法を取り入れ、流行を生み出してきた。また ファッションの先導者と消費者を見極め、スタイルを 確立してきたことが分析より分かった。現代のファッ ション広告の表現手法の特徴は、ヴィジュアルの中に ブランドが求めるイメージの架空の空間や物語をつく り出すようになってきていることだ。その中には、制作 者の、哲学や思想、皮肉が隠されている。ファッション 広告の芸術性の強まりへの注目もあるが、結局は、広い ビジョンを持つ企業の言葉なき主張として、ブランド イメージに取り込まれ、ブランド構築に貢献している と結論付けることができる。 注 青木幸宏、岸志津江、田中洋編著「ブランド構築と広告戦略」日経広告研究所2000p56 内田東「ブランド広告」光文社新書2002p6-8 (3) 森秀男「ブランド・ビジネス新戦略」ファッション環境Vol7-1 1997 (4) 樋口紀男「広告とファッション環境」ファッション環境Vol6-4 1997 (5) (6) (株)電通 http://www.dentsu.co.jp「平成13年日本の広告費」 (7) 鷲田清一編「ファッション学のすべて」新書館1998 (8) 高橋周平「流行通信」 INFAS1999/4p100 (9) 注(1) と同 p346-356 上記以外の主な参考文献 柏木博「道具とメディアの政治学」未来社 1989 ジョアン・フィンケルシュタイン「ファッションの文化社会学」 せりか書房 1998 ジョン・バージャー「イメージ way of seeing- 視覚とメディア」 Parco 出版 1986 ロラン・バルト「モードの体系」みすず書房 1972 成美弘至編「問いかけるファッションー身体・イメージ・日本」せりか書房2001 (1) (2)
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