USフォーラム 2013 ハイライト 皆様には、平素より静岡県立大学に関心をお寄せいただき感謝いたします。本学は優秀な人材の 育成とともに、静岡における知の拠点として、社会に貢献するべく日夜、教育と研究に勤しんでい ます。本ハイライトは、知のエッセンスを本学から発信する目的で編集させて頂きました。 本学では、限られた資源を卓越した研究と、研究を介した人材育成のために最大限に有効活用す る目的で教員特別研究推進費を学内で公募し、厳正な審査により本研究推進費の配分を行ってきま した。公募は 1)教育推進・大学改革・キャンパスライフの向上に寄与する研究、2)地域の産業・ 文化・教育の振興に寄与する調査・研究及び学外機関等との共同研究、3)本学の教員が計画する独 創的かつ将来の発展が見込める先進的な単独又は共同研究、の3区分となっております。また得られ た成果を社会に還元する目的で学内外公開の成果報告会を開催してきました。この報告会は静岡県 立大学学術フォーラム:USフォーラムとして2001年10月に第1回が開催され、13回目となる本年 は9月25,26日の両日に「USフォーラム2013」として本学で開催される予定です。 本年より県民、国民の皆様に分かりやすく情報発信を行うために、発表内容の一部をハイライト として、特に報道関係の皆様に配信することといたしました。本学のアクティビティーを理解して 頂くとともに、教員の専門性を理解して頂き、皆様に役立てて頂ければ幸いと存じます。寄せられ ましたハイライト原稿はそのまま全てを載せさせていただきました。 なお、USフォーラム2013初日の9月25日(水)の最初のセッション(9:20開始)では、ハイ ライトの中から12題を選んで、その概要を示すことにより、1時間程度でエッセンスの一部を理 解できるような工夫を致しました。是非ともご参加いただければ幸いと存じます。 USフォーラム2013実行委員長 奥 直人 みかんの皮が脳梗塞を救う: ノビレチンという成分が脳梗塞障害や後遺症を軽減する 薬学部 奥 直人 みかんは静岡県の主要産品です。近年の研究により、みかんの皮(陳皮)に含まれるノビレチン という成分に、抗アルツハイマー作用などが見出され注目されています。ところで脳卒中は日本人 の死因第 4 位であり、その約 6 割を占める脳梗塞は、再発率が高く後遺症が残りやすいことから、 良い治療法が求められています。脳梗塞は、血栓などにより脳血流量が局所的に低下して虚血に至 り、脳組織が死んでしまう疾患です。臨床では血栓を溶かす薬が用いられますが、血流が再開する と、それに伴い二次的に脳細胞が障害される虚血再灌流障害が知られています。我々はラットの病 態モデルを用いて、脳細胞を保護することが知られているアシアロエリスロポエチンというタンパ ク質を、リポソームというナノサイズの粒子につけて投与したところ、虚血再灌流による脳組織の 障害が抑えられることを見出しました。さらに実際の障害からの回復を想定し、後遺症で見られる 運動能の評価をしたところ、運動能の低下が抑えられることを明らかにしました。本成果により、 脳梗塞の治療にノビレチンが有効であることが示唆されました。 タイトル:ノビレチンによる脳虚血再灌流障害治療法の開発 お茶を飲んでメタボを撲滅!~香煎茶による生活習慣病改善効果~ 薬学部 森本達也 刀坂泰史 砂川陽一 昨今の生活の欧米化に伴い、肥満患者は増加の一途をたどり、肥満を基盤として発症するメタボ リック症候群の患者も増加している。渋み成分を克服しようと作成された香煎茶は、我が国だけで なく中国などにおいて親しまれてきた。黒ウーロン茶などに含まれる重合ポリフェノールには、リ パーゼ阻害作用を持ち、小腸からの脂肪吸収をおさえることにより痩身効果を持つことが知られて いる。香煎茶にはこの重合ポリフェノールが多く含まれており、痩身効果を持つのではないかと考 えた。静岡県立総合病院に通院中のメタボリック症候群患者さんに、香煎茶 5g を連日 12 週間飲用 していただいた。香煎茶飲用により、血清トリグリセリド値の低下、体重、BMI、腹囲の減少、耐 糖能異常の改善を認めた。さらに、心臓超音波検査で心肥大の抑制、血管内皮機能 (FMD) および 動脈の硬さ (baPWV) の改善を認めた。この安価で安全性が確認された茶を用いたメタボリック症 候群に対する治療が実現されれば、医療費の削減に大いに貢献すると考える。さらに渋みが強く商 品価値の低い夏葉、秋葉を有効活用できれば、お茶の生産量日本一の静岡県への経済効果も大きい と考える。 タイトル:緑茶カテキンを用いた新規心不全治療薬の開発 1 膵臓で時間を刻む -インスリン分泌も体内時計により制御されている?- 薬学部 石川智久 最近、体内時計は時差ボケなどの睡眠障害にとどまらず、生活習慣病などの疾患発症との関連性 も指摘されています。体内時計をリセットする働きを持つメラトニンは、脳の中心部にある松果体 から分泌され、概日リズムの形成に関与しています。メラトニンは夜間に多く分泌されて睡眠を促 すことから、その受容体作用薬は新たな催眠薬として注目されています。一方、膵臓β細胞からの インスリン分泌にも概日リズムがあることが知られており、さらに最近では、概日リズム形成に関 与する時計遺伝子がβ細胞にも存在し、その機能を抑制すると糖尿病様の症状が現れることが報告 されました。すなわち、体内時計がインスリン分泌調節にも関与している可能性が考えられます。 そこで我々は、β細胞におけるメラトニンの役割を明らかにするための実験を行なっています。こ れまでにβ細胞にメラトニン受容体が存在していることを確認しており、今後、メラトニンのβ細 胞における生理的および病態生理的意義を明らかにしていく予定です。並行して、β細胞における 時計遺伝子の検討も行なっており、β細胞における体内時計の意義や糖尿病との関連なども明らか にできればと考えています。 タイトル:膵β細胞におけるメラトニンの生理的意義と新規催眠薬メラトニン受容体アゴニストが 及ぼす影響の解析 紅茶の濁りの原因となる“核”の発見:高機能性紅茶飲料の開発に向けて 食品栄養科学部 石井剛志、中山 勉 紅茶は、冷却することで白く濁ることがあります。これは「クリームダウン」とよばれる現象 であり、茶に含まれるポリフェノールやカフェインなどを主成分として、水に溶け難い複合体(ク リーム)が形成されることが原因です。クリームダウンは、紅茶の鮮やかな水色を濁らせるだけで なく、味や機能性の低下を引き起こすため好ましくありません。クリームダウンに関する研究は古 くから進められていますが、現段階ではポリフェノールとカフェインが結合しクリームが形成され るまでの過程を詳細に説明するまでには至っていません。 本研究では、紅茶クリームダウンにおいて生じる成分間の反応を分子レベルで解析することに より、紅茶の赤い色素のひとつであるガレート型テアフラビン(テアルビジン)とカフェインから なる複合体が、クリーム形成反応の“核”となることを見出しました。 市販されている一般的な紅茶飲料では、品質の保持・向上を目的として、製造工程でポリフェ ノールやカフェインが取り除かれています。本研究により、ポリフェノールやカフェインを取り除 かなくても、核の形成を阻害することでクリームダウンを抑制できる可能性が示されました。得ら れた知見を基に、核の形成反応の抑制技術を開発することで、これまで困難であった、ポリフェノ ールを豊富に含みクリームダウンを起こし難い「高機能性紅茶飲料」の開発が期待できます。 タイトル:茶クリームダウンの機構解明と抑制技術の開発 2 廃棄農産資源に眠る宝探し ~有用成分を廃棄資源に求めて~ 食品栄養科学部 細谷孝博、増田友香、吉田周平、熊澤茂則 農産物を生産することは、美味しい野菜や果実を作り出すことと同時に、葉や根などの廃棄物も 出てきてしまいます。こうした廃棄物は、一部は肥料や家畜の餌などに使われていますが、捨てら れてしまうことが多いそうです。本研究では、このように捨てられてしまう未利用農産資源に着目 し、本来ならば捨てられてしまう資源の利用価値を科学的に立証するため、これら資源に含まれる 成分を明らかにし、生理活性を評価することにしました。静岡県では、わさび、いちご、メロンや ミカンなどが特産品として有名ですが、それぞれの栽培目的は、根茎や果実であり、葉は収穫後に 大量に廃棄されていることが多いそうです。本発表では、静岡県産わさび葉およびメロン葉に含ま れる成分を明らかにし、更に試験管レベルにおける生理活性の評価も行いました。この様に、含有 成分や生理活性を科学的に立証することで、廃棄農産資源の利用価値を高めることができ、有効利 用されることを期待しています。捨てられていた資源に更なる有用成分を求め、宝探しをする気持 ちで、含有成分の構造決定や生理活性評価を行う予定です。 タイトル:静岡県産わさびの葉、いちごの葉、メロンの葉に含まれる生理活性を有する成分の探索 カテキンの化学特性を計算化学で解明する 環境科学研究所 牧野正和、寺崎正紀、山田建太(常葉大学) 茶カテキン類は、抗酸化能に代表される様々な生物活性をもつことが報告されており、重要な食 資源といえます。このカテキン分子に様々な官能基を結合させることで、新たな生物活性を創出し たり、物性を改変する試みがなされています。そこで、カテキン分子の高機能化を目指してアルキ ルリン酸エステル化を今回試みました。一方、近年進展が著しい科学分野として、計算化学が挙げ られます。ある化合物の合成の成・否や、合成物の生物活性等を理論に基づいて予測することがで き、挑戦的な研究が進められています。そこで、合成したリン酸化カテキンが、どのような化学特 性をもつのかを計算化学により予測してみました。この結果、カテキン分子が本来がもつ抗酸化能 が、より改善するという結果が得られました。さらに、合成物を同定する上で有力な情報(NMR のケミカルシフト)を精度よく予測できただけでなく、生物活性と深く関連する分子の構造(VC Dに基づく光学的絶対配置)に関する知見も得ることに成功しました。このように、カテキン分子 の高機能化に関する研究を、理論に基づいてより効率的に進展させることが期待されます。 タイトル:液化カテキン類の創製に関する研究 3 超円高下における静岡経済・企業 国際関係学部 小浜裕久、飯野光浩、宮崎晋生 初めに、円高にもかかわらず静岡県の輸出額は増加したことを示しました。企業は円高に対応し て、アジアへの展開を加速させたことも明らかにしました。しかし貿易自由化の推進力がアジアか ら先進国に移りつつある世界経済の現状を踏まえると、この結果から今後の静岡経済・企業の展望は 楽観視できません。 先進国市場の開拓による静岡経済の持続的な経済成長には、構造改革が重要です。環太平洋経 済連携協定(TPP)を技術進歩やイノベーションによる競争と民間部門のダイナミズムを促す構造改 革の絶好の機会ととらえ、既得権益構造を破壊し、 「ゾンビ企業」を「退場」させることが、静岡経 済の元気を取り戻す唯一の途であることを示しました。 イノベーションによる競争ダイナミズムの担い手であるのは企業行動です。その行動に今、変化 が起きつつあります。それは、利害関係・資本関係のない企業間によるビジネス・エコシステムの 構築が進みつつあることです。そこでの企業間による「オープン・イノヴェーション」が医療機器 や炭素繊維など先端分野を担ういくつかの県内企業で試みられ始めています。この動きがどれだけ 多分野に波及するかどうかが静岡県経済の成長の鍵となることを示しました。 タイトル:超円高下における静岡経済・企業 アニメーションでわかる前置詞 ~TO, TOWARD,ON, ABOVE, UNDER, BELOW~ 国際関係学部 吉村紀子 言語コミュニケーション研究センター 藤森敦之 みなさんは、英語でコミュニケーションする時に、どの前置詞にしたらよいのか、迷ったことは ありませんか?例えば、道を聞かれて、 「駅の方向へ歩いて行ってください」と言いたいのに、 ‘walk to the station’と言ってしまうと、意味がちょっとズレます(正確には‘walk toward the station’)。 前置詞には、日本語から見ると類似しているのに、実際には意味が微妙に異なるものがあって、 そのために、日本人の英語学習者にとって前置詞の適切な用法は習得がむずかしいと言われていま す。しかし、前置詞がわかれば、英語が上達します! この研究プロジェクトでは、前置詞の学習にアニメーションを取り入れた試みについて、日本の 授業で一般的におこなわれている和訳指導と比較しつつ、その実践案と成果を考察しました。アニ メーションの授業では、例えば、‘to’と‘toward’について、かわいいキャラクターのぺぺがアニ メーションで「駅に到着する」と「駅に向かう」を対照的に見せて説明しました。また‘on’と‘above’ ‘under’と‘below’についても、アニメーションの中でペペが行動して微妙な違いを指導しました。 2回の実験の結果、参加した大学生 209 名にとってアニメーション学習の方がより有益でした。 タイトル:TOEIC 問題に頻出する前置詞の学習攻略法 4 住民の予算編成参加の限界と可能性 行政改革と議会改革による住民参加に向けて 経営情報学部 講師 森勇治 ・ 客員共同研究員 小川直紀 最近、多くの行政において、住民参加に着目した改革が進められています。例えばパブリックコ メント、ワークショップ、公聴会等に加えて、住民投票を活用できるように整備したり、様々な行 政の意思決定が集約される予算編成に住民が参加できるように工夫する自治体も出てきています。 本研究では最後の予算編成への住民参加に着目します。ただ、予算編成への「意見聴取型」の 住民参加が実際には難しいことが我々のインタビューにおいて明らかとなり、その点を補うモデル を提案しました。 本研究ではさらに「多忙な住民の能力の限界」と「多様な住民意見と代表性」という課題を克服 するために、本来行政のチェック機関であるはずの議会の機能を強化するモデルを提唱しました。 これは議会が行政を適切にチェックすることができれば、夕張市における財政破綻は避けられたの ではないかということへの反省から、夕張市に程近い栗山町から 2006 年に始まった議会基本条例を 掲げた議会改革の動きと同じ方向を示しています。静岡県内でも 2009 年以降同様の動きが見られま すが、その改革はまだ途上のようです。 タイトル:住民参加型予算編成の現状と可能性:国内外の事例研究からの示唆 大学生としての必要最低限の防災力とは何か 看護学部 金澤 寛明、上田 真仁、梅田見名子 平成 21 年度から、看護学部生と教員が地域における防災活動能力を高めるため、効果的な教育方 法の検討している。具体的には、1)模擬避難所を学内に設置し、避難所シミュレーションを実施、 2)大学近隣住民の避難訓練に参加して住民を対象とした要援護者の避難時の対応、救急蘇生法、 AED 使用法の出張講義の実施、3)100 円ショップグッズを基にした防災用具の検討である。 「避難所シミュレーション」により、避難所のイメージができ、今後の防災活動に役立つと学 生は回答している。 「100 円ショップで揃う防災用具」も避難所シミュレーション時に実際に使用し、 有用性を確認したが、さらなる内容の検討が必要と思われる。 これらの住民との交流や避難所シミュレーションの一連の取り組みは、看護学部生が被災者の 置かれる状況を理解することに一定の成果をもたらしたものと思われる。 しかし、先般公表された静岡県第4次地震被害想定を見ると、今以上の個人や地域の防災への 取組みが要求されているように思われ、それに対する準備と教育が必要であり、看護学部だけでな く、他学部生にも広げることも必要であり、検討していく予定である。 タイトル:地域に根差した防災教育の検討 5 ― 看護学部生の防災力を高める ― 地域の誰もが気軽に集う居場所づくり ~災害時には要援護者の小地域福祉避難所を目指して~ 短期大学部 江原勝幸 少子高齢化が進む我が国は、家族構造が大きく変わり、家庭や地域の力が弱まることにより、 孤独や孤立などが社会問題化しています。プライバシーが重視され、ライフスタイルが個人的・物 欲的欲求の充足を優先する中で、お互い様やおすそ分けなど隣近所の関係も弱まり、地域社会のあ りようが問われています。 そこで注目されているのが地域の居場所づくりです。地域の「茶の間」「縁側」「居場所」など 様々な呼び方があり、全国的な広がりを見せる「コミュニティカフェ」の一部門として様々な形で 発展している取り組みです。現在の福祉サービスは、高齢者、障がい者、児童など縦割りのサービ ス提供が行われ、要件に満たないとサービスが受けられません。サービス内容も画一的です。地域 の居場所は、対象を絞らず、いつ来ても、誰が来ても暖かく迎えられ、地域の誰もが気軽に集い、 お茶を飲みながら気兼ねなく自由に過ごせる寄り合い処です。 また、地域の大きな課題のひとつは、災害時の高齢者や障がい者など要援護者の支援です。平 時は地域住民の居場所として開放し、ここに集まる方々の顔の見える関係を活かし、災害時には地 域の要援護者支援の拠点となることを目指しています。 タイトル:小地域福祉避難所機能を有する常設型地域の茶の間の設置及び運営 高齢者の食の安全と楽しみを守る『おいしい訓練飴』の開発 短期大学部歯科衛生学科 森野智子 食品栄養科学部 伊藤圭祐 高齢者の生活の楽しみの多くは食に関することと言われています。楽しく安全な食事で栄養摂取 をした上で適度に運動すると、日常生活に必要な筋力維持が可能になります。しかし、老化による 嚥下障害の影響でむせたり、飲み込みにくくなることが増えると、食の楽しみが少なくなる上に必 要な栄養が取れなくなってしまいます。近年、この廃用症候群から口の機能を守る(維持,改善) ための舌の体操や、良く噛んで食べることで口の機能を高める食品の有効性が注目されています。 私たちは、この口の機能の維持や改善のために「飴」を用いた舌の体操を提案しました。う蝕に なり難い甘味料を用いた飴を舐めることで、自発的な舌の動きと唾液分泌が促進され、自然な嚥下 訓練が可能 になります。H24 年に実施した研究では、2 週間毎日 1 つの飴を舐めた高齢者の唾液分 泌量が増加しており、飴を用いた口腔リハビリ実現の新たな方向性が示されました。今後は、地域 特産品を用いた味の飴で地域の高齢者の口腔機能維持に役立つ商品を開発したいと考えています。 タイトル:新たに開発した還元麦芽糖製の棒付き飴を用いた重度認知症患者への安全な経口摂取 訓練法~在宅自立高齢者に対する棒付き飴を使用した訓練効果の検証~ 6 日本酒などの抗酸化物質チオール類を見つけ出す新しい手法 薬学部 井之上浩一、豊岡利正 日本酒などには、未知の有効成分が含まれており、まだ発見されていないものも存在しています。 なぜかというと、存在の分からないターゲット(ノンターゲット)の分析はあまり注目されておら ず、知られている抗酸化物質に注目が集まっていました。しかし、ノンターゲットの中には、将来 注目される有効成分があるはずです。そこで、本研究では、ノンターゲットの中でも「チオール官 能基」に注目しました。チオール官能基は、抗酸化作用を持つだけではなく、様々な生理活性を持 っています。お酒などの食品に含まれている報告はほとんどありません。私たちは、新たなアプロ ーチとして、このチオール官能基に反応する試薬を用いて、質量分析および統計解析を実施しまし た。その結果、新しく日本酒にグルタチオンが含有していることを報告しました。それ以外にも複 数のチオール化合物も見つけています。この方法は、今後もさらなる食品試料へ応用できると考え られます。 タイトル:蛍光誘導体化 UPLC/TOF-MS 法による日本酒・お茶中チオール類のプロファイリング ナノテクノロジーが拓く新しい核酸医薬 薬学部 浅井知浩、清水広介、奥 直人 名古屋工業大学 出羽毅久 がんは遺伝子の異常が蓄積して発症する疾患です。生命活動を担うタンパク質の設計図である遺 伝子に異常が起こると、異常なタンパク質が作られます。このことによって細胞増殖が制御不能に 陥り、無秩序に細胞が増える疾患ががんです。がん細胞は、アクセルやブレーキが故障して止まれ なくなった自動車に例えられます。異常タンパク質の出現によってアクセル踏みっぱなしの細胞に 変わってしまうのです。しかし、科学の進歩によってこの異常タンパク質の発現を抑制できる遺伝 子操作技術が誕生しました。この技術は、1998 年に発見され 2006 年のノーベル賞に輝いた「RNA 干渉」を応用する手法であり、二本鎖 RNA を使って狙ったタンパク質の発現を抑制します。この大 発見によって RNA 干渉を作用機構とする斬新な抗がん剤の開発が盛んに行われるようになりまし たが、このアプローチの最大のネックは体の中で十分な薬(二本鎖 RNA)ががん細胞に届かないこ とです。そこで私たちは、二本鎖 RNA をがん細胞に届けるための研究をしています。科学の進歩を 先端医療に導くために不可欠な研究です。本フォーラムでは、抗がん剤としての二本鎖 RNA をがん 細胞に届ける特殊なナノテクノロジーについて発表します。 タイトル:新規ナノ粒子を用いた全身投与型 siRNA デリバリーシステム 7 だます相手は自分自身?スギ花粉症の根治に向けておとり作戦を発動 薬学部 清水広介 春過ぎになるとスギによる花粉症に悩まされる人は多いと思います。花粉症などのアレルギーと いうのは、体を守る生体防御機構が過度に起こってしまった結果引き起こされるのです。その中で 重要な役割を担っているのが、花粉という異物から体を守る武器である抗体を作る B 細胞という免 疫細胞です。つまり逆を言えば、花粉の抗原に対する抗体を作る B 細胞を無くしてしまえば、花粉 に対するアレルギー反応は起こらなくなるのです。そこで今回、リポソームという薬のカプセルに 細胞を殺す薬を入れ、さらにこのリポソームの表面にスギ花粉の抗原を付けた、スギ花粉様の薬を 開発しました。この薬を使えば、スギ花粉と同じように体の中で抗体を産生する B 細胞に認識され ますが、内封する薬により B 細胞をやっつけることができ、花粉に対する抗体を作れなくすること ができます。つまり、自分自身をだますおとり作戦を行うのです。今現在花粉症に対して行われて いる治療は、花粉症の症状を抑えるだけのものに対して、この新しい治療方法は根治を可能とする ものとなり、期待できます。 タイトル:Cry j 1 修飾リポソームによるスギ花粉症根治療法の確立 着せ替え可能な、光学異性体の分析用アイテムの開発 薬学部 轟木堅一郎、石井裕大、豊田耕司、井川貴詞、 閔 俊哲、井之上浩一、赤井周司、豊岡利正 アミノ酸や医薬品など多くの物質には、右手・左手と同じ関係の「似ているけど違う一対の物質」 が存在します。このような一対の物質「光学異性体」は、見た目は同じようでも、体内では全く異 なる働きをします。例えば旨味成分のグルタミン酸、人間が旨味を感じるのは片方のみで、もう一 方は…苦いです。通常、光学異性体を分析する場合、キラルカラムと呼ばれる筒の中に液体と一緒 に流して分離を行います。この筒の中には光学異性体を認識する固定相と呼ばれる物質が詰まって います。ただ、キラルカラムは万能ではなく、固定相の種類により分離できる物質が異なります。 そのため、分析したい物質によって異なるキラルカラムを何本も買い揃える必要がありました。こ のことが分析者にとって、金銭的にも時間的にも大きな負担となっていました。そこで私達は、1 本のカラムで固定相を自由に着せ替えることのできる画期的なキラルカラム、 『ドレスアップキラル カラム』を開発しました。このカラムでは、フルオラスという特殊な作用を利用しており、固定相 の着せ替えを自由に制御できます。今後、私達のカラムを利用することで、分析者の負担は大幅に 軽減できるものと期待されます。 タイトル:Dress-up キラルカラムによる光学活性物質の高分離・高速 LC 分析技術の開発 8 細胞膜融合に関わるタンパク質ストマチンの構造解明 薬学部 横山英志 ストマチンは、体の中の細胞と細胞が融合する現象に関わると考えられているタンパク質で、そ のタンパク質が遺伝的に欠損すると、遺伝性有口赤血球症(貧血の一種)を発症することが知られ ています。ストマチンは細胞膜(細胞と細胞を仕切る膜)に存在し水に溶けにくいことから、水に 溶けるタンパク質と比べて扱いにくく、その機能がこれまで解明されてきませんでした。このタン パク質の機能を解明するため、ストマチンの立体構造を明らかにする(分子の形を明らかにする) 研究に取り組みました。 タンパク質分子の形を見るために、その分子と同程度の波長の光(X 線)を用います。タンパク 質を規則的に配列した結晶を作製し、その結晶に X 線を当てて得られる回折像を解析することによ ってタンパク質分子の構造を明らかにします。水に溶けにくい分子であるストマチンでは、界面活 性剤を加えて水に溶けやすい状態にしてその結晶を作製します。ある界面活性剤を用いた場合、ス トマチンの結晶を得ることに成功しました。 今後、さらに条件検討を行い良質な結晶が得られれば、ストマチンの立体構造を明らかにできる と考えています。 タイトル:脂質ラフト局在膜タンパク質ストマチンの多量体構造解明のための結晶学的研究 休眠型生合成遺伝子群の活性化による新規化合物の生物合成 薬学部 鰐渕清史 近年の遺伝子配列解析技術のめざましい向上により、天然物を生産する数多くの糸状菌や放線菌 などの微生物についても、それらのゲノム配列が解読された。その結果、多数の機能未知の天然物 生合成遺伝子の存在が確認された。このことは、ゲノム中の数多くの天然物生合成遺伝子は実験室 における一般的な培養条件下では発現していない、休眠状態にあると考えられた。我々はこのよう な休眠型遺伝子を以下に示す 3 種類の分子遺伝学的な操作によって人為的に覚醒させ新規生物活性 物質の獲得に成功した。 1.プロモーターを天然のものから強発現型へと変換することで、転写活性を増加させこれまで に生産の確認できなかった分子を生物合成する方法。 2.転写因子を高発現させるかあるいはノックアウトすることで休眠型生合成遺伝子群を活性化 させて分子を生物合成する方法。 3. 糸状菌 Aspergillus niger を宿主として休眠型遺伝子群を導入し異種発現によって分子を生物合 成させる方法。 タイトル:モノづくりを指向した高機能性生体触媒の創製 9 健康に良いお茶を手軽に探す方法の開発 薬学部 菅 敏幸、浅川倫宏、伊藤邦彦 インフルエンザ検査のように、健康によいお茶を調べることができれば便利です。また、お茶 に有効成分がどのくらい含まれているかを茶畑やあるいは製茶所でも確認できれば、品種改良や製 造法の工夫が迅速に可能となります。インフルエンザ感染は、ウイルスに特有のタンパク質と反応 する「抗体」を利用した鼻水の検査により発見されます。今回、私たちは緑茶の有効成分であるエ ピガロカテキンガレートだけを見分ける「画期的な抗体」の作製に成功しました。化学の専門家の 菅敏幸のグループでは、有機合成化学の力と技を駆使することでカテキンに目印をつけたプローブ 分子(光るカテキン)の多く合成してきました。今回は、抗体を作製するためのプローブを合成し、 抗体の専門家の伊藤邦彦が最先端の遺伝子技術を有効活用して「画期的な抗体」を作製しました。 この抗体を利用すると、インフルエンザの様にカテキンが茶にどのくらい含まれているかを検査で きます。この方法では、従来の高価な装置(LCMS、HPLC)や経験を有する研究者を必要としませ ん。また、花粉症に効く「メチル化カテキン」やダイエット効果のある「テアフラビン」のお手軽 な分析にも応用できます。 タイトル:カテキンのプローブ合成を基盤とする茶の効能解明 カテキンの行方は PET で Easy CG 薬学部 清水広介、浅川倫宏、菅 敏幸、山田静雄、奥 直人 浜松ホトニクス 塚田秀夫 普段何気なく飲んでいる緑茶には、体にとって良い効果を持つカテキンという成分がたくさん含 まれています。その中でもエピガロカテキンガレート(EGCG)は、インフルエンザにかかりにくく なったり、がん細胞を殺したりする効果を持っています。EGCG の効能をより詳しく知るためには、 緑茶を飲んだ後 EGCG が体の中のどこに行くかを調べることが重要です。しかしこの EGCG、体の 中で見つけ出すのは非常に難しいとされています。そこでこの EGCG に放射線(ポジトロン)を出 すよう工夫をして、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)という装置を使って調べてみ るとあら不思議、体の中で EGCG が光って見えて、どこにあるか簡単に(Easy)コンピューターグ ラフィック(CG)化できました。この方法を使えば、緑茶を飲んだ後にカテキンが体の中でどのよ うに移動するかが目で見てわかります。緑茶の効能を知る上で、この技術は役に立つこと間違いあ りません。 タイトル:緑茶カテキン摂取後の吸収及び体内動態のリアルタイム PET 解析 10 健康増進を目的とした、飲みやすい緑茶微粉末顆粒の開発 薬学部 岩尾康範 緑茶は, catechin 類や vitamin 類など様々な生理活性物質を含んでいることから, 飲料としてのみな らず, 健康増進を目的とした機能性食品としての応用が期待されています . 本研究では, “Melt granulation(MG) ”という新しい造粒法(粒子径を大きくして取扱いしやすくする)を用いて, 携帯 性良く, 飲みやすい緑茶微粉末顆粒を開発することを試みました. MG 法とは低い温度で融ける脂質 を糊として作用させる製法であり, 極めて短時間で操作が完了します. 本検討では, MG 法の操作条 件を変化させ, 顆粒の製造を行いましたが, 脂質が融解した際の撹拌速度,撹拌時間を変化させるこ とで,種々の粒子の大きさを持つ球形な緑茶顆粒が得られることが分かりました. また, 造粒操作を 施しても, 造粒物に含まれる有効成分含量は操作前と変化はありません. 以上,本法の操作条件を適 切に設定することで,球形な有効成分の高い緑茶造粒物が調製できることが明らかとなりました. タイトル:Melt granulation を用いた緑茶微粉末含有顆粒の調製と評価 病原性微生物が生産する天然物の化学構造決定 および生合成機構の解明に関する研究 薬学部 渡辺賢二 病原性大腸菌 IHE3034 株が生産する毒素 colibactin は,哺乳類細胞に感染しているときのみ生合成 される微量成分であるため,その存在は示唆されているにもかかわらず未だに単離報告がない.そ こで本化合物の生物合成を試みた. 本化合物の生合成には 55 kb を超える巨大な生合成遺伝子群が必要となる.しかし一般的には多 数の遺伝子を含んだ巨大遺伝子群を発現させるためのベクターを構築することは難しいとされてい る.そこで,酵母相同組換えを利用したクローニング法を用いることによって,30 kb を超す巨大な 発現ベクターであっても容易に構築可能であると考えた.本方法を用いて互いに異なる抗生物質耐 性マーカーおよびオリジンを有した 3 種のプラスミドに,強制発現可能な系で colibactin 生合成遺伝 子群をクローニングした.また,先行研究によって本化合物生合成は 7 つのオペロンを形成してい ることが報告されている.これを参考にして,オペロン毎にクローニングすることで容易に発現ベ クターが作成できると考えた.構築した colibactin 生合成遺伝子発現ベクターを用いて大腸菌を形質 転換した. 現在, 得られた形質転換体の培養液から colibactin の生産を確認中である. タイトル:病原性微生物が生産する天然物の化学構造決定および生合成機構の解明に関する研究 タイトル:生物機能を用いた次世代ケミカルプロセスの構築 11 高校生向け夏休み薬学体験、 テーマは「体験してみよう!くすりを生み出す科学の世界」 薬学部 石川智久 薬学部では、夏休みファーマカレッジ 2012 ―体験してみよう!「くすりを生み出す科学の世界」 ― を平成 24 年 8 月 9、10 日の 2 日間で開催しました。今回で 14 回目となる本企画は、薬学に進学 を希望する高校生に人気の企画となっており、今回は静岡県内全域の高校から 135 名もの応募があ りました。充実した内容を確保するため、志望動機や学年などを考慮して参加者を 80 名に絞って実 施しました。参加者は 8 名ずつ 10 グループに分かれ、グループ毎に以下のテーマで実験を体験して もらいました。 「遺伝子を見てみよう」 「自分の遺伝子を鑑定しよう」 「薬の効き方を調べてみよう」 「解熱鎮痛薬を作ろう」 「薬の体内での動きを知ろう」 「病気の成り立ちを顕微鏡で見よう」 「遺伝子から体質を調べよう」 「お菓子なおかしな薬を作ってみよう」 「化学反応で薬を作ろう」 「鍵穴に合う薬を設計しよう」 2 日目の 15 時からは研究発表会が開催され、グループ毎に参加者全員が体験した実験やその成果 についてパワーポイントを使って発表した。発表会終了後には交流会が開かれ、参加者同士や大学 教員、大学生、院生との交流を深め、今回も成功裏に終わりました。 タイトル:夏休みファーマカレッジ 2012 スライドを有効活用した講義を目指して -見て、書き込んで、まとめる- 薬学部 石川智久 静岡県立大学のほぼ全ての講義室には、液晶プロジェクターが設置されており、視聴覚教材を利 用した講義が容易に実施できる環境が整っています。私が担当している薬学部の薬理学 I および II の講義では、コンピュータとタブレットを用いて、スライドに直接書き込みを行いながら説明する という講義形態をとっています。この講義形態は、これまで学生から高い評価を得てきました。た だし、スライドを利用した講義形態だと、学生が受け身になりがちです。そこで今回、使用するス ライドに工夫を講じました。新たに作成したスライドでは、敢えて、必要最低限の図のみであまり 説明文を入れず、あくまでも理解を助けるためのツールとなるようなものとしました。学生は、pdf ファイルとして公開している講義スライドをプリントアウトして用意し、授業中、私がスライドに 書き込んだ内容をメモし、スライドを指しながら口頭で説明した内容を該当箇所に書き込んでいま す。さらに、スライドの図を貼り付けたまとめノートを作成している学生も見かけます。この講義 形態は概ね学生に受入れられ、手応えも感じており、今後さらに多くのスライドをこの形式に変更 して行く予定です。 タイトル:タブレットペンを有効に活用した講義形態の確立 12 いい授業;~学生が満足する授業?~ 薬学部 身体運動科学分野 大石哲夫 より良い授業を提供するのは教員の重要な役割である。学生が満足する授業を知るべく、基礎的 なデータを収集した。 平成 23 年度までの調査で“授業の楽しさ”“面白さ”は授業満足度(1~5 で表示、最大満足 5) に大きく関係し、運動量もほぼ同様な関係にあることがわかった。 平成 24 年度、身体運動科学(通称体育)の授業満足度(最大満足 100%)を毎回記録すると共に、 Kenz Lifecooder を使い、授業中の運動量(歩数、エネルギー消費カロリー)も測定した。併せて満 足する授業について記述式で問うた。 受講学生の 72%が個人・友人と楽しめたか、58%が真剣に思い切り動けたか、47%が技術向上が あったか、19%が新知識・新体験ができたかを条件としてあげた。 前年度までの調査結果を踏まえ、実施した授業満足度は平均 88%であった。実施種目はバドミン トン、バレーボール、バスケットボール、硬式テニス、卓球、フットサルであった。平均歩数は 3814 歩(男 4214 歩、女 3619 歩) 、平均消費カロリーは 112kcal(男 137kcal、女 101kcal)であった。 タイトル:指導方法の向上を目指し、スポーツ現場における事例研究 (正確なエネルギー消費と 受講意識) モノアミン(オクトパミン)がステロイドホルモンの合成を制御する 生活健康科学研究科 大原裕也 食品栄養科学部 小林公子、萱嶋泰成 昆虫において、幼虫、蛹、成虫への変態はステロイドホルモンであるエクジソンにより誘発・遂 行される。本研究により、オクトパミンならびにβ3 オクトパミン受容体が関与するオクトパミンシ グナル伝達系がエクジソン産生の新たな制御因子のひとつとなっていることが明らかとなった。オ クトパミンは、アドレナリンと相同なモノアミンである。 ヒトにおけるアドレナリンシグナル伝達系は、エネルギー産生、血糖値・心拍数・血圧の調節、 ストレス応答など生命維持にとってなくてはならない多くの機能を担っている。ヒトにおいても、 副腎で産生されるアドレナリンがアドレナリン受容体を介して、コルチゾールなどのステロイドホ ルモンの合成を促進することが in vitro の実験で示されていることから、オクトパミンシグナル伝達 系とステロイドホルモン合成系の相互作用を解明することは、昆虫における変態制御機構の解明に とどまらず、ヒトにおいてアドレナリンシグナル伝達系が関与する生活習慣病の発症メカニズムの 解明にも役立つことが期待される。 タイトル:アドレナリンシグナル伝達系とステロイドホルモン合成系の相互作用に関する研究 13 環状オリゴ糖で紅茶色素を包み込む ~ シクロデキストリンとテアフラビンとの相互作用 ~ 食品栄養科学部 熊澤 茂則、細谷 孝博 静岡県工業技術研究所 望月 一男 紅茶の赤い色は、テアフラビンという色素です。テアフラビンは、緑茶に含まれている苦味成分 であるカテキンと同じ仲間のポリフェノール成分の一種です。緑茶のカテキンは、中性脂肪抑制効 果などの様々な効能が見出され、カテキンを使った特定保健用飲料も市販されています。しかし、 カテキンを増量すると苦くなるため、カテキン入りの特定保健用飲料には、シクロデキストリンと いう環状オリゴ糖が添加されています。シクロデキストリンはカテキンを包み込む性質をもってい るため、シクロデキストリンを添加した緑茶は苦味が抑えられて飲みやすくなっています。テアフ ラビンもカテキンと同様、生活習慣病予防効果があることが判明し、最近ではテアフラビンを増量 したお茶の開発が進められています。テアフラビンにも苦味があるため、苦味を低減化する必要が あります。しかし、シクロデキストリンはテアフラビンに対してもカテキンと同じように包み込ん で苦味を低減化させる効果があるかどうか調べられていませんでした。そこで今回、我々はシクロ デキストリンとテアフラビンとの相互作用様式を調べ、テアフラビンがシクロデキストリンに包み 込まれている様子を解明することができました。 タイトル:茶ポリフェノールと糖類との相互作用の解析 新たな DNA 損傷誘導機構の発見: 洗剤でどのようにして DNA が切れるのか 環境科学研究所 豊岡達士 久保田徹 伊吹裕子 現在の DNA 損傷生成の概念は、DNA が直接の標的となると考えられている。つまり、損傷が誘 導されるためには、その損傷誘導因子が DNA に直接相互作用することが必要であるということであ る。一方、最近 NaCl のように DNA に直接作用しない物質においても DNA 損傷を示すことが報告 されており、我々は、DNA 損傷誘導メカニズム及び、遺伝毒性物質のリスク評価のあり方について 今一度考え直す必要があると考えた。 最近、我々は界面活性剤の一種である nonylphenolpolyethoxylates が、非常に強く DNA 二本鎖切断 を誘導することを突き止め報告した。しかしながら、当該界面活性剤は DNA を直接標的とすること なく、DNA 損傷を誘導するものと見られ、従来の遺伝毒性物質とは異なるタ p イプであることが示 唆された。様々な検討を重ねた結果、我々は細胞骨格タンパク質への損傷が、DNA 分解酵素の一種 である、DNase I の放出を促し、DNA 損傷生成につながるという、今まで考えられたこともない DNA 損傷誘導機構を発見した。本研究の基礎情報は、今後の化学物質などに係るリスク評価・環境保全・ 安全管理等においても重要な知見を与えると期待され、ひいては健康長寿、健全な社会の形成の実 現に資すると考えられる。 タイトル:予防的概念から取り組む健康長寿社会の実現と遺伝毒性物質のリスク評価の再考 -核内骨格構造の崩壊に伴う DNA 損傷の誘導- 14 緑茶は放射線から身を護る? 環境科学研究所 下位香代子、山崎隼輔、若林敬二、光延 聖、坂田昌弘 食品栄養科学部 増田修一、島村裕子 放射線医学総合研究所 島田義也、武田志乃 茶研究・原事務所 原 征彦 放射能汚染対策として、未然に放射能汚染を防ぐ技術や事故後の処理技術の開発・向上はもちろ んですが、曝露時の健康被害を最小限にとどめるための対策を確立することも極めて重要です。緑 茶は我々が毎日摂取している飲料であり、抗酸化性をはじめとし、種々の生理活性が報告されてい ます。そこで、放射性セシウムのヒトへの曝露を考慮して、緑茶抽出物のセシウム(放射性セシウ ムを用いることはむずかしかったため、非放射性セシウムを使用)の体外への排泄への影響と急性 障害としてγ線の骨髄における小核(染色体異常の指標)誘発への影響についてマウスを用いて検 討しました。その結果、緑茶抽出物(100 mg/kg)を投与すると尿排泄量に促進傾向が見られ、筋肉 組織からのセシウム排泄が促進されることがわかりました。また、γ線照射 2 時間前に緑茶抽出物 (10、50、100 mg/kg)を投与すると、濃度依存的にγ線照射群に比べて有意に小核誘発性が減少す ることが明らかになりました。日常的に摂取している緑茶が放射線の防護を考える上で有効なツー ルになることが示唆され、さらなる研究が必要と考えています。 タイトル:県内農産物の放射線防護効果に関する研究 -緑茶成分を中心に- 進化する浄化槽 ~鉄電極で高機能化~ 環境科学研究所 関川貴寛 浄化槽とは、下水道未整備区内や集合処理が適さない地区において、し尿と生活雑排水を処理す るための個人又は市町村が設置管理する汚水処理施設です。浄化槽の性能は日々進化しており、近 年では、電気分解で鉄イオンを溶出させてリンを除去する手法(鉄電解法)が実用化されています。 鉄電解法によって鉄電極から溶出した Fe2+が水中で酸化されて Fe3+になり、その後、リン酸イオン と反応して難溶性化合物(リン酸鉄等)が生成され、排水中から分離・除去されます。鉄電解法を 用いた浄化槽(鉄浄化槽)では、鉄イオンの溶出量を電気で制御できるので、安定したリン除去性 能が確保できます。本研究では、鉄イオン濃度の制御によって浄化槽全体の高機能化を実現するこ とを目指し、鉄浄化槽汚泥の微生物群集と特性を解析しました。その結果、高濃度リン酸鉄存在下 で有機物を分解する細菌が検出され、鉄イオン濃度が鉄浄化槽の微生物群集と処理性能に大きく影 響していることがわかりました。鉄電解法を用いて微生物群集構造を制御することができれば、更 なる浄化槽の高機能化が期待できます。 タイトル:鉄イオン濃度制御による窒素・リン除去型高度処理浄化槽の機能強化 15 備えとしての災害廃棄物処理計画:仙台市の事例を参考に 環境科学研究所 戸敷浩介 2011 年 3 月に発生した東日本大震災では、がれきなど大量の災害廃棄物が発生し、多くの自治体 で早期の復旧・復興の足かせになりました。しかし仙台市は独自に処理を行い、衛生的な生活圏の 早期確保と、処理量やコストの抑制を達成しています。この理由として、震災前から備えとして仙 台市が策定していた災害廃棄物処理計画の存在があります。この計画の中で、仙台市は災害廃棄物 の発生量を最大 146 万トンと推計し(実際の発生量は約 135 万トン) 、この推計値を基に必要な仮置 き場や集積地の選定、がれき等を早急に搬出するための組織作り、更に細かな分別・リサイクル計 画を事前に盛り込んでいました。 静岡市においても東海地震の発生に備え、仙台市の事例を参考に災害廃棄物処理計画を策定する 必要があります。更に、災害廃棄物の性状が産業廃棄物に近いこと、リサイクル可能な資源が比較 的多いことなどを踏まえ、地元の産廃業者や、産廃を所管する静岡県と共に、災害時の協力・連携 体制を事前に構築しておく必要があると考えられます。 タイトル:東海地震を想定した災害廃棄物処理計画と自治体間の広域連携に関する研究 静岡から始まる、ソーシャルファームへの道 国際関係学部 津富 宏 ソーシャルファーム(社会的雇用を実現する職場)とは、社会的弱者を、雇用を通じて、社会に 包摂する仕組みです。多くの人々が、生活困難に陥る中、ソーシャルファームへの関心が高まって おり、本研究では、静岡県内のソーシャルファームに関心をもつ人々とつながり、研究会を設立す ることを目的として行いました。 本研究のもっとも大きな成果は、2012 年 11 月 10 日に浜松市内で行った、シンポジウム「共に生 きる、共にはたらく」です。ソーシャルファームの研究と実践の第一人者炭谷茂先生の基調講演の ほか、秋田や愛媛から、ソーシャルファームの実践者においでいただくことができました。聴衆も 100 名近くなり、 静岡県内で行われた同種イベントでは最大級となりました。その参加者に声をかけ、 勉強の場として、ソーシャルファーム研究会を立ち上げて、2013 年度に継続しています。 タイトル: 「地方」発の社会的包摂の提案 -愛媛県とイタリアに学ぶ、社会的被排除層のための 新しい働く場の創造- 16 ふだん着で進める国際化、グローバル化、共生 国際関係学部 澤田敬人 海外を研究対象とする地域研究者にとって、地域とは何かという問いは基本的です。新たな研究 の息吹の中にこれまでにない楽しい地域概念はないかと思っていたところ、液状化する地域研究と いう概念を目にしました。これに依拠して研究者としての自分を再び定位させたところ、地球規模 での複数の流れの中に越境者としてフィールドに立ち会おうとする自分が見えてきて、面白いと思 いました。国際化、グローバル化と共生は、その必要を感じる人々が肩肘張らずに進めるものです。 プログラムを無理やり作る必要はありません。私は、浜松で顔なじみのリオデジャネイロ州立大学 のオリベイラ氏を誘い、静岡県国際交流協会に声をかけて、ブラジル青年が出演するニューカマー ズシネマのシンポジウムをグランシップで開催しました。また、日伯高校生未来サミットが開催さ れたときは、両国の高校生による共生社会に向けた提言作りのファシリテーターと全体講評者を務 めました。複数の流れをより太くすること、地球規模の複雑な流れを新たな地域として生み出すた めに方向付けること。これらを実践することで、地域研究は水準を高め、自動的に国際化、グロー バル化と共生が達成されるのです。 タイトル:静岡県西部における多文化共生の地域振興をめぐる調査研究の国際化 スペイン債務問題の歴史的背景――内戦、独裁、民主化 国際関係学部 松森奈津子 グローバリゼーションが進展した現代社会においては、一国ないし特定の地域の経済破綻が世界 的な金融危機にまで発展する可能性が常に存在します。たとえば、南米累積債務問題(1980 年代) 、 アジア通貨危機(1997 年) 、ロシア財政危機(1998 年) 、記憶に新しいところでは、アメリカのリー マン・ショック(2008 年)があげられるでしょう。そして現在、ギリシャ債務問題(2009 年)に端 を発する金融危機が、スペイン、ポルトガル、イタリアへと南欧全体に飛び火し、その動向が注目 されています。 本研究は、近年注目を浴びている南欧金融問題を、それぞれの国がかかえる歴史的、文化的、制 度的背景と関連づけながら考察し、国際社会、とりわけ本邦と本県に対する影響を検討するもので す。本年度はとりわけ、一昨年末の政権交代後のスペインに焦点をあて、歴史的経緯とも関連づけ てその債務問題を分析しました。具体的には、1975 年のフランコの死去に伴う民主化後の政治・経 済構造の特質を考察し、EC ついで EU との関係に着目しながら、現在の財政危機に至る経緯を追い ました。そして、政権交代以降の財政政策をもとに、今後の政治・経済動向を検討しました。 タイトル:グローバル化時代の経済危機――南欧金融問題と日本、静岡 17 若者の参加できる社会を創る-静岡県立大学生の挑戦- 国際関係学部 津富 宏 次世代を担うのは若者です。しかし、若者の投票率が低いことからも分かるように、日本の社会 は、若者の社会参加に成功してきたとはいえません。若者の社会参加に国を挙げて取り組んできた ヨーロッパ、特に北欧に学び、この静岡の地で、若者の社会参加に取り組んできたのが、静岡県立 大学の学生団体「YEC(若者エンパワメント委員会)」です。 彼らは、2012 年度には、大きく分けて二つの事業を行いました。一つは、全国で唯一、学生団体 として、内閣府事業「子ども・若者支援地域ネットワーク形成のための研修会」を受託して行った、 5 回の連続講演会です。県の内外から、たとえば、貧困問題の専門家である湯浅誠さん、子どもの貧 困問題と学習支援に取り組む埼玉の青砥恭さんなど、多くの講師を学生自身の力で招き、静岡県民 の方々に、子ども・若者問題についての啓発を行いました。もう一つは、若者を対象にした、 「もう ひとつの放課後プロジェクト」と「課外授業プロジェクト~みんなのワクワクが詰まったまちをつ くろう!!~」です。前者では、静岡県内の中高生の企画を実現を手伝い、後者では、ワークショ ップを行って高校生の意見を形成し県会議員に伝えました。 タイトル:静岡県における若者の社会参画支援 -静岡県立大学生の貢献の可能性の追求- 日本語作文能力 UP で、課題に就職に差をつける! 国際関係学部 坂巻静佳、竹部歩美、米山優子 大学のレポートや卒論で、就職活動で、そして卒業後も、文章のみで相手に伝えなければなら ない場面は数多くあります。文章を書くには、その前提として、その言語における文章の書き方の ルールとマナーを知る必要があります。それは外国語のみならず母国語でも同じことであり、日本 人が日本語で文章を書く場合にも当然にあてはまります。 とりわけ文章の書き方のルールとマナーは、単語や文法と異なり、日常的な会話のなかで必ず しも身に着けられるものではないので、意識的な学習が必要となります。これらの技法は、知れば 誰もが使うことのできるものです。そして、この技法を知っているか否かで、文章の読みやすさも、 相手に伝わる度合いも大きく変わってきます。 私たちは、国際関係学部生の日本語作文の基礎を短期間で鍛えることを目指し、独自のテキス トを作成して、 「日本語作文ワークショップ」を開催しました。おかげさまで、参加した国際関係学 部生からは、レポート・卒論に役立つとの高い評価をいただきました。この経験を踏まえて、テキ ストや教え方を改善し、今後も日本語作文能力向上のための効率的かつ実践的な教授法を追及して いきたいと考えています。 タイトル:日本語作文技法の効果的教授法 18 英語の現在完了形はこれを学習しよう! 調査でわかった、授業で習わなかったこと 国際関係学部 吉村紀子・武田修一・澤崎宏一・奈倉京子 言語コミュニケーション研究センター 藤森敦之 次の二つの文は発話時点で意味が微妙に異なります。 a. John studied Japanese for three years.( 過 去 ) (1) b. John has studied Japanese for three years.( 現 在 完 了 ) (1a)と (1b)は 、 そ れ ぞ れ 、 「 3 年 間 の 学 習 後 、 終 了 し た 」 、 「 学 習 が 3 年 目 で 、 現 在 も 継 続している」ことを意味します。 また、大学生の自由作文には次のような誤用例が見られました。 (2) a. The internet influenced (has influenced) a lot on the business. b. Thanks to them, our life became (has become) more comfortable. 英語では、 「過去の出来事が現在と何らかの関連性(影響や結果等)を持つ場合、完了相を用いる」 ことから、現在完了が適切です。 本 研 究 で は 、現 在 完 了 を 学 習 す る 上 で の つ ま ず き の 原 因 に つ い て 考 え て み ま し た 。県 大 生 248人 、 英 語 母 語 話 者 35名 、 英 語 ニ ア ネ イ テ ィ ブ ス ピ ー カ ー 17人 を 対 象 に 調 査 を 行 い ま した。調査では、物語を読んでもらい、刺激文に対する真偽を問いました。 今は火曜の午前。ケイティはショッピングモールでアレックスと会っています。 (3) ケイティ: 元気、アレックス? アレックス: うん、なんとかね。先週の火曜日に仕事を首になっちゃって、 でも昨日、新しい仕事先を見つけたんだ。 Alex has changed his job. 分析の結果、 「翻訳中心」の英語教育が現在完了の意味の理解に必ずしも繋がらないことがわかり ました。 タイトル:第二言語として学習する英語と日本語の時制・アスペクトの問題点 -形態統語と意味 解釈の接点から考える- 19 うどんを食べたおつりと食べるおつり ——過去の読書経験が文理解に影響を与えている—— 国際関係学部 澤崎宏一 「うどんを食べたおつり」のような表現は、英語に訳せない、日本語特有の言い方であることが 知られています。直訳の”the change that I ate the noodle”は意味が通りません。この文は、「うどんを 食べた」ことと「おつり」との関係を世界知識に照らして考え、 「うどんを食べて代金を払ったら返 ってきたおつり」と解釈することが必要です。世界知識は、過去の記憶の積み重ね(長期記憶)により 身につくと考えられますが、人が持つ長期記憶には個人差があるはずです。では、上の表現を理解 するとき、解釈に個人差が出るのでしょうか。 この研究では、例えば上のような表現の解釈が読書経験の違いにどう関係するかを調べました。 大学生 52 人が「うどんを食べたおつり」と「うどんを食べるおつり」のような文を黙読して各文の 自然度を判定しました。 「食べた」と「食べる」だけが異なるペアで、このような場合、「食べた」 でなければ日本語としておかしく、このおかしさを見分けられるかという調査です。その結果、読 書経験の高いグループは二つの文の違いを見分け易いが、低いグループは違いを見分けにくいとい うことがわかりました。 タイトル:読書週間と文理解に関する基礎調査 どうすれば「強いブランド」をつくれるのか - モノづくり県から、ブランドづくり県へ - 経営情報学部 岩崎邦彦、藤澤由和 「よいモノをつくれば売れる」という時代は終焉した。成熟社会の今日、世の中にはモノがあふれ ている。モノづくりのレベルは上がり、品質が良い商品を提供できる企業はたくさんある。 だが、単に品質が良いだけでは、消費者は「買いたい気持ち」にはならない。我が国の優秀なモノ づくり企業が苦境に陥っているのも、ここに要因があるのかもしれない。「モノづくりでは勝った」 のに「ブランドづくりで負けた」企業が多いのではないか。 静岡県は「ものづくり」県としては全国有数であるが、 「ブランドづくり」県としては、どうだろう か。 ブランドは、 「売りたい商品」を「買いたい商品」に変えてくれる。21 世紀、地域や企業の競争力 は、ブランド力によって決まるといっても過言ではない。 では、どうすれば、強いブランドを生み出すことができるのだろうか? どうすれば、既存商品のブランド力を強くすることができるのだろうか? これが本研究のテーマである。今回の研究では、全国の消費者・中小企業の経営者を対象とした 調査を実施し、「強いブランドを生み出すための条件」を抽出した。 タイトル:静岡ブランドの戦略的構築に関する実証研究 20 静岡県におけるファミリー企業の内的ネットワーク構造の把握に関する研究 経営情報学部 奥村昭博、斉藤和巳、武藤伸明、藤澤由和 本研究はファミリー企業における特殊な内的ネットワークの把握を試みることにより、ファミリ ー企業の組織的な存立および永続要件の同定を試みることを最終的な目標とするものである。具体 的には、特殊なネットワーク特性(信頼、規範など)であり、コミュニケーションの活発化、生産 性やイノベーション促進などに好影響を与えるとされるソーシャル・キャピタルという考え方に着 目し、当該組織の内的ネットワークは、必然的に外的な組織間ネットワークとの繋がり、なかでも 内的ネットワークの地域的な広がりを、地域産業振興の在り方との関連から検討を行うことを目的 としている。 これまでのところ、当該課題の論点整理を行うとともに、その理論的観点の精細および具体的な データ構築のためのプロトコルの検証などを行っており、また、調査対象企業に関しては、現時点 においては、県内の企業を含む約 30 近い企業の参加内諾を取り付けており、これら企業のデータベ ース化を行っている。さらに具体的な調査の際に必要とされる調査プロトコルおよび個別の質問項 目などに関しても、検討が進められてきており、これらを実際に用いてデータ構築が可能な状況に 達している。 タイトル:静岡県におけるファミリー企業の内的ネットワーク構造の把握に関する研究 ソーシャル・キャピタルにおけるネットワーク構造把握手法の検討に関する研究 経営情報学部 藤澤由和、斉藤和巳、武藤伸明、大久保誠也、 明石工業高校専門学校 石田 祐 島根大学プロジェクト研究推進機構 濱野 強 地域レベルのソーシャル・キャピタルの実証的な把握に関しては、いまだ明確な方法が確立され ていない。そこで、本研究では、新たな調査手法の確立を意図して、地域におけるソーシャル・キ ャピタルのネットワーク構造把握のためのプロトコルおよびそのためのディバイスを検討しその評 価を行った。 調査プロトコルとしては、個人レベルのネットワーク属性データにより付加的なネットワークデ ータを加味しうる、Respondent-Driving Sampling(以下 RDS)を用いた。またディバイスに関しては RDS によるデータを半自動的に収集することを可能とするディバイスを構築した。これらを用いて実際 にデータの構築実験を行い、かつそのデータを元にしたシミュレーションを実施した。構築データ の解析結果に関しては、一定程度 RDS の理論値をカバーするものであったが、かなり限定的なもの であったといえる。 RDS によるネットワークデータは、いわゆるソーシャル・キャピタルの構造的側面の把握に大き な可能性をもたらすものであることが示されたが、今回の試行実験を踏まえて、より大規模なデー タ構築作業を行い、今回示された課題の克服が必要であると考えられる。 タイトル:地域レベルのソーシャル・キャピタルの構造的側面を把握するためのプロトコルおよび ディバイスの開発とその有用性の検証研究 21 社会的価値にどのように報いるか 経営情報学部 金川幸司 NPO を中心とするサードセクターは、海外においては、アメリカのコミュニティ開発金融機関(CDFI)、 オランダのトリオドス銀行、バングラデシュのグラミン銀行を初めとするマイクロクレジットなど の融資制度がある。また、寄付金に関しては、日本においても近年、認定 NPO 法人の要件緩和、定 率減税の導入など、NPO に有利な制度改正が行われた。また、イギリス、アメリカ、オーストラリ アなど、社会的なインパクトの発生に対して投資資金を呼び込む実験が行われている。しかしなが ら、わが国においては、政府の財政赤字により、公的資金の導入が困難になりつつあり、また、よ り一層のアカウンタビリティが求められるようになっている。今後は、ソーシャルインパクトの数 値化等による可視化手法の開発が急がれるとともに、情報化時代に対応したクラウドファンディン グの可能性も探る必要がある。また、それとともに、ソーシャルキャピタルを高めるための草の根 型の NPO を絶やさないようなキャパシティビルディング(基盤整備)も併せて行っていくことが必 要である。 タイトル:静岡県のサードセクターの資金調達とその基盤整備に関する研究 災害時に無事を伝える:耐災害性を向上させたクラウド型安否情報システム 経営情報学部 湯瀬裕昭 東日本大震災の際に,人的被害が多かった岩手県,宮城県,福島県の大学では,学生や教職員の安 否確認が行われたが,災害の規模がとてつもなく大きかったため,安否確認に時間と多大な労力が かかっていた.事前に安否確認システムを用意していた大学もあったが,建物等の破損や停電など のため多くが機能できなかった. 本学では,東海地震に備えて,安否情報システムの改良と運用を行い,東日本大震災の状況を踏ま え,耐災害性の向上を目的にクラウド型安否情報システムの開発を行っている.クラウド型安否情 報システムを実用化すためには,実運用可能な安否情報システムを開発することだけではなく,安 否情報システムを使いやすくすることの両方を行う必要がある.そこで,本研究では,クラウド型 安否情報システムの実用化という観点から,次の 3 点について研究を実施した.(1)クラウド型安否 情報システムのプロトタイプの改良,(2)災害時の大量アクセス負荷への対応,(3)安否情報を簡単に 登録できるよう利便性の向上 学生教職員の安否情報登録の利便性を向上させるために,災害時の避難行動などに役立ち,かつ安 否情報を簡単に登録できるスマートフォンのアプリケーションも開発した. タイトル:クラウド型安否情報システムの実用化に関する研究 22 学部基礎教育におけるコア・コンピテンシーのための 教育プログラム検討に関する研究 経営情報学部 東野定律、藤澤由和 コア・コンピタンスという概念への関心が高まりを見せているが、こうした概念を具体的に教育プ ログラムにどのように応用するかという点に関しては、未だ我が国においては十分な検討が見られ ない。その一方で欧米の先進的な教育プログラムにおいては、大学を卒業した者に対して求められ るコア・コンピタンスとは何かという観点から、そのためのツールと教授技法の開発が進められて きている。こうした点をふまえ、今後、我が国においてもコア・コンピタンスといった考え方を前 提に、学部学生が将来的に求められる具体的なビジネスシーンなどを中心に、複数のコア・コンピ タンスを、①情報収集スキル(インプット)フェーズ、②ロジカル・シンキング(分類・分析)フ ェーズ、③ファシリテーション(体系化・統合)フェーズ、④プレゼンテーション・スキル(アウ トプット)フェーズの 4 つのフェーズに区分し、その統合的な能力の向上を促す、統一的な教授法 とコンテンツの開発を検討した。 タイトル:学部基礎教育におけるコア・コンピテンシーのための教育プログラム検討に関する研究 LEGO を用いた初学者向けプログラミング教育 経営情報学部 大久保誠也、湯瀬裕昭、鈴木直義 国際関係学部 青山知靖 本研究の目的は、初学者向けプログラミング教育のカリキュラム開発である。 物事を順序立てて効率よく処理するために、アルゴリズム的な考え方は非常に重要である。アル ゴリズムの考え方を身につける上で、プログラミング教育は重要な役割を果たす。 本研究で、本学部の学生を観察した結果、 「プログラムの実行結果が文字だけの場合、興味を持て ない」、「物事を実施するためには処理の順番が重要になるという考え方に慣れていない」、「どのよ うな順番で処理がなされているのかを、トレースできない」等のプログラミングの初学者にとって の課題点が明らかになった。そこで、LEGO の Mindstorms NXT を利用するプログラミング教育に ついて検討を行い、初学者向けのプログラミング教育カリキュラムの提案を行った。提案したカリ キュラムを 1 年生向けの授業(基礎演習 2)において試行した。LEGO は、初学者の興味を引きやす く、かつアルゴリズムによる動きが直感的にわかるため、学生は興味を持ち主体的にプログラミン グ学習を行う事ができた。今後、学生の様子を追跡して教育効果を検証すると共に、引き続きカリ キュラムの改良を行う予定である。 タイトル:学士潜在能力涵養のためのプログラムを書かないプログラミング教育 23 外国人住民も安心してうけられる地域医療サービスを目指して! 静岡県立大学看護学部 濱井妙子、国立看護大学校 永田文子 私たちの地域に暮らしている外国人の中には、日本語がわからないために病院に行っても医師と の会話がわからなくて困っている人がたくさんいます。たとえ日本語がわかる人でも医療の言葉は 難しく、日本と母国の医療システムは違うので、安心して医療をうけることができません。そこで 私たちは、外国人患者が安心して医療サービスをうけられる、かつ、日本の医療者が外国人患者に 安全な医療サービスを安心して提供するためには、どのような方策が有効なのかについて研究を進 めています。今年度は、在住外国人向け日本語教室の参加者に、病院のかかり方講座を実施しまし た。在日年数が長い方でも、日本の医療システムを知らない人がたくさんいました。このように、 日本人なら誰でも知っているような情報を外国人にもわかりやすく伝えていく工夫が必要と考えて います。現在は県内の在住ブラジル人を対象にした医療通訳者を養成するための研修プログラムを 作り、これから研修を実施するところです。質の高い医療通訳者を効率よく養成できるプログラム が開発できれば、地域の医療現場に貢献できる人材を育成していくことが可能になり、外国人患者 も医療者にもメリットがあると考えています。 タイトル:在住外国人対象の病院のかかり方講座の取り組み 臨床との連携による時代の求めに応じた教育の取り組み -チーム医療に必要な「根拠に基づいた看護実践」を学ぶ- 静岡県大看 古川文子、田中範佳、木元千奈美 県立総合病院 看護部 鈴木えり子 静岡赤十字病院 看護部 鍋田きぬこ 高齢化の進行と生活習慣病を患う人々の増加は、健康問題の解決を複雑で難しいものにし、チー ム医療に拠らなければ対処できない状況をもたらしています。チームを構成する各職種には役割遂 行に多様な能力が求められ、特に「根拠に基づく実践」と「「臨床判断」は不可欠な能力となってい ます。そこで、成人看護学実習での新プログラムとして、1)病院では根拠に基づく看護ケアを、2) 学内では臨床判断学習に最新シミュレータを用いたシミュレーション実習を導入しました。1)は米 国ジョンズ・ホプキンス大学の実践例を、2)は国立シンガポール大学の実践例を参考にしました。 実習生は急性・慢性看護学実習を終えた 4 年生です。1)では臨床看護師や教員の指導のもと、学生 はチームを組み患者さんのケアの計画、実践、評価を、2)では呼吸・循環・意識の異常サインの早 期発見と対処、その判断過程の訓練を行いました。プログラム評価には、学生の同意を得て学習記 録物を用いました。学習到達度では設定目標よりやや低い結果となりましたが、初回導入の為、も う一度実施した後、チーム医療に貢献する看護職者教育の継続という視点から、改善を検討するこ とにしました。 タイトル:学部学生のための臨床実習用職種横断的 EBP モデルの構築 -平成 24 年度 実習での EBP モデルの適用及び EBP に必要なシミュレーション教育の企画・運営 24 食事と呼吸の関係 ~呼吸から脳の疲労を探る~ 短期大学部 林 恵嗣 体温が高くなると、頭がボーっとすることがあります。そして、このような状態の時には運動能力 が低下してしまいます。この時の運動能力の低下は、筋肉側(末梢)の問題ではないこともわかっ ています。このようなことから、体温が高くなることで、脳の疲労、つまり「中枢性疲労」が起き ていると考えられています。この現象の原因の一つに脳への血流量の減少が挙げられています。脳 への血流量が減少する理由は、体温が高くなることで過換気が起こるためです。しかし、なぜ体温 が高くなると過換気が起こるのかはよく分かっていません。多くの動物は、パンティング(浅速呼 吸)と呼ばれる呼吸による熱放散手段を有していますが、人間には、発汗や皮膚血管拡張という別 のシステムがあり、どうも熱を逃がすために過換気を起こしているわけでもないようです。私はこ の謎を解明するとともに脳の疲労を軽減する方法の開発を目指しています。私たちは、生活の中で 必ず食事を摂ります。食事を摂ると、食後数時間にわたり代謝の亢進が起こり、体温が上がります (食事誘発性熱産生) 。今回は、このような食事誘発性熱産生が呼吸に影響をするのかどうかを明ら かにすることを目的としました。 タイトル:食事摂取の有無が呼吸化学受容器反射に及ぼす影響 ―熱中症の予防に向けた基礎的研究― 介護福祉士の「勘」は科学的?? ~ベテラン介護職員の「気づき」の解明~ 短期大学部社会福祉学科 鈴木俊文 病気や障害を抱えて暮らす人々の介護は、言葉を通じてのやりとりだけでなく、 「今日は様子がおか しいな」 「何かいつもと違うな」という気づきがとても重要だと言われています。しかし、この「気 づき」はケア現場に務める職員の「勘」なのでしょうか?私は、このような介護に係る職員さんが ケア現場で発揮している「勘」の成り立ちとしくみを研究しています。 「暗黙知」という言葉をご存 知ですか?暗黙知は経験的に培った言葉で説明することが難しい隠れた知識。よく、自転車には乗 れるけど、どのように乗っているかを言葉で説明するのは難しいという例で紹介される知識です。 この研究で扱う介護職員の勘も、まさに「暗黙知」であると考えています。例えば、言葉でのコミ ュニケーションを困難とする認知症者の不確かな発語や断片的なしぐさは、ベテラン介護職員の「勘 (暗黙知) 」によって異常の察知や必要なケアに結びついています。この研究は、このような介護職 員の匠技ともいえる「勘」を科学的に分析し、教育開発につなげることを目指しています。 タイトル:認知症ケアの非言語によるアセスメントの記述的研究 -「間主観性」を扱う教育・教材開発- 25 医療通訳ネットワークづくり‐静岡県国際交流協会とこころの医療センター とワークショップを開催‐ 短期大学部 講師 前野真由美, 聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部 准教授 前野竜太郎, 常葉学園大学外国語学部 講師 三村友美, 元・静岡市立清水病院地域支援室 医療ソーシャルワーカー 管理栄養士 青野真奈美, えのもと循環器・内科 医師 榎本信雄 知久直人, 1989 年の出入国管理法改正後、静岡在住日系ブラジル人は、高齢になり、病院にかかる機会が多く なりました。終末を迎える方もみえはじめました。同じ地域に暮らす外国人が日本人と同じように 医療を受けることができることを望みます。病院、診療所において、外国人の意思が尊重される医 療が行われるためには、医療通訳は必要であり、そのネットワークづくりが必要です。今回、①地 域の特性を反映している静岡県立大学、静岡県こころの医療センター、静岡県国際交流協会、②地 域の特性を反映している保健・医療・福祉の専門職者だけではなく、住民、医療通訳ボランティア、 近隣者、家族などの非専門職者と一体化したネットワークづくり構築の方法を見出すことを目的に しました。方法として、静岡県国際交流協会と共に、静岡県こころの医療センターでワークショッ プを企画し行いました。結果、同じ地域にいる医療・福祉の専門職者、医療通訳ボランティア、住 民の非専門職者 54 名の参加がありました。Face to face のネットワークつくり、医療通訳の方向性を 考えるよい機会となりました。ワークショップを今後も開催し、静岡県中部の医療通訳のネットワ ークつくりをしていきたいです。 タイトル:静岡県中部医療通訳ボランティアネットワークの構築に関する研究 26
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