Optimal Macroprudential Policy joint work with Ko Munakata and Koji Nakamura Presentation at SWET, 2013/8/10 Yuki Teranishi Keio University 論文の概要 • 理論モデルを用いて、最適政策を分析(厚生 分析)。 • 特に、金融市場に摩擦(friction)が存在する 場合の最適(金融)政策を導出する。 • 前提とするモデルでは、労働市場の分析で発 展したサーチ・マッチング理論を貸出市場に 応用する。 論文の結論 • 貸出市場に摩擦が存在する下では、最適政 策は貸出市場の需給関係、貸出量、ローン 契約の解約状況、にも反応する必要がある。 • こうした論文の結論は、現在行われているマ クロプルーデンス政策を理論的にサポートす るものである。 研究の背景(1) • 近年の金融危機(リーマンショック、欧州通貨 危機)では、金融市場の混乱、ショックが実体 経済に深刻な影響を与えることが再認識され た。 • 日本についても、平成バブル崩壊後の金融 機関の機能低下が実体経済に大きな影響を 与えたとする意見は多い。 研究の背景(2) • この結果、個別金融機関の健全性の確保(ミクロプ ルーデンス政策)が必ずしも金融システム全体の安 定化に繋がらないとの認識が共有されるに至った。 • このため、新しい政策手段として、金融システム全 体の安定化を目指す、マクロプルーデンス政策が重 視され始めている。⇒新たな政策ツールの誕生。 • マクロプルーデンス政策は、金融システムおよびマ クロ経済全体に深刻な負の影響を与える金融に起 因するリスク(システミックリスク)を抑制して、金融 システムの安定化、ひいては実体経済の安定的な 成長を確保することをその目的とする場合が多い (IMF, FSB and BIS(2011)、ESRB(2012a))。 マクロプルーデンス規制 • 貸出担保比率(Loan-to-Value、LTV)規制、 債務所得比率(Debt-to-Income、DTI)規制、 与信成長率規制は、多くの国で導入実績が あり、与信に働きかける代表的な政策手段。 • 可変的自己資本比率規制を既に導入しいる 国は少ないが、バーゼルⅢの下で同様の政 策手段(カウンターシクリカルな資本バッ ファー)の導入が予定されており、今後は多く の国で同規制が導入される(BIS(2010))。 各国のマクロプルーデンス手段 研究の進展(1) • 既存の理論モデル(特にニューケインジアンの DSGEモデル)では、完全な金融市場が仮定される ことが多かった。 • 例外は、Bernanke, Gertler and Gilchrist(1999)、 Kiyotaki and Moore(1997)。2つのモデルは情報 の非対称性から企業が資産価値(担保価値)に応じ て与信制約を受けるというもの。この仮定は今次金 融危機に特徴とすぐわない。 • 金融危機以降では、金融市場の異なる不完全性を 前提にしたモデルや、そうしたモデルを使った論文 が多く書かれている。 研究の進展(2) • 理論モデルの進展としては、Gertler and Kiyotaki(2009)、Korinek(2011)、Bianchi (2010)などが挙げられる。 • Gertler and Kiyotaki(2009)は、情報の非対 称性から金融機関が(預金)借入制約を受け る。 • Korinek(2011)、Bianchi(2010)は、外部性 が各経済主体が想定するよりも大きな損失を 生み出すメカニズムをモデル化している。 研究の進展(3) • 実証分析としては、Hirakata, Sugo and Ueda (2011)、Lawrence, Mottoz and Rostagno(2012) などが挙げられる。 • Hirakata, Sugo and Ueda(2011)は、BGGによる 金融市場の不完全性を金融機関にも仮定した場合、 米国の設備投資の20%程度を説明することを示し た。 • Christiano, Mottoz and Rostagno(2012)はBGG による金融市場の不完全性が米国の景気循環の 多くを説明することを示した。 研究の進展(4) • 政策分析としては、Quint and Rabanal (2011)、 Suh (2012)、Kannan, Rabanal, and Scott (2012)、 Christiano and Ikeda(2013)などが挙げられる。 • Quint and Rabanal (2011)、Suh (2012)、Kannan, Rabanal, and Scott (2012)はBGGによる金融市場 の不完全性を取り込んだモデルの下では、与信規 制を特定のクラスの利子率ルールに取り込むと、社 会厚生が上昇することを示した。 • Christiano and Ikeda(2013)は、銀行が情報の非 対称性から資金調達に制約を受けるモデルで、レ バレッジ規制が社会厚生を上昇させることを示した。 研究の進展(5) • 最適政策対応の分析としては、Woodford and Curdia(2009)、Teranishi(2008)などが挙げられる。 • Woodford and Curdia(2009)は、標準的なニュー ケインジアンモデルに借り手、貸し手を導入し、借入 量に応じて貸出金利にプレミアムが乗る場合、最適 金融政策はプレミアムを縮小させることを社会厚生 を二次近似することで解析的に示した。 • Teranishi(2008)は、標準的なニューケインジアン モデルに借り手と貸し手を導入して、貸出金利に硬 直性がある場合には、最適金融政策はプレミアム は貸出金利の変化を緩やかにするようになることを 解析的に示した。 本稿の特徴(1) • 理論モデルとしては、BGGタイプの不完全な金融市 場を前提とはしないで、貸出市場におけるサーチ・ マッチングによる金融市場の不完全性を前提とする。 • 労働市場でサーチ・マッチングを仮定したものとして は、Mortensen and Pissarides(1994)が挙げられ る。 • ローン市場でサーチ・マッチングを仮定したものとし ては、Wasmer and Weil(2000)、Den Haan, Ramey and Watson(2003)、Keam and 寺西 (2010)が挙げられる。 本稿の特徴(2) • Woodford and Curdia(2009)、Teranishi (2008)と同様にして、最適政策を社会厚生 を二次近似することで解析的に示した。 • BGGタイプのモデルでは、解析的に最適政 策を導出することは困難であるが、サーチ・ マッチングによって不完全な金融市場を取り 込んだモデルでは、これが可能となる。 モデルの概要 • モデルには、家計、中間財生産企業、最終財生産 企業、銀行、政府(中央銀行)が存在する。 • 消費者は最終財を消費、資産の購入、労働力の供 給を行う。 • 中間財生産企業は、労働投入を用いて財を生産す る。この際、生産活動を行うためにローンを組む。価 格設定は伸縮的。 • 最終財生産企業は、中間財を用いて最終財を生産 する。この際の価格設定は硬直的。 • 銀行は、家計から預金を集めて、中間財生産企業 にローンの貸出を行う。 家計(1) • 消費者は最終財を消費、資産の購入、労働力の供 給を行う。予算制約の下で、効用を最大化するよう に、消費と貯蓄を選択する。 (1)予算制約式 ここで、Cは最終財、Pは価格、Πは配当、Dは預金、RDは預金金利。 (2)家計の効用 ここで、βは割引率、σはパラメータ。 中間財生産企業(1) • 中間財生産企業は、労働投入を用いて財を生産す る。この際、生産活動を行うためにローンを組む。 (1)ローンの借り入れ ここで、utはローン契約を探している企業の数、ptFはローン契約を結べる確率、 ρはローン契約が終了する比率。 中間財生産企業(2) • ローンを借りることができた企業は、定額aのローン を借りて生産Zを行うことになる。 (2)生産を行った企業の利潤 ここで、μtはPt/Pwt、RLtはローン金利、1は生産できる場合、0は生産できない 場合を示す。 また、 中間財生産企業(3) • ローンを借りることができなかった企業にも、将来に わたるgainが存在する。 (3)生産を行わない企業の利潤 (4)生産を行うことによる利益(ローン契約をむすぶことによる利益) 銀行(1) • 銀行は、家計から預金を集めて、中間財生産企業 にローンの貸出を行う。 (1)ローンの貸出し ここで、qtBはローンの採択率、vtは探す貸出先の数。 (2)銀行の利益 ここで、κは貸出先1つを探すコスト、RDtは預金金利(政策金利)。 銀行(2) • 銀行は、ローン貸出の遷移を制約にしながら、利潤 を最大化する。 (3)期待コストの流列 (4)銀行のローン貸出の単位あたりのgain 最終財生産企業 • 最終財生産企業は、中間財を用いて最終財を生産 する。この際の価格設定は硬直的。 (1)最適な価格設定 (2)硬直的な価格 ローン市場の均衡 • ローン市場は、貸し手、借りての数が一致するときに 均衡する。この際、ローン市場の数の決定はマッチ ング関数にもとずく。また、ローン金利は銀行と企業 のバーゲニングで決定さえる。 (1)ローン市場の均衡とローン市場の需給 ここでχはマッチングの定数パラメータ、αはマッチングの弾力性のパラメータ。 (2)ローン金利の設定(ナッシュ・バーゲニング) ここでbは企業の金利設定におけるバーゲニングのパラメータ。 ローン市場の概要 ローン契約のお願い 銀行 企業 ローン契約の受諾の可否 マッチング関数 Market Clearing Condition (1)需給均衡式 (2)資源制約式 線形モデル体系(6変数、5式) (1)フィリップス曲線 (2)限界費用 (3)IS曲線 (4)ローン市場の需給 (5)消費とローンの関係 家計効用の2次近似 • 家計の効用関数を2次近似することで、最適政策が 何を重視するかを分かりやすく示すことができる。 ∵ 最適政策の特徴(1) • ローン貸出の探索コスト(κ)が大きいほどローン変動をより抑制しようと する。これは、探索にコストがかかる(資源制約式に入る)ために、ローン をefficientな水準にしておいた方がよいため。 最適政策の特徴(2) • ローンの平均的な終了期間が短くなるほど、ローン変動をより抑制しよう とする。これは、探索の回数が多くなるほど資源が浪費されるため。 最適政策の特徴(3) • ローン残高の変化を安定化させることが最適政策 にとって必要となる。そうするように、例えば政策金 利を変化させる。 • この結果はQuint and Rabanal (2011)、Suh (2012)、Kannan, Rabanal, and Scott (2012)が特 定の利子率ルールにローン残高を入れると社会厚 生が改善するとの結果をサポートするもの。 結果の一般性 • 異なるタイプの不完全な金融市場(貸出市場)を仮定した、 Woodford and Curdia(2009)、Teranishi(2008)では2次近 似式に貸出金利と政策金利にスプレッド、もしくは貸出金利 に変化が入る。 • 本モデルでも2次近似式を変形することで貸出金利を含む形 にすることができる。 • いずれの不完全貸出市場の下でも、貸出市場を安定化させ ることが最適政策となる。 モデルの拡張 • モデルの特徴に応じて最適政策の特徴も変 化する。 • 例えば、ローンの平均契約期間が変化する 場合を考える。 • 特に、ローンの契約期間が長いほど企業の 生産性(生産量)が変化する。成長が終わっ た企業の生産性は低下する(Mortensen and Pissarides(1994))。 最適政策の拡張 • この場合には、ローンの平均残存期間の変動を、最適な長 さ(均衡)の周りに、抑えることが最適政策の条件となる。 • ローンの平均残存期間とローン残高の変化の交差項を安定 化する必要もある。 政策主体の問題 • このモデルで、どの政策主体が、どの範囲の 変数を安定化させるべきかを直接的に議論 することはできない。 • 例えば、金融政策が預金金利を変化させるこ とができるとするならば(現実と整合的ではあ る)、金融政策のみで全ての変数を安定化さ せることもできる。 • 一方で、新たな政策変数を導入することもで きる。 最適政策の特徴(1) 金融政策(預金金利) 金融政策(預金金利) +マクロプルーデンス政策 (バーゲニング、平均残存期間) 新たな政策変数(1) • ここでは、マクロプルーデンス政策の例として、 企業と銀行の間のローン金利設定について のナッシュ・バーゲニング(b)をコントロール することを仮定する。 ⇒金融の自由化、規制変更 • この場合には、コストプッシュショックに対して、 完全な物価安定を実現できる。 • これは、コストチャネルを安定化することで、 フィリップス曲線を直接安定化することができ るため(金融政策はIS曲線しか直接的に安定 化できない)。 再掲:線形モデル体系(6変数、5式) (1)フィリップス曲線 (2)限界費用 (3)IS曲線 (4)ローン市場の需給 (5)消費とローンの関係 新たな政策変数(2) • この他、ローンの平均残存期間(ρ)をコント ロールすると仮定することもできる。 ⇒貸出総量規制。 • この場合には、コストプッシュショックに対して、 完全な物価安定を実現することはできない。 • いずれの場合にも、マクロプルーデンス政策 の形によって、金融政策の結果は大きく変化 することになる。 今後の課題 • 最適政策の責任主体の差別化(金融政策とマクロ プルーデンス政策)。 • 外部性(externality)の問題。 • モデルの拡張(銀行自己資本、レバレッジなど) • モデルの実証的なサポート(Keam and 寺西 (2010))。 • 最適政策を近似する単純ルールの探索。
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