情報社会の窓 電子ディスプレイの生態学: 利用者中心のディスプレイ技術への視点 窪田 悟 理工学部 エレクトロメカニクス学科 成蹊大学公開講座 2005.6.4 第1部 ディスプレイ技術の生態学 1.液晶 2.ブラウン管 3.プラズマ 4.ディスプレイ技術の経済的側面 5.ディスプレイの棲み分け 6.今後期待される技術 (SED,有機 EL) ) SED,有機EL 7.ディスプレイメーカーの生残り戦略 第2部 ディスプレイの人間工学的評価研究から 1.ディスプレイの人間工学 2.中高齢者の視覚特性に適合したディスプレイの条件 3.家庭における観視条件を考慮したテレビの設計 まとめ 機械論から有機体論へ 成蹊大学公開講座 2005.6.4 1 液晶ディスプレイの進化(適応放散) 生態学のアナロジー 反射型 在来種 半透過型 印刷 透過型 投射型 ブラウン管 プラズマ スライド 映画 電子ペーパー 半透過型 携帯情報端末(PDA) 携帯電話 ペイジャー ハイビジョンテレビ 大画面テレビ デスクトップPC ノートPC ラップトップPC リアプロジェクタ フロントプロ ジェクタ 小型TV 電子手帳 STN方式 TFT方式の出現 1983 ゲーム 家電 ポケットコンピュータ 1973 電卓(シャープ) 腕時計(諏訪精工舎) 1968 RCAのサーノフ研究所 Heilmeier et al. 成蹊大学公開講座 2005.6.4 液晶ディスプレイの発生と進化 ●液晶という物質の発見 Friedrich Reinitzer 1847-1927 1888年 Reinitzer オーストリアの植 物学者サーモトロピック液晶の発見 この年(明治21年)森鴎外がドイツか ら帰国.石鹸水やイカ墨も液晶の一種 である.ただし,ディスプレイに使われ ているものとは全く異なる. Otto Lehmann 1855-1922 1889年 Lehmann ドイツの物理学 者(カールスルーエ工業大学) 液晶 に光学的異方性を見出し, 液晶 と 命名した 成蹊大学公開講座 2005.6.4 2 ●液晶ディスプレイ発明の経緯 1962年 Williams アメリカ RCAデビットサーノフ研究所 液晶による光変調 1964年秋 Heilmeier 28歳 室温で効果を示す液晶がなかった.液晶に染料を混ぜ,熱し た状態で電圧を印加,顕微鏡で変化を観察していた.1枚の偏 光板を挿入したところ,電圧を印加するたびに鮮やかな色の変 化が観察された.これが,Wall-sized flat panel TVの第一歩 であった.その後の4年間は室温でも効果を示す液晶材料の 発見に費やされた.(本人の回想録(1976)より) 1968年5月28日プレス発表 1968年5月30日の我国の朝刊各紙にも報じられた. 成蹊大学公開講座 2005.6.4 1968年 Heilmeier et al. RCAデビットサーノフ研究所 DSM液晶ディスプレイ開発 ハイルマイヤーらが試作した世界初の 液晶ディスプレイ7セグメントのDSM液 晶、NHKビデオ:電子立国日本の自叙 伝(3)電卓戦争より Geroge Heilmeier 1936〜 プリンストン大学からRCAへ, RCAでLCDを発明した 成蹊大学公開講座 2005.6.4 3 ●日本への帰化 1973年 6月15日 シャープ DSM液晶電卓 発売 LCメイトEL805 (DSM液晶)CMOSLSI使用 ¥26,800 単三電池1本で100時間 従来品5〜6時間 73年当時の大卒初任給5〜6万円 DSM液晶の表示部 1987年 TFT-LCD液晶カラーTV商品化, その後,液晶ビューカムで本格的に利用 された 画像は電卓博物館 http://www.dentaku-museum.com/より 許可を得て掲載 成蹊大学公開講座 2005.6.4 液晶のシャープのルーツ 徳尾錠 早川徳次が1912 年「徳尾錠」を 早川徳次が1912年「徳尾錠」を 考案して独立創業 ベルトのバックル 早川式繰出鉛筆 活動写真で見た登場人物の バンドの先がだらしなく垂れ ているのが気になり考案した。 1915年 1915年 早川式繰出鉛筆を開発 独自の繰出機構 最初は、「和服には似合わない」とか「冬には冷たくて使えない」と 惨々だったが,数年後,欧米で大ヒット。 早川徳次 1920年に国内の特許を取得. 1926年後にはアメリカでも特許 年後にはアメリカでも特許 1920年に国内の特許を取得.1926 を取得した. 『エバー・レディー・シャープペンシル』 エバー・レディー・シャープペンシル』と称した. その後,シャープペンシルとした.Sharp Pencil は和製英語,英語はMechanical Pencil.シャープペン自体は,1822年に、イギリスのSampson MordanさんとJohn Isaac Hawkinsさんが発明,その後、 1913年に米国イリノイ州のCharles Keeranさ んまたは Bloomfieldさんが「Eversharp Pencil」を発明したとされる.1915年に特許 を取得したとされる. 成蹊大学公開講座 2005.6.4 4 1973年 9月29日 諏訪精工舎 TN液晶腕時計 発売 画像はAntique & Modern Wrist Watch (http://homepage.ma c.com/utdesign/watch /index2.html)より許可 を得て掲載 デジタルクオーツ06LC(TN液晶) CMOSLSI ¥135,000 32,768Hz,動作温度ー10〜+60° 電池寿命2年以上(内部照明ランプ1日 精密機械から 電子機器へ 10回使用で) 1982年 TFT-LCD 小型カラー液晶TV開発 諏訪精工舎 成蹊大学公開講座 2005.6.4 ウォッチ市場を席捲した精工舎 のデジタルクオーツ セイコーのなぐり込み 100 1973 1975 1977 1980 ウォッチの生産量(100万個) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 日本 ビジネスウィーク表紙 1978年6月5日号 スイス アメリカ ソ連 その他 データ:日本時計協会 成蹊大学公開講座 2005.6.4 5 RCAで液晶ディスプレイが開花しなかったのは 1.ブラウン管で勝ち誇っていたので新技術必要なかった. 2.マーケットがないと考えた. 3.二枚のガラス間に透明電極と液晶を封じ込めるのは製造 技術的に不可能と考えた. 4.電子管部門と液晶をやっていた半導体部門の勢力差,半 導体への切り替え遅れ. 我国で液晶ディスプレイが開花したのは 1.過当競争の電卓と時計にマーケットがあった. 2.先行のRCA が感じていた困難を感じずゼロからとりかか か 2.先行のRCAが感じていた困難を感じずゼロからとりか れた.理論よりやってみた方が勝ち. 3.我国の電子産業が半導体へいち早く切り替えにとりか かっていた. 成蹊大学公開講座 2005.6.4 液晶ディスプレイの表示原理 液晶層厚 5μm 窪田:液晶ディスプレイの生態学(1998)より 成蹊大学公開講座 2005.6.4 6 液晶ディスプレイの駆動方式 セグメント方式 単純マトリックス方式 窪田:液晶ディスプレイの生態学(1998)より 成蹊大学公開講座 2005.6.4 カラー液晶の表色原理 白表示画面の拡大画像 ドットピッチ0.25mm ドットピッチ0.25mm 最近,カラーフィルターの無いフィール ドシークエンシャルディスプレイが注目 されている.RGB 三原色のバックライ されている.RGB三原色のバックライ トLEDを時分割駆動して色を表示する. LEDを時分割駆動して色を表示する. 画素が小さくできる. MS明朝10.5ポイント拡大画像 MSゴシック10.5ポイント拡大画像 成蹊大学公開講座 2005.6.4 7 広視野角化の技術 IPS: IPS: InIn-Plane Switching 横電界方式 MVA: MultiMulti-domain Vertically Aligned 配向分割とVA を合わせた 配向分割とVAを合わせた 方式 窪田:液晶ディスプレイの生態学(1998)より 成蹊大学公開講座 2005.6.4 ブラウン管の発明 Karl Ferdinand Braun(1850-1918) 1897年にブラウン管を発明 電力の送電管理,CRTをオシ ログラフとして使ったのが最初である.「必要は発明の母」 1909年に無線電信の研究でマルコーニとノーベル賞受賞 画像はhttp://chem.ch.huji.ac.il/~eugeniik/history/braun.htmより 成蹊大学公開講座 2005.6.4 8 世界最初のブラウン管 Vacuum Tube (Electron Valve) Museum http://www.oneillselectronicmuseum.com/より 成蹊大学公開講座 2005.6.4 プラズマディスプレイ の表示原理 プラズマ 放電 表示光 透明表示電極 誘電体層 保護層 MgO ガラス 基板 蛍光体 紫外線 可視光 隔壁 図はひとつの画素の 断面図である. プラズマ放電で発生 させた紫外線を蛍光 体に当てて,可視光 を発生させる. アドレス電極 成蹊大学公開講座 2005.6.4 9 カラーテレビの世界市場の需要予測 JEITA(電子情報技術産業協会)による JEITA(電子情報技術産業協会)による 1 2 1 液晶 0.5 プロ ジェク ション プラズ マ 0.5 液晶 ブラウ ン管 2009 2008 2007 2004 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2006 0 0 2005 台数(億台) 1.5 台数(億台) プロ ジェク ション プラズ マ 年度 年度 ブラウン管以外 ブラウン管含む 成蹊大学公開講座 2005.6.4 クリスタルサイクル(液晶の価格急落) 液晶パネルの大口価格の推移 1枚あたりの価格(ドル) 1400 需要不足 ↓ 増産(韓国・ 台湾含めて) ↓ 店頭販売競 争激化 ↓ プラズマとの 競争 1200 1000 PCモニタ17型 テレビ32型 800 600 400 200 0 1 2 3 4 5 6 7 2004年 日経産業新聞2005.5のデータより作図 8 9 10 11 12 1 2005年 成蹊大学公開講座 2005.6.4 10 テレビディスプレイの業界変容 2005年3月時点 キヤノン SEDの共同生産で提携 包括提携 共 同 出 資 会 社 松下 日立 共同出資会社を 日立の子会社に 富士通 FHP 売却 NEC 三洋 フューチャービジョン:シャープ,エプソン,日立ほか,オー ルジャパン連合 東北大学 大見教授主導のプロジェクト 液晶モジュールと素材 サムスン 合弁 ソニー シャープ 売却 パイオニア IPSアルファ 液晶 プラズマ 東 芝 S-LCD SED 事業統合 エプソン 三洋エプソンイメージング 成蹊大学公開講座 2005.6.4 ベゼル 偏光板 ガラス基板 カラーフィルタ 共通透明電極 配光膜 液晶層 配光膜 TFTアレイ ガラス基板 偏光板 レンズフィルム 拡散板 導光板 ケース JEITA:FPDガイドブックより 成蹊大学公開講座 2005.6.4 11 素材メーカーの圧倒的な世界シェア プラズマガラス基板 液晶基板ガラス 日本 電気 硝子 10% 旭硝 子 30% その 他 60% 液晶偏光板保護フィルム 液晶カラーフィルタ その 他 30% 富士 写真 フィル ム 80% 凸版 印刷 40% 大日 本印 刷 30% 日経産業新聞より コニカ ミノル タ 20% 旭硝 子 90% 日本 電気 硝子 10% 成蹊大学公開講座 2005.6.4 素材メーカーの圧倒的な世界シェア 携帯電話用カメラレンズ 液晶感光性スペーサー その 他 20% JSR 80% 日本 ゼオン 90% 売上高営業利益率 JSR 14.8% 大日本印刷 8.5% 売上高営業利益率: 日本ゼオン 8.3% 営業利益を売上高で 凸版印刷 6.2% 除したもの 製造業全平均4% シャープ 日経産業新聞より その 他 10% ちなみに トヨタ 7.6% (2005年3月期) 5.9% 成蹊大学公開講座 2005.6.4 12 ディスプレイの棲み分け 種類 発明された年と国 現時点での主な応用 ブラウン管 CRT:Cathode-Ray Tube 帰化種 1897 ドイツ 液晶 LCD:Liquid Crystal Display 帰化種 1968 アメリカ テレビ,コンピュータモニター,携帯電話, ビデオカメラ,パチンコ台 プラズマ PDP:Plasma Display Panel 帰化種 1954 アメリカ テレビ,公共表示 EL EL:Electro Luminescent Display 帰化種 1952 アメリカ 車載表示,計測機器 有機EL OLED:Organic Light-Emitting Diode 帰化種 1987 アメリカ 携帯電話 蛍光表示管 VFD:Vacuum Fluorescent Display 在来種 1965 日本 FED FED:Field Emission Display 外来種 →帰化 1985 フランス テレビ(SED2006春から) SED:Surfaceconduction Electron-emitter Display DLP(DMD) DLP:Digital Light Processing DMD:Digital Micromirror Device 外来種 1970 アメリカ プロジェクションディスプレイ テレビ,コンピュータモニター AV機器,車載表示 電気泳動式のE 電気泳動式のE-inkなどのいわゆるペーパーディスプレイに関するもの inkなどのいわゆるペーパーディスプレイに関するもの はここでは除外した 成蹊大学公開講座 2005.6.4 ディスプレイの表示原理総覧 窪田:液晶ディスプレイの生態学(1998)より 成蹊大学公開講座 2005.6.4 13 透明基板 +透明電極 正孔輸送層 有機物質の発光層 電子輸送層 −電極 有機ELディスプレイ (OLED: Organic Light-Emitting Diode) 有機物でできた発光層を電極ではさみ、 正孔と電子を注入して発光層を励起させ ることによって発光する。 窪田:液晶ディスプレイの生態学(1998)より 成蹊大学公開講座 2005.6.4 テレビディスプレイの棲み分け 1 0 ,0 0 0 ,0 0 0 プラズマ 実勢価格( 円) 液晶 1 ,0 0 0 ,0 0 0 リアプロ 1 0 0 ,0 0 0 ブラウン管 1 0 ,0 0 0 10 2005年 2005年5月28日現在の量販店に 28日現在の量販店に おける各機種の最安値でプロット 20 30 40 50 60 70 画面サイズ( 対角インチ) 成蹊大学公開講座 2005.6.4 14 液晶テレビとプラズマテレビの価格推移予想 30-35型テレビの価格推移予想 500,000 液晶 プラズマ ブラウン管 400,000 300,000 200,000 100,000 40-45型テレビの価格推移予想 1,200,000 液晶 テレビ受像機の価格(円) テレビ受像機の価格(円) 600,000 1,000,000 プラズマ 800,000 600,000 400,000 200,000 0 0 2003 2004 2005 2006 2007 2008 時期(年) 2003 2004 2005 2006 2007 2008 時期(年) 米iSuppli Corp.などのデータを参考にした窪田の予想 成蹊大学公開講座 2005.6.4 今後期待される技術 その1:SED ㈱東芝 ディスプレイ・部品材料統括 提供 成蹊大学公開講座 2005.6.4 15 東芝・キヤノン連合が 来春から50インチ級の パネル(TVセットではな い)を出荷予定 ㈱東芝 ディスプレイ・部品材料統括 提供 成蹊大学公開講座 2005.6.4 今後期待される技術 その2:有機EL 有機EL(OLED: Organic Light-Emitting Diode)とは 透明基板除くと厚さ 0.1〜0.2μm 発光 正極(透明電極) 透明基板 3〜10 V 正孔輸送層 有機物質の発光層 + + + - - - ++ + -- - 電子輸送層 陰極 物質が安定な低いエネルギー状態から、より高いエネルギー状態に移 り(励起という)、また低いエネルギー状態に戻るとき発光する現象が ルミネセンス。EL (Electro Luminescence)とは、電界で励起を生じさ ルミネセンス。EL( Luminescence)とは、電界で励起を生じさ せる発光現象のこと。有機EL は、有機物でできた発光層を陽極と陰極 せる発光現象のこと。有機ELは、有機物でできた発光層を陽極と陰極 でサンドイッチのようにはさみ、それぞれの電極から+( でサンドイッチのようにはさみ、それぞれの電極から+(正孔) 正孔)と−( と−(電 子)を注入して発光層を励起させることによって発光する。 成蹊大学公開講座 2005.6.4 16 有機ELの生産能力 0 50 月産能力(1インチ換算万枚) 100 150 200 250 300 350 東北パイオニア TDK アデオン パッシブ型 アクティブ型 東芝松下 ローム エスケイ・ディスプレイ 京セラ(非公開) ソニー(非公開) 韓国サムスンSDI 日経産業新聞2005.5のデータより作図 成蹊大学公開講座 2005.6.4 ディスプレイメーカーの生残り戦略 ●技術多様性,常にさまざまな種を蒔き続ける ●その一方で選択と集中 ●他の技術,他のメーカーとの共生 ●技術に適したニッチ(生態的地位)の模索 第1部 おわり 成蹊大学公開講座 2005.6.4 17 第2部 ディスプレイの人間工学的評価研究から 1.ディスプレイの人間工学 2.中高齢者の視覚特性に適合した ディスプレイの条件 3.家庭における観視条件を 考慮したテレビの設計 まとめ 機械論から有機体論へ 成蹊大学公開講座 2005.6.4 ディスプレイの人間工学 ディスプレイ技術の視角 LCD技術 LCD技術 光環境 ・画面照度 ・調節力 ・コントラスト感度 ・順応 ・色覚など 作業の特性 ・映像の観視 ・文字の読み取り ・文字の検索 ユーザー評価 ディスプレイ 作業 ・視力 利用者 利用者の視覚特性 液晶ディスプレイ ・映り込み対象物の輝度 ・視野の輝度 ・液晶材料(化学) ・素子アレイ(半導体) ・バックライト(光電気) ・カラーフィルタ(印刷) ・ドライバ(半導体) 機械論 有機体論 人間工学的評価の視角 他のディスプレイ技術 ・CRT・PDP・OLED ・SED・DLP 情報技術 社会経済的要因 ・価格 ・省電力,省スペース ・携帯性 リニアモデル 成蹊大学公開講座 2005.6.4 18 中高齢者の視覚特性に適合したディスプレイの条件 加齢による視覚特性の変化 ・透光体の混濁 ・老人性縮瞳 ・水晶体の弾性減少 ・網膜感度の低下 ・近距離視力の低下 ・コントラスト感度の低下 ・調節力の低下 ・グレア感の増大 ・順応速度の低下 ・色覚の劣化 関連するディスプレイの表示特性 ・表示輝度 ・コントラスト ・文字サイズ ・書体 ・表示色 成蹊大学公開講座 2005.6.4 加齢によって 高空間周波数 域のコントラス ト感度が低下 する 視覚のコントラスト感度特性を観察するための図 空間周波数が変化しても物理的なコントラストの勾配は一定に作られている. それにもかかわらず,特に高空間周波数域では高コントラストでないと縞が見 えない.すなわち,図の下の方で縞が見え始める.中間の空間周波数におい て,最も低いコントラストで縞が認識できる.図中の線が視覚のコントラスト感 度特性を表わす線の例である.視距離によって観察される結果は変わる. 成蹊大学公開講座 2005.6.4 19 コントラスト感度特性の測定 Cm=50% Cm=15% Cm=37% Cm=4% Cm=7% Cm=0% 空間周波数 1 cycle/degreeの例 17型CRT 視距離115cm 平均輝度40cd/㎡ (0.5〜16 cycle/degで測定) 成蹊大学公開講座 2005.6.4 読取作業実験の方法 実験変数:表示輝度(3),コントラスト(3),文字線幅(2) 150 100 従属変数:日本語文章の J 読み取り速度,主観評定値 コントラスト比 J J J J 10 J J 文字フォント(MSゴシック) 画素構成 実寸 14pt(標準文字) 17×17画素 5.05mm 14pt(ボールド文字) 17×18画素 5.05mm J J 1 30 100 200 表示輝度(cd/m2) 表示輝度とコントラスト比 の組み合わせ(9条件) 文字線幅(2条件) 成蹊大学公開講座 2005.6.4 20 被験者 50名 被験者群 若齢者群 N=25 範囲 男性22名,女性 3名 平均値 高齢者群 N=25 範囲 男性12名,女性13名 平均値 年齢 30cm視力 5m視力 20〜23 0.5〜1.5 0.4〜1.5 21.2 1.14 0.92 60〜79 0.4〜1.0 0.4〜1.0 68.6 0.77 0.71 普段の矯正状態におけ る視力(作業時の視力) Bausch & Lombのオーソ レーターで測定 成蹊大学公開講座 2005.6.4 読み取り課題例 1画面あたり276文字 15型TFT-LCD 160×120mmのウィンドウに表示 成蹊大学公開講座 2005.6.4 21 実験状況 視距離50cm 輝度,CR,線幅 3×3×2 =18条件 各3画面 合計54画面 の読み取り 成蹊大学公開講座 2005.6.4 ◆コントラスト感度特性と読取速度 平均値ではなく個々の利用者に適合した表示を実現する必要 平均値ではなく個々の利用者に適合した表示を実現する必要 があることを示している 若齢者群(N=25;平均年齢=21) 高齢者群(N=25;平均年齢=69) 16 100 10 若齢者群 14 読み取り速度(文字/秒) コントラスト感度 1000 12 10 8 6 4 高齢者群 2 0 1 0.1 1 10 100 空間周波数(cycle/degree) 1 10 100 16cycle/degのコントラスト感度 成蹊大学公開講座 2005.6.4 22 家庭における観視条件を考慮した テレビの設計 1.50世帯のおける実地調査 画面照度,表示輝度,コントラスト,観視位置など 2.290世帯に対するWebアンケート調査 部屋の広さ,テレビの方式,画面サイズ, 望まれる画面サイズなど 成蹊大学公開講座 2005.6.4 画面照度と画質 プラズマ 液晶 明るい量販店の光環境 プラズマ 液晶 暗い家庭のリビングの光環境 そ れ ぞ れ 外 光 の 影 響 を 強 調 し て あ る 成蹊大学公開講座 2005.6.4 画像はソニーピクチャーズエンターテイメント:スパイダーマンより 23 家庭のリビングにおけるTV 画面照度およびTV TVのコントラスト のコントラスト 家庭のリビングにおけるTV画面照度および 20 100 18 90 10 8 70 60 50 40 6 30 4 20 2 10 0 0 0-25 25-50 50-75 75-100 100-125 125-150 150-175 175-200 200-225 225-250 250-275 275-300 300-325 325-350 度数 12 80 画面照度(lx) 累積(%) 14 N=50 Mean=107.9 Median=91.2 SD=64.8 MIN=23 MAX=327 y = 356.23x-0.3717 R2 = 0.2983 コントラスト比 16 1000 N=50 CRT:47 LCD:2 PDP:1 100 10 10 100 画面照度(lx) 1000 夜間における室内照明点灯時 成蹊大学公開講座 2005.6.4 TV観視距離と観視角度の計測 魚眼レンズデジタルカメラをTV の前 魚眼レンズデジタルカメラをTVの前 に設置して観視者の方向を撮影する 観視者の保持している円盤の中心の 角度と直径から観視距離と観視方向 を画像処理により解析する 成蹊大学公開講座 2005.6.4 24 Top View cm 600 800 cm 30° 50世帯 N=275 Right 15° TV screen 37% Normal 画面中心に 対する角度、 視野角の設 計には画面 サイズを考 慮すべき 3% 60% -15° Left -30 600 Scatter plot of typical viewing locations ° 800 cm 成蹊大学公開講座 2005.6.4 Side View 世帯 Upper 15° 64% TV screen Normal 9% 27% 画面中心に対 する角度、視野 角の設計には 画面サイズを考 慮すべき Scatter plot of typical viewing locations -15° Lower cm 成蹊大学公開講座 2005.6.4 25 度数 20 視距離の分布 N=275 平均値=266cm 中央値=245cm 標準偏差=95cm 最小値=66cm 最大値=730cm 15 10 5 英国BBCのTantonの調 査結果(2004)では Min=160cm N=102 Max=650cm Med=270cm Mean=270cm 800 750 700 650 600 550 500 450 400 350 300 250 200 150 100 0 50 0 視距離(cm) 50世帯におけるTV観視距離の実測値 米国における同様の調査結果は J.G.Nathan et al.(1985)、 Human Factors, N=149, mean=337cm, SD=98cm,がある. 本調査結果の1.27倍に相当する 成蹊大学公開講座 2005.6.4 テレビ側から見た観視者の目の位置 テレビ側から見た観視者の目の位置 90 60 60 垂 直 方 向 最 大 観 視 角 (度 ) 垂直方向最大観視角(度) 最 大 観 視 角 度 (65型) 90 30 0 -30 30 0 -30 -60 -60 N=275 N= 2 7 5 -90 -90 - 90 - 60 - 30 0 30 60 水平方向最大観視角(度) 現状のテレビに対する実態 50世帯275データ 90 -90 -60 -30 0 30 水 平 方 向 最 大 観 視 角 (度 ) 60 90 現状の位置に65型を設置した場合の最大 観視角度、四隅のいずれかが最大観視角 度となるので4方向に分布している。背景の 図は、一世代前のIPS-LCDの視角特性を表 している。 成蹊大学公開講座 2005.6.4 26 290世帯に対するWebアンケートの結果から 現在より大きいテレビを欲しいか? 欲しいテレビの方式は? Rear Pro 2% CRT 5% N=176 N=290 No 44% LCD 38% Yes 56% Front Projector とFED 各1名 PDP 56% 成蹊大学公開講座 2005.6.4 290世帯に対するWebアンケートの結果から メインのテレビの対角画面サイズ 20 テレビの所有台数 40 N=290 30 10 20 % 15 テレビ画面の対角サイズ(インチ) 21,25,28,29,32型が多い 50 46 42 38 34 30 26 0 22 0 18 10 14 5 10 % N=264 ワイド33% ノーマル67% 1 2 3 4 5 6 テレビの所有台数 7 8 最頻値は2台,最大値7台 リビング以外のTVも今後重要になる 成蹊大学公開講座 2005.6.4 27 290世帯に対するWebアンケートの結果から Room Area and TV Screen Size 60 Diagonal Screen Size (inch) PDP N=290 50 40 30 20 10 0 0 5 10 15 20 25 30 2 Room Area (×1.65m ) 部屋の広さと画面サイズとの関係 成蹊大学公開講座 2005.6.4 65型が我が国の家庭における究極サイズか? Present Size and Desired Size 100 1.HDTVの最適観視 距離は3H(画面高の3 倍)とされる N=146 D esired Diagonal Screen Size (inch) 65 2.家庭での観視距離 (中央値)が245cm 1、2より概ね65インチ が要求サイズとなり本 調査結果と一致する 今後の課題は、設置場 所、FPD技術、価格etc log y = 0.623*log x +log 4.84 10 10 20 30 40 50 60 Present Diagonal screen size (inch) 100 現在所有しているTV 画面サイズと購入したい 現在所有しているTV画面サイズと購入したい 画面サイズとの関係 成蹊大学公開講座 2005.6.4 28 リビングにおけるテレビの設置状況 N=50 40 壁掛けテレビは技術者 の幻想ではないか? コーナーをうまく使うデ ザインを考える必要が ある. 20 長辺右コー ナー 短辺左コー ナー 長辺中央 中央寄り な ど その他 長辺左コー ナー 短辺右コー ナー 短辺中央 0 短辺左コー ナー 斜め 10 短辺右コー ナー 斜め % 30 成蹊大学公開講座 2005.6.4 まとめ:機械論から有機体論へ 機械論 有機体論 対象 無機物 有機物 方法 実験 観察 扱うもの 単純なもの 複雑なもの 典型学問 物理学 生態学 態度 テクノ中心 人間中心 発想 還元主義 ネットワーク 研究法 定量的 定質的 支配領域 理工系中心 生物・社会系 時系列 不変 進化 中山茂著:「20・21世紀の科学史」より抜粋 成蹊大学公開講座 2005.6.4 29 情報社会の窓 電子ディスプレイの生態学: 利用者中心のディスプレイ技術への視点 ご清聴ありがとうございました 成蹊大学公開講座 2005.6.4 30
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