非結核性抗酸菌によるもの nontuberculous mycobacterial infections

B.非結核性抗酸菌によるもの
2.丘疹壊疽性結核疹
523
papulonecrotic tuberculid
結核菌に対するアレルギーによって生じる血管炎と考えられ
ており,結核疹の一種である.青年の四肢伸側,とくに肘頭や
膝窩に好発する.1 cm 大までの大きさの暗紅色丘疹が対称性
に多発し,壊死,膿疱,潰瘍を経て瘢痕を残して治癒する.こ
のような皮疹が次々と出現し,新旧の皮疹が混在した状態で慢
性の経過をたどる.皮膚小血管性血管炎(11 章 p.152 参照)や
ひ こう
苔癬状粃糠疹(15 章 p.273 参照)などと鑑別を要する.抗結核
薬が有効である.
たい せん
3.腺病性苔癬
lichen scrofulosorum
直径 1 〜数 mm の常色〜紅色に扁平隆起した丘疹が,体幹
しゅうぞく
や四肢に散在性,ないし集簇融合して局面を形成する.毛孔一
致性に生じることもある.自覚症状はほとんどない.病理組織
学的には,毛包や汗腺周囲に類上皮細胞と Langhans 型巨細胞
を認めるが,乾酪壊死はなく,組織培養にて結核菌は証明され
ない.抗結核薬による治療により 1 〜 2 か月で治癒する.
4.陰茎結核疹
tuberculid of the penis,penis tuberculid
陰茎に限局した丘疹壊疽性結核疹(前述)である.腎結核や
膀胱結核をもつ者に発症しやすいとされる.亀頭や陰茎に有痛
性の潰瘍を生じる.臨床的に陰茎癌との鑑別を要する.
B.非結核性抗酸菌によるもの
nontuberculous mycobacterial infections
非 結 核 性 抗 酸 菌 症(nontuberculous mycobacteriosis;NTM)
とは,抗酸菌のうち,結核菌群とらい菌を除いたものによる感
染症(図 26.4)の総称である.このなかでヒトに対して病原
性をもつ菌は約 30 種類で,ヒトからヒトへの感染はないとさ
れている.主な非結核性抗酸菌症とその報告症例数を表 26.2
に 示 す. 菌 種 の 同 定 に は, 小 川 培 地 や MGIT(Mycobacteria
growth indicator tube) な ど で 培 養 し た 後 に DDH(DNA-DNA
hybridization)法を行う.
26
図 26.4① 非結核性抗酸菌による皮膚症状(nontuberculous mycobacterial infection)
524
26 章
抗酸菌感染症
1.Mycobacterium marinum 感染症
にく げ
同 義 語: 水 槽 肉 芽 腫(fish tank granuloma), プ ー ル 肉 芽 腫
(swimming pool granuloma)
●
水族館職員や熱帯魚を飼育する人などに好発.
●
小外傷に汚染水(プールや熱帯魚の魚槽水など)が侵入する
ことで感染し,結節,落屑,潰瘍などをきたす.
●
図 26.4② 非結核性抗酸菌による皮膚症状(nontuberculous mycobacterial infection)
表 26.2 日本の皮膚非結核性抗酸菌症(1969 〜 96 年)
テトラサイクリン系やニューキノロン系抗菌薬などが有効.
症状
皮膚に病変をきたす非結核性抗酸菌症のなかで最も頻度が高
い.M. marinum は淡水を好み,至適温度が 30 〜 33℃であるた
め,プールや熱帯魚の魚槽水などを介して感染する例が多い.
日本の症例の半数は水族館職員や熱帯魚飼育者である.皮膚の
小外傷に感染すると,約 2 週間の潜伏期を経て発症する.手指
背側や関節部などの外傷を生じやすい部位に好発する.中央部
か
ひ
に膿疱や痂皮を伴う紅色局面を生じ(図 26.5),次第に落屑を
伴い疣贅状になる.皮疹は単発のことが多いが,リンパ流に沿
って生じる場合や全身播種される場合もある.
病理所見
非特異的な炎症と類上皮細胞性肉芽腫との混在した所見を得
る.抗酸菌の検出は病理組織学的に困難である.
診断・鑑別診断
職業などが魚に関係している場合は本症を疑う.膿汁,皮膚
組織,魚槽水を培養することで菌を検出する.鑑別診断にはス
ポロトリコーシスなどの深在性真菌症,皮膚結核,異物肉芽腫
など.
治療
テトラサイクリン系やニューキノロン系抗菌薬が有効だが,
数か月〜 1 年以上治療を継続する必要がある.外科的切除や,
使い捨てカイロなどによる局所温熱療法(42℃,1 〜 2 時間/日)
も有効である.
26
2.Mycobacterium avium 感染症
四肢や殿部の外力の加わる部位に結節や膿瘍,潰瘍,皮下硬
図 26.5 Mycobacterium marinum 感染症
結をみる.24 時間風呂や温泉で感染することが多い.治療には,
525
C.らい菌によるもの
a
b
c
d
ea
fb
gc
hd
ie
jf
kg
lh
mi
nj
ok
pl
m
n
図 26.6 Mycobacterium fortuitum 感染症
a:20 歳代女性.腹部に広範囲な皮膚の波動を伴う結節と膿瘍を認める.穿刺により大量に排膿する.b:チール・ネ
ルゼン染色.Mycobacterium fortuitum は赤く染まっている(矢印).
抗結核薬とマクロライド系やニューキノロン系抗菌薬を併用す
ることが多い.限局した皮膚症状であれば外科的切除も有効で
ある.
3.Mycobacterium fortuitum 感染症および
Mycobacterium chelonae 感染症
皮疹は冷膿瘍や瘻孔,潰瘍,結節としてみられる(図 26.6)
.
抗結核薬に加えて,マクロライド系やニューキノロン系抗菌薬
を用いるが治療抵抗性のことも多く,切開,排膿,切除も併用
される.
C.らい菌によるもの
ハンセン病
●
Mycobacterium leprae infection
leprosy,Hansen’
s disease
ハンセン病の WHO 分類
らい菌による感染症で,主に皮膚と末梢神経を侵す.感覚低
下を伴う局面が特徴的.
●
らい菌に対する細胞性免疫の強弱から,T 型と L 型に大別さ
れる.後者は重症であり,全身で菌が増殖して排除されず全
身に結節などを形成する.
●
治療は DDS を含む多剤併用療法.
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