アジア通貨危機の遺すもの1 - ISFJ日本政策学生会議

ISFJ2007
政策フォーラム発表論文
アジア通貨危機の遺すもの1
―アジアによるアジア支援の可能性-
大阪市立大学
山下英次研室
小玉一翔
国際政策
熊谷綾子
2007年12月
1本稿は、2007年12月1日、2日に開催される、ISFJ日本政策学生会議「政策フォーラム2007」のため
に作成したものである。本稿の作成にあたっては、山下英次教授(大阪市立大学)をはじめ、多くの方々から有益且
つ熱心なコメントを頂戴した。ここに記して感謝の意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切
の責任はいうまでもなく筆者たち個人に帰するものである。
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
要約
本稿は、アジア通貨基金設立の必要性と、求められる役割や機能について提言を行うこと
を目標としている。この提言をするにあたって分析のベースとしたのは、1997 年にタイを
発端として発生したアジア通貨危機とそこから生まれた当時の AMF 構想、さらには日の目
を見ることのなかったこの構想に替わり現在進められているチェンマイ・イニシアティブ
(CMI)である。
第 1 章では、アジア通貨危機の一連の流れを追っている。まずアジア危機の概要として、
当時のアジアにおいては、様々な好条件が揃ったことで海外から大量の資金が流れ込み、一
種のバブルのような状況が生まれていた。それが急速に逆流したことから危機が発生し、拡
大したことを説明している。そして IMF の金融支援策とその際に課された IMF プログラ
ムについて述べた。また、当時の AMF 構想についての概要も述べている。そして、IMF
の支援政策の失敗と、投資家のパニック的な投資資金の引き上げ行動が、特に危機の拡大と
いう点において大きな要因であったことを指摘している。IMF は緊縮財政、高金利政策を
求めたが、それは当時のアジアの状況にはそぐわないものであり、危機の拡大を許すことと
なってしまった。また、投資家の資本逃避行動は、データを見る限り焦って資本を引き上げ
なければならない状況ではなかったにも関わらず起きた一種のパニック的なものであった。
これらは共に誤った実情の理解に基づいたものであり、それが問題点であることをここでは
指摘している。
続いて第2章では、アジア通貨危機を、通貨価値と株価の下落が起きた「為替危機」とそ
れらが実質 GDP 成長率の下落など実体経済に影響を及ぼした「金融・経済危機」という 2
段階に区分して話を進めている。タイ・韓国・インドネシアの 3 国の事例を挙げ、IMF 融
資の実施時期が遅かったため思った通りの効果が出なかったことを指摘した。さらに、「為
替危機」という早期の段階で融資を実行する必要があるのではないか、というところまで踏
み込んでいる。
第3章では、危機原因を根本原因と波及原因とに区分し、それぞれについて状況を説明し
ている。まず根本原因を抱えていたタイでは、経常収支の悪化や特に民間部門での債務増と
いったように、経済状況が悪化しているデータがあり、結局それが投資家の不信感を招いた
と考えられる。そういった意味ではタイではこれまでの「20 世紀型の危機」と言える状況
であった。一方危機が波及したそれ以外の周辺国は、これほど深刻な危機に陥らなければな
らないほどのデータは見られなかった。確かに一部悪い指標はあったものの、投資家の不信
感はそこから生じたものではなかった。そしてここから、危機対応だけでなく危機予防も必
要だとの観点から、豊富な外貨準備の必要性やサーベイランスの実施とその公開の必要性な
どを指摘した。特に危機予防には資金の貸し手も巻き込んだ準備が必要となるだろう。
第 4 章ではチェンマイ・イニシアティブについての分析を行った。現状で総額 830 億ド
ルの外貨スワップ協定が結ばれているもののそれはあくまで 2 国間の協定であること。サ
ーベイランスは実施されているものの分析を行う指標に私たちが考えるものが含まれてい
ないこと。あるいは海外投資家や他の国家からの理解を得るための積極的な働きかけはなさ
れていないことなどを問題点として指摘した。それらは全て政策提言の根拠として、アジア
通貨基金が担わなければならない取り組みであると考えている。またこの章では、アジア通
2
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
貨危機の際に行われた融資額を元に、いくつかの条件を元に簡単な計算をして、最低限必要
とされる外貨スワップの総額や、それを支援すべき時期、コンディショナリティーの有無な
どについても述べている。
そして第 5 章では政策提言をしている。危機対応と危機予防という2つの観点からアジ
ア通貨基金が行わなければならないと考えられる取り組みを出来る限り具体的に述べた。ま
ず危機対応は CMI のマルチ化とその際にストックしておくべき総額についてのものであ
る。ここでは具体的に総額を算出し、その融資の方法と必要な時期についても述べた。また、
こうした危機対応のための取り組みは、間接的には投資家の信認を得るという意味において
危機予防の性質も持つものであると思われる。危機予防としては、資本取引税の導入と地域
サーベイランスシステムの導入を提言している。前者はトービン税をベースにした税であ
り、導入による地域経済の安定化と税収による外貨準備の増加を目的としている。資本流入
が減少してしまう可能性が十分に考えられるため、アジア域内でそれを補う方策についても
少しだが述べている。後者については、2 点、現行のサーベイランスシステムを更に発展さ
せたものと、外部へ情報を発信するための全く新しい制度の創設を提案した。現行のシステ
ムの発展の部分では、私たちの分析から必要だと考えられる、現在は分析がされていない指
標をサーベイランスすべきといった点や、少なくとも四半期に 1 度は実施すべきといった
点を挙げている。情報発信のための制度は、信認を得るためにこちらから積極的に働きかけ
ることの必要性を重要視し、設立を提言したものである。域内の国家が順番に集まった指標
を一定の基準の下に分析し、開示するという内容である。
最後に第 6 章では、本稿で論述しきれなかった分であるとか不足点、アジア通貨基金を
実現するために本当に必要であると思われる点などについて述べ、まとめとしている。
3
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
目次(論文構成に応じて自由に章立てをしてください)
はじめに
第1章
アジア通貨危機の全景
第 1 節 アジア通貨危機の概要
第 2 節 IMFの対応と支援策
第 3 節 当時のアジア通貨基金構想
第 1 項 構想の一連の流れ
第 2 項 構想の内容
第 4 節 ここまでの危機を招いた理由とは
第 1 項 IMF と投資家の誤った認識
第5節 以上から導かれる方針
第2章
危機の段階区分
第 1 節 「為替危機」と「金融・経済危機」
第 1 項 段階区分を行う理由
第 2 項 「為替危機」が示す状況
第 3 項 「金融・経済危機」が示す状況
第 2 節 以上から導かれる方針
第3章
危機原因の明確化
第 1 節 根本原因と波及原因
第 1 項 原因区分を行う理由
第 2 項 根本原因を抱えていた国タイ
第 3 項 危機が波及した周辺国
第 2 節 以上から導かれる方針
第4章
チェンマイ・イニシアティブ
第 1 節 現在のチェンマイ・イニシアティブ
第 2 節 以上から導かれる方針
第5章
政策提言
第 1 節 私たちが描く「アジア通貨基金」
第 2 節 危機対応のための提言
第 3 節 危機予防のための提言①「資本取引税」
4
1st ‐2nd Dec.2007
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
第 1 項 資本取引税の内容
第 2 項 メリット・デメリット
第 4 節 危機予防のための提言②「地域サーベイランスシステム」
第 1 項 システムの 2 本の柱
第 2 項 それぞれが生み出す効果
第 5 節 実現に向けて
参考文献・データ出典
5
1st ‐2nd Dec.2007
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
はじめに
昨今、アジア地域において「共同体」というものが目指すべき目標として語られるように
なった。現在の状況を見ると、FTA 協定が結ばれる、東アジアサミットが実施されるなど、
アジア地域全体での取り組みがなされていないわけではない。しかし、それが将来的に「共
同体」という形に発展するような枠組みであるかと問われれば、まだ程遠いというのが率直
な感想ではないだろうか。
今回私たちは、地域統合がなされるためには、政治・経済・安全保障等々あらゆる分野に
おいて、何か1つの目標に向けての地域各国のコミットメントが必要なのではないだろうか
という考えの下、特に金融政策の分野に関わる1つの枠組みを提示する。それがアジア通貨
基金(AMF)であり、本稿の目的はその設立の必要性と、求められる役割や機能について
提言を行うことである。この提言をするにあたって分析のベースとしたのは、1997 年にタ
イを発端として発生したアジア通貨危機とそこから生まれた当時の AMF 構想、さらには日
の目を見ることのなかったこの構想に替わり、現在進められているチェンマイ・イニシアテ
ィブ(CMI)である。
以下、各章においての基本的な内容を述べる。
第 1 章では、アジア通貨危機の一連の流れを追う。危機の内容、IMF の支援策、その当
時生まれた AMF 構想などについて論じ、ともに誤った実状の理解から引き起こされた、
IMF の支援政策の失敗と、投資家のパニック的な投資資金の引き上げ行動が、特に危機の
拡大という点において大きな要因であったことを指摘する。
第2章では、危機の段階を「為替危機」と「金融・経済危機」に区分し、そのような区分
行った理由とそれぞれがどのような状況を指すのかを述べ、それぞれの状況でどのような対
応が求められるのかについて論じる。
第3章では、通貨危機の原因を「根本原因」と「波及原因」に区分した上で、まず区分す
る理由を述べる。そして、原因を抱えていた国の概況を説明し、どのように危機が発生し波
及していったかを示し、そこから危機予防と危機対応の2点が必要となるとの観点を導い
た。このことで、それぞれのステージに対してどのような準備が必要かということを明らか
にする。
第4章では、現行の制度である CMI はどのような状況にあるかをまとめ、第3章で導か
れた観点であった危機の「予防と対応」を行うためには CMI にどういった制度が不足して
いるのか、という部分について論じる。
そして第5章で政策提言を行う。アジア通貨基金(AMF)の設立が提言の大枠である。私た
ちの描く AMF は通貨危機の際の対処を行うだけでなく、危機の予防も担う機関として定義
する。AMF の担うべき役割は、危機対応と危機予防の2点にあると示した上で、それぞれ
を行うために具体的に必要な制度について論じる。また、最後には AMF を実現するために
本当に必要であるが論文中では触れる事のできなかった「課題」というべき部分を挙げる。
6
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
第1章 アジア通貨危機の全景
第1節 アジア通貨危機の概要
1985 年のプラザ合意でアメリカはドル安に向けた合意を取り付け、日系企業は国際競争
力を低下させた。これを受け、製造業を中心とした多くの企業がアジア進出を図った。アジ
ア側は資本取引の自由化といった規制緩和や、
高金利政策を行い、企業の呼び込みを行った。
さらにこのころ、アジア諸国は実質的なドルペッグ制を採用していたため、好調な経済も相
俟って投資家は低リスクで高リターンが得られるという状況下にあり、海外からの過剰なま
での資本供給がなされていた。この資本供給は、高い経済成長に大きな役割を果たしていた
が、その一方で過剰な開発計画や非効率・不透明な融資を生み、必要以上の輸入の増大によ
る経常収支の赤字、あるいは金融構造への不信感を形成していった。また、これらの資金は
不動産や株式の投資にも向かい、バブル的な状況を作り出すことにもなった。
95 年からアメリカ合衆国がドル高政策をとり始めると、アジア諸国の通貨価値も同時に
上昇した。このため、輸出は悪化し、海外民間資本の流入も減少した。この当時、アジア諸
国は前述した理由から、経常収支では慢性的な赤字を抱えていたが、基本的に財政収支につ
いては黒字であった。それは経常収支、特に貿易収支における赤字分を資本収支、すなわち
海外からの投資分で埋めていたためで、このような点において輸出の悪化と海外民間資本の
流入減少は二重のショックとなった。また通貨危機の発端となったタイでは、すでに景気後
退を示す状況として、96 年に輸出の伸びが前年を下回ったこと、不動産の供給過剰が表面
化したこと、などが挙げられる。こうした景気減速や不動産不況から、民間企業や不動産向
けの融資において不良債権が増大し、銀行や金融会社までもが経営悪化に陥った。
また、経常収支の赤字はその国の通貨の海外流出を示し、市場に出回る通貨量を増加する
必要があるため、通貨価値は下がる。結果、ドルペッグ制の維持が困難になる。貸付の不良
債権化やドルペッグ制の維持が困難になること、つまり変動相場制への移行で通貨の切り下
げが行われるであろうことを予想し、95 年 5 月にタイ・バーツに対する大規模な投機が始
まったが、政府は市場介入によりこの攻勢を退けることができた。しかし、この市場介入は
多大なコストをタイに強いることになった。その後も通貨への投機が幾度となく行われ、結
局タイ政府の外貨準備は枯渇し、7 月 2 日にバーツは管理フロート制へと移行した。これが
アジア通貨危機の始まりであり、周辺国を巻き込んだ経済危機にまで発展した。これは一年
以上続いてようやく収まった。
以上が大まかなアジア通貨危機の状況である。
7
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
第2節 IMF の対応と支援策
IMF は、金融支援策として「3 カ国への IMF 金融支援の提供と他の多国間・2 国間支援
資金の動員 2」を実施した。一方で、それと同時に「危機により最も強い影響を受けた 3 カ
国―インドネシア、韓国、タイ―が信認の回復に寄与し IMF に支持されうる経済調整と改
革のプログラムを策定する手助け」を実施した。これが、IMF が融資を行うに際してその
対象国に条件として課す一連の経済政策、いわゆる「IMF のコンディショナリティー」を
盛り込んだ「IMF プログラム」である。アジア通貨危機においてこの IMF プログラムはい
くつかの問題を抱えていたため、あまり効果が発揮されないどころか、回復を阻害する要因
にもなってしまった。
第3節 当時のアジア通貨基金構想
第1項
構想の一連の流れ
アジア通貨基金構想は、アジア通貨危機の再発を防ぐという目的の下、1997 年 9 月以降、
日本政府によって様々な国際会議の場で非公式に提唱された構想である。このとき日本政府
は 1000 億円ドルを用意しこの基金の設立を訴えた。しかし、アメリカ・中国・IMF の反対
にあったことや、日本が当時不況にあり資金不足への懸念が発せられたことから、この構想
は実現しなかった。
第2項
構想の内容
日本政府が提案したこの構想では、
「通貨の安定に焦点を当てたマルチ(多国間)の支援
スキームが想定2」されていた。また、「IMFのサーベイランスを補完するため域内サー
ベイランスを行うとともに、IMFの経済調整プログラムを前提として金融支援を行うこと
等3」が議論されており、この点で現行の CMI とは違い、より「国際機関」という意識を
持っていたと考えられる。
第4節 ここまでの危機を招いた理由とは
第1項
IMF と投資家の誤った認識
IMF と群衆行動の結果、資本を引き上げた投資家は、いずれも「アジア地域の実情を理
解していなかった」という共通点を持っている。結論から言えば、この共通点が危機を招き、
そして拡大させてしまったのである。以下ではまず、IMF と海外投資家、それぞれの行動
における問題点を提示したい。
初めに、IMF の採った財政政策についての問題点を述べる。
2
2
3
荒巻健二(1999),p217
同上,p217
外国為替等審議会「アジア通貨危機に学ぶ」
8
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
アジア地域の状況について考えると、タイ・韓国は他の国に比べて経常収支赤字が高い水
準にあり、インドネシアについてはやや高めの水準であったと言える。しかし、先にも述べ
たように、タイの経常収支赤字は危機の要因となりうるレベルであり、改善の必要性があっ
たと言えるものの、危機が波及した周辺国においては、経常収支の赤字を短期的に回復させ
なければならないほど、逼迫した状況にはなかった。
当時のアジアは景気後退局面にあったので、このような状況下では拡大財政政策を採り、
需要を刺激することが一般的には求められる。しかし、IMF が財政政策としてアジア諸国
に求めたのは、財政均衡を目標とした緊縮財政であり、この政策はさらなる景気の後退を招
くことになった。
ただし、IMF も現在では財政政策については反省の余地があると考えているようだ。例
えば IMF の中でも「アジアの経済は危機の際、一般的に財政の不均衡に苦しんでいなかっ
たため、理事の中には、財政政策の厳しい引き締めの必要性を疑問視した人もいた。4」よ
うである。また、「アジアにおいて、1997-98 年に起きた金融危機と次いで起こった景気後
退からの回復は印象的であった。韓国・マレーシア・タイにおける回復は、拡張的財政・金
融政策によって支えられた。そしてそれは、国内需要の回復に貢献した。5」とも述べられ
ている。
次に、IMF の採った金融政策についての問題点を述べる。
IMF は、金利の莫大な引き上げを迫った。これは、「国が金利を引き上げれば、投資の対
象としての魅力が増して、その国に資本が流入してくる。資本の流入は為替相場を支えるこ
とになるから、通貨が安定する6」と考えられるため、一応筋の通った内容だ。しかし、こ
の時のアジアは企業が負債を抱えていたため、実際にはその企業、あるいは貸し手の銀行に
対して大きなダメージを与えることになった。インドネシアにおいては、「国内企業が資金
を引き出し、外国金融機関に返済をしていくなかで、民間銀行の資金繰りが悪化7」という
事態が起きている。ここから分かるように、結局金利の引き上げは投資対象としての魅力を
高め、資本の流入を促す目的で行われたはずであるのに、返済額が増大し、企業の負担を増
大する結果を招くことになってしまった。そして海外資本をつなぎとめる手段にはならなか
った。
また、海外投資家についての問題点は、先に述べたように、自らは調査機関を持たず、格
付け機関の情報に依存していたことだ。これが悲観的な見方によって資本の引き上げを行っ
た1つの背景であり、結果的にはパニック的な危機を生んでしまった背景であると考えられ
る。格下げ自体は、輸出悪化などによる景気の後退など根拠がなかったわけではない。しか
し、その格下げの根拠は公表されるものではなく、不透明なものであった。
第 5 節 以上から導き出される方針
以上から考えて、支援先・投資先としてのアジアを正しく理解する・させることは非常に
重要なことであると言ってよいだろう。アジアについての正確な理解がなされていれば、危
機の発生や拡大の抑止が可能であり、危機発生時により適切な対策を立てることも可能とな
る。そういった点からして、IMF や投資家の正しい認識・判断をどういった形で導くか、
ということの提示が求められる。また、格付け機関自体にも透明性を高めていくように促す
必要もある。
4
5
6
7
IMF(1998)“Annual Report”,April 1998
IMF(2000)“Annual Report”,April 2000
ジョゼフ・E・スティグリッツ(鈴木主税訳)(2002),pp163-4
石田正美(2007),p4
9
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
第2章 危機の段階区分
第1節 「為替危機」と「金融・経済危機」
第1項
段階区分を行う理由
アジア通貨危機は、一国においても「為替危機」と「金融・経済危機」の2つのステー
ジが段階的に進行していったという見方も可能である。このような区分を行うと、状況でも
って時期の設定を行うことができる。すなわち、IMF が行った支援の時期を「為替危機」、
「金融・経済危機」の2つの危機の座標を基に比較できると考える。このことは、支援の時
期を考察する手がかりとなると考えられる。
第2項
「為替危機」・「金融・経済危機」が示す状況
「為替危機」とは、各国通貨が下落していくことによる危機、「金融・経済危機」は、実
体経済に対して深刻な影響及ぼすものと定義する。より具体的に述べると、「為替危機」は
1997 年内のタイ・バーツの下落と、それに続く韓国・ウォン、インドネシア・ルピア等、
周辺各国の通貨の下落を指す。また、10 月下旬に起きた、大規模な香港・ドル売り投機に
端を発する株価の下落もここに含まれるものとする。「金融・経済危機」は、1998 年からの
実質 GDP 成長率の大幅な下落など、通貨下落が実体経済へダメージを与えた時期である。
もちろん第1ステージである、「通貨危機」の段階から実体経済の悪化は始まっており、第
2ステージである「金融・経済危機」においても通貨下落は起きている8。しかし、おおま
かにくくるとこのような区分になるだろう。
第2節 以上から導かれる方針
「為替危機」と「金融・経済危機」それぞれのステージの分析により、融資がどの時期に
実行されるべきかについて考える。まず、前提として、将来どのような原因によって危機が
発生するかは分からないが、少なくともこれまでの事例を見る限り、自国通貨の急落という
形で「通貨危機」が発生し、輸出の減退や債務の回収懸念などにつながり、結果として実体
経済にも影響を及ぼす(つまり「金融・経済危機」を発生させる)という状況が起こる可能性は
考えられる。この点において、通貨の下落が発生した段階でそれを食い止める手段を講じる
ことは、深刻な危機の発生、危機の伝播を抑止することになるだろうと私たちは考えている。
8荒巻(1999),pp38-40
を参考に作成
10
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
そうした上で、アジア通貨危機の際の融資時期について確認をする。まず、IMF の第 1
回目の融資が実施された日付は表1から、タイ 8 月 25 日、インドネシア 11 月 10 日、韓国
12 月 5 日である。タイは危機の発生国だったこともあり、他の国よりは早期に融資が行わ
れているものの、図1から読み取れるように、すでに実体経済の後退が始まっており、その
後も後退が止まらなかったことから、この段階での融資はあまり効果を成さなかったのでは
ないかと考えられる。次に、インドネシアと韓国について考察する。この 2 国は表 3 より、
後退が始まり大幅な成長率の下落が起こる直前・直後の段階において融資が実施されてい
る。しかし、その後のさらなる実質 GDP 成長率の下落から、この段階での融資も効果を成
さなかったと考えられる。以上から、実体経済に影響が出る前の、より早期の融資が求めら
れると言える。さらに踏み込めば、投資家が資金の回収を求める、それは言い換えれば国内
に資金が必要な段階であるわけであり、投資家の回収懸念を悪化させないためにも、通貨危
機の段階での融資が必要だと言えるのではないだろうか。
表 1
融資要請日
融資決定日
初回融資日
■図1:実質
タイ
1997,7,29
1997,8,20
1997,8,25
インドネシア
韓国
1997,11,5
1997,11,12
1997,10,8
1997,12,4
1997,11,10
1997,12,5
IMF「Country Info-Transactions with the Fund」より作成
GDP 成長率の変動
IMF(1999)“World Economic Outlook”,May 1999 より作成
11
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
第3章 危機原因の明確化
第1節 根本原因と波及原因
第1項
原因区分を行う理由
アジア通貨危機はタイで始まり、周辺諸国までも危機が及んだものであった。これまでの
いわゆる「通貨危機」は、経常収支に問題があることから起こったものであり、
「20 世紀型
の危機(20th century-type crisis)」と言われてきた。しかし、一国に留まらず、アジア全
域に広がったこの危機の原因は、資本収支に問題があるとする「21 世紀型の危機(21st
century-type crisis)」だとする論が大勢を占めている。だが、データを見るとそれで全て
説明がつくわけではないことが分かる。また、後に詳しく述べるが、実際に危機を引き起こ
した要因である投資家の資本引き上げについても、資本収支における問題が全てだと一概に
は言えない。
(例えば、荒巻(1999)ではファンダメンタルズ論(収支に問題あり)とパニ
ック論(パーセプションの変化)に区分した上で、タイについては事情が違う部分があるも
のの、パニック論が本質だとしている。)このように、通貨危機の引き金となった資金引き
上げの原因も、引き上げを生んだ要因も、区分が難しいものである。
そこで私たちはアジア通貨危機の原因を、「根本」と「波及」という状況による区分を行
い、原因を分析する。これにより、より明確に原因を示すことが可能になると考える。さら
に、先ほども述べたが、この区分からもアジアや国際機関の行動についての提言が可能だと
考える。すなわちそれは、根本原因を食い止めるための行動ができれば危機を発生させずに
済むし、危機波及への対応の準備ができていれば万が一危機が広がってきても拡大させずに
済むということである。
第2項
根本原因を抱えていたタイの状況
危機の発祥国であるタイは、他のアジア諸国と同様に規制緩和や高金利政策をとり、海外
から資金を呼び込んだ。90 年代における外国からの資金流入は、80 年代の 3 倍以上の伸び
を見せた。その伸びは、公的資金を中心としたものではなく、民間資金によるものだった(図
2、3)。この過剰供給の域にまで達した資金をタイの国内に浸潤させる役割を担ったのが
バンコクオフショア市場(BIBF)ライセンスである。BIBF を持つ銀行は、
「外-外の取引
を行う従来のオフショア市場と異なり、ノンバンクであるファイナンスカンパニー(以下
FC)を含む国内金融機関に、海外より取り入れた資金を貸し出す(外-内)ことが認めら
れていた9。」この金融市場の開放政策としての BIBF ライセンスは融資の行き過ぎをもた
らした。タイにおいて資本の比率は長期資本が 24,5%であるのに対し、短期資本は 56,6%
9財務省(2002),
『平成 14 年実績評価書: 我が国のアジア通貨危機支援の政策評価』
12
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
とほとんどを構成していた10。その大量の短期資本が急激に流出したことは企業の倒産を
招き、経済不安をあおることになり、タイ・バーツの売り投機を生んだ。そして結果的に、
外貨準備が枯渇してしまった。
上記の短期資本の流出を招いたものは何だったのか。まず、危機の始まる 1997 年の前年
までに、タイでは他国よりも大きな経済収支赤字を蓄積していた(表2)。国内において豊
富に供給される外国資本をもとにして、過剰な設備投資などが起こり、過度に急激な経済成
長が起こった。このような経済成長の中で、消費は大きく拡大し、それに対応する形で輸入
が増大するところとなった。また、これまで増加の一途を辿っていた輸出が 1996 年に減少
に転じた。これらの要因により、経済収支赤字がもたらされた。さらにこのとき、国の対外
債務残高も同時に蓄積されていた(表2)。国の対外債務残高が蓄積すると、その国の対外
支払い能力に不安を抱かせることにつながる。一般に、この対外債務残高が大きな規模に達
していなければ、対外支払いが滞ることはないだろうと見なされている。タイは 1995 年の
時点で、経常収支の対 GDP 比が-8,1%、純対外借入必要額の対 GDP 比が-7,4%と過去最低、
1996 年の時点では、経常収支の対 GDP 比は-7,9%。純対外借入必要額の対 GDP 比は-7,2%
と非常に高い数値を記録した。この大規模な経常収支赤字は 1996 年半ば頃から「ウォール
ストリート・ジャーナル誌」や「ファイナンシャル・タイム誌」に状況の懸念を抱かせた11。
そして、「‘97 年 3 月タイ政府は、経営の悪化していた 20 のノンバンクと 3 つの銀行を公
的管理においてその名前を公表したのである12。
」こうして、金融システムに対する信認を
失い、預金はより安全な銀行へと移動させられ、多くの金融機関で流動性不足が発生した。
この流動性不足に対しては、中央銀行が監督する金融機関育成基金(FIDF)という機関を
通して流動性の供給を試みた。しかし、FIFD はマーケットから高い金利での借り入れを行
ったため、銀行はリスクのない FIFD に融資をすることを選択し、その意図とは逆に民間
企業セクターの流動性は枯渇することになってしまった13。このことは企業の倒産を招き、
経常収支赤字などの情報とともに投資家へ悲観論を抱かせることになった。このようにし
て、短期資本の流出は起こった。
図2:アジアにおける投資内容
1600
1400
168
1200
204
1000
公的資金
その他投資
ポートフォリオ投資
直接投資
511
800
600
86
163
400
67
272
200
579
6
49
78
122
70
15
45
0
329
途上国全体
途上国全体
アジアの途上国
アジアの途上国
1984-89
90-96
84-90
90-97
10伊藤修・奥山忠信・箕輪徳二(2005),p103
11山下英次(2000),pp49-51
12伊藤・奥山・箕輪(2005),p174
13同上,pp174-5
13
荒巻(1999)p72 図 3-1 より
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
図3:各国の投資構成
荒巻(1999)p73,図 3-2 より
14
1st ‐2nd Dec.2007
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
表2:各国経済指標
タイ
純対
経常 外借
実質
収支 入必
GDP
の対 要額
成長
GDP の対
率
比
GDP
比
1975
-4 -3.4
4.8
76 -2.6 -2.1
9.4
77 -5.5 -4.9
9.9
78 -4.7 -4.5 10.4
79 -7.7 -7.5
5.3
80 -6.5 -5.9
4.8
81 -7.4 -6.5
5.9
82 -2.7 -2.2
5.3
83 -7.2 -6.3
5.6
84 -5.1 -4.1
5.8
85
-4 -3.6
4.6
86
0.5
1.1
5.5
87 -0.7 -0.4
9.5
88 -2.7 -0.9 13.3
89 -3.4 -1.1 12.2
90 -8.5 -5.8 11.2
91 -7.7 -5.8
8.6
92 -5.7 -3.9
8.1
93 -5.1 -3.8
8.4
94 -5.6
-5
8.9
95 -8.1 -7.4
8.8
96 -7.9 -7.2
5.5
97
-2
0.2 -0.4
第3項
インドネシア
純対
経常 外借
実質
収支 入必
GD
の対 要額
P成
GD の対
長率
P比 GD
P比
-3.6 -2.1
5
-2.4 -1.5
6.9
-0.1
0.4
8.8
-2.7 -2.2
7.8
1.9
2.3
6.3
4.2
4.4
9.9
-0.6 -0.5
7.9
-6.7 -6.5
2.3
-7.4 -7.1
4.2
-2.1 -1.9
7
-2.2 -1.8
2.5
-4.9 -4.6
5.9
-2.7 -2.2
4.9
-1.7
-1
5.8
-1.2 -0.5
7.5
-2.8 -1.8
7.2
-3.7 -2.4
7
-2 -0.7
6.5
-1.3 -0.3
6.5
-1.6 -0.7
7.5
-3.2 -1.3
8.2
-3.4 -0.9
8
-2.3 -0.2
5.7
経常
収支
の対
GD
P比
―
-1.1
0
-2.2
-6.4
-8.4
-6.6
-3.4
-1.8
-1.4
-0.8
4.3
7.4
8
2.4
-0.7
-2.8
-1.3
0.3
-1
-1.9
-4.7
-1.8
1st ‐2nd Dec.2007
韓国
メキシコ
純対
純対
経常 外借
外借
実質
実質
収支 入必
入必
GD
GD
の対 要額
要額
P成
P成
GD の対
の対
長率
長率
P比 GD
GD
P比
P比
―
7.1 -4.6 -3.9
5.6
-0.8 12.9 -3.9 -3.2
4.2
0.2 10.1 -2.3 -1.6
3.4
-2
9.7 -3.1 -2.3
8.3
-6.4
7.6
-4
-3
9.2
-8.4 -2.2 -5.3 -4.3
8.3
-6.5
6.7 -6.5 -5.3
7.9
-3.5
7.3 -3.4 -2.3 -0.6
-1.9 11.8
3.9
5.4 -4.2
-1.3
9.4
2.4
3.3
3.6
-1.2
6.9
0.4
1.5
2.6
3.6 11.6 -1.1
0.5 -3.8
7.5 11.5
3
3.9
1.9
8.2 11.3 -1.4 -0.2
1.2
2.7
6.4 -2.8 -1.7
3.3
-0.6
9.5
-3
-2
4.4
-2.9
9.1 -5.1 -3.5
3.6
-1.4
5.1 -6.7 -5.5
2.8
0.1
5.8 -5.8 -4.7
2
-1.4
8.6
-7 -4.4
4.4
-2.3
8.9 -0.5
2.8 -6.2
-5.2
7.1 -0.7
2.1
5.2
-2.2
5.5 -1.9
1.3
6.7
山下(2000)p50,図表 2 より
危機が波及した周辺国の状況
なぜタイでの危機は他のアジア諸国へ伝播してしまったのだろうか。その原因は、根本的
にはアジア経済の不透明性であると考えられる。タイ以外の近隣諸国はタイと同様に短期資
本がその比率の多くを占めていたが、経常収支赤字についてはタイほど悪化していたわけで
はない。危機伝播の引き金となったのは、「ムーディーズ社やスタンダード&プアーズ社な
どの民間の信用格付け機関がアジア諸国の格付けを非常に短期間に繰り返し引き下げたこ
とが大きい14。」(図4)そして、その格付けを見た調査機関を持たない民間の投資家は、
東アジア地域を同質のものと考え、資金の引き揚げを行い、さらに格付けを下げるという循
14山下(2000),p48
15
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
環が発生した。そして、タイ同様に資金を海外の短期債務に頼り、似通った金融構造を持っ
ていたアジア諸国も、危機に陥っていった。
図4:格付け
日下部,堀本(1999)p48,図4より
第2節 以上から導かれる方針
ここでは原因を 2 つに区分したことで考えられる、今後への方策について分析する。
まず、「根本原因」を持っていたタイについて考える。タイは危機以前から経常収支に問
題を抱えており、この点においてこれまでの通貨危機と同様の状況にあった。こうした国が
存在する場合には、適切なマクロ経済運営を行わせる政策が必要だ。放漫財政をしない、過
16
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
度に海外短期資本に依存しない、などの点について、サーベイランスを特に実施する必要が
ある。また、こうした国で実際に危機を発生させないように、外貨準備をストックしておく
必要もある。ただし、この場合は各国政府のモラルハザードにも注意する必要が出てくるだ
ろう。そうした点から考えても、やはりサーベイランスは日常的に行っておく必要があると
言える。
一方で、タイ以外の周辺国に危機が伝播した、
「波及原因」から学べることを考える。タ
イと比較すれば、さほど大きいとは言えない要因しか抱えていなかったにも関わらず、韓
国・インドネシア・マレーシアは深刻な危機に陥ってしまった。このような国を生まないた
めには、前にも挙げているように「投資家・市場からの信認」を獲得することが何よりも必
要となる。タイの事例で挙げたような、マクロ経済運営へのサーベイランス、外貨準備のス
トックは信認を得るために、もちろん必要となるだろう。しかしそれに加え、投資家への情
報公開や説明、説得なども重要なポイントとなると考えられる。財政の健全性や金融構造の
透明性は、常日頃からアピールしておくことが信認を生むことになるだろう。また、アジア
通貨危機の際、韓国では「12 月 24 日、G7等は共同声明を出し(中略)外国の民間銀行に
対し自発的な資金のロールオーバーを訴えた。
これを受け日米欧の銀行によるロールオーバ
ー率が 100%に近いところまで高まり、(中略)韓国は危機を乗り切り通貨・金融市場は急
速に安定することとなった。15」この事例から分かるように、信頼の置ける後ろ盾があれ
ば、投資家への説得も十分に効果をなすと考えられる。信頼の置ける後ろ盾とは、超国家的
な枠組みの持つ権威や、
そこが持つ豊富な資金によって支援がなされるという安心感を与え
られる組織のことではないだろうか。
このように考えると、アジア地域においても上記の性質をもつ枠組みを成立させること
は、危機予防、対応のどちらの面から見ても、強い必要性があると言える。
15荒巻(1999),p164
17
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
第4章 チェンマイ・イニシアティブ
第1節 現在のチェンマイ・イニシアティブ
まず、アジア通貨危機後に生まれたアジアによる危機管理の枠組みである「チェンマイ・イ
ニシアティブ(CMI)」について述べる。アジア通貨危機後の 1999 年 11 月、マニラで開催
された ASEAN+3 首脳会議において、「東アジアにおける協力に関する共同声明」が発表さ
れ、この中で通貨・金融分野での「東アジアにおける自助・支援メカニズムの強化」の必要
性について合意がされた。これを受け、2000 年 5 月にチェンマイで開催された ASEAN+3
蔵相会議で合意がされたのが CMI である。この CMI の内容は、「①二国間通貨スワップ取
極(BSA)のネットワーク、②ASEAN スワップ協定(ASEAN Swap Arrangement: ASA)、
により構成16」されるというものである。そしてこの合意に基づき、二国間スワップ協定
が次々と結ばれ、現在では総額 830 億ドル規模の取極がなされている(図5)。2005 年 5 月
にイスタンブールで開かれた ASEAN+3(日中韓)財務大臣会議の共同声明においては、スワ
ップ引き出しメカニズムの改善が行われた。その内容は「従来からの規律正しい条件をしっ
かりと維持しつつ、突然の市場の混乱に臨機応変に対処するべく、IMF プログラムなしに
発動可能なスワップ額の上限を現在の 10%から 20%に引上げ。17」というものである。ま
た、2007 年 5 月の第 10 回 ASEAN+3 財務大臣会議(日本・京都)では、
「CMI のマルチ
化について、段階的なアプローチを踏みながら、一本の契約の下で、各国が運用を自ら行う
形で外貨準備をプールすることが適当であることに各国間で原則一致18」がなされている。
また、「今後は、①域内の短期流動性問題への対応、②既存の国際的枠組みの補完、という
CMI の2つの中核的な目的を維持しつつ、マルチ化に係る残る論点の検討を深めていく19」
とされている。これが現在の CMI の状況である。
第2節 以上から導き出される方針
以上から CMI の問題点について 2 点挙げ、改善の方向性を示す。
まず 1 点目は、二国間通貨スワップのマルチ化の必要性である。現在では、総額 830 億
ドルの通貨スワップ取極がなされているということは先に述べたが、
これはあくまで総額で
ある。例えばこの内の約 4 分の1にあたる 210 億ドルは日韓間での協定であり、ASEAN
間では総額 20 億ドルのスワップ協定のみである(図5)。ブルネイ、カンボジア、ラオス
16
17
18
19
財務省『チェンマイ・イニシアティブ関連:チェンマイ・イニシアティブについて』
同上
同上
同上
18
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
などの国々においては、ASEAN スワップ協定の 20 億ドルの枠組みのみが CMI における
支援である。ASEAN スワップ協定のみしか結ばれていない国々は、資金流入額自体が少な
いことから危機の可能性は低いかもしれない。しかし、ベトナムについて、長期的に考えて
みると ASEAN の 20 億ドルの協定では額として不十分であり、また重層的な支援の形とし
ても不十分であると言える。アジア通貨危機の際、インドネシア・韓国という財務状態がそ
れほど悪いわけでもなかった国でのパニック的な資金の引き上げに対して、最初に支援され
た額はそれぞれ約 30 億ドル・55 億ドル20、とそれほど大きな額ではなかったことが、危
機の伝播を防ぐことはできなかった要因だと考えられる。ここから考えても、CMI のマル
チ化は早急に実現する必要性があるだろう。具体的には、IMF 主導で行われたタイ、イン
ドネシア、韓国に対する融資の合計金額は 699 億ドル21である(表3)。もし 3 カ国に対す
る支援の全てをアジアで行おうとすれば、これに米ドルのインフレ率22を考慮した約 965
億ドル(2006 年時点)が少なくとも必要である。現在 CMI には 830 億ドルのスワップ取極が
なされているので、約 135 億ドル不足していることになる。それでは、IMF が行った最初
の融資に限ってみると、タイ 16 億ドル、インドネシア約 30 億ドル、韓国 55 億ドルが支援
されている。この 3 カ国の状況について考える。まずタイへの支援額である 16 億ドルを先
のようにインフレ率を考慮して、現在の価額に試算すると、約 22 億ドルが導き出される。
現在 CMI において結ばれているスワップ取極は計 110 億ドル23であり、4 章1節で示した
ように、IMF プログラムなしに発動可能なスワップ額の上限は 20%であることから、22
億ドルの融資を行える。インドネシアについては約 30 億ドルの支援がなされており、これ
は現在の価額に試算すると約 41 億ドルである。取極は 140 億ドル結んでおり、この 20%
は 28 億ドルである。韓国については、55 億ドルの支援がなされており、これは現在の価額
に試算すると、約 76 億ドルである。取極は 230 億ドル結んでおり、この 20%は 46 億ドル
である。以上から、タイについては現在結ばれているスワップ取極でもって、アジア危機の
最初に行われた支援を賄うことが可能であると考えられるが、タイに対して行われた支援額
は他国と比べてかなり低額であるため、これ以上の額が必要となるだろう。インドネシア、
韓国については、それぞれさらに、約 13 億ドル、約 30 億ドルをコミットすることでアジ
ア通貨危機において融資された額と等しくなる。仮に総額を動かさずに支援を行うとすれ
ば、上限をそれぞれ約 29%、約 33%まで引き上げる必要がある。しかし、韓国についてよ
り詳しく見ると、最初の 55 億ドルの支援後の数週間の間に 75 億ドルが追加貸し付け24さ
れている。しかし、そのことによって危機が収まったわけではなく、以上に示された額より
も大幅に増額した形の融資を行わなければ、危機を収めることはできないと推察される。こ
のような試算は、アジア通貨危機と同規模の危機が起こり、同様の融資がなされるとは限ら
れないため、無意味であるとも考えられるが、少なくとも現段階の CMI の規模ではアジア
通貨危機を防ぐことはできない、ということを示す指標にはなるだろうと考える。また、危
機が発生した初期の段階で支援が可能であるようなあらかじめの合意や、その際に融資が可
能となる額の拡大が、特に危機の「伝播の抑止」に効果があることも強調しておきたい。
2 点目は、CMI には危機予防の性質が備わっていないということである。現在の世界状
況において、危機の源泉はどこに存在するかは分からない。アジア通貨危機では、経常収支
赤字の他に、
不透明な金融構造や格付け機関による頻繁な格下げなどが危機の要因と考えら
れると述べたが、いずれにせよこれらの要因は投資家の不信感を招き、資本流出を急激かつ
大量に引き起こした。そしてこの資本流出は危機の原因となった。また、最近勃発した、い
20
各国の最初の融資額については、荒巻(1999)p139 による。後述のタイについても同様。
荒巻(1999)p201 表補-1 より計算。ただしインドネシア政府緊急準備金 50 億ドルは除いた。
22 インフレ率はアメリカの Consumer Prices を使用。1997 年 2,34、2006 年 3,23、Index Numbers=2000 年=100、
International Monetary Fund (2000) p79,p81
23 スワップ取極額については、本論文図5:財務省『チェンマイ・イニシアティブ関連』を参考に計算。
24 荒巻(1999)p139
21
19
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
わゆるサブプライムローン問題のように、投資家の不信感を招く問題点がどこから生まれて
もおかしくないのが現在の世界経済の状況である。このような環境で、危機の予防を行うた
めには、①国家が適切なマクロ経済運営を行うと共に、それがなされているか日常的にチェ
ックする、②海外短期資本の流入、あるいはそれへの依存をある程度制限する、といったこ
とが必要となるだろう。①については、何よりも投資家の信頼を獲得し、維持するために必
要となるものである。また、域内においてチェックしあうだけでなく、それを投資家に説明
することも必要となるだろう。次に②について、このような政策の実行は、経済状況のさら
なる安定化が図られると考えられるが、一方で、資本の流動性が低下してしまうのも事実で
ある。そこで、域内において長期資本中心の利用を行い、流動性を高めるための政策も同時
に実施されれば、さらなる発展につながると考える。なお、CMI の現状で挙げたように、
現段階ではあくまでこうした問題点について、
「検討を深めていくこととなって25」いるだ
けであり、いずれも具体的な策は打ち出され、実行されているものはほとんどない。
表3:融資内容
タイ
IMF
39
国際機関 世界銀行
15
アジア開発銀行 12
日本
40
中国
10
オーストラリア
10
香港
10
2 国間支援 マレーシア
10
シンガポール
10
韓国
5
インドネシア
5
ブルネイ
5
計
171
インドネシア
IMF
99
国際機関 世界銀行
45
アジア開発銀行 35
日本
50
シンガポール
50
アメリカ
30
ブルネイ
12
第2線準備
マレーシア
10
オーストラリア
10
中国
4
その他
21
計
366
韓国
IMF
国際機関 世界銀行
アジア開発銀行
日本
アメリカ
オ-ストラリア
第2線準備
カナダ
ニュージーランド
その他
計
209
100
40
100
50
10
10
1
62,5
582,5
(単位:億ドル)
荒巻(1999)p201 より作成
計算式例
IMF 主導で行われたタイ、インドネシア、韓国に対する融資の合計金額は 699 億ドル(1997 年主
体と考えた)
1997 年のアメリカのインフレ率=2,34
2006 年のアメリカのインフレ率=3,23
(Index Numbers=2000 年=100)
求めたい数値:1997 年の 699 億ドルは 2006 年でxドル
2,34:3,23=699:x
x=964,8589…
x≒965
―数値出所については本文中に記載―
25財務省『チェンマイ・イニシアティブ関連』:チェンマイ・イニシアティブについて
20
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
図 5:財務省『チェンマイ・イニシアティブ関連』:チェンマイ・イニシアティブについて
21
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
第5章 政策提言
第1節 危機対応のための提言
ここでは危機への対応を行う機関としての機能を述べる。まず、第 4 章第 2 節で挙げた
問題点を解消するためにも、CMI の通貨スワップのマルチ化は何よりも必要である。そし
て、この枠組みを引き継ぐ形でマルチ化された外貨スワップ取極を AMF の管轄下におく。
AMF はこのスワップ取極を支援のために融通する機関に位置する。総額としては、第 4 章
第 2 節で述べたように、約 965 億ドル(2006 年時点)が少なくとも必要であると考えられる。
これは、アジア通貨危機において実際に融資された総額とほぼ同じと考えられるものであ
り、このストックは危機の対応のための準備として1つの目安になるだろう。
外貨スワップの貸し出しについては、現在設けられている IMF コンディショナリティー
受け入れなしに融資が可能な上限である 20%の枠は撤廃し、上限は一切設けないほうがい
いだろう。第 4 章第 2 節では上限引き上げをする場合はおよそ何%となるか、という値を
示したが、実際危機の規模次第では、必要額はいくらでも増加する可能性が考えられる。ま
た、感情的な話になってしまうが、アジアが IMF 離れを狙ってこうした組織を作りたいと
考えているという点も忘れてはならない。こうしたことから、あらかじめ、ストックされて
いる外貨は要請があればすぐに貸し出せるという合意を AMF 参加各国でしておくことが
望ましい。この場合、加盟各国のモラルハザードが発生し、放漫財政を許すことになるかも
しれない。しかし、アジア通貨危機を経験したアジアがモラルハザードを起こすことはない
のではないだろうか。また、危機の対応という観点に立てば、起きてしまった危機は仕方な
いとして、その収束に力を注ぐべきである。
融資は第2章で述べたいわゆる「為替危機」の段階でなされるのが望ましいため、支援要
請がなくともそういった兆候がみられた場合は積極的に貸し出しを行っていく機能も必要
となるかもしれない。
またこれらにより、豊富な外貨準備がその国になされているのと同じ状態になるため、投
資家への信頼は高まる。また、もしパニック的な資金の引き上げがなされても、即座に資金
を投入することで、投資家に対してデフォルトは起こらないというアピールを行うことも可
能になるというように、間接的には危機予防にもつながることとなる。
第2節 危機予防のための提言
この節では 2 点、提言を行う。まず 1 点は資本取引税の導入である。アジア通貨危機にお
いては、タイにおける投機による経済の動揺や、海外投資家のパニック的な資本の引き上げ
22
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
が危機深刻化を招いた。そういった点から考えると、海外からの資本に対して何らかの税を
課すことで取引を抑制することは、危機の防止や安定化のために必要であると考えられる。
この考え方のベースとしたのは、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・トービン博士の
提唱した「トービン税」である。もう 1 点は、地域サーベイランスシステムについてであ
る。地域の安定的発展のためのサーベイランスや、それを域外に発信していくシステムの必
要性という観点からの提言となっている。
まず 1 点目、資本取引税についてである。この税は AMF 参加国内へ流入してくる海外資
本すべてに対し、一律で課税するものであり、これによりある程度の秩序ある資本流入がな
され、ひいては安定化につながるだろう。税率については、0.1%程度の低額で、効果は発
揮される。トービン税の導入についてはその実現可能性について様々な角度から反論がなさ
れている26。そのうちここでは、特に資本流入そのものの減少という問題について取り上
げる。確かに、海外からの資本流入額が減少することは、資金調達の手段の減少を意味し、
経済成長にマイナスに作用するだろう。しかし、短期資本に着目すれば、短期借り・長期貨
しの満期上のずれというミスマッチを生んでしまう。それには、依存しないで済むならばそ
の方がいいわけであり、
アジアから海外資本が逃避する状況はむしろ歓迎すべきとも言える
のではないだろうか。ただし、長期的な投資は歓迎すべきであるし、減少してしまう分を補
うシステムの必要性はある。前者については、課税の影響を少しでも和らげるため、いわゆ
る「2 段階課税方式」の採用などが求められるだろう。また後者については、同時にアジア
債券市場イニシアティブ(ABMI)に基づき、債券市場を発展させていくことや、資本取引税
の税収を長期資本という形で必要な国に融資する方法が考えられる。
アジアでは国内に豊富
な貯蓄がなされており、それを積極的に国内、あるいは域内の投資に回せるような制度の発
展は歓迎すべきであり、ぜひとも必要なものである。また、税収の投資への活用については、
そもそも AMF には域内での流動性を高める役割も想定されており、その点において当然実
施されるべき制度であろう。
次に、地域サーベイランスシステムについての提言を行う。CMI の持たない新たな機能
として、AMF が危機予防を担うことが必要であるとの認識から、サーベイランスの2つの
枠組みを提案したい。それは、①AMF 参加各国間でデータについてのサーベイランスを目
的としたもの②そのデータを集約・分析し、海外各国や投資家、市場等に公開することを目
的としたもの、である。以下、それぞれ具体的にはどのような形で実施するのか、それがな
されることでどういった効果が生まれるかについて述べるが、その前に、以下で用いる「指
標」という言葉について定義を行う。
「指標」は、経常収支、流入海外資本の規模・形態(銀
行間貸付・直接投資等)
・期間(長期・短期)、実体経済あるいは他国通貨と通貨価値との整
合性、金融構造の現状、というデータを指すものとする。これらは、いずれもこれまでの分
析によって導かれた、悪化すれば投資家や市場の信頼を損ない通貨危機を起こす要因となり
うるデータである。よって、これらのデータが適正水準にあり、なおかつ適正であるとの認
識があらゆる方面からなされていれば、通貨危機の防止や拡大の阻止が可能だと私たちは考
えている。
まず、①についてだが、これは現在行われている、「ASEAN+3 経済レビューと政策対話
(Economic Review and Policy Dialogue:ERPD)」をベースとした会合としたい。これは
現在 ASEAN+3 財務大臣代理会合として実施されており、アジア開発銀行(ADB)の地域
経済モニタリング・ユニット(Regional Economic Monitoring Unit: REMU)による各
国・地域経済におけるマクロ経済の状態や構造問題についての報告と、参加各国によるマク
ロ経済、経済政策、構造改革についての説明・質疑応答が行われている27。この会合を AMF
という枠組みの下にそのまま移行すれば、新たな機関が必要であるとか、メンバーはどうす
るのかといったような点についての問題がなく実施が可能である。
26主たる問題点とそれに対する回答は、吾郷健二(2003)に詳しくなされている
27
ERPD の詳細については小川英治・川﨑健太郎(2006)を参考とした
23
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
そしてこの会合において、現在のように ADB が報告を行うとともに各国代表が指標を持ち
寄り、意見交換や議論を行うこととする。そこで出された意見や問題点は、原則全て報告書
や共同声明といった形で公開されなければならない。会合は少なくとも四半期ごとに行われ
る必要があるのではないかと考えている。各国の主要な経済データが四半期ごとに公開され
ている点、あまりに頻度が低いと実情とその認識との間で乖離が生まれてしまう点などがそ
の根拠である。
次に②についてである。これは全く新しいものであるが、先ほど述べたように、持ち寄ら
れた指標を集約・分析しそれを一般向けに公開することを行う枠組みであり、それは AMF
参加国が順番に行う、という形を提案する。具体的に行うべき分析についていうと、例えば
短期債務総額の外貨準備高における割合(これが1を越えると「両者(通貨危機の深度を表
すクライシス・インデックスと対外短期債務の対外貨準備高比率28)の関係が強まる(す
なわち、同比率の上昇がクライシス・インデックスに与える影響力が高まる)29」とされ
ている)であるとか、経済実体と比べて為替相場は適正水準に保たれているか、といった点
が考えられる。
それでは、この2つの枠組みが実施されることで、どのような効果が現れるのだろうか。
①については、域内での継続的なサーベイランスを行うことによる、良い意味でのピア・プ
レッシャーの作用が生まれることとなると考えられる。もし指摘された問題点についての改
善がなされない場合は、域内だけでなく域外の国・投資家などからの信頼をも損なうことと
なるからである。こちらは、そうしたプレッシャーを与え、域内各国に適切な政策の実施や
不透明な構造を生まないようにさせることに主眼を置いている。
一方②は、域内各国の政策や実情についての透明性を維持し、域外の国・投資家からの信
認を持続的に得ることが狙いである。このためにも、こうして集約・分析した情報とともに、
積極的に説明の働きかけをする必要がある。
第 1 章第 4 項で述べたように、危機を招かないためにも、危機の際に適切な対応を求め
るためにも、実情を理解してもらうことと信認を得ることは重要なのであり、それを実行す
るためにこの制度を提案する。
28括弧内は筆者が挿入
29服部正純(2002)より引用。この根拠となった研究は
Bussière and Mulder (1999)である
24
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
第6章 おわりに
最後に本稿の締めくくりにかえて、
私たちが考えるこの機関が実際に設立されるために乗
り越えなければならない問題について指摘しておく必要があるだろう。それは、AMF の「組
織論」と言うべき話であり、例えば、「機関の本部はどこに設置するのか」だとか「ストッ
クした外貨準備を融資するにあたってそれを決定する組織はどこなのか」、あるいは「アジ
アでそのようにまとまることに対してのアレルギーはないのか」といったものが考えられ
る。全てアジア共同体について語られる際にも同じように指摘されているわけだが、これら
の共通点は何か。それは一言で言って、「政治的に乗り越えなければならない問題である」
ということではないだろうか。そして、私たちがこの論文の中で認識していながらこれらに
触れてこなかった理由がここにある。つまり、
「政治的なコミットメントさえなされれば実
現可能である」という主張である。
確かに、資本取引税については導入の根拠や効果の具体性、実現可能性についてやや弱い
部分があり、これについては、理屈では効果がありそうだが実際に導入してどうか、という
点でまだまだ議論が必要である。私たちの提言でも、税率、税収、実際の取引減少額等々、
効果についてほぼ全く数字が示せなかったことが弱い部分となってしまった。しかしそれ以
外に私たちが提言したものについては、少なくとも制度として実行は可能であり、またその
効果も十分期待していいのではないか。それにも関わらず、あまりリアリティがなく聞こえ
てしまうのは、やはり現在のアジアにおける「政治的な状況の困難さ」だろう。
ぜひとも、
こうした協調の枠組みを実現するための強い政治的な意思が生まれることを期
待したい。
25
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
1st ‐2nd Dec.2007
参考文献・データ出展
《先行論文》
・河合正弘(2001)「新興市場経済と国際金融システム改革─東アジア通貨・金融危機の教訓
─」,財務省財務総合政策研究所『フィナンシャル・レビュー』第 54 号
《参考文献》
・荒巻健二(1999)『アジア通貨危機と IMF―グローバリゼーションの光と影―』日本経済評
論社
・吾郷健二(2003)『グローバリゼーションと発展途上国』コモンズ
・石田正美(2007)『インドネシア経済危機―産業・インフレ・実物経済への影響の分析―』
調査研究報告書 アジア経済研究所 2007
・小川英次,川崎健太郎(2006)『東アジアにおける共通通貨政策圏』財務省財務総合政策研
究所「フィナンシャル・レビュー」May-2006
・伊藤修・奥山忠信・箕輪徳二(2005)『通貨・金融危機と東アジア経済』社会評論社
・橋本雄一(2005)『マレーシアの経済発展とアジア通貨危機』古今書院
・服部正純(2002)『通貨危機への対応策としての流動性供給の意義について―最近の理論お
よび実証研究からのインプリケイションー』日本銀行金融研究所/金融研究 2002.6/
・山下英次(2000)「新興市場国危機の予防策―経常収支の赤字に上限規制を―」『国際金融』
(平成 12 年 2 月 1 日号)pp48-56
・ジョセフ・E・スティグリッツ(鈴木主税訳)(2002)『世界を不幸にしたグローバリズム
の正体』徳間書店
・ブリュノ・ジュタン(和仁道郎訳)(2006)『トービン税入門-新自由主義的グローバリゼ
ーションに対抗するための国際戦略』社会評論社
・外国為替等審議会,アジア金融・資本市場専門部会(1998)『アジア通貨危機に学ぶ―短期
資本移動のリスクと 21 世紀型危機―』
・Bernanke, B. and Gertler, M (1989) “Agency Costs, net Worth, and Economic
Fluctuations.” American economic Review 79, 14-31
《データ出典》
・荒巻健二(1999)『アジア通貨危機と IMF―グローバリゼーションの光と影―』日本経済評
論社
・石田正美(2007)『インドネシア経済危機―産業・インフレ・実物経済の影響の分析―』調
査研究報告書 アジア経済研究所
・山下英次(2000)「新興市場国危機の予防策―経常収支の赤字に上限規制を―」『国際金融』
(平成 12 年 2 月 1 日号)pp48-56
・ジョセフ・E・スティグリッツ(鈴木主税訳)(2002),『世界を不幸にしたグローバリズム
の正体』徳間書店
・IMF(1998)“Annual Report”,April 1998
・IMF(2000)
“Annual Report”,April 2000
・IMF(2007)
『International Financial Yearbook2007』
26
ISFJ政策フォーラム2007発表論文
・財務省 HP http://www.mof.go.jp/index.htm(閲覧日:2007,11,5)
・IMFHP http://www.imf.org/external/(閲覧日:2007,11,3)
27
1st ‐2nd Dec.2007