宴会場における レベニューマネジメントの実践

宴会場における
レベニューマネジメントの実践
八重洲富士屋ホテル
間宮
崇
1.レベニューマネジメントの定義・目的
レベニューマネジメントとは、
「正確な分析に基づいて、適正な商品を見合った客層に適正
な価格で適正な時期に適正な販路で販売すること」である。
そもそもホテル産業は、開業等に当たって建物・設備・什器・備品等に多額の費用がかか
る装置産業であり、また多様な顧客の要望に応えるため多数の熟練ホテルマンを必要とす
る労働集約型の産業で、固定費負担の重いビジネスと言える。
そして収入面を見たとき、場所貸し業ともいえる性格上、貸出できる宿泊・宴会・レスト
ランのスペースが限定されるという制約を受けている。また、今日貸出できる部屋やスペ
ースは、余ったからと言って明日貸出しを行うことはできないという在庫ができない時間
的な制約を受ける性格のビジネスである。
このような固定費負担が重い反面、収入が場所的・時間的に制約を受けるホテル産業は、
高収入を上げにくい性格の産業ともいえる。
このような重い固定費負担を抱えながら場所的・時間的な制約を受けて収入を稼ぎ出す産
業性格は、航空機産業とよく似た性格を有している。航空機産業も、重い固定費負担を抱
えながら席を販売して収入を稼ぎ出す性格の産業である。
1970 年代の航空規制緩和により、競争が激化したアメリカの航空機産業で、イールドマネ
ージメント技法が開発された。それは、各フライトの運賃収入を最大化するためのもので
ある。
よく似た産業構造を持つホテル産業が、航空機産業のイールドマネージメントを導入して、
ホテル利益の最大化を図ったのが、レベニューマネジメントである。
2.宴会場販売の現状
リーマンショック以降、急激な景気後退懸念を背景とした出張需要の減少や企業の出張費
削減によりビジネス客市場が縮小し、それによりホテル宿泊部門の稼働率や客室単価が大
幅に下落した。
宴会部門においても同様で、企業の経費削減により会議・宴会利用時の見極めが厳しくな
り、法人宴会需要は下落した。また、件数の縮小もさることながら、規模の縮小が目立っ
ており、会議や宴会の人員が縮小傾向にあることに加えて、1人当たりの単価が大幅に減
少している。
また個人に関しても、特に婚礼においては少子化、晩婚化の増加、ハウスウェディングの
人気の高まりなどにより減少が続いている。
それによって、宴会利用における競合に関しても、自ホテルでは今や、公共の会館、レス
トラン、そして居酒屋となっている。また会議利用に関しては、都市部のオフィスには会
議室が完備されていることが多く、ネット会議の普及により出張費削減とのシナジーやホ
テル宴会場と変わらぬ設備を完備している所が多く、クライアントを直接招きセミナーを
開催しているケースも見受けられる。また昨今では、アクセス良好で設備が充実しており、
料金面も安い貸し会議施設の台頭が目立ってきており、ますます環境は厳しくなっている。
そのため最近のホテル宴会予約に関しても、稼働重視の傾向にある。
それは1か月、2か月先の予約状況が予測しづらくいため、人数に見合わない広い会場を
アサインしたり、低単価のお客様を予約の曜日、時間帯、そして発生時期に関わらず受注
してしまい、宴会場の収益を減少させてしまっている。
そのため、宴会場においても市場や稼働率、ブッキングペースの分析をし、それに合わせ
た販売を心掛ける必要がある。
3.宴会場におけるレベニューマネジメントの実践
ホテル客室でのレベニューマネジメントは一般的だが、宴会場におけるレベニューマネジ
メントは余り馴染みが無い。それは複合的な要素があるからではないか?
宴会場は客室と異なり、収容人員が様々で1会場あたり1日に3~4回転する場合も有り、
また1会合で複数の会場をブッキングしたり、用途も大別しても宴会・婚礼・会議・展示
会等、様々である。
本論文では、客室のレベニューマネジメントに沿った手法で、考察を進めたいと思います。
まず、レベニューマネジメントを実践する上で、
“レベニューマネジメント・サイクル”に
合せて進めていきます。
レベニューマネジメント・サイクル
【Forecast(予測)】
まず、実践する上では正確な“フォーキャスト(予測)”が不可欠です。
宴会場におけるフォーキャストの算出方法は、
「現状の売上見込(本予約)+オンハンド(仮予約)の成約率+ブッキングペース」
となります。
オンハンド(仮予約)の成約率及びブッキングペースに関しては、対象月や外部環境等によ
り異なりますが、基本的に前年実績をベースに算出致します。
それではここで12月を例に挙げて、その3カ月前の9月時点でのフォーキャストをして
いきます。
単位:千円
12 月予算
80,000
受注確定
53,000
成約率)
(オンハンド
+
(8,000
×
60%)
フォーキャスト
ブッキングペース
+
23,000
=
80,800
12月の宴会場予算は、80,000 千円です。
9月時点の売上見込(本予約)を 53,000 千円であると仮定します。
オンハンド(仮予約)が仮に 8,000 千円だとして、前年 9 月のオンハンド成約率が 60%であ
ったため本年も 60%に設定します。ブッキングペースに関しても前年の 9~12 月が 23,000
千円であったため、本年も同額の受注見込とすると、フォーキャスト(着地見込)は 80,800
千円となり、予算達成の見込みとなります。
しかしながら、これは全て前年ベースで推移した場合の見込みです。これにその年の経済・
社会情勢や周辺地域のイベントやオフィス事情等の外部環境に依って大きく左右します。
フォーキャストには、その要素も十分考慮して行わなければなりません。
【Optimization(最適化)】
続いて、レベニューマネジメント手法における最適化(戦略)を立てます。
① ビジネスミックス最適化(顧客戦略)
~単価の高いセグメント
ⅰ.接待的な要素のある会合
(代理・特約店会、ドクター対象、インセンティブ、お得意様向け等)
ⅱ.業績の良い法人
ⅲ.役員対象会合、周年記念等の祝賀会等
ⅳ.シルバー層
ⅲ.富裕層のカルチャー・サークル
② チャネルミックス最適化(販路戦略)
~コストが低く、コントロールの容易なチャネル
ⅰ.セールススタッフによる直販
ⅱ.宴会場の紹介サイト(紹介手数料)
※会場が空いていれば、紹介されたお客様の情報(予算・趣旨等)を入手でき、ホ
テル側からお客様へ直接コンタクトが取れるため、コントロールが容易
③
ルームミックス最適化(商品戦略)
~需要に合わせた価格設定
ⅰ.曜日や時間帯等、稼働に合わせた商品や特典
ⅱ.曜日や時間帯等、稼働に合わせた割引率
ⅲ.季節に合わせた商品(忘新年会、七五三、謝恩会、歓送迎会等)
【Control(調整)】
フォーキャストを行い戦略を立てたら、実際にブッキングコントロールを行います。レベ
ニューマネージャー(ブッキングコントローラー)が戦略に基づき、先々のスペースを下
図の指標を基にコントロールをしていきます。
≪ブッキングコントロール指標(12 月)≫
*あくまでも参考です。実際には使用しているわけではございません。
【3か月前】
曜日
月~土曜日
日曜・祝日
会議/時間帯
午前
午後
夜
午前
午後
夜
大宴会場
20%
10%
0%
20%
0%
20%
中宴会場
10%
0%
0%
20%
0%
20%
小宴会場
0%
0%
0%
20%
0%
20%
宴会/時間帯
午後
夜
午後
夜
大宴会場
¥6,000
¥8,000
¥8,000
¥6,000
中宴会場
¥6,000
¥8,000
¥8,000
¥6,000
小宴会場
¥6,000
¥8,000
¥8,000
¥6,000
2ヵ月前、1ヶ月前も設定する。
【当月】
曜日
月~土曜日
日曜・祝日
会議/時間帯
午前
午後
夜
午前
午後
夜
大宴会場
50%
40%
10%
40%
0%
50%
中宴会場
40%
30%
0%
40%
0%
40%
小宴会場
20%
20%
0%
30%
0%
30%
宴会/時間帯
午後
夜
午後
夜
大宴会場
¥5,000
¥6,000
¥6,000
¥4,000
中宴会場
¥5,000
¥6,000
¥6,000
¥4,000
小宴会場
¥5,000
¥6,000
¥6,000
¥5,000
会場や曜日・時間帯によって、ブッキングペースや稼働の高低がありますので、過去の実
績に基づいた指標を作成します。実際にセールスやブッキングスタッフはその指標に基づ
いて商品の販売や会場費の割引をして成約につなげます。
【Monitor(分析)】
週単位、月単位で実績とフォーキャストやブッキングペースの検証を行います。大きなズ
レがあった場合にはその要因を究明し、図表 も修正いたします。
想定外(受注見込)のキャンセルがあった場合のバックアッププランを常に考えて置く。
① 商品の見直し、追加施策
② 問合せリストを作成しておく。
※キャンセルになったスペースに満室で断った案件があれば、再セールス。
いずれにしても、常に実績とフォーキャストの検討及び競合相手やマーケットの動向はチ
ェックしておかなければならず、“レベニューマネジメント・サイクル”を繰り返し行う。
4.課題
以上の様なレベニューマネジメントを実践するためには、以下の点を徹底することが肝要
である。
【データ管理・分析】
① 正確なデータ集積
ⅰ.正確な入力をするためにスタッフへのトレーニングの実践
ⅱ.正確なマスタ設定
ⅲ.一貫性のある入力ルール
② データの仕分け
ⅰ.効率的・効果的な分析可能なデータの選択
ⅱ.信頼できるデータの使用
ⅲ.データを迅速に加工できる技術の習得
【グループレベニューマネジメント】
レベニューマネジメントを実践するためには、データ管理や予測、戦略を立てることは当
然必要なことではあるが、実際にそれを実行するのは、そこに働き関わる全てのスタッフ
である。そのスタッフが高いモチベーションを維持し、推進力を高めることに依って利益
の最大化をもたらすことが出来る。そしてそのために、GMをはじめとするマネージャー
は環境作りをする事が最重要である。
【参考講義】
第 12 回
「レベニューマネジメント」
岩見 正一 氏