絵本「ガラスの天使」(仮題) 1 「もういやだ。もういやなんだ」 。 一人の子どもが叫びました。 名前はサミィ、10 歳の男の子です。 目にいっぱいの涙をため、 たくさんの小石を手ににぎりしめていました。 ここはパレスチナのベツレヘム。 青い空に、黒煙があがります。 2 ドドドーンドカン。 大きな音がして、近くのビルが壊れました。 戦車が弾を撃ち込んできます。 ドドドーン。家や学校、どこにでも弾はとんできます。 パンパンパーン。乾いた銃声が響き、サミィは逃げ回りました。 3 サンダルをはいたサミィの足から血が流れていました 「もういやだ。なぜ僕の街や学校を壊すんだ」 。 叫びながら戦車に石やビンを投げました。何度も何度も。 「なぜ、僕のお父さんは死んだの。誰がお母さんを泣かせているの。 友達が殺されたのはどうして。僕たちは、何も悪いことしてないのに」 。 それでも銃弾は何発も街に撃ちこまれました。 4 「こんな小石じゃだめだ!もっとすごい武器がいる」 。 サミィは思いました。 「たった一発で戦車をやっつける強い武器がいる。兵士をやっつけてやる」 。 割れたビンで傷ついた手に、またひとつ石を握りしめました。 5 攻撃が静まるとサミィはひとりでした。 ふとみると、道に腰をかがめて何かを拾う人がいます。 キラリと光るものを拾ってはポケットに入れていきます。 サミィは嬉しくなりました。いっしょに戦う仲間をみつけたのです。 6 「おじさん。いっしょに戦おう」 。サミィは元気よく言いました。 その人は何も答えず、ただ拾いつづけています。 「おじさん。おじさんも僕らの仲間でしょう」 。 その人はサミィに微笑みかけました。 「おじさん。そのポケットの石で、すぐに攻撃を始めようよ」 。 サミィは嬉しくてたりません。 7 その人は優しく答えました。 「これは石じゃないよ。ビンの破片だよ。 みんなが戦車に投げつけて割れてしまったガラスの破片」 。 サミィは驚きました。 「そのガラスをどうするの。新しい武器をつくるの!すごい武器?ガラス爆弾?」 サミィは新しい戦いにワクワクしました。 8 「そうだよ。すごい武器だよ。誰も作ったことのない平和の武器。 これさえあれば、平和を造りだすことができる神様の武器をつくろうと思ってさ」 。 その人は、また微笑みました。 「僕もつくりたい!」サミィは叫びました。 「いいとも。いっしょに作ろう。たくさんの仲間がいるから一緒にくるかい」 「いくよ。一緒にいく。僕も手伝うよ。 神様の武器って強そうだな。これで仕返しができる」 。 サミィはドキドキしながら、2 人でガラスをいっぱい拾いました。 9 サミィはポケットいっぱいの武器をもって、その人の仕事場へやってきました。 そこはベツレヘムの人のために建てられた「国際センター」でした。 たくさんの人たちや、ちいさな子どもたちも集まっています。 「よし、神様の武器をつくるぞ」 。 その人はガラスのかけらで、何かをつくりはじめました。 バラバラになっていたガラスの破片から、 顔の色、体の色、羽の色、みんな違う天使のステンドグラスができました。 1つの天使が生まれたのです。 山のようなガラスから、たくさんの天使が生まれ、テーブルの上に並んでいます。 サミィは不満でした。 「これは武器じゃない。ただのステンドの飾りだ。 こんなのじゃ戦車に勝てないよ」 。 その人は静かに作り続けていました。 10 サミィはキラキラ輝く天使をみつめていました。 「いや、これが平和をつくる神様の武器さ。 いちどは相手をやっつけるために投げられ、壊れてバラバラになったガラス。 サミィの言うとおり、これじゃ戦車には勝てない。 このガラスできみも僕も傷ついている。 でもね、武器に武器で反撃するのは簡単だよ。 憎しみの心で投げたガラスも、こうやって平和を願う天使に生まれ変わる。 ガラスの天使は、ここに平和がくるのを願っている」 。 11 サミィは大きな声でたずねました。 「どうしたら平和がくるの。僕もホントは戦争なんか大嫌いさ。 人と人が傷つけあうなんて、考えただけでイヤだ。 戦争は人殺しなんだ。 僕の街が平和になったらどんなに幸せだろう。 でも、どんなふうにして平和が来るのか、僕には想像できないよ」 。 12 その人はサミィの手にガラスの天使を持たせました。 「きみの言うとおり、戦争は人殺しなんだよ。 『爆弾』に『爆弾』で反撃しても、この戦争はおわらない。 繰り返すだけなんだ。 だから僕たちは、 『爆弾』には『愛と平和』を返そうと思った。 ビンのかけらで天使をつくる。 『平和があるように』と思いをこめ、 僕を殺そうとしている兵士にプレゼントしたいと決めた。 そんなことしたら殺されるかもしれない。 でも、誰かがこの戦争を止めなきゃいけない。 この場所から世界中へ天使を届けよう。 バラバラのガラスから生まれた天使たちが、 世界中で平和の祈りになるとき、その奇跡はおこる。 ここはベツレヘム、キリストがお生まれになったところだから」 。 13 サミィは、銃撃で死んだ友だちの言葉を思い出しました 「大きくなったら学校の先生になりたい。でも・・生きていたらね」 。 サミィの中で一つの希望が生まれ、目はキラキラと輝きました。 「おじさん、僕もガラスの天使をつくるよ。そして世界中のみんなに届けるよ。 僕は生きる希望をもって、ガラスの天使をつくり勇気をもってとどける」 。 サミィは平和のためにできることを、ベツレヘムの空に誓いました。 14 平和をつくりだすために武器はいらない。 憎しみを愛に変える、勇気と希望があればじゅうぶんです。 「ガラスの天使」は、いま世界中に羽をひろげ飛び立とうとしています。 静まり返った戦場の街ベツレヘムに、ひとつ星が輝きはじめました。
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