No. 7 明日の医療経営を考える 2009 【特集】 患者と医療者のための コンフリクト マネジメント Contents 連載〈第1回〉コンフリクト マネジメント 3 救急外来における患者・家族への対応の実際 ◉ 船橋市立医療センター 救命救急センター 医長 ● Case 池田 勝紀 7 Study Report 1 社団法人 全国社会保険協会連合会 社会保険 相模野病院 職員を徹底して守ることで「正直に話す」風土を醸成。 有害事象指針の作成を急ぐ ● Case Study Report 2 14 医療法人社団 明芳会 新葛飾病院 予防策の徹底だけでなく、 ミスや事故の事実開示、 真摯な対処も「安全対策」 ● Case Study Report 3 医療法人社団おなか会 村井おなかクリニック 品質管理の徹底こそ医療安全の基本であり、 コンフリクトマネジメントの絶対条件 2009 通巻7号 発行日 発行人 発行所 制 作 表紙・デザイン 印 刷 2009年 8月 玉井 伸正 第一三共株式会社 メディカルクオール株式会社 有限会社 オセロ 株式会社 誠文堂 21 連載〈第 1 回〉 コンフリクトマネジメント C o n f l i c t M a n a g e m e n t 救急外来における 患者・家族への対応の実際 船橋市立医療センター 救命救急センター 医長 池田 勝紀 1 はじめに 不利益を被る事になる。 と、コミュニケーションを取るときは、 病院は、疾病や外傷を癒す場所で 患者に対するアウトカムを最大限 必ず VCとNVC の双方を使用する事 ある。 そのため、 患者と医療者が、 とも にするためには、医療者の安全確保 になる。しかも、VCよりもNVC の方 に治療に専念できる安全の確保が必 と療養環境の安全確保の為に、トラ が、患者や家族に与える情報量は多 要である。では安全の確保とは、どの ブルの芽を未然に摘む必要がある。 い。 ようなものであるのか? そのため、当院では療養環境の維持 つまり、 患者や家族と良好な関係を 治療上の安全の確保とは、災害救 と医療者の安全確保(ストレスマネジ 築くためには、NVCがより重要になっ 助と同様、3 種の概念があると思われ メント含む)のために、患者、家族対応 てくる(腕組みをしながら、高圧的な る。環境(院内)の安全、医療者(医療 のマニュアルを作成し運用している。 態度で迫られたら、誰でも不快な気 スタッフ)の安全、傷病者(患者)の安 そのマニュアルを含めた、対応策を紹 分を抱くであろう)。 全、この3 種類の安全の確保である。 介する。 VC、NVCを組み合わせてこそ、良 救急外来では一般外来に比べ、患 好なコミュニケーションが成立する。 発生する確率が高い。救急外来は、非 当院における 患者対応の基本姿勢: 「丁重、 丁寧、 低姿勢」 常に限られたリソース(人員、設備、予 ストレス状況下にある、患者、家族 VC、NVC のやり方を提示している。 算、 時間的等) で、 患者に対応すること に対応するには、高いコミュニケー VC、NVC 双方ともに「丁重、丁寧、低 と、患者、家族が急な疾病による高い ションスキルが要求される。コミュニ 姿勢」で患者、家族にあたるようにと ストレス状況下に置かれているためで ケ−ションは、2 種類から成立してお 職員に伝えている。 ある。トラブルが発生すれば、安全な り、言語的 (Verbal Communication: 療養環境の維持が困難となり、治療 VC)、非 言 語 的 コミュニ ケ−ショ に支障をきたす。また、トラブルに巻 ン (Non-Verbal Communication: 患者、家族への対応は、電話対応 き込まれた、病院職員は過重なストレ NVC)がある。 や実際の来院時等、様々な状況があ スを抱え、離職の原因となりえる。優 VCとは、 文字通り、 言語を使用した る。 秀な人員が離職する事で、院内のリ ものであり、NVCとは、言語以外の、 単に、コミュニケーション能力のみ ソースが枯渇し病院経営が悪化する 身体動作 (表情、声の調子、身振り等) では、良好な関係を築くことは困難で 可能性があり、最終的に患者自身が を使用したものである。人間が他者 あり、院内の体制構築が必須である。 者や家族と、対応におけるトラブルが 2 当院では、 図1、2、3のようなマ ニュアルを病院職員全員に配布し、 3 患者、家族対応の実際 連載 (1)コンフリクトマネジメント 3 コンフリクトマネジメント 【図1】 【図2】 関係 各位 関係 各位 コミュニケーションとは共感・感動・信頼関係 医療安全対策 文書 No.513 「重症患者のすぐ近くで笑うこと」 は患者・ 家族に不快感を与えることがあります 医療安全対策 文書 No.410 単なる 情報の伝達 意味と感情の やりとり 共感・感動・信頼関係 ●コミュニケーションとは、単なる情報 の伝達ではありません。意味と感情 をやりとりすることによって、共感し 感動し信頼関係を築くことです。 ●コミュニケーションに問題があり、トラブルになっている事例 が多発しています。 ●斉藤孝「コミュニケーション力」によれば、コミュニケーション の基本原則は次 の3つです。 1)目を見る: 「相手の存在を認めている」というサイン 2)微笑む: 「相手を受け入れている」という サイン 3)頷いて相槌を打つ: 「あなたの話をしっかり聞いています よ、理解してい ますよ」というサイン。 見つめること 家族 頷いて共感すること ・そうですね。 ・よくわかります。 ・それは大変でしたね。 ・それは辛かったですね。 ・良くなるといいですね。 微笑むこと 「こんに重症なのに、 笑いながら仕事をしている」 「不謹慎だ」 ●「重症患者の近くで笑いながら仕事をしていた」、 「笑いながら 人工呼吸器をつけていた」、 「エヘラエヘラしながら検査をして いた」というクレームがきています。 ●「重症患者の前で笑いながら仕事をする」ということは、不謹 慎と受け取られます。 ●患者・家族の前では全然関係のない会話をしないこと。あらぬ 疑いを受けます。 ●患者・家族は医療従事者の態度に注目しています。会話を聞い ています。医療従事者の行動、会話は、 「常に見られている、常 に聞かれている」と思ってください。 ここで、状況別に合わせた、当院の患 【図3】 関係 各位 救急外来受付担当者は 「救急の顔」 医療安全対策 文書 No.98 当院の救命救急センターの救急外来には、ドクターカー・救急車で搬入される患者だけ でなく、直接来院する患者もいます。それぞれの患者の疾患・重症度・待ち時間は様々であ り、救急受付担当者は患者・家族に対して、適切かつ柔軟な対応を行う必要があります。 救急受付担当者は患者と家族に最初に接する「救急の顔」です。救急の顔として、以下の対 応を心がけてください。 1)接遇:心配で救急に来院している患者・家族の身になって、懇切・丁寧に対応してくださ い。勤務時間中は、常に制服または白衣を着用し、名札をつけてください。 2)確認作業:患者・家族の中には気が動転している方もいます。身元不明者もいます。受 付情報に何らかの誤りがあるかもしれません。十分に注意し、 「おや?」と思うようなことが あれば、そのままにしないで必ず確認作業を行ってください(例:氏名・年齢・性別・住所の 誤り、患者誤認など)。 3)救急外来ナースへの連絡:ナースによる問診が速やかに行われるように、救急外来ナー スとの連絡調整に努めてください(ドクター・ナースが心肺蘇生術の最中であり、なかなか 問診ができないこともあります。このようなときは、必要に応じ繰り返しナースに連絡してく ださい)。待ち時間が長くなっている、患者・家族がいらいらしているなどの情報もナースに 伝えてください。 4)患者・家族への説明:心配している患者・家族が何らかの説明を求めてくることがあり ます。このようなときはできるかぎり丁寧に対応してください。患者・家族が長く待たされて いらいらしているように見受けられたら、こちらから進んで説明して声をかけてください (例:待ち時間はだいたい○○分ぐらいになると思われます。お待ちいただき申しわけあり ません。再度救急外来ナースに伝えてまいります)。 5)トラブル発生時の対応:何らかのトラブル発生時には、速やかにナースに連絡してください。 者、家族への対応を紹介する。 3-1 電話対応編 受診希望や、病状相談等で、当院 救急外来には、様々な電話が寄せら れる。 以前は救急外来看護師が、 これ らの電話対応をすべて行っていた。 こ のため、多忙な夜間、休日帯の救急業 務に支障をきたしていた。そのため、 昨年度より電話対応のマニュアルを 変更した。 救急外来に寄せられる、電話は日 勤帯では,代表交換から救急看護師 へつなぐようになっており、従来通り 看護師が対応している。 夜間休日帯の受診希望等の電話 は、当院の防災課の職員が、まず最初 に対応し、受診希望の場合は、基本 的に患者、家族に受診可能と伝える 4 コンフリクトマネジメント 【図4】 関係 各位 診察の「あいうえお」 「あいさつがない、自己紹介がない、訴えをきいてくれない、 何もしてくれない」 という苦情がよせられています。 医療安全対策 文書 No.555 診察において大切なのは「あいうえお」です。 沢村敏郎、中島伸、わかる身につく医療コミュニケーションスキル、メディカルレビュー、2005 1) 「あ=あいさつをする」 診察を始める時、あいさつが必要です。笑顔でアイコンタクトをとりながら、次のようにあいさつしてください: 「おはよ うございます」 「はじめまして」 「お待たせしました」 2) 「い=医療者であることを自己紹介する」 「医師の○○です」 「○○科の○○です」 「研修医の○○です」。社会的地位の高い患者さんや高齢の患者さんの中に は、こちらが名乗らないことを非常に不快に感じる人がいますよ。 3) 「う=訴えをきく」 相手は患者さんです。まず、 「何を訴えているのか、何を求めているのか」を把握することが大切です。問診用紙や紹介 状があるときは、 その内容を確認してください。 そして患者さんから訴えを聞き出だしてください。 4) 「え=援助する」 「援助する」という気持ちが大切です。患者さんが痛みや辛さを訴えたら、それを取り除くという援助は可能ですか。取 り除けないなら、 少しでも不安を軽くすることはできませんか。 安心感を与えるということはりっぱな援助です。 5) 「お=オープンクエスチョン」 Yes, Noで答えるようなクローズドクエスチョンをするのではなく、相手が自由に答えられる「オープンクエスチョン」を 使うことにより患者満足度は格段に向上します。 「どのような○○なのか具体的に説明してください」 「言い残したことは ありませんか」 「他に心配ごとはありませんか」 「それ以外に辛いことはありませんか」 「訊き忘れたことはありませんか」 事とした。その際、必ず受診まで時間 基本的に受診可能と伝えるように を取る事を目標としている。これは、 がかかる事を説明している。防災課 したのは、夜間休日帯に急に疾病に 待ち時間の軽減が、患者ストレスの軽 の職員は非医療職のため、所定の記 みまわれた、高ストレス状況下に置か 減につながる事と、可及的すみやかな 録用紙に電話内容を記録するよう義 れている患者、家族のストレス軽減の トリアージを行うためである。迅速、 務付けられている。また、病状相談等 ためである。この状態で、受診困難等 正確なトリアージを行う事は、未然に の電話に関しては、救急外来看護師 の否定的な言葉を病院から受けると、 患者の有害 事 象を防ぐために重要 が対応する事とした。 怒りの感情から、病院に対し、攻撃的 である。当然、❷で触れたようなVC、 この体制を敷いたのは、下記の2 になる可能性がある。そのため、基本 NVCを行うように指導している。ま つの目的がある。 的には、受診可能と伝え、患者、家族 た、医師に対しては、図 4 のようなマ ① 救急外来看護師の業務量軽減 のストレスの軽減を図っている。 ニュアルを配布し、診察にあたるよう 夜間休日帯における受診希望者の 電話対応量は多く、看護師の業務を 3-2 救急外来編 に指導している。 ここで大切なことは、来院した患者 圧迫していた。また、電話対応は、看 救急外来到着後、救急外来看護師 の安心感と、 自分が大切にされている 護師のストレスの一因となっていた。 が、バイタル聴取含めて問診をとり、 と思えるような医療者の配慮であろ この体制が敷かれた後、看護師の夜 その後、救急外来医師(当直研修医、 う。これにより、コミュニケーションに 間休日帯の電話対応の業務量が軽 もしくは当直上級医)による診察とな おいては、未然にトラブルが避けられ 減し、外来業務に注力可能となった。 る。 ると思われる。 また、電話対応に対するストレス軽減 来院後から、問診までの時間を可 も見込めた。 能な限り短縮するため、記録用紙に ② 患者、家族のストレス軽減 来院時間を記録し、15 分以内に問診 3-3 暴言・暴力対応編 前述した対応策を取っていても、不 連載 (1)コンフリクトマネジメント 5 コンフリクトマネジメント 【図5】 関係 各位 幸にして、患者、家族からの暴言、暴力 医療安全対策 文書 No.611 No Violence 暴言・暴力お断り 等の事件が発生することがある。当 院では、院内の安全確保のために暴 4月23日から「ノーバイ オレンス」ポスターを 救命救急センターと医 療安全管理室掲示板 に掲示します。 言・暴力に対するマニュアルを作成し て運用している。その対応には、予防 的対応からアフターケアまで、5つの 対応策をとっている。 ① 予防的対策 当院では、平成 19 年 4月22日より 平成18年度、院内で下記のような事件が17件 発生しました。 このうち5件は、警察に110番通報 しました。患者・家族の皆様と職員の安全確保の ために、 このような犯罪に対しては院内の規定 にしたがって対応させていただきます。 院内に図 5 のような「暴言・暴力お断 り」のポスターを提示した。また、暴 言・暴力に対する対応策のマニュアル ●不審者侵入:3件 ●暴言・暴行・威圧・脅迫・恐喝:9件 ●盗難(疑いも含む) :5件 を職員に配布し、意思統一を図って いる。マニュアルには、具体的な対応 策とともに法的な根拠を載せて、医療 者を守る公的根拠を示している。 ② 院内防犯体制の充実 アを行っている。必要時には、当院精 安全管理室にあげられた事件トラブ 警察による職員を対象にした防犯 神科医師による診察も行う。これは、 ル緊急対応の件数が、平成 19 年度の セミナーの開催。簡易な護身術の講 問題が発生した場合、組織的に対応 234 件より平成 20 年では、199 件と減 習と、暴漢制圧用の「さすまた」の使 するという病院の体制をスタッフに示 少傾向にある (この数値は、院内、院 用法の講習を行っている。暴漢制圧 すことでもある。 外の事例すべて含めた件数である)。 用の「さすまた」は、すぐに使用可能 な状態になっている。また、警察との 4 今後の展望 この傾向は、社会情勢の変化が一因 の可能性もあるが、当院における様々 協力関係を築き、暴言・暴力事件発生 平成 17年度より、当院の安全管理 な取り組みが効果を上げてきたと思 時には即座に対応可能となっている。 室が中心となって、患者対応や医療 われる。今後は、更なるマニュアルの ③ 弁護士への早期依頼 安全に関するマニュアルの作成、院内 改良と、より良い院内体制の構築を 暴言患者に対する説明時に弁護士 体制の構築を行ってきた。その結果、 行っていく所存である。 の同席を依頼する。また、法的に必要 な知識の助言を受けている。 ④コードマニュアルの整備 暴力発生時は、 「コードホワイト」と 院内放送が流れる体制とした。コー ド発生時は安全管理室スタッフと警 備員が現場に駆けつけ、行動するこ とになっている。 ⑤ ストレスケア カウンセラー(非常勤)による、暴 言、暴力をうけた医療者のストレスケ 6 コンフリクトマネジメント ◉ Profile 池田 勝紀(いけだ・かつき) 1999 年 3 月 聖マリアンナ医科大学卒業、1999 年 5月 聖マリアンナ医科大学 救急医学講座 入局・聖マリアンナ医 科大学附属病院大学病院 研修医、2001年 3 月 同修了、2001年 5月 国立国際医療センター 呼吸器外科レジデン ト、2003 年12 月 同修了、2004 年1月 聖マリアンナ医科大学救急医学任期付助手・同大学医学部附属大学病院 救命救急センター医員を兼ねる、2005 年 3 月 同 任期付助手終了、2005 年 4月 船橋市立医療センター 救命救急 センター勤務、2006 年 4月 船橋市立医療センター 救命救急センター医長 以後現職 参考文献 濱川博昭:病院のクレーム対応マニュアル:ぱる出版 2005 Marian R.Ph.D&Joseph A.liebermanⅢ.MD.M.PH : The Fifteen Minute Hour Applied Psychotherapy for the Primary Care Physician : Praeger Publisher In 1993 Case Study Report 1 Case Study Report 1 社団法人 全国社会保険協会連合会 社会保険 相模野病院 職員を徹底して守ることで「正直に話す」 風土を醸成。有害事象指針の作成を急ぐ 無害・有害事象を 5 段階に分類し、レベルごとに対応方法の基本を決めている相模野病院。現在、レベル判断の参考と なるよう、判断の難しい事例のサンプル化に取り組んでいる。少しでも、現場が負担なく、迅速に対処できるためである。 対応のベースは「正直に話す」こと。職員を徹底して守ることで実現した、同院の進化する安全対策を取材した。 院長の考えるコンフリクトマネジメントの基本 ● 隠ぺい、改ざんは許さない。その事実があれば、病院 が職員を告訴する ● 現場が負担にならない、病院独自の指針を作成する ● 有害事象はレベル分類し、具体的な事例を提示する ● 病院の進化に合わせ、指針も進化させる 事実と向き合える 病院を目指しています 医療安全への取り組みは、ある意 味、贖罪です。 1997 年、手術した患者 さんを死亡させました。 35歳、 子宮頚 部巨大筋腫で 4 回目の手術での執刀 でした。 手術中に多量出血があり、何 度も輸血を繰り返し、術後 2 日目に 病院長 DICを併発。 当時、 小学校4年の女の子 内野 直樹 氏 を残し、 血栓症で亡くなられました。 確かに手術は困難なものでしたが、言い訳です。理由をつけた ら、いくらでも言い訳はできるでしょう。でも、その方が亡くなっ たのは事実です。そのとき、自分としてはカルテもすべて見せた い。謝りもしたい、葬儀にも参列したいと上司に言いました。医療 過誤ではなかったのですが、当時勤めていた病院からは、全てに ストップがかかりました。自分の中にも、何とか丸く収めたいと いう気持ちはありました。 しかし、ご主人は冷静に私の話を聞いてくださり、今の言葉だ と「システムエラーですね」と言ってくれました。人の問題もある だろうが、病院のシステムに問題があるのではないか、と。 最終的には、個人的にお詫びしました。家もお訪ねし、線香を上 げさせてもらいました。墓も教えてもらって、1 年間は毎月お参り をさせてもらいました。でも、そんなことをしても、その方は戻っ てきません。 それまでも「本当のことを言おう」という風に、少しずつ周囲に 働きかけてはいたのですが、その事故を機に、変わりました。亡く なった方のためにも、自分はやる。産婦人科の全員にやらせる。で きれば病院全体にやらせる。ウソをつかない病院に変えたいと、 強く思いました。 基本は当事者同士で解決できること。そのための スキル アップを図る ● メディエーター(ベーシック)を研修する ● 業務改善で、コンフリクトのリスクを軽減する ● 全員参加、 チーム医療であることを職員に徹底させる ● 病院が職員を守る。 しかし、隠蔽は許さない 「『隠蔽、改ざんは絶対に許さない』、これは院長になっ て最初に徹底させたことです。 『もし、 そうしたことがあった ら、病院がみなさんを訴えます』と。しかし、正直に話してく れれば、病院が責任をもって、その職員を守ります」 相模野病院の病院長、内野直樹氏は当時を振り返る。 2003 年12月1日付、院長代行。2004 年2月1日付で病院長 の辞令を受ける。 「あらゆる機会を通じ、当院は何をしなければいけない か。その出発点は何かを職員に訴えました。まずは、人に見 られて、恥ずかしくない行動をとることです」 社会保険病院の同院は、 経営難に陥っていた。 経営再建 を最優先することが、内野氏に課せられた課題だった。そ の内野氏は就任早々、 「職員行動規範」 (P.8 表1)を掲げ、 職員の意識改革に着手する。 「安定した経営がなければ、まともな医療は提供できま せん。地域に認めてもらえる病院であれば、黒字になるは ず。赤字経営ということは、地域から見放された病院だとい うことです」 その経営再建の柱が、 「恥ずかしくない行動」だった。 ● 社団法人 全国社会保険協会連合会 社会保険 相模野病院 7 「無駄を省く努力では、04 年度だけでも4000万円の経 職員が正直に話してくれるからこそ、徹底して職員を守る。 費節減を断行しました。そして、医療の質を上げるために 職員にとっても、病院は、信頼に足るものでなくてはなりま は、投資もしました。しかし、地域に認められる病院である せん」 ためには、やはり質の高い医療を安心して受けられる信頼 同院では、内野氏が院長に就任して以来、一度も訴訟は の獲得しかありません」 ない。話し合いで、解決をみている (表 2、3) 。 医療の質を高めていくためには、現状の把握がまず必 「当事者には、一度だけ患者や被害者、その家族の前で 要だ。その上での改善であり、均質化である。ミスや事故に 謝ってもらいます。あとは病院の問題として、組織が対応し 対しても、事実を正しく検証することを当然とする体制が ます。当事者に対しても、決して辛い思いをさせない、独り 整備されていなければ、医療者と患者・被害者、その家族 ぼっちにはしないことを、職員には強調してきました」 が、信頼関係構築への入り口をくぐることはない。 実際にトラブルを起こした職員へのサポートの方法とし 「『正直に話す』 『職員を徹底的に守る』。これは表裏一 ては、 まず所属上長が対応、 更には北里大学精神科による 体だと考えています。当院という組織が、職員に組織として ケアが用意されている。ただし、現在まで同ケアシステムを の責任をもつ。だから職員は安心して話すことができる。 受診したスタッフはいない。 【表1】 「 職員行動規範」 (2004.4.1) 職員行動規範 常に恥ずかしくない行動を 1. 結論に至った判断は、間違っていないか 2. 患者、指示内容、手順を再度確認したか 3. 自分の行動は正しいと言えるか 人に見られて、恥ずかしくないか 【表2】訴訟などのトラブル件数 年 訴 訟 話し合いで解決 2002 1 2 2003 1 2 2004 0 1 2005 0 1 2006 0 2 2007 0 0 2008 0 2 【表3】実例集 内 科 胃がん末期の入院患者、飛び降り自殺 麻酔科 誤薬投与 院内緊急連絡網 蘇生努力 主治医確保 事実関係の確認 警察通報 家族連絡 職員の行動検証 お悔やみとお詫び 麻酔終了時に誤って局麻剤静注。患者は麻酔下にあり、意識は なかった ① 職員は対処していた → 評価 ② 施設に不備があった → 改善、補修 ③ 葬儀に参列 → 管理者、主治医、科長 ④ 2日後、職員集会で事実を公開 ⑤ 7日後、事故検証委員会 → 対策の確認 ⑥ 職員の精神的状態 → 経過観察 説明と謝罪と約束 ① 誤薬投与があった。申し訳ない → 謝罪 ② 患者への不利益はない → 説明 ③ 経過を見て何かあれば補償する → 約束 産婦人科 人工妊娠中絶時の子宮穿孔 15年間、同院に勤務していた医師 同院の説明 → 隠ぺいせず ① 子宮穿孔である。原因は、手術のため → 説明 ② 次回の妊娠は可能である → 治療結果 同医師からの説明と謝罪 ① 医療ミスであることを認める → 謝罪 ② 治療費を負担、見舞金支払い → 補償 8 コンフリクトマネジメント 「在宅」として請求 医事課 「外来」で化学療法中の患者に、 偶然発見 (10倍の額を請求)、既に6ヵ月∼1年前の事故だった ① 担当者の勘違い → 説明 ② 自宅を訪問(事務局長、医事課長、担当職員)→ 謝罪と返金 看護局 看護師の誤薬投与 説明と謝罪と約束(主治医が説明) ① 誤薬投与があった。申し訳ない → 謝罪 ② 患者への不利益はない → 説明 ③ この原因の後遺症は全面補償する → 約束 Case Study Report 1 【表4】 「職員への宣言」 (2007.10.1) 【表5】 「患者への約束」 真実説明 患者への約束 職員への宣言 1. 事故、 失敗は隠ぺいせず、 患者さんが気づくまえに話す 2. 過誤があれば謝罪 3. 病院は個人を徹底して守るが、隠ぺいした場合は許 さない 4. 必ず具体的対策を公表 「ヒヤリハット」リポートは防止できて、 褒められるもの (2007.10.1) 1. すべての事象に正確な情報公開をします。 2. 事故防止のシステムを確立し、常に改善努力を怠り ません。 3. 事故が発生した場合、必ず真実を話します。 4. 原因を究明し、判明した事実、対策は、速やかに公表 します。 て全社連版の指針作成に動く。そのときの指針作成ワー キンググループの、委員の一人が内野氏だった。 『指針は医 療有害事象・対応指針 ~真実説明に基づく安全文化の 09 年 5月、同院にもようやく医療安全対策の責任者が ために~』 (以下、 『有害指針』写真)として08年6月、上梓し 雇用された。それまでは、内野氏の牽引であった。 ている。内野氏は、ハーバード指針を読んで、 「自分たちが 内野氏は産婦人科の部長時代、 「正直に話す」ことを産婦 やってきたことは、間違っていなかった」と、確信する。 人科で実行している。当時は、変人扱いだったという。02 「これからは、本腰を入れ、徹底的にやろうと思いまし 年、副院長時代、同院に提案するが却下される。そして04 た」 年、院長として同院の方針として実施するが、まだ抵抗が 病院全体の医療安全管理は、医療安全対策委員会が あった。それが「隠ぺい、改ざんは許さない」という強い姿 行う。定例会は月1回。医療事故等に関しては医療事故・調 勢で、赤字病院を黒字に転換。信頼される病院であること 査防止対策委員会が随時、開かれる。各部署にリスクマネ が病院経営の基本であり、質の高い医療提供を可能にす ジャーが配置されている。 ることが、職員にも浸透していく。そして07年10月1日、 「真 同院には、 「インシデント」という、捉え方がない。 「ヒヤリ 実説明 職員への宣言」 「患者への約束」 が、 同院の憲法と ハット」と「アクシデント」で予防、ミス、医療事故を捉えて、 して公表された(表 4、5)。 報告する形式をとっている。 「私の中では、院長になっての方針ですが、職員にしてみ 「ヒヤリハットは、ミスや事故を未然に防止できた場合に れば、まだ 2 年に満たないコンセプトなのかもしれません」 報告します。無記名ですが、 『防止できたことで褒められる』 しかし宣誓以来、随分と院内の雰 リポートといった位置づけです」 囲気は変わっていく。 外来・看護局次長の佐藤朋恵氏は、現場には、厳しい感 「人に見られて恥ずかしくない 応度、防止対策の目線が求められているという。 行動」の徹底に、一定の手応えを 「ヒヤリハットのリポートが出されれば出されるほど、そ 感じ始めたころ、ハーバード大学 の部署の感知能力は高い、ということです」 医学部関連病院の医療事故対応 指針*1(以下、ハーバード指針)の 日本語版に出会う。 具体的な事例紹介で 有害事象レベルを確認 同院の母体ともいえる全社連*2 の理事長、伊藤雅治氏 全社連がハーバード指針を日本の医療現場にあったも が、ハーバード指針の精神に共鳴し、すべての社会保険病 のに変身させたように、同院もまた、 『有害指針』をそのまま 院に紹介したいと考えたことがきっかけだった。伊藤氏は 活用するのではなく、同院にあった『有害指針』に生まれ変 ハーバード指針をベースに、日本の状況に適したものとし わらせようとしている。その実動部隊が、看護師 3 名、薬剤 *1 [When Things Go Wrong] Responding To Adverse Event *2 社団法人 全国社会保険協会連合会 ● 社団法人 全国社会保険協会連合会 社会保険 相模野病院 9 【表6】アクシデントのレベル区分 レベル1 無害事象 1. エラーがあったとしても、患者の身体に実害がなく、医師の判 断を必要としない場合 2. 医師の判断を仰いだが、実害もなく、処置もせずに対処できた場合 原則として、説明する必要はない ただし、現場の判断で説明、謝罪は可能 である。同グループは、自発的に生まれている。内野氏は、 同グループの誕生が、院長になって一番嬉しかったという。 機をみて「そろそろ、有害事象の検討会でも始めようか」 と投げかけたところ、同グループはすでに 5 ~ 6 回のミー 具体的事例 輸液ポンプのセット不十分 症例1 小児科 時間100ml点滴の予定が200ml投与→ ティングを重ねていた。組織が有機的に動き始める予感が 6時間で投与→ 症例2 産婦人科 術後ヘパリン12時間予定が、 「『有害指針』は、良くできていると思います。でも、具体 バイタル、検査所見 異常なし → 説明なし バイタル、検査所見 異常なし → 説明、謝罪 レベル2 軽微な有害事象 1. エラーが発生。患者の身体に実害があるかないかの検査、 観察が必要となる場合 2. 検査、観察の結果、実害がなかった場合 必ず説明し、謝罪する 主治医(必要に応じて部長)、担当部署責任者、直接担当者 具体的事例 P8. 表3(麻酔科)参照 レベル3 有害事象 1. エラーが発生。患者の身体に実害が発生し、治療もしくは検 査、観察が必要となった場合 必ず説明し、謝罪する 部長、主治医、担当部署の責任者と直接の担当者。必要に応じて、事務職員同席 具体的事例 卵巣腫瘍手術時のドレイン遺残、 2007年、同院で手術。2008年、 再発して他院で手術。腹腔内から、 ドレインの一部がでてきた 1. 医療ミスである→隠ぺいせず 2. 発覚当日に診療部長、事務次長→謝罪 3. 後遺障害が起これば弁済する レベル4 重篤な有害事象 1. エラーが発生。患者の身体に実害が発生し、障害が残るなど、 法的処置を必要とする場合 必ず説明し、謝罪する 病院が誠実に対応することを説明 管理者、部長、担当部署責任者、直接担当者、事務職員同席 具体的事例 P8. 表3(産婦人科)参照 レベル5 重篤な事故 1. 患者が死亡する重篤な事故 管理者が必ず説明して謝罪 外部への情報公開 想定する対応 10 師 1名、MSW1名、事務職 2 名からなるワーキンググループ 1. 起こった真実を、遺族に説明し、謝罪 2. 遺族の了解を得て、メディアに連絡 3. 記者会見で、把握している事実を公表 4. 事故調査委員会の開催。早期に結論 5. 事実関係の確認と、防止対策作成 6. 判明したすべてと、決定した対策を遺族に説明し、謝罪 7. 職員へ周知、 再発防止策を公表。 目安は2ヵ月以内の結論 コンフリクトマネジメント あったと院長は、笑顔を見せた。 的な事象がどのレベルに該当するのか、そこまでは踏み 込んでいません。したがって、参考となる事象をレベルごと に示さなければ、現場はどのレベルとして対応すればいい か、判断に迷うでしょう」 具体的な事例、それも判断に悩んだケースの事例を、現 場が少しでもスムーズな対応ができるために提示したかっ たと周産期母子医療センターの看護局次長、佐藤美樹氏 は言う。 病院の統一見解(図1)であれば、何か判断で不具合が 生じても、病院として検討ができる。 アクシデントは、無害事象から重篤な事故まで、5 分類 (表 6)されており、レベル区分は、 『有害指針』をベースとし ているが、あくまで同院の実情を前提としての実用性を追 求しているという。 その分、職員の負担は軽くできると佐藤美樹氏らは考 え、同グループで検討を始めていた。 事象の分類では、 「無害事象」と「有害事象」、 「過誤」と 「合併症」と「勘違い」、 「正当な意見」と「理不尽な要求」を 整理する。時系列では、 ・第1段階 役割を決め、対応・治療・事実確認をし、 担当機関に報告する。 ・第2段階 患者・被害者、その家族への説明(謝罪)、 サポート。また、職員(当事者)へのサポート。 ・第3段階 必要に応じて、事故調対策をする。 【図1】病院の統一見解 事象発生 レベル分類 現場、RM、GRM、 管理者 レベルに応じた 対応 Case Study Report 1 【図2】具体的な対応指針 誰が 何を 何処で 誰に 役割分担 現場責任者、当事者、管理者 責任者を決定 対応、治療 医師、看護師 治療を最優先 処置室、 救急室、 病室 事実確認 医師、看護師、管理者 何が起きたか、何故起きたかを確認 現場、 ナースステーション 報告 当事者、 リーダーなど 事実をありのまま 説明、謝罪 部長、主治医、看護科長、管理者 事実をありのまま カンファレンスルーム 患者・被害者、 その家族 予後、後遺症、 カウンセリング 会議室、 専門施設 患者・被害者、その家族、当事者 補償、サポート 管理者、専門家、メディエーター 上司、 責任者、 管理者 具体的な対応指針では、 「誰が」 「何を」 「何処で」 「誰に」 数は、04 年以降、各段に増えており、同院は安全対策への 行うかも明示している(図 2)。 感知機能が高レベルへとシフトしつつあると認識してい 2007年度のヒヤリハットのリポートは154件、アクシデン る。 トのリポートは 304 件(表 7)。レベル分類ではレベル 2 が 最も多く、 「重篤な有害事象」、 「重篤な事故」に該当するレ ベル4、5 はゼロであった(表 8)。ヒヤリハットのリポート件 事故が起きる前に、 自分は、職場は、何ができるか 内野氏の強力なリーダーシップ、医療安全・ミス・事故に 【表7】 対する信念が、 同院を自発的に機能させ始めている。 「ヒヤ ◉2007年度 ヒヤリハット集計 部署 計 母子センター 34 南 3 10 南 4 ◉2007年度 アクシデント集計 レポート内容 計 リハット」すら、防止する。その積み重ねの取り組みをやって 内服 16 きたと、薬剤部係長の北原みゆき氏は振り返る。 注射 49 「薬剤部は、誤薬、投与方法など、アクシデントにつなが 40 その他 5 NICU 13 患者 2 る可能性の高いヒヤリハット、ミスを犯しやすい部署です。 外 来 4 健 診 5 機器の故障・操作ミス 12 対策への取り組み姿勢ということでは、 『ミスを犯したら、 手 術 4 チューブ類のトラブル 22 どうしよう』 『悪いことをしてしまった、どうしよう』といった、 薬 剤 18 検査に関するエラー 50 栄 養 1 クレーム 8 後ろ向きでした」 放射線 11 その他 98 事務局 2 計 262 起きる前に、自分は、職場は、何ができるのか」と、前向きに 医 局 1 転倒・転落 42 検査部 11 合計 304 マネジメントを考えるようになる。ヒヤリハットを予防する 計 154 誤薬 取り違え 部位 注意はしていても、どうしてもミスは起きる。かつては安全 それが、内野氏が病院長になってから、 「ミスや事故が 【表8】部署別レポート アクシデントレポート件数とレベル分類 部署 計 看 護 部 181 放射線部 17 検 査 部 24 事 務 部 27 薬 剤 部 0 栄 養 課 9 理学療法室 0 医 局 4 レベル1 44 レベル2 165 レベル3 53 レベル4 0 レベル5 0 (2007年4月∼12月) 「有害事象」ワーキンググループのスタッフである、北原氏、 佐藤美樹氏、佐藤朋恵氏、越川氏(左から) ● 社団法人 全国社会保険協会連合会 社会保険 相模野病院 11 レベルの高い感知は、そうした職員の前向きな意識変化に よって機能し始めた。 「ヒヤリハットの報告を含め、業務改善していくことで、 薬剤師としての業務もやりやすくなるし、 病棟との連携をう まくとることによって、患者さんへの直接的な害が生じなく なるといった改善点が多くありました」 一方、MSWの越川正興氏は立場上、クレームや相談に 応じることが多い。自分たちにまずできることは、事実確 認だという。 「何かの理由で、怒りを直接、ぶつけてこられる方もい らっしゃいます。 とにかく、 話を聴いて、 何が原因の怒りなの クレームの実際が劇で紹介され、対応方法について全職員で意見交換 が行われた(2008 年、忘年会パーティ) か、見極めさせていただくように努力しています。当院に非 があれば、謝罪し、改善を約束します」 能性は軽減できていく。 怒りの原因については、 人的なものか、 システムの問題な 「責任をもって説明するには、 必要に応じて医師にも介入 のか、しっかりと分析をし、関係部署に戻していくことで、 してもらいます。安心していただける説明をすることが重要 コンフリクトに対する予防策のひとつとしている。 ですから」 チームプレーで コンフリクトに向き合う 以前は説明を断る医師がいたと、佐藤朋恵氏は振り返 る。 「誤薬など、 『看護師がやったことでしょ』。患者さんへの 看護部に関しては、 やはり患者との接点が多く、 ほとんど 事実説明も、 『私がやったことではないから』 と、 協力をいた の医療行為をサポートするポジションであるため、アクシ だけないこともありました」 デントの可能性は高い。検診でいうと採血において、有害 だが、医師の説明があれば、患者やその家族に納得して 事象に至るケースが多いと佐藤美樹氏は指摘する。針先 もらえることも多い。 が神経にさわり、その箇所がしびれてしまうようなケースで 「薬剤部は、医師の投薬指示の間違いを見つけやすい部 ある。 署です。看護師に気づいてもらい、事故回避のできたこと 「しびれの症状を訴えられた場合、対処の手順は決まっ も多いですね。また医師の間違いは疑義照会という形をと ています。患者さんへの説明をし、診察を受けていただき、 り、ヒヤリハットということで、すべてをリポートするわけで 帰宅していただく。何かあった場合は、連絡をしてくださ はありません」 い。何もなければ、何日後に連絡をいただき、その後どうす 電子カルテの場合、誤入力されたものは修正しない限 るかを決めます」 り、毎回同じ間違いで指示がでることになる。薬剤部のス 今までの経験から、現場が決めて実践していることだと タッフは、医師の個性も考慮しながら、修正の依頼をする。 いう。しびれなど、 「起きる可能性のあることは事前にしっ 「前にもお伝えしましたが、電子カルテを修正していただ かり伝えることで、患者さんは安心してくれる」ことも経験 かないと、毎回、疑義書を書くことになります」 の中で学んでいる。併せて、 「その後がどうなるのかを説明 医療はチームプレーだと、越川氏らは声を揃える。 する」ことも大切だ。 「各部署は事務部門も含め、ひとりの患者さんが、治療、 院長の言う、 「正直に話す」であり、これまでの経験で培 あるいは出産に来られ、無事に退院いただくために機能し われた院内に徹底されているベターな対応・処置方法を誠 ています。それぞれの専門性が、良い形で連関していかな 実に、不安を与えないよう伝えることで、コンフリクトの可 ければ、すべては患者に負のリスクとして反映される。私た 12 コンフリクトマネジメント Case Study Report 1 ちが有害事象の対処を、具体的事例をもってスキルとしよ う。今では、病院規模からすれば平均の1.5 ~ 2 倍の職員 うと事例検討するなかで、そのことがはっきりと見えてきま 数だと伊藤理事長から言われている。 「 減らしたほうがい した。決して各部署の問題では済みません」 いか」と問うと、 「もっと増やして構わない」。 当事者同士で 問題解決にあたりたい 「自分のやってきたことは、間違っていなかったと思いま すし、そう言ってくれる理事長がいるから、我々は頑張れ るのです。人を増やすのは、先行投資です」 「この1年で、もっと変わりますよ」と内野氏は言う。 職員が増え、規模が大きくなれば、それだけコンフリクト 同院は今夏、病院を新築し再スタートをきる。04 年、21名 マネジメントはレベルアップが必要だ。 経験から学んだこと だった医師は 37名。看護師は 90 名が 160 名。センター方式 をいかに次に生かすか。チームとしての医療提供を徹底す の充実を目指す同院では、一方で地域住民に 「一緒に病院 るか。 を作っていきませんか」と、意見を出してもらう投書箱を用 「医療の場合、チームリーダーは医師です。病院であれば 意している。職員にも声かけをしている。 病院長です。リーダーがチームの失敗に、病院の失敗に 『や 「住民、職員と、より良い病院像を模索する中にも、安全 るべきことをやる』のは当然です」 対策のヒントはあると思っています」 内野氏は再スタートにあたって、医師に対し、チーム医療 また、4月からは神奈川県内の社会保険病院 3 院(横浜、 であること、リーダーは医師であること、コンフリクトマネジ 川崎、同院)が院内医療事故調査委員会に職員を参加さ メントの要であることを、研修を通して再認識してもらうつ せている。客観的な立場の他院の2人がいれば、患者・被 もりだ。 害者、その家族が納得・信用してもらえる結論が出せるの 「医師が変わらなければ、 本当の意味で地域住民に必要 ではないかと、内野氏が発案して実現している。 とされる病院にはなれません。研修は、何度でもやります」 しかし、できれば当事者同士で、納得・信用してもらうよ 医師の判断が大きく影響する医療現場であるからこそ、 うな、事後処理ができるようになりたい、というのが内野氏 その自覚をより高めていきたいと考えている。 の考えである。医療従事者が患者側の思いを理解する、医 療行為の真実を正しく伝え、理解してもらう。当事者間で、 それができなくて何が医療サービスだという。そのために と、職員へのメディエーター研修も奨励している。 「現在、ベーシックの研修は 8 名が終えています。敢えて メディエーターをおく制度の是非は別として、 客観的に事実 を把握できる能力を身につけることは大切です。職員には 全員、メディエーターになりましょう、といっています」 研修にお金がかかっても構わない。最低でも100 名、で きれば 200 名くらいは、ベーシックだけでも修了して欲しい と希望している。あくまで当事者として、患者に向き合うた めである。 「間に入るということでは、第三者機関から来てもらうの がいいと思います。職員であって第三者的立場だといって も、患者さんはなかなか納得されないでしょう」 院長としては1年で赤字を黒字にした内野氏は、最初の 1年、毎月の月次報告をもって本部に頭を下げにいったとい 病院基本データ ■名称/社団法人 全国社会保険協会連合会 社会保険 相模野病院 ■所在地/神奈川県相模原市淵野辺 1-2-30 ■開院/ 1960 年 4月 ■職員数/ 325 名 ■病床数/ 170 床 ■診療科目/内科、小児科・新生児科、 外科、 整形外科、 皮膚科、 泌尿器科、 産婦人科、 産婦人科腫瘍センター、 眼科、 麻酔科 ● 社団法人 全国社会保険協会連合会 社会保険 相模野病院 13 Case Study Report 2 医療法人社団 明芳会 新葛飾病院 予防策の徹底だけでなく、ミスや事故の 事実開示、真摯な対処も「安全対策」 医療事故・ミスでは、患者・被害者、その家族も医療者も、同様に苦しんでいる。だからこそ、両者が事実と向き合えるよう 「架け橋」となりたい。両者の苦しみを知るセーフティーマネージャーが、その任にあたる新葛飾病院。 「架け橋」は、両者 が協力して解決の糸口を見つけ出せるようにするのが目的という、同院を紹介する。 院長の考える事故発生時対応の基本 ● ウソをつかない、 ごまかさない、逃げない ● 患者や被害者の心情が少しでも理解できるための ● 患者が医療ミスではないかと疑問を持ち、カルテ開示 を求められたら、 データのすべてをコピーして渡す。 費用はいただかない 不信感をもたれれば 治療データを渡します 今 1 件 だ け ADR( 裁 判 外 紛 争 解 決)をお願いしています。解離性大 動脈瘤の手術で、脊髄損傷を起こし たケースです。確率的には 1%以下 ですが、起きる可能性があるもので す。防ぐ処置をしても防ぎきれない 院長 ことがある。その患者さんは下半身 清水 陽一 氏 不 随 に な り ま し た。術 前 を 含 め て 3 回、脊椎損傷の可能性についても手術の説明と併せて行いまし た。説明は納得していただいていたのですが、その 1%以下のこと が起きてしまうと、やはり心情的には収まらない。紛争解決セン ターという、第三者機関に入ってもらい、話し合っています。 当院から司法解剖に出したケースは 2 件。ADR の考えが今ほど 普及していないころです。患者さんが医療行為に不審をもってい る。私も原因がわからない。こうした場合は法医学で扱うことに なります。司法解剖にすると術者は「容疑者」になりますが、当院 が責任を持つことを、担当医師も理解してのことです。データも すべて提出しますから、結論が出るまでは、「申し訳ないけれど、 結論が出てから対応します」ということで、とにかく真相究明は きちんと誠意をもってやらせていただきました。上記の例をみて も、第三者機関は必要です。争い事になる前でも、患者さんが少 しでも不信感をもたれたら、治療に関するデータはすべてコピー して、患者さんに渡すようにしています。他の医療機関で調べて もらって結構ですということです。もちろん費用はいただきませ ん。しかし、当院に非があれば、素直に謝ります。 マニュアルに頼らない。 相手をしっかりと受け止め、 成すべきことを見極める。 そのためには、 スタッフが 協力し、 チームワークでスキルアップを心がける ● ミスや事故の真相究明を徹底するためには、第三者的 機関にも、データをすべて提出する ● 診療記録等は、 必要な事項をきちんと正確に記入する ● 研修会を実施する ● 患者・被害者、 その家族と医療者の調整役を設ける 医療事故についても 病院として最善を尽くす 「医療安全対策面だけでなく、起きてしまった事故の事 後対処についても、最善を尽くすのは医療施設として当然 のことだと思います。当院では、そのことを実践しようと努 力していました」 セーフティーマネージャーの豊田郁子氏は、就任当時を 振り返る。豊田氏は他院の医療事故 で最愛の長男を亡くしていた。被害 者支援の活動を通じて、院長の清水 陽一氏と知り合う。 2004 年10月、同院の医療安全対 策室設置に伴い、豊田氏は採用され セーフティーマネージャー 豊田 郁子 氏 た。 「豊田さんなら、患者の気持ちが 一番良く分かっているはず」と、清水 氏に頼まれてのことであった。 事故がゼロにならないのに、予防を主目的とする安全対 策にだけ力を入れて取り組むのはどうなのか、疑問に思っ ていた豊田氏は、事故後の対応もしっかり考えている清水 氏の姿勢に共鳴して、 現職に就いた。 豊田氏は、 医療クラー 14 コンフリクトマネジメント Case Study Report 2 クの出身である。 しかし、豊田氏にしても、杉本氏にしても、自分たちの立 現在、同院には患者支援室として、 「からだ学習館」が設 場が、安全対策、あるいは事故後の対処を牽引するのでは けられている。館内には、図書室、医療安全対策室、相談窓 ないと、強調する。 口が配される。患者支援室の役割は、患者参加型の医療 「医療の現場が主体的に、ことにあたらなければ、患者 の推進に伴い、患者が治療行為において医療者と関わる の理解は得られません。当事者、当該部署に問題解決姿 過程で、必要に応じ、患者と医療者の間にあって両者を支 勢をしっかりもってもらうための支援が、私たちの職務で 援していくこと。内容としては、 もあります」 ● 医療に関する情報発信 患者支援室の役割は、医療者に対しても患者同様に、等 ● 患者が医療の知識を得るための支援 しく支援をしていくことである。 ● 患者の自己決定への支援 ● 病状や診断内容などへの相談 ● 苦情・クレームへの対応(病院・クリニックに、 「ご意見箱」 を設置) ● ミスや事故が起きたら 真相究明が最優先課題 一方で、各部署で医療安全に対する考え方、対策の方 解決困難な問題が発生した際の対応 など 法・手順が違えば、チームアプローチとしての医療でミスや 豊田氏は、相談窓口や必要に応じて中立的な立場で事 事故が起きる確率が高くなるのは当然のことだということ 故発生に伴う当事者間の調整などを担当している。医療安 も、豊田氏はわかっている。現場が主体的に関わり、現場 全対策室は、セーフティーマネージャーの杉本こずえ氏が の事情をできるだけ反映・考慮した、病院全体として共有 担当している。 できるシステム作りが不可欠であると、考えている。 杉本氏は豊田氏の、 「患者の視点にたった医療安全対 同院は、葛飾区の中核病院。急性期医療にも力を入れ、 策を同院に定着させたい」との要請 心臓疾患手術では、全国でも上位にランキングされてい に応えての就任である。 る。医療ミス・事故発生の可能性が高くなってもおかしくな 杉本氏は、看護師として病棟で働 い。 いていた頃は、 「医療事故」というと、 清水氏は、診療部長や副院長、院長などの職責を担う立 いかに自分がミスを起こさないか、 場になってからの22 年間、他院での勤務も含め一度も訴 という視点しかなかったという。退 訟には至っていない。 紛争になっても、 自らが先頭に立って 職後、診療行為に関連した死亡につ 和解をしている。 いて死因の究明及び再発防止のた 「病院側がミスをしていれば、謝るのは当然です。ウソを め、中立な立場で解剖、分析、評価を行うことを目的として つかない、ごまかさない、逃げない。その態度を一貫して いる「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」 とっていれば、紛争化はかなり防ぐことができるでしょう」 で、医療機関と遺族との連絡調整を担う調整看護師を経 患者は、医療行為が安全であって欲しいと期待をしてい 験する。杉本氏は、医療事故による死亡を疑われている遺 る。医療者が適格な医療行為を行えば、医療事故など起こ 族の言葉を実際に聞き、衝撃を受ける。そして、医療者と患 るはずがないと思っている。だから、ミスや事故が起きれ 者・その家族、 被害者、 当事者同士が向き合うことの大切さ ば、患者や家族が強いショックを受けるのは当たり前だと、 を知り、その関係構築に病院をあげて取り組む清水氏や 清水氏は言う。 豊田氏の姿勢に共鳴した杉本氏は、豊田氏の要請を受け 「人間だからこそ失敗もします。ミスも起こします。誰もが 入れる。 納得するテーゼですが、ミスや事故の起きた現場でそれを 「医療安全対策も、患者の視点を忘れず、現場と共に考 いっても、患者さんは納得しません。当然です。ミスや事故 えていきたいと思います」 が起きなければ、陥らなくて済んだ不幸なのですから」 セーフティーマネージャー 杉本 こずえ 氏 ● 医療法人社団 明芳会 新葛飾病院 15 そうすることが、職員を守ることにもなっていると清水 氏はいう。 「強いショックを受けているのは、当事者である職員も 同様です。しかし、問題はその教訓をどう次に生かすか。病 院としての問題ですから、決して当事者任せにはしません」 その清水氏が長年、温めていたのが、医療事故被害者 の家族を同院と患者・家族の調整役にすることであった (P.17 囲み1)。豊田氏が入ることで同院の医療安全、事故 後の対処が、より患者に近い視点からの取り組みになって 医療安全対策室のある、 からだ学習館。身体や病 気に関する図書が、同院 の患者や地域 住 民に開 放されている。同院と患 者・家族、地域住民との 相 互 理 解を深めるため の一環である。 きたという。 それまでは、清水氏が前面にでて、医療安全を陣頭指 揮するトップダウンの効果だった。 それが豊田氏の入ったこ とで、患者の立場を知る、相談にのる、理解するために、医 療者として何をしなければならないか、職員は啓発されて いく。 現在は、事故後の対処方法にマニュアルがあるわけで はない。文書化すると、本質を表現しきれていないものに 原因の究明と安全対策を徹底すること、その姿勢を患 なる可能性があるからだ。 者や家族に真摯に伝えることが、医療施設としての最重要 「マニュアルに添って行動するというより、対話を重視す 課題である。 るというのが、現在の試行錯誤の中では、ベターだと考え したがって、真相究明が成されない段階では、清水氏は てやっています」 患者側に 「謝らない」。穏便に済ませるため、事実関係に関 係なく、頭を下げて済むならといった安易な 「謝罪」は何の 問題解決にもならないからだ。 「報告は今後のため」という コンセプトがしっかりしている 「患者さんや家族が一番求めているのは、何故ミスが起 放射線科技師の片山辰徳氏も、患者支援室の活動に きたのか、何故事故になったのか。それは医療者も同様で よって、患者への姿勢が変化してきたという。患者支援室 す。真相を究明し、組織として防止策を講じることが、我々 ができたことで、現場が主体的に医 のやるべきことです。医療行為は、そこまで包含したものだ 療安全、事故への対処に取り組むこ と考えています」 とが当然だと意識するようになって 患者・家族、あるいは地域住民に信頼される病院であろ いく。自発的な現場の取り組みを、患 うとすれば、 質の高い医療、 患者満足度の高いサービス、 そ 者支援室がフォローする。 してミスや事故に対するできる限りの安全対策の提供だ 「ミスの報告も、 『あなただけのミ けでは済まない。ミスや事故という負の要因に対し、正直 スではない』といわれていますので、 に真相究明に努め、被害者・家族に真摯に報告をし、再発 報告しやすいですね。職場では報告 防止を具体的なものにできるかが、カギとなる。 のあるたびにミーティングが開かれ、職場の問題として対 「どんなに脅されても、危害を加えられない限り警察沙 策を協議し、導びきだされた方針を全員が共有するシステ 汰にするのではなく、誠意をもって、はっきりとした態度で ムになっています」 相手に接すれば、大丈夫です」 報告は自己申告である。ヒヤリハットの報告も積極的だ 16 コンフリクトマネジメント 放射線科技師 片山 辰徳 氏 Case Study Report 2 【囲み1】 という。 放射線科は、患者に対して満足度の高いサービスを特 に心がけている部署でもある。 たとえば病院全体で実施し ている「ご意見箱」による患者の意見・要望の収集とは別 息子から託された 患者と医療者が対話する場を支えるということ 2003 年 3 月、豊田氏は息子(理貴くん。当時 5 歳)を医 療事故で亡くした。外科処置を必要とする重症の腸閉塞 に、放射線科独自の「ご意見箱」を外来などに設置して、同 (絞扼性イレウス)であったにもかかわらず、当直医師 科の質改善に努めている。 (8 年目の小児科認定医)が誤診。家族の希望で入院とな また、患者の急変時の対応にも力を入れており、これま での事例をもとに実践方式で対策を学ぶなど、誤解を招 り、当直の医師は、日勤の医師に口頭で引き継ぎをする。 そのまま医師は一度も病室を訪れることもなく、やがて 理貴くんは心停止。一時的に持ち直すが、最悪の事態を かないための第一歩として、患者対応の徹底した実習が行 迎えた。 われている。 社から「内部告発文書が届いている」との連絡を受け、衝 看護師の熊谷繭乃氏も、ミスの報告がしやすい環境に あるという。 撃を受ける。事実を知りたかった家族は、カルテの開示 を求める。病院は開示の求めに応じるものの、誠意ある 説明ではなかった。同年 6 月 1 日、息子の死が新聞で報道 「『今後のために報告する』という、 される。病院からの「和解」の申し入れは、事故後 2 年半を 過ぎてからだった。 コンセプトがしっかりしています。で 「一番辛かったのは、病院が事実を隠そうとしたこと。 すから、 ミスを責めるという風潮はあ 事実を開示し、素直に謝って欲しかった」 りません」 その豊田氏が、新葛飾病院で病院と患者・家族と医療 者とが話し合えるように調整役を務めている。 報告は、当事者、あるいは発見者 から行われる。 事故後、病院からの説明はなかった。その後、新聞社数 看護師 熊谷 繭乃 氏 「息子の事故の事例が、私をそうさせたのだと思いま す。息子の死には放心状態、悲しみ、怒り、涸れることの 「当事者が気づかないことを、 第三 ない涙を経験しました。でも、私以外の家族の衝撃は、 者が気づいてあげられれば、自分では気づかない部分に もわかります。 ついて、どういった点に注意が不十分なのか、自分の傾向 が分かります。今度は、この点について注意しようという形 で、ミスやヒヤリハットの予防のレベルアップにつながりま す」 ただ、急性期医療の現場は重症患者が多く、その分どう しても急変する患者も多い。 「ご家族が、なかなかその現実を受け入れられず、医療 者への不信感とまではいかなくても、コミュニケーション が十分にとれないケースもありますね」 もっとすごかった。ですから、被害者家族がそうなるの 時間をかけての悲しみなら、人はもっと冷静に受け止 め、対処できるでしょう。しかし、医療事故は突然に起こ ります。衝撃、怒り、悲しみは一気に膨らみます。体内に 抱えきれず、爆発してもおかしくはない。人は、これだけ のことを言いたくなってしまうのだと、理解できます。 裏返せば、その思いを誰かに聞いてもらいたい、分 かって欲しいのです。それは医療者も同じです。私が息 子を事故死させた病院を最終的に許そうという気持ち になれたのも、内部告発した複数の関係者は皆、苦しん だのです。本当のことを話したかったのだと、今は分か ります。息子の救急時に対応した看護師は、 『ずっと謝り たかった』と泣きながら謝罪をしてくれました。病院と また、担当した医師が説明をしても、患者が十分に理解 和解した翌年の命日のことでした。 できず、不信感につながる場合もある。そうした当事者間 ています。でも、被害者家族の多くは、そんな医療者の葛 での話し合いが困難になったケースでは、豊田氏が、当事 者同士が話し合えるように対話の場を調整する。 私は、そうした苦しんでいる医療者がいることも知っ 藤を知りませんので、医療者を憎んでも仕方がないと思 います。でも、医療者の苦しみは、患者・被害者、その家族 の苦しみと似ているのではないでしょうか。 「豊田氏は、頼れる存在です。患者さんやご家族だけで 私は、患者・家族と医療者との調整役となって、双方が なく、私たちの話もしっかり聞いてくれますから」 しっかりと事実に向き合えるお手伝いをしていきたい と考えています。それが息子から託された、息子と「とも に生きる」ことだと、今は思っています」。 ● 医療法人社団 明芳会 新葛飾病院 17 【囲み2】 被害者の声に職員一人ひとりが 真剣に耳を傾ける 70 歳の男性は胃がんの手術後、再発防止の可能性があ りながら、インフォームドコンセントが不十分だったた め死亡。当初、院長はその事実を知らなかった。1 ヵ月ほ 【囲み4】 「架け橋」が目指す活動 1. 傷ついた気持ちに寄り添う 医療事故が起きると、患者家族も医療者も深く傷つ く。関係者の気持ちに最大限配慮するものである。 どして、遺族が院長を訪れた際に知り、事実確認後、ただ 2. 聴き、一緒に考える ちに謝罪をする。 関係者の思いを理解するために、 「聴く」に徹すること その後、遺族も新葛飾病院の姿勢を理解し、同院の要 から始まる。そのうえで、患者家族・当事者を支え、こ 請に応じ、「医療事故から学ぶ」院内研修会が企画され れから何をしていくかを一緒に考えていく。決して、 る。しかし、引き受けたものの、研修会当日までは、引き 提案やアドバイスをすることではない。 受けたことを後悔するなど揺れ動くが、豊田氏の対話に よって「少し気持ちが楽になった」ことで実現している。 「この病院で医療犯罪行為が行われた。患者はいかな る状態であっても、尊厳を保つ権利がある。 ( 略)院長が 事態を知った直後に、すぐ謝罪をして、私たちとの約束 を守ってくれた。だから勇気をもってここに来た」 その後、院長と豊田氏らは、お礼のため、お宅を訪れ る。 「職員の皆さん一人ひとりが真剣に話を聞いてくれ、 おじいちゃんのために全員が黙とうをしてくれたこと で心が救われました。この経験から、患者も医療者任せ にするのではなく、病気についての知識を得ようとする 姿勢が大切だと感じた。研修会で話して良かった」 ご家族の言葉である。同院では、2007 年 5 月より患者 3. 患者・家族・当時者を心から尊重する 気持ちを心から尊重し、それを理解しようとする。患 者・家族の感情等をコントロールするものではない。 そのためのスキルトレーニングは必要だが、マニュア ル的スキルではない。聴く技術・言い換えの技術で 終わってはならない。 4. 肩代わりではなく、向き合うことを支える 代わって謝罪するなど、 「当事者の代行」はしない。 患者家族・医療者自身が自分たちで向き合えるための 力を発揮できるように支え、環境の整備をする。 5. 信頼確保の活動は公平性・中立性を超える 中立性という指標は、患者家族・当事者との信頼性を 得るためのものであり、病院職員の立場は「公平・中 支援室として、医療安全対策室に加え、相談窓口、図書室 立」には見えないことがある。傷ついている人を前に を設置し、きめ細かなサポートとサービスの質向上に努 したとき、信頼回復のために、ときには一方に寄り添 めている。 うこともありうる。 6. 医療事故分析の調査ではない 医療事故調査との適切な連携は必要である。 【囲み3】 ● 豊田氏が医療被害者となった病院で行った 講演を聞いた医療者の感想(抜粋) 7. 信頼がない中で、信頼が生まれる 信頼回復を支えるものであるが、正答やルールがない 中で、患者家族と医療者が対話を誠実に行うことを 通じて、小さな信頼が次第に大きな信頼に結び付くよ うな、向き合うプロセスを支える。 ・体験を聴き、自分で考える研修は有意義だと思った ・貴重な研修で、とてもためになった(医師) ・ 病院の内側にいて、変わらない、変えられないと諦めて いた自分に嫌気がさしたが、まずは自分が変わりたいと 思った ・医療スタッフ内のコミュニケーションの大切さを痛感した ・ 自分が被害者だったらどうだったか。胸がはりさけそうな 思いで聴いていた ・ 向き合って話し合えるようになるためには、相手を受け 止めなければ、相手の心は開かれないことを再認識させ てもらえた(看護師) ・ 今までの医療安全の研修会は、医療者側からみた視点 だったので、患者側からみた研修を今後も続けて欲しい (看護師) 18 コンフリクトマネジメント 患者支援室は、第1回「新しい医療のかたち」賞 (医療の質・安全学会)を受賞(2007 年)。 Case Study Report 2 まず第一歩は、職員同士が 対話する努力をすること 患者や家族からのクレーム、あるいは紛争化しそうな状 況を生むのは、 医療者側への不信感によるものが多いのも 事実のようだ。 「相談を受けていると、医学的な部分で追及してくる方 は、実際は多くありません。たとえばミスをしても、そのミス に対し無神経な説明をされた、あの言い方は何か隠してい 院内研修会には、同院の医師、研修医、看護師等だけでなく、大学教授、 MSW、マスコミ関係者、患者家族なども参加。熱心に意見交換が行われ る。中央、豊田氏の右が、進行役の稲葉一人氏(元大阪地方裁判所判事)。 る、といったことを言われることもあります」 それだけ、医療従事者の患者への思いやりの欠如が、相 手を傷つけていることになる。職員には、もっと患者や家 「 対 話 で は、相 族、被害者やその家族の声を聞いて欲しい、相手の立場を 手の身になって考 理解しようとする姿勢をもって医療の現場に臨んで欲しい える。そのことが と、院長や豊田氏らは考えている。 『医療者の善意、悪気ない言葉が できて初めて、患 患者家族を傷つけるとき』 同院の「医療安全」に関する院内研修会では、同院の医 者 さん の 声 に 耳 第 26 回 院内研修会テキスト 第 26 回 院内研修会 テーマ −言葉のちからシリーズ1 ∼日頃の医療場面を振り返り、自由に話をして見ませんか?∼ 療被害者の家族を招き、 「医療事故から学ぶ」取り組みも を傾けられるよう 実施した(囲み2)。豊田氏は、自らも医療被害者の家族と に なるでしょう。 して、息子を医療過誤で亡くした医療施設で講演をし、医 ADRは、たとえ裁 療者に被害者の家族としての声を伝えている。そのとき聴 判外とはいえ紛争 講した医療者の感想が、 囲み 3 である。 処理ですから、対 同院では、また2ヵ月に1回、全職員間の対話を促進する 立した関係が想定 目的で、医療ADR院内研修会も実施されている。ここでは され、適当ではな 仲間や患者・家族、地域住民と「向き合うことの大切さ」が いのですが、私た テーマである。 ちが考えているのは、相互理解のための第一歩を、まず医 進行役:稲葉 一人 氏 中京大学法科大学院教授 元大阪地方裁判所判事 日時:平成21年2月13日(金) 18:30∼20:30 場所:からだ学習館 主催:新葛飾病院 患者支援室 「架け橋」−患者・家族との信頼関係をつなぐ対話研究会 ● 対話をもつよう努力する(コミュニケーション) 療者が踏み出すことです。患者さんに寄り添う努力をする ● 相手の身になって考える(想像する) 学びの場として研修会を位置付けています」 ● 患者の声に耳を傾ける(聴く) 研修会を2 年間行っていく中で、この活動を院外にも広 「名を『医療 ADR』としていますが、まずは職員間の対 げることの必要性を感じ、2008 年 3月、豊田氏は清水院長 話です。次に職場間の対話。これが十分にできていない と共に「架け橋~患者・家族との信頼関係をつなぐ対話研 と、患者・家族等を理解する対話には至りません」 究会」を設立した(囲み 4)。 同院は地域に必要とされる病院として、成長を続けてい 「ここまで医療安全に熱心な院長は、そういない」と熊 る。治療の難しい患者を積極的に受け入れることで診療所 谷氏は語る。清水氏は、医師になってから父親を医療事故 とも競合しない体制、相互支援が可能な共存を目指してい で亡くしている。 医師としての人生は、 大学病院で医療事故 る。急性期医療のトップダウンスタイルが職員間の対話を を告発したことから、 歩む道が鮮明になっている。 ご自身は 阻む要因ではあるとしながらも、清水氏は誰のための医療 「反体制的な頭の構造」だからと笑うが、治療を必要とする 行為かを強調する。 患者は、医療者の前では弱者だといいきる。 ● 医療法人社団 明芳会 新葛飾病院 19 医療事故防止のための「患者確認」 医療安全対策員会の活動 「患者確認キャンペーン」ポスター の一環として、ワーキンググ ループの活動がある。ワーキ ンググループは3つあり、そ のひとつが「指示受け・指示 だし・患者確認班」である。 現在は「患者確認キャンペー ン」を実施している。患者間 違いは1年間で 21件の報告 があった。名前の聞き間違い で、呼ばれると同 時に患者 2 人が診察室に入ってくるこ アンケート質問用紙 〈外来〉 医療を提供する者、そして治療を受ける患者さんにとって、 『安全』は真剣 に取り組んでいかなくてはならない重要なテーマです。 当院では、非常に多くの患者さんが来院され、患者間違いの危険性が高 いことから、それを未然に防ぐ事の重要性を感じ、医療事故防止のための 「患者確認キャンペーン」を開始いたしました。安全な医療を提供させていた だくため、 アンケートへのご協力をお願い致します。 1. 患者確認キャンペーンの取り組みをご存知ですか? はい・いいえ 2. 実際に検査・処置・与薬等の場面で、 職員からお名前を聞かれていますか? はい・いいえ 3. 職員にお名前を聞かれた際、 ご自身から名乗りにくいですか? はい・いいえ →はい、 と答えた方のみご回答ください。 4. お名前を名乗りにくい理由をお聞かせください。 □習慣がないため ( 具体的に・・ ) ともあるという。 □それ以外の理由 ( 「○○さんですか」と確認 5. 何度も確認されることは、 わずらわしいと思いますか? をするのではなく、 「お名前 は」と聞く。 「 今、呼ばれたのに、名前を言うのですか」と不思議に 思う患者もいるそうだが、 「検査科では、生年月日も尋ねるようにし ています」(清水氏 )。 キャンペーン期間は、意識づけの期間。その後どの程度定着して いるか、統計をとりながら、キャンペーンの期間、頻度を検討してい ) はい・いいえ →お名前を確認されることが良いことだと思う方に伺います。 6. 良いと思われる理由をおしえてください。 □間違えをなくすために ( 安全を考えて ) 取組んでいるように思うから その他 ( ご意見などもお寄せください ) ( ) <このアンケート用紙は外来入口の回収箱へ入れてください> ご協力ありがとうございました。 きたいとしている。患者にはアンケート( 右 ) を実施し、 「患者確認」 新葛飾病院 医療安全対策委員会 患者確認班 が行われているか、職員への定着率を調査中である。 相手を思いやる心、相手の立場になって考え、行動する ことは、社会を生きる人間として当然のこと。しかし、その 社会では強者・弱者が生まれている。医師は、患者にもな る。強者は、弱者にも転じる。他人事ではない。 「どんな事情があろうと、善悪ではなく、私は弱者の側に 立ちたい」。 清水院長は、自らにがん治療を施しながら、医療現場で 最前線に立っている。 病院基本データ ■名称/医療法人社団 明芳会 新葛飾病院 ■所在地/東京都葛飾区堀切 3-26-5 ■開院/ 1979 年 5月 ■職員数/ 194 名 ■病床数/ 126 床 ■診療科目/内科、循環器内科、外科、 消化器内科、 泌尿器科、 整形外科、 皮膚科、 血管内科、 血管外科 20 コンフリクトマネジメント Case Study Report 3 Case Study Report 3 医療法人社団おなか会 村井おなかクリニック 品質管理の徹底こそ医療安全の基本であり、 コンフリクトマネジメントの絶対条件 「インフォームドコンセントと感染予防対策」の徹底を掲げ、質の高い安全管理を実施している村井おなかクリニック。 患者本位の品質管理を医療安全の重要課題として、取り組みを続ける同クリニックをリポートする。 院長の考えるコンフリクトマネジメントの基本 ● インフォームドコンセントのポイントは文書にして渡す ● フロアマネジャーを置き、待合室の患者に心配りする ● 不満をぶつける相手が、何を望んでいるかを見極める ● 感染予防対策を徹底する ● 事実確認こそ最優先であることを理解してもらう努力をする 患者の声を聞き コンフリクトの芽を摘む 当クリニックは 2006 年、 開院 1 周 年を機に、日帰り手術のアンケート 調査を行いました(P22 図 4)。日帰 り手術は、日本では比較的、新しい 分野です。どこに問題点があるか、 どのくらい喜んでいただけたか。コ 院長 ンフリクトの芽を摘む意味でも、手 村井 隆三 氏 術を受けられた患者さんの生の声 をお聞きしたかった。率直なご意見をいただくために、調査は専 門の調査会社にお願いをしました。 アンケートの総合満足度は 88.4 点 (100 点満点 ) と、依頼した調 査会社が過去に調査した医療機関の中ではトップの点数をいた だきました。 しかし、施設に対する不満はリカバリー室や手術室において顕 著でした。物理的には問題なく手術が行え、休んでいただけたの ですが、患者さんには快適な環境ではありませんでした。 アンケート結果を踏まえ、たまたま当クリニックの入っている ビルの上階の広いスペースの物件が空いていましたので、すぐに 移転しました。開院して 1 年ちょっとでしたが、不満はコンフリ クトの火種にもなります。迷うことはありませんでした。 現在では、手術室は患者さんが必要以上に緊張しないように 内装も工夫していますし、リカバリー室は病院と同様のベッド を配置し、術前・術後をゆっくり休んでいただけるようになりま した。 その後、手術件数も増加し、今後の大腸内視鏡検査の供給体制 のアップという展開を考える上でも、当クリニックの品質管理の 実際を、改めて患者さんに教えてもらうつもりです。 暴言や暴力に対しては、毅然とした対応を する ● 金銭目的の場合は、事務長が対応したほうが 良い場合もある ● 品質管理の徹底でコンフリクトを予防 ①苦痛の少ない胃内視鏡・大腸内視鏡検査、②日帰り 手術(ソケイヘルニア・痔・内視鏡的ポリープ切除など)、 ③在宅医療、を3 本の柱とする村井おなかクリニック。院長 の村井隆三氏は、 「コンフリクトマネジメントは予防こそが 先手必勝である」と強調する。 「一般にコンフリクトマネジメントというと紛争対策のよ うに思われますが、まずはそうならない努力、つまり、医療 安全への取り組みによる予防が必要です。そのベースは、 品質管理にあり、ミスや事故を限りなく無くすことにありま す」 同クリニックでの日帰り手術では、 「どの程度の再手術 率なのか」、 「偶発症の発生率はどのくらいか」、などを常に 意識した品質管理を徹底している。それでもトラブルはあ る、という。 「手術で一番多い偶発症は、出血です。年間で、数件は必 ずあります。外科的な治療、侵襲のある検査をする以上、偶 発症は避けて通れません。問題なのは、その発生率が 10% なのか1%なのか、0.1%なのかにあります」 同クリニックの発生率は、1%未満。 「何を基準とするかは難しいところですが、少なくとも自 分として納得できるレベル、 やむを得ないと思えるレベルま ● 医療法人社団おなか会 村井おなかクリニック 21 【図1】検査・手術同意書(患者用) 大腸内視鏡検査・ポリープ切除術同意書 私は、大腸内視鏡検査・ポリープ切除を受けるにあたり、鎮痛剤 および鎮静剤を用いた麻酔、内視鏡検査自体またポリープ切除など の手術の偶発症 ̶出血 (1%)・穿孔 (0.1%) などについて医師から説明を受け、納得し ましたので検査・手術に同意します。 検査・手術後に出血・穿孔などの緊急処置の必要が生じた場合、 連携病院に入院して適切な処置や孔をふさぐ手術を受けることも承 諾いたします。 年 月 日 患者様氏名 日常の診療業務では、納得できるレベルを維持していく という姿勢が大事で、それこそが品質管理であり、争いの 火種を作らない高度なコンフリクトマネジメントにつなが る。 保護者または代理人氏名̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶患者様との続柄̶̶̶̶̶̶̶̶ 住所̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 電話番号̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ (保護者または代理人は、患者が未成年である場合は必須、それ以外では患者本人の記 入があれば省略可、患者もしくは保護者・代理人の氏名が自署である場合は、押印不要) 【患者様およびご家族の方へ】 この手術や検査について、他の専門家に相談することもできます。 なおこの手術や検査を断っても、当院での今後の治療において不 利益になることはありませんのでご安心ください。 万が一の偶発症により、他の医療機関において入院手術などの費 用がかかった場合、医療費は、患者様のご負担となりますのでご了 承ください。 しっかりすることで、検査・治療・手術内容を理解してもら う。しかし、ただインフォームドコンセントを行えば大丈夫 かというとそうではないようだ。たとえば、偶発症の説明を してあっても、実際に偶発症が発生すると、 「聞いていな い」という患者もいる。 「インフォームドコンセントにおいて大切なのは、それを それが私たちを守ることになるのです」 患者番号 : 99999002 テスト ミドル カンジャ 受診者名 : テスト ミドル患者 page 1 一方で、患者に対してはまずインフォームドコンセントを 文書として残し、しっかりと患者さんと共有することです。 【図2】診療記録のコピー(患者用) 生年月日 : 昭和 52 年 10 月 01 日 既往歴・原因・主要症状・経過等 処方・手術・処置等 2009/04/20 2009/04/20 【主訴】 便潜血 【所見】 【腹部所見】軟 腸雑音亢進なし 圧痛なし 眼瞼結 膜貧血なし 眼球結膜黄疸なし 頚部リンパ節腫脹 なし 【考察】 大腸癌健診での便潜血陽性ですので大腸内視鏡検 査を予定します。 【検査 (★大腸内視鏡検査前一式★)】 ChE クレアチニン LDL−コレステロール HDL̶Ch BIL/ 総 TG GOT ALP GPT TP LDH 末梢血液一般 γ̶GTP CRP( 定量 ) ZTT 血糖 UA 【検査 (★大腸内視鏡検査前一式★)】 梅毒 ガラス板法 ( 定性 ) TPHA HBs 抗原 定性 HCV 抗体 (3.0) 【検査 (★大腸内視鏡検査前一式★)】 PT 活性化 PTT 【患者検査 (★大腸内視鏡検査前一式★)】 患者検査欄薬剤のみ算定用 ○ ○ ○ ○ 0.75% 10mL △ △ △ △ 5mg 2 錠 □ □ □ □ 1 袋 【計画】 1 月 1 日 1 時 00 分大腸内視鏡検査を予定します。 切除した方がよさそうなポリープがあった場合は、その 場で内視鏡的ポリープ切除術を日帰り手術として行いま す。 偶発症としては、出血と穿孔などがあります。出血は 1̶7 日くらいがおこりやすいです。アルコールを飲むの はやめてください。出血する可能性が高くなります。穿 孔は 700 人に 1 人とまれですが、穿孔した場合は、 入院していただき緊急手術となります。 テスト ミドル 患者 様 患者番号 99999002 保険種別 社保単独・ 本人 30% 負 担 金 額 一 部 負 担 金 3,660 円 前 回 領 収 額 今 回 領 収 額 自費 金 額 内 訳 保険点 数 初・再 診 医 学 管 理 在 宅 医 検 画 像 診 投 注 料 等 療 査 断 薬 射 予 防 注 診 断 健 康 診 選 定 医 医 薬 品 な 射 書 断 療 ど 医療法人社団おなか会村井おなかクリニック 東京都八王子市明神町4−5−3 橋捷ビル3F TEL 042−644−1127 自 費 合 計 金 額 0 円 0 円 発行日21年4月20日 診察日21年4月20日 0 円 内 消 0 円 273 点 0点 0点 948 点 0点 0点 0点 リハビリテーション 精神科専門療法 処 置 手 術 麻 酔 放 射 線 治 療 病 理 診 断 診 療 総 点 数 0円 0円 0 0円 0円 自費合計金額 費 税 合 計 請 求 額 0 円 3,660 円 0点 0点 0点 0点 0点 0点 0点 1,221 点 ~ 5 件は実施している計算だ。そのすべてに、同意書への 署名をもらうための説明をする。一般診療の限られた時間 内に同意を得るために、文面はきわめてシンプルだ (図1)。 同意書の文面は、ポイントが太字になっている。患者に ポイントを説明しながら、確認のため赤のボールペンで○ 患者に渡す。 電子カルテにオーダーを入れたときにも、プランの項 目に検査の予定と患者に同意を求めた内容が記入され る。診療記録も共有するため、毎回コピーを患者に渡す (図 2)。さらに領収書にも、患者が同意した内容を記載し ている (図 3)。こうして三重にインフォームドコンセントを文 受 領 印 書化(図1〜3 青囲み部分)し、渡している。 良かれと思ったことでも効を奏さないことがあるのは、 0円 所得税控除、一部負担金の償還申請等に必要です。再発行はできませんので、大切に保管してください。 備考欄 1 月 1 日 1 時 00 分大腸内視鏡検査を予定します。 切除した方がよさそうなポリープがあった場合は、その場で内視鏡的ポリープ切除術を日 帰り手術として行います。 偶発症としては、出血と穿孔などがあります。出血は 1̶7 日くらいがおこりやすいです。 アルコールを飲むのはやめてください。出血する可能性が高くなります。穿孔は 700 人 に 1 人とまれですが、穿孔した場合は、入院していただき緊急手術となります。 コンフリクトマネジメント 大腸の内視鏡検査は 2008 年、年間で約1200 件。1日4 でもある。患者が同意し署名をしたら、同意書のコピーを 診療費受領書 テスト ミドル カンジャ 説明する手術プラン、偶発症等は 三重に文書化して患者に渡す をつけていく。説明をしたという証を、患者と共有するため 【図3】診療費受領書(患者用) 22 で、発生率は抑えられています」 医療界も同じだと村井氏はいう。予想もしない、偶発症か どうかもわからないような問題が発生することもある。 たとえば内視鏡検査であれば、 「次の日にお腹が張る、 下痢をする」などの因果関係のはっきりしない症状の訴え は往往にしてある。そうしたケースでの訴えでは、患者さん Case Study Report 3 が何を求めているのかを見極めることが大切だという。 「自分の健康が心配な場合もあれば、 残念ながら金銭目 的と思われる場合もあります」 因果関係がまったくないと判断できれば、当然突っぱね 【図4】日帰り手術のアンケート調査結果(一部抜粋) 郵送によるアンケート93通 有効回収数49通(回収率52.7%) ◉当院で日帰り手術を受けて良かったと思いますか? 2% る。一方、内視鏡検査をしたことで出血した可能性の否定 できないケースなど、因果関係がまったくないとは言い切 とても良かった ある程度良かった 33% どちらとも言えない 65% れないケースもある。 あまり良くなかった 良くなかった 「出血していれば、止血をしなければなりません。その対 処には、因果関係の有無にかかわらず、誠意をもって納得 いただける対応をしております」 ◉当院をご家族やご友人に勧めようと思いますか? 6% 報告ノートへの記入は 対策についての考察まで トラブルになりそうな場合には、基本的には院長が対応 自信をもってすすめる ある程度はすすめる 37% どちらとも言えない 57% あまりすすめられない 絶対すすめたくない している。しかし困るのは「ほう- れん - そう(報告・連絡・相 談)」が不十分な場合。トラブルが現場で埋もれているケー スも結構あるという。たとえば、受付が患者に不満をぶつ けられても、 「すみません」と謝って、それで終わってしまう ケースなどがあげられる。 村井氏は、年に 2 ~ 3 回開く品質管理等の学習会でも、 ◉手術後の回復期間について満足していますか? 2% 14% 非常に満足 20% 満足 どちらでもない 「ほう- れん - そう」の大切さをスタッフに訴えているが、そ 不満 64% れでもなかなか徹底されないものだと嘆く。対策の一環と 非常に不満 して、 「インシデント・アクシデント・レポート」 (P.24 写真) に、スタッフ全員が気づいたことを無記名で記入するように ◉帰宅後に不安を感じましたか? 促している。記入は、単なる事実報告ではなく、今後どうす ればミスが防げるかといった考察まで書き込むことになっ ている。 12% 不安はなかった 31% あまり不安ではなかった 少し不安だった 患者やカルテの取り違えもある。 「指差し確認」 「声出し 非常に不安だった 57% 確認」は村井氏も含め、全スタッフに徹底するよう指導して いる。それでも、違う患者の電子カルテで診察を始め、途中 で気がつくようなケースが月に1度くらいはあるという。 「電子化されると、すべては IDで動きます。IDを間違った ら、どうにもなりません」 開院当初は、バーコード入力を活用したそうだが、あまり に煩雑だったため、現在は取りやめている。 「今は、 とにかく 『指差し』 『声出し』 確認をしながら、 ダブ ルチェックをしています」 ◉各施設に不満を感じた方の割合 0 10 20 30 23% 手術室 18% 駐車場 9% 待合室 施設の清潔さ 50(%) 41% リカバリー室 トイレ・洗面所 40 4% 2% ● 医療法人社団おなか会 村井おなかクリニック 23 混雑時には、患者の誘導もする。待ち時間にも気を遣う。 同クリニックでは予約で30 分~ 1時間、一般で1時間~ 1 時間 30 分が目安である。 「30 分以上待つと、患者さんがイライラしてくるのがわか ります。 『お待たせして、申し訳ありません』、 『具合はいかが ですか』など、患者さんに声をかけるようにしています」 診療前に、説明を必要とすることがあれば、待ち時間を 利用して、フロアマネジャーが行い、診察時間の短縮にも 心がけている。 「一番トラブルの多いのは、帰るときの受付です。治療過 程でも、インフォームドコンセントは何度も繰り返し行うの ですが、そのときはあまり聞かれていなくて、帰る受付で思 い出したように不満をおっしゃるとか、一旦クリニックを出 られてから、戻ってきておっしゃるなど様々です」 たとえば採血や注射をしたとき、その部位が青くなっ た。 「しっかり止血をしてください」と言ってあっても、十分 「回覧ノート」 (左) 「インシデント・アクシデント レポート」 (中央) 「申し送りノート」 (右)も情報 を共有化するツールとして活用 でないために起きてしまう。 「必要だと思われる方には、できるだけ私たちが処置室 で圧迫と止血バンドを使用し、止血してからお帰しするよ フロアマネジャーの配置が コンフリクト予防に効果 現在、待合室にはフロアマネジャーが配置されている。 看護部長の村井留美子氏や経験のある事務員が専任して いる。 「患者の容体変化を見逃さない」 「待ち時間の長い患 者に声をかける」 「医療知識を必要とする患者からの疑問・ 質問に応じる」といった職務である。 「看護業務はスタッフに任せて、私は患者さんに目配り、 うにしています」 フロアマネジャーと事務スタッフでできることは、自分た ちで相談をしながらやっていく。 明らかに、 院長の助言や力 を必要とする場合に限り、院長に相談をする。 村井留美子氏らは、質の高い医療提供のためにも検査・ 治療以外は、 できるだけ自分たちで解決できるよう看護師・ 事務スタッフによる、対策のための話し合いを大切にして いる。 同クリニックでは院長の村井氏だけではなく、東京慈恵 接遇も含め、ハイレベルの 品質管理を目指す 会医科大学、北里大学などの医師が 10 名以上、交代で診 院長の村井氏が進める、コンフリクトを予防するための 療・内視鏡検査を行っている。 品質管理は、接遇を含めたマネジメントが成されている。 「医師ごとに理念、診療スタイルが違いますので、患者さん 事務長の井上歩弥氏は、接遇のあり方やトラブル、院内 と各医師との橋渡しをすることも、 大切な役割となります」 の雰囲気を、できるだけ患者の視点でとらえるように心が 必要に応じ、医師の説明を分かりやすく補足する、患者 けているという。同クリニックでは、事務長という役職を外 が「質問したかったが、できなかった」といった場合、フロ 部の会社に業務委託をしている。院長の村井氏が医療機 アマネジャーが代わりに聞くなど、 患者の不満をそのままに 関における診療と経営は分業にすべきという考えから、 気配りをし、声を聴くようにしています」と村井留美子氏。 しないよう努めている。 24 コンフリクトマネジメント 「医師は診療をする。経営(管理・運営・企画)は、その道の Case Study Report 3 とが、コンフリクトの予防に効果を発揮していると実感し ている。 最近の課題は、やはり電話がつながった状態で、長時間 待たせてしまうこと。 「『わからないなら、わかる人に代わる』と指導している のですが、自分で解決しようとして、お待たせしてしまって います」 仲間に迷惑をかけまいとする姿勢は評価できるが、医 井上氏、村井留美子氏、大室氏(左から)は、院長やスタッフと協力し、 クリニックの品質管理の向上に努めている。 療もサービス業である。結果的に患者サイドを不愉快にさ せたのでは意味がない。大室氏は、新人教育においても、 患者優先のチーム医療であることをアドバイスしている。 プロに任せる」という方針をとっている。 看護、事務ともに、どんな場合にも笑顔を絶やさない接遇 「私は、クリニックの人間ではありません。したがって、事 を重視し、新人教育も現場での先輩たちの対応から学び 務長という視点だけで当クリニックを見ないよう、心がけ 取っていくよう指導する。患者が不満をぶつけるときも同 ています。医療機関の文化と一般企業の文化は、異なって 様である。先輩のそばについて対応を学ばせていく。 います。どちらかが間違っているということではありません ようにしています」 スタッフにも感染対策を徹底 コンフリクトの芽を摘む 「事情はよくわかりませんが、とにかく申し訳ありません」 *1 院長の村井氏は、 ICD の資格をもつが、同クリニックで といった謝り方では、明らかに患者を不愉快にしてしまう はスタンダードプリコーション (標準予防策) の考えに基づい のだという。一般企業でありがちな「担当者に、よく言って た院内感染対策にも力を入れている。 この基準は、推定され おきます」といった謝り方も、良くないと指摘する。 る感染状態とは関係なく、 すべての患者に適用している。 「患者さんは、看護師であれ、事務スタッフであれ、クリ 「医療機関の中には、検査前感染症検査(B 型肝炎ウィ ニックのスタッフとして見ています。新しく入ってきたスタッ ルス、 C型肝炎ウィルス、 梅毒検査など) によって、 感染症をも フにも、クリニックに関わる問題は職務が違っても自分の つ患者さんと、もたない患者さんとを区別し、洗浄消毒方法 問題として捉えることを一番に伝えます」 を変える施設もあるようです。 当クリニックでは、患者さんに 井上氏は非常勤という立場上、しばしば外からクリニッ 使用した内視鏡はすべて、 同じ方法で洗浄・消毒します」 クに電話をする。実際に外から電話をすると、応対の実情 これは、未知の感染症も含め、すべての感染症をチェッ がよくわかるという。 「自分の名前を名乗る」 「電話をしてき クすることが不可能なため、その対策として行っているの た相手を○秒以上待たせない」といった指導を繰り返して だという。 いる。 感染対策は、患者に対してだけではない。スタッフに対 医療現場は4 年目だという事務主任の大室梨恵氏は、 しても、力を入れている。クリニック全体の品質管理が行 患者とクリニックとの接点に自分のポジションがあると考 われなければ、 医療安全はレベルの高いものにはならない えている。 し、コンフリクトの予防にもならないと、院長の村井氏は考 「患者さんから不満をぶつけられたときも、何を望んでお える(P.26 囲み)。 られるのか、患者さんの話を良く聞くようにしています」 これらの品質管理の手法は、日帰り手術においてもまっ 訴えの 7 ~ 8 割は、看護部長に相談をすることで解決で たく同様である。 同クリニックで実施している日帰り手術で きるという。大室氏はフロアマネジャーが待合室にいるこ は、更に「患者さんの身体への負担を減らす工夫」として十 が、違う視点から見るとこうだ、といった指摘や助言をする *1 ICD=Infection Control Doctor(感染制御医) ● 医療法人社団おなか会 村井おなかクリニック 25 【囲み】 分な術前検査による全身状態のチェック、麻酔科医による ● 内視鏡の洗浄・消毒 同クリニックでは、内視鏡検査終了後、全自動内視鏡洗 浄器を用い、6%過酢酸消毒液でガイドラインに沿った高 全身麻酔下での手術を特徴としている。 一般的にソケイヘルニアの日帰り手術では、局所麻酔、 水準の洗浄・消毒を行っている。 脊椎麻酔にて試行されることが多い。 1. 検査終了後、まずその場で水道水、中性剤を吸引し、吸 「全身麻酔は、 除痛効果が高いので、 患者さんにはメリッ 引チャンネル内を洗浄。その後、水道水を含ませたガー トが大きいでしょう。麻酔科医がきちんと管理すれば、麻 ゼで外側を清拭する。 酔によるしびれなどの障害も生じにくく、事故率は非常に 2. 内視鏡をユニットからはずし、準備室へ運び、シンク内で 低いので、安全な方法だといえるでしょう」 酵素系高機能洗浄液を用い、外側の洗浄とブラシを用 いて吸引チャンネル内を丁寧に洗浄する。 3. 全自動内視鏡洗浄器(写真1)に内視鏡をセットし、漏水 検査の後に、 低泡性液体洗剤と6%過酢酸消毒液を0.3% 実用液に調整して用い、 17分間の洗浄・消毒を行う。 麻酔科医のいる効果は、他にもあるという。 「1人の目より、2人の目を注ぐことで、安全管理がより 質の高いものとなりますし、 不測の事態では、 目だけでなく 『手』を貸してもらえます」 患者にも協力してもらう。ソケイヘルニアの突出は、立位 では明確だが、手術で仰向けになると分からなくなってし まう。手術箇所を左右、間違わないように、全身麻酔をする 前、患者自身で患部側の皮膚に印をつけてもらうのだとい う。 写真1 写真2 「触診などで十分に確認はしますが、二重三重にチェッ クすることで、安全性を高めています」 ● マスクの感染対策 全身麻酔用マスクも、酸素マスクもディスポーザブルタイ プを使用。麻酔器の蛇管は、オートクレーブ対応で殺菌を 徹底している ( 写真 2 は、 酸素マスクと蛇管 ) 患者の身になって 気づいたことを形にしていく 日帰り手術のクリティカルパスを作成し、 患者と共有する ● スタッフの感染対策 ことも同クリニックの特徴である。十分な説明と文書化。患 ・ 患者の体液などに触れる場合は、手袋を着用する。手で 者に渡されるクリティカルパスのプリントには、24 時間、何 触れたら、必ず石鹸で手を洗う。 かあればいつでも連絡がとれるように、院長の携帯電話 ・処置をしたら、手袋をはずし、手を洗う。 ・汚れそうな場合は、手袋、 マスク、エプロンなどをする。 の番号が明記される。 ・床が汚れたら、清掃をする。 「年間で約100 件の日帰り手術をやりますが、実際にか ・ 針のリキャップは禁止。静脈留置針、翼状針は、針刺し防 かってくるのは、年間 3 ~ 4 件です。ほとんどが、痛み、腫れ 止機能のついたものを使用する(写真 3)。 ・ サンダルは禁止。 足先を守るスニーカータイプの靴を履く (写真 4)。 などの症状を心配してのもので、電話対応で済むことが多 いですね」 患者の不安を取り除く。それも、品質管理の範疇である。 手術日が決まった日、処方箋を出して事前に薬を受け取っ ておいてもらう。 「いくら負担の少ない日帰り手術でも、患者さんは手術 写真3 写真4 当日は薬局に寄らず、そのまま帰宅して休みたいものです」 また術後、帰宅するときは必ず院長か看護師が、迎えの 車やタクシーに乗り込むまで送っている。 26 コンフリクトマネジメント Case Study Report 3 「万全の体調ではありま 品質管理の前提がクリアされるか、あるいは、並行して せんから、クリニックを出て スタッフのレベルアップが図られなければ、在宅医療は患 からもできる範囲で見守り、 者本位にはなっていかない。コンフリクトにすらならない。 安心していただくようにし 在宅という密室で黙殺される患者の不満。 地域医療の最前 ています」 線にある診療所は何ができるのか、 先手必勝のコンフリクト 患者の身になって、気づ 対策を徹底する一方で、 院長の村井氏は心をくだく。 いたことを一つひとつ形に 「当院の実践する『品質管理の徹底』という考え方が、在 していく。その方針を徹底 宅医療・介護の関係者にも浸透してくれることを期待して するために、院長の村井氏 います」 は携帯電話のメーリングリ 大腸内視鏡検査の供給体制充実は、医療・介護の他施 ストを活用し、関係スタッフ、あるいは全スタッフに伝達事 設との連携網を広げることにもなり、ひいては在宅患者と 項を逐一配信している(写真 上)。 同クリニックの接点を多くすることにもつながっていく。 品質管理には非常に厳しいと、スタッフは院長の村井氏 院長の村井氏は、同クリニックの今後の展望に、在宅医療 を評する。 における品質管理の実現をしっかり組み入れているよう 品質管理と今後の展望 だ。 *2 「部位別がん死亡率(2006年) 『がんの統計’08』」 (国立がんセンター) その院長の同クリニック開業のコンセプトは、 「優れた大 腸内視鏡検査の提供」であった。 「日本では大腸がんが、かなりの勢いで増えています。女 性のがんによる死亡の第 1位は、大腸がん*2。大腸内視鏡 検査は、もっとしっかりやっていかなければいけない」 しかし、技術的にも優れた検査を提供できる施設は限 られているという。院長の村井氏によれば、便潜血の検査 で陽性反応だった人の約半分は、大腸内視鏡検査を受け ていない。 「全員に内視鏡検査ができれば、もっと多くの大腸がん が早期発見できる可能性はあります」 同クリニックは今後、センター化して処理できる件数を増 やしていくか、府中にある津久井内科おなかクリニック同 様、兄弟クリニックを増やすか、大腸内視鏡検査の供給体 制充実の検討を始めている。 3 本の柱 (P.21) のひとつと位置づける在宅医療は、まだ パイロットスタディだという。在宅医療の品質管理が非常 に難しいからだ。 「在宅医療、あるいは在宅介護は、いろいろな専門職の 連携によって成果を上げるものですが、ある意味密室の世 界で行われます。したがって、まずは関係するスタッフの自 覚、モラルが問われることになります」 病院基本データ ■名称/医療法人社団おなか会 村井おなかクリニック ■所在地/東京都八王子市明神町4-5-3 橋捷ビル3F ■開院/ 2005 年 5月 ■職員数/ 14 名、他にパートの医師 14 名 ■診療科目/内科、外科、大腸内視 鏡外科、 胃腸内視鏡内科、 肛門外科 ■ホームページ/ http://www.m-onaka.com/ ● 医療法人社団おなか会 村井おなかクリニック 27
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