診療 up to date : 平成25年10月24日 エリスロポエチン(EPO) 抵抗性貧血の原因と対策について 腎臓内科 高 橋 則 尋 腎臓の働き ① 老廃物の排泄 尿素窒素・尿酸・クレアチニン など ② 水・電解質の調節 ナトリウム・カリウム など ③ 酸・塩基平衡の調節 体内を弱アルカリ性に保つ ④ ホルモン産生 血圧調節(レニン・アンジオテンシン系) 骨代謝(活性型ビタミンD) 造血ホルモン(EPO) 腎性貧血とは 腎不全に伴って認められる貧血であり、 赤血球の ①産生の障害 ②破壊の亢進 ③体外喪失 によって起こるものである。 主たる要因はEPOの生成障害である。 EPOと腎機能の関係 EPOの構造 165個のアミノ酸残基からなる糖蛋白質(分子量:約3万Da) 血液分化の流れ 赤血球造血刺激因子製剤(ESA) EPO製剤 ESA (赤血球造血刺激因子製剤) エポエチンアルファ エポエチンベータペゴル (エスポー) (ミルセラ) ダルベポエチンアルファ (ネスプ) エポエチンベータ (エポジン) エリスロポエチン製剤 ヒト体内で産生されるエリスロポエチンと 同じ構造のもの(糖鎖は若干異なる) ESA( erythropoiesis stimulating agent ) エリスロポエチンレセプターに作用し、 赤血球造血刺激を行うものの総称 ESA製剤の半減期 ミルセラ 137 133 ミルセラ 48 ネスプ ルベポエチンアルファ 25 24.2 エポジン エポエチンβ 8.8 subcutaneous 24.2 エスポー エポエチンα intravenous 8.8 (hr) 0 50 100 150 EPO抵抗性貧血の定義 ● 日本(厳密な定義なし,通例) 血液透析患者:rHuEPO最高投与量9,000 IU/週 CAPD患者 :rHuEPO最高投与量6,000 IU/週 を投与してもHt値≧25%に維持できない高度の貧血を有する者 (血液透析患者:最高投与量9,000 IU/週 CAPD患者 :最高投与量6,000 IU/週 を投与してもHt値≧6%[Hb値≧2 g/dL]の上昇がみられない者) EPO反応性低下の原因 赤血球の産生低下 ・鉄欠乏状態(最多の原因) ・慢性感染症(IL-1、TNF) ・悪性腫瘍の合併 ・骨髄線維症 ・高度の二次性副甲状腺機能亢進症 ・アルミニウム蓄積(治療初期の抵抗性に関与) ・透析量の不足 ・栄養不足(特に葉酸、ビタミンB6、B12の欠乏) ・骨髄機能抑制作用のある薬剤使用 赤血球の喪失 ・出血(顕性、潜在性)、多量の採血 ・高度の脾機能亢進症(肝硬変などに合併) ・溶血亢進状態(人工弁など) ・ダイアライザー再利用時の残留物 鉄欠乏状態(最多の原因) 鉄の体内動態 摂取 10 貯蔵鉄 1,000 1 血漿 4 1 排泄 10 組 織 鉄 骨 200 100 赤 血 球 2,500 髄 (単位:mg) 鉄欠乏症の病態 正常状態 貯蔵鉄欠乏 潜在性 鉄欠乏状態 鉄欠乏性 貧血 正常 正常 軽度減少 著減 35-40% 35-40% 30-35% 30%> 正常 正常 軽度上昇 上昇 貧血 なし なし なし あり MCV 正常 正常 正常 低下 貯蔵鉄 (フェリチン) 血清鉄 赤血球 骨髄可染鉄 トランスフェリン 鉄飽和率 血清トランスフェリン レセプター 血液透析患者の鉄動態の特徴 1 鉄喪失の亢進 透析操作に由来する失血や回路内残血 血液検査のための採血 消化管出血などの出血性疾患の合併が多い 2 消化管における 鉄吸収の低下 鉄を多く含有する食物の摂取不足 鉄吸収を促進する食物の摂取不足(ビタミンCなど) 鉄吸収を抑制する薬剤の服用(リン吸着剤、制酸剤など) 鉄需要の亢進 EPO投与による赤血球造血の亢進 3 EPO投与と鉄欠乏の関係 EPO投与により、赤血球造血が亢進し鉄が消費される 必要 鉄量 (Ht値5%改善 体重50kgの患者 約150mg) この鉄需要は、消化管からの吸収では間に合わない 貯蔵鉄を取り崩す 貯蔵鉄は急速に消費され鉄欠乏が起こりやすい 鉄動態の指標 貯蔵鉄 機能鉄 血清フェリチン 可染性骨髄鉄、肝臓鉄 ヘモグロビン 血清鉄、総鉄結合能 トランスフェリン鉄飽和率 赤血球恒数(MCV, MCH, MCHC) 低色素性赤血球比率 網状赤血球ヘモグロビン含量 赤血球亜鉛プロトポルフェリン 赤血球フェリチン 血清トランスフェリンレセプター フェロカイネティクス 鉄補給の指標 TSAT 血清フェリチン 20%以下 100ng/mL以下 TSAT : トランスフェリン鉄飽和率 = 血清鉄 ÷ TIBC × 100 (%) 鉄欠乏の治療 ● 鉄剤補充療法 ・ 経口鉄剤 ・ 静注用鉄剤 ● アスコルビン酸投与 鉄剤の静脈内投与による効果 報告者/発行年 例数 鉄剤の投与量/ 投与頻度 鉄剤投与前Ht/Hb値 (rHuEPO投与量) 鉄剤投与後 Hb濃度(g/dL) (rHuEPO投与量) Nyvad/19941) 34 50~200mg/HD×7 (1,150mg) Ht34.3% (6,353IU/週) Ht34.5% (4,586IU/週) Sunder Plassmann /19952) 52 100mg/HD (2,523±810mg) Hb9.4g/dL (217IU/kg/週) Hb11.1g/dL (62.6IU/kg/週) Sepandj/19963) 50 (rHuEPO 使用19) 100mg×2/週 (100~200μ g/Lま で) Hb8.8g/dL (96IU/kg/週) Hb10.0g/dL (63IU/kg/週) 鉄欠乏の治療─静注用鉄剤 ・ 静注用鉄剤は、経口鉄剤に比べて効果は確実 →血清フェリチン値100ng/mL未満では絶対的適応 ・ 非生理的投与であるのでアナフィラキシー反応と鉄過剰などの 副作用に十分な注意が必要 鉄過剰に惹起される低分子鉄による活性酸素・フリーラジカル生成とそれによる傷害 貯蔵鉄 還元剤、キレート剤 フリーラジカル 低分子鉄(自由鉄) 酸化還元酵素 活性酸素 脂質過酸化 細胞死 遺伝子障害 脂質 過酸化産物 発癌 タンパク質 障害 老化 免疫力低下 能動脈障害 動脈硬化 白内障 経口鉄剤と静注鉄剤の比較 組成 欠点 静注用 含糖酸化鉄 グルコン酸鉄 デキストラン鉄 毒性 アナフィラキシー 頻回少量投与には不向き 経口用 硫酸鉄 グルコン酸鉄 フマル酸鉄 消化器障害 コンプライアンス 生物学的利用率 EPOの鉄補給に関するまとめ 鉄状態 フェリチン <50 50-100 トランスフェリン 飽和率や低色素性 赤血球にかかわらず デキストラン 鉄(6mL)を フェリチンが 100以上にな るまで2週毎 に静脈内投与 >100 トランスフェリン飽和率(TSAT) 低色素性赤血球%(HRC) (可能な場合) TS<20% または HRC>10% TS>20% または HRC<10% 静注鉄の考察 TS<20% または HRC>10% TS>20% または HRC<10% 鉄欠乏の見込みはない 鉄欠乏の治療─アスコルビン酸 VC経口剤 腸管における鉄の吸収促進 経口鉄剤と同時投与で吸収を高める VC静注 rHuEPO治療抵抗性の機能的鉄欠乏症に有効 (大量になるとオキサローシスを引き起こす可能性が あるので注意が必要) 炎症・感染症 慢性の炎症・感染症 炎症・感染症 免疫担当細胞活性化 炎症性サイトカイン放出 網内の鉄取り込み亢進 赤血球造血 阻害 脾機能 亢進 感染症と貧血 特徴 ①血清鉄、鉄結合能、トランスフェリン飽和率低下 ②フェリチン増加 機序 ①造血予備能低下・血清鉄低下、赤血球前駆細胞のEPO 感受性低下 ②網内系鉄ブロック・網内系の貯蔵鉄増加、放出障害 ③赤血球寿命の短縮・網内系による赤血球破壊 炎症・感染にみられる臨床所見 ● 突然のEPO反応性低下 ● ヘマトクリット値を維持するのに必要なrHuEPOの増量 ● トランスフェリン飽和率と血清鉄の減少 (血清フェリチンは正常もしくは増加) ● 炎症/感染症を示す所見: 発熱、紅斑、疼痛、浮腫、圧痛、 感染部からのドレナージ、呼吸困難 ● 関節痛 ● 患者は無症候であることも多い 造血を阻害するサイトカインの関与 ・敗血症患者へのEPO治療における反応性に対する抗TNF抗体、 IL-1受容体拮抗薬及びプラセボの影響 EPO(250IU/kg週3回)への Hb値(g/dL) 輸血量 追加治療 処置前 2週間後 抗TNF抗体(n=5) 9.0±1.3 10.9±1.2a 2.2±1.3 IL-1受容体拮抗薬(n=8) 8.9±1.4 11.1±1.3a 2.1±1.4 プラセボ(n=10) 9.2±1.5 9.3±1.5 5.2±2.2b Mean±S.D. a:p<0.05(vs Baseline) b:p<0.05(vs 抗TNF抗体及びIL-1受容体拮抗薬) 二次性副甲状腺機能亢進症 PTHによる貧血の発症機序 1. 直接的作用 1)内因性EPO産生抑制 2)BFU-E形成の抑制 3)ヘム合成の阻害 4)赤血球寿命の短縮、溶血 2. 間接的作用 1)骨髄線維化による造血の場の減少 PTHによる貧血の発症機序 EPO(mU/mL) PTx後の血清EPO濃度の変化 1,000 *2,590 100 10 1 PTx前 PTx後7日 PTx後14日 PTHによる造血阻害(in vitro) PTHのヒト末梢血BFU-Eに対する作用 (%) ヒ 100 ト 末 梢 80 血 B F U 60 ― E ( VS 40 コ ン ト 20 ロ ー ル ) 0 10-11日培養、mean±SE *p<0.01(vsコントロール) * * * * 1 3.75 7.5 1-84PTH (U/mL) 10 30 PTHによる貧血の発症機序 2. 間接的作用 1)骨髄線維化による造血の場の減少 高反応群(n=11) 低反応群(n=7) 血清PTH濃度(pg/mL) 266±322 800±648♯ 線維組織量(%) 1.1±1.1 15.6±16.4†† 破骨細胞面(%) 3.1±2.6 8.7±7.8♯♯ eroded surface(%) 5.0±2.6 10.2±5.2†† EPO(U/kg, 3×/w) 56±18 174±33 130±132 296±220† アルカリフォスファターゼ(U/L) †:p=0.06 ††:p=0.04 ♯:p=0.03 ♯♯:p=0.009 Mean±S.D . 骨髄線維化 2゚HPTの代表的病変は線維性骨炎である 栄養不足 葉酸の補給による反応性の上昇 MCVおよびHt値の推移 (fL) n=8 130 (%) n=8 35 MCV 120 30±4.2 30 Ht 値 25 110 100 20 90 80 * 15 葉酸10mg/日 EPO 投与 時間 23±3.3 葉酸10mg/日 EPO 投与 * p<0.01 mean±SD, Student’s t 検定 時間 カルニチンのホメオスタシスと体内分布 組織 (骨格筋、心筋、肝臓、腎臓) 50,000 μ mol 食事からの摂取 3 00 μ mol/day 小腸 糸球体 血漿 生合成(肝、腎、脳) 300 μ mol 100 μ mol/day 再吸収 OCTN2 尿中排泄 400 μ mol/day カルニチンの役割 1)長鎖脂肪酸のミトコンドリアマトリックス内への輸送 →エネルギー代謝に重要(β 酸化→ATP産生) 2)ミトコンドリア内のCoA/アシルCoA比率の調整 →遊離CoAプール維持に重要 3)アシル化合物の細胞内からの排除 →細胞毒の排除に重要 4)赤血球膜などの生体膜安定性維持 →赤血球の寿命・ターンオーバーに重要 5)抗炎症作用 赤血球に対するカルニチンの役割 赤血球膜 リン脂質 リモデリング 貧血 赤血球 数 質 ESA 造血 C RBC PS exposure 弾粘性 A アポトーシス カルニチン B PS exposure: Phosphatidylserine exposure(マクロファージが赤血球を除外する歳のシグナル) Hb濃度,ESA投与量の推移 投与群 13 32000 13 32000 12 28000 12 28000 10 20000 9 16000 8 12000 ** 7 6 5 0 4 8 Hb ESA投与量 ** ** * 11 Hb濃度(g/dL) 24000 * 24000 9 16000 8 12000 4000 6 Hb値::対応のあるt-検定を実施し、投与前と比較した。 ESA投与量:Wilcoxon signed rank test定を実施し、投与前と比較した。ESA 投与量は、median (interquartile range)を表示。 * 20000 7 *p<0.05(vs 0週) **p<0.01(vs 0週) * 10 8000 0 12 16 20 24 (週) * 5 ** ** ** ** 8000 4000 0 4 8 0 12 16 20 24 (週) ESA投与量(IU/週) 11 ESA投与量(IU/週) Hb濃度(g/dL) 非投与群 薬剤性 薬剤性血液障害 巨赤芽球性貧血を来す可能性がある薬剤 溶血性貧血を来す可能性がある薬剤 1.葉酸欠乏性 1.ペニシリン系 抗けいれん薬ー肝臓におけ 2.セファロスポリン系 るmicrosomeでの酵素誘導 3.キニジン 経口避妊薬―尿中葉酸排 同じ機序の薬剤: 泄の増加 スチボフェン、キニーネ、 葉酸代謝拮抗剤―メソトレ パラアミノサリチル酸、 キセート フェナセチン、スルフォナ ミド、クロルプラマジン、 2.ビタミンB12欠乏症 イソニアジド 4.α -メチルドパ 同じ機序の薬剤 L-ドパ、メフェナム酸、 クロルジアゼポキシド まとめ EPO抵抗性の原因と検査 rHuEPO低反応 rHuEPO投与 鉄状態 OK 検 不適正 改善 不十分 改善 (静注鉄剤を考慮) 原因(可能性) 査 CRP 網状赤血球、 LDH、ビリルビン 感染/炎症 悪性腫瘍 赤血球膜 溶血出血 FOB’s×3 赤血球寿命 PTH 生検 B12/葉酸 血清アルミニウム Hb電気泳動 骨髄線維化 骨髄機能不全(例)MDS 造血性因子欠乏 アルミニウム蓄積 異常血色素症
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