第 8 章 成長における技術の役割 1 人的資本と物的資本と技術 第 8 章 成長における技術 の役割 • 労働者 1 人当たり人的資本の量 h ← 無限に増加でき ない • 労働者 1 人当たり物的資本の量 k ← 限界生産性逓減 全ての資源を生産要素の生産に使用しても定常状態で成長 ⋆ 講義ノートは http://www2.asia-u.ac.jp/˜ shin/lecture/growth.html にある. ⋆ 第 2 版のスライドは http://wps.aw.com/aw weil econgrowth 2/ → Classrom ReR Slides にある. sources → PowerPoint⃝ ⋆ 第 3 版のスライドは http://wps.aw.com/aw weil econgrowth 3/ → Classrom Re- は止まる (∵ 限界生産性逓減).しかし, • A 増加 −→ 所得は持続的に増加 8.1.1 技術の創出 R Slides にある. sources → PowerPoint⃝ • 技術創造のためには投資が必要 • 経済成長 → 技術進歩が重要 成長会計の計算は生産性の変化が国々の経済成長に大き く貢献したことを示している.生産性が向上すると同じ量 の生産要素でもより多くを生産できるようになる. 研究開発 (R&D) 支出 第 8 章では, 1. 技術進歩の性格 → 発明家が直面する技術創造に対す Table 1 研究者数と研究費: 2005 年 るインセンティブ (incentives) 2. 技術創造と経済成長 → 技術創造に配分される資源の 量の変化が産出量増加率に与える影響 3. 国家間技術伝播 → 技術がどのように国境を越えて伝 • アメリカ: GDP の 2.5% を研究開発 (R&D) に投資 播されるのか 4. 国家間技術移転の障壁 → 豊かな国から貧しい国へ技 術移転を妨げる要因 技術生産者 8.1 技術進歩の性質 • 19 世紀中半以前: 物好きな人,tinkerer(修繕工) コンピュータに新しいソフトウェアーをインストールし た場合 } 資本 (コンピュータ) 変化無し 同様の資本と労働 −→ 産出量増加 労働 (使用者) 変化無し ほとんどの R&D は利潤最大化を求める民間会社による ものである.しかし,技術特有の性質によって長い間政府 技術進歩はコブ・ダグラス生産関数 y = Ak α h1−α • それ以降: 利潤最大化を追求する民間企業と政府 が主導してきた. (8.1) の係数 A の変化を意味する.ここで,y は労働者 1 人当た り生産,A は生産性,k は労働者 1 人当たり物的資本,h は • 1714 年,イギリス政府は経度 (longitude) の正確な測 定方法を開発する人に 2 万パウンドを賞金 労働者 1 人当たり人的資本を表わす. • 技術改善は,前と同じ物的・人的資本の量を組み合わ せてより多くの生産ができるようなることを意味する. • 技術変化の決定的側面は,収穫逓減が果たして制限を 超越できるようにすることである. • 2006 年アメリカ研究開発 (R&D) の 31% は政府がス ポンサー (生産的な用途 (productive appications) で はなく軍事的な用途 (military appications) • インタネットも政府の後援による 第 8 章 成長における技術の役割 2 • 資本不足 → 新しい資本形成のために投資が必要 → 豊かな国から資本導入 → 豊かな国の所得 ↓,貧しい 国の所得 ↑ 技術保護 政府が R&D を援助する最も重要なものは投資家にその 仕事の模倣を防ぐ法的保護を特許権として与えられること である. 技術の場合: 非競合性 • 特許 (partent) 政府が発明者に単独に製造する権利, • 技術不足 → 技術水準が高い国から技術移転 → 技術 水準が高い国の所得 ↓ (×),貧しい国の所得 ↑ 利用する権利,売る権利を一定期間の間保障するもの (一般的に 20 年). ■ 特許権,営業秘密,ターミネーター遺伝子 • 1474 年のベニスの特許法 (Venice’s patent law of 非排除性 1474) • 排除性 (excludability) (財や生産の投入要素の) 所有 者が他人が許可なく利用することを防ぐことができる – もし偉大な天賦の才能を持つ人によって発 明された仕事や工夫に,その発明を見た他 程度. の人々がそれらを作ったり発明家の名誉を アイディアはしばしば非排除的である.その性質はその 横取りしたりしてしまうことがないように 条件が付けられたら,(中略) より多くの人 ものが他人の使用を妨げることを難しくしている. が発明家の才を利用するようになり,わが しばしば非排除性のゆえに,新しい技術は創出した人は 国に大きな効用をもたらす作品を作るよう その創出による利益をほとんど手にすることができなくな になるだろう. る.この事実は技術を創造する誘因を減少させている. • アメリカ合衆国の憲法 – 科学の進歩と有用な技能を促進するために, 著者と発明家がその著作と発見に関した占 有権を有限な期間につき保証するような立 8.1.3 研究開発費の決定要因 研究開発費の大半は民間企業が支出する. 法を許す権限を持つことを認める. • 品質改善 • アメリカ特許局は 2006 年に 196,436 件を許可 した. • 費用削減 • コカコーラ • モンサント株式会社 (Monsanto Corporation) – モンサント社は第 1 年目の作物には正常に伸 びるが,その種は実を付けないことが保障さ 利潤動機,利潤志向 (1) 何を開発 れた”ターミネーター (Terminator Gene)” 技術を開発する. 研究開発を行う企業 • 新製品 8.1.2 技術移転 • 今ある製品の新しくもっと効率的な製造方法 非競合的 • 競合的 (rival) 同時に 1 つの生産的活動に使われるこ としかできない性質を持っている投入要素の性質. (2) インセンティブ • 非競合的 (nonrival) 技術のように,ある生産者が使う 開発に成功すると 程度を減らすことなく同時に無数の生産者が利用でき る投入要素. 資本の場合: 競合性 } 独占的地位を確保 競争優位から発生する超過利潤 ← 研究開発を行うインセンティブ 第 8 章 成長における技術の役割 (3) 研究開発の量 1. 企業は R&D に支出したいと望む金額は新発明がどれ だけの利点を生むかに依存している. • 特許など,複製からの保護 → 研究開発 ↑ 2. その製品を販売できる市場の規模に影響を受けるだ ろう. 3 8.2.1 1 国モデル 労働人口 • LY : 産出物の生産に参加する労働者 • LA : 新しい技術の創造に参加する労働者 • L: 経済活動人口 • 市場の規模 ↑ → 研究開発 ↑ 3. 企業は新発明からもたらされる利点がどれだけ長く続 くかを考慮するであろう. L = LY + LA 式 (8.2) の両辺を L で割ると • 持続性 ↑ → 研究開発 ↑ 1= LY LA + L L |{z} |{z} 1−γA 4. 研究過程の不確実性は企業の R&D に影響するだろう. • 不確実性 ↓ → 研究開発 ↑ 研究開発に参加する経済活動人口の比率 γA とする. LA L LA = γA L 創造的破壊 シュンペーターは,新発明が企業に利益をもたらし,その された新技術は,結局はさらに新しい技術によって更新され ていく,このプロセスに創造的破壊 (creative destruction) という名称を与えた. (8.3) γA γA = 利益が研究に従事する誘因となり,さらにそうして作り出 (8.2) (8.4) 産出物の生産に参加する経済活動人口の比率は (1 − γA ) となる. LY L 産出物の生産に参加する労働者数は 1 − γA = LY = (1 − γA )L • 創造的破壊: 新しい発明がある企業には利益をもたら (8.5) (8.6) すが,他には事業からの退出をもたらす過程. 新しい技術の創造により, • 新技術を創造した企業 → 利潤 ↑ • 新技術によって退出される企業も出てくる Luddites (技術革新反対者,ラダイト): 19 世紀初,労働 者に代わる製織機械 (weaving machinery) を破壊したとさ れる労働者. • 技術変化は極めて破壊的であるから技術変化を促進す るような経済組織を設立することは微妙な事業である. 生産 産出物の生産に投入される要素は労働者のみであると仮 定する.総産出量は産出物の生産に投入された労働者と生 産性の積である. Y = |{z} A LY |{z} |{z} 産出量 (8.7) 生産性 生産要素 式 (8.6) と式 (8.7) から総産出量は (1 − γA )L | {z } Y =A (8.8) 産出物の生産に参加する労働者数 • 経済組織は動機を正しく受け取るとは限らないので, 新技術の採用はしばしば妨げられる. 労働者 1 人当たり産出量 式 (8.8) の両辺を L で割ると 8.2 技術の創出と成長の関係をモデル化 する 技術と成長に関する 2 つのモデルを学ぶ. • 1 国モデル (One-Country Model) • 2 国モデル (Two-Country Model) Y = A(1 − γA ) L y = A(1 − γA ) (8.9) • 生産性 A ↑ → 労働者 1 人当たり産出量 ↑ • 研究開発に参加する経済活動人口の比率 γA ↓ → 労 働者 1 人当たり産出量 ↑ 第 8 章 成長における技術の役割 4 • 研究開発に参加する人が少ない → 産出物の生産に参 加する人が多い 動学 γA の増加 • しかし,現在研究開発に参加する人が少ない → 将来 の生産性 ↓ → 将来の産出量 ↓ 1. 式 (8.13) から • 産出量 y の増加率 (つまり ŷ) ↑ • かつ,技術水準 A の増加率 (つまり Â) ↑ 新技術創造 技術は式 (8.10) のように進歩するとする.  = LA µ 2. 式 (8.9) から • γA ↑ → 産出量 y ↓ (8.10) • LA は研究開発に参加する労働者数 Figure 1 労働の R&D への移動効果 • µ は新しい発明のために必要な労働者数 – 一種の技術の価格 – µ が大きいほど技術進歩のために必要な研究開発 人力がより必要となる. • LA ↑ →  ↑ • (a) 生産性の経路 • µ ↓ →  ↑ – 横軸: 時間 式 (8.4) を式 (8.10) に代入すると  = γA L µ – 縦軸: 生産性 (対数目盛,比例目盛)1 (8.11) • (b) 労働者 1 人当たり生産量の経路 – 横軸: 時間 労働者 1 人当たり産出量の成長 – 縦軸: 労働者 1 人当たり生産 (対数目盛,比例 目盛) 式 (8.9) から パネル (a) y = A(1 − γA ) ln y = ln A + ln(1 − γA ) ẏ Ȧ = +0 y A • γA ↑ → 生産性の増加率  ↑ (8.12) パネル (b) ŷ =  • γA ↑ → y の傾き (=ŷ=y の成長率) ↑ 式 (8.12) と式 (8.10) から γA L ŷ =  = µ (8.13) • 研究開発に参加する人口の比率 (γA ) が高いほど産出 量の増加率も高い – γA ↑ → ŷ ↑ • γA ↑ → 直後 (immediately) y ↓ → その後 y は回復 → 以前より高い y 水準 短期と長期 多くの資源を R&D に配分する国は短期的には生産量は 減少するが,長期では豊かになる. • 新しい技術の発明費用 (µ) が小さいほど産出量の成長 率は高い – µ ↓ → ŷ ↑ 1 一定率で成長する変数は,比例目盛では直線になる. • 短期: 生産量 ↓ • 長期: 生産量 ↑ 第 8 章 成長における技術の役割 物的資本との比較 R&D に多くを費やすと短期の生産量は減らすが,長期で はそれを引き上げるという結論は,物的資本への投資に似 ている.(第 3 章を参照のこと) 5 8.2.2 2 国モデル • 技術革新 (innovation) 技術の発明 • 模倣 (imitation) 技術のコピー,特に他の国から 投資率 γ の増加と研究開発に参加する人口の比率 γA の 基本仮定 増加 • 国 1 と国 2 (1) 類似点: ソロー・モデル • 経済活動人口の規模は等しい • 投資を増やすために,短期的に消費 ↓ • 投資 ↑ → 資本 ↑ → 生産 ↑ → 長期的に消費 ↑ L1 = L2 = L (8.14) A1 ̸= A2 (8.15) • 技術水準は異なる (2) 相違点 相違点 • 投資の増加が産出量増加率に与える影響は一時的であ 労働者 1 人当たり産出量 • 国 1 の労働者 1 人当たり産出量 y1 = A1 (1 − γA,1 ) る.成長効果無し • 研究開発の増加が産出量増加率に与える影響は恒久的 である.成長効果有り 人口規模と技術向上 (8.16) • 国 2 の労働者 1 人当たり産出量 y2 = A2 (1 − γA,2 ) (8.17) ここで,γA,1 と γA,2 はそれぞれ国 1 と国 2 で研究開発で従 事する経済活動人口の比率 µ と γA が一定であるとすると,式 (8.13) から, • 経済活動人口 L が大きいほど技術進歩率  も高い. – L ↑ →  ↑ • 両国において研究開発に参加する経済活動人口比率が 同じであるとすると人口が多い国の方が研究開発に参 リーダーとフォロワー (1) 技術リーダー • 技術先導者 (technology leader): 国 1 • リーダーは発明によって新技術を獲得する. 加する人数が多い • 多い人が研究開発に参加するほど新しい技術が開発さ れる可能性が高い • よって,人口が多い国の方が技術進歩が速い このモデルの問題点と解釈 このような所見は,長い目で見ると人口が多い国は少な い国よりも技術水準も高く,それゆえに豊かでもあること (2) 技術フォロワー • 技術追随者 (technology follower): 国 2 • 発明と模倣 技術開発費用 もし,ある技術が先導国に存在しているなら,自分でそ の技術を再開発するより模倣した方が費用は少ない. を示唆している.しかし,この予測はデータからは正しい とはいえない.人口が多い国が経済の成長速度が速いとか 研究開発で参加する経済活動人口の比率 系統的に豊かであるという証拠はない. このモデルの失敗の解釈は,国の技術水準は R&D に依 存するが,それは国境内だけでなく海外でも該当する.技 術は国境を越えて広がる. 個々の国レベルよりも地球的規模で見たとき,より大き な人口はより高い技術進歩を意味する. γA,1 > γA,2 (8.18) この仮定は (国々が同一規模の労働力であると仮定ととも に),モデルの定常状態で国 1 が技術リーダーで,国 2 が技 術フォロワーであることを保証している. 第 8 章 成長における技術の役割 6 国 1 における新技術創造過程 国 2 における新技術創造過程 技術リーダー (technology leader) における新技術創造 技術フォロワー (technology follower) における新技術創 過程 γA,1 L1 Â1 = µi ここで,µi は発明費用 造過程 (8.19) Â2 = 国 2 の模倣費用 模倣を通して新技術を獲得する費用を µc とする. • A1 A2 ↑ → µc ↓ → Â2 ↑ • A1 A2 ↓ → µc ↑ → Â2 ↓ • Figure 3 で Â2 は横軸 • 技術格差が大きいほど模倣費用 ↓ Â2 = 模倣費用仮定の正当性 • Â1 は横軸 • 1 つの正当化は,すべての技術はどれも容易に真似で A1 A2 γA,2 L2 µc A1 A2 (8.21) に対して右上がり γA,2 γA,2 L2 = ( ) L2 µc 1 c A A2 と無関係 → 水平線 Â1 = きるものではなく,リーダーとフォロワーとの差が大 γA,1 L1 µi きいほど,より簡単に模倣できる技術が利用できるの でコストが低くなることである. 定常状態 • あるいは,模倣コストに影響するものは新技術が発 明されてからの時間である.ゆえにフォロワーがリー ダーに後れをとると,それだけフォロワーが模倣し Figure 3 2 国モデルの定常状態 たいと思う技術は古くなっていく.ゆえに模倣もやさ しい. 数式的に定式化 (A ) 1 µc = c A2 • 横軸: (8.20) 1. If 1. この勾配は右下がりである.つまり,2 国の技術ギャッ プが大きくなるにつれて模倣コストは低下する. 2. 2. If の比率が無限に近づくにつれて模倣コストはゼロ A1 A2 いくとすれば,模倣は費用なしで可能になる. A1 A2 = 1,技術水準の成長は国 1 で速い A1 A2 = ∞,技術水準の成長は国 2 で速い • なぜならば,国 2 における新技術創造 (模倣) 費 用は 0 に下がっていく.技術ギャップが無限に大きくなって 3. 技術進歩率  • なぜならば,γA,1 > γA,2 模倣コスト関数 A1 A2 A1 A2 A1 A2 ,縦軸: の比率が 1 と無限大の間に入るどこかの比率で,2 国 は同率の A の成長率を持つことになり,2 国の技術水準は が 1 に近づくにつれて模倣コストは発明コストに 一定に留まる.これは定常状態である. 近づく.フォロワーがリーダーに近くなると,自分で 発明するよりも模倣による利益は少なくなってしまう. Figure 2 追随国の模倣コスト 定常状態の安定性 1 1. A A2 SS の右側 • If ↓ 2. • 横軸: A1 A2 ,縦軸: 模倣費用 A1 A2 SS A1 A2 > A1 A2 SS → A2 が A1 より増加が速い → A1 A2 A1 A2 SS → A1 が A2 より増加が速い → A1 A2 の右側 • If ↑ A1 A2 < • この定常状態は安定的である. 第 8 章 成長における技術の役割 7 定常状態における技術水準 (2) 生産性と生産量のパスの変化 γA,1 γA,2 L = Â1 = Â2 = L µi µc (8.22) Figure 4 追随国の R&D の増加が定常状態に与える効果 定常状態における模倣費用 式 (8.22) から模倣費用 µc は γA,2 µi γA,1 µc γA,2 = µi γA,1 µc = • 横軸: (8.23) γA,2 µc L2 ,γA,2 Â2 = γ 国 2 の R&D が国 1 の半分 (つまり, γA,2 = 12 ) とすると A,1 国 2 の技術模倣費用は国 1 の新技術開発費用の半分 (つま り, µµci = 12 ) A1 A2 ,縦軸: 技術の成長率  の増加 • Â2 曲線が上にシフト ← 国 2 の技術の成長率 ↑ • Old 定常状態における る A1 A2 SS A1 A2 SS > New 定常状態におけ • 両国間の技術格差 ↓ 定常状態における技術水準の比率 定常状態における µc が分かれば両国の技術水準の比率 A1 A2 Figure 5 γA,2 の増加が生産性と生産に与える影響 が求められる. 両国の労働者 1 人当たり所得 技術リーダーは技術フォロワーより必ず豊かなのか? 技術リーダーの場合 • 生産性は高い • 研究開発に従事する人が多い → 財の生産に参加する 人は少ない. 答えは No.模倣費用による. • (a) 生産性の経路 – 横軸: 時間,縦軸: 生産性 A (ratio scale) – 短期: 2 国の生産性 A2 増加率 ↑ – 長期: 2 国の生産性 A2 増加率は元水準に戻る – 技術フォロワー国 2 の定常的技術進歩率は,技 術リーダー国 1 の技術進歩率で決定されるから • 模倣費用 µc が高い場合 • 模倣費用 µc が安い場合 である. • (b) 労働者 1 人当たり生産量の経路 – 横軸: 時間,縦軸: 労働者 1 人当たり産出量 y (ratio scale) 政策 (1) シナリオ • 両国は定常状態にある • γA,1 > γA,2 • 2 国で γA,2 増加,しかし,γA,1 > γA,2 – 短期: 2 国の生産水準 y2 ↓, ∵ 生産従事者数 ↓ – R&D 努力の増加は A2 の成長促進になり,こう して y2 び成長は高くなる. – 2 国の成長は一時的には高い. 1 – いったん A A2 の新しい定常状態の比率に到達する と,国 2 の成長は γA,2 の変化以前の水準に戻っ てしまう. 第 8 章 成長における技術の役割 8 (3) モデル 1 との比較 中立的技術進歩 技術フォロワー国 2 の R&D の増加は生産量の成長率の一 生産関数 時的な (temporary) 上昇を引き起こすという論証は 1 国モ y = Ak α デルの結果 – そこでは,R&D の増加が成長の永続的 (per- manent) 増加を引き起こすという結果と際立った対比をな している. (8.24) Figure 6 中立的技術進歩 (4) 政策変化の結果 政策の変化 (γA,2 の増加) は • 産出量の増加率に一時的な変化をもたらす • しかし,結局には産出量の増加率は元の水準にもどる. • 横軸: 労働者 1 人当たり物的資本 • 産出量水準は恒久的な変化 • 縦軸: 労働者 1 人当たり産出量 先進国の benefit ↑ 技術進歩 → 発展途上国の benefit ↑ 一般的な教訓 すべての技術において technology leader • 19 世紀初のイギリス • 第 2 次世界大戦直後のアメリカ 資本偏向型技術進歩 しかし,現代世界では技術的優越性の多くは拡散しており, 多くの国は “技術的フロンティア (technological frontier)” Figure 7 資本に偏った技術進歩 でひしめき合っていて,さまざまな産業でさまざまな国が 先導している. ある国の R&D 支出の増加は 2 つの効果を持つ. 1. R&D 支出の増加は世界の技術的順位を上げ,国内の 技術と所得の一時的な成長をもたらす. 2. ある国での R&D の増加は世界全体の技術成長をより 促進することになる. ■ 国際間技術移転 8.3 • 横軸: 労働者 1 人当たり物的資本 国際間技術移転の障害 • 縦軸: 労働者 1 人当たり産出量 先進国の benefit ↑ 技術進歩 → 発展途上国の benefit× 研究開発はほとんど先進国で行われている.2000 年 1 人 技術移転 • 先進国から先進国: 容易 • 先進国から発展途上国: 容易ではない 当たり R&D 支出額 • アメリカ 932 ドル • 日本 775 ドル 8.3.1 適切な技術 適切な技術 • 先進国から先進国: 特許 • 先進国から発展途上国: 技術自体が適切ではない • 南アメリカ 42 ドル • アフリカ 6 ドル • アフリカ 世界人口の 13.3% に対して,世界 R&D 支 出の 0.6% 第 8 章 成長における技術の役割 世界の生産関数 9 8.5 基本用語 • Kumar and Russell (2002) • patent (特許) • Technological Change, Technological Catch-up, and • rival (inputs into production) (競合的生産要素) Capital Deepening: Relative Contributions to Growth and Convergence, American Economic Review, Vol.92, No.3, pp.527-548. • 世界の生産関数 (World production frontier) • nonrival (inputs into production) (非競合的生産要素) • excludability (排除性) • creative destruction (創造的破壊) • innovation (革新) 先進国の R&D 実験室がなぜ発展途上国が使える技術を開 発しないのか? 発展途上国では新技術に対する財産権 (property rights to new technology) の保護されない場合が多い. → インセンティブ ↓ 8.3.2 • imitation (模倣) • tacit knowledge (暗黙的知識) • embodied technological progress (体化した技術進歩) • leapfrogging (カエル跳び) 暗黙の知識 8.6 • 暗黙的知識 (tacit knowledge) 経験や人から人へイン フォーマルな訓練によって伝えられる生産過程につい 問題 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7 ての知識 暗黙的知識の存在 → 技術移転が難しい 8.7 付録: 技術進歩を含むソロー・モデ ルの統合 • 先進国から先進国: 容易 • 先進国から発展途上国: 難しい 8.7.1 • 暗黙的知識は特定技術だけではなく,類似した技術に 生産関数 も適用される Model コブ・ダグラス生産関数を仮定する. • ある技術が発展途上国へ移転されれば,その外部効果 は大きいだろう. Y = AK α L1−α (8.25) Y は産出量,A は生産性,K は物的資本,L は労働である. 8.4 結論 生産性 ⋆ memo A が時間とともに増加する場合を考える.A の成長率を  で表わすことにする. 生産性の尺度 (A) を次のように変形し,新しい変数 e を 定義する. 1 e = A 1−α ■ 体化した技術進歩とカエル跳び的発展 • 体化された技術進歩 (embodied technological progress) 新しい技術が新しい資本に組み込まれ ないかぎり,新しい技術が実際に使われない状況 • カエル跳び (leapfrogging) 技術的遅れた国や企業 が先導者を飛び越える過程 or e1−α = A 生産関数は次のように書ける. Y = e1−α K α L1−α = K α (eL)1−α (8.26) (8.27) 技術水準と関係がある変数 e は労働者 1 人当たり効率性 を測定するものと考えられる. } e の増加 → 産出量に対しての効果は等しい L の増加 第 8 章 成長における技術の役割 10 効率単位労働投入当たり 経済活動人口の増加率 (L̂) を 0 と仮定すると, eL は効率単位で表示した労働投入量である. ˙ k̃ = γ ỹ − (ê + δ)k̃ 生産関数 (8.27) の両辺を eL で割って,産出量と資本を効 率単位労働投入当たりの量 (per-effective-worker terms) で = γ k̃ α − (ê + δ)k̃ 表記する. • 効率単位労働投入当たり産出量 = ỹ = Y eL • 効率単位労働投入当たり資本量 = k̃ = K eL (8.33) この式から直感的に読み取れるのは実際の労働者 1 人当 たりの有効労働者数の成長 ê は第 4 章でのソロー・モデル で演じた人口成長と同じ枠割りを果たしていることである. 今 1 ついうと,ê が大きいときは,有効労働者 1 人当たり資 本量が希釈されることになる. 生産関数 効率単位労働投入当たりで表記した生産関数は ỹ = k̃ α Y = K α (eL)1−α ( K )α ( eL )1−α Y = (eL)α (eL)1−α eL eL ( K )α Y = eL eL ( ) Y K α = eL eL ỹ = k̃ α (8.28) 8.7.2 定常状態 効率単位労働投入当たり資本量の成長率を 0 とし,(つま ˙ り,k̃ = 0 とし) 定常状態を求める. α 0 = γ k̃SS − (ê + δ)k̃SS (8.34) (8.29) 定常状態における効率単位労働投入当たり資本量 式 (8.34) を k̃SS に対して解くと, k̃SS = 1 ( γ ) 1−α ê + δ (8.35) 資本量の動学 資本量の変化に関する式を導出するために,効率単位労 定常状態における効率単位労働投入当たり産出量 働投入当たり資本量の定義を時間に対して微分する. 式 (8.35) を式 (8.28) に代入すると ˙ d( K ) K̇eL − K (eL) ˙ k̃ = eL = dt (eL)2 K̇eL − L̇Ke − ėKL (eL)2 K̇ L̇ ( K ) ė ( K ) = − − eL L eL e eL L̇ K̇ ė − k̃ − k̃ = eL L e K̇ − (L̂ + ê)k̃ = eL α = ỹSS = k̃SS (8.36) 定常状態における効率単位労働投入当たり産出量は一定で = ある. (8.30) 総産出量 Y (8.37) eL なので,両辺に対数をとって時間に対して微分すると ỹ = 式 (8.30) に資本蓄積方程式 K̇ = γY − δK α ( γ ) 1−α ê + δ (8.31) ỹˆ = Ŷ − ê − L̂ を代入する.ここで γ は資本投資の総産出量に対する比率, δ は減価償却率である. (8.38) 経済活動人口 L は一定であると仮定しているので (つまり, L̂ = 0) 式 (8.38) は ˙ k̃ ˙ k̃ γY − δK − (L̂ + ê)k̃ = eL Y K =γ −δ − (L̂ + ê)k̃ eL eL ˙ k̃ = γ ỹ − δ k̃ − (L̂ + ê)k̃ ˙ k̃ = γ ỹ − (L̂ + ê + δ)k̃ Ŷ = ỹˆ + ê (8.39) となる.最後に定常状態では ỹˆ = 0 なので,式 (8.39) は (8.32) Ŷ = ê となる.総産出量は e と同じ速度で増加する. (8.40) 第 8 章 成長における技術の役割 11 式 (8.26) の両辺に対数をとって時間に対して微分すると ( 1 ) ln e = ln A 1−α (8.41) ( 1 ) ê =  1−α したがって,総産出量の増加率は ( 1 ) Ŷ =  1−α • 技術進歩の直後 – ∆ê ↑ → 総産出量の増加率 (1 − α)∆ê ↑ • 新しい定常状態に近づく – ỹˆ は 0 に近づく → 総産出量の増加率 ∆ê ↑ (8.42) – Ŷ = ỹˆ + ê + ∆ê = ê + ∆ê となる. 8.7.3 技術成長の変化の効果 (8.49) Figure 8 技術進歩向上の効果 式 (8.36) は定常状態における効率単位労働投入当たり産 出量を表す. 技術水準の増加率 ê の増加は定常状態における効率単位 労働投入当たり産出量を減少させる. 技術水準の増加率êの増加 効率単位労働投入当たり産出量の水準 ↓ → 労働者 1 人当たり産出量の水準 ↑ • 横軸: 時間,縦軸: 労働者 1 人当たり効率性 e (ratio scale) 技術進歩が加速化 → 労働者の効率性 e ↑ Ŷ = ỹˆ + |{z} ê |{z} |{z} (c) (a) • 横軸: 時間,縦軸: 効率単位労働投入当たり産出量 ỹ (ratio scale) (8.43) (b) 定常状態では ỹˆ = 0 である.定常状態にある経済の技術 進歩率 ê が増加する. • 横軸: 時間,縦軸: 総産出量 Y (ratio scale) • (追加) 横軸: 時間,縦軸: 労働者 1 人当たり産出量 y の成長率 (ratio scale) 1. ê の増加,つまり (b) ↑ による Ŷ の増加,つまり (c) ↑ 2. 短期では,ỹˆ の減少 (0 からマイナス),つまり (a) ↓ による Ŷ の減少,つまり (c) ↓ 1 と 2 どちらが大きいか ? 式 (8.33) の両辺を k̃ で割ると ˙ ˆ k̃ k̃ = = γ k̃ α−1 − (ê + δ) k̃ ŷ = ỹˆ + ê + ∆ê (8.44) は, (8.50) • 技術進歩の直後 ˆ k̃ = −∆ê ŷ = −α∆ê + ê + ∆ê = ê + (1 − α)∆ê ỹ = k̃ α (8.46) ˆ ỹˆ = αk̃ (8.51) ŷ = ê + (1 − α)∆ê • New 定常状態近傍 ˆ k̃ = 0 式 (8.45) を式 (8.46) に代入すると ỹˆ = −α∆ê ˆ = αk̃ + +ê + ∆ê (8.45) ˆ となる.ỹˆ と k̃ の関係は式 (8.28) から ln ỹ = α ln k̃ 労働者 1 人当たり産出量の増加率は (8.44) ˆ 定常状態では k̃ = 0.ê の増分を ∆ê とする.ê の上昇後,式 ˆ k̃ = −∆ê 補足 (8.47) ŷ = 0 + ê + ∆ê = ê + ∆ê したがって,総産出量の増加率は (8.52) ŷ = ê + ∆ê Ŷ = ỹˆ + ê + ∆ê = −α∆ê + ê + ∆ê = ê + (1 − α)∆ê (8.48) L̂ = 0 と仮定しているので,労働者 1 人当たり産出量の 増加率と総産出量の増加率は等しい.
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