離婚の財産分与への税金…離婚を使った相続税対策?

2002年8月26日
第413号
株式会社バード財産コンサルタンツ
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離婚の財産分与への税金…離婚を使った相続税対策?
財産に関していえば結婚は簡
単です。単に二人が財産を持ち
寄るだけですから。しかし離婚
は難しいもの。二人で築いてき
た財産を強引に二つに分割しま
すから。強引に二つに分けると
きにお金や財産が動きます。
慰謝料と財産分与
離婚に際して慰謝料は非課税
です。「心身に加えられた損害
について支払いを受ける相当の
見舞金」は原則非課税となって
います。だから離婚や離婚に至
る過程での心の傷への慰謝料に
は税金はかかりません。
さて問題は財産分与です。民
法では財産の名義にかかわらず
夫婦で築いた財産は夫婦の共有
財産であって、離婚に伴ってそ
れを清算するのは当然だ、とい
う考え方があります。
しかし税務ではそのような明
文規定のない考え方をそのまま
認めるわけにはいけません。夫
名義の財産を妻に移せば、そこ
は「贈与税課税」か「所得税課
税」が考えられます。
財産分与は「贈与」ではあり
ませんが、税法には一定の行為
について「贈与とみなす」とい
う規定があります。贈与税に関
する法令には財産分与について
明確な規定はありません。
ただ通達に「財産分与は贈与
により取得した財産とならない
ので留意するように。ただし脱
税目的で過大なものは贈与税を
課税するよ」と規定します。
つまり並みの財産分与なら贈
与税は課税されません。税法的
発想では贈与でないのなら所得
税と考えるのが普通です。たし
かに所得税上で財産分与を非課
税とする規定は存在しません。
しかし実務では財産分与に対
して所得税も課税されていませ
ん。税法において財産分与は超
法規的に非課税になっているの
です。もちろん財産分与に課税
したならば国民感情として収ま
らないでしょうから。
大口資産家であれば財産分与
は何億円にもなります。これが
非課税となってしまうのです。
無税で財産を移転する方法
離婚して財産分与をします。
これは非課税です。しばらくし
て焼けぼっくいに火がついて同
じ相手と再婚します。既に終わ
った財産分与で財産は既に配偶
者に移っています。
もう一回離婚して再婚したら
どうなるのか…。
通達では「脱税目的で過大な
ものは贈与税を課税する」とい
っていますが、離婚や結婚は心
の問題です。果たしてそんな課
税が出来るのでしょうか。
離婚非課税・相続課税
離婚で生き別れだと非課税で
す。しかし相続で死に別れだと
相続税課税です。もちろん相続
税には配偶者控除がありますの
でその分までは相続税は実質非
課税にはなりますが。
財産分与後に同じ相手と再婚
で戻った場合には相続財産総額
が大きく減ってしまいますから、
相続税計算の仕組みから配偶者
以外が納税する相続税額そのも
のが大きく減ってしまいます。
不動産の財産分与への譲渡税
現金で財産分与をするのなら
課税は生じません。しかし不動
産や株式など含み損益のある財
産を財産分与するなら税金に注
意しないといけません。
不動産を財産分与すると譲渡
税です。その不動産を時価1000
万円としましょう。この場合に
財産分与義務は金1000万円であ
り、不動産を1000万円で売却し
て現金1000万円を手にして、そ
の1000万円を相手に渡すことに
より財産分与義務を果たしたの
と同じ、と税務は考えます。
だから実際に売却していない
にもかかわらず、時価で売却し
たものとして譲渡税が課税され
ます。そして課税されるのは財
産分与を受ける側ではなく、渡
した側になります。
もちろんこのご時世は値下が
りマンションも多いですから、
この譲渡所得が赤字になること
も多いでしょう。そうするとそ
の赤字と他の給与所得等と損益
通算が出来れば、確定申告で税
金が還付されます。不動産デフ
レ下では離婚して財産分与をす
ると税金が還付されるのです。
バードレポートのホームページ……http://www.bird-net.co.jp/
2001年4月23日
第349号
バードレポート
このレポート第 349 号は、バードレポ
ート第 413 号(2002 年 8 月 26 日号)を
お読みの際の参考になさって下さい。
デフレ下で離婚し財産分与をすると税金が戻ってくる?
財産分与した側への課税
離婚での財産分与をすると税
金はどうなるでしょうか。
ここでは財産分与を受ける
のが妻とします。財産を受け取
る妻に課税されると思われがち
です。しかし違います。
夫名義の財産でも、夫婦の協
力で得た財産は夫婦共有財産と
考えます。財産分与はその共有
物を分割すると考えるので、妻
が贈与を受けたのでもなく妻に
所得があったのでもありません。
夫婦一緒に頑張って築いた財
産なら、名義にかかわらず、そ
の半分は妻のもの。そして、財
産分与とは、もともと妻のもの
を妻名義にするだけだから、税
金はかけないということです。
財産を分与する夫への税金は
どうでしょう。預金等「含み損
益」のない財産を分与するなら
夫には課税はありません。
ところが「含み損益」のある
財産、たとえば不動産で財産分
与をすると話が複雑になります。
時価 5000 万円の不動産を妻
に財産分与します。この不動産
の原価(減価償却を考慮した税
務上の取得費)が 3000 万円です。
この場合の夫から妻への財産
分与額は 5000 万円です。夫は
不動産を妻に渡すことで 5000
万円相当の財産分与義務という
債務を弁済すると考えます。
税務ではこれを 5000 万円で
の不動産の譲渡と考えます。つ
まり不動産を現金 5000 万円で
売却して、その現金を妻に渡し
たのと同じと考えるのです。
こうして夫は不動産を 5000
万円で売却したとして譲渡所得
税が課税されます。原価 3000
万円なら譲渡益 2000 万円です。
税金が離婚後の夫を追いかけま
す。夫は踏んだり蹴ったり・・・。
マイホームの財産分与なら…
ただしこの不動産がマイホー
ムであれば居住用財産を売却し
た場合の 3000 万円控除(譲渡益
3000 万円まで課税なしの特例)
が使えますので税金はかかりま
せん。なおこの特例は配偶者へ
マイホーム譲渡した場合は使え
ない特例ですが、離婚の翌日の
財産分与ならば、元妻であって
妻ではないので特例が使えます。
夫はホッとすることになります。
値下がりマイホームなら…
さてデフレのご時世、これが
値下がり不動産だとどうなるで
しょうか。この時価 5000 万円
のマイホームの原価が 7000 万
円だとします。値下がりしてい
ても税務では譲渡です。だから
譲渡所得は赤字 2000 万円です。
夫の通常の所得が 2000 万円
以下なら、財産分与年の所得は
この赤字 2000 万円と相殺され
て所得ゼロで税金ゼロです。サ
ラリーマンなら確定申告で源泉
徴収された税金は全額還付です。
離婚して財産分与したために
税金が還付となる、嬉しいよう
な悲しいような状況になります。
値下り苦と離婚苦とが重った夫
に税金だけはやさしいのです。
もっとも現実には値下がりマ
イホームのローンが邪魔します。
こんな財産分与もあります。
ローンの処理は難しい
時価 1500 万円・原価 3000 万
円・ローン残高 2000 万円の不
動産を妻が所有しています。離
婚に際して、夫はローン残高の
債務引き受けをして、不動産名
義も夫にしました。時価とロー
ンの差額 500 万円が夫から妻へ
の実質財産分与額となります。
この場合には妻がローン残高
2000 万 円 の 債 務 引 受 で 原 価
3000 万円の不動産を夫に売った
ことになり、妻の譲渡所得が赤
字 1000 万円です。この赤字は
妻の他の所得から引けます。
これは特殊な例にみえますが
違います。時価 3000 万円・原
価 6000 万円・ローン残高 4000
万円のマイホームが夫婦 2 分の
1 共有の場合で、マイホームも
ローンもすべてを夫が引き継い
で、妻がきれいさっぱりと出て
行く場合のことなのです。
値下り共有マンション解消型
離婚財産分与のひとつの形です。
値下りマンションのローン解
消は金融機関との話し合いが大
変です。また財産分与契約書の
表記の仕方(何をどのように財
産分与・債務引受・譲渡とする
か等)で課税関係も変わります。
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