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平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト
社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より
“Everyone a Changemaker: Social Entrepreneurship’s Ultimate Goal”
(「誰もが変革者である―ソーシャル・アントレプレナーシップの究極の目的」
)
By William Drayton
Innovations: Technology, Governance, Globalization, Winter 2006, Vol.1, No.1, pp.80-96, MIT Press
論文レビュー
社会起業家研究ネットワーク CAC 広瀬大地
この論文は“Social Entrepreneur(ソーシャル・アントレプレナー)
”を認定、支援する Ashoka
(アショカ)という組織を創設した Bill(William)Drayton(ビル・ドレイトン)が MIT Press
出版の Innovations ジャーナルに寄稿したものである。
Ashoka、および Bill Drayton が定義する「ソーシャル・アントレプレナー」は社会のシス
テムや国の政策までも変えてしまうような事業を生み出す、「非常に限られた種」(ドレイ
トンは Rare Breed と言っている)である。そしてその貴重な人材の周りにいて、彼らを支
援、協働する人物、つまりソーシャル・アントレプレナー予備軍をチェンジメーカー
(Changemaker)として呼称している。この論文はソーシャル・アントレプレナーのそばに
つき、社会変革を夢見、支援するチェンジメーカー達にスポットライトを当てたものであ
る。
本論は「イントロダクション」、
「Everyone a Changemaker」、
「Transforming the Youth Years」、
「NEEDED: New Social Financial Services」、
「Where We Are Going」の 5 部で構成されている。
イントロダクションではアショカが認定したソーシャル・アントレプレナーである Rodrigo
Baggio を主に取り上げ、彼がブラジルのスラム街の子ども達に提供する IT 教育事業が、い
かにブラジルの地域を変革させたか、Baggio がソーシャル・アントレプレナーとしてどの
ような姿勢で社会変革事業に取り組んだかを紹介している。そしてイントロの最後にドレ
イトンは「自分は社会を変えることができる、と信じる者を増やすことが必要だ」と結論
づける。
「Everyone a Changemaker」の章では、ソーシャル・アントレプレナーとチェンジメーカ
ーの増加により、市民セクターにおける生産性(Productivity)の向上の必要性を論じている。
ローマ時代にさかのぼり西洋の歴史の流れの中での社会変革の流れを説明し、資本主義
がビジネスの生産性の向上につながっており、次は市民セクターが生産性を向上させる番
だと述べている。そしてその生産性向上の担い手となるチェンジメーカー出現が必要だと
結論づける。
次の章「Transforming the Youth Years」では、チェンジメーカーになりうる可能性が最もあ
る者は若者であり、彼らを社会変革の担い手として育てることが重要だと説く。彼らのポ
テンシャルと才能を認め社会に積極的に関わらせることで、社会の諸問題の解決能力やコ
ラボレーション能力が、また、自信をつけさせることで、社会変革のイニシアティブを執
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平成 18 年度内閣府経済社会総合研究所 イノベーション国際共同研究プロジェクト
社会イノベーション研究会「Social Enterprise / Social Entrepreneurship 関連文献レビュー集」より
る者が生まれてくるとしている。アショカが Youth Venture24と共同で行う若者支援プロジェ
クトの紹介もされている。
「NEEDED: New Social Financial Services」はソーシャル・アントレプレナーやチェンジメ
ーカー達が行う事業に対して、金銭面で支援する金融サービスの必要性を説いている。営
利の金融ビジネスは市民セクターを顧客として考えていない、政府や財団による官僚的な
助成は社会変革事業をカバーしていない、というような現状がある。しかし今後、社会変
革事業は、ビジネスとしても社会貢献としても非常に大きなマーケットになるとドレイト
ンは予想し、企業や政府、財団などが社会起業を支援するサービスを作る重要性を説いて
いる。
ドレイトンは、そのような時代に対応できるよう、営利企業、政府、財団、ソーシャル・
アントレプレナーが共同して社会貢献とビジネスの“Hybrid Value-added chain”を考えるこ
とが重要とし、マイクロファイナンスや SRI などの潮流をさらに推し進め、上記の 4 種の
経済主体がますます緊密に接するべきと結論づける。
最終章「Where We Are Going」では、少数のエリートが社会を動かす時代は終焉し、これ
からはすべての人が「社会変革者」になりうる(“Everyone a Changemaker”)として、その
担い手となる若者と金融サービスの重要性を改めて確認し、結論としている。
筆者について
Bill Drayton は“Ashoka Fellow”と呼ばれるソーシャル・アントレプレナーを認定し、金
銭的支援を行う Ashoka の創立者。
「ソーシャル・アントレプレナー」という言葉を初めて
世に出した人物。ハーバード大学を卒業後、オックスフォード大学で修士号を取得。その
後イェール大学ロースクールに入り、卒業後はマッキンゼーに入社。カーター政権時代に
環境省で排出権取引の立ち上げに関わる。スタンフォード大学ロースクール教授、ハーバ
ード大学ケネディスクール教授も務める。
以上
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さまざまな社会的課題に取り組むためにビジネスや市民団体、非公式のプログラムなどを立
ち上げようとする若者を支援する組織として、1996 年、ドレイトンを中心に創設された。
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