膵癌取扱い規約 - 日本膵臓学会 JPS:Japan Pancreas Society

膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
膵癌取扱い規約
2009 年 4 月【第 6 版】
General Rules for the Study of Pancreatic Cancer
April 2009
(The 6th Edition)
Japan Pancreas Society
日本膵臓学会/編
金原出版株式会社
-1-
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
目
次
I.緒言(目的および対象を含む)
1
II.記載法の原則
2
III.所見の記載法
3
1.原発巣の記載
3
1)腫瘍占居部位
3
2)病巣の数と大きさ
4
3)肉眼型分類
5
4)膵局所進展度
5
2.転移の記載
7
1)リンパ節転移
7
2)遠隔転移
10
3.進行度
11
IV.外科的治療
12
1.手術の種類
12
2.膵切除術式の記載
12
1)切除術式の種類
12
2)合併切除臓器
12
3)再建術式の種類
12
3.切除断端および剥離面における癌浸潤の有無の判定
13
1)膵切除断端(PCM)
13
2)胆管切除断端(BCM)
13
3)膵周囲剥離面(DPM)
13
4.リンパ節郭清度の分類
13
5.局所癌遺残度の評価
13
V.治療成績
14
1.患者数
14
2.予後調査
14
3.死因
14
4.再発形式
14
5.生存率
14
VI.切除材料の取扱いと検索方法
15
1.切除膵(または摘出膵)の取扱い
15
-2-
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
2.切り出し方法
17
1)膵頭十二指腸切除標本の場合
17
2)体尾部切除標本の場合
17
3)膵全摘標本の場合
17
VII.膵腫瘍の組織所見
20
1.膵腫瘍の組織型分類
附
20
[1]上皮性腫瘍
20
[2]非上皮性腫瘍
21
2.癌の間質量
21
3.癌の浸潤増殖様式
21
4.リンパ管侵襲
21
5.静脈侵襲
22
6.膵内神経浸潤
22
7.主膵管内進展
22
8.組織学的分類の説明
23
[1]上皮性腫瘍
23
[2]非上皮性腫瘍
29
図
30
30
外分泌腫瘍
漿液性嚢胞腫瘍
30
粘液性嚢胞腫瘍
31
膵管内腫瘍
33
異型過形成
38
上皮内癌
39
浸潤性膵管癌
40
腺房細胞腫瘍
47
内分泌腫瘍
48
分化方向の不明な上皮性腫瘍
50
膵管上皮の過形成,化生など
52
付.TNM 分類(UICC)
-3-
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I.緒言(目的および対象を含む)
膵癌取扱い規約は,1980 年に第 1 版が発刊され,1993 年に UICC の TNM 分類(第 4 版)
を取り入れて本邦独自の規約第 4 版が作成され,さらにこれを基に 1996 年には英語版第 1
版が発刊された。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
II.記載法の原則
所見を示す T(主腫瘍局所進展度),N(リンパ節転移),M(遠隔転移)などはすべて大
文字で表記する。それらの程度は,所見記号の後に大文字のアラビア数字で示し,不明の
場合は X を用いる。進行度分類(Stage)は T,N,M の所見の組み合わせにより決定され
る。診断時期による所見,すなわち臨床所見(clinical findings),手術所見(surgical findings),
病理所見(pathological findings)および総合所見(final findings)は,小文字の c,s,p,f を所
見記号の前に付けて表す。ただし,final findings を示す小文字 f は省略することができる。
記載例:pT3,pN1,sM0,f Stage III(f は省略可能)
膵局所進展度を表す CH,DU,S,RP,PV,A,PL,OO(p.5 参照)についても以下の
様に記載する:pCH(+),pDU(+),pS(+),pRP(−),pPV(−),sA(−),pPL(+),
sOO(−)。
切除断端および剥離面における癌浸潤の有無の判定(p.13 参照)についても s,p を所見
記号の前に付けて以下の様に記載する:pPCM(−),pBCM(−),pDPM(+)。
表 1.記載法の原則
臨床所見
clinical findings
身体所見
画像所見
内視鏡診断
生検・細胞診
生化学的・生物学的検
査
その他(遺伝子学的検
査など)
手術所見
surgical findings
病理所見
pathological findings
術中所見(開腹)
術中画像診断
細胞診
迅速組織診
切除材料の病理所見
総合所見
final findings
臨床所見,手術所見,
または病理所見を総
合した所見
注)腹腔鏡検査の所見は臨床所見とするが,腹腔鏡下に切除を行って得られた所見は手術
所見とする.
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
III.所見の記載法
1.原発巣の記載
1)腫瘍占居部位
膵臓を解剖学的に 3 つの部位(portion)
(図 1)に分け,鉤状突起は膵頭部に含める。病
巣が隣接する 2 つの部位以上にまたがっている場合は,主な領域を先に書き,その次に浸
潤が及んでいる部位を書き加える。
記載例:Phb,Pbht
Ph
膵頭部
Pb
膵体部
Pt
膵尾部
PV
門脈
SMA
上腸間膜動脈
SMV
上腸間膜静脈
UP
鉤状突起
図 1.膵臓の部位(portion)
膵頭部と体部の境界は上腸間膜静脈・門脈の左側縁とする。
膵体部と尾部の境界は頭部を除いた尾側膵を 2 等分する線とする。
膵頸部(SMV・PV の前面)と鉤状突起は頭部に含める。
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2)病巣の数と大きさ
主病巣の最大径(cm)で腫瘍の大きさ(TS:tumor size)を記載する。これに基づき,
さらに次のごとく表示する。
TS1:2.0cm 以下(TS1≦2.0cm)
TS2:2.0cm を越え 4.0cm 以下(2.0cm<TS2≦4.0cm)
TS3:4.0cm を越え 6.0cm 以下(4.0cm<TS3≦6.0cm)
TS4:6.0cm を越える(TS4>6.0cm)
多発例については数およびそれぞれの部位と最大径を記載する。
嚢胞腺癌(腺腫内癌を含む)では嚢胞の最大径を,膵管内腺癌(腺腫内癌を含む。p.20
参照)の場合は主膵管内の最大進展距離(主膵管型),あるいは拡張膵管の大きさ(分枝型)
を記載し(図 2),それぞれが嚢胞腫瘍あるいは膵管内腫瘍の大きさであることを明記する。
また,浸潤部があるときは別に計測し上記の表示法に従う。
図 2.嚢胞腺癌および膵管内腺癌の大きさの計測
★を計る。
3)肉眼型分類
潜在型(masked type)
肉眼的に腫瘍の存在が明らかでないもの
結節型(nodular type)
境界明瞭な腫瘍
浸潤型(infiltrative type)
境界不明瞭な腫瘍で,周囲にび漫性に浸潤
嚢胞型(cystic type)
嚢胞腺癌のような腫瘍性嚢胞(充実性腫瘍の中心壊死によ
る二次性嚢胞や,腫瘍に随伴した貯留嚢胞,仮性嚢胞は除
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
く)
膵管拡張型(ductectatic type) 膵管拡張(粘液貯留などによる)が主体となる腫瘍
混合型(mixed type)
2 種類以上の肉眼型が混在するもの
分類不能(unclassifiable type) 上記のいずれにも分類できない
4)膵局所進展度
主病巣の膵局所進展度は T 分類で記載するが,さらに詳細には,局所進展度を表す CH,
DU,S,RP,PV,A,PL,OO の記号で記載できる。
Tis:非浸潤癌注 1
T1:腫瘍径が 2cm 以下で膵内に限局したもの注 2
T2:腫瘍径が 2cm を越え膵内に限局したもの
T3:癌の浸潤が膵内胆管(CH),十二指腸(DU),膵周囲組織(S,RP)のいずれかに
及ぶもの
T4:癌の浸潤が隣接する大血管注 3(PV,A),膵外神経叢(PL),他臓器注 4(OO)の
いずれかに及ぶもの
TX:膵局所進展度が評価できないもの
注 1:非浸潤性の粘液性嚢胞腺癌および膵管内乳頭粘液性腺癌,上皮内癌(carcinoma in situ)
などに相当する。
注 2:膵管内進展部分を含めた大きさが 2cm を越えていても膵管壁を越えた浸潤部がこの
条件を満たしていれば膵局所進展度は T1 とする。微小浸潤癌もここで扱う。
注 3:隣接する大血管とは門脈系(上腸間膜静脈,門脈,脾静脈),腹腔動脈,総肝動脈,
上腸間膜動脈,脾動脈である。
注 4:他臓器とは下大静脈,腎,腎静脈,副腎(規約第 4 版の RP3)および胃,大腸,脾
臓(規約第 4 版の S3)とする。
局所進展度因子の記載:
(1)膵内胆管浸潤
CH(−):なし
CH(+):あり CHX:判定不能
(2)十二指腸浸潤
DU(−):なし
DU(+):あり DUX:判定不能
(3)膵前方組織への浸潤
S(−):なし
S(+):あり
SX:判定不能
注:膵前方組織とは膵被膜,膵に接する大網,小網,結腸間膜を含む。
(4)膵後方組織への浸潤
RP(−):なし
注:膵後方組織とは膵後面結合織である。
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RP(+):あり
RPX:判定不能
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(5)門脈系への浸潤
PV(−):なし
PV(+):あり
PVX:判定不能
注:門脈系とは門脈(PVp),上腸間膜静脈(PVsm),脾静脈(PVsp)とする。
(6)動脈系への浸潤
A(−):なし
A(+):あり
AX:判定不能
注:動脈系とは総肝動脈(Ach),上腸間膜動脈(Asm),脾動脈(Asp),腹腔動脈
(Ace)とする。
(7)膵外神経叢浸潤
PL(−):なし
PL(+):あり
PLX:判定不能
注:PL(+)の場合は図 3 に従い具体的な浸潤部位を記載する。
(8)他臓器への浸潤
OO(−):なし
OO(+):あり OOX:判定不能
注:他臓器とは下大静脈,腎,腎静脈,副腎(規約第 4 版の RP3)および胃,大腸,
脾臓(規約第 4 版の S3)とする。
図 3a.膵神経叢(横断図)
図 3b.膵外神経叢
PL phI
膵頭神経叢第 I 部
PL phII 膵頭神経叢第 II 部
PL sma
上腸間膜動脈神経叢
PL cha
総肝動脈神経叢
PL hdl
肝十二指腸間膜内神経叢
PL spa
脾動脈神経叢
PL ce
腹腔神経
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2.転移の記載
1)リンパ節転移
(1)膵に関連するリンパ節の番号・名称・境界は表 2 および図 4
7 のように定義する。
(2)郭清の対象となるリンパ節群分類
本分類は通常の膵頭切除あるいは膵体尾部切除により含まれるリンパ節を 1 群とし,さ
らにリンパ流,リンパ節転移率および予後の成績に基づいて 2 群,3 群に区分する(表 3)。
なお 3 群以遠のリンパ節転移,あるいは群分類に入らないものは遠隔転移(M1)とする。
表 2.膵臓に関連したリンパ節の番号と名称
番号
1
2
3
4
5
6
7
8a
8p
9
10
11p
11d
12a
12p
名称
右噴門リンパ節
左噴門リンパ節
小弯リンパ節
大弯リンパ節
幽門上リンパ節
幽門下リンパ節
左胃動脈幹リンパ節
総肝動脈幹前上部リンパ節
総肝動脈幹後部リンパ節
腹腔動脈周囲リンパ節
脾門リンパ節
脾動脈幹近位リンパ節
脾動脈幹遠位リンパ節
肝動脈リンパ節
門脈リンパ節
12b
胆管リンパ節
番号
13a
13b
14p
14d
15
16a1
16a2
16b1
16b2
17a
17b
18
名称
上膵頭後部リンパ節
下膵頭後部リンパ節
上腸間膜動脈近位リンパ節
上腸間膜動脈遠位リンパ節
中結腸動脈周囲リンパ節
大動脈周囲リンパ節 a1
大動脈周囲リンパ節 a2
大動脈周囲リンパ節 b1
大動脈周囲リンパ節 b2
上膵頭前部リンパ節
下膵頭前部リンパ節
下膵リンパ節
注 1:14 番リンパ節は第 4 版では 14a,14b,14c,14d に分かれていたが,第 5 版では 14a
を近位リンパ節(14p)とし,その他は遠位リンパ節(14d)とした。なお,14p と
14d の境界は上腸間膜動脈根部と中結腸動脈起始部との間を二等分する部位とする。
注 2:第 4 版の 14v(上腸間膜静脈リンパ節)は 17b に含める。第 4 版の 12c(胆嚢管リン
パ節)は 12b に含める。
表 3.リンパ節群分類
頭部
1 群リンパ節 13a,13b,17a,17b
2 群リンパ節 6,8a,8p,12a,12b,12p,14p,14d
1,2,3,4,5,7,9,10,11p,11d,
3 群リンパ節
15,16a2,16b1,18
(3)リンパ節転移の程度
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体尾部
8a,8p,10,11p,11d,18
7,9,14p,14d,15
5,6,12a,12b,12p,13a,13b,
17a,17b,16a2,16b1
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N0:リンパ節転移(−)
N1:1 群リンパ節のみに転移(+)
N2:2 群リンパ節まで転移(+)
N3:3 群リンパ節まで転移(+)
NX:リンパ節転移の程度が不明
図 4.膵臓に関連したリンパ節番号
図 5.肝十二指腸間膜内リンパ節の部位と境界
右の図は左の図の A の部位における横断図を示す。
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
図 6.上腸間膜動脈リンパ節の部位と境界
図 7.大動脈周囲リンパ節の部位と境界
2)遠隔転移
M0:遠隔転移を認めない
M1:遠隔転移を認める
MX:遠隔転移の有無が不明
M1 のときはその部位を記載する。部位は次のように表記する。
腹膜(PER)
リンパ節( LYM) 肺(PUL)
胸膜(PLE)
骨(OSS)
骨髄(MAR)
皮膚(SKI)
副腎(ADR)
その他(OTH)
肝
(HEP)
脳(BRA)
注 1:リンパ節 N3 は M1 とする。
注 2: 腹腔細胞診(CY)は予後因子としての重要性について検討中である。
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3.進行度(Stage)(表 4)
表 4.進行度分類(Stage)
M0
N0
M1
N1
N2
Tis
0
T1
I
II
III
T2
II
III
III
T3
III
III
IVa
T4
N3
IVb
IVa
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IV.外科的治療
1.手術の種類
1)
手術の内容
膵切除術
姑息手術(胆管空腸吻合,胃空腸吻合によるバイパス術など)
その他の手術(試験開腹、審査腹腔鏡など)
2)
手術の到達法
開腹下
腹腔鏡補助下(Hand-Assisted Laparoscopic Surgery を含む)
腹腔鏡下
その他
2.膵切除術式の記載
1)切除術式の種類
膵頭切除
PHR: pancreatic head resection
膵頭十二指腸切除
PD: pancreaticoduodenectomy
幽門輪温存膵頭十二指腸切除
PPPD: pylorus-preserving PD
亜全胃温存膵頭十二指腸切除
SSPPD: subtotal stomach-preserving PD
十二指腸温存膵頭切除
DPPHR: duodenum-preserving PHR
膵頭十二指腸第 II 部切除
PHRSD:pancreatic head resection with segmental
duodenectomy
その他の膵頭切除
尾側膵切除
DP : distal pancreatectomy
尾部切除
DP(tail)
体尾部切除
DP(body-tail)
尾側膵亜全摘
DP(subtotal)
膵全摘 TP:total pancreatectomy
膵全摘
TP:total pancreatectomy
幽門輪温存膵全摘
脾温存膵全摘
PPTP:pylorus-preserving total pancreatectomy
spleen-preserving total pancreatectomy
幽門輪温存脾温存膵全摘 PPSPTP:pylorus-preserving spleen-preserving
total pancreatectomy
十二指腸温存膵全摘
duodenum-preserving total panceatectomy
全膵十二指腸第 II 部切除
TPSD:total pancreatectomy with segmental
duodenectomy
その他の膵全摘
中央切除
MP:middle pancreatectomy
部分切除
PR:partial resection
核出術
EN:enucleation
注:亜全摘(subtotal resection)とは膵の 2 部(portion)を越えた切除とする。
記載例:PD(subtotal),DP(subtotal)
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2)合併切除
十二指腸,胃,結腸,肝,脾,門脈系,動脈系などを合併切除した場合
は,その臓器名を記載する。
3)再建術式の種類
(1)PD,PPPD 後の再建術式
PD,PPPD 後の再建術式を,膵,胆管,胃のそれぞれと空腸との吻合を,空腸口側か
らの順位によって分類する。
I 型(PD−I, PPPD−I, SSPPD−I)
胆管,膵,胃の順に吻合
II 型(PD−II, PPPD−II, SSPPD−II)
膵,胆管,胃の順に吻合
III 型(PD−III, PPPD−III, SSPPD−III)
a.胃,膵,胆管の順に吻合
b.胃,胆管,膵の順に吻合
IV 型(PD−I V, PPPD−I V, SSPPD−IV)
その他の吻合
(2)膵再建法の種類
A) 膵空腸吻合
B)
膵胃吻合
C)
膵十二指腸吻合
D) 膵膵吻合
これらについては以下のごとく分類する
1.
粘膜・粘膜吻合法
2.
陥入法
3.
その他の吻合法
記載例:
PD- IIA- 1
PPPD- IVB- 2
DPPHR- C- 1
MP- A- 2
MP- D
3.切除断端および剥離面における癌浸潤の有無の判定
1)膵切除断端(pancreatic cut end margin:PCM)
PCM(−):癌浸潤を認めない
PCM(+):癌浸潤を認める
PCMX:癌浸潤が不明である
2)胆管切除断端(bile duct cut end margin:BCM)
BCM(−):癌浸潤を認めない
BCM(+):癌浸潤を認める
BCMX:癌浸潤が不明である
3)膵周囲剥離面(dissected peripancreatic tissue margin:DPM)
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DPM(−):癌浸潤を認めない
DPM(+):癌浸潤を認める
DPMX:癌浸潤が不明である
4.リンパ節郭清度の分類
D0:第 1 群リンパ節の郭清を行わないか,その郭清が不完全なもの
D1:第 1 群リンパ節のみの郭清を行ったもの
D2:第 1 群および第 2 群リンパ節の郭清を行ったもの
D3:第 1 群,第 2 群および第 3 群リンパ節の郭清を行ったもの
5.局所癌遺残度の評価
原 発 巣 を 含 め て 切 除 が 行 わ れ た 場 合 , そ の 肉 眼 的 , 組 織 学 的 な 局 所 癌 遺 残 ( residual
tumor:R)の状態を以下のごとく分類する。
R0:癌遺残を認めない
R1:病理組織学的検索で癌遺残を認める
R2:肉眼的に癌遺残を認める
RX:不明
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V.治療成績
1.患者数
1)入院症例総数
2)手術症例総数
3)非手術症例総数
4)切除症例総数
5)手術直接死亡*総数
6)術後在院死亡総数
*:手術直接死亡とは入院中,退院後を問わず,術後 30 日以内に死亡したものをさす。
2.予後調査
1)生存:生存確認年月日
2)死亡:死亡年月日
3)消息不明:最終生存確認年月日
3.死因
1)手術関連死:外科合併症による死亡,または外科合併症に伴って発症した疾患による
死亡
2)その他の治療関連死:化学療法や放射線療法などによる死亡
3)原病死
4)他病死:病名を記載する
5)事故死(自殺を含む)
6)死因不明
4.再発形式
1)残膵再発
2)膵床部(膵切除部)再発
3)腹膜再発
4)肝再発
5)肝以外の血行性再発
6)リンパ行性再発(膵床部以外)
7)再発形式不明
5.生存率
生 存 率 の 成 績 に は , 算 出 方 法 ( Kaplan − Meier 法 な ど ), 有 意 差 検 定 方 法 ( generalized
Wilcoxon 検定など)を記載するとともに,対象とした母集団の種類(手術例,切除例,化
学療法例など)および消息不明率を明記する。
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VI.切除材料の取扱いと検索方法
1.切除膵(または摘出膵)の取扱い
(1)摘出膵を腹側ならびに背側より肉眼的に観察する。この際,膵の被膜ならびに剥離
面への癌の浸潤の有無を調べる注。
注:癌の浸潤が被膜あるいは剥離面にある場合,あるいはその疑いがある場合には,
その場所の広がりと性状を記載し,かつ癌の浸潤が最も著しいと思われる部位に
ついて組織学的検索を行う。
(2)十二指腸の切開は,十二指腸の外側あるいは後壁で十二指腸の縦軸に沿って行い,
十二指腸主乳頭・副乳頭,十二指腸粘膜の状態を観察する(図 8)注。
注:十二指腸の両切断端を閉鎖し,ホルマリン液を注入固定後に切開する方法もある。
(3)総胆管や主膵管の検索は,固定前に開いて行う方法と,固定後に連続輪切り切片を
作製し割面を観察しながら行う方法とがある。前者の場合,一般には総胆管か主
膵管のどちらか一方を開け注 1,総胆管は後面から(図 9),主膵管は前面から開
ける。後者の総胆管あるいは膵管を開けないで固定する場合には,上皮の固定を
よくするために総胆管および主膵管にホルマリン液を注入することをすすめる注
2。
注 1:総胆管と主膵管の両方を開けると,標本の形がくずれて後にオリエンテーショ
ンがつかなくなることがある。
注 2:胆管上皮や膵管上皮は自家融解を起こしやすいので,できるだけ早期に固定す
る必要がある。このような配慮は,組織診断の難しい病変の検索のみならず,
種々の免疫組織化学的検索や遺伝子検索のためにも有用である。
図 8.十二指腸切開
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
図 9.膵内胆管切開方法(膵後面よりみた図)
2.切り出し方法
1)膵頭十二指腸切除標本の場合
十二指腸乳頭開口部を通る Kerckring 趨壁に平行する割面を起点とし,口側および肛門
側に約 5mm 間隔の連続組織片をつくる。その際,副乳頭を含む切片には,その中心部を
通る標本をつくる(図 10a−(1),図 10b)注。
注:十二指腸から膵頭部にいれる割は,必ずしも平行である必要はない。図 10a−(1)
下段のように総胆管や主膵管の輪切りが同時に観察しやすいように扇状に切るのも
一法である。
2)体尾部切除標本の場合
切除断端から 5mm 間隔で,膵の長軸に直角な組織片を連続してつくる(図 10a−(2),
図 10b)。
3)膵全摘標本の場合
1)と 2)を併用して行う。
注:切除標本の外観,割面は物差しなどを添えて写真撮影を行う。
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図 10a.膵頭十二指腸切除および尾側膵切除標本の切り出し方法
(1)膵頭十二指腸切除の場合
(2)尾側膵切除の場合
〈他の割面の入れ方〉
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
図 10b.膵頭十二指腸切除標本の切り出し方法(十二指腸側および前面からみた総胆管お
よび膵管との関係と,連続切片の割面を示す)
CBD
Common bile duct
MPD
Main pancreatic duct
APD
Duct of Santorini (accessory pancreatic duct)
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
3.腹腔細胞診の実施方法
癌の開腹直後に,腹水がある場合は腹水を,ない場合は生理食塩液 100 ml を静かに腹腔内に
注入し,Douglas 窩より洗浄液を採取して検査を行う。
腹水および洗浄液を遠沈する。
沈漬をスライドグラスに載せ,すりあわせ塗抹を行う。
染色法は Papanicoloau 染色,Giemsa 染色を基本として,必要があれば免疫染色を追加する。
- 22 -
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
VII.膵腫瘍の組織所見
1.膵腫瘍の組織型分類
[1] 上皮性腫瘍 Epithelial neoplasms
A. 外分泌腫瘍 Exocrine neoplasms
1.漿液性嚢胞腫瘍
Serous cystic neoplasms (SCNs)
a)漿液性嚢胞腺腫
Serous cystadenoma (SCA)
b)漿液性嚢胞腺癌
Serous cystadenocarcinoma (SCC)
2.粘液性嚢胞腫瘍
Mucinous cystic neoplasms (MCNs)
a)粘液性嚢胞腺腫
Mucinous cystadenoma (MCA)
b)粘液性嚢胞腺癌
Mucinous cystadenocarcinoma(MCC)
i)
非浸潤
ii)
微小浸潤
iii) 浸潤
non-invasive
minimally invasive
invasive
3.膵管内乳頭粘液性腫瘍
Intraductal papillary-mucinous neoplasms (IPMNs)*
a)膵管内乳頭粘液性腺腫
Intraductal papillary-mucinous adenoma (IPMA)
b)膵管内乳頭粘液性腺癌
Intraductal papillary-mucinous carcinoma (IPMC)
i)
非浸潤
ii)
微小浸潤
iii) 浸潤
non-invasive
minimally invasive
invasive
*粘液高産生性 with mucin-hypersecretionと粘液非高産生性 without
mucin-hypersecretionがある.
c) その他
膵管内管状腫瘍等
Intraductal tubular neoplasms(ITNs) etc
4. 異型上皮および上皮内癌 atypical epithelium(AE) and carcinoma in situ(CIS)
5.浸潤性膵管癌 Invasive ductal carcinoma
i) 乳頭腺癌 Papillary adenocarcinoma (pap)
ii) 管状腺癌 Tubular adenocarcinoma (tub)
高分化型 well differentiated (tub1)
中分化型 moderately differentiated (tub2)
iii) 低分化腺癌 Poorly differentiated adenocarcinoma (por)
iv) 腺扁平上皮癌 Adenosquamous carcinoma (asc)
v) 粘液癌
Mucinous carcinoma (muc)
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
vi) 退形成癌 Anaplastic carcinoma
1) 巨細胞型
giant cell type
2) 破骨細胞様巨細胞型 osteoclast-like giant cell type/giant cell carcinoma of
osteoclastoid type
3) 多形細胞型
pleomorphic type
4) 紡錘細胞型
spindle cell type
vii)その他 others
6. 腺房細胞腫瘍
Acinar cell neoplasms
a) 腺房細胞腺腫 Acinar cell adenoma
b) 腺房細胞癌 Acinar cell carcinoma
B.内分泌腫瘍
Endocrine neoplasms
C.併存腫瘍
Combined neoplasms
D.分化方向の不明な上皮性腫瘍
Epithelial neoplasms of uncertain differentiation
a)Solid-pseudopapillary tumor
b)膵芽腫
Pancreatoblastoma
c)未分化癌
Undifferentiated carcinoma
E.分類不能
F.その他
Unclassifiable
Miscellaneous
[2]非上皮性腫瘍
Non-epithelial neoplasms
血管腫 Hemangioma
リンパ管腫
Lymphangioma
平滑筋肉腫
Leiomyosarcoma
悪性線維組織球腫
Malignant fibrous histiocytoma
悪性リンパ腫
Malignant lymphoma
傍神経節腫
Paraganglioma
その他 Others
2.癌の間質量
癌組織中の間質結合織の量により以下のように分類する。
髄様型
medullary type:
間質量のきわめて少ないもの
中間型
intermediate type:
髄様型と硬性型の中間にあるもの
硬性型
scirrhous type:
間質量の多いもの
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
3.癌の浸潤増殖様式
癌巣の辺縁部における最も優勢な浸潤様式を以下のように分類する。
INFα:癌巣が膨張圧排性の発育を示し,周囲組織との間に一線が画されるもの
INFβ:INFαと INFγの間にあるもの
INFγ:癌巣がバラバラに浸潤し,周囲組織との境界が不明瞭なもの
4.リンパ管侵襲
ly0:認められないもの
ly1:軽微なもの
ly2:中等度のもの
ly3:高度のもの
5.静脈侵襲
v0:認められないもの
v1:軽微なもの
v2:中等度のもの
v3:高度のもの
説明:癌細胞のリンパ管侵襲,静脈侵襲,膵管浸潤の判定に困難を感じることが少なくな
い。この場合,弾力線維染色は,静脈の弾性線維を明らかにするので,静脈侵襲の
有無決定に役立つことが多い。
6.膵内神経浸潤
ne0:認められないもの
ne1:軽微なもの
ne2:中等度のもの
ne3:高度のもの
7.主膵管内進展
浸潤癌において,浸潤部の範囲を越えてみられる主膵管内の腫瘍の拡がり。
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
mpd(−):認められないもの
mpd(+):認められるもの注
mpd(b):明らかに癌細胞と断定できない異型細胞が主膵管内に存在する場合の表現
注。b は,borderline の略。
注:主膵管内進展の距離を記載する(図 11)。膵頭十二指腸切除または膵体尾部切除材
料では,切除断端からの距離も記載する。なお膵管内腫瘍の進展は p.4 の図 2 を参
考にして記載し,膵管内腫瘍由来の浸潤癌における主膵管内進展は下図に凖じるこ
と。
図 11.主膵管内進展の計測
★●を計る。
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
8.組織学的分類の説明
[1]上皮性腫瘍
A.外分泌腫瘍
epithelial neoplasms
exocrine neoplasms
1.漿液性嚢胞腫瘍
serous cystic neoplasms (SCNs)
a)漿液性嚢胞腺腫
serous cystadenoma(同義語:microcystic cystadenoma, glycogen-rich
cystadenoma)(附図 1
3)
中年女性の膵体尾部に好発する。被膜の薄い凹凸した類球形腫瘍で,基本的には壁の薄
い径数 mm までの小嚢胞からなる多房性腫瘍であるが,しばしばその一部により大きな嚢
胞腔を含む。大きな嚢胞が主体の腫瘍もある(macrocystic serous cystadenoma)。内容は水
様透明な液体である。また,割面で星芒状の線維化あるいは石灰化がみられることがある。
小嚢胞内面を被う上皮は一層性で,細胞は立方状あるいは扁平で細胞質は明るく核は丸く
小さい。細胞質にはグリコーゲンが豊富である。分裂像はほとんどみられない。
b)漿液性嚢胞腺癌
serous cystadenocarcinoma
上記の腺腫に対応する腺癌で,稀な腫瘍である。組織像からの鑑別は難しく,転移(肝
転移など)を確認できない限り診断は不可能である。
2.粘液性嚢胞腫瘍
mucinous cystic neoplasms(MCNs)
a)粘液性嚢胞腺腫
mucinous cystadenoma(MCA)(附図 4
7)
中年女性の膵尾部に好発する,通常厚い線維性被膜をもつ巨大球形の多房性腫瘍で,中
心部に大きな,辺縁に小さな腔を有する傾向がある。内容は粘液性あるいは粘血性で,内
面は平滑,顆粒状,あるいは出血びらん性である。内腔に突出する隆起や嚢胞隔壁内の結
節性病変は悪性を示唆する。主膵管との交通は一般にないとされてきたが,手術標本で膵
管造影を行うと交通が証明されることがある。被覆上皮は粘液性あるいは非粘液性高円柱
上皮であり,種々の程度の乳頭状増殖を示す。異型度により軽度異型,中等度異型,ある
いは高度異型に分けられる。上皮は剥離してわずかにしかみられない場合もある。また多
くの例では間質が卵巣様(ovarian-type stroma)である。
b)粘液性嚢胞腺癌
mucinous cystadenocarcinoma(MCC)(附図 8ー10)
上記の腺腫に対応する腺癌。ほとんど乳頭構造あるいは腺腔構造を示す腺癌である。嚢
胞腺腫の一部にみられる場合は腺腫内癌 carcinoma in mucinous cystadenoma とよばれる。卵
巣様間質(ovarian-type stroma)を持つものが多い。また,浸潤の程度により,上皮内に限
局する癌(non-invasive)、嚢胞壁あるいは隔壁に浸潤する癌および嚢胞壁の外に浸潤する
が浸潤がわずかで(まだ一定の見解がない。現時点では、顕微鏡でかろうじて判る程度)
膵実質内にとどまっている微小浸潤癌(minimally invasive)および明らかな浸潤癌(invasive)
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
に区別される (ただし、S(+)あるいは RP(+) は浸潤癌とする) 。また、浸潤癌は浸潤部の組織
型も記載する。
3.膵管内乳頭粘液性腫瘍
intraductal papillary-mucinous neoplasms(IPMNs)
(附図 11-25)
粘液貯留による膵管拡張を特徴とする膵管上皮系腫瘍で,従来,膵管内乳頭腫瘍
intraductal papillary tumors と呼んでいたものと同一のもの。病変の主座が,主膵管にある
ものは主膵管型,分枝にあるものは分枝型,両方にまたがるものは混合型とする。また,
主膵管の拡張がめだつ場合は,粘液高産生性 with mucin-hypersecretion とし,主膵管の拡張
が無いかあっても軽度の場合は,粘液非高産生性 without mucin-hypersecretion とする。し
たがって,多くの分枝型は後者となる。腫瘍自身の肉眼形態には,限局性隆起性(ポリポ
イド,扁平隆起性)のものが多いが,瀰漫性平坦のものも存在する。組織学的には,高乳
頭増殖 high-papillary growth,低乳頭増殖 low-papillary growth,完全平坦増殖 completely flat
growth をしめすものなどがある。すなわち,疾患名として「乳頭」という名前が付いてい
るが,組織学的には非乳頭増殖を示すものも含まれ得る。構成細胞は,粘液性あるいは非
粘液性高円柱状であり,上皮の構造異型および細胞異型の程度により,腺腫あるいは腺癌
に分類する。下記の上皮内癌(CIS)とは,膵管拡張の程度・形状,上皮の増殖形態によ
り鑑別する。
a)膵管内乳頭粘液性腺腫
intraductal papillary-mucinous adenoma(IPMA)(附図 15-17)
増殖細胞は,多くの場合,粘液性であるが,非粘液性のもの,好酸性のもの(oncocytic type)
もある。核は小型で均一であり,基底に位置している。異型の程度により,軽度異型,中
等度異型,高度異型(境界領域)に分ける。一般に,異型が強くなると非粘液性となる。
b)膵管内乳頭粘液性腺癌
intraductal papillary-mucinous carcinoma ( IPMC )( 附 図
18-21,50-53)22,23 削 除 す る
→ 18-21、 50->22 ∼ 53->25
腺腫に比し,核は腫大し,大きさが不均一であり,基底膜側からの離脱 loss of polarity
が目立つ。腺腫内癌,一部に腺腫成分を含む癌,全体が癌からなるものに分けられる。 浸
潤の程度により、膵管内に限局している癌(non-invasive)、膵管壁をわずかに越える微小浸
潤癌(minimally invasive)
(まだ一定の見解がない。現時点では、顕微鏡でかろうじて判る程度
で浸潤部が膵実質内にとどまっている)、および明らかな浸潤癌(invasive)に区別される。浸
潤の疑いがあるものも便宜的に微小浸潤癌(minimally invasive)に分類し,その旨記載する。
また、浸潤癌は浸潤部の組織型も記載する
注:微小浸潤癌は、明らかな
非浸潤癌
と明らかな
浸潤癌
の中間の癌であり、手術
予後は非浸潤癌に匹敵すると思われる。どの程度までを微小浸潤とするかの定見は未
だないが、現時点では組織学的に確認されるものであり、浸潤部については壁からの
距離を記載することが勧められる。
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
c)その他
膵管内管状腫瘍
intraductal tubular neoplasms(ITNs)
大きさの揃った管状異型腺管が密に増殖している,まれな膵管内腫瘍。構成細胞は非粘
液性であることが多く,膵管は腫瘍自身によって拡張するが,全体的には拡張の程度は軽
い。構造異型および細胞異型の程度により,腺腫 intraductal tubular adenoma(ITA)と腺癌
intraductal tubular carcinoma(ITC)に分ける
注)この腫瘍はまれであり,IPMN との異同について現時点では確定されていないので本改訂
版では IPMN の項で、その他の腫瘍として扱うが、診断名として明記することとする。
4.異型上皮および上皮内癌
atypical epithelium (AE) and carcinoma in situ(CIS)(附図
26-31 28-33)
膵管内に限局し,原則として膵管拡張が無いかあっても軽度の膵管上皮系病変である。
膵管拡張の程度は,一般には径数 mm (5mm)までとするが,病変部近位の狭窄により,病
変部の一部が拡張した膵管に存在する場合もある。従って,本病変の診断は,異型病変の
拡がりの状態(樹枝状進展など)から総合判断する必要がある。なお,組織学的には,上
皮は低乳頭増殖 low-papillary growth あるいは完全平坦増殖 completely flat growth を示し,
これらの変化は,とくに上皮内癌の診断には必須である。従って,上記の IPMN との鑑別
は,第一に膵管拡張の程度・形状により,第二に組織学的増殖形態により行う。
異型の程度により異型上皮および上皮内癌に分類する。
注:膵管内の異形上皮および癌、とくに通常型膵癌の前駆病変に関しては、従来より用語・組
織学的基準に混乱があり、これを統一する目的で、2001 年に Pancreatic intraepithelial
neoplasia (PanIN) /膵上皮内腫瘍性病変の概念が提唱された(Am J Surg Pathol 25:579
−586, 2001)。PanIN とは、IPMN を除く膵管内の円柱上皮由来の異型上皮病変全般を上皮
内癌を含め進行性の腫瘍性病変ととらえたもので、異型度により PanIN-1,-2,-3 に分類さ
れる(表 5)。PanIN は、はじめ、細径分枝膵管における上皮変化が適応の対象とされたが、
その後(2004)、主膵管・太い分枝膵管にも適応さ れることになった(Am J Surg Pathol
28:977-987, 2004)。
表 5.PanIN 分類と従来からの用語
Squamous metaplasia:Epidermoid metaplasia, multilayered metaplasia.
PanIN−1A:Pyloric gland metaplasia, goblet cell metaplasia, mucinous hypertrophy, flat duct
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
lesion without atypia, mucinous ductal hyperplasia, simple hyperplasia, mucinous cell
hyperplasia, flat ductal hyperplasia, nonpapillary epithelial hypertrophy.
PanIN−1B:Papillary hyperplasia, papillary duct lesion without atypia, and ductal hyperplasia.
Mucinous metaplasia and pyloric gland metaplasia commonly involve small branch ducts or
extend into lobules surrounding PanIN in ducts;such involvement has been called adenomatoid
or adenomatous hyperplasia, especially when the change dominates involvement of ductal
epithelium and is regarded as part of the spectrum of PanIN−1.
PanIN−2:Atypical hyperplasia, papillary duct lesion with atypia, low-grade dysplasia, and some
cases of moderate dysplasia.
PanIN−3:Carcinoma in situ, intraductal carcinoma, high-grade dysplasia, severe dysplasia, and
some cases of moderate dysplasia.
5.浸潤性膵管癌
invasive ductal carcinomas(附図 32-53 34-55)
明らかな進行膵癌で膵管類似の腺腔形成や膵管上皮 duct epithelium(粘液細胞など)へ
の分化が見られるものである。上記 1.
4.も広義の膵管癌であるが,肉眼形態の違いか
ら別に扱う。多彩な組織形態を示すのが浸潤性膵管癌の特徴であるが優勢像をもって下記
のごとく分類する。
a)乳頭腺癌
papillary adenocarcinoma(附図 32 34)
癌細胞は高円柱状で粘液性のものが多く,著明な乳頭増殖を示す。核の大きさは均一で,
多くの場合基底に位置している。膵管内乳頭腺癌は本型とは別に扱う。
b)管状腺癌
tubular adenocarcinoma(附図 33-38 35-40)
最も頻度の高い組織型で,基本的に腺腔形成がみられる。通常,著明な線維増生
desmoplasia を伴い,間質に富む。腺腔形成の程度(分化度)により以下の 3 型に分ける。
(1)高分化型
well differentiated type(附図 33,34 35,36):腺腔形成が著明で,単純な円
形腺管,腺腔内に向かう小さな乳頭状突起をもつ腺管(従来,乳頭管状腺癌と呼ばれ
た)が主体のもの。癌細胞は円柱状ないし立方状で,細胞質に富む。核の大きさは均
一で,多くの場合基底に位置している。
(2)中分化型
moderately differentiated type(附図 35,36 37,38):高分化型に比し,腺腔
は小型で不規則である。細胞異型もより強く,核の大きさ・形もより不均一である。
c) 低分化腺癌
poorly differentiated adenocarcinoma(附図 37,38 39,40)
:腔形成傾向に乏
しく,索状構造や敷石状胞巣が目立つ。下記の退形成性膵管癌や未分化癌に比し粘液
染色( PAS 反応,alcian blue 染色など)の陽性率が高い。
d)腺扁平上皮癌
adenosquamous carcinoma(附図 39,40 41,42)
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
腺癌成分と扁平上皮癌成分が相接してあるいは混在してみられるもの。粘表皮癌
mucoepidermoid carcinoma も含まれる。扁平上皮成分が腫瘍全体の 30%あればこのように
診断する。それ以下の場合はその旨を附記し,腺扁平上皮癌とはしない。また,通常の検
索で扁平上皮癌成分のみしか認められない場合も便宜的に本型として扱う。
e)粘液癌(膠様癌)
mucinous carcinoma(colloid carcinoma)(附図 41-44 43-46)
(同義語:mucinous non-cystic carcinoma)
粘液産生が著しく,粘液結節 mucus nodule の形成が著明な(腫瘍全体の 50%以上)癌で,
一般に,個々の粘液結節および癌全体の周りに線維化が目立つ。粘液塊の辺縁あるいは中
には,種々の分化を示す癌がみられる。印環細胞癌 signet ring cell carcinoma はほとんどが
粘液塊に浮遊した形でみられるので,便宜的に本型として扱う。腫瘍の一部にしか認めら
れない場合は,優勢組織型に附記する形でその旨を記す。
f)退形成癌
anaplastic carcinoma(附図 45-49 47-51)
従来未分化癌 undifferentiated carcinoma とされていたもの。多くの場合,一部に膵管癌成
分が見られるので,膵管癌の 1 型と考えられる。全く分化傾向の無いもののみを真の未分
化癌 undifferentiated carcinoma と分類する。
細胞形態により,巨細胞型 giant cell type,多形細胞型 pleomorphic type,紡錘細胞型 spindle
cell type に分けるが,2
3 型が混在することも多い。なお,巨細胞型は従来一つの型とさ
れていたが、巨細胞の性状が腫瘍性であるものと反応性であるものがあきらかとなり、後
者は巨大貪食細胞あるいは破骨細胞に類似の巨細胞が目立つものであり破骨細胞型 giant
cell carcinoma of osteoclastoid type として区別する。
注:いわゆる癌肉腫
so-called carcinosarcoma は本型である。
6.腺房細胞腫瘍
acinar cell neoplasms
a)腺房細胞腺腫
acinar cell adenoma
細胞質のやや明るい腺房細胞からなる充実小結節性病変であるが,過形成との鑑別が難
しい。また,腺房細胞性嚢胞腺腫 acinar cell cystadenoma が報告されている。
b)腺房細胞癌
acinar cell carcinoma(附図 54-56 52-54)
好酸性(しばしば顆粒状)の腺房細胞に類似した細胞からなり,腺房構造を示す。篩状
構造やより未分化な細胞集団を随伴することもある。間質は一般に少なく髄様である。電
顕的にチモーゲン顆粒が,また,免疫組織化字的にアミラーゼ,トリプシンなどの膵酵素
に対する陽性反応が認められる。粘液は陰性である。
B.内分泌腫瘍
endocrine neoplasms(附図 57-62 55-60)
膵・消化管ホルモン産生腫瘍である。産生ホルモンは必ずしも 1 種類ではなく数種類を
同時に産生することがある。ホルモン過剰症状が見られるものを症候性(機能性)腫瘍と
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
よび,そうでないものを非症候性(非機能性)腫瘍とよぶ。一般には充実性腫瘍であるが,
出血を来し嚢胞状となるものもある。典型例では毛細血管に接して索状,リボン状,敷石
状に増殖する。ロゼットあるいは偽ロゼットの形成を見ることもある。診断には Grimelius
好銀反応や電顕的検索で内分泌顆粒を証明するか,免疫染色で chromogranin, synaptophysin
などの内分泌マーカーと膵ホルモンの陽性像を確認する必要がある。WHO の内分泌腫瘍
の分類(1999 年)では細胞異型度により高分化内分泌腫瘍 well differentiated endocrine tumor,
高分化内分泌癌 well differentiated endocrine carcinoma, 低分化内分泌癌 poorly differentiated
endocrine carcinoma に分類している。また、高分化内分泌腫瘍は a)大きさが 2cm 以下かつ
細胞分裂像が強拡 10 視野中 2 個未満かつ MIB1/Ki-67 陽性率が 2%以下の’benign behavior’、
b)大 き さ が 2cm 以 上 あ る い は 分 裂 像 が 強 拡 10 視 野 中 2 個 以 上 10 個 未 満 あ る い は
MIB1/Ki-67 陽性率が 2%以上の’uncertain behavior’に分けられている。高分化内分泌癌は肉
眼的浸潤を認めるものあるいは転移を伴うものをいう。低分化内分泌癌は分裂像が強拡 10
視野中 10 個以上のものである。一般に,悪性の指標として血管侵襲,周囲組織への浸潤,
核分裂像の多さ(>2/HPF)などがあげられるが、実際の診断においては組織所見のみで
は良悪性の判定が難しい。高分化内分泌癌は中等度の核異型を伴い,しばしば明瞭な核小
体,核の濃染,核分裂像の増加,血管侵襲,神経浸潤を示す。しかし、これらの所見が認
められない腫瘍においても転移する腫瘍もあり、組織所見のみでは良悪性の判定が難しい。
また、低分化内分泌癌の多くは肺の小細胞癌あるいはその中間細胞型類似の高度異型の癌
でしばしば壊死を伴う。大半は診断時遠隔転移を示す。大型細胞からなる内分泌癌もある
が,確定診断には免疫染色や電顕的検索が必要である。
注 1:機能性腫瘍は症候群の責任ホルモンに-oma をつけて呼ばれることがある。機能性腫
瘍の場合には症候群と悪性度がよく相関する。Insulinoma の大半は良性,gastrinoma,
glucagonoma, somatostatinoma は悪性の頻度が高い。膵のカルチノイドは狭義にセロ
トニン産生腫瘍のみに用いる傾向がある。単に免疫染色で膵ホルモンが陽性であっ
ても,そのホルモン名に-oma つけて命名することは避けるべきで,-oma という名
は症候性腫瘍に限って用いるべきと考える。
注 2:膵内分泌腫瘍は Multiple endocrine neoplasia type 1(MEN1 ;Wermer's syndrome)の
部分症であることがある。この場合は多発性内分泌腫瘍の存在に注意する必要があ
る。
C.併存腫瘍
combined neoplasms
外分泌腫瘍と内分泌腫瘍が同腫瘍内に混在あるいは併存してみられるもの。膵管癌と島
細 胞 癌 duct-islet cell carcinoma , 膵 管 癌 と 島 細 胞 癌 と 腺 房 細 胞 癌 duct-islet-acinar cell
carcinoma などがある。
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
D.分化方向の不明な上皮性腫瘍
epithelial neoplasms of uncertain differentiation
a)solid-pseudopapillary tumor (solid cystic tumor)(附図 63-65 61-63)
ほとんどが若年女性に発生する稀な腫瘍である。その大部分は良性腫瘍であるが,悪性
例の報告もある。多くは,厚い線維性被膜を有する球形腫瘍で,充実部分と出血壊死性の
嚢胞部分が共存するが,まれに出血壊死性嚢胞部分のない例がある。基本的組織像は,小
中型,円形
卵円形の好酸性細胞からなる充実性腫瘍で間質は毛細血管性であり,出血
部には血管を軸にした偽乳頭構造が目立つ。また,腺腔形成がみられることもあり,この
ために papillary cystic tumor あるいは solid cystic tumor とも呼ばれる。腫瘍組織内に好酸性
小体,xanthoma cell の集簇,cholesterol granuloma の出現をしばしばみる。電顕的には主体
はミトコンドリアの多い未熟な細胞である。腫瘍の分化方向については,一部の細胞にチ
モーゲン顆粒がみられたり,組織化学的に,ときにα1−antitrypsin が陽性であるので,腺
房細胞性であるとの意見があるが,決定的ではない。しばしば NSE 陽性であるが,この意
義は不明である。腺房細胞腫瘍や内分泌腫瘍を鑑別する必要がある。
b)膵芽腫
pancreatoblastoma(附図 66,67 64,65)
まれな腫瘍で,多くは 10 歳以下の小児,特に男児に発生する。従って,小児の膵癌とも
呼ばれる。肉眼的には充実性腫瘍であり,膵管上皮細胞へ分化する部分と腺房細胞へ分化
する部分からなる。前者には渦巻状のいわゆる squamoid corpuscle が出現する。また,後
者にはチモーゲン顆粒が証明される。そしてこれらの細胞群が全体として器官様構造
organoid structure を形成する。AFP 産生性のことが多い。
c)未分化癌
undifferentiated carcinoma(附図 6866)
腺癌や扁平上皮癌などの分化傾向が全く認められない癌で、悪性リンパ腫に類似のもの,
肺の小細胞癌に類似したものなどがある。粘液染色はほとんど陰性であり,特殊染色や電
顕でもチモーゲン顆粒や内分泌顆粒が見い出せない。
E.分類不能
unclassifiable
放射線治療,人為的変化等により,組織型を判定することが困難なものである。
F.その他
miscellaneous
その他のまれな上皮性腫瘍
[2]非上皮性腫瘍
other rare epithelial neoplasms
non-epithelial neoplasms
血管腫 hemangioma,リンパ管腫 lymphangioma,平滑筋肉腫 leiomyosarcoma,悪性線維
組織球腫 malignant fibrous histiocytoma,悪性リンパ腫 malignant lymphoma, 傍神経節腫
paraganglioma などが報告されている。
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
附
図
外分泌腫瘍
漿液性嚢胞腫瘍
図
1.漿液性嚢胞腺腫(手術標本割面)
径数 mm までの小ニ胞からなるスポンジ様嚢胞。一見,リンパ管腫を思わせる。内容は
透明で漿液性。
図
2.漿液性嚢胞腺腫
小嚢胞の内面は立方状あるいは扁平な小型の明るい細胞に被われる。細胞質には,グリ
コーゲンが豊富である(挿入図。 PAS 反応)。
図
3.漿液性嚢胞腺腫
ときに,乳頭増殖がみられるが悪性の指標とはならない。
粘液性嚢胞腫瘍
図
4.粘液性嚢胞腺腫(手術標本割面)
嚢胞壁は厚く,図の中央上部に巨大な腔がみられる。内容は,粘液性あるいは粘血性。
内面は多少微細顆粒状であるが,おおむね平滑である。
図
5.粘液性嚢胞腺腫
壁の一部に乳頭増殖がみられる。間質には卵巣様間質がみられる(挿入図)。
図
6.粘液性嚢胞腺腫(図 5 の拡大)
乳頭増殖を構成する細胞は高円柱状で粘液性。核は小型で揃っており,基底に配列して
いる。この程度の異型は軽度とする。
図
7.粘液性嚢胞腺腫
上皮の粘液量は減少し,核はわずかに腫大している(中等度異型)。
図
8.粘液性嚢胞腺癌(手術標本)
内面の一部(矢印)に隆起性病変がみられる。左上は膵の一部,右側の黒い臓器は脾。
図
9.粘液性嚢胞腺癌(図 8 矢印部)−組織像
不規則な乳頭管状増殖がみられる。構成細胞は非粘液性である。核は小さく,おおむね
基底に配列しているが,形がやや不揃いである。
図
10.粘液性嚢胞腺癌−図 8,9 と同一症例
ここには,管状構造がみられ,粘液性細胞がめだつ。
膵管内腫瘍
図
11.膵管内乳頭粘液性腫瘍(シェーマ)−粘液性嚢胞腫瘍との対比
- 34 -
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
a は主膵管型。b は分枝型。c は粘液性嚢胞腫瘍。
図
12.膵管内乳頭粘液性腫瘍(手術材料)の電子スコープ像
び漫性に拡張した主膵管内に充満する粘液を取り去り,電子スコピーを尾側から行った
ものである。主膵管(Wirsung 管)内に柔らかい平盤状隆起(矢印)がみられる。右上の
膵管は Santorini 管。
図
13.膵管内乳頭粘液性腫瘍(手術標本割面)−図 12 と同一症例
病変(矢印)は主膵管に限局している(主膵管型)。拡大鏡でみると乳頭構造がよくみえ
る。膵管壁は肥厚し,周囲の膵実質は著しく萎縮している。
図
14.膵管内乳頭粘液性腫瘍(実体顕微鏡像)
粘液細胞は,しばしば alcian blue 染色が陽性であり,青色に染まった乳頭構造が明らか
である。本染色は膵管内面の観察に有用である。
図
15.膵管内乳頭粘液性腺腫−図 14 と同一症例
上皮が狭い間質を芯として乳頭状に増殖している。増殖パターンに規則性がある。
図
16.膵管内乳頭粘液性腺腫−図 14 と同一症例
乳頭構造は,しばしば,高円柱状粘液細胞からなる。粘液は酸性で,alcian blue 染色が
陽性である(挿入図)。核は小型で揃っており,基底に配列しているので,軽度異型とみる。
図
17.膵管内乳頭粘液性腺腫
核は小型で細長く,おおむね基底に配列しているが,先端の尖った乳頭構造は高度異型
とする。
図
18.膵管内乳頭粘液性腺癌−図 14 と同一症例
核は小さいが,基底膜側からの離脱 loss of polarity がめだつ。きわめて分化のよい腺癌
とみる。本例は腺腫内癌(非浸潤性)としてみられたものである。
図
19.膵管内乳頭粘液性腫瘍(主膵管型)
大量の粘液を含み,著しく拡張した主膵管内に 2 つの絨毛性腫瘍(矢印)がみられる(主
膵管型)。膵実質は萎縮性である。本例はきわめて分化のよい腺癌(非浸潤性)であった。
図
20.膵管内乳頭粘液性腺癌のルーぺ像−図 19 と同一症例
腫瘍は主膵管内に限局しており,非浸潤性である。
図
21.膵管内乳頭粘液性腺癌−図 20 の一部の拡大
狭い間質を芯とした,上皮の乳頭増殖がみられるが,パターンがやや不規則で上皮の鋸
歯状構造がめだつ。核の配列も乱れており(挿入図)高分化腺癌(非浸潤性)とした。
図
22.膵管内乳頭粘液性腫瘍(分枝型)
腫瘍の主座は分枝にあり(分枝型),粘液性の拡張膵管の一部に柔らかい乳頭腫瘍(矢印)
がみられた。また,一部は粘液結節(*印)がみられ,膵実質に浸潤していた。
図
23.膵管内乳頭粘液性腺癌−図 22 と同一症例
図 22 の粘液結節部は,直接に膵実質に接しており,浸潤癌と判定した。しかし,浸潤部
- 35 -
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
は,ごく一部(膵管から数 mm)に限られており,微小浸潤癌と判定した。
図
24.膵管内管状腺腫
膵頭部主膵管内の限局性ポリープ状病変。本例では主膵管は軽度に拡張していた。
図
25.膵管内管状腺腫−図 24 と同一症例
ポリープ状病変は,大きさ・形の揃った管状異型腺管から成り,上皮はわずかに粘液性
である。核は小さく揃っており,基底に位置している。
異型上皮
図
26 28. 異型上皮
丈の低い乳頭増殖(中央部)。乳頭構造に結合織が入っていないが,核は基底に位置し小
さくて揃っている。PanIN−2 相当。
図
27 29. 異型上皮
粘液細胞 からなる 丈の低い 乳頭増 殖。芯に な る部分に結 合織がほ とんど入 ってい ない
(back to back がみられる)が核は小さくて揃っている。PanIN−2 相当。
図
28 30.異型上皮
上皮は鋸歯状であり,核の腫大がややめだつ。PanIN−2 相当。
図
29 31.上皮内癌
膵管内に限局する,丈の低い乳頭増殖。乳 頭 構造の芯に間質がほとんど無く(back to
back),核は基底に位置しているが,腫大している。(挿入図)。PanIN−3 相当。
図
30 32.上皮内癌
比較的小さな膵管に見られた異型上皮。丈の低い乳頭増殖の芯には結合織がなく,核は
空胞化,核小体がめだち,著しく腫大している。PanIN−3 相当。
図
31 33.上皮内癌
やや拡張した膵管内面を被覆する平坦な異型上皮。内腔には濃縮した分泌物を容れる。
核は腫大し,形が不揃いであり,明らかな癌細胞の形態を示す(挿入図)。
一部に非腫瘍性上皮がみられる(*印)。
浸潤性膵管癌
図
32 34.乳頭腺癌
粘液性の高円柱上皮からなるものが多い。
図
33 35.管状腺癌,高分化型
従来,乳頭管状腺癌とよばれていたものであるが,この程度の構造は管状腺癌として扱
う。さらに,腺管が大きく,上皮は高円柱状であるので高分化型とする。間質は線維性で
ある。
図
34 36.管状腺癌,高分化型
- 36 -
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
典型例。間質は線維性である。
35 37.管状腺癌,中分化型
図
小型の腺管からなり,上皮は一般に立方状
扁平である。
36 38.管状腺癌,中分化型
図
拡張腺管がみられるが,主体は小型腺管であり,拡張腺管の形もきわめて不整であるの
で,中分化型とする。
37 39.低 分 化 腺 癌
図
癌は索状構造をとり,腺腔はほとんどみられない。
38 40.低 分 化 腺 癌
図
小さな癌胞巣が,線維増生を伴いながら浸潤している。
39 41.腺扁平上皮癌
図
敷石状の扁平上皮癌成分と管状腺癌成分が共存する。
40 42.腺扁平上皮癌
図
敷石状胞 巣の中に 小腺管あ るいは 印環細胞 癌 がみられる 。このよ うな癌は ,粘表 皮癌
mucoepidermoid carcinoma ともよばれる。
41 43.粘液癌(手術標本割面)
図
粘液結節部は,一般に限局性で,周囲に線維性被膜が発達する。肉眼的には結節型であ
る。
図
42 44.粘液癌
粘液塊の辺縁に高分化腺癌がみられる。
図
43 45.粘液癌
粘液塊の中に中分化型管状腺癌が浮遊している。
図
44 46.粘液癌
粘液塊の中に印環細胞癌が浮遊する。膵の印環細胞癌は,ほとんどがこのような粘液癌
としてみられる。
図
45 47.退形成癌(手術標本割面)
腫瘍は出血壊死性であり,線維性被膜に囲まれることが多い。嚢胞化がみられるが,肉
眼型は充実型として扱う。
図
46 48.退形成癌(多形細胞型)
細胞(核)に大型のものがめだち,大小不同(多形性)が著しい。
図
47 49.退形成癌(巨細胞型))−図 45 47 と同一症例
本例では,奇怪な巨細胞 bizarre giant cell がめだつ。
図
48 50.退形成癌(破骨細胞様巨細胞型)
多核巨細胞の核は,小型円形で揃っており細胞の中心部に存在する。この細胞の出現す
る 型 は , 細 胞 の 類 似 性 か ら 破 骨 細 胞 様 巨 細 胞 型 osteoclast-like giant cell type/giant cell
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
carcinoma of osteoclastoid type とよばれる。
49 51.退形成癌(紡錘形細胞型)
図
紡錘形細胞が主体の癌であり,稀な型である。管状腺癌や退形成癌の一部として,しば
しば出現する
50 22.膵管内腫瘍由来の浸潤癌
図
拡張した膵管内には膵管内乳頭粘液性腺癌がみられ,矢印部には明らかな浸潤性膵癌が
みられる。*印は,十二指腸乳頭。
51 23.膵管内腫瘍由来の浸潤癌(管状腺癌)
図
図の左は主膵管に拡がる膵管内乳頭粘液性腺癌であり,そこから管状腺癌が浸潤してい
る。
図
52 24.膵管内腫瘍由来の浸潤癌(粘液癌)
主膵管および分枝膵管内に拡がる乳頭腺癌。
図
53 25.膵管内腫瘍由来の浸潤癌(粘液癌)−図 52 と同一症例
浸潤癌は粘液癌であり,神経周囲浸潤 perineural invasion を伴う。
腺房細胞腫瘍
図
54 52.腺房細胞癌(手術標本割面)
境界はやや不鮮明であるが,全体としては結節型である。
図
55 53.腺房細胞癌−図 54 52 と同一症例
中心部には腺房構造がめだち,下方および左方には,より未分化な細胞群がみられる。
本例では,エラスターゼ−1 産生が証明された。
図
56 54.腺房細胞癌
腺房構造の集まりおよび未分化な細胞集団がみられる。本例では,アミラーゼ産生が証
明された。
内分泌腫瘍
図
57 55.内分泌腫瘍(手術標本割面)
径 1cm の内分泌腫瘍いわゆる島細胞腫である。肉眼的には結節型であるが,膵主体の変
形がないので,潜在型とすべきかも知れない。
図
58 56.内分泌腫瘍(手術標本割面)
充実性腫瘍であり,肉眼型は結節型とする。
図
59 57.内分泌腫瘍
上皮は索状ないしリボン状配列を示す。
図
60 58.内分泌腫瘍
- 38 -
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
やや厚い索状あるいは腺房状構造をとる内分泌腫瘍。腫瘍はグリメリウス銀反応に陽性
であった(挿入図)。
図
61 59.内分泌腫瘍
ときに腺腔形成をみる。
図
62 60.内分泌腫瘍
敷石状の増殖を示す。分裂像が多いので悪性を疑うが,この組織像だけから良性,悪性
の判別はできない。
分化方向の不明な上皮性腫瘍
図
63 61.Solid−pseudopapillary tumor(手術標本割面)
膵体部の線維性被膜に包まれた球形腫瘍。充実部分と出血壊死による嚢胞部分が共存す
る。肉眼型は結節型として扱う。
図
64 62.Solid−pseudopapillary tumor
充実部分から出血部分への移行部。敷石状部分が分離し,血管を軸とした偽乳頭構造が
めだつ(中央
図
下方)。
65 63.Solid−pseudopapillary tumor
核は円形
類円形で大きさの揃った好酸性細胞からなる。内分泌腫瘍や腺房細胞腫瘍と
の鑑別が必要である。多くの場合,一部でα1−antitrypsin が陽性である(挿入図)。
図
66 64.膵芽腫(手術標本割面)
一部に出血壊死を伴う結節型の腫瘍。
図
67 65.膵芽腫
腺 房 あ る い は 管 状 構 造 の 他 に , 紡 錘 形 細 胞 か ら な る 渦 巻 状 構 造 , い わ ゆ る squamoid
corpuscle がみられる(右上と左下)。
図
68 66.未分化癌
N/C 比の高い未分化細胞からなる充実性腫瘍。悪性リンパ腫や内分泌腫瘍を鑑別する
必要がある。
膵管上皮の過形成,化生など
図
69 67.膵管粘液細胞過形成および幽門腺化生
膵管内面および膵管壁に異型のない粘液細胞あるいは幽門腺様腺管の過形成がみられる。
PanIN−1A 相当。
図
70 68.再生上皮
わずかに核腫大を伴う好酸性高円柱状上皮(腸上皮化生の一部を見ている可能性もある)。
- 39 -
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
右側の膵管固有上皮と衝突している。
図
71 69.再生上皮
膵管上皮に低い乳頭増殖がみられるが,乳頭増殖は,少量であるが結合織を伴っており,
核も小核で基底に配列している。増殖細胞は高円柱状で,細胞質に小さな粘液顆粒がめだ
つ。PanIN−1A 相当。
- 40 -
膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
付.TNM 分類(UICC)第6版(2002)
膵臓
(ICD−O C25)
分類規約
本分類は膵臓外分泌腺の癌にのみ適用する。組織学的確証がなければならない。
以下は T,N,M 各分類評価のための診断法である:
T 分類
身体的検査,画像診断,および/または手術所見
N 分類
身体的検査,画像診断,および/または手術所見
M 分類 身体的検査,画像診断,および/または手術所見
解剖学的亜部位
1.膵頭部 1 (C25.0)
2.膵体部 2 (C25.1)
3.膵尾部 3 (C25.2)
注:1.膵頭部の腫瘍は上腸間膜静脈の左縁より右に生じたものである。鉤状突起は頭部の
一部とする。
2.体部の腫瘍は上腸間膜静脈左縁と大動脈の左縁の間に生じたものである。
3.尾部の腫瘍は大動脈左縁と脾門部の間に生じたものである。
所属リンパ節
所属リンパ節は膵周囲リンパ節で,次の通り細分類される:
上方
膵頭部および膵体部上方のリンパ節
下方
膵頭部および膵体部下方のリンパ節
前方
前膵頭十二指腸,幽門(膵頭部の腫瘍にのみ適用する),および近位上腸間膜動脈
より前方のリンパ節
後方
後膵頭十二指腸,総胆管,および近位上腸間膜動脈より後方のリンパ節
脾側
脾門部および膵尾部のリンパ節(膵体部と膵尾部の腫瘍にのみ適用する)
腹腔動脈側
(膵頭部の腫瘍にのみ適用する)
TNM 臨床分類
T−原発腫瘍
TX
原発腫瘍の評価が不可能
T0
原発腫瘍を認めない
Tis
上皮内癌
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
T1
膵臓内に限局する,最大径が 2cm 以下の腫瘍
T2
膵臓内に限局する,最大径が 2cm をこえる腫瘍
T3
膵臓外に進展するが、腹腔動脈幹または上腸間膜動脈に浸潤を伴わない腫瘍
T4
腹腔動脈幹または上腸間膜動脈に浸潤する腫瘍
N−所属リンパ節
NX
所属リンパ節転移の評価が不可能
N0
所属リンパ節転移なし
N1
所属リンパ節転移あり
M−遠隔転移
MX
遠隔転移の評価が不可能
M0
遠隔転移なし
M1
遠隔転移あり
pTNM 病理学的分類
pT,pN,pM 各分類は T,N,M 各分類に準ずる。
pN0 と判定するには,所属リンパ節郭清で 10 個以上のリンパ節を組織学的に検索する。
通常の検索個数を満たしていなくても、すべてが転移陰性の場合は、pN0 に分類する。
病理組織学的分化度
G−病理組織学的分化度
GX
分化度の評価が不可能
G1
高分化
G2
中分化
G3
低分化
G4
未分化
R 分類
治療後の遺残腫瘍の有無は R 記号で記述する。R 分類の定義はすべての消化器系腫瘍に
適用する。
RX
遺残腫瘍の有無についての評価が不可能
R0
遺残腫瘍なし
R1
顕微鏡的遺残腫瘍あり
R2
肉眼的遺残腫瘍あり
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膵癌取り扱い規約第6版(案) 200901
病期分類
0期
Tis
N0
M0
IA 期
T1
N0
M0
IB 期
T2
N0
M0
IIA 期
T3
N0
M0
IIB 期
T1
N1
M0
T2
N1
M0
T3
N1
M0
III 期
T4
N に関係なく
M0
IV 期
T,N に関係なく
要
膵
M1
約
臓
T1
T2
T3
T4
膵内に限局≦2cm
膵内に限局>2cm
膵外に進展
腹腔動脈幹または上腸間膜動脈に浸潤
N1
所属リンパ節転移
UICC:TNM 悪性腫瘍の分類(第6版).L. H. Sobin/Ch. Wittekind 編,2002 日本版(金原
出版)より抜粋
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