著作権侵害対策 - 新興国等知財情報データバンク 公式サイト

タイにおける
著作権侵害対策
ハンドブック
平 成 24 年 3 月
文化庁
【本ハンドブックについて】
本ハンドブックは、情報提供のみを目的としております。権利執行等に関する最終決
定 は 、 ご 自 身 の 判 断 で な さ る よ う に お 願 い し ま す 。 掲 載 し た 情 報 は 、 平 成 23 年 12 月
時 点 で 把 握 し て い る も の で あ り 、そ の 後 の 法 律 改 正 等 に よ っ て 変 わ る 場 合 が あ り ま す 。
また、一般的な情報・解釈がこの通りであることを保証するものではありません。
第 I章
タイにおけるコンテンツ産業と著作権侵害の状況
本 章 で は 、タ イ に お け る コ ン テ ン ツ 侵 害 の 現 状 を 概 観 し た 上 で 、そ れ ぞ れ の 侵
害の状況を整理します。特に、侵害の状況については、映画、アニメ、マンガ、
キ ャ ラ ク タ ー 、 テ レ ビ 番 組 ( 実 写 )、 ソ フ ト ウ ェ ア / ゲ ー ム ソ フ ト 、 音 楽 の 類 型
毎 に 主 な 侵 害 態 様 を 取 り 上 げ ま す 。ま た 、こ れ ら の 侵 害 に 対 す る 政 府 や 民 間 業 界
の取り組みについても触れます。
1.
タイにおけるコンテンツ侵害の現状
タイのコンテンツ産業における侵害の現状を教えてください。
タ イ に お い て 、コ ン テ ン ツ に 関 す る 著 作 権 者 を 保 護 す る 法 制 度 は 整 備 さ れ て お
り 、タ イ 政 府 に よ っ て 知 的 財 産 権 に 対 す る 意 識 向 上 の た め の 取 り 組 み も な さ れ て
い ま す 。こ れ ら の 法 制 度 や 政 府 の 取 り 組 み に つ い て は 本 章「 3 .民 間 業 界 に お け
る著作権侵害への取組み」で説明します。
そ れ に も か か わ ら ず 、海 賊 版 光 デ ィ ス ク の 製 造 及 び 流 通 、イ ン タ ー ネ ッ ト に お
け る 海 賊 版 の 違 法 ダ ウ ン ロ ー ド ( 第 Ⅲ 章 で 説 明 し ま す )、 ケ ー ブ ル 及 び 衛 星 信 号
の窃盗等あらゆるコンテンツの著作権侵害行為がタイ全土であふれています。
映 画 業 界 で は 劇 場 映 画 の 盗 撮 が 急 増 し て お り 、海 賊 版 光 デ ィ ス ク の 製 造 は 正 当
な著作権産業が確立されることに対する主要な障害の一つであると報告されて
い ま す( も っ と も 、こ れ に 対 処 す る た め の 近 時 の 取 組 み は 本 章「 3 .民 間 業 界 に
お け る 著 作 権 侵 害 へ の 取 組 み 」で 説 明 す る 光 デ ィ ス ク 製 造 法 B.E.2548( 2005 年 )
を 通 し て 行 わ れ て い ま す 。)。
タ イ に お け る 著 作 権 侵 害 に よ る 損 害 は 拡 大 し て お り 、そ の 侵 害 の 程 度 は 依 然 と
し て ア ジ ア 地 域 に お い て 高 い 水 準 に あ り ま す 。例 え ば 、ビ ジ ネ ス ソ フ ト の 違 法 コ
ピ ー に よ る 損 害 額 は 2008 年 の 335 百 万 ア メ リ カ ド ル か ら 2009 年 に は 367.8 百 万
ア メ リ カ ド ル に 達 し 、違 法 コ ピ ー 率 も 2008 年 の 76 パ ー セ ン ト か ら 2009 年 は 77
パ ー セ ン ト に 上 昇 し て お り 、そ の 多 く が ア ジ ア 地 域 に お け る 中 央 値 を 上 回 っ て い
ま す 2。
世 界 経 済 の 低 迷 と と も に 、著 作 権 侵 害 行 為 が タ イ の 創 造 産 業 を 荒 廃 さ せ て い ま
2
国 際 知 的 財 産 権 連 盟 ( IIPA)『 2010 年 版 ス ペ シ ャ ル 301 条 報 告 書 』 321 頁 。 同 報 告 書 は 、 毎 年 公 表 さ
れ 、タ イ に お け る 著 作 権 侵 害 に 関 す る 最 も 包 括 的 な 研 究 で す 。タ イ で は 、一 般 に 公 開 さ れ て い る 統 計 が
多くないことから、本ハンドブックの統計値の多くはこれに依拠しています。
-5-
す 。2008 年 に は 、正 規 の 音 楽 製 品 の 店 舗 販 売 は 40 パ ー セ ン ト 減 少 し 、レ コ ー ド
会 社 の 中 に は 、 従 業 員 を 解 雇 し 、 さ ら に は 廃 業 し た 会 社 も あ り ま す 。 2009 年 に
は 正 規 の 音 楽 製 品 の 店 舗 販 売 は さ ら に 17 パ ー セ ン ト 減 少 し て い ま す 3 。
また、海賊版商品の流通も依然としてタイの重要問題であり、海賊版商品は、
路上、小売市場及びショッピングモールで多く見かけられます。スクンビット、
シ ー ロ ム 、プ ラ ト ゥ ー ナ ム 、ラ ム カ ム ヘ ン 、バ ン ラ ン プ ー 、パ ッ ポ ン 等 の バ ン コ
ク の 観 光 地 区 及 び プ ー ケ ッ ト 、サ ム イ 島 、パ タ ヤ 、チ ェ ン マ イ 、ク ラ ビ 等 の 観 光
地 で は 各 種 の 海 賊 版 光 デ ィ ス ク ( MP3、 オ ー デ ィ オ デ ィ ス ク 、 CD、 DVD、 VCD、 ブ
ル ー レ イ デ ィ ス ク 、 中 国 か ら の 輸 入 CD 等 ) が 並 べ ら れ て お り 、 ま た 、 バ ン コ ク
の 大 型 シ ョ ッ ピ ン グ セ ン タ ー の 多 く で も 海 賊 版 商 品 が 陳 列 さ れ て い ま す 。海 賊 版
商品を取り扱う個人の路上店舗の閉鎖等部分的には法執行の取り組みが成果を
挙 げ て い ま す が 、多 く の 業 者 が イ ン タ ー ネ ッ ト 販 売 に 切 り 替 え る と い っ た 対 抗 策
を講じています。
タ イ 政 府 に よ る 近 時 の 取 り 組 み に も か か わ ら ず 、海 賊 版 光 デ ィ ス ク の 製 造 は 依
然 と し て 深 刻 な 問 題 で す 。海 賊 版 光 デ ィ ス ク の 工 場 生 産 は 減 少 の 兆 候 も あ り ま し
た が 、よ り 高 い 水 準 の 模 造 行 為 並 び に イ ン タ ー ネ ッ ト 上 あ る い は 携 帯 機 器 に よ る
違法コピー及び出版物等の違法コピー等の他の形式の著作権侵害によって成果
は 帳 消 し に な っ て お り 、こ れ ら の 一 部 に は 輸 出 さ れ る も の も 含 ま れ て い ま す 。タ
イ は 、中 国 、台 湾 、香 港 と と も に 海 賊 版 コ ン テ ン ツ の 有 数 の 輸 出 国 で あ り 、海 賊
版光ディスクは国内流通だけを目的として製造されているわけではありません。
他 方 で 、こ れ に 関 連 し て 、タ イ・エ ン タ ー テ イ ン メ ン ト・コ ン テ ン ツ 協 会( TECA)
は 、 タ イ が 輸 出 だ け で は な く タ イ ・ マ レ ー シ ア 国 境 経 由 で 中 国 か ら 海 賊 版 CD 等
を輸入していると伝えています。
王 立 タ イ 警 察 の 経 済 犯 罪 取 締 部 ( ECD) 及 び テ ク ノ ロ ジ ー 犯 罪 取 締 部 ( TCSD)
並 び に 特 別 捜 査 局 ( DSI) は 、 取 締 り を 求 め る 著 作 権 者 に 応 え て 刑 事 手 続 上 の 強
制 捜 査 を 実 施 す る こ と で 権 利 保 護 を 支 援 し て き ま し た 。し か し な が ら 、こ れ ら の
取 締 り は 、シ ョ ッ ピ ン グ モ ー ル の 経 営 者 や 製 造 施 設 よ り も 小 売 店 の よ う な 小 規 模
な 事 業 者 を 主 た る 対 象 と し て お り 、し た が っ て 全 体 の 違 法 コ ピ ー 率 や 損 害 へ の 影
響 は ご く 限 ら れ た も の と な っ て き ま す 。例 え ば 、2011 年 1 月 12 日 に ラ チ ャ ブ リ
県 の あ る 市 場 で 実 施 さ れ た 強 制 捜 査 で は 、6 万 5000 点 以 上 の 海 賊 版 映 画 、音 楽 、
カ ラ オ ケ デ ィ ス ク が 押 収 さ れ 、著 作 権 侵 害 者 ら も 検 挙 さ れ 著 作 権 侵 害 で 起 訴 さ れ
ま し た 。こ の よ う な 強 制 捜 査 は プ ー ケ ッ ト 県 パ ト ン や ノ ン タ ブ リ ー 県 で も 実 施 さ
れ 、相 当 数 の 侵 害 品 の 押 収 と 検 挙 を 記 録 し て い ま す 。し か し な が ら 、こ れ ら の 取
3
国 際 知 的 財 産 権 連 盟 ( IIPA)・ 前 掲 注 1・ 321-322 頁 。
-6-
り組みにもかかわらず、当該地域ではなお海賊版商品が流通しています。
タイの著作権者及び日本を含めた多くの海外の著作権者がタイにおいて著作
権 侵 害 の 被 害 を 受 け て お り 、特 に 日 本 の 音 楽 、映 画 、マ ン ガ の 海 賊 版 は ご く 普 通
に商品として陳列されており、生産され続けています。
映画に関するコンテンツ侵害の実態について教えてください。
映 画 は 著 作 権 法( 本 章「 3 .民 間 業 界 に お け る 著 作 権 侵 害 へ の 取 組 み 」で 説 明
し ま す ) に お い て 「 映 画 の 著 作 物 」( cinematographic work) や 「 映 画 」( film)
に 分 類 さ れ 、タ イ 法 の 下 で 著 作 権 侵 害 に 対 す る 保 護 を 受 け る こ と が で き ま す 。映
画 の 海 賊 版 CD、DVD 及 び VCD は お そ ら く 最 も あ り ふ れ た 著 作 権 侵 害 で あ り 、製 造
販 売 が 続 け ら れ て い ま す 。海 賊 版 映 画 は 観 光 地 や バ ン コ ク の 大 型 シ ョ ッ ピ ン グ セ
ンターにおいて依然としてよく見かけられます。
劇 場 に お け る 映 画 全 編 の 盗 撮 も 増 加 し て い ま す 。 国 際 知 的 財 産 権 連 盟 ( IIPA)
『 2011 年 版 ス ペ シ ャ ル 301 条 報 告 書 』 に よ れ ば 、 ア メ リ カ 映 画 全 編 の 違 法 盗 撮
の 認 知 件 数 は 2009 年 か ら 2010 年 に か け て 48 パ ー セ ン ト 増 加 し た と 記 さ れ て い
ま す 4。
映 画 の 著 作 権 侵 害 は 、シ グ ナ ル・パ イ ラ シ ー に よ っ て も 行 わ れ て い ま す 。シ グ
ナ ル・パ イ ラ シ ー と は ケ ー ブ ル 及 び 衛 星 放 送 で 放 映 さ れ た 映 画 や テ レ ビ 番 組 を 無
許 可 で 転 送・再 送 す る も の で す 。国 際 知 的 財 産 権 連 盟( IIPA)に よ れ ば 、シ グ ナ
ル・パイラシーは特にバンコク以外の地域で根強くはびこっています。
国 際 知 的 財 産 権 連 盟( IIPA)に よ れ ば 、イ ン タ ー ネ ッ ト や 携 帯 機 器 を 利 用 し た
映 画 の 著 作 権 侵 害 は 2010 年 以 降 急 増 し て お り 、 こ の 問 題 に つ い て は 第 Ⅲ 章 で 取
り 上 げ ま す 。イ ン フ ラ の 急 成 長 と プ ロ バ イ ダ 料 金 の 低 廉 化 に よ り 、多 く の タ イ 国
民 が 、イ ン タ ー ネ ッ ト に ア ク セ ス し 、著 作 物 を ダ ウ ン ロ ー ド に よ っ て 提 供 す る ウ
ェ ブ サ イ ト を 開 設 す る こ と が 可 能 に な り ま し た 。タ イ で は P2P 及 び デ ィ ー プ リ ン
キ ン グ サ イ ト が 普 及 し て お り 、著 作 権 侵 害 者 が 映 画 を ア ッ プ ロ ー ド し 容 易 に ダ ウ
ン ロ ー ド で き る よ う に 流 通 さ せ る こ と を 可 能 に し て い ま す 。タ イ に お い て 映 画 は
ビ ッ ト ト レ ン ト イ ン デ ッ ク ス サ イ ト 、ト ラ ッ カ ー サ イ ト 、電 子 掲 示 板 、ソ ー シ ャ
ル ネ ッ ト ワ ー ク サ イ ト 、ブ ロ グ 及 び サ イ バ ー・ロ ッ カ ー 等 を 通 じ て 入 手 し や す い
ものとなっています。
4
タ イ 政 府 及 び 経 済 犯 罪 取 締 部 ( ECD) は 、 こ の 問 題 に 対 処 す る 格 別 の 処 置 を 講 じ ら れ て お ら ず 、 映 画
盗撮防止法案の審議も行き詰まっています。
-7-
アニメに関するコンテンツ侵害の実態と代表的な被害の実例を教えてください。
ア ニ メ は 、著 作 権 法 に お い て「 美 術 的 著 作 物 」
( artistic work)や「 映 画 」
( film)
に 分 類 さ れ 、タ イ 法 の 下 で 著 作 権 侵 害 に 対 す る 保 護 を 受 け る こ と が で き ま す 。映
画 と 同 様 、ア ニ メ に つ い て も 、海 賊 版 CD、DVD 及 び VCD が 製 造 販 売 さ れ て お り 、
タイの観光地やバンコクの大型ショッピングセンターにおいてよく見かけられ
ます。
マンガに関するコンテンツ侵害の実態について教えてください。
マ ン ガ は 、著 作 権 法 に お い て「 美 術 的 著 作 物 」( artistic work)や「 文 芸 の 著
作物」
( literary work)に 分 類 さ れ 、タ イ 法 の 下 で 著 作 権 侵 害 に 対 す る 保 護 を 受
け る こ と が で き ま す 。違 法 コ ピ ー 及 び 無 許 可 翻 訳 が「 文 芸 の 著 作 物 」の コ ン テ ン
ツ 侵 害 と し て よ く 用 い ら れ る 方 法 で す が 、報 告 さ れ て い る 限 り で は「 文 芸 の 著 作
物 」の 侵 害 は 、マ ン ガ や そ の 他 の 文 芸 作 品 で は な く 、教 材 に 関 す る も の が 大 部 分
を占めています。
キャラクターに関するコンテンツ侵害の実態について教えてください。
キ ャ ラ ク タ ー は 、著 作 権 法 に お い て「 美 術 的 著 作 物 」( artistic work)や「 文
芸の著作物」
( literary work)に 分 類 さ れ る と 考 え ら れ 、タ イ 法 の 下 で 著 作 権 侵
害 に 対 す る 保 護 を 受 け る こ と が で き ま す 。キ ャ ラ ク タ ー に 関 す る コ ン テ ン ツ 侵 害
は 、映 画 、音 楽 、ソ フ ト ウ ェ ア 等 の コ ン テ ン ツ 侵 害 ほ ど に 報 告 さ れ て い る わ け で
はありません。
キ ャ ラ ク タ ー に 関 す る 著 作 権 侵 害 が 問 題 と な っ た 有 名 な 事 例 と し て は 、ウ ル ト
ラマンの利用権に関する株式会社円谷プロダクションとタイの制作会社である
チ ャ イ ヨ ー・プ ロ ダ ク シ ョ ン の 法 的 紛 争 が 挙 げ ら れ ま す 。こ の 事 件 は タ イ の 法 制
度において著作権侵害に関する法的紛争がどのように処理されるかを示す顕著
な 例 で す 。 こ の 事 件 は 10 年 以 上 前 に 提 起 さ れ た も の で あ り 、 タ イ の 最 高 裁 判 所
が 円 谷 プ ロ ダ ク シ ョ ン 勝 訴 の 判 断 を 示 す ま で 様 々 な 論 点 が 争 わ れ ま し た の で 、そ
の 全 て を 詳 述 す る こ と は 本 ハ ン ド ブ ッ ク の 範 囲 を 超 え て い ま す が 、訴 訟 の 経 過 は
概ね以下のとおりです。
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チ ャ イ ヨ ー・プ ロ ダ ク シ ョ ン は 、円 谷 プ ロ ダ ク シ ョ ン と の 契 約 に 基 づ き 、債 務
の支払に代えてウルトラマンキャラクター及びウルトラマン作品に関する日本
以外の国での独占的利用権を取得したとしてこれに関連するビジネスを展開し
て い ま し た 。こ れ に 対 し て 、円 谷 プ ロ ダ ク シ ョ ン が 同 契 約 が 無 効 で あ る と 主 張 し
てタイにおいて訴訟を提起しました。
第 1 審 の 知 的 財 産 ・ 国 際 貿 易 裁 判 所 ( IPIT 裁 判 所 ) で は 、 2000 年 4 月 、 チ ャ
イヨー・プロダクションを創設した代表者勝訴の判決が下されました。
一 方 で 事 態 を さ ら に 複 雑 に さ せ た の は 法 廷 闘 争 の 間 に チ ャ イ ヨ ー・プ ロ ダ ク シ
ョ ン が 独 自 の ウ ル ト ラ マ ン キ ャ ラ ク タ ー( ウ ル ト ラ マ ン ミ レ ニ ア ム 、ダ ー ク ウ ル
ト ラ マ ン 及 び ウ ル ト ラ マ ン エ リ ー ト )を 制 作 し た こ と で す 。こ れ ら の キ ャ ラ ク タ
ー は ス テ ー ジ シ ョ ー と グ ッ ズ 販 売 に 使 用 さ れ ま し た 。さ ら に 、チ ャ イ ヨ ー・プ ロ
ダ ク シ ョ ン は 、プ ロ ジ ェ ク ト ウ ル ト ラ マ ン と い う 中 国 で の 合 弁 事 業 に お い て 、こ
れらのキャラクターのテレビシリーズも制作しました。
円 谷 プ ロ ダ ク シ ョ ン は 2006 年 に チ ャ イ ヨ ー ・ プ ロ ダ ク シ ョ ン の 新 ウ ル ト ラ マ
ンキャラクターに関して著作権侵害と盗用を理由に同社に対して新たな訴訟を
提 起 し ま し た 。 2007 年 4 月 、 知 的 財 産 ・ 国 際 貿 易 裁 判 所 ( IPIT 裁 判 所 ) は 、 円
谷 プ ロ ダ ク シ ョ ン 勝 訴 の 判 断 を 下 し 、チ ャ イ ヨ ー・プ ロ ダ ク シ ョ ン に 対 し 、独 自
のウルトラマンキャラクターを使用したビジネスの停止及びオリジナルのウル
ト ラ マ ン シ キ ャ ラ ク タ ー の 使 用 停 止 を 命 じ ま し た 。た だ し 、同 判 決 で は チ ャ イ ヨ
ー・プロダクションの初期のウルトラマンシリーズの利用権が認められました。
円 谷 プ ロ ダ ク シ ョ ン は 2000 年 4 月 の 知 的 財 産・国 際 貿 易 裁 判 所( IPIT 裁 判 所 )
判 決 に 対 し タ イ の 最 高 裁 判 所 に 上 告 し 、 同 裁 判 所 は 2008 年 2 月 に 同 社 勝 訴 の 判
決 を 下 し ま し た 。タ イ の 最 高 裁 判 所 は 、上 記 契 約 に 係 る 契 約 書 が 偽 造 で あ る と 判
断 し ま し た 。そ し て 、円 谷 プ ロ ダ ク シ ョ ン が ウ ル ト ラ マ ン キ ャ ラ ク タ ー 単 独 の 著
作 権 者 で あ り 、チ ャ イ ヨ ー・プ ロ ダ ク シ ョ ン の 代 表 者 は ウ ル ト ラ マ ン の 共 同 創 作
者 で は な い と 判 断 し 、代 表 者 に 対 し て ウ ル ト ラ マ ン の キ ャ ラ ク タ ー ビ ジ ネ ス の 停
止 と 損 害 賠 償 金 1070 万 タ イ バ ー ツ 及 び 訴 訟 提 起 日 で あ る 1997 年 12 月 16 日 か ら
支 払 済 み ま で 年 7.5% の 割 合 に よ る 利 息 の 支 払 を 命 じ ま し た 。
な お 、同 紛 争 は 日 本 の 裁 判 所 に お い て も 審 理 さ れ 、国 際 裁 判 管 轄 の 有 無 等 が 争
点 と な っ て い ま す 。東 京 高 等 裁 判 所 平 成 15 年 12 月 10 日 判 決 裁 判 所 HP で は 、タ
イ の 最 高 裁 判 所 の 判 断 と は 異 な り 、上 記 契 約 書 は 真 正 に 成 立 し た も の と 判 断 さ れ
ています。
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テレビ番組(実写)に関するコンテンツ侵害の実態について教えてください。
テ レ ビ 番 組 は 、 著 作 権 法 に お い て 「 映 画 の 著 作 物 」( cinematographic work)
や「 放 送 の 著 作 物 」( broadcasting work)に 分 類 さ れ 、タ イ 法 の 下 で 著 作 権 侵 害
に 対 す る 保 護 を 受 け る こ と が で き ま す 。映 画 と 同 様 、テ レ ビ 番 組( 主 と し て ア メ
リ カ の 番 組 ) に つ い て も 、 海 賊 版 CD、 DVD 及 び VCD が 製 造 販 売 さ れ て お り 、 タ
イ の 観 光 地 に お い て 容 易 に 見 つ け る こ と が で き ま す 。テ レ ビ 番 組 の コ ン テ ン ツ 侵
害 も ま た ケ ー ブ ル 及 び 衛 星 放 送 の シ グ ナ ル・パ イ ラ シ ー や イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し
ても行われています。
ア ジ ア・ケ ー ブ ル 及 び 衛 星 放 送 協 会( CASBAA)は 、タ イ に お け る テ レ ビ 番 組 の
著 作 権 侵 害 に 関 し て 填 補 さ れ る べ き 純 損 失 は 2010 年 で 241 百 万 ド ル を 超 え る と
推定しています。
ソフトウェア/ゲームソフトに関するコンテンツ侵害の実態について教えてく
ださい。
ソ フ ト ウ ェ ア 及 び ゲ ー ム ソ フ ト は「 文 芸 の 著 作 物 」( literary work)や「 コ ン
ピ ュ ー タ ・ プ ロ グ ラ ム 」( computer program) に 分 類 さ れ 、 タ イ 法 の 下 で 著 作 権
侵 害 に 対 す る 保 護 を 受 け る こ と が で き ま す 。ゲ ー ム や そ の 他 の コ ン ピ ュ ー タ・プ
ロ グ ラ ム に 関 す る 海 賊 版 ソ フ ト ウ ェ ア は タ イ に お い て 製 造 さ れ 、有 体 物 と し て 又
は イ ン タ ー ネ ッ ト を 経 由 し て 流 通 し て い ま す 。国 際 知 的 財 産 権 連 盟( IIPA)に よ
れ ば 、タ イ に お い て ソ フ ト ウ ェ ア 産 業 に 最 も 損 害 を 与 え て い る の は 、職 場 に お け
るライセンスを受けていないソフトウェアや海賊版ソフトウェアを使用するこ
と で あ り 、2010 年 の タ イ の パ ソ コ ン ソ フ ト の 違 法 コ ピ ー 率 は 73 パ ー セ ン ト と 推
定 さ れ て い ま す 。ビ ジ ネ ス ソ フ ト や ゲ ー ム ソ フ ト を 記 憶 し た 海 賊 版 デ ィ ス ク を 観
光 地 で 見 か け る こ と は 多 く あ り ま せ ん が 、バ ン コ ク の 多 く の 大 型 シ ョ ッ ピ ン グ セ
ン タ ー で は 普 通 に 見 か け ら れ ま す 。海 賊 版 ソ フ ト ウ ェ ア が 店 頭 販 売 時 に コ ン ピ ュ
ータに搭載されていることもあります。
- 10 -
音楽に関するコンテンツ侵害の実態について教えてください。
音 楽 は 、「 音 楽 の 著 作 物 」( musical work) や 「 録 音 ( 物 )」( sound recording)
に 分 類 さ れ 、タ イ 法 の 下 で 著 作 権 侵 害 に 対 す る 保 護 を 受 け る こ と が で き ま す 。海
賊 版 音 楽 CD も タ イ に お い て 製 造 販 売 さ れ て お り 、 依 然 と し て 観 光 地 や 大 型 シ ョ
ッ ピ ン グ セ ン タ ー に お い て 容 易 に 見 つ け る こ と が で き ま す 。映 画 や テ レ ビ 番 組 の
コ ン テ ン ツ 侵 害 と 同 様 、イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 じ て 行 わ れ る 音 楽 の コ ン テ ン ツ 侵 害
も 深 刻 さ を 増 し て い る 問 題 で す 。タ イ・エ ン タ ー テ イ ン メ ン ト・コ ン テ ン ツ 協 会
( TECA) に よ れ ば 、 有 体 物 の 海 賊 版 音 楽 は 減 少 し て お り ( MP3 形 式 の 音 楽 フ ァ
イ ル を 編 集 し た CD の み 現 在 も 流 通 し て い ま す )、イ ン タ ― ネ ッ ト や 携 帯 機 器 を 利
用 し た デ ジ タ ル 形 式 の 海 賊 版 に と っ て 代 わ ら れ て い ま す 。タ イ だ け で も 違 法 音 楽
ダ ウ ン ロ ー ド を 提 供 す る ウ ェ ブ サ イ ト 数 は 4000 を 超 え る と 推 定 さ れ て い ま す 。
- 11 -
2.
タイ政府による著作権侵害対策
タイ政府は著作権侵害に対してどのような対策をしていますか。
タ イ は 、著 作 権 を 承 認 し 著 作 権 侵 害 か ら 保 護 す る た め の 重 要 な 法 律 を 有 し て お
り 、ま た 、知 的 財 産 権 侵 害 問 題 全 般 を 処 理 す る 機 関 を 設 立 し て い ま す 。タ イ に お
ける創造的かつ芸術的著作に関する権利を保護する主要な法律は著作権法
B.E.2537( 1994 年 )( 改 正 著 作 権 法 )で す 。著 作 権 法 の 具 体 的 な 規 定 に つ い て は
本ハンドブックにおいて必要に応じて説明します。
その他にタイにおける海賊版製造対策に取り組むために重要な法律は光ディ
ス ク 製 造 法 B.E.2548( 2005 年 )
( ODPA)で す 。同 法 は 、確 認 さ れ て い る 全 て の 光
ディスク製造施設を規制すること及び地下施設での製造を停止させることを目
的 と し て お り 、 製 造 業 者 に 知 的 財 産 庁 ( DIP) へ の 報 告 と 機 械 設 備 及 び 生 産 デ ィ
ス ク 枚 数 の 登 録 を 義 務 付 け る と と も に 、追 跡 の た め に デ ィ ス ク に 記 号 や コ ー ド を
記 入 す る こ と も 義 務 付 け て い ま す 。同 法 に 基 づ き 政 府 職 員 は 法 令 を 遵 守 し て い る
か調査するために製造施設に立ち入る権限を有しており、同法違反に対しては
100 万 タ イ バ ー ツ 以 下 の 罰 金 と 5 年 以 下 の 懲 役 が 科 さ れ ま す 。
タ イ 政 府 は 、タ イ に お け る タ イ 映 画 及 び 海 外 映 画 の 製 作 需 要 の 高 ま り を 受 け て 、
映 画 の 著 作 権 侵 害 問 題 に 間 接 的 に 取 り 組 む た め に 、近 時 、映 画 ビ デ オ 法 B.E.2551
( 2008 年 )( FVA) を 改 正 し ま し た 。 タ イ で は 、 同 法 に 基 づ き 、 映 画 の 製 作 、 評
価 又 は 配 給 を 監 査 す る た め の 映 画 映 像 検 閲 機 構 が 設 立 さ れ て お り 、同 機 構 は 、具
体的には、映画がタイで上映、貸出、交換又は販売されるべきかの調査と評価、
映 画 の 広 告 の 許 可 、タ イ で の 海 外 映 画 の 撮 影 の 取 締 り 、タ イ の 評 価 シ ス テ ム に 基
づ く 映 画 の 検 閲 等 の 活 動 を 行 っ て い ま し た 。こ の 映 画 ビ デ オ 法 の 改 正 に よ り 、映
画 供 給 業 者 は 、タ イ で DVD を 販 売 、交 換 、又 は 貸 出 す る こ と に 関 し 許 可 を 取 得 す
る こ と を 義 務 付 け ら れ ま し た 。こ れ に よ り 、警 察 は 著 作 権 者 か ら の 申 立 て が な く
て も 無 許 可 業 者 を 逮 捕 す る こ と が で き ま す 。加 え て 、映 画 の 内 容 表 示 に 関 す る 必
要 事 項 も よ り 厳 し く な っ て お り 、 改 正 映 画 ビ デ オ 法 に 従 わ な か っ た 場 合 に は 50
万タイバーツ以下の罰金及び 1 日につき 1 万タイバーツの追加の罰金が科されま
す。
これらの法律に加え、知的財産権侵害全般や著作権侵害を重点的に取り扱う
様々な政府機関が存在します。
主 要 機 関 と し て 、知 的 財 産・国 際 貿 易 裁 判 所( IPIT 裁 判 所 )が 挙 げ ら れ ま す 。
同 裁 判 所 は 、著 作 権 、商 標 、特 許 等 の 知 的 財 産 関 連 事 件 を 取 り 扱 う 第 一 審 裁 判 所
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で す 。 知 的 財 産 庁 ( DIP) は 、 商 業 省 が 管 轄 す る 政 府 機 関 で あ り 、 タ イ の 著 作 権
侵 害 問 題 に 対 処 す る た め の 政 策 展 開 及 び 法 執 行 の 役 割 を 担 っ て い ま す 。知 的 財 産
庁( DIP)は 主 と し て 他 の 政 府 機 関 や 民 間 団 体 と 協 調 し て 、著 作 権 者 の 権 利 強 化 、
政 策 の 策 定 、著 作 権 に 関 連 す る 法 律 に 関 す る 一 般 的 な 助 言( イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の
著 作 権 侵 害 を 対 象 と す る も の が 増 加 し て い ま す )、 著 作 権 の 重 要 性 に 関 す る 啓 蒙
活動及び著作権侵害と法執行に関する統計データベースの整備を担っています。
ま た 、 知 的 財 産 庁 ( DIP) は 著 作 権 法 の 改 正 や そ の 他 の 新 法 制 定 に 関 す る 助 言 で
も 重 要 な 役 割 を 担 っ て い ま す 。加 え て 、最 近 、知 的 財 産 庁( DIP)は 83 億 タ イ バ
ー ツ の 予 算 を IP 調 整 セ ン タ ー の 設 立 に 配 分 し ま し た 。 こ れ は 、 著 作 権 侵 害 の 抑
止 に 関 連 す る 全 て の 執 行 機 関( 経 済 犯 罪 取 締 部( ECD)、テ ク ノ ロ ジ ー 犯 罪 取 締 部
( TCSD)、特 別 捜 査 局( DSI)、タ イ 検 察 庁 、知 的 財 産 ・ 国 際 貿 易 裁 判 所( IPIT 裁
判 所 )等 )を つ な げ る こ と で 、著 作 権 侵 害 に よ り 損 害 を 受 け た 者 の 便 宜 の た め に
ワ ン・ス ト ッ プ・シ ョ ッ プ と し て 効 果 的 に 機 能 し よ う と す る も の で す 。ま た 、著
作 権 法 は 、規 則 制 定 に 関 す る 助 言 、局 長 の 命 令 に 対 す る 不 服 申 立 て の 判 断 、著 作
者等の団体の奨励及び支援を行う官民双方の委員からなる著作権委員会の設立
を 要 求 し て い ま す が 、 現 在 、 著 作 権 委 員 会 は 、 知 的 財 産 庁 ( DIP) の 一 部 と し て
著作権会議という形で存在しています。
撲滅作戦といったような人目を引くキャンペーンは定期的にタイ当局により
行われ、大量の製造機器と何百万もの海賊版ディスクの押収に成功しています。
政 府 は ま た 、国 の 著 作 権 侵 害 に 対 す る 法 執 行 を 優 先 的 に 行 う「 危 険 地 帯 」及 び「 要
注 意 地 帯 」と い う 対 象 地 域 を リ ス ト 化 し ま し た 。法 務 省 の 部 局 で あ る 特 別 捜 査 局
( DSI)と 王 立 タ イ 警 察 も 経 済 犯 罪 取 締 部( ECD)の 下 で キ ャ ン ペ ー ン が 効 果 を 上
げるように支援しています。
業 界 団 体 も 独 自 に 著 作 権 侵 害 対 策 を 実 施 し て お り 、例 え ば 、タ イ・エ ン タ ー テ
イ ン メ ン ト ・ コ ン テ ン ツ 協 会( TECA)は 、2011 年 1 月 か ら 10 月 に お い て 、経 済
犯 罪 取 締 部 ( ECD) に 働 き か け 、 148 回 の 強 制 捜 査 を 行 い ま し た 。 タ イ ・ エ ン タ
ー テ イ ン メ ン ト・コ ン テ ン ツ 協 会( TECA)に よ る と 、こ の 間 だ け で 、音 楽 の 著 作
権 侵 害 者 に 5200 万 タ イ バ ー ツ を 超 え る 損 失 を 与 え た と 推 定 し て い ま す 。
こ の よ う な 対 策 は 、タ イ が 著 作 権 の 保 護 に 真 剣 に 取 り 組 ん で い る こ と を 示 し て
い ま す が 、国 際 知 的 財 産 権 連 盟( IIPA)は 、執 行 へ の 取 り 組 み が 不 十 分 で 抑 止 力
の な い も の と 考 え て い ま す 。ま た 、著 作 権 者 の 利 益 の た め に 厳 正 な 法 執 行 を 行 う
こ と に 対 し て は 、タ イ の 大 多 数 の 国 民 が 不 満 を 抱 い て い る の が 現 状 で す 。知 的 財
産 ・ 国 際 貿 易 裁 判 所 ( IPIT 裁 判 所 ) は 規 定 に し た が っ て 著 作 権 侵 害 者 を 罰 し て
いますが、量刑や罰金額はしばしば厳しくないものになっています。その結果、
タ イ は 、知 的 財 産 権 の 適 切 か つ 効 果 的 な 保 護 又 は 知 的 財 産 権 を 信 頼 す る 米 国 民 へ
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の 公 平 公 正 な 市 場 参 入 を 提 供 し て い な い 国 と し て 、米 国 の ス ペ シ ャ ル 301 条 報 告
書 に お い て 優 先 監 視 国 に 指 定 さ れ た 12 か 国 の う ち の 1 か 国 と な っ て い ま す 。
著作権侵害対策に関する法改正の動向はどうなっていますか。
著 作 権 侵 害 対 策 を 完 結 さ せ る に あ た っ て 未 解 決 の 重 要 な 立 法 が あ り ま す 。特 に 、
一 連 の 問 題 に 関 す る 著 作 権 法 の 改 定 案 が あ り ま し た が 、こ れ ら の 改 正 案 が 直 ち に
可 決 さ れ る 可 能 性 は 低 い と 考 え ら れ て い ま す 。 改 正 項 目 と し て は 、 WIPO イ ン タ
ー ネ ッ ト 条 約 の 国 内 実 施 、製 造 業 者 や 販 売 業 者 の 対 極 に あ る 海 賊 版 商 品 の 使 用 者
の 民 事 責 任 及 び 刑 事 責 任 、イ ン タ ー ネ ッ ト サ ー ビ ス プ ロ バ イ ダ の 責 任 規 定 、技 術
的保護手段と違反者への罰則に関する規定並びに著作権法で使用される定義の
変更が挙げられます。
ま た 、 劇 場 映 画 の 盗 撮 に 対 す る 立 法 は 、 2010 年 に 内 閣 に お い て 大 筋 で 承 認 さ
れ 、法 制 委 員 会 に 提 出 さ れ ま し た 。法 制 委 員 会 は 、著 作 権 法 の 罰 則 規 定 に よ り 対
応 で き る と 主 張 し て お り 、 現 在 、 知 的 財 産 庁 ( DIP) が 同 案 の 問 題 点 に 関 し て 再
審議するために小委員会を立ち上げました。
地 主 / 家 主 責 任 法 案 は 、侵 害 行 為 の た め の 物 理 的 空 間 な い し デ ジ タ ル 空 間 を 提
供 す る 者 に も 責 任 を 負 わ せ る た め に 起 草 さ れ ま し た( 要 す る に 、イ ン タ ー ネ ッ ト
サービスプロバイダを含めた著作権侵害者の地主/家主は彼らの敷地内/建物
内 で 行 わ れ る 著 作 権 侵 害 行 為 に 対 し て 責 任 を 負 う こ と に な り ま す 。)。同 法 案 は 内
閣 に 提 出 さ れ ま し た が 、さ ら な る 考 慮 が 必 要 で あ る と し て 商 務 省 に 戻 さ れ ま し た 。
そ の 後 、さ し た る 理 由 も 明 示 さ れ な い ま ま 同 法 案 は 否 決 さ れ ま し た 。知 的 財 産 庁
( DIP) は 、 現 在 、 別 の 選 択 肢 と し て 、 イ ン タ ー ネ ッ ト サ ー ビ ス プ ロ バ イ ダ 責 任
に特化した法案を準備しています。
ま た 、財 務 省 は 、近 時 、税 関 当 局 が 輸 送 中 の 物 品 を 押 収 す る こ と を 認 め る 関 税
法 の 改 正 を 承 認 し ま し た 。こ の 法 案 は 内 閣 に よ っ て 承 認 さ れ 、審 査 の た め に 法 制
委員会に提出されました。
さ ら に 、 知 的 財 産 庁 ( DIP) は 、 コ ン ピ ュ ー タ 犯 罪 法 を 改 正 し て 知 的 財 産 権 の
侵 害 を 同 法 所 定 の 犯 罪 に 含 め る よ う 提 案 し て い ま す 。同 法 に よ れ ば 、当 局 は 知 的
財 産 ・ 国 際 貿 易 裁 判 所 ( IPIT 裁 判 所 ) に ウ ェ ブ サ イ ト の 閉 鎖 を 申 請 で き ま す 。
ま た 、具 体 的 な 立 法 を 超 え て 、タ イ は「 創 造 的 経 済 戦 略 」を 実 施 し て お り 、知
的 財 産 権 に 関 す る 国 民 の 意 識 を 高 め 、ま た 、知 的 財 産 権 に 関 す る 教 育 計 画 を 支 援
するために創造的経済に関する国家委員会を設立しています。
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著作権保護に関する国際協力への取組みについて教えてください。
タ イ は 、ベ ル ヌ 条 約 の 加 盟 国 で あ り 、世 界 知 的 所 有 権 機 関( WIPO)や 世 界 貿 易
機 関 ( WTO) の 加 盟 国 で も あ り ま す 。 ま た 、 過 去 数 年 間 で 特 許 協 力 条 約 や パ リ 条
約 に も 加 盟 し ま し た 。 た だ し 、 WIPO 著 作 権 条 約 ( WCT) 及 び WIPO 実 演 ・ レ コ ー
ド 条 約( WPPT)に は い ま だ 批 准 し て い ま せ ん 。WTO の 加 盟 国 と な っ た 結 果 、タ イ
は 知 的 所 有 権 の 貿 易 関 連 の 側 面 に 関 す る 協 定 ( TRIPs 協 定 ) に 拘 束 さ れ ま す 。
知 的 財 産 権 の 保 護 と 執 行 に 関 す る 世 界 の 状 況 を ま と め た 2011 年 版 ス ペ シ ャ ル
301 条 報 告 書 の 中 で 、米 国 は 、タ イ 政 府 の 上 級 職 員 が 知 的 財 産 権 の 保 護 と 執 行 を
引 き 続 き 改 善 す る 旨 の 誓 約 を し た こ と を 歓 迎 す る と 表 明 し ま し た 。タ イ と 米 国 は 、
タ イ・米 国 創 造 的 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 協 定 と い わ れ る 連 携 を 構 築 し て お り 、知 的 財
産 問 題 は こ の 連 携 に よ り 取 り 組 む 問 題 の 1 つ と な っ て い ま す 。し か し な が ら 、こ
の連携から知的財産問題に関する明確な提案や指令はいまだ発せられていませ
ん。
2007 年 、 タ イ と 日 本 は 、 日 本 ・ タ イ 経 済 協 力 協 定 を 締 結 し ま し た 。 日 本 ・ タ
イ 経 済 協 力 協 定 第 10 章 は 知 的 財 産 権 全 般 ( 及 び TRIPs 協 定 で 規 定 さ れ て い る 事
項 の 多 く )を 取 り 扱 っ て お り 、第 133 条 が 著 作 権 及 び 関 連 す る 権 利 に つ い て 規 定
し て い ま す 。 第 122 条 に お い て 日 本 と タ イ は 、「 ・ ・ ・ 知 的 財 産 の 十 分 に し て 効
果 的 か つ 無 差 別 的 な 保 護 を 与 え 、及 び 確 保 し 、知 的 財 産 の 保 護 に 関 す る 制 度 の 効
率 的 な か つ 透 明 性 の あ る 運 用 を 促 進 し 、並 び に 侵 害 、不 正 使 用 及 び 違 法 な 複 製 に
対 す る 知 的 財 産 権 の 行 使 の た め の 措 置 を と る 。」 こ と を 合 意 し て い ま す 。
ま た 、 両 締 結 国 は 、 TRIPs 協 定 、 ベ ル ヌ 条 約 並 び に パ リ 条 約 第 1 条 か ら 第 12
条 ま で 及 び 第 19 条 に 定 め る 義 務 を 履 行 す る こ と に つ い て の 約 束 を 再 確 認 し て い
ま す 。日 本・タ イ 経 済 協 力 協 定 の そ の 他 の 条 項 で は 、自 国 民 に 与 え る 待 遇 を 他 方
の 締 結 国 の 国 民 に 与 え る こ と 、知 的 財 産 に 関 す る 行 政 上 の 手 続 の 簡 素 化 及 び 調 和 、
知 的 財 産 の 保 護 に つ い て の 啓 発 と 権 利 行 使( 民 事 的 救 済 と 刑 事 的 制 裁 を 含 む )を
促 進 す る こ と が 要 求 さ れ て い ま す 。 ま た 、 日 本 ・ タ イ 経 済 協 力 協 定 は 、 第 10 章
の規定の実施及び運用について見直しを行うこと及び知的財産の保護を強化す
る方法等を討議するために知的財産に関する小委員会を設立することも求めて
います。
- 15 -
3.
民間業界における著作権侵害への取組み
タイにおいて蔓延する著作権侵害に対抗するために現地の又は国際的な業界団
体 が 行 っ て い る 活 動 は 報 道 発 表 や マ ス コ ミ 報 道 に よ っ て 知 る こ と が で き ま す 。著
作 権 侵 害 撲 滅 運 動 を 積 極 的 に 実 施 し て い る 国 際 的 な 団 体 と し て は 、ビ ジ ネ ス・ソ
フ ト ウ ェ ア ・ ア ラ イ ア ン ス ( BSA)、 国 際 レ コ ー ド 産 業 連 盟 ( IFPI)、 米 国 映 画 協
会( MPAA)が 挙 げ ら れ ま す 。ま た 、著 作 権 の 執 行 に 活 動 的 な 国 内 の 業 界 団 体 と し
て は 、 タ イ ソ フ ト ウ ェ ア 産 業 協 会 ( ATSI)、 タ イ 映 画 協 会 、 タ イ ・ エ ン タ ー テ イ
ン メ ン ト ・ コ ン テ ン ツ 協 会 ( TECA) 等 が あ り ま す 。
映画業界では著作権侵害に対してどのような活動をしていますか。
タ イ に は 映 画 産 業 に 関 す る 多 く の 団 体 が あ り 、 タ イ 映 画 監 督 協 会 ( TFDA)、 タ
イ 映 画 協 会 ( MPA)、 タ イ ・ エ ン タ ー テ イ ン メ ン ト 産 業 協 会 ( TENA)、 タ イ 映 画 協
会 連 盟 ( NFTFA) 等 が 含 ま れ ま す 。
そ の 1 つ で あ る タ イ 映 画 協 会 連 盟( NFTFA)は 1991 年 に 設 立 さ れ 、著 作 権 侵 害
行 為 を 停 止 さ せ 、又 は 防 止 す る 方 法 を 確 立 す る こ と が 目 的 の 一 つ と さ れ て い ま す 。
た だ し 、著 作 権 侵 害 に 対 し て ど の よ う な 活 動 を 行 っ て い る か は 必 ず し も 明 ら か で
は あ り ま せ ん 。私 企 業 に お い て は 、著 作 権 侵 害 に 対 し て よ り 毅 然 と し た 対 策 を 講
じているところもあります。
タ イ 映 画 協 会 ( MPA) は 米 国 映 画 協 会 ( MPAA) の 海 外 を 管 轄 す る モ ー シ ョ ン ・
ピ ク チ ャ ー ・ ア ソ シ エ ー シ ョ ン に よ っ て 1997 年 に 設 立 さ れ ま し た 。 タ イ 映 画 協
会 は 、 2005 年 、 王 立 タ イ 警 察 ト ン ロ ー 警 察 署 の 警 察 官 と と も に バ ン コ ク に あ る
海 賊 版 と ポ ル ノ の 光 デ ィ ス ク 製 造 販 売 施 設 に 強 制 捜 査 を 実 施 し ま し た 。こ れ に よ
り 4 名 を 検 挙 し 48 台 の DVD-R 作 成 機 と 3 万 1400 枚 の 海 賊 版 DVD を 押 収 し ま し た 。
同 年 だ け で タ イ 映 画 協 会 は 刑 事 訴 追 に 至 っ た 1000 件 以 上 の 事 件 に 関 し て 政 府 当
局 や 警 察 官 を 支 援 し て い ま す 。 さ ら に 、 最 近 で は 、 知 的 財 産 庁 ( DIP) と と も に
盗 撮 防 止 キ ャ ン ペ ー ン を 行 い 、映 画 産 業 に お け る 著 作 権 侵 害 へ の 意 識 を 高 め る 最
良 の 広 告 活 動 だ っ た と し て 表 彰 を 受 け て い ま す 。王 立 タ イ 警 察 に よ る 海 賊 版 光 デ
ィ ス ク の 製 造 工 場 に 対 す る 強 制 捜 査 に も 引 き 続 き 協 力 し て い ま す 。ま た 、タ イ 映
画協会はタイの映画業界が行っているタイにおいて世界知的所有権の日を推進
する取組みをしていることを賞賛しています。
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テレビ番組業界では著作権侵害に対してどのような活動をしていますか。
テレビ番組業界には、著作権侵害に対する大きな活動はありません。
タ イ ・ テ レ ビ ジ ョ ン ・ プ ー ル ( TPT) は タ イ 政 府 が 設 立 し 運 営 し て い る 協 会 で
あ り 、タ イ 全 土 で の 無 料 放 送 の 配 給 を 監 視 し て い ま す 。そ の メ ン バ ー は 、い く つ
か の ケ ー ブ ル 局 と タ イ で 無 料 視 聴 で き る 主 要 局 で 構 成 さ れ て い ま す 。タ イ・テ レ
ビ ジ ョ ン ・ プ ー ル ( TPT) は 、 タ イ の 地 元 チ ャ ン ネ ル で 海 外 番 組 を 放 送 で き る よ
う 海 外 番 組 の 著 作 権 者 と 調 整 す る 等 の 活 動 を 行 っ て い ま す が 、そ の よ う な 番 組 の
著作権侵害に対する活動は特に行っていないようです。
アニメ・ゲーム業界では著作権侵害に対してどのような活動をしていますか。
タ イ・ア ニ メ ー シ ョ ン・CG 協 会( TACGA)は 2006 年 に 設 立 さ れ 、ICT 省 、商 務
省 及 び 工 業 省 か ら 強 い 支 援 を 受 け て い ま す 。 タ イ ・ ア ニ メ ー シ ョ ン ・ CG 協 会
( TACGA)に は 50 人 以 上 の 法 人 会 員 と 数 百 の 個 人 会 員 が 所 属 し 、主 と し て 展 示 会 、
受賞式展又はその他のイベントを通じて創造産業としてのアニメを促進させる
こ と を 目 的 と し て い ま す 。タ イ ・ ア ニ メ ー シ ョ ン ・ CG 協 会( TACGA)は 、著 作 権
侵 害 へ の 対 応 に 重 点 を 置 い て い る わ け で は あ り ま せ ん が 、前 述 し た「 創 造 的 経 済
戦 略 」を 実 施 す る イ ベ ン ト に は 参 加 し て お り 、同 戦 略 で は 、知 的 財 産 権 に 関 す る
国 民 の 意 識 を 高 め 、ま た 、知 的 財 産 権 に 関 す る 教 育 計 画 を 支 援 す る こ と に も 重 点
が置かれています。
音楽業界では著作権侵害に対してどのような活動をしていますか。
タイの音楽業界には主として海外音楽の著作権管理を行う団体が 3 つありま
す 。ミ ュ ー ジ ッ ク・コ ピ ー ラ イ ト・タ イ ラ ン ド( MCT)、フ ォ ノ ラ イ ツ( Phonorights)、
そ し て 、 こ れ ら 2 団 体 の 共 同 出 資 に よ っ て 設 立 さ れ た MPC ミ ュ ー ジ ッ ク ( MPC)
の 3 団 体 で す 。こ れ ら 3 団 体 に 関 し て は 第 Ⅳ 章「 1 1 .タ イ に お け る 著 作 権 の 集
中 管 理 」で 説 明 し ま す が 、い ず れ の 団 体 も 積 極 的 に 著 作 権 侵 害 に 対 し て 対 処 し て
いるわけではありません。
他 方 で 、タ イ に お け る 主 要 な 音 楽 の 著 作 権 者 は 、著 作 権 侵 害 に 対 抗 す る た め の
取 組 み に 積 極 的 に 関 与 し て い ま す 。と り わ け 、RS プ ロ モ ー シ ョ ン 、GMM グ ラ ミ ー
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及 び ソ ニ ー・ミ ュ ー ジ ッ ク・タ イ ラ ン ド は 、前 述 の 撲 滅 作 戦 の よ う な 注 目 を 浴 び
る 強 制 捜 査 に 関 連 し て 経 済 犯 罪 取 締 部 ( ECD) と 連 携 し て い ま す 。
ま た 、タ イ・エ ン タ ー テ イ ン メ ン ト・コ ン テ ン ツ 協 会( TECA)は 、タ イ に お け
る ト レ ン ト ト ラ ッ カ ー サ イ ト や サ イ バ ー・ロ ッ カ ー の 利 用 取 締 り に 取 り 組 ん で い
ます。
音楽産業における著作権に関する侵害は、海賊版音楽の製造販売だけでなく、
著 作 物 の ロ イ ヤ ル テ ィ の 徴 収 の 面 で も 起 こ っ て い ま す 。特 に カ ラ オ ケ パ ー ラ ー や
他 の 娯 楽 施 設 を 運 営 す る 民 間 企 業 は 、著 作 権 者 で な い 者 が 当 該 娯 楽 施 設 で 流 れ て
いる音楽の著作権者を装ってロイヤルティの支払を不当に要求してくることが
あると訴えています。
確 か に 、タ イ に お い て は 、音 楽 の 著 作 権 を 管 理 す る 団 体 の 設 立 手 続 等 は 決 め ら
れ て い な い こ と か ら 容 易 に 設 立 が 可 能 で あ り 、設 立 さ れ た 団 体 に よ り 強 引 な ロ イ
ヤ ル テ ィ の 徴 収 、場 合 に よ っ て は 不 当 な ロ イ ヤ ル テ ィ の 徴 収 が 行 わ れ て い る 状 況
に あ り ま す 。こ れ に 対 応 す る た め に 、管 理 団 体 の 設 立 等 に つ い て の 規 定 を 著 作 権
法に盛り込む動きはありましたが、特に海外の著作権者からの強い反対を受け、
成 立 に は 至 り ま せ ん で し た 5。 代 わ り に 、 当 面 の 措 置 と し て 、 商 務 省 が 、 音 楽 の
著 作 権 に 基 づ く ロ イ ヤ ル テ ィ を 商 品 役 務 価 格 法 所 定 の 商 品 又 は 役 務 に 指 定 し 、同
法 に 基 づ く 規 制 を し て い ま す 。す な わ ち 、ロ イ ヤ ル テ ィ を 徴 収 し よ う と す る 団 体
は 、 商 務 省 事 業 開 発 局 ( DBD) の 手 続 に 従 い 法 人 を 設 立 し た 後 、 遅 く と も ロ イ ヤ
ル テ ィ を 徴 収 す る 45 日 前 ま で に 商 務 省 国 内 取 引 局( DIT)が 管 轄 す る 商 品 役 務 価
格 中 央 委 員 会 ( CCP) に 対 し て 当 該 法 人 ( 又 は そ の 会 員 ) が 著 作 権 を 有 す る 全 楽
曲 の リ ス ト 及 び そ の ロ イ ヤ ル テ ィ 率 の 届 出 を 行 う 必 要 が あ り ま す 。商 品 役 務 価 格
中 央 委 員 会 は 、国 内 取 引 局 に よ っ て 商 品 役 務 価 格 法 に 基 づ き 設 置 さ れ 、音 楽 著 作
権に対するロイヤルティを含めた指定商品及び指定役務の価格を統制する権限
を有しています。
5
著 作 物 に 関 し ロ イ ヤ ル テ ィ を 徴 収 し よ う と す る 者 に 対 し 、事 業 を 法 人 組 織 と し 、徴 収 会 社( collecting
company) と 呼 ば れ る 有 限 責 任 会 社 を 設 立 す る こ と 、 さ ら に 法 改 正 に よ り 設 立 さ れ る 委 員 会 か ら 許 可 を
得 る こ と を 義 務 付 け る 著 作 権 法 改 正 案 が 提 案 さ れ ま し た が 、海 外 の 著 作 権 者 に 対 し て ロ イ ヤ ル テ ィ を 徴
収 す る 新 し い 徴 収 会 社 の 設 立 を 要 求 す る も の で あ る た め 、こ れ ら の 企 業 等 か ら の 反 対 を 受 け 、成 立 に は
至りませんでした。
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