◎この男とは友だちになりたくない 「トゥーランドット」のカラフ だれかを好きになると、男はこんなにも身勝手になれるものか、とあきれないでいられないのが、 カラフのケースである。 カラフを慕っている女がいる。名前をリュウという。リュウは奴隷である。カラフによせるリュウ の気持には、ほろりとさせられるようなところがある。リュウのカラフへの愛は、まことにけなげで ある。 にもかかわらず、阿呆なカラフは、すがるリュウをしりぞけ、高慢な王女トゥーランドットに求愛 する。トゥーランドットは、高慢なだけではなく、そのとげとげした口調やぎすぎすした表情から判 断するかぎり、不感症気味の女である。 なにを好んで、カラフが、可憐なリュウを棄て、氷のような女トゥーランドットを選ぶのか、プッ チーニのオペラ「トゥーランドット」をきいているかぎりでは、よくわからない。しかしながら、と もかくカラフは、自分の命を賭して、トゥーランドットに求愛する。 彼がどんな女を好きになろうと、はたからとやかくいえることではない。周囲で似たようなことの 起こることがまんざらないわけではない。あいつは、いったい、なにを考えているんだ。冷静に考え れば、あっちのほうがいいにきまっているのに、とまわりのみんながいっているのに、あっちではな くこっちを選ぶ男はいる。 カラフの気持には、ほだされる、ということがまったくなかったのであろうか。ここが、カラフと いう男に対する第一の疑問点である。好かれれば好きになれるのが人情ではなかったか、と考えたり もする。まして、カラフの身を守るために自害さえ辞さなかったことからもあきらかなように、カラ フを思うリュウの気持は、半端ではなかったのである。 結局、カラフは、見事、トゥーランドットと結婚するのであるから、カラフは、初志貫徹したこと になる。にもかかわらず、リュウのけなげな愛に思いの残る純情派のききてとしては、オペラ「トゥ ーランドット」の結末をどうも喜べない。 あんなにお前のことを好いてくれたリュウを自害させておいて、そのあげくトゥーランドットと嬉 しそうにしているとは、お前は男の風上にもおけない野郎だ、などと、わけもわからずいきりたった りする。 初志貫徹は立派なおこないにはちがいないが、たとえ機会があってしりあったとしても、ぼくは、 このカラフという男とは友だちになりたくない。
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