児童期の仲間関係の発達的変化 ― 「友だち」作文の分析を通して ―

児童期の仲間関係の発達的変化
― 「友だち」作文の分析を通して ―
The Developmental Changes of Peer Relationship in Elementary School Children: Analysis of
Written Composition about “Friends”
吉野 さやか
Sayaka YOSHINO
1.問題と目的
子どもは、家庭や保育所、幼稚園、学校、地域などを通して、様々な人との関わりを経験していく。
子どもが経験する人間関係の中でも、特に、子ども同士の遊びやいざこざといった活動における相
互作用は、子どもの自他の発達、とりわけ社会性の発達において重要な役割を果たすと考えられる。
同年齢や異年齢の子ども同士の関わりである仲間関係の発達は、幼児期以降、学齢期の対人能力
の発達へとつながっていく(長谷部・日比・山岸,2011)。松丸・吉川(2009)によると、「仲間」
とは、「自分と年齢が近く、身体的・心理的・社会的に類似した立場によるもの」である。乳児期
では、お互いのやり取りを通して自他の認識を発達させ、「大人との間には生じにくい多様な情緒
の発生をみ、発達させ、その統制を学ぶこと」(川井・恒次・大藪・金子・白川・二木,1983)が
仲間関係のもつ役割であるとされる。幼児期になると、「社会的世界」(松丸ら,2009)を少しずつ
広げていき、
「①他者理解・共感、②社会的カテゴリーの理解、③社会的規則の理解、④コミュニケー
ション能力、⑤自己統制能力」(松丸ら,2009)を仲間とのやり取りを通して身につけるとされる。
すなわち、乳・幼児期に、仲間との様々なやり取りを通して対人関係の基礎を培い、その後、児童
期・青年期に質的に大きく変化させていくと考えられる。
児童期・青年期といった学齢期の子どもにとって、仲間は一日の半分以上を一緒に過ごす大切な
人間関係となる(井上・久保,1997)。学齢期の初期段階である児童期は、それまでの家族という
小さな社会から、学校というより大きな社会へと踏み出す時期であり、多くを学ぶ重要な時期であ
るとも言える。児童期になると、幼児期までの親子関係を中心とした家族関係から、仲間関係へと
対人関係が広がっていく。特に、仲間関係への関係性の広がりは、垂直的な人間関係(タテのつな
がり)から水平的な人間関係(ヨコのつながり)への広がりともいうことができ、庇護的な人間関
係から対等な人間関係へと質的に転換していくことを意味する(小石,1995)。児童期の子どもは、
対等な立場である仲間から多くの影響を受け、知識や技能、対人関係、道徳性などを、学校教育や
仲間との関わり合いによって習得し、心身ともに大きく成長していく。また、仲間関係についての
認識は、低学年から高学年の間に、単なる「遊び友達」から、
「自分にとって魅力のある特性を持っ
た仲間」として、また、
「相互的親密性に基づいた関係」としての認識へと変化していく(岡村・青木・
糸井・田口,1996)。
遠藤(1989)によると、低学年の子どもにおける仲間関係の認識は、具体的な行為をもとに定義
― 91 ―
されるものであるとされる。すなわち、「友だち」とは、何かの活動を一緒に行う仲間であるとし、
行動をともにする時間が多い相手が友だちであり、時間を共有すればするほど親しくなると考えて
いる。従って、低学年の子どもは、自分を中心として仲間関係を捉え、表面的な行動レベルでの理
解にとどまっていると言える。一方、高学年になると、低学年と同様に、行動をともにすることが
仲間関係の形成や維持のために重要であっても、その内容や質を重視するということに違いがある
ことが指摘されている(e.g., 遠藤,1989)。高学年になると、お互いの考えや感情を理解し、共有
するといった内面的な関係を徐々に築くようになり、発達とともに自分と相手との違いも認めてい
けるようになる。すなわち、学年が上がるにつれ、物理的な近接や相手の好意的な行動を重視した
表面的な関係から、相手の性格や相手との類似性を重視した内面的な関係へと変化していくことが
わかる。また、低学年では相手のポジティブな側面のみ強調されるのに対し、高学年では相手のネ
ガティブな側面にも言及するようになること(明田,1995)、学年が上がるにつれて、親しい友だ
ちに対して表面的な自己開示をするだけでなく、内面的な自己開示も多く示すようになること(渡
部・佐々木,1996)、さらに、仲間関係の発達的変化を大きく捉えてみると、一時的関係から持続
的関係へ、功利的・自己中心的関係から互恵的関係へ、行動的・表面的関係から共感的・人格的・
内面的関係へと変化していくこと(遠藤,1990)なども指摘されている。以上を踏まえると、児童
期の間に、仲間関係は徐々に安定したものへと質的に変化していくことがうかがえる。
Bowlbyは、子どもが親との日常生活を通して、徐々に他者と自分に関する表象モデルを作り上
げ、それに従って、親子関係以外の人間関係に対して行動プランニングを行うようになるとしてい
る。すなわち、親との愛着関係が信頼と安心に満ちたものであるとき、仲間関係などの対人関係は
スムーズに展開していく可能性が高いという。また、Lieberman(1977)は、仲間関係は親子関係
の影響を受けるとした漸成説を唱え、Ainsworthの愛着モデルを元に、肯定的かつ安定した親子の
愛着関係を形成することで、仲間に対しても積極的・肯定的に働きかけることができ、向社会的・
共感的な行動もより多いとした。一方、Lewis(1983)は、親子関係と仲間関係とは基本的に独立
であるとした社会的ネットワーク理論を唱え、親子の愛着関係が不安定であっても、仲間関係は調
和的で安定したものになることが充分に考えられるとした。すなわち、子どもは誕生時から親だけ
でなく、様々な社会的ネットワークである人間関係の中で育ち、それぞれの人間関係から別々のも
のを経験し、獲得するとした考え方である。人間は生まれながらに関係的なものであるとしたこの
ような視点は重要であると考えられ、その関係の質は、関係を結ぶ相手や年齢の変化によっても異
なることがうかがえる。密度の濃い乳・幼児期の親子関係が、その後の人間関係の特徴を決定的に
規定するとはいえないが、親子関係と仲間関係が相互に影響し合うと考えるのは自然である(森下,
2004)と考えられる。いずれにせよ、仲間関係は、人が社会的な存在として発達していくためには
欠かせないものであると言える。
児童期の仲間関係の発達に関しては、これまでに多くの研究が行われてきた。たとえば、青木・
岡村・田口・糸井(2001)は、小学1年生から6年生を対象として、「友だち」という題で作文を
書かせ、児童の友人関係の認識における、学年による変化を検討した。その結果、具体的なエピソー
ドの記述は低学年で多く、関係性に関する記述は高学年で多くなること、また、学年が上がるにつ
れて、友人関係をとらえる視点が多様になっていくことを明らかにしている。また、性差に関して
― 92 ―
上瀬(2000)は、「男子は遊びの友人をともに遊ぶ仲間と位置づけ、遊びのツールを媒介としなが
ら、リーダーが生じるような大きな集団を作っていく。一方女子は、少数の相手と親密な関係を持
ち、共通の話題で話すこと自体を楽しんでいる」と述べている。従って、児童期に、仲間関係にお
ける男女差も明確になっていくのではないかと推測される。
内田(1985)は、作文は書き手の知識に基づいて表現を産み出す過程の産物であり、作文を分析
することによって内部の知識や概念の発達を知ることができると述べている。また、守屋・森・平
崎・坂上(1972)は、自身による認識の明確さの水準は様々であるが、最も明確であるのは、認識
内容を自らが言語的に表現し、客体化した場合であることを述べている。それゆえ、「児童が自発
的に綴った作文の内容は、表現されている内容の範囲内において、児童によって明確に認識されて
いるとみなしうる」(守屋ら,1972)として、作文の分析を通して、児童の自己意識の発達につい
て検討している。また、内田(1990)は、
「作文を書く過程は、あることを伝えるという目標に向かっ
て、自分が伝えたいことと表現とのズレを調整し、最も適切な表現を作り出す目標志向的な一種の
問題解決過程」であるとし、「ことばに転化することによって思想がはっきりしてくるだけでなく、
書く以前には考えてもみなかった表象が新しく生成されることがある」ことを述べている。さらに、
作文を書くことによる「自己内対話によって、思想と表現の調整」(内田,1990)が活発化し、自
己の認識が深まることを指摘している。従って、作文を書くことによって、自己の思考に対する認
識を深めることができ、それを分析することで、より児童の実感にそった認識の検討を可能にする
ことができると考えられる。
そこで本研究では、児童期において大きな意味を持つ仲間関係の発達的変化について、自由に、
かつ自発的に自分の考えを書くことのできる作文の分析を通して考察することを目的とする。仮説
は、以下の通りである。
仮説1 学年が上がるにつれて、表面的な関係よりも内面的な関係がみられる
仮説2 学年が上がるにつれて、自己中心的な関係よりも互恵的関係に関する記述内容が増加す
る
仮説3 学年が上がるにつれて、継続的関係を保とうする表現が増加する
仮説4 学年が上がるにつれて、友だちとは自分にとってどのような存在であるのかという概念
的認知に関する記述が増加する
仮説5 男児よりも女児の方が、より内面的なつながりを強調する内容が多い
2.方法
2- 1.予備調査
作文分析におけるカテゴリーおよび教示文の検討を目的として、予備調査を行った。予備調査は、
神奈川県、埼玉県、東京都内の小学校児童73名(男児37名、女児36名)に参加いただいた。内訳は、
2年生4名(男児4名)、3年生34名(男児17名、女児17名)、4年生2名(男児2名)、5年生31名(男
児14名、女児17名)、6年生2名(女児2名)であった。
実施方法は、学級内で通常使用している作文用紙を用い、授業時間内および放課後に実施した。
教示文は、「友だちと聞いて思いつくこと、感じること、考えることを何でも自由に書いてくだ
― 93 ―
さい。たとえば、楽しいと思ったときのことや、友だちといてうれしかったときのこと、友だちが
いてよかったなと思ったときのことを思い出して書いてください。また作文の題名も好きなように
つけてください。作文の長さも自由です。」とした。学級内で実施した児童については、教示文を
学級担任に口頭で読み上げてもらい、放課後に実施した児童については、実験者が教示文を読み上
げた。
回収した作文は、内容のまとまりごとに分類した。分類カテゴリーは、青木ら(2001)を参考に、
「相
互性」(A:「表面的関係の記述」、B:「内面的関係の記述」)、「互恵性」(C:「功利的・自己中心的
関係の記述」、D:「互恵的関係の記述」)、「継続性」(E:「葛藤への言及」、F:「今後の展望に関す
る記述」)、「重要性」(G:「抽象的記述」、H:「家族との対比」)、I:「特性」の9つを作成した。
A:
「表面的関係の記述」とは、同じクラスである、座席や自宅が近い、共通したおもちゃやゲー
ムのやり取りがある、休み時間や放課後などの時間を共有したり一緒に過ごしたりするなど、空間
や時間の近接や共有、行動の共有といった関係の記述である。B:「内面的関係の記述」とは、相
手の考えや感情といった内面を理解し、共有しようとした関係の記述である。C:「功利的・自己
中心的記述」とは、困ったときに助けてくれるといったように、自分にとって利益のあることを
相手から一方的にしてもらうとした関係の記述である。D:「互恵的関係の記述」とは、一方的で
はなく、協力関係など、お互いに相手に対して働きかける関係の記述である。E:「葛藤への言及」
とは、喧嘩や相手のネガティブな側面などについて触れている記述であり、それらの葛藤を受容
しているものもそうでないものも、すべて含んだ。F:「今後の展望に関する記述」とは、現在の
友だちとの具体的・抽象的な未来像や、将来において育まれるであろう友だちとの関係などといっ
た、この先の関係性について触れた記述である。G:
「抽象的記述」とは、友だちとは自分にとって、
もしくは一般的に、どういう存在であるかといった、「友だち」という概念に対する漠然とした考
えや関係についての記述である。H:「家族との対比」とは、友だちと家族との違いについての記
述や、友だちと家族について比較した記述である。I:
「特性」とは、友だちの名前や、身体的特徴、
性格、趣味、特技などといった、友だちについての具体的な記述である。
予備調査の結果、上述した教示文は各学年とも理解が可能であったため、本調査でも同様の教示
文を用いることとした。また、カテゴリーも、青木ら(2001)と同様に出現・分類可能であったた
め、同カテゴリーを本調査でも使用することにした。
2- 2.本調査
参加者 東京都内および神奈川県内の公立小学校児童153名(男児76名、女児77名)に参加いただ
いた。内訳は、2年生64名(男児33名、女児31名)、4年生35名(男児13名、女児22名)、6年生54
名(男児30名、女児24名)であった。
手続き 「友だち」というテーマで自由に作文を書いてもらった。作文は授業時間内に実施し、作
文の長さ及び内容に関しては、参加者の自主性に任せるため、具体的な指示は行わないよう各学級
担任に依頼した。作文用紙は、各学級で通常使用しているものとし、2年生は15×16行、4年生お
よび6年生は20×20行の作文用紙であった。教示は、予備調査で作成した教示文と同様のものを印
刷して各学級担任に渡し、作文実施前に口頭で読み上げていただいた。
― 94 ―
分 析 回収した作文は、一文単位のプロトコル(主部・述部関係を有する単文)に分解し、各プ
ロトコルを、
「相互性」(A:
「表面的関係の記述」、B:
「内面的関係の記述」)、
「互恵性」(C:
「功利的・
自己中心的関係の記述」、D:「互恵的関係の記述」)、「継続性」(E:「葛藤への言及」、F:「今後の
展望に関する記述」)、
「重要性」(G:
「抽象的記述」、H:
「家族との対比」)、I:
「特性」の各カテゴリー
に分類した。プロトコル一つにつき、一つのカテゴリーに分類し、どのカテゴリーにも当てはまら
ないプロトコルについては分類しなかった。
カテゴリーは、2人の評定者が別々に分類した。評定一致率は75.2%(2年生72.2%、4年生
78.2%、6年生74.9%)であった。不一致であったプロトコルに関しては、協議の上一致させた。
さらに、2年生15名、4年生10名、6年生15名、計40名の作文をそれぞれランダムに抽出し、第三
者に評定を依頼したところ、評定一致率は86.96%(2年生70.9%、4年生87.7%、6年生90.9%)であっ
た。なお、9つのカテゴリーの内、予備調査では20%の出現が見られたカテゴリー「家族との対比」
(予備調査時カテゴリー H)に分類されたプロトコルは、わずか5%の出現率であった。そのため、
以後の分析からは除くことにした。
3.結果
3- 1.プロトコル数
本研究では、作文の長さを規定せずに自由に作文を書かせたため、産出されたプロトコル数の個
人差が大きくなった。各学年の平均プロトコル数は2年生3.77文、4年生8.40文、6年生13.07文で
あった。0~4文の少数群、5~ 12文の中間群、13 ~ 36文の多数群に分けて比較したところ、2
年生は少数群、4年生は中間群、6年生は多数群が有意に多く(χ2=82.18,df =4,2年生:p <.01,
4年生:p <.10,6年生:p <.01)、学年とともに作文量が増加した。また、女児で多数群が有意に
多く(χ2=4.50,df =2,p <.05)、男児よりも女児の方がより多くの文を書いていた。
3- 2.カテゴリー出現率
各カテゴリーについて、プロトコル出現数と、学年ごとに総プロトコル数で割った出現率を算出
した。プロトコル出現率は、総プロトコル数を分母、出現数を分子として算出した。Table 1に、
出現数および出現率を示した。
学年別のプロトコル出現率は、2年生では、
「表面的関係」が19.92%と最も多かった。次いで、
「内
面的関係」(14.11%)、「特性」(12.86%)、「功利的・自己中心的関係」(12.03%)であった。その他
のカテゴリーに関しては言及が少なく、男児では「互恵的関係」、女児では「葛藤への言及」および「今
後の展望」は見られなかった。4年生では、
「特性」が14.29%と最も多かった。次いで、
「表面的関係」
および「葛藤への言及」(9.86%)、「内面的関係」(9.52%)であった。6年生では、「功利的・自己
中心的関係」が13.88%と最も多かった。次いで、
「内面的関係」
(11.76%)、
「葛藤への言及」
(10.62%)
であった。「特性」は0.99%と最も少なかった。各学年の特徴として、2年生では「表面的関係」や「特
性」といった具体的な記述が多く、4年生では「葛藤」への言及の増加、6年生では「特性」を除
く全カテゴリーが一定割合出現していた。
また、児童一人あたりのカテゴリー数は、2年生2.33(SD =0.93)、4年生3.49(SD =1.89)、6年生4.89
― 95 ―
(SD =1.75)であり、分散分析の結果、学年とともに有意に増加した。
Table 1 カテゴリー出現数および出現率
表面的関係 内面的関係 功利的関係 互恵的関係 葛藤への言及 今後の展望 抽象的記述
男児
度数
女児
2 年 生
%
度数
%
合計
度数
%
男児
度数
女児
4 年 生
%
度数
%
合計
度数
%
男児
度数
女児
6 年 生
%
度数
%
合計
度数
%
特 性
な し
19
23
12
0
4
3
2
19
32
16.67%
20.18%
10.53%
0.00%
3.51%
2.63%
1.75%
16.67%
28.07%
29
11
17
2
0
0
3
12
53
22.83%
8.66%
13.39%
1.57%
0.00%
0.00%
2.36%
9.45%
41.73%
48
34
29
2
4
3
5
31
85
19.92%
14.11%
12.03%
0.83%
1.66%
1.24%
2.07%
12.86%
35.27%
13
7
5
3
2
4
1
12
34
16.05%
8.64%
6.17%
3.70%
2.47%
4.94%
1.23%
14.81%
41.98%
16
21
19
1
27
7
11
30
81
7.51%
9.86%
8.92%
0.47%
12.68%
3.29%
5.16%
14.08%
38.03%
29
28
24
4
29
11
12
42
115
9.86%
9.52%
8.16%
1.36%
9.86%
3.74%
4.08%
14.29%
39.12%
19
43
48
15
27
17
22
6
129
5.83%
13.19%
14.72%
4.60%
8.28%
5.21%
6.75%
1.84%
39.57%
25
40
50
15
48
27
18
1
156
6.58%
10.53%
13.16%
3.95%
12.63%
7.11%
4.74%
0.26%
41.05%
44
83
98
30
75
44
40
7
285
6.23%
11.76%
13.88%
4.25%
10.62%
6.23%
5.67%
0.99%
40.37%
3- 3.各カテゴリーにおける学年差の検討
各カテゴリーの学年差を検討したところ、「内面的関係」(χ2=9.39,df =2,p <.05)、「功利的・
自己中心的関係」(χ2=27.06,df =2,p <.01)、「互恵的関係」(χ2=26.64,df =2,p <.01)、「葛
藤への言及」(χ2=37.12,df =2,p <.01)、「今後の展望」(χ2=49.36,df =2,p <.01)、「抽象的
記述」(χ2=21.48,df =2,p <.01)において、2年生と6年生でそれぞれ有意差が見られた。「特性」
(χ2=27.52,df =2,p <.05)は2年生、4年生、6年生のすべてで有意差が見られた。「表面的関
係」は有意差が見られなかった。下位検定の結果、「内面的関係」、「功利的・自己中心的関係」、「互
恵的関係」、「葛藤への言及」、「今後の展望」、「抽象的記述」は2年生よりも6年生の方が、「特性」
は2年生および4年生の方が、6年生よりも有意に多かった。各カテゴリーにおけるプロトコル例
を、Table 2に示した。
プロトコル数における同等性の検定を行ったところ、「表面的関係」と「内面的関係」では、2
年生で「表面的関係」の記述が、6年生で「内面的関係」の記述が有意に多かった(χ2=12.32,
df =2,p <.01)。また、「功利的・自己中心的関係」と「互恵的関係」では、2年生で「功利的・自
己中心的関係」の記述が、6年生で「互恵的関係」の記述が有意に多かった。
3- 4.各カテゴリーにおける性差の検討
全学年および学年ごとに性差を検討した。全学年を総合して男女を比較すると、女児で「功利的・
自己中心的関係」が有意に多かった(χ2=3.46,df =1,p <.10)。学年ごとの性差では、2年生で
― 96 ―
は「内面的関係」(χ2=3.35,
df =1,
p <.10)および「葛藤への言及」(χ2=2.96,
df =1,
p <.10)で、
女児よりも男児の方が有意に多かった。4年生では「葛藤への言及」が男児よりも女児の方が有意
に多く(χ2=4.19,df =1,p <.05)、2年生と男女が逆転した。6年生では「今後の展望」で男児
よりも女児の方が有意に多かった(χ2=5.93,df =1,p <.05)。
Table 2 各カテゴリーにおけるプロトコル例
A:表面的関係の記述
「やすみじかんのときやひるやすみのとき、教室でじゆうちょうやあやとりとおりがみとてあそびをしてあそぶとた
のしい。」(2 年女児)
「私はよくある友達と毎日のように遊んでいます。」(6年女児)
B:内面的関係の記述
「私は友達といて楽しかったり温かい気持ちになる事があります。」(6年女児)
「友達と話をすると、友達の気持ちがわかる。その人のせいかくがわかる。」(6年男児)
C:功利的・自己中心的関係の記述
「ぼくは、友だちい(に)いろなこと(いろいろなこと)をおしえてくれてとくにべんきょうをおしえてくれてせんせ
いもおしえてくれてとてもとてもうれしいと思っています。」(2年男児)
「わたしが友だちがいてよかったなぁと思ったのは、わたしがないている時、友だちがなぐさめてくれたり、はげま
してくれたりしたからうれしかった。」(4年女児)
「ときには相談相手になってくれるので、すごく助かります。」(6年女児)
D:互恵的関係の記述
「ぼくは友達にいろいろなことをしてもらったりしているのでぼくも友達の役に立つようなことをしたいと思いま
す。」(6年男児)
「その友達といろいろなことで協力して何かをこなしていったら友情がふかまります。」(6年男児)
E:葛藤への言及
「う(ふ)しぎなことは○○くんとけんかしたあとにいつもあそんでることがふしぎです。」(2年男児)
「よく話す人とは遊ぶことも多いしその分ケンカもある。」(6年男児)
「ときには、ケンカもする。でもそれは嫌いだからじゃない。たぶん好きだからケンカだって、できるんだと思う。」
(6
年女児)
「少し苦手な子でも良い所をたくさん見つけて行きたいと思いました。」(6年女児)
F:今後の展望
「これからもその仲間たちと学校生活を送るのが楽しみです。」(6年女児)
「私は大きくなっても友達の事を大切にしたいと思います。そして友達といつまでも仲良くしていたいです。」(6年
女児)
G:抽象的記述
「私にとって、友達は元気の『みなもと』みたいなものです。」(6年女児)
「ぼくは、友達と言う言葉をきくと、人の気持ちを考えてくれるのが、本当の友達だと思います。」(6年男児)
H:特性
「○○くんや△△くんや□□くんや●●くんや▲▲くんが1ばんの友だちです。」(2年男児)
「○○君はリフティングが得意です。」(4年男児)
「○○ちゃんは、サッパリしてていい。△△ちゃんは、うんどうしんけいいいし、スッキリしてていい。□□ちゃんは、
やさしいし、かっこいいし、私のあこがれの人。」(4年女児)
4.考察
4- 1.仮説の検討
「表面的関係」では学年差は有意ではなかった。しかし、「表面的関係」のプロトコル出現率は、
2年生19.92%、4年生9.86%、6年生6.23%であり、2年生では文章全体として「表面的関係」の占
める割合が大きかった。一方、「内面的関係」は2年生で有意に少なく、6年生で有意に多かった。
すなわち、6年生に特徴的なカテゴリーであると言える。また、同等性の検定の結果、2年生では「表
― 97 ―
面的関係」が、6年生では「内面的関係」が、それぞれ有意に多かった。従って、仮説1は支持さ
れた。すなわち、高学年になると、友だちとの具体的なやりとりや物理的な近接・共有、行動の共
有だけでなく、相手の考えや感情などといった内面への理解を深め、共有しようとしていることが
示された。これは、高学年になると、友だちと過ごすことの意義が、単に行動をともにする楽しさ
からより内面的な充実感へと移行するとした青木ら(2001)を支持する結果となった。
「功利的・自己中心的関係」、「互恵的関係」は、いずれも6年生で有意に多くみられた。「功利的・
自己中心的関係」に言及した児童の割合は、2年生31.3%、4年生40.0%、6年生77.8%であった。一方、
「互恵的関係」に言及した児童の割合は、2年生3.1%、4年生8.6%、6年生37.0%であった。従って、
「自己中心的関係」は、高学年になるほど多く言及しているのに対し、「互恵的関係」は2年生、4
年生ではほとんど言及していないことが示され、仮説2が支持された。また、同等性の検定の結果、
2年生では「功利的・自己中心的関係」が、6年生では「互恵的関係」が有意に多かった。すなわ
ち、高学年になるにつれ、自己中心的側面と互恵的側面への両方の意識が高まるのではないかと推
測される。友だちから得られる援助に対する理解やそれに伴う感謝などの気持ちは低学年から認識
されており、援助や励ましは友だちの存在意義の重要な要素とされる。また、6年生になり、学校
での行事や学級活動、またはそれ以外の場面で中心となって責任を果たすような経験を繰り返す中
で、対等に力を合わせられる仲間への意識が育まれていくのかもしれない。そういった経験は、自
分も何かを与えられる存在であるとした認識を促すのであろう。
仮説3について、継続性を保とうとする表現は、
「葛藤への言及」および「今後の展望に関する記述」
に見出される。両者の出現傾向をみると、6年生に多くみられた。6年生では、友だち同士のネガ
ティブな側面も受け入れようとする視点や、「これからも友だちを大事にしたい」といったように、
現在や過去のことだけでなく、未来を想定した関係を捉える視点も生じていた。従って、友だちと
の関係を今後も続いていく関係として認識していることが示され、仮説3は支持された。
仮説4について、「抽象的記述」の増加および「特性」の減少によって、友だちが自分にとって
どのような存在であるかを概念的・抽象的に捉えていると考えられる。そこで、「抽象的記述」お
よび「特性」の出現率をながめた。その結果、「抽象的記述」は6年生に多く、2年生および4年
生では「特性」が多くみられた。2年生、4年生では、名前や特徴を記述するなど、自分の友だち
について具体的に想定しているのに対し、6年生では、自分にとって友だちとはどのような存在で
あるかといったように、概念的・抽象的に友だちについて考えることができるようになると言える。
従って、仮説4は支持された。青木ら(2001)でも、高学年になると友人関係の重要性が概念とし
て抽象化されていくことを見出しており、これを支持する結果となった。また、青木ら(2001)は、
「特性」の記述が中学年に特徴的であることを示している。本研究では、出現率は2年生と4年生
で有意な差がみられなかったものの、「特性」は4年生の中で最も多くみられたカテゴリーであり、
プロトコル出現率も最大であった。従って、「特性」は中学年に特徴的なカテゴリーではないかと
推測される。
仮説5について、「内面的関係」の全学年を通した検討においては、男児と女児とでは有意差が
みられず、仮説5は支持されなかった。しかし、
「功利的・自己中心的関係」において性差がみられ、
女児で有意に多かった。このカテゴリーには、友だちから得られる援助に対する喜びや感謝の気持
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ちも表現されていたことから、女児の、表面的ではない親密な関係を表しているとも考えられる。
また、学年別に検討したところ、2年生では、「内面的関係」と「葛藤への言及」において女児よ
りも男児の方が有意に多かった。2年生は活発な集団遊びへの関心が強まる年代であり、思うよう
にならなくても我慢して集団遊びを続ける傾向が強まり、特に、男児は女児よりも多く喧嘩をする
とも指摘されている(高野,1978)。従って、2年生の男児は女児に比べて喧嘩などの葛藤状況に
直面することが増えるため、葛藤について言及した記述が多くなったのではないだろうか。さらに、
そういった自己主張のぶつかり合いが、内面的な理解や共感にもつながっていくのかもしれない。
また、4年生では「葛藤への言及」が、6年生では「今後の展望」が、女児で有意に多かった。上
瀬(2000)によると、
「男子は共行動を重視し、女子では親密な開示と相互依存が重視され」るとある。
すなわち、女児は男児に比べて、限られた友だちと協調的で継続的な関係を継続していこうとする
傾向があるのではないかと推測される。また、「今後の展望」は、文章の構成として、作文の結び
に表現されることが多かった。言語発達の男女差については、書きことば・読みことばにおいて決
定的とは言えないものの、女児が優勢になってくるという。東(1982)は、「書く行為においては
男児が女児よりも苦手、不得意であるといえそうだ」と述べており、本研究においても、プロトコ
ル数を比較すると、女児の方が男児と比べて文章量が多いことがわかる。従って、女児の方が作文
をバランスよくまとめあげるということを意識した書き方をしているのではないだろうか。上述し
たような作文のまとめ方の違いも、このカテゴリーで性差がみられたことと関係しているのではな
いかと示唆される。
4- 2.学年の特徴および発達的変化
2年生では、「表面的関係」、「内面的関係」、「特性」の記述が多くみられた。すなわち、2年生
の仲間関係は、
「友だちと同じ時間を共有する」、
「一緒に遊ぶ」、
「一緒に楽しむ」関係のようである。
4年生では、「特性」、「表面的関係」、「葛藤」の記述が多くみられた。「特性」について、2年生に
よる記述と比較すると、2年生では「一番の友だちは○○」「△△君と遊ぶと楽しい」といった名
前の記述にとどまっているのに対し、4年生では、「□□ちゃんは強くてやさしい」といった、そ
の子がどんな子であるのかという友だちの個性についての言及が見受けられる。従って、2年生に
おける仲間関係は、
「誰が友だちなのか」ということが友だち関係の中で重要になってくるのに対し、
4年生における仲間関係は、自分の友だちとは誰であり、どういった特徴を持っているのかといっ
た、友だちの個性を重視した関係のようである。6年生では、「功利的・自己中心的関係」、「内面
的関係」、「葛藤の」記述が多くみられた。従って、6年生は、友だちについて一般的に捉え、友だ
ちとの関わりを通して何を得るかという視点や、友だちについての多面的な視点を持った上で、仲
間関係を築いているのだろうと推測される。
また、一人当たりの児童が言及したカテゴリー数は、学年が上がるにつれて増加した。すなわち、
学年が上がるとともに、仲間関係に関する視点が多様化していくことが示唆される。
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4- 3.今後の課題
本研究の問題点として、カテゴリーの曖昧さが挙げられる。児童の表現方法は多様であり、カテ
ゴリーの一致率が高くなかったのは事実である。また、カテゴリーに当てはまらないプロトコルを
扱うことができず、実際はさらに多様な視点で友だちについて書かれていた。たとえば、6年生で
は「本当の」友だちとそうではない友だちを分けて表現した記述(「本当の友達はいないのかもし
れない、とこわくなりました。(6年女児)」、「自分が相手を本当の友達と思っていても相手は違う
かもしれない。(6年男児)」)や、友だちを理想像として捉える記述(「人はそれぞれ性格などが違
うので、私もこの人みたいになりたいなぁとあこがれる時があります。(6年女児)」)も見られたが、
そのような表現を、本研究では扱いきることができなかったのが残念である。
今後の課題として、第一に、本研究では性差に関する仮説が支持されず、学年ごとにも性差がみ
られた。学年ごとの人数を増やし、引き続き検討していきたい。第二に、6年生では「T君」「あ
る友だち」といったように名前を伏せて表現することも多く(「幼ち園のころからの親友Aと遊ん
でいたのだが(6年男児)」)、このような記述も高学年に特徴的であると考えられ、興味深い。今
後は、より詳細に各記述を検討していく必要があるだろう。第三に、予備調査では「家族との対比」
に関する記述がみられたが、本調査ではほとんど言及がなかった。これに関して、学校や学級での
指導も仲間関係の認識に影響しているのではないかと示唆される。従って、授業内容や学級運営と
の関連についても、今後検討していきたい。
児童の作文表現は、想像以上に豊かで幅広いものであった。研究者の視点によるカテゴリーの設
定や分析方法によって、さらに深く、かつ多面的に仲間関係を理解できるだろうと推測される。今
後はさらに幅広い視野をもった検討を重ね、児童期を中心とした仲間関係の発達的変化についての
示唆を得たい。
謝辞
本論文の執筆にあたり、多くの方々にお力添えいただきました。予備調査にご協力いただきまし
た小学校の先生方ならびに児童の皆様、尽力下さった剣友会の先生方、保護者の皆様、子どもたち、
本調査にご協力いただきました小学校の先生方および児童の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し
上げます。また、本論文の研究計画から執筆に至るまで、お忙しい中多くの時間を割いてくださっ
た、東京女子大学 平林秀美准教授、同 前川あさ美教授、同期生の泉真樹子さんに、心より感謝
いたします。ありがとうございました。
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