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2 - - 3 - - 4 - 一般講演 I No.1-16 14:40-17:20 2015年学会賞受賞講演 2015年奨励賞受賞講演 理事会 評議員会 12:30-13:20 3号館教授会室 企業展示 弥生講堂 (アネックス・セイホク) JRAとの合同懇親会(生協第2食堂) *JRA競走馬に関する 調査研究発表会が 開催されています 14:00-17:30 12:30-13:20 企業提供セミナ― *JRA競走馬に関する 調査研究発表会が 開催されています 10:00-12:15 弥生講堂 (一条ホール) 臨床委員会企画 招待講演 14:10-16:10 2016年奨励賞受賞講演 2016年学会賞受賞講演 企業提供セミナ― 12:00-12:50 定時総会 11:00-11:50 No.26-30 (優秀発表賞候補講演) 一般講演III 一般講演II No.17-25 8:30-10:00 弥生講堂 (一条ホール) 一般講演IV No.31-40 14:20-16:00 (弥生講堂/小会議室) JES編集委員会 臨床委員会企画 症例検討会 8:30-10:30 3号館教授会室 *日本ウマ科学会HP(http://jses.equinst.go.jp)で、JRA競走馬に関する調査研究発表会のプログラムを見ることができます。 *最優秀発表賞・優秀発表賞の表彰を、定時総会の最後に行います。 19:30~ 19:00~ 18:30~ 18:00~ 17:30~ 17:00~ 16:30~ 16:00~ 15:30~ 15:00~ 14:30~ 14:00~ 13:30~ 13:00~ 12:30~ 12:00~ 11:30~ 11:00~ 10:30~ 10:00~ 9:30~ 9:00~ 8:30~ 時間帯 日本ウマ科学会 第29回学術集会 日程 11月 28日(月) 11月 29日(火) 企業展示 弥生講堂 (アネックス・セイホク) 第 29 回学術集会プログラム 11 月 28 日(月曜日) ◎ 企業提供セミナー 12:30-13:20 *詳細は、日本ウマ科学会HPを参照してください。 ○ 理事会・評議員会 ◎ 開会挨拶 (一条ホール) (3 号館教授会室) 12:30-13:20 (理事、評議員の方は、3 号館教授会室にお集まりください。 ) 青木 修 会長 ◎ 2015 年 奨励賞受賞講演 13:25 (3 号館教授会室) 13:30-14:00 (3 号館教授会室) 座長:桑原正貴(東京大学) テーマ:サラブレッドにおける乳酸代謝 講演者:北岡 祐(東京大学) ◎ 2015 年 学会賞受賞講演 14:00-14:30 (3 号館教授会室) 座長:桑原正貴(東京大学) テーマ:ウマ運動生理学研究の現在と歴史 講演者:平賀 敦(JRA 日高育成牧場) (休憩) - 5 - ◎ 一般講演 I 14:40-17:20 (3 号館教授会室) 14:40-15:20 座長:黒澤雅彦(競走馬理化学研究所) 1 サラブレッドの全ゲノム SNP 解析:概要 印南秀樹ほか(総合研究大学院大学・競走馬理化学研究所・JRA 日高育成牧場) 2 サラブレッドの全ゲノム SNP 解析:応用と今後 ジェフリー フォーセットほか(総合研究大学院大学・競走馬理化学研究所 JRA 日高育成牧場) 3 サラブレッドの毛色遺伝子再考 坂本貴洋ほか(東京大学・総合研究大学院大学) 4 後期育成段階にあるサラブレッド種の馬体重への MSTN および LCORL 遺伝子の影響 戸崎晃明ほか(競走馬理化学研究所・JRA 日高育成牧場・JRA 馬事部) 15:20-15:50 座長:青木 修(日本装削蹄協会) 5 ホースセラピーと鍼刺激による癒しの世界 -ハイブリットセラピーの可能性を求めて- 元山宏宇ほか(九州工業大学・ファジィシステム研究所・崇城大学) 6 現役引退競走馬に対する諸外国の取り組み 澤井靖子(ダーレー・ジャパン株式会社) 7 ウマ初心者のためのウェブサイトの構築 堀口尚史(協和病院) 15:50-16:10 座長:加藤史樹(社台ホースクリニック) 8 競走馬における腺部胃潰瘍の有病率と治療後の変化 菅沼俊一ほか(ノーザンファーム) 9 重種馬の胎盤停滞に対し臍帯からの注水処置(Water Infusion 法)を実施した2症例 福本奈津子ほか(家畜改良センター十勝牧場・帯広畜産大学・JRA 日高育成牧場) - 6 - 16:10-16:40 座長:羽田哲朗(JRA 日高育成牧場) 10 慢性蹄葉炎症例に対する MRI ならびに CT 画像診断の検討 乾 智博ほか(帯広畜産大学・麻布大学・JRA 日高育成牧場・JRA 競走馬総合研究 所・東京農工大学) 11 馬の骨シンチグラフィーを日本に導入するための課題 山田一孝(麻布大学) 12 CT検査を行った馬の腸結石の一症例 中前陽子ほか(麻布大学・帯広畜産大学) 16:40-17:20 座長:三角一浩(鹿児島大学) 13 高純度化した骨髄幹細胞の PRP ゲル内移植による関節軟骨再生療法の検討 石原章和ほか(麻布大学) 14 ウマの関節軟骨欠損に対する骨髄由来間葉系幹細胞シートの検討 今村 唯ほか(帯広畜産大学・麻布大学・京都大学) 15 サラブレッド狼歯由来歯髄幹細胞の簡便かつ安定的な培養法の確立 石川真悟ほか(鹿児島大学) 16 社台ホースクリニック馬細胞治療センターの概要 田上正明ほか(社台ホースクリニック) ● 懇親会 18:00-20:00 - 7 - (生協第 2 食堂、2F) 11 月 29 日(火曜日) ◎ 一般講演 II 8:30-10:00 (一条ホール) 8:30-9:10 座長:片山芳也(JRA 競走馬総合研究所) 17 馬の腸内有用菌であるラクトバチルス属細菌を増加させるサラシア属植物の効果 山手寛嗣ほか(山手競走馬診療所・富士フイルム株式会社) 18 腺疫が疑われた慢性感染およびそれに伴う続発症に対して十味敗毒湯を用いて著効の あった 1 例 石井美樹子(クラムボン動物病院) 19 乗用馬の非開放性中足趾節関節亜脱臼の一症例 占部眞子ほか(帯広畜産大学) 20 馬の神経疾患に対する臨床検査と疫学的調査 Inhyung Lee ほか(韓国ソウル大学) 9:10-9:30 座長:桑原正貴(東京大学) 21 使役の違いがウマの唾液中ストレス物質に及ぼす影響 辻 紗希ほか(岩手大学・NPO 法人乗馬とアニマルセラピーを考える会) 22 腕節構成骨骨折時の関節液における酸化ストレスの評価 都築 直ほか(宮崎大学・JRA 美浦トレーニング・センター) 9:30-10:00 座長:佐藤文夫(JRA日高育成牧場) 23 乾草自由採食下のサラブレッドへのビートパルプ給与方法の違いが 採食量、消化率および糞pHに及ぼす影響 松谷陽介ほか(株式会社ホクチク・JRA日高育成牧場・北海道大学) 24 異なる気候環境下において高強度運動を負荷したときの発汗量の変化 松井 朗(JRA 日高育成牧場・JRA 競走馬総合研究所) 25 馬体重および日齢と競走成績との関係について 高橋敏之ほか(JRA 競走馬総合研究所) - 8 - ◎ 一般講演 III 優秀発表賞候補講演 10:05-10:55 (一条ホール) 10:05-10:55 座長:石田信繁(JRA 競走馬総合研究所) 26 脛骨疲労骨折を発症したサラブレッド種育成馬の 7 症例 日高修平ほか(軽種馬育成調教センター) 27 半去勢片側性潜在精巣において抗ミューラー管ホルモン(AMH)の分泌が亢進する病 態の免疫組織化学的検索 光明南潮ほか(日本大学・JRA 日高育成牧場・帯広畜産大学) 28 連続開催の芝馬場と競走中の怪我の関係について 菊地賢一ほか(東邦大学・JRA 競走馬総合研究所) 29 サラブレッド種繁殖牝馬の年齢が産駒の競走成績に及ぼす影響 佐藤文夫ほか(JRA 日高育成牧場・総合研究大学院大学) 30 木曽馬の保全に関わるステークホルダーらの認識 髙須正規ほか(岐阜大学・競走馬理化学研究所・日本福祉大学) ◎ 定時総会 11:00-11:50 (一条ホール) ○ JES 編集会議 12:00-12:50 (一条ホール 会議室) ◎ 企業提供セミナー 12:00-12:50 *詳細は、日本ウマ科学会HPを参照してください。 (一条ホール) ◎ 2016 年 学会賞受賞講演 (一条ホール) 13:00-13:30 座長:楠瀬 良(日本装削蹄協会) テーマ:ウマの蹄病とその治療に関する研究 講演者:桑野睦敏(日本装削蹄協会) - 9 - ◎ 2016 年 奨励賞受賞講演 13:30-14:00 (一条ホール) 座長:佐々木直樹(帯広畜産大学) テーマ:サラブレッドの周術期における酸化ストレスに関する研究 講演者:都築 直(宮崎大学) (休憩) ◎ 一般講演Ⅳ 14:20-16:00 (3 号館教授会室) 14:20-14:50 座長:南保泰雄(帯広畜産大学) 31 交配前後の重輓馬牝馬における子宮頚管の細菌と受胎性の関係 氏家由伽理ほか(帯広畜産大学) 32 重輓馬牝馬における交配直前の血液生化学的性状と受胎性の関係 新倉匡賢ほか(十勝 NOSAI 北部事業所・帯広畜産大学) 33 分娩後初回発情における牝馬の受胎性と産褥期の血清アミロイド A 濃度との関係 千葉暁子ほか(帯広畜産大学・十勝 NOSAI) 14:50-15:20 座長:高橋敏之(JRA 競走馬総合研究所) 34 スマートフォンを用いた軽種馬の歩様解析 山本規洋子ほか(富士通関西中部ネットテック株式会社・ホースベッツ・大阪府 立大学) 35 前肢における著しいコンフォメーション異常が市場および競走成績等に及ぼす影響 宮田健二ほか(JRA 日高育成牧場・JRA 美浦トレーニング・センター・JRA 宮崎育 成牧場・JRA 馬事部・JRA 競馬学校) 36 地方競馬における屈腱炎発症馬の疫学的調査による危険因子の解析 池田耀子ほか(麻布大学) - 10 - 15:20-16:00 座長:楠瀬 良(日本装削蹄協会) 37 日中戦争期における軍馬の戦没状況 ―第 3 師団陸軍獣医の記録から― 大瀧真俊(名城大学) 38 和種馬と草地 ~日本の在来馬とブランド戦略を結び付けるところまで~ 岩田光太(こまの岩田屋) 39 和式鐙 菅野茂雄(日本甲冑武具研究保存会) 40 右側からの乗馬 清水唯弘(騎馬文化史研究者) - 11 - ◎ 臨床委員会企画 症例検討会 8:30-10:30 (3 号館教授会室) 座長:田上正明(社台ホースクリニック) テーマ:馬の呼吸器疾患 パネリスト 1) 椎名紀夫(椎名動物医院) 肺胞出血による閉塞性気管支炎の 1 例 2) 佐藤正人(NOSAI 日高) 背側輪状披裂筋萎縮を超音波で診断した症例群 3) 加藤史樹(社台ホースクリニック) Overground Endoscopy による上部気道疾患の診断 4) 菊地拓也(JRA 美浦トレーニング・センター) 立位内視鏡下レーザー声囊・声帯切除後に重篤な経過をたどった 2 症例 5) 飯森麻衣(JRA 栗東トレーニング・センター) 立位内視鏡下レーザー手術後に披裂軟骨炎および披裂軟骨の外転機能障害を発 症した 1 症例 6) 田上正明(社台ホースクリニック) 99 頭のサラブレッドに発生した上部気道疾患に対する内視鏡下手術 コメンテーター: Norm G. Ducharme DVM, MSc, Diplomate ACVS (James Law Professor of Surgery, Cornell University Hospital for Animals) ◎ 臨床委員会企画 招待講演 14:10-16:10 (一条ホール) 座長:田上正明(社台ホースクリニック) テーマ:ウマの上気道 — 外科手術をはじめとする医療の現在とその最先端 講演者:Norm G. Ducharme DVM, MSc, Diplomate ACVS (James Law Professor of Surgery, Cornell University Hospital for Animals) - 12 - 一 般 講 演 - 13 - 1 サラブレッドの全ゲノム SNP 解析:概要 ○印南秀樹 1)・ジェフリー 1) フォーセット 1)・戸崎晃明 2)・佐藤文夫 3) 総合研究大学院大学先導科学研究科・2)競走馬理化学研究所・3)JRA 日高育成牧場 種を構成する個体群は、様々なレベルで多様性を持っている。サラブレッド で言えば、毛色、体格、性格から競走能力にいたるまで多様であり、その背景 にはゲノムレベルの多様性がある。ATGCからなるDNA配列で構成されるゲノム中 には、無数のSNP(一塩基多型)と呼ばれる塩基サイトがある。そこでは、概ね 2種類の塩基が多型として共存しており、このようなSNPの組み合わせが、複雑 な表現型の多様性を生み出している。したがって、ゲノムレベルでSNPの解析を 行えば、表現型の多様性の原因となるSNPが同定できると考えられる。 本研究では、この全ゲノムSNP解析を日本のサラブレッドを対象に行っている。 そのパイロットワークとして、JRA日高育成牧場で過去6年間において育成され た競走馬およそ350頭において、670,796個のSNPを解読(ジェノタイピング)し たので、その結果の概要を報告する。特定の種牡馬由来のゲノムが、日本の競 走馬集団において拡散しつつある様子が、ゲノム中の随所で見られた。 - 14 - 2 サラブレッドの全ゲノム SNP 解析:応用と今後 ○ジェフリー 1) フォーセット 1)・戸崎晃明 2)・佐藤文夫 3)・印南秀樹 1) 総合研究大学院大学先導科学研究科・2)競走馬理化学研究所・3)JRA 日高育成牧場 生物の遺伝情報はゲノムと呼ばれるATGCからなるDNA配列によって既定され ており、このDNA配列が生物の表現型とどう結びついているか、DNA配列の違い が表現型の違いとどう対応しているのかを明らかにすることが遺伝学ならびに 生物学における大きな命題である。近年のDNAシーケンシング技術の目覚ましい 発展により、集団内における一塩基多型(SNP)がゲノム中にどのように分布して いるのか、そして各SNPにおける塩基の頻度が様々な表現型の違いとどう対応し ているのかを調べることが非常に有効なアプローチとなっている。 本研究では、JRA日高育成牧場で過去6年間において育成された競走馬およそ 350頭において、670,796個のSNPを解読(ジェノタイピング)した。そこでこの SNPデータを用い、人為選択のターゲットとなった(つまり競走成績に寄与して いるSNPが存在する可能性が高い)領域や、毛色などの表現型に関与しているSNP が存在する可能性が高い領域を推定し、このSNPデータが表現型多様性の原因 SNPの探索においてどれだけ有効であるかを検証した。 - 15 - 3 サラブレッドの毛色遺伝子再考 ○坂本貴洋 1)・ジェフリー フォーセット 2)・印南秀樹 2) 1) 東京大学農学部・2)総合研究大学院大学先導科学研究科 ウマの毛色を決定する遺伝子は数多く知られており、またそのメカニズムも 比較的良く研究されている。サラブレッドに限定すれば、毛色は8種類に分類さ れる。現在までの研究で、明確に遺伝子の働きがわかっているものの中に、① 芦毛の遺伝子STX17と②栗毛の遺伝子MC1Rがある。①については、野生型対立遺 伝子gと変異型Gが存在し、G/-の個体が芦毛になることがわかっている。②につ いては、野生型対立遺伝子Eと変異型eが存在し、芦毛でない個体(g/g @ STX17) において、e/eの個体が栗毛になり、それ以外が鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛の いずれかになる。 本研究では、JBISのデータベースに登録されている、153,758トリオ(父–母– 子)のデータを解析することによって、①②を含む毛色決定遺伝子の働きを再 検証した。芦毛については、①の法則がほぼ完璧に再現された。栗毛に関して も、②の法則は非常に良く再現されたが、それ以上のMC1Rの役割も示唆された。 上記の法則により、E/-の個体は鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛に分離するが、E/E である個体とE/eである個体では、その分離比が有為に異なった。E/Eの集団に 比べて、E/eの集団の方が、鹿毛の割合が増加し、黒鹿毛や青鹿毛の割合は減少 する(青毛は極度に頻度が低いため割愛)。このことは、MC1Rが栗毛の決定だ けでなく、鹿毛などの毛色の濃さにも寄与していると考えると説明がつく。も しくは、染色体上のMC1R遺伝子座のごく近傍に、毛色の量的形質を支配する別 の遺伝子が存在するのかもしれない。この二つの説明を区別するには、GWAS (Genome-wide association study)などのDNAレベルの解析が必要になる。 - 16 - 4 後期育成段階にあるサラブレッド種の馬体重への MSTN および LCORL 遺伝子の影響 〇戸崎晃明 1)・佐藤文夫 2)・石丸睦樹 3)・菊地美緒 1)・栫 裕永 1)・廣田桂一 1)・永田俊一 1) 1) 競走馬理化学研究所・2)JRA 日高育成牧場・3)JRA 馬事部 【背景および目的】 最近、我々は、後期育成段階にあるサラブレッド種の体型と myostatin(MSTN)あるい は ligand-dependent nuclear receptor compressor-like(LCORL)との関連を調査するこ とで、MSTN は筋肉量(体重体高比)と、LCORL は体高および管囲と関連し、これらの体型 変化をとおして、それぞれ、間接的に馬体重が変化することを明らかにした。本研究にお いては、これらの遺伝子の組み合わせが、後期育成段階にあるサラブレッド種の馬体重に 及ぼす影響を調査した。 【材料および方法】 JRA 日高育成牧場で繫養され、後期育成段階(1 歳 9 月から 2 歳 3 月)にある 322 頭のサ ラブレッド種を調査対象とした。全ての調査対象馬で MSTN においては第1イントロンに 位置する g.66493737C/T(C/C, C/T, T/T 型)、LCORL においては翻訳領域の上流に位置す る BIEC2-808543(A/G, A/A 型: G/G 型は低頻度のため除外)の型判定を行ったうえで、 性別および両遺伝子の遺伝型に基づいて 12 群に分類し、群間で馬体重を比較した。 【結果】 表1は、2 歳 2 月における各群の平均馬体重を示した。性別が雄、MSTN が C/C 型かつ LCORL が A/G 型である個体において馬体重が最大となり、性別が雌、MSTN が T/T 型かつ LCORL が A/A 型である個体において馬体重が最小となった。この傾向は、計測した後期育成期間(1 歳 9 月から 2 歳 3 月)において共通であった。 【考察】 本研究では、低頻度アレルの存在から、統計解析上で十分な解析頭数を確保できない群 が存在したが、体重は MSTN および LCORL の遺伝型の組み合わせによって異なる傾向が示唆 された。今後は、調査例数を増やすことでより確度の高いデータを構築し、遺伝的な相違 に基づく体重傾向を把握することで、競走馬の育成および飼養管理に役立つ情報を提供し たい。 表1.MSTN および LCORL の組み合わせによる馬体重の相違 雄 雌 遺伝型 A/G A/A A/G A/A C/C 504.5 480.5 485.4 472.4 C/T 485.2 473.1 470.7 459.3 T/T 480.1 462.2 470.1 445.5 注:2 歳 2 月時点における平均馬体重(kg)を示す。 - 17 - 5 ホースセラピーと鍼刺激による癒しの世界 -ハイブリットセラピーの可能性を求めて- ○元山宏宇 1)・磯貝弘久 1)・山川 烈 2, 3) 1) 九州工業大学大学院生命体工学研究科・2)ファジィシステム研究所・3)崇城大学 【緒言】これまで、ホースセラピーが自律神経系に影響を及ぼすという先行研究が報告されてき た 1) 。また、股関節のゆらぎが、有酸素運動を引き起こし、大脳辺縁系の扁桃体に快刺激を与え、 副交感神経を亢進し、筋緊張を改善するという報告もある。しかし、初心者が乗馬を終えた後、筋 肉痛や疲労感にみまわれること、が珍しくない。この問題を解決することは、ホースセラピーの重 要な課題である。 ここでは、乗馬をする際に、予め初心者にテープ式円皮鍼を貼付することによって、筋肉痛や疲 労感を避けることが可能になる、と考える。そのテープ式円皮鍼の効果を確認するために、患者自 ら或いは治療者が患者の身体を動かし、これに伴って引き起こされる様々な症状(例:痛みやつっ ぱり感など)を指標とした診断治療法である M-Test を用いた 2)。 テープ式円皮鍼の効果と乗馬の効果を組み合わせた“ハイブリットセラピー”により、筋肉痛や 疲労を防止する。本研究では、ハイブリットセラピー効果をより客観的に見るために、馬および乗 馬シミュレーターを使用して、テープ式円皮鍼による効果を比較検討した。 【方法】ヒトの動きに伴う身体症状を指標とした診断治療法(M-Test)を用いて、股関節屈曲(膝 伸展位)/SLR と首・肩の動きに対して、痛みやつっぱり感が認められる大学生 20 名をランダムに、 乗馬群と乗馬シミュレーター群に割り付けた。最初の 15 分間は、乗馬群と乗馬シミュレーター群 の騎乗者への心拍変動(HRV)を測定し、その後は、騎乗者への鍼刺激を行い、継続して 15 分間の 心拍変動を測定した。 【結果】乗馬群と乗馬シミュレーター群の鍼刺激後の身体の動きに対する痛みやつっぱり感が軽 減された。心理的尺度(二次元気分尺度)では、乗馬群の快適度スコアが増加(実験前:9.10±4.95、 実験後:15.40±3.41 p < 0.001)し、覚醒度スコアの減少(実験前:-4.30±3.59、実験後-2.40 ±1.27 p < 0.001)が有意に得られた。また、心拍変動(HRV)では、乗馬群の log10 HF(副交感 神経活動)の増加(実験前:2.28±0.35、実験後 2.51±0.39 p < 0.001)と LF/HF 比(交感神経活 動)の減少(実験前:7.20±3.62、実験後 5.39±2.61 p < 0.05)が認められた。一方、乗馬シミ ュレーター群では、心理的尺度(二次元気分尺度)と心拍変動(HRV)の変化は得られなかった。 【考察】本研究では、テープ式円皮鍼の効果によって、痛みやつっぱり感が減少された事で、筋 肉痛や疲労が防止できたと推測される。筋肉痛や疲労防止によって、気分が乗馬、馬との触れ合い の楽しさに集中し、副交感神経活動の亢進と交感神経活動の抑制を引き起こし、リラックス効果を 得たと考える。 【参考文献】 1) Matsuura et al., “Comparison of the Short-Term Effects of Horse Trekking and Exercising with a Riding Simulator on Autonomic Nervous Activity,” ANTHROZOOS., Vol.24, ISSUE 1 pp.65-77, 2011. 2) 向野義人監修(2012)図解 M-Test.医歯薬出版,東京 - 18 - 6 現役引退競走馬に対する諸外国の取り組み ○澤井靖子(ダーレー・ジャパン株式会社) 【はじめに】:サラブレッドは、一流の競走馬となるために多くの人の手で大切に育てられます。しか しながら、全てのサラブレッドが一流となれるわけではありません。また、成功を収めたサラブレッド も多くは 8 歳前後で現役を引退することとなります。多くのサラブレッドには、現役を引退してからの 長い馬生が待っています。 世界では近年、競馬業界主導の現役引退競走馬をサポートする取り組みが急速に広がっています。 【イギリス】2000 年に設立された慈善団体 Retraining of Racehorses(RoR):リトレーニング オブ レ ースホースを中心に競走馬の再調教の促進、元競走馬のための馬術競技の開催、講習会、捨て馬の保護 等の活動を行っている。 【オーストラリア】ビクトリア州の競馬主催者であるレーシング ビクトリアがサラブレッドのセカン ドキャリアをサポートする目的で、プロモーション活動、元競走馬のための馬術競技の開催、再調教施 設の紹介等を行う Off The Track program:オフ ザ トラック プログラムを 2012 年より行っている。 【アメリカ】競馬業界の利害関係者から資金を集め、その資金を優良認定を受けた引退競走馬を扱う慈 善団体に提供する活動を行う Thoroughbred Aftercare Alliance:サラブレッド アフターケア アライア ンスが 2012 年に設立され、2015 年までに 570 万ドルの資金援助を行っている。また、アメリカジョッ キークラブによる再調教を促進するための Thoroughbred Incentive Program:サラブレッド インセン ティブ プログラムも活発に活動を行っている。 【フランス】2016 年アガカーンスタッドとゴドルフィンが中心となり再調教の促進、プロモーション 等の活動を行う慈善団体 Au-Dela Des Pistes:オーデラデピストを設立。本年 8 月にはドーヴィル競馬 場で初めてのイベント:引退馬パレードを開催しシュリスデゼーグルらが参加した。 【International Forum for the Aftercare of Racehorses(IFAR)】 2016 年 8 月 1 日、世界の関係機関及び団体が参加し競走馬の再調教やアフターケアプログラムを促進 するための国際フォーラムの発足が発表された。このフォーラムには、アイルランド、アメリカ、イギ リス、オーストラリア、フランス、日本からの代表者が参加すると見込まれている。現在、2017 年 10 月開催予定の第 1 回会議に向けた準備が進められている。 【まとめ】競馬の中心的存在であるサラブレッドを現役中、引退後に関わらず適切に扱う事は競馬業界 の責任ではないだろうか。今後日本でも競馬業界主導のアフターケアプログラムが充実する事を切に願 います。 - 19 - 7 ウマ初心者のためのウェブサイトの構築 ○堀口尚史(協和病院) 【はじめに】 近年、日本においては、科学技術の発展に伴って馬の使役の役割が大きく減少している。 これに比例して、馬の飼養頭数(以後、馬の頭数と略す)は毎年徐々に減少している。 (1998 年 111,330 頭、2003 年 101,947 頭、2008 年 83,151 頭、2013 年 74,302 頭) 一方、世界では 1998~2013 年の 15 年間においては、馬の頭数は 5,800 万頭前後で推移してお り、大幅な増減は認められない。先進国であるフランス・ドイツではこの 15 年間において、馬 の頭数の大幅な増減が認められないのに対し、アメリカ・イギリスでは馬の頭数が増加している (約 2 倍程度)。 2013 年における先進国の人口と馬の頭数はそれぞれ、アメリカ(31,670 万人 / 1,035 万頭)・ イギリス(6,410 万人 / 39.5 万頭)・フランス(6,603 万人 / 40.8 万頭)・ドイツ(8,062 万人 / 53.0 万頭)である。これに対して、日本の人口と馬の頭数は(12,730 万人 / 7.4 万頭)であ り、馬の頭数は他の先進国と比べてかなり少ない。人口に対する馬の頭数の割合はそれぞれ、ア メリカで約 30 人に 1 頭であり、イギリス・フランス・ドイツは約 150~160 人に1頭である。日 本は約 1,700 人に 1 頭であり、他の先進国と比べて大幅に少ないことがわかる。 このように、上記の諸外国の先進国と比べて、日本では一人当たりの馬の頭数が大幅に少ない。 さらには、上記の通り日本では馬の頭数は年々減少しているという現状がある。 【考察】 現代においては、馬が近い環境に住んでいる人はそれほど多くはない。さらには、そのような 環境が近くにあっても、簡単に馬と接する機会があるとは言い難いと考えられる。また、日本で 生まれ育った子供が、馬を直に見たり触ったりする機会は少ないであろう。これらのことが、人々 の馬への関心の低下の原因となっていることは容易に推測できる。 過去の学会での「日本における馬車の現状」 ・ 「神馬は今」 ・ 「日本の「うま」の絵本」などの発 表において、馬と関わりのない一般の人が馬と関わりやすい環境や手段などについて考察して来 た。その結果、馬車・神馬・馬の絵本など馬に関する多くの事柄は、大勢の人々にそれらの情報 が共有されていないことが明らかとなった。 馬と関わりのない一般の人々、つまり馬についての初心者が、知りたい馬の分野の情報を得る には、どの様にすればよいであろうか?これらを調べる手段で、最も多く使われる可能性がある 媒体は、インターネットであると言える。しかしながら、乗馬や競馬など特定の分野について詳 しいウェブサイトは存在するが、知識の少ない初心者が対象の、複数分野で構築されているサイ トはほとんど見受けられない。このことは、興味の対象が定まっていない初心者が、様々な分野 の情報を得る機会を喪失している可能性があると言えるであろう。それはつまり、少しでも馬に 興味を持つ可能性のある人が、そうでは無くなることに繋がってしまうのではないであろうか? そこで本研究では、上記に沿った初心者対象の複数分野で構成するウェブサイト 「うま初心者のための「馬 ザワールド」」を作成したので、それについて報告する。 - 20 - 8 競走馬における腺部胃潰瘍の有病率と治療後の変化 ○ 菅沼俊一・高島清恵・津田朋紀(ノーザンファーム) 【はじめに】 馬の胃潰瘍は大きく無腺部胃潰瘍と腺部胃潰瘍に分けられ、解剖学的な違いから要因や治療への反応 が異なると考えられている。わが国では無腺部胃潰瘍に関しては多く報告されているが、腺部胃潰瘍の 調査は乏しい。この度、一般に馬の胃潰瘍治療薬として普及しているオメプラゾールを用いた治療に反応せ ず食欲不振や体重減少や被毛粗剛の症状が残存した競走馬に腺部胃潰瘍が散見された為、腺部胃潰瘍の 有病率と治療後の変化を調査した。 【材料と方法】 4 時間以上絶飲絶食し、鎮静下で内視鏡検査を行った。無腺部は全体を、腺部は好発部位である幽門 洞を確認した。期間は 2014 年 12 月から 2016 年 4 月とした。 調査 1:食欲不振や体重減少や被毛粗剛の稟告があった競走馬 280 頭(2~7 歳)を検査した。 調査 2:調査 1 対象馬のうち、1 カ月後も同様の症状が残った 68 頭を再検査した。治療にはオメプラゾー ル(4mg/kg)を使用し、数頭の重度の腺部胃潰瘍にはスクラルファート等も併用した。この期間内、運動や給餌は 制限していない。 【結果】 調査 1:無腺部・腺部胃潰瘍の有病率 (計 280 頭) 無腺部胃潰瘍 91.40% 腺部胃潰瘍 60.70% 調査 2:オメプラゾールによる治療 1 ヶ月後も胃潰瘍症状が残存した馬における無腺部・腺部胃潰瘍の有病 率の変化 (計 68 頭) 初回 約 1 ヶ月後 無腺部胃潰瘍 97% ※ 26.40% 腺部胃潰瘍 72% 75% 胃潰瘍なし 0% 22.10% ※有意差検定(p<0.01) 【考察】 現役競走馬では食欲不振や体重減少、被毛粗剛といった症状は早期に改善したい問題である。今回の 調査によりオメプラゾール投与による治療に臨床症状が反応しない競走馬では無腺部胃潰瘍が治癒している にも関わらず、腺部胃潰瘍が治癒せず高率で発症していることが確認された。今後、腺部胃潰瘍の発症 要因を究明し治療法を検討する。 - 21 - 9 重種馬の胎盤停滞に対し 臍帯からの注水処置(Water Infusion 法)を実施した2症例 ○福本奈津子 1)・川端圭佑 1)・堀内雅之 2)・佐藤文夫 3) 1) 家畜改良センター十勝牧場・2)帯広畜産大学・3)JRA 日高育成牧場 【はじめに】馬における胎盤停滞は、重種馬に比較的多く認められ、産褥熱や産褥性子宮 炎、さらには産褥性蹄葉炎などの発症リスクを高め、生産性の低下をもたらす要因となる ことから適切な対処が重要となる。近年、馬の胎盤停滞に対して、臍帯動脈あるいは静脈 にカテーテルを挿入し、水道から直接注水することで、胎盤の排出を促す Water Infusion 法が報告され、その有効性が注目されている。そこで今回は、重種馬において胎盤停滞を 発症した 2 症例に対し、Water Infusion 法を試みたのでその概要を報告する。 【材料および方法】症例①:ペルシュロン種(3 歳、初産)。妊娠 301 日目に雌雄双胎を流 産し、双胎盤の片方が停滞を発症したため、産後 6 時間後に本法を実施した。症例②:ペ ルシュロン種(8 歳、4 産 1 流産)。妊娠 336 日目に胎子失位のため難産介助で胎子娩出、 産後 3 時間まで羊膜に重しを吊るし、オキシトシン投与も複数回実施したが、胎盤の排出 が起こらないため、産後 3 時間経過後に本法を実施した。次に、正常排出胎盤、オキシト シン排出胎盤、症例②排出胎盤の組織検査を実施し、比較した。 【成績】症例①:注水数分後に大量の還流水とともに胎盤を全排出し、発熱なく回復した。 症例②:注水 30 分経過も胎盤排出されず、血管を変更し再注水後約 10 分で大量の還流水 とともに全排泄した。48 時間後に発熱を呈したが、処置翌日には回復した。その後、2 症 例とも 2 回目の人工授精にて受胎が確認された。組織検査では、正常排泄胎盤およびオキ シトシン排泄胎盤では血管内・絨毛内ともに赤血球が確認されたのに対し、症例②排泄胎 盤では、赤血球が確認されず、動脈が静脈のように拡張している様子が観察された。また、 絨毛部分を高倍で観察すると、核の凝集像と上皮組織の変性像が観察された。 【考察】Water Infusion 法を的確に実施するには、ある程度の水量と水圧が必要であり、 予め器具を準備しておくことが重要である。また、胎盤停滞は自然な排出よりも子宮の損 傷や産褥熱の発症リスクは高いことが考えられ、本法を実施後には予防的な抗菌剤や抗炎 症剤の投与が必要であると思われた。症例②では発熱が見られたが早期に軽快し、その後 も受胎したことから、重症化と生産性の低下を防いだと考えられた。組織像からは臍血管 内に注入された水は、その分布領域である絨毛組織に十分行き渡っていることが確認され、 上皮細胞の浮腫・変性が子宮内膜との剥離に寄与していることが伺えた。 以上のことから本法は、臨床現場への応用容易であるとともに、胎盤停滞に有効な処置法 だと考えられた。 Water infusion 法 - 22 - 胎盤絨毛部分 左:正常 右:本法実施 10 慢性蹄葉炎症例に対する MRI ならびに CT 画像診断の検討 ○乾 智博 1)・今村 唯 1)・占部眞子 1)・伊藤めぐみ 1)・柳川将志 2)・堀内雅之 3)・山田一孝 4) 佐藤文夫 5)・冨成雅尚 5)・上野儀治 5)・上野孝範 6)・岸本海織 7)・佐々木直樹 1) 1) 帯広畜産大学臨床獣医学研究部門大動物外科学研究室 2) 帯広畜産大学臨床獣医学部門・3)帯広畜産大学 基礎獣医学研究部門 4) 麻布大学獣医学部・5)JRA 日高育成牧場・6)JRA 競走馬総合研究所 7) 東京農工大学農学部共同獣医学科獣医画像診断学研究室 【はじめに】一般に馬の四肢の画像診断には、X 線検査や超音波検査などが用いられてい る。これに対し、CT(computed tomography)は断層画像や 3 次元画像を得ることがで きることから、X 線検査では理解しづらい四肢の骨折の詳細な評価に応用されている。一 方、MRI(magnetic resonance imaging)は腱や靭帯などの軟部組織の変性を評価でき、 高い診断能を有している。近年、MRI で蹄を撮影することにより、ナビキュラー病や蹄壁 内深屈腱炎の診断、葉状層の定量的解析による蹄葉炎予測などの詳細な情報を得られるこ とが報告されている。今回、慢性蹄葉炎のサラブレッド種に対して、全身静脈麻酔下で MRI 撮影、ならびに CT 血管造影を実施して、その有用性を検討したので報告する。 【症例】症例はサラブレッド種(雌、6 歳、443kg)であり、13 ケ月前に両前肢に栄養性 蹄葉炎を発症した。妊娠中であったため、深屈腱切断術や装蹄療法などによる治療を行い、 分娩に至った。その後、予後不良と診断され、全身麻酔下にて MRI および CT を用いた画 像診断を実施した。馬を塩酸メデトミジン(5μg/kg)静脈内投与で鎮静後、ジアゼパム (0.03mg/kg)静脈内投与、サイアミラールナトリウム(4mg/kg)静脈内投与で倒馬を行 い、5%グアネフェネシン(GGE)50mg/kg 静脈内投与で筋弛緩を得た。倒馬後、トリプ ルドリップ法(5%GGE、0.1%ケタミン、0.05%キシラジン)にて麻酔維持を行った。馬 を寝台上に右側臥位に保定後、0.4T 永久磁石式 MRI 装置(APERTO Lucent®、日立)を 用いて、両前肢蹄部の MRI を撮像した。また、0.5mm スライス厚 16 列マルチスライス CT 装置(Aquilion TSX-201A®、東芝)を用いて、蹄部を撮影後、血管造影 CT 撮影を行 った。得られた CT 画像データは 3D 画像解析ソフト(AZE Virtual Place®、AZE)を用 いて分析した。さらに、病理組織学的検索を行った。 【結果】MRI 検査では、両前蹄矢状断面 T2 強調画像において、葉状層と末節骨背側間に 高信号と低信号が不規則に混在した領域が認められた。また、CT 検査では矢状断面におい て末節骨の骨吸収像、変形、ローテーション、および葉状層の変性による空隙が認められ、 血管造影 CT 検査では 3D 画像において葉状層へ分布する血管が明瞭に表示された。 【考察】今回、慢性蹄葉炎症例に対して、MRI と血管造影 CT を利用することで、蹄内部 の軟部組織、骨、血管走行を詳細に評価することができた。血管造影 CT 検査では、蹄内 部の血管走行を 3 次元的に捉えることができ、虚血部位を詳細に評価することが可能であ った。特に、得られた蹄軟部組織の MRI 所見は病理解剖所見を反映しており、病態の解釈 に有用であると考えられた。今後、さらに馬に対する MRI および CT 検査の有用性を検討 していきたい。 - 23 - 11 馬の骨シンチグラフィーを日本に導入するための課題 ○山田一孝(麻布大学獣医学部獣医放射線学研究室) 日本では馴染みがないが、海外では跛行を呈する馬に対してシンチグラフィーという画 像検査の選択肢がある。シンチグラフィーとは、生体に放射性同位元素を注入し、特異的 に集積した部位から出る放射線を画像化する方法で、馬では微細な骨折部位を特定するこ とができる。微細な疲労骨折の早期診断は、競技中・競走中の骨折を未然に防ぐばかりで はなく、競技者や騎手の落馬事故を防ぎ、結果として人命を救うことにもつながる。 日本では、シンチグラフィーの実現を目指して 2001 年に獣医放射線学教育研究会が設立、 2009 年には獣医療法施行規則が改正され、法律上はシンチグラフィーを実施できるように なった。しかし、本邦で馬のシンチグラフィーは未だ実現していない。獣医療法施行規則 では、放射性同位元素を含む尿が付着した敷料は、固体状放射性汚染物と定義され、保管 廃棄または焼却と決められている。しかし、大量の敷料を放射線管理区域内で保管または 焼却することは、とても現実的ではない。獣医放射線学教育研究会の下部組織である「馬 シンチグラフィーガイドラインワーキング」では、敷料の処理が本邦導入の足かせになっ ていると考えており、現在、法律に則った敷料の適切な処理の方法について検討中である。 4 年後の東京オリンピック・パラリンピック馬術競技の開催には、世界中から多くの競 技馬や獣医師が来日する。開催期間中に、シンチグラフィーが必要となる事態が発生しな ければよいのではあるが、来日した獣医師からシンチグラフィーの要請があった時に画像 診断検査の選択肢として準備をしておくことは必要である。北京オリンピック・パラリン ピックの馬術競技は、シンチグラフィーの施設がある香港で開催された。また、ロンドン オリンピック・パラリンピックでは、会場から 50km 圏内に CT、 MRI、シンチグラフィー にアクセスできる状況を準備したそうである。馬臨床のレベルアップのためにも、海外の 馬関係者に日本の獣医療が期待に応えるためにも、日本に馬の骨シンチグラフィーの施設 が必要と考えている。なお、オリンピック・パラリンピック終了後は、施設を、国内 16 大 学と、JRA のトレーニング・センター(栗東、美浦)、北海道や九州の生産地(日高育成牧 場、宮崎育成牧場、社台ホースクリニック、日高地区農業共済組合、日高軽種馬農業協同 組合、日本軽種馬協会)で連携した骨シンチ グラフィー教育センターとして利用できない だろうか。東京オリンピック・パラリンピッ クの開催は、日本の馬臨床と馬の臨床教育に ブレークスルーを起こす二度とないチャンス である。 本発表では、課題となっている放射性汚染 物の敷料廃棄の対策について紹介する。 - 24 - 12 CT検査を行った馬の腸結石の一症例 ○中前陽子 1)・石原章和 1)・柳川将志 2)・伊藤めぐみ 2)・佐々木直樹 2)・山田一孝 1) 1) 麻布大学獣医学部・2)帯広畜産大学臨床獣医学部門 腸結石症とは、結腸内に形成された結石が原因で、腸管の通過障害を起こす疾患である。 アラビアン、モルガン、サドルブレッドに好発し、さらに 4 歳以上の馬で多くみられる。 腸結石は、主に背側結腸、横行結腸や小結腸で形成され、診断は腹部X線検査によって行 われることが一般的である。 演者らは、腹部 CT 検査による診断、および開腹術による治療を行った腸結石症例につい て報告する。 症例は、18 歳齢の雑種のポニー(体重 160 kg、体高 110 cm、胸囲 180 cm)で、慢性の 削痩および食欲不振の症状を呈し、X線検査において腹底部に結石が確認された。X 線像 から、結石は腹側結腸に位置すると推測された。 CT 撮影は、麻酔導入後、伏臥位を維持したまま CT 寝台に乗せて、体幹部全域を撮影し た。その後、仰臥位に体位変換し、再度 CT 撮影を実施した。CT 検査では、背側結腸の横 隔曲に約 10 ㎝の結石が確認された。伏臥位の撮影では、結石の重みで背側結腸が腹底まで 降下していた。また、体位を伏臥位から仰臥位に変換することで、結石は背側に変位する ことが確認された。さらに、結石の中心に金属を示唆するアーチファクトが認められた。 続いて実施した背側結腸切開術により、最大長径 104 ㎜、重さ 422 g の結石が摘出された。 結石は、CT 画像と一致して、背側結腸に存在していた。摘出した結石の CT 撮影を行った ところ、結石の中心にホッチキスの針のような形状の金属異物が確認された。術後、症例 は順調に回復した。 一般的に、馬における CT 撮影は四肢や 頭部に限定される。今回は、大型 CT 装置 を使用することで、馬の体幹部のCT撮 影が実現した。また、CT 検査によって、 X 線検査では確認できなかった結石の重 みによる結腸の変位、体位変換による結 石の変位、および、結石内部の金属異物 を確認することが可能であった。 以上、CT 検査はその後の手術計画に有 用な情報を提供すると考えられた。 - 25 - 13 高純度化した骨髄幹細胞の PRP ゲル内移植による 関節軟骨再生療法の検討 〇石原章和・小林俊之介・中前陽子・池田耀子 麻布大学獣医学部獣医学科外科学第二研究室 馬は競走や障害飛越競技などの強い運動使役に供される動物であることから、 骨・関節疾患の罹患率が高く、とりわけ、関節軟骨の欠損をともなう小片骨折 は多発する。関節軟骨は極めて限定的な自己修復能しか有しておらず、軟骨の 欠損箇所は自然治癒することが難しいことから、線維性軟骨に置き換わり、変 性関節疾患を継発する症例が多い。本研究では、サラブレッド競走馬の関節軟 骨欠損に対する「迅速なウマ軟骨再生治療法」を確立することを目的とした。 本研究ではまず、フローサイトメトリーおよび三種類の標識抗体(CD34、CD90、 CD105)を用いて、馬の骨髄液からダイレクトに間葉系幹細胞を抽出する手法を 検討した。その結果、三種類の抗体すべてに陽性の細胞をトリプル・ソーティ ングすることで、幹細胞の純度および軟骨分化能が優れた細胞集団が抽出され た。次に、高純度化した骨髄幹細胞を軟骨欠損部に移植するための足場素材と して、血液から分離した多血小板血漿(PRP)を固めたゲルを作成する手法を検 討した。その結果、シリンジを用いた簡易的遠心分離法によって得られた PRP には、成長因子および抗炎症性サイトカインが高濃度で含まれており、これを カルシウム溶液またはトロンビン溶液によってゲル化できることが示された。 以上の結果から、フローサイトメトリー法によって高純度化した骨髄幹細胞 を、自己血から分離した PRP ゲル内に充填しながら、軟骨欠損箇所に移植する 再生療法の基礎的手法が確立された。この方法では、骨髄液から分化能の高い 幹細胞のみを直接的に必要数だけ分離して、増殖培養の過程を経ることなく治 療箇所に投与することが可能となる。また、針先を通して欠損穴をゲルで充填 していく細胞移植方法によって、関節鏡による非侵襲的な再生療法の臨床応用 が可能になることが示唆された。 - 26 - 14 ウマの関節軟骨欠損に対する骨髄由来間葉系幹細胞シートの検討 唯 1)・乾 ○ 今村 智博 1)・占部眞子 1)・伊藤めぐみ 1)・古岡秀文 2)・柳川将志 3) 羽田真悟 3)・山田一孝 4)・田畑泰彦 5)・佐々木直樹 1) 1) 帯広畜産大学大動物外科学研究室・2)帯広畜産大学基礎獣医学研究部門 3) 帯広畜産大学臨床獣医学研究部門・4)麻布大学獣医学部・5)京都大学再生医科学研究所 【はじめに】サラブレッド種の骨嚢胞は、軟骨内骨化異常によって起こる疾患である。現在、骨 嚢胞の治療法として、関節鏡手術による骨片除去が行われているが、軟骨の修復に時間を要する。 近年、軟骨欠損部への幹細胞移植などが行われているものの、完全な硝子軟骨の再生は困難とさ れている。一方、細胞シートは細胞同士が細胞外マトリクスによって接着しており、ウサギにお いては骨髄由来間葉系幹細胞より作製した細胞シートによって軟骨様細胞の増生が確認されて いる。そこで、本研究ではウマの骨髄由来間葉系幹細胞(以下 MSC)を用いた細胞シートの作製 を行った。次に、ウマの距骨外側滑車に関節軟骨欠損を作製し、細胞シートに加えて骨形成タン パク質 2(以下 BMP-2)、多血小板血漿(以下、PRP)、塩基性線維芽細胞増殖因子(以下、bFGF)、 軟骨細胞、間葉系幹細胞およびゼラチンβリン酸 3 カルシウムスポンジ(以下、スポンジ)を用い た多層構造足場材の効果を比較検討した。 【材料と方法】細胞シートはセルカルチャーインサートを用いて作製した。MSC は 1×105 個、 5×105 個および 1×106 個を一週間培養して強度評価ならびに組織評価を行った(in vitro)。次に、 PRP(1.0×108/50 µl)、BMP-2(1.5µg/50 µl)を調整した。供試馬 5 頭(サラブレッド種、平均体重 371±51.5kg、平均年齢 1.25 歳)の両足根下腿関節の距骨外側滑車に対してドリル先を用いて直 径 4.5 mm、深さ 10 mm の欠損孔を作成した(in vivo)。そこに幹細胞(1.0×106/50 µl)と BMP-2 を含浸したスポンジ(直径 4.5 mm、長さ 5 mm)を下層に挿入し、続いて軟骨細胞(5×104/µl)、幹 細胞(1.0×106/50 µl)並びに PPR を含浸したスポンジ(直径 4.5 mm、長さ 5 mm)を上層に挿入し た。最後に最上層へ細胞シートを静置した(処置群)。コントロールとして欠損孔のみと比較した。 術後 1 日目から 16 週目まで定期的に X 線検査を行い、16 週目に CT 検査並びに肉眼検査を行っ た。16 週目において採材を行って、免疫染色により欠損部における軟骨再生を評価した。 【結果】In vitro における細胞シートは、強度評価で 1×106 個のシートで有意に高値を示した。 In vivo における CT 検査では Hounsfield Unit 値は、処置群においてコントロール群に比較して 高値を示し、軟骨下骨再生が認められた。また肉眼検査では処置群において良好な軟骨の再生が 認められた。 【考察】細胞シートは 1×105 個では剥離が不可能であり、5×105 個以上では剥離可能であった。 このことから 5×105 個以上の細胞数が必要と考えられた。また、In vivo では細胞シートを含む 多層構造足場材を挿入することで良好な軟骨再生と軟骨下骨の再生が認められた。 - 27 - 15 サラブレッド狼歯由来歯髄幹細胞の簡便かつ安定的な培養法の確立 ○石川真悟・村田大紀・堀之内千恵・溝口隆悟・三角一浩・帆保誠二 鹿児島大学共同獣医学部 【はじめに】間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)は骨髄、脂肪、滑膜をはじめと した種々の組織から単離することができ、生体外での培養、増幅が可能である。また、様々 な細胞へ分化可能な複分化能を有し、多くの善玉サイトカインを産生することから、再生 医療や細胞療法の細胞源としての利用が期待されている。我々は、昨年度の本学会で医療 廃棄物として破棄されているサラブレッド狼歯の歯髄組織からの MSC 分離について報告 し、狼歯由来間葉系幹細胞(DP-MSC)の応用性について提言した。従来、MSC の培養に は細胞の増殖を良くするために、ウシ由来血清あるいは自家ウマ血清を含有する培地が用 いられてきた。しかし、医療の材料として MSC を利用することを想定すると、血清の使用 には異種タンパク質による免疫応答、血清毎の品質差をはじめとした問題点がある。この ことから、血清不含の統一された培養液での培養が必要と考えられている。また、供試細 胞源の採材から輸送〜培養までの時間的な問題点も指摘されている。本研究では、DP-MSC の簡便かつ安定的な培養法を確立することを目的として、狼歯の輸送法の検討とともに、 無血清培地を用いた DP-MSC の培養・保存法を従来の血清含有培地と比較検討した。 【材料および方法】狼歯は 1 歳齢サラブレッドから採取した。洗浄後、生理食塩水に保存 し冷蔵輸送した。採取 2~5 日後に歯冠部を分割し歯髄組織の回収、酵素処理を行った後、 市販の無血清培地に懸濁して培養した。セミコンフルエントに達した後、0.05 %トリプシ ン・EDTA で処理して継代を行い、2 代目まで継代した細胞を市販の無血清保存液に保存し た。超低温(-80 ℃)下で 2 週間保存した後、凍結細胞を融解し継代した後、細胞増殖能、表 面抗原発現、脂肪、骨芽および軟骨細胞への分化能について解析した。 【結果】無血清培地で培養した細胞は、血清含有培地で培養した細胞と同様に、紡錐形の 形態でディッシュに接着し、コロニーを形成しながら増殖した。また、表面抗原解析の結 果、CD11a / CD18, CD105, MHC Class II の発現が消失し、CD90 および MHC Class I の蛍光 強度が低下した。さらに、分化培養の結果、脂肪、骨芽および軟骨細胞への分化が確認さ れた。 【考察】本研究において、生理食塩水中で輸送した狼歯から無血清培地下での DP-MSC の 分離、培養および保存に成功した。同 DP-MSC の表面抗原の発現は変化したが、分化能は 維持されており、細胞療法に用いる細胞源としての有用性は維持されているものと考えら れた。本研究により、抜歯した狼歯を生理食塩水に浸すのみの簡便な保存・輸送、抜歯後 5 日間という長い保存期間の狼歯からの DP-MSC の分離、無血清培地での培養、無血清保 存液での冷凍保存および保存後の特性維持が確認された。これにより、DP-MSC の臨床応 用へ向けた道程が大きく進展したと考えられた。 - 28 - 16 社台ホースクリニック馬細胞治療センターの概要 (Shadai Horse Clinic Equine Cell Therapy Center) ○田上正明・加藤史樹・鈴木 吏・山家崇史 社台ホースクリニック 【はじめに】これまでの我が国における馬の再生獣医療の代表的なものは、幹細胞による 競走馬の浅屈腱炎に対する治療の試みが挙げられる。相当期間において相当数の症例に実 施されたが、残念ながら、従来の治療方法を上回る明白な治療効果は得られなかった。そ こで我々はあらためて脂肪由来非培養幹細胞を使用した細胞治療を試みるべく、本年 4 月 から社台ホースクリニック細胞治療センターを稼働させたので、その概要を紹介したい。 【細胞治療の目的と方法】センターにおける細胞治療の目的は、馬の脂肪から抽出された 幹細胞を中心とする再生(修復)細胞群:Adipose Derived Regenerative Cells (ADRCs)を 使用して従来のような自家移植を行うとともに、予め採取・保存された同細胞を用いて他 家(同種)移植を行い、様々な疾患の治療ならびに治癒を促進しようとするものである。 ADRCs の作製方法は、外科的に採取された脂肪をクリーンベンチ内で細切し Celution®(サイトリセラ ピューティックス社製)に投入し器械内で酵素処理と遠心分離を自動的に行い約 3 時間の工程を経 て 5ml の ADRCs 溶液が得られるものである。自家移植については従来通り当該馬の尾根部 から採取した脂肪を、他家(同種)移植については腰痿等で廃用になった若齢馬の臀部から 採取した相当量の脂肪を使用する。NucleoCounter®を用いて ADRCs溶液の細胞数等を確認 する。自家移植では、主に局所投与を中心に作成後すぐに使用する。他家(同種)移植では、 多くの脂肪から得られた多数の ADRCs を含む溶液を分割(通常 20~30 分割)・処理し凍結保 存(専用の液体窒素タンク)された細胞溶液を、随時、解凍・処理し細胞の状態を確認した のちに血管内投与を中心に使用する。 【細胞治療に期待される効果・その長短】他家(同種)移植では、ADRCs 液を分割保存するこ とで、1 回の治療費を大幅にコストダウンでき、複数回の細胞治療も可能となる。従来の 様に治療が非常に困難な特定の疾患に適用するだけでなく、発想を転換して、多くの整形 外科疾患の補助治療として、炎症反応を伴う様々な疾患に対する抗炎症作用を目的とした パクライン効果に期待しての投与、ホーミング効果による免疫変容を期待した血管内投与 など、様々な疾患の治療に応用できる可能性がある。しかし、事前に相当数の実馬を使用 した安全性試験を行ったが、安全性が担保されているわけではないこと、今回の方法に限 らないが、細胞治療の作用機序が解明されておらず、実際の治療はあくまで治験的である ことなどが短所として挙げられる。 【現在までに対象とした症例】他家(同種)移植の症例は、局所投与を中心に腱・靭帯疾患 に投与した症例が 16 頭、血管内投与を行った結腸捻転手術後の症例 6 頭、当歳の開腹手 術後の症例 3 頭、感染性関節炎・骨髄炎各1頭、大腸炎・重度の裂傷後の皮膚欠損(局所)・ 腫瘍性疾患(リンパ腫)・間質性肺炎(当歳/肺炎加療中)・種雄馬の陰茎出血に伴う交配障害(局 所/自家・血管内/自家-他家)であった。自家移植の症例は、競走馬の浅屈腱炎 1 頭であった。 【まとめ】未だ、少頭数の治験症例しかなく、腱・靭帯疾患に対する効果の評価には時間 を要するが、上述の多様な疾患に使用した症例においては、有効と判定するに足る結果が 得られたものも多くあり、臨床家しての「手ごたえ」を感じている。今後、積極的に治験 を重ね、症例を増やすことで細胞治療の長所・短所が確認され、ひいては臨床的なエビデ ンスが得られる可能性があると考えている。 - 29 - 17 馬の腸内有用菌であるラクトバチルス属細菌を増加させる サラシア属植物の効果 ○山手寛嗣 1)・細田千尋 1)・天生聡仁 2)・柿沼千早 2)・小田由里子 2)・植田文教 2) 1) 山手競走馬診療所・2)富士フイルム株式会社 【背景と目的】近年、次世代シーケンサーを応用した腸内細菌叢の解析法が一般化され研究 環境が整ったことにより、腸内環境と健康との関係が次々と明らかになってきている。ウマ の世界でも腸内細菌叢は健康維持に重要といわれており、特に免疫機能や腸疾患、栄養の摂 取効率、ストレス緩和能など多岐にわたる影響を及ぼしていると考えられている。その傾向 は、輸送や抗菌剤投与、トレーニングやレースによるストレスの多い競走馬で顕著であり、 下痢や便秘など腸疾患に悩まされる例も多い。 腸内環境の改善を目的として腸内の有用菌を増やす方法としては、乳酸菌やビフィズス菌 を動物に投与する方法が知られているが、その動物が元から持っている乳酸菌ではない場合 が多く、効き目がわかりにくく、定着に時間がかる等の問題を抱えている。 我々はこれまでサラシア属植物(以下、サラシア)がヒトやマウスにおいて腸内の常在す る有用菌を増やし免疫機能を亢進することを報告している。本研究ではこのサラシアをウマ へ投与した場合の腸内細菌叢への影響について解析したので報告する。 【材料と方法】 競走馬を含むサラブレッド 20 頭へサラシアエキス粉末を、1 日あたり 2.4 g を 2 回に分けて投与した。サラシアエキス粉末の投与開始前とサラシアエキス粉末を 6 日間 投与した後において、糞便中における腸内細菌の菌叢の変化を 16S rRNA 遺伝子配列解析に 基づく細菌叢プロファイルを用いて比較解析した。また、サラシアエキス粉末の安全性につ いても合せて確認するため、状態観察、血液生化学検査を実施した。 【結果】サラシアエキス粉末を投与することにより、ラクトバチルス属細菌が有意に増加し た。増加したラクトバチルス属菌種を詳細に解析すると、ラクトバチルス・イクイ、ラクト バチルス・デルブルエッキ、ラクトバチルス・ハヤキテンシス等、もともとその馬が持って いた菌が顕著に増加していた。 また、バクテロイデス門とファーミキューテス門の比(B/F 比)が有意に減少していた。 摂取期間中のウマの健康状態、血液生化学的検査結果に特に異常等は見られず、安全性に 関しての問題は見られなかった。 【考察】ウマにサラシアエキス粉末を投与することにより腸内有用菌であるラクトバチルス が増加することからウマの腸内環境が改善していることが示唆された。ヒトではサラシアの 主要成分であるサラシノール等のチオ糖類は小腸でのα-グルコシダーゼ阻害作用を介して 盲腸~大腸へ流れるオリゴ糖を増やすことが知られており、ウマの場合も同様の機構でラク トバチルス属菌の増殖を促したと考えられる。B/F 比の変化はエネルギーの吸収効率に影響 を及ぼす可能性が示されているため、B/F 比の有意な減少は、腸内細菌が食物繊維を分解し てエネルギーに変換する効率が上がっていることが示唆された。 以上の結果から、サラシアエキス粉末投与は、腸内環境を整え、エネルギー摂取効率向上 に寄与する可能性があることが明らかになった。 - 30 - 18 腺疫が疑われた慢性感染およびそれに伴う続発症に対して 十味敗毒湯を用いて著効のあった 1 例 〇石井美樹子(クラムボン動物病院) 「はじめに」 腺疫は、腺疫菌(Streptococcus equi subsp. equi)が感染して起こるウマ科動物に特有の伝染病で ある。症状の特徴として、馬の頭部から頸部のリンパ節に感染して膿瘍を形成することがあげられる。 この疾患に罹患した馬のほとんどは完全治癒するが、罹患馬の1%程度に出血性紫斑病・四肢の浮腫な どの続発症を発症する例があることが知られる。 今回、腺疫を強く疑う症状を繰り返した慢性経過をとり、免疫異常を示唆する続発症を発症した馬に 対し、十味敗毒湯を用いて著効のあった一例について報告する。 「症例」 馬:サラブレッド・セン・8 歳(発症時) 。感染経路は不明である。最初に左下顎リンパ節の腫脹が現 れ、同時に突然発症する跛行・発熱・末端浮腫などを繰り返すようになった。2015 年 12 月 14 日に突然 右後肢に重度の跛行が発生し、症状の悪化を認めた。 「治療および経過」 症状より強く腺疫を疑い、オルビフロキサシン(ビクタス R)の大量経口投与を行ったが、四肢末端 浮腫(特に右後肢繋部)・跛行などが改善しないので、並行してプレドニゾロン注の少量皮下投与を行っ た。オルビフロキサシンを 2 週間連続投与したところいったん跛行などの改善を認めたが、投与中止後 突然 4 肢の重度の蹄痛・末端浮腫などを発症し、NSAIDs(カルプロフェン・ピロキシカム)の投与を 行ったが一進一退を繰り返し改善しなかったので、十味敗毒湯の投与(クラシエ十味敗毒湯 R 18 錠 /head SID)に切り替えたところ症状全般が劇的に改善した。十味敗毒湯は 12 日間継続投与したが、そ の後軽度の痙攣疝を発症したため投与を中止した。現在のところ、跛行、浮腫などの再発はなく、障碍 飛越なども行っている。疝痛の発症もなく、また下顎リンパ節の腫脹も再発していない。 なお、この症例については感染経路が不明という事もあり、治療開始時に馬房の床や壁をドロマイト 石灰で消毒し、水桶や餌桶も次亜塩素酸ソーダ液にて洗浄消毒している。 「考察」 十味敗毒湯は華岡青洲氏が開発した和漢薬で、現在動物用に認可されている数少ない漢方薬の一つで ある。対象動物は犬で、適応疾患は外耳炎であるが、人間に対しては化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の 初期、じんましん、湿疹・皮膚炎、水虫が適応症とされる。当院では猫の慢性副鼻腔炎やウサギのスナ ッフルなどに用いて著効を得た経験があり、今回馬に応用することとした。今回の経過については漢方 薬ということもあり、具体的な作用機序などは不明であるが、含まれる生薬のうち荊芥(けいがい)・ 防風(ぼうふう) ・川芎(せんきゅう) ・独活(どっかつ)は血行改善作用があり、掻痒感を抑え、柴胡 (さいこ) ・桔梗(ききょう) ・甘草(かんぞう)・樸樕(ぼうそく)は抗炎症作用があり、化膿を抑制 する、とされている。 今回の投与量は人間や犬の体重比投与量と比較すると極めて少量だが、著効を得た。構成生薬が植物 由来であることから、馬のような草食獣に対して薬剤としての相性が良いのではないかとも考えられる。 漢方薬は、我々日・中・韓の獣医師にとってはある程度のエビデンスに基づき投与できる点が有利で あり、また価格も安く、馬に適用しやすい条件を備えていると思われるので、今後、様々な疾患に対す るデータを取ることができれば、馬の疾患に対する治療法の一分野になる可能性があると考えられる。 - 31 - 19 乗用馬の非開放性中足趾節関節亜脱臼の一症例 ○占部眞子・乾 智博・今村 唯・伊藤めぐみ・柳川将志・佐々木直樹 帯広畜産大学臨床獣医学研究部門大動物外科学研究室 【はじめに】一般に馬の中手指節(中足趾節)関節における脱臼は、関節への強い衝撃に よる傷害に起因し、滑走、衝突、穴や枠への挿入などにより発生することが多い。中手指 (中足趾節)節関節の内外側に存在する側副靱帯の断裂は、明らかな内反(外反)を起こ すとされている。今回、競技用乗用馬が枠に肢を挟み込み、非開放性中足趾節関節に亜脱 臼を生じ、徒手整復後キャスト固定により良化した一症例の経過について報告する。 【症例】症例は十勝地域乗馬施設にて飼育されているサラブレッド種乗用馬(騸馬、10 歳、 485kg)であり、パドックに放牧中に外枠のパイプに肢を挟み込み、左後球節および飛節 に挫創を発症した。球節の創は皮下関節包まで達しており、周囲皮下組織の腫脹、熱感、 触診痛を認めた。抗生物質としてセファロチンナトリウム(20 ㎎/㎏、B.I.D、3 日間)投 与ならびに冷湿布包帯を施した。受傷後4日目に馬房内にて寝起し、左後球節の外方への 屈曲を発生した(写真左)。Xray 検査により、第三中足骨遠位内側顆の第一趾骨近位外側 顆上への転移、第三中足骨遠位ならびに第一趾骨掌側面に剥離骨片を認めた(写真右)。さ らに、超音波検査では外側側副靱帯の断裂が認められた。これらのことから、非開放性中 足趾節関節の亜脱臼と診断し、徒手整復により第三中足骨を背内側へ圧迫して整復した。 整復後、患肢での到着が可能となり、キャストにて固定した。消炎鎮痛剤としてジクロフ ェナックナトリウム(1.0 mg/kg、PO、7日間)投与を行った。受傷後 14 日目には歩様が 良化したことから、キャストを除去して圧定包帯へ変更したところ、翌日に同部位におい て亜脱臼を再発した。このため、再度徒手整復後キャストを装着した。その後、球節外側 の挫創の外傷処置ならびにキャスト交換を行った。受傷後 10 週目には跛行は消失し、副木 固定へ変更した。受傷後 12 週目には患肢球節の柔軟な沈下も観察され、患肢の跛行は概ね 消失した。術後 12 週目の Xray 所見では剥離骨片に著明な変化はみられず、重度の変形性 関節症の所見は観察されなかった。 【考察】一般に、骨折 を伴わない非開放生 脱臼は整復すること により、予後は良好と されている。今回、非 開放性中足趾節関節 に亜脱臼を生じた乗 用馬にキャスト固定 を施したところ、良好 に推移した。その要因 として、関節の開放が 無かったこと、不随す る骨折が軽度であっ たこと、血液供給の破 綻が少なかったこと が考えられた。 - 32 - 20 馬の神経疾患に対する臨床検査と疫学的調査 Younghye Ro・Hyeshin Hwang・Danil Kim・○Inhyung Lee 韓国ソウル大学獣医学部大動物臨床学研究室 背景:神経疾患は馬産業の発展のために解決されるべき主要な疾患といえる。韓国 では、最近の3年間で後肢の運動失調や神経障害を原因とした疾患が増大している。 本研究は、後肢の運動失調及び神経障害の検査ならびに診断を行い、本疾患の治療 法および予防法のために有用な情報を提供することを目的とした。 材料と方法:20頭の馬に対して地元の臨床獣医師による初期診断が実施され、その 後に各農場で神経学的検査を行った。解剖学的検査は臨床的重症度に応じて実施さ れた。疫学調査は各農場の環境と飼養管理を調査するために実施した。 結果:神経疾患の発生が2015年7月に韓国慶尚道慶で開始し、北方の京畿道へ移動し ていった。性別や品種に特異性はみられなかった。すべての疾患馬は13ヶ月齢の子 馬を除いて5歳以上であった。8月中旬以降、慶尚道の疾患馬15z頭について検査を依 頼された。すべての疾患馬に重度の運動失調(特に、後肢)が観察された。剖検で は、疾患馬の70%(14/20)に好酸球性髄膜脳脊髄炎、10%(2/20)に脳軟化と好酸 球性髄膜脳脊髄炎、5%(1/20)に寄生性髄膜脳脊髄炎、5%(1/20)に肉芽腫性髄 膜脳脊髄炎、5%(1/20)に脊髄軟化症、5%(1/20)に脳軟化と脊髄軟化症が観察 された。 結論:疾患馬の75%が8月中旬以降に発症したので、気候が神経疾患発生の主な要因 の一つとして推測された。組織学的検査結果より、馬の神経症状の原因として脳お よび脊髄における寄生虫の移動が疑われた。今後、神経疾患の正確な疫学的調査の 実施ならびに疾患発生の予防対策が必要である。 キーワード:馬、運動失調、疫学調査、神経症状、臨床検査 (*)この研究は、the Animal and Plant Quarantine Agency, Gimcheon, Republic of Korea の資金によって実施されました(Project No. Z-1543069-2015-16-01)。 - 33 - 21 使役の違いがウマの唾液中ストレス物質に及ぼす影響 ◯辻 紗希 1) ・山手寛嗣 2)・松原和衛 1, 2) 1) 岩手大学農学部・2)NPO 法人乗馬とアニマルセラピーを考える会 【目的】 近年、医療・福祉・教育の現場でアニマルセラピーが活用されており、その一つである ホースセラピーはヒトに対する心理的身体的効果が認められている。しかし、ヒトがウマ から受ける効果は報告されているものの、ウマがヒトから受けるストレスに関する研究は 少ない。本研究では様々な使役と飼育条件の差により、ストレス指標とされるウマの唾液 中コルチゾールとアミラーゼがどのように変動するかを検討した。 【材料と方法】 NPO 法人が運営する馬っこパーク・いわてのポニー3 頭(牝:4 歳, 14 歳, 24 歳)と岩 手大学馬術部のサラブレッド 3 頭(セン:13 歳, 15 歳, 21 歳)を用いた。ポニーは、セ ラピー乗馬(30~60 分)の前後、移動営業でのふれあいを含む園児の曳き馬の前後、給 餌を遅らせた場合と通常時の唾液を採取した。また、サラブレッドでは朝の運動(60 分)の前後に唾液を採取した。採取した唾液は Cortisol EIA kit (Oxford Biomedical Research)を使用し、唾液中コルチゾール濃度を調べた。また、同時にヒト用唾液アミラ ーゼモニター (NIPRO)でアミラーゼ濃度も測定した(現在検討中)。 【結果と考察】 作成した検量線から、各サンプルのコルチゾール濃度を算出した。その結果、コルチゾ ール濃度はセラピー乗馬の直前では 0.123±0.10 ng/mL 、直後は 0.112±0.08 ng/mL で あり、サラブの運動の直前では 0.113±0.09 ng/mL、直後は 0.131±0.08 ng/mL (±SD)と なり、いずれも有意差はみられなかった。一方、移動営業での馬運車運搬直後、ふれあい +曳き馬直後、帰宅直後はいずれも他のサンプルと比較して高い数値が見られた。特にふ れあい+曳き馬の直後は 0.446 ng/mL と最も高くなり、セラピー乗馬後の最も高い数値と 比較しても約 1.7 倍であった。輸送によるウマのストレスは報告されているが、馬運車移 動に加え、異なる環境下での長時間のふれあいや曳き馬により高い数値となった可能性が ある。また、給餌時間の遅延は、通常と比べて高いコルチゾール濃度を示した。給餌の遅 延はストレス行動を示すという報告はあるが、給餌遅延による明確なコルチゾール濃度の 上昇はみられなかった。使用したポニーは営業の際、現場で長く餌を食べることができな いため、1 時間の給餌遅延実験よりは明確にコルチゾール濃度が上昇したと考えられる。 以上のことから、移動を伴わないセラピー乗馬ではウマに特別なストレスはかかっていな いことが推測される。現在引き続き、ウマのアミラーゼの検討を行っている。 - 34 - 22 腕節構成骨骨折時の関節液における酸化ストレスの評価 ○都築 直 1) ・草野寛一 1) 宮 崎 大 学 獣 医 外 科 学 研 究 室 ・ 2) JRA 2) ・上林義範 2) 美浦トレーニング・センター 【はじめに】酸化ストレスとは生体内で産生される活性酸素種が過剰となり、抗酸化物 質で除去しきれない状態とされる。酸化ストレスの発生の一因に炎症があり、関節炎の際 には関節液に酸化ストレスが増加していると考えられる。ヒトにおいて、関節液の酸化ス トレスは、関節軟骨の損傷を引き起こし、顎関節症といった関節疾患を悪化させる可能性 が示されている。このため、関節疾患において、関節液の酸化ストレスを抑制することは 悪化の予防、予後の改善に有用であると考えられている。しかしながら、ウマの関節液の 酸化ストレスに関する報告は少なく、その実態は不明なことが多い。さらに、健康な関節 と比較した報告もない。そこで本研究は、ウマの関節疾患の一つである腕節構成骨骨折肢 の関節液と、健康肢の関節液の酸化ストレスを比較・評価することを目的とした。 【 材 料 と 方 法 】 本 研 究 に は JRA 美 浦 ト レ ー ニ ン グ ・ セ ン タ ー に て 、 腕 節 構 成 骨 の 骨 折 の た め 関 節 鏡 手 術 を 実 施 し た 19 頭 ( 牡 11、 騙 1、 牝 7、 年 齢 : 3.2±0.6) を 用 い た 。 各 馬 とも臨床症状、X 線検査により片側の骨折であることを確認した。倒馬後、関節鏡手術の 実 施 直 前 に 両 腕 節 か ら 関 節 液 を 1 ml 採 取 し 、 骨 折 を 伴 う 肢 を 患 肢 、 対 側 肢 を 健 康 肢 と し た 。 採 取 し た 関 節 液 は 測 定 ま で -80℃ の 条 件 で 保 存 し た 。 採 取 し た 関 節 液 か ら 、 活 性 酸 素 種 の 指 標 で あ る diacron-Reactive Oxygen Metabolites (d-ROMs)、 抗 酸 化 物 質 の 指 標 で あ る Biological Antioxidant Potential (BAP) を 測 定 し 、 酸 化 ス ト レ ス 状 態 の 指 標 と な る Oxidative Stress Index (OSI: 計 算 式 = d-ROMs/BAP×100)を 算 出 し た 。 d-ROMs、 BAP な ら び に OSI は 平 均 ±標 準 偏 差 で 表 記 し 、 統 計 解 析 に は 対 応 の あ る t 検 定 を 用 い た 。 【 結 果 】 d-ROMs は 健 康 肢 で 76.7±16.3 U.CARR、 患 肢 で 87.2±15.0 U.CARR を 示 し 、 患 肢 で 有 意 に 高 値 を 示 し た ( p =0.02) 。 BAP は 健 康 肢 で 2050.0±377.0 mmol/l、 患 肢 で 1661.5±440.3 mmol/l を 示 し 、 患 肢 で 有 意 に 低 値 を 示 し た ( p =0.0002)。 OSI は 健 康 肢 で 3.9±1.1、 患 肢 で 5.6±1.8 を 示 し 、 患 肢 で 有 意 に 高 値 を 示 し た ( p =0.0002)。 【 考 察 】 d-ROMs は 高 値 で あ る ほ ど 活 性 酸 素 種 の 産 生 が 多 い と さ れ る 値 で あ り 、 BAP は 高 値 で あ る ほ ど 抗 酸 化 物 質 が 多 い と さ れ る 値 で あ る 。 ま た 、 OSI が 高 値 を 示 す ほ ど 強 い 酸 化 ス ト レ ス 状 態 で あ る と 考 え ら れ て い る 。 本 研 究 で は 、 患 肢 に て d-ROMs の 有 意 な 上 昇 、 BAP の 有 意 な 低 下 、 OSI の 有 意 な 上 昇 が 確 認 さ れ た 。 こ の 結 果 か ら 、 腕 節 構 成 骨 の 骨 折 発症時には、関節液の酸化ストレスが増加していると考えられた。関節液の酸化ストレス を軽減することは、関節軟骨の損傷を抑制すると考えられるため、症状の悪化ならびに再 発の予防に有用である可能性が考えられた。 - 35 - 23 乾草自由採食下のサラブレッドへのビートパルプ給与方法の違いが 採食量、消化率および糞pHに及ぼす影響 ○松谷陽介1)・村瀬晴崇2)・冨成雅尚2)・河合正人3) 1) 株式会社ホクチク・2)JRA日高育成牧場・3)北海道大学FSC 【目的】近年、日高管内のサラブレッド農家において利用が増えているビートパルプは、 繊維質が豊富でありながら可消化エネルギー(DE)含量はエン麦とほぼ同等であることから 「スーパーファイバー」とも呼ばれ、エン麦の代替飼料として注目されている。ビートパ ルプは吸水すると体積が増えるため、一般的に十分量吸水させてからウマに給与するが、 その吸水量や給与方法などは飼養者によって異なる。本試験では、乾草自由採食下のサラ ブレッドへのビートパルプ給与方法の違いが採食量および消化率に及ぼす影響について比 較するとともに、後腸内発酵性状の指標として糞pHについても調査した。 【方法】JRA日高育成牧場で飼養されているサラブレッド繁殖雌馬4頭にチモシー乾草を自 由採食させ、併給飼料としてビートパルプペレット4kg/日に対して3倍量の水に浸してから 給与するBP3区、同様のビートパルプ4kg/日に対して20倍量の水に浸してから給与するBP20 区、圧ペンエン麦4kg/日を給与するRO区、併給飼料を給与しないHAY区のいずれかに割り当 てた。試験は4×4のラテン方格法により行い、1期10日間とした。併給飼料は1日2回に分け て6:00と16:00に同量ずつ給与し、9:00~16:00は砂パドック飼養し、それ以外は馬房内で 管理した。いずれのビートパルプも給与の約12時間前に水に浸し、十分に吸水し体積を増 やしてから給与した。BP3区のビートパルプは吸水後そのまま給与したが、BP20区のビート パルプは給与直前にザルで水を適度に切ってから給与した。採食量は各期とも7~10日目に 測定し、供試飼料の一般成分、中性デタージェント繊維(NDF)、デンプン、水溶性炭水化物 (WSC)および総エネルギー(GE)含量を測定した。また8~9日目に48時間、排泄直後の糞を全 量採取して各成分およびGE消化率と糞pHを測定した。 【結果】供試した吸水前のビートパルプペレット、圧ペンエン麦、チモシー乾草の乾物(DM) 中NDF含量はそれぞれ35.1, 25.9, 69.4%、デンプン含量は0.5, 29.0, 1.4%、WSC含量は18.8, 21.8, 7.0%であった。BP3区およびBP20区における給与直前のビートパルプ中WSC含量はそ れぞれ16.5, 8.9%DMであり、水に浸すことによるWSCの溶出がみられ、特に水を切ったBP20 区で顕著であった。総DM採食量は9.5〜10.3kg/日と各試験区間に有意な差はなかったが、 併給飼料採食量はBP20区で2.2kgDM/日とBP3区およびRO区の3.1, 3.2kgDM/日に比べて少な い傾向にあった。BP3区とBP20区でNDFおよびGE消化率に差はなく、DE摂取量はそれぞれ24.8, 25.9Mcal/日とRO区の26.3Mcal/日と有意な差はなかった。BP3区の平均糞pHは6.49とHAY区 の7.19より低かったが(P<0.05)、BP20区では6.72とHAY区およびRO区(6.97)と有意な差はな かった。以上より、BP3区とBP20区で消化率および総飼料採食量に大きな差はなかったが、 BP20区ではビートパルプ採食量が少ない傾向にあった。また、BP3区では糞pHが低い傾向に あったが、BP20区では糞pHの低下を抑制できる可能性が示唆された。 - 36 - 24 異なる気候環境下において高強度運動を負荷したときの発汗量の変化 〇松井 朗 1)・高橋佑治 2)・向井和隆 2)・大村 一 2)・高橋敏之 2) 1) JRA 日高育成牧場・2)JRA 競走馬総合研究所 【背景および目的】 運動に伴う発汗は、筋肉内温度や体温の調整に重要な役割を果たす。競走馬 がコンディションを維持するためには、運動時の発汗に伴い、失われた水分や 電解質を回復することが必要不可欠であるが、その量は気候環境により大きく 変化することが予測される。トレーニング中の競走馬に適切な水分および電解 質を補給するためには、運動により損失する発汗量を把握する必要がある。そ こで、異なる気候環境下において、サラブレッドに高強度運動を負荷したとき の発汗量の変化について調べた。 【材料および方法】 試験は、栃木県(競走馬総合研究所)において、夏期(8 月)、秋期(10 月) および冬期(2 月)の異なる季節に実施した。先行試験において確立した方法を 用い、頸部における規定面積発汗量から全身発汗量を推定した。各季節にそれ ぞれサラブレッド成馬 8 頭を供試し、傾斜 6%のトレッドミル上で高強度運動(1.7 m/s 1 分、3.5 m/s 2 分、7 m/s 2 分、12 m/s 2 分、1.7 m/s 10 分)を実施した。 【結果および考察】 それぞれの季節の試験時における平均気温は、夏期、秋期および冬期でそれ ぞれ 32.4、23.5 および 10.3 ℃で、平均湿度はそれぞれ 55.0、59.3 および 31.0% であった。冬期における発汗量は 0.44 ㎏であり、他の季節に比べ有意に少なか った(P < 0.001)。夏期は 2.9 ㎏と最も多かったが、秋期(2.2kg)との間に 有意な差はみられなかった。各季節の平均気温と発汗量の関係から、気温の上 昇に伴って、発汗量の増加がみられた。しかし、気温が 30℃以上のとき発汗量 の増加は鈍化し、この結果は規定時間内の発汗には限度があるためであると推 察された。今回は運動時のみの発汗量を調べたが、今後、発汗量の結果を踏ま えて、水分および電解質の適切な補給方法についての検討が必要であると考え られた。 - 37 - 25 馬体重および日齢と競走成績との関係について ○高橋敏之・高橋佑治 (JRA 競走馬総合研究所) 【背景と目的】 ヒトの短距離走において速く走るためには、筋肉が発揮するパワーの総量が重要であり、 パワーを発揮する筋肉を増やし、体を大きくした方が良いと考えられている。しかし、筋 肉は走る時には荷物ともなるため、体重当たりのパワーが重要である長距離走では、無闇 に筋肉を増やして、体を大きくせずに、パワーとのバランスをとることが重要であると考 えられている。競馬は、ヒトにおける中距離走にあたると考えられるため、パワーの総量 も体重当たりのパワーも重要であると考えられる。さらに、競馬では定められた負担重量 を背負うため、体重が重く、筋量が多いウマでは、パワー総量が高くなり、負担重量と馬 体重を合わせた総重量当たりのパワーも高くなると考えられる。このように競馬では、馬 体重の重いほうが競走に有利であると考えられる。そこで、馬体重と競走成績に関係があ るか検討した。また、馬体重は、成長と関連するとも考えられる。そこで出生から出走ま での日齢と競走成績との関係についても検討した。 【材料と方法】 体重および日齢と競走成績との関係を調べるために、出走頭数のうち複勝の対象となっ た頭数の割合を示す複勝率(上位 3 着以内の延べ頭数 / 出走延べ頭数 x 100)を用いた。 調査対象は、1996 年から 2015 年の間に JRA により主催された平地競走とした。ハンディ キャップ競走による出走馬の能力と負担重量の影響を除外するために、新馬・未勝利競走 のみを対象とし、さらに減量騎手の騎乗馬は除外した。また、日齢の影響を検討するため に、2 歳 9 月、3 歳 4 月、9 月の競走への出走馬のみを対象とした(延べ 55,957 頭、北半 球生まれのみ)。各測定時点、各出走馬の出走時馬体重および日齢について四分位数を用い て 4 つのカテゴリーに分割し、各カテゴリーにおける複勝率をオスと去勢馬、メスの 2 つ のグループに分けて計算し、解析を行った。 【結果および考察】 馬体重との関係では、オスと去勢馬、メスの両グループにおいて、2 歳 9 月および 3 歳 4 月の時点において、複勝率は馬体重が重くなるにつれて有意に上昇していた。3 歳 9 月の 時点では、3 番目に重いカテゴリーまでは馬体重が重くなるにつれて複勝率が上昇したが、 4 番目に重いカテゴリーでは 3 番目よりも有意ではないが複勝率が低かった。日齢では、 双方の性別グループの 2 歳 9 月時点において、最も日齢の高いカテゴリーの複勝率が有意 に高かった。しかし、3 歳 4 月の時点では、オスと去勢馬の最も日齢の低いカテゴリーに おいてのみ、複勝率が有意に低く、さらに 3 歳 9 月の時点では、日齢と複勝率に比例関係 は見られなかった。 馬体重と複勝率の関係は性別にかかわらず比例関係にあること、日齢と複勝率の関係は 新馬競走の開始初期にのみ見られ、成長に伴い日齢による複勝率の差が縮小することから、 日齢よりも馬体重が良好な成績と関連すると考えられた。3 歳 9 月の時点で、馬体重が最 も重いカテゴリーが最も高い複勝率を示さなかった理由としては、新馬・未勝利競走では、 1 着馬が上位クラスに勝ち上がる制度であるため、最も馬体重が重いカテゴリーのウマで 能力の高い馬は勝ち上がってしまうこと、または、この時点まで成長すると成績に対する 重い馬体重の効果が頭打ちになり、最も重いカテゴリーに含まれる馬の有意性が失われる 可能性が考えられた。 - 38 - 26 脛骨疲労骨折を発症したサラブレッド種育成馬の 7 症例 ○日高修平・小林光紀・安藤邦英・多田健一郎・藤井良和 軽種馬育成調教センター(BTC) 【はじめに】 脛骨の疲労骨折は、下腿部を原因とする跛行としては最も一般的で、レース未出走 の 2・3 歳のサラブレッドで起こりやすく、急性跛行以外の症状を得られないことが 多いと報告されている。X 線検査では骨折線が確認できることは少なく、仮骨形成か ら診断できることがある。また、運動継続により致死的な完全骨折を引き起こすとさ れている。これまで国内において脛骨疲労骨折を発症したサラブレッド種競走馬に関 する報告はあるが、育成馬に関しては見当たらない。本研究では、BTC 軽種馬診療所 で脛骨疲労骨折が認められたサラブレッド種育成馬 7 症例について報告する。 【材料および方法】 症例は 2010~2015 年に脛骨疲労骨折と診断されたサラブレッド種育成馬 7 頭(雄 5 頭、雌 2 頭、22~36 ヵ月齢)で、それらの臨床症状、X 線検査所見および転帰につ いて調査した。 【成績】 初診時に患部の圧痛は 5 頭、同部での腫脹は 2 頭で触知可能であった。歩様は全症 例において速歩で一貫した明瞭な跛行が認められた。1 頭は圧痛および腫脹が 8 日後 の再診時に確認された。初診時の X 線検査で明瞭な仮骨形成が観察されたのは 5 頭で あった。その他の 2 頭(1 頭は初診時から 8 日後)では仮骨形成がわずかながら認め られた。骨折の発症部位は脛骨尾側の遠位が 5 頭、中位が 2 頭であった。跛行の消失 は初診時から 23~52 日後の再診時に確認された。発症馬 7 頭中 6 頭が初診時から 175 ~458 日(平均 274.3 日、中央値 253 日)後にレース出走を果たした。 【考察】 脛骨疲労骨折は多くの場合、跛行以外の症状を示さないとされている。しかし、今 回の症例のように発症箇所が脛骨尾側中位~遠位で仮骨の形成を有すものであれば、 下腿部内側から注意深く触診することで圧痛を得られる可能性が示唆された。また、 発症初期は X 線検査による診断価値は低いとされているものの、ほとんどの症例で初 診時に明瞭な仮骨が観察されたことから、脛骨疲労骨折は明らかな跛行が認められた 場合、既に症状が進行しており、X 線検査により病変が確認できる可能性が示された。 今回の調査で得られた知見は、脛骨疲労骨折を早期発見することで完全骨折への悪化 を防ぎ、良好な予後に寄与すると思われる。 - 39 - 27 半去勢片側性潜在精巣において 抗ミューラー管ホルモン(AMH)の分泌が亢進する病態の免疫組織化学的検索 ○光明南潮 1)・村瀬晴崇 2) ・土生川佳世 3) ・渋谷 久 4) 安井 禎 5) ・大滝忠利 1) ・津曲茂久 1) ・南保泰雄 3) 1) 日本大学獣医臨床繁殖・2)JRA 日高育成牧場・3)帯広畜産大学臨床獣医学研究部門 4) 日本大学獣医分子病理・5)日本大学獣医解剖 【背景 ・目的】潜在精巣は馬にも多く発生する先天性の精巣疾患で、ほとんどが片側性で ある。このような症例ではしばしば下降側のみを摘出するという不適切な去勢手術が行わ れ、腹腔内に停留している精巣組織があるにもかかわらず“セン馬”としてみなされるた め問題となる。馬の潜在精巣の診断は、従来、触診、超音波検査、テストステロン測定、 hCG 負荷試験などによりは診断されていたが、これらの診断法は診断率が不十分であるこ とや特殊な装置が必要であること、測定に時間がかかることなど臨床応用においてネック になる点が多数挙げられる。近年では、より簡便に計測できる血清中の抗ミューラー管ホ ルモン(AMH)濃度の測定が半去勢片側性潜在精巣における診断指標として注目されている。 しかしながら、潜在精巣において,AMH の測定が他の精巣ホルモンよりも診断精度が優れ ている理由は明らかにされていない。本研究では片側性潜在精巣における AMH の分泌につ いて明らかにするために、血清中 AMH 濃度の測定および片側性潜在精巣の免疫組織化学的 検索を行った。 【方法】去勢手術時に正常精巣と同時に摘出した潜在精巣 7 個、正常精巣摘出後に腹腔内、 皮下または鼠径部で停留していた半去勢片側性潜在精巣 4 個、両側性潜在精巣 6 個(3 症 例)、正常精巣 3 個(3 症例)を使用した。精巣組織は定法に従って組織標本を作製し、抗 AMH 抗体を用いて免疫組織染色を行った。染色した精巣組織は 1 視野当たりの精細管数、 AMH 発現強度(4 段階)、精細管径(3 段階)を評価した。血清中 AMH 濃度は術前に採取し た血液を ELISA 法にて測定した。 【結果】1) すべての潜在精巣は大きさが萎縮し、精細管径スコアが低下しているにも関わ らず、精細管内における高い AMH 発現強度のスコアが認められた。一方、正常精巣では AMH の発現強度は低かった。 2) 潜在精巣では精巣における間質の割合は正常精巣に比べ大きかったが、間質は大部分 が線維芽細胞に置換されており、ライディッヒ細胞は減少していた。 3) 採取した潜在精巣例のうち、明らかに AMH 濃度の低い一症例では精細管径、数共に明 らかに減少しており、顕著な精細管の変性が認められた。 4) 潜在精巣例における血清中 AMH 濃度と潜在精巣中の AMH 発現強度には相関が認められ なかった。 【考察】AMH は雄の胎子期から性成熟期にかけて精巣での強い発現が認められ、性成熟後 の精巣には発現が低下するとの報告がある。一方、今回の研究結果から、同時期の潜在精 巣では精巣が萎縮しているにもかかわらず、精細管における AMH 発現強度は上昇している ことが明らかになった。よって、馬の飼養管理上しばしば問題となる半去勢片側性潜在精 巣では、セルトリ細胞からの AMH 分泌能が亢進した結果、血清中 AMH 濃度が高く維持され ていることが強く示唆された。 - 40 - 28 連続開催の芝馬場と競走中の怪我の関係について ○菊地賢一 1)・高橋敏之 2) 1) 東邦大学理学部・2)JRA 競走馬総合研究所 【背景と目的】 日本中央競馬会(JRA)主催の競走におい て、馬場と競走馬の怪我の関係を指摘され ることが多い。怪我の原因の一つとして、 均一性や平坦性が失われた荒れた馬場によ り、予想し得ない着地をしてしまうことが 指摘されている。 4 週程度の開催に比べて、8 週程度連続し て開催が行われる競馬場では、芝馬場の管 理が難しく、荒れた馬場になり易い。そこ で、本研究では、連続開催の前半と後半で、 競走中に怪我をする割合に違いがあるのか を調べる。 ぼ同じ値となり、5%水準で有意な差はなか った。 続いて、4 場・季節別の傷害率を、表 1 と図 1 に示す。東京競馬場の秋開催で、最 も差が大きいが、すべてにおいて 5%水準で 有意な差はなかった。 表 1 競馬場・季節別傷害率 【材料と方法】 2002~2015 年の平地、芝コースで行われ た JRA 主催のレースを分析対象とし、競馬 場は、主要 4 競馬場とする。分析に用いた データは、JRA 競走馬総合研究所から提供 していただいた。 分析では、8 週程度以上の連続開催で、前 半と後半の開催別(おおよそ 4 週ごと)に、 骨折や腱・靭帯の損傷などの怪我をした割 合を求める。その際、コース改修や他競馬 場のコース改修による変則開催などの影響 を受けていない期間を選ぶ。分析対象は、 下記の通りである。 【結果と考察】 まず、4 場・季節をすべて合わせて、連続 開催の前半と後半の傷害率を求める。傷害 率は、前半は 0.0139、後半は 0.0137 でほ 後半 0.0183 0.0121 0.0151 0.0147 0.0109 0.0115 0.0126 0.019 0.018 0.017 0.016 0.015 0.014 0.013 0.012 東京競馬場:2003 年~2015 年、春(4 月~ 6 月)、秋(10 月~11 月) 中山競馬場:2003 年 12 月~2015 年 4 月、 冬(11 月~1 月)、春(2 月~4 月)、2011 年春は除く 京都競馬場:2002 年~2015 年、冬(1 月~ 2 月)、秋(10 月~11 月) 阪神競馬場:2002 年~2015 年、春(2 月~ 4 月) ただし、東京競馬場の春開催は、2012 年以 降、開催の割り付けが変更されたため、開 催別ではなく、前半の 4 週とそれ以降に分 けて分析を行う。怪我をした割合(傷害率) は、出走頭数に対する、軽度以上の骨折ま たは怪我をした出走馬の数の割合とする。 前半 0.0171 0.0151 0.0146 0.0127 0.0117 0.0124 0.0120 東京春 東京秋 中山冬 中山春 京都冬 京都秋 阪神春 0.011 0.010 前半 東京春 京都冬 東京秋 京都秋 後半 中山冬 阪神春 中山春 図 1 競馬場・季節別傷害率 荒れた馬場により怪我が増えるのであれ ば、連続開催の前半よりも、馬場の荒れる 後半の方が、傷害率が高くなることが予想 される。しかし、表 1 と図 1 には、そのよ うな系統だった傾向は見られない。 以上により、連続開催の前半と後半で、 傷害率に差がないことが分かった。各競馬 場では、開催が進むに連れて、内側から外 側に仮柵を移動し、馬場の荒れた部分を使 用しない措置を行っている。開催が進んで も傷害率が高くならないのは、その効果に よるものかもしれない。 - 41 - 29 サラブレッド種繁殖牝馬の年齢が産駒の競走成績に及ぼす影響 ○佐藤文夫 1)・Jeffrey Fawcett2)・山崎洋祐 1)・村瀬晴崇 1)・羽田哲朗 1)・印南秀樹 2) 1) JRA 日高育成牧場・2) 総合研究大学院大学 【はじめに】 繁殖牝馬の年齢は、繁殖成績に最も影響を及ぼす要因の1つであることが知られている。 一方、繁殖牝馬の年齢が産駒に及ぼす影響については、体重や体高などの形質に関する報 告は多く見られるものの、競走成績に関する報告は少ない。そこで本調査では、サラブレ ッド種において繁殖牝馬の年齢が、繁殖成績および産駒の競走成績(獲得賞金)に及ぼす 影響について回顧的調査を行ったので報告する。 【材料および方法】 対象馬は、国内において 1998~2013 年に繁殖牝馬登録されていたサラブレッド種繁殖 牝馬(延べ 151,278 頭)及び、その繁殖牝馬が交配して 2008 年までに分娩された産駒(78,606 頭)とした。個体情報(馬名、交配記録、繁殖成績、産駒の情報)は血統書データベース (ジャパン・スタッドブック・インターナショナル)より抽出し、産駒の競走成績(中央 競馬における出走回数、獲得賞金)は JRA-VAN(JRA システムサービス株式会社)より抽出 し、解析に用いた。 【結果】 繁殖牝馬の交配時の年齢は 2~26 歳であった。交配馬の平均分娩率は、2 歳で 95%と最 も高く 24 歳では 16%まで漸減した。産駒の平均出走率は、43~58%であったが、繁殖牝 馬が 5~12 歳時に交配した産駒の平均出走率は 55%以上であったのに対して、21 歳以上お よび 3 歳以下で交配した産駒では 46%以下であった。平均獲得賞金は、繁殖牝馬が 6 歳時 の交配産駒で最も高く(950 万円)、10 歳時以降の交配産駒では漸減した。さらに、最終交 配年齢が高い繁殖牝馬ほど、初産駒の平均獲得賞金は高い傾向が見られたが、次年度の産 駒は前年の産駒のものを上回ることはなく、繁殖牝馬の加齢とともに漸減した。また、繁 殖牝馬の交配年次別に産駒の平均獲得賞金を比較すると、交配 3 年目の産駒をピークとし て、その後は漸減する様子が認められた。 【考察】 一般に、若齢馬や初産馬は馬体が小さく子宮容積も小さいため、産駒は馬体が小さく娩 出されることが多い。また、高齢馬は栄養状態や子宮機能の低下、泌乳量や運動量の低下 など、胚や胎子、産駒の健全な成長にとって不利な要因が多く働くことが知られている。 これらの要因は、繁殖牝馬の加齢に伴う繁殖成績や産駒の競走成績の低下と一致していた。 一方で、6~10 歳時に交配した産駒、交配 3 年目の産駒は、繁殖牝馬の子宮環境や全身状 態が良い時期に誕生した産駒と考えられ、競走成績も優れていることが明らかになった。 本調査の結果は、競走馬の生産性向上の一助になると思われる。 - 42 - 30 木曽馬の保全に関わるステークホルダーらの認識 ○ 髙須正規 1)・戸崎晃明 1, 2)・栫 1) 裕永 2)・千頭 聡 3) 岐阜大学応用生物科学部・2)競走馬理化学研究所遺伝子分析部・3)日本福祉大学国際福祉開発学部 急速なグローバル化と機械化によって、様々な地域の在来馬が絶滅に追いやられている。 生物の多様性は、環境、種および遺伝的多様性で構成されており、在来馬は、その中で遺 伝的多様性を担う。しかし、在来馬は所有される存在である「家畜」であることから、公 的な援助は少なく、その保全は所有者らに委ねられている。また、その保全方針も保全に 関わる人々(ステークホルダー)の意思が強く反映される。 生物の多様性保全は、モノとしての性質を持つ生物自身の問題と自然物である生物を取 り扱う人々の利害関係を別個に扱っては解決できない課題である。したがって、生物の多 様性を保全していくためには 2 つの統合、すなわち、「その生物を理解するための遺伝学、 繁殖学、生理学などの自然科学的統合」と「その生物に関わるステークホルダーらの利害 関係や意見の相違といった当事者間の合意点を探る社会科学的総合」が必要である. これまで、演者らは木曽馬の保全活動に携わってきた。そこで、木曽馬の保全における 統合の前者、すなわち、木曽馬における自然科学知見の統合を進めてきた。その結果、木 曽馬は現在の飼育頭数を維持することで、遺伝的多様性を保持したまま集団を維持できる 可能性が明らかになった。しかし、飼育者の高齢化や後継者の不足が顕著であるため、決 して楽観視できる状況ではないことが明らかとなった。 本研究では、木曽馬の社会学的理解のために、関係者らから木曽馬の現状認識ならびに 保全における問題点を聞き取った。その結果、木曽馬保存に関わる人々の間で保全に関す る十分なコンセンサスが得られておらず、効率的な保全活動となっていないことが示され た。 本研究で、保全活動に関わるステークホルダーの認識を把握でき、自然科学と社会科学 の統合を踏み出せた。今後、さらに木曽馬の保全生物学的理解と共に、地域における木曽 馬の価値を見出すなどの社会科学的研究を進め、これら 2 つの科学を統合した木曽馬の保 全活動を進めたいと考えている。 - 43 - 31 交配前後の重輓馬牝馬における子宮頚管の細菌と受胎性の関係 ○氏家由伽理・千葉暁子・滄木孝弘・伊藤めぐみ・山岸則夫・芝野健一 帯広畜産大学臨床獣医学研究部門 【はじめに】牝馬の生殖器における細菌の増殖は、受胎性を低下させ、子宮内膜炎等 の繁殖障害を引き起こし易い。生殖器が汚染される原因の一つに、交配時の種牡馬生 殖器や精液が挙げられる。健康な牝馬では、子宮内の自浄作用により交配後一定時間 以内に精液などの子宮内貯留液や細菌を排出できるが、自浄作用が低下あるいは破綻 した牝馬では、子宮内貯留液や細菌が停留し、受胎障害に至ることが報告されている。 交配前後の牝馬において、生殖器の細菌学的検索を行った報告は少なく、妊娠との関 連性を報告した研究も知られていない。したがって、本研究では、交配前後の重輓馬 における子宮頚管スワブの細菌検査を行い、受胎成績との関連を調査した。 【材料と方法】北海道十勝地方の 3 軒の重輓馬生産牧場において、2016 年に交配を行 った繁殖牝馬を試験に用いた。交配前のサンプルは、4cm 以上の大型卵胞および発情 徴候が認められた日に採取し、交配後のサンプルは最終交配後 12〜48 時間で排卵確 認した際に採取した。外陰部を洗浄・消毒後、膣鏡を挿入し、子宮頚管鉗子で挟んだ ドライスワブを用いて頚管内を拭い、サンプルを採取した。サンプルは血液寒天培地 に塗抹後、37℃で 24~48 時間培養した。培養結果は、単一菌種または 9 割以上同一 菌種の検出で細菌陽性と判断した。菌の同定は帯広臨床検査センターに依頼した。統 計学的解析は、χ2 検定あるいはフィッシャーの直接確率検定を用い、危険率 5%未満 を有意な差とみなした。 【結果と考察】自然交配における細菌陽性率は、交配前は 23.5%(n = 19/81)であっ たが、交配後は 54.3%(n = 44/81)で有意に増加した(P < 0.01)。人工授精におけ る交配後の細菌陽性率は 8.3%(n = 1/12)で、自然交配と比較して有意に低値であっ た(P < 0.01)。交配の前後に最も多く検出された菌は Streptococcus zooepidemicus であった(交配前:71%、 交配後:93%)。細菌陽性率を受胎馬と不受胎馬で比較する と、交配前は受胎馬で 0%(n = 0/14)、不受胎馬で 32%(n = 6/19)、交配後は受胎 馬で 7%(n = 1/14)、不受胎馬で 68%(n = 13/19)であり、交配の前後ともに不受 胎馬で有意に高値を示した。以上の成績から、交配が生殖器の細菌汚染の一因になっ ていること、さらに不受胎馬では子宮の自浄作用が低下し、持続的な子宮内の細菌汚 染があることが示唆された。一方、受胎馬では交配の前後ともに細菌陽性率が低値で あったことから、子宮の自浄作用が十分に機能していたことが示唆された。結論とし て、交配の前後における子宮頚管スワブの細菌検査は、子宮内の自浄作用の評価を可 能とし、受胎性の予測や治療実施の判断に有益な情報を与えると考えられた。 - 44 - 32 重輓馬牝馬における交配直前の血液生化学的性状と受胎性の関係 ○新倉匡賢 1)・千葉暁子 2)・滄木孝弘 2) 1) 十勝 NOSAI 北部事業所・2)帯広畜産大学臨床獣医学研究部門 【背景と目的】 繁殖牝馬において、1 妊娠あたりの平均発情サイクル数(交配回数) は 2 未満という報告が多い。潜在性子宮内膜炎や高齢、低栄養など様々な要因により、 牝馬の繁殖成績は低下することが報告されている。一方、過去の研究により、牝馬の 血液性状と受胎成績との関連が明らかにされているが、飼養環境の異なる生産牧場か ら預託された繁殖牝馬に対して、血液性状から不受胎の要因を検索した報告はみあた らない。本研究では、重輓馬の種牡馬繋養牧場において、様々な生産牧場から預託さ れた繁殖牝馬を用い、交配時の血液性状と受胎成績との関係を調べた。 【材料と方法】 2014〜2015 年に北海道十勝地方の 1 軒の種牡馬場に預託された繁 殖牝馬 25 頭の計 28 発情を試験の対象とした。授乳中の母馬は本研究のデータ解析か ら除外した。交配前 9 日以内に頚静脈より採血し、血清中のグルコース、乳酸、遊離 脂肪酸、LDH、総コレステロール、トリグリセリド、尿素窒素、クレアチニン、総タ ンパク質、アルブミン、グロブリン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、γ -グルタミルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、クレアチンキナーゼ、 カルシウム、無機リン、マグネシウム、鉄、ナトリウム、カリウムおよびクロールを 測定した。妊娠鑑定は、最終交配日から 14〜35 日後に超音波検査、または預託終了 後の聞き取り調査により確定した。排卵を伴う1〜2回の発情で受胎した馬を Fertile 群(F 群、n = 16)、2回の発情で交配したにもかかわらず受胎しなかった馬 を Repeat-Breeding 群(RB 群、n = 12)と定義した。統計解析として、student’s t-test あるいは Welch’s t-test を行い、P < 0.05 を有意な差、P < 0.1 を傾向とした。 【結果と考察】 トリグリセリド、尿素窒素および鉄は、F 群に比べて RB 群の方が 有意に低値を示し(P < 0.05)、マグネシウムおよび無機リンは RB 群が低い傾向を示 した(P < 0.1)。一方、グロブリンは RB 群が高い傾向を示した(P < 0.1)。これら の結果より、受胎成績が低い牝馬では、低栄養状態や慢性炎症性疾患の存在が示唆さ れた。供試馬は臨床的には健康であったため、慢性炎症性疾患の原因を追求していな いが、受胎性との関連が強いことから、潜在性子宮炎が疑われた。種牡馬場において、 預託牝馬の受胎効率を向上させるためには、預託前に栄養状態の改善(給与飼料の見 直しやボディコンディションの確認など)や交配開始前に潜在性子宮炎の診断・治療 を積極的に行うことが必要となるかもしれない。 - 45 - 33 分娩後初回発情における 牝馬の受胎性と産褥期の血清アミロイド A 濃度との関係 ○千葉暁子 1) ・大矢晏奈 2) ・新倉匡賢 2) ・氏家由伽理 1) 滄木孝弘 1) ・伊藤めぐみ 1) ・山岸則夫 1) ・芝野健一 1) 1) 帯広畜産大学・2)十勝 NOSAI 【はじめに】分娩後初回発情(foal heat:FH)とは、分娩後 4~14 日における発情である。多く の研究で、FH における受胎率は分娩後 2 回目以降の発情と比べて低いことが報告されている。ま た馬の繁殖障害として大きな問題となる早期胚死滅も FH において多いので、FH での交配は回避 される傾向にある。また、産褥熱は周産期における発熱性疾患の総称であり、全身性急性子宮炎の 症状の一部である。牛では産褥熱を発症した場合、その後の繁殖成績が低下するとの報告が多くあ るが、馬では産褥熱が受胎率に与える影響について不明な点が多い。一方、 血清アミロイド A (serum amyloid A:SAA)は急性期蛋白の一種で、病原体の感染や炎症に対して速やかに反応することか ら、馬の臨床領域において広く利用されているが、繁殖管理に応用した報告はない。本研究の目的 は、臨床的に健康な牝馬と産褥熱を発症した牝馬における産褥期の血中 SAA 濃度と FH における 受胎性の関係を明らかにし、臨床繁殖学領域における SAA の利用価値を模索することである。 【材料と方法】供試動物として、2012~2015 年に、北海道十勝地方の 3 牧場において FH で交配 を行った重輓馬の繁殖牝馬を用いた。分娩前 1 週間以内、分娩後 1 時間、1、2、4、7 日で採血し、 ELISA 法を用いて血清中の SAA 濃度を測定した。採血と同時に身体検査を行い、分娩後 72 時間 以内に直腸温度が 38.5℃以上となった場合に産褥熱と判断し治療を行った。分娩後 2~3 日毎に経 直腸超音波検査を行い、4cm 以上の大型卵胞と雄許容行動を認めた場合に交配を行った。なお、母 子に産褥熱以外の異常や FH 交配前後に子宮内への薬剤投与および子宮洗浄を行った場合には、本 試験のデータから除外した。統計解析として、student’s t-test、Chi-squared test および Fisher’s exact test を行い、P < 0.05 を有意な差、P < 0.1 を有意な傾向とした。 【結果と考察】臨床的に健康な牝馬では、分娩後 7 日目において、不受胎馬(n = 22)の SAA 濃 。産褥熱を発症した馬では、分娩後 7 日 度は受胎馬(n = 15)より有意に高値を示した(P < 0.05) 目において、不受胎馬(n = 10)が受胎馬(n = 7)に比べて有意に高い傾向を示した(P < 0.1)。 分娩後 7 日目の血中 SAA 濃度が 10μg/ml 未満であった馬の受胎率は 50%(n = 20/40)であり、 10μg/ml 以上の馬(14.3%、n = 2/14)や、100μg/ml 以上の馬(0%、n = 0/8)に比べて、有意に 高かった。以上より、産褥熱発症の有無にかかわらず、分娩後 7 日目までに炎症が落ち着く牝馬で は、FH での受胎が期待できることが示唆された。本研究により、FH において交配の可否を判断 する際、SAA は有用な指標の一つであることが明らかとなった。今後は、分娩後 2 回目発情以後 の牝馬や、非分娩馬について調査し、血中 SAA 濃度の受胎性の予測に対する有用性を検証してい きたい。 - 46 - 34 スマートフォンを用いた軽種馬の歩様解析 ○山本規洋子 1)・辰巳耕司 1)・秋田賢一 1)・内藤壮司 1)・島田 理 1)・田中梨紗 1) 河合敦子 2, 3)・竹中重雄 3) 1) 富士通関西中部ネットテック株式会社・2)ホースベッツ・3)大阪府立大学 【背景】 馬の育成調教時にスマートフォンを装着し、採取したセンシングデータから歩数や歩法、バラン スを算出する取り組みについて、2014 年に本学会にて「乗馬 13 頭分のデータを解析しビデオ動画 と比較した結果 90%以上の精度で歩数と歩法を判定できることを確認した」と報告した。今回、実 際の歩法と異なる判定が得られた例について原因解析を行い、アルゴリズムを改善することにより 判定精度の向上を試みた。 【材料と方法】 材料は、前回報告時に用いた「スマートフォンを専用の 胸繋に装着して採取した、 歩行に伴う加速度および角速度 の時系列データ」である(図 1) 。前回報告時の歩法判別 アルゴリズムは、 「四脚すべてが地面から離れて自由落下 状態になっているか、 歩行周期が短くなっているかなどか ら判別」するものである。実際の歩法と異なる判定が得ら れた例について、ビデオ動画との比較検証を行い、旧アル ゴリズムが判別のために参考にしている「上下運動」への 影響因子を検出し、 改善したアルゴリズムで再度判別を行 って精度の測定を行った。 【結果】 胸繋に装着して採取したセンサーから得られる「上下 図 1 胸に装着した加速度・角速度センサーデータ 運動」の波形には、 「馬場の硬さ」と「歩行中の首の運動」が大きく影響することがわかった。硬 い馬場では「自由落下」が小さくなることで判断を誤り、「速い常歩」や「ゆったりとした速歩」 などでは歩行周期による判断を誤っていた。そこで、基本とするセンサー波形を「ヨー軸角速度」 に変更し、 「上下加速度」波形を補助情報として使用する方式に変更した。 「ヨー軸角速度」波形は、 馬が歩行時にセンサーを回すリズムを表すものであり、「上下加速度」と比較して「歩行中の首の 運動」のノイズが乗りにくく正規化しやすい。結果として、新しいアルゴリズムでの歩法判別精度 は 95%以上に改善されたことを確認した。 【考察】 馬の歩行時における「加速度」 、 「角速度」波形をビデオ動画と突合していく過程において、これ まで着目してきた歩数、歩法、バランスのみでなく、歩様そのものを解読できる可能性があること がわかってきた。現在、跛行検知や走行フォームの可視化などに向けた新たな実証試験を行ってい る。 【参考文献】 1) 千田ほか, スマートフォンを用いた軽種馬の歩行鑑定システムの開発, 日本ウマ科学会第 27 回学術集会講演要旨集(2014) 2) 河合ほか, スマートフォンを用いた乗馬の歩様解析, 日本ウマ科学会第 27 回学術集会講演要旨集(2014) - 47 - 35 前肢における著しいコンフォメーション異常が 市場および競走成績等に及ぼす影響 ○宮田健二 1)・下村英次 2)・冨成雅尚 1)・頃末憲治 3)・石丸睦樹 4)・坂本浩治 5)・山野辺啓 4) 1) JRA 日高育成牧場・2)JRA 美浦トレーニング・センター・3)JRA 宮崎育成牧場 4) JRA 馬事部・5)JRA 競馬学校 はじめに オフセットニーやクラブフットなどのコンフォメーション異常(Abnormal Conformation:以下 AC) は競走成績に悪影響を及ぼすと考えられており、市場では敬遠される場合がある。しかし、わが国の サラブレッドにおける AC に関する報告はなく、市場成績や競走成績に及ぼす AC の影響は明らかに されていない。今回は、サラブレッド 1 歳市場における馬体検査で著しい AC を認めた馬について、 市場成績や競走成績、競走期の運動器疾患発症率に関する調査を実施した。 材料および方法 調査対象馬は 2009~2013 年に開催されたサラブレッド 1 歳市場(セレクトセール・セレクショ ンセール・サマーセール)の上場馬 6,768 頭とした。各市場の事前または当日下見時に、2 名以上 の獣医師および装蹄師が外貌や歩様を確認して、一般の購買者が忌避する程度の著しい AC を認め た馬(AC 群)のみを抽出し、それ以外を対照群とした。AC の抽出項目は全て前肢におけるもので、 オフセットニー、凹膝、起繋、X 脚、外向およびクラブフットの 6 項目とした。各群における市場 成績(売却率および中間価格)と競走成績(3 歳末までの出走率および初出走までに要した日数) を調査した。また、最初の競走馬登録が中央競馬であった 4,574 頭を対象として、AC を認めた肢の 競走期における浅屈腱炎、繋靭帯炎、前肢骨折および腕節構成骨々折の発症率を調査した。 結果 調査の結果、200 頭が AC 群として抽出された。その内訳は、オフセットニー102 頭(1.49%) 、凹 膝 40 頭(0.58%) 、起繋 16 頭(0.23%) 、X 脚 16 頭(0.23%)、外向 15 頭(0.22%) 、クラブフッ ト 11 頭(0.16%)であった。市場成績に関して、サマーセールでは対照群と比較して AC 群の売却 率が有意に低く、項目別ではオフセットニーの売却率が有意に低かった。競走成績に関して、対照 群と比較して AC 群の出走率、初出走までに要した日数および運動器疾患発症率には有意差を認め なかった。項目別では、クラブフットの出走率が対照群と比較して有意に低かったものの、初出走 までに要した日数および運動器疾患発症率について有意差は認めなかった。その他の AC 項目につい ては、出走率、初出走までに要した日数および運動器疾患発症率について有意差を認めなかった。 考察 本調査では、AC の影響をより明確にするために著しい異常のみを抽出したため、軽度の異常まで 抽出した過去の報告 (オフセットニー:12.9%、凹膝:4.2%、〔Love 2006〕)と比較して AC の出現 率が低かった。市場成績調査の結果から、AC は馬の市場評価に負の影響を及ぼすことが示された。 しかし競走成績調査の結果を見ると、対照群と比較して有意差の認められた項目はクラブフットの 出走率のみであり、他には AC の影響は認められなかった。これらのことから、AC が競走期の下肢 部に及ぼす影響は、我々関係者が認識しているほど重大ではなく限定的であると考えられた。ただ し、本調査においては抽出頭数が少なく統計学的結論が得られなかった項目も複数認められており、 更なるデータ蓄積が必要であると考えられた。 - 48 - 36 地方競馬における屈腱炎発症馬の疫学的調査による危険因子の解析 〇池田耀子・小林俊之介・中前陽子・石原章和 麻布大学獣医学部獣医学科外科学第二研究室 屈腱炎は、競走馬の強運動によって腱線維の微細断裂を起こす疾患である。 一般的には、屈腱炎の治癒には一年近い長期の休養を要し、競走復帰後にも再 発することが多いという、極めて経済的損失の大きい疾患である。屈腱炎の損 傷部は、線維組織に置換されて不十分な治癒に至ることが多く、完治が困難な 不治の病であることが知られており、発症予防に努めることが非常に重要な疾 患であると言える。 本研究では、屈腱炎発症馬の疫学的調査による危険因子の解析を目的として、 地方競馬の1場における故障発症情報の中から、屈腱炎の発症馬および同一厩 舎に所属する類似競走歴を持った馬を抽出した。そして、これらの発症馬群と 対照馬群のレースおよび使役に関するデータを、フィッシャーの正確確率検定 およびカイ二乗検定にて解析したした結果、競走距離、競走間隔、競走順位、 獲得賞金、発症前歴などの情報と、屈腱炎の発症とのあいだに相関傾向が認め られた。 このことから、屈腱炎発症馬の疫学的データを解析することで、発症に関与 する危険因子を解明できることが示唆され、より多くの競走馬の情報を収集・ 解析することで、その信頼性および再現性を立証できると推測される。しかし、 レースおよび使役に関する因子には、出走や転戦の判断において病歴を知る調 教師や馬主のバイアスが働いた可能性は否定できないことから、特定された危 険因子の因果性については慎重な解釈を要すると考えられた。 - 49 - 37 日中戦争期における軍馬の戦没状況 ―第 3 師団陸軍獣医の記録から― ○大瀧真俊(名城大学) 本報告の目的は,日中戦争期における軍馬の戦没状況を,1 人の陸軍獣医が残 した戦没軍馬名簿をもとに明らかにすることにある.軍馬に関する公式資料は, ほとんどが敗戦時に軍事機密として処分されてしまった.このため戦時の軍馬 に関する情報は,個人の記憶・証言にもとづいた戦記や手記などにおいて,そ の活躍や悲劇の事例が断片的に示されるのみであった.現在も戦時軍馬の全体 像については統計的に把握されておらず,動員された軍馬の総数ですら,約 50-60 万頭と推定されるに留まっている. こうした状況に対し,靖国偕行文庫所蔵の「中支派遣軍第三師団 陣没軍馬馬 匹連名簿」(複写版,原本は本別町歴史民俗資料館所蔵)は,まとまった期間・ 部隊における軍馬の実態を示した統計として非常に貴重といえる.この名簿は, 陸軍獣医中尉であった丸野森平氏が戦後に極秘で持ち帰り,亡くなるまで隠し 持っていたものとされる(WEB TOKACHI,2008 年 1 月 10 日).その中では,中国 に派遣された第 3 師団(名古屋師団)の軍馬のうち,1937(昭和 12)年 9 月か ら 1940 年 9 月までの 3 年間に戦病死した 4,042 頭について,各馬の「部隊名/ 馬名/性/年令/病名/戦病死年月日/戦斗名称」が記録されている. この史料の中から,本報告では性別,年令,病名の 3 つをとり上げて整理・ 分析を行ない,次の各点を明らかにしていく. ①性別割合は騸馬 70.1%,牝馬 26.3%,牡馬 0.2%(不明 3.3%)であった.戦 時初期から牝馬も動員せざるを得なかった日本の軍馬資源事情がうかがわれる. ②戦病死年齢(数え年)の平均は 10.7 歳であった.またその年代別割合は, 5-9 歳 37.6%,10-14 歳 44.5%,15-19 歳 12.2%,20-23 歳 0.5%であった.この 15 歳以上の高齢馬の死亡(動員)の多さも,軍馬資源の乏しさを物語っている. ③病名(死因)を大別すると,戦死 53.8%,病気・怪我 44.1%(不明 0.4%)と なる.戦死では,銃創 30.9%と砲創 18.1%が中心であった.病気・怪我では,疲 労 16.7%が最も多く,以下に腰痿 2.9%,疝痛 2.9%,骨折 2.2%,蹄葉炎 2.2%と続 いた.斃死馬が続出した後の南方戦線と比べると,意外に戦死の割合が高いと 感じられるが,それでも疲労が 3 番目の死因となっている点に日本陸軍におけ る軍馬の劣悪な扱いが表われている. - 50 - 38 和種馬と草地 ~日本の在来馬とブランド戦略を結び付けるところまで~ ○岩田光太(こまの岩田屋) 1 下記に着目して日本の在来馬の活用の方法を模索したいと考えています。 2 日本の在来馬は森の国で 2 次草原を維持する技術と共に受け継がれてきたこと 日本の在来馬の「強み」を活かして「差別化戦略・ブランド戦略」を採用すること 日本の在来馬とブランド戦略について 2.1 日本の在来馬の「強み」として以下を想定しています。 日本の風土に適している 親しみやすいサイズである 希少価値が上昇している 2.2 文明社会で生活を送りつつも文化的でありたいという人々のニーズに対して、日 本の在来馬の「強み」を活かす方法を差別化・ブランド戦略として導き出したい と考えています。 2 次草原保全活動と在来馬保存活動を結び付ける 日本の原風景としての「草原と馬」というイメージを具現化する 粗放的な飼育方法で維持管理コストの優位性を確保する 3 これらを総合して「半自然草原に暮らす半野生馬」という仕組みを確立することを現 時点の目標と想定していますが、今回の講演は日本の在来馬とブランド戦略を結び付 けるところまでとします。 宮崎県串間市都井岬の御崎馬(岬馬)は「半自然草原に暮らす半野生馬」の貴重な先例 と考えており、このノウハウを抽象化・一般化して、各地に「都井岬スタイル」として普 及を促すことで、地域経済に貢献する方法を考察していきたいと考えています。 - 51 - 39 和式鐙 ○菅野茂雄(日本甲冑武具研究保存会) 私は日常的に相馬野馬追や流鏑馬で、日本古来の鐙を使用しております。一例として、馬上で槍 の演武をしておりますと、足裏全体で鐙が踏めるので、踏ん張りが効き、馬上での体の回転がしや すいという長所があります。また、輪鐙では、鐙をつまんで向きを変えて乗馬をしますが、舌長鐙 ではその必要がありません。騎乗していて鐙が足からはずれた時、下を見なくとも鐙の位置が探れ て踏むことができます。さらに、落馬時に鐙に足を取られて引きずられることもありません。日本 独自に発展した舌長鐙の長所を知っていただき、世界中の人々に利用していただきたいと思います。 今回の内容は古墳埋葬品などから発掘されている渡来品の輪鐙でなく、それをベースに日本独自 に発展をしてきた壺鐙、それからまた発展した半舌鐙、その後鎌倉時代の合戦絵巻にも描かれてい て現在も馬の祭典、武者行列などで使用している舌長鐙の特徴を説明します。 素材 鉄 真鍮 鉄と木を組み合わせたもの 作り方 打ち出し(鍛造) 形の違い 三峰 双笑 片笑 鋳型(鋳造) 笑無 大鳩胸 アルミ(現代作) 無双刺牙 水馬用 踏込の板 母衣付けの穴 水抜きの穴 制作年代 鎌倉時代 南北朝~室町時代 戦国時代 江戸時代 制作地域 仙台(宮城県) 庄内(山形県) 会津(福島県) 吊金 武州(東京) 作者名 賀州、加州小松(石川県) 山城(京都府) 知多、大野(愛知県) 紀州(和歌山県) 勢州津(三重県) 薩州(鹿児島県) 鐙本体を作った製作者の名前、象嵌や蒔絵など装飾をした人の名前 装飾 製作者と象嵌師の二人の名前が入っている物や、無名のものも多数あります。 名前のみで、産地不明も有り。制作地域、制作者の名記されている時期は殆ど が江戸時代です、 螺鈿 蒔絵 象嵌 - 52 - 40 - 53 - メ モ - 54 - 2015 年 奨励賞受賞講演 - 55 - 【2015 年 奨励賞受賞】 サラブレッドにおける乳酸代謝 講演者:北岡 祐(東京大学大学院総合文化研究科) 座長:桑原正貴(東京大学) 2011 年の Experimental Physiology 誌において ”Lactate: metabolic fuel or poison for racehorses?” という記事が誌面を賑わせたように、乳酸に対する られてきたイメージは、 「ミトコンドリアで酸化される重要なエネルギー源であ る」という新たな考え方に置き換えられつつある。本発表では、サラブレッド が一体なぜ非常に高強度の運動を数分間も持続できるのか、乳酸を中心とした エネルギー代謝の側面から探ってみたい。乳酸の代謝には、そのトランスポー ターであるモノカルボン酸輸送担体(monocarboxylate transporter: MCT)が 重要な役割を果たす。MCT には、速筋線維に発現し乳酸の放出に関わる MCT4 と、 遅筋線維に発現し乳酸の取り込みに関わる MCT1 の 2 種類があり、これらを介し た乳酸代謝の流れは、 「乳酸シャトル」として知られている。それでは、サラブ レッドの骨格筋において MCT の発現はどのような要因によって変化するのだろ うか。まずはじめに発育に着目し、2 ヶ月齢からほぼ成体と同等の体重となる 24 ヶ月齢にかけての縦断的分析を行ったところ、中殿筋において乳酸の取り込 みに関わる MCT1 のタンパク質量が発育とともに増加することが明らかとなった。 一方、乳酸の放出に関わる MCT4 のタンパク質量には発育による変化はみられな かった。次に、ウマ用トレッドミルを用いてトレーニングによる MCT の変化に ついて検討を行ったところ、18 週間の高強度トレーニングによって、中殿筋の MCT1 および MCT4 タンパク質量を増加させることができることが明らかになった。 乳酸濃度が非常に高くなる条件において、解糖系筋線維(速筋線維)は MCT4 に よって乳酸を細胞外へと放出することで解糖系によるエネルギー産生を維持す ることができる。一方で、放出された乳酸の運命はどうなるのか。血液中に放 出された乳酸はミトコンドリアを多く含む酸化系筋線維(遅筋線維)や心筋に とって重要なエネルギー源となる。MCT1 を増加させ、ミトコンドリアの酸化能 力を高めることは、血液中に存在する乳酸をよりエネルギーとして有効活用す ることを可能にする。サラブレッドは、大量に乳酸を「産生する」と同時に大 量にエネルギーとして「利用する」ことによって高い運動パフォーマンスを発 揮することができる、のかもしれない。 - 56 - 2015 年 学会賞受賞講演 - 57 - 【2015 年 学会賞受賞】 ウマ運動生理学研究の現在と歴史 講演者:平賀 敦(JRA 日高育成牧場) 座長:桑原正貴(東京大学) 1. ウマ用フローシステムの構築 1992 年に行われた JRA 競走馬総合研究所の海外招聘研究により、運動時の酸素摂取量・二酸化炭 素排泄量・分時換気量・1 回換気量・呼吸数を測定可能なフローシステムの開発を行った。以来、 運動中の心拍数・血中乳酸濃度・血液ガス測定などを同時に行うことで、運動中の呼吸循環機能の 詳細な評価が可能となった。 2. 松葉重雄の研究 日本におけるウマ運動生理学研究の歴史は少なくとも昭和初期までさかのぼることができるが、 その中でも、東京大学の松葉と島村により 1933 年に報告された「競走馬の運動生理並に其の能力検 定に関する研究」が最も重要な研究と考えられている。松葉らは、生理学的指標 20 項目を運動前・ 運動直後・運動 1 時間後・運動 2 時間後・運動 3 時間後に測定し、運動前値を 100 とした百分率を 計算して、運動 1 時間後・2 時間後・3 時間後の数値が運動前値の 95~105%の範囲に達した場合を 回復したとみなした。そして、それぞれの時点での回復した 4 調査項目数に対する割合の平均を「回 復率」とするという考え方を提唱し、能力判定を実施した。 3. 運動中の呼吸と心拍数に関する研究 東京大学の岡部と杉山は、馬の鼻孔付近に装着した小型マイクロフォンを用いて呼気音を記録す ることにより運動中の呼吸数を連続的に測定し、運動直後の呼吸数は運動中の呼吸数とは異なるこ と、駈歩中の呼吸数はストライド数に一致すること、反手前前肢の踏着負重期に呼息が起こること など興味ある所見を報告した。 東京大学の野村と JRA 競走馬保健研究所との共同研究により、運動中心電図を記録するためのテ レメトリーを利用した心電図記録システムが新たに構築され、野外で全力疾走している馬の心電図 が世界で初めて報告された。 4. 輓曳運動に関する研究 東京大学の野村は、土橇(どぞり)を牽引中の心拍数は積載重量が重くなるにつれて増加するこ とを示した。野村は、心拍数の測定条件や運動強度と心拍数との関係などを詳細に検討し、心拍数 を指標とした農用馬の牽引能力判定法を開発した。 農林省の辰巳らは、ダグラスバッグ法を馬に応用することで運動中の酸素摂取量を測定し、様々 な条件下で運動する馬のエネルギー消費量を評価した。歩行速度の違いがエネルギー代謝におよぼ す影響を調べた実験により、歩行時には至適速度があり、速すぎる常歩や遅すぎる常歩は経済的で はないことを示した。さらに、野外実験に応用するために、測定が簡便な脈拍数と酸素摂取量との 関係を調べると、両者の間には高い相関関係があり、脈拍数は野外における運動強度の指標として 有用であることを示した。その他、水田耕起や異なる強度の畑作業を行う際のエネルギー代謝の比 較、牽引方法の比較、歩行時の水深の影響などについても研究を行った。 5. 最後に 現在、JRA 競走馬総合研究所で行われているトレッドミル運動負荷試験では多くの生理学的指標 が測定されており、 報告される研究は国際馬運動生理会議 (ICEEP) においても高く評価されている。 一方で、歴史を振り返ると、1930 年代からレベルの高いウマ運動生理学研究が日本で行われていた こと、1950 年代後半には野外運動中の酸素摂取量が測定されていたことなどがわかる。改めて先人 たちの業績に敬意を表さざるを得ないと感じている。 - 58 - 2016 年 奨励賞受賞講演 - 59 - 【 2016 年 奨 励 賞 受 賞 】 サラブレッドの周術期における酸化ストレスに関する研究 講演者:都築 直(宮崎大学) 座長:佐々木直樹(帯広畜産大学) 酸化ストレスとは生体で産生される活性酸素種が過剰となり、抗酸化物質で 除 去 し き れ な い 状 態 と さ れ る 。 過 剰 な 活 性 酸 素 種 は 蛋 白 変 性 や DNAの 障 害 を 引 き 起こし、細胞障害を発生させるとされる。近年、手術による酸化ストレスの発 生がヒトで報告されている。術中酸化ストレスは免疫の低下、創傷治癒の遅延、 腎臓等の臓器障害を引き起こすとされているため、術中酸化ストレスを低減さ せることは予後の良化のために重要であると考えられている。しかしながら、 ウマの手術時の酸化ストレスに関する報告は少なく、その実態は不明なことが 多い。そこでわれわれは、ウマの周術期における酸化ストレスを調査しおり、 若干の知見が得られたため、その概要を報告する。 去勢手術における酸化ストレスの発生状況:吸入麻酔下での去勢手術前後に 血 清 を 採 取 し 、 活 性 酸 素 種 産 生 の 指 標 で あ る diacron-Reactive Oxygen Metabolites (d-ROMs) 、 抗 酸 化 物 質 の 指 標 で あ る Biological Antioxidant Potential (BAP)を 測 定 し 、 酸 化 ス ト レ ス 状 態 の 指 標 と な る Oxidative Stress Index (OSI: 計 算 式 = d-ROMs/BAP×100) を 算 出 し た 。 d-ROMs は 手 術 前 後 に 有 意 差 は 存 在 し な か っ た も の の 、 BAP は 術 後 に 有 意 に 低 下 し (p=0.04)、 OSI は 術 後 に 有 意 に 上 昇 し た (p=0.04)。 d-ROMs は 高 値 で あ る ほ ど 活 性 酸 素 の 産 生 が 多 い と さ れ る 値 で あ り 、 BAP は 高 値 で あ る ほ ど 抗 酸 化 物 質 が 多 い と さ れ る 値 で あ る 。 ま た 、 OSI が 高 値 を 示 す ほ ど 強 い 酸 化 ス ト レ ス 状 態 で あ る と 考 え ら れ て い る 。 本 研 究 で は 、 d-ROMs に 有 意 な 変 化 は み ら れ な か っ た が 、 術 後 に BAP の 有 意 な 低 下 、 OSI の 有 意 な 上 昇 が 確 認 さ れ た 。 こ の 結 果 か ら 、 吸 入 麻 酔 下 で の 去 勢 手 術 は 、 酸 化ストレスを発生させると考えられた。 現在の課題:上記の研究により、馬においても術中酸化ストレスが発生して いることが明らかとなった。しかしながら、他の術式や体位での検討、麻酔の 影響の検討、術中酸化ストレスが予後に与える影響の検討などがなされていな いため、調査の範囲を広げ、検討する必要があると考えられる。 今後の展望:酸化ストレスを低減するには、①活性酸素種の発生を抑制、② 抗酸化能の向上という二つのアプローチが考えられる。しかし、手術を行う以 上、①は困難であることも考えられる。そのため、今後は術中に抗酸化能を効 果的に向上させる方法の開発が必要であると考えられる。 - 60 - 2016 年 学会賞受賞講演 - 61 - 【2016 年 学会賞受賞】 ウマの蹄病とその治療に関する研究 講演者:桑野睦敏(日本装削蹄協会) 座長:楠瀬 良(日本装削蹄協会) 蹄は非常に硬い蹄鞘を含むため薄切が困難であり、また蹄鞘をつくる角質は 水に不溶なため疾病診断を補助する生化学的解析も難しい。このことが蹄を病 理学的解析の対象から遠ざける理由になっている。私が平成5年に JRA 競走馬 総合研究所に異動した当時、国内に蹄病研究の専門家はいなかった。蹄病研究 の遂行には、蹄鞘・蹄骨を含めて蹄の広範囲を研磨組織標本に作製する技術、 時短を考慮してのミクロトームでの蹄壁薄切技術、そして生化学的解析を可能 とする蹄角質の水溶化技術の習得などが必要であった。病理については先駆者 を国外に求めて国際的な論文を探した。いっぽう、生化学については東京農工 大学硬蛋白利用研究施設の新井克彦教授に師事した。その甲斐あってか、蹄病 を解析する多くの知識と技術に恵まれ、ウマ蹄病の知られざる一面を探り当て ることができ、処置対策や治療指針を装蹄師および臨床獣医師に示すことがで きたのは幸いであった。今回、水を多く使う研磨技術を蹄鞘へ応用する際の難 しさ、 “コロンブスの卵”的な発想の転換から可能となったクライオトームを使 った蹄壁薄切法、溶けない蹄角質をケラチン分子が保存されるように水溶性に する技術などの紹介も含め、それらの技術を使って解明された競走馬を悩ます 難治性蹄疾患、とくに古くて新しい疾患と言われる蟻洞と慢性蹄葉炎の病理に ついて概説したい。蟻洞は、それまで単なる物理的外傷であると信じられてお り、穴を埋めさえすれば対処可能と思われていた。しかし、研究結果から増悪 要因として真菌感染や細菌感染があることが解り、樹脂性充填剤(エクイロッ クス)の単純な穴埋めだけでは病変の進行を防げないことがわかった。空洞病 変が広がって知覚組織に達すれば重度な跛行、しいては歩行困難からウマが廃 用となるケースも存在することは、競走馬資源の確保、ウマの福祉の観点から 決して無視できない事実である。当時、 「跛行のない蹄壁空洞疾患を研究するこ とは無意味だ」と言われたが、研究は適正な知識を蓄えてウマを足元から管理 しなければ、競馬自体が成り立たなくなるという教訓を示唆していた。 - 62 - 臨床委員会企画 - 63 - 招待講演 Equine upper airway - current and state of the art information in veterinary surgery and allied medicine ウマの上気道 - 外科手術をはじめとする医療の現在とその最先端 Norm G. Ducharme DVM, MSc, Diplomate ACVS James Law Professor of Surgery, Cornell University Hospital for Animals (CUHA) Department of Clinical Sciences, College of Veterinary Medicine, Ithaca NY and Cornell Ruffian Equine Specialists (CRES), 111 Plainfield Ave., Elmont, NY Cornell University 解剖学および生理学 上気道は、鼻孔から胸腔外気管に至るすべての呼吸器官と定義される。ウマの上気道は鼻孔、鼻 腔、副鼻腔、鼻咽頭、喉嚢、喉頭および気管から成るが、副鼻腔と喉嚢は空気の流路からは外れて いる。生理学的に、ウマは完全な鼻呼吸の生物であると認識されているが、ある病態(例えば軟口 蓋背側変位 DDSP)においては、呼気時に口腔咽頭を通る気流が優位となることがある。 上気道の閉塞は、換気を阻害する吸気または呼気時の抵抗性呼吸と定義され、ウマのパフォーマ ンスや QOL に影響を与えることがある。さらに、一次的な閉塞に伴う二次的な気流パターンの変化 は咽頭壁や他の構造物(右側声帯、披裂喉頭蓋ヒダ、吻側食道粘膜、口蓋咽頭弓など)の虚脱を引 き起こし、上気道における異常呼吸音あるいはさらなる気道閉塞の原因ともなる。異常呼吸音の有 無ならびに強度と気道閉塞の程度の間には必ずしも相関関係はないことに注意が必要である。 ウマには、換気状態を改善する手段として、歩法や運動強度に応じて以下の3つの呼吸戦略が存在 することが知られている。1)運動時の呼気圧を上昇させる、2)歩法と呼吸数を切り離す(通常 は1完歩1呼吸)、および3)吸気と呼気の持続時間を変化させる(呼吸不全の際に見られるよう な吸気時間の延長)。抵抗性呼吸の存在下で運動を継続すると、気流パターンの変化と、おそらく 筋肉の疲労によってさらなる軟部組織の虚脱や肺の損傷(EIPH)までもが引き起こされる可能性が ある。また、多くの調教師、馬主、獣医師が感じているように、ウマが酸素欠乏状態になることを 予見して、自らのパフォーマンスを加減することを学習するという側面もある。この“行動“は、 実際に換気障害の影響によって起こるパフォーマンスの低下と区別することは勿論、識別や定量化 も困難である。呼吸戦略における後者2つは、上気道閉塞を疑うに値する所見である。 閉塞の程度とウマの用途により、呼吸抵抗性(吸気または呼気時)の臨床的重要性が変わってく る。これはウマの品種によって、または同品種間でも差があり、さらにはそのウマの実際の用途 (使役内容)によっても異なる。例えば重種馬は、馬車競技(※複数の馬で馬車を曳くパフォーマ ンスを競う)とソリ競技(※ソリの重さを競う)では酸素必要量が異なる。同じ馬車競技に使役す る馬でも、先頭の馬は他のポジションの馬と比べて求められる運動負荷がはるかに少ない。上気道 への依存性は、短い距離(2,400m 以下)の平地競走に使役されるウマが最も大きいと考えられる。 疫学病理学 1-喉頭虚脱 反回喉頭神経障害:最も一般的な RLN の原因は遠位軸索症であり、遺伝的素因や耐性に 関するエビデンスが数多くある。実際に、RLN はサラブレッド種において体高遺伝子と遺伝 的関連性があるが 5)、温血種では保護効果が認められる 14)。ごく最近の報告では、3つの 品種における RLN 症例の一部で10番染色体における重複が検出されている 13)。病理組織 学的には、背側輪状披裂筋の免疫組織化学検索では標的化したタイプⅡx 筋線維群が明らか となった 26, 31) 。 - 64 - 静脈投与の失敗、静脈血栓症の波及、直接的な外傷または喉嚢真菌症による反回喉頭神経 あるいは迷走神経(または迷走交感神経幹)の外傷性損傷もまた反回喉頭神経片麻痺の原因 となり得る。喉嚢真菌症に関連する迷走神経の損傷を除き、反回喉頭神経の片麻痺は同側性 のホルネル症候群と関連して認められることがある。 喉頭先天異常(第四鰓弓欠損):内在性の喉頭筋群の神経筋異常を伴わない輪状および甲状 軟骨の異常で、片側性(通常は右側)の披裂軟骨の不完全な外転を引き起こす 17, 19)。これ らのウマでは輪状咽頭筋の欠損が多くみられ、甲状舌骨筋が欠損することもある。いずれの 先天異常が正常な披裂軟骨の外転を阻害するのか、正確なメカニズムは不明である。提唱さ れている仮説は、1)輪状甲状関節の欠損が背側輪状披裂筋(CAD)の動きを妨げる、2) 変形した甲状軟骨が披裂軟骨筋突起の外転を妨げる、3)変形した輪状軟骨の角度によって CAD の作用方向がより垂直に近くなるため、披裂軟骨の尾外方への動きに引き上げや回転が 伴わなくなる。このため正常な神経支配の CAD を、平行する縫合糸で置き換えたとしても (喉頭形成術)、これらの軟骨の形成異常を補正/矯正しない限り、良い結果は得られない。 喉頭の頭側位:最初の報告はノルウェー冷血トロッター種の症例で、屈頭運動の際に片側ま たは両側性の喉頭虚脱が認められた 30)。この障害の原因究明は、喉頭がより頭側に位置す る症例において認められた外部からの圧迫によって進展した 29)。 非反回喉頭神経障害:複数の報告がある 3, 11, 15, 25)。この障害の原因についてはほとんど知 られていない。鍵となるのは、片側または両側の披裂軟骨小角突起尖部の腹内方への転位で ある。披裂喉頭蓋ヒダの内側(軸側)変位(ADAF)に関連して起こることが多いが、重篤な 症例では喉頭蓋軟骨の基部の内側変位に伴って見られる。 披裂軟骨炎も片側または両側の披裂軟骨の虚脱の原因となり、その重症度は肉芽腫の存在 や披裂軟骨体の肥大の程度による。 披裂軟骨虚脱の治療は、その原因を考慮した上で行うことが重要である。 2-軟口蓋背側変位 DDSP 間欠的な軟口蓋の変位は、DDSPの原因を分類した3つの実験モデルのいずれかに関連して いる。すなわち、1)軟口蓋の筋肉支配における内因性の機能障害(口蓋筋および口蓋咽頭 筋)18)、2)喉頭および鼻咽頭とは無関係な上気道筋による喉頭および舌骨装置の位置であ る8, 12)。前述の頭位とは対照的に、喉頭がもっと頸部よりに位置していると、DDSPに関連す る鼻咽頭の不安定性の原因となると考えられている23)。上述の仮説は、この機能障害が筋肉 の異常によるものだという仮説によって追いやられたが、知覚刺激(喉頭蓋、喉頭および近 位気管の疼痛)の関与が証明されるのは時間の問題である。 検査により確認される、嚢胞や変形といった喉頭蓋や軟口蓋後縁の構造的異常もDDSPの要 因となる。 3-喉頭蓋エントラップメント EE 現時点では EE の原因を説明できる有力な情報はない。1歳馬においては喉頭蓋軟骨の先 端が著しく薄い明らかな先天性形成不全を伴って認められる。また口蓋裂の子馬でも多くみ られ、成馬では喉頭蓋あるいは喉頭蓋下部の炎症に続発するとされている。しかし、この病 変を再現する実験モデルは報告されていない。 診断検査手技 安静時内視鏡検査は依然として最も一般的な検査手技であり、運動前または直後に行われる。ま た RLN との相関関係において披裂軟骨の虚脱(表1)を予測する合理的手法である 4, 9)。一方で、 複数の虚脱やいわゆる“複合的障害”を予見することは難しい 20, 29)。その上、DDSP の診断におい ては偽陽性および偽陰性率が高い 19, 24)。 トレッドミル(HSTE)およびオーバーグラウンド(OGE)運動時内視鏡検査は、上気道の評価にお ける現時点のゴールドスタンダードである。HSTE は競走馬の検査に適しており、その他の競技馬で は OGE が好まれている。OGE においては、一貫した、あるいは確立された運動時検査手順より、ウ - 65 - マの頭部の位置や騎乗者の影響が重要となる。競走馬においては、検査時の運動強度および継続時 間がより重要となる。喉頭片麻痺は必ずしも反回喉頭神経障害によるものではないことを認識する ことが重要である。ホルネル症候群、喉頭形成不全、喉頭の頭側位 15)、声帯を伴う片側または両側 性の披裂軟骨の内方変位、披裂喉頭蓋ヒダの虚脱が原因となることもある 25)。原因が特定できない ままに手術を行っても失敗に終わるか、あまり効果のないものとなるだろう。 間欠的な DDSP の診断においては、前兆となる軟口蓋の動きが重要となる。軟口蓋が波打つ、喉頭 蓋の弛緩および喉頭の後退といった所見は軟口蓋の不安定性を示唆する 1, 4)。 体表からの喉頭および食道の超音波検査で検出される筋線維の減少ならびにコラーゲンの増加によ るエコー輝度の変化は RLN の優れた診断指標であり 6)、疑いのある症例におけるルーチンの追加検 査となっている 7, 16)。 第 1 頸神経の電気的刺激により、第 1、2 頸神経移植または有茎神経移植による神経再支配を正確 に診断できるようになった。 新たな画像診断ツールである高解像度のロボット CT システムは、立位でのウマの上気道器官の画 像診断における活用が大いに期待される。この装置はミリメートル以下の解像度を持ち、3 次元画 像再構成が可能である。本講演で、この画像診断ツールに関する我々の経験を提供する予定である。 最新の手術手技 反回喉頭神経障害 RLN:a)RLN の治療における最も新しい変化は、立位での喉頭形成術の導入であ る 27)。従来の横臥位での手法との技術的な相違はあるが、それほど困難ではない。それより重要な のは、頭部の位置を安定させるための適切な CRI による不動化ならびに枠場などの保定器具・設備 の使用である。食道峡部ならびに同部と披裂軟骨筋突起の近接に関する最新の情報は、いずれの手 術法においても、重要な新事実・報告である。金属製インプラント(螺子、ボタン)は、注意深く 設置すれば(経験を要する)、輪状軟骨の形状に関わらず(縫合糸の)安定的な固定を可能とする 10, 21) 。b)神経再支配:ヒトにおける喉頭神経再支配の最新手技がウマ医療に取り入れられており 22)、 シンプルな手技で、高い神経再支配率を得られるようだ。c)電気的刺激は技術の確立には至ってい ないが、神経移植後の第 1 頸神経刺激、反回喉頭神経刺激あるいは背側輪状披裂筋の直接的刺激な どで使用することができる。 喉頭形成術後の嚥下障害の治療:術後の嚥下障害は、1)気管を保護するための披裂軟骨および 声帯ヒダの完全内転および声帯裂の閉鎖の障害、2)喉頭の左側領域における過剰な瘢痕形成によ り、気管を保護するための喉頭の挙上および喉頭蓋の反転が阻害される(経験上、これらの症例に は tie-forward が有効である)、3)披裂軟骨筋突起周囲の食道における瘢痕形成による食道逆流 のいずれかに関連している。 舌骨下筋切除および喉頭タイフォワード術:舌骨下筋切除術については技術的な進展はないが、 輪状軟骨における切除した筋断端の治癒再生を最小限にするためには、胸骨舌骨筋の切除が重要で あることが明らかとなった。喉頭の側方変位を防ぐために、甲状軟骨両側翼に断端を縫合すること が重要である。最新の改良点については間もなく報告する予定である。喉頭タイフォワード術は、 実験的な神経原性嚥下障害モデルにおいて一定の効果が認められている。 喉頭蓋エントラップメントおよび肉芽腫の治療:最も成功率の高い手技であると同時に、最も重 大な合併症が起こる手技でもある。この手技に関する比較対照研究は報告されていないが、手術成 功の鍵は炎症を最小限にし、粘膜損傷をできる限り避け、喉頭蓋下部の治癒を促進することである。 - 66 - 表1:安静時内視鏡検査における被裂軟骨の評価基準(Havmeyer Grading System) グレード Ⅰ Ⅱ 定義 すべての披裂軟骨の動きが左右同調 で左右対称。 完全な披裂軟骨の外転が可能で維持 されうる。 披裂軟骨の動きは同調せず、かつ、 あるいは喉頭は左右不対称な時があ るが、披裂軟骨の完全な外転は可能 で維持されうる。 披裂軟骨の動きは左右同調せず、か つ、あるいは左右不対称。 披裂軟骨の完全な外転は不可能で 維持されない。 サブグレード a. 短時間の不同調、震える動き、あるいは遅れた 動きが認められる。 b. 披裂軟骨と声帯ヒダの動きの減少により声門裂 の左右不対称を多くの時間認めるが、時には(嚥 下時や鼻孔を閉じた時など)、完全な外転が可能で 維持される。 a. 披裂軟骨と声帯ヒダの動きの減少により声門裂 の左右不対称を多くの時間認めるが、時には(嚥 下時や鼻孔を閉じた時など)、完全な外転が可能で ある。しかし、維持されない。 b. 披裂外転筋が衰えていることが明らかで、披裂 軟骨は左右不対称。完全な外転が起こることはま ったくない。 Ⅲ c. 披裂外転筋が衰えていることは明確だが完全で はなく、披裂軟骨は左右不対称で動きはごく僅か。 完全な外転が起こることはまったくない。 Ⅳ 披裂軟骨と声帯ヒダはまったく動かな い。 参照文献 1) Barakzai, S. Z., Dixon, P. (2011). Correlation of resting and exercising endoscopic findings for horses with dynamic laryngeal collapse and palatal dysfunction. Equine Vet J, 43(1), 18–23. 2) Barakzai, S. Z., & Dixon, P. M. (2010). Correlation of resting and exercising endoscopic findings for horses with dynamic laryngeal collapse and palatal dysfunction. Equine Veterinary Journal, 43, 18–23. 3) Barakzai, S. Z., Es, C., Milne, E. M., & Dixon, P. (2007). Ventroaxial luxation of the apex of the corniculate process of the arytenoid cartilage in resting horses during induced swallowing or nasal occlusion. Veterinary Surgery : VS : The Official Journal of the American College of Veterinary Surgeons, 36(3), 210– 213. 4) Barakzai, S. Z., & Hawkes, C. S. (2010). Dorsal displacement of the soft palate and palatal instability. Equine Veterinary Education, 22(5), 253–264. 5) Boyko, A. R., Brooks, S. A., Behan-Braman, A., Castelhano, M., Corey, E., Oliveira, K. C., … Robinson, N. E. (2014). Genomic analysis establishes correlation between growth and laryngeal neuropathy in Thoroughbreds. BMC Genomics, 15, 259. 6) Chalmers, H. J., Caswell, J., Perkins, J., Goodwin, D., Viel, L., Ducharme, N. G., & Piercy, R. J. (2015). - 67 - Ultrasonography detects early laryngeal muscle atrophy in an equine neurectomy model. Muscle & Nerve, 53, 583–592. 7) Chalmers, H. J., Yeager, A. E., Cheetham, J., & Ducharme, N. (2012). Diagnostic Sensitivity of Subjective and Quantitative Laryngeal Ultrasonography for Recurrent Laryngeal Neuropathy in Horses. Veterinary Radiology & Ultrasound : The Official Journal of the American College of Veterinary Radiology and the International Veterinary Radiology Association, 53(6), 660–666. 8) Cheetham, J., Pigott, J. H., Hermanson, J. W., Campoy, L., Soderholm, L. V, Thorson, L. M., & Ducharme, N. G. (2009). Role of the hypoglossal nerve in equine nasopharyngeal stability. 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Investigations into the role of the thyrohyoid muscles in the pathogenesis of dorsal displacement of the soft palate in horses. Equine Veterinary Journal, 35(3), 258–63. 13) Dupuis, M. C., Zhang, Z., Durkin, K., Charlier, C., Lekeux, P., & Georges, M. (2013). Detection of copy number variants in the horse genome and examination of their association with recurrent laryngeal neuropathy. Animal Genetics, 44(2), 206–208. 14) Dupuis, M.-C. C., Zhang, Z., Druet, T., Denoix, J.-M. M., Charlier, C., Lekeux, P., & Georges, M. (2011). Results of a haplotype-based GWAS for recurrent laryngeal neuropathy in the horse. Mammalian Genome : Official Journal of the International Mammalian Genome Society, 22(9-10), 613–620. 15) Fjordbakk, C. T. (2014). Dynamic laryngeal collapse associated with poll flexion in harness racehorses clinical and pathophysiological aspects. 16) Garrett, K. S., Woodie, J. B., & Embertson, R. M. (2010). Association of treadmill upper airway endoscopic evaluation with results of ultrasonography and resting upper airway endoscopic evaluation. Equine Veterinary Journal, 43, 365–371. 17) Garrett, K. S., Woodie, J. B., Embertson, R. M., & Pease, A. P. (2009). Diagnosis of laryngeal dysplasia in five horses using magnetic resonance imaging and ultrasonography. Equine Veterinary Journal, 41(8), 766–71. 18) Holcombe, S. J., Derksen, F. J., Stick, J. A., & Robinson, N. E. (1998). Effect of bilateral blockade of the pharyngeal branch of the vagus nerve on soft palate function in horses. American Journal of Veterinary Research, 59(4), 504–8. 19) Lane, J. G. (2006). Fourth branchial arch defects. Equine Respiratory Medicine and Surgery, 467–472. 20) Lane, J. G., Bladon, B., Little, D. R. M., Naylor, J. R. J., & Franklin, S. H. (2006). Dynamic obstructions of the equine upper respiratory tract. Part 1: observations during high-speed treadmill endoscopy of 600 Thoroughbred racehorses. 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Effect of poll flexion and dynamic laryngeal collapse on tracheal pressure in Norwegian Coldblooded Trotter racehorses. Equine Veterinary Journal, 41(1), 59–64. 29) Strand, E., Fjordbakk, C. T., Sundberg, K., Spangen, L., Lunde, H., & Hanche-Olsen, S. (2011). Relative prevalence of upper respiratory tract obstructive disorders in two breeds of harness racehorses (185 cases: 1998-2006). Equine Veterinary Journal. 30) Strand, E., & Skjerve, E. (2011). Complex dynamic upper airway collapse: Associations between abnormalities in 99 harness racehorses with one or more dynamic disorders. Equine Veterinary Journal. 31) Tulloch, L. K., Perkins, J. D., & Piercy, R. J. (2011). Multiple immunofluorescence labelling enables simultaneous identification of all mature fibre types in a single equine skeletal muscle cryosection. Equine Veterinary Journal, 43(4), 500–503. 32) Virgin, J. E., Holcombe, S. J., Caron, J. P., Cheetham, J., Kurtz, K. A., Roessner, H. A., … Nelson, N. C. (2015). Laryngeal advancement surgery improves swallowing function in a reversible equine dysphagia model. Equine Veterinary Journal, 48, 362–367. - 69 - メ モ - 70 - 臨床委員会企画 - 71 - 症例検討会 肺胞出血による閉塞性気管支炎の1例 椎名紀夫(椎名動物医院) 【はじめに】咳嗽を初期症状とする疾患には COPD や EIPH などがある。近年の報告では EIPH の羅漢率が競走馬においては高率であるとされている。また EIPH を含む肺胞出血の発生因子は 多岐に渡るという報告もある。今回演者は、咳嗽と鼻出血、貧血を主徴とした馬の剖検を行い、 知見を得たので報告する。 【症例】患馬は、25 歳、去勢馬。咳嗽は以前より多かったが異常とは思わなかった。 初診時、両側鼻孔から出血、労作時に咳、可視粘膜蒼白、呼吸 48/分、両側ラ音、心拍 48/分 心悸亢進、体温 37.6 度。総ビリルビン 6.24mg/dL、直接ビリルビン 0.5mg/dL、Ht 21.4 %、RBC 479 万/μL、WBC6700/μL、Hb7.3g/L。内視鏡検査で上部気道に異常なし。治療:止血剤と対 症療法。経過:間欠的に咳嗽、鼻出血を繰り返し、第7病日に発熱(39.5~39.8℃、鼻出血、呼 吸困難) 、第9病日に死亡。 【病理検査】へい死後、解剖。肉眼検査後、主要臓器を含む 11 臓器を組織学的検査(HE 染色、 BB 染色、 グラム染色、PAS 染色) 。 肺病変より細菌学的検査。死亡時血液を生化学検査(SP-4420)。 EAV ゲル内沈抗検査。 【結果】肺は血栓多発と出血斑。脾臓血栓、大脳出血点、血栓。その他の臓器には死後変化を認 める。腹腔諸臓器、泌尿器に異常はなかった。組織学的検査:気管支に血餅を中心とした肉芽組 織形成。肺組織にヘモジデリンを貪食したマクロファージ、脾臓、肝臓にヘモジデリン貪食マク ロファージの集塊、肝臓小葉内に壊死、ヘモジデローシス。 細菌、真菌検査陰性。馬伝染性貧血陰性。死後血液にて、総ビリルビン値上昇、肝機能悪化(容 血変化の為参考値) 。 【考察】肺胞出血により形成された肉芽組織所見から、初診時時点で閉塞性気管支炎を発症して いたものと思われる。この反応は非特異性の生体反応であり、異物除去の過程であると考える。 また脾臓、肝臓に現れたヘモジデローシスは貧血の状況が、初診時以前から継続していたことに 起因すると考える。肺野に観察された新しい出血は、気管支閉塞に伴う咳、呼吸困難の状況がも たらしたものと考える。 老齢馬の肺胞出血は、多くの場合、原因となる肺疾患が存在するといわれている。今回の症例 では肺疾患は認められず、原因の究明はできていない。しかし、EIPH と同じ様な肺胞出血の発 生因子として、現在は管理環境、年齢、性差などが指摘されている。今回の症例から EIPH を含 めた肺胞出血の場合、鼻出血の有無よりも、咳嗽に対して早期に診察をする必要性があると思わ れる。 - 72 - 背側輪状披裂筋萎縮を超音波で診断した症例群 佐藤正人(NOSAI 日高) 2006 年に Chalmer らによって初めての報告がされてから馬の喉頭超音波(US)診断に 関しては複数の報告がある。当センターでは喉頭片麻痺(RLN)馬において体表背側から背 側輪状披裂筋(CAD)を描出し、その質や量を評価している。今回、その方法を紹介したい。 【症例 1】 2歳 牡 BW : 528kg 育成段階で喘鳴症を発症した。地方競馬で 1 勝したが、呼吸が苦しいということであっ た。安静時内視鏡では G4 と診断した。US : 縦断像での CAD の厚さは L:6.5mm、R:11.1mm、 横断像での面積は L:1.52cm2、R:3.15cm2 であった。ヒストグラム機能を用いた、単位面積 当たりのビット数(Pix)と平均階調値(MN)の比較では RPix:6430.9/ cm2、RMN:26.0、 LPix:6213.0/ cm2、LMN:37.0 であった。MN は数値が高いほど超音波輝度が高いことを示す。 【症例 2】 2歳 牡 BW : 464kg 1 歳時から喘鳴症を確認していた。安静時内視鏡では G3c と診断した。US : 厚さは、L:7.3mm、 R:7.7mm、面積は L:1.97cm2、R:2.07cm2、ヒストグラムでは RPix:/6258.5 cm2、RMN:26.4、 LPix:6200/ cm2、LMN:33.4 であった。 【正常馬】 4歳 牡 BW : 445kg 腕節の関節鏡手術のため来院した。喘鳴症の前歴はなく、正常馬として検査を実施した。 US : 厚さは、L:11.6mm、R:11.9mm、面積は L:3.05cm2 、R:3.59cm2 、ヒストグラムでは RPix:6213.1 / cm2、RMN:14.5、LPix:5971.5/ cm2、LMN:19.2 であった。 【考察と質問】 このように現在まで 135 頭の RLN 馬において US により CAD を評価した。すべての馬で Tie back と Cordectomy を行っているが、95.6%で LCAD の萎縮を、全例で RCAD よりも高い 超音波輝度を確認した。術中 24G 針により測定した値と US による測定値は相関することも 確認している。US による CAD の評価は安静時内視鏡と必ずしも一致するわけではなく、内 視鏡検査にとって代わる検査だとは考えていない。しかしながら、披裂軟骨は CAD の収縮 によってのみ外転が可能となることを考慮すると、術前情報としてもその診断意義はある と考えている。Ducharme 先生には、CAD 全体像を体表から描出できるこの方法についてど う思われるか?同様の検査は実施されているのか?経食道プローブを用いた評価と違いは あるか?など含め、ご意見を拝聴したい。 - 73 - Overground Endoscopy による上部気道疾患の診断 加藤史樹(社台ホースクリニック) 【はじめに】 サラブレッドにおける上部気道狭窄は、プアパフォーマンスの原因となり得ることか ら、ハナ差を争う競走馬にとっては“致命的”な疾患であると言える。安静時の内視鏡 検査では運動中の動的気道狭窄を正確に診断することはできないことが報告されてお り、高速トレッドミル内視鏡検査が gold standard とされてきた。近年、馬に装着して 騎乗運動中に検査が可能な内視鏡装置が開発され、広く普及してきたことで高速トレッ ドミル内視鏡検査にとってかわる検査法となりつつある。騎手が騎乗して行う運動時内 視鏡検査(Overground Endoscopy:OGE)ではより自然な環境で、実際の調教や競走に近 い検査条件での検査が可能であると考えられる。社台ホースクリニックでは 2010 年に Video Med 社(ドイツ)製 Mobile Laryngoscope®を導入し、現在まで 70 頭に対して 86 回の OGE を行った。 【症例と検査結果】 症例はサラブレッド 70 頭(競走馬 43 頭、調教中の育成馬 27 頭)で、稟告は異常呼 吸音あるいは異常呼吸音を伴う運動不耐性/成績不振で、1 頭は成績不振のみが検査理 由であった。安静時内視鏡検査で喉頭片麻痺が疑われた 36 頭では、24 頭(66.7%)で 披裂軟骨コラプス(ACC)が認められ、そのほとんどが披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位(ADAF) や声帯コラプス(VCC)なども複合した気道狭窄であった。ACC が認められなかった 12 頭のうち、6 頭で ADAF が認められ、3 頭は異常が認められなかった。安静時内視 鏡検査で DDSP が疑われた 15 頭のうち、8 頭で運動中の DDSP が認められた。安静時 内視鏡検査で異常が認められなかった 17 頭では ADAF が 9 頭で認められ、そのうち 5 頭が他の異常も複合していた。気管輪状靭帯のコラプスが疑われる所見が 2 頭で認めら れた。観察された動的異常所見から、21 頭の症例に対して病態に応じた外科手術の方 針が決定され、各手術が実施された。5 頭は検査結果とその症例の置かれた状況により、 治療対象とならなかった。検査のための運動中に P1 近位の関節内剥離骨折を発症した 症例が 1 頭、検査後に少量の鼻出血が見られた症例が 5 頭(7.1%)あった。 【まとめ】 OGE では、稟告の臨床症状を裏付ける所見を得るための運動負荷(強度)の設定が 重要である。また運動中に起こる異常が一種類ではなく、いくつかの病態が複合、ある いは時間差で起きている症例が多く存在することが判明した。これらの複合的な病態は、 それぞれがお互いにどのように影響を及ぼしているのか(DDSP と PC、ACC と VCC など)を注意して解釈する必要があり、かならずしもすべてを治療する必要がないのか もしれない。手術後に OGE を行うことで、手術結果の成否も含め検証すべき課題であ る。また、競走馬としての予後判定に際しての重要な資料にもなると考えられた。現在 運動時内視鏡検査の主流は、OGE となってきており、新たな疾患が報告されるなど、 今後さらに発展の余地があると言える検査方法であり、さらに症例を重ね、検査所見の 評価に習熟する必要がある。 - 74 - 立位内視鏡下レーザー声嚢・声帯切除術後に重篤な経過をたどった 2 症例 菊地拓也(JRA 美浦トレーニング・センター) 声嚢・声帯切除術は 2005 年以降、レーザーを用いた立位内視鏡下による術式が多数報告さ れている。術式は、大きく分けて両側切除と片側切除があり、さらに両側切除は同時に切除 する方法と 2 回に分ける方法が知られている。本会診療所においては、2015 年 12 月以降、 延べ 16 頭に対して立位内視鏡下レーザーでの声嚢・声帯切除術を実施しており、喉頭切開が 不要であるため、入院期間の短縮や早期に調教を再開できるなどのメリットを感じている。 しかしながら、術後に予後不良となる重篤な症例を 2 例経験した。これらについて、手術手 技や周術期管理が与えた影響について考えたい。 【症例 1】サラブレッド種、牡 4 歳 安静時内視鏡:異常所見なし 主訴:プアパフォーマンスおよび喘鳴音 OGE:声帯虚脱 声帯切除部位の癒着を回避するため、手術は片側ずつ 2 回に分けて 17 日間隔で実施(手術 時間:82 分、77 分) 。術後は患部へのベタメサゾン噴霧とフェニルブタゾンの投与を基本と した。初回の術後 1 週間は馬房内休養とし、その後は 15 分程の曳き運動を実施した。術後 19 日(2 回目の術後 1 日)目に便秘疝を発症したため、電解質液の経鼻投与および持続輸液 を実施したところ術後 21 日(2 回目の術後 3 日)目に改善したが、術後 26 日(2 回目の術後 8 日)目にカテーテル留置部位に静脈炎を発症した。さらに、術後 34 日(2 回目の術後 16 日) 目に左前肢、術後 36 日(2 回目の術後 18 日)目に右前肢に蹄葉炎を発症し、起立不能とな ったため安楽死とした。 【症例 2】サラブレッド種、牡 3 歳 主訴:プアパフォーマンスおよび喘鳴音 安静時内視鏡:喉頭片麻痺(GradeⅠa) OGE:声帯虚脱 左側の声嚢・声帯切除、右側の声帯は切り込みのみとする片側切除術を実施(手術時間: 37 分)。術後は患部へのベタメサゾン噴霧、フェニルブタゾン、フルニキシン、セファロチ ンナトリウムを投与。手術翌日より曳き運動を 15 分、1 日 2 回実施した。術後 3 日目に急性 腹症を発症し、開腹手術を実施したが盲腸破裂を認めたため安楽死とした。 【検討課題】 ・立位と全身麻酔の選択基準 ・術式(両側同時切除/両側を片側ずつ切除/片側切除)の選択基準 ・手術時間(鎮静薬、局所麻酔薬、手術の手際)の影響 ・術中・術後の疼痛管理 ・術後管理(投薬、運動制限、飼養管理) - 75 - 立位内視鏡下レーザー手術後に披裂軟骨炎 および披裂軟骨の外転機能障害を発症した1症例 飯森麻衣(JRA 栗東トレーニング・センター) 【はじめに】オーバーグラウンド内視鏡(OGE)の導入により、動的に上気道閉塞を 起こす多くの疾患が診断可能となった。近年、それらの各種上気道疾患に対する手術 に、レーザーが広く応用される一方で、いくつかの術後合併症も報告されている。今 回我々は、披裂喉頭蓋ヒダ虚脱(ADAF)および軟口蓋背方変位(DDSP)に対して内視 鏡下レーザー手術を行い、後に披裂軟骨炎および披裂軟骨の外転機能障害を発症した 症例について報告する。 【症例】サラブレッド種、牡、2 歳。主訴は調教時の異常呼吸音および発咳で、明ら かなプアパフォーマンスはなかった。OGE にて調教前半に披裂喉頭蓋ヒダ虚脱(ADAF) が、後半には軟口蓋背方変位(DDSP)を認めた。 【経過】立位内視鏡下にて、レーザーを用いて披裂喉頭蓋ヒダの切除および軟口蓋の 焼烙を行った。披裂喉頭蓋ヒダ切除時に、右披裂軟骨内側の粘膜にレーザー先端が接 触し、粘膜表面に発赤を認めた。術後 14 日目の内視鏡検査時は、同部から肉芽が増 生し、徐々に有茎状に増大したため、術後1ヵ月目に立位内視鏡下にて高周波スネア を用いて切除した。切除した肉芽の割面スタンプ標本から好中球およびマクロファー ジを多数認めたため感染を疑い、術後は抗生剤(セファロチン / スルファメトキサ ゾール・トリメトプリム)および NSAIDs(フェニルブタゾン)の投与を開始した。投 与を継続するも1ヶ月後には同サイズの肉芽が再生した。その時点で、放牧に出るこ とになったため、治療は中断となった。3 ヶ月後に帰厩した際には、肉芽は放牧前よ り小さくなっていたが、右披裂軟骨小角突起が外転機能不全となり、さらに超音波検 査で右披裂軟骨の変形および肥大を認め、披裂軟骨炎と診断した。しかしながら、披 裂軟骨炎の悪化(腫脹や肉芽の増大)や明らかな運動不耐性は見られなかったため、 そのまま経過観察をしたところ、レーザー手術(披裂喉頭蓋ヒダ切除および軟口蓋焼 烙)実施から 6 ヶ月後に出走可能となった。 【考察】本症例では、レーザーによる披裂軟骨の損傷が披裂軟骨炎を引き起こしたと 考えられる。さらに感染が加わったことで披裂軟骨炎が悪化し、披裂軟骨の機能障害 が続発した可能性が高い。 本症例について以下の 3 点について検討したい。 ・立位手術における鎮静・鎮痛法 ・披裂軟骨に肉芽を認めた際の処置 ・披裂軟骨炎の評価および治療方法(抗生剤の選択・披裂軟骨部分切除術の実施時期 および術式) - 76 - 99 頭のサラブレッドに発生した上部気道疾患に対する内視鏡下手術 田上正明(社台ホースクリニック) 【はじめに】トップアスリートであるサラブレッドの上部気道疾患は、競走馬としての 運動能力に大きな影響を及ぼす疾患のひとつであり、育成馬や繁殖雌馬においても重要 な疾患である。今回、ファイバースコープを用いてサラブレッドにおけるいくつかの上 部気道疾患に対して、内視鏡下手術を行った症例の概要を報告する。 【材料及び方法】症例はサラブレッドで、2001 年~2016 年 8 月に何らかの上部気道疾 患に対して内視鏡下手術が行われた 99 頭で、1 回の手術を実施した頭数は 82 頭、2 回 が 15 頭、3 回が 2 頭で、同一疾患に対して複数回実施した症例は 12 頭で、手術回数は 118 回であった。症例の年齢は、2 歳以下の育成馬 39 頭、3 歳未出走 1 頭、競走馬(2~9 歳)57 頭、繁殖雌馬(8/11 歳)2 頭で、性別は雄 59 頭、雌 38 頭、騸馬 2 頭であった。 運動中内視鏡検査を含む内視鏡検査により診断された各種の上部気道疾患に対して、 立位・鎮静下 2 頭、全身麻酔(主に静脈麻酔)下 96 頭、全身麻酔下後に立位・鎮静下 1 頭に対して、多くの症例で経内視鏡下で局所麻酔薬による咽喉頭部の表面麻酔を行い、 118 回の内視鏡下手術を行った。 【結 果】内視鏡下手術が行われた上部気道疾患の数は、Epiglottic Entrapment(EE); 51、披裂喉頭蓋ヒダの軸側変位(ADAF);20、声嚢・声帯の虚脱(VCC);12、軟口蓋の背 方変位(DDSP);10、披裂軟骨炎に伴う肉芽腫 (ACG);9、喉頭蓋下嚢胞(SEC);7、喉嚢 鼓脹症(GPT);5、甲状軟骨嚢胞・鼻腔内嚢胞・喉嚢膿瘍;各 1 であった。 各疾患に対する内視鏡下手術手技において現在実施している主な術式は、内視鏡視下、 EE フックや馬用喉頭鉗子(Stortz 社製)などを用いて手術部位にアプローチし、内視鏡 鉗子口を通したダイオードレーザープローブによって病変部を切開・切除する手技と、 内視鏡視下、内視鏡鉗子口を通した高周波スネアあるいはメスで病変部を切開・切除す る手技であった。 99 頭中 87 頭( 87.9%)は一回の手術で治癒した。治癒に 2 回の手術を要した症例は 11 頭で、EE が 6 頭、GPT が 2 頭、SEC・ACG・VCC (片側ずつ)が各 1 頭であり、3 回の手術 を要した症例は EE が 1 頭であった。 【まとめ】今回実施した馬の上部気道疾患に対する内視鏡下手術は、関節鏡や腹腔鏡手 術と同様に鏡視下で実施できる低侵襲な手術手技によって、各種の上部気道疾患に対し て確実な成果を得られる方法と考えられた。オーバーグラウンド内視鏡検査(OGE)の普 及により馬の上部気道疾患の診断精度が向上し、その診断結果に基づく外科手術頭数は 増加するものと思われる。OGE によって診断される上部気道疾患には複合して起きるも のが多く、それぞれの疾患にどういう対応(外科的介入)をしていくのかは今後の検討課 題であると思われる。また、レーザーを使用した手術症例には、炎症に起因する術後合 併症も散見されるので注意と対処が必要である。手術手技にはある程度の習熟を要する ものであるが、症例を重ねることにより、立位での内視鏡下手術も含めたさらに低侵襲 な手術を目指したいと考える。 - 77 - メ モ - 78 - 第 29 回日本ウマ科学会 優秀発表賞実施要領 日本ウマ科学会は、馬事文化の振興とウマに関する研究の推進に資するため、学術集会 における優秀な発表に対して優秀発表賞および最優秀発表賞を授与することとし、その実 施要領を以下のとおり定める。 1. 賞の概要 Science 部門(ウマに関わる科学的な研究など)と Culture 部門(馬事文化・馬術関係など) に区分し、それぞれの分野の優秀な口頭発表について優秀発表賞を贈る。優秀発表賞は、 両分野の合計が 5 題を超えない数とし、両分野を通じて最も優秀なものを最優秀発表賞と して表彰する。 2.審査対象 一般講演の応募の際、優秀発表賞へのエントリーがあった演題を審査対象とする。 3.審査方法と審査項目 (1)審査委員 学術委員会委員長および委員が、以下の項目について審査を行う。 (2)要旨による審査(優秀発表賞候補選考) 学術集会前に審査員による講演要旨の審査を行い、優秀発表賞候補を選考する。受賞候 補演題は、学術集会において一括して発表し、 (3)の審査を受ける。この要旨による審 査では「研究の質」 、 「馬事文化への貢献」と伴に「要旨の作成技術」などを評価する。 (3)学術集会での審査(最優秀発表賞・優秀発表賞の選考) 学術集会での審査は、優秀発表賞候補者講演(学術集会 2 日目午前)において実施し、 「表現技術(スライドの構成) 」 「説明技術(プレゼンの技術) 」 「研究の質」and/or「馬 事文化への貢献度」などについて評価し、優秀発表賞および最優秀発表賞を選考する。 発表者 5 名は、必ず定時総会に出席し、表彰式に参加する。 4.審査結果の発表 総会の最後に発表し、会長が受賞者を表彰する。また、受賞者の氏名を日本ウマ科学会 HP および Hippophile に掲載する。 5.応募方法 一般講演の申し込みの際、応募を受付ける。 ※日本ウマ科学会HP および Hippophile を掲載の「第29回学術集会の一般講演応募について」 を参照して下さい。 - 79 - 日本ウマ科学会 第30回学術集会のお知らせ 学会参加人数の増加に伴い現会場が手狭になっていることから,30回の節目を 迎えるにあたり,来年度の学術集会は下記の通り会場を変更いたします。なお, 同日程で開催されるJRA競走馬に関する調査研究発表会も同会場に変更となります。 大勢の皆様のご参加をお待ちしております。 日時:平成29年11月27日(月)~ 28日(火) 会場:KFC Hall & Rooms 国際ファッションセンター 墨田区横網1-6-1 http://www.tokyo-kfc.co.jp/ 講演会場・企業展示・懇親会が全て同じ建物内で行われます。 会場は都営地下鉄大江戸線「両国駅」に直結しています。 企業展示スペースが大幅に拡張されます。 - 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