関係性の中で育つ多様な心

関係性の中で育つ多様な心
7章 関わり合って育つ
仲間の中での育ち
物の理論
• ペアを組んでください
• 次のものを,相手に手渡しして下さい
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•
A→B
お皿の上にあるビスケットを相手に渡す
まな板の上にある豆腐を相手に渡す
米びつの中のお米を,相手に渡す
B→A
水槽の中のうなぎを,相手に渡す
水槽の中のかにを,相手に渡す
イクラを1粒,相手に渡す
心の理論
• 私たちは,他者の行動を,その人の心の状態を表す
言葉を用いて把握するようになる。
• 人の行動を心の状態を付与して理解するような体系
のこと…“心の理論”
• 他者の行動に「心」を帰属させること
• 目的・意図・知識・信念・思考・疑惑・推理・振り・好みなど
• 発達
• 人はものをほしがる…「欲求」の理解
• 人は「知っている」「思っている」事柄がある…「知識」「信念」
の理解
• 立場によって信念(その場をどう理解するか)が異なることの
理解
欲求や信念の理解
• 2‐3 歳頃には,感情だけでなく,自他の意図や欲
求に関わる心的な言葉も語りうるようになる(第6
章)。
• さらに, 4歳頃までに「知っている」「思っている」と
いった知識や信念についても語りうるようになり,
他者の行動をこうした心の状態(内的状態)を表す
言葉を用いて把握するようになっていく。
• このように,人の行動を心の状態を付与して理解
するような体系のことを心の理論(theory of mind) と呼ぶ(Premack& Woodruff, 1978)。
誤信念課題の通過とは?
• 脱中心化の一つの指標
• 脱中心化:自分の視点を離れて他者の視点からものごと
を考えることができるようになること。
• 脱中心化によって自分以外の視点からものごとを見ること
ができるようになれば、他者の視点に立ち、また第三者の
視点に立った、科学的な客観性に到達できる。
• あるいは相手の視点に立つことで、相互的な社会関係を
もてるようになる。
• 「他者が何を考えているか」を調べる認知的視点取
得の問題
• Cf. ピアジェの3つ山課題…視覚的視点取得
• 自分の心(見ている世界)と他者の心(見ている世
界)とが違うという理解
心の理論の獲得により
• 立場によって,信念や感情が異なることを理解す
るようになる
• 例)キャンディが好きな人
• キャンディの箱の中は小石にすり替えられている
• だが,そのことを知らない
• そのことを知らない状況:
• キャンディの箱を見たら?→ 喜ぶ
• すり替えられているのを知ったら?
• キャンディの箱を見て →がっかりする
太郎の失敗
• 太郎はテーブルの上のチョコレートを盗み食いしま
した。
• チョコレートを盗み食いしていないと言いはる太郎
に,お母さんは「あのチョコレートにはお酒が入っ
ているから,食べたら顔が真っ赤になるんだよ」と
(うそを)言いました。
• それを聞いた太郎は慌てて鏡のところに走って
いって,「赤くなんかなってないよ」と叫びました。
• そして,太郎はお母さんに叱られました。
• どうして太郎のうそはばれてしまったのでしょうか。
どうすれば,ばれずにすんだのでしょうか。
欺きが成立するには
• ①他の人を欺く意図をもっていること
• ②自分は「本当のこと」を知っていて,「他の人は
『本当のこと』を知らない」と知っていること
• ③本当ではないこと(=うそ)を本当だと他の人に
思い込ませること
• が必要
ニッキーの失敗
• ヘレンのお母さんは、ヘレンの誕生日にサプライ
ズ・パーティーを計画していました。お母さんは、
ニッキーを呼んでこう言いました。「誰にも言わな
いでね、特にヘレンには。」
• パーティーの前の日、ニッキーとヘレンが一緒に
遊んでいた頃、ニッキーは新しい服を引っ掛けて
破いてしまいました。
• 「もういや、この服はあなたのパーティーに着てい
く分だったのに」とニッキーは言いました。
• ヘレンは「何のパーティー?」と聞きました。
必要な理解
• 「ヘレンはパーティーのことを知らない」
• →1次の心の理論
• 自分は
• 「ヘレンはパーティーのことを知らない」
• ことを知っている
• →2次の心の理論
• →それに適したふるまいをしなければならない
自閉症児の理解として注目
妨害と欺き課題
• 鍵のかかる箱の中に、お菓子が入っています。
• 今から友達と泥棒が来ます。
• 友達の事は助けてあげて、泥棒は助けないように
しましょう。
• 妨害課題
• 物理的な援助・妨害ができるか
• 「友達( or泥棒)がやってきました。あなたは箱
に鍵をかけますか、それとも開けておきます
か?」
• 欺き課題
• 心理的な援助・妨害ができるか
• 今度は,箱に鍵が掛かっています。
• 友達(or泥棒)がやってきて、『この箱は開けら
れる?』と尋ねました。
• あなたは何と答えますか?
• 広汎性発達障害の子供
• 妨害は出来るが、嘘を付いて欺く事が上手に出来ない
「心の理論」という視点の意義
• シンプルな視点で、自閉症の子どもにみられるさ
まざまな特異的行動の説明を可能にした
• 単純明快な実験によって、「心の理論」障害仮説を
提起した
• 自閉症という障害を通して、「進化していくうえで重
要な要因は、自己や他者の心を読む能力にある」
ことを主張した
• ★重要な発達としての「心の理論」獲得
道徳性の発達
• ピアジェの見解
• 結果論的判断(被害の大きさ)から動機論的判断
(盗み食いをしようとした)へ
• ① 男の子が, ドアの後ろにコップがあるのを知らない
ままドアを開けてコップを15個割ってしまった
• ② 男の子が,戸棚のお菓子を盗み食いしようと,戸棚
によじ登った際に,コップを1個割ってしまった
• 7歳頃までは①の方が悪いという判断が多く
• その後の年齢では②の方が悪いと判断する
道徳性の発達段階(コールバーグ)
• Ⅰ 慣習的水準(罰を避ける)
• 段階1:罰と服従への志向
• 罰を避け,力をもつものに服従することに価値が置かれる
• 段階2:報酬と取引への志向性
• 自分の欲求や他者の欲求を満足させることに価値が置かれる
• Ⅱ 慣習的水準(社会的ルールを意識)
• 段階3:対人的同調への志向性
• 他者から肯定されることに価値が置かれる
• 段階4:法と秩序への志向性
• 社会の構成員の1人として社会の秩序や法律を守ることに価値が置かれる
• Ⅲ 脱慣習的水準(自らが定義した道徳的価値によって判断)
• 段階5:社会的契約への志向性
• 道徳的な価値基準が内面化されている。個人の権利や社会的公平さに価
値が置かれる
• 段階6:普遍的倫理への志向性
• 人間の尊厳の尊重に価値が置かれる
理性を伴った
道徳性の判断へ
最近では…
• 直観的な道徳性の萌芽は赤ちゃんの頃から見ら
れる
• 幼児期以降は,心の理論の発達とともに,より複
雑な道徳的判断が発達する
• 幼児期に,わざと(意図的に)行った悪事は(わざとでな
い場合に比べて)より悪いことだと判断するようになる。
• 児童期には,悪い結果につながることを「知っている」
のに行った悪事は(知らない場合に比べて)より悪いこ
とだと判断するようになる。
• 共感性や向社会的行動にもつながる
社会性の発達を支えるメカニズム
~実行機能
• 近年,「心の理論」課題通過に実行機能のうちの抑制
機能が寄与するという知見が共有されている
• 抑制機能の発達が心の理論の発達を予測
• 1.抑制:その状況で優勢な行動や思考を抑える能力
• 満足の遅延の問題として古くから検討されてきたところ
• 2.シフティング(認知的柔軟性)
• ある次元から別の次元へ思考や反応を柔軟に切り替える能
力
• 3.ワーキングメモリ
• メモリ内に保持される情報を監視し,更新する能力。
抑制
• ある状況で優勢な行動や思考を抑えるプロセス
• 目立つものにすぐに反応しない能力
• 葛藤抑制
• 優勢な情報や反応を抑制し,別の情報や反応を活性
化させること
• e.g., ストループ課題
• 遅延抑制
• 「待つ」…衝動的な反応の抑制
• e.g., マシュマロ課題,遅延贈り物課題
• 3歳くらいまでは抑制が困難。
(参考)シフティング
• ある次元から別の次元へ思考や反応の柔軟に切
り替えるプロセス
• Cf. あるなしクイズ
• 3歳ぐらいまでは最初のルールに固執
更新(updating)
• ワーキングメモリに保持される情報を監視し,更新
する能力
• ワーキングメモリ
• 情報を一時的に「保持」しながら同時に「更新」も行うシ
ステム。
• 幼児期に発達が見られる。 Cf. 逆唱課題
自己抑制の検討方法として:
満足の遅延課題
• 満足の遅延:すぐに手に入れられる価値の低い報
酬を断念し、より価値の高い報酬を得るまで我慢
する、しかも、そうするか否かの決定は、他者に
よって一方的に決められるのではなく、本人自身
が決めるというタイプの自己制御。
• たとえば、「今お菓子を食べたいけど、あとでご飯をお
いしく食べるためにがまんしょう」など。
• →満足の遅延は、自分が価値があると認めたことのた
めに、目先の欲求の充足を断念することであり。自分自
身の生活や人生をより有意義で満足なものにするため
に不可欠な能力である。
個人内の2つのシステム
• ホット・システム:情緒に基礎を置くシステム
• クール・システム:認知的なシステム
• →相反する特性をもったシステム
• 外界の刺激とこれらのシステムとの相互作用とい
う観点から、満足の遅延事態における外的条件と
内的方略の効果が体系的に説明されている
(Metcalfe & Mischel, 1999)。
自己抑制に関連する事柄
(満足遅延課題を通して)
• 1.気紛らわし方略
• 2.遅延報酬の顕現性
• 遅延報酬の顕現性を高めることは、待機にともなう欲
求不満を強める
• 3.活性化されるシステム:情緒or認知
• 4.課題関連的自己言語化
発達との関連は?
• 3歳から6歳にかけての変化が課題?
• 4歳または5歳の幼児よりも、8歳の児童のほうが待機時間
が長い(Yates et al., 1981)
• 3歳児と5歳児では差がみられない(Toner & Lewis, 1979)
• 即時報酬と遅延報酬の差が小さい条件では、4歳児・5歳児
よりも6歳児のほうが待機時間が長い(光富, 1988)
• 即時報酬と遅延報酬の差が大きい条件では、4歳児でもほ
とんどの子どもが遅延報酬を選択し、20分もの遅延に耐えら
れる(光富, 1988)
• 社会的場面での幼児の自己制御の発達では,自己抑制的
な機能が3歳から6歳の終わりにかけてほぼ一貫して増加
する(柏木, 1988)
自己言語化の効果における発達的変化
• ルリヤのバルブ押し実験(Luria.1961)
• 赤いランプと青いランプの前に子どもを座らせ「赤いランプがつ
いたらバルブを押して、青いランプがついたら押さないで」と教
示。
• 3歳前半児:ついたランプが赤でも青でもバルブを押してしまう。
• 4歳前半児:正しく反応することもあるが、ランプの点灯の見過ごしも目
立つ。
• 赤いランプがついたら「押せ」、青いランプがついた場合は「押
すな」と子ども自身に言わせながら課題をさせた。
• 3歳前半児:声を出すのに気をとられて手がお留守になったり、「押す
な」と言いながらバルブを押してしまったりという反応
• 4歳前半児:自らに向けた発声の効果はてきめん、赤と青のランプの意
味を確実に分化させて反応
• 4歳半~5歳半:最初の教示だけで安定した反応。「押せ」や「押すな」
と発声させるとかえって行動を妨害する。
• 4歳代というのは、外言から内言による行動コントロールの移
行がみられる時期