中国の金市場:その歩みと展望 - World Gold Council

中国の金市場:その歩みと展望
ワールド ゴールド カウンシルについて
目次
ワールド ゴールド カウンシルは金市場の育成・発展を目的とする組織です。
要旨
投資、宝飾、テクノロジーの各分野、政府・中央銀行と協力をしながら、
はじめに
01
01
金に対する持続的な需要を喚起するために業界のリーダーとして活動を
主な調査結果
02
行っています。
急速に進む都市化
04
ワールド ゴールド カウンシルは、金市場に関する真の洞察力を生かし、
金をベースにしたソリューションやサービスの開発、市場の育成を行って
います。こうした活動を通じ、主要市場において金需要の構造的変化を
実現しています。ワールド ゴールド カウンシルは、その洞察力を国際金
市場に提供することにより、金特有の富の保全性と社会・環境に対して金が
果たせる役割について理解を深める活動を行っています。
英国に本部を置くワールド ゴールド カウンシルは世界の主要金鉱山会社を
メンバーに持ち、
インド、日本を含む極東、欧州、米国にオフィスを有して
います。
調査手法
ワールド ゴールド カウンシルは、Precious Metals Insights社(PMI)
に、
中国における金需要の中期見通し
(本調査で「中期」は2014〜2017年の
期間と定義します)に関する調査を行い、調査結果の詳細な報告書を
まとめるように委託しました。PMIの創業者でマネージング・ディレクターの
フィリップ・クラップワイク
(Philip Klapwijk)
は、GFMSのエグゼクティブ・
チェアマン、
トムソンロイター GFMSのグローバル・メタルズ・アナリティクス
部門責任者として、豊富な経験を積んできた金市場のベテランです。
今回の調査は、中国の金市場に関する彼の深い知識と、
ワールド ゴールド
カウンシルの専門知識とが融合した成果です。
今回の調査には、PMIとワールド ゴールド カウンシルが深圳、上海、北京の
金市場参加者を対象に共同で行った詳細なインタビュー、
さらにワールド
経済発展と金市場
06
はじめに
06
金市場の規制・規制緩和
07
経済発展と金需要
09
金の歴史背景
10
宝飾品
はじめに
15
15
市場構造と商品特性
17
中間所得層の台頭
20
今後の見通し
24
金投資
はじめに
29
29
市場の拡充
34
今後の見通し
38
工業用の需要
概要
40
40
エレクトロニクス
41
装飾用需要
42
今後の見通し
42
公的部門
はじめに
44
44
歴史的背景と現状
45
供給
されています。その中には次のような調査が含まれています。
はじめに
49
49
・ 2011年に中国の消費者1万人以上を対象に、金宝飾品との関係を
世界最大の金生産国
50
リサイクル
53
「余剰」金の謎
56
ゴールド カウンシルによる最近数年の広範囲な消費者調査の結果が反映
調べた総合的な利用実態・志向調査(TNS社)。
・ 2013 年5月から2014 年3月までの数次にわたる中国の消費者定期
調査の一環として、今後12 カ月間の金価格の変動予測と金宝飾品
購買意欲について尋ねた調査(Kadence社)。
用語集
58
主な予測条件
60
・ 2013年12月に中国の消費者1,000人を対象に、金宝飾品および
地金の購買動機を調べた調査(TNS社)。
PMIとワールド ゴールド カウンシルの知識の集合、そこに広範囲な消費者
調査と業界知識とが合わせられ、詳細でしかも示唆に富む分析レポートが
生まれました。
このレポートに掲載されている写真の撮影場所は、特に明記しない限り、
北京(撮影者Yuan Liu)
と上海(同Chun Chen)
です。また、
レポートに掲載された
写真の全ての著作権は両撮影者とワールド ゴールド カウンシルの双方に帰属します。
中国の金市場:その歩みと展望
本レポートは、2014年4月に刊行した英語版レポート
『Chinaʼs gold market: progress and prospects 』
を翻訳したものです。
本レポートと英語版レポートの内容に相違がある場合には、英語版レポートが優先されます。
英語版レポートは、http://www.gold.orgをご参照ください。
要旨
はじめに
2013年の世界の民間金需要1に占める中国の割合は26%でした(図1)。
金価格の値下がりを受けて、中国の消費者と投資家による宝飾品と
金地金の購買量は合わせて259トン増加しました。今日、中国の宝飾品市場と
金地金現物市場はいずれも世界最大です。これらの事実は、中国が世界の
金重要を左右する主要国になっていることを裏付けています。
この調査レポートは、中国が世界を代表する金大国として浮上してきた
要因を明らかにするとともに、今後の中国の金需要の見通しを探ります。
図1: 世界の民間金需要に占める中国の割合
Tonnes
4,500
% share
30
4,000
25
3,500
3,000
20
2,500
15
2,000
10
1,500
1,000
5
500
0
0
1994
1996
1998
Global private sector demand
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
China % share of private sector demand
Source: Precious Metals Insights, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
1 宝飾品、投資(金地金・金貨)、工業用(エレクトロニクスを中心とする工業用需要)。なお鉱山会社のヘッジ買い戻しは含まれません。
01
主な調査結果
図2: 中国消費者調査:金価格の今後12カ月の予想
中国の2013年の金需要は例年とは違っていました。国内金価格の急速で
大幅な値下がりを受けて、
宝飾品の購入と金地金への投資が急増しました 2。
その結果、宝飾品、投資、工業用を合わせた民間需要は過去最高の
1,132トン 3を記録しました。
下落
横ばい
上昇
わからない
ワールド ゴールド カウンシルでは2014年は調整の年になると予測して
います。2013年は、金価格の急落に便乗して一部の中国の消費者が値上り
16%
23%
60%
1%
益を狙って宝飾品と金地金を先買いしたことは明らかですので、2014年は
需要の伸びが抑えられるかもしれません。工業用需要も、特に過剰生産
能力を背景に、減速する可能性があります。
しかし、金の国内価格の低下が
消費者による、
とりわけ24金(純金)の宝飾品の購入を促すはずです。
中期的には、金の現物需要は、次のような要因から、
さらなる伸びが
予想されます。
・ 個人の実質所得の伸びが、特にいわゆる中国の都市ランク付けで
Tier 3やTier 44の都市で、より高い購買力を持つ消費者の増加を
もたらします。Ernst & Young社の2020年予測 によると、
5
中間所得層の数は現在の3億人が5億人に拡大すると見られています。
・ 巨大な民間貯蓄額は、消費者が金保有を増やす余地が大きいことを
意味しています。中国の家計部門の銀行預金残高は7兆5,000億
米ドル 6に上ると推定されています。
しかし、家計部門の金への資産
配分はわずか3,000億米ドル7にとどまっています。さらに、金の
国内価格は、ほぼ間違いなく今後数年、魅力的で手頃な水準で
推移することが予想されます。
Source: TNS, December 2013, sample size of 1,000; World Gold Council
以上の予測にはリスクが伴います。中国は、投資・輸出主導から民間
消費中心のよりバランスのとれた成長への転換という重要な課題を
抱えています。経済改革に伴うリスクを過小評価することは禁物ですが、
全体的には、改革が消費者購買力の著しい上昇をもたらし、宝飾品セクター
に追い風となるはずです。中国の国内総生産(GDP)成長率は低下する
かもしれませんが、GDPに占める民間消費の比率は上昇すると予測されて
います。中国ではほとんどの国民にとって、宝飾品需要の大半を占める
「純金」製品がこれからも結婚、祝賀、その他の贈答の必需品であり続ける
ことは確かです。現在のところ、一般大衆の間で24金の宝飾品への
こだわりが、装飾と貯蓄のいずれにおいても、衰える兆しはありません。
・ 中国人の伝統的な金選好度の高さと消費者の金価格に関する
楽観的な見通し
(図2)
から、中国の民間全体の金需要が2017年までに
最低でも1,350トンに達するのは必至と見られています 8。
(金繰延決済)取引価格の2013年12月31日大引けは2013年1月4日寄り付き比で29%安。
2 上海黄金交易所の代表的な相場である「Au(T+D)」
3 出所:トムソンロイター GFMS. なお、中国黄金協会(CGA)の推定では1,176トン。
「用語集」を参照してください。
4 中国都市ランキングのTier 1からTier 4までの定義については、
5 Ernst & Young, The growth of the middle class in emerging markets
6 中国人民銀行、2013年6月末発表統計。
7 Precious Metals Insightの投資、宝飾品関連の金1万トン保有についての推定に基づく数字。
8 Precious Metals Insights
中国の金市場:その歩みと展望
中国における金の投資需要の見通しは、一見すると、特に金融自由化に
よって金の魅力が低下する可能性があるという理由から、今後数年は
やや良くないように見えるかもしれません。中国では貯蓄手段が限られて
きたことで、投資対象として貴金属は間違いなく恩恵を受けてきました。
その状況は変わります。ただ、金融制度改革が段階的に進められることは
明らかです。たとえば、資本規制が2017年までに撤廃される可能性は
ありません。恐らくもっと重要なこととしては、中国投資家の金保有量は
2013年末で770億米ドル相当 9に過ぎず、預金、株式、不動産、その他の
資産のいずれにも及ばない事実があります。そのことと、特に主要銀行が
金市場の発展にコミットしていることを考慮すると、金投資が今後増える
余地は相当あります。
中国の金需要は、
当局の了解なしでは今日ほど増大することはあり得なかった
と思われます。国民の広範な金保有は中国全体の富の増加に貢献して
きました。同時に、金は市中に現金がだぶつくことを防ぐとともに、中国の
巨額な経常黒字によるマネーサプライ急増がもたらすインフレの影響を
抑制する効果を発揮しています。
中国は、世界で最も重要な金の現物市場となっています。金の生産・消費の
いずれでも世界1位、そして金地金の世界最大の輸入国です。中国の金取
引所は、アジア地域の代表格、
さらにグローバル金トレーディングの主要
プレーヤーとして地歩を固めています。市場では、中国による公的金購入
の可能性が取りざたされています。
しかし、高まる一方の中国中心的な
動きは続くのでしょうか。
中国の金市場は堅実な発展を遂げ、さらに長期的に成長する――。
このレポートの結論です。その過程で時には後退があっても、中国の莫大な
人口、経済の急成長の継続、金志向文化(これが特に重要です)
を背景に、
今後長年にわたって中国は世界の注目を集め続けていくと判断しています。
チャイナゴールドの北京旗艦店で24金宝飾品を見る顧客
9 Precious Metals Insightsによる中国消費者の金地金・金貨保有量から推定。
02 _03
急速に進む都市化
過去30年、中国では農村から都市部への人口移動が続きました。
都市人口の比率は1980年にはわずか31%でしたが、現在は52%10に
増えています。人口100万人以上のメトロポリタン地域の数は140を超え、
米国の5211を大きく上回っています。中国の経済成長と都市の
人口急増は中間所得層の増加をもたらしました。
中国では長い間、中間所得層はTier 1都市に分類される北京、上海、
広州、深圳に集中していました。
しかし、経済成長の拡大と中間層の
増加を受けて、他の都市も飛躍的な経済発展を遂げました。
Tier 2都市は、中国の第12次5カ年計画(2011〜2015年)の地域発展
総合戦略の恩恵を受けている省都です。
将来的には、Tier 3、Tier 4に分類される都市の多くでも中間層が
台頭し続けることが予想されます。
しかも、中間層がさらに富を増やし、
消費が拡大するのは必至です。これらの多くの都市では、増加が続く
国内取引、改善が進む交通インフラ、地方都市の成長を支援する
政策などを背景に繁栄の兆しが見られます。
投資主導型の経済から消費(内需)主導型の経済への転換は容易で
ありませんが、中国が進む方向ははっきりしています。中間層は
現在の3億人が2020年には5億人12に拡大するとともに、社会、
Xinjiang
人口全体の所得水準が向上すると見られています
以上の要因は、経済の先行きにリスクがあるとしても、中期的には
中国の金需要を下支えします。ワールド ゴールド カウンシルは、
金の民間需要は2017年までに少なくとも1,350トンに達すると
予想しています。
右の地図は、中国のTier 1からTier 4までの
都市を示しています。
: 政府直轄4市
Tier 1(T1)
: 省都、副省級市クラス
Tier 2(T2)
: 地級市クラス
Tier 3(T3)
: 県級市クラス
Tier 4(T4)
Tibet
ラサ
Lhasa
10 世界銀行、中国国家統計局
11 中国国家統計局、米国行政管理予算局(OMB)
12 Ernst & Young, The growth of the middle class in emerging markets
中国の金市場:その歩みと展望
Heilongjiang
ハイラル区
Hailar
ハルビン
Harbin
Jilin
瀋陽 Shenyang
Liaoning
Inner Mongolia
唐山 Tangshan
Beijing
Baotou
包頭
廊坊 Langfang
北京
Beijing
Hebei
オルドス
Tianjin
天津
Tianjin
山東省:
中国金鉱山業界の
歴史的中心地で、
国内最大の金生産地
浜州
Zhunger’erQi
Binzhou
Gansu
山東省
Shanxi
Shandong
Ningxia
Jiangsu
張家港 Zhangjaigang
鄭州
西寧
Qinghai
Henan
Shaanxi
太倉 Taicang
蕪湖
Zhengzhou
Xining
上海 Shanghai
Yuhan
Shanghai
Anhui
Zhuji
Hubei
余姚
諸曁
義烏 Yiwu
武漢
Yuyao
寧波 Ninghai
Zhejiang
Wuhan
瑞安
Sichuan
Rui’an
成都
Chengdu
Chongqing
Jiangxi
重慶
Fujian
Hunan
Chongqing
泉州 Quanzhou
Guizhou
石獅 Shishi
Guangdong
桂林
増城 Zencheng
Guilin
Guangzhou
Yunnan
昆明
Guangxi
Foshan
Kunming
広州
仏山
惠州 Huizhou
深圳 Shenzhen
香港 Hong Kong
江門 Jiangmen
Hainan
04 _05
経済発展と金市場
中国の経済発展は、
アナリストやメディアのコメンテーターが20年前から
最大の関心を払い続けているテーマです。その間に、中国は貧しい
低開発国から、世界の主要貿易国として台頭してきました。
その国富は年々膨張を続けており、経済のさらなる成長が予想されています。
同様のことは,中国の金市場にも言えます。取るに足らない「ミノー
(小魚)」の
ような存在だった中国の金市場は、国の経済発展と歩調を合わせて、
巨大で、
ますます洗練された市場へと大きな変化を遂げてきました。
はじめに
いました。中国が鄧小平の指導体制の下で改革開放政策に踏み切ったのは
中国は過去30年余りで、貧しい開発途上国から、
続けられています。何億という国民が貧困から解放され、今日では都市が
その年でした。その後は経済発展が進み、35年を経た現在も改革政策は
ますます繁栄を続ける「中所得国」へと変化しました。
人口の過半数を占めます。世界2位の経済大国に躍進した中国は現在、
1978年の中国は、文化大革命の混乱から抜け出したばかりでした。
「高中所得国」14となっています
(図3)。
当時、貧困にあえぐ中国の巨大な人口の7割以上13は農村に暮らして
図3:中国の国民総生産(GDP)と成長率
% p.a.
16
RMBbn
70,000
14
60,000
12
50,000
10
40,000
8
30,000
6
20,000
4
10,000
2
0
0
1984
1988
Real GDP (2013 terms)
1992
GDP growth (rhs)
Source: IMF, Precious Metals Insights, World Gold Council
13 世界銀行
14 同上
中国の金市場:その歩みと展望
1996
2000
2004
2008
2012
金市場の規制・規制緩和
新生中華人民共和国は金市場を厳しい国家管理下に置きました。
1949年に国民党との戦いに勝利した中国共産党が引き継いだ国は、
8年間の抗日戦争と国共内戦で荒廃していました。中華人民共和国指導部
にとっての喫緊の課題は、国内経済を安定させ、それまでほぼ10年に
わたって人々を苦しめ続けたハイパーインフレから脱却することでした。
新指導部の経済政策の要は新紙幣の発行でした。当時は、内戦中に発行
された異なる紙幣が流通していました。新政府にとっては、
新紙幣を国内で
唯一の「価値の交換・保蔵の手段」
として速やかに普及させることが支配の
確立のためにも不可欠でした。実際には、ハイパーインフレのために
内戦中に発行された紙幣は通貨としては機能しておらず、ほとんどの
取引にはバーター方式か金銀が使われていました。価格決定や金融資産
上海市城隍廟(チャンホワンミャォ)
に宝飾品店に置かれた上海黄金交易所の
金価格ボード
保全の手段として使われていたのは、
外貨とともに、
金銀でした。新指導部は、
通貨改革、
つまり紙幣の普及を確かなものとするには、
金銀との競合回避が
必須だと考えました。そこで貴金属と外貨の使用制限に乗り出し、新政府
経済成長に伴って、中国は金の生産・消費のいずれでも、無の状態から
世界1位に浮上してきました。中期的には、国民の所得水準の向上と
民間貯蓄の増加が宝飾品と投資目的の金需要の拡大をもたらすことが
予想されます。
金現物の生産と消費の世界シェアを見ると、
かつてほぼゼロの状態にあった
中国が今日では1位を占めています。1950年、つまり中華人民共和国
建国の翌年、中国では金地金現物の民間保有が禁じられ、金鉱山は国有化
されました。それから50年後、
中国人民銀行
(中央銀行)
は金の購入、配分、
値決めについての独占権を手放しました。それを契機として、
まず宝飾品の
民間需要がその後10年間で、それより遅れる形で投資目的の金需要が、
それぞれ劇的に増加しました。
中国経済の成長速度は鈍化傾向にあります。
しかし、2014年から2017年に
かけて年平均成長率が6%(本レポートの金需要予測に使った数値)
と
樹立の翌年(1950年)
に民間の金銀、外貨の使用を一切禁止しました。
同時に、民間部門による金銀の輸出入も全面的に禁止されました。このよう
にして、貴金属は中国人民銀行を通して完全な国家管理下に置かれました。
1978年以降の改革開放によって、中央銀行が直接管理する形ながら、
金市場が徐々に復活しました。中国人民銀行による金取引等に関する
独占が終わり、上海黄金交易所で2002年に売買立会が開始されると、
金市場は急速に発展しました。
経済改革当初、中国指導部は金市場の開放に非常に慎重で、最初に取り
組んだことは深圳経済特区を中心とする宝飾品製造能力の拡大にとどまり
ました。国務院(中央政府)
は1983年にわざわざ「金銀管理条例」を公布
して、国内における金銀の規制、監督、購入・配分の管理のすべてが
中央銀行の権限であることを再確認しました。条例には同時に、
中央銀行が
中国の金準備管理に責任を持つことも明記されました。
低めに推移した場合でも、消費者が宝飾品の購入に使える可処分所得は
増えると予想しています。実際、消費主導型の成長へのリバランスを考慮
すると、個人消費支出は政府が発表するGDP 成長率を上回る速度で
伸びる可能性があります。同様に、中国の非常に高い貯蓄率が下がり
始めるという予測がありますが、経済が拡大すれば民間貯蓄の規模が
さらに膨らむことは間違いありません。つまり、投資目的の金需要が
増える余地がそれほど大きいと言えます。中国の経済と金需要の双方の
明るい見通しに陰りが生じるとすれば、経済成長に影響を与えるような
「信用バブル」の崩壊が発生する場合に限られると判断しています。
06_07
1990年代に入ると、中国人民銀行は金市場管理を徐々に効率的なものに
中国が完全な「自由市場」を持つまでにはまだ道のりが遠いことは
変えていきました。具体的には、特に国内製造業向けの金の供給を増やす
確かですが、その方向へ徐々に進んでいます。
とともに、市場実勢をより反映する値決め方式を採用しました。しかし、
金の国内価格の決定、国内の産金とリサイクル金の買い上げ、製造業への
精錬金の売却に関する中央銀行の独占の終焉が通知されたのは2001年
になってのことでした15。市場改革案は、①中央銀行が自らを主要な
ステークホルダーとする上海黄金交易所(SGE)16を、近々開設する、
②金価格はSGEを通して決定する、
③精錬金の全取引をSGEで行うことを
義務付ける、④産業界及び金融機関が金を購入できる所はSGEのみに
限定する17、⑤金地金輸入の全てはSGE経由とすることを義務付ける、
という内容でした。SGEは2002年10月に売買立会を開始しました。
2003年には新たな自由化措置がとられ、金銀商品取扱事業の免許制が
廃止されました。2004年には、1950年以来禁止されてきた個人の金保有
と金地金現物取引が再び認められました。
中国の金市場は未だに国家の間接管理下に置かれています。市場
メカニズムは機能しており、金の民間取引はかなり自由になっています。
しかし、実質的な障壁が残っています。それは中国市場と海外市場の間の
インターフェースにおいて顕著です。
このことは、
資本取引や外国為替取引に
関する厳しい規制を考慮すれば、驚くことではありません。金市場に残る
規制の全てが撤廃されることになれば、通貨管理、資本規制、さらには
中国人民銀行による外国為替業務と金融政策に関する監督のすべての
土台が完全に崩れてしまうからです。今後の自由化がどのようなものに
なるかは、
金市場以外の規制の方向性次第ということになります。その意味
で、
金融市場の自由化は
「ゆっくり着実なペース」で進むことが予想されます。
「ビッグバン」
(全面自由化)
は期待できませんが、市場の開放度を高める
ための段階的な規制緩和が進められる可能性はあります。たとえば、
上海黄金交易所は、新たな開発され上海自由貿易試験区に海外投資家
向けに「上海国際金取引センター」
(金国際ボード)の設立計画を進めて
います。それが実現すると、海外から金国際ボードに上場される商品を
直接売買することや、新たな商品の開発が可能になります。長期的には、
SGEは金国際ボードとSGE本体の取引プラットフォームの一体化を計画
しています。そうなれば、中国の金市場の自由化はさらに前進します。
春節(旧正月)
を前に老鳳祥(ラオフォンシャン)の店頭で金を買い求める人々
15 ワールド ゴールド カウンシルと中国人民銀行は2000年に共同で、中国国務院発展研究センターに中国金市場の将来に関する調査を委託しました。
16 ワールド ゴールド カウンシルは、上海黄金交易所の開設に積極的に関わってきました。ワールド ゴールド カウンシルの極東担当マネージング・ディレクター、
アルバート・チャン
(Albert Cheng)
は現在もSGE国際アドバイザリー委員会のメンバーを務めています。
17 上海黄金交易所認定またはロンドン貴金属市場協会(LBMA)認定の製錬所のみがSGEでの取引が認められました。製錬所で生産する金は全てSGEへの売却が
義務付けられました。SGEで取引された金には増値税(付加価値税 = VAT)
は免除。SGEを通さない店頭市場(OTC)取引には17%の増値税が課せられます。
中国の金市場:その歩みと展望
経済発展と金需要
破壊に直面しています。今日の中国は世界最大の自動車の生産国であり、
今日の中国は世界2位の経済大国であり、2013年には米国を抜いて
人口」が都市戸籍を持たずに暮らしています。
販売台数でも世界一です21。都市部では何億人という農村からの「流動
世界最大の貿易国となりました。急速な経済成長に伴う副作用も一部に
「
(沿岸部に)
偏った経済発展モデル」
を進めてきた中国は、
世界金融危機後、
見られ、中国はそれらへの対応も迫られています。
公共事業投資による経済成長路線を強化しました。それによる副作用が
1978年当時の中国の1人当たり国民所得は、現在価値に置き換えると
わずか200米ドルでした18。2013年は6,850米ドル、4万2,000元でした
(図4)。1980年のGDPの30%は農業によるもので、農村が総人口の
経済のあちこちで表面化しています。それらの中には、住宅市場の過熱、
インフラ開発プロジェクト
(その多くは永遠に経済的利益を生まないと
言われています)の乱立、金融引き締め
(「シャドーバンキング」の爆発的な
69%を占めていました。同じ数字が2012年にはそれぞれ8%と48%に
下がっています19。過去10年間だけでも、中国経済は140%の高度成長を
遂げています20。世界銀行によると、中国では、途上国の平均的な貧困
ラインとされる1日2米ドル(2005年購買力平価 = PPP)
で暮らす人々の
人口に占める比率は1994年の78%から2009年には27%に激減して
います。現在の中国は、人口超大国であると同時に、世界2位の経済大国、
世界最大の貿易国です。
成長の原因です)が含まれます。これらの動きは相互に絡み合っており、
中国の実態経済に大打撃を及ぼすような深刻な金融危機に発展する
可能性を秘めています。
中央政府はこれらの問題がはらむ危険性を認識しており、対応策として、
金融制度の自由化や、投資に異常に依存する経済から民間消費主導の
経済へのリバランスを試みよとしています。
しかし、経済成長は弊害ももたらしています。中国は、猛スピードで進む
工業化と都市化、それに自動車の急速な普及が引き起こしている環境
図4:中国の1人当たり国民所得
RMB per capita
45,000
40,000
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
1978
1982
1986
1990
1994
1998
2002
2006
2010
Source: IMF, National Bureau of Statistics, Precious Metals Insights, World Bank, World Gold Council
18 国家統計局
19 世界銀行、国家統計局
20 IMF
21 中国汽車工業会
08_09
金の歴史背景
金をめぐる中国の歴史はこの70年だけでも波乱万丈です。1950年、
中国では金地金の民間保有が禁じられ、国が金市場の自由化に着手
中国人民銀行による
したのは半世紀後でした。今日の中国の金市場は、まだ規制下に
置かれていますが、徐々に開放が進むとともに、洗練されつつあります。
金銀管理規制
年表はこれまでの大きな出来事を示しています。
ハイパーインフレ
為替レート一本化、
スワップ取引(半自由)導入。
「外貨調整センター」に代わってインターバンク
「外貨取引センター」設立
金鉱山業国家管理、
宝飾品の新値決め方式の
金地金保有禁止
実験的採用。原料費と
人件費を分離。
1947
1948
1949
1950
1978
1983
中国共産党による
1994
1995
1996
1998
1999
宝飾品に対する増値税
中華人民共和国樹立
(消費税)
10%から5%へ
引き下げ
文化大革命の混乱収拾
中国人民銀行深圳支店が
スイス・ユニオン銀行(UBS)、
香港上海銀行(HSBC)、
インベステクから金輸入開始
ワールド ゴールド カウンシルと
中国国家経済研究所が共同レポート
『Chinaʼs gold market: Reform and
opening up: Some basic thoughts
and directions 』を発表
中国の金市場:その歩みと展望
ワールド ゴールド カウンシルと中国国務院発展研究センターは
中国工商銀行(ICBC)、中国初の純金積立プランを発表。
『Opening Chinaʼs gold market in a new era:
興業銀行(福建省)、深圳発展銀行、中国民政銀行、
Related policy research and suggestions 』と題するレポートを発表
上海銀行にも金輸入を認可。
中国黄金協会(China Gold Association)設立
交通銀行に金輸入認可。ANZ、HSBCが
8月
外銀初の上海先物取引所(中国名:
国務院物価局、小売価格管理を正式撤廃
上海期貨交易所)金先物取引免許を取得
10月
上海黄金交易所、試験運用
中国、
世界最大の
金地金保有禁止令撤廃
金消費国となる。
中国初の金ETF登場
12月
ANZ、HSBC、外銀
初の金融入免許を取得
2000
2001
2002
2004
2007
2008
2010
2011
2012
10月
12月
上海黄金交易所
(SGE:Shanghai
銀行間の店頭インターバンク取引
Gold Exchange)、正式に取引開始。
2013
(SGE決済)
認可
輸入された金の全てはSGEを
通して売買。SGEで取引、
SGE経由で
購入された金は増値税非課税
中国、
世界最大の
金生産国となる
HSBC、スコシアモカッタ銀行、ANZ、UBS、スタンダード
チャータード銀行が外銀初のSGE会員となる
1月
上海先物取引所、金先物取引開始
10_11
経済の構造改革は時間がかかります。改革の過程が中国社会に不安定を
中国の経済成長が、いずれは民間消費主導のバランスがとれたものになる
もたらす恐れがあります。将来、消費主導の成長が重要性を増すのは
としても、特に信用の過剰拡大と過剰投資のツケを考えると、改革は容易
必至ですが、消費の拡大は中国の貯蓄率の低下を意味します。
なものではないと見られています
(図6)。いずれにしても、GDPと鉱工業
時々思い出したように前進するのが中国の経済改革の特徴です。信用拡大
の抑制はこれまで、地方政府、国有企業、民間企業の支払能力とのバランス
をとりながら進められてきました。金融引き締めでクレジットクランチ
(貸し渋り)
が起これば、失業率の急増と住宅市場の崩壊が懸念されている
ためです。
しかし、金融の引き締めと緩和を繰り返す「ストップ・ゴー」政策は
問題の先送りに過ぎず、将来、
より深刻な問題を抱える結果となる恐れが
あります。そうした政策は、一般的に、バランスシートの健全化ではなく、
リスクの一層の拡大を招くだけに終わるからです。過去2年間、
信用の拡大は、
歯止めがかけられるどころか、勢いを増しました(図5)。その結果、
「ハードランディング」の懸念が高まっています。そうした中で、
向こう数年間に
生産の伸びの一層の鈍化が避けられないことは明らかです。GDPに
ついて、
投資と輸出に依存してきたこれまでの成長を考えれば今後の鈍化は
当然ですが、鉱工業生産伸び率の今後予想される鈍化の背景には、
投入資源に対する生産性が過去の水準を下回ってきた事実があります。
それは、投資利益率の低下と輸出産業の成熟、
さらに一部産業での生産
活動縮小が同時に進行し、それらの結果として中国の経常黒字が減少して
いくことを意味しています。一方、消費がいずれ大幅拡大に転じることは
予想されますが、
現状では国民の極めて高い貯蓄率が消費の伸びを抑えて
いるのが実態です。中国の貯蓄率の高さには社会と人口構造の現実が反映
されています。
それが起こる可能性はないという見方は不見識のそしりを受けかねません。
中国の高い貯蓄率は、包括的な社会福祉制度が存在していない中で
なお、
本レポートの宝飾品、
投資、
工業用の金の2014〜2017年需要予測は、
将来に備える国民の合理的な対応の裏返しです。
最悪シナリオではなく、中国が今後4年間、金融不安をGDP成長に大きな
影響をもたらすことなく抑え込むというシナリオに基づいています。
中国は1990年代に、多く国有企業の閉鎖という大きな経済構造改革を
経験しています。その結果、数千万の労働者が失業し、それまでは国有
企業が提供してきた社会保障の責任は地方政府が負わされました。
しかし、地方政府には必要なインフラも予算がありませんでした。
図5:民間部門(金融を除く)向け信用残高(GDP比)
Yuan bn
120,000
%
200
Chinese GDP growth slowed briefly following the
global financial crisis and credit growth increased
180
100,000
160
140
80,000
120
100
60,000
80
40,000
60
40
20,000
20
0
0
2003
2004
Credit
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
% of GDP (rhs)
Source: Bank of International Settlements, National Bureau of Statistics of China, Thomson Reuters Datastream, World Gold Council
中国の金市場:その歩みと展望
2012
これまで中国の医療サービスのほとんどは公立病院が担ってきましたが、
表 1: 家計貯蓄率の国際比較
政府は病院の民営化を促進しています。それは個人負担の増加を意味
1990 (% of GDP)
2012 (% of GDP)
することから、国民はいざというときのために貯蓄せざるをえない状況に
China
39.2
51.4
追い込まれています。人口問題も似た状況にあります。中国では一人っ子
India
23.6
32.6
政策がとられてきたため、一般的な家族では子供1人で年老いた両親を
Korea
37.6
30.3
支える必要があります。そのうえ、組織、職場、産業など国の隅々で
US
18.7
20.3
セーフティネットを提供してきた「単位社会」22はもう存在しません。
UK
16.6
14.6
住宅事情と結婚も貯蓄率を高くする要因です。多くの都市で住宅価格が
Source: IMF WEO
高騰し、給与生活者には住宅購入は大きな負担となっています。一部の
都市では、
給与生活者には手が届かない水準まで住宅価格は跳ね上がって
います。結婚費用も高くなっており、さらに上昇する可能性があります。
その背景には、男女比不均衡が拡大して、結婚適齢期の女性の比率が
下がったことで、新郎側が新婦側に支払う
「婚資」
(bride price = 結納金)
も高騰しています23。以上のように、
これらの要因も諸外国を上回る家計
貯蓄率を押し上げています
(表1)。
図6:中国のGDPに占める消費と投資の割合
% share
60
55
50
45
40
35
30
1984
1988
Investment
1992
1996
2000
2004
2008
2012
Consumption
Source: IMF, Oxford Economics
22 中華人民共和国では、大小を問わず職場ごとで生活に必要なあらゆるものを配給する制度として「単位(danwei)」が存在してきました。
23 中国の人口構成は男性過剰となっており、女性を惹き付けるために快適な住まいと、場合によっては、宝飾品を用意せざるを得なくなっています。
国内メディアには、
こうした事情が貯蓄率を押し上げているという論評が見られます。
12 _13
金の需要見通しはポジティブですが、特に深刻な金融危機によって
家計の貯蓄率も上がるため、宝飾品需要に悪影響があります。景気後退で
実態経済が打撃を受ける場合など、リスクも存在します。
人民元安が生じると、金の輸入価格が上がり国内の金価格が値上りする
なお、ワールド ゴールド カウンシルは、金融危機が副次効果として
一方、購買力にも影響があり、宝飾品需要が落ち込みことになります。
金の投資需要を押し上げる可能性があると予想しています。
同様に、住宅価格の暴落は負の資産効果を生じ、宝飾品の購入の減少が
経済のリバランスが容易ではないことや、
数年後から顕著となる人口構造の
避けられません。
変化
(社会の高齢化の加速)
は、
今後の金需要については相反する意味を
金融危機は、
まず投資目的の金需要の減少を招きます。これは他の多くの
持ちます。将来、民間消費が経済成長により大きく貢献する可能性は、
資産価値の下落、
さらに一部の投資家は他の資産価値の下落を補うために
大きなプラス材料です。消費のGDPに占める割合が大きくなることは、
保有する金を売却せざるを得ない状況に追い込まれるからです。2008年の
全体のGDP成長率が下がっても、消費水準に変化がない可能性を示唆
世界金融危機の際にも最初の段階では同様のことが起こりました。当時、
しています
(本レポートの予測では、
2014〜2017年のGDP年平均成長率は、
一部の投資家は、世界の金融市場がメルトダウンを起こしたために
金融危機によるマイナス効果をある程度織り込んで、
「コンセンサス以下」
マージンコール(追加証拠金)
や他の金融商品の契約に絡んで資金を
の6%を想定しています)。
しかし、国民に信頼される社会保障のセーフティ
ねん出せざるを得なくなり金を売却しました。本レポートのシナリオでは、
ネットが構築されるには長い年月がかかることは避けられず、それまでは
世界金融危機後の2009年から2012年にかけて世界の多くの国で
貯蓄率が高止まりするのは必至です。そのため、可処分所得の増加による
起きたように、金地金の重要が「トレンドを上回る」増加を記録すると
金需要へのプラス効果は軽減されてしまうと見ています。一方、婚姻数が
予想しています。その理由としては、世界金融危機そのものが安全資産で
ピークに達し、その後は減少する見通しなど、金にとっては逆風が吹く
ある金への資金の逃避を促す結果となったこと、景気減速に直面した
見込みですが、それでも中期的な宝飾品需要については、
ややポジティブ
中央銀行による大規模な金融緩和策が、その反動としてインフレヘッジを
な見通しを持っています。個人消費支出が毎年1桁台後半で伸びると
行う投資家による金買いを引き起こしたことが挙げられます。中国については、
予想されています24。これは宝飾品需要が2013年の高水準を上回る
国内の金融危機によって人民元安が起これば金の国内価格が上昇し、高い
可能性がそれだけ高いことを示しています。最大のリスクは金融危機が
投資利益を得る可能性が大きくなるため、少なくとも投資目的の需要は
実体経済に打撃を与えるほど深刻な場合です。そうなれば失業率が上昇し、
強まると見ています。
24 McKinsey and CompanyのMcKinsey Quarterly: Mapping Chinaʼs middle class by Dominic Barton, Yougang Chan and Amy Jin.
中国の金市場:その歩みと展望
宝飾品
中国における金需要の根幹をなしているのが宝飾品です。
その需要は2013年には669トンに達し、民間部門の金需要の60%近くを
占めました。国民の可処分所得の増加、中間所得層の台頭、
さらに都市化が
需要増を支えています。今後については、宝飾品市場に逆風が吹く恐れも
ありますが、
ワールド ゴールド カウンシルでは、宝飾品需要はさらに増えて、
2017年には少なくとも785トンまで拡大すると予想しています。
はじめに
軌を一にしてきました。国内の宝飾品市場は、当初は目立たない存在
でしたが、今では金加工品の生産量と金の消費量のいずれも世界最大の
少し前までは中国の宝飾品市場は目立たない存在でした。
それが現在では世界最大の規模を誇っています。過去10年間で市場は
ほぼ3倍に拡大しました。
中国南部に位置する深圳市は、鄧小平が主導した改革開放政策で30年
あまり前に経済特区に指定されるまでは、人口30万人の小さな町でした。
現在は中国の金加工品の70%以上が深圳産25です。人口1,000万人26を
超す主要メトロポリスとして発展し、世界的に知られる経済都市として
賑わいを見せています。深圳の発展は中国全体の宝飾品市場の発展と
規模を誇っています。
20年前、中国の宝飾品需要は300トンあまりでした。中国では1990年代
初めに金の消費量が急増しました。その背景には、経済の高度成長と
所得増加、それによって台頭してきたニューリッチ層によるインフレヘッジ
目的の金投資が増えたことがありました。消費者物価指数(CPI)
は1993年
から1995年にかけて2桁増27を記録しました。一般大衆にとっての数少ない
資産の安全な逃避手段は24金宝飾品でした。同時期のインフレ調整後の
実質預金金利はマイナスでした
(図7)。
図7:インフレ率と消費者の金需要*
Tonnes
1,200
%
25
1,000
20
800
15
600
10
400
5
200
0
-5
0
1986
1990
Consumer demand* (t)
1994
1998
2002
2006
2010
Inflation (rhs)
*Consumer demand includes jewellery and total bar and coin demand.
Source: National Bureau of Statistics, Precious Metals Insights, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
25 深圳黄金宝飾品業協会
26 深圳市統計局
27 国家統計局
14 _15
中国の物価が安定基調に戻ったのは1998〜2003年でした。この期間、
実質金利が正常な水準に戻る一方で、アジア通貨危機の余波で中国の
成長率が大幅に減速しました。その結果、金の需要は年200トン台に後退
しました。
しかし、
この期間に、中国の金関連産業は基盤強化に取り組み、
やがて訪れる爆発的な成長期に備えました。供給サイドでは、
深圳を中心に
最新の製造設備が導入されました。一方、宝飾品の小売部門では、
主に政府直轄市(Tier 1)
や省都(Tier 2)
で店舗や販売カウンターの
開設が相次ぎました。
過去10年で、中国の宝飾品市場は大きく変化をしました。金の需要は
2004年の224トンから2013年には669トンへとほぼ3倍も膨らみました
(図8)。さらに驚くべきことに、金宝飾品の購入総額は同期間に6倍の
伸びを記録しました。中国は2013年に世界最大の宝飾品の消費国と
生産国の座をインドから奪いました。ちなみに2013年の世界の宝飾品
需要の30%は中国が占めました。詳しくはこの後に説明しますが、中国の
宝飾品市場の爆発的な成長の背景には、経済、人口、文化の3要素が
あります。
中国では如意(ルイ)
を表した柄のペンダントは吉祥(幸運)のシンボル
図8:宝飾品の消費量と金額
Tonnes
800
Yuan bn
250
700
200
600
500
150
400
100
300
200
50
100
0
0
1994
1996
Volume (t, lhs)
1998
2000
Value (nominal, Yuan bn)
2002
2004
2006
Value (real, 2013 terms, Yuan bn)
Source: Precious Metals Insights, Shanghai Gold Exchange, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
中国の金市場:その歩みと展望
2008
2010
2012
市場構造と商品特性
深圳は現在、世界最大の金宝飾品生産センターとして、中国国内で
生産される宝飾品の70%以上を供給しています。深圳で生産された
金加工品は2013年には724トンに上り、その85%強が国内市場向け
でした。
今日の中国は世界最大の宝飾品生産国です。巨大な工場がいくつも
建設され、
それぞれが消費する金の量はイタリアの有名貴金属ブランドの
工場が最盛期に使う量をはるかに超えています。2013年には需要が
過去最高の水準に達したことや24金製品の利益率の一時的な上昇を
反映して、宝飾品メーカーの数がさらに増えました。深圳だけでも、
公的機関に登録されている宝飾品メーカーの数は4,000社に上ります
(この数には零細メーカーや個人ベースの金職人は含まれていません)。
トムソンロイター GFMSによると、中国が金宝飾品加工に使った金の量は
北京の菜百(ツァイバイ)
ストア
2013年には前年を31%も上回って724トンを記録しました。金加工品の
85%以上は国内市場向けでした28。米国や欧州向けの輸出は2000年代に
入って増加しました。2008年の世界金融危機の発生で輸出は一時減少
しましたが、危機の収束とともに輸出は回復しています(49ページの
「供給」セクションで詳しく見ていきます)。
かなりの分量の金は香港(香港特別行政区)
との間で取引されています。
中国は伝統的に香港経由で18金(主にイタリア産)やジェムセット
(デザイン済み)製品を輸入しています。中国からの海外向け輸出は主に
14金と18金の宝飾品です(その大半は香港系会社が広州市番禺区で
生産しています)。一方、24金製品の出荷先は香港です。香港で販売
される宝飾品、特に24金やダイヤモンドをセットした金製の相当部分を
購入するのは中国本土からの旅行者です。香港では金製品は非課税
なのでジェムセット製品を中心に安く買えます。さらに、香港の有力な
宝飾品ブランドについては、良質のダイヤモンドやその他の宝石類を
販売しているという評価が定着しています。
現在、中国で宝飾品を扱う店舗数は10万に上り、主力商品は24金製品です。
宝飾品消費ブームを受けて、中国では小売店舗数が激増しています。
第1次開店ブームはTier 1
(政府直轄市)
やTier 2
(省都)の都市の富裕層
をターゲットとしていました。
しかし、
ここ数年は省と県の中間に位置する
「地区行政区」
( 地級市クラス = Tier 3 )や県と同じ区分にある都市
(県級市クラス = Tier 4)
に集中する傾向が見られます。Tier 3とTier 4の
都市数は合わせると600を超えます29。
新しい店の多くは、周大福(チョウタイフック)
や六福(ルックフック)
など
香港の大手小売グループ、あるいは老鳳祥(ラオフォンシャン)
や中国黄金
(チャイナゴールド)
といった国内大手のフランチャイズ加盟店です。
チャイナゴールド
(CNGG: China National Gold Group)
はわずか
数年で店舗数を2,200まで拡大しています。ほかにも、北京で有名な菜百
(ツァイバイ)のような全国展開はせず特定地域に大型店舗を構える
「メガストア」や宝飾品メーカー系の小売チェーン店も多く存在します。
店舗数は都市部の百貨店やショッピングモールの数の急増と歩調を
合わせるように増加してきました。平均的な百貨店にはほぼ例外なく
少なくとも5つの宝飾品カウンターがあります。新しいショッピングモール
ではいずれも複数の有名ブランドが店を構えています。
28 Precious Metals Insights
29 国家統計局、Deloitte
16_17
中国市場で販売される金製品を分量で見ると、約85%は24金
(純金)
です
図9:製品別の金宝飾品需要(2013年)
30
(図9)
。2013年の宝飾品需要の増加分はすべて24金製品が占めました。
「純金」は中国語では
「足金」
(発音は普通語・北京語ではzujin、
広東語では
「足」には「十分」
という意味があります。24金製品は
chuk kam)です。
形ではなく、ほぼ重さを基準にして売られています。店頭では、顧客が
選んだ製品の重さを店側が測り、それに上海黄金交易所のスポット
24K
K-gold
Gem-set
(現物取引)価格をグラム単位で掛け、労賃と小売マージンをマークアップ
(上乗せ)
して売り値を決めます。無刻印純金製品の場合、その製品に
85%
12%
3%
含まれる金価格に15~20%上乗せした水準が最終価格となります。
中国の宝飾品市場の残りは18金
(中国ではK-goldと呼ばれています)
と
ジェムセット製品です31。18金の大部分は結婚指輪用です。結婚指輪市場
では「白金」
(ホワイトゴールド = 金にパラジウムを混ぜて作られた
白い色の金)の人気がプラチナに迫る勢いを見せています。さらに、
とりわけ政府直轄市( Tier 1 )では18 金のファッション宝飾品市場が
Source: Precious Metals Insights
順調に伸びています。そこでの高級品の大半はイタリアからの輸入品です。
中国ではほかに18金宝飾品に分類されるものとしてダイヤモンドや
さらに高額なカラーストーンを組み込んだジェムセット製品の人気も
出てきました(注:ジェム = 宝石を主素材としない宝飾品は一般には
プレインK-goldに分類されています)。
結婚指輪、
ダイヤを組み込んだジェムセット製品、それに無地の純白製品に
ついては、18金とプラチナがしのぎを削っています。純度999
(99.9%)の
プラチナと純度750(75.0%)の18金とでは、長い間前者が価格面でも
優位でした。それに加えて、プラチナ・ギルド・インターナショナルによる
中国はプラチナ宝飾品と銀宝飾品に関しても世界最大の市場です。
プラチナ需要の拡大を図る巨額資金を使った国際的な広報活動もプラチナ
銀は手頃な価格とファッション性の高いデザインを求める若い世代の間で
を支えてきました。
しかし、2011年上半期にプラチナ価格が低迷し、
さらに
需要があります。
2012年全体を通して金との価格差の逆転現象が生じ、プラチナの広報活動
金宝飾品部門はプラチナと銀と競合関係にあります。パラジウムは
この競争からは「脱落」
しました。また、中国ではコスチューム・ジュエリー
あるいはファッション・ジュエリーと呼ばれる分野が宝飾品市場で大きな
ビジネスとなっており、輸出が伸びています。国内の若い消費者からの
需要も見られます。ファッション・ジュエリーは18金を使ったハイファッション
商品と競合しそうにも思えますが、両者には価格面で明確な違いがある
ことから、全く別部門です。有名ブランドの高額コスチューム・ジュエリーは
中国の消費者にはほとんどアピールをしていないのが現状です。宝飾品が
高額であればあるほど消費者は純度においても「本物」志向を強めると
いうのが中国の特徴です。
30 Precious Metals Insights
31 Precious Metals Insightsによる市場データに基づく推計
中国の金市場:その歩みと展望
資金も減少しました。その中で銀価格は下落分の一部を取り戻しました。
銀の宝飾品市場は、中国ではここ数年、特に順調な成長を見せています。
「純金」宝飾品には独特の機能が備わっています。それは装飾と投資の
トムソンロイター GFMSのデータによると、加工品用の銀の需要は
双方の必要性を満たしてくれます。市場調査では、若い消費者も金に
2012年には1,762トンに達し、過去10年間でほぼ3倍32に増えました。
魅力を感じていることがわかりました。
中国では、銀は伝統的に非漢族の間で人気が高かったのですが、現在では
非漢族以外でも消費されています。銀の表面にロジウムメッキを施した、
高品質でファッション性が高い商品は、低価格志向が強い若い消費者の
間で非常によく売れています。これが、18金(K-gold)製品市場の低価格
製品をある程度まで蝕んでいる可能性がありますが、米国と欧州の一部
諸国で一時見られた銀製品が金製品と直接競合する事態とは全く異なって
います。
24金宝飾品に対するプラチナ、銀、あるいはコスチューム・ジュエリーの
追い上げは極めて限られていますが、その傾向は少なくとも中期的にも
変わらない見通しです。24金、つまり
「足金」
(純金)
は、市場で売られている
唯一の投資目的の宝飾品であるという事実を背景に、非常に優位に立って
います。
しかし、長期的には若い消費者が、18金(K-gold)、その他の白系
貴金属、
ジェムセット製品などにより惹かれる可能性はあります。たとえば、
上海では、一部の裕福な若い女性の間では、24金以外の宝飾品に関心を
移す傾向がすでに顕著になっています。
金、銀、
プラチナの宝飾品消費に使用された分量(重さ)
を比較すると、
当然のことながら、圧倒的なシェアを占めるのは銀で、金は4分の1強、
そしてプラチナはわずか2%でした。宝飾品に含まれる貴金属の価値で
33
比べると、
金が全体の87%
(推計)
近くを占めることがわかります
(図10)
。
図10:2013年、金・銀・プラチナの宝飾品需要(a)重さベース(b)含有量の価値ベース
Gold
Silver
Platinum
28%
70%
2%
Gold
Silver
Platinum
87%
6%
7%
Source: Precious Metals Insights, Thomson Reuters GFMS
32 The Silver Institute, Thomson Reuters GFMS, 2012(現時点での最新情報)
33 Precious Metals Insightsのトムソンロイター GFMSデータと市場データに基づく推計
18_19
しかし、消費者全般の関心が24金以外の宝飾品に移る傾向を誇張するのは
全く及びません。同期間の金宝飾品の購入総額は実質で 500 %も
間違いです。理由は3つあります。まず、24 金への需要が高い割には、
膨らみました35。成長率にこれだけ大きな差が生まれた背景にはいくつかの
要因があったわけですが、それらの要因の宝飾品市場に対するプラス効果
「純金」の宝飾品の保有率は未だに低水準にとどまっています。
次に、
「黄金色」
に伝統的に愛着を感じている中国の消費者が、
白系貴金属に
を加速したのが経済の急成長だったことは確かです。経済成長によって、
同じように愛着を感じることがあるとしても、それはずっと先になることが
数億人の国民が貧困から脱却した36だけではなく、その多くが幅広い
挙げられます。日本やドイツでは、白系貴金属は世代に関係なく人気が
商品やサービスの選択的消費ブームの引き金となる富を手に入れること
ありますが、中国では状況が違います。3つ目の理由は、宝飾品メーカーは、
ができました。中国の国民1人当たりGDPは4万2,000元(約7,000米ドル)
人口構造の変化が市場に与える影響を十分認識しており、若い世代にも
に増えています37。
しかし、社会層や地域の間では非常に大きな所得格差が
アピールする新たな24金宝飾品の開発に積極的に取り組んでいることです。
見られます。これは、相当数の国民の所得が国全体の平均所得を何倍も
ワールド ゴールド カウンシルが2011年に実施した中国の消費者の金に
上回っていることを意味しています。年収5万元以上の層が「中間所得層 =
関する総合的な利用実態・志向調査によると、若い消費者の間では違った
中間層」
と定義されていますが、ほぼ3億人がそれにあてはまり、その数は
種類の宝飾品を試してみることに抵抗が薄いものの、
「純金」の人気が
2020年までに5億人に増えると予測されています38。中間層には宝飾品や
揺らぐ気配は全くありません。
(図11)
高級品など高価なぜいたく品を購入するだけの十分な可処分所得が
あります。この裕福な層は人数が増えているだけではなく、その購買力も
中間所得層の台頭
拡大を続けています。さらに、北京や東部沿海都市と違って、経済発展から
中国は、30年をかけて「農村貧困」から抜け出して「都市繁栄」を謳歌
する改革を成し遂げてきました。その過程で数億人規模の新しい中間
長年取り残されてきた中国西部や東北部の都市でも中間層が出現して
います。
所得層が誕生しました。
中国経済は、過去10年間だけでも140%という驚異的な高度成長を
遂げています34。
しかし、その数字でさえも金宝飾品市場の伸び率には
図11:中国消費者調査:次の商品の中で今後1年以内に自分のために購入を考えているものはどれですか
%
30
25
20
15
10
5
0
Pure gold/24k
jewellery
Designer
clothes
Designer
shoes
Designer
bags
Silver
jewellery
Platimum
jewellery
Diamond
jewellery
Designer
watches
Palladium
jewellery
Source: TNS survey 13,212 consumers on behalf of the World Gold Council in 2011
34 IMF
35 Precious Metals Insights
36 中国政府発表の失業率と国連労働年齢人口統計をベースに、ワールド ゴールド カウンシルは1990年から2010年にかけて中国の被雇用者数は約2億人増えたと
推計しています。
37 IMF、世界銀行
38 中国社会科学院、国家統計局、Ernst & YoungのThe growth of the middle class in emerging markets
中国の金市場:その歩みと展望
中国は、30年あまりをかけて農村社会から都市社会へと移行してきました。
生産設備と小売店舗網の激増が、宝飾品需要の爆発的な伸びを
1980年に中国のGDPの30%を占めていた農業は、現在10%を割って
支えています。
います39。その変化がよりはっきり表れているのが人口移動です。20年前は
人口の70%は農村に住んでいましたが、今は50%以上(6億人強)
が都市に
住んでいます40。都市部の新住民のほとんどは、農村部に残してきた家族に
仕送りをしている
「民工」
と呼ばれる労働者です。農村に戻らずに都市部に
定着し、稼いだ金を都市部で使う農村出身者の数は増えています。こうした
人々の生活向上は金宝飾品の新たな買い手の誕生につながります。この
都市化と収入増の流れは、多くの点で、深圳から始まりました。1980年に
新経済政策で採用された深圳の「試験台」、つまり経済開発モデルは
その後、中国各地で採用され、内陸部にも急速な開発をもたらしました。
重慶、成都、武漢などのTier 2(省都クラス)都市が地域経済の発展を
牽引し、地方での富の増大は宝飾品需要の増加に貢献してきました。
「地級市」
や「県級市」
と呼ばれるTier 3やTier 4
中間層は、
総数が600に上る
中国の宝飾品市場の成長にとって、小売部門の拡大は極めて重要な意味を
持っています。供給サイドの能力拡大が市場の成長を促進してきたという
のは言い過ぎかもしれませんが、供給サイドの基盤強化が市場の急速な
成長を可能にしたことは事実です。それはさておき、
特に10年ほど前までは
宝飾品店が存在していなかった地方でも宝飾品店が次々とオープンして、
需要を押し上げています。新たなショッピング施設の開発は、金宝飾品の
購入を促進するとともに、
金の加工品の需要の拡大にもつながっています。
新たな店舗は金の在庫を必要とします。Tier 3またはTier 4の都市にある
平均的な店舗では400万〜600万元相当の在庫が欠かせません42。これは
現在価格では1店舗当たりわずか20キログラムの量に過ぎませんが、その
数字に中国でここ数年に開店した数千という店舗の数を掛け合わせると、
莫大な量となります。同じことは供給サイドにも言えます。国内市場の急成
の地方中核都市でも生れており、地元の裕福な企業家とともに宝飾品需要
長を支えるために製造基盤が拡充(たとえば、深圳だけでも公的機関に
を新たに創出しています。実際に、最近数年の24金需要の増加分の大半は
登録されている宝飾品メーカーの数は4,000社に上ります43)されてきた
Tier 3とTier 4の都市によってもたらされてきました。両クラスには人口
結果、製造過程にある仕掛け品や卸売在庫は莫大な量に上ります。
しかも、
100万超の都市が140近くもあります 。
41
その総量は増え続けています。中国が「余剰」金を抱えている理由の一部は
これで説明がつきます( 49 ページの「供給」セクションで詳しく見て
いきます)。
労働年齢人口と婚姻数の増加は宝飾品需要の拡大を支えています。
ワールド ゴールド カウンシルの推計では、
「結婚需要」が中国の金消費の
40%を占めています。
都市化のほかにも、中国における宝飾品消費の拡大を押し上げてきた
要因があります。それは、労働年齢人口の増加がもたらす「人口ボーナス」
(2011年まで)
とそれを反映した婚姻数の増加です。国連統計によると、
中国の労働年齢人口( 15 歳から59 歳)は1990 年の 7 億 2 , 300 万人が
2010年には9億4,400万に増えています。雇用統計はその間に2億人が
新たに雇用されたことを示しています。労働人口の増加と平均所得の
伸びは宝飾品消費者の総数の拡大をもたらしました。国連統計は、
中国の労働年齢人口が2015年は9億3,800万人に達した後、
2020年には
9億2,900万人、2025年には9億800万人へと減少していくと予測して
います。需要を支える柱である人口構造に変化が起きるのは必至ですが、
店頭を飾る24金バングル
それは2020年代のことであり、
しかもその頃には国民所得が現在より
高くなっており、人口減の影響が相殺されると見られています。
39 世界銀行
40 同上
41 国家統計局
42 ワールド ゴールド カウンシル、業界筋
43 深圳黄金宝飾品業協会によると、深圳市の宝飾品製造業は法人3,600社、自営業者5,000人
20_ 21
中国における24金の消費量の40%近くは結婚に関連していると推計
いませんが、人口構造の変化が実際に影響を及ぼすのは主に2020年代の
されています44。Tier 3やTier 4の都市ではこの比率がさらに高くなる
ことであって、2015年から2017年にかけての期間に限れば、影響は
傾向にあります。結婚適齢期の人口増と社会全体の所得の向上が
ほとんど考えられません。国連統計によると、
中国の20代
(20〜29歳)
の
相まって、結婚指輪を含む伝統的に結婚に欠かせない新郎から新婦への
女性人口は2005年の9,800万人から2010年には1億1,500万人に
贈り物が宝飾品需要を押し上げています。中国で結婚をするには、
増えました。2015年には1億1,400万人、
2020年には8,900万人、2025年
ネックレス(金項鏈)、ペンダント
(金垂
には7,300万まで減少すると予測されています。金の社会的役割は結婚
)、ブレスレット
(金手鐲)の
いずれかに、指輪(金戒指)、イアリング(金耳環)からなる「結婚三金」
(ジエフンサンジン)
と呼ばれる3点セットが不可欠です。ブレスレットは
中国南部で特に人気があります(ちなみに、同地域では多くの場合、
3点セットより5点セットが好まれています)。中国政府の婚姻に関する
データ
(中国本土以外の香港、マカオ、台湾の数字も含まれています)
に
よると、年間婚姻数は2012年には1,320万件と、2000年代半ばから60%
も増えました 。それが過去10年の24金の需要拡大に大きく貢献した
45
ことは言うまでもありません
(図12)。
中国の人口構造の変化に伴って、人口ボーナスが宝飾品需要にもたらして
いる好影響が将来は弱まると言われています。そうした見方は間違って
だけに限定されているわけでありません。
富の蓄蔵手段でもある金はその他の祝賀や祝日の贈り物としても頻繁に
使われます。
このように金は中国の結婚において伝統的に中心的な位置を占めていますが、
金の役割は結婚後も続きます。たとえば、出産祝いには多くの場合、
金を贈ることが決まりとなっています。春節(旧正月)
は中国では1年で
最も重要な祝日で、贈り物として宝飾品の購入が大きく増える時期です。
特に、その年の干支にちなんだ金製品の縁起物に人気が集まります。
ほかにも金の宝飾品需要が高まる日としては、
以前から母の日がありますが、
近年は2月14日のバレンタインデーがそれに加わりました。
図12:中国の婚姻数と金宝飾品需要の推移
Tonnes
600
Millions
14
12
500
10
400
8
300
6
200
4
100
2
0
0
2001
2002
Jewellery demand
2003
2004
2005
Weddings (rhs)
Source: Ministry of Civil Affairs, Thomson Reuters GFMS
44 Precious Metals Insights、ワールド ゴールド カウンシル、業界筋
45 中国国務院民生部
中国の金市場:その歩みと展望
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
中国人は昔からgoldのことをmoneyとみなしてきました。事実、
ゴールド
さらに、別の調査は、24金の高水準の需要が将来も変わらないことを
のことを中国語(漢字)
では「金」
と書き、マネーを表す金と同意語です。
示しています。1万人以上を対象にしたその調査47では、18歳から27歳
これが宝飾品の大きな購入動機となっていることは確かです。アジア人が
までの層の76%が純金宝飾品を投資手段として見なしていることが
無地の22金や24金の宝飾品を購入する際は間違いなく
「身につける
わかりました。今後12カ月以内に24金宝飾品の購入量をこれまでと
ことができる換金可能なもの」
という感覚で購入しています。インドや
同水準に
「増やす」は44%、
「維持する」は35%でした
(図13)。購入量を
中国の宝飾品市場では、金本体の価値が非常に重視され、購入される
「増やす」
と答えた消費者は、その主な動機として、24金宝飾品の価値が
金宝飾品の大半は無地の「純金」製品で、価格は原価ギリギリのものが
長期にわたって変わらないことと、可処分所得の増加を挙げました。
占めています。そのために、通常は金の国内価格の水準と方向性が
宝飾品の消費を大きく左右します。それを証明したのが最近では2013年
4月の市場動向でした。当時、金価格が急落したのを受けて、中国では
異常な金購入ブームが起こりました。消費者が手持ちの人民元を有利な
図13:中国消費者調査「過去12カ月と比較して、今後12カ月間に
金宝飾品の購入を増やしますか、減らしますか、同水準を維持しますか」
レートで金に交換するには滅多にない機会の到来だと考えたからです。
同時に、金価格はいずれ大幅な値上りに転じるというのが当時の市場の
コンセンサスでしたので、
贈答や結婚を控えている消費者は、
安値のうちに
先買いをするチャンスと見て動き出しました。
増やす
維持する
減らす
わからない
ワールド ゴールド カウンシルの消費者調査では、消費者の「純金」宝飾品
に対する選好度に変わりがないことが確認されています。
44%
35%
15%
5%
結果的に、2013年下半期の金の値動きが消費者の値上り期待を裏切った
ことから、消費者の間の「純金」宝飾品の購入意欲が冷え込むと考えても
おかしくない展開となりました。しかし、実際には、購入意欲に影響は
なかったようです。それを示す広範囲にわたる消費者調査の結果が
あります。それはワールド ゴールド カウンシルが委託して2013年末に
行われた調査46で、中国人が純金を金(マネー)
と引き続き見なしている
Note: Survey of 1,001 Chinese consumers and their attitude towards gold
conducted by the World Gold Council during January 2014.
ことや、
純金に対するその伝統的な見方が近い将来変わる兆候はないことが
Source: World Gold Council
明らかになりました。24 金宝飾品には「投資手段として、ファッション・
アイテムと同等の魅力がありますか」
という質問に対して、
80%の回答者が
「はい」
と答えました。
「いいえ」はわずか4%、残りは「どちらとも言えない」
でした。肯定派はどの層においても高い割合を占めました。
46 ワールド ゴールド カウンシルがTNS社に委託して、1,000人の中国人消費者を対象に2013年12月に行った調査。
47 市場調査会社Kadence が1万2,000人の中国人消費者を対象に2013年5月から2014年2月にかけて行った調査。
22 _ 23
今後の見通し
中国の宝飾品市場におけるもう1つの値下がりリスクは、信用の急拡大に
中国の金市場では、2013年に需要が劇的に伸びました。それを受けて、
2014年は調整の年になると予測しています。しかし、市場を実際に
左右するのは国内の金価格の動向です。中期的には、個人の実質所得と
購買力の伸びが予想され、それが宝飾品の消費拡大を下支えする
見通しです。
よる金融危機の可能性です。金融危機が起これば、景気後退、消費の冷え
込みは避けられません。
「信用バブル」がはじけるタイミングや影響を正確に
予測することはもちろん不可能です。
しかし、本レポートの中期予測には、
金融危機のGDP成長率と国内の金市場への影響をある程度織り込んで
います。一方、明るい要素としては、中国社会では今回の午年
(2014年)
が
特に結婚式にふさわしい年だと見られていることが挙げられます。それは、
2013年の金宝飾品の需要は異常な伸びを記録しました。2014年には
需要の伸びは期待できません。2013年の需要の伸び率があまりにも
大きかった反動で、2014年が調整の年になったとしても驚くことでは
旧暦では立春が2回ある
「双春年」にあたるうえ、太陽暦との誤差を修正
するために旧暦の 9 月と10 月の間に閏(うるう)9 月が挿入される年が
重なるからです。さらに、深刻な景気後退がないとすれば、消費者の収入が
ありません。金価格の下落を受けて、消費者がある程度の先買いを
2014年には10%近く上昇すると予測されていることもプラス要因です。
行いました。そのことは、2014年に予定されていた結婚やその他の主要
以上の要素をすべて織り込んだ2014年の予測では、金の消費はほぼ
祝賀行事で使う宝飾品が2013年にうちに買い込まれたことを意味します。
横ばいで推移するという結論に達しました。
それは宝飾品店の24金在庫回転率が高くなったことからもわかります。
その後、2015年から2017年にかけて金市場は順調に拡大していくと
もちろん、
2014年の市場を実際に左右するのは国内の金価格の動向です。
金価格の大幅な急落が起きれば、2013年と同様の金購入ブームが
再現するかもしれません。ただし、その場合でも、値上り期待が前年ほどは
高くないはずだから、
ブームの規模は前年には及ばないと思われます。
一方、
2012年までは中国の消費者は金価格の上昇の影響をあまり受けずに
きましたが、価格が上昇すれば、一般的な値上り期待よりも宝飾品の
予想しています。この予想の根拠は、消費者購買力の増加予測です。
実質所得の年平均伸び率を7 . 5 %と控えめに予測して計算すると、
2017年の所得は2013年から3分の1も増えます。つまり、深刻な景気後
退がないことを前提にすれば、中国の消費者購買力が中期的に伸びると
いう楽観的な見通し以外は考えられません。
需要を大きく左右する家計の「予算制約」が働く可能性が出てきます。
そうなると、需要は2013年の過去最高水準から後退することになります
(図14)。
図14:中国の宝飾品需要と世界の宝飾品需要に占める割合
Tonnes
800
% share
35
700
30
600
25
500
20
400
15
300
10
200
5
100
0
0
1994
1996
Jewellery demand
1998
2000
2002
% of global jewellery demand
Source: Precious Metals Insights, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
中国の金市場:その歩みと展望
2004
2006
2008
2010
2012
宝飾品消費を予測する際には、価格期待および実際の価格水準とその
きました。この状況はこれから変わり、マージンの平均が上昇するかも
方向性も考慮する必要があります。宝飾品の平均的なマージンは2015年
しれません。
しかし、その場合でも中期的には大幅な上昇になる可能性は
から2017年にかけて緩やかな上昇が予想されます。そのために金消費は
ほとんど考えられません。第1の理由は、24金の基本的な製品の大規模な
わずかに下がるかもしれません。
生産能力と小売段階での激しい競争から、現実論としてマージンの大幅な
言うまでもなく、中期予測における所得効果の数値は価格によって大きく
左右されます。その価格や予算制約を左右する要因もあります。その1つ
は消費者の価格期待です。値上り期待または値下がり期待は、他の条件が
同じ場合、それぞれすぐに需要の増加または減少につながります。一方、
消費者側には、特に結婚に関連して、宝飾品を購入する際に一定程度の
形やサイズのものを購入せざるを得ない事情があります。これは、
金価格に
関係なく、金購入量の安定に貢献しています。
しかし、金価格の値上りまた
は値下がりが大きい場合は、それ自体が間違いないなく重要な要因となり、
消費動向への影響は所得効果より大きなものとなる可能性があります。
引き上げが難しいことです。第2の理由は、業界が洗練されたデザインの
「3Dハード
24金製品の販売に非常に苦労している点です。たとえば、
ゴールド」
と呼ばれる最新の電気鋳造の24金製品のほとんどは、硬さは
18金並みですが、重量ベースで販売されています。3Dハードゴールドは
グラム単位でのマージンが可能ですが、
「純金」市場ではごく限られた
シェアを占めているに過ぎません。第3の理由は、
18金やジェムセット製品は
上海などのTier 1(政府直轄市)の若くて、裕福でファッションにこだわる消
費者には人気がありますが、地方のTier 3やTier 4の都市の若い世代の間
ではそうでもないことです。地方都市では18〜25歳の年齢層でも保守的
な純金志向が顕著です。さらに、Tier 3やTier 4の都市で初めて金を購入
金の宝飾品や加工品の市場では激しい販売競争が繰り広げられています。
する消費者が買い求めるのは無地の24金です。その需要の拡大で「純金」
そのために、小売段階の金スポット
(現物取引)価格に対するマージンは、
宝飾品の割合の高止まりが続いています。
これまで2013年の4月から9月を除き、非常に低い水準に抑えられて
干支の馬をあしらった中国の春節(旧正月)の贈り物用の金地金と電気金メッキの馬の置物
24 _ 25
個人消費支出に占める金宝飾品の割合が、他の項目への支出の増加で
若干減る可能性がありますが、その場合でも減少分はごくわずかだと
思われます。また、今に始まったことではないのですが、24金宝飾品は
金融商品との競争にますますさらされています。
金需要の中長期予測を行ううえで必ず考慮すべきことは他にもあります。
それは、個人消費支出における金宝飾品以外の項目との競争です。世界
全体では、
金宝飾品との競合項目はぜいたく品、
レジャー、
携帯電話です。
しかし、中国の金市場関係者はそうした項目による追い上げについて、
少なくとも今後数年については、驚くほど気にしていません
(この見方は、
前述のワールド ゴールド カウンシルの消費者調査の結果からも
読み取れます)。その大きな理由は、中国の消費者が 24 金宝飾品を、
①装飾と投資のいずれの目的も満たすユニークな商品、
②結婚やその他の
社会行事にとって伝統的に重要な品物と見なしているためです。
言い換えれば、
「純金」宝飾品は、装飾を主目的とするジェムセットや
K-goldのように消費者に財布の紐を緩めてもらうために存在する商品
ではないというわけです。少なくとも中期的には、
この見方は正しいように
思われます。しかし、上述の消費項目などとの競争で金宝飾品の割合が
若干減少に転じ、
時間とともにその減少幅が大きくなると想定しておくのが
賢明です。ただし、2015年から2017年にかけては、そうした減少効果は
非常に限定されたものになると予想しています。
次に、
「純金」宝飾品と金融商品の競争の今後についても検討しておく
必要があります(この点については、29ページの「金投資」の項目で、
金宝飾品の宝飾品というより投資商品としての重要性について詳細に
1キログラム、100グラム、50グラムの金地金
検討します)。上述したように、中国における24金製品への需要を支えて
いるのは、投資目的と究極的には容易な換金性を有する
「純金」宝飾品の
特性です。一方、使い勝手が良く、場合によっては有利な運用効果が
期待できる金融商品がますます増えており、金需要に何らかの影響が
考えられます。
しかし、実際に影響を及ぼすかどうかは金融商品の種類
次第です。たとえば、宝飾品を買う消費者で株式を保有している人は
ごく少数です。
中国の金市場:その歩みと展望
「純金」宝飾品の需要への直接的な脅威は、プラスの実質預金金利です。
銀行預金の実質金利がプラスに転じると、宝飾品の消費が大きな影響を
受けるのは必至です。金利動向は中国国民の大多数に影響を与えると
同時に、それがプラスになると24金宝飾品の需要には向かい風となります。
しかし、その場合でも極端な悪影響はないと予想しています。中国では、
銀行が販売するウェルスマネジメント商品(WMP = 銀行理財商品)
と
呼ばれる、利息が概ね6%台の金融商品がブームとなりましたが、実態は
金融仲介機関、富裕層、資金繰りに窮する債務者が金融監督当局による
金利と貸付の規制を迂回するための手段として使われてきたものです。
理財商品は、
中国銀行業監督管理委員会
(CBRC)
によると、
2013年9月末
時点で総額9兆元(1.6兆米ドル)
を超えるほど異常な規模に膨らんで
いますが、それが「純金」宝飾品ブームに水を差したことはありません。
さらに、
一般預金金利の早期自由化に監督当局が踏み切ることは考えにくく、
いずれにしても預金金利は市場実勢を若干上回る水準で管理されていく
ことに変わりはないと思われます。金利が自由化されたとしても、近隣に
銀行が存在しない地方の消費者には影響はなく、引き続き金を貯蓄手段と
2004年までは、一般の個人が投資用金地金(「投資金条」)を購入すること
は禁止されていました。その不完全な代用品として利用されていたのが
金貨とギフト用金地金でした。法改正で2004年から個人の金地金保有が
再び解禁されると、銀行は金地金商品の大量販売を開始しました。金地金
の需要は数年もせずに爆発的な伸びを記録し、2013年にはその量は
366トンまで膨らみました。24金宝飾品を購入する消費者の大半は、装飾と
投資という2つの目的を同時に満たす商品として買い求めています。
購入動機が投資目的だけというのは少数派です。この少数派に属する
消費者は、
「純金」宝飾品から
「投資金条」の効率的な流通市場にシフトする
可能性があります。投資金条は宝飾品より金の原価に対するマージンが
低く設定されています。主要銀行では、
低いマージンで、
標準重量の投資用
金地金を買い戻し保証付きで販売していますので、美的魅力を度外視して
投資だけを目的とするのであれば、24金宝飾品より効率的な投資形態で
あることは確かです。ほとんどの銀行支店と、かなりの宝飾品店でも
「投資金条」を販売していますので、一部の消費者が「純金」宝飾品から
投資用金地金に乗り換えるこれと予想されます。
して使うと見られています。
婚礼用24金宝飾品:新婦用欧州スタイルの王冠とヘアピン
26_ 27
この先数年、店舗数の伸びと、とりわけ生産能力増加の鈍化がそれぞれ
2013年が例外的な年だったことが挙げられます。それに加えて、今後の
予想され、金市場の成長の勢いもその分弱まりそうです。
4年間の金市場を取り巻く状況がこれまでの4年間より悪化する可能性が
ここ数年間、
供給サイドの規模拡大が金市場の発展を促進してきましたが、
そうした効果は今後弱まることが予想されます。宝飾品業界の新規開店
ブームは恐らく若干落ち着いてきます。それよりも重要だと思われるのは、
競争の激化で財務基盤が弱いところが淘汰される可能性が強まっている
ことです。それに加えて、業界は、特に地方チェーン店のM&A(合併・買収)
が進み、市場の整理統合のペースが加速すると予測しています。
しかし、
小売店舗数の拡大が減速しても、
とりわけTier 3やTier 4の都市では
宝飾品コーナーを開設する余地はまだあります。さらに、金宝飾品の
オンライン販売比率が現在の低水準から急増するというのが業界関係者の
一致した見方です。ワールド ゴールド カウンシルもこのような市場を
積極的に支援しており、2013年8月にローンチしたlovegold.cnは
大変好評を博しています。
生産能力については、2015年から2017年にかけて増加は限定されたもの
となり、場合によっては2013年の急増の反動で若干の減少さえ起こるかも
しれません。いずれにしても、消費者ニーズとやや高めの在庫水準を考慮
すると、宝飾品産業の供給サイド全体としては、加工品需要の水準に沿って
穏やかなペースで成長していくと予想しています。
あります。2011〜2012年の水準を相対的に下回る人民元建ての金価格と
実質所得の増加は金需要の増加にはプラスですが、
生産能力の伸びの減速と
宝飾品の小売市場での競争
(特に金地金との競争)
の激化が予想されます。
なお、本レポートの予測には、中国のGDP成長率が現在の市場コンセンサス
である年平均約7%を下回って6%になると想定しています。それは、投資と
輸出に依存してきた中国経済が消費主導の成長モデルにシフトをすることに
伴うコストを反映して、
GDPが下がると見ているからです。成長モデルの
シフトが長期的には宝飾品需要にはプラス効果をもたらすと考えられますが、
過渡期においては不安定になることも考えられます。特に2014〜2017年の
期間のどこかの時点で、中国の「信用バブル」が崩壊して、それが景気に
大きな打撃を与えることを考慮しておく必要があります。
以上のように様々な問題が想定されるにもかかわらず、2014〜2017年の
宝飾品の需要予測は、期間全体ではまずまずの成長が期待できることを
示しています。2017年までに消費量は785トンと、過去最高を記録した
2013年をわずか17%強上回る水準に達する見通しです(価格ベースでは
約20%の上昇になります)
。2013年の史上最高の消費量と2014年の限定的
な増加予測を反映して、2017年までの増加分は2013年の年間消費量の
669トン(最新の推計値)を「わずか」116トン上回るだけとなります。
宝飾品の消費量は2017年までにさらなる増加が予想されますが、
この数字は、2010〜2013年の4年間の増加幅216トン、2006〜2009年の
同期間の GDP 成長率と個人消費者支出の伸び率には及ばないと
4年間の132トンには及びません。
見ています。2017年までに消費量は年間785トンに達し、2013年比で
17%強の増加になると見込んでいます。
2014〜2017年の中期見通しを要約すると、宝飾品の消費量の伸びは
2010〜2013年比で大きく減速します。2010〜2013年の需要はGDPと
個人消費支出の伸び率をかなり上回ったのに対して、2014〜2017年の
需要はいずれの経済指標の伸びを下回る見通しです。大きな理由としては、
中国の金市場:その歩みと展望
金投資
中国で金地金への投資が解禁されたのは2004年でした。その年の金地金の
需要はわずか10トンでしたが、
それが2013年には397トンまで急増しました。
この驚異的な増加の背景には、中国では投資手段が限られているという事情
があります。さらに、変動が大きな株式、非流動資産、
さらには実質利息が
マイナスの銀行預金への過剰な偏りを避けて、多様な資産運用を望む
中国国民の願いも反映されています。ワールド ゴールド カウンシルの
中期見通しは非常にポジティブで、金地金の需要は2017年までに500トンに
近づくと予測しています。ただし、2014年については調整の年になると
見ています。
はじめに
中国人民銀行(中央銀行)
は2004年に民間の個人による金地金の売買を
中国では金地金への投資は1950年から2004年まで禁じられていました。
解禁後は主要銀行の市場開発努力が功を奏して、今日の中国は金地金の
取引では世界最大の市場となっています。
1950年以来初めて認可しました。その歴史的な決定以来、中国は世界最大
の金地金市場へと変貌しました。2013年に中国の国内投資家が購入した
金地金と金貨は397トン
(推計)
に達し、世界の金地金の現物投資需要の
およそ23%を占めました
(図15)。
図15:中国の投資*需要と金価格(グラム当たり人民元)
Tonnes
450
RMB/gramme
350
400
300
350
250
300
250
200
200
150
150
100
100
50
50
0
0
1994
1996
Investment* (t)
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
Chinese gold price (RMB/gramme, rhs)
*「投資」には金地金と金貨の合計が含まれます。
Source: Shanghai Gold Exchange, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
28_ 29
図15は、2004年の金市場の自由化直後の中国では金投資が非常に
交易所の現物価格に低いプレミアムを上乗せした価格で販売されます。
穏やかなペースで進んだことを示しています。これは、国内の精錬業者や
最も人気が高いサイズは50グラムと100グラムだと言われています。
銀行が新たな環境下での商品開発と販売網の整備のために時間を必要と
金の現物投資商品には金貨もありますが、中国では金貨の人気は伝統的
したからです。投資家サイドでも、
中国では過去半世紀にわたって、
宝飾品と
違って、手にすることができなかった金地金への投資のメリットを理解する
に高くなく、販売量も限られています。例外は、中国造幣公司が発行する
「パンダ金貨」
(熊猫金幣)
です。中国の2013年の金貨加工量は39トンで、
のに時間がかかりました。中国工商銀行
(ICBC)
と上海黄金交易所
(SGE)
が
その一部は輸出向けでした。金の現物投資商品の3つ目は、ギフト用金地金
連携して、個人の現物取引への参加を初めて可能にする商品「ゴールド
です。純度は99.99%で、通常は標準サイズ
(グラム)
で販売されますが、
エクスパート」
(Jinhangjia = Gold Expert)
を導入したのは2005年後半で
伝統的な重量単位である
「テール」
(tael = 両)
も使われます。ギフト用は
した。2006年12月には、中国黄金(チャイナゴールド、CNGG)
が、SGEで
その美しい仕上がりとモチーフの豊富さが際立っています。特に人気なの
決まる金価格に応じて取引できる投資用金地金を買い戻し保証付きで売り
が、春節(旧正月)
に売られるその年の干支の動物をあしらったギフト用
出しました48
(今日でも、買い戻し条件付きで金地金を販売する宝飾品店や
金地金です。2014年は午年ですので、馬をモチーフにした商品が全国で
銀行支店は、数は増えつつありますが、
まだ限られています)。同時に、
販売されました。ギフト用金地金は主に宝飾品店で販売されますが、一部の
宝飾品店が様々な重量サイズの金地金を販売するようになりました。その
銀行でも取り扱っています。販売価格は通常グラム単位で決まりますが、
多くはギフト用金地金ということで、マージンは比較的に高い水準に設定
同じ重量の投資用金地金よりかなり高く設定されています。
されていました。純粋な投資用金地金市場が発展するまではやや時間を
要しました。これに関しては、
主要銀行、
特にICBCは、
支店網を通して様々な
重量サイズの刻印入り金地金を販売するのに必要なインフラを整備する
など重要な役割を果たしました。
金地金市場を重量別に見ると、
投資用の割合が圧倒的で、
その比率は高まる
一方です。投資用金地金については、現物価格に近いマージンと標準化
された重量サイズ、さらに刻印による品質保証(安全性)が特に地方の
投資家に好まれています。ギフト用金地金の割合は、2013年には政府の
高純度(9999 = フォアナインズ)の投資用金地金をすべての重量サイズで
腐敗防止キャンペーンの影響で、大きく縮小しました。実際に、ギフト用は
取り揃えている銀行支店や宝飾品店舗の数は増えつつあります。金地金市場
2013年には金地金市場に占める割合が減っただけではなく、絶対量も
の主流は投資用金地金ですが、それより高い価格帯のギフト用金地金市場
減少したと見られています。ギフト用の割合に関する推計値には大きな
も存在します。
現在、小口でも購入可能な投資用金地金を、数千に上る銀行支店が主に
販売していますが、宝飾品店も取り扱っています。最近では、
インターネット
経由の販売も行われています。投資用金地金は純度が99.99%
(9999 =
フォアナインズ)
で、サイズは1グラムから1キログラムまでがあり、上海黄金
48 ワールド ゴールド カウンシル
中国の金市場:その歩みと展望
開きがありますが、Precious Metals Insights社では2013年の金地金
市場(366トン)の20%以下と判断しています。なお、中国の投資用金地金
のかなりの部分も、家族や社会の祝い事に関連するギフト用に購入されて
いる事実を指摘しておきます。
純金積立プラン(GAP)は2010年12月の導入以来、人気を博しています。
両社は、金現物との直接リンクは認められないという監督当局が定めた
一方、2013年7月にスタートした金ETF(上場投資信託)はこれまでの
規制要件を満たしつつ、
投資家に魅力のある商品を設計するために多く時間
ところ期待外れの結果となっています。
をかけてきました。両社は商品設計にあたって、ETFの裏付け資産として、
が中国で成功を収めている
純金積立プラン
(中国語で積存計画 = GAP)
背景には、その商品に対する銀行側の積極的な販売姿勢がありました。
2010年12月に中国工商銀行(ICBC)は、ワールド ゴールド カウンシルの
協力の下に、
中国で最初のGAPをローンチしました。これは、
一般の預金者が
銀行に一定量の純金を定期的に積み立てて、最終的に金地金現物を受け
取るオプションが付いた商品です。ICBCのGAPは非常に人気が高く、
現在も国内1万7,125支店を通して販売が続いています。GAPは他にも
4行と、北京の有名ブランド菜百(ツァイバイ)などの一部の大手宝飾品店も
取り扱っています。GAP の口座保有者は全国で 1 , 000 万人を超え、
その残高は60トン相当を超すと推計されています49。
金庫に眠る金の現物ではなく、上海黄金交易所(SGE)の金の現物商品
契約にリンクすることにしました。2013年7月18日に、華安と和国泰の
金ETFがSGEに上場されました。ETFのカストディアンは中国建設銀行と
ICBCが務め、それぞれが金現物を保管してETFの資産裏付け義務を
負っています。ETFの受益証券は元建てで、1株は金1グラムの100分の1に
相当します。両社のETFの最低投資単位は1口30万株(3kg相当)、年間
信託報酬は50ベーシスポイント
(0.5%)
です。2013年末で、華安と和国泰
のETFの金保有量はそれぞれ2.4トンと0.4トンでした50。いずれの場合も、
金保有量は上場以来減少が続いています。一方、2013年12月に、深圳に
ある資産運用会社の易方達(イーファンダー、英語名E Fund)
がETFを
上場しました。多くの市場参加者は金ETF市場の発展を期待しています。
中国証券監督管理委員会は2013年6月に、上海の資産運用会社の華安
(ファアン)
と和国泰
(グゥォタイ)
に国内金ETFの取り扱いを認可しました。
北京の金融街
49 ワールド ゴールド カウンシル
50 Morningstar
30_31
中国の投資家の間では、金についてこれまでのところ“ペーパー商品”より
金地金の保有が好まれてきました。しかし、中国に大規模で洗練された
機関投資家が増えてくればペーパー商品が成功する可能性があります。
華安と和国泰の金ETFの実績がこれまでのところ期待に沿っていない
ことは明らかです。当初の運用資産目標は前者が20億〜30億元、後者が
16億元でした。両社とも主に機関投資家と富裕層に的を絞っていました。
しかし、2013年後半に入ると金価格が下落し、その影響で米国の有力ETF
の金保有量が減少したことで、中国の機関投資家も富裕層も動きません
でした。今から考えてみると、中国の金ETFは不運なタイミングでの
ローンチとなってしまいました。ここ数年冴えない展開が続く株式市場に
不信感を募らせてきた投資家が、ETFも結局のところ
「証券」
ということで
敬遠した可能性があります。さらに、過去 2 年ほど、富裕層の関心は
ウェルスマネジメント商品(WMP = 銀行理財商品)
に向いていました。
理財商品は「ハイリターン・ローリスク」商品と見なされてきました
(事の是非はさておき、ほとんどの投資家は国有銀行が販売する理財
商品には政府の元本保証が付いていると信じています)。そのほかにも、
金ETFの人気が盛り上がらず、資産運用者の関心が他のファンドに移る
傾向が見られます。
現在、金を積極的に購入している投資家のタイプと彼らのリスクに対する
見方を考慮すると、
「現物」
と
「ペーパー」のハイブリッド証券という金ETF
の特性は、今の中国市場には全く不向きです。金地金を買って直接保有し
ようとする中国の投資家の大半は、第三者のカストディ機関を信用してい
ません。これこそが、純金積立プラン
(GAP)
や類似貯蓄商品の成功にもか
かわらず、中国における金投資の圧倒的多数が金地金現物買いという形を
とっている理由です
(GAPなどの純金積立商品が成功を収めてきたのは、
上海市城隍廟(チャンホワンミャォ)の宝飾品店
商品の柔軟性と使い勝手の良さもありますが、何よりも大手国有銀行が
売り手だからです)。これまでのところ低迷が続く金ETFですが、中国に
洗練された機関投資家が増えてくれば金ETFが成功する可能性があります。
そのような状況になれば、金や商品を運用対象とするファンドだけでは
なく、ポートフォリオ運用の多様化のために金資産担保証券を使おうとする
ファンドマネージャーからの資金が金ETFに流れ込むことが想定されます。
中国の金市場:その歩みと展望
主に上海先物取引所経由の金への投機的投資が最近数年急増しています。
を問わず、
上海黄金交易所(SGE)、あるいは上海先物取引所(SFHE)
これらの「ペーパー市場」で積極的な動きを見せる投資家グループがいます。
それは、
いわゆる投機筋です。上海先物取引所でその動きが特に目立ちます。
定義上は、仲介業者を通す場合でも、
これらの市場にアクセスできるのは
相対的に洗練された大口投資家であることが求められます。
しかも通常は、
そうした投資家は短期的な相場見通しに基づいて「買い(ロング)」や
「売り
(ショート)
」のポジションを取ります。従って、大口投資家が取引を行う
市場では、
長期保有
(バイ・アンド・ホールド)
を目的とする金地金の購入とは
違って、買い持ちの一方通行ではなく、売り買いが積極的に行われます。
この後に説明しますが、
これらの市場は活況を呈し、近年は出来高を大きく
伸ばしています。流動性が高く、
国際的に取引される金は非常に人気があり、
上海先物取引所
(SHFE)
が1kgの金先物契約を導入したのは2008年でした。
2013年の出来高は重量換算で4万176トンへと爆発的に増加しました。
その主因は時間外取引を開始したことでした。しかし、東京商品取引所
(TOCOM)
の1万2,225トンを大きく凌ぐものの、
COMEXの15万2,000トン
には遠く及びません
(図16)51。SHFEでは200社が取引に参加しており、
そのうち80%は先物取次業者(FCM)
です52。個人投資家が取引所で直接
売買をすることはできませんが、
取次業者に証券口座を開設すれば可能です。
SHFEにおける金先物取引の大半は先物取次業者経由の個人投資家による
注文です。中国には現在、先物ファンドはわずか2社しか存在しません
(いずれも2012年設立)。
しかし、先物取次業者のうち16社には資産運用
免許の取得申請認可がすでに出されています。それぞれの顧客としては
富裕層が想定されています。
中国の投機筋は、国内取引所はもとより、ロコ・ロンドン市場あるいは
ニューヨーク商品取引所(COMEX)
での取引を増やしています。これらの
市場では、
たとえば金ETFよりもコストが安く、
証拠金を使って少ない資金で
高いレバレッジ
(投機)効果が得られるからです。
図16:主要先物取引所と上海黄金交易所の出来高
Turnover
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
2008
2009
COMEX
TOCOM
2010
SGE
MCX
2011
2012
2013
SHFE
Source: Thomson Reuters GFMS
51 トムソンロイター GFMS
52 上海黄金交易所
32 _33
上海先物取引所(SHFE)
が、すでに非常に多くの国内投資家に金の先物
取引を行える重要なプラットフォームを提供していることは確かです。
様々な市場の投資商品を単一ファンドに組み入れるマネージド・
フューチャーズ・ファンドの数が増えれば、多数の顧客が直接あるいは
市場の拡充
供給サイドのインフラ(製品供給能力)の整備も、金の投資需要の伸びを
支えてきました。
間接的に金の先物取引に参加するようになるかもしれません。しかし、
中国の金市場の成長には供給サイドの発展が不可欠でした。もし銀行や
それが中国における投資用金地金市場の需要の減少につながることは
中国黄金(CNGG、チャイナゴールド)
などの宝飾品店チェーンのこれまで
考えられません。先物取引で買い(ロング)または売り
(ショート)の
の市場開発努力がなかったとしたら、中国の金市場における需要ははるか
ポジションを取る動機と、金地金現物を買う動機は全く違うからです。
に低い水準で推移してきたと思われます。供給サイドによるインフラ整備と
同様に、
長期の富の保全や鑑賞のために金地金や金貨を購入する大多数の
製品開発は、そのいくつかはワールド ゴールド カウンシルの支援によるも
ケースと比べると、先物取引は極めて短期的な見通しに基づいて展開して
ので、中国の金投資市場に短期間で改革をもたらしました。現在、中国の投
いきます。
上海黄金交易所には会員銀行の「代理黄金交易」口座を経由した
個人投資家からの注文が非常に多くなっています。
は2002年10月30日にオープンしました。中国では
上海黄金交易所
(SGE)
唯一の金の現物スポット市場であり、国内のすべての「新しい金」はSGEへ
の販売が義務付けられています。最初にスポット取引を、その後、
「T+G
(繰延決済)」取引(決済日を延ばせる先物取引)
を導入して以来、出来高
が大きく伸びています。投資家はSGE会員の商業銀行に口座を開けば、
資家は電話やインターネット、あるいは10万を超す銀行支店を通して金地
金を買うことができます55。全国に推計で10万軒56はあると言われる宝飾
品店は、投資用金地金ととともにギフト用金地金を販売しています。店舗数
は増え続けており、
これまで宝飾品店が存在しなかった地方でも金地金の
購入が可能になります。
中国の国民はかつての混乱時代のハイパーインフレの経験から、インフレ
に対して非常に強い恐れをいつも抱いています。1990年代のインフレ
高騰の時は、闇市での金地金の需要が高まりました。
SGEの取引に参加することができます。2007年7月から商業銀行経由で
もちろん、投資用金地金の需要増加は、供給サイドの市場開発努力だけで
個人投資家の「Au9999」
(純金99.99%)
と
「Au100g」
(金100グラム)
と
もたらされたわけではありません。中国では2004年の金市場自由化の
いう契約の取引への参加が解禁されました
(それに先だって中国工商銀行が
大分前から金への潜在需要が存在していました。1990年代の金地金需要
現物スポット取引の試験運用を行い、最低単位が1kgでは個人投資家の
の高さがそれを証明しています。当時はまだ金地金現物の保有が解禁
取引参加意欲がそがれることを確認しています)。2010年までに、
されていませんでしたが、闇市場での需要は相当な量に達しました。
王哲(Mr. Wang Zhe)SGE理事長(当時)
によると、180万人の個人
また、
当時、
国内投資家にとっては、
金地金に最も近いインフレヘッジ商品は
投資家がSGEの取引に参加し、
交易所全体の取引の19%を占めていました。
2010年の出来高は5,715トンでした。2013年にはそれが1万701トンに
増えました53。この数字は、同期間にSGEの取引に参加する個人投資家の
数が増えたことを示唆しています。最近数年でSGEの会員銀行の「代理黄金
交易」口座を通した取引が非常に活発になってきたと言われています。
個人投資家には取引手数料の安さと金の現物引き渡し
(オプション)
があるこ
とが評価されているようです。現在、個人がSGEで取引できる最低単位は
「Au9999」
と
「Au100g」の場合でわずか100グラムです。現物の受け渡
し単位は100グラム、1キログラム、3キログラムの3種類となっています54。
しかし、SGEの取引に参加する大多数の個人投資家の関心は現物の
引き渡しを受けることではなく、
レバレッジの効いた取引そのものにある
ことは明らかです。
53 トムソンロイター GFMS
54 上海黄金交易所
55 ワールド ゴールド カウンシル
56 中国黄金協会
中国の金市場:その歩みと展望
「純金」宝飾品でした
(「宝飾品」セクションの図8を参照)。
2004年の金市場の自由化以降、中国で投資用金需要を押し上げてきた
来ていることは驚くべきことです。投資家はこのことを知っており、現在の
主因の1つはインフレへの恐れでした。中国は第一次世界大戦後のドイツの
緩やかなインフレだけでなく、
将来のインフレの上昇への備えてとして金を
ハイパーインフレと似たような状況を経験しており、それが今日でも国民の
購入するケースが増えています。
行動や態度にある程度の影響を与えています。具体的には、
1937〜1945年
当然、預金金利が低い中でのインフレ率の上昇は消費者の間に大きな
の抗日戦争と、その後1949年まで続いた国共内戦の過程で発生した
不安を招きます。中国において銀行の預金金利は、
政府によって規制されて
ハイパーインフレです。一時、紙幣は価値を全く失い、バーター取引に
います。
しかも、
ごく最近まで、国の経済政策は投資主導の経済成長を公然
依存せざるを得ませんでした。その中で富の保全を図るために使えたのは、
と後押ししてきました。言い換えれば、
低い預金金利しか得られない預金者を
金と銀、それに外貨でした。中華人民共和国の樹立後も、1992年後半から
犠牲にして、借り手を優遇してきたことになります。事実、消費主導の成長
1996年前半にかけて、物価上昇率が急騰しました。ピークは1994年で、
モデルへの転換を目指すという掛け声にもかかわらず、2008年後半、
年平均は公式発表でも24%に達しました57。その後は概ね政府目標の
範囲内に抑制されてきましたが、それでも2007〜2008年と2011年には
目標を超える上昇率を示しました。
しかし、中国の消費者物価指数の公式
つまり世界金融危機の発生以来、中国のGDPに占める
「総固定資本形成」
(設備投資、住宅投資、公共投資などの固定資本の追加分)の割合は50%
統計は実際のインフレ水準より低く抑えられていると国民の間では広く
信じられています。特に2010〜2011年に場合のように、GDPデフレーター
など物価動向を表す他の指数は、そうした見方を時々裏付けてきました。
さらに、食品と住宅価格が公式発表される総合物価指数より全体的に高い
ことは明らかです。国内の近年における爆発的な信用の拡大とそれに伴う
に迫る勢いでした58。それに加えて、非金融企業59の債務残高はほぼ3倍に
膨らんでいます
(GDPの推移は「経済発展と金市場」セクションの図3を
参照)。同時に、銀行預金金利は2010年から2013年にかけて公式発表の
消費者物価指数を下回りました。異常に低い名目金利(マイナスの実質金
利)
が投資用金地金の需要の急増を下支えしています
(図17)。
マネーサプライの増加を考えると、中国がインフレ高騰の影響を受けずに
図17:実質金利と消費者の金需要*
Tonnes
1,400
%
5
1,200
0
1,000
-5
800
-10
600
-15
400
-20
200
-25
0
-30
1986
1990
Consumer demand* (t)
1994
1998
2002
2006
2010
Real interest rates on bank deposits (rhs)
*消費者需要には宝飾品と金地金・金貨の需要が含まれます。
Source: National Bureau of Statistics, Precious Metals Insights, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
57 国家統計局
58 IMF
59 国際決済銀行(BIS)
34 _35
中国の国民貯蓄の残高と伸び率は驚異的です。残高に占める金の割合は
その比率は増加傾向にあります。
しかし、金投資の増加にもかかわらず、
中国全体での2013年末の金地金の保有総量は、Precious Metals
ごくわずかに過ぎません。
中国人民銀行によると、預金金利が低いにもかかわらず、中国の国民貯蓄
残高は2013年には5兆4,900億元(870億米ドル)の増加を記録しました。
国際通貨基金(IMF)の推計によると、都市部の平均世帯は可処分所得の
3 分の 1を貯蓄に回しています。かつて国有企業の従業員は「鉄飯碗」
(割れることのない鉄のご飯茶碗 = 一生食いはぐれがない)
と言われた
「ゆりかごから墓場まで」の社会福祉の恩恵を受けていました。しかし、
それも経済改革でなくなり、公的部門の労働者の数は大幅に減りました
(1995年から2001年にかけて、国有企業部門と都市部の集団事業部門で
約6,500万人が失業したという推計があります)60。これらの労働者と
新たに労働年齢に達した人々は民間部門に吸収されましたが、前の世代が
受けていた社会保障はありません。中国の現在の経済実態に適した新しい
社会保障制度の拡充には時間がかかりそうです。そのため、国民は病気や
失業、さらに老後に備えて蓄えざるを得ない状況に置かれています。
蓄えの手段は大多数が銀行預金と不動産投資です。現在でも増え続けて
Insights社の推計によると、2,000トン(770億米ドル相当)を少し下回り、
国民貯蓄残高に占める比率はほんの一部に過ぎませんでした。
株式市場の不振が金投資の拡大を後押ししています。
金投資は、投資家が株式市場に幻滅を感じていることを反映して、好調に
推移しています。2006年から2007年にかけて最高値の更新が続いた
中国株式の上海総合指数は2008年に65%の大暴落
(図18)
を記録しました。
2009年には反騰が見られたものの、それ以来、ほぼ値下がり基調が続いて
います。たとえば、2013年の年間増減率はマイナス6.7%でした61。これ
以外にも、個人投資家は株式市場では価格操作がはびこり、
「インサイダー」
以外の市場参加者は不当に大きな損失を負わされていると主張しています。
対照的に、金については、国際的に取引されており価格操縦が起こりにくく、
値上がり基調にあるなどといった点が評価されています。結果として、
株式投資に代わって金の需要が増える傾向にあります。
いる国民貯蓄残高のごく一部が金地金や他の金製品に向けられています。
図18:上海総合株価指数と金投資*
Tonnes
450
Index level
6,000
400
5,000
350
300
4,000
250
3,000
200
2,000
150
100
1,000
50
0
0
2004
2005
Investment* (t)
2006
2007
Shanghai Composite stock index (end of year, rhs)
*投資には金地金と金貨の需要が含まれます。
Source: National Bureau of Statistics, Thomson Reuters GFMS
60 国家統計局(『The China Quarterly 』、2006掲載分)
61 国家統計局
中国の金市場:その歩みと展望
2008
2009
2010
2011
2012
2013
人民元の為替相場がこれまでのところ金投資需要に大きな影響を与える
だけの関心事でした。これには、中国人民銀行による厳しい為替相場の
場面はありませんでした。それでも、2013年に人民元相場が下落した
管理が行われていることが反映されています。人民銀行は最近数年、
際は滅多にない買いのチャンスだと見なされました。
米ドルに対して緩やかな人民元高を容認してきました。2009年から2012年に
厳格な資本管理と米ドルや他の外貨の国内流通が非常に限られている
現状を背景に、中国の一般大衆は、
インドなど他の新興国の場合と違って、
為替相場(図19)
に敏感に反応することはほとんどありません。これまでの
ところ、
中国の消費者は人民元の国内購買力には強い関心を示してきました
が、その海外での購買力については海外で資産運用を行う一部の富裕層
かけて元高は、金の値下がりにつながり、宝飾品がやや買いやすく
なりました。しかし、人民元は外貨とは交換することができませんので、
その為替相場が金投資に影響を与えることはこれまでのところほとんど
ありませんでした。ただし、金を使った金融裁定取引が増えており、
その取引に為替相場が影響を及ぼしてきたことは確かです。
図19:人民元とインド・ルピーの対米ドル相場の推移
INR/US$
60
CNY/US$
9
58
56
8
54
52
8
50
7
48
46
44
7
42
40
2004
2005
INR/US$
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
6
2013
CNY/US$ (rhs)
Source: Bloomberg, Reserve Bank of India
36_37
金の年平均価格(人民元建て名目)
は2003年から2012年にかけて3.5倍
も増加し、その上昇基調が中国における金地金の需要増加に大きく貢献
今後の見通し
キャピタルゲイン狙いでしたが、回答者はキャピタルゲインの実現に必ず
2013年の金の投資需要は397トンで、前年比38%の大幅増となりました。
その反動もあって、2014年は前年を下回るかもしれませんが、それでも
2012年の水準は上回ると予想しています。
しもこだわっていませんでした。2013年の平均価格(人民元建て)
は前年
トムソンロイター GFMSの最新データによると、中国の2013年の金地金
しました
(図20)。ある投資家調査によると、投資の理由として最も多くの
回答者が選んだのが富の保全でした。その次の回答数が多かった理由は
比17%の下落(年間下落率は29%)62でしたが、ほとんどの投資家の金の
需要は、前年を109トン、38%も上回る397トンでした。ここでは、2017年
値上がり期待に変化は見られませんでした。2013年4月に金価格が下落
までを視野に入れながら、中国の金地金投資がさらに持続的な拡大を
した際に、金地金と
「純金」宝飾品の需要が急増したのも同じ理由でした。
続ける可能性について検討します。
買い手は価格下落を大幅な安値で金を購入できる
「一回限り」のチャンスと
見たようです。
まず、2013年は金需要にとって特別な年でした。それは、4月から6月に
かけて金価格の急激で、
しかも大幅な下落が起きたからです。通常の市場
中国の投資家は、米国の経済政策は最終的には米ドル安を招き、金の国際
傾向を大きく超えた動きだったことから、2014年に同様の根動きはないと
価格が上昇すると予想しています。
見込んでいます。次に、中国の投資家は金相場の先行きについて諸外国の
その後は金価格の持続的な反騰がなかったうえ、最近はさらに下落をして
いるので、当時の楽観的な見方は外れたわけですが、一般的に言って、
投資家の金への信頼は変わっていません。中国の投資家は、金は長期的に
は値上りし、その実質価値が維持されると伝統的に信じてきていますが、
それに加えて、
「金に優しい」現行の経済政策の効果も信じています。
投資家よりはるかに楽観的ですが、彼らが過去 1年の値下がり基調に
ついても全く気にも留めていないと見るのは危険です。さらに、2014年の
株式市場の動き次第では、投資家にとって金の魅力が薄れる可能性が
あります。1年あまり続いたIPO凍結を政府が解除したことを受けて、
株式市場では株式の新規公開(IPO)の予定が目白押しです。
その効果とは、米国の持続不可能な財政赤字と米連邦準備理事会による
量的緩和策がもたらすマネーサプライの急増とインフレによって為替相場
が米ドル安に転じるのは不可避だというものです。米ドルの下落は当然、
金の国際価格の大幅な上昇につながります。こうした見方は、
「冷戦後、
米国の覇権が衰えている」
という中国国内にある世界観と一致します。
図20:中国の金の実質価格と名目価格の推移
Yuan/gramme
400
350
300
250
200
150
100
50
0
1994
1996
Nominal (Yuan/gramme)
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
Real (Yuan/gramme)
Source: IMF WEO, National Bureau of Statistics, Precious Metals Insights, Shanghai Gold Exchange, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
62 上海黄金交易所
中国の金市場:その歩みと展望
2012
最後に、
中国では金融危機の可能性が高まっています。もちろん、
それが
ポジティブな見通しに対する主なリスクとは何でしょうか。第1のリスクは、
実際に発生するのか、
その時期がいつになるのかを正確に予測することは
中国の経済成長見通しを狂わせるような景気低迷または金融危機です。
不可能です。本格的な金融危機が発生すれば、
少なくとも当初は、
危機が
それが現実に起これば、
富の破壊、
市場流動性の崩壊、
それに恐らく資産
もたらす負の資産効果によって金の投資需要が冷え込む可能性があります。
損失補填のために一部の投資家による保有する金の強制売却が発生します。
従って、
2014年の金需要が2013年の実績を上回ることはもとより、同水準に
現実に信用バブルと住宅バブルが進行していることを考えると、そうした
達することさえも難しいと思われます。より可能性が高いのは2013年を
事態が起きても不思議ではありません。
しかし、それは金市場から見ると、
下回ることです。それでも2012年の水準をかなり超えると予想して
2008年から2009年にかけて欧米市場で見られた「安全な避難先」と
います。
言われる金市場への本格的な資産流入が始まり、世界的に金需要を
中期予測は非常にポジティブです。リスクがないという事ではありませんが、
需要は2017年までに500トン近くまで増えると予測しています。
中期的に見ると、対照的に金の投資需要見通しはずっと明るくなります。
63
中国の国民1人当たりの金投資は依然として低水準
(2013年は0.29グラム)
にとどまっていて、個人所得に対する比率は、過去1年に所得が伸びた
ためにさらに縮小しました。今後数年に予想される金融改革が、現在の
金投資の見通しを大幅に下方修正しなければならないほどの劇的な変化を、
押し上げることも考えられます。
第2のリスクは、金価格の値下がり傾向が2015〜2017年も続き、投資家の
金への信頼が揺らぐことです。このリスクを無視することはできませんが、
それが「バイナリアウトカム」をもたらすことも考えられません。バイナリ
アウトカムとは、市場全体が悲観的になって需要が打撃を受けているのに、
一部の投資家は相場についてポジティブな見通しを変えず、
さらに値下がり
は押し目買いのチャンスととらえる投資家まで現れる状況を指します。
金の投資環境にもたらす可能性は低いと見ています。投資家は、低くて
第3のリスクは、金のオルタナティブ資産の魅力が高まる状況です。
マイナスの可能性さえある投資利回りに依然耐えなければならず、
また、
たとえば、株式ブームの発生や預金の実質金利がプラスに転じる局面が
信用拡大とマネーサプライの増加によってインフレが加速することを
そうした状況にあたります。資本管理が撤廃され、人民元の外貨との
引き続き恐れています。外国市場へのアクセスはこの先も厳しく制限され、
交換が解禁されれば、オルタナティブ運用が花開く可能性があります。
外国為替規制が2017年までに解除されることはないと予想しています。
長期的には、金融自由化が実現すれば、金が金融市場との競争にさらに
さらに、人口の高齢化に備える貯蓄が今後も増え続けるのは必至ですが、
これは金にとっては好材料です
(中期的に見ると、中国の人口が貯蓄を
取り崩さねばならなくなる人口動態の転換点に到達するまでにはまだ時間が
さらされることは不可避です。
しかし、金融監督当局が金融改革を段階的に
進めようとしているのも確かですので、中期的に見ると、中国の一般投資家
が利用できる投資手段が現在と大きく変わる可能性はありません。
あります)。それに加えて、主要銀行やその他の金融機関がそれぞれの
第4のリスクは、
中国の金投資市場の発展をこれまで支えてきたと言われる
金関連サービスの発展に力を入れていることも金には有利な展開です。
政府と共産党指導部が、その方針を転換する可能性です。そうした事態が
金地金の直接または間接的な購入条件付きの様々な商品を販売する銀行
起こることは考えにくいのですが、何らかの理由で、当局が金市場に対して
支店の数が増えていることも、国内金市場の裾野の拡大につながると
背を向けることになれば、金投資に極めて深刻な悪影響をもたらします。
期待されています。買い手側でも、
24金宝飾品からマージンが低い金地金に
それを示唆する動きが2013年に広がった腐敗防止キャンペーンで、
シフトする向きが出てくることが予想されます。金相場が2015〜2017年を
その影響は、今のところは限定的ですが、金の装飾品とギフト用金地金の
通して回復すれば、それが大幅な回復でなくても、金投資を新たに刺激する
需要の下げ圧力となってはっきり表れています。
のは間違いありません。以上をまとめると、中国の金の投資需要は2017年
までに過去最高となった2013年のほぼ25%上回る水準まで拡大することが
予想されます64。
63 Precious Metals Insights
64 同上
38_39
工業用の需要
2014年から2017年にかけて、中国における工業用の金の需要は2013年の
66トンから緩やかに増加する見込みです65。これは、ここ数年よりも
ペースは鈍化するものの、GDPの成長と鉱工業生産の増加が持続すると
予想されているためです。基礎的な半加工品の生産拠点が諸外国から
中国にシフトしていることも、工業用の金の需要を押し上げると
期待されています。装飾分野とエレクトロニクス向けの需要の伸び率は、
前者が後者を上回るのは必至です。エレクトロニクスについては、
代替材料の利用が進めば金需要が減少するからです。
概要
66
「世界の工場」へと飛躍を遂げました。データ
(図21)
その10年間に中国は
を見ると、2004年から2013年にかけて鉱工業生産と工業用に使われた
工業用の金の需要は大幅に増えてきましたが、宝飾品や投資目的の金の
金の量が似たようなペースで増加したことがわかります。同期間に鉱工業
需要に比べるとその量はわずかです。
生産指数(1994年 = 100)は2.5倍以上も上昇しました。またその間に
2013年に中国で工業用品に使われた金の量は、同年の民間需要全体の
中国は、
世界のエレクトロニクス製品生産で圧倒的なシェアを占めるとともに、
約 5 . 5 % 、金加工品需要の 8 % でした。工業用需要の約 3 分の 2 は
世界最大の自動車生産国67となり、高級ブランド品の主要生産センターと
エレクトロニクス関連で、残りは様々な装飾用に使われました。工業用
しても躍進してきました。
需要は全体では、2003 年は16トンから2013 年の 66トンに大幅に
増加しました。
図21:中国の鉱工業生産指数と金の工業用需要の推移
Tonnes
80
Index level
800
70
700
60
600
50
500
40
400
30
300
20
200
10
100
0
0
1994
1996
Industrial fabrication (t)
1998
2000
2002
2004
2006
Industrial production (Index 1994=100, rhs)
Source: Oxford Economics, Precious Metals Insights, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
65 トムソンロイター GFMS データに基づくPrecious Metals Insightsの推計
66 Oxford Economics
67 中国汽車工業会(China Association of Automobile Manufactures)
中国の金市場:その歩みと展望
2008
2010
2012
エレクトロニクス
エレクトロニクス分野は、金の工業用需要で圧倒的な割合を占めています。
中国では、金原料を電子産業用の素材に加工するビジネスが重要性を
増しています。金メッキに使うシアン化金カリウム
(GPC)
と、特に金ボン
ディングワイヤ
(GBW = 半導体チップとリードフレームを結ぶ金属線)
を
合わせた年間生産量は10年間で4倍も増え、2012年には48トン
(現時点で
の最新データ)
に達しました。金ボンディングワイヤを有する半導体と
金メッキ部品でつくられたエレクトロニクスの大口需要家は自動車産業と
消費者向けエレクトロニクス製品産業です。中国の自動車生産は2009年には
1,380万台(乗用車、商用車の合計)でしたが、2013年には2,210万台に
急増しています68。さらに、1台当たりに使うエレクトロニクス部品の数も
著しく増加してきました。製品メーカーは常に部品コストの削減と金より
低コストの代替材料への転換に努めていますが、製品の最適性能、特に
安全性に関わる部品については金以外の材料に変えることには限界が
あります。たとえば、
エアバックには耐久性に優れ、
信頼性の高い金メッキを
施した電子ターミナルが使用されています。中国が生産する携帯電話は
年間10億台を超え69、世界の生産台数の半分以上を占めます。携帯電話の
中には1台平均で0.03グラムの金が含まれています70。ラップトップや
その他のパソコンには金ボンディングワイヤ、
金メッキのピンとコネクターが
びっしり並ぶ回路基板が伝統的に使われていますので、
さらに多くの金が
含まれています。中国のパソコンと類似のデバイスの生産台数は2012年
内部に微細な金配線が埋め込まれているマイクロチップと金メッキが施された
コンタクトやコネクター(写真:ワールド ゴールド カウンシル)
には3億5,000万台前後に達しています71。
需要の伸びは、生産拠点の中国へのシフトと増え続ける国内消費を反映
しています。
エレクトロニクス分野の金需要を押し上げている要因は他にもあります。
それは、部品や素材の生産拠点の諸外国から中国へのシフトです。かつて
中国の製造業は必要とする電子部品と素材の多くを欧米や日本から輸入
していました。たとえば、エレクトロニクス分野と装飾金メッキに使うシアン
化金カリウム、
さらにパソコン用の半導体製造に必要なボンディングワイヤの
ほとんどを海外に依存していました。そのことは、関連する金加工品需要も
中国国外で発生していたことを意味します。ところが、過去10年で状況は
一変して、エレクトロニクス部品に必要な基礎素材の生産の中国シフトが
急速に進みました。生産効率の大幅な向上と、かつて中国と先進国の間に
合った製品の品質格差の段階的解消が、
この輸入代替プロセスを加速
させました。さらに、ハイテク製品への国内需要の高まりも関連産業に
とっては追い風となっています。たとえば、かつては中国で生産される
携帯電話の5分の4強は輸出用でしたが、今ではその数字は3分の2に
下がっています72。
68 中国汽車工業会
69 中国工業・情報化部(Ministry of Industry and Information Technology)
70 Tech Page One(Dellグループ)
71 中国工業・情報化部
72 Display Search、中国工業・情報化部
40_41
装飾用需要
今後の見通し
装飾品用の金の大半は金メッキ用です。
中期的な重要動向は、経済と鉱工業生産の伸び率、製造業者の戦略と
中国の装飾用の金需要は、過去10年で4倍も増え、2012年には19トン
(現時点での最新データ)
に達し、韓国を抜いて世界1位となりました。
テクノロジーの進展にかかっています。
ややポジティブな展望を持っています。
今後4年間の経済成長については、
装飾用の多くは中間製品としてシアン化金カリウム
(GPC)
を必要とする
国際通貨基金
(IMF)
など公式機関は、
世界金融危機後の影響から抜け出して、
金メッキ用です。中国で生産されるベルトのバックル、時計ケース、
世界景気が上向くと予測しています。そのことは中国の金製品を含む輸出
サングラス、
ファッションアクセサリーなど様々な消費者製品には金メッキが
にとっては良いニュースです。一方、中国自身のGDP成長率は2014年から
施されています。宝飾品産業では、純金製品やコスチューム・ジュエリーの
2017年の中期で見ると、その前の4年間を下回る見通しです。
フラッシュメッキや、製品または宝飾品の電気鋳造にも金を用います。
中国の場合は、成長予測と同じくらい重要なことがあります。それは、投資
ほとんどの商品分野で、金メッキ製品の生産が急増しています。これには
主導から消費主導の成長への転換です。中国の内と外では経済見通しが
内外で拡大が続く消費者需要が反映されていますが、
世界的な有名ブランド
異なりますが、いずれにしても国内の工業用金需要が増加することは
が最上級品以外の自社製品の多くをフランスやイタリア、あるいは米国で
確かです。ただし、その伸び率は過去10年の水準を下回りそうです。
はなく、人件費がずっと安い中国での生産に切り替えたことも理由として
考えられます。ほかにも、GPCの国内需要が増えた理由としては、かつての
国産電気メッキ金属塩の質が悪かったためにほとんどのGPCを輸入に
頼らざるを得なかった状況が改善されたことが挙げられます。
生産拠点の中国シフトは、過去10年に比べると、その金需要の押し上げ
効果は低下が予想されます。
完成品と部品の生産拠点の中国シフトは今後も続くことが予想されます。
しかし、過去10〜20年と比較すると、中国にとってその重要性は今後
下がります。中国の人件費が高騰してきたために、
一部の格安製品では他の
新興国が競争力を増してきています。
しかし、
自動車やエレクトロニクスなど
高度なテクノロジーを必要とする製品の製造に関する中国の優位性は
非常に高く、そうした分野の生産は、国内消費の増加とも相まって、
さらなる拡大が予想されます。たとえば、中国の携帯電話や自動車の
普及率は、先進国よりずっと低く、今後伸びる余地があります。
中国の金市場:その歩みと展望
中国では都市化が着実に進む見込みです。
しかし、少なくとも一部の成熟
パラジウムメッキを施した銅配線への切り替わりが進んでいます。
産業では急成長の時代は終わっています。鉱工業生産の基盤が今後さら
この傾向は続きます。さらに、代替材料の開発が難しい場合は、製造業では
に整備されることは間違いありませんが、その伸び率が鈍化することが
金の使用の節約に努めるところが増えています。表面メッキ加工や極薄
予想されます。金関連素材を使う国内製造業は、特にシアン化金カリウム
メッキ処理は今後減少傾向に転じる見込みです。このようにテクノロジーの
(GPC)
について、供給先を海外から国内にかなり切り換えてきましたが、
その余地はまだ残っています。全体的には、中国への生産シフトが工業用
金需要を押し上げる効果は過去と比べると今後は低下が予想されます。
進歩は、エレクトロニクス向け金の需要の伸びにとっては強い向かい風と
なることが予想されます。
以上を要約すると、中国におけるエレクトロニクス分野での金の需要は、
代替材料の利用や製造コストの削減がエレクトロニクス分野での金重要
今後4年を見ると、よくても伸びが頭打ちになりそうです。一方、装飾用
の伸びを抑える可能性があります。しかし、中期的には、工業用の需要は
需要は、
金メッキを施した製品や付属品の需要の伸び、
さらに宝飾品生産に
穏やかな増加が見込まれます。その増加分の大半は装飾用需要の拡大に
おける金メッキと電気鋳造の拡大を反映してより大きな増加が期待されます。
よるものです。
装飾分野での金の需要と比べると、
エレクトロニクス分野ではテクノロジー
の進歩が金の需要には大きな脅威となってきます。具体的には、
代替材料の
使用拡大と製造コスト削減のために金の使用が減らされることです。
ここ数年で、
金ボンディングワイヤからコストの安い銅ボンディングワイヤや
42 _43
公的部門
中国の公的金準備は、
国際通貨基金
(IMF)
への届け出分によると、
2013年末
時点1,054トンでした。
この数字は、
2009年以来変わっていません。2009年に、
それまで長い間600トンで維持されていた金保有量が急増したことを発表
しました。公表されている数字は安定していますが、
数年前から、
中国が公的な
金保有量を増やしたのではないかという推測が根強く存在しています。
その背景には、
中国の外貨準備高に占める公的金保有量の割合が極端に
低い
(2013年末の時価評価額ではわずか1.1%)
ことや、
同国の政府高官や
有力筋が時折行う
「金寄り・反米ドル」発言があります。
さらに、
国内金市場に
おける大量で、
しかも増加傾向が見られる
「余剰」が、
需給や純輸入量から計算
すると、
国家による未発表の金保有量の積み増しを示唆する形となっています。
はじめに
中国の米ドルに対するエクスポージャー(市場の価格変動リスクに
さらされている資産の割合)が過大なことから、準備金保有形態を
多様化する方向に動いています。金保有を増加することが、
この多様化に寄与します。
これらの黒字分は米国債購入という形で米国に逆流していきました。
しかし、近年は、米国の公的債務の増大と量的緩和政策(QE)
という異次元
の金融政策によって、米国にとって最大の債権国である中国は我慢を
強いられているようです。実際、中国のある学派は、米国が自国の経済調整
の負担を恣意的に他国に押し付け、その戦略的な覇権を維持しようとして
いると見ています。識者や政策担当者の中には、中国は米ドルへのエクス
中国の国際金融体制の中での影響力は大幅に増大してきました。
ポージャーを減らし、外貨準備の構成を多様化すべきだと主張する向きも
将来、中国が外国為替や資本の規制撤廃に向けて最終的に動き出し、
あります73。中国がGDPの内訳を輸出や投資から内需(消費)依存型に転換
世界の外国為替市場における人民元の存在感が高まれば、その影響力は
することが、世界最大の債務国である米国から悪影響を受けやすいという
一層強まっていくことが予想されます。国際決済銀行によると、米ドル・
弱点を改善するうえでは不可欠です。明らかに、金はこのプロセスで重要な
人民元の出来高は現在、米ドル・ユーロ、米ドル・日本円などの主要通貨ペア
役割を担っています。国内市場で一般市民が金を購入することに対して、
などと比較してかなり少ない量にとどまっていますが、それでも世界9位の
中国政府が好感をもっていることは決して偶然ではありません。当局の
取引高になっています。中国の外貨準備が増加している主因の1つとして、
金寄り政策は、国内の金市場の発展を奨励するにとどまらず、国も金を
人民元が半固定相場制にあり、中央銀行が介入することが挙げられます。
入手しているのではないかとの憶測を強めています。
また、貿易決済でも、かつては低い水準にあった人民元建てが増えてきた
ものの、世界最大の貿易国になった現在も、大半は米ドル建てです。
このことが、貿易と経常収支の膨大な黒字と相まって、中国が巨額な
米ドル資産を保有する結果につながっています。
73 たとえば、中国黄金集団公司(CNGG、チャイナゴールド)前総経理で、中国黄金協会(CGA)の前会長を務めた孫兆学氏の2013年6月28日のスピーチ、
2013年10月13日の新華社の論評。
中国の金市場:その歩みと展望
歴史的背景と現状
ほぼ全額が米ドル建てだったことから、その大半を米ドルが占めています。
巨額の経常黒字を長年継続して記録した結果、中国は2013年末で
約3.8兆米ドルもの外貨準備を保有しています。
に加盟した1980年末
中国の外貨準備高は、同国が国際通貨基金
(IMF)
には23億米ドルに過ぎませんでしたが、2013年末には3.8兆米ドルと
驚異的な水準に達しました74(図22)
。この変容は、30年以上前に始まった
改革開放政策やその後の急速な経済発展によってもたらされました。
この間に中国の貿易黒字や経常黒字は大幅に上昇しました。また中国が
「世界の工場」になって以来、投資ブームが沸き起こり、国内貯蓄も爆発的
に増えました。経常黒字は2008年にピークに達し、GDPの9.2%に相当
する4,206億米ドルを記録しました75。2013年の黒字はそれを大幅に
下回る1,890億米ドルでしたが、
依然高い水準を維持しています。GDP比は、
その間に中国の経済規模がさらに拡大したため、2.1%に低下しました。
貿易・経常黒字を反映して外貨準備が膨張していますが、最近まで貿易の
中国は保有ドルで米ドル建て債券を購入しています。そのほとんど
(すべではない)
は米財務省証券です。
莫大な外貨準備を管理するのは困難を伴います。英シンクタンク
「公式
通貨・金融機関フォーラム
(OMFIF)」は、最近公表した論文の中で、金の
役割、人民元、外貨準備の通貨多様化に焦点を当て、中国とその金融制度
が直面する経済と金融の双方の課題を詳細に論じています76。そうした
課題に加え、近年、特に世界金融危機と、その後のQE開始以来、中国に
よる米ドル建てエクスポージャーの積極的な積み増しは少なくなってきて
います。その背景には、米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートが
巨額に膨らんだ結果、米国ではマネーサプライが大幅に増え、信用膨張
(バブル)
とインフレが再燃するという懸念があります。また、米国で
インフレが進むとドル安となり、海外の米国債保有者にとっては米ドル
購買力のさらなる低下を意味します。
図22:中国の外貨準備とそれに占める金の割合
% share
9
US$bn
4,500
8
4,000
7
3,500
6
3,000
5
2,500
4
2,000
3
1,500
2
1,000
1
500
0
0
1994
1996
Gold % share
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
Forex (US$bn, rhs)
Source: IMF, People's Bank of China, Precious Metals Insights, World Gold Council
74 中国人民銀行
75 中国国家外為管理局、Oxford Economics
76 中国の外貨準備管理の課題についての詳細な分析は、Official Monetary and Financial Institutions Forum(公式通貨・金融機関フォーラム)の
『 Gold, the renminbi and the multi-currency reserve system 』
を参照。
44 _45
米国との政治的摩擦が増えつつあることも、中国が米ドルに対する
従って、
中国は経済的、
政治的の双方の理由から、
外貨準備の多様化を
エクスポージャーを減らす根拠になっています。外貨準備通貨は米ドル
進めようとしています。
しかし、
中国の米ドル保有規模の大きさや「リスク
以外にもありますが、それらの通貨は中国が抱える外貨準備の「多様化
フリー」の代替案がないことを考慮すると、
これは決して簡単にできることで
ジレンマ」の部分的な解決策にしかなりません。
さらに、
中国は、
米金融資産への過度なエクスポージャーに対して政治的な
理由から警戒感を持っています。両国の地政学的な対立は深まり、
特に米国の太平洋地域での優位に対し中国が挑戦する行動を強めて
いることに焦点が集まっています。米国が軍事的、外交的にアジア重視
(リバランス)戦略に転じていることは、中国が東アジア、東南アジアで
影響力の拡大を目指していることに対するワシントンの懸念を示す明確な
シグナルです。米国は最大債権者による
「(米国債)不買同盟」に無防備で
あると思われがちですが、中国指導部は多少異なる受け止め方をして
います。中国側は、自国を含む債権国の方が米国の単独主義や事実上の
デフォルト
(債務不履行)
に対して無防備だと考えています。事実上の
デフォルトとは、中央銀行によるデット・マネタイゼーション
(財政赤字の
穴埋め)やインフレ策による実質債務額の削減があります。中国はまた、
米国を最大の為替操作国と見なしています。米国は、
たとえばイランや
北朝鮮などに対し、
経済制裁を発動するために、
いかにして豊富な資金力や
主要準備通貨であるドルを利用してきたか、
中国はたびたび指摘しています。
中国人民銀行(北京)
中国の金市場:その歩みと展望
はありません。中国は外貨準備の一部を米ドルからユーロに変えましたが、
この統一通貨にはひとつの主権国家の通貨ではないという固有の欠陥と、
それゆえに崩壊するリスクがあることから、中国はユーロに対しても警戒感
を持っています。その懸念は、2009年に欧州で政府債務危機が勃発して
以来、
さらに大きくなっています。これまで欧州中央銀行は、米連邦準備理
事会より保守的な政策を取ってきていますが、欧州各国は、深刻で、
相関性がある財政・金融危機を克服しようと苦闘しており、ユーロは切り
下げ圧力にさらされやすいのが現実です。過去数年間、中国は日本国債を
購入しましたが、日本の巨額な公的債務や危険をはらんだ中日関係への
懸念もあり、
日本円は、
米ドルに対する長期的なヘッジとしてはユーロよりも
魅力がないと判断されています。英国ポンドやオーストラリア・
ドル、
スイス・フランなどの他通貨は、その流通量が低すぎるため、
これらの通貨
で外貨準備の多様化を図ると、非流動資産への過剰集中というリスクが
生じます。
外貨準備多様化のために他通貨の保有比率を高めることには困難を
不可能です。また、金はインフレから資産価値を守る蓄えとして、長い歴史
伴いますが、金が一定の役割を果たせるのは確かです。
があります。金市場は米ドルやユーロ、日本円、
さらに英ポンドなどと比べて
中国が直面している問題は、その外貨準備の巨額な規模そのものであり、
も小規模ですが、金は国債や他の代替資産と比べても優良資産なのです。
これが米ドルから他の資産・通貨へと移行し、多様化を図ることを困難に
中国指導部は、国民が保有する金を、緊急事態に使える国の準備資産の
しています。膨大な米ドル資産を売却し、他の資産(金に限りません)
を
一部だと考えています。
大規模に購入することのインパクトは、
他の市場にも広がる可能性があります。
たとえば、売却によって中国が保有する残りの米ドル資産の価値に悪影響を
及ぼす事態も容易に考えられます。米ドルに比べると市場流動性が低い
代替資産を大量に購入すれば、金も含めて、
これらの資産の価格急騰を
引き起こす恐れがあります。仮に金を購入する場合、
(1990年代の台湾の
事例が示すように)
中国は貿易統計の改ざんの誹りを受けるかもしれません。
さらに深刻なのは、米ドルを目立つ形で投げ売りをし、金や他通貨を購入
すれば、対米関係の悪化を招きます。従って、中国は、米ドルから金への
大規模な乗り換えには慎重にならざるを得ないのです。
中国が市場に悪影響を及ぼすことなく、対米関係を損なうこともなく、
外貨準備の多様化を実質的に実現する方法が1つはあります。それは、
民間部門に金を吸収するように促すことです。というのは、緊急事態が
起こった場合、国が国民の手元にある
「準備資産」を当てにできるからです
(アジア通貨危機の際に、韓国が行った金供出運動は中国人を強く印象
77
付けました)
。この戦略は、中国の強みである、巨大な人口と高い貯蓄率を
利用することになるうえ、マネーサプライが圧縮され、同時にインフレ
圧力も下げるメリットも期待できます。民間部門が2,000トン近い金地金を
急激に積み増してきたことを、なぜ政府が今まで「祝福」
してきたかが、
しかし、金購入による外貨準備の多様化を支持する議論は根強くあります。
これで説明が付くかもしれません78。
金は、他の種類の資産が受けるような経済的・政治的制限を受けません。
紙幣はそれを発行する中央銀行の負債ですが、もちろん金は誰の負債でも
ありません。金は紙幣と違って、
中央銀行の気まぐれによって何もないところ
から創り出せるものではないから、発行者に利するように操作をすることは
図23:主要資産の1日平均出来高(米ドル換算)
Dow Jones (all stocks)
French government
German Bunds
UK gilts
S&P 500 stocks
Euro/yen
Gold
JGBs
US$/sterling
US Treasuries
US$/yen
US$/euro
0
250
500
750
1,000
1,250
1,500
US$bn
Source: Agence France Tresor, BIS, Bloomberg, German Finance Agency, Japanese MOF, SIFMA, UK DMO, World Gold Council
77 1990年代のアジア通貨危機の最中、韓国では金供出運動が始まりました。大勢の韓国人が自発的に貴金属や貴重品を国に寄付し、
2日間に寄せられた金は10トンに上りました。
78 Precious Metals Insights
46_47
中国は、IMFへの申告ベースで1,054トンの金地金を有し、保有量では
2012年と、特に2013年に起きた中国市場への金供給の急増は、
世界6位ですが、世界の公的準備の1%を占めるに過ぎません。
公的部門による大規模な金購入と何らかの関連があるのかもしれません。
中国がIMFに提出する外貨準備に関する報告書によると、
近年3回にわたり
報告によると、貨幣用金の保有が安定しているにもかかわらず、中国の公的
金保有量が急激に伸びたことがわかります。まず2001年に前年の395トン
部門が金の購入を行っている可能性が盛んに議論されています。その背景
から500トンに、2002年には600トンへ急増しました(図 24)。そして、
の一部には、外貨準備総額に占める金の割合が低いことと、地元メディアに
2009年4月には1,054トンに膨らみ、2013年末までその水準を維持して
よる米ドルへの過度のエクスポージャーに対する懸念表明や国による
います。最新の報告では、
中国の金の保有量は世界6位で、
米国
(8,134トン)
、
金資産積み増しの呼びかけなどがあります。
ドイツ
(3,387トン)、IMF(2,814トン)、イタリア(2,452トン)、フランス
(2,435トン)
に次ぐものです79。
中国市場で明らかに金の余剰が出てきたことから、
このような観測が
2012年から2013年にかけて強まりました。49ページの「供給」セクションで
しかし、
中国の外貨準備高全体の伸びが金保有量の伸びより急激だったため、
詳細に触れていますが、
近年、
金地金の輸入が急増したことから、
金の供給は
実際には
金の割合は、
この10年間で金価格が相当上昇したにもかかわらず、
需要より速いペースで伸びています。このことが、国内市場で政府が金の
下がりました。1990年代前半には、金は準備総額の14〜18%を占めて
購入を行っているのではないかとの憶測を呼んでいます。相当額の裁定
いましたが、1990年代末には2%をわずかに上回る程度に落ち込みました。
2000 年代前半は2 %台を維持していましたが、その後、外貨準備高の
取引や金輸出量、在庫の増加などの状況を考慮しても、市場には大きな
「残留余剰」があり、
これが公的部門または政府の非貨幣用金の保有が増加
伸びが金価格の上昇を上回ったため、
金が準備総額に占める割合は2008年末
していることを示すものと解釈する向きもあります。2014年2月現在、
に0.9%まで低下しました。2009年には、金価格の回復も相まって、金の
中国人民銀行など当局が金準備の増加を公には認めていないことをここで
割合は同年末に1.5%まで急上昇しました。2010〜2012年には、金価格が
言及しておきますが、過去の例を見る限り当局は、新しいデータの発表の
高騰したことから、外貨準備高の増加にもかかわらず、金の割合は微増
タイミングは自ら選んでおり、市場の風評に応える形では発表しないのは
しました。しかし、外貨準備高のさらなる積み増しと、金価格の低迷で、
確かです。
同割合は2013年末に1.1%まで落ち込みました。
図24:中国の貨幣金保有量と時価(年末)
Tonnes
1,200
US$bn
60
1,000
50
800
40
600
30
400
20
200
10
0
0
1994
1996
Gold reserves (t)
Source: IFS IMF
79 IMF
中国の金市場:その歩みと展望
1998
2000
Gold reserves (US$bn, rhs)
2002
2004
2006
2008
2010
2012
供給
金の国内供給は、採掘された金とリサイクルされた金からなります。
金の自給量は、過去10年間で大きく伸びたものの、国内需要の伸びには
追い付かない状態です。その結果、中国市場は、わずかながら余剰があった
金の供給が大量に不足する状態になり、
金が大量に輸入されることになりました。
中国の金地金輸入には、保有目的ではなく金担保融資に使われる金が
含まれていることに加えて、公的部門による購入も疑われてあり、金の国内
実需は正確に反映されていません。しかし、中国の金輸入が増加している
ことは確かで、
それが消費者や投資家の間で金需要が実際に拡大している
ことを裏付けています。
はじめに
採掘され、2004年の137トンから2013年には563トンへと大幅に増加して
近年、中国における金の供給は、特に金地金輸入を中心に大幅に増えて
います。また、中国への総供給量は、宝飾品、工業用、金投資を合わせた
国内総需要を上回っています。
います
(図25)。また、
リサイクル金も同時期に増加しています。中国は金地
金輸入量の統計を定期的に発表はしていませんが、香港や外国の貿易
データや民間調査機関からの資料によると、金地金輸入は比較的少量の
水準から大幅に増えていることは明らかです。輸入量は、特に2013年に
中国における金の供給ルートは、国内金鉱での採掘、金のリサイクル、
高い水準に達しましたが、その大半は香港から出荷されたものです80。
輸入(大半が金地金)の3つがあります。過去10年間は特に金が盛んに
図25:中国の金の国内供給(トン)
Tonnes
600
550
500
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
1994
1996
Mine production (t)
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
Recycled gold (t)
Source: Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
80 中国人民銀行から貿易許可を得た銀行のみが金輸入を行えます。これらの銀行は、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の規定を満たすロンドン金市場受渡適合品
(グッド・デリバリー)のみを上海黄金交易所(SGE)の取引を介して輸入しなければなりません。
48_49
2010年までは、国内の需要の伸びが供給の伸びを上回っていたため
金の輸入が増加しました。広がる需給ギャップを海外からの金地金で
埋めるしかなかったのです。これが現在でも中国が金地金を輸入する
理由になっています。しかし、
ここ数年、中国市場への金の総供給量は、
世界最大の金生産国
過去30年で、中国は小さな金生産国から世界最大の金生産国へと
飛躍しました。
宝飾品、金投資、工業用など民間部門からの需要をかなり上回っています。
1978年に中国の経済改革が始まった当時、中国の金採掘量は年間10トン
このセクションの後段で記述しますが、中国金市場の供給余剰は、国内で
にも満たないものでした。生産量を増やすために中国黄金(CNGG,
広がる
「シャドーバンキング
(影の銀行)」の活動に関連する金担保融資か、
チャイナゴールド)
の前身を設立したり、
金の埋蔵を調査し、
金鉱を開発する
または報告されていない中国政府の非貨幣用の金保有の積み増しが
人民解放軍金採掘部隊(現在は人民武装警察部隊所属)
を編成したりする
あった結果だとされています。また、
規模はこれより小さいですが、
宝飾品の
などの方策が取られました。1981〜1985年、1986〜1990年の各5カ年
国内在庫が増えたことや、銀行の金の店頭取扱の増加からも、
この現象を
計画では、
このほかにも新たな対策がとられ、民間投資も増えた結果、
説明できます。これにより中国本土、特に上海自由貿易試験区では、
1990年代前半には中国の金生産は100トンを超えるまで上昇しました。
金保管所の容量が増えています。たとえば、マルカ・アミット・グローバル
しかし、
この成長は著しかったものの、1994年から2013年に記録した
(香港)
は2013年11月、同年の同国金需要の2倍近くに相当する2,000トン
の金を収容できる施設をオープンしました81。
300トン以上の増加とは比べものになりません。過去 10 年だけでも、
金生産は217トンから437トンに増加しています。中国は、1994年には
世界の金生産の9%強を占める程度でしたが、2007年に世界最大の金産
出国になり、その後も他の金産出国との差を広げ、昨年は世界の金生産の
15%を占めるまでになっています(図26)。
図26:中国の金生産の推移
Tonnes
500
% share
16
450
14
400
12
350
10
300
250
8
200
6
150
4
100
2
50
0
0
1994
1996
Mine production
1998
2000
2002
2004
2006
2008
Share of global total (rhs)
Source: Thomson Reuters GFMS
81 中国には、純金積立商品を販売する銀行が運営する広範な金地金保管インフラがあります。37都市に55の金保管所があり、
上海黄金交易所はこれらの施設を厳しく監視しています。
中国の金市場:その歩みと展望
2010
2012
中国の金鉱山産業は、600以上の金鉱山に細分化されています。
上位10社が国内金産出量の約半分を生産しています。
2012年の公式生産データによると82、金の約85%は金鉱山で生産され、
15%は銅など精錬過程で回収される金です。600以上ある金鉱山の
大半は小規模で、平均年間生産量は300kgにとどまります。これまでに
金鉱山業界には整理統合の波が押し寄せ、
閉鎖に至った金鉱山もあります。
2002年には金鉱山業者は1,200社もありました(それより多かったと
見る向きもいます)。
しかし、2012年までの整理統合で、上位10社がシェア
を増やし、中国工業・情報化部よると、中国の総生産量の49%を占めるまで
になりました。最大の金生産者は、2013年に39.4トンを自社の金鉱山から
生産したチャイナゴールドと見られています
(同社は、国内生産の20%を
占めるとしていますが、
このシェアの中には、他の鉱山からの金を同社が
精錬したものも含まれているようです)。山東省は、歴史的に中国金生産の
中核地域で、現在でも中国全省の中で最大の金生産地になっています。
招遠県は、山東省の中でも金生産の中心地となっており、同市だけでも、
68 の金鉱山があり、2012 年には33トンの金が生産されています。
工業・情報化部によると、中国の5大金生産地は、山東省、河南省、江西省、
雲南省、内モンゴル自治区で、
これらを合わせると2012年の公式金鉱
生産量の61.4%を占めます。
露天掘りと地下採掘を行っている中国南部貴州省にある錦豊金鉱山
(写真:Eldorado Gold Corporation)
82 中国工業・情報化部の2012年統計(現時点での最新データ)
50_51
中国の金生産は過去 10 年間で 2 倍に増え、2013 年には過去最大の
ゴールドは1,820トンとしています。最後に、金の生産者は、現時点での
437トンを記録しましたが、はたしてこの水準を維持できるかどうかに
採掘計画に沿いながら可採粗鉱を開発するのが一般的です。何年も先に
ついては疑問の声があります。中国の金の可採粗鉱量(リザーブ)ベースでは、
採掘される金の可採粗鉱量を調べるのに大金を使う必要などないのです。
年間400トン以上の生産を長期的に続けることはできないと見られて
います。
2013年の金生産量は24トン増えたと推定されています。しかし、過去
30年間のような顕著な生産の伸びは維持されず、2、3年後には、ピークとは
言えないまでも、生産が横ばいになる兆しがあります。これは限られた
可採粗鉱量が減少に転じている可能性があるうえ、鉱石の品位の低下や
生産コストの上昇が見られるからです。また、
金採掘に対する環境規制など、
規制が強化されることも予想されます。
米国地質調査所(USGS)の推定によると、世界の金の可採粗鉱量は5万
小規模生産者が短期間で最大の収益を上げようとしていることもあり、
金鉱石の平均品位が下がってきています。他国とも共通していますが、
中国での生産コストが近年相当上昇しています。
可採粗鉱量が実際にどれだけあるかはともかく、中国の可採粗鉱の平均
品位は低下しているようです。詳細に欠けているのは認めますが、個々の
事例は一貫して平均品位の低下を示しています。さらに、
これは最近までの
金価格の上昇を受けて低品位鉱が金鉱石の産出を増やしたせいでは
ありません。実は、全く逆なのです。とりわけ小規模な鉱山は、
「高品位」
鉱石の採掘に常にこだわっています。というのは、多くの小規模鉱山の
2,000トンで、中国はそのうち1,900トンを占めるに過ぎません。つまり、
目的は、できるだけ大量の金を可能な限り迅速に採掘することにある
中国は世界の金生産の15%を占めているものの、
その可採粗鉱量は世界の
からです。ところで、品位低下の例は、招遠県にもあります。2013年10月、
4%に過ぎないことになります。また、世界の金の可採粗鉱量は、2013年の
地元の黄金管理局は、
鉱石1トンあたりに含まれる金の平均含有量
(品位)
が
生産量をベースにすると平均19.7年分に相当しますが、中国に関しては、
かつての4グラムから現在は2グラムに落ちていると発表しています。
この平均値は4.3年分しかありません。諸外国でも同様ですが、中国では
もしこれが中国全土に共通する問題だとすれば、中国が中期的に年間
この10年間は新鉱床探査の成功例がないことがかえって目立っています。
400トン以上の生産水準を維持することが危うくなります。
可採粗鉱量が少なく、
しかも減少に転じていることは、
中国の多くの生産者に
とって本当に頭が痛い問題ですが、中国の金はそれほど早く枯渇しないと
する他のデータもあります。第1に、中国独自の金の可採粗鉱量や埋蔵
鉱量(リソース)の統計は、何年も変更がないUSGSのデータより高い
可採粗鉱量を示しています。中国の国土資源部は2012年に金の可採粗
鉱量を6,000トン、
中国地質鉱物資源調査局は1万5,000トンから2万トンの
間と推定しています。第2に、国内の大手生産者は、自社の金鉱山に係わる
可採粗鉱量はかなりの量に上ると報告しています。このうち、チャイナ
品位低下のほか、
中国の生産者はコストの上昇に対応しなければなりません。
採掘設備費や電力費、燃料費、人件費は、消費者物価指数の平均上昇率より
かなり早いペースで上昇しています。欧米の金鉱業会社にも共通しますが、
2002〜2012年は金価格の上昇があり、コスト上昇の問題は軽減されました。
しかし、現在は金価格が相当下落しており、平均キャッシュマージン
(粗利率)
の急落は必至です。中国での生産コストについての確固としたデータは
不足していますが、
小規模で非効率な事業では、
現在赤字が出ていることは
ほぼ疑いのない事実です。コストの上昇が、金鉱山の閉鎖を加速させたり、
金鉱山の可採年数を短くしたりするかもしれません。
中国の金市場:その歩みと展望
リサイクル
スクラップのデータに不備があるとしても、金価格の上昇と一般市民の
リサイクル金の国内の主な供給源は宝飾品スクラップで、輸入の場合は
つながっていることは驚くに値しません。金の国内平均価格
(人民元建て)
は、
主にエレクトロニクス製品のスクラップです。国内のリサイクル量は
中国で宝飾品の保有量が増加するにつれ増えています。
宝飾品保有の伸びという2つの要因が、近年のリサイクル金の増加に
2013年には下がったものの、2008年の水準を45%も上回っています。
国内の宝飾品保有量は相当増加しており、
Precious Metals Insights社に
中国のリサイクル金の主な供給源は、国内では宝飾品スクラップ、輸入は
よると、1994年には推定2,500トンを少し上回る程度でしたが、2013年末
大半がエレクトロニクス製品のスクラップです。このほか、金製品の加工
には7,600トン近くにまで増えています
(図27)
。一般市民の宝飾品保有量は
スクラップ
(使用済みスクラップとは別)
が相当量あり、宝飾品産業内で
2017年までに1万トン近くまで増加する見通しです。従って、金価格とは
リサイクルされています。輸入スクラップは輸出国の統計に含まれるので、
関係なく、宝飾品リサイクルの絶対量が増えるのは間違いありません。
中国の金スクラップのデータには理論上、
加工スクラップと輸入スクラップは
この傾向は、ファッションのサイクルが早くなったり、若い世代が関心を
含まれていないことになっています。
しかし、
スクラップの場合は様々な
持てない宝石を親から受け継いだりすることで、より顕著になるかも
ルートを経て集積されるため、発生元を正確に知ることは大概難しいのが
しれません。いずれにせよ、古い宝飾品を新しいものと交換する流れに
現実です。金精製業者の段階では、
スクラップと金鉱山からの原料とに分類
つながると中国の業者は見ています。
することはできても、
スクラップの正確な出所まで把握することはほとんど
不可能だと思われます。状況を複雑にしているのは、消費者が古い宝飾品
を新しい宝飾品と交換する制度です。この制度を利用する消費者は増えて
きています。これは新しい宝飾品を製造するために別途に金スクラップを
調達する必要がない「クローズドループ」
(循環生産)
システムで、
リサイクル
頻度は少ないものの、金スクラップの新しい流れとなってきます。
図27:宝飾品保有量とリサイクル金の供給
Tonnes
8,000
Tonnes
140
7,000
120
Jewellery demand saw steep increase from 2007 driven
by high local prices and an element of distressed selling
6,000
100
5,000
80
4,000
60
3,000
40
2,000
20
1,000
0
0
1994
1996
Jewellery stock (t, end year)
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
Recycled gold (t, rhs)
Source: Precious Metals Insights, Thomson Reuters GFMS, World Gold Council
52 _53
中国では、2008年以来、金の「供給不足」に拍車がかかり、それを主に
香港は、
この地域で最も重要な金の集散拠点となっています。香港国際空港は、
香港からの輸入で補わなければなりませんでした。香港は、中国国内の
中国で金製造の最重要地である深圳から30キロしか離れていません。
金地金現物の最大取引拠点である深圳に金を供給するのに地理的な
この特別行政区は最高水準の交通インフラと物流システムを有するばかり
強みがあります。
ではなく、世界最重要の金融センターの1つにもなっています。また、
2000年から2007年にかけて中国国内では、金の需給バランスが保たれ、
供給、需要ともに穏やかなペースで伸びる傾向にありました。しかし、
2008年からは宝飾品と投資目的の金需要が急増し、国内の金鉱山と
リサイクルによる供給の伸びを大幅に上回りました。この結果生じた相当
多数の中国本土企業がオフショア会社を香港に置いており、香港は
オフショア人民元取引の中心地になっています。香港の輸出統計などは、
近年、特別行政区から中国への金の輸出が爆発的に増えていることを
示しています。
規模の供給不足(図28)
は主に香港からの大量の輸入で補ってきました。
図28:中国国内の金需給
Tonnes
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
1994
Demand 1
1
2
1996
1998
2000
2002
Supply 2
Demand comprises jewellery fabrication, bar and coin, and other fabrication.
Supply comprises mine production and recycled gold.
Source: Thomson Reuters GFMS
中国の金市場:その歩みと展望
2004
2006
2008
2010
2012
香港の金地金に関する貿易統計からは、中国の金輸入の全容はともかく、
これだけ大規模な輸入は、中国金市場の「供給不足」を補うのに必要な量を
大部分のことがわかります。香港からの中国向け金地金の公式輸出は
大幅に超えています
(図28)。このことが、必然的に中国の金市場で何が
近年急増しており、2013年だけでも1,490トンに上っています。
起きているのかについて議論を呼び起こしています。
中国の金地金輸入は香港からの公式輸出だけではありません。たとえば、
この難問に答える前に、
貿易統計について重要な点を押さえることが必要に
上海へ直接持ち込まれる金地金が増えています。
しかし、
その大半は入手
なってきます。第1に、統計は不完全です。中国は金地金の輸出入に関する
可能な金地金貿易統計には反映されていません
(この非公式輸入の多くは
統計は発表していません。中国の貿易相手国のうちの数カ国もそれを公表
金地金輸出統計を発表していない国からのものです。英国とスイスは最近に
していません。第2に、
入手可能な貿易統計でも、
関連する金の流れをすべて
なってそうした統計を公表に踏み切ったので、
透明性がより高まることが
捉えることはできません。第3に、金の内外への流れを常に分析することが
期待されています)。中国の直接輸入は、当初はわずかな量でしたが、
重要です。たとえば、
「宝飾品」や「金投資」のセクションで記述したように、
2013年に増加しました。また、毎年、中国は相当量のエレクトロニクス・
中国は、大半は金地金ではない形で相当量の金を輸出しています。
スクラップを輸入しています。これに加え、量的には少ないものの、
真の意味での金貿易以外に、香港から中国への金輸出には、一度中国から
ドーレ
(金と銀の合金)
やベースメタル精鉱から国内で精製される金が
輸入したものを出荷する「ラウンドトリッピング」
(循環取引)
と呼ばれる
あります。
ものがかなり含まれています。
公的統計からも、
中国の金輸入が過去2、
3年で急増しているのは明らかです。
特に、香港からの輸入は2012年の830トンから1,490トンに激増しました83。
夕日に染まる香港港
(写真:Cozyta)
83 香港統計局
54 _55
「余剰」金の謎
中国市場での「供給余剰」は、公的部門による金購入、金担保融資に伴う
金の大量利用のいずれかから生じています。
純粋な資金調達のための金の使用は、
金需要の一形式で、
急拡大を続けて
きたシャドーバンキングの一部になっています。これは完全に合法的である
ものの、グレーゾーンだと捉える向きもあります。当然ながら、シャドー
バンキングに関するデータはありませんが、JPモルガンが最近、中国の
これまで説明してきたように、
金輸入は国内市場の「供給不足」分を補うのに
シャドーバンキング部門の規模は46兆元(7.5兆米ドル)
に上るという推計
必要の量をある程度上回っています。金輸入の現状を考えると、
中国市場は
を発表しました。この額は中国のGDPの84%に匹敵します85。シャドー
2011年から2013年にかけて事実上、大規模余剰が生まれ、かつそれが
バンキングで金担保融資に使われている金の残高についての統計は
増加傾向にあるのです。それでは、
この明らかな「供給余剰」はどう説明が
入手できませんが、Precious Metals Insights社は、2013年末に累積で
つくのでしょうか。
「公的部門」セクション
(44ページ)で示したように、
1,000トン、名目価値で400億米ドル弱86に上った可能性があるとしています。
国内市場で公的部門が金の購入に動いているかもしれないというのが
1つの説明です。これらの動きは、公的な統計では確認されていませんが、
別に驚くことではありません。というのは、国が購入するとしても、それを
正式な貨幣用の金準備の一部ではなく非貨幣用の金保有として分類する
可能性があるからです。当然、中国は、自国が必要と判断するまでは、
当該の金購入を再分類して公式な貨幣金に加えることはないと思われます。
中国では輸入商品(コモディティ)が資金調達の手段として使われて
います。対象となる商品はほとんどが銅ですが、金が使われるケースも
増えています。こうした現象の背景には金融規制や貸出規制があると
言われています。
公的部門が国内市場で金の購入に動いたかどうかは定かではない部分も
輸入する金を使用して資金調達を行う場合は、輸入する金を担保として、
その資金(外貨)をゴールドローンと信用状(L/C)を通して調達します。
次は、輸入した金を「再輸出」して外貨を手に入れ、それを低コストで
人民元に交換して、事業や投機の資金とします。その場合、借り手は金に
ついては決まってリスクヘッジを行うので、ネットベースで金現物市場へは
全く影響がありません。
資金調達に輸入される金が使われるようになったのは概ね2011年以降の
ことです。膨大な量の金地金を輸入する必要がある中国では、その頃から
金を使った様々な金融商品が登場し始めました。金を使う資金調達法は、
①金をゴールドローンと信用状(L/C)
を介して資金調達に使う、②ゴールド
ローンまたはL/Cに基づく金融裁定取引を行う、
というものです。ほとんどの
ありますが、金担保の大口資金調達が行われていることは明らかです。
場合、輸入された金はほんの少しだけ加工が施され、宝飾品または装飾品
融資抑制や海外との資本取引規制を受けている企業や投機筋が迂回
として香港に再輸出されます。これは、金地金に対する厳しい輸出規制を
融資を確保する手段として、高価値で、国際的に取引されている商品
(コモディティ)
を利用しています。そうした資金調達には主に銅が使われて
クリアするためです
(この手法は一般的に
「ラウンドトリッピング」
(循環取引)
と呼ばれています。さらに、中国に流入する金のほぼ全量が上海黄金交易
きました84。近年では、金も同様な使われ方をされることが一段と多く
所(SGE)
を経由しているので、
ラウンドトリッピングは、SGEの金の出荷量
なってきていますが、取引量も少なく、銅と比べ、
これまではあまり注目
を膨張させる場合があります)。言い換えれば、金を使う資金調達では、
されることはありませんでした。
中国、あるいは香港にその残高に見合う額の金地金が保管されている
わけです。
84 たとえば、http://www.reuters.com/article/2013/07/15/china-copper-financing-idUSL3N0F22D220130715
85 JPモルガン Economic Research Note;『To default or not to default: shadow banking in China 』
86 2011〜2013年の金積み増しから推計。
中国の金市場:その歩みと展望
本来は、
金の需要家である金関連産業の企業のみがゴールドローンを利用
中国当局は、
シャドーバンキングの急激な拡大と、
そこで扱われる理財商品や
できますが、
「ゴールド企業」
を設立したり、
既存の金関連会社のサービスを
コモディティ担保融資などの急増に懸念を示しています。2013年5月には
利用したりして規制を迂回する方法があるようです。これは、外貨建ての
開設する際に同時に取り決める輸入ユーザンス
(支払い猶予)の期間を
信用状を使った金輸入に関しても言えることです。借り手は、借り入れた
短縮しました。2013年6月1日からは、外貨建て融資や借り手の要件に
金、あるいは輸入した金を、現物売り・先物買いを通して合成通貨に換え、
関する規制が厳格化されました。
しかし、貸し手や借り手は、法規を遵守
市場実勢より低いコストでの資金調達を実現します。金や香港ドル/ 米ドルの
しながらも新しい規制の網をかいくぐる方法をすでに見つけています。
短期利率が人民元の利率よりかなり低いことを利用したものです。
実際、前述したような金担保融資に関連した、追加的な金の流動性の量が
さらに、金のコンタンゴ
(順鞘)
は非常に縮小しています
(大半の借り手は
2013年にかなり増加したのは確かなようです。ここで強調しておきたいのは、
金価格の変動リスクを排除したいと願っています)。それに加えて、
シャドーバンキングの規制策が概して成功していないということです。
何らかの理由で通常の銀行融資を受けられない状況にある借り手にして
その理由の1つは、シャドーバンキングに関わる業者があの手この手で
みれば、
融資条件はもとより、
融資にアクセスできること自体が、
この複雑な
新しい方法を見つけるからです。
これは、
金融危機や景気後退に陥るほどには
仕組みの金融取引を利用する動機付けとなっているのかもしれません。
資金調達を削減せずに、金融システムのリスクを減らそうとしている中国
従って、
ゴールドローンや信用状を用いた金輸入は、
富裕層や企業にとっては
当局のジレンマを反映しています。一方、
中国人民銀行が国内のコモディティ
事業の運転資金あるいは投機のための低コストの短期融資の源の1つに
担保融資、信用配分、価格形成制度をより厳しく、より効果的に取り
なっています。また、資本管理を迂回して中国国内に資金を持ち込む
締まらない限り、相当な量の金の輸入が今後も続き、金を担保とする
ためにも使用されています。さらに、国内でノンバンク融資を行っている
資金調達に利用される可能性が残ります。
借り手が、金を低コストの担保として差し出して資金調達を行うケースも
あります。
不動産購入、ハイイールド資産への投資、金利または為替の裁定取引の
ための資金を獲得するために金は利用されています。金融当局は、
シャドーバンキングの監督を強化しようとしていますが、概ね失敗に
終わっています。
2013年には宝飾品業界の在庫が増え、銀行がその一部を吸収しました。
中国市場の金の余剰の謎を解くジグソーパズルの最後のピースは、
比較的
地味な在庫の積み増しと関連しています。
「宝飾品」セクターで説明した
ように、
中国では2013年、
宝飾品の加工業者と販売店がかなり増えたため、
仕掛品と新店舗用在庫が増えました。さらに、第2四半期に卸売在庫と
小売在庫の双方が払底した後、
新規注文が集中しました。4月、
6月に欠品が
前述のように、金は資金調達に使われているほか、様々な金融裁定取引や
あり、同様の事態を避けようと業者が動いたのも一因です。中国では在庫
投機的資産運用に使われています。金のショートポジション
(売り持ち)
を
のサイクルが短いので、実際に影響を受けたのは限られた量だったと
建てる向きも若干ありましたが、それが大きな流れとなる可能性はないと
思われますが、2013年末までに宝飾品の市場在庫がかなり増加していた
思われます
(前述のように、先物買いによってポジションのカバーをするの
形跡があります。
が一般的です)。これらより頻繁に金が資産運用に使われるのは、銀行が
販売するウェルスマネジメント商品
(WMP = 銀行理財商品)
や不動産への
投資のほか、金利スプレッド、あるいはオンショア人民元( CNY )
と
オフショア人民元
(CNH)
のスプレッドを利用した裁定取引を行う場合です。
こうしたオペレーションは、短期間のものが一般的です。というのは、
金の借入期間ほとんどが12カ月以下であり、1カ月という短期の場合も
多いからです。
中国の銀行は、特に春節(旧正月)
を控えた時期、金地金の在庫が払底する
のを嫌います。この季節的影響は毎年共通したものであり、
また銀行は
手持ちの金を遊ばせておくのを嫌うのに、2013年には金の保有高がさらに
積み増しされたようです。最後に、金地金の投資統計には表れない銀行
保有の金地金に触れておきます。それは、銀行が販売する純金積立商品に
必要な金地金です。これに関して重要なことは、銀行が「純金積立プラン」
残高が大幅に伸びていることから、金を追加調達せざるを得ない状況に
あるという点です。
56_57
用語集
代理黄金交易
Agency gold trading
民間投資家は、上海黄金交易所(SGE)
で金を直接取引ができないことに
なっています。
しかし、SGE会員の銀行は、民間投資家が銀行の私設取引
ゴールドローン
Gold loans
「元本」を金とするローン。利払いは金または現金で行われます。
ゴールドローンは、
ゴールドリースとしても知られますが、
鉱山の資金調達や
システムを使い、金の約定を売買できるサービスを提供しています。
製造業の運転資金、あるいは金への投機に使われています。
しかし、
同交易所から入手した最新データによると、2010年には民間投資家の
ゴールドローンは、
特に金のリースレートが他の借り入れ金利より相当低い
取引が年間総取引高の19%を占めています。
場合や、金の借り入れのほうが融資を得やすい場合など、他の目的で
Tier1〜4都市 First, second, third and fourth tier cities
行われることもあります。
中国の都市は、経済、政治、社会要因によってTier1〜4の4階級
(5階級の
シアン化金カリウム
場合も)
に分類されます。上位のTierに入るほど威信が高くなります。
金メッキに使うシアン化金カリウムは、通常GPC、PGCなどと略されますが、
Gold potassium cyanide
さらに、基準に基づいた半永久的な公式リストはなく、大半の都市は各階級
大体は金を68%含む化学化合物です。主にエレクトロニクスや装飾加工に
に固定されているわけではありません。北京、上海は継続的にTier 1=
おける金の選択的析出に必要な電気メッキ溶液です。
政府直轄都市に入っていますが、現在は広州と深圳も仲間入りしています。
Tier2 = 省都、副省級市クラスには、重慶、天津、さらに成都、昆明などの
省都が含まれます。Tier3 = 地級市クラスには仙山、桂林、唐山などが入り、
Tier4 = 県級市クラスには同クラスの都市を含みます。Deloitte社の
調べによると、Tier 2には34 都市、Tier 3には249 都市、Tier 4には
368都市が入っています。
純金積立プラン
Gold accumulation plans
純金積立プラン( GAP )は、投資家が指定された量の金を定期的に
積み立てできる貯蓄プランです。一定量に達すると、投資家は金地金を
受け取ることも選択できます。これらのプランは金融機関が提供するのが
一般的ですが、貴金属小売店も同様のGAPを扱っています。
金ボンディングワイヤ
Gold bonding wire
金ボンディングワイヤは
(GBW = 半導体チップとリードフレームを結ぶ
金属線)
は、半導体業界で半導体パッケージングに使うチップです。極薄で、
通常は純度が99.99%
(9999 = フォアナインズ)の金配線です。現在でも
最も一般的なインターコネクト・テクノロジーですが、徐々にコストが低い
銅の配線で代用されるようになっています。
投資用金地金/ギフト用金地金
Investment bars/gift bars
「投資金条」
(または、富財金条)
と呼ばれる投資用の金地金で、
純度は99.99%
(9999 = フォアナインズ)
で、標準サイズは1グラムから
1キログラムまであります。低いマークアップ(金含有量に応じた価格
加算分)
で売られています。金地金の大半は投資用に購入されていますが、
ギフト用として買われることもあるようです。
(999純度、
ギフト用金地金は、
通常99.9%か99.99%の金含有量
9999純度)
の標準のサイズと、標準外サイズ(伝統的な重量単位である
「テール tael = 両」
も用いられます)
のインゴットです。特別なデザインや
モチーフがあしらわれ、高度な仕上げで加工されています。これらの
金地金は、
割増の価格設定で売られています。
したがって、
通常はギフトや
記念のために購入されます。
投資用金地金
Investment(in physical bullion)
投資用金地金は、
民間部門の測定可能な金地金と金貨の純需要を指します。
金ETF
(上場投資信託)
やペーパー(証券化)商品など店頭市場(OTC)
市場での金投資は含みません。
宝飾品加工量/宝飾品消費
Jewellery fabrication/jewellery consumption
宝飾品加工量は、ある一定期間に現地生産の宝飾品に使用された純金の
量を測定しています。
宝飾品消費は市場における消費量を示します。宝飾品加工量に輸入量を
プラスし、
輸出量をマイナスして求められる数字です。
中国の金市場:その歩みと展望
K-gold宝飾品 ʻK-goldʼ jewellery
シャドーバンキング
K-gold 宝飾品は18金宝飾品(黄色または白色)で、純度75.0%
中国のシャドーバンキングは、政府の金利・信用創造規制を嫌って発達
(品位1,000分の750)
です。
信用状
しました。ノンバンク仲介業者(銀行自体も間接的に関与)は、数種類の
方法を用い、金利・信用分配の政府規制を迂回しています。JPモルガンは
Letter of credit
買い手が期日に満額支払うことを約束する金融機関が発行する支払確約書
(通常は取消不能)。信用状(L/C)は通常、中国の銀行が商品を輸入する
認可企業に発行します。
マークアップ
金投資の小売りレベルでの金含有量に応じた価格加算分を指します。
reserves
可採粗鉱量
(リザーブ)
は、技術的、経済的、法的な基準で正当なレベルの
確実性をもって、鉱床から採掘できる埋蔵鉱量
(リソース)
。これらの基準に
は主観が一部入っているため、同じ鉱床や鉱床群に関して、特に総計レベル
や国レベルで異なる推定値が出てくることがあります。
Monetary/Non-monetary gold
経済協力開発機構
(OECD)
は貨幣用の金を当局
(または当局に実行支配下
にある機関)
によって準備資産として保有する金と定義しています。
非貨幣用の金は、当局に準備資産として保有されていない金を指します。
金鉱石品位
Ore grade
金鉱石の中の金含有量で、1トン当たりのグラム数で測定されます。
民間部門の金需要
匹敵すると推定しています。
Special administrative region
香港とマカオは、
高レベルの自治を享受する中国人民共和国の自治地域で、
Mark-ups
貨幣用金/非貨幣用金
最近、中国のシャドーバンキングの規模が同国の年間 GDP の 84 %に
特別行政区
この報告書では、別途説明がない限り、マークアップ
(加算分)
は、宝飾品や
可採粗鉱量(リザーブ) Mine
Shadow banking
特別行政区
(SAR)
と呼ばれています。香港特別行政区は1997年に英国から、
マカオ特別行政区は1999年にポルトガルから中国に主権が返還された際に
誕生しました。
テール
Tael
テール(両)
は中国の伝統的な重量単位です。中国本土では1959年から
1テールは50グラムと決められました。1テールは香港で37.799グラム、
台湾では37.5グラムです。香港金銀行貿易場(取引所)の取引単位
100テール(純度99%)です。
ウェルスマネジメント商品
Wealth management products
銀行や他の金融機関は、
銀行の預金利率に公式上限
(低いレベルに設定)
が
あることから、最低限の投資で高い利益率をうたうウェルスマネジメント
商品(WMP = 銀行理財商品)の開発に力を注ぎました。通常、WMPは
オフバランスシート債券で、銀行や金融機関の融資先の元本や利息からの
収入に裏打ちされています。
Private sector gold demand
本レポートでは、民間部門の金需要は宝飾品の消費、投資用金地金への
投資、他の工業用需要
(エレクトロニクス、その他工業用)
の合計と定義
されています。
「純金」装飾品 ʻPure
goldʼ jewellery
「純金」宝飾品(「純金」は中国語で「足金」。発音は普通語ではzujin、
広東語では、chuk kam。
「足」には「十分」
という意味があります)
は、
24金宝飾品です。通常、純度は99.9%で、これが中国の主な宝飾品加工と
消費の対象になっています。
58_59
主な予測条件
Precious Metals Insights 社が本レポートのためにまとめた宝飾品消費
と投資需要の予測は以下の主要な条件に基づいています。
・ 中国のGDPの年平均成長率は2014〜2017年に6%に鈍化します。
中国経済がより大規模になり、
より成熟してくるに従い、
自然成長率は
下がります。2009年から、
成長の最重要な源泉は、
信用拡大による固定
資本投資でした。
しかし、
経済成長の牽引役としての投資の効果は薄れて
きています。消費主導の経済モデルへの移行は、
GDP成長率の低下と
いう結果をもたらすかもしれません。
・ 民間消費は2014〜2017年に年平均7.5%の伸びが予測されています。
消費主導の経済モデルへの漸進的な移行には、
民間消費の伸び率が
GDPの伸び率を上回らなければなりません。民間消費の成長は、
中国の非常に高い家計貯蓄率がほんの少し下がっただけでも抑制
される恐れがあります。
・ 中期的に金融危機が起こる可能性は高く、
その可能性は大きくなる傾向に
あります。このリスクは、信用拡大が急激過ぎたことと、問題投資が
際立っていることから来ています。金融危機が2014〜2017年にGDP、
民間消費をともに押し下げると予測しています。
中国の金市場:その歩みと展望
・ インフレ率は中期的に抑制(5%以下)
が続くと見られています。
しかし、
中国で金融危機が起きれば、
大規模な金融緩和策がとられるのは
ほぼ確実で、そうなれば市場では将来の貨幣の増加を見越して予想
インフレ率が上昇する可能性があります。
・ 中期的には、人民元の為替レートに大きな変化がないと予測されます。
2014年には緩やかな人民元高が予想されていますが、2015〜2017年
にはやや人民元安に振れるかもしれません。というのは、
(当初は)
全般的な米ドル高の展開になるかもしれないからです。加えて、
金融危機は人民元に悪影響をもたらすと思われます。当局は、
金融危機の
衝撃緩和策として、輸出産業の追い風になる人民元安策をとるかも
しれません。
・ Precious Metals Insights 社が本レポートのために立てた金価格の
予想では、
2014年に全般的に弱含みになる見通しです。しかし、次の3年間、
金価格は回復基調で、2017年には年平均で1,500米ドルになると
予想しています。
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これだけに限りませんが、
たとえば、
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将来の予想に関する記述は、
リスクや不確実性のある現在の予想に基づいています。この将来
の予想に関する記述は、
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基づいています。将来の予想に関する記述に関連した仮定は、正確に予想するのが困難または
不可能な将来の経済、経済競争、市場の状態についての判断に基づいています。さらに、金の
需要や国際金市場には大きなリスクが伴うので、将来の予想に関する記述固有の不確実性を
高めます。ここに含まれた将来の予想固有の不確実性の高さを鑑みると、そのような情報が
含まれることで、将来の予想がそのまま達成されるとワールド ゴールド カウンシルが表現して
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英語版発行 : 2014 年 4 月
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